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特許7022822低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220210BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220210BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/58
C21D8/02 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020520658
(86)(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 KR2018011722
(87)【国際公開番号】W WO2019074236
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-04-10
(31)【優先権主張番号】10-2017-0131605
(32)【優先日】2017-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウ ギョム
(72)【発明者】
【氏名】オム,キョン グン
(72)【発明者】
【氏名】バン,ギ ヒョン
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-174357(JP,A)
【文献】特開平08-295982(JP,A)
【文献】国際公開第2011/062000(WO,A1)
【文献】特開平05-202444(JP,A)
【文献】特開2017-082267(JP,A)
【文献】特開2017-166008(JP,A)
【文献】特開2005-290546(JP,A)
【文献】特開昭59-200723(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0258219(US,A1)
【文献】特開2012-72421(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151469(WO,A1)
【文献】特開2012-241566(JP,A)
【文献】特開2012-229470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 7/00-8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.04~0.1%、Si:0.05~0.4%、Mn:1.0~2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Al:0.015~0.04%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.25~0.35%、Ni:0.05~0.8%、Nb:0.003~0.03%、N:0.002~0.008%、Ca:0.0002~0.0050%、Cr:0.009%以下、Mo:0.0009%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、
全体組織はフェライトを95面積%以上含む微細組織を有し、前記フェライトは結晶粒の平均サイズが10μm以下であり、
40mm以上の厚さを有することを特徴とする低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板。
【請求項2】
前記フェライトは、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトで構成されることを特徴とする請求項1に記載の低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板。
【請求項3】
前記フェライトは、結晶粒の最大サイズが20μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板。
【請求項4】
前記微細組織は、セメンタイト及びマルテンサイト(MA)のうち1種以上を5面積%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板。
【請求項5】
前記厚鋼板は、降伏強度が350MPa以上、引張強度が450MPa以上、-60℃における衝撃靭性が200J以上、及び-60℃における変形時効衝撃靭性が100J以上であることを特徴とする請求項1に記載の低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の厚鋼板を製造するための方法であって、
重量%で、C:0.04~0.1%、Si:0.05~0.4%、Mn:1.0~2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Al:0.015~0.04%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.25~0.35%、Ni:0.05~0.8%、Nb:0.003~0.03%、N:0.002~0.008%、Ca:0.0002~0.0050%、Cr:0.009%以下、Mo:0.0009%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1020~1150℃で加熱する段階と、
前記加熱された鋼スラブを再結晶域圧延せず、Ar 以上で未再結晶域圧延して熱延鋼材を得るか、前記加熱された鋼スラブを5パス以下で再結晶域圧延してバーを得た後、前記バーをAr 以上で未再結晶域圧延して熱延鋼材を得る段階と、を含むことを特徴とする低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記未再結晶域圧延時における圧下量は、前記再結晶域圧延時の圧下量と未再結晶域圧延時の圧下量の合計の90%以上(100%を含む)であることを特徴とする請求項に記載の低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記未再結晶域圧延する段階の後に、前記熱延鋼材を2~15℃/sの冷却速度で300~500℃まで冷却する段階をさらに含むことを特徴とする請求項に記載の低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板及びその製造方法に係り、より詳しくは、造船用、海洋構造用などの素材として使用可能な低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、陸上又は近海のエネルギー資源の枯渇に伴い、資源採掘地域が徐々に深海地域又は寒冷地域に移動しつつある。そのため、試錐、採掘、及び貯蔵設備の大型化や統合化などによって、その構造が益々複雑になってきている。そこで、用いられる鋼材は、構造物の安定性を確保するために、低温靭性に優れることが要求され、特に構造物の製作過程において冷間加工などによる変形時効に起因する靭性の低下を最小限に抑える必要がある。
一般に、変形時効衝撃特性は、鋼板に数%の引張変形を加え、約250℃で1時間時効処理した後、衝撃試験片に加工して衝撃試験を行うことにより評価する。変形時効現象が激しくなるほど、鋼板の靭性が短時間で減少し、靭性の減少幅も増加する。この場合、鋼板が適用される部位及び構造物の寿命が減少して安定性にも影響を与える可能性がある。そこで、最近では、変形が加えられた鋼板の寿命を増加させることで構造物の安定性を高めるために、変形時効に対する抵抗性が高い鋼板が要求されている。
【0003】
一方、降伏強度が破壊強度よりも大きい場合に、変形時効によって衝撃靭性が劣化する。すなわち、降伏強度と破壊強度の間の差が大きいほど、鋼材が延性に変形する量が増加し、吸収する衝撃エネルギーが増加するようになる。したがって、鋼材を構造物に適用するために冷間変形を行うと、鋼材の降伏強度が増加し、結果として、破壊強度との差が小さくなり、衝撃靭性の低下を伴う。
かかる降伏強度の増加による靭性の低下の原因は、鋼材に変形が加えられ、時間の経過とともに、C、Nのような鋼中の侵入型元素が転位に固着して発生する。
【0004】
このような変形による靭性の低下を防止すべく、従来は、変形後の時効現象による強度の増加を抑制するために、鋼材内に固溶される炭素又は窒素の量を最小化するか、又は積層結合エネルギーを下げて転位の移動を容易にする元素である。Niなどを添加する方法や、変形後に応力緩和熱処理を行って鋼材内部に形成された転位を減少させることで、加工硬化によって増加された降伏強度を下げる方法が用いられた。このような例が、非特許文献1に開示されている。
しかし、構造物の大型化、複雑化に伴い、鋼材に要求される変形量が増加し、また、使用環境(寒冷地、極地)の温度が低くなってきているため、従来の方法では、鋼材の変形時効による靭性の低下を効果的に防止することが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】The effect of processing variables on the mechanical properties and strain ageing of high-strength low-alloy V and VN steels(V.K.Heikkinen and J.D.Boyd,CANADIAN METALLURGICAL QUARTERLY Volume 15 Number 3(1976),P.219~)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板は、重量%で、C:0.04~0.1%、Si:0.05~0.4%、Mn:1.0~2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Al:0.015~0.04%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.35%以下(0は除く)、Ni:0.05~0.8%、Nb:0.003~0.03%、N:0.002~0.008%、Ca:0.0002~0.0050%、Cr:0.009%以下、Mo:0.0009%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、微細組織は、結晶粒の平均サイズが10μm以下であるフェライトを95面積%以上含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の低温変形時効衝撃特性に優れた厚鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.04~0.1%、Si:0.05~0.4%、Mn:1.0~2.0%、P:0.01%以下、S:0.003%以下、Al:0.015~0.04%、Ti:0.005~0.02%、Cu:0.35%以下(0は除く)、Ni:0.05~0.8%、Nb:0.003~0.03%、N:0.002~0.008%、Ca:0.0002~0.0050%、Cr:0.009%以下、Mo:0.0009%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物からなる鋼スラブを1020~1150℃で再加熱する段階と、前記再加熱された鋼スラブを5パス以下(0パスを含む)で再結晶域圧延してバーを得る段階と、前記バーをAr以上で未再結晶域圧延して熱延鋼材を得る段階と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、低温変形時効衝撃特性及び降伏強度に優れた厚鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態による発明例1の微細組織を観察した写真である。
図2】本発明の一実施形態による比較例1の微細組織を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、本発明の合金組成について説明する。下記説明される合金組成の含有量は、重量%を意味する。
【0012】
C:0.04~0.1%
本発明において、Cは、固溶強化を起こし、Nbなどにより炭窒化物として存在して引張強度を確保するための元素である。上記効果を得るために、上記Cの含有量が0.04%以上であることが好ましいが、0.1%を超えると、マルテンサイト(MA)の形成を助長するだけでなく、パーライトが生成されて、低温における衝撃及び疲労特性を劣化させる虞がある。また、固溶Cが増加するにつれて、変形時効衝撃特性が低下するため、上記Cの含有量は、0.04~0.1%の範囲を有することが好ましい。上記Cは、低温における靭性をより安定的に確保するために、0.04~0.08%の範囲を有することがより好ましい。
【0013】
Si:0.05~0.4%
Siは、Alを補助して溶鋼を脱酸する役割を果たし、降伏及び引張強度を確保するために必要な元素であるが、低温における衝撃及び疲労特性を確保するためには、0.4%以下の範囲を有することが好ましい。また、Siが0.4%を超えると、Cの拡散を妨害してMAの形成を助長する。一方、Siを0.05%以下に制御するために、製鋼工程における処理時間が大幅に増えるという欠点がある。したがって、上記Siの含有量は、0.05~0.4%の範囲を有することが好ましい。上記Siは、MAの形成を最小限に抑えることにより、靭性をより安定的に確保するために、0.05~0.2%の範囲を有することがより好ましい。
【0014】
Mn:1.0~2.0%
Mnは、固溶強化による強度増加の効果が大きいため、1.0%以上添加することが好ましい。しかし、2.0%を超えると、MnS介在物の形成又は中心偏析により靭性の低下を誘発する虞があるため、上記Mnの含有量は、1.0~2.0%の範囲を有することが好ましい。上記Mnは、強度の増加効果及び偏析による靭性の低下を考慮するとき、1.3~1.7%の範囲を有することがより好ましい。
【0015】
P:0.01%以下
Pは、粒界偏析を起こす元素であって、鋼を脆化させる原因になる虞があるため、その上限を0.01%に制限する必要がある。
【0016】
S:0.003%以下
Sは、主にMnと結合してMnS介在物を形成し、低温靭性を阻害する要因となる。したがって、低温靭性及び低温疲労特性を確保するために、Sの含有量を0.003%以下に制限する必要がある。
【0017】
Al:0.015~0.04%
本発明において、Alは、鋼の主な脱酸剤であるだけでなく、変形時効時にNを固定させるために必要な元素である。上記効果を十分に得るために、上記Alが0.015%以上添加されることが好ましい。しかし、0.04%を超えると、Al介在物の分率及びサイズの増加により低温靭性を低下させる原因になる可能性がある。また、Siと同様に、母材及び溶接熱影響部へのMAの生成を促進し、低温靭性及び低温疲労特性を低下させるため、上記Alの含有量は、0.015~0.04%の範囲を有することが好ましい。上記Alは、MAの形成を最小限に抑えることにより、靭性をより安定的に確保するために、0.015~0.025%の範囲を有することがより好ましい。
【0018】
Ti:0.005~0.02%
Tiは、変形時効を起こすNと結合してTi窒化物(TiN)を形成することにより、固溶Nを減少させる元素である。上記Ti窒化物は、微細組織の粗大化を抑制して、微細化に寄与するとともに靭性を向上させる役割を果たす。かかる効果を得るためには、上記Tiが0.005%以上添加されることが好ましい。しかし、上記Tiの含有量が0.02%を超えると、逆に析出物が粗大となり、破壊の原因になる可能性があり、Nと結合しない固溶Tiが残ってTi炭化物(TiC)を形成して、母材及び溶接部靭性を低下させる。したがって、上記Tiの含有量は、0.005~0.02%の範囲を有することが好ましい。上記Tiは、窒化物の粗大化を防止するために、0.005~0.017%の範囲を有することがより好ましい。
【0019】
Cu:0.35%以下(0は除く)
Cuは、衝撃特性を大幅に低下させない成分であって、固溶及び析出によって強度を向上させる。しかし、0.35%を超えると、熱衝撃による鋼板の表面クラックが発生する虞があるため、上記Cuの含有量は、0.35%以下の範囲を有することが好ましい。
【0020】
Ni:0.05~0.8%
Niは、含有量の増加に伴う強度向上の効果が大きくはないが、強度及び靭性をともに向上させることができる元素である。上記効果を十分に得るためには、Niが0.05%以上添加されることが好ましい。但し、上記Niは高価な元素であるため、0.8%を超えると、経済性が低下する。したがって、上記Niの含有量は、0.05~0.8%の範囲を有することが好ましい。上記Niは、強度及び靭性の向上の側面から、0.2~0.8%の範囲を有することがより好ましい。
【0021】
Nb:0.003~0.03%
Nbは、固溶又は炭窒化物を析出することにより、圧延又は冷却中の再結晶を抑制して、微細組織の結晶粒サイズを小さくするとともに、強度を増加させる元素である。上記効果を得るためには、上記Nbが0.003%以上添加されることが好ましい。但し、上記Nbが0.03%を超えると、Cの親和性によってCの集中が発生し、MA相の生成を促進して、低温における靭性及び破壊特性を低下させる。したがって、上記Nbの含有量は、0.003~0.03%の範囲を有することが好ましい。
【0022】
N:0.002~0.008%
Nは、Cとともに変形時効を起こす主な元素であって、できる限り低く維持することが好ましい。Nによる変形時効衝撃特性の低下を低減するためには、Al、Ti、Nbなどを適切に含ませる必要がある。但し、Nの含有量が高すぎると、変形時効の効果を抑制することが難しくなるため、上記Nの含有量は0.008%以下で含まれることが好ましい。これに対し、Nの含有量が0.002%未満の場合には、変形時効衝撃特性の劣化を抑制するために添加された元素が固溶された状態で固溶強化を起こしたり、又は他の析出物を形成させて、母材及び溶接部の靭性を低下させる。したがって、上記Nの含有量は、0.002~0.008%の範囲を有することが好ましい。
【0023】
Ca:0.0002~0.0050%
Caは、Alの脱酸後、製鋼中の溶鋼に添加すると、主にMnSとして存在するようになるSと結合して、MnSの生成を抑制するとともに、球状のCaSを形成して鋼材の中心部の亀裂クラックを抑制する効果を奏する。したがって、本発明では、添加されたSを十分にCaSとして形成させるために、Caを0.0002%以上添加する必要がある。しかし、その添加量が0.0050%を超えると、残りのCaがOと結合して粗大な酸化性介在物が生成され、後の圧延で延伸、破折されて低温における亀裂開始点として作用するようになる。したがって、上記Caの含有量は、0.0002~0.0050%の範囲を満たすことが好ましい。
【0024】
Cr:0.009%以下
Crは、強力なカーバイド形成元素であり、フェライトの分率が減少し、且つ硬質相の形成を促進する。その結果、衝撃靭性を劣化させる。したがって、本発明では、上記Crの含有量をできる限り下げるか、又は含まれないようにすることが好ましい。尚、本発明では、その上限を0.009%で管理することが好ましい。
【0025】
Mo:0.0009%以下
Moは、Crと同様に、強力なカーバイド形成元素であり、フェライトの分率が減少し、且つ硬質相の形成を促進する。その結果、衝撃靭性を劣化させる。したがって、本発明では、上記Moの含有量をできる限り下げるか、又はMoが含まれないようにすることが好ましい。尚、本発明では、その上限を0.0009%に管理することが好ましい。
【0026】
本発明の他の成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入する可能性があり、これを排除することはできない。かかる不純物は、通常の製造過程における技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を本明細書に具体的に記載しない。
【0027】
本発明が提供する厚鋼板の微細組織は、結晶粒の平均サイズが10μm以下であるフェライトを95面積%以上含むことが好ましい。上記のように、フェライトの結晶粒を微細化することにより、低温変形時効衝撃特性を向上させることができる。一方、上記フェライトの分率が95面積%未満の場合には、上記効果を確保することが難しくなりうる。より好ましくは、上記フェライトの分率が98面積%以上であることが有利である。本発明の微細組織の残部組織としては、セメンタイト及びMAのうち1種以上を含むことができる。尚、その分率は5面積%以下であることが好ましく、より好ましくは2面積%以下であることが有利である。
【0028】
また、上記フェライトは、結晶粒の最大サイズが20μm以下であることができる。上記フェライト結晶粒の最大サイズが20μm以下を超えると、本発明が目標とする低温変形時効衝撃特性を確保することが難しくなりうる。
【0029】
一方、上記フェライトは、ポリゴナルフェライト及び針状フェライトで構成されることができる。このように、衝撃靭性破壊の始発点になりうる硬組織(hard phase)を最小限に抑え、衝撃吸収が良いフェライト微細組織を構成することにより、低い温度における衝撃及び変形時効衝撃の確保が可能となる。
【0030】
上述のように提供される本発明の厚鋼板は、降伏強度が350MPa以上、引張強度が450MPa以上、-60℃における衝撃靭性が200J以上、及び-60℃における変形時効衝撃靭性が100J以上であることができ、優れた低温変形時効衝撃特性は言うまでもなく、高い降伏強度を確保することができる。ここで、上記変形時効衝撃靭性とは、5~10%の引張変形を加えた後、250℃で1時間時効処理してから測定した衝撃エネルギー値を意味する。
【0031】
また、本発明の厚鋼板は、40mm以上の厚さを有することができる。本発明では、厚鋼板の厚さの上限を特に限定しないが、例えば、100mm以下の厚さを有することができる。
本発明の厚鋼板は、曲げ加工、冷間変形作業が必要な造船及び海洋構造産業の分野に適用可能であり、且つ変形時効衝撃特性に優れて、構造物の安定性確保及び寿命延長を高めるために寄与することができる。
【0032】
以下、本発明の厚鋼板の製造方法について説明する。
先ず、上述した合金組成を有する鋼スラブを1020~1150℃で再加熱する。上記再加熱温度が1150℃を超えると、オーステナイトの結晶粒が粗大化し、靭性を低下させる虞がある。これに対し、1020℃未満の場合には、TiやNbなどが十分に固溶しない場合が発生し、強度の低下を招くことがある。
【0033】
次に、上記再加熱された鋼スラブを5パス以下(0パスを含む)で再結晶域圧延してバーを得る。本発明において、熱間圧延時における再結晶域圧延は、製品の幅サイズを合わせる役割だけを果たす。すなわち、本発明では、再結晶域圧延を最小限に抑え、未再結晶域圧延を最大化して結晶粒微細化を成すことができる。一方、上記再結晶域圧延時に5パスを超えると、未再結晶域における合計圧下量が減少するという問題が発生する可能性がある。したがって、本発明では、上記再結晶域圧延を省略するか、又は最小化する必要がある。
【0034】
上記バーをAr以上、約750℃以上で未再結晶域圧延して熱延鋼材を得る。上記未再結晶域圧延時における圧延温度がAr未満の場合には、フェライトの延伸による組織異方性が形成されて衝撃靭性が劣化するという問題が発生する虞がある。
【0035】
上記未再結晶域圧延時における圧下量は、上記再結晶域圧延時の圧下量と未再結晶域圧延時の圧下量の合計に対して90%以上(100%を含む)であることが好ましい。上記のように再結晶域圧延を5パス以下(0パスを含む)で行うことにより、未再結晶域圧延時における圧下量を90%以上にすることができる。これにより、結晶粒微細化を実現することで、優れた低温変形時効衝撃特性を確保することができる。
【0036】
上記未再結晶域圧延する段階後には、水冷などを介して上記熱延鋼材を2~15℃/sの冷却速度で300~500℃まで冷却する段階をさらに含むことができる。上記冷却速度が2℃/s未満の場合には、目標とする強度を確保することが難しくなる虞がある。これ対し、15℃/sを超えると、MA、ベイナイトなどの硬組織が多く形成されて靭性が低下する虞がある。
【0037】
一方、本発明では、より十分な時効衝撃保証温度を得るために、上記未再結晶域圧延後に、上記冷却を行わなくてもよい。但し、この場合、引張強度がやや低下する可能性がある。
【実施例
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。
【0039】
(実施例)
下記表1に記載した合金組成を有する溶鋼を設けた後、連続鋳造を用いて鋼スラブを製造した。上記鋼スラブを表2に記載した条件で再加熱した後、熱間圧延して冷却することにより、厚鋼板を製造した。このように製造した厚鋼板に対して微細組織及び機械的物性を測定した後、その結果を下記表3に示した。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
上記表1~3から分かるとおり、本発明が提案する合金組成及び製造条件を満たす発明例1~5の場合には、フェライトの結晶粒平均サイズが10μm以下であるとともに、フェライトの分率を95面積%以上確保することにより、降伏強度が350MPa以上、引張強度が450MPa以上、-60℃における衝撃靭性が200J以上、及び-60℃における変形時効衝撃靭性が100J以上であることを確認することができる。これに対し、本発明の合金組成及び製造条件を満たさない比較例1~3の場合には、本発明が得ようとするレベルの変形時効衝撃靭性を確保することができないことが分かる。
【0044】
発明例1及び2は、合金組成を満たすとともに、再結晶域圧延を行うことなく、未再結晶域圧延だけを行った場合であって、微細な微細組織及び優れた機械的物性を確保することが分かる。
発明例3及び4は、合金組成を満たすとともに、製品の幅を制御するための2パスの再結晶域圧延を行った後、未再結晶域圧延を行った場合であって、微細な微細組織及び優れた機械的物性を確保することが分かる。
発明例5は、合金組成を満たすとともに、未再結晶域圧延だけを行い、且つ水冷は行っていない場合であって、水冷を行った場合に比べて強度はやや低いが、優れた変形時効衝撃特性を確保することが分かる。
【0045】
これに対し、比較例1は、本発明の合金組成は満たしているものの、再結晶域圧延を8パスで行った場合であって、通常の熱加工制御プロセス(TMCP)を適用した場合である。比較例1の場合、フェライト結晶粒の粗大化により、低温変形時効衝撃靭性が低いレベルであることが分かる。
【0046】
比較例2及び3はそれぞれ、C及びNの含有量が本発明の条件を超えた場合であって、低温変形時効衝撃靭性が低いレベルであることが分かる。これは、侵入型元素であるC及びNが転位に固着されて靭性を低下させたことによるものと考えられる。特に、比較例2の場合には、Cの過添加によるパーライトの増加が原因となって、衝撃靭性が劣化したことが分かる。
【0047】
比較例4及び5はそれぞれ、Cr及びMoが本発明の条件を超えた場合であって、本発明の製造条件を満たしているにもかかわらず、低温変形時効衝撃靭性が低いレベルであることが分かる。これは、強力なカーバイド形成元素であるMo、Crの影響により、フェライトの分率が減少し、硬質相が増加したことによるものと考えられる。
【0048】
図1は発明例1の微細組織を観察した写真である。図1から分かるとおり、本発明の条件を満たす発明例1の場合には、微細組織の結晶粒が微細であることを確認することができる。
図2は比較例1の微細組織を観察した写真である。図2から分かるとおり、本発明の条件を外れた比較例1の場合には、微細組織の結晶粒が粗大していることを確認することができる。

図1
図2