(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】連続流動システムにおける狭い滞留時間分布を維持する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/02 20060101AFI20220210BHJP
C12N 7/06 20060101ALI20220210BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20220210BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20220210BHJP
C07K 1/18 20060101ALN20220210BHJP
C07K 1/22 20060101ALN20220210BHJP
G01N 35/08 20060101ALN20220210BHJP
【FI】
G01N30/02 B
C12N7/06
B01J20/281 R
C07K16/00
C07K1/18
C07K1/22
G01N35/08 Z
(21)【出願番号】P 2019561961
(86)(22)【出願日】2018-04-18
(86)【国際出願番号】 US2018028102
(87)【国際公開番号】W WO2018208448
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-01-08
(32)【優先日】2017-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504115013
【氏名又は名称】イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド・タクセリ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・カルマーレ
(72)【発明者】
【氏名】メリッサ・ホルスタイン
(72)【発明者】
【氏名】クリステン・コトニ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ガレスピー
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0060152(US,A1)
【文献】特表2010-506136(JP,A)
【文献】国際公開第2016/173982(WO,A1)
【文献】特表2008-538077(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0078077(US,A1)
【文献】特表2015-522017(JP,A)
【文献】特表2012-503773(JP,A)
【文献】特開平06-058942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 - 30/96
C12N 7/06
G01N 35/08
G01N 37/00
B01J 20/281
C07K 16/00
C07K 1/18
C07K 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子を含む流体サンプル中の1つ以上のウイルスを不活性化する方法であって、前記流体サンプルをプロテインAアフィニティクロマトグラフィープロセスに供し、それにより溶出液を得;前記溶出液を流体チャンネルに連続的に移送して、1つ以上のウイルス不活性化剤を前記溶出液と混合し;前記溶出液を、前記ウイルスを不活性化するのに十分な時間、別個のパケットの状態で前記流体チャンネル内に流すことを含み、
前記別個のパケットは、前記溶出液に不溶性の固体材料により分離されている、方法。
【請求項2】
標的分子を含む流体サンプル中の1つ以上のウイルスを不活性化する方法であって、前記流体サンプルをイオン交換クロマトグラフィープロセスに供し、それにより溶出液を得;前記溶出液を流体チャンネルに連続的に移送して、1つ以上のウイルス不活性化剤を前記溶出液と混合し;前記溶出液を、前記ウイルスを不活性化するのに十分な時間、別個のパケットの状態で前記流体チャンネルに流すことを含み、
前記別個のパケットは、前記溶出液に不溶性の固体材料により分離されている、方法。
【請求項3】
前記流体サンプルが、前記流体チャンネル内で1~2分の名目上の滞留時間を有する、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記流体サンプルが、前記流体チャンネル内で2~4分の名目上の滞留時間を有する、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記流体サンプルが、前記流体チャンネル内で4~6分の名目上の滞留時間を有する、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記流体サンプルが、前記流体チャンネル内で6~8分の名目上の滞留時間を有する、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記流体サンプルが、前記流体チャンネル内で8~10分の名目上の滞留時間を有する、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記流体サンプルが、前記流体チャンネル内で10~15分の名目上の滞留時間を有する、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記流体サンプルが、前記流体チャンネル内で15~30分の名目上の滞留時間を有する、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記標的が抗体またはタンパク質を含むFc領域である、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記固体材料は、プラスチック球または金属球である、請求項1~
10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記固体材料は、ポリオレフィン、ステンレス鋼、チタン、金より選択される、請求項1~
11のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2017年5月11日に出願された米国仮出願第62/504,631号の優先権を主張し、その開示はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
治療用タンパク質、特にモノクローナル抗体の精製に関する大規模な生産と経済性は、バイオ医薬品産業においてますます重要な問題である。治療用タンパク質は一般に、関心のタンパク質を産生するように設計された哺乳類細胞または細菌細胞のいずれかで産生される。しかしながら、関心のタンパク質は、いったん産生されると、宿主細胞タンパク質(host cell proteins(HCPs))、エンドトキシン、ウイルス、DNAなどのさまざまな不純物から分離する必要がある。
【0003】
典型的な精製プロセスでは、細胞培養収穫物は、細胞破片を除去するための浄化工程にかけられる。次に、関心のタンパク質を含む浄化された細胞培養収穫物は、1つ以上のクロマトグラフィー工程にかけられる。クロマトグラフィー工程としては、アフィニティークロマトグラフィー工程または陽イオン交換クロマトグラフィー工程を含み得る。治療候補者のウイルスの安全性を確保し、規制の命令に従うために、ウイルスの除去ユニットの操作が精製プロセスに実施される。このような工程には、プロテインAおよびイオン交換クロマトグラフィー、ろ過、低pH/化学的不活性化が含まれる。ウイルス不活性化は、典型的にクロマトグラフィーの工程の後に(例えば、アフィニティークロマトグラフィーの後、または陽イオン交換クロマトグラフィーの後に)行われる。典型的な大規模精製プロセスでは、関心のタンパク質を含むクロマトグラフィー溶出プールを、大きなタンクまたはリザーバーに収集し、溶出プールに存在する可能性のあるウイルスの完全な不活性化を達成するために、混合を伴う長時間に亘るウイルス不活性工程/プロセスにかける。当該ウイルス不活性工程/プロセスは数時間から1日以上かかることがある。
【0004】
例えば、モノクローナル抗体(mAb)処理では、一連の独立したユニットの操作がバッチモードで行われる。このモードでは、保持タンクを使用してユニットの各操作間で材料を保管して、各工程間で必要な溶液調整を容易にする。典型的には、材料は1つのタンクに集められ、そこにおいて、目標の不活性条件を達成するために、材料が調整される。これは、低pH目標レベルを達成するための酸の添加による場合もあれば、界面活性剤を基にした不活性プロセスにおける界面活性剤の添加による場合もある。次に、材料は2番目のタンクに移され、そこで、指定のインキュベーション時間の間、不活性条件に保持される。移送の目的は、目標の不活性条件に到達していない可能性があり、ウイルス粒子が含まれている可能性のある第1タンクの壁に小滴がつくリスクを排除することである。材料を別のタンクに移すことにより、このリスクが軽減される。
【0005】
タンパク質溶液を特定の温度、pHまたは放射線にさらすこと、および界面活性剤および/または塩などの特定の化学物質にさらすことなど、いくつかのウイルス不活性技術が当技術分野で知られている。1つのウイルス不活性プロセスには、大きな保持タンクが含まれ、そこでは、低pHおよび/または界面活性剤への暴露などの不活性条件で60分間、材料を保持する。この静的な保持工程は、連続処理に移行する際のボトルネックである。
【0006】
しかしながら、ウイルス死滅動態は、不活性時間が60分よりも大幅に短くなり得ることを示しており、これは、処理時間が大幅に短縮され、ウイルス不活性化用の静的保持タンクが排除され、この方法が連続的な処理により適していることを示唆している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ユニットの各操作が結びつけられ、手動の溶液調整が最小限に抑えられる、連続的なプロセスが望まれている。これを促進するために、インラインのウイルス不活性化や他のインラインの溶液調整を可能にするインラインの処理方法を開発する努力がなされている。連続的な処理への挑戦は、ポイントAからポイントBへの流体の効率的な移動である。一例は、一本の配管を通る流体の押し出し流れ(plug flow)移動である。mAb処理に関係する流動は、典型的に、層流レジーム(レイノルズ数2100未満)に分類される。このレジームでは、放射状の拡散により分子が分散し、その結果、溶質パルスが流動の方向に沿って軸方向に広がる。これはテイラー分散として知られており、
図1に模式的に示されている。層流のためのポアズイユ流は放物線状の速度プロファイルをもたらす。パルスの先端と後端は、鋭い界面として始まるが、流体の層流により放物線状になる。軸方向の広がりは時間とともに続き、分子は管の長さにわたってより分散する。軸方向の分散の影響は、
図2に見られるように、マーカー種のパルス注入で得られた、管出口での結果の濃度のプロファイルで観察される。濃度プロファイルは、マーカー種の滞留時間の幅広い分布を反映している。このような様々な滞留時間は、すべての流体がウイルス不活性環境で十分な滞留時間を持っているか、または、すべての流体のシステムが大きすぎるという結果になり、予想以上に分子がすぐに出ないことを引き起こすか、という不確実性をもたらす。ウイルス不活性化のために十分に長い滞留時間を確保した結果、タンパク質(製品)は、潜在的な分解や凝集などの望ましくない結果をもたらす、過度に長い滞留時間の不活性条件にさらされる。
【0008】
連続または半連続流動システムでは、連続流動システムにおいて狭い滞留時間分布を維持する方法を提供することが望ましい。
【0009】
特にタンパク質精製の場合、生体分子精製用の連続または半連続流動システムの提供が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書で開示される実施形態は、タンパク質精製プロセス中などのウイルス不活性化に特に適用可能な、連続流動システムにおいて、狭い滞留時間分布を維持する方法を提供する。
【0011】
本明細書に記載の実施形態は、タンパク質精製プロセス中にウイルス不活性化を実行するための大きなタンクまたはリザーバーを使用する必要性を除去または最小化し、ウイルス不活性化に必要な全体の時間を短縮し、および/またはタンパク質精製プロセスの間にウイルス不活性化の操作を実行するために必要な全体的な物理スペースを低減し、これにより、精製プロセス用の全体のフットプリントを低減する。さらに、これは、すべての分子が最小滞留時間にかけられるという確実性を高め、不活性保証のための安全係数を提供する一方で、延長された保持を最小限にする。
【0012】
いくつかの実施形態では、精製プロセスでサンプル中に存在する可能性のある1つまたは複数のウイルスを不活性化する方法が提供される。その方法は、管などの流動チャンネルの軸方向で流動する際に別個のゾーンまたはパケットに流体を分離することにより、連続流動システムにおいて狭い滞留分布を維持することを含む。流動チャンネルは、インキュベーションチャンバーとして機能してもよい。これにより、流体のすべての種のための流動チャンネル内での十分な滞留時間が可能になり、次に、流体が流動チャンネル内を流れ、1つまたは複数のウイルス不活性剤と混合する際の、ウイルス不活性化が可能になる。流動チャンネルは、さまざまな材料と形状で作製でき、マクロ流体流路アセンブリ「Smart FLEXWARE(登録商標)」(MilliporeSigmaより市販(米国特許第9,181,941号と米国特許第9,051,929号))への円形のプラスチック配管を含む。当該アセンブリは、2枚のプラスチックシートを一定のパターンで一緒に溶着しチャンネルを作ることにより形成される。
【0013】
特定の実施形態では、インキュベーションチャンバー、流動チャンネルまたは管は、効率的な半径方向の混合および最小の軸方向の混合を提供するように構成され、その結果、滞留時間分布が狭くなり、または減少する。また、ここで、チャンバーまたは管のボリュームは、圧力と温度に起因する変動に左右されない。いくつかの実施形態では、インキュベーションチャンバー、流動チャンネルまたは管は使い捨てのチャンバーまたは管であり、滅菌可能である。
【0014】
特定の実施形態において、標的分子(例えば、抗体、またはタンパク質を含むFc領域)を含む流体サンプルに存在し得る1つ以上のウイルスを不活性化する方法を提供し、当該方法は、流体サンプルをプロテインAアフィニティクロマトグラフィープロセス、または、イオン交換クロマトグラフィープロセスに供し、それにより溶出液を得;溶出液を軸方向流動チャンネルに連続的に導入して、流動チャンネル内で1つ以上のウイルス不活性化剤を溶出液と混合し;溶出液を、ウイルスを不活性化するのに十分な時間、別個のパケットの状態で軸方向チャンネル内に流すことを含む。特定の実施形態では、クロマトグラフィープロセスは連続モードで実施される。アフィニティークロマトグラフィープロセスからの溶出液は、pH、導電率、濃度などのすべての勾配を有するシステムに入るカラムからのリアルタイム溶出であるか、均質化後に次に不活性化される溶出のプールであり得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、インラインインキュベーションチャンバー、流動チャンネルまたは管は、保持プールまたはタンクがチャンバー、チャンネルまたは管のすぐ上流、下流、または両方に位置するプロセスで実施されてもよい。いくつかの実施形態では、インラインインキュベーションチャンバー、流動チャンネルまたは管は、チャンバー、チャンネルまたは管が2つのユニットの操作、例えば上流のプロテインAクロマトグラフィー操作および下流のカチオン交換操作を直接接続するプロセスで実施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、チャンネル内の流体の流れの概略図である。
【
図2】
図2は、従来技術によるチャンネル内のマーカー種のパルス入力(マーカー種の有限量が、主流内に高速で注入されて、段階的変化に近づくプラグの各端に濃度プロファイルを有するマーカー種の均一なプラグを作製する)から得られる濃度プロファイルのプロットである。
【
図3】
図3は、UV吸光度と様々な流動チャンネルの時間のグラフである。
【
図4】
図4は、UV吸光度と様々な流動チャンネルのボリュームのグラフである。
【
図5】
図5は、Phi6不活性化データと静的低pH不活性化実験およびインライン不活性化のための時間のプロットである。
【
図6】
図6は、XMuLV不活性化データと静的低pH不活性化実験のための時間のプロットである。
【
図7】
図7は、Phi6不活性化データと静的界面活性剤不活性化実験のための時間のプロットである。
【
図8】
図8は、UV吸光度とマーカー種の異なる注入量のための時間のプロットである。
【
図9】
図9は、インラインシステムを介したパルス注入についての、時間の関数としてのPhi6力価のプロットである。
【
図10】
図10は、UV吸光度と、2つの異なる溶液間の工程変化についての、V/V50(最大吸光度の50%の体積に正規化されたボリューム)のプロットである。
【
図11】
図11は、特定の実施形態によるインライン連続不活性プロセスの概略図である。
【
図12】
図12は、特定の実施形態による流動チャンネルの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
用語「インライン(in-line)」または「インラインの操作(in-line operation)」は、容器に保管せずに、管またはその他の導管または流動チャンネルを通じて液体サンプルを移動させるプロセスを指す。
【0018】
用語「ウイルス不活性化(virus inactivation)」または「ウイルスの活性化(viral activation)」は、1つまたは複数のウイルスが複製できなくなったり、または不活性になったりするように、1つまたは複数のウイルスを含むサンプルを処理することを指す。本明細書に記載の方法において、用語「ウイルス(virus)」および「ウイルスの(viral)」は互換的に使用され得る。ウイルス不活性化は、物理的手段、例えば熱、紫外線、超音波振動、または、化学的手段、例えばpHの変化もしくは化学物質(例えば界面活性剤)の添加、により達成され得る。ウイルス不活性化は、ほとんどの哺乳動物のタンパク質精製プロセスで、特に、哺乳動物由来の発現システムから治療用タンパク質を精製する場合に、典型的に、使用されるプロセス工程である。本明細書に記載の方法では、ウイルス不活性化は、サンプルが別個のゾーンまたはパケットの状態で移動する流体流動チャンネル内で実行される。本技術分野で知られおよび本明細書に記載される標準アッセイを使用して、サンプル中に1つまたは複数のウイルスを検出できないことは、1つまたは複数のウイルス不活性化剤でサンプルを処理した後の1つまたは複数のウイルスが完全に不活性化したことを示すことが理解される。
【0019】
用語「別個のゾーン(discrete zone)」または用語「パケット(packet)」は、隣接する各ボリュームから介在する障壁によって分離された、個々に画定されたボリュームを指す。
【0020】
本明細書で使用される用語「非混和性流体」は、均質な物質を形成するために混合される能力が制限されるか、または各流体間の別個の境界を形成する能力を有するように、不溶性またはわずかに可溶性である流体を指す。本明細書に記載の方法で使用される非混和性流体には、液ガス、固液、気固、および液液混合物が含まれる。適当な液体の例には、水またはバッファー溶液が含まれる。適当なガスの例には、空気、酸素、窒素、およびアルゴンが含まれる。適当な固体の例には、金属球またはプラスチック球が含まれる。
【0021】
用語「ウイルス不活性化剤(virus inactivating agent)」または用語「ウイルス不活性剤(virus inactivation agent)」または用語「ウイルス除去剤(virus clearance agent)」は、1つまたは複数のウイルスを不活性に、または複製不能にすることができる物理的または化学的手段を指す。本明細書に記載の方法で使用されるウイルス不活性化剤は、溶液条件の変化(例えば、pH、伝導率、温度など)、或いは、サンプル中の1つまたは複数のウイルスと相互作用する、界面活性剤、塩、酸(例えば、酢酸、3.6または3.7のpHを達成するためのモル濃度)、ポリマー、溶媒、小分子、薬物分子もしくは他の適切な実在物など、またはそれらの任意の組み合わせ、の添加、或いは、ウイルス不活性化剤への曝露が1つ以上のウイルスを不活性または複製不能にするような物理的手段(例えば、UV光への曝露、振動など)を含んでいてもよい。特定の実施形態では、ウイルス不活性剤はpH変化であり、ここで、ウイルス不活性剤は、サンプルが分割したゾーンまたはパケットの状態で流れる流動チャンネルにおいて、標的分子を含むサンプル(例えば、プロテインA結合および溶出クロマトグラフィー工程からの溶出液)と混合される。
【0022】
本明細書で使用される用語「連続プロセス(continuous process)」は、標的分子を精製するためのプロセスを含み、当該プロセスは、1つのプロセス工程からのアウトプットが、中断することなく、プロセスの次のプロセス工程に直接流れるように、2つ以上のプロセス工程(またはユニットの操作)を含む。ここでの2つ以上のプロセス工程は、それらの継続期間の少なくとも一部にわたって同時に実行することができる。言い換えれば、連続プロセスの場合、サンプルの一部が常にプロセス工程を移動している限り、次のプロセス工程が開始される前にプロセス工程を完了する必要はない。
【0023】
同様に、「半連続プロセス(semi-continuous process)」は、1つまたは複数のユニットの操作の定期的な中断を有する、設定された期間にわたって連続モードで実行される操作を含んでいてもよい。例えば、連続的なキャプチャー操作中に、フィードの投入を停止して、他のレート制限工程を完了できるようにする。
【0024】
タンパク質精製の従来のプロセスには、典型的に、細胞培養法が含まれ、例えば、関心のタンパク質(例えば、モノクローナル抗体)を産生するように組み換え操作された哺乳類または細菌の細胞株を使用し、その後、細胞培養ブロスから細胞および細胞破片を除去する細胞回収工程がある。細胞回収工程の後には通常、キャプチャー工程が続き、典型的に、その後に研磨工程とも呼ばれる、1つ以上のクロマトグラフィー工程が続く。クロマトグラフィー工程は、通常、1つ以上の陽イオン交換クロマトグラフィーおよび/または陰イオン交換クロマトグラフィーおよび/または疎水性相互作用クロマトグラフィーおよび/または混合モードクロマトグラフィーおよび/またはヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、SEC、深層濾過或いは活性炭の使用を含む。キャプチャー工程の後に、ウイルス不活性工程が含まれ得る。通常、研磨工程の後にウイルスろ過と限外ろ過/ダイアフィルトレーションが行われ、精製プロセスが完了する。
【0025】
バイオ医薬品の製造では、医薬品の安全性と食品医薬品局(FDA)などの規制機関が定める基準を満たすために、ウイルス(哺乳動物細胞を含む動物由来成分によってもたらされる)の不活性化または除去が必要である。典型的なプロセスには、必要な保護を累積的に与える多くのウイルスの除去工程が含まれる。
【0026】
いくつかのプロセスでは、エンベロープウイルスおよびウイルスの成分を破壊するために、標的タンパク質を含む溶液を低pHに滴定する必要がある。従来、標的タンパク質を含むサンプルは、ウイルス不活性化に時間が必要なため、さらに重要なことには、効果的なウイルス不活性化のための均一な混合を確保するために、これらの条件で長期間保持される。したがって、大規模なプロセスの場合、しばしば混合を伴う効率的なウイルス不活性化を促進するため、標的タンパク質を含むサンプルを低pHで長時間インキュベートする。多くの場合、2つの別々のタンクが使用され、1つ目のタンクはpHの調整に使用され、2つ目のタンクは実際のインキュベーション保持に使用される。
【0027】
pH条件は、不活性化を引き起こすのに十分な低pH値と、標的タンパク質の変性を回避したり、製品の分解の広がりを制限したりするのに十分な高さの値と、のバランスとして確立される。さらに、ウイルス活動値が通常2~6LRV(対数減少値(log reduction value))で大幅に減少するように、サンプルを一定時間暴露する必要がある。
【0028】
ウイルス不活性プロセスに重要と見なされるパラメーターは、均一な混合が存在する場合において、pH値、曝露時間、バックグラウンド溶液条件の同一性(例えば、バッファータイプ、バッファー濃度)、mAb濃度、および温度である。大規模プロセスの場合、大容量と、混合速度や物質移動などの追加パラメーターとにより、混合が課題となる。
【0029】
タンパク質を含むFc領域(例えばモノクローナル抗体)の場合、溶出プールのpHがウイルス不活性のための望ましいpHに近いため、ウイルス不活性化は、通常、結合および溶出クロマトグラフィープロセス工程(例えばプロテインAアフィニティークロマトグラフィーまたは陽イオン交換クロマトグラフィー)からの溶出後に行われる。例えば、今日の業界で使用されるプロセスでは、プロテインAクロマトグラフィーの溶出プールのpHは通常3.5から4.0の範囲であり、陽イオン交換結合および溶出クロマトグラフィーの溶出プールのpHは通常約5.0である。
【0030】
今日の業界で使用されているほとんどのプロセスでは、標的タンパク質を含む溶出プールは、ウイルスの不活性化に必要なpHに調整され、一定時間保持される。pHと時間の組み合わせは、ウイルス不活性化をもたらすことが示されている。特に大規模なプロセスの場合、ウイルス不活性化には時間が長いほど効果的であるが、長い時間は、タンパク質凝集物(免疫原性)の形成につながり得る、タンパク質の損傷とタンパク質の変性を引き起こすことが知られている。低pHに長時間さらされると、沈殿物と凝集物の形成との可能性があり、これは望ましくなく、デプスフィルターおよび/または滅菌フィルターを使用してこのような沈殿物や凝集物をしばしば除去する必要がある。
【0031】
本明細書に記載の方法は、連続的または半連続的な方法でウイルス不活性化を達成することができ、これにより、ほとんどの従来のプロセスに比べてウイルス不活性化に関連する時間を大幅に短縮でき、ひいては精製プロセス全体の時間を短縮できる。
【0032】
いくつかの実施形態では、異なるプロセス工程は、連続的または半連続的な方法で操作されるように接続されている。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のウイルス不活性方法は、連続または半連続精製プロセスにおけるプロセス工程を構成し、そこでは、例えばプロテインAアフィニティークロマトグラフィー工程またはイオン交換クロマトグラフィー工程から、ウイルス不活性工程へ、典型的にフロースルー精製プロセス工程であるプロセス中の次の工程へ、サンプルが連続的に流れる。インラインpH不活性化は従来技術で提案されているが(Klutz S. et al., Continuous viral inactivation at low pH value in antibody manufacturing, Chemical Engineering and Processing 102(2016) 88-101.)、滞留時間分布が狭い適切なインキュベーションチャンバーの開発は、これらのチャンバーが大きすぎであり、検証がより困難になる可能性があることを意味する。
【0033】
いくつかの実施形態では、ウイルス不活性プロセス工程は、連続的または半連続的に実行され、すなわち、前の結合および溶出クロマトグラフィー工程(例えば、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー、
図11)などの前のプロセス工程からの溶出液が連続的にウイルス不活性工程内に流れる。当該工程は、溶出液を別個のゾーンまたはパケットの状態で流す1つまたは複数の流体チャンネルを採用する。その後、いくつかの実施形態では、次の処理工程が実行されるまでウイルス不活性化溶出液を保管容器に収集することができるか、または、いくつかの実施形態では、次の下流プロセス工程に直接かつ連続的に与えることができる。例えば、
図11を参照されるように、特定の実施形態において、プロテインA mAb溶出液は、正確なシリンジポンプおよびスタティックミキサーを有するインライン酸添加を使用して、均一で低pHの状態に迅速になる。1M酢酸濃縮液を使用して、さまざまなタンパク質フィード濃度にわたって堅牢な低pHが維持される。pHは、サンプリングとオフラインセンサーを使用して確認され得る。複雑な連続フィードバック制御ループと信頼性の低いpHセンサーを使用せずに、長日にわたる堅牢なpH制御を達成できる。不活性チャンバーまたはインキュベーションチャンバーは、堅牢なLRVための信頼できる保持時間と、後続の工程のために必要なpH(例えば5-7.5)への迅速で一貫したクエンチを提供する。
【0034】
特定の実施形態によれば、連続または半連続流動システムにおいて、狭い滞留時間分布が維持される。滞留時間分布は、システム内を移動する流体サンプルの効果的なウイルス不活性化を達成するために十分に狭い(および従来の設計と比較して減少する)。適切な狭い滞留時間分布は、従来の設計から得られた結果との比較に基づいて定量化できる。異なる設計のパルスデータ(例えばUV吸収ピーク)は、統計的定量化メトリックを使用して比較できる。例えば、流体の中央の80%が流動チャンネルを出るのに必要な時間の総計を比較することができる。つまり、10%と90%の面積値の間の広がりを作ることができる(t
10%は流体の10%がチャンネルを出た時間を表し、t
90%は流体の90%がチャンネルを出た時間を表す。)。この比較は、50mLのシステムボリューム(ホールドアップボリューム)に相当するような、内径が1/8インチ、長さが250インチの配管を使用して、
図3に示されたピークに対して実行され、以下の表1に明らかにされている。例えばモーメント分析など、当業者によって適用されるようなピーク特性を分析する他の方法も活用できる。
【0035】
【0036】
異なるシステムボリュームを有するさまざまな設計を比較するために、これらのデータを正規化ボリューム(システムボリュームに正規化)として提示することもできる。これは
図4に示され、以下の表2に明らかにされている。
【0037】
【0038】
これらの分析例では、本明細書で開示される実施形態の10~90%の広がりは、従来の設計の値よりも著しく小さく、本明細書で開示される実施形態による狭い滞留時間分布を構成する。これは従来の設計の分布から減少する。プラグ流動の理想的な場合においては、この10~90%の広がりはゼロになる。
【0039】
いくつかの実施形態において、狭い滞留時間分布は、サンプルが移動する流体流動チャンネルの軸方向に沿って流体を異なるまたは別個のゾーンまたはパケットに分離することによって、作成および維持される。別個のパケットは、界面によって別のパケットまたはゾーンから分離されたパケットまたはゾーンである。プロセス流体の1つのボリュームとプロセス流体の1つの隣接するボリュームもしくは各ボリュームとの間の界面を形成する分離の程度は、別個のゾーンまたはパケットである。界面は、介在する不混和性流体(例えば、気体または別の液体)または固体によって作製される。適当な不混和性流体は、タンパク質製品、および、例えば続く工程での除去の容易さなど他のプロセスの考慮事項と両立できるものであり、グリセロールおよびポリエチレングリコールが含まれる。適当なガスには、空気、酸素、窒素、アルゴンが含まれる。いくつかの実施形態では、材料の非水相、または材料の不溶性固相が流体チャネルに導入されて、界面を形成する。適当な固体には、ポリオレフィンプラスチック、ステンレス鋼、チタン、金などの、流体および溶質と両立できるプラスチック球および金属球が含まれる。球は、配管の内径より十分に大きい直径か、当該内径に一致する直径を有するべきであり、ある流体ボリュームを別の流体ボリュームから効果的に分離する。
【0040】
特定の実施形態では、不混和性流体または固体は、シリンジなどを用いて手動で注入することにより、または、流体を所定の時間間隔でチャネル内に送達するように設定できるソレノイドポンプなどを使用して自動的に、チャネルに導入される。
【0041】
流体を別個のゾーンまたはパケットに分離すると、相分離によって作られた界面をこえたチャンネル内の流体の、軸方向の分散と混合が最小限に抑えられる。滞留時間の軸方向の分散は、粒子が経験する滞留時間の範囲に影響を与える。低pHである間にウイルス粒子を不活性化するために滞留時間が長いほど望ましい場合がある。しかし、低pHで過度に長い滞留時間にかけられた同じ溶液中のタンパク質粒子は劣化する可能性があり、これは望ましくない。分散滞留時間の最小化の程度は、処理される製品(例えばタンパク質)の感度に依存するが、いずれにせよそれが低いほど有益である。したがって、許容できる分散の量は、特定の用途によって異なる。ウイルス除去の用途では、軸方向の分散を最小限に抑えることで、短い間の時間でウイルス不活性化に対する信頼性が高まるため、処理時間を短縮するという点で大きな利点が得られる。
【0042】
パケット分離の長さは重要ではなく、パケットが、チャネルの全断面にわたって全部である、介在する液体または気体との明確で完全な界面を有している限り、パケットは、非常に短い長さ(1mmなど)またははるかに長い長さで分離できる。各別個のパケットは、別の別個のパケットと同じまたは異なる軸方向長さを有することができる。
【0043】
特定の実施形態では、流体の別個のパケットまたはゾーンの形成により、流体種を、流動チャンネルの長さに沿って軸方向に移動させ、チャンネル入口でのプロファイルがチャンネル出口でのプロファイルと一致または実質的に一致するようにし、一貫性と確実性をチャンネル内の流体種の滞留時間に追加する。
【0044】
流動チャンネルの一端にパルスとして導入されたサンプルは、既知の時間にシャープで明確なピークで流動チャンネルから出る。これは、システムを流れる種の目標最小滞留時間を達成する必要がある、インライン連続ウイルス不活性化の用途において利点がある。また、それは、移動相(例えばバッファー)の状態が変化するシステムやバッファーの希釈が発生するシステムにおいても実施できる。これは、典型的なmAb精製プロセス内の複数の場所で行われる可能性がある。1つの例は、結合および溶出陽イオン交換(bind-and-elute cation exchange)工程とフロースルー陰イオン交換(flow-through anion exchange)工程との間でしばしば必要となる調整である。多くの場合、陽イオン交換工程からの溶出プールは、しばしば、陰イオン交換工程の目標値よりも低いpHと高い導電率である。連続流動システムで陽イオン交換溶出プールを適切な条件に効率的に調整するために、新しい条件への効率的な移行を可能にする別個のパケットを形成できる。異なるバッファータイプ間でシャープな移行ゾーンを提供でき、それ故に、必要な時間とバッファーの量を最小限に抑え、インラインバッファー希釈またはインラインコンディショニング用途が可能になる。
【0045】
特定の滞留時間を標的とするために、流量と配管の長さを選択することができる。ウイルス不活性化の用途の場合、滞留時間は、流動チャンネル内でウイルス不活性化を達成するのに十分な時間として、好ましくはいくらかの安全係数を伴って選択される。たとえば、30分間の不活性時間が必要な場合、2の安全係数を使用して、流動チャンネルでの標的滞留時間を60分間にすることができる。ウイルス不活性化が1~2分未満で起こる、他の実施形態では、安全係数を採用することができ、流動チャンネル内の4または5分の標的滞留時間が使用される。最小滞留時間は、ウイルス不活性化の許容可能な安全係数の観点から規制ガイダンスに依存していてもよい。
【0046】
適切な名目上の滞留時間は、1~2分、2~4分、4~6分、6~8分、8~10分、10~15分、および15~30分を含む。
【0047】
狭い滞留時間分布を維持する能力は、ウイルスに不可欠なmAb処理などのウイルス不活性プロセスにおいて利点があり、低pH、界面活性剤への曝露などの指定の不活性条件で最小限の時間を費やす。狭い滞留時間分布を維持することにより、ウイルス不活性化の最小時間要件を満たすと同時に、製品(例えば、タンパク質/mAb)の、過酷な不活性条件への暴露を最小限に抑えることができる。
【0048】
低pH不活性化の場合、例えば、酸などのウイルス不活性化剤を副流として、メインフィード流動チャンネル内に添加してもよい。特定の実施形態では、所望の量のウイルス不活性化剤を添加するためのソフトウェアプログラムによって制御されるシリンジポンプが使用され得る。いくつかの実施形態では、ポンプ用のコントローラを備えてもよく、当該コントローラは処理ユニットおよび貯蔵要素を有する。処理ユニットは、マイクロプロセッサなどの汎用コンピューティングデバイスであり得る。あるいは、プログラマブルロジックコントローラー(PLC)などの特殊な処理デバイスでもよい。記憶素子は、RAM、DRAM、ROM、フラッシュROM、EEROM、NVRAM、磁気媒体、またはコンピュータ可読データおよび命令を保持するのに適した他の媒体など、任意のメモリ技術を利用してもよい。当該命令は、ポンプの操作に必要なものであってよい。コントローラは、タッチスクリーン、キーボード、または、コントローラが使用するパラメーターのセットをオペレータが入力できるようにする他の適切なデバイスなど、入力デバイスも含むことができる。この入力デバイスは、ヒューマンマシンインターフェースまたはHMIと呼ばれ得る。コントローラは、ポンプを制御するように適合された出力を備えていてもよい。これらの出力は、本質的にアナログまたはデジタルであり、バイナリ出力(つまり、オンまたはオフ)を与えるか、アナログ信号やマルチビットデジタル出力など、可能な範囲の出力を与える。前記剤が追加され、混合された後(たとえば、インラインスタティックミキサーを介して)、インキュベーションチャンバーの流動チャンネルに入り、そこで、標的の不活性時間だけ流れる。前記剤の添加量は、酸の種類、酸の強さ、および供給溶液のバッファー能力に依存する。供給溶液のバッファー能力は、バッファー種、バッファー濃度、mAb濃度など、多くの要因に依存する。低pH不活性化の代わりに、類似のプロセスを界面活性剤不活性化に使用できる。
【0049】
本明細書に開示される実施形態によれば、流体チャンネルに導入された流体サンプルは、最小限のピーク広がりで流体チャンネルから出る。本明細書に開示される方法が適用される場合に観察されるピークの広がりの量は、ウイルス不活性化の従来の方法が使用される場合よりも著しく少ない。
図4は、本明細書に開示された方法から生じるピーク広がりを、従来の方法との比較で示す。
図4は、本明細書に開示される実施形態に従って、別個の流体パケットが誘導される、直線管、コイル状管(直径3/8インチのロッドに巻き付けられた管)および管に、注入されたサンプルによるピークの広がりを示す。すべての管は、50mLの理論上のホールドアップボリュームに相当する同じ内径と長さを有した。最初に水が入った管に0.5mLのサンプルを注入し、サンプルの注入後、各管に10mL/minで水を流した(公称滞留時間5分に対応)。結果のUVトレースは、管の出口で収集された。ボリュームはシステムボリュームに正規化された。
【0050】
文献では、コイル状管は、二次流れ特性によって直線管よりも有利であることが示されている(例えば、ディーン渦(Dean vortices)、米国特許第5,203,002号)。ディーン渦は、連続的なウイルス不活性化のために特別に実施される(国際公開第2015/135844 A1「継続的なウイルス不活性化のためのデバイスと方法」)。本明細書に開示された方法を使用して得られたピークは、直線管とコイル状管の両方のピークよりもはるかに狭く、別個のパケットまたはゾーンの状態で流動チャンネル内を移動する流体種がシステム内の狭い滞留時間分布を有していたことを示している。
【0051】
図12は、2枚のプラスチックシートを一定のパターンで一緒に溶着しチャンネルを作ることにより形成される、マクロ流体流路アセンブリを含むSmart FLEXWARE(登録商標)設計の例である。空気などの非混和性流体は、流体チャンネルの入口で注入され、流体チャンネル(
図12中の「デバブラー(de-bubbler)」として呼ばれる)の出口で除去され得る。
【0052】
また、本明細書で説明する方法は、例えば、ウイルス不活性化のためにプールタンクを使用する必要性をなくしたり、または、適切な安全率でウイルスを不活性化するために必要なインキュベーションチャンバーのサイズを最小化したりすることにより、プロセスの物理的フットプリントも小さくする。一般に、プロセスの全体的な物理的フットプリント(つまり、床面積)を低減することにより効率を改善する、より柔軟な製造プロセスに対する需要が高まっている。本明細書に記載の方法は、ウイルス不活性化に典型的に使用される大きなプールタンクを排除することにより、精製プロセスの全体的なフットプリントを削減することができる。
【実施例】
【0053】
実施例1.バクテリオファージウイルスによる静的低pHウイルス不活性化
この代表的な実験において、目的は、低pH条件で、エンベロープを有するバクテリオファージウイルス(Phi6)の不活性動態を評価することであった。目標は、完全な不活性化に必要な暴露時間を決定することであった。
【0054】
モノクローナル抗体(mAb)は標準プロテインAクロマトグラフィーで精製し、5mg/mLの濃度で調製した。8.7Mの酢酸を使用して、pHをpH6.3からpH3.6に調整した。Phi6の安定性のために、ヒト血清アルブミン(HSA)(0.25%v/v)を追加した。pHの確認後、mAbを含むサンプルリザーバーにウイルススパイクを加え、ボルテックスして、十分に混合されたシステムを確保した。Phi6の目標スパイクレベルは1×107pfu(プラーク形成単位)/mLであった。ウイルス添加の0.3分以内に、1mLのサンプルを取り出し、事前に決定した2M Tris Base、pH10の容量の入った管に移して、サンプルを中和(pH6~8)して不活性工程を停止した。塩基を加えた後、管をボルテックスした。サンプルを除去し中和するこのプロセスを、各時点で繰り返した。これらの実験は、22~25℃の室温で実施された。初期および最終時点でのコントロールサンプルも分析した。コントロールサンプルの場合、pHはフィードpHレベル(pH6.3)に維持されたが、サンプルは、pH6.3のバックグラウンドバッファーを使用して実際のサンプルと同様に希釈した。
【0055】
プラークアッセイを使用して、中和されたサンプルの感染性をアッセイし、結果を表3に示す。対応するPhi6力価を「静的」値として
図5に示す。
【0056】
【0057】
これらの結果は、pH3.6条件がPhi6を急速に不活性化し、1分以内に完全に不活性化することを示している。0および15分のコントロールサンプルは、元の力価レベルを維持した。
【0058】
実施例2.XMuLVレトロウイルスによる静的低pHウイルスの不活性化
この研究の目的は、低pH条件下でのモノクローナル抗体製品の除去の研究に一般的に使用され、エンベロープを有するウイルスである、外因性マウス白血病ウイルス(XMuLV)のウイルス不活性動態を評価することであった。目標は、完全な不活性化に必要な暴露時間を決定することであった。
【0059】
モノクローナル抗体を、標準プロテインAクロマトグラフィーにより精製し、18g/Lの濃度で調製した。8.7M酢酸を使用して、pHをpH3.5、pH3.7、pH4.0、またはpH4.2の目標レベルに調整した。pHの確認後、mAbを含むサンプルリザーバーにウイルススパイクを加え、ボルテックスして、十分に混合されたシステムを確保した。XMuLVの標的スパイクレベルは1×107 TCID50/mL(TCID50=組織培養感染量)(4%スパイクv/v)であった。ウイルスの添加から0.3分以内に、1mLのサンプルを取り出し、さらに、当該サンプルを中和(pH6~8)して不活性工程を停止するために、当該サンプルを事前に決定した2M Tris Baseの容量の入った管に移した。塩基を加えた後、管をボルテックスした。この、サンプルの除去および中和のプロセスを各時点で繰り返した。これらの実験は22~25℃の室温で実施した。初期および最終時点でのコントロールサンプルも分析した。コントロールサンプルの場合、pHはフィードpHレベルに維持したが、当該サンプルはバックグラウンドバッファーを使用して実際のサンプルと同様に希釈した。
【0060】
中和されたサンプルは、PG4インジケーター細胞を用いた、細胞に基づくTCID
50感染性解析(ボルトンG、カバチンガンM、ルビノMら、通常の流動ウイルスろ過:バイオプロセシングのエンドポイントの検出と評価、Biotechnol Appl Biochem 2005; 42:133-42)を用いた感染性についての解析がなされた。細胞毒性を緩和し、ウイルス不活性化を抑えるために、サンプルを細胞培養培地の10倍段階希釈で1:50に希釈し、各希釈液の100μLの一定分量を96ウェルプレートに加えた。5%CO
2、37℃で7日間インキュベートした後、感染したウェルを細胞変性効果(CPE)について視覚的に評価した。力価とLRVは、標準的な方法を使用して計算した(ICH。ヒトまたは動物起源の細胞株に由来するバイオテクノロジー製品のウイルスの安全性評価に関するガイダンス。Use ICoHoTRfRoPfH、Geneva編、スイス:ICH、1998)。各時点でのLRVを決定するために、その時点の力価を最も近いコントロール時点の力価から差し引いた。対数減少値を表4に示す。対応する力価を
図6に示す。
【0061】
【0062】
これらの結果は、pH3.5およびpH3.7条件がXMuLVを急速に不活性化し、1分以内に完全に不活性化することを示している。0および60分のコントロールサンプルは、元の力価レベルを維持した。
【0063】
実施例3.Phi6バクテリオファージウイルスによる静的界面活性剤に基づくウイルス不活性化
この研究の目的は、界面活性剤に基づくウイルス不活性動態を調べることであった。この代表的な実験では、2つの異なる濃度(0.1%v/vおよび1.0%v/v)の界面活性剤Triton X-100を使用して、バクテリオファージウイルスPhi6を不活性化した。目標は、完全な不活性化に必要な暴露時間を決定することであった。
【0064】
モノクローナル抗体を、標準プロテインAクロマトグラフィーにより精製し、15mg/mLの濃度で調製した。ウイルススパイクを加え、ボルテックスして、十分に混合されたシステムを確保した。Phi6ターゲットスパイクレベルは1×108pfu/mLであった。0.1%v/vおよび1.0%v/vの所望の濃度に達するように、界面活性剤を追加した。さまざまな時点でサンプルを取り出し、当該サンプルを1:1000の希釈率でバッファーに加えることで停止した。界面活性剤の添加後、管をボルテックスした。これらの実験は、22~25℃の室温で行った。初期および最終時点でのコントロールサンプルも分析した。バックグラウンドバッファーを使用して、コントロールサンプルを実際のサンプルと同様に希釈した。
【0065】
プラーク解析を使用して、中和されたサンプルの感染性を解析し、また、対数減少値を表5に示す。対応するPhi6力価を
図7に示す。
【0066】
【0067】
これらの結果は、0.1%および1.0%Triton X-100条件がPhi6を急速に不活性化し、1分以内に完全に不活性化することを示している。0および30分のコントロールサンプルは、元の力価レベルを維持した。
【0068】
実施例4.パケットを作製するための方法
この代表的な実験は、流体チャンネルに沿ってパケットを作製するための方法の使用を説明する。
【0069】
装置は、配管の長さに沿って画定された位置で非混和性流体の注入を与えるように組み立てられた。この例においては、マイクロポンプは、システム内に気泡の注入を果たすために使用した。当該システムは、サンプル注入ポートと目標インキュベーションチャンバーボリュームを与える1本の配管とに接続した蠕動ポンプで構成されていた。当該システムは、最初、バッファーで満たされていた。マイクロポンプは、サンプル注入ポートの始まりで空気溜まりを作るために使用された。サンプルを、シリンジを用いてサンプルポートに加えた。マイクロポンプは、サンプル注入ポートの端で空気溜まりを作るためにも用いられた。視覚観察により、これら空気溜まりが流体経路を異なるゾーンに分離したことを確かめた。配管の寸法は、指定された流量(つまり、10mL/min)で指定の滞留時間を達成するために必要なボリュームに基づいて選択した。内径1/8インチ、外径3/8インチの樹脂配管を使用した。
【0070】
実施例5.滞留時間の決定
この代表的な実施例は、滞留時間分布を決定するために使用される方法を与える。
【0071】
蠕動ポンプを使用して、実施例4に記載されたシステムを介してバッファーを送り込んだ。システムは最初にバッファーで満たされた。空気溜まりをサンプル注入ポートに注入した。次に、サンプルポートをマーカー種(リボフラビン、0.2mg/mL)で満たした。サンプルポートの端に空気溜まりを注入した。サンプル量は、サンプルポートのサイズに応じて0.5~60mLの範囲とした。蠕動ポンプを使用してバッファーをシステムに送り込み、マーカー種を、配管を介して管の端に接続されたUV検出器に押し込んだ。供給流量は10mL/minであった。インキュベーションチャンバーは250インチのポリマー配管(内径1/8インチ)で構成されていた。
【0072】
時間の関数としてのUV検出器からの信号を使用して、システム内のマーカー種の滞留時間を決定した。結果を
図8に示す。この方法は、流動チャンネルに軸方向に沿って異なるボリュームの流体を効率的に移動させるために使用できることを示している。
【0073】
実施例6.ウイルスの滞留時間分布
この代表的な例は、インキュベーションチャンバーを介したウイルスの滞留時間分布を示す。システムは、実施例5に記載され
図13に示されているようにセットアップされており、インキュベーションチャンバー内で流体パケットを作るための空気溜まりが実装された。
【0074】
Phi6ウイルスをマーカー種として使用した。Phi6の目標スパイクレベルは、バッファー中1×10
7pfu/mLであった。このシステムは、配管の入口にあるバッファーリザーバー、サンプル注入ポート、UV検出器に接続される1本の配管、で構成されていた。当初、システムはバッファーで満たされていた。次に、Phi6ウイルスのサンプル5mLをシステムに注入した。流量を10mL/minに設定し、バッファーを使用してマーカー種をシステムに押し込んだ。サンプルを配管出口で収集し、プラーク解析を使用して感染性を解析した。結果を
図9に示す。
図9では、Phi6力価を、正規化されたボリュームの関数としてプロットした。ボリュームをシステムボリュームに正規化した。これらの実験は、22~25℃の室温で行った。
【0075】
図9に示すように、気泡溜まりを備えた現在の流動チャンネルの、結果として得られるピークプロファイルは、典型的な直管で得られたプロファイルよりもかなり狭い。
【0076】
実施例7.連続流動システムを使用したウイルス不活性化
この代表的な例では、低pHウイルス不活性化を実行するための連続流動システムの使用について説明する。
【0077】
メインフィードポンプ、酸添加ポンプ、および塩基添加ポンプで構成されるシステムを使用して、連続流動条件下でウイルスを不活性化した。mAb溶液にPhi6を混ぜ、メインフィードポンプ入口に接続した。Phi6の目標スパイクレベルは1×10
8pfu/mLであった。酸は1M酢酸で、塩基は2Mトリス塩基溶液であった。供給流量を1mL/minに設定した。0.75mL/minの流量で主流に酸を加えた。次に、流体は、スタティックミキサーと、特定のボリューム(所望の滞留時間を目標)を含むように設計された1本の配管を通過した。インキュベーションチャンバーの出口で、0.4mL/minの流速でメインラインに塩基を加えることにより、材料を中和した。流体は別のスタティックミキサーを通過し、その後、中和されたサンプルが出口で収集され、プラーク解析を使用して感染性について解析した。対数減少値を表6に示す。これらの実験は、室温、22~25℃で行った。コントロールサンプルおよび各時点も分析した。コントロールサンプルの場合、pHはフィードpHレベルに維持されたが、サンプルはバックグラウンドバッファーを使用して実際のサンプルと同様に希釈した。対応するPhi6力価を「インライン」値として
図5に示す。
【0078】
【0079】
これらの結果は、ウイルス不活性化が、インライン連続不活性システムを使用して1分以内に発生したことを示す。0および15分のコントロールサンプルは、元の力価レベルを維持した。
【0080】
インラインシステムからのこれらのデータは、Phi6ウイルスの静的低pH不活性条件を使用して実施例1で得られたデータと同一であり、2つの各アプローチ間の同等性を説明している。
【0081】
実施例8.連続流動システムを使用したインライン溶液調整
この実施例では、パケットを作製する方法(実施例4)を使用して、連続インライン溶液調整を行った。
【0082】
実験のセットアップは、蠕動ポンプとUV検出器に接続された1本のポリマー配管(内径1/8インチ、250インチ長)で構成されていた。最初は、管を水で満たした。次に、2.5mLの空気溜まりをサンプルループ内に注入した。マーカー種(リボフラビン、0.2mg/mL)を10mL/minの流量でシステム内に注入した。管の出口の端で、流体をデバブラー、次にUV検出器に通過させた。得られたUV吸収プロファイルを
図10に示す。同じセットアップで気泡注入なしで実験を繰り返した場合のコントロールも示す。結果として得られるUVプロファイルで観察されるように、本明細書に記載の方法は、ある溶液から別の溶液に切り替えるとき、すなわち段階的な変化のときに鋭い応答曲線を生成することができる。