(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】防水層塗布装置及び防水層塗布方法
(51)【国際特許分類】
B05B 12/00 20180101AFI20220214BHJP
B05B 12/34 20180101ALI20220214BHJP
B05B 13/04 20060101ALI20220214BHJP
B05B 15/625 20180101ALI20220214BHJP
B05B 15/70 20180101ALI20220214BHJP
B05B 16/80 20180101ALI20220214BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20220214BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20220214BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20220214BHJP
E04D 5/10 20060101ALI20220214BHJP
E04F 21/08 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
B05B12/00 A
B05B12/34
B05B13/04
B05B15/625
B05B15/70
B05B16/80
B05D1/02 A
B05D5/00 F
B05D7/00 L
E04D5/10 Z
E04F21/08 A
E04F21/08 X
(21)【出願番号】P 2018120419
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】514075714
【氏名又は名称】株式会社ウレタンメンテナンスサービス
(74)【代理人】
【識別番号】100177921
【氏名又は名称】坂岡 範穗
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠一朗
(72)【発明者】
【氏名】伴 好将
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-300359(JP,A)
【文献】特開2001-145843(JP,A)
【文献】特開平05-113037(JP,A)
【文献】特表2016-526121(JP,A)
【文献】特開2005-144218(JP,A)
【文献】登録実用新案第3205128(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B12/00-12/14
12/16-12/36
13/00-13/06
14/00-16/80
B05D 1/00- 7/26
E04F21/00-21/32
E04D 5/00-12/00
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面又は床面へ防水材料をスプレーガンで塗布する防水層塗布装置において、
車輪を備え走行可能な台車と、
前記台車に配置され、前記台車の幅より広い範囲に動作可能な多関節ロボットと、
前記多関節ロボットのマニピュレータの手先に配置されるスプレーガンと、
前記台車に着脱可能に配置され、前記多関節ロボットの動作範囲を覆うように設けられる、塗料飛散防止カバーを兼用する安全柵と、
前記防水材料を所定の膜厚で塗布するために、前記多関節ロボットのマニピュレータを動作させる速度及び範囲を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする防水層塗布装置。
【請求項2】
前記多関節型ロボットが垂直多関節ロボットであることを特徴とする請求項1に記載の防水層塗布装置。
【請求項3】
前記安全柵の左右方向の側面が開放可能に構成され、開放した側の側壁も塗布可能としたことを特徴とする請求項2に記載の防水層塗布装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の防水層塗布装置を用いて、
塗布範囲の折り返し点に近付くにつれ前記マニピュレータの下腕及び上腕の動作速度を漸次減速させる減速工程と、
前記減速工程に合わせて前記スプレーガンを前記スプレーガンの進行方向に傾斜させる外振り工程と、
前記折り返し点から戻るときに前記下腕及び前記上腕の動作速度を漸次加速させる加速工程と、
前記加速工程に合わせて前記スプレーガンの傾斜を戻す内振り工程と、
を繰り返すことを特徴とする防水層塗布方法。
【請求項5】
前記減速工程の前に前記スプレーガンを前記スプレーガンの進行方向と逆に傾斜させる外振り予備工程と、
前記加速工程の後半で前記スプレーガンを前記スプレーガンの進行方向に傾斜させる内振り後工程と、をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の防水層塗布方法。
【請求項6】
前記加速工程と前記減速工程との間の前記スプレーガンの動作を前記台車の幅方向に沿わせるとともに、前記台車の走行速度に合わせて前記スプレーガンを前記台車の後方側に移動させ、前記折り返し点で塗布位置を前記台車の進行方向側に前記スプレーガンの塗布幅分移動させることを特徴とする請求項4又は5に記載の防水層塗布方法。
【請求項7】
前記加速工程と前記減速工程との間の前記スプレーガンの動作を前記台車の進行方向に沿わせるとともに、前記スプレーガンが折り返される動作に合わせて前記スプレーガンを前記台車の幅方向に移動させることを特徴とする請求項4又は5に記載の防水層塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の下地等の路面又は建物屋上等の床面へ防水層をスプレーガンで塗布する防水層塗布装置及び防水層塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂防水材の吹付ノズルへの供給条件を管理することで、防水塗膜の目的物性や膜厚等の所望の性状を安定に確保し、より長期の品質保証を実現できる防水施工装置を提供することを目的として、特開2001-300359号公報に、走行部に搭載された吹付ノズルにより樹脂防水材を路面に吹き付け塗布する防水塗膜形成用ロボットを備える防水施工装置が開示されている。
【0003】
また、特開平7-251106号公報には、台車上に昇降可能なリフトが設けられており、このリフトの上端には基板を介して設置された吹付けロボットを備える耐火被覆材吹付け装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-300359号公報
【文献】特開平7-251106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている装置では、例えば道路を3メートルの幅で塗布しようとすると、往復運動機構の動作可能な幅が3メートル必要であり、装置の幅はそれより広くなってしまう。すると、装置が大型化してしまい、事業所と作業現場との間の装置の運搬が難しくなってしまうという課題があった。そのため、比較的幅を狭くした範囲の塗布を数回繰り返すことで施工を行なっていた。ここで、大型化した装置を分解して運搬することも考えられるが、作業現場で往復運動機構を含めた部品の組立て及び分解が必要となり、作業現場での工数が増大してしまうとともに、装置の構造に精通した人材が必要となる。
【0006】
また、特許文献2に開示されている装置では、塗料の飛散が問題となるとともに、路面等を塗布しようとするとロボットが近隣の作業者と接触するおそれがあり適切でない。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、非稼働時は小さくすることで装置の運搬等を容易にし、稼働時には装置の幅より広い範囲を塗布することができる防水層塗布装置を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明の別の課題は、動作に伴う反動が大きな垂直多関節ロボットを用いながら、路面又は床面を移動しながら塗布することができる防水層塗布方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の防水層塗布装置は、
路面又は床面へ防水材料をスプレーガンで塗布する防水層塗布装置において、
車輪を備え走行可能な台車と、
前記台車に配置され、前記台車の幅より広い範囲に動作可能な多関節ロボットと、
前記多関節ロボットのマニピュレータの手先に配置されるスプレーガンと、
前記台車に着脱可能に配置され、前記多関節ロボットの動作範囲を覆うように設けられる、塗料飛散防止カバーを兼用する安全柵と、
前記防水材料を所定の膜厚で塗布するために、前記多関節ロボットのマニピュレータを動作させる速度及び範囲を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の防水層塗布装置によれば、台車の幅より広い範囲に動作可能な多関節ロボットと、多関節ロボットのマニピュレータの手先に配置されるスプレーガンとを備えるため、道路等を幅広い範囲で塗布することができる。また、装置の非稼働時には、着脱式の安全柵を取外すとともに、多関節ロボットのマニピュレータを折畳むことで装置を小さくすることができ、運搬が容易となる。さらに、作業現場での装置の組立て及び分解も、安全柵を着脱するという簡単な作業で済ませることができる。またさらに、安全柵は塗料飛散防止カバーを兼ねているため、安全柵が二つの役割を果たし経済的である。
【0011】
本発明の防水層塗布装置の好ましい例は、
前記多関節型ロボットが垂直多関節ロボットであることを特徴とする。
【0012】
本発明の防水層塗布装置の好ましい例によれば、多関節ロボットが垂直多関節ロボットであるため、スプレーガンを傾斜させるとともに縦方向にも動作させることができ、例えば凹凸や部分的な傾斜があるような路面にも対応させることができる。
【0013】
本発明の防水層塗布装置の好ましい例は、
前記安全柵の左右方向の側面が開放可能に構成され、開放した側の側壁も塗布可能としたことを特徴とする。
【0014】
本発明の防水層塗布装置の好ましい例によれば、側壁も塗布可能なため、路面等を塗布する作業現場にて、従来は人手でしか施工できなかった側壁をロボットによって塗布することができる。
【0015】
本発明の防水層塗布方法は、
上述の防水層塗布装置を用いて、
塗布範囲の折り返し点に近付くにつれ前記マニピュレータの下腕及び上腕の動作速度を漸次減速させる減速工程と、
前記減速工程に合わせて前記スプレーガンを前記スプレーガンの進行方向に傾斜させる外振り工程と、
前記折り返し点から戻るときに前記下腕及び前記上腕の動作速度を漸次加速させる加速工程と、
前記加速工程に合わせて前記スプレーガンの傾斜を戻す内振り工程と、
を繰り返すことを特徴とする。
【0016】
本発明の防水層塗布方法によれば、塗布範囲の折り返し点にてマニピュレータの動作速度を漸次減速及び漸次加速させるため、多関節ロボットの動作に伴う反動が台車に伝達されにくくなり、多関節ロボットの動作に伴う台車の振れを低減させることができる。また、減速工程及び加速工程において、スプレーガンを傾斜させるため、マニピュレータの下腕及び上腕の動作速度が変化しても、防水材料が塗布される場所の移動速度は略一定とすることができる。このため、膜厚を略一定に保つことができる。
【0017】
本発明の防水層塗布方法の好ましい例は、
前記減速工程の前に前記スプレーガンを前記スプレーガンの進行方向と逆に傾斜させる外振り予備工程と、
前記加速工程の後半で前記スプレーガンを前記スプレーガンの進行方向に傾斜させる内振り後工程と、をさらに含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の防水層塗布方法の好ましい例によれば、スプレーガンの傾斜範囲をさらに大きくすることができるため、減速工程及び加速工程をより滑らかに行なうことができる。
【0019】
本発明の防水層塗布方法の好ましい例は、
前記加速工程と前記減速工程との間の前記スプレーガンの動作を前記台車の幅方向に沿わせるとともに、前記台車の走行速度に合わせて前記スプレーガンを前記台車の後方側に移動させ、前記折り返し点で塗布位置を前記台車の進行方向側に前記スプレーガンの塗布幅分移動させることを特徴とする。
【0020】
本発明の防水層塗布方法の好ましい例によれば、スプレーガンの動作を前記台車の幅方向に沿わせるとともに、前記台車の走行速度に合わせて前記手先を前記台車の後方側に移動させるため、塗布の軌跡が台車の進行方向と直交する方向となる。このため、一度の塗布で膜厚を略一定に仕上げることができ、作業効率が向上する。
【0021】
本発明の防水層塗布方法の好ましい例は、
前記加速工程と前記減速工程との間の前記スプレーガンの動作を前記台車の進行方向に沿わせるとともに、前記スプレーガンが折り返される動作に合わせて前記スプレーガンを前記台車の幅方向に移動させることを特徴とする。
【0022】
本発明の防水層塗布方法の好ましい例によれば、比較的速い速度が求められるスプレーガンの移動を台車の進行方向に沿ったものとして移動距離を短くするため、多関節ロボットの動作に伴う台車の振れをより効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上、説明したように、本発明の防水層塗布装置によれば、非稼働時は小さくすることで装置の運搬等を容易にし、稼働時には装置の幅より広い範囲を塗布することができる。
【0024】
また、本発明の防水層塗布方法によれば、動作に伴う反動が大きな垂直多関節ロボットを用いながら、路面又は床面を移動しながら塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る防水層塗布装置の側面図である。
【
図3】防水層塗布装置から安全柵を取外して多関節ロボットのマニピュレータを畳んだ図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る防水層塗布方法を説明する図である。
【
図5】防水層塗布方法の他の例を説明する図である。
【
図6】多関節ロボットの動作の一例を模式的に示す図である。
【
図7】路面等への塗布順序の一例を説明する図である。
【
図8】多関節ロボットの動作の他の例を模式的に示す図である。
【
図9】路面等への塗布順序の他の例を説明する図である。
【
図10】多関節ロボットの動作の他の例を模式的に示す図である。
【
図11】路面等への塗布順序の他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の防水層塗布装置10及び防水層塗布方法の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明に係る防水層塗布方法は、本発明に係る防水層塗布装置10を用いて実施される。
【0027】
先ずは、防水層塗布装置10について説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の防水層塗布装置10は、台車20と、多関節ロボット40と、スプレーガン35と、安全柵30と、制御盤28とを備える。また、防水層塗布装置10には、図示しない防水材料供給装置及び発電機が接続され、図示しない防水材料供給配管及び電力供給線を通じて防水材料及び電力が供給される。防水材料としては、例えば2液硬化型のものが採用される。
【0028】
台車20は、フレーム21、後輪22、前輪23、操舵部24、走行駆動部27、制御盤28を備える。フレーム21は、平面視略矩形をなしており、その後端近傍の裏側に2つの後輪22が備えられ、前端近傍の裏側に1つの前輪23が備えられる。また、前輪23にはハンドル25を備える操舵部24と電気モータ26を備える走行駆動部27が接続され、作業者によってハンドル25、アクセル及びブレーキ(図示せず)が操作され、所望の速度及び方向に走行可能となる。制御盤28は、フレーム21の中程に設けられ、その内部に台車20の走行、多関節ロボット40及びスプレーガン35の動作を制御する制御部34が設けられる。なお、多関節ロボット40の重量との釣り合いを取るため、台車20の前端近傍に重り(図示せず)を搭載してもよい。また、多関節ロボット40の動作時の反動による振れや転倒を防止するために、台車20の左右に張り出した補助輪(図示せず)を設けてもよい。
【0029】
多関節ロボット40は、台車20の後端近傍に備えられる。この多関節ロボット40のマニピュレータ41として例えば、下腕42、上腕43、手首44、手先45が備えられ、手先45にはスプレーガン35が配置される。これらのマニピュレータ41が動作することによって、所望の位置及び角度にスプレーガン35を持って行くことができる。多関節ロボット40は、台車20の幅wよりも広い範囲に動作可能なものが採用され、防水層塗布装置10の動作時には、台車20の幅wより広い範囲を塗布することができるよう構成される。
【0030】
また、多関節ロボットとしては、水平多関節ロボットと呼ばれる、マニピュレータが主に水平方向に動作するものも採用することができるが、本実施形態の防水層塗布装置10では、6軸または7軸の垂直多関節ロボット40を採用している。これは、水平多関節ロボットであると、平面の路面50又は床面等しか塗布することができないのに対し、垂直多関節ロボット40を採用することで側壁53等も塗布することができるためである。さらに、垂直多関節ロボット40であると、路面50の傾斜や凹凸があってもそれに対応することができる。例えば、
図2に示すような路面50に溝51があるような場合でも、溝51の上でスプレーガン35を傾斜させることで、溝51の縦面52も問題なく塗布することができる。
【0031】
安全柵30は、台車20に着脱可能に構成されるもので、多関節ロボット40の動作範囲を覆うように設けられる。この安全柵30には網材31等が貼付けされ、防水材料からなる塗料の周囲への飛散防止カバーも兼用する。安全柵30の側面は、その一部が取外し可能なパネル32で構成され、側面が開放可能なようにされる。このように、安全柵30の側面を開放することで、路面50等に連続して側壁53も塗布する、又は側壁53のみを塗布することができる。
【0032】
また、安全柵30は、ボルト(図示せず)、ブラケット33等によって台車20に取付けられ、防水層塗布装置10の非稼働時には、台車20から取外すことにより、防水層塗布装置10の運搬を容易にする。防水層塗布装置10を運搬するときは、
図3に示すように、安全柵30を取外すとともに、多関節ロボット40のマニピュレータ41を折畳む。このとき、装置の幅は台車20の幅と同じになる(
図2参照)。
【0033】
図1及び
図2に戻り、制御部34は、コンピュータ等から構成されるもので、台車20に設けられた走行駆動部27、多関節ロボット40のマニピュレータ41の動作、及びスプレーガン35からの塗料の吹出を制御する。すなわち、制御部34は、防水材料を決められた膜厚で路面50等に塗布するために、防水材料供給装置から供給される防水材料の量に合わせて又は量を制御して、台車20を所定の速度で走行させながら、多関節ロボット40のマニピュレータ41を所定の幅及び速度で動作させるのである。また、制御部34はスプレーガン35の動作も制御し、防水材料の吹出が不要のときはスプレーガン35の動作を停止させる。
【0034】
次に、上述した防水層塗布装置10の各構成と機能を踏まえ、防水層塗布方法の実施形態を説明する。防水層塗布装置10では、普通に動作させても台車20の幅を超える範囲を塗布することができ、非稼働時には安全柵30を取外すことにより運搬が容易になるという利点、及び側壁53も塗布することができるという利点を有する。ここでは、防水層塗布装置10の特性を活かし、多関節ロボット40の動作に伴う反動を低減させることができる防水層塗布方法を説明する。
【0035】
[第1実施形態]
図4、
図6及び
図7を参照して、第1実施形態の防水層塗布方法を説明する。
図4は、多関節ロボット40の上腕43、手首44、及びスプレーガン35(手先45)の動きを、防水層塗布装置10の背面側から見た図、
図6(A)は本実施形態の防水層塗布方法での多関節ロボット40の路面50に対する手首44の動きを模式的に表した図、
図6(B)は従来のロボットを用いた塗布装置の路面50に対する手首44の動きを模式的に表した図、
図7(A)~(D)は路面50等に防水層を塗布する順序を説明する図である。
【0036】
図4に示すように、本実施形態の防水層塗布方法は、減速工程S100と、外振り工程S110と、加速工程S120と、内振り工程S130とを含む。ここでは、説明をし易くするために、多関節ロボット40の手首44を台車20の幅方向に大きく動かす形態を説明する。
【0037】
先ず、多関節ロボット40の上腕43が中心位置C1にあり、そこから例えば図の右方向に動作する。次に、多関節ロボット40の手首44が塗布範囲(スプレーガン)の折り返し点r1に近付き、手首44が減速位置D1に到達すると、減速工程S100として下腕42及び上腕43の動作速度を漸次減速させながら手首44の折り返し点R1まで到達させる。これは、急に多関節ロボット40の下腕42及び上腕43を停止させると、その反動が台車20に伝わり、台車20が振られやすくなるからであり、この台車20の振れを防止するためである。このとき、そのままでは防水材料を塗布する位置(スプレーガン35が向いている路面50の位置)の移動速度が低下して、防水材料の膜厚が厚くなってしまう。このため、外振り工程S110として、減速工程S100の手首44の減速具合に合わせて、スプレーガン35をスプレーガン35の折り返し点r1まで進行方向に傾斜させる。
【0038】
次に、手首44の折り返し点R1から多関節ロボット40の動作を反転させるために、下腕42及び上腕43を図の左側に移動させる。このとき急に下腕42及び上腕43を動作させると、やはりその反動が台車20に伝わり、台車20が振られやすくなる。この振れを防止するために、加速工程S120として、折り返し点R1から下腕42及び上腕43を加速終了位置A1まで漸次加速させる。すると、ここでも膜厚が厚くなるため、内振り工程S130として、加速工程S120の手首44の速度に合わせてスプレーガン35の傾斜を戻して膜厚を略一定にするのである。次に、図の左側の減速位置D2まで手首44が移動すると、上記同様の減速工程S101、外振り工程S111、加速工程、内振り工程を繰り返すのである。
【0039】
これらの減速工程S100、外振り工程S110、加速工程S120、内振り工程S130を経たときの、多関節ロボット40の手首44の動きは、
図6(A)に示すようになる。この図は、路面50に対する手首44の動き(軌跡)を上から見た図である。
図6(A)では、矢印aが台車20の進行方向であり、矢印bが手首44の移動する方向である。また、一点破線は多関節ロボット40の動作の中心位置C1、上下の破線は手首44の折り返し点R1,R2、その内側の破線は手首44の減速位置D1,D2と加速終了位置A1,A2を示す。本図に示すように、本実施形態の防水層塗布方法では、多関節ロボット40の手首44がその折り返し点R1,R2前後で緩やかに減速し緩やかに加速している。
【0040】
一方、上記の防水層塗布方法を採用せずに、普通にロボットを動作させると、
図6(B)に示すように、ロボットの折り返し点Rで急激に向きを変えないと膜厚が一定とならない。さらに、ロボットによるスプレーガン35の移動速度も速くしないと、折り返し点Rで膜厚が厚くなってしまう。そうすると、多関節ロボット40の反転による反動が大きくなってしまうおそれがある。なお、図中の矢印cは台車20の進行方向、矢印dはスプレーガン35の移動する方向、一点破線は多関節ロボット40動作の中心位置C、上下の破線Rは手首44の折り返し点を示す。
【0041】
また、本実施形態の防水層塗布方法を用いて路面50等に防水材料を塗布するときのスプレーガン35の塗布順序は、
図7(A)~(D)に示すようになる。すなわち、台車20が矢印a方向に進みながら、スプレーガン35が矢印bの方向に進んで防水材料を塗布する。次に折り返し点r1でスプレーガン35は折り返され、矢印cの方向に進む。これを繰り返し矢印d、矢印eと塗り進んでいく。このとき、防水材料の膜厚を一定に保つため、スプレーガン35が一方の折り返し点r1から他方の折り返し点r2まで移動しさらに一方の折り返し点r1まで戻る往復移動のときの台車20の移動距離mと、スプレーガン35の塗布幅w1を略同じにすることが好ましい(
図7(C)参照)。このようにすることで、防水材料が路面50に二重に塗布され、膜厚が略一定となる。
【0042】
[第2実施形態]
次に、
図5を参照して、第2実施形態に係る防水層塗布方法を説明する。本実施形態の防水層塗布方法は、外振り予備工程S200と、減速工程S210と、外振り工程S220と、加速工程S230と、内振り工程S240と、内振り後工程S250とを含む。
【0043】
外振り予備工程S200は、例えば前回の加速工程S231が終わった加速終了位置A2から多関節ロボット40の上腕43が図の右側に進むとき、スプレーガン35を徐々にスプレーガン35の進行方向と逆に傾斜させるものである。この外振り予備工程S200は、次に行なわれる減速工程S210の前準備として行なわれる。
【0044】
次に、多関節ロボット40の手首44が塗布範囲(スプレーガン)の折り返し点r1に近付き減速位置D1に到達すると、減速工程S210が始まり、下腕42及び上腕43の動作速度を漸次減速させながら手首44の折り返し点R1まで到達させる。同時に、外振り工程S220が行なわれ、スプレーガン35をスプレーガン35の進行方向に向かってスプレーガン35の折り返し点r1まで傾斜させる。この外振り工程S220のとき、スプレーガン35が予め塗布範囲の内側を向いているため、スプレーガン35の傾斜角度を大きくすることができ、第1実施形態と比較して減速工程S210を長い距離及び長い時間をかけて行なうことができる。
【0045】
次に、加速工程S230として、折り返し点R1から多関節ロボット40の動作を反転させるために、下腕42及び上腕43を図の左側に漸次加速させながら移動させる。このとき、第1実施形態でも述べたように、内振り工程S240を行い、スプレーガン35の傾斜を元に戻す動作が行なわれる。第1実施形態では、スプレーガン35の傾斜が元に戻った時点で加速工程が終わるが、本実施形態では、さらに加速工程S230は続き、加速終了位置A1まで下腕42及び上腕43は漸次加速される。この加速工程S230の後半で、スプレーガン35をスプレーガン35の進行方向に傾斜させる内振り後工程S250がなされる。ここでも、スプレーガン35の傾斜角度を大きくすることができ、第1実施形態と比較して加速工程S230を長い距離及び長い時間をかけて行なうことができる。
【0046】
次に、加速工程S230が終わると、次の減速工程S211の準備としてスプレーガン35の傾斜を元に戻すこと及びスプレーガン35の進行方向と逆に傾斜させる外振り予備工程S201が行なわれる。次に、手首44が減速位置D2に到達すると上記同様に次の減速工程S211、外振り工程S221が実行され、これらが繰り返される。なお、本実施形態の防水層塗布方法の手首44の動き及びスプレーガン35の軌跡は、第1実施形態と略同じであり、
図6(A)及び
図7(A)~(D)を参照されたい。
【0047】
[第3実施形態]
次に、
図8、
図9(A)~(D)を参照して、第3実施形態に係る防水層塗布方法を説明する。
図8は本実施形態における多関節ロボット40の路面50等に対する手首44の動きを模式的に示した図、
図9(A)~(D)は路面50等に防水層を塗布する順序を説明する図である。なお、
図8及び
図9の矢印aは台車20の進行方向、矢印b以下は手首44又はスプレーガン35の進行方向を示す。また、上下の破線は手首44の折り返し点又は防水材料を塗布するときの塗布範囲の端を示す。
【0048】
図8に示すように、本実施形態の防水層塗布方法では、上記の第1実施形態又は第2実施形態で説明した加速工程と減速工程との間のスプレーガン35(手首44)の動作(軌跡)を、台車20の幅方向に沿わせている。このままでは、台車20が走行しているため、スプレーガン35(手首44)の軌跡は台車20の進行方向に対して斜め線となってしまう(
図6(A)参照)。そこで、台車20の走行速度に合わせて前記スプレーガン35を前記台車20の後方側に移動させる。すると、スプレーガン35(手首44)の軌跡は台車20の幅方向に平行となる(
図8矢印b)。そして、折り返し点R1で防水材料の路面50に対する塗布位置を、台車20の進行方向側にスプレーガン35の塗布幅分移動させる(
図8矢印c)。これを繰り返すことによって、路面50等を塗布する。
【0049】
また、このときの防水材料の塗布順序としては、
図9(A)~(D)に示すようになる。すなわち、台車20が矢印a方向に進みながら、矢印b~eのように防水材料を塗布していく。ここでは、スプレーガン35の軌跡が台車の進行方向と直交する方向となるため、重ね塗りをしなくとも防水材料の膜厚を略一定とすることができる。このため、同じ膜厚を塗布するときに二度塗りと比較してスプレーガン35の移動速度を約半分にすることができる。
【0050】
[第4実施形態]
次に、
図10及び
図11を参照して、第4実施形態に係る防水層塗布方法を説明する。
図10は本実施形態における多関節ロボット40の手首44の動きを模式的に示した図、
図11(A)~(E)は路面50等に防水層を塗布する順序を説明する図である。なお、
図10及び
図11の矢印aは台車20の進行方向、矢印b以下は手首44又はスプレーガン35の進行方向を示す。また、上下の破線は防水材料を塗布するときの塗布範囲の端を示す。
【0051】
図10に示すように、本実施形態の防水層塗布方法では、上記の第1実施形態又は第2実施形態で説明した加速工程と減速工程との間のスプレーガン35の動作(軌跡)を、台車20の進行方向に沿わせている(
図10矢印b)。次に、スプレーガン35が折り返し点r1,r2で折り返される動作に合わせて、スプレーガン35を台車20の幅方向に移動させる(
図10矢印c)。そして、路面50等の塗布幅の端にスプレーガン35が達すると、加速工程と減速工程との間のスプレーガン35の動作に合わせながら、スプレーガン35を台車20の幅方向のうち反対側に移動させる(
図10矢印d)。これを繰り返すことによって防水材料を塗布していく。
【0052】
このときの防水材料の塗布順序を、
図11(A)~(E)を参照して説明する。先ず、
図11(A)に示すように、第1実施形態及び第2実施形態で説明した加速工程又は減速工程を含めた動作をしながら、台車20の進行方向に向かって短く防水材料を塗布する(
図11矢印b)。次に、
図11(B)に示すように、折り返し点で台車20の進行方向とは逆方向に向かって短く防水材料を塗布しながら、塗布ムラができないようにスプレーガン35を台車20の幅方向に移動させる(
図11矢印c)。なお、このとき最初に塗布する方向は、台車20の進行方向と逆にしてもよい。さらに、
図11(C)に示すように、折り返し点で台車20の進行方向に向かって短く防水材料を塗布する(
図11矢印d)。なお、このときにも塗布ムラができなければスプレーガン35を台車20の幅方向に動かしてもよい。これらを繰り返しながら、
図11(D)に示すように、路面50等の塗布する幅の端にスプレーガン35が到達すると(
図11矢印e)、
図11(E)に示すように反対側の端に向かって上記の塗布を繰り返していく(
図11矢印f)。
【0053】
以上、説明したように上述の実施形態に係る防水層塗布装置10及び防水層塗布方法によれば、防水層塗布装置10が多関節ロボット40と着脱式の安全柵30を備えるため、非稼働時には安全柵30を取外すとともに多関節ロボット40を小さく折畳むことができ、装置の運搬が容易となる。また、稼働時には、台車20の幅より広い範囲を塗布することができ、一度に広い幅を塗布することができるため作業効率に優れる。
【0054】
また、多関節ロボット40に垂直多関節ロボット40を採用してスプレーガン35を傾斜させることが可能なため、路面50の傾斜や凹凸にも対応させることができる。さらに、安全柵30の側面が解放可能に構成されており、路面50のみならず側壁53も塗布することができる。特に橋梁や高架式の道路においては、路面50の床版から側壁53まで連続的に防水層を施工することが求められることが多く、そのような場合にも対応させることができる。
【0055】
また、防水層塗布方法の第1実施形態によれば、減速工程と、外振り工程と、加速工程と、内振り工程とを含むため、塗布する膜厚を略一定としながら、スプレーガン35の折り返し点での多関節ロボット40の反転による反動を低減させ、台車20の振れを低減させることができる。また、多関節ロボット40の反動を低減させることができるため、多関節ロボット40をあえて重量のある台車に搭載する必要がなくなり、台車20として比較的軽量なものを採用することができる。
【0056】
また、防水層塗布方法の第2実施形態によれば、第1実施形態に加えて外振り予備工程と、内振り後工程とを含むため、スプレーガン35の傾斜角度を大きくすることができる。これにより、減速工程及び加速工程の距離を長くすることができ、多関節ロボット40の下腕42及び上腕43の加減速をより緩やかにすることができる。これにより、折り返し点での多関節ロボット40の反動をより低減させることができる。
【0057】
また、防水層塗布方法の第3実施形態によれば、防水材料を一度の塗布で略均一な膜厚で塗布することができるため、二度塗りするときと比較して、多関節ロボット40のマニピュレータ41の動作速度を落とすことができる。これにより、折り返し点における多関節ロボット40の反転動作の反動をより低減させることができる。
【0058】
また、防水層塗布方法の第4実施形態によれば、加速工程から減速工程までの距離を短くしているため、防水材料を塗布するときの多関節ロボット40の下腕42及び上腕43の動きを少なくすることができ、折り返し点における多関節ロボット40の反動をより低減させることができる。特に第1実施形態及び第2実施形態で説明した、外振り予備工程、外振り工程、内振り工程、内振り後工程を取り入れることによって、スプレーガン35の傾斜によってかなりの部分を塗布することができる。これにより、多関節ロボット40の下腕42及び上腕43の動きを最小限にして、折り返し点における多関節ロボット40の反動をより効果的に低減させることができる。
【0059】
なお、上述の防水層塗布装置及び防水層塗布方法は、本発明の例示であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、その構成を適宜変更することができる。例えば、上述の実施形態では、台車の左右両方の幅方向に広く塗布する形態を記載したが、台車の幅方向のうち片方のみ広く塗布するような形態も含まれる。
【0060】
また、台車として貨物自動車等を採用することもできる。ここで、台車に貨物自動車を採用した場合、貨物自動車の懸架装置の動作により車両が不安定になることがあるが、上述の防水層塗布方法を採用することで、多関節ロボットの反動による貨物自動車の振れを低減させることができる。
【符号の説明】
【0061】
10・・防水層塗布装置、
20・・台車、21・・フレーム、22・・後輪、23・・前輪、24・・操舵部、25・・ハンドル、26・・電気モータ、27・・走行駆動部、28・・制御盤、
30・・安全柵、31・・網材、32・・パネル、33・・ブラケット、34・・制御部、35・・スプレーガン、
40・・多関節ロボット、41・・マニピュレータ、42・・下腕、43・・上腕、44・・手首、45・・手先、
50・・路面、51・・溝、52・・縦面、53・・側壁、
A1,A2・・加速終了位置、D1,D2・・減速位置、R1,R2・・折り返し点(手首)、r1,r2・・折り返し点(スプレーガン)、