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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂粉体塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/02 20060101AFI20220214BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20220214BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220214BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220214BHJP
【FI】
C09D163/02
C09D5/03
C09D7/61
C09D7/65
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017170219
(22)【出願日】2017-09-05
(65)【公開番号】P2018048314
(43)【公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2016181220
(32)【優先日】2016-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(72)【発明者】
【氏名】豊田 正明
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-072986(JP,A)
【文献】特開2004-176045(JP,A)
【文献】特開2001-044338(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0240113(US,A1)
【文献】特開平07-011105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、平均粒子径16~50μmの(B)球状無機粒子、及び(C)アクリル系コアシェル型粒子を必須成分として含有し、(B)は、球状シリカを含み、(C)は、最外層にグリシジル基を含有するアクリル系コアシェル型ゴム粒子を含み、(B)の平均粒子径に対する(C)の平均粒子径の比(アクリル系コアシェル型粒子/球状無機粒子)が0.002~0.025であることを特徴とするエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項2】
前記(C)の平均粒子径が0.1~0.4μmであることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項3】
前記(B)の配合量が、100質量部の(A)成分に対して、180~250質量部である請求項1~のいずれかに記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項4】
前記(C)の配合量が、100質量部の(A)成分に対して、3~25質量部である請求項1~のいずれかに記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の粉体塗料の硬化物で構成され、
-40℃で30分保持した後、150℃で30分保持する処理を1サイクルとするヒートサイクル試験を80サイクル繰り返したときにクラックが未発生である、硬化塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子製品等の金属部品への塗膜形成に好適なエポキシ樹脂粉体塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂粉体塗料は、溶剤型塗料と比較して、生産効率、作業環境、塗料の再利用等の観点で有利であり、機械的特性、電気的特性、熱的特性に優れる。また、絶縁被覆用塗料としても、多く用いられている。
【0003】
エポキシ樹脂粉体塗料の被塗装物である電気受動部品類(すなわち、金属部品)は、使用される周辺環境温度や通電時の自己発熱などにより急激な温度変化を受ける場合が想定される。これを、ヒートサイクルという。ヒートサイクルの繰り返し作用により、熱収縮、熱膨張を繰り返すと塗膜に歪みが蓄積し、クラック等の塗膜破壊が発生し絶縁破壊に至る。そのため、耐ヒートサイクル性の向上について、強い要求がある。
【0004】
従来の耐ヒートサイクル性向上の手法としては、無機粒子を配合し、線膨張係数を低下させることにより、熱膨張収縮に伴う材料の歪みを抑える方法(特許文献1)、可撓性を有する材料を配合し、塗膜に可撓性を付与することにより、熱膨張収縮に伴う材料の歪みを吸収する方法(特許文献2)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とノボラック型多官能エポキシ樹脂の異なる2種類のエポキシ樹脂、無機粒子及び可とう性を有する材料、好ましくはシリコーンゴムを配合する方法(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平06-256686号公報
【文献】特開平10-259323号公報
【文献】特開平10-130542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、製品の高性能化に伴い、金属部品は、材質が異なる複数種の金属どうしを複雑に組み合わせた構造になっている。また、要求性能の基準が高くなっている。このように、材質が異なる複数種の金属を用い、これらを複雑に組み合わせた構造からなり、かつ高基準の性能が要求される、近年の金属部品(以下単に「近年の金属部品」とも言う)に対して、特許文献1、特許文献2、特許文献3の従来技術を適用した場合、ヒートサイクルによる応力に耐えられず、塗膜にクラックが生じ、耐ヒートサイクル性が不十分という結果になってしまった。
【0007】
現状、従来技術では耐ヒートサイクル性の要求される基準を満たしておらず、更なる改良により、耐ヒートサイクル性を向上することが望まれている。
【0008】
近年の金属部品(前出)にも対応した耐ヒートサイクル性に優れた塗膜を形成するためのエポキシ樹脂粉体塗料を得るため、本発明者は、従来技術の改良を行った。
【0009】
本発明者は、特許文献1の改良として、耐ヒートサイクル性向上を目的とし、無機粒子の配合量をさらに増加させることにより更に線膨張係数を低下させて、熱膨張収縮による歪みを抑えることを考えたが、粘度の上昇により、塗工時の作業性や塗装性が失われてしまい実用可能なものは得られなかった。
【0010】
また、本発明者は、特許文献2の改良として、耐ヒートサイクル性向上を目的とし、可撓性を有する材料の配合量をさらに増加させることにより塗膜に可撓性を付与し、熱膨張収縮に伴う材料の歪みを吸収することを考えたが、塗膜のTgの低下を招き、初期耐熱性を低下させてしまう上に、塗膜にクラックが生じ、耐ヒートサイクル性が劣る結果となった。
【0011】
さらに、本発明者は、球状無機粒子とシリコーンゴム粒子を併用した特許文献3の改良として、耐ヒートサイクル性向上を目的とし、球状無機粒子の配合量をさらに増加させることにより線膨張係数を低下させて、熱膨張収縮による歪みを抑えることを考えた。主剤として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とノボラック型多官能エポキシ樹脂を併用し、球状無機粒子とシリコーンゴム粒子を含有したエポキシ樹脂粉体塗料は、塗膜にクラックが生じ、耐ヒートサイクル性が劣るという結果になってしまった。そこで、固さに起因するノボラック型多官能エポキシ樹脂を除き、主剤をビスフェノールA型エポキシ樹脂のみとする改良を行ったが、塗膜にクラックが生じ、耐ヒートサイクル性は改善できなかった。
【0012】
以上のように、従来技術を単純に応用しただけでは、形成される塗膜の耐ヒートサイクル性を改善できないため、近年の金属部品(前出)に対応できなかった。
【0013】
そこで、本発明は、塗工時の作業性や塗装性を損なうことなく、近年の金属部品(前出)に対しても、耐ヒートサイクル性に優れた塗膜を形成することができるエポキシ樹脂粉体塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に対して、平均粒子径16~50μmの球状無機粒子及びアクリル系コアシェル型粒子を配合することにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明のエポキシ樹脂粉体塗料は、(A)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、平均粒子径16~50μmの(B)球状無機粒子、及び(C)アクリル系コアシェル型粒子を必須成分として含有することを特徴とする。
【0016】
上記エポキシ樹脂粉体塗料は、次の態様を含みうる。
(C)の平均粒子径が0.1~0.4μmであることが好ましい。
(B)の平均粒子径に対する(C)の平均粒子径の比(アクリル系コアシェル型粒子/球状無機粒子)が、0.002~0.025であることが好ましい。
(C)がアクリル系コアシェル型ゴム粒子を含むことが好ましい。
(C)が最外層にグリシジル基を含有するアクリル系コアシェル型ゴム粒子を含むことが好ましい。
(B)の配合量が、100質量部の(A)成分に対して、180~250質量部であることが好ましい。
(C)の配合量が、100質量部の(A)成分に対して、3~25質量部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、平均粒子径範囲が特定された球状無機粒子と、アクリル系コアシェル型粒子を必須成分として含有する。このため、塗工時の作業性や塗装性を損なうことなく、近年の金属部品(材質が異なる複数種の金属を複雑に組み合わせた構造からなり、かつ高基準の性能が要求される金属部品)に対しても、耐ヒートサイクル性に優れた塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し、適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲のものである。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料は、(A)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、(B)球状無機粒子、及び(C)アクリル系コアシェル型粒子を必須成分として含有する。
【0020】
以下に、本発明の粉体塗料の詳細について説明する。
【0021】
<(A)>
本発明では、硬化物(塗膜)の耐ヒートサイクル性、電気特性、機械特性の観点から、(A)成分としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用する。使用するビスフェノールA型エポキシ樹脂は、分子量が1000~1500であることが好ましい。この範囲の分子量を持つビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用することで、塗装時のタレ発生を抑制でき、平滑な塗膜を得やすいからである。このエポキシ樹脂は、1種類だけ使用してもよいし、分子量が1000~1500の範囲となるように、分子量が異なる2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
<(B)>
本発明では、(B)成分として、球状無機粒子を使用する。球状無機粒子としては、従来から知られているものを、その使用目的に応じて適宜使用することができる。例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄、バリウムチタン酸化物、アルミナ-シリカ複合酸化物等の酸化物; 窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の窒化物; フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性イオン結晶; シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶; シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレイ、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ベーマイト、アパタイト、ムライト、スピネル、オリビン等、または、これらを含む化合物等が挙げられる。この球状無機粒子は、1種類だけ使用してもよいし、組成が異なる2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
本発明では、形成される塗膜の耐ヒートサイクル性を向上させる点から、これらの各種、球状無機粒子のうち、-50℃~250℃の範囲での線膨張係数が低いもの、例えば、1×10-6(/℃)以下のものを、(B)成分中に少なくとも80質量%以上、配合することが好ましい。
【0024】
(B)成分として使用する球状無機粒子の平均粒子径(d1)は、16~50μmであることが必要である。d1が16μm以上であると、塗装作業時の塗料流展性が良好となって、塗装性が向上するからである。一方、d1が50μm以下であると、形成される塗膜表面が凹凸せず、膜厚が均一な塗膜を形成できるからである。塗装性の向上及び膜厚の均一化をより一層高める観点から、より好ましくは、d1が20~40μmの球状無機粒子を使用するとよい。
【0025】
本発明では、(B)成分として、平均粒子径が16~50μmに入る球状無機粒子を1種類だけ使用してもよいし、配合される無機粒子全体で平均粒子径が16~50μmの範囲となるように、粒子径が異なる2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
球状無機粒子の平均粒子径は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した個数積算分布における50%粒径(D50値)である。
【0027】
(B)成分として使用可能な市販品として、例えば、S140(マイクロン社製、平均粒子径:25μm)、SC30(マイクロン社製、平均粒子径:30μm)、FB-74(電気化学工業社製、平均粒子径:30μm)、などが挙げられる。
【0028】
(B)成分の配合量は、100質量部の(A)成分に対して、180~250質量部であることが好ましい。(B)成分の配合量が180質量部以上であると、形成される塗膜の耐ヒートサイクル性が良好となる傾向があるからである。一方、(B)成分の配合量が250質量部以下であると、塗装性がより良好となることが期待できるからである。塗膜の耐ヒートサイクル性及び塗装性をより高める観点から、より好ましくは、(B)成分の配合量を、100質量部の(A)成分に対して、200~230質量部にするとよい。
【0029】
<(C)>
本発明では、硬化物(塗膜)の機械特性、熱衝撃緩和特性、エポキシ樹脂との相溶性の観点から、(C)成分として、アクリル系コアシェル型粒子を使用する。アクリル系コアシェル型粒子とは、核となる内層(コア)と、それを覆う1以上の外層(シェル)とから構成され、かつコアとシェルが異なる性質の重合体からなる、アクリル系で、二層(コア/シェル)構造の重合体粒子である。コア及びシェルのそれぞれを構成する層の数は、特に限定されず、それぞれ、単層のみの他、2層以上であってもよい。またコアとシェルの各組成に特段の制限はない。
【0030】
(C)成分として使用するアクリル系コアシェル型粒子の平均粒子径(d2)は、0.1~0.4μmであることが好ましい。d2がこの範囲にあるコアシェル型粒子を使用することで、膜厚が均一な塗膜を形成できるからである。
コアシェル型粒子の平均粒子径は、例えば、顕微鏡で撮影した写真に基づいて測定できる。詳しくは、コアシェル型粒子100個の粒子径(外径)の平均値(数平均粒子径)である。上記写真において真円状でないとき、即ち楕円状のときは、粒子の長軸方向の外径をその粒子径とすることができる。顕微鏡としては走査型電子顕微鏡、又は透過型電子顕微鏡を用いることができる。
【0031】
本発明では、(C)成分として、平均粒子径が0.1~0.4μmに入るコアシェル型粒子を1種類だけ使用してもよいし、配合されるコアシェル型粒子全体で平均粒子径が0.1~0.4μmの範囲となるように、粒子径が異なる2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本発明では、大きな平均粒子径(d1:16~50μm)を持つ(B)成分と、小さな平均粒子径(d2:0.1~0.4μm)を持つ(C)成分と、を組み合わせることによって、硬化物(塗膜)に、より一層優れた耐ヒートサイクル性を発現させることができる。この組み合わせの場合、特に、(A)成分のエポキシ樹脂にバランス良く分散されるため、ヒートサイクル時の硬化物の熱膨張の抑制及び膨張や収縮に対する動きへの追従性に有効と考えられる。
【0033】
本発明では、(B)成分の平均粒子径(d1)に対する(C)成分の平均粒子径(d2)の比(d2/d1)は、0.002~0.025が好ましく、より好ましくは0.007~0.014であり、さらに好ましくは0.009~0.011である。
(d2/d1)が好ましい範囲にあることで、本発明効果のより一層の向上が期待できる。
【0034】
(C)成分の配合量は、100質量部の(A)成分に対して、3~25質量部であることが好ましく、より好ましくは3~20質量部である。(C)成分の配合量を3質量部以上とすることで、形成される塗膜の耐ヒートサイクル性が良好となる傾向があるからである。一方、(C)成分の配合量を20質量部以下とすることで、塗装性がより良好となることが期待できるからである。
【0035】
本発明では、靭性付与の点から、(C)成分として、ゴム状ポリマーのコアとガラス状ポリマーのシェルからなる、アクリル系コアシェル型ゴム粒子を使用するとよい。
このゴム粒子は、コア部に「弾力性」(ゴム弾性)を有し、シェル部に「硬質性」を有するものであり、粉体塗料中で溶解しない。「コア」を形成するポリマーは、実質的には周囲温度以下のガラス転移温度(Tg)を有する。「シェル」を形成するポリマーは、実質的には周囲温度以上のTgを有する。周囲温度は、粉体塗料が製造され、あるいは保管され、あるいは使用される温度範囲として画定される。
【0036】
アクリル系コアシェル型ゴム粒子を構成するコア粒子は、コア用モノマー成分を重合したコア用ポリマーからなる。このコア用ポリマー合成用のコア用モノマー成分としては、例えば、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系モノマー; スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル系化合物; アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物; シアン化ビニリデン、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルフマレート、ヒドロキシブチルビニルエーテル、モノブチルマレエート、ブトキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
さらに、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールトリ(メタ)アクリレート、オリゴエチレンジ(メタ)アクリレート、オリゴエチレントリ(メタ)アクリレートなどの反応性基を2個以上有する架橋性モノマー; ジビニルベンゼンなどの芳香族ジビニルモノマー; トリメリット酸トリアリル、トリアリルイソシアネレートなどが挙げられる。これらは、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0037】
コア用ポリマーは架橋ポリマーであることが好ましい。そのために、コア用モノマー成分中に、架橋性モノマーを含めることが好ましい(例えば、コア用モノマー成分100質量%に対して、1~30質量%程度)。コア粒子を架橋することにより、シェル用モノマー成分の添加時にシェル用モノマー成分がコア粒子の中に侵入するのを抑制する結果、シェルポリマーがコア粒子の表面により均一に被覆されたコアシェル構造を有する粒子が得られやすい。
【0038】
コア用ポリマーの分子量、分子形状、架橋密度により、ゴム性状は変化する。本発明では、コア部は、室温(25℃)でゴム状ポリマーであることが好ましい。さらに好ましくは得られるコア用ポリマーTgが-10℃以下となることが好ましい。
【0039】
前記コア粒子の外表面を覆う、アクリル系コアシェル型ゴム粒子を構成するシェルは、シェル用モノマー成分を重合したシェル用ポリマーからなる。このシェル用ポリマー合成用のシェル用モノマー成分としては、上述したコア用モノマー成分として列挙したものが挙げられる。好ましくは、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、などのアルキル基の炭素数が1~4の(メタ)アクリレートが挙げられる。 これらは、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で特にメチルメタクリレートが好適である。
【0040】
本発明において、シェルは、常温(25℃)でガラス状ポリマーであることが好ましく、さらに、シェル用ポリマーのTgが70℃以上であることがより好ましい。これは、シェル用ポリマーの分子量、分子形状、架橋密度などにより決定することができる。
【0041】
本発明では、耐ヒートサイクル性を顕著に発現させるために、(C)成分として、アクリル系コアシェル型ゴム粒子の最外層にグリシジル基を含有したものを使用すると、なおよい。最外層にグリシジル基を含有するアクリル系コアシェル型ゴム粒子としては、特に制限はないが、最外層に含有されるグリシジル基含有化合物として、グリシジル基含有ビニル系単位の重合体が挙げられる。グリシジル基含有ビニル系単位の具体例として、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン-4-グリシジルエーテルまたは4-グリシジルスチレンなどが挙げられる。耐ヒートサイクル性を顕著に発現させる観点から、(メタ)アクリル酸グリシジルが最も好ましく使用される。これらは、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0042】
最外層を含むシェルには、上記グリシジル基含有ビニル系単位の重合体以外に、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位またはその他のビニル系単位などから選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が含有されていても良い。中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位または不飽和ジカルボン酸無水物系単位から選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が含有されていることが好ましい。
【0043】
最外層にグリシジル基を含有するアクリル系コアシェル型ゴム粒子の好ましい具体例としては、コア粒子がアクリル酸ブチル重合体で形成され、シェルの最外層がメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体で形成されたもの; コア粒子がジメチルシロキサン/アクリル酸ブチル共重合体で形成され、シェルの最外層がメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体で形成されたもの、などが挙げられる。
【0044】
(C)において、コアとシェルの質量比は、特に限定されるものではないが、コアシェル型粒子全体に対して、コアが50~95質量%であることが好ましく、より好ましくは55~93質量%であり、特に好ましくは60~90質量%である。コアを50質量%以上とすることにより、硬化物(塗膜)の十分な機械特性や熱衝撃緩和特性効果が得られ、95質量%以下とすることにより、コアをシェルで概ね完全に被覆でき、エポキシ樹脂との十分な相溶性や分散性が確保される。
【0045】
(C)としては、上述した条件を満たすものとして、市販品を用いてもよく、また、公知の方法により作製することもできる。
【0046】
市販品としては、例えば、三菱レイヨン社製の「メタブレン」、カネカ社製の「カネエース」、ダウケミカル製の「パラロイド」(例えばEXL2655やEXL2314など)、ガンツ化成社製の「スタフィロイド」(例えばAC3355など)や「ゼフィアック」シリーズ(例えばF351など)、またはクラレ社製の「パラフェイス」、などが挙げられる。これらは、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0047】
前記(A)成分に対して用いる硬化剤は、従来から知られているエポキシ樹脂用硬化剤をその使用目的に応じて適宜使用することができる。
例えば、酸無水物、アミン類、イミダゾール類、ジヒドロジン類、ルイス酸、ブレンステッド酸塩類、ポリメルカプトン類、イソシアネート類、ブロックイソシアネート類、ジシアンジアミド、カルボン酸ジヒドラジド、メラミン樹脂、多価カルボン酸等を使用することができる。これらの硬化剤は、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料には、以上説明した各成分の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、触媒、硬化促進剤、流展剤、難燃剤、着色剤、レベリング剤、カップリング剤、消泡剤、離型剤等の慣用の補助成分を適宜配合することができる。
【0049】
次に、本発明におけるエポキシ樹脂粉体塗料の製造方法について説明する。
粉体塗料は、エポキシ樹脂と無機粒子等をニーダなどによる溶融混錬処理を施すか、エクストルーダなどによる溶融混合処理を施した後、混合物を冷却固化し、粗粉砕し、この粗粉砕物に硬化剤、さらに必要により、触媒、硬化促進剤や補助成分を乾式混合し、この混合物に溶融混合処理を施した後、混合物を冷却固化し、微粉砕後、分級し、例えば、平均粒子径30~80μmに調製することにより得られる。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料が塗装される部材(被塗装部材)の種類及び形状は、特に限定されないが、本発明の粉体塗料は、特に、材質が異なる複数種の金属どうしを組み合わせた非平面部(凹凸)を有する立体構造物に好適に使用され、本発明の効果が有効に発揮される。
すなわち、本発明のエポキシ樹脂粉体塗料が材質が異なる複数種の金属どうしを組み合わせた凹凸を有する形状に対しての、追従性が良好であることから、例えば、箱状物、波板状物、袋状物、筒状物、棒状物、穴あき状物等にも好適に用いられる。
【0051】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料は、従来から知られている塗装方法をその使用目的に応じて適宜使用することができる。
例えば、流動浸漬法、静電流動床法、コロナ荷電法および摩擦荷電法等を挙げることができる。この中でも充分な膜厚の絶縁塗膜を得る場合には流動浸漬法であることが好ましい。
【0052】
本発明のエポキシ樹脂粉体塗料を被塗装部材に塗装し、硬化させて得られる硬化物からなる硬化塗膜は、-40℃で30分保持した後、150℃で30分保持する処理を1サイクルとするヒートサイクル試験を80サイクル繰り返したときにクラックが未発生であることが好ましい。このような優れた耐ヒートサイクル性を有していれば、硬化塗膜の信頼性が高くなる。
【実施例
【0053】
以下、本発明のエポキシ樹脂粉体塗料、これを金属部品に塗装後、熱硬化させた塗膜、すなわち硬化塗膜について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明のエポキシ樹脂粉体塗料、硬化塗膜についてはこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例の粉体塗料については、塗装性の評価を行ない、硬化塗膜については塗膜の均一性及び耐ヒートサイクル性の評価を行なった。
実施例中、特に記載がない場合には、「%」及び「部」は質量%及び質量部を示す。
【0054】
(塗装性の評価)
下記に示す水平流れ率を測定することにより塗装性の評価をした。
実施例及び比較例のエポキシ樹脂粉体塗料1.0gを内径16mmφの錠剤成形用金型に入れ、90MPaの圧力を60秒間加圧して錠剤を成型し、この錠剤の直径(A)を測定した。
次いでスライドグラス上に錠剤をのせ、140℃の熱風乾燥炉に10分間放置後取出し、錠剤の直径(B)を測定した。下記式(1)より水平流れ率を測定する。
【0055】
水平流れ率={[B(mm)-A(mm)]/A(mm)}×100 …式(1)
【0056】
塗装性の評価基準は以下のとおりである。
◎:水平流れ率が13~30%
○:水平流れ率が7~13%未満
△:水平流れ率が5~7%未満
×:水平流れ率が5%未満
【0057】
(塗膜の均一性の評価)
下記に示すエッチカバー性を目視にて判定することにより、塗膜の均一性を評価した。
実施例及び比較例のエポキシ樹脂粉体塗料を膜厚が0.5~1.0mmとなるよう4mm角棒に、流動浸漬法により塗装し、190℃、20分で硬化し硬化塗膜を得た。
【0058】
塗膜均一性の評価基準は以下のとおりである。
○:硬化塗膜にタレが生じなかったもの(優れる)
△:硬化塗膜にタレが生じてしまったが、予熱(例えば150℃、20分)した後、同条件で硬化させ際に、硬化塗膜にタレが生じなかったもの(良好)
×:△の評価と同条件で予熱及び硬化させたが、硬化塗膜にタレが生じてしまったもの(不良)
【0059】
(耐ヒートサイクル性の評価)
実施例及び比較例のエポキシ樹脂粉体塗料を膜厚が0.5~1.0mmとなるように鉄製ボルト(M12)に塗装後、190℃、20分の硬化条件で硬化した。以下、鉄製ボルト(M12)は試験片という。
次いでその試験片を気相冷熱槽に入れ、-40℃で30分保持した後150℃で30分保持する処理を1サイクルとし、これを複数回繰り返すヒートサイクル試験を実施し、試験片のくびれ部分のクラック発生状況を目視にて観察した。
尚、本評価は、上記塗装後の試験片を3本用い、クラックが発生するまでのサイクル数の平均値で評価を行なった。
【0060】
耐ヒートサイクル性の評価基準は以下のとおりである。
◎:100サイクル以上でもクラックの発生がみられない(非常に優れる)
○:80~99サイクルでもクラックの発生がみられない(優れる)
△:50~79サイクルでもクラックの発生がみられない(良好)
×:50サイクル未満でクラックの発生がみられる(不良)
【0061】
(実施例1)
表1に示す質量比で、(A1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER1002 分子量1200 三菱化学社製)、(A2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER1004 分子量1650 三菱化学社製)、硬化剤として酸無水物(BTDA ピイ・ティ・アイ・ジャパン社製)、硬化触媒としてジシアンジアミド(jERキュアDICY20 三菱化学社製)、(B1)球状溶融シリカ(SC30 平均粒子径30μm マイクロン社製)及び(C1)アクリル系コアシェル型粒子(グリシジル基含有、パラロイドEXL-2314 平均粒子径0.3μm ダウケミカル社製)を配合し、エクストルーダーにより110~130℃で溶融混練した。このときの混練時間は、30秒以下であった。混合物を冷却固化した後、微粉砕することにより粉体塗料を得た。この粉体塗料を流動浸漬法にて試験片に塗装した。塗装時間は、2秒×2回とした。その後、得られた塗膜を190℃で20分硬化し、硬化塗膜を得た。
【0062】
上記に示す方法で、塗装性、塗膜の均一性及び耐ヒートサイクル性を評価した結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1)
(B1)の代替物として、平均粒子径5μmの(B2)球状溶融シリカを用いた以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0064】
(比較例2)
(B1)の代替物として、平均粒子径75μmの(B3)球状溶融シリカを用いた以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0065】
(比較例3)
(C1)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0066】
(比較例4)
(C1)の配合量を20質量部とし、(B1)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0067】
(比較例5)
(C1)の代替物として、(C2)アクリル系非コアシェル型粒子(平均粒子径0.3μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。
【0068】
以上、比較例1~5の粉体塗料を、実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
(考察1)
表1に示すように、実施例1と比較例1、2より、平均粒子径16~50μmの球状無機粒子及び平均粒子径0.1~0.4μmのアクリル系コアシェル型粒子を併用することにより、塗装性に優れ、均一で耐ヒートサイクル性に優れた塗膜を形成することができるエポキシ樹脂粉体塗料を得られることが分かる。
【0071】
また、実施例1と比較例3、4より、球状無機粒子とアクリル系コアシェル型粒子を併用することで、得られた塗膜は優れた耐ヒートサイクル性を示す事が分かる。
【0072】
また、実施例1と比較例5より、アクリル系コアシェル型粒子を用いることで、耐ヒートサイクル性に優れた塗膜を形成することができるエポキシ樹脂粉体塗料を得られることが分かる。
【0073】
(実施例2a~2e)
(B1)の配合量を、それぞれ、表2記載のように変動させた以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。そして、実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0074】
比較しやすさを考慮して、表2には、実施例1の評価を併せて記載した。
【0075】
【表2】
【0076】
(考察2)
表2に示すように、実施例2b、2c及び2dでは、実施例1とほぼ同様の結果が得られた。実施例2aでは、塗装性については、実施例1と同様の結果が得られた。塗膜の均一性及び耐ヒートサイクル性については、実施例1より若干劣るものとなったが、実用上全く問題のないものであった。実施例2eでは、塗膜の均一性及び耐ヒートサイクル性については、実施例1と同様の結果が得られた。塗装性については、実施例1より若干劣るものとなったが、実用上全く問題のないものであった。
以上のことから、球状無機粒子が180~250質量部の範囲において特に、塗装性を損なうことなく、均一で耐ヒートサイクル性にも優れた塗膜が得られることが分かる。
【0077】
(実施例3a~3e)
(C1)の配合量を、それぞれ、表3記載のように変動させた以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た。そして、実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0078】
比較しやすさを考慮して、表3にも、実施例1の評価を併せて記載した。
【0079】
【表3】
【0080】
(考察3)
表3に示すように、実施例3b及び3cでは、実施例1とほぼ同様の結果が得られた。実施例3aでは、塗装性及び塗膜の均一性については、実施例1と同様の結果が得られた。耐ヒートサイクル性については、実施例1より繰り返しサイクル数が若干劣るものとなったが、実用上全く問題のないものであった。実施例3d及び3eでは、塗膜の均一性及び耐ヒートサイクル性については、実施例1と同様の結果が得られた。塗装性については、実施例1より若干劣るものとなったが、実用上全く問題のないものであった。
以上のことから、アクリル系コアシェル型粒子(0.3μm)が3~25質量部の範囲において特に、塗装性を損なうことなく、均一で耐ヒートサイクル性にも優れた塗膜が得られることが分かる。
【0081】
(実施例4a)
(C1)の代替物として、(C3)アクリル系コアシェル型粒子(平均粒子径0.1μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た後、同様の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0082】
(実施例4b)
(C1)の代替物として、(C4)アクリル系コアシェル型粒子(平均粒子径1μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして粉体塗料を得た後、同様の評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0083】
比較しやすさを考慮して、表4にも、実施例1の評価を併せて記載した。
【0084】
【表4】
【0085】
(考察4)
表4に示すように、実施例4aでは、実施例1と同様の結果が得られた。実施例4bでは、塗装性及び塗膜の均一性については、実施例1と同様の結果が得られた。耐ヒートサイクル性については、実施例1より繰り返しサイクル数が若干劣るものとなったが、実用上全く問題のないものであった。
以上のことから、アクリル系コアシェル型粒子の平均粒子径が0.1~0.4μmの範囲において特に、塗装性に優れ、均一で耐ヒートサイクル性にも優れた塗膜が得られることが分かる。