(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-09
(45)【発行日】2022-02-18
(54)【発明の名称】車両用内装部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/52 20060101AFI20220210BHJP
B29C 43/20 20060101ALI20220210BHJP
B29C 43/18 20060101ALI20220210BHJP
B29K 101/10 20060101ALN20220210BHJP
B29L 31/58 20060101ALN20220210BHJP
【FI】
B29C43/52
B29C43/20
B29C43/18
B29K101:10
B29L31:58
(21)【出願番号】P 2020528573
(86)(22)【出願日】2018-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2018025217
(87)【国際公開番号】W WO2020008529
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2020-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000124454
【氏名又は名称】河西工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】野村 大樹
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-127110(JP,A)
【文献】特開2013-230618(JP,A)
【文献】特開昭55-137915(JP,A)
【文献】特開昭52-091062(JP,A)
【文献】特開平07-304091(JP,A)
【文献】特開2013-226693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00 - 43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に表皮を備える車両用内装部品の製造方法において、
熱硬化樹脂からなる基材と、当該基材の表面側に位置付けられてクッション性を有する
と共に表面が起毛した素材、ポリエステル素材、又はレーヨン素材により形成された表皮と、
厚みが0.001mm以上30mm以下、圧縮強度が4.0kPa以上7.0kPa以下、及び破断強度が9.0N以上13.0N以下であると共に前記表皮の表面側に位置付けられる保護材と
、が
予め積層された
積層体に対して、成形金型によりホットプレス成形を行う第1工程と、
前記成形金型から前記積層体を脱型させた後、前記表皮の表面から前記保護材を剥離する第2工程と、を有する
車両用内装部品の製造方法。
【請求項2】
表面に表皮を備える車両用内装部品の製造方法において、
熱硬化樹脂からなる基材と、当該基材の表面側に位置付けられてクッション性を有する
と共に表面が起毛した素材、ポリエステル素材、又はレーヨン素材により形成された表皮と
が予め積層された積層体に対して、
厚みが0.001mm以上30mm以下、圧縮強度が4.0kPa以上7.0kPa以下、及び破断強度が9.0N以上13.0N以下である保護材によって前記表皮との接触面が覆われた成形金型によりホットプレス成形を行う第1工程と、
前記成形金型から前記積層体を脱型させることで前記表皮の表面から前記保護材を剥離する第2工程と、を有する
車両用内装部品の製造方法。
【請求項3】
前記保護材は、前記表皮よりも高い伸縮性を有し、ウレタンフォーム、又はポリアミド系繊維で形成される、請求項1又は請求項2に記載の車両用内装部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内装部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ドアトリム、ヘッドライニング(ルーフトリム)等に代表される車両用内装部品として、合成樹脂製の基材の表面を表皮で覆った構成が知られている(例えば特許文献1参照)。表皮には、意匠性、クッション性等の観点から、スエード調と称される表面が起毛された素材が好まれている。
【0003】
基材に熱可塑性樹脂を用いた車両用内装部品の製造方法(第1の製造方法)として、例えば次の手法が知られている。まず、基材を加熱することで、基材を軟化させるとともにその表面を溶融させる。つぎに、基材の軟化及びその表面の溶融が保たれている状態において、基材の表面に表皮を積層し、その積層体を成形金型によりコールドプレスして基材を成形するとともにその表面に表皮を圧着する。
【0004】
また、基材に熱硬化性樹脂を用いた車両用内装部品の製造方法(第2の製造方法)として、例えば次の手法が知られている。まず、成形金型によりホットプレスして基材を成形する。つぎに、基材の表面に接着剤を塗布した上で表皮を積層し、その積層体を成形金型によりコールドプレスして基材の表面に表皮を圧着する。
【0005】
これらの方法によれば、表皮を圧着する際に、表皮の表面に熱が加わらない様な手法を採用している。そのため、スエード調のような熱によるダメージを受け易い意匠面を備える表皮を用いる場合であっても、外観品質の低下を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、第1の製造方法によれば、加熱時間及びプレス時間を要するため、1製品あたりの生産時間が増加する。また、基材を加熱する加熱炉等の設備が必要となる。さらに、熱可塑性樹脂を用いると、完成品の熱挙動が大きくなることから、剛性低下を補うために厚みを増やす必要があり、製品の重量増加が懸念される。
【0008】
また、第2の製造方法によれば、基材を成形した後に接着剤を塗布するため、接着剤分の重量増加及びコストアップに繋がってしまう。また、基材に塗布された接着剤が金型へ付着することを防ぐ必要がある。さらに、ホットプレス用の成形金型に加え、表皮を圧着するためのコールドプレス用の成形金型を準備する必要があり、コストアップが懸念される。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、表皮の意匠面に与えられるダメージを抑制し、外観品質に優れる車両用内装部品を製造することができる車両用内装部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するために、本発明は、表面に表皮を備える車両用内装部品の製造方法を提供する。この製造方法は、熱硬化樹脂からなる基材と、当該基材の表面側に位置付けられてクッション性を有すると共に表面が起毛した素材、ポリエステル素材、又はレーヨン素材により形成された表皮と、厚みが0.001mm以上30mm以下、圧縮強度が4.0kPa以上7.0kPa以下、及び破断強度が9.0N以上13.0N以下であると共に表皮の表面側に位置付けられる保護材と、が予め積層された積層体に対して、成形金型によりホットプレス成形を行う第1工程と、成形金型から積層体を脱型させた後、表皮の表面から保護材を剥離する第2工程と、を有している。
【0011】
本発明は、表面に表皮を備える車両用内装部品の製造方法を提供する。この製造方法の他の製造方法は、熱硬化樹脂からなる基材と、当該基材の表面側に位置付けられてクッション性を有すると共に表面が起毛した素材、ポリエステル素材、又はレーヨン素材により形成された表皮とが予め積層された積層体に対して、厚みが0.001mm以上30mm以下、圧縮強度が4.0kPa以上7.0kPa以下、及び破断強度が9.0N以上13.0N以下である保護材によって表皮との接触面が覆われた成形金型によりホットプレス成形を行う第1工程と、成形金型から積層体を脱型させることで表皮の表面から保護材を剥離する第2工程と、を有している。
【0012】
また、本発明において、保護材は、表皮よりも高い伸縮性を有し、ウレタンフォーム、又はポリアミド系繊維で形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る製造方法によれば、表皮の意匠面に与えられるダメージを抑制することができるので、外観品質に優れる車両用内装部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るヘッドライニングを模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は、ルーフ部の要部を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、ヘッドライニングの製造方法を示す説明図である。
【
図4】
図4は、ヘッドライニングの製造方法の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態に係る車両用内装部品をヘッドライニング10に適用して説明する。ここで、
図1は、本実施形態に係るヘッドライニング10を模式的に示す平面図であり、
図2は、車両のルーフ部1の要部を模式的に示す断面図である。
【0016】
車両のルーフ部1は、車体パネルとしてのルーフパネル2を備えており、このルーフパネル2の車両室内側には、ヘッドライニング10が装着されている。ヘッドライニング10は、ルーフパネル2に近接した状態で配置され、当該ルーフパネル2の車両室内側を覆っている。
【0017】
ヘッドライニング10の中央位置には、ルーフパネル2に形成された開口部を開放及び閉止するサンルーフユニット(図示せず)に対応したサンルーフ用開口部10aが設けられている。また、ヘッドライニング10の前方位置には、サンバイザー(図示せず)をルーフパネル2に組み付けるためのサンバイザー用開口部10b及びサンバイザーを格納するための造形を備えた格納部10cが、運転席と助手席とに対応してそれぞれ設けられている。また、ヘッドライニング10の前方位置の中央(左右の格納部10cの間)には、ルームランプ(図示せず)をルーフパネル2に組み付けるためのルームランプ用開口部10dが設けられている。さらに、ヘッドライニング10の左右縁部には、製造時においてヘッドライニング10を取り扱うための掴み部10eがそれぞれ設けられている。
【0018】
ヘッドライニング10は、基材20と、表皮30とを備え、これらが積層された積層構造とされている。基材20は、ヘッドライニング10の根幹をなす部材であり、ウレタン発泡体から構成されたシート状の部材である。表皮30は、基材表面20a(基材20の車両室内側の面)に貼着されて、車両室内側の意匠面を構成する。表皮30は、意匠性、クッション性等を考慮して、表面が起毛されたスエード調の素材、例えばウール素材から構成されている。
【0019】
なお、ヘッドライニング10は、基材20の裏面側に、補強シートと、裏面フィルムとをさらに積層する構成であってもよい。補強シートは、基材20を補強するシートであり、ガラスマット、グラスファイバー等の繊維材料から構成されている。裏面フィルムは、ポリプロピレン系樹脂等の剛性樹脂製の非通気性フィルムである。また、裏面フィルムのルーフパネル2側に、反射を利用して遠赤外線を遮蔽する遠赤外線反射層を設けてもよい。遠赤外線反射層は、金属膜や金属箔等で形成することができる。加えて、この遠赤外線反射層のルーフパネル2側に、金属表面の酸化を抑制する酸化防止被覆層を設けてもよい。酸化防止被覆層は、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等を塗布することで形成することができる。
【0020】
以下、本実施形態に係るヘッドライニング10の製造方法について説明する。ここで、
図3は、ヘッドライニング10の製造方法を示す説明図である。
【0021】
まず、基材20を用意する。基材20は、熱硬化性樹脂から形成されている。例えば、基材20は、ウレタン発泡体を所要の板厚でシート状にスライスして構成されている。つぎに、基材表面20a側に、表皮30と、保護シート40とをこの順に積層し、積層体を作成する(
図3(a))。保護シート40は、その表面寸法が表皮30の表面寸法と同一に又は一回り程度大きな寸法に設定されている。
【0022】
つぎに、積層体を、成形金型50によりホットプレスして、基材20を所要の形状に成形するとともに、基材表面20aに表皮30を圧着する(
図3(b))。
【0023】
最後に、成形金型50から積層体を脱型する。そして、表皮表面30aに積層された保護シート40を、当該表皮30から剥離する(
図3(c))。
【0024】
このような一連の工程により、ヘッドライニング10が製造される。
【0025】
つぎに、本実施形態の特徴の一つである保護シート40について説明する。保護シート40は、成形金型50によるホットプレス成形時に、金型表面50aと表皮表面30aとの間に介在する。この保護シート40は、高温となる金型表面50aが表皮表面30aに直接接触することを規制し、表皮表面30aに対する熱によるダメージを抑制するためのシート状の保護材である。このような機能を果たすため、保護シート40には、以下に示す性能が要求される。
【0026】
<要求性能>
(1)重量:10~1000g/m2
(2)厚み:0.001~30mm
(3)熱伝導率:0.01~0.3W/(m・K)
(4)通気性:0~600cm3/(cm2・sec)
【0027】
重量に関する要求は、製造時における保護シート40の可搬性を考慮したものである。また、厚み、熱伝導率及び通気性に関する要求は、金型表面50aの熱が表皮表面30aに作用することで生じる外観不良(光沢等)を抑制する一方で、表皮30の圧着に必要な熱を基材20側へと伝達することを考慮したものである。
【0028】
このような要求性能を満たす素材としては、例えばウレタンフォームを挙げることができる。ただし、上述の要求性能を満たす限り、PET繊維、ポリアミド系繊維、樹脂フィルム等を用いても問題ない。
【0029】
より好ましくは、保護シート40は、以下の性能を備えるウレタンフォームを用いることができる。
【0030】
<要求性能>
(1)重量:50~60g/m2
(2)厚み:2mm
(3)熱伝導率:0.043W/(m・K)
(4)通気性:400cm3/(cm2・sec)
【0031】
保護シート40は、これらの要求性能を満たすことで、金型表面50aの熱が表皮表面30aに直接作用することを抑制することができる。これにより、成形金型50の熱の影響によって表皮30の表面の起毛が倒れ、光沢等の外観異常が発生するといったことを抑制することができる。一方で、保護シート40は、表皮30の圧着に必要な熱を基材20側へと伝達することができる。基材20に対する熱の伝達は妨げられないため、表皮30を信頼性よく圧着することができる。
【0032】
また、保護シート40は、以下に示す性能を備えることが好ましい。
(5)圧縮強度:4.0~7.0kPa
(6)引張応力:1.0~5.0N
(7)破断強度:9.0~13.0N
(8)摩擦係数:1.0~3.0
【0033】
ここで、圧縮強度は、所定の試験片(方形(50×50mm))に対する10%乃至50%圧縮時の強度である。また、引張応力は、所定の試験片(矩形(50×200mm))に対する10%乃至40%伸び時の応力である。さらに、破断強度は、所定の試験片(矩形(50×200mm))に対する強度である。摩擦係数は、表皮30に対するものである。
【0034】
保護シート40が、これらの性能を満たすことで、表皮30に対して相性のよい保護シート40を実現することができる。ホットプレス成形において、基材20は、ヘッドライニング10に求められる造形に応じて成形される。この際、基材20とともにプレスされる表皮30及び保護シート40は、基材20の形状に沿って変形する必要があるところ、保護シート40には、表皮30よりも高い伸縮性が求められる。なぜならば、ホットプレス成形時に保護シート40が表皮30の変形に伴って伸縮することで、しわやよれ等の発生を抑制することができるからである。これにより、表皮30の意匠面を良好に保つことができるのである。加えて、表皮30に対して適度な摩擦をもって接することとなるので、ホットプレス成形時に、保護シート40が表皮30に引っ張られるように追従し、しわやよれ等の発生を抑制することができる。これにより、表皮30の意匠面を良好に保つことができるのである。
【0035】
このように本実施形態に係るヘッドライニング10の製造方法は、熱硬化樹脂からなる基材20と、基材表面20a側に位置付けられる表皮30と、表皮30に対して基材20と反対側に位置付けられるシート状の保護シート40とを積層した積層体を成形金型50で挟んでホットプレス成形を行う第1工程と、成形金型50から積層体を脱型させた後、保護シート40を剥離する第2工程と、を有している。
【0036】
この製造方法によれば、ホットプレス成形において保護シート40を追加するだけの簡単な手法で、ヘッドライニング10を製造することができる。これにより、表皮30を圧着するだけの専用の金型を用意する必要がないので、コストアップを抑制しつつ、簡素な設備で製造を行うことができる。また、表皮30を圧着するだけの専用の工程が不要となるので、製造時間の短縮を図ることができる。加えて、接着剤を塗布する必要もないので、接着剤の付着といった問題を懸念する必要もない。これにより、製造時のコストアップを抑制するとともに、ヘッドライニング10の軽量化を達成することができる。
【0037】
また、本実施形態において、保護シート40は、上述の性能要求を満たすことで、さらに以下に示す作用・効果を得ることができる。まず、本実施形態では、ホットプレス成形により表皮30を基材20に圧着している。ここで、成形金型50の表面は、100~140℃程度の高温となるが、保護シート40を介在させることで、成形金型50と表皮30とが直接接触することを抑制することができる。これにより、成形金型50の熱の影響によって表皮30の表面の起毛が倒れ、光沢等の外観異常が発生し、意匠性が損なわれるといったことを抑制することができる。
【0038】
一方で、保護シート40は、熱の伝達を完全に妨げるものではないので、表皮30と成形金型50との圧着を妨げることがない。
【0039】
なお、本実施形態では、ウール素材の表皮30について説明した。しかしながら、本実施形態に係る製造方法は、成形金型50の熱影響により外観異常が発生する種々の表皮30について適用することができる。このような表皮30としては、シルク素材、カシミヤ素材、ポリエステル素材、レーヨン素材、黒色の意匠を備える素材、プリントが施された素材、ニット素材等を挙げることができる。
【0040】
また、上述した実施形態では、保護シート40、基材20及び表皮30を積層した積層体に対してホットプレス成形を行った。しかしながら、保護シート40が表皮表面30aと金型表面50aとの間に介在するように、基材20、表皮30及び保護シート40が積層された状態でホットプレス成形を行えばよい。例えば、
図4に示すように、基材20と、表皮30とを予め積層した積層体に対して、表皮30との接触面が保護シート40によって覆われた成形金型50によりホットプレス成形を行う、といった如くである。この場合、保護シート40は、成形金型50から積層体を脱型させることで剥離されることとなる。
【0041】
以上、本発明の実施形態に係る車両用内装部品としてのヘッドライニングの製造方法について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その発明の範囲内において種々の変形が可能であることはいうまでもない。本発明は、ヘッドライニング以外にも、ドアパネルといったように車両室内を装飾する車両用内装部品に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 ルーフ部
2 ルーフパネル
3 表皮
10 ヘッドライニング
10a サンルーフ用開口部
10b サンバイザー用開口部
10c 格納部
10d ルームランプ用開口部
10e 掴み部
20 基材
20a 基材表面
30 表皮
30a 表皮表面
40 保護シート
50 成形金型
50a 金型表面