(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】変速機および変速システム
(51)【国際特許分類】
F16H 3/093 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
F16H3/093
(21)【出願番号】P 2019547210
(86)(22)【出願日】2017-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2017035796
(87)【国際公開番号】W WO2019069346
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】山田准司
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-062500(JP,A)
【文献】特開平3-234951(JP,A)
【文献】特開平6-185583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸、中間軸および出力軸と、
前記入力軸、前記中間軸および前記出力軸の各軸に配置され、互いにかみ合うギヤ列を形成するギヤと、
前記各軸と前記ギヤとの連結を断続する複数のクラッチと、を備え、
前記複数のクラッチは、2つ以上のクラッチからなる第1クラッチ群と、
前記第1クラッチ群に属するクラッチとは異なる2つ以上のクラッチからなり前記各軸と前記ギヤとの連結を断続する第2クラッチ群と、を備え、
前記第1クラッチ群および前記第2クラッチ群は、それぞれ異なる軸に配置されたクラッチを含み、
所定の第1変速段において、前記第1クラッチ群のうちの1つのクラッチ及び前記第2クラッチ群のうちの1つのクラッチが繋がれ、
前記第1変速段から1段ずつ昇段するときに、前記第1クラッチ群の前記1つのクラッチが繋がれたまま、前記第2クラッチ群の前記1つのクラッチが切られ、前記第2クラッチ群のうちの前記1つのクラッチとは異なる別のクラッチが繋がれ
、
前記入力軸から前記出力軸まで2つのクラッチを通って動力が伝わる変速機。
【請求項2】
前記第2クラッチ群に属する全てのクラッチの切り換えにより最後に達成される変速段から第2変速段へ1つ昇段するときに、前記第1クラッチ群の前記1つのクラッチが切られ、前記第1クラッチ群のうちの前記1つのクラッチとは異なる別のクラッチが繋がれ、前記第2クラッチ群のうち前記第1変速段のときと同じ前記1つのクラッチが繋がれ、
前記第2変速段から1段ずつ昇段するときに、前記第1クラッチ群の前記別のクラッチが繋がれたまま、前記第1変速段から1段ずつ昇段するときに断続した順に前記第2クラッチ群のクラッチが断続される請求項1記載の変速機。
【請求項3】
前記第2クラッチ群のクラッチの断続により切り換えられる変速段の段間比の標準偏差は0.01以下である請求項1又は2に記載の変速機。
【請求項4】
所定の第3変速段において、前記複数のクラッチのうちの1つのクラッチ及び前記第1クラッチ群のうちの1つのクラッチが繋がれ、
前記第3変速段から1段ずつ昇段するときに、前記複数のクラッチのうちの前記1つのクラッチが繋がれたまま、前記第1クラッチ群の前記1つのクラッチが切られ、前記第1クラッチ群のうちの前記1つのクラッチとは異なる別のクラッチが繋がれる請求項1から3のいずれかに記載の変速機。
【請求項5】
前記第1クラッチ群のクラッチの断続により切り換えられる変速段の段間比の標準偏差は0.01以下である請求項4記載の変速機。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の変速機と、前記複数のクラッチの動作を制御する制御装置と、を備える変速システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変速機および変速システムに関し、特にトラクター等の農業機械や建設機械などの作業機に用いられる変速機および変速システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラクター等の農業機械や建設機械などの作業機に用いられる変速機として、特許文献1には、入力軸、中間軸および出力軸に9個のクラッチ及び19個のギヤを配置して前進16速、後進4速を実現するものが開示されている。特許文献2には、入力軸、中間軸および出力軸に11個のクラッチ及び20個のギヤを配置して前進24速、後進8速を実現した変速機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-223143号公報
【文献】特開2011-252558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示される技術では、前進1速から前進4速まで1つずつ昇段するときに切り換えが必要なクラッチは1つだが、前進4速から前進5速、前進6速から前進7速、前進8速から前進9速、前進10速から前進11速、前進12速から前進13速へ昇段するときには、クラッチを2つ切り換えなければならない。その結果、前進1速から16速まで1段ずつ昇段するときのクラッチの切換操作が、不規則で複雑であるという問題点がある。
【0005】
特許文献2に開示される技術では、全ての変速段において、入力軸から出力軸へ動力を伝達するときに3つのクラッチを繋がなければならない。そのため、クラッチが摩擦クラッチの場合には、3つのクラッチに押付荷重を与え続けなければならず、そのためのエネルギーを要する。また、クラッチがかみ合いクラッチの場合には、駆動側と被動側との相対速度や位相差が大きいときは、かみあいが難しく、ショックが発生したりトルクを伝達できなかったりする。従って、入力軸から出力軸へ動力を伝達するときに必要なクラッチの数は少ない方が望ましい。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、クラッチの切換操作を簡易化しつつ、2つのクラッチを繋いで動力を伝達できる変速機および変速システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために請求項1記載の変速機は、入力軸、中間軸および出力軸と、入力軸、中間軸および出力軸の各軸に配置され、互いにかみ合うギヤ列を形成するギヤと、各軸とギヤとの連結を断続する複数のクラッチと、を備えている。複数のクラッチは、2つ以上のクラッチからなる第1クラッチ群と、第1クラッチ群に属するクラッチとは異なる2つ以上のクラッチからなり各軸とギヤとの連結を断続する第2クラッチ群と、を備え、所定の第1変速段において、第1クラッチ群のうちの1つのクラッチ及び第2クラッチ群のうちの1つのクラッチが繋がれ、第1変速段から1段ずつ昇段するときに、第1クラッチ群の1つのクラッチが繋がれたまま、第2クラッチ群の1つのクラッチが切られ、第2クラッチ群のうちの1つのクラッチとは異なる別のクラッチが繋がれる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の変速機によれば、所定の第1変速段において、第1クラッチ群のうちの1つのクラッチ及び第2クラッチ群のうちの1つのクラッチが繋がれ、第1変速段から1段ずつ昇段するときに、第1クラッチ群の1つのクラッチが繋がれたまま、第2クラッチ群の1つのクラッチが切られ、第2クラッチ群のうちの1つのクラッチとは異なる別のクラッチが繋がれる。従って、第1クラッチ群のうちのクラッチの1つ及び第2クラッチ群のうちのクラッチの1つ、即ち2つのクラッチを繋いで動力を伝達できる。また、第1変速段から1段ずつ昇段するときに、第1クラッチ群の1つのクラッチが繋がれたまま、第2クラッチ群の1つのクラッチが切られ、第2クラッチ群のうちの1つのクラッチとは異なる別のクラッチが繋がれるので、クラッチの切換操作を簡易化できる。
【0009】
請求項2記載の変速機によれば、第2クラッチ群に属する全てのクラッチの切り換えにより最後に達成される変速段から第2変速段へ1つ昇段するときに、第1クラッチ群の1つのクラッチが切られ、第1クラッチ群のうちの1つのクラッチとは異なる別のクラッチが繋がれ、第2クラッチ群のうち第1変速段のときと同じ1つのクラッチが繋がれる。第2変速段から1段ずつ昇段するときに、第1クラッチ群の別のクラッチが繋がれたまま、第1変速段から1段ずつ昇段するときに断続した順に第2クラッチ群のクラッチが断続される。よって、請求項1記載の効果に加え、変速比の範囲を広げつつ、クラッチの切換操作を簡易化できる。
【0010】
請求項3記載の変速機によれば、第2クラッチ群のクラッチの断続により切り換えられる変速段の段間比の標準偏差は0.01以下である。段間比のばらつきを小さくできるので、請求項1又は2の効果に加え、クラッチの耐久性を確保できると共に、シフトショックを抑制できる。
【0011】
請求項4記載の変速機によれば、所定の第3変速段において、複数のクラッチのうちの1つのクラッチ及び第1クラッチ群のうちの1つのクラッチが繋がれ、第3変速段から1段ずつ昇段するときに、複数のクラッチのうちの1つのクラッチが繋がれたまま、第1クラッチ群の1つのクラッチが切られ、第1クラッチ群のうちの1つのクラッチとは異なる別のクラッチが繋がれる。よって、請求項1から3のいずれかの効果に加え、変速比の範囲を広げつつ、クラッチの切換操作を簡易化できる。
【0012】
請求項5記載の変速機によれば、第1クラッチ群のクラッチの断続により切り換えられる変速段の段間比の標準偏差は0.01以下である。段間比のばらつきを小さくできるので、請求項4の効果に加え、クラッチの耐久性を確保できると共に、シフトショックを抑制できる。
【0013】
請求項6記載の変速システムによれば、請求項1から5のいずれかに記載の変速機と、複数のクラッチの動作を制御する制御装置と、を備えている。よって、請求項1から5のいずれかと同等の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施の形態における変速機のスケルトン図である。
【
図2】変速システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】クラッチ締結の組合せ、各変速段の変速比および段間比を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施の形態における変速機10のスケルトン図である。変速機10はトラクター等の農業機械や建設機械などの作業機(図示せず)に搭載される。
【0016】
変速機10は、入力軸としての第1軸11、中間軸としての第2軸12、第3軸13、第4軸14及び第5軸15、出力軸としての第6軸16が平行に配置されている。エンジンやトルクコンバータ等の駆動源1の動力が入力される第1軸11にPTO(Power take-off)2が設けられている。第2軸12の両端に、各軸とギヤとの連結を断続するクラッチ又は作業機のロータリや昇降装置等の油圧装置(図示せず)の油圧源であるオイルポンプ3,4が配置されている。変速機10は、第6軸16に設けられたフロント出力部材5及びリア出力部材6から動力を出力する。
【0017】
第1軸11には第1クラッチ61、第2クラッチ62及び第3クラッチ63が配置され、第2軸12には第4クラッチ64及び第5クラッチ65が配置されている。第4軸14には第6クラッチ66及び第7クラッチ67が配置されている。第5軸15には第8クラッチ68及び第9クラッチ69が配置され、第6軸16には第10クラッチ70及び第11クラッチ71が配置されている。本実施の形態では、各クラッチは油圧駆動式の摩擦クラッチからなる。第6クラッチ66、第7クラッチ67、第8クラッチ68、第9クラッチ69、第10クラッチ70及び第11クラッチ71は第1クラッチ群51に属する。第1クラッチ61、第2クラッチ62、第4クラッチ64及び第5クラッチ65は第2クラッチ群52に属する。
【0018】
第1軸11は、第1ギヤ21が結合し、第2ギヤ22、第3ギヤ23及び第4ギヤ24が回転自在に設けられている。第2ギヤ22、第3ギヤ23及び第4ギヤ24は軸受(図示せず)により第1軸11に支持される。第2ギヤ22は、第1クラッチ61が繋がれると第1軸11に結合し、第1クラッチ61が切られると第1軸11を空転する。第3ギヤ23は、第2クラッチ62が繋がれると第1軸11に結合し、第2クラッチ62が切られると第1軸11を空転する。第4ギヤ24は、第3クラッチ63が繋がれると第1軸11に結合し、第3クラッチ63が切られると第1軸11を空転する。
【0019】
第2軸12は、第1ギヤ21にかみ合う第5ギヤ25が結合し、第2ギヤ22にかみ合う第6ギヤ26、第3ギヤ23にかみ合う第7ギヤ27、及び、第8ギヤ28が回転自在に設けられている。第6ギヤ26、第7ギヤ27及び第8ギヤ28は軸受(図示せず)により第2軸12に支持される。第6ギヤ26は、第4クラッチ64が繋がれると第2軸12に結合し、第4クラッチ64が切られると第2軸12を空転する。第7ギヤ27及び第8ギヤ28は、第5クラッチ65が繋がれると第2軸12に結合し、第5クラッチ65が切られると第2軸12を空転する。
【0020】
第3軸13は、第6ギヤ26にかみ合う第9ギヤ29、第10ギヤ30、第8ギヤ28にかみ合う第11ギヤ31、及び、第4ギヤ24にかみ合う第12ギヤ32が結合する。第3軸13にはクラッチが配置されておらず、4つの各ギヤは第3軸13に連結されている。第3軸13を挟んで、第4軸14、第5軸15及び第6軸16に第1クラッチ群51が配置され、第1軸11及び第2軸12に第2クラッチ群52が配置されている。
【0021】
第4軸14は、第13ギヤ33が結合し、第9ギヤ29にかみ合う第14ギヤ34、及び、第12ギヤ32にかみ合う第15ギヤ35が回転自在に設けられている。第14ギヤ34及び第15ギヤ35は軸受(図示せず)により第4軸14に支持される。第14ギヤ34は、第6クラッチ66が繋がれると第4軸14に結合し、第6クラッチ66が切られると第4軸14を空転する。第15ギヤ35は、第7クラッチ67が繋がれると第4軸14に結合し、第7クラッチ67が切られると第4軸14を空転する。
【0022】
第5軸15は、第16ギヤ36が結合し、第17ギヤ37、第10ギヤ30にかみ合う第18ギヤ38、第11ギヤ31にかみ合う第19ギヤ39、及び、第20ギヤ40が回転自在に設けられている。第17ギヤ37、第18ギヤ38、第19ギヤ39及び第20ギヤ40は軸受(図示せず)により第5軸15に支持される。第17ギヤ37及び第18ギヤ38は、第8クラッチ68が繋がれると第5軸15に結合し、第8クラッチ68が切られると第5軸15を空転する。第19ギヤ39及び第20ギヤ40は、第9クラッチ69が繋がれると第5軸15に結合し、第9クラッチ69が切られると第5軸15を空転する。
【0023】
第6軸16は、第13ギヤ33及び第16ギヤ36にかみ合う第21ギヤ41が結合し、第17ギヤ37にかみ合う第22ギヤ42、及び、第20ギヤ40にかみ合う第23ギヤ43が回転自在に設けられている。第22ギヤ42及び第23ギヤ43は軸受(図示せず)により第6軸16に支持される。第22ギヤ42は、第10クラッチ70が繋がれると第6軸16に結合し、第10クラッチ70が切られると第6軸16を空転する。第23ギヤ43は、第11クラッチ71が繋がれると第6軸16に結合し、第11クラッチ71が切られると第6軸16を空転する。
【0024】
図2は変速システム80の電気的構成を示すブロック図である。変速システム80は変速機10及び制御装置81を備えている。制御装置81は変速機10のクラッチの動作を制御する。制御装置81は、CPU82、ROM83及びRAM84を備え、それらがバスライン85を介して入出力ポート86に接続されている。入出力ポート86には回転センサ装置90や制御弁101等の装置が接続されている。
【0025】
CPU82は、バスライン85により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM83は、CPU82により実行される制御プログラムや固定値データ等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。RAM84は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。
【0026】
回転センサ装置90は、第1軸11、第2軸12、第3軸13、第4軸14、第5軸15及び第6軸16の回転数を各々検出して、その検出結果をCPU82へ出力する。アクセルペダルセンサ装置91は、作業機に配置されたアクセルペダル(図示せず)の踏込量を検出して、その検出結果をCPU82へ出力する。ブレーキペダルセンサ装置92は、作業機に配置されたブレーキペダル(図示せず)の踏込量を検出して、その検出結果をCPU82へ出力する。シフトセレクタ93は、作業機に配置されたシフトレバー(図示せず)によって選択されたシフトポジション(R,N,D,1…)を示す信号をCPU82へ出力する。
【0027】
CPU82は、回転センサ装置90、アクセルペダルセンサ装置91、ブレーキペダルセンサ装置92及びシフトセレクタ93が入力する信号に基づき、制御弁101~111を作動する。制御弁101~111は、第1クラッチ61~第11クラッチ71に圧油を供給する油圧回路(図示せず)に設けられている。制御弁101~111はクラッチ毎に設けられており、各クラッチに油圧を作用させる。制御弁101~111は、CPU81からの信号により独立に作動される。
【0028】
CPU82は、シフトセレクタ93からシフトポジション「1」を示す信号が入力されると、制御弁101~111を制御して変速機10を前進1速の設定にする。CPU82は、シフトセレクタ93からシフトポジション「D」を示す信号が入力されると、回転センサ装置90、アクセルペダルセンサ装置91及びブレーキペダルセンサ装置92が入力する信号に基づき、制御弁101~111を制御して、変速機10を前進1速~前進24速のいずれかの設定にする。CPU82は、シフトセレクタ93からシフトポジション「R」を示す信号が入力されると、回転センサ装置90、アクセルペダルセンサ装置91及びブレーキペダルセンサ装置92が入力する信号に基づき、制御弁101~111を制御して、変速機10を後進1速~後進6速のいずれかの設定にする。
【0029】
図3は変速機10のクラッチ締結の組合せ、各変速段の変速比および段間比を示す図表である。変速システム80は、変速機10の制御弁101~111を制御して第1クラッチ61から第11クラッチ71(
図3に1~11と記す)を切り換え、前進24速(F1~F24)、後進6速(R1~R6)の変速を行う。
図3は各変速段において締結するクラッチが×で示される。なお、
図3に示す段間比は、隣接する変速段の低速段変速比/高速段変速比を示す。
【0030】
図3に示すように、変速機10は、各変速段において締結されるクラッチの数は2個である。変速機10は、ニュートラル状態から前進1速または後進1速に切り換えるとき、各変速段からニュートラル状態に切り換えるとき、前進4速から前進5速に切り換えるとき、前進8速から前進9速に切り換えるとき、前進12速から前進13速に切り換えるとき、前進16速から前進17速に切り換えるとき、及び、前進20速から前進21速に切り換えるときに、同時に切り換えるクラッチの数は2個である。それ以外の場合、切り換えるクラッチの数は1個である。
【0031】
これにより、シフト時にクラッチに供給する作動油量を少なくできるので、シフト時間を短縮できると共にシフトショックを軽減できる。また、作動させる制御弁101~111の数も1~2個と少なくできるので、油圧制御のばらつきも小さくできる。これによってもシフトショックを軽減できる。
【0032】
次に
図1及び
図3を参照して、変速機10のシフト動作を変速段毎に説明する。変速機10は、第1クラッチ61から第11クラッチ71の切り換え操作を行うことによって、第1ギヤ21から第23ギヤ43のうちの互いにかみ合うギヤ列のギヤ比により、所定の変速比に設定される。
【0033】
前進1速(F1)のときは、変速機10は、第5クラッチ65及び第10クラッチ70を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第1ギヤ21、第5ギヤ25、第8ギヤ28、第11ギヤ31、第10ギヤ30、第18ギヤ38、第17ギヤ37、第22ギヤ42の順に8個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0034】
前進2速(F2)のときは、変速機10は、第4クラッチ64及び第10クラッチ70を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第1ギヤ21、第5ギヤ25、第6ギヤ26、第9ギヤ29、第10ギヤ30、第18ギヤ38、第17ギヤ37、第22ギヤ42の順に8個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0035】
前進3速(F3)のときは、変速機10は、第2クラッチ62及び第10クラッチ70を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第3ギヤ23、第7ギヤ27、第8ギヤ28、第11ギヤ31、第10ギヤ30、第18ギヤ38、第17ギヤ37、第22ギヤ42の順に8個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0036】
前進4速(F4)のときは、変速機10は、第1クラッチ61及び第10クラッチ70を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第2ギヤ22、第6ギヤ26、第9ギヤ29、第10ギヤ30、第18ギヤ38、第17ギヤ37、第22ギヤ42の順に7個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0037】
前進1速から前進4速まで1段ずつ昇段するときは、第1クラッチ群51の第10クラッチ70を繋いだまま、第2クラッチ群52のクラッチを第5クラッチ65、第4クラッチ64、第2クラッチ62、第1クラッチ61の順に繋ぎ変える。前進4速から前進1速まで1段ずつ降段するときは、第1クラッチ群51の第10クラッチ70を繋いだまま、第2クラッチ群52のクラッチを第1クラッチ61、第2クラッチ62、第4クラッチ64、第5クラッチ65の順に繋ぎ変える。前進1速から前進4速までは、第3軸13から第6軸16までの動力伝達経路は不変である。よって、前進1速から前進4速までの変速比は、第1軸11から第3軸13までのギヤ列の変速比に依存する。
【0038】
前進5速(F5)のときは、変速機10は、第5クラッチ65及び第8クラッチ68を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第1ギヤ21、第5ギヤ25、第8ギヤ28、第11ギヤ31、第10ギヤ30、第18ギヤ38、第16ギヤ36、第21ギヤ41の順に8個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0039】
前進6速(F6)のときは、変速機10は、第4クラッチ64及び第8クラッチ68を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第1ギヤ21、第5ギヤ25、第6ギヤ26、第9ギヤ29、第10ギヤ30、第18ギヤ38、第16ギヤ36、第21ギヤ41の順に8個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0040】
前進7速(F7)のときは、変速機10は、第2クラッチ62及び第8クラッチ68を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第3ギヤ23、第7ギヤ27、第8ギヤ28、第11ギヤ31、第10ギヤ30、第18ギヤ38、第16ギヤ36、第21ギヤ41の順に8個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0041】
前進8速(F8)のときは、変速機10は、第1クラッチ61及び第8クラッチ68を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第2ギヤ22、第6ギヤ26、第9ギヤ29、第10ギヤ30、第18ギヤ38、第16ギヤ36、第21ギヤ41の順に7個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0042】
前進5速から前進8速まで1段ずつ昇段するときは、第1クラッチ群51の第8クラッチ68を繋いだまま、第2クラッチ群52のクラッチを第5クラッチ65、第4クラッチ64、第2クラッチ62、第1クラッチ61の順に繋ぎ変える。前進8速から前進5速まで1段ずつ降段するときは、第1クラッチ群51の第8クラッチ68を繋いだまま、第2クラッチ群52のクラッチを第1クラッチ61、第2クラッチ62、第4クラッチ64、第5クラッチ65の順に繋ぎ変える。前進5速から前進8速までは、第3軸13から第6軸16までの動力伝達経路は不変であり、第1軸11から第3軸13までの動力伝達経路は、前進1速から前進4速の第1軸11から第3軸13までの動力伝達経路と各々同じである。よって、前進5速から前進8速までの変速比は、第1軸11から第3軸13までのギヤ列の変速比に依存する。
【0043】
前進9速(F9)のときは、変速機10は、第5クラッチ65及び第11クラッチ71を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第1ギヤ21、第5ギヤ25、第8ギヤ28、第11ギヤ31、第19ギヤ39、第20ギヤ40、第23ギヤ43の順に7個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0044】
前進10速(F10)のときは、変速機10は、第4クラッチ64及び第11クラッチ71を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第1ギヤ21、第5ギヤ25、第6ギヤ26、第9ギヤ29、第11ギヤ31、第19ギヤ39、第20ギヤ40、第23ギヤ43の順に8個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0045】
前進11速(F11)のときは、変速機10は、第2クラッチ62及び第11クラッチ71を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第3ギヤ23、第7ギヤ27、第8ギヤ28、第11ギヤ31、第19ギヤ39、第20ギヤ40、第23ギヤ43の順に7個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0046】
前進12速(F12)のときは、変速機10は、第1クラッチ61及び第11クラッチ71を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第2ギヤ22、第6ギヤ26、第9ギヤ29、第11ギヤ31、第19ギヤ39、第20ギヤ40、第23ギヤ43の順に7個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0047】
前進9速から前進12速まで1段ずつ昇段するときは、第1クラッチ群51の第11クラッチ71を繋いだまま、第2クラッチ群52のクラッチを第5クラッチ65、第4クラッチ64、第2クラッチ62、第1クラッチ61の順に繋ぎ変える。前進12速から前進9速まで1段ずつ降段するときは、第1クラッチ群51の第11クラッチ71を繋いだまま、第2クラッチ群52のクラッチを第1クラッチ61、第2クラッチ62、第4クラッチ64、第5クラッチ65の順に繋ぎ変える。前進9速から前進12速までは、第3軸13から第6軸16までの動力伝達経路は不変であり、第1軸11から第3軸13までの動力伝達経路は、前進1速から前進4速の第1軸11から第3軸13までの動力伝達経路と各々同じである。よって、前進9速から前進12速までの変速比は、第1軸11から第3軸13までのギヤ列の変速比に依存する。
【0048】
前進13速(F13)のときは、変速機10は、第5クラッチ65及び第9クラッチ69を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第1ギヤ21、第5ギヤ25、第8ギヤ28、第11ギヤ31、第19ギヤ39、第16ギヤ36、第21ギヤ41の順に7個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0049】
前進14速(F14)のときは、変速機10は、第4クラッチ64及び第9クラッチ69を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第1ギヤ21、第5ギヤ25、第6ギヤ26、第9ギヤ29、第11ギヤ31、第19ギヤ39、第16ギヤ36、第21ギヤ41の順に8個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0050】
前進15速(F15)のときは、変速機10は、第2クラッチ62及び第9クラッチ69を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第3ギヤ23、第7ギヤ27、第8ギヤ28、第11ギヤ31、第19ギヤ39、第16ギヤ36、第21ギヤ41の順に7個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0051】
前進16速(F16)のときは、変速機10は、第1クラッチ61及び第9クラッチ69を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第2ギヤ22、第6ギヤ26、第9ギヤ29、第11ギヤ31、第19ギヤ39、第16ギヤ36、第21ギヤ41の順に7個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0052】
前進13速から前進16速まで1段ずつ昇段するときは、第1クラッチ群51の第9クラッチ69を繋いだまま、第2クラッチ群52のクラッチを第5クラッチ65、第4クラッチ64、第2クラッチ62、第1クラッチ61の順に繋ぎ変える。前進16速から前進13速まで1段ずつ降段するときは、第1クラッチ群51の第9クラッチ69を繋いだまま、第2クラッチ群52のクラッチを第1クラッチ61、第2クラッチ62、第4クラッチ64、第5クラッチ65の順に繋ぎ変える。前進13速から前進16速までは、第3軸13から第6軸16までの動力伝達経路は不変であり、第1軸11から第3軸13までの動力伝達経路は、前進1速から前進4速の第1軸11から第3軸13までの動力伝達経路と各々同じである。よって、前進13速から前進16速までの変速比は、第1軸11から第3軸13までのギヤ列の変速比に依存する。
【0053】
前進17速(F17)のときは、変速機10は、第5クラッチ65及び第6クラッチ66を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第1ギヤ21、第5ギヤ25、第8ギヤ28、第11ギヤ31、第9ギヤ29、第14ギヤ34、第13ギヤ33、第21ギヤ41の順に8個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0054】
前進18速(F18)のときは、変速機10は、第4クラッチ64及び第6クラッチ66を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第1ギヤ21、第5ギヤ25、第6ギヤ26、第9ギヤ29、第14ギヤ34、第13ギヤ33、第21ギヤ41の順に7個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0055】
前進19速(F19)のときは、変速機10は、第2クラッチ62及び第6クラッチ66を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第3ギヤ23、第7ギヤ27、第8ギヤ28、第11ギヤ31、第9ギヤ29、第14ギヤ34、第13ギヤ33、第21ギヤ41の順に8個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0056】
前進20速(F20)のときは、変速機10は、第1クラッチ61及び第6クラッチ66を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第2ギヤ22、第6ギヤ26、第9ギヤ29、第14ギヤ34、第13ギヤ33、第21ギヤ41の順に6個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0057】
前進17速から前進20速まで1段ずつ昇段するときは、第1クラッチ群51の第6クラッチ66を繋いだまま、第2クラッチ群52のクラッチを第5クラッチ65、第4クラッチ64、第2クラッチ62、第1クラッチ61の順に繋ぎ変える。前進20速から前進17速まで1段ずつ降段するときは、第1クラッチ群51の第6クラッチ66を繋いだまま、第2クラッチ群52のクラッチを第1クラッチ61、第2クラッチ62、第4クラッチ64、第5クラッチ65の順に繋ぎ変える。前進17速から前進20速までは、第3軸13から第6軸16までの動力伝達経路は不変であり、第1軸11から第3軸13までの動力伝達経路は、前進1速から前進4速の第1軸11から第3軸13までの動力伝達経路と各々同じである。よって、前進17速から前進20速までの変速比は、第1軸11から第3軸13までのギヤ列の変速比に依存する。
【0058】
前進21速(F21)のときは、変速機10は、第5クラッチ65及び第7クラッチ67を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第1ギヤ21、第5ギヤ25、第8ギヤ28、第11ギヤ31、第12ギヤ32、第15ギヤ35、第13ギヤ33、第21ギヤ41の順に8個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0059】
前進22速(F22)のときは、変速機10は、第4クラッチ64及び第7クラッチ67を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第1ギヤ21、第5ギヤ25、第6ギヤ26、第9ギヤ29、第12ギヤ32、第15ギヤ35、第13ギヤ33、第21ギヤ41の順に8個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0060】
前進23速(F23)のときは、変速機10は、第2クラッチ62及び第7クラッチ67を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第3ギヤ23、第7ギヤ27、第8ギヤ28、第11ギヤ31、第12ギヤ32、第15ギヤ35、第13ギヤ33、第21ギヤ41の順に8個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0061】
前進24速(F24)のときは、変速機10は、第1クラッチ61及び第7クラッチ67を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第2ギヤ22、第6ギヤ26、第9ギヤ29、第12ギヤ32、第15ギヤ35、第13ギヤ33、第21ギヤ41の順に7個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0062】
前進21速から前進24速まで1段ずつ昇段するときは、第1クラッチ群51の第7クラッチ67を繋いだまま、第2クラッチ群52のクラッチを第5クラッチ65、第4クラッチ64、第2クラッチ62、第1クラッチ61の順に繋ぎ変える。前進24速から前進21速まで1段ずつ降段するときは、第1クラッチ群51の第7クラッチ67を繋いだまま、第2クラッチ群52のクラッチを第1クラッチ61、第2クラッチ62、第4クラッチ64、第5クラッチ65の順に繋ぎ変える。前進21速から前進24速までは、第3軸13から第6軸16までの動力伝達経路は不変であり、第1軸11から第3軸13までの動力伝達経路は、前進1速から前進4速の第1軸11から第3軸13までの動力伝達経路と各々同じである。よって、前進21速から前進24速までの変速比は、第1軸11から第3軸13までのギヤ列の変速比に依存する。
【0063】
後進1速(R1)のときは、変速機10は、第3クラッチ63及び第10クラッチ70を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第4ギヤ24、第12ギヤ32、第10ギヤ30、第18ギヤ38、第17ギヤ37、第22ギヤ42の順に6個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0064】
後進2速(R2)のときは、変速機10は、第3クラッチ63及び第8クラッチ68を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第4ギヤ24、第12ギヤ32、第10ギヤ30、第18ギヤ38、第16ギヤ36、第21ギヤ41の順に6個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0065】
後進3速(R3)のときは、変速機10は、第3クラッチ63及び第11クラッチ71を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第4ギヤ24、第12ギヤ32、第11ギヤ31、第19ギヤ39、第20ギヤ40、第23ギヤ43の順に6個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0066】
後進4速(R4)のときは、変速機10は、第3クラッチ63及び第9クラッチ69を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第4ギヤ24、第12ギヤ32、第11ギヤ31、第19ギヤ39、第16ギヤ36、第21ギヤ41の順に6個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0067】
後進5速(R5)のときは、変速機10は、第3クラッチ63及び第6クラッチ66を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第4ギヤ24、第12ギヤ32、第9ギヤ29、第14ギヤ34、第13ギヤ33、第21ギヤ41の順に6個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0068】
後進6速(R6)のときは、変速機10は、第3クラッチ63及び第7クラッチ67を繋ぎ、他のクラッチを切る。第1軸11の動力は、第4ギヤ24、第12ギヤ32、第15ギヤ35、第13ギヤ33、第21ギヤ41の順に5個のギヤを経由して第6軸16に伝達される。
【0069】
後進1速から後進6速まで1段ずつ昇段するときは、第1クラッチ群51及び第2クラッチ群52のどちらにも属していない第3クラッチ63を繋いだまま、第1クラッチ群51のクラッチを第10クラッチ70、第8クラッチ68、第11クラッチ71、第9クラッチ69、第6クラッチ66、第7クラッチ67の順に繋ぎ変える。後進6速から後進1速まで1段ずつ降段するときは、第3クラッチ63を繋いだまま、第1クラッチ群51のクラッチを第7クラッチ67、第6クラッチ66、第9クラッチ69、第11クラッチ71、第8クラッチ68、第10クラッチ70の順に繋ぎ変える。後進1速から後進6速までは、第1軸11から第3軸13までの動力伝達経路は不変である。よって、後進1速から後進6速までの変速比は、第3軸13から第6軸16までのギヤ列の変速比に依存する。
【0070】
以上のように変速機10は第1クラッチ群51及び第2クラッチ群52のクラッチを規則的に繋ぎ換えて変速が行われるので、段間比がほぼ一定になるように各変速段の変速比を設定し易くできる。本実施形態では、
図3に示すように、前進1速から前進24速の段間比(隣接する変速段の低速段変速比/高速段変速比)は1.104~1.118の範囲に設定されており、標準偏差は0.003である。また、後進1速から後進6速の段間比は1.510~1.529の範囲に設定されており、標準偏差は0.008である。これらの値は小数第4位を四捨五入した値である。
【0071】
変速機10は、所定の第1変速段(本実施形態では、例えば前進1速、前進5速、前進9速、前進13速、前進17速)において、第1クラッチ群51のうちの1つのクラッチ及び第2クラッチ群52のうちの1つのクラッチ(本実施形態では第5クラッチ65)が繋がれ、第1変速段から1段ずつ昇段するときに、第1クラッチ群51の1つのクラッチが繋がれたまま、第2クラッチ群52の1つのクラッチ(第5クラッチ65)が切られ、第2クラッチ群52のうちの1つのクラッチとは異なる別のクラッチ(本実施形態では第4クラッチ64)が繋がれる。これより、クラッチの切換操作をパターン化し、簡易化できる。
【0072】
変速機10は、第1クラッチ群51のうちのクラッチの1つ及び第2クラッチ群52のうちのクラッチの1つ、即ち2つのクラッチを繋いで第1軸11から第6軸16へ動力を伝達できる。よって、3つ以上のクラッチを繋いで動力が伝達される場合に比べて、クラッチに押付荷重を与えるためのエネルギーを抑制できる。
【0073】
変速機10は、第1変速段から1段ずつ昇段するときに、第2クラッチ群52に属する全て(本実施形態では4つ)のクラッチを切り換えて最後に達成される変速段(本実施形態では、例えば前進4速、前進8速、前進12速、前進16速、前進20速)から第2変速段(本実施形態では、例えば前進5速、前進9速、前進13速、前進17速、前進21速)へ1つ昇段するときに、第1クラッチ群51の1つのクラッチが切られ、第1クラッチ群51のうちの1つのクラッチとは異なる別のクラッチが繋がれ、第2クラッチ群52のうち第1変速段のときと同じ1つのクラッチが繋がれる。さらに、第2変速段から1段ずつ昇段するときに、第1クラッチ群51の別のクラッチが繋がれたまま、第1変速段から1段ずつ昇段するときに断続した順に第2クラッチ群52のクラッチが断続される。これにより、変速比の範囲を広げつつ、クラッチの切換操作をパターン化し簡易化できる。
【0074】
変速機10では、第2クラッチ群52のクラッチの断続により切り換えられる変速段(本実施形態では前進1速から前進24速)の段間比の標準偏差は0.01以下である。その結果、段間比のばらつきを小さくすることにより、変速後の変速段ごとの速度変化にばらつきを生じ難くできる。さらに、各クラッチに入力される荷重のばらつきが小さくなるので、クラッチの耐久性を確保できると共に、シフトショックを抑制できる。
【0075】
変速機10は、所定の第3変速段(本実施形態では後進1速)において、1つのクラッチ(本実施形態では第3クラッチ63)及び第1クラッチ群51のうちの1つのクラッチ(本実施形態では第10クラッチ70)が繋がれ、第3変速段から1段ずつ昇段するときに、1つのクラッチ(第3クラッチ63)が繋がれたまま、第1クラッチ群51の1つのクラッチ(第10クラッチ70)が切られ、第1クラッチ群51のうちの1つのクラッチとは異なる別のクラッチ(本実施形態では第8クラッチ68)が繋がれる。よって、クラッチの切換操作を簡易化できる。
【0076】
変速機10では、第1クラッチ群51のクラッチの断続により切り換えられる変速段(本実施形態では後進1速から後進6速)の段間比の標準偏差は0.01以下である。その結果、段間比のばらつきを小さくすることにより、変速後の変速段ごとの速度変化にばらつきを生じ難くできる。さらに、各クラッチに入力される荷重のばらつきが小さくなるので、クラッチの耐久性を確保できると共に、シフトショックを抑制できる。
【0077】
変速機10は、前進1速から前進24速まで、後進1速から後進6速までのいずれの変速段においても、第6軸16上の第21ギヤ41、第22ギヤ42及び第23ギヤ43のうちの1個のギヤにトルクが入力される。よって、第6軸16上の複数のギヤにトルクがかかる場合に比べて、トルクの大きな第6軸16上のギヤを支持する軸受(図示せず)の負荷を軽減できる。そのため、第6軸16上の複数のギヤにトルクが入力される場合に比べて、第6軸16上のギヤを支持する軸受を長寿命化できる。
【0078】
変速機10は、通常、農地等の作業場所では低速段から中速段までが主に使われ、作業場所までの移動時には高速段が主に使われる。変速機10は前進24速の設定なので、移動時・作業時の両方ともに最適な変速段の選択が可能となる。変速機10は、前進24速、後進6速を実現できるにも関わらず、第1軸11のトルクを第6軸16へ伝達するために最大8個のギヤを経由するだけなので、ギヤのかみ合いによる損失を軽減できる。
【0079】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0080】
実施の形態では、油圧駆動式の摩擦クラッチを繋いでギヤを各軸と連結する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。摩擦クラッチに代えて、ドグクラッチ等のかみ合いクラッチを採用することは当然可能である。また、油圧駆動式のクラッチに代えて、非油圧系のクラッチを採用することは当然可能である。シンクロナイザを配置することは当然可能である。非油圧系のクラッチを採用して油圧駆動式のクラッチの数を減らすことにより、油圧駆動式のクラッチに特有の引き摺り抵抗を小さくできる。また、クラッチに供給する油量を減らすことができるので、オイルポンプを小型化できる。その結果、変速機10を軽量化できる。
【0081】
実施の形態では、11個のクラッチ及び23個のギヤを、入力軸(第1軸11)、出力軸(第6軸16)及び4本の中間軸(第2軸12~第5軸15)に配置して前進24速、後進6速を実現する変速機10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。中間軸、クラッチ、ギヤの数は、要求される変速段の数に応じて適宜設定される。但し、クラッチの切換操作をパターン化するため、2つ以上のクラッチからなる第1クラッチ群、及び、第1クラッチ群に属するクラッチとは異なる2つ以上のクラッチからなる第2クラッチ群が必要なので、クラッチは、少なくとも4つ必要である。
【符号の説明】
【0082】
10 変速機
11 第1軸(入力軸)、 12 第2軸(中間軸の一部)、 13 第3軸(中間軸の一部)、 14 第4軸(中間軸の一部)、 15 第5軸(中間軸の一部)、 16 第6軸(出力軸)
21 第1ギヤ、 22 第2ギヤ、 23 第3ギヤ、 24 第4ギヤ、 25 第5ギヤ、 26 第6ギヤ、 27 第7ギヤ、 28 第8ギヤ、 29 第9ギヤ、 30 第10ギヤ、 31 第11ギヤ、 32 第12ギヤ、 33 第13ギヤ、 34 第14ギヤ、 35 第15ギヤ、 36 第16ギヤ、 37 第17ギヤ、 38 第18ギヤ、 39 第19ギヤ、 40 第20ギヤ、 41 第21ギヤ、 42 第22ギヤ、 43 第23ギヤ
51 第1クラッチ群、 52 第2クラッチ群
61 第1クラッチ、 62 第2クラッチ、 63 第3クラッチ、 64 第4クラッチ、 65 第5クラッチ、 66 第6クラッチ、 67 第7クラッチ、 68 第8クラッチ、 69 第9クラッチ、 70 第10クラッチ、 71 第11クラッチ
80 変速システム
81 制御装置