(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】自律走行ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20220214BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20220214BHJP
G01S 17/931 20200101ALI20220214BHJP
【FI】
G05D1/02 J
G01B11/00 A
G01S17/931
G05D1/02 L
(21)【出願番号】P 2019541532
(86)(22)【出願日】2017-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2017032970
(87)【国際公開番号】W WO2019053798
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2020-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】517270798
【氏名又は名称】株式会社Doog
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100169753
【氏名又は名称】竹内 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100174067
【氏名又は名称】湯浅 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】松下 裕介
(72)【発明者】
【氏名】大島 章
(72)【発明者】
【氏名】城吉 宏泰
(72)【発明者】
【氏名】柄川 索
(72)【発明者】
【氏名】腰原 裕一
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-185630(JP,A)
【文献】特開2011-54082(JP,A)
【文献】特開2006-239844(JP,A)
【文献】特開2016-124036(JP,A)
【文献】特開2011-65400(JP,A)
【文献】中里 祐介, 神原 誠之, 横矢 直和,"再帰性反射マーカと赤外線カメラを利用した位置同定手法",電子情報通信学会2004年総合大会講演論文集,2004年03月08日,p.304
【文献】中村 貴彦, 鈴木 聡,"レーザ測域センサの反射強度と反射マーカを併用した簡易的なSLAMの提案",電気学会研究会資料 次世代産業システム研究会 IIS-12-010~021,日本,社団法人電気学会,2012年02月27日,p.55-p.60
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
G01B 11/00
G01S 17/931
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体に設けられる識別パターンと、
駆動機構を備える本体と、
前記本体に搭載され、識別パターンの方向および距離と、反射光の強度のパターンを検出する能動型光学センサと、
前記駆動機構を制御する制御装置と
、
前記本体に連結および分離が可能な台車と、
を備えており、
前記台車は、後部に識別パターンを備えており、
前記制御装置は
、
前記能動型光学センサにより検出された反射光の強度のパターンに基づいて識別パターンの種別を識別し、識別パターンの種別と方向および距離に基づいて追従走行制御もしくは接触回避走行制御を行
い、
種別が同一の識別パターンを追従するように前記駆動機構を制御し、
識別された識別パターンの種別と方向および距離に基づいて、予め設定されたデータを参照して追従目標の方向および距離を取得し、
前記追従目標を追従するように前記駆動機構を制御し、
他の自律走行ロボットの台車の後部の識別パターンを検出して、台車の連結部を前記追従目標として追従するように前記駆動機構を制御する、
自律走行ロボットシステム。
【請求項2】
物体に設けられる識別パターンと、
駆動機構を備える本体と、
前記本体に搭載され、識別パターンの方向および距離と、反射光の強度のパターンを検出する能動型光学センサと、
前記駆動機構を制御する制御装置と、を備えており、
前記制御装置は、
前記能動型光学センサにより検出された反射光の強度のパターンに基づいて識別パターンの種別を識別し、
識別された識別パターンの種別と
前記能動型光学センサにより検出された識別パターンの回転角度および距離に基づいて、予め設定されたデータを参照して
前記物体の干渉形状を取得し、
前記干渉形状との接触を回避するように
前記駆動機構を制御する、
自律走行ロボットシステム。
【請求項3】
前記本体の後部に、後方に向けた識別パターン
と前方に向けた識別パターン
とが
互いに異なるように設けられており、
前記制御装置は、他の自律走行ロボットに設けられた識別パターンを検出し、
前記他の自律走行ロボットとの接触を回避するように
前記駆動機構を制御する、
請求項
2に記載の自律走行ロボットシステム。
【請求項4】
前記本体に連結および分離が可能な台車を備えており、
前記台車は、前部に識別パターンを備えており、
前記制御装置は、
前記台車の識別パターンを検出した時には、
前記台車と周囲物体の接触を回避するように
前記駆動機構を制御する、
請求項1~請求項
3のいずれか一項に記載の自律走行ロボットシステム。
【請求項5】
前記能動型光学センサは、走査型レーザセンサである、
請求項1~請求項
4のいずれか一項に記載の自律走行ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自律走行ロボットシステムに係り、詳しくは自律走行の信頼性および安全性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
倉庫や工場等の施設における物品の搬送手段として、人力の台車に代えて、センサで周囲の環境の情報を検出し、それに基づいて自動で走行する自律走行ロボットが採用されることが多くなっている。自律走行ロボットとしては、路面に貼り付けられた磁気テープと車体下面に取り付けられた磁気センサとにより、既定の走行経路に沿って走行する無人搬送車が公知である(特許文献1)。
【0003】
また、軌道に沿って走行する搬送台車の後部に再帰性反射部材を取り付け、前方を走行する搬送台車の再帰性反射部材からの反射光を光学式の測距装置によって検出し、前方の搬送台車との車間距離を算出して追突等を防ぐべく車速制御を行うものが公知である(特許文献2)。
【0004】
また、光学式センサを用いて人や物を検出し、人や物に対する追従走行と障害物に対する接触回避を行う自律走行ロボットが公知である(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-86453号公報
【文献】特許第4461199号公報
【文献】WO2017/056334A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自律走行ロボットは、周囲の物体を検出するために能動型光学センサの一種であるレーザセンサを用いているものが多い。能動型光学センサは、光を発光して物体からの反射光を検出するタイプの光学センサである。レーザセンサは、回転する鏡を用いてレーザ光のパルスを周囲に照射し、物体表面でレーザ光が反射して戻るまでの時間を計測することにより、物体表面までの方向と距離を点群として検出するものである。また、反射光の強度を検出することもできる。レーザセンサは、誤検出が少なく信頼性が高いが、レーザ光が通過する一つの平面上における物体の形状の情報しか得られないため、センサから得られる情報に基づいて物体の種別を正確に識別するのは難しい。また、物体の立体形状を得ることができない。
【0007】
このため、自律走行の信頼性および安全性に関して、下記の問題がある。
(1)周囲の物体の立体形状が得られないため、物体と自律走行ロボットが接触するか否かの正確な判定ができず、両者が接触する恐れがある。特に、レーザセンサを搭載する自律走行ロボットでは、センサの視野を妨げないようにするため、センサの高さにおける車体の断面形状を、他の高さの部分よりも小さくしている場合があるが、この場合、自律走行ロボットが、他の自律走行ロボットの大きさを実際よりも小さく認識し、ロボット同士が接触する可能性がある。
(2)レーザセンサで対象物を検出して追従走行している時に、他の物体が自律走行ロボットと対象物の間を横切る等によって、追従対象物を見失うと、再度追従対象物が見えた時に、同じものであると識別するのが難しく、追従走行を継続できない。
(3)本体と着脱可能な台車からなる牽引型自律走行ロボットがある。特に、自律走行ロボットが、牽引型自律走行ロボットを追従する場合、追従対象ロボットが旋回している時に、本体よりも台車が旋回円の内側を走行するため、追従対象ロボットの本体の軌道と、追従するロボットの軌道のずれが大きくなる。
(4)牽引型自律走行ロボットの場合、台車と周囲の障害物の接触を防止するため、台車の連結の有無によって走行軌道を変える必要があるが、本体に搭載されている走査型レーザセンサでは、台車の有無を認識するのが難しく、他の検出手段が必要になる。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、比較的簡単で低コストの構成で、自律走行の信頼性と安全性を向上させた自律走行ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の自律走行ロボットシステムは、物体に設けられる識別パターンと、駆動機構を備える本体と、本体に搭載され、識別パターンの方向および距離と反射光の強度のパターンとを検出する能動型光学センサと、駆動機構を制御する制御装置とを備えており、制御装置は、能動型光学センサにより検出された反射光の強度のパターンに基づいて識別パターンの種別を識別し、識別パターンの種別と方向および距離に基づいて追従走行制御もしくは接触回避走行制御を行う。
【0010】
好適には、識別パターンは、1ないし複数の高反射強度部を備えている。
【0011】
好適には、識別パターンの高反射強度部は、再帰性反射材により形成されている、
【0012】
好適には、能動型光学センサは、走査型レーザセンサである。
【0013】
好適には、制御装置は、種別が同一の識別パターンを追従するように駆動機構を制御する。
【0014】
好適には、制御装置は、識別された識別パターンの種別と方向および距離に基づいて、予め設定されたデータを参照して追従目標の方向および距離を取得し、追従目標を追従するように駆動機構を制御する。
【0015】
好適には、本体に連結および分離が可能な台車を備えており、台車は、後部に識別パターンを備えており、制御装置は、他の自律走行ロボットの台車の後部の識別パターンを検出して、台車の連結部を追従目標として追従するように駆動機構を制御する。
【0016】
好適には、制御装置は、識別された識別パターンの種別と方向および距離に基づいて、予め設定されたデータを参照して干渉形状を取得し、干渉形状との接触を回避するように駆動機構を制御する。
【0017】
好適には、本体の後部に、後方に向けた識別パターンと、前方に向けた識別パターンが設けられており、制御装置は、他の自律走行ロボットに設けられた識別パターンを検出し、他の自律走行ロボットとの接触を回避するように駆動機構を制御する。
【0018】
好適には、本体に連結および分離が可能な台車を備えており、台車は、前部に識別パターンを備えており、制御装置は、台車の識別パターンを検出した時には、台車と周囲物体の接触を回避するように駆動機構を制御する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、能動型光学センサを用いて周囲の物体に設けられた識別パターンを認識することによって、周囲の物体の種類を識別して自律走行を行うので、追従および障害物回避の信頼性および安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係る自律走行ロボットシステムの運用状態を示す側面図である。
【
図6】操作者識別パターンが設けられたズボンの後面図である。
【
図7】識別標識の識別パターンを示す全面図および後面図である。
【
図9】追従走行制御の手順を示すフローチャートである。
【
図10】操作者と追従走行する自律走行ロボットとを示す平面図である。
【
図11】牽引型自律走行ロボットと追従走行する自律走行ロボットとを示す平面図である。
【
図12】牽引型自律走行ロボットと追従走行する自律走行ロボットの走行経路を示す平面図である。
【
図13】接触回避制御の手順を示すフローチャートである。
【
図14】レーザセンサの検出範囲と干渉形状とを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、
図1~
図14を参照して、本発明を荷物運搬用ロボットに適用した一実施形態を詳細に説明する。
[実施形態の構成]
【0022】
図1は、実施形態に係る自律走行ロボットシステムの運用状態を示す側面図である。
図1では、2台の自律走行ロボット20が倉庫の床面1上で運用されている。これら自律走行ロボット20のうち、前方の1台は先導する操作者2に対して追従走行し、後方の1台は先行する自律走行ロボット20に対して追従走行している。1台目は牽引型自律走行ロボットであり、本体40が連結部42で着脱可能に連結された台車41を牽引している。本体40は駆動機構を有し、自走する。台車41は、自在キャスタ48と固定キャスタ49を有し、台車41に牽引されて移動する。各自律走行ロボット20の本体40が備えるデッキ27および台車41には、倉庫内で搬送される物品5がそれぞれ搭載されている。なお、本明細書では「自律走行ロボット」の用語は、牽引台車を有するもの、および有しないものの総称として用いている。
【0023】
図2は、自律走行ロボットの斜視図である。
図3は、自律走行ロボットの正面図である。
図4は、自律走行ロボットの側面図である。
図5は、操作部の詳細を示す平面図である。
図6は、操作者識別パターンが設けられたズボンの後面図である。
図7は、識別標識の識別パターンを示す全面図および後面図である。
図8は、制御装置の構成を示すブロック図である。
【0024】
自律走行ロボット20の本体40は、
図2~
図4に示すように、鋼板、鋼管、アルミ押出材等から構成され、後端からリヤオーバハング部21aが延設された車体21を備えている。車体21は、駆動機構として、左右一対の電気モータ29に接続された左右一対の駆動輪22を後下部に有している。また、車体21は、左右一対の自在キャスタ輪23を前下部に有し、左右一対の転倒防止輪24をリヤオーバハング部21aの後端に有している。車体21の上部にはセンタコラム25が立設される一方、リヤオーバハング部21aの後端には左右一対のリヤピラー26が立設されている。センタコラム25およびリヤピラー26の上端には、物品の搭載に供される前後に長い長方形のデッキ27が支承されている。
【0025】
センタコラム25の前部には、能動型光学センサの一種である走査型レーザセンサ(以下、単にレーザセンサと記す)35が取り付けられている。レーザセンサの高さは自律走行ロボットの大きさによって様々であるが、例えば30cm程度である。レーザセンサ35は、所定の範囲、例えば、正面からから斜め後方までを含む270度の範囲に水平にレーザ光を投射し、その反射光を受光して周囲の物体の位置・方向および反射光の強度を検出する。デッキ27はセンタコラム25とリヤピラー26で支承しており、前部にピラーを設けていないため、レーザ光は遮られることがなく、正面から斜め後方までの視界を確保できる。
【0026】
デッキ27の前端中央部には、ブラケット31が取り付けられ、このブラケット31の上部に操作部32が固定されている。操作部32は、
図5に示す追従走行ボタン61、自動走行ボタン62、停止ボタン63と、前後左右に傾けることができるジョイスティック33とを上部に備えている。
【0027】
操作者2が履くズボン3の裾には、
図6に示すように、帯状の高反射強度部を有する識別パターン71が前後に一対ずつ設けられている。自律走行ロボット20の後部には、矩形板状の識別標識37が取り付けられており、
図7(a),(b)に示ように、帯状の高反射強度部を有する識別パターン38と39が、前後両面に各々設けられている。同様に、牽引型自律走行ロボットの台車41の後部には識別標識43が取り付けられており、
図7(c)に示すように、後方に向けて識別パターン44が設けられている。
【0028】
上記の高反射強度部は、再帰性反射材を用いて作られている。再帰性反射材は、例えば、ガラスビーズをテープに塗布した物であり、入射光を入射した方向に高い反射率で反射する特性を有する。このため、レーザセンサのような能動型光学センサによって再帰性反射材で形成されたパターンを検出する場合、センサが再帰性反射材に向けて放出した光は、高い反射率でセンサに戻り、他の方向から入射する外乱光はセンサに向かわないため、外乱光の影響を受けずにパターンを検出できる。上記の再帰性反射材の帯の本数、幅、間隔は任意であるが、反射光強度のパターンを区別できるように、種別ごとに各々の本数、幅、間隔を変えている。
【0029】
図8は、自律走行ロボット20の制御システムの構成を示すブロック図である。車体21の内部には、電気モータを制御して自律走行ロボット20を自律走行させる制御装置45が搭載されている。制御装置45には、レーザセンサ35、操作部32、電気モータ29が接続されている。制御装置45は、入出力装置、演算装置、および制御プログラムを格納した記憶装置を備える制御用コンピュータであり、レーザセンサ35から得られるデータを用いて、周囲の物体の位置、形状の検出および、識別パターン38,39,71の認識を行い、それに基づいて、ロボットが周囲の物体と接触せずに、人・物への追従走行、および予め決められた経路に沿った自動走行ができるように、電気モータを制御する。
【0030】
操作者2が追従走行ボタン61を押すと、自律走行ロボット20は、前方にいる人もしくは物に追従して走行する。操作者2が自動走行ボタン62を押すと、自律走行ロボット20は、予め決められた経路に沿って走行する。操作者2が停止ボタン63を押すと、自律走行ロボット20は、走行を停止する。ジョイスティック33は、自律走行ロボット20を補助的に手動操作する際に用いるものであり、操作者2がジョイスティック33を前後左右に傾けると、自律走行ロボット20は、前後移動および左右旋回を行う。
[実施形態の作用]
【0031】
以下、
図9~
図14を参照し、本実施形態の作用を説明する。
図9は、追従走行制御の手順を示すフローチャートである。
図10は、操作者と追従走行する自律走行ロボットとを示す平面図である。
図11は、牽引型自律走行ロボットと追従走行する自律走行ロボットとを示す平面図である。
図12は、牽引型自律走行ロボットと追従走行する自律走行ロボットの走行経路を示す平面図である。
図13は、接触回避制御の手順を示すフローチャートである。
図14は、レーザセンサの検出範囲と干渉形状とを示す平面図である。
(追従制御)
【0032】
自律走行ロボット20を操作者2に追従走行させる場合、操作者2は、自律走行ロボット20の前に立ち、操作部32の追従走行ボタン61を押す。追従走行ボタン61が押されると、制御装置45は、
図9のフローチャートにその手順を示す追従制御を実行する。
【0033】
追従制御を開始した制御装置45は、
図9のステップS1でレーザセンサ35の出力データから前方の物体の識別パターンを検出・識別し、識別パターンの種別を記憶する。識別パターンの識別は、レーザセンサ35から得られる方向、距離、反射光強度の情報から、反射光が強い部分の幅と数を求め、予め登録されたデータと比較することにより行う。人を追従する場合は、制御装置45は操作者2のズボン3に設けられている識別パターン71を検出する。ステップS2では、レーザセンサ35の視野内に識別パターンが検出されたか否かを判定し、検出されなかった場合は、ステップS13へ進み、追従走行を開始せずに停止する。
【0034】
ステップS3では、検出した識別パターンの距離81、方向82を検出し、それを追従目標とする。なお、人を追従する場合、ズボン3の両足の識別パターン71が検出された場合は、両足の中間点を追従目標とする。ステップS4,S5は、牽引型自律走行ロボットを追従する時に追従目標を補正する手順であり、後述する。ステップS6では、追従目標の距離および方向に従って、電気モータ29を制御し、自律走行ロボット20を追従目標に対して追従走行させる。
図10は、人に追従する場合を示している。追従走行は、追従目標までの距離81に応じて、距離が近い場合は減速、距離が遠い場合は増速し、識別パターンの方向82に応じて識別パターンの方に旋回させることによって行う。
【0035】
ステップS7では、停止ボタン63が押されたかどうかを確認し、停止ボタンが押された場合には、ステップS13へ進み、追従走行を中断して自律走行ロボット20を停止させる。
【0036】
ステップS8では、次の制御周期のために、識別パターンを再度検出する。ステップS9では、記憶している追従対象の識別パターンの種別と同種別の識別パターンの検出に成功したか否かを判定し、検出に成功した場合は、ステップS3から繰り返す。
【0037】
先導する操作者2との間を他の人や自律走行ロボット20等が横切ると、レーザセンサ35の視界が遮られ、識別パターンの検出に失敗する。この場合は、ステップS10が実行され、再度識別パターンの検出を行う。ステップS11では、同じ種別の識別パターンの検出に成功したか否かを判定し、成功した場合は、ステップS3に戻り、追従を再開する。識別パターンの種別を記憶しているため、一旦見失っても、再度同じ種別の識別パターンがセンサの視界に入れば、追従を再開することができる。この時に、自律走行ロボットなど、他の識別パターンを持つ物体が視野に入っても、記憶している追従対象と識別パターンの種別が異なるため、他の物体を誤って追従することを防止できる。
【0038】
追従対象と同じ種別の識別パターンが検出できない場合は、ステップS12において最後に検出を成功した時からの経過時間を検査し、所定の時間(例えば5秒間)以内ならば、ステップS10から繰り返す。所定の時間を超えていたら、ステップS13に進み、走行を中断して停止する。
(自律走行ロボットに対する追従制御)
【0039】
自律走行ロボット20を他の自律走行ロボットの後に置いた状態、すなわち、自律走行ロボット20の正面に他の自律走行ロボットの後部を対向させた状態で、操作者2が追従走行ボタン61を押すと、制御装置45は、上記と同様に、
図9の手順で追従走行を行う。この場合は、制御装置45は、操作者2の代わりに他の自律走行ロボットの後部の識別パターン39を検出し、他の自律走行ロボットに追従して走行する。追従走行中に操作者2が自律走行ロボット20の前を横切り、操作者の識別パターン71がレーザセンサ35の視界に入っても、反射光強度のパターンが異なるため、操作者と追従対象の自律走行ロボットを誤認することがなく、再度追従対象の自律走行ロボットの識別パターン39がレーザセンサ35の視界に入れば、追従走行を継続することができる。
(台車に対する追従制御)
【0040】
牽引型自律走行ロボットの台車41に対して、自律走行ロボット20を追従走行させる場合、制御装置45は、上記、
図9と同様の手順で追従制御を行うが、この場合は、ステップS4において、台車の後部に設置された識別パターンにより、追従対象が牽引型自律走行ロボットであると判定され、ステップS5が実行される。
【0041】
ステップS5では、
図11に示すように、レーザセンサ35で検出された台車41後部の識別パターン44までの距離81、方向82と識別パターンの回転角度83から、予め登録された台車の形状データを参照して、本体40と台車41を連結させる連結部42までの距離84と方向85を算出し、それを追従目標とする。
【0042】
この制御の効果を、
図11を用いて説明する。牽引型自律走行ロボットの本体40が旋回走行する時、連結されている台車41は本体40の走行経路86よりも内側の経路87を走行する。旋回している物体を追従している自律走行ロボットは、追従対象よりも内側の経路を走行する特性があるため、自律走行ロボット20が台車41の後部に設けられた識別パターン44を対象として追従走行すると、自律走行ロボット20は台車41の経路87よりもさらに内側の経路を走行する。このため、自律走行ロボットシステムの運用に広い場所が要求される。一方、上記の
図9の制御手順によれば、自律走行ロボット20は連結部42を目標として追従走行するので、本体40の走行経路86に近い経路を走行する。このため、より狭い場所で運用できるようになる。
(接触回避制御)
【0043】
制御装置45は、追従対象以外の物体、すなわち障害物を検出して、障害物と自律走行ロボット20が接近し、接触する恐れがある場合には、自律走行ロボット20を減速させ、障害物から離れる方向に旋回させることにより、接触を防止する接触回避制御を備えている。特に、物体に識別パターンが設けられている場合には、物体と自律走行ロボット20の接触可能性をより正確に判定して、より確実に接触を防止することができる。なお、本機能は、追従走行、自動走行、手動走行のいずれの場合にも有効にできる。
【0044】
図12のフローチャートを用いて、接触回避の手順を示す。
図13は、接触回避手順を説明するための例であり、ここでは、自律走行ロボット20の前方に、他の自律走行ロボット20aと柱98が存在している。自律走行ロボット20aは、自律走行ロボット20に向かって走行しており、前面の識別パターン38が自律走行ロボット20のレーザセンサ35の視界に入っている。
【0045】
制御装置45は、まず、ステップS21で、レーザセンサ35から、センサの検出範囲90中にある周囲の物体に関する周囲物体データを取得する。周囲物体データは、レーザセンサ35によって検出された物体表面の点群の距離および方向のリストである。レーザセンサでは、物体表面のうち、センサから見通せる部分、すなわち、他の物体や物体自体で隠されない部分が検出される。
図13の例では、他の自律走行ロボット20aと柱98が存在するが、レーザセンサ35では、太線で示した部分が検出される。
【0046】
次に、制御装置45はステップS22で追従走行中か否かを判定し、追従走行中の場合はステップS23で周囲物体データから追従対象物の点群を除き、以降、これを障害物位置データとして用いる。障害物となる物体としては、例えば、追従対象以外の人やロボット等の移動する物体、および、壁、柱、棚などの移動しない物体がある。追従対象部を障害物から除く理由は、追従対象部を障害物と認識して接触を回避しようとすることにより、スムースな追従ができなくなるのを防止するためである。
【0047】
ステップS24では、制御装置45はレーザセンサ35のデータから、検出範囲90の中にある識別パターンの種類、距離91、方向92、および識別パターンの回転角度93を検出する。ステップS25では、制御装置45は、識別パターンの種類に基づいて、予め登録されたデータを参照して、識別パターンが設けられている物体の干渉形状を取得する。ステップS26では、干渉形状の中の識別パターンに相当する部分の位置、距離、角度と、検出した識別パターンの距離91、方向92、回転角度93を一致させるように、干渉形状を移動・回転し、障害物データに干渉形状の点群を追加する。
ここで、干渉形状とは、物体のうち、レーザセンサ35で検出されない部分も含めて、自律走行ロボットと接触する可能性のある部分を上面図に投影した形状を指す。
図13の例では、自律走行ロボット20aの識別パターン38の一部が検出され、距離91、方向92、回転角度93が検出される。識別パターンの種別の認識は、パターンの一部からでも可能であるので、識別パターンが自律走行ロボットの物であることが認識され、自律走行ロボットの干渉形状が障害物データに追加される。この場合、干渉形状は、図に示した自律走行ロボット20aの外形に一致する。
【0048】
ステップS27では、制御装置45は接触判定領域97の中に障害物データが存在するか否か、すなわち接触可能性の有無を調べ、接触可能性がある場合は、ステップS28で接触を回避するように電気モータ29を制御する。接触判定領域97は、自律走行ロボット20が走行する予定の方向に向けた所定の幅の領域である。接触判定領域の幅は、自律走行ロボット20の幅に余裕を加えたものである。検出された障害物までの距離に応じて自律走行ロボット20を減速させ、かつ、現在の進行方向に対して、右側または左側の障害物が少ない方に旋回させることによって、障害物回避を行う。
【0049】
以下、上記の障害物回避手順の効果を説明する。自律走行ロボットは、レーザセンサの視野を広く確保するため、
図3に示すように、レーザセンサの高さの部分に空間を設けている。このため、自律走行ロボットに搭載されたレーザセンサで、他の自律走行ロボットを観測すると、
図13に太線で示したように、自律走行ロボット20aの外形よりも、小さい形状が検出される。これを観測形状と呼ぶ。自律走行ロボットは、荷台など、レーザセンサと異なる高さにも構造を持つので、観測形状を用いて障害物回避を行うと、障害物と接触する恐れがある。接触可能性を正確に判断するには、他の高さの部分も合わせた外形形状を用いる必要がある。これを、干渉形状と呼ぶ。上記の接触回避手順では、識別パターンを用いて物体の種類を認識し、それに基づいて干渉形状の情報を取得して障害物データに加え、それに基づいて接触回避を行っているので、自律走行ロボットのように観測形状が干渉形状よりも小さい物体であっても、接触を防止することができる。
【0050】
上記の方法は、自律走行ロボット20に対する接触回避に限らず、レーザセンサの高さ以外に部品がある様々な物体との接触回避に適用できる。例えば、机は上面の天板よりも内側に脚部を有するので、自律走行ロボット20の周囲に机がある場合、レーザセンサでは、脚部のみが検出され、天板と自律走行ロボット20が接触する恐れがあるが、机に識別パターンを設ければ、接触を防止できる。また、フォークリフトは、空荷の時は荷物の昇降に用いる爪部を下げて走行するので、自律走行ロボット20の周囲をフォークリフトが走行している場合、レーザセンサでは爪部が検出できず、爪部と自律走行ロボットが接触する恐れがあるが、フォークリフトに識別パターンを設ければ、接触を防止できる。
(牽引台車検出)
【0051】
識別パターンは、牽引型自律走行ロボットにおいて、台車の有無を検出するために使用することもできる。
図14に示すように、台車41の前方の両端に識別パターン69を設ける。本体40に搭載されたレーザセンサ35は斜め後方までの視野を有するため、台車41の幅が比較的大きく、かつ旋回中ならば、識別パターン69を検出することができ、台車の有無と、本体に対する台車41の角度96を検出することができる。この情報を用いて、台車が存在する場合には、障害物回避における接触判定領域の幅を広げることにより、台車と障害物の接触を防止することができる。台車が存在しない場合には、接触判定領域の幅を通常に戻すことにより、狭い場所でも走行することが可能になる。
【0052】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれらに限られるものではない。例えば、追従走行は、人や自律走行ロボットを追従する以外にも、他の自走台車、フォークリフト、ロボットなど、様々な物体を追従することができる。また、上記実施形態では本発明を、倉庫や工場等において、物品の搬送に用いられる自律走行ロボットに適用したものであるが、空港、公園などで運用される乗用ロボット等にも適用可能である。能動型光学センサとして、走査型レーザセンサの代わりに、投光器を有して、反射光の強度を検出できるカメラやステレオカメラを用いることもできる。その他、各処理の具体的手順をはじめ、各識別パターンの具体的形状や配置等についても適宜変更能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の自律走行ロボットは、倉庫や工場等の施設における物品の搬送に効果的に利用できる。
【符号の説明】
【0054】
2 操作者
3 ズボン
20 自律走行ロボット
32 操作部
35 レーザセンサ
37 識別標識
38 前面識別パターン
39 後面識別パターン
40 本体
41 台車
42 連結部
43 台車識別標識
44 台車識別パターン
71 操作者識別パターン