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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】プラズマ処理室用排気構造
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20220214BHJP
   H05H 1/46 20060101ALN20220214BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
H01L21/302 101C
H05H1/46 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018026591
(22)【出願日】2018-02-19
(65)【公開番号】P2019145600
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】392022570
【氏名又は名称】サムコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 真人
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-041096(JP,A)
【文献】特開2010-199461(JP,A)
【文献】特開2000-068209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にプラズマ処理を施すためのプラズマ処理室の内部のガスを排出するための構造であって、
a) 基板が前記プラズマ処理室内にセットされたときの該基板の表面よりも下方の前記プラズマ処理室の側壁に設けられた、横長形状を有する排気口と、
b) 吸気口が前記排気口に対向するように設けられた真空ポンプと、
c) 前記排気口と前記吸気口を接続し、該排気口から該吸気口にかけて断面が前記横長形状から均等形状に徐々に変化する接続部と
を備え
前記接続部の断面の面積が、前記排気口から前記吸気口にかけて減少することがないことを特徴とするプラズマ処理室用排気構造。
【請求項2】
前記接続部の前記吸気口側の断面が多角形であることを特徴とする請求項に記載のプラズマ処理室用排気構造。
【請求項3】
前記接続部の前記吸気口側の断面が円形であることを特徴とする請求項に記載のプラズマ処理室用排気構造。
【請求項4】
前記排気口の中心線と前記吸気口の中心線が一致することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のプラズマ処理室用排気構造。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のプラズマ処理室用排気構造に用いられる接続部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハ等の薄板状の被処理材(以下、これを「基板」と呼ぶ。)にプラズマ処理を行うためのプラズマ処理室の排気構造に関する。
【背景技術】
【0002】
基板に膜形成、エッチング等のプラズマ処理を行う場合、まず、密閉した処理室内に基板をセットし、処理室からガス(空気、前処理ガス等)を排出することにより内部を真空にする。そして、処理室中にプラズマガスを導入して高周波電力等により該プラズマガスをプラズマ化し、基板に対する処理を行う。
【0003】
プラズマガスをプラズマ化するための電力投入には容量結合型や誘導結合型等の様々な方式があるが、いずれにせよ、基板の全面に対して均等にエッチング等の処理を行うためには、基板の上部空間に形成されるプラズマは均等且つ安定な状態となっている必要がある。そのため、プラズマ生成空間の近傍・周辺の処理室は均等な形状をしていることが望ましく、そこに上記真空排気のための排気口を設けることは好ましくない。そこで従来より、基板をプラズマ処理するための処理室の排気口は、基板の表面よりも下方となるように設けられていた。
【0004】
一方、プラズマ処理の効率を上げるためには真空排気の時間を短縮することが望まれる。真空排気時間の多くは処理室の内壁に付着する反応生成物や水分の吸引に費やされるが、これを短縮するには処理室において真空排気のための排気口の断面積をできるだけ大きくするのが効果的である。そこで従来の装置では排気口を処理室の基板載置台(基板面)よりも下の側面に設けるのが一般的であった。しかしこの場合、排気口の形状を通常の円形とすると、処理室内部の空間は基板載置台よりも下方に排気口の直径分の深さを確保する必要があるため、これが逆に処理室容積の増大を招き、排気時間の短縮を妨げることとなっていた。
【0005】
このような問題を解決するため、特許文献1(第2図。本願において図6に再掲。)では、排気口(排気孔)141を横長の長方形とし、そこに、奥行きの幅が徐々に狭くなる(垂直上方から見たときに台形の)ジョイント部142を接続して空間を確保した後、垂直下方に設けた排気管143で真空ポンプに接続するという構造を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-62944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の構造では処理室において大きな開口面積をかせぐことができるものの、処理室を出た後のガスはジョイント部42において大きく角度を変えさせられるため、そこに吸引抵抗が生じ、また、排気抵抗に影響する排気管軸芯の長さが大きくなるため、吸引コンダクタンスが小さいという問題があった。
本発明が解決しようとする課題は、基板にプラズマ処理を施すためのプラズマ処理室の内部のガスを排出するための構造において、コンダクタンスの大きい構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明は、基板にプラズマ処理を施すためのプラズマ処理室の内部のガスを排出するための構造であって、
a) 基板が前記プラズマ処理室内にセットされたときの該基板の表面よりも下方の前記プラズマ処理室の側壁に設けられた、横長形状を有する排気口と、
b) 吸気口が前記排気口に対向するように設けられた真空ポンプと、
c) 前記排気口と前記吸気口を接続し、該排気口から該吸気口にかけて断面が前記横長形状から均等形状に徐々に変化する接続部と
を備えることを特徴とするプラズマ処理室用排気構造である。
【0009】
上記において、「横長」とは、鉛直方向よりもそれに垂直な方向(水平方向)の径(差し渡し)の方が大きいことを言う。
【0010】
また、「均等形状」とは、円形、又は四角形以上の凸多角形であって、中心からの径の最小値に対する最大値の比[最大値/最小値]が2の平方根(√2)以下であるもののことを言う。通常、市販されている真空ポンプの吸気口は円形であるので、円形とするのが良いが、接続部の製作上の都合等より、八角形等としてもよい。
【0011】
さらに、「吸気口が前記排気口に対向する」とは、排気口を構成する面の面内のいずれかの点の法線が吸気口を通ることを言う。
【0012】
上記排気構造ではプラズマ処理室の排気口と真空ポンプの吸気口が対向しているため、プラズマ処理室内を排気するに際して、排気口から排出されたガスが接続部において屈曲抵抗(ガス流が分子流の場合は内壁との衝突による抵抗)を受けることが少ない(コンダクタンスが大きい)。また、排気管軸芯の長さを小さくすることができる。そのため、プラズマ処理室の排気を従来よりも高速で(短時間で)行うことができる。また、プラズマ処理前の真空排気では、内壁に付着した反応生成物や水分の吸引が促進され、到達真空度が向上する上、プラズマ処理時のガス吸引においても、効率よく吸引を行うことができ、反応生成物や水分の壁面への付着も少なくなる。
【0013】
なお、望ましくは、前記接続部において、その断面の面積が、前記排気口から前記吸気口にかけて減少することがないようにする。
こうすることにより、ガスがプラズマ処理室の排気口から真空ポンプの吸引口に至るまで、その流路の断面積が減少することがないため、流路断面積の減少に起因する吸引抵抗が生じることがなく、コンダクタンスを更に大きくすることができる
【0014】
さらに望ましくは、真空ポンプの吸気口は排気口と真正面に対向するのがよい。すなわち、排気口の中心線と吸気口の中心線が一致することが望ましい。これにより、排気管軸芯の長さを最も小さくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る排気構造を備えるプラズマ処理室では、プラズマ処理室内を排気するに際して、プラズマ処理室の排気口と真空ポンプの吸気口が対向しているため、吸引されたガスが接続部において屈曲抵抗(ガス流が分子流の場合は内壁との衝突による抵抗)を受けることが少ない(コンダクタンスが大きい)。そのため、プラズマ処理前の真空排気では、処理室の内壁に付着した反応生成物や水分の吸引が促進されることにより到達真空度が向上し、且つ、排気を従来よりも高速で(短時間で)行うことができる。また、プラズマ処理時のガス吸引においても、効率よく吸引を行うことができ、反応生成物や水分の壁面への付着も少なくなる。これにより、エッチング等のプラズマ処理の精度を高めることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態であるプラズマ処理装置の全体構成を示す概略図。
図2】前記プラズマ処理装置の排気口と真空ポンプを接続する接続部の側面図(a)と平面図(b)。
図3】前記接続部の、(処理室)排気口側の端面図(a)と(真空ポンプ)吸気口側の端面図(b)。
図4】接続部の別の例の側面図(a)、平面図(b)及び(真空ポンプ)吸気口側の端面図(c)。
図5】接続部の更に別の例の側面図(a)、平面図(b)及び(真空ポンプ)吸気口側の端面図(c)。
図6】従来の排気構造の斜視図(特許文献1の第2図の再掲)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明を実施したプラズマ処理装置について説明する。以下の実施形態は本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0018】
図1は本発明に係るプラズマ処理室用排気構造を採用したプラズマ処理装置10の概略構成図である。本実施形態のプラズマ処理装置10は誘導結合型反応性イオンプラズマ処理装置(ICP-RIE)であり、処理室11を囲う筐体12の上部には誘電体製の窓13が設けられ、その直上に高周波コイル14が設けられている。処理室11の下部には、処理対象となる基板を載置する平面状の下部電極15が配設されている。下部電極15内には、これに載置される基板を冷却する機構(図示せず)が設けられる。処理室11には、処理室11と外部との間で基板の授受を行うためのロードロック室16が接続されている。
【0019】
筐体12には、処理室11内にプラズマガス等を導入するガス導入口17と、処理室11内を排気するための排気口18が設けられている。排気口18は下部電極15の上面よりも下方の筐体側壁に設けられており、その開口は横長の長方形となっている。排気口18には接続部19が固定され、この接続部19を介してターボポンプである真空ポンプ20に接続されている。なお、真空ポンプ20はターボポンプに限られるものではなく、要求される排気性能に応じて適切なものが選択される。また、必要に応じて、接続部19と真空ポンプ20の間にコントロールゲートバルブ等の圧力調整弁を設けてもよい。
【0020】
接続部19は排気口18と真空ポンプ20を接続する部材であり、図2(a)(b)に示すように、排気口18側には排気口18に合わせた横長の長方形の開口21aを有する第1フランジ21が(図3(a))、真空ポンプ20側には真空ポンプ20の円形の吸気口にほぼ適合する八角形の開口22aを有する第2フランジ22が(図3(b))、それぞれ設けられている。両フランジ21,22の間を構成する遷移部23は、その内部断面が、両開口21a、22aの相異なる形状を接続するために連続的に変化している。すなわち、遷移部23の第1フランジ21側の端部では断面形状が長方形となっており、第2フランジ22側の端部では八角形となっている。ここで、第1フランジ21の開口21aの中心線(開口21aの中心を通る開口21aの法線)と第2フランジ22の開口22aの中心線(開口22aの中心を通る開口22aの法線)は一致するように設定されている。
【0021】
本実施形態のプラズマ処理装置では、排気口18が上記のような位置に設置されていることから、プラズマと内壁の距離が下部電極の中心に対して対称となるので、下部電極15上の(すなわち、基板上の)プラズマの状態に大きな影響を与えることがない。また、処理室11内でプラズマ処理を行っている際に真空ポンプ20で排気を行っても、基板載置台(基板面)と同じ高さに排気口がある場合よりも基板面上のガスの流れの偏りが少ないため、基板面を均一に処理することができる。
【0022】
また、接続部19が上記のように構成されていることから、処理室11内部のガス(空気、プラズマガス等)の分子は排気口18から真空ポンプ20の間で管壁等に衝突することが少なく、排気抵抗が小さい(すなわち、コンダクタンスが大きい)。そのため、処理室11内を真空排気する場合、従来よりも短時間で排気することが可能となる。また、プラズマ処理中においては、処理室11内のプラズマの状態を乱すことが少なく、従来よりも均等なプラズマ処理を行うことができるようになる。
【0023】
ここで、接続部19の長さについて検討する。
一般的に、管を流れるガスの流れには粘性流と分子流があることが知られている。ガスの平均自由行程をλ、管の径をDとすると、それらの比K(=λ/D。これをクヌッセン数と呼ぶ。)が0.01よりも小さい場合が粘性流であり、1よりも大きい場合が分子流である。すなわち、粘性流では管内を流れるガス分子同士の衝突が主たる抵抗要因となり、分子流ではガス分子と管壁との衝突が主たる抵抗要因となる。流れが粘性流になるか分子流になるかは、そのガスの圧力pと管径Dに依存する。例えば、常温(27℃)の空気の場合、p・D>68(pはPa、Dはm単位)のときに粘性流となり、p・D<0.68のときに分子流となる。両者の中間領域は中間流と呼ばれる。具体的には例えば、管径Dが10cmとすると、空気の圧力pがおおよそ10Pa(10-1Torr)よりも高い場合に粘性流となり、おおよそ10-1Pa(10-3Torr)よりも低い場合に分子流となる。従って、大気圧の処理室内を10-1Pa(10-3Torr)よりも低い圧力まで真空引きする場合、管内の空気流は粘性流から分子流に遷移することになる。分子流となると粘性流よりもはるかに吸引速度が低下することから、吸引路におけるコンダクタンスを大きくする(抵抗を小さくする)ことは重要である。
【0024】
27℃の空気(平均分子量M = 29)の場合、径D、長さLの円筒状の管のコンダクタンスcv(m3/s)は、管内の流れが粘性流であると、
cv = (π・D4・p)/(128・η・L) = 1356・D4・p/L
となる(ηは粘性抵抗である。)。一方、管内の流れが分子流であると、コンダクタンスcp(m3/s)は、
cp = co・(4・D)/(3・L) = √((R・T)/(2・π・M))・((π/4)・D2)・(4・D)/(3・L) = 121・D3/L
となる(coは面積Aのオリフィスのコンダクタンスである。)。この式のように、分子流ではコンダクタンスは圧力に依存しない。
【0025】
それに対し、前記特許文献1の第2図(本願図5)に記載のような配管の場合、ジョイント部42と排気管43の接続部の開口(オリフィス)がコンダクタンスの支配要因となるが、開口が直径Dの円であるとすると、このコンダクタンスc2は、
c2 = A・√(R・T/(2・π・M)) = 91・D2
となる。
これによると、図5の配管において開口の直径(すなわち、排気管43の直径)Dが10cm(0.1m)であるとした場合、同程度のコンダクタンスを有する直管の長さLは約7.5mとなる。従って、同じ径の管を用いる場合、本発明のような排気構造を採用し、接続部の長さを数十cm以下程度とすることにより、特に分子流領域において従来よりも大きいコンダクタンスを得ることができるようになる。
【0026】
上記実施形態では、接続部19の(真空ポンプ20の)吸気口側の(第2フランジ22の)開口22aを、真空ポンプ20の円形の吸気口に内接するような八角形としたが、図4に示すように、それに外接するような八角形(32a)としてもよい。前者の場合には接続部19の遷移部23の出口における開口面積が真空ポンプ20の吸気口の開口面積よりも小さくなるが、ガスが真空ポンプ20の吸気口に入る際に衝突抵抗を受けることがないというメリットがある。一方、後者の場合には、遷移部33においてはその全ての断面が真空ポンプの吸気口(点線34で示した。)よりも大きいため、断面積減少による抵抗が無く、大きなコンダクタンスを確保することができる。なお、第2フランジ32の開口を真空ポンプの吸引口と同形の円形とし、第2フランジ32の直前に八角形から真空ポンプの吸気口34の円形への形状変化をスムーズにするような第2遷移部(図示せず)を設けることにより、衝突抵抗を少なくして更にコンダクタンスを大きくすることができる。
【0027】
コストが許容される場合には、接続部の(真空ポンプ20の)吸気口側の開口自体を真空ポンプ20の吸気口に適合するように円形とすることが望ましい。図5に、(真空ポンプ20の)吸気口側の開口42aを円形とした接続部39の例を示す。排気口側の第1フランジ41から吸気口側の第2フランジ42までの遷移部43において断面を長方形から円形へ滑らかに加工することにやや技術が必要となるものの、使用時にはガスの流通はより滑らかとなり、大きいコンダクタンスを得ることができる。
【符号の説明】
【0028】
10…プラズマ処理装置
11…処理室
12…筐体
13…誘電体窓
14…高周波コイル
15…下部電極
16…ロードロック室
17…ガス導入口
18…排気口
19、29、39…接続部
20…真空ポンプ
21、31、41…第1フランジ
21a…開口
22、32、42…第2フランジ
22a,32a,42a…開口
23、33、43…遷移部
図1
図2
図3
図4
図5
図6