(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】ソフトカプセル充填用組成物およびソフトカプセル剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/122 20060101AFI20220214BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20220214BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220214BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20220214BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
A61K31/122
A61K9/48
A61K47/14
A61K47/46
A61P3/02 101
(21)【出願番号】P 2017148398
(22)【出願日】2017-07-31
【審査請求日】2020-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】391010976
【氏名又は名称】富士カプセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】近藤 美緒
(72)【発明者】
【氏名】西村 剛一
(72)【発明者】
【氏名】宇留賀 仁史
(72)【発明者】
【氏名】下川 義之
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-145831(JP,A)
【文献】国際公開第2011/132718(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/052802(WO,A1)
【文献】特開昭62-067019(JP,A)
【文献】特開2003-238396(JP,A)
【文献】特開2005-000043(JP,A)
【文献】特許第5352235(JP,B2)
【文献】特開2017-214335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化型コエンザイムQ10又は還元型コエンザイムQ10、ペンタステアリン酸デカグリセリル及びペンタオレイン酸デカグリセリルを含有することを特徴とする
25℃で2週間~2ヶ月保管中に結晶の析出が抑制されるコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
【請求項2】
ペンタステアリン酸デカグリセリルと、ペンタオレイン酸デカグリセリルとの質量比が2:8~8:2であることを特徴とする請求項1に記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
【請求項3】
コエンザイムQ10の質量と、ペンタステアリン酸デカグリセリル及びペンタオレイン酸デカグリセリルの合計質量との比が1:0.5~1:4であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
【請求項4】
組成物中コエンザイムQ10を3~30質量%含有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
【請求項5】
プロピレングリコール脂肪酸エステルを更に含有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
【請求項6】
プロピレングリコール脂肪酸エステルがジカプリル酸プロピレングリコールであることを特徴とする請求項5に記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
【請求項7】
コエンザイムQ10と、プロピレングリコール脂肪酸エステルとの質量比が1:0.5~1:3であることを特徴とする請求項5又は6に記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
【請求項8】
マリーゴールド色素を更に含有することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のコエンザイムQ10含有組成物。
【請求項9】
コエンザイムQ10の結晶析出が抑制又は防止されたことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物を充填したことを特徴とするコエンザイムQ10含有ソフトカプセル剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存中に結晶が析出しにくい、保存安定性に優れ、かつ生体吸収性が向上したコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
コエンザイムQ10は、ユビデカレノン又は補酵素Q10として知られる補酵素Qの1種である。コエンザイムQ10は、ミトコンドリアに多く分布する脂溶性のビタミン様作用物質で、電子伝達系に作用してうっ血性心不全、肺水腫、心臓性喘息、末梢の浮腫、高血圧、筋ジストロフィー、パーキンソン病等の改善や免疫機能の向上等に有用なことが報告されている。また、コエンザイムQ10には、酸化型と還元型がある。
【0003】
一般にコエンザイムQ10のような脂溶性物質は、油脂に溶解又は懸濁することにより生体への吸収性が高まることが知られている。しかしながら、コエンザイムQ10の溶解度は低く、30℃以上の保存条件下では油脂に溶解しているものの、これが室温以下に冷やされるとコエンザイムQ10の粗大な結晶が析出するという問題があった。このコエンザイムQ10の粗大な結晶は胃や十二指腸で細かく分散されないため、生体への吸収率が悪くなる。また、外観的にも劣悪な品質を想起させるものであった。
【0004】
従来、コエンザイムQ10の保存安定性を高める方法としては、例えば常温で液体の油脂に溶解してカプセルに封入する方法(特許文献1)、食用油と界面活性剤に加温溶解する方法(特許文献2)、ポリグリセロール脂肪酸エステル等の油脂に分散する方法(特許文献3)等が報告されている。しかしながら、いずれの方法によっても保存中にコエンザイムQ10の結晶が析出してしまい、カプセルの皮膜等に着色を施して結晶を隠蔽することにより対処していた。
【0005】
本出願人は、コエンザイムQ10、中鎖脂肪酸モノグリセリド及びHLB値5以下のポリグリセリン脂肪酸エステルを共存させることにより、コエンザイムQ10の微細粒子が均一に分散し、保存中、30℃を超えた後、室温以下になるような温度変化があっても粗大な結晶が析出しない、保存安定性に優れたコエンザイムQ10含有飲食品及び医薬品が得られることを報告している(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭54-92616号公報
【文献】特開昭55-81813号公報
【文献】特開昭58-13508号公報
【文献】特開2007-302585公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、保存中の温度変化によってコエンザイムQ10の結晶が析出しにくい、コエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物や、それを用いたコエンザイムQ10含有ソフトカプセル剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、当該課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、コエンザイムQ10に、ペンタステアリン酸デカグリセリル及びペンタオレイン酸デカグリセリルを共存させることによって、保存中に結晶が析出しにくい、保存安定性に優れたコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物が得られることを見いだした。さらに、かかる組成物をソフトカプセル皮膜に充填することにより、保存中の外観劣化が低減され、かつ吸収性の優れたソフトカプセル剤が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は以下のとおりである。
(1)コエンザイムQ10、ペンタステアリン酸デカグリセリル及びペンタオレイン酸デカグリセリルを含有することを特徴とするコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
(2)ペンタステアリン酸デカグリセリルと、ペンタオレイン酸デカグリセリルとの質量比が2:8~8:2であることを特徴とする上記(1)に記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
(3)コエンザイムQ10の質量と、ペンタステアリン酸デカグリセリル及びペンタオレイン酸デカグリセリルの合計質量との比が1:0.5~1:4であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
(4)組成物中コエンザイムQ10を3~30質量%含有することを特徴とする上記(1)~(3)のいずれかに記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
(5)プロピレングリコール脂肪酸エステルを更に含有することを特徴とする上記(1)~(4)のいずれかに記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
(6)プロピレングリコール脂肪酸エステルがジカプリル酸プロピレングリコールであることを特徴とする上記(5)に記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
(7)コエンザイムQ10と、プロピレングリコール脂肪酸エステルとの質量比が1:0.5~1:3であることを特徴とする上記(5)又は(6)に記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
(8)マリーゴールド色素を更に含有することを特徴とする上記(1)~(7)のいずれかに記載のコエンザイムQ10含有組成物。
(9)コエンザイムQ10の結晶析出が抑制又は防止されたことを特徴とする上記(1)~(8)のいずれかに記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物。
(10)上記(1)~(9)のいずれかに記載のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物を充填したことを特徴とするコエンザイムQ10含有ソフトカプセル剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保存中に結晶が析出しにくい、保存安定性に優れたコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物を提供することができる。また、かかる組成物をソフトカプセル皮膜に充填することにより、保存中の外観劣化が低減され、かつ、粗大な結晶が生じないため胃や腸での消化性に優れるコエンザイムQ10含有ソフトカプセル剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】コエンザイムQ10含有ソフトカプセル剤1を、25℃で約3カ月間保管した後の外観に変化がなかったことを示す写真である。
【
図2】比較例1で調製したコエンザイムQ10含有組成物(左)及び実施例4で調製した処方3のコエンザイムQ10含有組成物(右)を、室温(25℃)で2週間、1ヶ月及び2ヶ月保管した後の、実体顕微鏡写真である。
【
図3】
図3Aは、実施例6のソフトカプセル剤を、5℃、25℃/60%RH、40℃/75%RHで2週間、1ヶ月及び2ヶ月保管した後のソフトカプセル剤から取り出した内容物の、実体顕微鏡写真であり、
図3Bは、結晶の析出が見られた比較例2のソフトカプセル剤から取り出した内容物の、実体顕微鏡写真である。
【
図4】本発明のソフトカプセル剤のX線CT画像である。A、C:5℃で2ヶ月保管した実施例6のソフトカプセル剤。B、D:結晶の析出が見られた比較例2のソフトカプセル剤。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、コエンザイムQ10、ペンタステアリン酸デカグリセリル及びペンタオレイン酸デカグリセリルを含有することを特徴とするコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物に関する。
【0013】
本発明の組成物において、ペンタステアリン酸デカグリセリルと、ペンタオレイン酸デカグリセリルとの質量比は、組成物中のコエンザイムQ10結晶の析出を抑制することができる範囲であればよく、例えば1:9~9:1、2:8~9:1、3:7~9:1、4:6~9:1、5:5~9:1、6:4~9:1、7:3~9:1、8:2~9:1、1:9~8:2、2:8~8:2、3:7~8:2、4:6~8:2、5:5~8:2、6:4~8:2、7:3~8:2、1:9~7:3、2:8~7:3、3:7~7:3、4:6~7:3、5:5~7:3、6:4~7:3、1:9~6:4、2:8~6:4、3:7~6:4、4:6~6:4、5:5~6:4、1:9~5:5、2:8~5:5、3:7~5:5、4:6~5:5、1:9~4:6、2:8~4:6、3:7~4:6、1:9~3:7、2:8~3:7、又は1:9~2:8であり、好ましくは2:8~8:2、より好ましくは3:7~7:3である。
【0014】
本発明の組成物において、コエンザイムQ10の質量と、ペンタステアリン酸デカグリセリル及びペンタオレイン酸デカグリセリルの合計質量との比は、組成物中のコエンザイムQ10結晶の析出を抑制することができる範囲であれば特に制限されないが、コエンザイムQ10の分散性を高め、結晶析出を抑える観点から1:0.01~1:100が好ましく、1:0.1~1:10がより好ましく、1:0.5~1:4がさらに好ましく、1:1~1:3がさらにより好ましい。
【0015】
本発明において、コエンザイムQ10は、還元型コエンザイムQ10単独でも、酸化型コエンザイムQ10単独でも、これら還元型コエンザイムQ10と酸化型コエンザイムQ10との混合物であってもよく、本発明は、酸化型、還元型いずれにも差異なく利用可能である(効果には差がない)。また、本発明の組成物において、コエンザイムQ10の含有量は特に制限されないが、コエンザイムQ10の安定性や、ソフトカプセル剤に製剤化した際の投与の容易さ等に鑑み、例えば1~50質量%、好ましくは2~40質量%、より好ましくは3~30質量%、さらに好ましくは4~20質量%、さらにより好ましくは5~15質量%を挙げることができる。
【0016】
本発明の組成物は、コエンザイムQ10の結晶析出を抑制するために、プロピレングリコール脂肪酸エステルをさらに含むことができる。プロピレングリコール脂肪酸エステルは、プロピレングリコールと脂肪酸のエステルであり、モノエステル型、ジエステル型のものが挙げられる。具体的には、モノカプリル酸プロピレングリコール、ジカプリル酸プロピレングリコール、モノカプリン酸プロピレングリコール、ジカプリン酸プロピレングリコール、モノラウリン酸プロピレングリコール、ジラウリン酸プロピレングリコール、モノミリスチン酸プロピレングリコール、ジミリスチン酸プロピレングリコール、モノパルミチン酸プロピレングリコール、ジパルミチン酸プロピレングリコール、モノイソステアリン酸プロピレングリコール、ジイソステアリン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸プロピレングリコール、ジステアリン酸プロピレングリコール、モノオレイン酸プロピレングリコール、ジオレイン酸プロピレングリコール等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上を併用して用いてもよいが、これらの中でも特にジカプリル酸プロピレングリコールが好ましい。コエンザイムQ10と、プロピレングリコール脂肪酸エステルとの質量比は、組成物中のコエンザイムQ10結晶の析出を抑制することができる範囲であれば特に制限されないが、例えば1:0.1~1:5、好ましくは1:0.5~1:3、より好ましくは1:1~1:2を挙げることができる。
【0017】
本発明の組成物においては、コエンザイムQ10の他、必要に応じて、例えば、大豆油、菜種油、小麦胚芽油、ごま油、オリーブ油、サフラワー油、シソ油等の植物油;中鎖脂肪酸トリグリセリド、牛脂、魚油等の動物油;ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール;ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油等の界面活性剤;トコフェロールやトコトリエノール等のビタミンE類、ビタミンD2、ビタミンD3、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、ビオチン、パントテン酸、ニコチン酸、葉酸等の各種ビタミン類;各種ミネラル類;ベータカロチン、マリーゴールド色素(ルテイン)、トマト色素(リコピン)、ヘマトコッカス藻色素(アスタキサンチン)などのカロチノイド;ブルーベリーエキス、カシスエキス、レスベラトロール等のポリフェノール関連物質;食物繊維、多価不飽和脂肪酸、カルニチン、セサミン、αリポ酸、にんにくエキス、ケルセチン、黒こしょう抽出物等のその他の栄養素等を適宜添加配合することができる。
【0018】
本発明の組成物に、本発明の効果を損なわない範囲内で、さらに他の薬学上許容できる成分を添加してもよい。このような成分としては、特に制限されないが、例えば、酸化防止剤、着色剤、吸収促進剤、安定化剤、粘度調整剤等を挙げることができる。
【0019】
上記酸化防止剤としては、例えばトコフェロール、ビタミンA、β-カロチン、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、クエン酸等を挙げることができる。
【0020】
上記着色剤としては、例えば医薬品、食品に添加することが許可されているものを挙げることができ、天然色素やタール系色素を用いることができる。
【0021】
上記吸収促進剤としては、例えば高級アルコール類、高級脂肪酸類や、医薬品、食品に添加することが許可されている界面活性剤等を挙げることができる。
【0022】
上記安定化剤としては、例えば安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル等が挙げられる。
【0023】
上記粘度調整剤としては、例えばミツロウ、カンデリラロウ、モクロウ、カルナウバロウ、コメヌカロウ、サトウキビロウ、シェラクロウ、ホホバロウ等を挙げることができる。好ましくは、上記粘度調整剤はミツロウ、カンデリラロウ、モクロウであり、特に好ましくはミツロウである。
【0024】
上記分散剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0025】
本発明のコエンザイムQ10含有ソフトカプセル剤は、本発明のソフトカプセル充填用組成物を、ソフトカプセル皮膜に充填したものをいう。ここで、ソフトカプセル皮膜は、常法に従って製造することができ、例えば、ゼラチンを主成分とする基剤、並びに、ソルビトール、マルチトール及び/又はグリセリンを主成分とする可塑剤をそれぞれ水に撹拌・分散させ、60~98℃で撹拌・溶解させ、真空脱泡した後、アプリケータを用いてステンレス等の板上に均一の厚さになるように押し広げて調製することができる。また、後述するロータリーダイ式ソフトカプセル充填機等を用いた打ち抜き法の場合、ゼラチンを主成分とする基剤、並びに、ソルビトール、マルチトール及び/又はグリセリンを主成分とする可塑剤をそれぞれ水に撹拌・分散させ、60~98℃で撹拌・溶解させ、真空脱泡した後、キャスティング装置により、5~60℃の回転ドラム上に展延してソフトカプセル皮膜を調製することができる。また、本発明のソフトカプセル剤は、所定のカプセル形状に成形した後に、その成形体にカプセル内容物を充填する侵潰法によって製造することもできるが、所定のカプセル形状への成形とカプセル内容物の充填を同時に行うことが好ましく、例えば、ロータリーダイ式ソフトカプセル充填機等を用いた打ち抜き法、平板法等により製造することができる。なかでも、工業的生産性の点から、ロータリーダイ式ソフトカプセル充填機によりソフトカプセル剤を製造するのが好ましい。
【0026】
本発明の組成物は、従来のコエンザイムQ10含有組成物と比較して保存中にコエンザイムQ10の結晶が析出しにくい。ここで、保存中にコエンザイムQ10の結晶が析出しにくいかどうかの判断は、目視、実体顕微鏡、X線CT撮影等の公知の結晶観察方法で行うことができ、例えば室温、5℃、25℃又は40℃の環境下で、2週間以上、1ヶ月以上、2ヶ月以上、3ヶ月以上、4ヶ月以上、6ヶ月以上又は12ヶ月以上保存後の組成物に、結晶が析出していないか、又は長径が0.25mm以上、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.05mm以上、さらに好ましくは0.01mm以上の結晶が析出していない場合に、結晶が析出しにくいと判断することができる。上記保存は、本発明の組成物をカプセル皮膜に充填した後で行っても、充填しないまま行ってもよい。
【0027】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
[コエンザイムQ10含有組成物1の調製]
ビーカーワークにより、ペンタステアリン酸デカグリセリルとペンタオレイン酸デカグリセリルを7:3の割合で使用することでコエンザイムQ10の結晶析出が抑制されることが確認された。その後のカプセル充填を考慮した処方検討及び安定性評価から、各種油基剤の中からジカプリル酸プロピレングリコールが優れた製剤性及び予備的安定性の効果を示すことがわかったので、下記表1の組成のコエンザイムQ10含有組成物を調製し、充填テスト及び安定性評価を実施した。
【0029】
【0030】
まず、ペンタステアリン酸デカグリセリル、ペンタオレイン酸デカグリセリル及びジカプリル酸プロピレングリコールを加熱溶解し、マリーゴールド色素を添加して冷却撹拌した。その後、ビタミンE、コエンザイムQ10を順次加えて混合撹拌後、湿式粉砕(コロイドミル)処理、ろ過、脱泡を行い、コエンザイムQ10含有組成物1を調製した。かかる組成物1は作製後、5℃、室温、40℃で保管し、7日後まで析出や分離が無いことを確認した。
【実施例2】
【0031】
2.ソフトカプセル皮膜への充填テスト
ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製)100重量部あたり食添グリセリン(阪本薬品工業株式会社製)40重量部を混合し、ソフトカプセル皮膜を調製した。かかるソフトカプセル皮膜に、ロータリーダイ式ソフトカプセル充填機を用いて、実施例1で調製したコエンザイムQ10含有組成物1を270mgずつ充填し、コエンザイムQ10含有ソフトカプセル剤1を作製した。充填性に特に問題は見られなかった。
【実施例3】
【0032】
3.コエンザイムQ10含有ソフトカプセル剤1の安定性評価
コエンザイムQ10含有ソフトカプセル剤1を、25℃で約3カ月保管し、外観の変化を目視にて確認した。
【0033】
結果を
図1に示す。25℃約3カ月保管後のソフトカプセル剤ではコエンザイムQ10の析出、分離いずれもみられなかった。
【実施例4】
【0034】
4.コエンザイムQ10含有組成物2(処方1~3)の調製
コエンザイムQ10含有組成物1に、ミツロウとしてミツロウFP(日本ワックス株式会社製)、グリセリン脂肪酸エステルとしてポエムS-100(理研ビタミン株式会社製)を添加する下記表2の組成のコエンザイムQ10含有組成物2(処方1~3)を調製した。
【0035】
【0036】
まず、ペンタステアリン酸デカグリセリル、ペンタオレイン酸デカグリセリル、ミツロウFP、ポエムS-100及びジカプリル酸プロピレングリコールを加熱溶解し、マリーゴールド色素、ビタミンEを添加して冷却撹拌した。その後、コエンザイムQ10を加えて混合撹拌後、湿式粉砕(コロイドミル)処理、ろ過、脱泡を行い、コエンザイムQ10含有組成物2を調製した。
【0037】
[比較例1]
比較例として、実施例4の処方1において、ペンタステアリン酸デカグリセリル、ペンタオレイン酸デカグリセリル及びジカプリル酸プロピレングリコールに代えてトリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン(花王株式会社製)92mgを用いたこと以外は実施例4と同様の手順により、コエンザイムQ10含有組成物を調製した。
【実施例5】
【0038】
[実施例4及び比較例1のコエンザイムQ10含有組成物の安定性評価]
実施例4で調製した処方1~3のコエンザイムQ10含有組成物及び比較例1で調製したコエンザイムQ10含有組成物を、5℃、室温、40℃で1週間保管した。全ての処方においてコエンザイムQ10の結晶析出が見られなかった。
【0039】
さらに、実施例4で調製した処方3のコエンザイムQ10含有組成物及び比較例1で調製したコエンザイムQ10含有組成物を、室温(25℃)で2週間、1ヶ月及び2ヶ月保管した後、実体顕微鏡写真を撮影した。結果を
図2に示す。実施例4で調製した処方3のコエンザイムQ10含有組成物では結晶の析出が見られなかったのに対し、比較例1で調製したコエンザイムQ10含有組成物では結晶の析出が見られた。
【実施例6】
【0040】
[コエンザイムQ10含有ソフトカプセル剤2の作製]
実施例5の結果、処方1~3の全てにおいてコエンザイムQ10の結晶析出、分離が見られなかったため、充填性を考慮して処方3のコエンザイムQ10含有組成物を用いてコエンザイムQ10含有ソフトカプセル剤2を作製した。ソフトカプセル皮膜への組成物の充填は、実施例2の方法に従って行った。
【0041】
[比較例2]
比較例1で調製したコエンザイムQ10含有組成物を、実施例2の方法に従ってソフトカプセル皮膜に充填し、比較例のソフトカプセル剤を作製した。
【実施例7】
【0042】
[実施例6及び比較例2のソフトカプセル剤の性状評価]
図3Aは、実施例6のソフトカプセル剤を、5℃、25℃/60%RH、40℃/75%RHで2週間、1ヶ月及び2ヶ月保管した後のソフトカプセル剤から取り出した内容物の、実体顕微鏡写真であり、
図3Bは、結晶の析出が見られた比較例2のソフトカプセル剤から取り出した内容物の、実体顕微鏡写真である。実施例6のソフトカプセル剤では、いずれの保管条件でも、比較例2のソフトカプセル剤(
図3B)で見られるような結晶析出が見られなかった。
【0043】
図4は、5℃で2ヶ月保管した実施例6のソフトカプセル剤と、結晶の析出が見られた比較例2のソフトカプセル剤のX線CT画像である。比較例2のソフトカプセル剤ではコエンザイムQ10の結晶が白い斑点として確認できたが、実施例6のソフトカプセル剤には結晶析出が見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、保存中に結晶が析出しにくい、保存安定性に優れたコエンザイムQ10含有ソフトカプセル充填用組成物を提供することができる。また、かかる組成物をソフトカプセル皮膜に充填することにより、保存中の外観劣化が低減され、かつ、粗大な結晶が生じないため胃や腸での消化性に優れるコエンザイムQ10含有ソフトカプセル剤を得ることができるため、医療・医薬品分野、サプリメント分野における産業上の利用可能性は高い。