(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】プラズマ処理方法およびプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20220214BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
H01L21/302 101C
H05H1/46 L
(21)【出願番号】P 2017230402
(22)【出願日】2017-11-30
【審査請求日】2020-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】392022570
【氏名又は名称】サムコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 知行
(72)【発明者】
【氏名】内田 聡充
【審査官】鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-278122(JP,A)
【文献】特表2006-503423(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0097077(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/461
H05H 1/00-1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理チャンバー内に配置された下部電極の上に基板を載置する載置工程と、
前記処理チャンバー内に所定のエッチングガスが供給されている状態で、前記処理チャンバーの外部に配置された誘導結合コイルに、前記エッチングガスをプラズマ化するための高周波電力を投入して前記基板のシリコン層をエッチングし、該シリコン層に縦穴構造を形成する、シリコンエッチング工程と、
前記処理チャンバー内に所定の成膜ガスが供給されている状態で、前記誘導結合コイルに、前記成膜ガスをプラズマ化するための前記高周波電力を投入して、前記縦穴構造の側壁および底面に保護膜を形成する成膜工程と、
前記処理チャンバー内に所定のエッチングガスが供給されている状態で、前
記誘導結合コイルに、前記エッチングガスをプラズマ化するための高周波電力
を投入するとともに、前記下部電極に、自己バイアスを形成するための第1周波数成分と前記第1周波数成分よりも周波数が低い第2周波数成分が重畳された重畳電圧を印加
して、前記縦穴構造の底面に形成された前記保護膜をエッチングする
保護膜エッチング工程と、
を備え、
前記シリコンエッチング工程と前記保護膜エッチング工程のうち該保護膜エッチング工程においてのみ、前記誘導結合コイルに投入される高周波電力がパルス化されている、プラズマ処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理方法であって、
前記
保護膜エッチング工程において、
前記下部電極に、前記重畳電圧をパルス化して印加する、
プラズマ処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載のプラズマ処理方法であって、
前記
保護膜エッチング工程において、
前記誘導結合コイルに対する前記高周波電力の投入が停止され、且つ、前記下部電極に対して前記重畳電圧が印加される第1状態と、前記誘導結合コイルに対して前記高周波電力が投入され、且つ、前記下部電極に対する前記重畳電圧の印加が停止される第2状態とが、交互に繰り返し形成される、
プラズマ処理方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のプラズマ処理方法であって、
前記シリコンエッチング工程と、前記成膜工程と、前記保護膜エッチング工程とが、この順に、繰り返される、プラズマ処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載のプラズマ処理方法であって、
前記
保護膜エッチング工程
において、前記下部電極に対する前記重畳電圧の印加が開始されてから所定時間が経過した時点で、前記重畳電圧の印加を停止
して、該保護膜エッチング工程から前記シリコンエッチング工程に切り換える切り換え工程、
を備える、プラズマ処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載のプラズマ処理方法であって、
前記切り換え工程において、前記誘導結合コイルに投入する前記高周波電力のパルス化を停止する、
プラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)を用いて、基板(典型的には半導体基板)をプラズマ処理する技術に関し、特に、絶縁層の上に導電層が形成された積層構造を有する基板(典型的には、SOI基板)のプラズマ処理に好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導結合プラズマを用いたプラズマ処理を行うプラズマ処理装置は、一般に、処理チャンバーと、その外部に配置された誘導結合コイルと、処理チャンバーの内部に配置された下部電極とを備えている。このような装置において基板をエッチングする場合、まず、処理すべき基板が処理チャンバーの内部に搬入されて下部電極の上に載置される。そして、処理チャンバーの内部に所定のエッチングガスが導入されるとともに、誘導結合コイルに高周波電力が投入される。誘導結合コイルに高周波電力が投入されると、処理チャンバー内部のエッチングガスが励起されてプラズマが発生する。このプラズマには、一般に、正の荷電粒子(正イオン)、負の荷電粒子(負イオン、電子)、ラジカル、中性の粒子(電離も励起も生じなかった中性の原子や分子)、等が含まれる。
【0003】
このときに、下部電極にブロッキングコンデンサを介して高周波電圧が印加されると、プラズマ中の電子が高周波電圧により形成される電場の変動に追従して基板に流れ込み、ブロッキングコンデンサが負に帯電する。これにより基板がプラズマに対して負の電位にバイアスされる(自己バイアス)。すると、プラズマ中の正イオンが基板に向けて加速されるようになり、基板に対するエッチング(プラズマエッチング)が進行する。
【0004】
ところで、近年、電子デバイスの動作速度向上と消費電力低減に有効であるとして、Si基板に代わって、SiO2層(酸化層)の上に単結晶のSi層(シリコン層)を形成した構造のSOI(Silicon On Insulator)基板が用いられることがある。
【0005】
SOI基板のように絶縁層の上に導電層が形成された積層構造を有する基板にプラズマエッチングでパターンを形成する場合、エッチングが絶縁層の界面に到達したときに、横方向へのエッチング(ノッチング)が発生し、垂直な形状の加工ができないという問題がある。このノッチングが発生する理由について、
図7を参照しながら説明する。
【0006】
SOI基板をプラズマエッチングする場合、プラズマ中の正イオンがSOI基板9(具体的には、マスク90が形成されたSOI基板9における非マスク部分)に向けて加速されてSOI基板9に衝突することにより、該非マスク部分がエッチングされて縦穴構造が形成されていく。シリコン層91のエッチングが進んでいる間は、縦穴構造に入射した正イオンはシリコン層91に飛び込んだ電子によって中和されるため、SOI基板9は電気的に中性に保たれる。ところが、エッチングが進行して縦穴構造の底が酸化層92との界面に到達すると、縦穴構造の底(すなわち、酸化層92の表面)に入射した正イオンが電子と中和されずに該界面に蓄積するようになる。すなわち、縦穴構造の底が正に帯電(チャージアップ)する。こうなると、次に縦穴構造の底に飛び込んでくる正イオンの軌道が曲がり、この界面付近において縦穴構造の側壁をエッチングするようになる。すなわち、ノッチングが進行する。
【0007】
ノッチングの発生を抑制するための様々な試みが従来からなされている。例えば、特許文献1では、基板が載置される下部電極に周波数の異なる高周波電圧を重畳した重畳電圧を投入することが提案されている。また、特許文献2では、4MHz以下のバイアス周波数をパルス化して基板に印加することが提案されている。また、特許文献3では、周波数等を時間とともに変化させた変調バイアスを基板に印加することが提案されている。一方、特許文献4,5では、パルス化された高周波電力を、誘導結合コイルに投入することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-278122号公報
【文献】特表2002-529913号公報
【文献】特表2007-509506号公報
【文献】特表2003-505868号公報
【文献】特表2006-503423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、基板に形成すべきパターンの微細化が進み、アスペクト比(深さ/幅の比)の高いパターンを形成することのできる技術が必要とされている。ところが、SOI基板にアスペクト比が高いパターンを形成しようとすると、上述したノッチングの発生が顕著になる。これは、アスペクト比が高くなるほど、上記界面におけるチャージアップが顕著になるためである。
【0010】
ところが、従来の各技術は、アスペクト比が高くなるにつれて、ノッチングの発生が抑制されにくくなるという欠点があった。
【0011】
したがって、高アスペクト比の縦穴構造であってもノッチングの発生を十分に抑制することができる更なる技術が必要とされている。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、誘導結合プラズマを用いたエッチングにおいて、ノッチングの発生を十分に抑制することができる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明に係るプラズマ処理方法は、
処理チャンバー内に配置された下部電極の上に基板を載置する載置工程と、
前記処理チャンバー内に所定のエッチングガスが供給されている状態で、前記処理チャンバーの外部に配置された誘導結合コイルに、前記エッチングガスをプラズマ化するための高周波電力をパルス化して投入するとともに、前記下部電極に、自己バイアスを形成するための第1周波数成分と前記第1周波数成分よりも周波数が低い第2周波数成分が重畳された重畳電圧を印加するエッチング工程と、
を備える。
【0014】
上記のとおり、ノッチングは、エッチングにより基板に形成される縦穴構造の底がチャージアップすることに起因する。したがって、ノッチングの発生を抑制するためには、縦穴構造の底のチャージアップをいかに抑制できるか、すなわち、プラズマ中に存在する負の荷電粒子をどれだけ多く縦穴構造の底に引き込むことができるか、がポイントとなる。上記の方法によると、プラズマ中の負の荷電粒子を縦穴構造の底に多数引き込むことができるため、ノッチングの発生を十分に抑制することができる。その理由は次のように考えられる。
【0015】
上記の本発明による方法では、下部電極に、自己バイアスを形成するための第1周波数成分とこれよりも周波数が低い第2周波数成分が重畳された重畳電圧を印加する。これにより、比較的周波数が低い第2周波数成分によって、プラズマ中の負イオンを縦穴構造の底に引き込むことができる。ただしこのときに、プラズマ中に電子が存在していると、これによって第2周波数成分による負イオンの引き込みが抑制されてしまう。したがって、第2周波数成分による負イオンの引き込みを有効に行うためには、プラズマ中に存在する負の荷電粒子の中で電子が占める割合が低く、負イオンが占める割合が高いことが好ましい。
【0016】
誘導結合プラズマを用いた一般的なプラズマ処理では、誘導結合コイルには高周波電力をパルス化せずに(すなわち、連続的に)投入する。この場合、生成されるプラズマの電子温度は十分に高いものとなる。このとき、負イオンから電子が解離する反応が優位に進むため、プラズマ中に存在する負の荷電粒子の中で、電子が占める割合が高く、負イオンが占める割合は低い。これに対し、上記の本発明による方法では、誘導結合コイルに高周波電力をパルス化して投入する。つまり、高周波電力が間欠的に投入される。すると、高周波電力が連続的に投入される場合と比べて、生成されるプラズマの電子温度が低くなる。こうなると、中性の粒子に電子が付加する反応が優位に進むようになり、プラズマ中に存在する負の荷電粒子の中で、電子が占める割合が低くなり、負イオンが占める割合が高くなる。こうなると、負イオンの引き込みが電子によって抑制されにくく、多数個の負イオンが第2周波数成分によって縦穴構造の底に引き込まれる。したがって、十分に多数個の負イオンが縦穴構造の底に到達することができる。
【0017】
また、誘導結合プラズマを用いた一般的なプラズマ処理では、下部電極に、自己バイアスを形成するための高周波成分(典型的には、13.56MHzの高周波成分)のみを含む高周波電圧が印加される。該高周波電圧が印加されると、上記のとおり、プラズマ中の電子が該高周波により形成される電場の変動に追従して基板に流れ込み、ブロッキングコンデンサが負に帯電する。これにより、基板が負の電位にバイアスされる。一方、プラズマ中の正イオンは、この電場の変動に追従することができず、基板の付近にイオンシース電界を形成する。イオンシース電界が形成されると、その上に存在しているプラズマ中の負イオンが基板に入射できなくなる。これに対し、上記の本発明による方法では、下部電極に、自己バイアスを形成するための第1周波数成分とこれよりも周波数が低い第2周波数成分が重畳された重畳電圧を印加する。すると、イオンシース電界の電位が第2周波数成分に応じた周期で揺さぶられることとなり、瞬間的にイオンシース電界が消滅するタイミングが形成され、このタイミングにおいてプラズマ中の負イオンが基板に入射することができる。これにより、十分に多数個の負イオンが縦穴構造の底に到達することができる。
【0018】
上記のとおり、本発明による方法では、縦穴構造内に多数個の負イオンが到達する。すると、縦穴構造内に負イオンが到達することによる電子増殖作用(α作用)で、縦穴構造内の電子の数が増加する。これらの相乗作用によって、縦穴構造の底に到達する負の荷電粒子の数が十分に多数となる。
【0019】
前記エッチング工程において、
前記下部電極に、前記重畳電圧をパルス化して印加することも好ましい。
【0020】
この方法によると、下部電極への重畳電圧の印加が停止されるタイミングにおいて、イオンシース電界が消滅し、そのタイミングでプラズマ中の負イオンや電子が基板に入射することができる。これにより、縦穴構造の底に到達する負の荷電粒子の数が増加する。さらに、縦穴構造内に負イオンが到達することによる電子増殖作用(α作用)で縦穴構造内の電子の数が増加する。これらの相乗効果により縦穴構造の底に到達する負の荷電粒子の数が十分に多数となり、ノッチングの発生が十分に抑制される。
【0021】
下部電極に重畳電圧をパルス化して印加する場合、該パルス化に係るパルス信号(具体的には、該パルス信号の周期、パルス幅、位相、等)は、誘導結合コイルに投入される高周波電力のパルス化に係るパルス信号と相関関係を有していることが好ましい。例えば、両パルス信号を相互に調整することにより、
前記エッチング工程において、
前記誘導結合コイルに対する前記高周波電力の投入が停止され、且つ、前記下部電極に対して前記重畳電圧が印加される第1状態と、前記誘導結合コイルに対して前記高周波電力が投入され、且つ、前記下部電極に対する前記重畳電圧の印加が停止される第2状態とが、交互に繰り返し形成されることが好ましい。
【0022】
この構成によると、第1状態においてプラズマ中に負イオンが生成され、続く第2状態において該生成された負イオンが基板に引き込まれる。したがって、第1状態と第2状態が交互に繰り返し形成されることによって、負イオンを効率的に縦穴構造の底に引き込むことが可能となる。これにより、縦穴構造の底に到達する負イオンの数が増加する。ひいては、縦穴構造内に負イオンが到達することによる電子増殖作用(α作用)で縦穴構造内の電子の数も増加する。これらの相乗効果により縦穴構造の底に到達する負の荷電粒子の数が十分に多数となり、ノッチングの発生が十分に抑制される。
【0023】
また、上記のプラズマ処理方法は、
前記処理チャンバー内に所定の成膜ガスが供給されている状態で、前記誘導結合コイルに、前記成膜ガスをプラズマ化するための前記高周波電力を投入する成膜工程と、
前記エッチング工程と前記成膜工程とを繰り返す繰り返し工程と、
をさらに備えることも好ましい。
【0024】
この構成によると、成膜工程とエッチング工程が繰り返し行われることにより(所謂、ボッシュプロセス)、基板に高アスペクト比のパターンを形成することができる。
【0025】
また、上記のプラズマ処理方法は、
前記エッチング工程が、
前記下部電極に対する前記重畳電圧の印加が開始されてから所定時間が経過した時点で、前記重畳電圧の印加を停止する切り換え工程、
を備えることが好ましい。
【0026】
この構成によると、エッチング工程の前半(下部電極に重畳電圧が印加されている間)は、基板を異方的にエッチングして縦穴構造の底の保護膜を除去する処理が進行する。また、エッチング工程の後半(下部電極への重畳電圧の印加が停止されている間)は、基板を等方的にエッチングして保護膜が除去された底部分を掘り進める工程が進行する。これにより、基板を効率的に真っ直ぐに掘り進めることができる。
【0027】
また、上記のプラズマ処理方法は、
前記切り換え工程において、前記誘導結合コイルに投入する前記高周波電力のパルス化を停止することが好ましい。
【0028】
この構成によると、エッチング工程の前半において、ノッチングが発生することを抑制しつつ、エッチング工程の後半における基板のエッチング速度を高めることができる。
【0029】
また、本発明は、プラズマ処理装置も対象としている。本発明に係るプラズマ処理装置は、
処理チャンバーと、
前記処理チャンバーの外部に配置された誘導結合コイルと、
前記処理チャンバーの内部にガスを導入するガス導入部と、
前記処理チャンバーの内部に配置された、基板が載置される下部電極と、
前記誘導結合コイルに、パルス化した高周波電力を投入する電力投入部と、
前記下部電極に、自己バイアスを形成するための第1周波数成分と前記第1周波数成分よりも周波数が低い第2周波数成分が重畳された重畳電圧を印加する電圧印加部と、
を備える。
【0030】
この構成によると、誘導結合コイルにパルス化した高周波電力を投入することができる。また、下部電極に重畳電圧を印加することもできる。したがって、基板をエッチングする際にノッチングの発生を十分に抑制することができる。
【0031】
前記電圧印加部は、
前記下部電極に印加される前記重畳電圧をパルス化するパルス化部、
を備えることも好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によると、ノッチングの発生を十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図2】プラズマ処理装置において基板をプラズマエッチングする場合の処理の流れを示す図。
【
図3】エッチング工程および成膜工程を説明するための図。
【
図4】保護膜エッチング工程における基板付近の粒子の動きを説明するための図。
【
図5】実施例および比較例の各実験条件およびそれぞれにおけるノッチの大きさの測定結果をまとめた表を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。また、図においては、説明の便宜上、本件発明と関連する要素のみが示されており、一部の要素については図示が省略されている。
【0035】
<1.プラズマ処理装置の構成>
実施形態に係るプラズマ処理装置の構成について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、プラズマ処理装置100の要部構成を示す図である。
【0036】
プラズマ処理装置100は、内部に処理空間を形成する処理チャンバー1と、処理チャンバー1の内部にガスを供給するガス供給部2と、処理チャンバー1の外部に配置された誘導結合コイル3と、これに電力を投入する電力投入部4と、処理チャンバー1の内部に配置された下部電極5と、これに電圧を印加する電圧印加部6と、を備える。また、プラズマ処理装置100は、これが備える各要素を制御する制御部7を備える。
【0037】
処理チャンバー1には、その内部にガスを導入するためのガス導入口11、および、処理チャンバー1の内部からガスを排気するための排気口12が設けられている。ガス導入口11にはガス供給部2が接続されている。また、排気口12には、バルブ121および真空ポンプ122が介挿された配管123が接続されている。また、処理チャンバー1の天板部分には、誘電体窓13が設けられている。さらに、処理チャンバー1には、その外部に配置された外部搬送装置のハンドを処理チャンバー1の内部に導入するための搬出入口(図示省略)及びこれを塞ぐロードロック(図示省略)が設けられている。
【0038】
ガス供給部2は、エッチングガス(ここでは例えば、SF6)を供給するエッチングガス供給源21と、成膜ガス(ここでは例えば、C4F8)を供給する成膜ガス供給源22と、酸素ガス(O2)を供給する酸素ガス供給源23と、を備える。各供給源21,22,23は、配管210,220,230を介して、ガス導入口11に接続されている。各配管210,220,230には、バルブ211,221,231、および、マスフローコントローラ212,222,232が介挿されている。
【0039】
誘導結合コイル3は、渦巻状のコイルであり、処理チャンバー1の上側において誘電体窓13と対向して設けられる。
【0040】
電力投入部4は、誘導結合コイル3と接続されてこれに高周波電力を投入する要素であり、高周波電力をパルス化して誘導結合コイル3に投入することができるようになっている。電力投入部4は、具体的には、高周波電源41と、整合器42と、パルス信号機43を備える。高周波電源41は、所定の周波数(例えば、13.56MHz)の高周波電力を発振する電源であり、誘導結合コイル3の一端と整合器42を介して接続されるとともに、誘導結合コイル3の他端と直接に接続されている。また、高周波電源41は、パルス信号機43と接続されている。このパルス信号機43からパルス信号が出力されると、高周波電源41は、該パルス信号にしたがった間隔(パルス)で、高周波電力を発振する。パルス信号機43から出力されるパルス信号の周波数は、高周波電源41から発振される高周波電力の周波数よりも十分に低いものとされる。具体的には例えば、パルスON:100μ秒から10,000μ秒、パルスOFF:10μ秒から5,000μ秒とすることができる。
【0041】
下部電極5は、処理チャンバー1の内部において、誘電体窓13を挟んで誘導結合コイル3と対向して設けられる。下部電極5の上には、処理対象となる基板9が載置される。下部電極5には、ここに載置された基板9を静電吸着するための静電チャック51が設けられる。また、下部電極5には、ここに載置された基板9を冷却して所定温度に維持するための機構(図示省略)が設けられる。さらに、下部電極5には昇降機構(図示省略)が設けられており、下部電極5の高さ(すなわち、誘導結合コイル3と下部電極5の離間距離)を変更できるようになっている。
【0042】
電圧印加部6は、第1周波数の電圧を出力する第1電源61と、第1周波数よりも低い第2周波数の電圧を出力する第2電源62とを備える。第1周波数は、該周波数の電圧が下部電極5に印加されることで、それに載置されている基板9に自己バイアスを形成することができるような周波数である。エッチングガスがSF6である場合、第1周波数は、10~60MHzであることが好ましい。一方、第2周波数は、第1周波数よりも十分小さな周波数であることが好ましく、例えば、10~800kHzであることが好ましい。一例として、第1周波数を13.56MHzとし、第2周波数を400kHzとすることができる。この場合、第1電源61および第2電源62の各々を、高周波電源により構成することができる。また、第1周波数の電圧波形および第2周波数の電圧波形(特に後者)は、正弦波とされることも好ましい。また、第2周波数の電圧と第1周波数の電圧との電力比は、「1:0.5」から「1:100」の範囲内とされることが好ましい。
【0043】
第1電源61は、第1整合器611を介して加算器63に接続されている。また、第2電源62は第2整合器621およびフィルタ622を介して該加算器63に接続されている。また、加算器63は、ブロッキングコンデンサ64を介して下部電極5に接続されている。この構成において、第1電源61および第2電源62のそれぞれから、互いに周波数が異なる電圧が出力されると、各電圧が加算器63において重畳されて重畳電圧とされ、これがブロッキングコンデンサ64を介して、下部電極5に印加される。すなわち、下部電極5に、第1周波数成分と第2周波数成分が重畳された重畳電圧が印加される。
【0044】
制御部7は、パーソナルコンピュータ等をハードウエア資源とし、該パーソナルコンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することにより、各種の機能要素が具現化される。また、制御部7には、液晶ディスプレイ等から成る表示部と、マウス、キーボード、タッチパネル等から構成される入力部が接続されている(図示省略)。
【0045】
制御部7は、ガス供給部2(具体的には、各バルブ211,221,231、および、各マスフローコントローラ212,222,232)と電気的に接続されており、処理チャンバー1の内部に供給するガスの種類、供給のタイミング、供給量、等を制御する。また、制御部7は、電力投入部4(具体的には、高周波電源41、整合器42、および、パルス信号機43)と電気的に接続されており、誘導結合コイル3に高周波電力を投入するタイミング、これをパルス化するパルス信号(すなわち、パルス信号機43から出力されるパルス信号)の各パラメータ(周期、パルス幅、位相、等)を制御する。また、制御部7は、電圧印加部6(具体的には、各高周波電源61,62、各整合器611,621、および、加算器63)と電気的に接続されており、下部電極5に重畳電圧を印加するタイミング、等を制御する。
【0046】
<2.プラズマ処理装置の動作>
<2-1.全体の流れ>
プラズマ処理装置100において基板9をプラズマエッチングする場合の処理の流れを、
図1に加え
図2、
図3を参照しながら説明する。
図2は、該処理の流れを示す図である。
図3は、該処理の各段階における基板9の様子を示す図である。
【0047】
ここでは、処理対象となる基板9は、
図3(a)にその一部が示されるように、導電層である単結晶のSiからなる層(シリコン層)91が、絶縁層であるSiO
2層(酸化層)92の上に形成されたSOI基板であるとする。基板9の上には、マスク90が形成されている。このマスク90には、基板9に形成すべきパターンの形状に応じたスリット901が設けられている。
【0048】
まず、マスク90が形成された基板9を保持した外部搬送装置のハンドが、搬出入口を介して処理チャンバー1の内部に挿入され、該ハンドに保持されている基板9が、下部電極5上に載置される(ステップS1)。下部電極5に載置された基板9は静電チャック51により静電吸着される。外部搬送装置のハンドが処理チャンバー1から退避すると、搬出入口が閉鎖され、処理チャンバー1の内部の空気が真空ポンプ122によって排気される。
【0049】
処理チャンバー1の内部が所定の圧力まで減圧されると、エッチング工程が行われる(ステップS2)。このエッチング工程では、基板9のシリコン層91をエッチングして縦穴構造を掘り進めるシリコンエッチング工程が行われる(ステップS21、
図3(b))。この工程の具体的な動作の流れは後述する。
【0050】
シリコンエッチング工程が終了すると、該工程で形成された縦穴構造の側面および底面に絶縁性の保護膜(CF系膜)8を形成する成膜工程が行われる(ステップS3、
図3(c))。この工程の具体的な動作の流れは後述する。
【0051】
成膜工程が終了すると、再びエッチング工程が行われる(ステップS4)。成膜工程の後に行われるエッチング工程では、まず、縦穴構造の底部分の保護膜8を除去する保護膜エッチング工程が行われ(ステップS41、
図3(d))が行われ、その後、切り換え工程を経て(ステップS42)、上述したシリコンエッチング工程が行われる(ステップS43、
図3(e))。この工程の具体的な動作の流れは後述する。
【0052】
エッチング工程が終了すると、再びステップS3の成膜工程が行われる。以後、ステップS3の成膜工程とステップS4のエッチング工程が所定回数繰り返して行われる。繰り返し回数が増加するにつれて、基板9に形成される縦穴構造が深くなっていく(
図3(f))。なお、繰り返し工程が行われる間、ガス供給部2から処理チャンバー1の内部へ酸素ガスが連続して導入され続けることが好ましい。酸素ガスは、縦穴構造の底に形成される保護膜8を除去する機能を有するので、酸素ガスが導入されることにより保護膜8の除去に要する時間を短縮することができる。また、酸素ガスは、硫黄や炭素の除去にも寄与するので、処理チャンバー1の内部に、硫黄や炭素の副生物が析出するのを防ぐことができる。
【0053】
繰り返し工程の繰り返し回数が所定数に到達すると(ステップS5でYES)、処理チャンバー1の内部へのガスの供給が停止されるとともに、誘導結合コイル3に対する電力の投入が停止される。その後、処理チャンバー1の搬出入口が開放され、そこから外部搬送装置のハンドが挿入されて、下部電極5上の基板9を受け取って処理チャンバー1から搬出する(ステップS6)。
【0054】
<2-2.各工程の動作>
続いて、上述した各工程の具体的な動作の流れを、
図1~
図3を参照しながら説明する。
【0055】
シリコンエッチング工程(ステップS21)
ここでは、まず、ガス供給部2から処理チャンバー1の内部にエッチングガス(ここではSF
6)が導入される。そして、処理チャンバー1の内部にエッチングガスが供給されている状態で、電力投入部4が、誘導結合コイル3に高周波電力を投入する。ただし、ここでは、誘導結合コイル3には高周波電力をパルス化せずに投入する。誘導結合コイル3に高周波電力が投入されることにより、処理チャンバー1の内部に供給されているエッチングガスがプラズマ化される。そして、該プラズマに含まれる正イオン等により基板9のシリコン層91がエッチングされて縦穴構造が掘り進められる(
図3(b))。
【0056】
成膜工程(ステップS3)
ここでは、まず、ガス供給部2から処理チャンバー1の内部へのエッチングガスの導入が停止されるとともに、成膜ガス(ここではC
4F
8)の導入が開始される。そして、処理チャンバー1の内部に成膜ガスが供給されている状態で、電力投入部4が、誘導結合コイル3に高周波電力を投入する。ただし、ここでも、誘導結合コイル3には高周波電力をパルス化せずに投入する。誘導結合コイル3に高周波電力が投入されることにより、処理チャンバー1の内部に供給されている成膜ガスがプラズマ化され、基板9に形成されている縦穴構造の側壁および底面に、保護膜8として機能するCF系の高分子が重合される(
図3(c))。
【0057】
保護膜エッチング工程(ステップS41)
ここでは、まず、ガス供給部2から処理チャンバー1の内部への成膜ガスの導入が停止されるとともに、エッチングガスの導入が開始される。そして、処理チャンバー1の内部にエッチングガスが供給されている状態で、電力投入部4が、誘導結合コイル3に、高周波電力をパルス化して投入する。具体的には、誘導結合コイル3に、パルス信号機43から出力されるパルス信号にしたがった間隔で発振された高周波電力を投入する。また、電圧印加部6が、下部電極5に、第1周波数成分と第2周波数成分が重畳された重畳電圧を印加する。具体的には、第1電源61および第2電源62のそれぞれから互いに周波数が異なる電圧を出力させ、これらの各電圧を加算器63において重畳して、これをブロッキングコンデンサ64を介して下部電極5に印加する。
【0058】
誘導結合コイル3に高周波電力が投入されることにより、処理チャンバー1の内部に供給されているエッチングガスがプラズマ化される。一方で、下部電極5に重畳電圧が印加されることにより、プラズマ中の電子が、第1周波数成分により形成される電場の変動に追従して基板9に飛び込み、基板9が負の電位にバイアスされる。その結果、プラズマ中の正イオンが基板9に真っ直ぐに引き込まれて、基板9のエッチング(異方性エッチング)が進行する。これによって、縦穴構造の底部分の保護膜8が除去される(
図3(d))。
【0059】
切り換え工程(ステップS42)
ここでは、処理チャンバー1の内部へのエッチングガスの供給を継続しつつ、下部電極5への重畳電圧の印加を停止する。また、誘導結合コイル3に投入する高周波電力のパルス化を停止する。ただし、切り換え工程は、下部電極5に対する重畳電圧の印加が開始されてから所定時間が経過したタイミング(縦穴構造の底の保護膜8が十分に除去されたタイミング)で行われる。
【0060】
シリコンエッチング工程(ステップS43)
切り換え工程が行われることにより、ステップS21と同様のシリコンエッチング工程が進行する。ここでは、ステップS41で保護膜8が除去された縦穴構造の底部分がエッチングされ、これにより縦穴構造が掘り進められる(
図3(e))。
【0061】
<2-3.ノッチングの抑制>
上記の処理に係る保護膜エッチング工程(ステップS41)によると、ノッチングの発生を十分に抑制することができる。その理由について、
図4を参照しながら説明する。
図4は、保護膜エッチング工程における基板9付近の粒子の動きを説明するための図である。
【0062】
上記の保護膜エッチング工程では、下部電極5に、第1周波数成分と第2周波数成分が重畳された重畳電圧を印加する。これにより、第2周波数成分によって、プラズマ中の負イオンを縦穴構造の底に引き込むことができる。一方で、上記の保護膜エッチング工程では、誘導結合コイル3に高周波電力をパルス化して投入する。この構成によると、高周波電力が連続的に投入される場合と比べて、生成されるプラズマの電子温度が低くなり、プラズマ中に存在する負の荷電粒子の中で、電子が占める割合が低くなり、負イオンが占める割合が高くなる。こうなると、負イオンの引き込みが電子によって抑制されにくく、多数個の負イオンが第2周波数成分によって縦穴構造の底に引き込まれる。したがって、十分に多数個の負イオンが縦穴構造の底に到達することができる。
【0063】
また、下部電極5に重畳電圧が印加されると、これに含まれる第2周波数成分の周波数に応じたタイミングで、基板9の上方に形成されるイオンシース電界が瞬間的に消滅するタイミングが形成され、このタイミングにおいてプラズマ中の負イオンが基板9に入射することができる。これにより、十分に多数個の負イオンが縦穴構造の底に到達することができる。
【0064】
さらに、縦穴構造内に多数個の負イオンが到達すると、これによる電子増殖作用(α作用)で、縦穴構造内の電子の数が増加する。これらの相乗作用によって、縦穴構造の底に到達する負の荷電粒子の数が十分に多数となる。
【0065】
このように、この保護膜エッチング工程では、基板9に形成されつつある縦穴構造の底に十分に多数の負の荷電粒子(電子および負イオン)を引き込むことができる。したがって、縦穴構造の底が酸化層92との界面に到達した後も(
図4に示される状態)、縦穴構造の底がチャージアップしにくい。したがって、ノッチングの発生が十分に抑制される。
【0066】
<3.実施例>
以下に説明する実施例および比較例1~6の各処理条件で、サンプル1およびサンプル2のそれぞれをプラズマエッチングしてパターンを形成した。ただし、サンプル1およびサンプル2はいずれも、酸化層の上に厚さが200μmのシリコン層が形成されたSOI基板の上に、マスク(フォトレジスト膜)を設けたものである。マスクには、等間隔にスリットが設けられている。サンプル1に設けられるマスクのスリット幅は30μmであり、サンプル2に設けられるマスクのスリット幅は20μmである。これらのサンプル1,2に対してプラズマエッチングを行い、パターンの底が酸化層の表面に到達してからさらに一定時間プラズマエッチングを行って(オーバーエッチング)、形成されたパターンの底部に生じたノッチの大きさ(横方向の切れ込み距離)L(
図7参照)を測定した。
【0067】
共通の処理条件:プラズマ処理装置100として、サムコ株式会社製の誘導結合プラズマ処理装置(RIE-800iPB)を用いた。また、エッチングガスとしてSF6を用い、成膜ガスとして、C4F8を用いた。また、成膜工程とエッチング工程の繰り返し回数は120回とした。また、保護膜エッチング工程以外の各工程の処理条件は、同じものとした。
【0068】
本発明に係る実施例:保護膜エッチング工程を次の条件で行った。誘導結合コイル3に、周波数が13.56MHzの高周波電力を、パルスON:2,000μ秒、パルスOFF:660μ秒のパルス信号でパルス化して投入するとともに、下部電極5に、13.56MHzの高周波電圧(出力50W)と400kHzの高周波電圧(出力50W)を重畳した重畳電圧をパルス化せずに投入した。また、下部電極5に電圧を印加する時間(バイアス時間)は、4.8秒とした。
【0069】
比較例1:保護膜エッチング工程を次の条件で行った。誘導結合コイル3に、周波数が13.56MHzの高周波電力をパルス化せずに投入するとともに、下部電極5に、13.56MHzの高周波電圧(出力50W)と400kHzの高周波電圧(出力50W)を重畳した重畳電圧をパルス化せずに投入した。また、バイアス時間は、1.6秒とした。
【0070】
比較例2:保護膜エッチング工程を次の条件で行った。誘導結合コイル3に、周波数が13.56MHzの高周波電力をパルス化せずに投入するとともに、下部電極5に、400kHzの高周波電圧(出力300W)を、パルスON:2,000μ秒、パルスOFF:660μ秒のパルス信号でパルス化して投入した。また、バイアス時間は、1.6秒とした。
【0071】
比較例3:保護膜エッチング工程を次の条件で行った。誘導結合コイル3に、周波数が13.56MHzの高周波電力をパルス化せずに投入するとともに、下部電極5に、400kHzの高周波電圧(出力100W)をパルス化せずに投入した。また、バイアス時間は、1.6秒とした。
【0072】
比較例4:保護膜エッチング工程を次の条件で行った。誘導結合コイル3に、周波数が13.56MHzの高周波電力を、パルスON:2,000μ秒、パルスOFF:660μ秒のパルス信号でパルス化して投入するとともに、下部電極5に、13.56MHzの高周波電圧(出力100W)をパルス化せずに投入した。また、バイアス時間は、4.8秒とした。
【0073】
比較例5:保護膜エッチング工程を次の条件で行った。誘導結合コイル3に、周波数が13.56MHzの高周波電力をパルス化せずに投入するとともに、下部電極5に、13.56MHzの高周波電圧(出力300W)を、パルスON:2,000μ秒、パルスOFF:660μ秒のパルス信号でパルス化して投入した。また、バイアス時間は、1.6秒とした。
【0074】
比較例6:保護膜エッチング工程を次の条件で行った。誘導結合コイル3に、周波数が13.56MHzの高周波電力をパルス化せずに投入するとともに、下部電極5に、13.56MHzの高周波電圧(出力100W)をパルス化せずに投入した。また、バイアス時間は、1.6秒とした。
【0075】
上記の実施例および比較例1~6の各処理条件で、サンプル1およびサンプル2のそれぞれに対してプラズマエッチングを行うことによって形成されたパターンの底部に生じたノッチの大きさLの測定結果が、
図5の表にまとめられている。この表から、本発明に係る実施例では、比較例1~6と比べて、ノッチングの発生が十分に抑制されていることがわかる。特に、パターンのアスペクト比が比較的高いサンプル2に着目すると、比較例1~6ではノッチングの発生が十分に抑制されていないのに対し、本発明に係る実施例ではノッチングの発生が十分に抑制されていることがわかる。つまり、本発明が、高アスペクト比のパターンを形成する場合に特に有効であることがわかる。
【0076】
<4.変形例>
上記の実施形態に係る保護膜エッチング工程(ステップS41)において、誘導結合コイル3にパルス化した高周波電力を投入しつつ、下部電極5に、重畳電圧をパルス化して印加してもよい。この場合、
図6に示されるように、下部電極5と接続される電圧印加部6aにおいて、第1電源61および第2電源62をパルス信号機65と接続すればよい。この構成において、パルス信号機65からパルス信号が出力されると、第1電源61および第2電源62の各々が、該パルス信号にしたがった間隔(パルス)で、各周波数の電圧を出力する。つまり、各電源61,62が、同じタイミングで、異なる周波数の電圧を出力する。このようにして出力された各電圧が、加算器63において重畳されて重畳電圧とされ、これがブロッキングコンデンサ64を介して、下部電極5に印加されることで、下部電極5にパルス化された重畳電圧が印加される。パルス信号機65から出力されるパルス信号の周波数は、第2周波数よりも十分に低いものとされる。具体的には例えば、パルスON:100μ秒から10,000μ秒、パルスOFF:10μ秒から5,000μ秒とすることができる。
【0077】
保護膜エッチング工程(ステップS41)において、下部電極5にパルス化した重畳電圧を印加する場合、下部電極5への重畳電圧の印加が停止されるタイミングにおいて、イオンシース電界が消滅し、このタイミングでプラズマ中の負イオンや電子が基板に入射することができる。これにより、縦穴構造の底に到達する負の荷電粒子の数がさらに増加する。また、縦穴構造内に負イオンが到達することによる電子増殖作用(α作用)で縦穴構造内の電子の数が増加する。これらの相乗効果により縦穴構造の底に到達する負の荷電粒子の数が十分に多数となり、ノッチングの発生が十分に抑制される。
【0078】
下部電極5に重畳電圧をパルス化して印加する場合、該パルス化に係るパルス信号(具体的には、パルス信号機65から出力されるパルス信号の周期、パルス幅、位相、等)は、誘導結合コイル3に投入される高周波電力のパルス化に係るパルス信号(具体的には、パルス信号機43から出力されるパルス信号の周期、パルス幅、位相、等)と相関関係を有していることが好ましい。例えば、両パルス周期が同じであってもよいし、一方のパルス周期が他方のパルス周期の整数倍であってもよい。また例えば、両パルスの位相が同じであってもよいし、90度、あるいは、180度だけずれていてもよい。
【0079】
さらに例えば、両パルス信号を相互に調整することにより、保護膜エッチング工程(ステップS41)において、誘導結合コイル3に対する高周波電力の投入が停止され、且つ、下部電極5に対して重畳電圧が印加される状態(第1状態)と、誘導結合コイル3に対して高周波電力が投入され、且つ、下部電極5に対する重畳電圧の印加が停止される状態(第2状態)とが、交互に繰り返し形成されることも好ましい。
【0080】
この構成によると、第1状態においてプラズマ中に負イオンが生成され、続く第2状態において該生成された負イオンが基板に引き込まれる。したがって、第1状態と第2状態が交互に繰り返し形成されることによって、負イオンを効率的に縦穴構造の底に引き込むことが可能となる。これにより、縦穴構造の底に到達する負イオンの数が増加する。ひいては、縦穴構造内に負イオンが到達することによる電子増殖作用(α作用)で縦穴構造内の電子の数も増加する。これらの相乗効果により縦穴構造の底に到達する負の荷電粒子の数が十分に多数となり、ノッチングの発生が十分に抑制される。
【0081】
また、上記の実施形態に係る保護膜エッチング工程(ステップS41)において、誘導結合コイル3にパルス化した高周波電力を投入しつつ、下部電極5に、重畳電圧ではなく、比較的小さな周波数(例えば、4MHz以下)のみを含む電圧(便宜上「低周波電圧」と呼ぶ)を印加してもよい。具体的には例えば、電圧印加部6において、低周波電源を設けて、該低周波電源から出力される低周波電圧を下部電極5に印加してもよい。この場合、低周波電圧の周波数は、10~800kHzとすることが好ましい。またこの場合に、低周波電源にパルス信号機を接続し、低周波電源から、該パルス信号機にしたがった間隔(パルス)で、低周波電圧を出力させて、これを下部電極5に印加してもよい。すなわち、下部電極5に、パルス化した低周波電圧を印加してもよい。
【0082】
また、上記の実施形態に係る保護膜エッチング工程(ステップS41)において、誘導結合コイル3にパルス化した高周波電力を投入しつつ、下部電極5に、変調電圧を印加してもよい。変調電圧とは、周波数、振幅、位相、および波形の少なくとも一個が、時間とともに変化するような電圧である。該変化の態様は、連続的であってもよいし非連続的であってもよい。また、この場合に、変調電圧をパルス化して下部電極5に印加してもよい。
【0083】
また、上記の実施形態において、下部電極5に印加する重畳電圧において重畳される周波数成分の一方(例えば、第1周波数成分)、あるいは両方を、変調してもよい。具体的には例えば、第1電源61から出力される電圧を低周波で振幅変調し、該変調された電圧を、第2電源62から出力される電圧と重畳して重畳電圧とし、これを下部電極5に印加してもよい。この場合、振幅変調の周波数は、第2周波数よりも低いものであることが好ましい。例えば第2周波数が400kHzの場合、第1周波数の電圧に対する振幅変調の周波数は200kHzとすることができる。
【0084】
また、上記の実施形態において、基板9に形成されつつある全ての縦穴構造の底部が、導電層(SOI基板の場合、シリコン層91)にある間(すなわち、基板9に形成されつつあるいずれかの縦穴構造の底が酸化層92との界面に到達するまでの時間帯)は、保護膜エッチング工程(ステップS41)において、誘導結合コイル3に対して高周波電力をパルス化せずに投入してもよく、下部電極5に、重畳電圧ではなく1個の周波数成分(例えば、第1周波数成分)のみを含む電圧を投入してもよい。
【0085】
また、上記の実施形態において、保護膜エッチング工程(ステップS41)以外の各工程においても、誘導結合コイル3にパルス化された高周波電力を投入してもよい。また、保護膜エッチング工程(ステップS41)以外の各工程においても、下部電極5に重畳電圧(あるいは、パルス化された重畳電圧)を印加してもよい。
【符号の説明】
【0086】
100…プラズマ処理装置
1…処理チャンバー
11…ガス導入口
12…排気口
13…誘電体窓
2…ガス供給部
21…エッチングガス供給源
22…成膜ガス供給源
23…酸素ガス供給源
3…誘導結合コイル
4…電力投入部
41…高周波電源
42…整合器
43…パルス信号機
5…下部電極
51…静電チャック
6…電圧印加部
61…第1電源
611…第1整合器
62…第2電源
621…第2整合器
622…フィルタ
63…加算器
64…ブロッキングコンデンサ
7…制御部
9…基板
90…マスク
91…シリコン層
92…酸化層
8…保護膜