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特許7022984ポリマー粒子の製造方法及び粒子製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】ポリマー粒子の製造方法及び粒子製造装置
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/14 20060101AFI20220214BHJP
   B01D 9/02 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
C08J3/14 CET
B01D9/02 601L
B01D9/02 602E
B01D9/02 603Z
B01D9/02 604
B01D9/02 605
B01D9/02 608A
B01D9/02 609Z
B01D9/02 625A
B01D9/02 625B
B01D9/02 625E
B01D9/02 625Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018031318
(22)【出願日】2018-02-23
(65)【公開番号】P2019143112
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000206439
【氏名又は名称】大川原化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 徹也
(72)【発明者】
【氏名】河合 優介
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴將
(72)【発明者】
【氏名】松下 未来
(72)【発明者】
【氏名】根本 源太郎
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-172028(JP,A)
【文献】特開2016-069555(JP,A)
【文献】特開2008-239902(JP,A)
【文献】特開2005-054023(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014530(WO,A1)
【文献】米国特許第06451265(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28;99/00
B01D 9/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含有し、前記溶媒中の前記ポリマーの濃度が0.05~2.0mg/mLである原料溶液を、前記原料溶液の供給圧力を0.05~0.1MPaとして、前記ポリマーの貧溶媒中に前記ポリマーを分散させて、ポリマー粒子全体に対して50%以上の異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子を製造し、
前記原料溶液である混合流体が流れる第1流路、前記貧溶媒が流れる第2流路、前記第1流路と前記第2流路とが合流した流路であり前記混合流体と前記貧溶媒との混合物が流れる第3流路を有し、
前記第1流路の出口を塞ぐように配置される可動体と、
前記可動体が配置される凹部を有する可動体受部材と、
前記可動体を前記可動体受部材に押し付けるように付勢する付勢部材と、を備え、
前記可動体は、前記原料溶液の供給圧力によって前記凹部との間に1桁ミクロンの隙間が生じ、当該隙間から前記原料溶液が前記貧溶媒中に粒子状に分散され、前記隙間である流路幅を前記原料溶液が通過することで、前記原料溶液からなる液滴が形成される粒子製造装置を用いる、ポリマー粒子の製造方法。
【請求項2】
前記原料溶液と前記貧溶媒の温度、それぞれ同じ温度または異なる温度であり、10~40℃の範囲である、請求項1に記載のポリマー粒子の製造方法。
【請求項3】
前記ポリマーの重量平均分子量(Mw)が、12500~19300である、請求項1または2に記載のポリマー粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ポリマーが芳香族ビニルポリマーであり、前記溶媒が前記ポリマーの良溶媒であり、前記貧溶媒が水を含むものである、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のポリマー粒子の製造方法に用いる粒子製造装置であって、
前記原料溶液である混合流体が流れる第1流路、前記貧溶媒が流れる第2流路、前記第1流路と前記第2流路とが合流した流路であり前記混合流体と前記貧溶媒との混合物が流れる第3流路を有し、
前記第1流路の出口を塞ぐように配置される可動体と、
前記可動体が配置される凹部を有する可動体受部材と、
前記可動体を前記可動体受部材に押し付けるように付勢する付勢部材と、を備え、
前記可動体は、前記原料溶液の供給圧力によって前記凹部との間に隙間が生じ、当該隙間から前記原料溶液が前記貧溶媒中に粒子状に分散される、粒子製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー粒子の製造方法及び粒子製造装置に関する。更に詳しくは、本発明は、異形ポリマー粒子を含み粒子径が小さなポリマー粒子を簡易に量産することができるポリマー粒子の製造方法及び粒子製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー粒子は、近年のナノテクノロジー発展の流れに乗り、現在では化学工業製品の重要な一角を担っている。ポリマー粒子の用途としては一般工業、医療分野、化粧品分野、情報分野などが挙げられ、今後さらなる用途の拡大が期待されている。
【0003】
ポリマー粒子の機能向上や新性質の発現の手法の一つとして、真球以外の形状を持つ粒子、いわゆる異形粒子を合成することが行われている。このような異形ポリマー粒子は、例えば、表面形状が複雑で表面積が大きいことから、摩擦帯電性が高いなどの特徴がある。
【0004】
異形ポリマー粒子の形状は、主として、金平糖型微粒子、レンズ状微粒子、ヤヌス型微粒子(球の上半分と下半分で表面の組成や物性の異なる異方性微粒子)などがある。金平糖型微粒子は、表面に敷き詰めることで蓮の葉のように水や汚れを弾くロータス効果が期待され、レンズ状粒子は、樹脂と複合することで光拡散剤としての利用が期待され、ヤヌス型微粒子は、電子ペーパーの表示デバイスとしての利用が期待されている。
【0005】
そして、異形ポリマー粒子の中でも、特に実用化への期待が高いものの一つが、表面にクレーター状の穴を有する粒子(即ち、ポリマー有孔粒子)である。
【0006】
ポリマー有孔粒子は、ポリスチレンやポリメタクリル酸メチルなどの汎用樹脂や、ポリ乳酸のように生体適合性を持つ樹脂などを中心に様々な材質で作製が行われている。
【0007】
このポリマー有孔粒子は、1つの大きな穴を有するものや、ゴルフボールのように小さな穴を複数有するものなど様々な形状のものが作製されている。
【0008】
ここで、バルク中に存在する高分子は、界面張力と界面積との積で示される界面自由エネルギーを最小にするために真球状に凝集しようとする性質を有する。そのため、通常の粒子製造方法で合成されるポリマー粒子は理想的には真球状となる(実際には、ラグビーボールのような形状に偏平した形状である粒子も存在する)。そのため、ポリマー有孔粒子を合成するために様々な工夫を施した製造方法が提案されている。
【0009】
そして、具体的なポリマー有孔粒子の製造方法としては、マイクロ流路を利用することで得られる非平衡状態を利用する方法や、あらかじめ合成しておいた真球状の粒子に溶媒等を吸着させた後に放出させ、そのときに粒子に加わる圧力を利用して表面を窪ませる方法などが報告されている。また、ポリマー有孔粒子の製造方法としては、当該ポリマー有孔粒子の原料として所定のものを用いる方法も報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2013/002386号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法は、異形ポリマー粒子の製造に手間がかかったり、量産が困難であったりする(即ち、生産効率が低い)などの問題がある。また、その他の従来の方法においても、クロロホルムなどの有害性の高い溶媒、界面活性剤や増粘剤が使用されており、これらの除去コストが生じること、有害性の高い溶媒などが製品に残留すること、及び、環境負荷があることなどが問題である。
【0012】
このように、異形ポリマー粒子は、その製造に手間がかかったり、未だ量産方法が確立されていない状況である。更に、従来公知の製造方法では、トルエン、ジクロロメタン、SDSなどの環境負荷の大きい有毒物質が多く使用されているという現状がある。また、異形ポリマー粒子の直径をサブミクロンの大きさまで縮小する方法も報告されていない。
【0013】
このようなことから、異形ポリマー粒子を含み粒子径が小さなポリマー粒子を簡易に量産することが可能な方法の開発が切望されている。
【0014】
本発明の課題とするところは、異形ポリマー粒子を含み粒子径が小さなポリマー粒子を簡易に量産することができるポリマー粒子の製造方法及び粒子製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[1] ポリマーと溶媒とを含有し、前記溶媒中の前記ポリマーの濃度が0.05~2.0mg/mLである原料溶液を、前記原料溶液の供給圧力を0.05~0.1MPaとして、前記ポリマーの貧溶媒中に前記ポリマーを分散させて、ポリマー粒子全体に対して50%以上の異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子を製造し、
前記原料溶液である混合流体が流れる第1流路、前記貧溶媒が流れる第2流路、前記第1流路と前記第2流路とが合流した流路であり前記混合流体と前記貧溶媒との混合物が流れる第3流路を有し、
前記第1流路の出口を塞ぐように配置される可動体と、
前記可動体が配置される凹部を有する可動体受部材と、
前記可動体を前記可動体受部材に押し付けるように付勢する付勢部材と、を備え、
前記可動体は、前記原料溶液の供給圧力によって前記凹部との間に1桁ミクロンの隙間が生じ、当該隙間から前記原料溶液が前記貧溶媒中に粒子状に分散され、前記隙間である流路幅を前記原料溶液が通過することで、前記原料溶液からなる液滴が形成される粒子製造装置を用いる、ポリマー粒子の製造方法。
【0016】
[2] 前記原料溶液と前記貧溶媒の温度、それぞれ同じ温度または異なる温度であり、10~40℃の範囲である、前記[1]に記載のポリマー粒子の製造方法。
【0017】
[3] 前記ポリマーの重量平均分子量(Mw)が、12500~19300である、前記[1]または[2]に記載のポリマー粒子の製造方法。
【0018】
[4] 前記ポリマーが芳香族ビニルポリマーであり、前記溶媒が前記ポリマーの良溶媒であり、前記貧溶媒が水を含むものである、前記[1]~[3]のいずれかに記載のポリマー粒子の製造方法。
【0020】
] 前記[1]~[]のいずれかに記載のポリマー粒子の製造方法に用いる粒子製造装置であって、
前記原料溶液である混合流体が流れる第1流路、前記貧溶媒が流れる第2流路、前記第1流路と前記第2流路とが合流した流路であり前記混合流体と前記貧溶媒との混合物が流れる第3流路を有し、
前記第1流路の出口を塞ぐように配置される可動体と、
前記可動体が配置される凹部を有する可動体受部材と、
前記可動体を前記可動体受部材に押し付けるように付勢する付勢部材と、を備え、
前記可動体は、前記原料溶液の供給圧力によって前記凹部との間に隙間が生じ、当該隙間から前記原料溶液が前記貧溶媒中に粒子状に分散される、粒子製造装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリマー粒子の製造方法によれば、異形ポリマー粒子を含み粒子径が小さなポリマー粒子を簡易に量産することができる。
【0022】
本発明の粒子製造装置は、本発明のポリマー粒子の製造方法に用いる装置であり、混合流体が流れる第1流路の出口を塞ぐように配置される可動体を備え、この可動体と凹部との隙間から混合流体が貧溶媒中に分散される構造である。このような構造を備えており、所定の条件を満たすことによって、異形ポリマー粒子を含み粒子径が小さなポリマー粒子を簡易に量産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のポリマー粒子の製造方法の一の実施形態で用いた粒子製造装置の垂直断面図であり、流路の一部を透視した図である。
図2図1のA-A’断面を模式的に示す断面図である。
図3図1中に示す領域P1に対応する領域を拡大した状態を模式的に示す説明図である。
図4】本発明のポリマー粒子の製造方法の一の実施形態で用いた粒子製造装置を有する製造システムを説明する説明図である。
図5】実施例1~3で製造した異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子の顕微鏡写真である。
図6】実施例4で製造した異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子の顕微鏡写真である。
図7】実施例5で製造した異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子の顕微鏡写真である。
図8】実施例6で製造した異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子の顕微鏡写真である。
図9】実施例7で製造した異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子の顕微鏡写真である。
図10】実施例8で製造した異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子の顕微鏡写真である。
図11】異形ポリマー粒子の形成のメカニズムを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0025】
(1)ポリマー粒子の製造方法:
本発明のポリマー粒子の製造方法の一の実施形態は、ポリマーと溶媒とを含有し、当該溶媒中のポリマーの濃度が0.05~2.0mg/mLである原料溶液を、当該原料溶液の供給圧力を0.05~0.1MPaとして、上記ポリマーの貧溶媒中に上記ポリマーを分散させて、異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子を製造する方法である。
【0026】
このようなポリマー粒子の製造方法によれば、異形ポリマー粒子を含み粒子径が小さなポリマー粒子を簡易に量産することができる。また、この方法は、有害性の高い有機溶媒や界面活性剤等を使用しない方法である。
【0027】
ここで、本明細書において「異形ポリマー粒子」とは、少なくとも1つの穴部(凹みまたは窪みということもできる)を有するポリマー粒子を意味する。この穴部の数には特に制限はなく、1つでもよいし、ゴルフボールのように複数の穴部が形成されていてもよい。更に、穴部の大きさは特に制限はないが、穴部の最大開口径(ディンプル直径)の比R(即ち、式:(穴部の平均直径D)/(異形ポリマー粒子の平均直径D))が、0.1以上であることがよい。
【0028】
本発明においては、製造されるポリマー粒子には、異形ポリマー粒子が含まれ、製造条件にもよるが、主に、ポリマー粒子全体に対して50%以上が異形ポリマー粒子となる。
【0029】
溶媒中のポリマーの濃度は、0.05~2.0mg/mLであり、0.05~0.5mg/mLであることが好ましい。溶媒中のポリマーの濃度と上記範囲とすることによって、異形ポリマー粒子を含み粒子径が小さなポリマー粒子を簡易に量産することができる。ポリマーの濃度が上記下限値未満であると、バルク中の粒子濃度が著しく減少し生産効率が低下とするという不具合がある。ポリマーの濃度が上記上限値超であると、原料溶液の流路内(特に、粒子製造装置内)でポリマーが詰まってしまう。
【0030】
原料溶液の供給圧力は、0.05~0.2MPaであり、0.05~0.1MPaであることが好ましく、0.05~0.08MPaであることが更に好ましい。原料溶液の供給圧力を上記範囲とすることによって、異形ポリマー粒子を含み粒子径が小さなポリマー粒子を簡易に量産することができる。原料溶液の供給圧力が上記下限値未満であると、装置内のバネ(付勢部材)が作動せずマイクロ流路の流路幅(可動体と凹部との間の隙間)が大幅に増大するという不具合がある。原料溶液の供給圧力が上記上限値超であると、生成される粒子の粒子径分散が増大するという不具合がある。
【0031】
原料溶液の供給流量は、1~100L/時間であることが好ましく、1~10L/時間であることが更に好ましく、5~7L/時間であることが特に好ましい。原料溶液の供給流量を上記範囲とすることによって、粒子径がより小さなポリマー粒子を簡易に量産することができる。
【0032】
ポリマーとしては、特に制限はなく、例えば、芳香族ビニル化合物の重合体である芳香族ビニルポリマー、生成粒子の帯電を付帯させる官能基を有したポリマーなどを挙げることができる。特に、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリベンジルメタクリレートなどを挙げることができる。
【0033】
本発明においては、原料溶液中のポリマーの重量平均分子量(Mw)を5000~50000とすることがよく、5000~30000とすることが好ましく、12500~19300とすることが更に好ましい。ポリマーの重量平均分子量(Mw)を上記範囲とすることによって、異形ポリマー粒子をより効率良く製造することができる。ポリマーの重量平均分子量(Mw)が上記下限値未満であると、異形ポリマー粒子の穴部が十分に形成されないおそれがある。上記上限値超であると、粒子径が小さなポリマー粒子を形成することができなくなるおそれがある。
【0034】
本発明においては、得られるポリマー粒子の平均粒子径は、50~500nm程度とすることができ、粒子径が小さなポリマーを粒子製造することができる。
【0035】
原料溶液中の溶媒は、ポリマーを溶解可能な溶媒(例えば、良溶媒)であれば特に制限はない。例えば、ポリマーがポリスチレンの場合、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。
【0036】
「ポリマーの貧溶媒」としては、例えば、ポリマーがポリスチレンの場合、水などを挙げることができる。なお、この貧溶媒は、アセトンなどの溶媒が含まれているものでも良く、具体的には、水とアセトンなどの溶媒との混合液であってもよい。水とアセトンなどの溶媒との混合液(水溶液)である場合、アセトンなどの溶媒の割合は特に制限はなく、1~75体積%とすることができる。
【0037】
原料溶液と貧溶媒の温度は、それぞれ、10~40℃であることが好ましく、15~35℃とすることが更に好ましく、20~30℃とすることが特に好ましい。原料溶液と貧溶媒の温度を上記範囲とすることによって、異形ポリマー粒子を含みより粒子径が小さなポリマー粒子を簡易に量産することができる。上記温度が下限値未満であると、ポリマーの合一が発生しポリマーの塊が析出してしまう。上記温度が上限値超であると、溶媒へのポリマーの溶解度が上昇し、混合時に粒子の形成がなされないという不具合が生じるおそれがある。なお、原料溶液と貧溶媒の温度は、同じ温度でも良いし、異なる温度でもよいが、同じ温度にすることがよい。
【0038】
原料溶液は、ポリマーが溶媒に溶解している状態のものである。このようなポリマー溶液をポリマーの貧溶媒中に噴出させ、貧溶媒中にポリマー溶液からなる液滴を分散させることが好ましい。貧溶媒中に分散するこの液滴は、図11の(1)に示すように表面に穴部が無い球体であるが、その後、乾燥などの処理を行うと、図11の(4)に示すように、少なくとも1つの穴部を有するポリマー粒子(異形ポリマー粒子)となる。
【0039】
原料溶液を、そのポリマーの貧溶媒中に分散させる方法としては、上記条件を満たす限り特に制限はなく、例えば、原料溶液(例えば、ポリスチレンを含有するアセトン溶液)の入った容器にスポイトなどを用いてポリマーの貧溶媒を一定の圧力で滴下する(投入する)方法や、粒子製造装置(即ち、流通型マイクロ流路ミキサー(FMM))を用いる方法などを挙げることができる。
【0040】
以下に、粒子製造装置を用いて、原料溶液を、ポリマーの貧溶媒中に分散させる方法について説明する。図1には、本発明の異形ポリマー粒子の製造方法の一の実施形態で用いた粒子製造装置100の垂直断面図であり、流路の一部を透視した図を示している。
【0041】
この粒子製造装置100は、原料溶液61である混合流体が流れる第1流路11、貧溶媒63が流れる第2流路12、第1流路11と第2流路12とが合流した流路であり原料溶液(混合流体)61と貧溶媒63との混合物が流れる第3流路15が形成された流体処理本体10と、第1流路11の出口を塞ぐように配置される可動体25と、可動体25が配置される凹部21a(図3参照)を有する可動体受部材20と、可動体25を可動体受部材20の凹部に押し付けるように付勢する付勢部材41と、を備えている。そして、粒子製造装置100は、原料溶液61の供給圧力によって可動体25が付勢部材41の力に対向して移動し、可動体25と凹部21aとの間に隙間を生じさせる。そして、この隙間から原料溶液61が、貧溶媒63中に粒子状に分散される。なお、この隙間(流路幅)は、バネなどの付勢部材41による押す力とポンプなどの原料供給手段による供給圧力とのバランスで決定され、計算上1桁ミクロンの幅の隙間となる。この1桁ミクロンの幅を原料溶液が通過することで、原料溶液からなる液滴が形成される。そして、この液滴は、アセトンなどの原料溶液中の溶媒を直ちに貧溶媒流に放出し、有孔粒子へと成長する。このようにして、水系統(water system)において、ポリマー、アセトンなどの溶媒だけでもサブミクロン範囲の、穴部を有する単分散粒子(異形ポリマー粒子)を合成(作製)することができる。
【0042】
なお、図1は、粒子製造装置100における流路を透視した状態の図である。別言すれば、図1は、流体処理本体10をその厚さ方向に切断して、内部を露出させた状態を示しているということができる。
【0043】
粒子製造装置100は、単位時間あたりの流量が多く、比較的低圧の運転においても流路が詰まり難く連続運転が可能であり、混合時に熱が発生せず、更には、スケールアップが容易である(容易に生産量を高めることができる)。
【0044】
(2)異形ポリマー粒子の用途:
異形ポリマー粒子(異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子)は、様々な用途へ利用できる。例えば、機能性物質を内包したマイクロカプセルや、リチウムイオン電池のアノード作製時のテンプレートが挙げられる。
【0045】
具体的には、異形ポリマー粒子の表面の穴部に、機能性物質を充填後、熱アニーリングまたは溶媒処理によって穴部を閉じることができる。この手法を用いることにより、医薬品、化粧品、インク、顔料、または試薬などの放出が制御されたマイクロカプセルを作製することができる。また、異形ポリマー粒子の表面に二酸化スズを析出させ、その後、異形ポリマー粒子を除去することにより、ボウル状の中空二酸化スズ微粒子を作製することができ、これをリチウムイオン電池の高性能アノードとして用いることができる。
【0046】
なお、二酸化スズ微粒子は、高資源量および高静電容量(780mAh/g)からグラフェンに代わるリチウムイオン電池のアノードとして注目されているが、アノードとして用いる際の体積変化の大きさに起因する静電容量の低下が課題となっていた。この課題を解決するために中空構造を持つ二酸化スズ微粒子を用いると、中空部分に起因する充填率の低下により、静電容量が低下してしまう。
【0047】
そこで、この課題を解決するために、中空構造を有し、更に窪みを一方向に制御して充填することにより、充填率を向上されられる、ボウル状の中空の二酸化スズ微粒子を用いたアノードの作製の研究が進められている。そして、そのテンプレート素材として、異形ポリマー粒子の製造及び制御技術の向上が求められている。
【0048】
また、異形ポリマー粒子の特徴として、複雑な表面形態に由来する光拡散作用や吸油作用が挙げられる。具体的には、比表面積が大きい異形ポリマー粒子を樹脂の表面にコーティングまたは樹脂中に分散させた場合、光を屈折または反射させる異形樹脂粒子と母材樹脂との界面が広くなり、光拡散性が増加する。このようなことから、異形ポリマー粒子は、光拡散フィルム、拡散板、LED照明カバー等の光拡散体として利用できる。また、異形ポリマー粒子を化粧品に添加した場合、吸油量が増えるので化粧品の吸油性を向上させることができる。さらに、比表面積が大きい異形ポリマー粒子を光拡散剤や化粧品として樹脂や皮膚表面に散布した場合、表面との接着面積が、真球粒子と比較して増大するため、コーティングや化粧品が表面から剥がれ難くなるという効果も期待できる。
【0049】
さらに、異形ポリマー粒子の表面の穴部に別の粒子を付着させる自己組織化の研究も行われている。具体的には、表面に穴部を有する微粒子(Lock微粒子)と、その穴部の直径と粒子径が同等の真球微粒子(Key微粒子)が分散されたコロイド溶液中に高分子を加えると、枯渇相互作用によりLock微粒子の表面の穴部にKey微粒子が吸着される。この現象を応用することで、DNA鎖の修飾への応用が期待されている。
【0050】
また、複数の穴部を有するLock微粒子に複数のKey微粒子を吸着させて所望の形状の粒子とすることができれば、流動時のみかけ体積の増大により流動特性が向上した微粒子となり、塗料やトナーなどの流動性向上剤として利用できる。
【0051】
(3)粒子製造装置:
本発明の粒子製造装置の一実施形態は、上述した粒子製造装置100である。この粒子製造装置100は、上述したように、流体処理本体10と、可動体25と、可動体受部材20と、付勢部材41と、を備えている。この粒子製造装置100は、可動体25と凹部21aとの間に生じた隙間を原料溶液が通過する際に、原料溶液に複雑流れ場を与える。この「複雑流れ場」は、収縮流、せん断流、伸長流等の混在した流れが生じている場であり、これによって、原料溶液が微小な液滴となって貧溶媒中に分散されることになる。
【0052】
(3-1)可動体:
可動体25は、第1流路11の出口を塞ぐように配置されるものである。「出口を塞ぐように配置」とは、原料溶液61が供給されていない状態では、可動体25が第1流路11の出口を塞いでおり、原料溶液が供給されると、可動体25が第1流路11の出口から隙間を空けて離れるように配置されていることをいう。
【0053】
図3は、可動体25が第1流路11を塞ぐように配置されている状態を示している。図3は、図1中に示す領域P1に対応する位置を拡大して模式的に示す、粒子製造装置100の流路の一部を透視した図である。
【0054】
可動体25は、第1流路11の出口の開口の全面を塞ぐことができるような曲面を有する部材であることが好ましい。この可動体の形状は、特に制限はないが、具体的には、球、楕円体、円錐、円錐台などの粒状を挙げることができる。これらの中でも、球状であることが好ましい。球状の可動体であると、流路を原料溶液が流れる際にこの可動体が三次元的に振動する(主として、上下方向の振動であるが前後左右斜め方向に振動する)ため、より粒子径の小さな液滴を形成することができる。
【0055】
可動体の材質については、原料溶液及び貧溶媒に対して十分な耐食性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、セラミックス、鉄、ステンレス、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、アクリル樹脂等が好ましい。
【0056】
なお、粒子製造装置100は、可動体25の上流に更に別の可動体を設けてもよい。この別の可動体は、特に制限はないが、可動体25と同様のものを採用することができる。
【0057】
(3-2)流体処理本体:
流体処理本体10は、その内部に、第1流路11、第2流路12、及び第3流路15が形成されている。第1流路11は、図1に示すように、流体処理本体10の天面側に入口が形成され、流体処理本体10の中央部まで厚さ方向に延びている。第2流路12は、図2に示すように、流体処理本体10の側面側に入口が形成され、流体処理本体10の中央部まで厚さ方向と直交するように延びている。第3流路15は、第1流路11と第2流路12の合流地点から、流体処理本体10の底面まで延びている。このように各流路を形成することによって、可動体25が球体の場合、原料溶液が凹部との間の隙間から均等に噴出され、より均一な分散が可能になる。
【0058】
また、流体処理本体10は、可動体25が配置される凹部を有する可動体受部材20を備えている。可動体受部材20には、第1流路11が形成されている。可動体受部材20の凹部は、可動体25の表面と同様の形状の凹面が形成されている。
【0059】
(3-3)付勢部材:
付勢部材41は、第1流路11中の原料溶液の流れに対向するように、可動体25を付勢することができる限りその構成は特に制限はないが、例えば、バネなどを用いることができる。図1に示す粒子製造装置100は、バネ43上にボールホルダー35(図3参照)を備えており、このボールホルダー35を介して可動体25にバネ43の付勢力が加えられている。なお、ボールホルダー35は用いなくても良い。
【0060】
このような付勢部材41を有すると、可動体25に対してその上方から外力が加わったときに、可動体25が、ボールホルダー35とともに下方に押し下げられる。一方で、ボールホルダー35は、バネ43から押し戻される力(上方からの外力とは反対の力)を受ける。このとき、原料溶液に、送液ポンプに起因する脈動がある場合、可動体25に加えられる外力の強さは随時変化する。この場合、可動体25が振動し、より大きな複雑流れ場が生じ、原料溶液61の液滴の粒径がより小さなものになる。
【0061】
なお、粒子製造装置100は、バネ43からなる付勢部材41を備え、このバネ43は、下部ケーシング31に形成された貫通穴32に挿入された固定ボルト45の先端に載置されている。この固定ボルト45の先端の位置は、ナット47の位置を調節することにより決定することができる。このように固定ボルト45の先端の位置を調節することで、可動体25と凹部との隙間の大きさを簡単に調整することができる。
【0062】
(4)その他の構成:
図4は、本発明の粒子製造装置100を用いた製造システムを模式的に示す、説明図である。
【0063】
図4に示すように、粒子製造装置100における、第1流路11の入口の前段には、原料溶液と貧溶媒をそれぞれ貯留する貯留槽51を設け、当該貯留槽51と粒子製造装置100とを、送液管23で接続すると共に、第1流路11(図1参照)の入口側に原料溶液を供給するための送液ポンプ24等を接続してもよい。
【0064】
また、貯留槽51と第1流路11の入口11a(図1参照)との間には、原料溶液中の空気を抜く空気抜き弁55や、圧力計27等を設けてもよい。
【0065】
また、第3流路15(図1参照)の出口には、製造されたポリマー粒子を回収する回収槽29を設けてもよい。
【実施例
【0066】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
(ポリスチレン(PS)の合成)
ねじ口試験管にスチレンモノマー1mlと、油溶性開始剤の一種であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)10mgを入れた。試験管を70℃で4時間または24時間加熱し、ラジカル重合させてPSを合成した。
【0068】
(PSとアセトンを含む原料溶液の調製)
アセトン30mLを試験管に添加し、PSを溶解した。その後、試験管を冷蔵庫に一晩置き、未溶解のPSを5℃に保った遠心分離により除去した。
【0069】
(ディンプル粒子(異形ポリマー粒子)の合成)
図1に示されるような粒子製造装置100(以下、「FMM」と記す場合がある)を用いて、ディンプル粒子の合成を行った。具体的には、「PSとアセトンを含む原料溶液(以下、「PS/アセトン溶液」と記す場合がある)」を所定の濃度に希釈し、その後、FMMに供することで、貧溶媒として50体積%のアセトン(ポリスチレンの貧溶媒である、水とアセトンの混合液)中に、上記PS/アセトン溶液を噴射させ、貧溶媒中に分散されたPS(即ち、ポリスチレン微粒子が分散したコロイド溶液)を得た。なお、このようにすることで、貧溶媒中で溶解しきれなくなったポリスチレンが微粒子として析出することになる。
【0070】
その後、ポリスチレン微粒子が分散したコロイド溶液を加熱することでアセトンを揮発させることで、水中にポリマー有孔粒子(異形ポリマー粒子)が分散したコロイド溶液を作製した。
【0071】
作製した異形ポリマー粒子について、電界放出走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した。なお、上記原料溶液中のPS濃度、およびの粒子形態におけるPSの分子量を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1,表2中、「混合温度(℃)」は、FMM内部に取り付けられた水温計において測定される温度のことである。「粒子の平均粒径(Dp)」は、SEM像より画像解析ソフト(製品名「A像くん」、旭化成エンジニアリング社製)を用いて解析された値である。「CV値」は、粒子の粒子径の変動係数を意味し、式:(粒子径の標準偏差)/(平均粒子径)によって算出された値である。なお、「標準偏差」は、上記画像解析ソフトを用いて算出した。「Dd/Dp」は、式:(SEM像を印刷し、定規を用いて測定した粒子孔径)/(粒子径平均)によって算出された値である。
【0074】
表1,表2中、「粒子の状態」欄における「少し凹んだ粒子」とは、図5の「a」に示すように1つのポリマー粒子の表面に1つの穴部(凹みまたは窪みということもできる)が形成されている状態を示す。また、「大きく凹んだ粒子」とは、図5の「c」に示すように1つのポリマー粒子の表面に1つの穴部(凹みまたは窪みということもできる)が形成されている状態を示す。
【0075】
また、「粒子の状態」欄における「レンズ状粒子」とは、図5の「b」に示すようなポリマー粒子が形成されている状態を示す。ここで、Dd/Dpが0.7以上に該当する場合に「レンズ状粒子」という。
【0076】
観察されたSEM(走査型電子顕微鏡)画像を図5図5のa、b,c)に示す。図5に示すように、PS/アセトン溶液の濃度、PSの分子量を変化させることによって、粒子がディンプル(穴)を有したり、形態が変化したりした。
【0077】
ディンプルの変化は、ディンプル直径の比R(=(ディンプルの平均直径D)/(粒子の平均直径D))によって評価した(図5参照)。ここで、ディンプルの平均直径Dは、SEM像より画像解析ソフト(製品名「A像くん」、旭化成エンジニアリング社製)を用いて解析した値である。また、粒子の平均直径Dは、SEM像を印刷し、定規を用いて測定した値である。
【0078】
なお、本実施例では、PSの重量平均分子量(Mw)が19,300で、PSの濃度は0.5mg/mLであった。図5中、スケールバーは100nmを示す。
【0079】
本実施例では、FMM中へ流入するポリスチレン溶液(原料溶液)の流量は、10L/時間であった。これは、アセトン中へ溶解させたポリスチレンの濃度が低いことを考慮しても、マイクロ流路を用いた従来法よりも1000倍以上の生産効率を有する。
【0080】
また、本実施例では、ポリスチレン、アセトン、水以外の物質を使用しないため、有害物質が製品中に残留したり、有害物質の除去コストが無く、環境負荷の問題も解決できる。さらに、本実施例で合成したポリマー有孔粒子(異形ポリマー粒子)の粒子径は、200~600nm程度であり、これは従来の方法で合成されるポリマー有孔粒子よりも小さいものであった。
【0081】
なお、本実施例の異形ポリマー粒子は、機能性物質内包サブミクロンカプセルや殺菌効果を持つ紫外線の拡散剤、リチウムイオン電池のアノードの充填率向上などに効果を発揮すると考えられる。
【0082】
(実施例2~8、比較例1,2)
表1,表2に示す条件としたこと以外は、実施例1と同様にして異形ポリマー粒子の製造を行った。ここで、実施例2により製造した異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子は、図5の「b」に示す粒子形状であった。実施例3により製造した異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子は、図5の「c」に示す粒子形状であった。なお、PS/アセトン溶液の濃度の減少により、ディンプル直径の比Rが増加し、最終的にレンズ状の粒子(図5の「b」参照)が形成された。
【0083】
実施例4により製造した異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子のSEM画像を図6に示す。実施例5により製造した異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子のSEM画像を図7に示す。実施例6により製造した異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子のSEM画像を図8に示す。実施例7により製造した異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子のSEM画像を図9に示す。実施例8により製造した異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子のSEM画像を図10に示す。
【0084】
なお、実施例1~3からすると、分子量の低下によりディンプル直径の比Rが増加した。しかしながら、定性的に、ディンプル(穴)の深さも増加した。この現象はPSの濃度が減少している間は観察されなかった。
【0085】
【表2】
【0086】
なお、表1,表2中、「評価」の欄の「良好」は、簡易に異形ポリマー粒子を含むポリマー粒子が得られたことを示す。また、比較例1の「ポリマー塊の形成」は、装置内において原料溶液と貧溶媒とが混合した際にポリマー(PS)の塊が析出したことを示す。比較例2の「ポリマー詰り」は、装置内でPSが詰まってしまうことを示す。
【0087】
(考察)
(ディンプルの形成のメカニズム)
図11に示すようなメカニズムでポリマー有孔粒子(異形ポリマー粒子)が生成されると考えられる。すなわち、(1)FMMにより貧溶媒中でPS/アセトン溶液を液滴にする。(2)液滴から貧溶媒流にアセトンを拡散させ、未溶解のPSが液滴界面で沈殿し始める。(3)界面で沈殿したPSシェルが液滴に残存するアセトンを囲む。(4)捕捉されたアセトンが粒子から放出され、ディンプルが形成される(図11の「a」参照)。
【0088】
PS/アセトン溶液中のPSの濃度が減少すると、沈殿したPSの量も減少し、PSはアセトンを囲むことが不可能になる(図11の「b」参照)。
【0089】
この相分離によりディンプルが大きくなり、最終的にレンズ状の粒子が形成される(図11の「b」参照)。また、一定のPS濃度で分子量が減少すると、液滴の粘度または液滴中のPSの拡散速度が低下する。これにより多量のアセトンを囲むことが可能となり、ディンプルの直径または深さが大きくなる(図11の「c」参照)。
【0090】
なお、ディンプルの形態は、PSの濃度または分子量によって制御することができる。また、FMM中のPS/アセトン溶液、貧溶媒の流速、PSの末端基等により、粒子径を制御できることも確認された。
【0091】
以上のように、特に粒子製造装置(フリーマイクロミキサー(流通型マイクロ流路ミキサー)(FMM))を用いてディンプル粒子を合成することによって、異形ポリマー粒子を含む粒子径が小さなポリマー粒子を簡易に量産することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の異形ポリマー粒子の製造方法によれば、異形ポリマー粒子を含む粒子径が小さなポリマー粒子を簡易に量産することができる。本発明の粒子製造装置は、異形ポリマー粒子を含む粒子径が小さなポリマー粒子を簡易に量産することができる。
【符号の説明】
【0093】
10:流体処理本体、11:第1流路、11a:入口、12:第2流路、15:第3流路、20:可動体受部材、21a:凹部、23:送液管、24:送液ポンプ、25:可動体、27:圧力計、29:回収槽、31:下部ケーシング、32:貫通穴、35:ボールホルダー、41:付勢部材、43:バネ、45:固定ボルト、47:ナット、51:貯留槽、61:原料溶液、63:貧溶媒、100:粒子製造装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11