(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】固体高分子電解質のためのリチウム塩グラフトナノ結晶セルロース
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20220210BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220210BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2019544944
(86)(22)【出願日】2017-11-06
(86)【国際出願番号】 CA2017000239
(87)【国際公開番号】W WO2018085916
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-08-21
(32)【優先日】2016-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518203836
【氏名又は名称】ブルー・ソリューションズ・カナダ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック・コットン
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・ルブラン
(72)【発明者】
【氏名】アラン・ヴァレー
(72)【発明者】
【氏名】ブリュー・ギェルム
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-126998(JP,A)
【文献】特表2016-517458(JP,A)
【文献】特表2015-531144(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136924(WO,A1)
【文献】特開2016-102287(JP,A)
【文献】国際公開第2006/025148(WO,A1)
【文献】特開平03-149705(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0274149(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103872282(CN,A)
【文献】Rizwan N. Paracha, Sudip Ray, Allan J. Easteal,Grafting of LiAMPS on ethyl cellulose: a route to the fabrication of superior quality polyelectrolyte gels for rechargeable Lithium ion batteries,Journal of Materials Science,2012年03月27日,Vol.47, Issue 8,,pp.3698-3705
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0565
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質が、リチウム塩を溶媒和することができるポリマー、リチウム塩、およびリチウム塩のアニオンがグラフトされたナノ繊維またはナノ結晶の形態のナノセルロースを含む、電池用の固体高分子電解質。
【請求項2】
リチウム塩が、LiCF
3SO
3、LiB(C
2O
4)
2、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC(CH
3)(CF
3SO
2)
2、LiCH(CF
3SO
2)
2、LiCH
2(CF
3SO
2)、LiC
2F
5SO
3、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)、LiB(CF
3SO
2)
2、LiPF
6、LiSbF
6、LiClO
4、LiSCN、LiAsF
6、LiBF
4およびLiClO
4からなる群から選択される、請求項
1に記載の固体高分子電解質。
【請求項3】
ナノ結晶セルロースにグラフトされたアニオンが、SO
2NLiSO
2R、SO
2CLiRSO
2R、およびSO
2BLiSO
2Rからなる群から選択される
リチウム塩の
アニオンであ
り、
Rが、線状または環状のアルキル、アリール、フッ素化アルキル、エーテル、エステル、アミド、チオエーテル、アミン、第4級アンモニウム、ウレタン、チオウレタン、シラン、またはこれらの基の混合物であるか、または
Rが、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子である、請求項
1に記載の固体高分子電解質。
【請求項4】
リチウム塩が、LiTFSIである、請求項
1に記載の固体高分子電解質。
【請求項5】
リチウム塩のアニオンがグラフトされているナノ結晶セルロースとブレンドされたポリ(エチレンオキシド)鎖を含むナノコンポジットからなる、請求項
1に記載の固体高分子電解質。
【請求項6】
複数の電気化学セルを有する電池であって、各電気化学セルが、金属リチウムアノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置された固体高分子電解質を含み、固体高分子電解質が、リチウム塩を溶媒和することができるポリマー、リチウム塩、およびリチウム塩のアニオンがグラフトされているナノ結晶セルロースを含む、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム塩グラフトナノ結晶セルロースに関し、より詳細には、高い機械的抵抗および改良されたイオン伝導性を提供するリチウム塩グラフトナノ結晶セルロースを含有する固体高分子電解質に関する。そのような電解質を用いて製造されたリチウム電池は、より長いサイクル寿命から利益を得る。
【背景技術】
【0002】
負極としてリチウム金属を用いたリチウム電池は、エネルギー密度に優れる。しかしながら、サイクルを繰り返すと、リチウムイオンがリチウム金属電極の表面に不均一に再めっきされるので、そのような電池では、電池を再充電するときにリチウム金属電極の表面に樹枝状結晶が成長する可能性がある。樹枝状結晶成長を含むリチウム金属アノードの表面の形態変化の影響を最小にするために、リチウム金属電池は、典型的には、本明細書に参照によって組み込まれる米国特許第6,007,935号に記載されるような固体高分子電解質を使用する。多くのサイクルにわたって、たとえ電解質が固体であっても、リチウム金属アノードの表面上の樹枝状結晶は依然として成長して電解質を貫通する可能性があり、負極と正極との間で「ソフトな」短絡を引き起こし、電池性能の低減または不足をもたらし得る。したがって、樹枝状結晶の成長は依然として電池のサイクル特性を低下させる可能性があり、金属リチウムアノードを有するリチウム電池の性能の最適化に関して大きな制限を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、機械的強度が増加し、金属リチウムアノードの表面上における樹枝状結晶の成長の影響を低減するように、または抑制するように適合された固体電解質の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様は、リチウム塩のアニオンをグラフトしたナノ結晶セルロース(NCC)を提供することである。好ましい実施形態では、リチウム塩のグラフトアニオンは、SO2NLiSO2R、SO2CLiRSO2RまたはSO2BLiSO2Rからなる群から選択されるLi塩である。さらに好ましい実施形態では、リチウム塩のグラフトアニオンはLiTFSIである。
【0005】
本発明の他の態様は、電池用の固体高分子電解質を提供することであり、固体高分子電解質は、リチウム塩を溶媒和することができるポリマー、リチウム塩、およびリチウム塩のアニオンがグラフトされているナノ繊維またはナノ結晶の形態のナノセルロースを含み、ナノ繊維またはナノ結晶セルロースは、固体高分子電解質の機械的強度を増大させる。グラフトアニオンは、ナノ結晶セルロースと様々なポリマーとの間の相溶性を改善し、それによってポリマーブレンド中のナノ結晶セルロースの分散を改善する。グラフトアニオンはまた、リチウムイオン移動数を増加させることによって電気化学的性能を改善する。固体高分子電解質中のナノセルロースの性能は、イオン伝導性成分をナノセルロースに付加し、一方で固体高分子電解質の機械的強度を改善するイオン基の付与により改善される。
【0006】
本発明の別の態様は、電池用の固体高分子電解質を提供することであり、固体高分子電解質は、リチウム塩を溶媒和することができるポリマー、リチウム塩、およびリチウム塩のアニオンがグラフトされているナノ繊維またはナノ結晶の形態のナノセルロースを含む。特定の実施形態では、ナノ結晶セルロース(NCC)は、LiTFSI塩のアニオンでグラフトされている。
【0007】
本発明の別の態様は、リチウム塩のアニオンがグラフトされているナノ結晶セルロース(NCC)とブレンドされたポリ(エチレンオキシド)鎖を含むナノコンポジットを含む、電池用の固体高分子電解質を提供することである。
【0008】
本発明の別の態様は、複数の電気化学セルを有する電池を提供することであり、各電気化学セルは、金属リチウムアノード、カソード、およびアノードとカソードとの間に配置された固体高分子電解質を含み、固体高分子電解質は、リチウム塩を溶媒和することができるポリマー、リチウム塩、およびリチウム塩のアニオンがグラフトされているナノ結晶セルロースを含み、ナノ結晶セルロースは、固体高分子電解質の機械的強度を高め、金属リチウムアノードの表面上の樹枝状結晶の成長を阻害する。
【0009】
本発明の実施形態はそれぞれ、上述の目的および/または態様のうちの少なくとも1つを有するが、必ずしもそれらすべてを有するわけではない。上記の目的を達成することを試みることから生じた本発明のいくつかの態様は、これらの目的を満たさないことがあり、かつ/または本明細書に具体的に列挙されていない他の目的を満たすことがあることを理解されたい。
【0010】
本発明の実施形態の追加および/または代替の特徴、態様、および利点は、以下の説明、添付の図面、および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0011】
本発明ならびにその他の態様およびさらなる特徴をよりよく理解するために、添付の図面と共に使用される以下の説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】リチウム金属ポリマー電池を形成する複数の電気化学セルの概略図である。
【
図2】ナノ結晶セルロース(NCC)上にLiTFSI塩をグラフトするための3つの特定の合成経路の概略図である。
【
図3】
図2に示す第1の合成経路(1)のRAFT/MADIX経路の概略図である。
【
図4】
図2に示す第1の合成経路(1)のARTP経路の概略図である。
【
図5】
図2に示す第1の合成経路(1)のNMP経路の概略図である。
【
図6】第2の合成経路(2)に関与する分子Aの一覧である。
【
図7】
図2に示す第3の合成経路(3)に関与する分子Aおよび分子Bの化学的表現である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、集電体20上に積層された、金属リチウムのシートで作られたアノードまたは負極14、固体電解質16、およびカソードまたは正極膜18をそれぞれが含む複数の電気化学セル12を有するリチウム金属ポリマー電池10を概略的に示す。固体電解質16は、典型的には、アノード14とカソード18との間にイオン伝導を提供するためのリチウム塩を含む。リチウム金属のシートは、典型的には、20ミクロンから100ミクロンの範囲の厚さを有する。固体電解質16の厚さは5ミクロンから50ミクロンの範囲であり、正極膜18の厚さは、典型的には、20ミクロンから100ミクロンの範囲である。
【0014】
リチウム塩は、LiCF3SO3、LiB(C2O4)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiC(CH3)(CF3SO2)2、LiCH(CF3SO2)2、LiCH2(CF3SO2)、LiC2F5SO3、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)、LiB(CF3SO2)2、LiPF6、LiSbF6、LiClO4、LiSCN、LiAsF6、LiBOB、LiBF4およびLiClO4から選択されてよい。
【0015】
電気化学セル12内の電池10の内部動作温度は、典型的には40℃から100℃の間である。リチウムポリマー電池は、電気化学セル12をそれらの最適動作温度にするための内部加熱システムを含むことが好ましい。電池10は、屋内または屋外の広い温度範囲(-40℃から+70℃の間)で使用することができる。
【0016】
本発明による固体高分子電解質16は、リチウム塩のアニオンがグラフトされたナノ結晶セルロースとブレンドされたポリエチレンオキシド鎖を含むナノコンポジットから構成される。リチウム塩のアニオンでグラフトされたナノ結晶セルロースは、固体高分子電解質16の機械的性質を高め、固体高分子電解質のイオン伝導性を改善するために、固体高分子電解質16のポリエチレンオキシド-Li塩複合体への添加剤として用いられる。
【0017】
ナノ結晶セルロースは、化学木材パルプからコロイド状懸濁液として抽出されるが、バクテリア、セルロース含有海洋生物(例えば、被嚢類)、または綿などの他のセルロース系材料を使用することができる。ナノ結晶セルロースは、結晶性ドメインおよび非晶質ドメインを形成するようにそれら自身を配置するD-グルコース単位の鎖からなる。ナノ結晶セルロースは、抽出に使用される原材料に応じて、その物理的寸法が5から10nmの間の断面と20から100nmの間の長さとの範囲にある微結晶を含む。これらの荷電微結晶は、水、または適切に誘導体化されている場合は他の溶媒に懸濁させることができ、または空気、噴霧または凍結乾燥を介して自己組織化して固体材料を形成することができる。乾燥したとき、ナノ結晶セルロースは、ナノメートル範囲(5から20nm)の断面を有する平行六面体の棒状構造の凝集体を形成し、一方で、それらの長さは数桁大きい(100から1000nm)ので高アスペクト比が得られる。ナノ結晶セルロースはまた、セルロース鎖の理論的限界に近い高い結晶化度(80%を超える、そして最も可能性が高いのは85から97%の間)を特徴とする。
【0018】
ナノ結晶セルロース(グラフトされていない)は、正しく分散されている場合、固体高分子電解質16の機械的強度を高めるが、アノード14とカソード18との間のイオン伝導には関与しない。また、充電時および放電時に、リチウムイオンがアノード14とカソード18との間の固体高分子電解質16を通って前後に移動する際にナノ結晶セルロースを迂回しなければならないので、イオン伝導を妨げさえする。
【0019】
固体高分子電解質16のイオン伝導に対するナノ結晶セルロースの妨害を軽減するために、リチウム塩のアニオンがナノ結晶セルロース上にグラフトされ、グラフトされたアニオンは、リチウムイオンの移動を妨げる代わりに、固体高分子電解質16を通って移動するリチウムイオンのイオン伝導経路を提供する。グラフトされたアニオンはまた、リチウムイオン輸送数を増加させることによって固体高分子電解質の電気化学的性能を向上させる。固体高分子電解質中のナノセルロースの挙動は、イオン伝導性成分をナノセルロースに付加し、一方で固体高分子電解質の機械的強度を改善するアニオン性基の付与によって改善される。
【0020】
前述のリチウム塩のグラフトアニオンは、固体高分子電解質16のナノ結晶セルロースを通るイオン経路を提供し、それぞれSO2NLiSO2R、SO2CLiRSO2R、またはSO2BLiSO2Rである。Rは、線状または環状のアルキルまたはアリールまたはフッ素化アルキル、エーテル、エステル、アミド、チオエーテル、アミン、第4級アンモニウム、ウレタン、チオウレタン、シランまたはこれらの基の混合物であってよい。Rは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であってもよい。
【0021】
リチウム塩をナノ結晶セルロース(NCC)にグラフト化するために、多くの合成経路が可能である。例えば、
図2に示すように、リチウム塩のアニオンをグラフトするための3つの特定の経路がある。第1の経路(1)は二段階プロセスであり、第一段階が重合剤A-R-BのNCC-OHへのグラフト化である。第二段階は、リチウムMLi塩のアニオンを含有するモノマーを重合してNCC-A-R-(MLi塩)n-Bを得る段階である。
【0022】
第2の合成経路(2)もまた二段階プロセスである。第一段階では、基AをNCC-OHにグラフトしてCNC-O-Aを得る。第二段階では、リチウム塩のアニオンをグラフトしてNCC-O-Li塩を得る。Rは、線状または環状のアルキルまたはアリールまたはフッ素化アルキル、エーテル、エステル、アミド、チオエーテル、アミン、第4級アンモニウム、ウレタン、チオウレタン、シランまたはこれらの基の混合物であってよい。
【0023】
第3の合成経路(3)は三段階プロセスである。第一段階では、基AをNCC-OHにグラフトしてNCC-Aを得る。その後、NCC-AはNCC-Bに変換される。最後に、リチウム塩のアニオンが形成され、NCC-Li塩が得られる。
【0024】
第1の合成経路(1)に関して3つの可能な経路がある。RAFT/MADIX(可逆的付加-断片化連鎖移動を介したラジカル付加-断片化連鎖移動/高分子設計)と呼ばれる経路、ATRP(原子移動ラジカル重合)と呼ばれる経路、およびNMP(ニトロキシド媒介重合)と呼ばれる経路である。
図3を参照すると、RAFT/MADIX経路の第一段階は、トリチオエステル、ジチオエステル、キサンテート、またはジチオカルバメートであってよい官能基Bならびにカルボン酸およびその塩、イソシアネート、チオイソシアネート、オキシラン、スルホン酸およびその塩、ホスホン酸およびその塩のタイプ、またはNCC-OHのアルコール基と反応することができるハロゲン化物(X:Cl、I、またはBr)の官能基Aを含む分子を作用させる。RAFT/MADIX経路の第二段階は、リチウム塩のアニオンとラジカル重合における反応性基とを有するモノマーのラジカル重合である。ラジカル重合におけるモノマーMLi塩の反応性基Mは、例えばオルト位、メタ位またはパラ位で置換されたビニルフェニル、アクリレート、メタクリレート、アリルまたはビニルであることができる。
【0025】
図4を参照すると、第2の経路(ATRP)は、NCC-OHのアルコール基と反応することができる、カルボン酸またはその塩、イソシアネート、チオイソシアネート、オキシラン、スルホン酸またはその塩、ホスホン酸またはその塩のタイプの官能基Aと、ハロゲン化物タイプの官能基Bであって、ハロゲン化物原子が、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素のいずれかである、官能基Bとを含む分子を必要とする。ATRP経路の第二段階は、リチウム塩のアニオンとラジカル重合における反応性基とを有するモノマーのラジカル重合である。ラジカル重合におけるモノマーMLi塩の反応性基Mは、例えばオルト位、メタ位、またはパラ位で置換されたビニルフェニル、アクリレート、メタクリレート、アリルまたはビニルであることができる。
【0026】
図5を参照すると、第3の経路(NMP)は、カルボン酸およびその塩、イソシアネート、チオイソシアネート、オキシラン、スルホン酸およびその塩、ホスホン酸およびその塩、またはNCC-OHのアルコール基と反応することができるハロゲン化物(X:Cl、IまたはBr)のタイプの官能基A、およびニトロキシド型(N-O結合)の官能基Bを含む分子を作用させる。NMP経路の第二段階は、リチウム塩のアニオンとラジカル重合における反応性基とを有するモノマーのラジカル重合である。ラジカル重合におけるモノマーMLi塩の反応性基Mは、例えばオルト位、メタ位、またはパラ位で置換されたビニルフェニル、アクリレート、メタクリレート、アリルまたはビニルであることができる。
【0027】
前述の第2の合成経路(2)は二段階プロセスである。第一段階は、NCC-OHと、硫酸(H
2SO
4)、クロロ硫酸(HClSO
4)、三酸化硫黄(SO
3)、スルファミン酸(SO
3NH
2)または硫酸塩(R1SO
3;R1:Na
2またはMgまたはK
2またはLi
2またはBe)のタイプの分子Aとの反応である(
図6)。第二段階はリチウム塩のアニオンのグラフト化である。先に得られたNCC-O-Aを、トリフルオロメタンスルホンアミド(R-SO
2-NH
2)およびLiCF
3SO
3、LiB(C
2O
4)
2、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC(CH
3)(CF
3SO
2)
2、LiCH(CF
3SO
2)
2、LiCH
2(CF
3SO
2)、LiC
2F
5SO
3、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)、LiB(CF
3SO
2)
2、LiPF
6、LiSbF
6、LiClO
4、LiSCN、LiAsF
6、LiBOB、LiBF
4およびLiClO
4から選択され得るリチウム塩と反応させる。このようにして、NCC-O-Li塩が得られる。
【0028】
第3の合成経路(3)は三段階プロセスである。第一段階では、NCC-OHを、スルホネート型またはトリフレート型R2-SO
2-R2の分子A(
図7)と反応させる。ここで、R2は線状または環状のアルキルまたはアリールまたはフッ素化アルキル、エーテル、エステル、アミド、チオエーテル、アミン、チオシアネート、過塩素酸塩、第四級アンモニウム、ウレタン、チオウレタン、シラン、リンもしくはホウ素もしくはフッ素もしくは塩素もしくは臭素もしくはヨウ素、またはこれらの基もしくは原子の混合物;または、水素酸(ハロゲン化水素)H-X型のもの;ハロゲン化チオニルSOX
2またはハロゲン化リンPX
3(式中、X:Br、Cl、IまたはF)であってよい。第二段階は、先に得られたNCC-Aと、硫酸塩RSO
3型の分子B(
図6)との反応であり、NCC-SO
3が得られる。Rは、線状または環状のアルキルまたはアリールまたはフッ素化アルキル、エーテル、エステル、アミド、チオエーテル、アミン、第4級アンモニウム、ウレタン、チオウレタン、シランまたはこれらの基の混合物であってよい。Rは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であってよい。最後の段階で、NCC-SO
3を、トリフルオロメタンスルホンアミド(R-SO
2-NH
2)およびLiCF
3SO
3、LiB(C
2O
4)
2、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC(CH
3)(CF
3SO
2)
2、LiCH(CF
3SO
2)
2、LiCH
2(CF
3SO
2)、LiC
2F
5SO
3、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)、LiB(CF
3SO
2)
2、LiPF
6、LiSbF
6、LiClO
4、LiSCN、LiAsF
6、LiBOB、LiBF
4およびLiClO
4から選択され得るリチウム塩と反応させる。このようにして、NCC-Li塩が得られる。
【0029】
行われた試験は、リチウム金属電池における固体高分子電解質として、本発明によるリチウム塩のアニオンがグラフトされたナノ結晶セルロースとブレンドされたポリ(エチレンオキシド)鎖を含むナノコンポジットを使用することが、優れた性能と優れたイオン伝導性を有するエネルギー貯蔵装置をもたらすことを示す。本発明の固体高分子電解質は、良好な機械的強度および耐久性、ならびに高い熱安定性も有する。リチウム金属電池におけるこの固体高分子電解質の使用は、リチウムの樹状成長を制限することを可能にし、迅速かつ安全な再充電を可能にする。本発明による固体高分子電解質は、再充電中のリチウムの不均一電着物(樹枝状結晶を含む)の形成を実質的に減少させる。
【0030】
固体高分子電解質16は、従来技術の固体高分子電解質よりも強度が高く、したがって、従来技術の高分子電解質よりも薄くすることができた。上記で概説したように、固体高分子電解質16は5ミクロン程度に薄くてよい。電池内の電解質が薄いほど、エネルギー密度が高い電池が得られる。リチウム塩アニオンでグラフトされたナノ結晶セルロースとポリマーとのブレンドの強度の増加はまた、プロセスにおいて固体高分子電解質16をより安定にし得る。固体高分子電解質16は、より引き裂き抵抗が高く、製造工程でしわになりにくい可能性がある。
【0031】
固体高分子電解質16の1つの特定の実施形態では、PEOとリチウム塩は、70重量%から90重量%の間のPEOと、10重量%から30重量%の間のリチウム塩との比で一緒に混合される。次いで、同じリチウム塩のアニオンでグラフトしたナノ結晶セルロースを、PEO-リチウム塩複合体に、70重量%から99重量%のPEO-塩複合体と、および1重量%から30重量%のグラフト化ナノ結晶セルロースとの比で添加する。例えば、固体高分子電解質16ブレンドは、70重量%のPEO、15重量%のリチウム塩、および15重量%のグラフト化ナノ結晶セルロースからなることができる。
【0032】
本発明の上述の実施形態に対する修正および改良は、当業者には明らかとなり得る。前述の説明は限定的ではなく例示的であることを意図している。さらに、図面に現れる可能性がある様々な構成要素の特徴の寸法は、限定的であることを意味するものではなく、その中の構成要素のサイズは、本明細書の図面に示すことができるサイズとは異なり得る。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることを意図している。
【符号の説明】
【0033】
10 リチウム金属ポリマー電池
12 電気化学セル
14 アノードまたは負極
16 固体電解質
18 正極膜
20 集電体