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  • 特許-JAK阻害剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】JAK阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/739 20060101AFI20220214BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220214BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220214BHJP
   A61K 36/185 20060101ALN20220214BHJP
   A61P 17/00 20060101ALN20220214BHJP
   A61P 19/02 20060101ALN20220214BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20220214BHJP
   A61P 37/08 20060101ALN20220214BHJP
【FI】
A61K36/739
A23L33/105
A61P43/00 111
A61K36/185
A61P17/00
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P37/08
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021083958
(22)【出願日】2021-05-18
【審査請求日】2021-05-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397036365
【氏名又は名称】株式会社アイビー化粧品
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】竹入 雅敏
(72)【発明者】
【氏名】森谷 歩香
(72)【発明者】
【氏名】新井 啓子
(72)【発明者】
【氏名】木村 吉秀
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-089658(JP,A)
【文献】特開2003-063942(JP,A)
【文献】特開2000-044481(JP,A)
【文献】特開平09-124498(JP,A)
【文献】特表2013-537542(JP,A)
【文献】特表2016-514709(JP,A)
【文献】特表2013-528630(JP,A)
【文献】BMC Complementary and Alternative Medicine,2016年,Vol.16,Article347,DOI 10.1186/s12906-016-1317-4
【文献】薬学雑誌,2011年,Vol.131,pp.581-586
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワレモコウの抽出物を有効成分とするJAK阻害剤(但し、抗炎症剤、抗掻痒剤、抗アレルギー剤の用途を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然由来のJAK阻害剤に関する。より詳細には、植物の抽出物を有効成分とするJAK阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
JAK(ヤヌスキナーゼ:Janus kinase)は、チロシンキナーゼの1つであり、細胞内の免疫活性化シグナル伝達に重要な役割を担い、種々の疾患の発症や憎悪に関係している。JAKが関与するシグナル伝達は、炎症性サイトカインであるIL(インターロイキン)-6の受容体コンポーネントであるgp130の細胞内領域に結合しているJAKが、IL-6が受容体に結合することで活性化され、gp130のリン酸化を介してSTAT(シグナル伝達兼転写活性化因子)のリン酸化を誘導し、リン酸化されたSTATが核内に移行することで行われる(JAK/STAT経路)。近年、JAKの酵素活性を阻害することによって疾患の発症や憎悪を抑制する方法が注目されており、これまでに様々なJAK阻害剤が報告されている。既に上市されているJAK阻害剤も存在し、例えば、トファシチニブは関節リウマチの治療薬として、デルゴシチニブはアトピー性皮膚炎の治療薬として、ルキソリチニブは骨髄線維症の治療薬として用いられている。また、悪性リンパ腫、膵癌、乾癬、円形脱毛症といった疾患に対するJAK阻害剤の有効性についても研究開発が進められており、さらに、男性型脱毛症(AGA)に対してJAK阻害剤が有効であるといった報告もある。しかしながら、これまでに報告されているJAK阻害剤はほぼすべてが化学合成物質であり、天然由来のJAK阻害剤については、例えばセリ科由来の生薬であるキョウカツ(Notopterygium)に含まれるフラノクマリン誘導体の一つとして知られているノトプテロールがJAK阻害作用を有するとの報告(非特許文献1)が存在するものの、ほとんど知られていない。従って、天然由来のJAK阻害剤の探索は、今なお意義深い状況にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Qiong Wang et al.,The Natural Compound Notopterol Binds and Targets JAK2/3 to Ameliorate Inflammation and Arthritis,Cell Reports 32,108158,September 15,2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、関節リウマチやアトピー性皮膚炎をはじめとするJAKが発症や憎悪に関係する疾患の予防や治療に有用な、天然由来のJAK阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の点に鑑みて植物の抽出物のJAK阻害作用について鋭意検討を行った結果、ワレモコウ(Sanguisorba officinalis)の抽出物とゲンノショウコ(Geranium thunbergii)の抽出物が、JAK阻害作用を有することを見出した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明のJAK阻害剤は、請求項1記載の通り、ワレモコウの抽出物を有効成分とする(但し、抗炎症剤、抗掻痒剤、抗アレルギー剤の用途を除く)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、関節リウマチやアトピー性皮膚炎をはじめとするJAKが発症や憎悪に関係する疾患の予防や治療に有用な、天然由来のJAK阻害剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】試験例における、ワレモコウ抽出液(ジュ抽出液)とゲンノショウコ抽出液のJAK阻害作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のJAK阻害剤は、ワレモコウおよびゲンノショウコから選択される少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分とする。
【0010】
本発明において用いるワレモコウは、バラ科の植物で、ジユとも呼ばれ、根や根茎を乾燥したものは地楡(チユ)との生薬名で知られている。ゲンノショウコは、フウロソウ科の植物で、地上部が止瀉や整腸などを目的として用いられる薬草である。しかしながら、いずれについてもJAK阻害作用を有することの報告はこれまでにない。なお、ワレモコウも、ゲンノショウコも、天然に自生しているものであってもよいし、生産者によって栽培されているものであってもよい。
【0011】
本発明において、ワレモコウの抽出物は、例えば、根や根茎(細断したり乾燥したり粉砕したりしてもよい)に、抽出溶媒としての水や各種の有機溶媒、例えばメタノールやエタノールやイソプロピルアルコールなどのモノアルコール、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール、エーテル、ヘキサン、酢酸エチル、アセトニトリルなどを加え(有機溶媒は水を含んでもよい)、室温で1時間~1週間静置することで成分抽出したり、還流することで成分抽出したりしてからろ過することで、ろ液として得ることができる。抽出溶媒は、単一の溶媒を用いてもよいし複数の溶媒を混合して用いてもよい。ゲンノショウコの抽出物は、例えばその地上部(花や葉や茎)を用いて上記と同様の方法でろ液として得ることができる。得られたろ液は、そのまま液状抽出物として用いてもよいし、減圧濃縮や凍結乾燥を行って固形物や粉末にして用いてもよい。なお、ろ液をさらに硫安分画、ゲルろ過、イオンクロマトグラフィーなどによって精製し、得られた画分を液状抽出物として用いてもよい。また、例えば最初にヘキサンを用いて抽出操作を行った後、順次、酢酸エチル、アセトン、水といったように、用いる溶媒の極性を徐々に高くして抽出操作を行い、いずれかの溶媒を用いることで得られたろ液を液状抽出物として用いてもよい。
【0012】
本発明におけるJAK阻害剤は、各種の製剤形態に製剤化することでそれ自体を医薬品や健康食品などとして服用や摂取することができることに加え、各種の飲食品に配合して摂取することができる。また、本発明におけるJAK阻害剤は、軟膏、クリーム、ローションといった外用剤の形態で皮膚に塗布することもできる。その服用量や摂取量や塗布量は、適用対象者の年齢や性別や体重、症状の程度などに基づいて適宜決定することができ、適切量を服用や摂取や塗布することにより、そのJAK阻害作用に基づいて、関節リウマチやアトピー性皮膚炎をはじめとするJAKが発症や憎悪に関係する疾患の予防効果や治療効果を期待することができる。
【実施例
【0013】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0014】
試験例:ワレモコウの抽出物とゲンノショウコの抽出物のJAK阻害作用
1.IL-6によって誘導されるSTAT3のリン酸化に対する抑制作用
Michael Forster et al.,2016,Cell Chemical Biology 23,1335-1340に記載の方法を参考に、IL-6によって誘導されるSTAT3のリン酸化に対する抑制作用を指標にして、JAK阻害剤の候補となる植物の抽出物のスクリーニングを行った。具体的には、96穴プレートに、1ウェルあたり約2500個のヒト表皮角化細胞株HaCaTを100μLの培地で播種し、37℃で16~24時間培養した後、FBS不含の培地100μLに変え、6時間培養することで、Starvationを行った。Starvationの後、様々な植物抽出液をそれぞれ1μL(終濃度1%)添加し、1時間前処理した後、終濃度20ng/mLのIL-6を添加し、37℃で15分間培養した。培養終了後、DPBSで2回細胞を洗浄し、x4 Sample buffer(200mM Tris-HCl[pH 6.8],8% SDS,400mM DTT,0.2% BPB,40% glycerol)を50μL添加し、細胞を溶解した。細胞溶解液を96穴PCRプレートに移し、95℃にて20分間加熱することで、ゲノムDNAの分解と細胞内のタンパク質抽出を行った。その後、10%TGXゲル(Bio-Rad,USA)を用い、1ウェルあたり5μLの細胞抽出液を電気泳動した。ゲルをPVDFメンブレン(Merk,Germany)に転写し、抗phospho-STAT3抗体(Santa cruz,USA)と抗STAT3抗体(Santa cruz,USA)を用いてリン酸化されたSTAT3とリン酸化されていないSTAT3のバンドの検出を行い、ポジティブコントロールとした100μMのトファシチニブの結果(リン酸化されたSTAT3のバンドの非存在とリン酸化されていないSTAT3のバンドの存在)と同程度の結果を示す植物抽出液を絞り込んだ。その結果、ワレモコウ抽出液とゲンノショウコ抽出液を、トファシチニブの結果と同程度の結果を示すIL-6によって誘導されるSTAT3のリン酸化に対する抑制作用を有する植物抽出液として選抜することができた。なお、検体として用いたワレモコウ抽出液とゲンノショウコ抽出液はいずれも市販品であり、ワレモコウ抽出液の組成(重量%)は、根と根茎のエキス:0.8、1,3-ブチレングリコール:49.6、水:49.6であった。ゲンノショウコ抽出液の組成(重量%)は、花と葉と茎のエキス:1.8、1,3-ブチレングリコール:49.1、水:49.1であった。
【0015】
2.JAK1の酵素活性に対する阻害作用
(実験方法)
上記の市販のワレモコウ抽出液とゲンノショウコ抽出液のJAK1の酵素活性に対する阻害作用を、ADP-Glo Kinase Assay(Promega,USA)によって評価した。具体的には、50ng/μLのJAK1 kinase(Promega,USA)2.5μL、滅菌精製水にて各濃度(0.3%、1%)に希釈した抽出液0.125μL、x1 kinase buffer 4.875μLからなる酵素反応溶液を調製し、25℃にて30分間インキュベートした。インキュベート完了後、1μg/μLの基質溶液2.5μLと250μMのATP2.5μLを添加し、25℃にて60分間インキュベートした。その後、ADP-Glo Reagent12.5μLを添加し、25℃にて40分間インキュベートした。続いて、Kinase Detection Buffer25μLを添加し、25℃にて30分間インキュベートした。インキュベート完了後、蛍光プレートリーダーにて蛍光強度を測定することで、JAK1 kinaseの活性の検出を行った。
【0016】
(実験結果)
コントロールとした0.5%の1,3-ブチレングリコール(0.5%BG)の蛍光強度を100とした相対値として図1に示す。図1には、ポジティブコントロールとした100μMのトファシチニブの結果と、ネガティブコントロールとした0.5%の1,3-ブチレングリコールと0.1%のDMSOの結果をあわせて示す。図1から明らかなように、ワレモコウ抽出液(ジュ抽出液)もゲンノショウコ抽出液も、濃度依存的にJAK1の酵素活性に対する阻害作用を発揮し、1%のワレモコウ抽出液の阻害作用は、100μMのトファシチニブの阻害作用に匹敵した。
【0017】
製剤例1:錠剤
以下の成分組成からなるJAK阻害作用を有する錠剤を自体公知の方法で製造した(単位:重量%)。
試験例で用いたワレモコウ抽出液の粉末 1
乳糖 80
ステアリン酸マグネシウム 19
【0018】
製剤例2:ビスケット
以下の成分組成からなるJAK阻害作用を有するビスケットを自体公知の方法で製造した(単位:重量%)。
試験例で用いたワレモコウ抽出液 1
薄力粉 32
全卵 16
バター 16
砂糖 24
水 10
ベーキングパウダー 1
【0019】
製剤例3:ゼリー
以下の成分組成からなるJAK阻害作用を有するゼリーを自体公知の方法で製造した(単位:重量%)。
試験例で用いたゲンノショウコ抽出液 0.01
ゲル化剤 1.3
砂糖 20
pH調整剤 2.5
水 76.19
【0020】
製剤例4:軟膏
以下の成分組成からなるJAK阻害作用を有する軟膏を自体公知の方法で製造した(単位:重量%)。
試験例で用いたワレモコウ抽出液の粉末 5
白色ワセリン 95
【0021】
製剤例5:クリーム
以下の成分組成からなるJAK阻害作用を有するクリームを自体公知の方法で製造した(単位:重量%)。
試験例で用いたゲンノショウコ抽出液の粉末 5
白色ワセリン 30
セタノール 15
ラウリル硫酸ナトリウム 1
パラオキシ安息香酸エチル 0.1
パラオキシ安息香酸ブチル 0.1
水 48.8
【0022】
製剤例6:ローション
以下の成分組成からなるJAK阻害作用を有するローションを自体公知の方法で製造した(単位:重量%)。
試験例で用いたゲンノショウコ抽出液 10
ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 0.5
エタノール 5
パラベン 0.2
水 84.3
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、関節リウマチやアトピー性皮膚炎をはじめとするJAKが発症や憎悪に関係する疾患の予防や治療に有用な、天然由来のJAK阻害剤を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。
【要約】
【課題】 関節リウマチやアトピー性皮膚炎をはじめとするJAKが発症や憎悪に関係する疾患の予防や治療に有用な、天然由来のJAK阻害剤を提供すること。
【解決手段】 ワレモコウおよびゲンノショウコから選択される少なくとも1種の植物の抽出物を有効成分とする。
【選択図】 図1
図1