(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】拡散素子
(51)【国際特許分類】
G02B 5/02 20060101AFI20220214BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20220214BHJP
G02B 5/32 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
G02B5/02 C
G02B5/18
G02B5/32
(21)【出願番号】P 2020503212
(86)(22)【出願日】2018-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2018007803
(87)【国際公開番号】W WO2019167229
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】597073645
【氏名又は名称】ナルックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105393
【氏名又は名称】伏見 直哉
(72)【発明者】
【氏名】岡野 正登
(72)【発明者】
【氏名】関 大介
(72)【発明者】
【氏名】山本 和也
(72)【発明者】
【氏名】西牧 真木夫
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-522589(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163275(WO,A1)
【文献】特開2011-34072(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0141065(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00- 5/136
G02B 5/18
G02B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の拡散角θ以下の拡散角で一様な光強度で、拡散角θよりも大きな拡散角で0の光強度分布にできるだけ近い光強度分布を実現するように、複数の周期の複数の周期構造を組み合わせて構成された拡散構造と、該
複数の周期の複数の周期構造の最大周期をΛ
maxとして、Λ
maxの1倍以上2倍以下の周期を備えた回折構造と、を組み合わせて構成され、該複数の周期の
複数の周期構造と該回折構造が所定の方向に配置されている拡散素子。
【請求項2】
拡散される光が入射する方向に垂直な基準平面内において該
複数の周期の複数の周期構造及び該回折構造の方向にx軸を定め、該基準平面に垂直な方向にz軸を定め、周期構造の番号をi、i番目の周期構造を
【数1】
該回折構造を
【数2】
該
複数の周期の複数の周期構造の総数をN、i番目の周期構造の高さをa
i、該回折構造の高さをhで表すと、表面のz座標が
【数3】
で表せる請求項1に記載の拡散素子。
【請求項3】
光の波長をλ、透過側の媒質の屈折率をn、素子のサイズをΩとして、
【数4】
から定まるΔθ及びΛ
dに対して、
【数5】
が満たされる請求項1または2に記載の拡散素子。
【請求項4】
光の波長をλ、該拡散構造の周期構造の高さをaとして、
【数6】
が満たされる請求項1から3のいずれかに記載の拡散素子。
【請求項5】
光の波長をλ、該回折構造の格子高さをh、該回折構造の材料の屈折率をn
sとして、
【数7】
が満たされる請求項1から4のいずれかに記載の拡散素子。
【請求項6】
該複数の周期の複数の周期構造の高さの最大値をa
max、
該複数の周期の複数の周期構造の周期の最小値をΛ
minで表すと、
【数8】
が満たされる請求項1から5のいずれかに記載の拡散素子。
【請求項7】
該拡散構造及び該回折構造が2次元であり、該所定の方向は互いに直交する二方向であり、該拡散素子の表面のz座標は
【数9】
で表され、x軸及びy軸は基準面上の該互いに直交する二方向に定義され、z軸は該基準面に垂直な方向に定義され、x軸方向の該拡散素子の表面のz座標は
【数10】
で表され、y軸方向の該拡散素子の表面のz座標は
【数11】
で表される請求項1に記載の拡散素子。
【請求項8】
該拡散構造及び該回折構造が円状
または楕円状に配列された請求項1に記載の拡散素子。
【請求項9】
所定の拡散角θ以下の拡散角で、一様な光強度で、拡散角θよりも大きな拡散角で0の光強度分布にできるだけ近い光強度分布を実現するように、複数の周期の複数の周期構造を組み合わせて拡散構造を形成するステップと、
該拡散構造と、該
複数の周期の複数の周期構造の最大周期をΛ
maxとして、Λ
maxの1倍以上2倍以下の周期を備えた回折構造と、を組み合わせるステップと、を含み、該複数の周期の
複数の周期構造と該
回折構造が所定の方向に配置されている拡散素子の製造方法。
【請求項10】
拡散される光が入射する方向に垂直な基準平面内において該
複数の周期の複数の周期構造及び該回折構造の方向にx軸を定め、該基準平面に垂直な方向にz軸を定め、周期構造の番号をi、i番目の周期構造を
【数12】
該回折構造を
【数13】
該
複数の周期の複数の周期構造の総数をN、i番目の周期構造の高さをa
i、該回折構造の高さをhで表すと、該拡散素子の表面のz座標が
【数14】
で表せる請求項9に記載の拡散素子の製造方法。
【請求項11】
光の波長をλ、透過側の媒質の屈折率をn、素子のサイズをΩとして、
【数15】
から定まるΔθ及びΛ
dに対して、
【数16】
が満たされる請求項9または10に記載の拡散素子の製造方法。
【請求項12】
光の波長をλ、該拡散構造の周期構造の高さをaとして、
【数17】
が満たされる請求項9から11のいずれかに記載の拡散素子の製造方法。
【請求項13】
光の波長をλ、該回折構造の格子高さをh、該回折構造の材料の屈折率をn
sとして、
【数18】
が満たされる請求項9から12のいずれかに記載の拡散素子の製造方法。
【請求項14】
該複数の周期の複数の周期構造の高さの最大値をa
max、
該複数の周期の複数の周期構造の周期の最小値をΛ
minで表すと、
【数19】
が満たされる請求項9から13のいずれかに記載の拡散素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散素子に関する。
【背景技術】
【0002】
拡散される光の角度を制御するために、レンズアレイを使用した拡散素子(たとえば、特許文献1)やホログラムを使用した拡散素子(たとえば、特許文献2)が開発されている。
【0003】
一般的に、拡散素子によって拡散される光の強度は一様であるのが望ましい。ホログラムなど回折を利用した拡散素子において、拡散される光の強度を一様するには、回折を生じる周期構造の周期を大きくして、照射面において回折による光のスポットが密に形成されるようにする必要がある。しかし、周期構造の周期の最大値は、素子のサイズによって制限される。したがって、従来、サイズが実用上十分に小さく、拡散される光の強度が一様な、回折による拡散素子は開発されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2006-500621号公報
【文献】特開2015-194541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがってサイズが実用上十分に小さく、拡散される光の強度が一様な、回折による拡散素子に対するニーズがある。本発明の課題は、サイズが実用上十分に小さく、拡散される光の強度が一様な、回折による拡散素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様による拡散素子は、所定の拡散角θ以下の拡散角で一様な光強度で、拡散角θよりも大きな拡散角で0の光強度分布にできるだけ近い光強度分布を実現するように、複数の周期の周期構造を組み合わせて構成された拡散構造と、該拡散構造の最大周期をΛmaxとして、Λmaxの1倍以上2倍以下の周期を備えた回折構造と、を組み合わせて構成されている。
【0007】
本態様の拡散素子は、複数の周期の周期構造を組み合わせて構成された拡散構造と、該拡散構造の最大周期の1倍以上2倍以下の周期を備えた回折構造と、を組み合わせて構成されているので、実用上十分に小さなサイズで拡散される光の強度を一様とすることができる。
【0008】
本発明の第1の態様の第1の実施形態の拡散素子は、拡散される光が入射する方向に垂直な基準平面内において該複数の周期構造及び該回折構造の方向にx軸を定め、該基準平面に垂直な方向にz軸を定め、周期構造の番号をi、i番目の周期構造を
【数1】
該回折構造を
【数2】
該複数の周期構造の総数をN、i番目の周期構造の高さをa
i、該回折構造の高さをhで表すと、表面のz座標が
【数3】
で表せる。
【0009】
本発明の第1の態様の第2の実施形態の拡散素子においては、光の波長をλ、透過側の媒質の屈折率をn、素子のサイズをΩとして、
【数4】
から定まるΔθ及びΛ
dに対して、
【数5】
が満たされる。
【0010】
本発明の第1の態様の第3の実施形態の拡散素子においては、光の波長をλ、該拡散構造の周期構造の高さをaとして、
【数6】
が満たされる。
【0011】
本発明の第1の態様の第4の実施形態の拡散素子においては、該回折構造の格子高さをh、該回折構造の材料の屈折率をn
sとして、
【数7】
が満たされる。
【0012】
本発明の第1の態様の第5の実施形態の拡散素子においては、複数の周期構造の高さの最大値をa
max、複数の周期構造の周期の最小値をΛ
minで表すと、
【数8】
が満たされる。
【0013】
本実施形態の拡散素子は、上記の条件を満たすので、量産に適している。
【0014】
本発明の第2の態様による拡散素子の製造方法は、所定の拡散角θ以下の拡散角で、一様な光強度で、拡散角θよりも大きな拡散角で0の光強度分布にできるだけ近い光強度分布を実現するように、複数の周期を組み合わせて拡散構造を形成するステップと、該拡散構造と、該拡散構造の最大周期をΛmaxとして、Λmaxの1倍以上2倍以下の周期を備えた回折構造と、を組み合わせるステップと、を含む。
【0015】
本態様の拡散素子の製造方法によれば、複数の周期の周期構造を組み合わせて構成された拡散構造と、該拡散構造の最大周期の1倍以上2倍以下の周期を備えた回折構造と、を組み合わせて拡散素子を構成するので、実用上十分に小さなサイズで拡散される光の強度を一様な拡散素子を製造することができる。
【0016】
本発明の第2の態様の第1の実施形態による拡散素子の製造方法において、拡散される光が入射する方向に垂直な基準平面内において該複数の周期構造及び該回折構造の方向にx軸を定め、該基準平面に垂直な方向にz軸を定め、周期構造の番号をi、i番目の周期構造を
【数9】
該回折構造を
【数10】
該複数の周期構造の総数をN、i番目の周期構造の高さをa
i、該回折構造の高さをhで表すと、該拡散素子の表面のz座標が
【数11】
で表せる。
【0017】
本発明の第2の態様の第2の実施形態による拡散素子の製造方法において、光の波長をλ、透過側の媒質の屈折率をn、素子のサイズをΩとして、
【数12】
から定まるΔθ及びΛ
dに対して、
【数13】
が満たされる。
【0018】
本発明の第2の態様の第3の実施形態による拡散素子の製造方法において、光の波長をλ、該拡散構造の周期構造の高さをaとして、
【数14】
が満たされる。
【0019】
本発明の第2の態様の第4の実施形態による拡散素子の製造方法において、該回折構造の格子高さをh、該回折構造の材料の屈折率をn
sとして、
【数15】
が満たされる。
【0020】
本発明の第2の態様の第5の実施形態による拡散素子の製造方法において、複数の周期構造の高さの最大値をa
max、複数の周期構造の周期の最小値をΛ
minで表すと、
【数16】
が満たされる。
【0021】
上記の条件が満たされるので、本実施形態による拡散素子の製造方法は容易に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】周期構造による回折を説明するための図である。
【
図2】従来の回折素子の基準平面に垂直な断面を示す図である。
【
図3】本発明の拡散素子の設計方法を説明するための流れ図である。
【
図4】
図3のステップS1010を説明するための流れ図である。
【
図5】
図3のステップS1020を説明するための流れ図である。
【
図6】
図4のステップS2030によって定められた複数の周期構造を組み合わせた拡散構造の基準平面に垂直な断面を示す図である。
【
図7】
図6に示した拡散構造によって拡散された光の、入射光に垂直な照射面における光の強度分布を示す図である。
【
図8】回折構造の基準平面に垂直な断面を示す図である。
【
図9】
図8に示した回折構造によって回折された光の、入射光に垂直な照射面における光の強度分布を示す図である。
【
図10】複数の周期の周期構造からなる拡散構造と回折構造との組合せを概念的に説明するための図である。
【
図11】拡散構造と回折構造を組み合わせた拡散素子の基準平面に垂直な断面を示す図である。
【
図12】
図11に示した拡散素子によって拡散された光の、入射光に垂直な照射面における光の強度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、周期構造による回折を説明するための図である。周期構造の高さが使用される光の波長の約10倍以下の場合に、通過する光の動作は屈折よりも回折によって支配されるので、周期構造によって回折が生じる。周期構造を備えた素子100の入側の面に垂直に入射した光は、周期構造によって所定の方向の回折光を生じる。ここで、±1次の回折光を対象として考察する。±1次の回折光のなす角度をθ、入射光の波長をλ、周期構造の周期をΛ、透過側の媒質の屈折率をnとすると以下の近似式が成立する。
【数17】
ここで、θ/2は回折角である。たとえば、λ=650ナノメータの光に対してθ=30度とするには、Λ=2.5マイクロメータの周期構造が必要である。周期Λを変化させることにより、角度θを変化させることができるので、異なる周期を有する複数の周期構造を組み合わせることによって、入側の面に垂直な入射光に対して±θ/2以内の角度に光を拡散させる拡散素子が得られる。この場合に、角度θを拡散素子の拡散角と呼称する。
【0024】
他方、周期構造の周期は素子のサイズΩより大きくすることはできない。ここで、素子のサイズとは周期構造の長さを意味する。式(1)にΛ=Ωを代入すると以下の式が得られる。
【数18】
ここで、Δθは、回折された光線によって照射面200上に形成されるスポット間の間隔に対応する。すなわち、Δθは、照射面における光の強度の一様性に対応し、Δθが小さいほど照射面200における光の強度は一様となる。他方、照射面200における光の強度を一様にするためにΔθを小さくするには素子のサイズΩを大きくする必要がある。
【0025】
図2は従来の
拡散素子の基準平面に垂直な断面を示す図である。
図2の横軸は、基準平面内の周期構造の方向のx軸を示し、
図2の縦軸は、基準平面に垂直なz軸を示す。横軸及び縦軸の単位はマイクロメータである。
図2は、複数の周期の周期構造が組み合わされた状態を示している。
【0026】
図3は、本発明の拡散素子の設計方法を説明するための流れ図である。拡散素子のサイズΩを500マイクロメータ、拡散素子の材料の屈折率n
sを1.5、光の波長λを0.65マイクロメータとする。
【0027】
図3のステップS1010において、複数の周期の周期構造を組み合わせた拡散構造を設計する。本実施形態において、周期構造の断面形状は、正弦波形状とする。周期構造の断面形状は、代替的に、たとえば台形形状としてもよい。
【0028】
図4は、
図3のステップS1010を説明するための流れ図である。
【0029】
図4のステップS2010において、照射面における光の強度の一様性に対応する角度Δθ、素子のサイズΩ、目標の拡散角度θ
d、及び目標の拡散角度θ
dに対応する周期Λdを定める。角度Δθ及び素子のサイズΩは、式(2)から定める。目標の拡散角度θ
d、及び目標の拡散角度θ
dに対応する周期Λdについては以下に説明する。
【0030】
目標の拡散素子は、目標の拡散角度がθ
dであり、入側の面に垂直な入射光に対して±θ
d/2以内の角度に同一の強度の光を拡散させ、±θ
d/2より外側に光を拡散させないように構成された拡散素子とし、この場合の照射面における光強度分布を目標の光強度分布とする。式(1)にθ=θ
dを代入して、θ
dに対応する周期Λ
dを求める。
【数19】
【0031】
図4のステップS2020において、拡散構造の複数の周期構造の周期の最大値Λ
maxの範囲を定める。
【0032】
目標の光強度分布を複数の周期の周期構造の組合せで実現する場合に、周期の最大値Λ
maxはΛ
d以上とする必要がある。さらに、式(2)を考慮し、また経験を加味して、複数の周期の最大値Λ
maxは以下の範囲とするのが好ましい。
【数20】
【0033】
図4のステップS2030において、光学シミュレーションにより複数の周期の周期構造を定める。
【0034】
拡散構造の基準平面内において周期構造の方向にx軸を定め、面に垂直な方向にz軸を定めると、複数の周期の周期構造の表面のz座標は以下の式で表せる。基準平面とは、素子によって拡散される光が素子に入射する方向に垂直な面を意味する。
【数21】
ここで、iは周期構造の番号を表す自然数であり、Nは周期構造の総数を表す自然数ある。a
iは、i番目の周期構造の高さ、Λ
iはi番目の周期構造の周期を表す。
【0035】
一般的に、周期Λ
iの周期構造を
【数22】
で表すと、複数の周期の周期構造の表面のz座標は以下の式で表せる。
【数23】
このように、周期構造などの複数の構造を「組み合わせる」とは、複数の構造の表面の、基準面に垂直な方向の複数の座標の値を加算した座標の値を表面の座標の値とする新たな構造を形成することをいう。
【0036】
このようにして定めた複数の周期構造を組み合わせた拡散構造による拡散特性を光学シミュレーションによって評価する。光学シミュレーションには、Fraunhofer回折式を使用した。なお、照射面までの距離が短い場合には、Fresnel回折式、またはRayleigh-Sommerfeldの回折式を使用してもよい。
【0037】
光学シミュレーションにおいて、照射面における光強度は複素振幅の絶対値の2乗値で表現される。理論的には、該複素振幅の大きさから周期構造の周期と高さを決める位相分布(=複素平面における複素振幅ベクトルの角度)が求められる。実際の設計手法では、実数である目標の照射面における光強度に基づいて、複素数である複素振幅を通して位相分布を算出し、最後に周期構造を求める必要がある。しかしながら、この設計手法では、1変数である実数(照射面における光強度)から2変数である複素振幅の実部と虚部を一意的に算出することができない。したがって、周期構造の周期及び高さの値をランダムに変えて、光学シミュレーションを繰り返し、算出された照射面における光強度を、目標の光強度分布を基準として評価しながら、周期構造を解として決定する。
【0038】
1次元の周期構造の方向をxとして、照射面上にx軸を定め、目標の光強度分布をId(x)、最大強度をId_maxで表し、上記の拡散構造による照射面上の光強度分布をI(x)、最大強度をI_maxで表し、以下の評価関数uを使用して光学シミュレーションにより算出された照射面における光強度を評価してもよい。
【数24】
【0039】
周期構造の周期の上限値Λ
ulは、式(4)を満たす任意の値とする。それぞれの周期構造の周期Λ及び高さaを、以下の関係(5)-(7)を満たすようにランダムに変化させながら、光学シミュレーションを繰り返し、評価関数uを使用して最適化を実施して周期構造の組み合わせを定める。最適化手法としては、シミュレーティッド・アニーリング法を使用した。
【数25】
ここで、a
maxは、複数の周期構造の高さの最大値を表し、Λ
minは、複数の周期構造の周期の最小値を表す。
【0040】
図6は、
図4のステップS2030によって定められた複数の周期構造を組み合わせた拡散構造の基準平面に垂直な断面を示す図である。
図6の横軸は、基準平面内の周期構造の方向のx軸を示し、
図6の縦軸は、基準平面に垂直なz軸を示す。横軸及び縦軸の単位はマイクロメータである。
【0041】
表1は、拡散構造の周期の最大値Λ
max及び最小値Λ
min、ならびに高さの最大値a
max及び最小値a
minを示す表である。数値の単位はマイクロメータである。
【表1】
【0042】
高さの最小値aminは、0.215マイクロメータ、高さの最大値amaxは1.3マイクロメータ、λ=0.65マイクロメータであるので、式(5)は満たされる。
【0043】
また、高さの最大値amaxは1.3マイクロメータ、周期の最小値Λminは2.95マイクロメータであるので、式(6)及び式(7)は満たされる。
【0044】
図7は、
図6に示した拡散構造によって拡散された光の、入射光に垂直な照射面における光の強度分布を示す図である。
図7の横軸は、拡散角の半値θ/2を示し、
図7の縦軸は相対強度を示す。横軸の単位は度である。
図7において、相対強度の最大値の半値に相当する拡散角度が目標の拡散素子の拡散角θ
dに相当し、θ
d=6度である。式(3)にθ
d=6度、λ=0.65マイクロメータ、n=1を代入すると、Λ
d=12.4マイクロメータが得られる。
図7に目標の光強度分布を点線で示した。
【0045】
また、式(2)にλ=0.65マイクロメータ、拡散素子のサイズΩ=500マイクロメータ、n=1を代入すると、
【数26】
が得られる。したがって、式(4)の上限値は、
【数27】
となるので、周期の最大値Λ
max17.8マイクロメータは、式(4)を満たす。
【0046】
式(3)によれば、周期の最大値Λmax17.8マイクロメータに対応する拡散角の半値θ/2は、2.1度であり、周期の最小値Λ
min=2.95マイクロメータに対応する拡散角の半値θ/2は、13度である。
図7において、θ/2=±2.1度は、相対強度の2個のピークの位置に対応し、θ/2=±13度は、相対強度がなだらかに減少しほぼ0となる位置に対応する。
【0047】
図7によると、θ/2=±2.1度の2個のピークの間のθ/2=0度の位置を底とする谷が存在するので、光の相対強度は一様とならない。θ/2=0度の位置に谷が存在する理由は、複数の周期の周期構造を組み合わせて拡散構造を形成する場合に、周期の最大値Λ
maxが十部に大きくならないためである。
【0048】
図3のステップS1020において、拡散構造の周期の最大値Λ
maxに基づいて、拡散構造と回折構造を組み合わせた拡散素子を設計する。
【0049】
図5は、
図3のステップS1020を説明するための流れ図である。
【0050】
図5のステップS3010において、拡散構造の周期の最大値Λ
maxを求める。上述のように、拡散構造の周期の最大値Λ
maxは17.8マイクロメータである。
【0051】
図5のステップS3020において、回折構造の周期Λ
doe及び高さhを定め、ステップS1010で求めた拡散構造と組み合わせて拡散素子を定める。
【0052】
図7において、光の相対強度のピークに対応する拡散角の半値をφ(=2.1度)で表す。回折構造の周期Λ
doeを以下のように定めると、2個のピークの間の谷が埋められて光の強度が一様となることが期待される。
【数28】
【0053】
図8は、回折構造の基準平面に垂直な断面を示す図である。
図8の横軸は、基準平面内の回折構造の方向のx軸を示し、
図8の縦軸は、基準平面に垂直なz軸を示す。横軸及び縦軸の単位はマイクロメータである。回折構造は矩形格子であり、周期は32.2マイクロメータ、高さhは0.4マイクロメータである。上記の周期は回折角度1.16度に相当する。
【0054】
回折構造の基準平面内において回折構造の方向にx軸を定め、基準平面に垂直な方向にz軸を定めると、回折構造の表面のz座標は以下の式で表せる。
【数29】
ここで、hは回折構造の高さ、Λ
doeは回折構造の周期を表す。また、
【数30】
は[]内が正のときに1の値、負のときに-1の値を有する関数を表す。
【0055】
図9は、
図8に示した回折構造によって回折された光の、入射光に垂直な照射面における光の強度分布を示す図である。
図9の横軸は、回折角の半値θ/2を示し、
図9の縦軸は相対強度を示す。横軸の単位は度である。
【0056】
図6に示す拡散構造と
図8に示す回折構造を組み合わせると、
図7に示す光の強度分布と
図9に示す光の強度分布とが重ね合わされ一様な強度分布となることが期待される。
【0057】
図10は、複数の周期の周期構造からなる拡散構造110と回折構造130との組合せを概念的に説明するための図である。
図10において、拡散構造110の高さをaで表し、回折構造130の高さをhで表している。
【0058】
拡散構造と回折構造を組み合わせた拡散素子の基準平面内において拡散構造及び回折構造の方向にx軸を定め、基準平面に垂直な方向にz軸を定めると、拡散素子の表面のz座標は以下の式で表せる。
【数31】
【0059】
一般的に、周期Λ
iの周期構造を
【数32】
で表し、回折構造を
【数33】
で表すと、拡散構造と回折構造を組み合わせた拡散素子の表面のz座標は以下の式で表せる。
【数34】
【0060】
回折構造130の周期Λ
doe及び高さhの定め方について以下に説明する。回折構造130の材料の屈折率をn
sとして、
【数35】
が満たされる範囲で、周期Λ
doe及び高さhを変化させた回折構造を周期構造に組み合わせた拡散素子の光学シミュレーションを実施する最適化手法によって、uと同様の評価関数を最小とする周期Λ
doe及び高さhを求める。
【0061】
式(9)に関し、周期Λ
doeがΛ
maxよりも小さいときは、回折角が
図7におけるピークに対応する拡散角の半値φよりも大きくなり、2個のピークの間の谷を埋めることができない。周期Λ
doeが2Λ
maxよりも大きなときは、回折角がφ/2よりも小さくなり2個のピークの間の谷を十分に埋めることができない。
【0062】
式(10)が満たされると、回折構造による0次光及び±1次光が、拡散構造によって拡散された光と重ね合わされて照射面における光の強度むらが改善される。
【0063】
図11は、拡散構造と回折構造を組み合わせた拡散素子の基準平面に垂直な断面を示す図である。
図11の横軸は、基準平面内の拡散構造及び回折構造の方向のx軸を示し、
図11の縦軸は、基準平面に垂直なz軸を示す。横軸及び縦軸の単位はマイクロメータである。
【0064】
図12は、
図11に示した拡散素子によって拡散された光の、入射光に垂直な照射面における光の強度分布を示す図である。
図12の横軸は、拡散角の半値θ/2を示し、
図12の縦軸は相対強度を示す。横軸の単位は度である。
図12に目標の光強度分布を点線で示した。
図7の光の強度分布と比較すると、
図12の光の強度分布においては、2個のピークの間の谷が埋められて光の強度が一様となっている。
【0065】
図3のステップS1030において、拡散構造と回折構造を組み合わせた拡散素子の拡散性能が十分であるかどうか、すなわち、拡散素子による光強度分布と、目標の光強度分布との差が十分に小さいかどうか判断する。
【0066】
差が十分に小さければ処理を終了する。差が十分に小さくなければ
図4のステップS2030に戻る。
【0067】
図4のステップS2030において、周期の上限値Λ
ulは、式(4)を満たす他の値とし、最適化によって拡散構造を定める。
【0068】
拡散構造の周期の最大値Λmaxは、17.8マイクロメータ、回折構造の周期Λdoeは32.2マイクロメータであるので、式(9)は満たされる。
【0069】
また、回折構造の高さhは0.4マイクロメータ、回折構造の材料の屈折率nsは1.5、λ=0.65マイクロメータであるので、式(10)は満たされる。
【0070】
上記の実施形態の拡散構造及び回折構造はx軸方向の1次元である。代替的に、拡散構造及び回折構造をx軸方向及びy軸方向の2次元とすることもできる。式(8)に示すx軸方向の関数を
【数36】
で表し、同様に定めたy軸方向の関数を
【数37】
で表すと、2次元の拡散構造及び回折構造を拡散素子の表面のz座標は以下の式で表せる。
【数38】
【0071】
拡散素子の製造方法について以下に説明する。拡散素子を製造する際には、紫外線やX線、陽子線、もしくは電子線などの照射光源を使用するリソグラフィー技術によって金型を製造する。この場合は、基板上にレジストを塗布し、所定の凹凸形状に従って露光量を変調させながら照射光源によってレジスト面を照射する。照射されたレジストを現像すると変調された露光量に応じてレジストが除去され、レジストによる凹凸形状が形成される。レジストによる凹凸形状が形成された基板を用いて、金型基板上へ電鋳加工を実施することにより、レジストの凹凸形状が金型基板上へ転写され、所定の凹凸形状を備えた金型基板を得ることができる。拡散構造と回折構造を一括で露光することも可能であるが、最初に回折構造の露光を行い、その後、拡散構造の露光を行うことも可能である。
【0072】
また、別の製造方法として、金型基板上へ直接レジストを塗布し、同様に所定の凹凸形状に従って露光量を変調させながら照射光源によってレジスト面を照射し、最後にエッチングを行うことにより、レジストによる凹凸形状を金型用基板に転写させて、金型用基板に所定の凹凸形状を得ることも可能である。
【0073】
さらに、別の製造方法として、拡散素子が1次元に配列されている、もしくは円状または楕円状に配列された格子構造などであれば、ダイヤモンドバイトを用いた切削加工により格子の金型を製造することも可能である。
【0074】
上記の方法で製造された金型を用いて、広く知られている射出成形、スタンパー、さらにはインプリント法などの転写技術により、大量の拡散素子を製造することができる。拡散素子の材料は、樹脂の他ガラスも使用することができる。