(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2感染症を診断するための方法および試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20220214BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220214BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220214BHJP
G01N 33/552 20060101ALI20220214BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20220214BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20220214BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220214BHJP
C07K 14/08 20060101ALI20220214BHJP
C12N 15/40 20060101ALN20220214BHJP
C12Q 1/70 20060101ALN20220214BHJP
【FI】
G01N33/569 L
G01N33/53 N ZNA
G01N33/543 545A
G01N33/543 541A
G01N33/543 521
G01N33/552
C07K16/10
C07K17/00
C12M1/34 F
C07K14/08
C12N15/40
C12Q1/70
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021025434
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2021-07-30
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20 2020 003 564.5
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】20 2020 104 982.8
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516125624
【氏名又は名称】ユーロイミューン・メディツィニシェ・ラボルディアグノシュティカ・アクチエンゲゼルシャフト
(73)【特許権者】
【識別番号】509305088
【氏名又は名称】シャリテ-ウニベルジテーツメディツィン ベルリン
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】クラウディア・メッシング
(72)【発明者】
【氏名】カーチャ・シュタインハーゲン
(72)【発明者】
【氏名】エリック・ラットヴァイン
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンツェ・シュティーバ
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン・リントホルスト
(72)【発明者】
【氏名】エヴァ・ノイゲバウアー
(72)【発明者】
【氏名】マルセル・ミューラー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクトル・コルマン
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/045254(WO,A2)
【文献】国際公開第2005/118813(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2005/0112559(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0188519(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象からの試料中の配列番号1に対する抗
体の存在または非存在を検出するステップを含むSARS-CoV-2感染症を診断する
ためのデータを取得する方法。
【請求項2】
前記抗体がIgAクラス抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象からの試料中の配列番号1に対する抗
体の存在または非存在を検出するステップを含むコロナウイルス感染症の鑑別診断のための方法。
【請求項4】
前記抗体がIgAクラス抗体またはIgGクラス抗体またはその両方である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体がIgAクラス抗体である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記鑑別診断が、SARS-CoV-2と、MERS、NL63、229E、OC43およびHKU1とを区別するものである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
配列番号1に対するIgAクラス抗体に加えて、配列番号1に対するIgGクラス抗体またはIgMクラス抗体またはその両方の存在が検出される、請求項1
~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記試料が
、全血、血清または血漿を含む群から選択される血液試料である、請求項1
~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
配列番号1に対する
前記抗体が
、標識二次抗体を使用して検出される、請求項1
~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記標識二次抗体がIgAクラス抗体に結合する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
配列番号1に対する前
記抗体が、比色分析、免疫蛍光法、酵素活性の検出、化学発光および放射活性を含む群から選択される方法を使用して検出される、請求項1
~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記感染症が初期段階で検出される、請求項1
~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
SARS-CoV-2感染症を診断するため、またはコロナウイルス感染症の鑑別診断のた
めの、配列番号1に対する抗
体の使用。
【請求項14】
前記鑑別診断が、SARS-CoV-2と、MERS、NL63、229E、OC43およびHKU1とを区別するものである、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記抗体がIgAクラス抗体である、請求項13または14に記載の使用。
【請求項16】
SARS-CoV-2感染症の初期診断のための請求項
13~15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
配列番号1に対する抗
体が、SARS-CoV-2感染症の感染初期の段階での検出の感度を向上させるための使用される、請求項
13~16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
前記抗体が、IgAクラス抗体とIgMクラス抗体とIgGクラス抗体のいずれか1以上である、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記抗体がIgAクラス抗体である、請求項17に記載の使用。
【請求項20】
配列番号1またはその変異体を含むポリペプチド
と、配列番号1に対する抗体と、洗浄バッファーと、配列番号1に対する抗
体の存在を検出する手段
を含む二次抗体と、希釈バッファー
とからなる群から選択される試薬の1つまたは複
数を含むキットであって、
前記変異
体が、配列番号1の少なくとも25、50、75、100、150、200、250、300、400、500または600個の連続したアミノ酸
を含む断片を含み、
かつ、SARS-CoV-2に感染している患者由来の試料からの配列番号1に対する抗体に結合する能力を有するものである、
キット。
【請求項21】
前記ポリペプチドが診断的に有用な担体にコーティングされている、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記検出する手段が検出可能な標識である、請求項20または21に記載のキット。
【請求項23】
配列番号1に対する前記抗体がIgAクラス抗体である、請求項20~22のいずれか1項に記載のキット。
【請求項24】
前記試薬をすべて含む、請求項20~23のいずれか1項に記載のキット。
【請求項25】
前記診断的に有用な担体が、ビーズ
、試験片、マイクロタイタープレート
、メンブレン、側方流動装置、ガラス表面、スライド、マイクロアレイ
およびバイオチップを含む群から選択さ
れる、請求項
20~24のいずれか1項に記載のキット。
【請求項26】
前記ビーズが常磁性ビーズである、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記メンブレンがウエスタンブロット、ラインブロットまたはドットブロットのメンブレンである、請求項25に記載のキット。
【請求項28】
2つ以
上の較正物質を含む、請求項
20~27のいずれか1項に記載のキット。
【請求項29】
3つ以上の較正物質を含む、請求項20~27のいずれか1項に記載のキット。
【請求項30】
前記較正物質
が配列番号1に結合する組換え抗体である、請求項
28または29に記載のキット。
【請求項31】
前記組換え抗体がIgAクラス抗体であり、IgAクラス抗体に結合する二次抗体によって認識される、請求項30に記載のキット。
【請求項32】
診断キットを製造するための、配列番号1もしくはその変異体を含むポリペプチドと、配列番号1に対するIgAクラス抗体
、IgGクラス抗体
またはIgMクラス抗
体の1以上の検出ための二次抗
体との使用であって、
前記変異
体が、配列番号1の少なくとも25、50、75、100、150、200、250、300、400、500または600個の連続したアミノ酸
を含む断片を含み、
かつ、SARS-CoV-2に感染している患者由来の試料からの配列番号1に対する抗体に結合する能力を有するものである、
使用。
【請求項33】
前記二次抗体が配列番号1に対するIgAクラス抗体を検出する、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
SARS-CoV-2感染症の初期診断のための較正物質としての
、配列番号1に結合する組換え抗体の使用。
【請求項35】
前記組換え抗体がIgAクラス抗体に結合する二次抗体によって認識される、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
前記
対象が哺乳
動物である、請求項1
~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記哺乳動物がヒトである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記ポリペプチドが、組換え
体かつ/または単離されたポリペプチドである、請求項
20~31に記載のキット。
【請求項39】
前記ポリペプチドが、組換え体かつ/または単離されたポリペプチドである、請求項32または33に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象からの試料中の配列番号1に対する抗体、好ましくはIgAクラス抗体の存在または非存在を検出するステップを含むSARS-CoV-2感染症を診断する方法と、コロナウイルス感染症を鑑別診断(differential diagnosis)するための方法に関し、SARS-CoV-2感染症を診断するため、またはコロナウイルス感染症の鑑別診断のため、SARS-CoV-2感染症と、MERS、NL63、229E、OC43、HKU1の感染症との間を好ましくは区別するための、配列番号1に対する抗体、好ましくはIgAクラス抗体の使用に関し、さらに、好ましくは診断的に有用な担体にコーティングされた、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドと、配列番号1に対する抗体と、洗浄バッファーと、抗体(好ましくはIgAクラス抗体)の存在を検出する手段と、好ましくはIgAクラス抗体類に特異的に結合する二次抗体と、好ましくは検出可能な標識と希釈バッファーとを含む群の1つまたは複数、好ましくは全ての試薬とを含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
2019年の終わりに、未知の病原体による増大する数の肺炎患者が、中国湖北省の省都である武漢市から、中国のほぼ全土まで出現した。新型コロナウイルスがその系統発生学、分類学および慣行に基づいて分離された。コロナウイルス研究グループ(CSG: Coronavirus Study Group)は、これを重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)の姉妹型と認識し、これを重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)として分類した。SARS-CoV-2は、一般的にSARS-CoV-1および中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)よりも病原性が低いが、感染性が比較的高い。症状が軽度であり得、感冒と混同され得るため、患者が感染していると気づかずに、ウイルス拡散をさらに助ける危険がある。
【0003】
SARS-CoV-2は、4つの主要な構造タンパク質、具体的にはスパイク(S)タンパク質と、エンベロープ(E)タンパク質と、膜(M)タンパク質と、ヌクレオカプシド(N)タンパク質とを有するコロナウイルスである。Nタンパク質はRNAゲノムを保持し、他の3つの構造のタンパク質はウイルスエンベロープの成分である。Sタンパク質は、ウイルスが宿主細胞の膜に付着および融合するのを可能にすることを担う。Sタンパク質は付着を媒介するS1ドメイン、およびウイルス細胞膜と宿主細胞の融合を媒介するS2ドメインを含む。S1ドメインは、ヒト宿主細胞上の受容体アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合部位である受容体結合ドメイン(RBD)を含む。したがって、RBDは、ウイルスとその宿主細胞との間の相互作用を遮断し、よって、免疫を与える中和抗体の結合部位である。高い死亡率および重病に関連するSARS-CoV-1およびSARS-CoV-2と対照的に、コロナウイルス229E、NL63、OC43およびHKU1などの、軽度の一時的な病気に関連する他のコロナウイルスが存在する。これらのコロナウイルスは、一般的な感冒、特に子供の間での感冒に頻繁に関連している。
【0004】
高い感染性および健康への影響のために、SARS-CoV-2感染症を診断する信頼できる方法が最も重要である。過去には、コロナウイルスによる感染症を検出および確認するために、血清学的方法とリアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法の組み合わせが使用された。
【0005】
RT-PCR法は、目的のコロナウイルスの1つまたは複数の核酸、より具体的にはウイルスリボ核酸(RNA)の検出に基づく。RT-PCR法は迅速で、咽頭または鼻咽頭スワブからの試料に基づき、SARS-CoV-2を検出するために病気の最初の1週間の間に使用することができる。しかしながら、その有用性はいつまで核酸が試料中で検出可能であるかに大いに依存し、これはウイルスによって異なる。特に、疾患の初期段階で得られた試料で実施された診断検査からの陰性結果は無意味であり得る。さらに、一般的に、患者の上気道からの試料が必要である。このような試料の不適切もしくは不十分な回収、長い輸送時間および関連するウイルスRNAの分解、または機器の異常も偽陰性結果につながり得る。そのため、感染の1週目の試料および3~4週間後に得られた追跡試料の、いくつかの試料を検査すべきである。
【0006】
Cormanらは、WHOによってそのウェブページ上に2020年1月に最初に公開された、SARS-CoV-2の検出についてのリアルタイムRT-PCRに基づくアッセイを公開している(非特許文献1)。
【0007】
血清学的検査も頻繁に使用される。これらの検査は、ある特定のウイルス特異的抗原に対する抗体の検出に基づく。しかしながら、血清学的アッセイも深刻な障害に悩まされている。1つの頻繁に観察される課題は、その限られた感度である。血清学的アッセイが陽性結果をもたらすためには、患者の血液中にウイルス抗原特異的抗体が存在することが必要である。一般的に、新たなウイルスによる感染後に、抗体が最初に産生され、検出可能になる時点は、ウイルス自体、ウイルス量、すなわち、所与の量の患者の血液中のウイルスの量、患者関連因子、例えば年齢、性別、健康状態、免疫状態等、目的の抗体の免疫グロブリンクラス、および診断検査を設定するために選択される抗原標的を含む、多数の因子に依存するので、予測することができない。特に、疾患の極めて初期段階、すなわち、患者の体が検出可能な量の特異的抗体応答を開始することができるようになる前では、感染が進行しているにもかかわらず、血清学的アッセイが陰性結果を与える可能性がある。検出される抗体がある特定の免疫グロブリン(Ig)クラスに属するかどうかを考慮した、さらなる血清学的検査が、疾患の経過を監視し、急性感染症を過去の感染症またはワクチン接種と区別するのに役立ち得る。したがって、SARS-CoV-1感染症を含むウイルス感染症の検出に現在利用可能なほとんどの血清学的アッセイは、IgG、またはIgGとIgMクラス抗体の検出に焦点を当てている。しかしながら、抗体応答の固有の遅延により、特に感染の極めて初期段階で、偽陰性結果を与えるリスクに加えて、SARS-CoV-1感染症を診断するための血清学的アッセイはまた、おそらく一般的な季節性コロナウイルス(CoV)に対する抗体の集団における高い血清有病率および免疫原性ウイルスタンパク質の保存された部分に対する交差反応性抗体の関連する存在のために、偽陽性結果になりやすい。このような抗原的に密接に関連する季節性コロナウイルスに対するこの交差反応性はまた、鑑別診断、例えば生命を脅かす変異株SARS-CoV-1と他のコロナウイルスの区別も許可しなかった。コロナウイルスを診断および区別するための、特にSARS-CoV-1を診断するための血清学的アッセイの課題および落とし穴は、非特許文献2に概説されている。初期コロナウイルスの血清学的診断に関連するこれらの複数の課題、例えば感染の初期段階での感度の低さと、交差反応性抗体の存在によって引き起こされる特異性の低さは、また、最近出現した重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を検出するための診断アッセイにも当てはまる。
【0008】
進行中のSARS-CoV-2のパンデミックによって引き起こされる現在の深刻な脅威および対応する感染症を診断するために利用可能なアッセイの上記の課題を考慮して、よりターゲットを絞ったウイルス特異的で、よってより有効な処置を可能にするために、SARS-CoV-2感染症を診断する、特にSARS-CoV-2感染症を初期診断するため、さらに、一般的な季節性コロナウイルスなどの他のコロナウイルスによる感染症と区別するための改善された、特により高感度で、より特異的で、よってより信頼できる手段および方法が当該技術分野で緊急に必要とされている。
【0009】
本発明は、これらの以前の障害を克服する診断の手段と方法を提供することによってこの必要性に対処する。
具体的には、本発明は、限定することを意図しないが、以下の課題に対処する。
本発明によって対処される1つの課題は、SARS-CoV-2の初期血清学的検出のためのアッセイおよび試薬を提供することである。たとえ陰性PCR結果が得られたとしても、患者は依然として活性疾患を患っており、感染性を有する場合があるので、これは特に重要である。疾病管理予防センター(CDC)が、患者は症状を発症してから少なくとも10日間、そして重症の場合は最大20日間隔離されたままであることを推奨していることに注意されたい。
本発明によって対処される別の課題は、既知のコロナウイルス感染症、特にSARS-CoV-2感染症を他のコロナウイルス感染症、好ましくは軽度の感冒様症状に関連するコロナウイルスまたは他の病原体またはこのような症状の原因と区別するために使用され得るアッセイを提供することである。好ましくは、感染症を初期段階で区別することができるべきである。
本発明によって対処される別の課題は、特に感度および/または特異性、好ましくは感度に関して、高い最適化された信頼性を有するアッセイを提供することである。
本発明によって対処される別の課題は、SARS-CoV-2のNタンパク質に対する抗体を欠くか、IgMクラス抗体を欠く患者についての高感度のアッセイを提供することである。
本発明によって対処される別の課題は、長期間継続する高い感度を有するアッセイを提供することである。
【0010】
コロナウイルス感染症を診断するための以前のアッセイは、例えば、以下の文献に記載されている。特許文献1は、試料中のウイルスタンパク質性抗原に対する抗体を検出する血清学的アッセイを含む、中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)感染症を診断するためのアッセイを開示している。しかしながら、このようなアッセイの実際的な証拠は示されていない。特許文献2は、SARS-CoV-1に関連する方法および薬剤を開示している。ヌクレオカプシド(N)タンパク質が主要な診断抗原と考えられる。特許文献3は、SARS-CoV-1関連Sタンパク質の変異体および試料中のその存在、またはこれに結合する抗体の存在の検出を開示している。特許文献4は、SARS-CoV-1感染症を診断するためのペプチドを開示している。Hsuehらは、IgGを、SARS-CoV-1感染症の発症4日後という早さで、IgMおよびIgAと同時またはこれよりも1日早く検出することができることを報告した(非特許文献3)。Reuskenらは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質断片に対する抗体の特異的であるが、必ずしも高感度ではない検出を開示している(非特許文献4)。非特許文献5は、具体的な抗原を示すことはなく、免疫学的方法がSARS-CoV-2感染症を検出するために使用され得るが、低い感度および特異性を伴うことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2014/045254号
【文献】米国特許出願公開第2005/0112559号
【文献】国際公開第2005/118813号
【文献】米国特許出願公開第2006/0188519号
【非特許文献】
【0012】
【文献】Corman VM,Landt O,Kaiser M,et al.Detection of 2019 novel coronavirus(2019-nCoV)by real-time RT-PCR.Euro Surveill.2020;25(3):2000045.doi:10.2807/1560-7917.ES.2020.25.3.2000045
【文献】Meyer, Drosten & Muller,Virus Research 194(2014);175-186 (Mullerのuはウムラウト付)
【文献】Hsue,P.R.,Huang,L.M.,Chen,P.J.,Kao,C.L.,and Yang P.C.(2004)Chronological evolution of IgM,IgA,IgG and neutralization antibodies after infection with SARS-associated coronavirus,Clinical Microbiology and Infection,10(12),1062-1066
【文献】Reusken et al.,Specific serology for emerging human coronaviruses by protein microarray. Euro Surveill.2013;18(14)
【文献】Yu et al.(2020)Measures for diagnosing and treating infections by a novel coronavirus responsible for a pneumonia outbreak originating in Wuhn,China, Microbes and Infection 22(2020),74-79
【発明の概要】
【0013】
上記課題は、本明細書および特許請求の範囲に記載されている本発明によって解決される。
【0014】
第1の態様では、本発明は、患者からの試料中の配列番号1に対する抗体、好ましくはIgM、IgGおよび/またはIgAクラス抗体、より好ましくはIgAクラス抗体の存在または非存在を検出するステップを含むSARS-CoV-2感染症を診断する方法を提供する。配列番号への言及が本明細書全体を通してなされ、配列番号がアミノ酸配列を示す場合はいつでも、その関連で、「ポリペプチド」という用語に具体的に言及されていない場合であっても、前記対応するアミノ酸列を含むポリペプチドを示すことを意図している。「含む」という用語は、本発明に関連して2つの意味、すなわち、「含有する」と「からなる」という意味を有する。
【0015】
第2の態様では、本発明は、コロナウイルス感染症の鑑別診断のための、SARS-CoV、好ましくはSARS-CoV-2感染症と、MERS、NL63、229E、OC43、HKU感染症の間を好ましくは区別するための方法であって、対象からの試料中の配列番号1に対する抗体、好ましくはIgAおよび/またはIgGクラス抗体、より好ましくはIgAクラス抗体の存在または非存在を検出するステップを含む方法を提供する。
好ましい実施形態では、配列番号1に対するIgAクラス抗体に加えて、配列番号1に対するIgGおよび/またはIgM抗体の存在が検出される。
【0016】
本発明によると、「対象」または本明細書で互換的に呼ばれる「患者」は、哺乳動物、好ましくはヒトを指すが、代わりに、ヒト以外の霊長類もしくは他の哺乳動物などの異なる哺乳動物、または配列番号1もしくはその変異体に対する抗体を産生することができる哺乳動物以外の動物さえも指し得る。
本発明によると、対象からの「試料」という用語は、抗体を含み得る前記対象の任意の体液または組織の試料であり得る。例示的な体液としては、例えば、血液、唾液、鼻粘液またはリンパ液が挙げられる。好ましい実施形態では、試料が、好ましくは全血、血清、血漿、毛細管血、動脈血、静脈血またはこれらの任意の混合物を含む群から選択される血液試料である。毛細管血は、好ましくは乾燥した血液スポットの形態をとり、患者によって用意され、実験室に送られ、引き続いて血液を抽出され得る。当業者であれば、本明細書に開示される方法、生成物および使用の目的に適した、必要な量の対象からの試料を得るために適用され得るさまざまな手段および方法を知っている。ある特定の実施形態では、医師によって試料が対象から得られ、他の場合では、例えば、指先からの血液採取(「フィンガースティック血液」)などの最小限の侵襲的手段を使用することによって、対象自身が試料を用意することができる。
【0017】
本明細書に開示される発明の目的のために、試料が、単一対象、すなわち、単一の個人に由来してもよいが、代わりに2人以上の対象からの試料を含んでもよく、2人以上の対象からの前記試料が単一試料にプールされることも理解される。例えば、ある特定の場合、最初に対象のグループ(例えば、共通の世帯、学校のクラス、スポーツチームまたは同じ会社の部門のメンバー)からの試料を含むプール試料を分析し、配列番号1またはその変異体に対する抗体の存在が検出された場合にのみ、個々の対象からの試料を別々にアッセイする第2の分析を行うことが、資源および実験時間の点でより効率的となり得る。
【0018】
本発明によるさまざまな方法または使用を本明細書に記載される対象からの試料で行うことができる。これらの方法または使用はまた、「インビトロ」法または「インビトロ」使用として特徴付けることもできる。
【0019】
本発明によると、「二次抗体」という用語は、広義に、選択された種、好ましくはヒト種の特定のIgクラスの定常ドメインなどの、IgA、IgGおよび/またはIgMクラス抗体あるいはこれらの断片に特異的に結合することができる任意の種類の「結合部分」(binding moiety)、好ましくは結合タンパク質を指すと理解されるべきである。結合部分の非限定的な例としては、抗体、例えば任意の種、例えばヒト、ニワトリ、ラクダ、ラマ、ヤツメウナギ、サメ、ヤギ、齧歯類、ウシ、イヌ、ウサギ等から免疫学的または遺伝的に誘導された抗体、抗体断片、そのドメインまたは部分、例えばFab、Fab’、F(ab’)2、scFab、Fv、scFv、VH、VHH、VL、VLRなど、ダイアボディ、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体(pAb)、mAbdAb、ファージディスプレイ由来バインダー、アフィボディ、ヘテロコンジュゲート抗体、二重特異性抗体、エビボディ(evibody)、リポカリン、アンチカリン、アフィボディ、アビマー、マキシボディ(maxibody)、熱ショックタンパク質、例えばGroELおよびGroES、トランスボディ(trans-body)、DARPin、アプタマー、C型レクチンドメイン、例えばテトラネクチン(tetranectin);ヒトγクリスタリンおよびヒトユビキチン由来バインダー、例えばアフィリン、PDZドメイン由来バインダー;サソリ毒および/またはクニッツ型ドメインバインダー、フィブロネクチン由来バインダー、例えばアドネクチン、受容体、リガンド、レクチン、ストレプトアビジン、ビオチン(これらの結合分子の2つ以上から形成される二重/三重特異性フォーマットなどのこれらの誘導体および/または組み合わせを含む)が挙げられる。その作製方法を含む、さまざまな抗体由来および代わりの(すなわち、非抗体)結合タンパク質足場が当技術分野で知られている(例えば、Chiu ML et al.,Antibodies(Basel),(2019);8(4):55; Simeon R.&Chen Z.,Protein Cell.(2018);9(1):3-14; およびChapter 7 Non-Antibody Scaffolds from Handbook of Therapeutic Antibodies(2007)edited by Stefan Dubelに概説)(Dubelのuはウムラウト付)。
【0020】
これら全ての種類の分子が当技術分野で周知である。いくつかの例を本明細書の以下でより詳細に説明する。
【0021】
「エビボディ類」(Evibodies)は、T細胞表面受容体細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)の可変(V)セットIg様足場に由来する操作された結合タンパク質である。抗体のCDRに対応するループを異種配列で置換して、異なる結合特異性を与えることができる。エビボディを作製する方法は当技術分野で知られており、例えば、米国特許第7166697号に記載されている。
【0022】
「リポカリン類」(Lipocalins)は、ステロイド、ビリン、レチノイドおよび脂質などの疎水性小分子を輸送する細胞外タンパク質のファミリーである。これらは、異なる標的抗原に結合するように操作され得る円錐構造の開いた末端にいくつかのループを有する硬いβシート二次構造を有する。本発明により「アフィリン」とも呼ばれる「アンチカリン」は、160~180個の間のアミノ酸のサイズであり、リポカリンに由来する(Rothe C&Skerra A.,BioDrugs.(2018);32(3):233-243;Gebauer M&Skerra A,Curr Opin Biotechnol.(2019);60:230-241)。
【0023】
「アフィボディ類」(Affibodies)は、ブドウ球菌プロテインAのZドメインに由来する抗体ミメティックのファミリーである。アフィボディは、構造的に三重らせん束ドメインに基づく。アフィボディは、およそ6kDaの分子質量を有し、高温および酸性またはアルカリ性条件下で安定である。標的特異性は、親タンパク質ドメインの結合活性に関与する2つのαヘリックスに位置するアミノ酸のランダム化によって得られる(Feldwisch,J & Tolmachev,V.(2012) Methods Mol.Biol.899:103-126)。アフィボディを作製する方法は当技術分野で知られており、Wikman M et al.,Protein Eng Des Sel.(2004);17(5):455-62に記載されている。
【0024】
「アビマー類」(Avimers)は、複数の結合部位を介してある特定の抗原に特異的に結合する人工的なマルチドメインタンパク質のクラスである。このタンパク質はまた、「マキシボディ」または低密度リポタンパク質受容体(LDLR)ドメインAとしても知られている。これは、Aドメインに基づく、2つ以上の(ポリ)ペプチド配列からなる。Aドメインは、細胞外システインリッチ細胞表面受容体タンパク質に由来し、ジスルフィド結合形成およびカルシウムイオンの錯化によって安定化された30~25アミノ酸足場(約4kDa)である。足場構造は12個の保存されたアミノ酸によって維持され、残りの全ての非保存残基はランダム化およびリガンド結合に修正可能なままである。アビマーは高度な熱安定性を有する。サイズが小さいため、アビマーは通常、それぞれが標的上の異なる部位に結合する複数のAドメインからなり、それによって、結合活性を通して増加した親和性を達成する(Silverman J et al.(2005),Nat Biotechnol 23:1556-1561)。
【0025】
「DARPin類」は、設計されたアンキリンリピートドメインであり、それぞれβターンおよび2つの逆平行αヘリックスを形成する密接充填アンキリンリピートに基づく。DARPinは通常、人工コンセンサス配列に対応する3つのリピートを有し、単一リピートは、典型的には33個のアミノ酸からなり、そのうちの6個が結合表面を形成する。組換えライブラリー設計中、これらの部位を使用してランダムアミノ酸のコドンを導入する。DARPinは、典型的には疎水性領域を遮蔽する、N末端モチーフとC末端モチーフとの間に含まれる結合モチーフのうちの2つまたは3つによって形成される。DARPinは、極めて熱安定性で、プロテアーゼおよび変性剤に耐性の小タンパク質(約14~18kDa)である(Pluckthun A.,Annu Rev Pharmacol Toxicol.(2015);55:489-511)。(Pluckthunの最初のuはウムラウト付)
【0026】
「クニッツ型ドメインバインダー類」(Kunitz-type domain binders)は、アプロチニン(ウシ膵臓トリプシンインヒビター)、アルツハイマーアミロイド前駆体タンパク質および組織因子経路インヒビターなどのクニッツ型プロテアーゼ阻害剤の活性モチーフに由来する約60アミノ酸ポリペプチド(約7kDa)である。クニッツ型ドメインの疎水性コアは、ジスルフィド結合の3つのペアによって安定化されたねじれた二本鎖逆平行βシートおよび2つのαヘリックスで構成される。3つのループの残基を、構造フレームワークを不安定化することなく置換することができる(Hosse RJ et al.(2006).Protein Sci 15:14-27; Simeon R.& Chen Z.Protein Cell.(2018);9(1):3-14)。
【0027】
「アドネクチン類」(Adnectins)は、ヒトフィブロネクチンIII型(FN3)の15反復単位の10番目のドメインの天然アミノ酸配列の骨格からなる足場を有する結合タンパク質のクラスである。この分子は、いくつかの鎖が免疫グロブリンと同様に6つのループによって接続されているが、ジスルフィド結合を有さないβサンドイッチ折り畳みを採用する。βサンドイッチの一端の3つのループを操作して、アドネクチンが目的の標的を特異的に認識することができるようにすることができる。非ループ残基も利用可能な結合フットプリントを拡大することが分かっている。ナノモル濃度~ピコモル濃度範囲の結合親和性を有するリガンド結合アドネクチン変異体は、mRNAディスプレイ、ファージディスプレイおよび酵母ディスプレイを介して選択されている(Hackel BJ,et al.(2008)J Mol Biol 381:1238-1252)。
【0028】
限定されないが、IgAおよび/またはIgGクラス抗体などの所望の標的構造に対する、本明細書の上記のものを含む、さまざまな足場の適切な結合分子の開発、スクリーニングおよび同定のための手段および方法が当技術分野で周知であり、日常的に使用されている。例示的な現在日常的に実施されている方法としては、限定することを意図するものではないが、ハイスループット(HT)コンビナトリアルライブラリーベースのディスプレイおよび選択方法、例えばファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、mRNAディスプレイおよび細胞表面ディスプレイ(例えば、酵母ディスプレイ)が挙げられる。
【0029】
好ましい実施形態では、二次抗体が、ヒト以外の種で産生される免疫グロブリン(Ig)、好ましくはIgGであり、前記二次抗体が、別の選択された種、好ましくはヒト種の1つまたは複数の特異的Igクラスの免疫グロブリンまたはその断片(例えば、特定のIgクラスの定常ドメイン)に特異的に結合する。例としては、ヒトIgAを特異的に認識する、ヤギで産生されるポリクローナル抗体(例えば、ポリクローナルヤギ抗ヒトIgA抗体)がある。別の好ましい実施形態では、二次抗体が、別の選択された種、好ましくはヒト種の1つまたは複数の特異的Igクラスの免疫グロブリンまたはその断片(例えば、特定のIgクラスの定常ドメイン)に特異的に結合するモノクローナル抗体である。1つまたは複数の選択された標的抗原の特異的結合を可能にする(モノ-またはポリクローナル)抗体を作製するための手段および方法は当技術分野で周知である。
【0030】
ある特定の実施形態では、二次抗体が、ただ1つの、ただ2つの、または3つ全てのクラスのIg抗体、すなわち、IgA、IgGおよび/またはIgMに特異的に結合するように選択され得る。ある特定の実施形態では、ただ1つの単一種類の二次抗体を使用する代わりに、いくつかの異なる二次抗体の混合物が使用され得、異なる二次抗体が同じ1つのもしくは異なるIgクラス(例えば、全てIgAに結合する異なる抗体の混合物(例えば、ポリクローナル抗体))または例えば、IgAとIgGまたはIgMに結合する、あるいは異なる二次抗体が異なる個々の標的構造に結合する(例えば、ある種類の二次抗体がIgAに特異的に結合し、別のものがIgGに特異的に結合する)。
【0031】
好ましい実施形態では、配列番号1に対する抗体が、標識二次抗体、好ましくはIgA、IgGおよび/またはIgMクラス抗体に結合する標識二次抗体を使用して検出される。
【0032】
本明細書で使用される場合、二次抗体に関する「標識化」(labeled)という用語は、二次抗体が、限定することを意図するものではないが、フルオロフォア、例えば小型有機化学フルオロフォアもしくは蛍光タンパク質、または酵素活性標識、すなわち、その存在を基質物質との反応性および/またはその変換に基づいて評価および場合により定量化することができる酵素、例えばアルカリホスファターゼなどの、検出可能なシグナルを提供する放射性薬剤または他の分子などの検出可能な物質をカップリング、好ましくは物理的に連結することによって標識される実施形態を包含することを意図している。さまざまな適切な検出可能な標識が当技術分野で知られており、そのうちのいくつかを本明細書でも以下に説明する。
【0033】
好ましい実施形態では、抗体、好ましくはIgA、IgGまたはIgMクラス抗体が、比色分析、免疫蛍光法、酵素活性の検出、化学発光および放射活性を含む群から選択される方法を使用して検出される。
【0034】
好ましい実施形態では、感染症が初期段階で検出される。好ましい実施形態では、SARS-CoV-2感染症の経過の文脈において本明細書で言及される「初期段階」(early stage)という用語が、感染の時点が分かっている場合、例えば実験室実験での対象の感染では、感染の時点、すなわちウイルスと対象の体との間の初期接触の時点の後14日未満、好ましくは6日未満以内の任意の時点を指す。別の好ましい実施形態では、SARS-CoV-2感染症の経過の文脈において本明細書で言及される「初期段階」という用語が、発症後(ウイルス学の分野では、「発症後日数(dpoi:days post onset of illness)」とも呼ばれる)、すなわち本明細書で定義されるような、1つまたは複数の典型的なSARS-CoV-2感染症関連臨床症状の最初の発生後、14日未満、好ましくは6日未満以内の任意の時点を指す。当業者であれば、感染すると、コロナウイルスの成分を、例えば試料中の核酸を検出するためのPCRおよびウイルス抗原を検出するためのイムノアッセイを使用して、直接検出することができることを知っている。おそらくは患者のウイルスとの最初の接触のほんの数日後、最大ウイルス量を有する感染症のピークののち、ウイルスの濃度は低下し、直接検出をどんどん困難にし、最後にウイルスが試料中に存在しないくなると、不可能となる。一方、ウイルス成分が患者の血液中に存在するとすぐに、ウイルス成分に対する抗体の産生が誘因される。別の好ましい実施形態では、「初期段階」という用語が、患者のウイルスとの最初の接触または発症、好ましくは発症と、ウイルスに対する検出可能なIgG抗体の産生、より好ましくはIgG抗体が主な免疫グロブリンクラスとなる、すなわち、IgAおよびIgMよりも高濃度で存在する前や、最も好ましくはIgG濃度がピークに達する前との間の時間窓を指す。よって、IgAおよびIgM抗体の検出が、完全なIgG免疫応答が発生する前であるが、検出可能な症状を有しても有さなくても、急性の感染症の診断に寄与し得る。
【0035】
第3の態様では、本発明は、SARS-CoV-2感染症を診断するため、またはコロナウイルスの鑑別診断のため、SARS-CoV、好ましくはSARS-CoV-2の感染症と、MERS、NL63、229E、OC43、HKU1の感染症を好ましくは区別するための、配列番号1に対する抗体、好ましくはIgAクラス抗体の使用を提供する。
【0036】
好ましい実施形態では、使用が、SARS-CoV-2感染症の初期診断または初期段階診断のためのものである。
【0037】
第4の態様では、本発明は、好ましくは診断的に有用な担体にコーティングされた、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドと、配列番号1に対する抗体、洗浄バッファー、好ましくは検出可能な標識を含む、配列番号1に対する抗体、好ましくはIgA、IgGおよび/またはIgMクラス抗体、より好ましくはIgAクラス抗体の存在または非存在を検出する手段、好ましくはIgA、IgGおよび/またはIgM、より好ましくはIgAクラス抗体に特異的に結合する二次抗体、および希釈バッファーを含む群の1つまたは複数、好ましくは全ての試薬とを含むキットを提供する。
【0038】
好ましい実施形態では、診断的に有用な担体が、ビーズ、好ましくは磁気または常磁性ビーズ、試験片、マイクロタイタープレート、好ましくはニトロセルロースメンブレン、ウエスタンブロット、ラインブロットおよびドットブロットを含む群のメンブレン、側方流動装置、ガラス表面、スライド、マイクロアレイ、クロマトグラフィーカラムならびにバイオチップを含む群から選択され、好ましくはマイクロタイタープレートである。
【0039】
好ましい実施形態では、キットが2つ以上、好ましくは3つ以上の較正物質を含む。
【0040】
好ましい実施形態では、各較正物質が、好ましくはIgAクラス抗体に結合する二次抗体によって認識される、配列番号1に結合する組換え抗体である。ある特定の好ましい実施形態では、較正物質が配列番号1またはその変異体に結合する組換え抗体であり、前記組換え抗体が、好ましくは二次抗体が結合するIgクラスと同じIgクラスの免疫グロブリン(Ig)である。
【0041】
第5の態様では、本発明は、診断キットを製造するための、配列番号1もしくはその変異体を含むポリペプチドおよび/または配列番号1に対する抗体、好ましくはIgAクラス抗体の使用を提供する。この態様によると、本発明は特に、診断キットを製造するための、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドの使用に関する。さらに、本発明はまた、診断キットを製造するための、配列番号1に対する抗体、好ましくはIgA、IgMおよび/またはIgM、より好ましくはIgAクラス抗体の使用を提供する。
【0042】
診断キットは、好ましくはSARS-CoV-2感染症を診断するため、またはコロナウイルス感染症の鑑別診断のため、SARS-CoV、好ましくはSARS-CoV-2の感染症と、MERS、NL63、229E、OC43、HKU1の感染症を好ましくは区別するためのものである。したがって、本発明は、SARS-CoV-2感染症を診断するための診断キットを製造するための、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドの使用に関する。SARS-CoV-2感染症の前記診断は、例えば、対象からの試料中の、配列番号1に対する抗体、好ましくは配列番号1に対するIgA、IgMおよび/またはIgG、より好ましくはIgAクラス抗体の存在または非存在を検出するステップを含む。SARS-CoV-2感染症の前記診断はまた、対象から試料を得るステップと、対象からの試料中の配列番号1に対する抗体、好ましくは配列番号1に対するIgA、IgMおよび/またはIgG、より好ましくはIgAクラス抗体の存在または非存在を検出するステップとを含み得る。本発明はさらに、コロナウイルス感染症の鑑別診断のための、SARS-CoV、好ましくはSARS-CoV-2と、MERS、NL63、229E、OC43、HKU1の感染症を好ましくは区別するための診断キットを製造するための、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドの使用に関する。前記鑑別診断は、例えば、対象からの試料中の配列番号1に対する抗体、好ましくは配列番号1に対するIgA、IgMおよび/またはIgG、より好ましくはIgAおよび/またはIgGクラス抗体、最も好ましくは配列番号1に対するIgAクラス抗体の存在または非存在を検出するステップを含み得る。前記鑑別診断はまた、対象から試料を得るステップと、対象からの試料中の配列番号1に対する抗体、好ましくは配列番号1に対するIgA、IgMおよび/またはIgG、より好ましくはIgAおよび/またはIgGクラス抗体、最も好ましくは配列番号1に対するIgAクラス抗体の存在または非存在を検出するステップとを含み得る。
【0043】
この態様によると、本発明はまた、診断に使用するため、例えばヒトまたは動物の体で実行される診断方法に使用するための、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドを提供する。特に、本発明は、SARS-CoV-2感染症の診断に使用するための、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドを提供する。SARS-CoV-2感染症の前記診断は、例えば、対象からの試料中の配列番号1に対する抗体、好ましくは配列番号1に対するIgA、IgMおよび/またはIgG、より好ましくはIgAおよび/またはIgGクラス抗体、最も好ましくは配列番号1に対するIgAクラス抗体の存在または非存在を検出するステップを含み得る。SARS-CoV-2感染症の前記診断はまた、対象から試料を得るステップと、対象からの試料中の配列番号1に対する抗体、好ましくは配列番号1に対するIgA、IgMおよび/またはIgG、より好ましくはIgAおよび/またはIgGクラス抗体、最も好ましくは配列番号1に対するIgAクラス抗体の存在または非存在を検出するステップとを含み得る。本発明はさらに、コロナウイルス感染症の鑑別診断に使用するための、SARS-CoV(好ましくは、SARS-CoV-2)と、MERS、NL63、229E、OC43、HKU1の感染症を好ましくは区別するための、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドを提供する。前記鑑別診断は、例えば、対象からの試料中の配列番号1に対する抗体、好ましくは配列番号1に対するIgA、IgMおよび/またはIgG、より好ましくはIgAおよび/またはIgGクラス抗体、最も好ましくは配列番号1に対するIgAクラス抗体の存在または非存在を検出するステップを含み得る。前記鑑別診断はまた、対象から試料を得るステップと、対象からの試料中の配列番号1に対する抗体、好ましくは配列番号1に対するIgA、IgMおよび/またはIgG、より好ましくはIgAおよび/またはIgGクラス抗体、最も好ましくは配列番号1に対するIgAクラス抗体の存在または非存在を検出するステップとを含み得る。
【0044】
本発明はさらに、診断に使用するため、例えばヒトまたは動物の体で実行される診断方法に使用するための、配列番号1に対する抗体、好ましくは配列番号1に対するIgA、IgMおよび/またはIgG、より好ましくはIgAおよび/またはIgGクラス抗体、最も好ましくはIgAクラス抗体を提供する。特に、本発明は、SARS-CoV-2感染症の診断に使用するための、配列番号1に対する抗体、好ましくは配列番号1に対するIgA、IgMおよび/またはIgG、より好ましくはIgAおよび/またはIgGクラス抗体、最も好ましくはIgAクラス抗体に関する。本発明はさらに、コロナウイルス感染症の鑑別診断に使用するための、好ましくはSARS-CoV、好ましくはSARS-CoV-2と、MERS、NL63、229E、OC43とHKU1との間で感染症を区別するための、配列番号1に対する抗体、好ましくは配列番号1に対するIgA、IgMおよび/またはIgG、より好ましくはIgAおよび/またはIgGクラス抗体、最も好ましくはIgAクラス抗体に関する。
【0045】
第6の態様では、本発明は、SARS-CoV-2感染症の初期診断のための較正物質としての、好ましくはIgAクラス抗体に結合する二次抗体によって認識される、配列番号1に結合する組換え抗体の使用を提供する。
【0046】
この態様によると、本発明はまた、較正物質としての、好ましくは対象からの試料中の配列番号1に対する抗体、好ましくは配列番号1に対するIgAクラス抗体を検出するための較正物質としての、組換え抗体、例えば配列番号1に結合する組換えIgAクラス抗体の使用を提供する。このような較正物質を、特に、SARS-CoV-2感染症を診断する方法、またはコロナウイルス感染症の鑑別診断のための、好ましくはSARS-CoV、好ましくはSARS-CoV-2と、MERS、NL63、229E、OC43、HKU1との間で感染症を区別するための方法に使用することができる。よって、本発明はまた、好ましくはSARS-CoV-2感染症を診断するための、特に初期診断するための較正物質としての組換え抗体、例えば配列番号1に結合する組換えIgAクラス抗体の使用を提供する。
【0047】
好ましい実施形態では、ヒト対象がワクチン接種されたヒト対象である。
【0048】
好ましい実施形態では、本方法が、診断についての結果を評価するステップをさらに含む。好ましい実施形態では、本方法が、診断の結果または評価を異なる場所に移すステップをさらに含む。
【0049】
さまざまな抗原および抗体、中でもウイルス全体またはその構造タンパク質もしくは断片のいずれかならびにこれらの抗原に結合する抗体がコロナウイルスの免疫学的検出の基礎として使用されている。
【0050】
本発明は、配列番号1に対する抗体を感染症の初期段階で検出することができるという本発明者らの驚くべき発見に基づく。これらの抗体は、感染症の初期段階で感染症の存在を検出する目的で検出され得る。
【0051】
換言すれば、本明細書で開示される結果は、感染症の初期段階で既にSARS-CoV-2感染症を診断するために、好ましくは検査される試料の総数に対して正しく陽性と決定される試料の数によって計測される感度が優れている。観察される感度増加への重要な寄与は、検出可能なIgM抗体を欠く患者の亜集団を含む多くの患者で、IgG抗体などの他のIgクラスの抗体よりも早く配列番号1に対するIgAクラス抗体が検出可能になるという驚くべき発見から生じる。
【0052】
さらに、本発明は、配列番号1に対する抗体、好ましくはIgGおよび/またはIgAが、SARS-CoV-2のNタンパク質に対する抗体よりも長く持続し、長期間検出可能であるという驚くべき発見に基づく。
【0053】
また、好ましくはSARS-CoV-1およびSARS-CoV-2以外の、他のコロナウイルスに感染した患者からの試料中の抗体の範囲との交差反応性が驚くほど低く、このことが、正しく陰性と判定される試料数の多さ、すなわち、配列番号1に対する抗体の検出の偽陽性と判定される試料数の、検査される試料の総数に対する少なさによって好ましくは計測される優れた特異性に寄与している。特に、本発明者らは、抗原としての配列番号1の特異性が配列番号33(S2ドメイン)と比較して優れていることを発見した(Okba et al.,Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2-Specific Antibody Responses in Coronavirus Disease Patients.Emerg Infect Dis.2020 Jul;26(7):1478-1488,prepublished on medRxiv 2020.03.18.20038059)。
【0054】
好ましい実施形態では、本明細書で使用される「診断」という用語が、広義の可能な意味で理解されるべきであり、患者が、過去、診断時または将来に、ある特定の疾患または障害を患っていた、患っている、または患いそう、または平均もしくは比較対象(後者は好ましくは類似の症状を有する)よりも患いそうかどうかの評価の助けになる情報を得ること、どれくらい疾患が進行しているかまたは将来進行しそうかを知ること、あるいは一般的に処置、好ましくはワクチンに関する患者の応答性を評価すること、あるいは試料がこのような患者に由来するかどうかを知ることを目的とした任意の種類の手順を指し得る。このような情報は、臨床診断に使用され得るが、例えば、患者コホートまたは集団中で疾患を患っている対象の割合を決定するために、一般研究の目的で実験および/または研究実験室によって得られてもよい。換言すれば、「診断」という用語は、診断することだけでなく、薬物または候補薬物の投与に対する1人または複数人の患者の応答を監視して、例えばその有効性を決定することを含む、疾患または障害の経過を予知および/または監視することも含む。また、配列番号1に対するIgAおよび/またはIgG抗体の初期出現および/または長期持続が利用され得る。結果は臨床診断用途のために特定の患者に割り当てられ、前記患者を処置している医師または施設に、例えば電話、ファックス、手紙もしくは電子フォーマット、例えばeメールによって、またはデータベースを使用して伝えられ得るが、これは、他の用途、例えば研究目的での診断の場合には必ずしも当てはまらず、このような場合には匿名扱いの患者または患者コホートからの試料に結果を割り当てるだけで十分となり得る。好ましい実施形態では、診断される人、すなわち、「対象」または「患者」が、治療上有用な抗体を得るためにその血液が寄付または使用され得る匿名の献血者である。好ましくは、この疾患が、SARS-CoV-1およびSARS-CoV-2感染症、より好ましくはSARS-CoV-2感染症を含むSARS感染症である。
【0055】
好ましい実施形態では、本発明による方法、生成物および使用が、候補ワクチンまたは任意の身体化合物、例えば遮断抗体(blocking antibodies)を含む、薬物候補または他の化合物が存在し、SARS-CoV-2に対する抗体の結合と干渉し得るかどうか、または任意の下流プロセスに影響を及ぼし得るかどうかを決定することを含む、相互作用研究に使用され得る。好ましい実施形態では、これらが、配列番号1またはその免疫原性変異体を含むポリペプチドを含む免疫原性組成物を、例えばヒト以外の哺乳動物であり得る哺乳動物、例えば実験室動物に投与した後の、免疫応答、より好ましくは配列番号1を含む、好ましくは配列番号1からなるポリペプチドに対する抗体の出現および/または力価を監視するために使用され得る。好ましくは対象の免疫化の後期の、より好ましくは検出の感度を増加させるまたは検出の感度を最適化する目的でのIgAおよび/またはIgG抗体の検出が特に好ましい。好ましい実施形態では、免疫化が、SARS-CoV-2感染症の結果、または配列番号1もしくはその変異体を含むワクチンの投与の結果である。増加または最適化は、SARS-CoV-2またはその成分、例えば配列番号30(Nタンパク質)に対する他の抗体、好ましくは配列番号30に対するIgGクラス抗体との比較であり得る。好ましい実施形態では、本明細書で使用される「後期」という用語が、疾患発症またはワクチンの最初の投与後20日目、30日目、40日目、50日目、60日目、61日目、70日目、80日目または90日目、好ましくは60日目に始まる期間を指す。好ましくは、これが28日間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月、15か月、18ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、48か月、60ヶ月またはそれ以上、好ましくは3ヶ月以上続く。好ましい実施形態では、方法または使用が免疫化の長期監視のためであり得る。免疫化は、SARS-CoV-2感染症、または好ましくは配列番号1もしくはその変異体によるワクチン接種の結果であり得る。後期の間に得られた少なくとも1つの試料、好ましくは2つ以上が分析される。試料は、後期の間、1週間に1回または数ヶ月に1回得られ、分析され得る。
【0056】
配列番号1に対するIgAおよび/またはIgGおよび/またはIgM抗体が対象からの試料中で検出される場合、その対象はSARS-CoV-2感染症を患っていそうであるか患っている可能性が高い。当業者であれば、抗体の存在または非存在を反映する結果の解釈に関するウイルス学における一般原則に精通している(例えば、Doerr,H.W.,and Gerlich,W.,Medizinische Virologie:Grundlagen,Diagnostik,Pravention und Therapie,Thieme 2010,for example Fig.9.7 therein)。手短に言えば、ウイルス特異的抗原に対する特異的抗体の第1の検出が感染症の初期診断に使用され得る。IgA抗体は、通常、エンテロウイルスによる感染症の場合などの特定の場合を除いて、診断上関連性はないが(Gressner/Arndt,Lexikon der Medizinischen Labordiagnostik,2.Auflage,Springer,2013,page 1387)、しかし、これらが現れる場合、その力価は、典型的にはIgMおよびIgGクラス抗体よりも低く、より後に現れ得る。好ましくはIgMおよびIgAクラス抗体の非存在下での、低濃度のIgGクラス抗体は、過去の免疫化を示す。増加するIgGクラス抗体価またはそれが高濃度であることは、急性の感染または再感染を示し得る。好ましい実施形態では、配列番号1に対する抗体の存在が、以前のもしくは進行中のSARS-CoV-2感染またはワクチン接種の結果としての免疫化を示す。好ましい実施形態では、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドを含むワクチン(または配列番号1もしくはその変異体を含むポリペプチドをコードする核酸、例えばRNAワクチン)による成功したワクチン接種が、配列番号1以外のSARS-CoV-2抗原に対する抗体の非存在を確認することや、好ましくは配列番号30(SARS-CoV-2のNタンパク質)に対する抗体の非存在を確認することによって、SARS-CoV-2感染と区別され得る。
【0057】
試料は、好ましくは哺乳動物試料、すなわち、哺乳動物からの試料、より好ましくはヒト試料、すなわち、ヒトからの試料である。
【0058】
「診断」という用語は、好ましくは本発明による診断方法または薬剤が決定的であり、単一検査(パラメータは言うまでもなく)に基づいて診断を完成させるのに十分であることを意味するのではなく、「鑑別診断」と呼ばれるもの、すなわち、一定範囲の診断パラメータに基づいて一定範囲の可能な状態の可能性を考慮する組織的診断手順への寄与を指し得る。本発明によると、患者、好ましくはコロナウイルス感染症を有することが既に疑われる患者が、SARS、好ましくはSARS-CoV-1および/またはSARS-CoV-2感染症、または別のコロナウイルス感染症、好ましくはMERSとNL63と229EとOC43とHKU1とを含む群の別のコロナウイルス感染症を患っているかどうかを区別することができる。NL63と229EとOC43とHKU1は相当数の一般的な感冒症例に関連しているので、鑑別診断は、SARS-CoV-1および/またはSARS-CoV-2と感冒を区別することを伴い得る。例えば、患者は、考えられるリスク環境への曝露により、ならびに/あるいは発熱や、咳、息切れなどの一般的な症状に基づいて、コロナウイルス感染症を患っていると最初に疑われ得る。次いで、PCR(例えば、Corman VM,Landt O,Kaiser M,et al.Detection of 2019 novel coronavirus(2019-nCoV)by real-time RT-PCR.Euro Surveill.2020;25(3):2000045.doi:10.2807/1560-7917.ES.2020.25.3.2000045)および/またはイムノアッセイが行われ得る。例えば、試料が感染数日後たって採取されたために、PCRが陰性である場合、本発明の方法を使用して、配列番号1に対する抗体の存在または非存在を検出することができる。さらに、別のコロナウイルスからの抗原に対する抗体、好ましくはSARS-CoV-1と、MERS、NL63、229E、OC43、HKU1を含む群からの別のコロナウイルス、より好ましくはMERS、NL63、229E、OC43、HKU1を含む群からの別のコロナウイルスからの抗原に対する抗体の存在または非存在を検出することができる。SARS-CoV-2からの配列番号1のホモログおよび変異体に対する抗体を検出することができる。SARS-CoV-1により特徴的な頭痛および体の痛み、またはSARS-CoV-2により特徴的な味覚および嗅覚の消失ならびに咽頭痛などの特定の臨床症状に基づいて、診断を完成させることができる。その患者が感染した患者に曝露されていたかどうかが考慮され得る。例えば、SARS-CoV-1症例は極めてまれであるので、SARS-CoV-2のパンデミック中に一般的なSARS-CoV-1およびSARS-CoV-2症状を患っている多くの患者は、SARS-CoV-2による感染症を患っていると推定することができる。SARS-CoV-1とSARS-CoV-2の区別は、異なる時間分解性(time-resolved)免疫グロブリン(Ig)クラスシグニチャー、特にSARS-CoV-1におけるIgAクラス抗体の後の出現に基づいて可能である(Hsue,P.R.,Huang,L.M.,Chen,P.J.,Kao,C.L.,and Yang P.C.(2004)Chronological evolution of IgM,IgA,IgG and neutralization antibodies after infection with SARS-associated coronavirus,Clinical Microbiology and Infection,10(12),1062-1066)。抗体レベルを、例えば数週間にわたって監視して、例えば目的の抗体の消失または出現を検出することができ、これが一次感染および二次感染もしくは例えばワクチン接種の結果としての免疫化を区別する、または2種以上のコロナウイルスによる感染症を認識するのに役立ち得る。
【0059】
好ましい実施形態では、本明細書で使用される「SARS-CoV-2」という用語が、寄託コードMN908947でGenBankに寄託されているゲノムまたは配列番号13によって特徴付けられる、好ましくは配列番号13に示されるウイルス、およびゲノムヌクレオチド配列全体にわたって少なくとも80%、好ましくは85%、好ましくは88%、好ましくは90%、好ましくは91%、好ましくは92%、好ましくは93%、好ましくは94%、好ましくは95%、好ましくは96%、好ましくは97%、好ましくは98%、好ましくは99%、好ましくは99.5%、好ましくは99.8%、好ましくは99.9%または99.99%の配列同一性を有するその類縁体を指す。本明細書で使用される全てのデータベースエントリまたは製品コードは、本出願の最先の優先日または出願日にオンラインのバージョンに対応する。例えば、寄託コードMN908947で寄託されたSARS-CoV-2ゲノム配列については、バージョンMN908947.3(2020年1月17日公開)が本出願の最先の優先日または出願日にオンラインであった。MN908947.3で開示されるヌクレオチド配列は、配列番号13と同一である。より好ましくは、突然変異株、例えば英国変異株B.1.1.7、南アフリカ変異株B.1.351、ブラジル変異株P.1およびデンマークのミンク変異株を含む群のものが含まれる。
【0060】
好ましい実施形態では、診断されるSARS-CoV-2感染症が、配列番号1を参照して、His54および/またはVal55の欠失、Gln486Tyr、Ala555Asp、Asp599GlyおよびPro666Hisを含む群の1つまたは複数の突然変異、好ましくは全ての突然変異を有するスパイクタンパク質を特徴とする英国変異株B.1.1.7に関連するまたは関連し得る。好ましくは、His54および/またはVal55の欠失、Gln486Tyr、Ala555Asp、Asp599GlyおよびPro666Hisを含む群の1つまたは複数の突然変異、好ましくは全てを有する配列番号1の変異体が、本発明による試薬、方法および使用に使用される。これら全ての突然変異を含む配列番号1の変異体は配列番号51によって表される。
【0061】
好ましい実施形態では、診断されるSARS-CoV-2感染症が、配列番号1を参照して、Lys402Gln、Glu469Lys、Gln486TyrおよびAsp599Glyを含む群の1つまたは複数の突然変異、好ましくは全ての突然変異を有するスパイクタンパク質を特徴とする南アフリカ変異株B.1.351に関連するまたは関連し得る。好ましくは、Lys402Gln、Glu469Lys、Gln486TyrおよびAsp599Glyを含む群の1つまたは複数の突然変異、好ましくは全てを有する配列番号1の変異体が、本発明による試薬、方法および使用に使用される。これら全ての突然変異を含む配列番号1の変異体は配列番号52によって表される。
【0062】
好ましい実施形態では、診断されるSARS-CoV-2感染症が、配列番号1を参照して、Glu469LysおよびGln486Tyrを含む群の1つまたは複数の突然変異、好ましくは全ての突然変異を有するスパイクタンパク質を特徴とするブラジル変異株P.1に関連するまたは関連し得る。好ましくは、Glu469LysおよびGln486Tyrを含む群の1つまたは複数の突然変異、好ましくは全てを有する配列番号1の変異体が、本発明による試薬、方法および使用に使用される。これら全ての突然変異を含む配列番号1の変異体は配列番号53によって表される。
【0063】
好ましい実施形態では、診断されるSARS-CoV-2感染症が、配列番号1を参照して、His54および/またはVal55の欠失、Asp599GlyおよびTyr438Pheを含む群の1つまたは複数の突然変異、好ましくは全ての突然変異を有するスパイクタンパク質を特徴とするデンマークのミンク変異株に関連するまたは関連し得る。好ましくは、His54および/またはVal55の欠失、Asp599GlyおよびTyr438Pheを含む群の1つまたは複数の突然変異、好ましくは全てを有する配列番号1の変異体が、本発明による試薬、方法および使用に使用される。これら全ての突然変異を含む配列番号1の変異体は配列番号54によって表される。
【0064】
好ましい実施形態では、「診断」という用語が、方法または生成物または使用が疾患の診断を助けるまたは疾患を患っているリスクがある対象を同定するために使用され得ることを意味する。「診断」という用語はまた、患者にとって最も有望な処置体制を選択するために使用される方法または薬剤を指し得る。換言すれば、方法または薬剤が、対象のための処置レジメンを選択することに関し得る。
【0065】
好ましい実施形態では、本発明による方法が、診断的に有用な担体および感染していることが疑われる患者、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト患者からの試料を用意するステップを含む。担体を配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドでコーティングする。次いで、担体を、任意の抗体と配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドの結合を可能にする条件下で、試料と接触することができる。次いで、試料を除去し、担体を洗浄して、残っている試料を除去することができる。次いで、検出される抗体に結合し、検出可能な標識を有する二次抗体または類似の試薬もしくは手段を、任意の結合抗体と二次抗体との間の複合体の形成を可能にする条件下で、担体と接触させることができる。次いで、担体を洗浄して、非結合二次抗体を除去することができる。最後に、二次抗体が検出され得るかどうかを確認することによって、抗体の存在を検出する。
【0066】
好ましい実施形態では、本明細書で使用される「SARS-CoV-2感染症」という用語または類似の用語が、対象、好ましくはヒト対象のSARS-CoV-2による感染症、すなわち、前記対象の体内の、より好ましくは検出可能なレベルのウイルス自体ならびに/あるいは構造タンパク質、特にSおよびN、より好ましくはS1ドメインを含む群のSARS-CoV-2ポリペプチド、およびこれらに結合する抗体、および/またはSARS-CoV-2の核酸(PCRによって検出可能)を含む群の1つまたは複数のバイオマーカーと合わせた、少なくとも一時的なウイルスの存在を指す。対象は、臨床症状、好ましくは発熱、疲労、乾性咳、鼻詰まり、鼻水および咽頭痛を含む群の1つまたは複数、より好ましくは全てを有し得る。より重度の症状としては、呼吸困難、胸痛または胸部圧迫感、および突然の意識障害が挙げられる。この疾患は、肺炎、急性呼吸促迫症候群、敗血症、敗血症性ショックおよび腎不全などの合併症をもたらし得る。しかしながら、多くの感染した対象は、軽度の症状しか有さず、感染に気づかない場合さえある。
【0067】
好ましい実施形態では、本方法を、好ましくは異なる日に、2回以上使用して、同じ患者からの試料を検査する。例えば、抗体の存在または非存在を、1週間または2週間にわたって、毎日検出することができる。好ましい実施形態では、少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個の試料を異なる日に検査する。好ましい実施形態では、試料を少なくとも2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間または16週間の期間にわたって採取する。
【0068】
本発明による方法、試薬および使用を使用して抗ウイルス薬またはワクチンまたはワクチン候補の効力および有用性をスクリーニングすることもできる。この点について、本発明の方法がワクチン接種されたヒトで検証されている、すなわち、配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチドに対する抗体を、配列番号1を含むポリペプチドを含む組成物でワクチン接種されたヒトで検出することができたことに留意すべきである。これらを、ヒトおよび実験室動物を含む他の対象でのワクチンの量を確認すること、または対象の免疫系がワクチンの投与に応答することを確認することを目的としたワクチン接種試験および研究の一部として使用することができる。好ましくは、ワクチンが配列番号1またはその断片に基づく。本方法、試薬および使用を使用して、ワクチンの最初の投与前に患者を最初に診断して、前記患者が例えば、SARS-CoV-2による以前の感染または以前のワクチン接種の結果として既に免疫化されているかどうかを確認することができる。例えば、患者を研究もしくは試験への算入または研究もしくは試験からの除外について選択し、経時的に監視することができる。特に、既に感染している対象をワクチン候補の試験から除外することができる。好ましくは、配列番号1に対するIgAおよび/またはIgGクラス抗体の検出に基づいて、以前のワクチン接種が依然として有効であるかどうかを確認することができる。
【0069】
本発明による方法および試薬を、提供された血液をコロナウイルスが汚染しているかどうか、または、例えば治療的使用のために提供血液から抽出され得るSARS-CoV-2、好ましくは配列番号1に対する抗体を、献血者が産生しているかどうかをスクリーニングするために使用することもできる。配列番号1に対するIgG、IgMおよび/またはIgAクラス抗体、好ましくはIgGおよびIgA、より好ましくはIgAの存在または非存在の検出後、SARS-CoV-2、好ましくは配列番号1に対する抗体を、例えばアフィニティークロマトグラフィーによって、または本発明による担体を、提供された血液と、配列番号1に対する抗体と担体を含む複合体の形成に適合性の条件下で接触させ、残っている提供血液を除去し、担体から抗体を分離することによって、献血者の血液から精製することができる。好ましい実施形態では、提供された血液が、全血、血漿および血清を含む群から選択され、抗凝固試薬を含有し得る。クエン酸塩、リン酸塩、デキストロースおよびアデニンを含む群から選択される化合物、好ましくはこれらの全てが存在してもよい。
【0070】
検出される抗体は、好ましくは配列番号1に特異的に結合する。特異的結合は、好ましくは結合反応が、pH7のPBSバッファー中25℃でBiacore機器を使用して表面プラズモン共鳴によって決定される1×10-5M、より好ましくは1×10-7M、より好ましくは1×10-8M、より好ましくは1×10-9M、より好ましくは1×10-10M、より好ましくは1×10-11M、より好ましくは1×10-12Mの解離定数を特徴とする結合反応よりも強力であることを意味する。
【0071】
本発明の教示は、本出願で明示的に言及される正確な配列、例えば配列番号1、例えば機能、性質、配列または寄託番号または6を有するポリペプチドを使用してのみ行うことができるわけではない。
【0072】
本発明によると、本明細書で使用される「変異体」という用語はまた、言及される完全長配列の少なくとも1つの断片、または前記断片を含むポリペプチド、より具体的には完全長配列と比較して、1個または複数のアミノ酸が、一方または両方の末端で切断されている、1つまたは複数のアミノ酸または核酸配列を指す。このような断片は、元の配列またはその変異体の少なくとも10個、15個、25個、50個、75個、100個、150個、200個、250個、300個、400個、500個または600個の連続アミノ酸を有する(ポリ)ペプチドを含むまたはコードする。例えば、配列番号1の断片は配列番号12および配列番号13を含む。断片の2つ以上のコピーを感度増加のために融合してもよい。
【0073】
本明細書で使用される「変異体」という用語はまた、アミノ酸配列を含むこのようなポリペプチドまたはその断片、好ましくは言及される参照アミノ酸配列またはその断片と少なくとも40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一である少なくとも25個、より好ましくは50個、より好ましくは200個の連続アミノ酸を含む断片を包含し、生物活性、例えば目的の抗体に特異的に結合する、またはポリペプチドの折り畳みもしくは構造を維持する能力に必須のアミノ酸以外のアミノ酸が欠失していても置換されていてもよい、および/または1個もしくは複数のこのような必須アミノ酸が保存的に置き換えられていてもよい、および/またはポリペプチドの生物活性が少なくとも部分的に保存されるようにアミノ酸が付加もしくは欠失されている。例えば、配列番号1の断片は配列番号5、配列番号12、配列番号14~29、配列番号35~37および配列番号40~43を含む。先行技術は、2つの所与の核酸またはアミノ酸配列を整列し、同一性の程度を計算するために使用され得るさまざまな方法を含む。例えば、Arthur Lesk(2008),Introduction to bioinformatics,Oxford University Press,2008,3rd editionを参照されたい。好ましい実施形態では、デフォルト設定を適用して、ClustalWソフトウェア(Larkin,M.A.,Blackshields,G.,Brown,N.P.,Chenna,R.,McGettigan,P.A.,McWilliam,H.,Valentin,F.,Wallace,I.M.,Wilm,A.,Lopez,R.,Thompson,J.D.,Gibson,T.J.,Higgins,D.G.(2007):Clustal W and Clustal X version 2.0.Bioinformatics,23,2947-2948)が使用される。
【0074】
特定のアミノ酸配列についてのSARS-CoV-2関連の刊行物、例えばBealら(Beal,J.,Mitechell,T.,Wyschogrod,W.,Manthey,J,and Clore,A.(2020)Highly Distinguished Amino Acid Sequences of 2019-nCoV(Wuhan Coronavirus)doi:https://doi.org/10.1101/2020.01.31.929497)ならびにSARS-CoVに関する刊行物、例えばHuaら(Hua,R.,Zhou,Y.,Wang,Y.,Hua,Y and Tong,T.(2004)Identification of two antigenic epitopes on SARS-CoV spike protein,BBR 319,929-935)(相同性エピトープが見出され、SARS-CoV-2エピトープがその相同性のために同定される)が、当業者が変異体を設計するのを助け得る。例えば、可能なエピトープは配列番号5に由来し得る。Dahlkeらは、S1ポリペプチドに由来する重複15merペプチドを含むマイクロアレイに基づくエピトープマッピングを提示している(Dahlke,C.,Heidepriem,J.,Kobbe,R.,Santer R.,Koch,T.,Fathi,A.,Ly,M.L,Schmiedel,S.,Seeberger,P.H.,ID-UKE COVID-19 study group,Addo,M.M.,and Loeffler,F.F.(2020)https://doi.org/10.1101/2020.04.14.20059733doi)。より具体的には、S1タンパク質のアミノ酸配列SSVLHSTQDLFLPFF(配列番号14、これは配列番号1の30~44である)、TWFHAIHVSGTNGTKRFDNPV(配列番号15、これは48~68である)、NVVIKVCEFQFCNDPFLGVYYHKNNKSWMESEFRVYSSANNCTFEYVSQPFLMDLEG(配列番号16、これは110~166である)、DLPQGFSALEPLVDL(配列番号17、これは200~214である)、LLALHRSYLTPGDSSSGWTAGAAAY(配列番号18、これは226~250である)、QPRTFLLKYNENGTITDAVDCALDP(配列番号19、これは256~277である)、NATRFASVYAWNRKR(配列番号20、これは328~342である)、TGKIADYNYKLPDDF(配列番号21、これは399~414である)、YNYLYRLFRKSNLKP(配列番号22、これは434~448である)、FGRDIADTTDAVRDPQTLEILDI(配列番号23、これは550~572である)、SNQVAVLYQDVNCTE(配列番号24、これは590~604である)、AGCLIGAEHVNNSYECDIP(配列番号25、これは632~650である)を含むペプチドがIgA反応性エピトープとして同定された。S1タンパク質のアミノ酸配列YNSASFSTFKCYGVS (配列番号26、これは354~368である)、STGSNVFQTRAGCLI(配列番号27、これは622~636である)を含むペプチドがIgG反応性エピトープとして同定された。S1タンパク質のアミノ酸配列SSVLHSTQDLFLPFF(配列番号28、これは30~44である)およびLLALHRSYLTPGDSSSGWTAGAAAY(配列番号29、これは226~250である)を含むペプチドがIgM反応性エピトープとして同定された。さらに、本発明者らは、配列RTQLPPAYTNS(配列番号41)、LTPGDSSSGWTAG(配列番号35)、YQAGSTPCNGV(配列番号36)およびYGFQPTNGVGYQ(配列番号37)を有するペプチドが、SARS-CoV-2患者の抗体と反応性であることを示した。他の多くの刊行物が変異体を設計する際のガイダンスとして当業者によって使用され得る(Zhang et al.(2020)Mining of epitopes on spike protein of SARS-CoV-2 from COVID-19 patients, Cell Res 30,702-704(2020).https://doi.org/10.1038/s41422-020-0366-x;Poh,C.M.,Carissimo,G.,Wang,B.et al.Two linear epitopes on the SARS-CoV-2 spike protein that elicit neutralising antibodies in COVID-19 patients.Nat Commun 11,2806(2020).https://doi.org/10.1038/s41467-020-16638-2; Wang et al.(2020)SARS-CoV-2 Proteome Microarray for Mapping COVID-19 Antibody Interactions at Amino Acid Resolution,ACS Cent.Sci.2020,6,12,2238-2249)。好ましい実施形態では、配列番号1またはその変異体を含み、折り畳まれており、より好ましくは配列番号1の少なくとも150個、200個、250個、300個、400個、500個または600個の連続アミノ酸を含むポリペプチドが使用される。
【0075】
好ましい実施形態では、変異体が、さらに、化学修飾、例えば同位体標識もしくは検出可能な標識などの標識、またはグリコシル化、リン酸化、アセチル化、脱炭酸、シトルリン化、ヒドロキシル化などの共有結合修飾を含み得る。当業者であれば、ポリペプチドを修飾する方法に精通している。さらに、変異体を、他の既知のポリペプチドまたはその変異体、例えば人工リンカー、アフィニティータグ、他の抗原などとの融合によって作製することもできる。例えば、配列番号3、配列番号32、配列番号34および配列番号38は本発明による融合タンパク質である。
【0076】
本発明によると、診断的に有用な担体などの医学または診断装置を、場合によりプロテアーゼ切断部位を含み得る人工リンカーと共にアフィニティータグを含む配列番号1の組換え変異体を、真核細胞(CHOもしくはHEK293細胞など)または原核細胞(大腸菌(E coli)細胞など)などの細胞中で発現させ、発現された変異体を、固相に固定化された、アフィニティータグに特異的に結合するリガンドと接触させ、細胞から非特異的に結合した物質が除去されるように固相を洗浄し、好ましくは過剰の非固定化リガンドを添加することによって、発現された変異体を固相から溶出することによって調製することができる。次いで、変異体を装置上に固定化することができる。場合により、好ましくは固定化前に、変異体をプロテアーゼ、好ましくはプロテアーゼ切断部位を認識するプロテアーゼと接触することによって、アフィニティータグを除去することができる。アフィニティータグは、His、18A、ACP、アルデヒド、Avi、BCCP、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)、キチン結合ドメイン(CBD)、E-Tag、ELK16、FLAG、フラッシュ、ポリグルタメート、ポリアスパルテート、GST、緑色蛍光タンパク質、HA、マルトース結合タンパク質、myc、nus、NE、ProtA、ProtC、Tho1d4、S-Tag、SnoopTag、SpyTag、SofTag、ストレプトアビジン、Strep-タグII、T7エピトープタグ、TAP、TC、チオレドキシン、Ty、V5、VSVおよびXpress Tagを含むタグの群から選択され得る。有用なプロテアーゼとしては、それだけに限らないが、TEV、トロンビン、第Xa因子またはエンテロペプチダーゼが挙げられる。プロテアーゼ切断部位(例えば、配列番号1またはその変異体とアフィニティータグとの間)を含む適切なリンカーが変異体に含まれてもよく、市販の発現ベクター、例えば前記変異体の発現に使用され得るpETベクターシリーズ(Novagen)のコード配列の一部となり得る。
【0077】
ポリペプチドの変異体は生物活性を有する。好ましい実施形態では、このような生物活性が、それぞれの抗体に結合する能力である。好ましい実施形態では、変異体が、好ましくはSARS-CoV-2を患っている患者からの試料からの、配列番号1に対する抗体、好ましくは配列番号1に対するIgAクラス抗体に結合する能力を有するエピトープを含む、またはこれ自体が能力を有し、より好ましくはエピトープが少なくとも5個、6個、7個または8個のアミノ酸残基を含む配列を含む。より好ましくは、これが、好ましくはMERS(配列番号6)と、NL63(配列番号10)と、229E(配列番号7)と、OC43(配列番号8)と、HKU1(配列番号9)とを含む群からの、より好ましくはSARS-CoV-1(配列番号1)と、MERSと、NL63と、229Eと、OC43と、HKU1とを含む群からの他のコロナウイルスからの配列番号1のホモログに特異的に結合しない。ここで、特異的結合は好ましくはBiacore機器を使用して、上に概説されるように定義および決定される。
【0078】
当業者であれば、適切なアミノ酸配列に基づいて診断的に有用な試薬を調製する方法に精通しており、例えば化学合成による直鎖ペプチドと例えば組換え発現によるポリペプチドの両方を提供することができる。特に、当業者であれば、コンフォメーションエピトープと連続エピトープの両方が存在すること、ならびに配列番号1に対する抗体などの抗体を検出するために使用され得る診断的に有用なポリペプチドを得るために適切な発現および精製の戦略を選択しなければならないことを知っている(例えば、Reischl,U.,Molecular Diagnosis of Infectious diseases,Humana Press,1998,for example chapters 12,15,16,18 and 19)。当業者であれば、試験系のための組換えタンパク質の有用性を評価する方法にも精通している(例えば、Reischl,U.,Molecular Diagnosis of Infectious diseases,Humana Press,1998,for example chapters 21-26)。
【0079】
本発明による予後、診断、方法またはキットのための抗体または複合体の検出は、免疫拡散技術、免疫電気泳動技術、光散乱イムノアッセイ、凝集技術、標識イムノアッセイ、例えば放射標識イムノアッセイを含む群のもの、酵素イムノアッセイ、例えば比色分析法、化学発光イムノアッセイおよび免疫蛍光技術を含む群から選択される方法の使用を含む。好ましい実施形態では、複合体が、免疫拡散技術、免疫電気泳動技術、光散乱イムノアッセイ、凝集技術、放射標識イムノアッセイを含む群の標識イムノアッセイ、化学発光イムノアッセイ、免疫蛍光技術および免疫沈澱技術を含む群から選択される方法を使用して検出される。当業者であればこれらの方法に精通しており、これらは先行技術、例えばZane,H.D.(2001):Immunology-Theoretical&Practical Concepts in Laboratory Medicine,W.B.Saunders Company,in particular in Chapter 14にも記載されている。好ましくは、試験フォーマットがELISAであり、ウェルを含むマイクロタイタープレートが診断的に有用な担体として使用される。
【0080】
好ましくは、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドが診断的に有用な担体の固相に固定化される。これは、試料と接触させる場合、固相に直接固定化され得るが、直接または間接の、競合アッセイ、キャプチャーブリッジアッセイ(capture bridge assay)、免疫測定アッセイ、固相上のクラス特異的二次抗体、クラス捕捉アッセイも使用され得る。これらのフォーマットの各々の原理は、The Immunoassay Handbook,3rd edition,edited by David Wild,Elsevier,2005に詳述される。より好ましくは、固相が試験片またはELISA用のマイクロタイタープレートのウェル、最も好ましくはELISA用のマイクロタイタープレートのウェルである。
【0081】
好ましい実施形態では、検出される抗体が配列番号1に対する別の抗体または配列番号1に特異的に結合する別のリガンドと競合する、競合アッセイフォーマットが使用される。配列番号1に特異的に結合するリガンドは、配列番号1に結合するアプタマーまたは抗体およびヒトACE2受容体(配列番号39)またはその変異体、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の天然結合パートナーを含む群から選択され得る。このような方法は、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドならびに好ましくは抗体、アプタマーおよびACE受容体またはその変異体を含む群の、配列番号1に特異的に結合するリガンドを用意するステップを含み得る。検出される抗体が存在する場合、これが複合体の形成を妨害する、または配列番号1に特異的に結合するリガンドに部分的にもしくは完全に置き換わるので、複合体の数が減少する。次いで、検出される抗体を含む複合体を、例えば配列番号1を含むポリペプチドまたは二次抗体などの検出される抗体に結合する分子に付着したアフィニティーリガンドを使用して複合体を沈殿させることによって検出することができる。アフィニティーリガンドの例としてはグルタチオンおよびビオチンが挙げられる。それぞれGSTまたはストレプトアビジンなどの、アフィニティーリガンドに結合するアフィニティーリガンドの結合パートナーを固相上にコーティングすることができる。次いで、沈殿した複合体を、それぞれ、好ましくは配列番号1を含むポリペプチドに特異的に結合するリガンドに付着した、または配列番号1を含むポリペプチドに付着した検出可能な標識を検出することによって、検出することができる。特定の競合試験が、Tan et al.(2020)A SARS-CoV-2 surrogate virus neutralization test based on antibody-mediated blockage of ACE2-spike protein protein interation,Nature Biotechnology 38(1073-1078)によって公開されている。
【0082】
あるいは、配列番号1に特異的に結合するリガンドまたは配列番号1もしくは変異体を含むポリペプチドが担体の表面上にコーティングされる場合、複合体が前記表面上に形成され得る。通常、複合体形成に干渉するIgA、IgMおよびIgGクラス抗体の存在または非存在はこのようなフォーマットを使用して検出される。特異的IgAクラス抗体は、例えば、プロテインAまたはプロテインGまたは二次抗体を使用して、IgA、IgMおよびIgGクラス抗体、好ましくはIgを含む群の目的のIgクラスの抗体を前に分離することによって検出され得る。当業者であれば、アプタマー(Thiviyanathan V,Gorenstein DG.Aptamers and the next generation of diagnostic reagents.Proteomics Clin Appl.2012;6(11-12):563-573.doi:10.1002/prca.201200042)および抗体(Hust M,Frenzel A,Schirrmann T,Dubel S.Selection of recombinant antibodies from antibody gene libraries.Methods Mol Biol.2014;1101:305-20;Hanack K,Messerschmidt K,Listek M.Antibodies and Selection of Monoclonal Antibodies.Adv Exp Med Biol.2016;917:11-22;Harold F.Stills,in The Laboratory Rabbit,Guinea Pig,Hamster,and Other Rodents,2012)の合成、選択および使用、ならびに特異的標的に結合する抗体の作製および選択(Lottspeich/Engels,Bioanalytic,Chapter 6 and references therein,Springer 2012)に精通している。(Dubelのuはウムラウト付)
【0083】
別の好ましい実施形態では、抗体が、それぞれ配列番号1を含むポリペプチドに結合する2つ以上の結合部位を有するので、抗体が試料中に存在する場合、RBDなどの、配列番号1またはその変異体を含む第1および第2のポリペプチドと、検出される抗体とを含む複合体が、液相中に形成される。次いで、例えば、グルタチオンまたはビオチンなどの第1のポリペプチドに付着したアフィニティーリガンドと、GSTまたはストレプトアビジンなどのそれぞれアフィニティーリガンドに結合する固相(固相は例えばビーズであり得る)上にコーティングされた結合パートナーを使用して、複合体を沈殿させることによって、検出される抗体を含む複合体を検出することができる。次いで、好ましくは第2のポリペプチドに付着した検出可能な標識を検出することによって、沈殿した複合体を検出することができる。あるいは、配列番号1またはその変異体を含む第1のポリペプチドが担体の表面上にコーティングされている場合、複合体が前記表面上に形成され得る。あるいは、第1および第2のポリペプチドをそれぞれ、これらが近接している場合、例えば、検出される抗体によって架橋されている場合にのみ検出可能な2つの異なる標識で標識することができる。また、例えばプロテインAまたはプロテインGまたは二次抗体を使用して、好ましくはIgA、IgMおよびIgGクラス抗体、好ましくはIgAを含む群の特異的Igクラス抗体を前に分離していない限り、IgA、IgMおよびIgGクラス抗体の存在または非存在が検出される。好ましくは、IgG抗体がまだ産生されていない感染の初期段階では、IgA抗体が主にまたは唯一検出される。
【0084】
任意のポリペプチド、例えば配列番号1を含むポリペプチドまたは二次抗体は、任意の形態でおよび任意の精製度で、内因性形態の前記ポリペプチドを含む組織、体液または細胞、より好ましくはポリペプチドを過剰発現している細胞、本質的に純粋であり得る精製および/または単離ポリペプチドまでのこのような細胞の粗または濃縮溶解液から提供され得る。好ましい実施形態では、ポリペプチドが天然ポリペプチドであり、本明細書で使用される「天然ポリペプチド」という用語が、折り畳まれたポリペプチド、より好ましくは細胞から、より好ましくは原核細胞または真核細胞から、好ましくは哺乳動物細胞から精製された折り畳まれたポリペプチドである。ポリペプチドのグリコシル化形態も使用され得る。二次抗体は、好ましくは例えばアフィニティーリガンドとしてのプロテインAまたはプロテインGに基づく精製後に純粋である。好ましい実施形態では、本発明により使用または提供される任意のポリペプチドが、有意な濃度のDTTなどのチオール含有化合物などの変性試薬の非存在下で、折り畳まれた状態で使用または提供される。
【0085】
好ましい実施形態では、配列番号1に対するIgA、IgMおよび/またはIgGクラス抗体の存在または非存在が検出される。別の好ましい実施形態では、IgAの存在または非存在のみが検出される。別の好ましい実施形態では、IgMの存在または非存在のみが検出される。別の好ましい実施形態では、IgGの存在または非存在のみが検出される。
【0086】
好ましい実施形態では、IgAの存在または非存在とIgGの存在または非存在が検出される。より好ましくは、IgAクラス抗体に対する二次抗体とIgGクラス抗体に対する二次抗体がこの検出のために使用または提供される。別の好ましい実施形態では、IgMの存在または非存在とIgGの存在または非存在が検出される。より好ましくは、IgMクラス抗体に対する二次抗体とIgGクラス抗体に対する二次抗体がこの検出のために使用または提供される。別の好ましい実施形態では、IgMの存在または非存在とIgAの存在または非存在が検出される。より好ましくは、IgMクラス抗体に対する二次抗体とIgAクラス抗体に対する二次抗体がこの検出のために使用または提供される。
【0087】
好ましい実施形態では、配列番号1に対する抗体、例えばIgA、IgMおよび/またはIgGの存在または非存在が、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドを使用して検出され得るが、ポリペプチドが追加の配列、好ましくは人工配列、例えばリンカーまたは結合エピトープを含み得る。しかしながら、このような追加の配列は、配列番号1もしくはその変異体が検出される抗体に特異的に結合する能力、または診断信頼性、特に感度および/または特異性が消失しないのは言うまでもなく、有意には変化しないように、選択される。例えば、配列番号1またはその断片に結合し、よって、エピトープを隠すドメインがポリペプチドと融合すべきでもなく、存在すべきでもない。本発明によると、好ましくは配列番号1またはその変異体を含む抗原、配列番号30またはその変異体を含む抗原、配列番号31またはその変異体を含む抗原および配列番号33またはその変異体を含む抗原、好ましくは全てを含む群のSARS-CoV-2抗原に対するIgA、IgMおよび/またはIgGクラス免疫グロブリンを検出する二次抗体が、SARS-CoV-2感染症の診断、好ましくは初期診断のために検出または使用され得る。配列番号30またはその変異体を含む抗原、配列番号31またはその変異体を含む抗原および配列番号33またはその変異体を含む抗原、好ましくは全てを含む群から選択される抗原を診断的に有用な担体上に、好ましくは空間的に離間してまたは混合物で、コーティングし、それぞれの抗原に特異的に結合する抗体を検出するために試料と接触させることができる。好ましい実施形態では、配列番号1以外のこのようなSARS-CoV-2抗原に対する抗体の検出に加えた配列番号1に対する抗体の検出が、アッセイ、特に初期段階でのSARS-CoV-2感染症の診断または初期段階での鑑別診断の全体的な感度を増加させ得る。
【0088】
好ましい実施形態では、本発明の生成物、方法および使用が、配列番号1に対する抗体の存在または非存在を、配列番号1上に存在するもの以外の別のSARS-CoV-2抗原または1つもしくは複数の他の抗原、好ましくはSARS-CoV-2のNタンパク質、より好ましくはSARS-CoV-2のNタンパク質、SARS-CoV-2 Mタンパク質およびSARS-CoV-2のEタンパク質を含む群、最も好ましくはSARS-CoV-2のNタンパク質、SARS-CoV-2のMタンパク質、SARS-CoV-2のEタンパク質およびSARS-CoV-2のSタンパク質エピトープを含む群の抗原に対する抗体の存在と区別することができるように構成される。より好ましい実施形態では、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドが、配列番号1に対する抗体の存在または非存在を検出するために使用される場合、このような他のSARS-CoV-2抗原または他のコロナウイルス抗原から空間的に離間している。例えば、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドは純粋であり得るおよび/または担体上で分離され得る。例えば、これは他の抗原から空間的に離間した、ブロットまたはマイクロタイターウェルまたはビーズ上にあり得る。
【0089】
好ましい実施形態では、本発明の生成物、方法および使用が、検出される抗体がある特定の免疫グロブリンクラスに属するかどうかを決定することなく、配列番号1に対する抗体の存在または非存在を検出することができるように構成される。これは通常、配列番号1などの1つまたは複数の抗原に対する「全抗体」の検出と呼ばれる。初期段階で存在するIgAクラス抗体ならびに後期の配列番号1に対するIgAおよびIgGクラス抗体が配列番号1に対する全抗体の一部として検出されるので、IgAおよびIgGを含む全抗体の検出はアッセイの感度を増加させる。より好ましくは他のSARS-CoV-2抗原は存在しないもしくは空間的に離間している、またはこのような別のSARS-CoV-2に対する抗体は、配列番号1に対する抗体によって生成されるシグナルと区別することができるシグナルを生成するので、好ましくは、配列番号1に対する抗体を、Nタンパク質(配列番号30)またはS2ドメイン(配列番号32)などの別のSARS-CoV-2抗原に対する抗体と区別することができる。
【0090】
好ましい実施形態では、本発明の生成物、方法および使用が、検出される抗体が配列番号1またはNタンパク質もしくはS2タンパク質などの別のSARS-CoV-2抗原に結合するかどうかを決定することなく、配列番号1に対する抗体の存在または非存在を検出することができるように構成される。これは、配列番号1またはその変異体とNタンパク質(配列番号30)もしくはその変異体またはS2ドメイン(配列番号32)もしくはその変異体を組み合わせて含む抗原の混合物を使用することによって達成され得る。より好ましい実施形態では、S1およびS2ドメイン(配列番号32)を含むスパイクタンパク質全体が、場合によりNタンパク質(配列番号30)と組み合わせて使用され得る。また、初期段階で存在するIgAクラス抗体ならびに後期の配列番号1に対するIgAおよびIgGクラス抗体が配列番号1に対する全抗体の一部として検出されるので、IgAおよびIgGを含む配列番号1に対する抗体がアッセイの感度を増加させるため、このようなアッセイの感度が増加する。
【0091】
好ましい実施形態では、本発明による生成物、方法および使用が、検出される抗体がある特定の免疫グロブリンクラスに属するかどうかを決定することなく、配列番号1に対する抗体の存在または非存在を検出することができるように構成される。この手順は通常、配列番号1などの1つまたは複数の抗原に対する「全抗体」の検出と呼ばれる。初期段階で存在するIgAクラス抗体が配列番号1に対する全抗体の一部として検出されるので、IgAおよびIgGを含む全抗体の検出はアッセイの感度を増加させる。好ましい実施形態では、配列番号1またはその変異体を含む単離された、純粋なおよび/または組換えポリペプチドを使用して、配列番号1に対する抗体の非存在が検出され得る。
【0092】
好ましい実施形態では、好ましくはIgA、IgGおよび/またはIgM抗体、より好ましくはIgGまたはIgM、最も好ましくはIgGに加えて、配列番号30によって定義される、SARS-CoV-2 Nタンパク質に対する抗体の存在または非存在が決定される。本発明による担体を、この目的のために配列番号30またはその変異体によって定義されるSARS-CoV-2 Nタンパク質を含むポリペプチドでコーティングすることができる。
【0093】
好ましい実施形態では、配列番号31によって定義されるSARS-CoV-2 S1ドメインの受容体結合ドメイン(RBD)に対する抗体の存在または非存在が検出される。本発明による担体を、この目的のために配列番号31またはその変異体を含むポリペプチドでコーティングすることができる。
【0094】
好ましい実施形態では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の配列番号32によって定義されるSARS-CoV-2 S2ドメインに対する抗体の存在または非存在が検出される。本発明による担体は、この目的のために配列番号32またはその変異体を含むポリペプチドを含み得る。
【0095】
好ましい実施形態では、二次抗体が、抗体または免疫グロブリンクラス、好ましくはヒト抗体クラス、好ましくはIgAおよび/またはIgGおよび/またはIgM抗体、好ましくはIgAの全ての抗体に結合する抗体である。二次抗体は、典型的には前記Igクラスの抗体によって共有される配列または3D構造にわたるさまざまなエピトープに対する結合部位で、前記クラスの定常ドメインを認識するまたは多価である。二次抗体は、典型的にはヒト以外の哺乳動物由来または鳥由来、好ましくはニワトリ、ウサギ、マウス、ラット、ウマ、ブタ、ロバ、ヤギ、ウシ、ラクダ、ラマまたはヒト以外の霊長類由来である。これらの広範囲が市販されている。
【0096】
本発明によると、SARS-CoV-2感染症は、初期段階で、好ましくは疾患症状の発症後5日以内に、増加した感度で検出され得る。
【0097】
さらに好ましい実施形態では、本発明の方法が、診断についての結果を評価するステップをさらに含む。本発明による評価は、検査された個体のための処置が必要であるかどうかを決定するために行われる。診断の結果の評価は、診断が陽性であった場合、適切な処置を選択するために、医師が関与することを含み得る。重要なことに、評価を除く本発明の方法は、ある国などのある場所で行われ、診断の結果の評価は異なる場所で行われ得る。
【0098】
異なる好ましい実施形態では、本発明の方法が、診断または評価の結果を異なる場所に移すステップをさらに含む。この好ましい実施形態は、場合により評価ステップを含む本発明の方法がある国などのある場所で行われ、診断および評価の結果がそれぞれ、異なる国などの異なる場所に移される場合に関する。移動は当業者に利用可能な任意の手段によって行われ得る。これには、データの電子的移動ならびに読み取り資料の実際の移動が含まれる。この好ましい実施形態によると、特に、陽性結果の場合に患者を処置する医師または診療所は、処置成功のために適切なステップをとることができる。診断的に有用な担体は、好ましくは顕微鏡法用のスライドガラス、バイオチップ、マイクロアレイ、マイクロタイタープレート、側方流動装置、試験片、メンブレン、例えばニトロセルロースメンブレン、好ましくはラインブロット、クロマトグラフィーカラムおよびビーズ、好ましくはマイクロタイタープレートを含む群から選択される。
【0099】
好ましい実施形態では、診断的に有用な担体がラインブロットである(Raoult,D.,and Dasch,G.A.(1989),The line blot:an immunoassay for monoclonal and other antibod-ies.Its application to the serotyping of gram-negative bacteria.J.Immunol.Methods,125(1-2),57-65;国際公開第2013041540号)。好ましい実施形態では、本明細書で使用される「ラインブロット」という用語が、抗体を特異的に捕捉する1つまたは複数の手段でコーティングされた、より好ましくはメンブレンベースの試験片を指し、好ましくはこれらの手段の各々がポリペプチドである。2つ以上の手段が使用される場合、これらは好ましくは担体上で空間的に離間される。好ましくは、バンドの幅が、試験片の幅の少なくとも30%、より好ましくは40%、50%、60%、70%または80%である。ラインブロットは、十分に長く、十分な条件下で、特にヒト血清の存在下で試料と、または二次抗体と、それぞれ接触したことを確認するために1つまたは複数の対照バンドを含み得る。ラインブロットは、好ましくはニトロセルロースメンブレンでできている。
【0100】
別の好ましい実施形態では、診断的に有用な担体がビーズである。多数の用途のためのさまざまなビーズ、主に炭水化物、例えばセファロースまたはアガロース、またはプラスチックに基づくものが市販されている。これらは、抗体を特異的に捕捉する手段の固定化に利用することができる、カルボキシル基またはトシル基またはエステル基などの活性または活性化可能な化学基を含有し得る。好ましくは、ビーズが、平均直径0.1μm~10μm、0.5μm~8μm、0.75μm~7μmまたは1μm~6μmのビーズである。ビーズを、直接的にまたはアフィニティーリガンド、例えばそれぞれビオチンもしくはグルタチオン、およびストレプトアビジンもしくはGSTを介して、抗体を特異的に捕捉する手段でコーティングすることができる。例えば、ビーズをビオチンまたはグルタチオンでコーティングし、抗原をストレプトアビジンまたはグルタチオン-S-トランスフェラーゼまたはその変異体とそれぞれ融合することができる。好ましくは、ビーズは、10~90%、好ましくは20~80%、好ましくは30~70%、より好ましくは40~60%(w/w)のビーズ含有量を有する水性懸濁液の形態で提供される。当業者であれば、市販のこのようなビーズ(Diamindis,E.P.,Chriopoulus,T.K.,Immunoassays,1996,Academic Press)、例えばBio-Rad製のBio-Plex COOHビーズMC10026-01または171-506011に精通している。
【0101】
特に好ましい実施形態では、ビーズが、磁石を用いて表面上で容易に濃縮することができる、常磁性ビーズである。この目的のために、市販の常磁性ビーズは通常、常磁性鉱物、例えば酸化鉄を含有する。多様な適切な常磁性ビーズが市販されている。ビーズを検出可能な標識で標識することができる。
【0102】
好ましい実施形態では、存在するバッファーを除去し、新たなバッファーを添加した後、磁場を印加して、ビーズを濃縮および固定化することによって、常磁性ビーズを使用し、バッファーで洗浄またはインキュベートする。次いで、磁場を中断して、ビーズの新たなバッファーへの懸濁をより効率的にすることができる。バッファーは、希釈した患者試料を含む本発明により使用される任意の緩衝化溶液、インキュベーションバッファーまたは二次抗体を含むバッファーであり得る。
【0103】
好ましい実施形態では、抗体が、化学発光標識を使用して検出される。好ましい実施形態では、これが、好ましくは、自身が消費されることなく化学発光基質をターンオーバーし得る、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼおよび□-ガラクトシダーゼまたはこれらの変異体を含む群から選択される、化学発光酵素である(Kricka,L.J.(2003).Clinical applications of chemiluminescence.Analytica chimica acta,500(1):279-286)。別の好ましい実施形態では、化学発光標識が、シグナルを放出するのに必要な無機および/または非酵素的有機化合物を含む化学発光基質溶液と接触した場合に、分解されると化学発光シグナルを放出する、化学発光反応を触媒する酵素活性を有さない小有機化合物である。好ましくは、酵素活性を有さない小有機化合物が、アクリジニウムエステル(Weeks,I.,Beheshti,I.,McCapra,F.,Campbell,A.K.,Woodhead,J.S.(1983)Acridinium esters as high specific activity labels in immunoassay.Clin Chem 29:1474-1479)およびルミノールまたはイソルミノールなどのその化学発光誘導体を含む群から選択される。このような小有機化合物を二次抗体とカップリングすることができる。ルミノールの場合、基質溶液が、高pHでH2O2を含む。アクリジニウムエステルの場合、H2O2と水酸化ナトリウムの混合物が頻繁に使用される。小有機化合物は化学発光シグナルの放出時に消費される。好ましい実施形態では、化学発光標識の化学発光が、化学発光検出反応の開始後1~60秒間、好ましくは2~20秒間、より好ましくは3~15秒間検出される。別の好ましい実施形態では、化学発光標識の化学発光が少なくとも0.5秒間、1秒間、1.5秒間、2秒間、2.5秒間または3秒間検出される。別の好ましい実施形態では、担体が、ELISAに使用され得る少なくとも8つのウェルを含むマイクロタイタープレートである。ウェルの少なくとも1つは、直接的または間接的に、抗体を特異的に捕捉する手段、好ましくは配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドでコーティングされる。規定の濃度の少なくとも3つ、好ましくは4つ、より好ましくは5つの較正物質を使用して半定量分析のための検量線を設定することができる。本発明の方法を行う場合、典型的には検量線を網羅する範囲の濃度を網羅する較正物質を、試料と並行して処理および展開することができる。酵素活性標識、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ活性もしくはアルカリホスファターゼ活性または化学発光可能な酵素を有する標識などの検出可能な標識を含む二次抗体を提供することができる。
【0104】
別の好ましい実施形態では、担体がマイクロアレイである。好ましい実施形態では、本明細書で使用される「マイクロアレイ」という用語が、さまざまな空間的に離間した抗原、好ましくは少なくとも20個、好ましくは30個、40個、50個、80個または100個をスポットしたチップを指す。好ましくは、各抗原が、配列番号1の断片に広がる、より好ましくはRBD(配列番号31)に広がる5~25個、好ましくは7~15個の連続アミノ酸を含むまたはからなるペプチドである。標識、好ましくは蛍光標識を含む二次抗体を検出に使用することができる。好ましくは、他の抗原、より好ましくは配列番号30(SARS-CoV-2 Nタンパク質)および配列番号33(SARS-CoV-2 S2タンパク質)を含むポリペプチドの群の抗原がスポットされる。
【0105】
別の好ましい実施形態では、顕微鏡免疫蛍光分析用の担体上にあるまたはその一部であるスライドガラスが使用される。細胞、好ましくはHEK293細胞などの真核細胞がスライド上にある。これをマウンティングバッファーで覆うことができる。さまざまな組成物および方法が、先行技術において、例えば、“Mountants and Antifades”,published by Wright Cell Imaging Facility,Toronto Western Research Institute University Health Network,(https://de.scribd.com/document/47879592/Mountants-Antifades),Krenek et al.(1989)Comparison of antifading agents used in immunofluorescence,J.Immunol.Meth 117,91-97およびNairn et al.(1969)Microphotometry in Immunofluorescence,Clin.Exp.Immunol.4,697-705に記載されている。細胞は、好ましくは配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドを過剰発現する。担体は、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドを過剰発現している細胞と同じであるが、これをコードする核酸を含まないベクターでトランスフェクトされたモックトランスフェクト細胞を含み得る。このようなモックトランスフェクト細胞は陰性対照として機能し得る。別の細胞は、抗体を検出するための追加のコロナウイルス、好ましくはSARS、より好ましくはSARS-CoV-2抗原、例えばNタンパク質、S2タンパク質またはRBDを含み得る。
【0106】
本発明によると、免疫蛍光を使用して抗体を検出することができる。当業者であればこの方法に精通している(Storch,W.B.,Immunofluorescence in Clinical Immunology:A Primer and Atlas,Birkhauser,2000;Wesseling JG,Godeke GJ,Schijns VE,Prevec L,Graham FL,Horzinek MC,Rottier PJ.Mouse hepatitis virus spike and nucleocapsid proteins expressed by adenovirus vectors protect mice against a lethal infection.J Gen Virol.1993 Oct;74(Pt 10):2061-9.doi:10.1099/0022-1317-74-10-2061.PMID:8409930)(Birkhauserのaはウムラウト付)。手短に言えば、抗原、好ましくは配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドを、前記抗体を発現している細胞であり得る担体上に固定化し、試料と接触させ、引き続いて好ましくは蛍光標識で標識された抗体を検出する手段を使用して、蛍光によって検出される抗体を検出する。好ましい実施形態では、細胞がポリペプチドを過剰発現している真核細胞、例えばHEK、Hela、CHOおよびJurkat細胞ならびにこれらの類縁体を含む群から選択される細胞である。好ましい実施形態では、細胞が、好ましくは強力な異種プロモーターの制御下にある、ポリぺプチドを過剰発現している組換え細胞である。
【0107】
本発明によると、側方流動装置を使用して抗体を検出することができる。当業者であれば、この目的のための側方流動装置に精通している(Lateral Flow Immunoassay,edited by Raphael Wong,Harley Tse,2009,Springer;Paper-based diagnostics:Current Status and Future applications,Kevin J.Land,Springer 2019)。手短に言えば、側方流動アッセイは、検出可能な標識を含む、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドを含む、ニトロセルロースメンブレンなどのメンブレンに基づき得る。メンブレンを試料と接触させると、検出される抗体が抗原に結合する。得られた複合体は、メンブレン上で毛管力によって駆動されて移動し、抗体を検出する手段、典型的にはIgGおよび/またはIgAおよび/またはIgMなどの検出される抗体の免疫グロブリンクラスに結合する二次抗体を含むメンブレン上で試験線上に固定化される。好ましくは、ナノ粒子またはビーズ、例えば金ナノ粒子またはラテックスビーズが標識として使用される。
【0108】
本発明によると、ポリペプチド、好ましくは配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドが組換えタンパク質であり得、本明細書で使用される「組換え」という用語が、例えばポリペプチドをコードする核酸を、細胞もしくは組織中での過剰発現のための強力なプロモーターに融合することによって、またはポリペプチド自体の配列を操作することによって、産生プロセスの任意の段階で遺伝子操作アプローチを使用して産生されたポリペプチドを指す。当業者であれば、コードされる核酸およびポリペプチドを操作する方法(例えば、Green M.R.and Sambrook,J.(2012),Molecular Cloning-A Laboratory Manual,Fourth Edition,CSH or in Brown T.A.(1986),Gene Cloning-an introduction,Chapman&Hallに記載される)ならびに天然または組換えポリペプチドを産生および精製する方法(例えば、Handbooks,,Strategies for Protein Purification“,,,Antibody Purification“,published by GE Healthcare Life Sciences,and in Burgess,R.R.,Deutscher,M.P.(2009):Guide to Protein Purification)に精通している。別の好ましい実施形態では、ポリペプチドが単離されたポリペプチドであり、「単離された」という用語が、ポリペプチドが、生物工学または合成アプローチを使用して、産生時のその状態と比較して濃縮されており、好ましくは純粋である、すなわち、それぞれの液体中のポリペプチドの少なくとも60%、70%、80%、90%、95%または99%が、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、引き続いてクーマシーブルー染色および目視検査によって判断されるように、前記ポリペプチドからなることを意味する。好ましくは、抗体を捕捉する手段として使用される担体上の任意のポリペプチドが純粋である。
【0109】
好ましい実施形態では、生物物理学的検出方法を使用して分子の集団を他と区別するために使用され得る標識である、検出可能な標識を使用して本発明による抗体を検出する。検出可能な標識は、好ましくは蛍光、放射性、化学発光標識、重金属、例えば金標識、ナノ粒子、ビーズまたは酵素活性標識、好ましくは比色反応を触媒するものを含む群から選択される。好ましい実施形態では、蛍光標識が、Alexa色素、FITC、TRITCおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)を含む群から選択される。ヨウ素-125を放射性標識として使用することができる。好ましい実施形態では、酵素活性標識が、西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、βガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼおよびルシフェラーゼを含む群から選択される。当業者であれば、適切な標識を選択し、これらをタンパク質、核酸および他の分子に付着させることができ(Hassanzadeh L,Chen S,Veedu RN.Radiolabeling of Nucleic Acid Aptamers for Highly Sensitive Disease-Specific Molecular Imaging.Pharmaceuticals(Basel).2018;11(4):106.Published 2018 Oct 15.doi:10.3390/ph11040106 Hassanzadeh L,Chen S,Veedu RN.Radiolabeling of Nucleic Acid Aptamers for Highly Sensitive Disease-Specific Molecular Imaging.Pharmaceuticals(Basel).2018;11(4):106.Published 2018 Oct 15.doi:10.3390/ph11040106,Bioconjugate Techniques,3rd Edition(2013)by Greg T.Hermanson,Obermaier C,Griebel A,Westermeier R.Principles of protein labeling techniques.Methods Mol Biol.2015;1295:153-65)、広範囲の標識分子が市販されている。
【0110】
本発明によると、配列番号1に対する抗体の存在を検出する手段が提供される。好ましい実施形態では、検出可能な標識を含む二次抗体を使用して、配列番号1、より好ましくは配列番号1および別のコロナウイルス抗原に対するIgAおよび/またはIgGおよび/またはIgM、好ましくはIgAクラス抗体を検出することができる。ペルオキシダーゼ活性を有するタンパク質を酵素活性標識として使用することができる。好ましくは、二次抗体が哺乳動物抗体、より好ましくはヒト抗体を認識する。1つのIgクラスの抗体を検出する場合、1つがIgAクラス抗体に結合し、1つがIgGクラス抗体に結合する2つの二次抗体を使用することができる。2つの二次抗体は混合物であっても別個であってもよいが、好ましくは別個であって、IgA、IgMおよびIgG抗体、好ましくはIgGおよびIgAなどの異なるIgクラスの抗体の別個の検出を可能にして、例えば、IgAクラス抗体が多くの患者でIgGクラス抗体よりも初期に出現するという事実に基づいて、疾患の経過に関する情報を得ることができる。あるいは、2つ以上のIgクラスの、例えばIgG、IgAおよびIgMを含む群の抗体に結合する1つの二次抗体、好ましくはIgGおよびIgAクラス抗体に結合するものを使用することができる。二次抗体はポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。好ましい実施形態では、二次抗体が、ヒト以外の哺乳動物に由来するが、ある特定のIgクラス、好ましくはIgA、IgGおよび/またはIgMのヒト抗体に結合する。当業者であれば、二次抗体の作製および使用に精通している(Kalyuzhny,A.,Immunohistochemistry,Essential Elements and Beyound,Springer,2017,in particular chapter 4;Howard,G.C.,and Bethell,D.R.,Basic Methods in Antibody Production and Characterization,2000,CRC press)。場合により蛍光標識などの標識を含む、さまざまな二次抗体、例えばThermo Fisher製のFITC標識二次抗体カタログ番号H15101、カタログ番号62-8411、カタログ番号A24459、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体カタログ番号31420、カタログ番号SA1-35467、カタログ番号SA1-35467、カタログ番号SA1-35467などが市販されている。二次抗体またはアプタマーの標識断片を使用することもできる。当業者であれば、例えば検出される抗体、好ましくはIgGおよび/またはIgAおよび/またはIgM抗体に特異的に結合する場合、配列番号1に対する抗体の存在を検出する手段としても使用することができる、アプタマーの合成、選択および使用(Thiviyanathan V,Gorenstein DG.Aptamers and the next generation of diagnostic reagents.Proteomics Clin Appl.2012;6(11-12):563-573.doi:10.1002/prca.201200042)ならびに特異的抗体の作製(Hust M,Frenzel A,Schirrmann T,Dubel S.Selection of recombinant antibodies from antibody gene libraries.Methods Mol Biol.2014;1101:305-20;Hanack K,Messerschmidt K,Listek M.Antibodies and Selection of Monoclonal Antibodies.Adv Exp Med Biol.2016;917:11-22;Harold F.Stills,in The Laboratory Rabbit, Guinea Pig,Hamster,and Other Rodents,2012)に精通している。このようなアプタマーは、検出される抗体の他の部分の定常領域またはエピトープに特異的に結合し得る。(Dubelのuはウムラウト付)
【0111】
別の好ましい実施形態では、配列番号1またはその変異体、好ましくは受容体結合ドメイン(配列番号31)を含むポリペプチドが、配列番号1に対する抗体の存在を検出する手段として使用され得る。より具体的には、前記ポリペプチドを診断的に有用な担体にコーティングし、使用して検出される抗体を捕捉することができる。ヒト抗体は2つ以上の結合部位を有するので、捕捉された抗体の1つの抗原結合部位のみが占有され得る。担体上にコーティングされていない、配列番号1またはその変異体を含む別のポリペプチドのその後の添加によって、この新たに添加されたポリペプチドによる別の結合部位の占有がもたらされ得る。次いで、コーティングされたポリペプチド、検出される抗体および他のポリペプチドを含む複合体を検出することができる。より好ましくは、他のポリペプチドが検出可能な標識を有し、これを使用して複合体を検出する。この実施形態では、全ての抗体、より具体的にはIgAとIgMとIgGのクラス抗体を検出することができる。
【0112】
別の好ましい実施形態では、配列番号1中の受容体結合ドメインに結合する配列番号39(ACE2)またはその変異体を含むポリペプチドを、場合によりACE2受容体に結合する配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドと組み合わせて、配列番号1に対する抗体の存在を検出する手段として使用することができる。次いで、競合アッセイフォーマットを使用してその存在を検出する。
【0113】
別の好ましい実施形態では、別個の免疫グロブリンクラスに結合する特異的抗体を検出可能な標識で標識し、配列番号1に対する抗体の存在を検出する手段として使用することができる。例えば、プロテインG、AおよびLはIgGクラス抗体に結合する細菌タンパク質であり(L.Bjorck,G.Kronvall:Purification and some properties of streptococcal protein G,a novel IgG-binding reagent.In: Journal of Immunology.133(2)/1984.)、ジャカリン(Abcam、ThermoFisher)はIgAクラス抗体の結合に使用され得る(例えば、Choe et al.,Materials(Basel).2016 Dec;9(12):994;Wilkinson&Neville Vet Immunol Immunopathol.1988 Mar;18(2):195-8参照)。
【0114】
好ましい実施形態では、本発明によるキットが、好ましくは診断的に有用な担体、より好ましくはマイクロタイタープレートにコーティングされた、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドと、較正物質、陽性対照、陰性対照、洗浄バッファー、配列番号1に対する抗体、好ましくはIgA、IgMおよび/またはIgGクラス抗体の存在を検出する手段、好ましくは検出可能な標識を含み得る、抗体、より好ましくはIgA、IgMおよび/またはIgGクラス抗体に特異的に結合する二次抗体、試料バッファー、検出溶液、好ましくは色素原/基質溶液、停止溶液および保護箔を含む群の1つまたは複数、好ましくは全ての試薬とを含む。
【0115】
好ましい実施形態では、較正物質が、配列番号1またはその変異体を含むポリペプチドに結合し、好ましくはIgA、IgM、IgGのいずれか、いずれか二つ、すべてのクラス抗体を認識する二次抗体によって認識される試薬である。較正物質は配列番号1に対するIgA抗体であり得る。あるいは、較正物質が、好ましくは別個の免疫グロブリンクラス、好ましくはIgAおよび/またはIgGおよび/またはIgMによって共有される定常領域または他の領域またはエピトープと、可変領域、特に人工抗体に由来する結合部位とを含むキメラ抗体であり得る。当業者であれば、このような較正物質の設計、作製および使用に精通している(Lutkecosmann S,Faupel T,Porstmann S,Porstmann T,Micheel B,Hanack K.A cross-reactive monoclonal antibody as universal detection antibody in autoantibody diagnostic assays.Clin Chim Acta.2019 Dec;499:87-92.doi:10.1016/j.cca.2019.09.003.Epub 2019 Sep 4.PMID:31493374,Hackett J Jr,Hoff-Velk J,Golden A,Brashear J,Robinson J,Rapp M,Klass M,Ostrow DH,Mandecki W.Recombinant mouse-human chimeric antibodies as calibrators in immunoassays that measure antibodies to Toxoplasma gondii.J Clin Microbiol.1998 May;36(5):1277-84.doi:、国際公開第2009081165号)。好ましい実施形態では、陽性対照が、本発明による方法を使用して陽性結果が得られる量の、SARS-CoV-2を患っている患者の試料からの、好ましくはIgAとIgGとIgMのクラス抗体、より好ましくはIgAを含む群の、配列番号1に対する抗体などの化合物を含む溶液である。陰性対照はこのような化合物を欠き、健康な人の血清を含み得る試薬である。洗浄バッファーは、インキュベーション後にマイクロタイタープレートなどの担体を洗浄して非特異的抗体を除去するために使用され得、PBSであり得る。抗体の存在を検出する手段は、検出される抗体クラス、好ましくはヒトIgA、IgM、IgGのいずれか、いずれか二つ、またはすべてのクラス抗体に結合する二次抗体であり得、検出可能な標識、好ましくは酵素、より好ましくはペルオキシダーゼ活性を有する酵素で標識される。試料バッファーは、患者試料を希釈するために使用することができ、PBSであり得る。検出溶液は、標識された二次抗体の存在下でシグナルをもたらすことができ、好ましくは発色溶液、より好ましくは3,3’,5,5’テトラメチルベンジジン/H2O2である。停止溶液は、検出溶液の反応を停止するために反応物に添加され得、強酸、好ましくは0.5M硫酸を含み得る。保護箔は、蒸発を回避するためにマイクロタイタープレートなどの担体の上に配置され得る。
【0116】
本発明により使用されるいずれの試薬も保存剤、例えばアジドを含み得る。
【0117】
本発明によると、診断キットを製造するための、配列番号1もしくはその変異体を含むポリペプチド、または配列番号1に対する抗体、好ましくはIgAクラス抗体の使用が提供される。好ましい実施形態では、ポリペプチドまたは抗体が、このようなキットの成分の1つとして包装される。ポリペプチドまたは抗体を使用してキットの製造時の品質を確認することができる。例えば、抗体を陽性対照として使用して、別個のまたは診断的に有用な担体上にコーティングされた、キットの成分である配列番号1を含むポリペプチドの反応性を確認することができる。ポリペプチドを使用して、キットの一部である、配列番号1に特異的に結合する抗体の反応性を確認することができる。ポリペプチドを使用して、製造の一部として診断的に有用な担体をコーティングすることができる。ポリペプチドと抗体の両方を使用して、担体およびキットを調製するために使用される緩衝化溶液中の、抗体もしくはポリペプチドそれぞれの濃度を決定する、または細胞が配列番号1を含むポリペプチドを発現しているかどうかを確認することができる。
【0118】
本発明によると、配列番号1に対する抗体、好ましくはIgAクラス抗体が、SARS-CoV-2感染症を診断するため、または本発明による鑑別診断のために使用される。この使用は、単独のまたは配列番号1に対する他の抗体もしくは他のSARS-CoV-2抗原に対する抗体と組み合わせた抗体を検出し、よって診断アッセイの全体的な感度を増加させることに関し得る。より好ましい実施形態では、IgAクラス抗体を使用して、特に感染症の初期段階での、診断アッセイの感度を増加させる。これは、IgGだけでなく、IgAクラス抗体も、場合により配列番号1に対するIgMクラス抗体も、またはIgAのみ検出することによって達成され得る。より好ましい実施形態では、IgGクラス抗体を使用して、特に他の抗原に対する抗体、例えばSARS-CoV-2感染症の後期の間などのSARS-CoV-2のNタンパク質に対するIgGクラス抗体の濃度の低下を見る一定期間にわたって診断アッセイの感度を増加させる。これは、IgGだけでなく、IgAクラス抗体も、場合により配列番号1に対するIgMクラス抗体も、またはIgGのみ検出することによって達成され得る。別の好ましい実施形態では、抗体を、前記抗体、好ましくはIgA、IgMおよび/またはIgGクラス抗体、好ましくは全てを含む較正物質を使用して、装置またはアッセイを較正することによって診断に使用することができる。好ましい実施形態では、配列番号1に対するIgAおよび/またはIgG抗体を使用して、免疫化の後期で感度を増加させる。抗体を、アッセイの検証のため、較正のため、診断的に有用な担体などの試薬もしくはアッセイ材料の品質の確認のため、または陽性対照として使用することができる。
【0119】
本発明によると、配列番号1もしくはその変異体を含むポリペプチド、または配列番号1に対する抗体、好ましくはIgAクラス抗体が、好ましくはSARS-CoV-2を診断するための、診断キットの製造に使用され、配列番号1に特異的に結合するIgAクラス抗体が検出される。
【0120】
好ましくは感染症の初期段階での、より好ましくは疾患症状の発症後5日以内の、SARS-CoV-2感染症の検出の感度を増加させるための、配列番号1に対する抗体、好ましくはIgA、IgM、IgGのいずれか、いずれか二つ、すべて、より好ましくはIgAクラス抗体の使用。別の好ましい実施形態では、使用が感染症の後期であり得る。好ましい実施形態では、配列番号1に対するIgAとIgMとIgGの存在または非存在が検出される。
【0121】
本発明は、特に以下および/または本明細書の配列表形成部に記載される配列を含む、新規な核酸およびポリペプチド配列の範囲を含む。本明細書の以下に示される配列と、配列表に記載される対応する配列との間に矛盾がある場合、本発明が、具体的かつ個別的に、それぞれの配列のそれぞれ1つずつ、すなわち、本明細書の以下に記載される配列および配列表に記載される配列にも関することが理解されよう。
【0122】
配列番号1(SARS-CoV-2のSタンパク質のS1ドメイン)
【化1】
配列番号2(SARS-CoV-2のSタンパク質のS1ドメイン、C末端hisタグ付き、例で細胞で発現される)
【化2】
配列番号3(SARS-CoV-2のSタンパク質のS1ドメイン、C末端hisタグ付き、シグナルペプチドの切断後、例で使用される)
【化3】
配列番号4(SARS-CoV-2のSタンパク質のS1ドメイン、配列番号2をコードするヌクレオチド配列)-配列表のみ
配列番号5(考えられるSARS-CoV-2のS1エピトープ)-配列表のみ
配列番号6(S1[MERS_COV])-配列表のみ
配列番号7(S1[HCoV-229E])-配列表のみ
配列番号8(S1[HCoV-OC43])-配列表のみ
配列番号9(S1[HCoV-HKU1])-配列表のみ
配列番号10(S1[HCoV-NL63])-配列表のみ
配列番号11(S1[SARS_CoV])-配列表のみ
配列番号12(配列番号1の断片)-配列表のみ
配列番号13(SARS-CoV-2分離株のゲノム 武漢Hu-1ゲノム、Genbank MN908947と同一):[配列表のみ]
【化4】
配列番号14、配列番号1の30~44である-配列表のみ
配列番号15、配列番号1の48~68である-配列表のみ
配列番号16-配列番号1の110~166である-配列表のみ
配列番号17-配列番号1の200~214である-配列表のみ
配列番号18-配列番号1の226~250である-配列表のみ
配列番号19-配列番号1の256~277である-配列表のみ
配列番号20-配列番号1の328~342である-配列表のみ
配列番号21-配列番号1の399~414である-配列表のみ
配列番号22-配列番号1の434~448である-配列表のみ
配列番号23-配列番号1の550~572である-配列表のみ
配列番号24-配列番号1の590~604である-配列表のみ
配列番号25-配列番号1の632~650である-配列表のみ
配列番号26-配列番号1の354~368である-配列表のみ
配列番号27-配列番号1の622~636である-配列表のみ
配列番号28-配列番号1の30~44である-配列表のみ
配列番号29-配列番号1の226~250である-配列表のみ
配列番号30:SARS-CoV-2のNタンパク質
【化5】
配列番号31:SARS-CoV-2のSタンパク質のS1ドメインの断片、RBD
【化6】
配列番号32:SARS-CoV-2のSタンパク質のS1ドメインの断片、RBD、C末端Hisタグ付き
【化7】
配列番号33:SARS-CoV-2のSタンパク質のS2ドメイン
【化8】
配列番号34:例で使用されるRBD
【化9】
配列番号35(SARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化10】
配列番号36(SARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化11】
配列番号37(SARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化12】
配列番号38:Hisタグ付きRBD
【化13】
配列番号39:ヒトアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)
【化14】
配列番号40(SARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化15】
配列番号41(SARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化16】
配列番号42(SARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化17】
配列番号43(SARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化18】
配列番号44(GST融合物を含むSARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化19】
配列番号45(GST融合物を含むSARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化20】
配列番号46(GST融合物を含むSARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化21】
配列番号47(GST融合物を含むSARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化22】
配列番号48(GST融合物を含むSARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化23】
配列番号49(GST融合物、P1~P6を含むSARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化24】
配列番号50(ヒトACE2のC末端Hisタグ付き細胞外ドメイン)
【化25】
配列番号51(SARS-CoV-2英国変異株B.1.1.7の突然変異を有する配列番号1)-配列表のみ
配列番号52(SARS-CoV-2南アフリカ変異株B.1.351の突然変異を有する配列番号1):-配列表のみ
配列番号53(SARS-CoV-2ブラジル変異株P.1の突然変異を有する配列番号1):-配列表のみ
配列番号54(SARS-CoV-2デンマークのミンク変異株の突然変異を有する配列番号1):-配列表のみ
配列番号55:(SARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化26】
配列番号56(GST融合物、P1-P6を含むSARS-CoV-2抗体と反応性の配列番号1由来ペプチド)
【化27】
【0123】
本発明を以下の例、配列および図面によってさらに例示し、そこから本発明のさらなる特徴、実施形態、態様および利点を理解することができる。本明細書に記載されるものと類似または同等の全ての方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができ、適切な方法および材料が本明細書に記載される。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【
図1】例3に記載される、2人の患者(
図1)で監視した、配列番号1(IgA、IgG)およびNタンパク質(IgG、IgM)に対する抗体レベルの時間経過を示す図である。
【
図2】SARS-CoV-2に感染した患者の別の時間経過の監視を示す図である。配列番号1に対するIgAクラス抗体(正方形)、配列番号1に対するIgGクラス抗体(三角形)およびNタンパク質に対するIgGクラス抗体(丸形)を決定した。
【
図3】(A)第1のステップで抗Hisタグ(1:200)もしくは患者血清(PS、1:100)、第2のステップで抗マウスIgG-FITCもしくは抗ヒトIgG-FITCと直接インキュベートした、(B)Aに記載されるPS3との第2のステップのインキュベーションの前にPBSと30分間インキュベートした、または(C)PBSと30分間インキュベートし、引き続いて第1のステップでPS3(1:100)と、第2のステップで抗ヒトIgG-ビオチン(1:200)および第3のステップでExtrAvidin-FITC(1:2000)とインキュベートした、アセトン固定S1発現または対照プラスミドトランスフェクトHEK293細胞を使用したIFAを示す図である。S1発現細胞を、標準的な方法を使用して、配列番号2を発現するpTriExベクターでトランスフェクトした。患者抗体と反応性であると特定された代表的な細胞を矢印で示した。
【
図4】RBDを含む融合タンパク質を使用したドットブロット分析に基づく、患者の試料からのIgG、IgAおよびIgM抗体の検出を示す図である。
【
図5】配列番号1を含むポリペプチドを使用したドットブロット分析に基づく、患者の試料からのIgG、IgAおよびIgM抗体の検出を示す図である。
【
図6】配列番号1の断片およびその融合タンパク質を使用したドットブロット分析に基づく、患者の試料からのIgM抗体の検出を示す図である。
【
図7】配列番号1の断片およびその融合タンパク質を使用したドットブロット分析に基づく、患者の試料からのIgA抗体の検出を示す図である。
【
図8】配列番号1の断片およびその融合タンパク質を使用したドットブロット分析に基づく、患者の試料からのIgG抗体の検出を示す図である。
【
図9】配列番号1の断片およびその融合タンパク質を使用したドットブロット分析に基づく、患者の試料からのIgM抗体の時間依存的検出を示す図である。
【
図10】配列番号1の断片およびその融合タンパク質を使用したドットブロット分析に基づく、患者の試料からのIgG抗体の時間依存的検出を示す図である。
【
図11】配列番号1の断片およびその融合タンパク質を使用したドットブロット分析に基づく、患者の試料からのIgA抗体の時間依存的検出を示す図である。
【
図12】RBDを含むポリペプチドを使用したウエスタン分析に基づく、患者の試料からのIgA抗体の検出を示す図である。
【
図13】RBDを含むポリペプチドを使用したウエスタンブロット分析に基づく、患者の試料からのIgM抗体の検出を示す図である。
【
図14】RBDを含むポリペプチドを使用したウエスタンブロット分析に基づく、患者の試料からのIgG抗体の検出を示す図である。
【
図15】配列番号1を含むポリペプチドを使用したウエスタンブロット分析に基づく、患者の試料からのIgA抗体の時間依存的検出を示す図である。
【
図16】配列番号1を含むポリペプチドを使用したウエスタンブロット分析に基づく、患者の試料からのIgM抗体の時間依存的検出を示す図である。
【
図17】配列番号1を含むポリペプチドを使用したウエスタンブロット分析に基づく、患者の試料からのIgG抗体の時間依存的検出を示す図である。
【実施例】
【0125】
[例1][ELISAイムノアッセイ試料を使用した、配列番号1に対する抗体の検出]
Cormanら(Corman et al.(2020)Diagnostic detection of 2019-nCoV by real-time RT-PCR,https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/protocol-v2-1.pdf?sfvrsn=a9ef618c_2)によって記載されるPCRによりSARS-CoV-2陽性と検査された患者からの8試料を感染6~14日後に入手し、感染後のより初期時点で得られたこのような患者からの14試料が入手可能であった。
【0126】
さらに、MERSに感染した患者からの18試料と、SARS-CoV-1に感染した患者からの3試料と、NL63の4人の患者と、229Eの3人の患者と、OC43の6人の患者と、HKU1の3人の患者を含むさまざまなコロナウイルスを含有する試料範囲が入手可能であった。
【0127】
[抗原でコーティングされたマイクロタイタープレートの調製]
配列番号4の人工シグナル配列およびC末端Hisタグを有するpTriEx-1プラスミドへの標準的なクローニングを使用して、配列番号2をHEK293T細胞で発現させて、配列番号2、およびシグナルペプチドの除去後、配列番号3の発現を得た。トランスフェクト細胞を、10%ウシ胎児血清、100U/mlペニシリンおよび0.1mg/mlストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地中、37℃および8.5%CO2で3~5日間培養した。細胞を収穫し、20mM Tris-HCl pH7.4、10%(w/v)スクロース、5mM EDTA、1mM PMSFに再懸濁し、さらに使用するまで-80℃で保管した。
【0128】
配列番号3を調製するため、細胞培養物上清を、5mmol/lトリス塩化物pH8.0、164mmol/l塩化ナトリウム、50mmol/塩化マグネシウム、20mmol/イミダゾール、0.1% Triton X-100に調整し、4℃、176000×gで30分間の遠心分離によって清澄化し、5mmol/lトリス塩化物pH8.0、300mmol/l塩化ナトリウム、20mmol/lイミダゾールで平衡化したNickel Rapid Run(Agarose Bead Technologies、マイアミ、FL、米国)に適用し、イミダゾール濃度を150mmol/lまで増加させることによって溶出した。配列番号3を含有する全ての画分をプールし、限外濾過(VivaSpin、Sartorius、Gottingen、ドイツ)によって濃縮した。最終調製物をさらに使用するまで-80℃で保管した(Gottingenのoはウムラウト付)。
【0129】
配列番号3の最終タンパク質調製物を、16mmol/lのジチオトレイトールで処理してまたはしないで、70℃または室温で10分間インキュベートし、引き続いてSDSゲル電気泳動およびクーマシー染色をした。質量分析によってタンパク質同一性を検証した。
【0130】
マイクロタイターELISAに使用するために、精製したタンパク質をPBSに希釈しておよそ1.5μg/mlの最終濃度にし、これを使用してELISAマイクロタイタープレート(Nunc、Roskilde、デンマーク)を一晩コーティングした。
【0131】
[実験手順]
試料をIgG試料バッファーに1:101希釈し、マイクロタイタープレートに適用し、市販の試薬(例えば、塩濃度およびpHに関して本質的に生理学的条件を有するバッファーである、EI2260-9601G/A)を使用して、市販のEUROIMMUN ELISA検査キットに記載されるようにインキュベートした。EI2260-9601G/Aのマニュアルに従った。手短に言えば、37℃で60分間;洗浄バッファーを使用した3回の洗浄ステップ;1ウェル当たり100μlのペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgGコンジュゲート(ウサギ)または抗ヒトIgAコンジュゲート(ウサギ)の添加;37℃で30分間のインキュベーション;EUROIMMUN洗浄バッファーを使用した3回の洗浄ステップ;1ウェル当たり100μlの色素原/基質溶液(TMB/H2O2)の添加;室温で30分間のインキュベーション;100μlの停止溶液(0.5M硫酸)の添加;参照としての630nmでの光学濃度に対する450nmでの光学濃度の測定。市販の較正物質(製品番号EI2606-9601A、EUROIMMUN Medizinische Labordiagnostika AG)を使用して較正を行った。対照または患者試料の吸光度を較正物質の吸光度で割ることによって比を計算した。0.8未満の結果を陰性とみなし、0.8~1.1の間の結果を境界とみなし、1.1超の結果を陽性とみなした。
【0132】
[結果] 一次データを表1に示す。
【0133】
【0134】
[結論]
結果は、配列番号1に対する抗体を使用して、ヒト患者からの試料でSARS-CoV-2感染症を診断することができることを示している。
【0135】
IgGおよびIgAクラス抗体を認識する二次抗体で得られたデータの比較は、少なくとも疾患の初期段階では、IgA抗体の検出がより高感度であることを示している。発症後6日より前の感染の初期段階で採取された4/14患者試料を、IgAクラス抗体が検出された場合、陽性として正しく同定することができたが、同じ試料でのIgGの検出は陰性結果をもたらした。
【0136】
両アッセイは、SARS-CoV-1患者からの試料との交差反応性を示したが、MERSや、NL63、229E、OC43、HKU1に感染した患者らからの複数の試料の事実上いずれとも交差反応性を示さなかった。異なる時間分解Igクラスシグニチャー、特にSARS-CoV-1におけるIgAクラス抗体の遅い出現に基づいて(Hsue,P.R.,Huang,L.M.,Chen,P.J.,Kao,C.L.,and Yang P.C.(2004)Chronological evolution of IgM,IgA,IgG and neutralization antibodies after infection with SARS-associated coronavirus,Clinical Microbiology and Infection,10(12),1062-1066)、SARS-CoV-1とSARS-CoV-2の区別が可能である。SARS-CoV-2のアウトブレイク以来、SARS-CoVのケースはほぼ全く報告されていない。
【0137】
独立した研究者らによるさまざまな過去に公開された刊行物が本発明者らの知見を裏付けている。Jaaskelainenらは、SARS-CoV-2のIgG、IgAおよび/またはIgM抗体を検出するための6つの市販の血清学的アッセイによる比較試験から、試験した6つのアッセイの中で、S1に対するIgAの検出に基づくEUROIMMUNアッセイが最高の感度をもたらすと結論付けた(Jaaskelainen,A.J.,Kuivanen,S.,Kekalainen,E.,Ahava,M.J.,Loginov,R.,Kallio-Kokko,H.,Vapalahti,O.,Jarva,H.,Kurkela,and Lappalainen,M.(2020),J.Clin.Virology 129,104512)(JaaskelainenのaaとKekalainenの二つのaは共にウムラウト付)。Okbaらも同様の結果を得た(Okba et al.,Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2-Specific Antibody Responses in Coronavirus Disease Patients.Emerg Infect Dis.2020 Jul;26(7):1478-1488,prepublished on medRxiv 2020.03.18.20038059)。Beavisらは、本発明によるIgAに基づくアッセイの感度が疾患の初期段階で優れているが、IgGアッセイが後期段階で優れていることを確認した(Beavis,K.G.,Mathushek, S.M.,Abeleda,A.P.F.,Bethel,C.,Hunt,C.,Gillen,S.,Moran,A.,and Tesic,V.(2020)Evalutaion of the EUROIMMUN Anti-SARS-CoV-2 ELISA Assay for detection of IgA and IgG antibodies,J.Clin.Virology 129,104468)。
【0138】
要約すると、本発明によるアッセイを、配列番号1に診断的に関連する抗体の初期検出に使用することができる。一部の患者では、症状の発症から6日経過する前に、真陽性結果を見出すことができる。そのため、このアッセイは、PCRに基づくアッセイを使用することができる期間とイムノアッセイを使用することができる期間との間の診断の差を埋めるまたは少なくとも狭めるのに役立つ。
【0139】
[例2][配列番号1に対するIgA抗体を検出するための検査の診断信頼性および妥当性をさらに特徴付けることを目的とした拡大ELISA検査]
本アッセイの感度を決定する目的で、例1に記載されるのと同様のアッセイに基づいて、EUROIMMUN製品番号EI2606-9601Aを使用して、152人のヨーロッパ人患者からの166試料でIgA抗体の存在または非存在を検出した。対象の試料の各々で、感染の初期段階からの試料に基づいて、Corman VM,et al.Detection of 2019 novel coronavirus(2019-nCoV)by real-time RT-PCR.Euro Surveill 25(3):pii=2000045(2020-01-23)に従って、RT-PCRを使用して、SARS-CoV-2感染症を確認した。
【0140】
手短に言えば、このアッセイは、精製された配列番号1を含む抗原でコーティングされたマイクロタイタープレートを使用したELISAに基づく。試料とインキュベートし、生理学的バッファーを使用して大規模な洗浄ステップを行った後、酵素活性標識で標識されたIgAに対する二次抗体を使用して、配列番号1に対するIgA抗体を特異的に装飾し、引き続いて発色基質のインキュベートを行う。さらなる詳細は、製品(EUROIMMUN製品番号EI2606-9601A)と共に供給されるマニュアルに中に見出すことができ、この製品マニュアルは参照により本明細書に組み込まれる。
【0141】
感染の経過後に得られた試料に基づいて、血清学的特性評価を行った。
【0142】
症状の発症後10日目までに得られた(または陽性RT-PCRによる感染の直接検出後10日目までに得られた)試料で、配列番号1に対するIgAに関する60.2%の感度が決定された。10日目より後に得られた試料では感度が98.6%であった。
【0143】
しかし、これらの結果および免疫応答は極めて個別的である。例えば、患者の少数はIgA応答もIgG応答もIgM応答も全く示さない場合がある。
【0144】
まとめると、このさらなる検査もまた、配列番号1に対するIgAクラス抗体の特異的検出が、既に疾患の初期段階でのSARS-CoV-2感染症の検出に特に高い感度を提供することを首尾一貫して示している。
【0145】
[例3][ELISAによって示されるSARS-CoV-2患者における経時的なさまざまな診断的に関連する抗体の持続性]
配列番号1(IgA、IgG)およびNタンパク質(IgG、IgM)に対する抗体レベルの時間経過を2人の患者で監視した(
図1)。両者は軽度の疾患経過を呈したが、感染症がRT-PCRによって確認されていた。一時的な嗅覚消失などの典型的な特定の症状が観察された。EUROIMMUN製品EI2606-9601AおよびEI2606-9601G(抗原としてS1タンパク質、それぞれIgAまたはIgGを検出)ならびにEI2606-9601-2GおよびEI2606-9601-2M(抗原としてNタンパク質、それぞれIgGまたはIgMを検出)を、参照により本明細書に組み込まれる製造業者の説明書に従って使用した。検査の原理および主成分は例2に概説されるが、どの抗体を検出するかに応じて、異なる抗原(配列番号1を含むポリペプチドの代わりに、抗原としてNタンパク質)ならびに異なる二次抗体(IgA、IgGまたはIgMに結合する)を使用した。追加の情報は、EI2606-9601A、EI2606-9601G、EI2606-9601-2GおよびEI2606-9601-2M(EUROIMMUN)の製造業者の説明書で入手可能である。
【0146】
疾患の経過を4ヶ月超にわたって監視した。最初に配列番号1に対するIgAおよびIgGならびにNタンパク質に対するIgGは検出可能であったが、IgMは検出可能でなかった。両患者で、配列番号1に対するIgAまたはIgGの少なくとも一方が4ヶ月後に検出可能であったが、Nタンパク質に対するIgGは存在しなかった、または最初の陽性PCRの2ヶ月後という早さでごく弱かった。
【0147】
これらの結果は、配列番号1に対する抗体が少なくとも一部の患者でNタンパク質に対する抗体が持続するより長く持続することを示している。IgA抗体のレベルはIgG抗体レベルよりも急速に低下するが、IgA抗体は、その最初に高いシグナルのために、消失しながら、依然として主要なままであり得る。第3の患者による別の時間経過の監視を
図2に示す。本質的に、同じ方法を使用して、配列番号1に対するIgAクラス抗体(正方形)、配列番号1に対するIgGクラス抗体(三角形)およびNタンパク質に対するIgGクラス抗体(円形)を決定した。
図2から明らかなように、S1[配列番号1]に対するIgAクラス抗体は監視した期間全体にわたって、すなわち、RT-PCRによって確認されたSARS-CoV-2感染後40日後でさえ、検出可能であったが、配列番号1またはSARS-CoV-2 Nタンパク質に対するIgGクラス抗体のレベルはカットオフ未満(またはこれに近い)ままであった。よって、これらのデータはさらに、配列番号1抗原に結合したIgAクラス抗体の特異的検出に基づく本アッセイの優れた感度を確認している。
【0148】
[例4][経時的にさまざまな抗体を監視するために使用される配列番号1に対する抗体を検出するための化学発光に基づくアッセイ]
試薬カートリッジ(LS1254-10010G)を含む、製造業者の説明書およびデフォルト設定に従って、EUROIMMUN Random Access RA 10 Analyzer(YG0710-0101)を使用した。製造業者の説明書を使用して、トシル活性化(tosylactivated)常磁性ビーズ(M-280、Invitrogen)をコーティングした。手短に言えば、ビーズを、IKA Roller 10(VWRによって供給)で、コーティングバッファー(0.1Mリン酸ナトリウム pH7.4)中35℃で10分間洗浄し、引き続いてビーズを磁気濃縮し、上清を除去した。例1に従って精製した組換えポリペプチド(配列番号3)を同じバッファーに添加し、引き続いて3M硫酸アンモニウムを添加し、同じ条件下で19時間インキュベートし、引き続いて洗浄バッファー(PBS pH7.4 0.1%BSA 0.2%Tween-20)を使用して2回の洗浄ステップを行い、同じバッファー中、37℃で4時間ブロッキングし(PBS pH7.4 0.1%BSA 0.2%Tween-20)、さらに2回洗浄ステップを行った。ビーズを同じバッファー中、4℃で少なくとも16時間保管した。
【0149】
常磁性ビーズを試料バッファー(Tris-HCl EDTA中BSA/Tween-20 pH7)と混合することによってアッセイを行った。20μlのビーズ懸濁液(1mg/ml)を5μlの試料(すなわち、患者の血液試料)と試料バッファー中合計200μlで接触させた。10分間のインキュベーション後、ビーズを試料バッファーで3回洗浄し、引き続いて160μlのIgG/IgAコンジュゲート(EUROIMMUN Medizinische Labordiagnostik AG、LK0711-10010、本質的にアクリジニウムエステルで標識されたIgGまたはIgA特異的二次抗体)を添加し、37℃で10分間インキュベートした。3回の洗浄ステップ後、アルカリ性過酸化水素を迅速に添加し、混合して発光を誘因し、引き続いて10秒間即時発光検出を行った。結果を表2に示す。
【0150】
【0151】
これらの結果は、化学発光を使用して配列番号1に対する抗体を検出することができることを示している。ELISAによって得られる結果との良好な相関がある。したがって、化学発光を使用して本発明を実施することができる。
【0152】
[例5][配列番号2を発現するHEK-S1細胞による間接免疫蛍光アッセイ(IFA)]
SARS-CoV-2 S1タンパク質を発現する組換えHEK293細胞またはHEK293対照細胞のバイオチップアレイを含むスライドを使用してIFAを行って、この方法を配列番号1に対する抗体の検出に使用することができることを示した。
【0153】
各バイオチップモザイクを35μLの1:100 PBS希釈血清試料と室温で30分間インキュベートし、PBS-Tweenで洗浄し、PBS-Tweenに5分間浸漬した。第2のステップで、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識ヤギ抗ヒトIgG(EUROIMMUN Medizinische Labordiagnostika AG、Lubeck)(Lubeckのuはウムラウト付)を適用し、室温で30分間インキュベートした。スライドをPBS-Tween流で再度洗浄し、次いで、PBS-Tweenに5分間浸漬した。スライドを、PBS緩衝化、DABCO含有グリセロール(1フィールド当たりおよそ10μL)に包埋し、蛍光顕微鏡法によって調べた。あるいは、スライドをPBSと30分間インキュベートした後、血清インキュベートし、結合したヒトIgGを、抗ヒトIgGビオチン(1:200、109-065-098、Dianova)と30分間インキュベートし、引き続いて上記の洗浄ステップを行い、ExtrAvidin-FITC(1:2000、E2761、Sigma-Aldrich)と30分間インキュベートし、引き続いてさらなる洗浄ステップを行うことによって検出した。対照トランスフェクト細胞および対照試料と直接比較したトランスフェクト細胞の蛍光強度に基づいて、試料を陽性または陰性として分類した。EUROStar II顕微鏡(EUROIMMUN Medizinische Labordiagnostika AG、Lubeck、ドイツ)を使用して2人の独立した観察者によって結果を評価した。試薬は、特に指定しない限り、Merck、Darmstadt、ドイツまたはSigma-Aldrich、Heidelberg、ドイツから入手した。
【0154】
S1 IgG ELISA陽性患者血清(PS)の血清は、S1(配列番号2)との陽性反応を示したが、対照トランスフェクトHEK細胞は示さず(
図3)、49のS1 IgG ELISA陰性対照血清のいずれも反応しなかった。患者血清のシグナル強度は、血清インキュベーション前にHEK-S1細胞をPBSとインキュベートし、抗ヒトIgG-ビオチン/ExtrAvidin-FITCでヒトIgG抗体を検出することによって改善された。まとめると、15/24のS1 IgG ELISA陽性患者血清が、抗ヒトIgG-ビオチン/ExtrAvidin-FITCを用いたHEK-S1 IFAで陽性反応を示した。
【0155】
したがって、IFTは本発明を実施するために使用することができる別の方法である。
【0156】
[例6][ワクチン接種試験]
健康な対象に、生理学的PBS中12.86μgの組換えS1タンパク質(配列番号3)の四頭筋への注射を1日目に受けさせた。製造業者の説明書に従って、アルムアジュバンス(alum adjuvans)(Twinrix成人用、EMRA-MED Arzneimittel GmbH)を適用した。9日目、21日目および28日目に、対象に、さらなる生理学的PBSバッファー中12.86μgのS1タンパク質の注射および500μl塩化ナトリウム溶液中10μlのImjectアラウンアジュバンス(Thermo Scientific Imject Alum Ajurant Alaun)を受けさせた。血液試料を10日目、23日目および29日目に入手した。
【0157】
製造業者の説明書に従って、血清学的キット(EUROIMMUN Medizinische Labordiagnostika AG、EI2606-9601A、EI2606-9601G、EI2606-9601-2GおよびEI2606-9601-2M、例2および例3に記載)を使用して、健康な対象からの血清試料中の配列番号1(S1)およびNタンパク質に対するIgGおよびIgA抗体の存在を決定した。決定された抗体価を表3に示す。
【0158】
【0159】
陽性対照および陰性対照として、SARS-CoV-2感染症を患っている患者からの試料(すなわち、SARS-CoV-2に対する抗体の存在が予想される)および健康な献血者からの試料(すなわち、SARS-CoV-2に対する抗体の非存在が予想される)を使用した。表4および表5をそれぞれ参照されたい。
【0160】
SARS-CoV-2感染症を患っている2人の患者(陽性対照)で、症状の発症(通常、感染5~6日後)の17日後および19日後に試料を入手した。決定された抗体価を表4に示す。
【0161】
【0162】
ワクチン接種を受けなかった4人の健康な対象(陰性対照)から、試料を入手した。抗体価を表5に示す。
【0163】
【0164】
これらの結果は、配列番号1に対する抗体の検出に基づくアッセイを使用することによって、配列番号1またはその変異体をワクチン接種した対象を、感染対象または配列番号1もその変異体も含まないワクチンで処置された対象と区別することができることを示している。ワクチンに含まれるS1に対する抗体は両者で検出することができ、Nタンパク質に対する抗体は感染患者でのみ検出されるが、ワクチン接種対象では検出されない。
【0165】
[例7][ドットブロットを使用したRBDおよびS1に対する抗体の検出]
[試薬] RBD(配列番号34)およびS1(配列番号3)抗原を例1に記載されるように入手した。希釈バッファー(1×ユニバーサルバッファー(10倍濃縮物、製品番号20125896)中3%ウシ血清アルブミン)中の陽性PCR検査によって示されるSARS-CoV-2を患っている患者からの試料(1075、1076、1078、1079、1080、1084、1085、1098、1099、1100)の希釈物を調製した。健康な献血者からの試料(BS01、BS10、BS25、BS32、BS43)を追加の陰性対照として使用した。
【0166】
陽性対照として使用されるモノクローナル抗体AK78、AK76およびAK80はそれぞれ、モノクローナル抗Hisタグ抗体とした(Lindner P,Bauer K,Krebber A,Nieba L,Kremmer E,Krebber C,Honegger A,Klinger B,Mocikat R,Pluckthun A.Specific detection of his-tagged proteins with recombinant anti-His tag scFv-phosphatase or scFv-phage fusions.Biotechniques.1997 Jan;22(1):140-9)。(Pluckthunの最初のuはウムラウト付)
【0167】
1μlの抗原溶液(2.69mg ml-1)をストリップ上に移すことによって、ブロットストリップを作製した。メンブレンは0.22μmニトロセルロースメンブレン(Sartorius)とした。
【0168】
IgA、IgGおよびIgMに対する二次抗体(それぞれ、「抗ヒトIgA-AP」、「抗ヒトIgG-AP」および「抗ヒトIgM-AP」)はEUROIMMUN製であった(アルカリホスファターゼ標識抗ヒトIgA/G/M(ヤギ)、製品番号ZD1129A/G/M)。NBT/BCIPも同様であった(製品番号10 123964)。
【0169】
[方法] 洗浄バッファー(1×ユニバーサルバッファー(10倍濃縮物 製品番号20125896)中3%ウシ血清アルブミン)中で15分間インキュベートし、引き続いて適切に希釈した試料中、室温で3時間ストリップをインキュベートし、引き続いて洗浄バッファーを使用した洗浄ステップを3回行い、引き続いて適切に希釈した試料中でさらに3時間ストリップをインキュベートし、引き続いて再度3回の洗浄ステップを行い、引き続いてNBT/BCIP溶液中で10分間のインキュベーションによって染色し、ストリップを脱塩水中で3回完全に洗浄することによってこれを停止することによって、ブロットストリップをブロッキングした。
【0170】
[結果]
図4および
図5は、試料および対照のドットブロット分析の結果を示している。試料の代わりにモノクローナル抗体を使用した陽性結果および陰性対照を使用した場合にシグナルがないことによって判断されるように、アッセイを首尾よく確立することができた。
【0171】
S1とRBDの両方を使用してIgM、IgAおよびIgG抗体を検出することができるが、反応は一般的に、S1を使用した場合にわずかに強く、RBDとこれに隣接する配列の両方がエピトープまたはその一部を含有することを示唆している。さらに、抗原-抗体相互反応の一部は、抗原の折り畳みによって影響され得る。
【0172】
興味深いことに、患者1085ではIgAおよびIgM抗体を検出することができたが、IgG抗体を検出することができず、特にIgGに加えて、IgA抗体の検出が感度を増強するというELISAに基づく結果を確認している。IgG抗体がまだ検出可能でなかった疾患の初期段階で患者を検査したのかもしれない。逆に、患者1100ではIgG抗体のみが検出可能であり、その試料はIgA抗体の消失後の、疾患の後期段階で得られたのかもしれない。IgAおよびIgG抗体は一般的にIgM抗体よりも強力なシグナルをもたらした。
【0173】
[例8][ドットブロットを使用した、RBDおよびS1に由来するペプチドに対する抗体の検出]
ペプチドP1(RTQLPPAYTNS、配列番号41)、P2(SGTNGTKRFDN、配列番号42)、P3(LTPGDSSSGWTAG、配列番号35)、P4(NNLDSKVGG、配列番号55)、P5(YQAGSTPCNGV、配列番号36)、P6(YGFQPTNGVGYQ、配列番号37)およびP1~P6を含む融合物(配列番号56)を、IPTG誘導を使用して、カナマイシンおよびクロラムフェニコールを含有するLB培地中、37℃で3時間、pET24dプラスミドに基づく標準的な方法を使用して、大腸菌Rosetta(DE3)pLacI細胞によって、プロテアーゼ切断部位を含むN末端Hisタグ融合物(P1:配列番号43;P2:配列番号44;P3:配列番号45;P4:配列番号46;P5:配列番号47;P6:配列番号48;P1~P6を含む融合物:配列番号49を含む融合物の配列)として発現させた。細胞を収穫し、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁し、さらに使用するまで-20℃で保管した。
【0174】
図6、
図7および
図8は、P1~P6構築物を使用したドットブロットアッセイの結果を示している。RBDの一部であるP6が、IgA、IgMまたはIgGが検出されたかどうかにかかわらず、最も強力な反応を示したが、P1、P2(IgMを除く)、P3およびP4(IgMを除く)ならびにP5でもいくらかの反応性を実証することができた。IgGおよびIgAとの反応が一般的にIgMよりも強力であった。
【0175】
数人の患者からの2つ以上の試料を含む時間経過を表す試料は、ドットブロットを使用して患者を監視することができることを示した。例えば、患者SK1586(3つの時点)は、特にP3(
図9)に関して、第1の試料(1.3i)で最も強力なIgM反応を有するが、第2の試料(1.11.i)および第3の試料(1.19)を使用するとシグナルは弱い。ペプチドP1およびP6を使用してIgAを検出した場合、同じ試料はより強力な反応を示した(
図10)。IgG抗体を検出する場合、反応は一般的により強力であるが、同じ試料、特にP6、P1およびP1~P6を含む融合タンパク質を使用して、時間依存的反応を監視することができる(
図11)。例7および8は、ドットブロットおよび配列番号1のさまざまな断片を使用して、配列番号1に対する抗体を検出することができることを示している。
【0176】
[例9][ウエスタンブロットを使用したRBDおよびS1に対する抗体の検出]
2μgのRBD(配列番号34)またはS1(配列番号3)を使用して、非還元SDS PAGEを実行した。10μlのタンパク質を含む試料を、4μlのNuPAGE-PP(NuPage LDS試料バッファー(4倍)、Firma Fisher Scientific GmbH)および1μlのEU-PBS(リン酸緩衝生理食塩水)と混合し、70℃で10分間インキュベートした。1レーン当たり12μlの得られた溶液を非還元2Dゲル(NuPAGE 4~12%Bis-Trisゲル 1.0mm×2D、Fisher Scientific GmbH)に適用し、泳動バッファー(NuPage MOPS SDS泳動バッファー、Fisher Scientific GmbH)で電気泳動に供した。分離したタンパク質バンドを、400mA(PowerPac HC Power Supply、Firma Bio-Rad)で60分間、ニトロセルロースメンブレンに移した。ポンソーSを使用してメンブレンストリップを染色し、引き続いて50mM Trisで洗浄したが、いずれにしても洗浄バッファー(1×ユニバーサルバッファー(10倍濃縮物 注文番号:20125896)中3%ウシ血清アルブミン)で15分間のブロッキングに供し、引き続いて適切に希釈した試料中、室温で3時間、ストリップをインキュベートし、引き続いて洗浄バッファーを使用した洗浄ステップを3回行い、引き続いて適切に希釈した試料中でさらに30分間ストリップをインキュベートし、引き続いて再度3回の洗浄ステップを行い、引き続いてNBT/BCIP溶液中で10分間のインキュベーションによって染色し、ストリップを脱塩水中で3回完全に洗浄することによってこれを停止した。
【0177】
[結果] 陽性対照(前の通りの抗His抗体)およびSARS-CoV-2感染患者からの陽性試料は、RBD単量体に加えて、二量体、三量体および四量体が検出されたことを示している。IgAクラス抗体を検出する二次抗体を使用すると、6つの血清で弱い反応が検出され、別の3つの血清で弱い反応、1つの血清で強力な反応が検出された。異なる時点からの2つ以上の試料が入手可能で、反応性であった場合、例えば試料SK159822.1i~2.4iならびに試料6iおよび61iと7iおよび7.1iで、IgA抗体の濃度の低下が観察された(
図12)。
【0178】
IgGクラス抗体の検出に関して、ELISAによって判断されるように、陽性であった全ての試料が、反応を示した(
図13)。両方法の結果に基づいて、試料SK1606 169iは陰性であった。
【0179】
IgMクラス抗体の検出に関して、異なる時点からの2つ以上の試料が入手可能であった場合、一部の場合、特にSK15862.2~SK15862.16ならびにSK159986i~SK1599861iで、抗体の濃度低下が検出された(
図14)。抗原としてRBDではなくS1を使用した場合に、結果が極めて同等であった(
図15、
図16および
図17)。
【0180】
ウエスタンブロット法が、本発明を実施するために使用することができる別の方法であると結論付けられる。
【0181】
[例10][競合試験フォーマットを使用したRBDに対するIgA、IgMおよびIgG抗体の検出]
特に指定がない限り、製造業者の説明書に従って、EUROIMMUN SARS-CoV-2 NeutraLISAキット(EI2606-9601-4)を以下の実験に使用した。
【0182】
手短に言えば、ヒト細胞株HEK293で組み換え的に発現されるSARS-CoV-2のスパイクタンパク質のS1ドメイン(配列番号3)でコーティングされたマイクロタイタープレートを使用した。分析の第1のステップで、対照および試料(対象の血液試料)を、可溶性ビオチン化ヒトACE2(配列番号50)を含有する試料バッファーで希釈し、マイクロタイタープレートの試薬ウェルでインキュベートした。試料中に存在する中和抗体が、コーティングされたSARS-CoV-2 S1スパイクタンパク質の結合部位についてACE2と競合する。非結合ACE2および非結合試料をその後の洗浄ステップで除去した。結合したACE2を検出するために、第3のステップで、マイクロタイタープレート上の抗原に固定化されたビオチン化ACE2に結合し、呈色反応を触媒するペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンを使用して、第2のインキュベーションを実施した。発色の強度は、表6に示されるように、試料中の中和抗体の濃度に反比例する。
【0183】
【0184】
結果は、陽性試料の希釈増加、すなわち、中和抗体の濃度低下が、発色の増加をもたらすことを示している。対照的に、陰性試料を使用すると、シグナルは高く、試料の希釈と相関しない。
【0185】
このことは、このアッセイを使用して、試料中のRBDに対する中和抗体を検出および定量化することができることを確認している。
【0186】
[例11][ELISAによるSARS-CoV-2抗原S1およびNタンパク質に対する抗体の検出]
43人のドイツ人COVID-19患者の各々からの感染後の異なる時点で採取したいくつかの試料を含むパネルを使用して、経時的な抗体の存在または非存在を検出した。全ての血清を、SARS-CoV-2スパイクドメインのS1ドメイン(配列番号3)に対する抗体(IgAおよびIgG ELISAキット、EUROIMMUN、例2および3の製品)およびNタンパク質に対する抗体(IgGおよびIgM ELISAキット、EUROIMMUN、例2および3の通り)について検査した。
【0187】
発症の10日後超~21日後未満の間に、SARS-CoV-2のS1に対するIgGおよびIgA抗体が試料の70.4%および88.9%で検出された一方、Nタンパク質に対するIgGおよびIgMがそれぞれ86.2%および50%で検出された。6人の患者で、S1に対するIgA抗体が、検出することができた最初の抗体であった一方、S1に対するIgA以外の抗体が、検出される最初の抗体であったのはわずか2例であった。30人の患者では、Nタンパク質に対するIgM抗体はいかなる時にも検出することができなかった。
【0188】
発症60日後超では、SARS-CoV-2のS1に対するIgGおよびIgA抗体が試料の85.1%および80.5%で検出された一方、Nタンパク質に対するIgGおよびIgMがそれぞれ81.4%および0%で検出された。4人の患者で、S1に対するIgGが検出可能であったが、Nタンパク質に対するIgGが検出可能でなかった。対照的に、わずか1人の患者で、Nタンパク質に対するIgGが検出可能であったが、S1に対するIgGが検出可能でなかった。
【0189】
これらの結果は、S1に対するIgAの検出が、SARS-CoV-2、より具体的にはそのS1タンパク質に対する抗体応答の初期検出にとって最も高感度なアッセイであることを確認している。対照的に、S1に対するIgGの検出は、感染症の後期段階で特に高感度である。場合により長期間にわたる感度増加のために追加のアッセイと組み合わせて、感度増加のために1つの反応でまたは別個の反応で、S1に対するIgAの検出およびS1に対するIgGの検出による両アッセイを組み合わせることができる。
【0190】
[例12][SARS-CoV-2感染症の後期の間のELISAによるSARS-CoV-2抗原S1およびNタンパク質に対する抗体の検出]
例11と同じ方法論を使用して、発症の21日後以降に採取したSARS-CoV-2感染症を患っている15人の患者の別のコホートからの試料を入手し、Nタンパク質に対するIgGおよびIgM抗体ならびにS1タンパク質に対するIgAおよびIgG抗体の存在について検査した。結果を表7に示す。
【0191】
【0192】
この追加のコホートでの検査は、診断感度が、S1タンパク質に対する抗体を検出する場合にSARS-CoV-2感染症の後期で最高となることを確認している。
【0193】
[例13][SARS-CoV-2抗原S1およびNタンパク質に対する抗体の検出の特異性]
抗SARS-CoV-2 ELISA(IgA、EI2606-9601A、製造業者の説明書に従って行った、さらなる詳細は例2および3)の特異性を、例えば、他のヒト病原性コロナウイルス、他の病原体に対する抗体、またはリウマチ因子が陽性である210の患者試料を分析することによって決定した。さらに、SARS-CoV-2の発生前(2020年1月より前)に入手した献血者、子供および妊婦からの1052試料を分析した。境界範囲の結果(n=9)は特異性の計算に含めなかった。これにより、表8に示されるように98.3%の特異性が得られた。
【0194】
抗SARS-CoV-2 ELISA(IgG、EI2606-9601G、製造業者の説明書に従って行った、さらなる詳細は例2および3)の特異性を、222の陽性患者試料ならびに献血者、子供および妊婦からの1052の試料に基づいて、同様に決定した。これにより、表8に示されるように98.3%の特異性が得られた。
【0195】
【配列表】