(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】アクティブ除振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/027 20060101AFI20220214BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20220214BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20220214BHJP
G05D 19/02 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
F16F15/027
F16F15/02 A
F16F15/04 F
F16F15/02 M
G05D19/02 D
(21)【出願番号】P 2018004179
(22)【出願日】2018-01-15
【審査請求日】2020-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000201869
【氏名又は名称】倉敷化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸本 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 成吾
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特許第4970904(JP,B2)
【文献】特開2007-155038(JP,A)
【文献】特開2005-195064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/027
F16F 15/02
F16F 15/04
G05D 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推力を受けて移動することにより、搭載物の位置決めを行うステージと、
前記ステージへと推力を付与する第1アクチュエータと、
前記第1アクチュエータへと制御信号を入力することにより、該制御信号に応じた推力を発生させる第1制御部と、
前記ステージを支持する除振台と、
前記除振台に対し、その振動を抑えるような制御力を付与する第2アクチュエータと、
前記第1制御部が前記第1アクチュエータを介して前記ステージを移動させるとき、その移動制御に係る情報に基づいたステージ状態信号を事前に取得するステージ情報取得部と、
前記ステージ情報取得部により取得されたステージ状態信号が入力されるとともに、該ステージ状態信号から、前記ステージに係る共振の共振周波数成分を除去するように構成された共振抑制部と、
前記共振抑制部によって前記共振周波数成分が除去されたステージ状態信号に基づいて、前記ステージの移動に伴って前記除振台に生じる振動に見合う制御力となるよう、前記第2アクチュエータをフィードフォワード制御する第2制御部と、を備え
、
前記共振抑制部は、前記共振周波数成分の除去に前後して、前記ステージ状態信号のゲインを増大させる
ことを特徴とするアクティブ除振装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたアクティブ除振装置において、
前記ステージ情報取得部は、前記ステージ状態信号として、前記ステージに付与される加速度を示す加速度指令値を事前に推定するとともに、
前記共振抑制部は、前記加速度指令値から前記共振周波数成分を除去するように構成されている
ことを特徴とするアクティブ除振装置。
【請求項3】
請求項1に記載されたアクティブ除振装置において、
前記ステージ情報取得部は、前記ステージ状態信号として、前記ステージに付与される推力を示す推力指令値を事前に推定するとともに、
前記共振抑制部は、前記推力指令値から前記共振周波数成分を除去するように構成されている
ことを特徴とするアクティブ除振装置。
【請求項4】
請求項
1から3のいずれか1項に記載されたアクティブ除振装置において、
前記共振抑制部は、前記共振周波数成分を透過させないように構成されたディジタルフィルタを有する
ことを特徴とするアクティブ除振装置。
【請求項5】
請求項
4に記載されたアクティブ除振装置において、
前記共振抑制部は、前記共振周波数成分を含んだ帯域を阻止するように構成されたノッチフィルタを有する
ことを特徴とするアクティブ除振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、アクティブ除振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体や液晶パネルなど、各種精密機器の製造装置においては、正確かつ高速な位置決めを実現するべく、その製造対象を可動式のステージ上に搭載することが広く知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
一般に、ステージ上の搭載物は、製造途中の精密機器であるため振動を嫌う。そこで、前記特許文献1には、床からの振動の伝達を可能な限り抑えるべく、アクティブタイプの除振装置を用いることが開示されている。
【0004】
具体的に、前記特許文献1には、可動式のステージ(移動物)と、そのステージを支持する除振台(定盤)と、この除振台に対し、除振台の振動を抑えるような制御力を付与するアクチュエータ(サーボ弁)と、除振台に設けられた振動センサ(加速度センサ)と、を備えたアクティブ除振装置が記載されている。このアクティブ除振装置は、振動センサからの信号に基づいてアクチュエータをフィードバック制御するように構成されている。
【0005】
また、床から伝達する振動ばかりでなく、ステージの移動に伴い生じる振動も抑えるべく、前記のようなフィードバック制御に加えて、除振台に対してフィードフォワード制御も行うことも知られている。
【0006】
具体的に、前記特許文献1に記載されたアクティブ除振装置は、ステージの移動制御を行うとき、その移動制御に係る情報(ステージ制御情報)に基づいてステージの位置及び加速度を事前に推定する。そして、このアクティブ除振装置は、事前の推定結果に基づいたフィードフォワード制御を行う。これにより、除振台に対するフィードフォワード制御を早いタイミングで実行することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記特許文献1に記載されているように、除振台によって可動式のステージを支持した場合、除振台とステージとの間の振動や、ステージと搭載物との間の振動等が共振に至る可能性がある。そういった共振は、それが実際に生じる前に未然に抑制することが求められる。
【0009】
また一般に、前記特許文献1に記載されているような可動式のステージにおいては、そのステージに生じる振動を抑えるべく、除振台に対するフィードフォワード制御とは別に、ステージ自身に対してフィードフォワード制御(いわゆるステージFF制御)を行うことも知られている。
【0010】
そこで、ステージFF制御を成す制御ループ中に、ステージに関連した共振を誘発するような周波数成分(本明細書では、そうした周波数成分を「共振周波数成分」と呼称する)を除去するための、ノッチフィルタ等のディジタルフィルタを介設することが考えられる。この場合、例えばステージに関連したフィードフォワード信号から共振周波数成分を除去することで、共振の発生を未然に抑制できるものと考えられる。
【0011】
しかし一般に、ディジタルフィルタを透過させたディジタル信号には、位相の遅れが生じてしまう。このことは、ステージFF制御に時間的な遅れを招くことになるため、ステージの応答性等を確保する上で不都合である。
【0012】
また、単にノッチフィルタを透過させるだけでは、共振周波数成分を取り除いた分だけ、ディジタル信号のゲインが不足する可能性もある。このことは、前述のステージFF制御等、ステージの移動制御の性能(特に、ステージに付与する推力・加速度の確保)という観点からは不都合である。これに対し、仮に、ディジタル信号のゲインを補うための信号処理を追加してしまうと、位相の遅れが一層顕著なものとなるため望ましくない。
【0013】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、可動式のステージを備えたアクティブ除振装置において、時間的な遅れを招くことなく、ステージに関連した共振の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、ステージ側の制御ループと、除振台側の制御ループとが相互に独立していることと、前記特許文献1に記載されているように、ステージの移動制御よりも早いタイミングで除振台を制御可能であることに着目し、本開示を見出すに至った。
【0015】
具体的に、ここに開示する技術は、アクティブ除振装置に関する。このアクティブ除振装置は、推力を受けて移動することにより、搭載物の位置決めを行うステージと、前記ステージへと推力を付与する第1アクチュエータと、前記第1アクチュエータへと制御信号を入力することにより、該制御信号に応じた推力を発生させる第1制御部と、前記ステージを支持する除振台と、前記除振台に対し、その振動を抑えるような制御力を付与する第2アクチュエータと、前記第1制御部が前記第1アクチュエータを介して前記ステージを移動させるとき、その移動制御に係る情報に基づいたステージ状態信号を事前に取得するステージ情報取得部と、前記ステージ情報取得部により取得されたステージ状態信号が入力されるとともに、該ステージ状態信号から、前記ステージに係る共振の共振周波数成分を除去するように構成された共振抑制部と、前記共振抑制部によって前記共振周波数成分が除去されたステージ状態信号に基づいて、前記ステージの移動に伴って前記除振台に生じる振動に見合う制御力となるよう、前記第2アクチュエータをフィードフォワード制御する第2制御部と、を備える。
【0016】
ここで、ステージ状態信号は、ステージに付与される加速度や推力など、ステージの共振と直接的に関連した物理量を示す信号としてもよいし、そうした加速度や推力を演算可能なステージの位置等、ステージの共振と間接的に関連したものを用いてもよい。
【0017】
また、「ステージに係る共振」とは、例えば、ステージの移動に伴い生じる共振としてもよいし、第2アクチュエータから除振台へと付与される制御力がステージに伝達した結果、生じるような共振としてもよい。「ステージに関連した共振」という語も、同様の意味で用いる。
【0018】
前記の構成によれば、ステージ情報取得部は、ステージ状態信号を事前に取得する。共振抑制部は、事前に取得されたステージ状態信号から共振周波数成分を除去した上で、第2制御部へと出力する。第2制御部は、そうして入力された信号を用いることにより、第2アクチュエータをフィードフォワード制御する。
【0019】
これにより、ステージ状態信号から共振周波数成分を除去した結果、同信号に位相の遅れが生じたとしても、それに起因した時間的な遅れは、ステージ状態信号を事前のタイミングで取得したことによって減殺される。これにより、時間的な遅れを招くことなく、ステージに関連した共振の発生を抑制することができる。
【0020】
前記のように、ステージ側の制御ループと、除振台側の制御ループとは相互に独立しているため、除振台側の制御ループにおいて共振周波数成分を除去したとしても、ステージ側では位相の遅れは生じない。このことは、ステージに対して成される移動制御の性能を確保する上で有効である。
【0021】
また、前記の構成によれば、共振周波数成分が除去されたステージ状態信号に対して、同信号のゲインを補うための信号処理を追加したとしても、前記と同様の事情から、それに起因した時間的な遅れが減殺されて、除振台のフィードフォワード制御を早めに行うことが可能となる。その結果、ステージの移動制御ばかりでなく、除振台に対して成されるフィードフォワード制御の性能を確保する上でも有利になる。
【0022】
また、前記ステージ情報取得部は、前記ステージ状態信号として、前記ステージに付与される加速度を示す加速度指令値を事前に推定するとともに、前記共振抑制部は、前記加速度指令値から前記共振周波数成分を除去するように構成されている、としてもよい。
【0023】
前記の構成によれば、加速度指令値から共振周波数成分を除去することで、ステージに関連した共振(ステージに係る共振)が誘発されないようにすることが可能となる。
【0024】
また、前記ステージ情報取得部は、前記ステージ状態信号として、前記ステージに付与される推力を示す推力指令値を事前に推定するとともに、前記共振抑制部は、前記推力指令値から前記共振周波数成分を除去するように構成されている、としてもよい。
【0025】
前記の構成によれば、推力指令値から共振周波数成分を除去することで、ステージに関連した共振が誘発されないようにすることが可能となる。
【0026】
また、前記共振抑制部は、前記共振周波数成分の除去に前後して、前記ステージ状態信号のゲインを増大させる、としてもよい。
【0027】
この構成によれば、共振周波数成分が除去された後、又は、除去される前のステージ状態信号に対して、同信号のゲインを補う。これにより、除振台におけるフィードフォワード制御の性能を確保する上で有利になる。
【0028】
また、ここに開示する別の技術は、アクティブ除振装置に関する。このアクティブ除振装置は、推力を受けて移動することにより、搭載物の位置決めを行うステージと、前記ステージへと推力を付与する第1アクチュエータと、前記第1アクチュエータへと制御信号を入力することにより、該制御信号に応じた推力を発生させる第1制御部と、前記ステージを支持する除振台と、前記除振台に対し、その振動を抑えるような制御力を付与する第2アクチュエータと、前記第1制御部が前記第1アクチュエータを介して前記ステージを移動させるとき、その移動制御に係る情報に基づいたステージ状態信号を事前に取得するステージ情報取得部と、前記ステージ情報取得部によって取得されたステージ状態信号に基づいて、前記ステージの移動に伴って前記除振台に生じる振動に見合う制御力となるよう、前記第2アクチュエータをフィードフォワード制御するためのフィードフォワード信号を出力する第2制御部と、前記第2制御部から出力されたフィードフォワード信号が入力されるとともに、該フィードフォワード信号から、前記ステージに係る共振の共振周波数成分を除去した上で前記第2アクチュエータへと出力するよう構成された共振抑制部と、を備える。
【0029】
前記の構成によれば、ステージ情報取得部は、ステージ状態信号を事前に取得して第2制御部へと出力する。第2制御部は、そうして入力された信号に基づいてフィードフォワード信号を出力する。
【0030】
これにより、フィードフォワード信号から共振周波数成分を除去した結果、同信号に位相の遅れが生じたとしても、そうした位相の遅れに起因した時間的な遅れは、ステージ情報取得部がステージ状態信号を事前のタイミングで取得したことによって減殺される。これにより、時間的な遅れを招くことなく、ステージに関連した共振の発生を抑制することができる。
【0031】
また、前記共振抑制部は、前記共振周波数成分を透過させないように構成されたディジタルフィルタを有する、としてもよい。
【0032】
前記ディジタルフィルタとしては、一般的なローパスフィルタ、バンドエリミネーションフィルタ、ノッチフィルタ等を用いることができる。
【0033】
また、前記共振抑制部は、前記共振周波数成分を含んだ帯域を阻止するように構成されたノッチフィルタを有する、としてもよい。
【0034】
一般に、ノッチフィルタは、バンドエリミネーションフィルタと比較して阻止可能な帯域が狭い。よって、ノッチフィルタを用いることで、共振周波数成分をピンポイントで除去することが可能になる。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように、前記のアクティブ除振装置によると、可動式のステージを備えたアクティブ除振装置において、時間的な遅れを招くことなく、ステージに関連した共振の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、アクティブ除振装置の概略構成を例示する図である。
【
図2】
図2は、ステージに関する制御の構成を例示するブロック図である。
【
図3】
図3は、除振台に関する制御の構成を例示するブロック図である。
【
図4】
図4は、共振周波数成分の除去に関連した処理を例示する図である。
【
図5】
図5は、加速度指令値と、そこから共振周波数成分を除去した上でゲインを増大させて得た信号とを比較して示す図である。
【
図6】
図6は、ステージの位置の目標値と実測値との差を例示する図である。
【
図7】
図7は、アクティブ除振装置の第2の実施形態を示す
図3対応図である。
【
図8】
図8は、ステージに関連した制御の変形例を示す
図2対応図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は例示である。
【0038】
《第1の実施形態》
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0039】
-アクティブ除振装置の全体構成-
図1は、本実施形態に係るアクティブ除振装置A(以下、単に「除振装置」と呼称する)の概略構成を例示する図である。また、
図2は、除振装置Aのステージ4に関する制御の構成を例示するブロック図であり、
図3は、除振装置Aの除振台1に関する制御の構成を例示するブロック図である。
【0040】
除振装置Aは、例えば半導体関連の製造装置等のように振動の影響を受けやすい精密な装置Dを除振台1の上に搭載するようになっている。ここで、装置D(以下、「搭載装置」ともいう)は、シリコンウェハなど、各種の搭載物Sを可動式のステージ4によって支持するものであり、そのステージ4を適切に移動させることにより、ステージ4上の搭載物Sを正確かつ高速に位置決めするようになっている。
【0041】
一般に、ステージ4上の搭載物Sは、製造途中の精密機器であるため振動を嫌う。そこで、この除振装置Aは、床からの振動の伝達を可能な限り抑えるべく、アクティブタイプの除振装置として構成されている。
【0042】
具体的に、本実施形態に係る除振装置Aは、推力を受けて移動することにより、搭載物Sの位置決めを行うステージ4と、ステージ4を支持する除振台1と、この除振台1に対し、その振動を抑えるような制御力を付与するサーボ弁24と、を備えている。
【0043】
以下、各部の構成について詳細に説明する。
【0044】
ステージ4は、装置Dの本体3の上に配設されており、本構成例ではボールネジ機構によって、所定の移動軌跡(この例では水平方向を指す)に沿って移動可能な支持台となっている。ステージ4の上面には、前述の搭載物Sが支持されている。なお、ステージ4の案内機構は、ボールネジ機構には限定されない。例えば、いわゆるリニアガイドや空気静圧ガイドを用いてもよい。
【0045】
この構成例においては、前述のボールネジ機構は、ステージ4内に設けられた内ネジ部(不図示)に螺合するとともに、ステージ4を貫いて水平に延びるネジ棒(不図示)と、このネジ棒に駆動連結されたリニアモータ31(
図2にのみ図示)とから構成されている。リニアモータ31がネジ棒を回転させることにより、ステージ4は、ネジ棒が延びる方向に沿って移動する。
【0046】
この実施形態では、後述のステージコントローラ5がリニアモータ31の駆動を制御することにより、ステージ4に対して水平方向の推力を付与し、そのことで、搭載装置Dにおけるステージ4の位置決めを実現するように構成されている。
【0047】
なお、リニアモータ31は、「第1アクチュエータ」の例示である。また、ボールネジ機構の代わりにリニアガイドや空気静圧ガイドを用いた場合、リニアモータ31において回転型モータではなく直動型モータを用いることができる。
【0048】
リニアモータ31の駆動を制御するために、ステージ4付近には、移動軌跡上におけるステージ4の位置(搭載装置Dにおけるステージ4の変位に相当)と、ステージ4が実際に受ける推力とをそれぞれ検出するためのステージ位置センサS4及びステージ推力センサS5が付設されている。これらのセンサS4,S5から出力される検知信号がそれぞれステージコントローラ5に入力されるようになっている。なお、ステージコントローラ5は、「第1制御部」の例示である。
【0049】
除振台1は、いわゆる定盤として構成されており、複数(通常は4個であるが、3個以上であればよい)の空気ばねユニット2,2,…によって下方から弾性的に支持されている。除振台1の上には、装置Dの本体3が配設されている。このことは、除振台1が、本体3を介してステージ4を支持しているに等しい。
【0050】
詳しくは、複数の空気ばねユニット2,2,…は、それぞれ、図示の如く上下方向の荷重を支持する空気ばねによって構成されていて、床面等に配置されて上端が開口するケース20と、その上端開口にダイヤフラム21を介して気密状に内挿されて、ケース20内に空気室を区画するピストン22とを備えている。こうして空気ばねを用いて荷重を支持することから、除振装置Aは基本的に優れた除振性能を有するものであるが、さらに、この実施形態では、空気ばねの内圧を制御して、除振台1に対して振動を減殺するような制御力を付与するようになっている。
【0051】
そのために、各空気ばねユニット2には、その支持位置の近傍における除振台1の加速度とその変位とをそれぞれ検出するためのFB加速度センサS1及び変位センサS2が付設されている。また、ケース20の下部における加速度(床振動)を検出するためのFF加速度センサS3も設けられており、それら各センサS1~S3から出力される検知信号がそれぞれコントローラ6に入力される。
【0052】
また、各空気ばねユニット2には、図外の空気圧源から圧縮空気を供給するための配管が接続され、この配管に介設されたサーボ弁24により空気ばねへの圧縮空気の供給流量及び排気流量を調整することができる。そして、各センサS1~S4から入力される信号等に基づいて、コントローラ6によりサーボ弁24の制御を行い、これにより圧縮空気の供給流量及び排気流量を調整することで、空気ばねの内圧を調整する。そして、後述の如く、除振台1及び搭載装置Dの振動を抑えるようになっている。なお、サーボ弁24は、「第2アクチュエータ」の例示である。
【0053】
なお、
図1では右側の空気ばねユニット2のみに、その制御系である上下方向のFB加速度センサS1、変位センサS2、FF加速度センサS3、配管、サーボ弁24等を示しているが、同様の制御系は、各空気ばねユニット2に付設されている。
【0054】
また、図示しないが、同様の空気ばねユニット2,2,…を除振台1の周囲に水平方向の制御力を発生するためのアクチュエータとして設けたり、或いは、空気ばねユニット2,2,…において複数の空気ばねを水平方向のアクチュエータとして設けたりして、その内圧を制御することにより、搭載装置Dの水平方向の振動も抑制することができる。
【0055】
-ステージに関する制御-
次に、リニアモータ31を介したステージ4の制御について具体的に説明する。
【0056】
この構成例では、ステージコントローラ5は、ステージ位置FB制御部5aと、ステージ推力FB制御部5bと、ステージ振動推定部5cと、ステージ振動FF制御部5dと、を有しており、リニアモータ31へと制御信号を入力することにより、その制御信号に応じた推力を発生させるよう構成されている。ステージコントローラ5は、そうしてステージ4の移動を制御する。
【0057】
図2に示すように、リニアモータ31への入力は、主に、ステージ位置センサS4からの信号に基づいてステージ位置FB制御部5aにより演算される位置フィードバック操作量と、ステージ推力センサS5からの信号に基づいてステージ推力FB制御部5bにより演算される推力フィードバック操作量と、ステージ振動推定部5cからの信号に基づいてステージ振動FF制御部5dにより演算される推力フィードフォワード操作量と、を加算することにより成る。ここで、ステージ振動推定部5cは、ステージ推力センサS5からの信号に基づいて生成した信号をステージ振動FF制御部5dへと出力するようになっている。
【0058】
ステージ位置FB制御部5aは、ステージ位置センサS4の検出値、すなわち移動軌跡上におけるステージ4の実際の位置(位置実測値)に基づいて、その位置検出値が所定の目標値(以下、「位置指令値」ともいう)に収束にするようにリニアモータ31を作動させるものである。例えば、位置実測値、その微分値及び積分値にそれぞれフィードバックゲインを乗算し、それらを足し合わせた後に位置指令値から減算して、リニアモータ31への制御入力(位置フィードバック操作量)とすればよい。
【0059】
また、ステージ推力FB制御部5bは、ステージ推力センサS5の検出値、すなわち、その移動に際してステージ4が実際に受ける推力(推力実測値)に基づいて、その推力実測値が所定の目標値(以下、「推力指令値」ともいう)に収束するようにリニアモータ31を作動させるものである。例えば、推力実測値、その微分値及び積分値にそれぞれフィードバックゲインを乗算し、それらを足し合わせた後に推力指令値から減算して、リニアモータ31への制御入力(推力フィードバック操作量)とすればよい。
【0060】
また、ステージ振動推定部5cは、ステージ推力センサS5の検出値に基づいて、ステージ4へ推力を付与することに伴い生じる振動を推定する。例えば、ステージ振動推定部5cには、ステージ4が受ける推力と、ステージ4に生じる振動とを関連付けたモデルやマップ等が記憶されていて、前述の推力実測値に対応した振動を示す信号を算出し、ステージ振動FF制御部5dへと入力することができる。
【0061】
そして、ステージ振動FF制御部5dは、ステージ振動推定部5cからの出力信号、つまり、推力の付与に伴ってステージ4に生じる揺れの大きさに基づいて、その振動を減殺するようにリニアモータ31を作動させるものである。例えば、揺れの大きさを示す信号にフィードフォワードゲインを乗算し、その位相を反転して、リニアモータ31への制御入力(推力フィードフォワード操作量)とすればよい。
【0062】
なお、ステージ推力センサS5を用いた構成に代えて、例えばリニアモータ31に入力される電流を検出すると共に、その電流に対してフィードバック制御を行うように構成してもよい。このように、ステージ推力センサS5を用いずとも、推力に関連する物理量(例えば、電流の大きさなど、推力の大きさに比例する物理量)を介して推力を間接的に制御してもよい。
【0063】
この構成例では、ステージコントローラ5は、位置フィードバック操作量、推力フィードバック操作量、及び推力フィードフォワード操作量に応じて決定された電気的な制御信号をリニアモータ31に入力する。リニアモータ31は、その制御信号の強さ、つまり制御信号を電流とみなしたときの強弱に応じて、ステージ4に付与する推力の大きさを調整する。すなわち、制御信号の振幅が大きくなるほど、リニアモータ31が前述のネジ棒に付与するトルクが大きくなって、それに応じて、ステージ4が受ける推力も大きくなる。その際、推力実測値がステージ推力センサS5によって検出されて、ステージコントローラ5にフィードバックされる。
【0064】
こうして、推力をフィードバックすると、実際の推力を示す信号、すなわち推力実測値には、ステージ4が受ける摩擦の影響などが反映されることとなる。一方、推力をフィードフォワードすると、推力実測値には、ステージ4に生じる揺れを減殺した影響などが反映されることになる。
【0065】
また、リニアモータ31は、制御信号が示す回転数だけ回転し、現在の回転状態、すなわち位置実測値がステージ位置センサS4によって検出されて、ステージコントローラ5にフィードバックされる。
【0066】
-除振台に関する制御-
次に、サーボ弁24を介した除振台1の制御について具体的に説明する。便宜上、上下方向の空気ばねの制御についてのみ説明するが、水平方向にも空気ばねを設けた場合、これについても同様の制御が行われる。
【0067】
この構成例では、コントローラ6は、除振FB制御部6a、制振FB制御部6b、除振FF制御部6c、ステージ情報取得部6d等を有しており、サーボ弁24へと制御信号を入力することにより、除振台1に対し、その振動を抑えるような制御力を付与するよう構成されている。
【0068】
図3に示すように、サーボ弁24への入力は、主に、FB加速度センサS1からの信号に基づいて除振FB制御部6aにより演算される除振フィードバック操作量と、変位センサS2からの出力に基づいて制振FB制御部6bにより演算される制振フィードバック操作量と、FF加速度センサS3からの信号に基づいて除振FF制御部6cにより演算される除振フィードフォワード操作量と、を含んで成る。
【0069】
図2~
図3から見て取れるように、ステージコントローラ5によって構成されるステージ4側の制御ループと、コントローラ6によって構成される除振台1側の制御ループとは、相互に独立している。
【0070】
除振FB制御部6aは、FB加速度センサS1の検出値、すなわち除振台1の上下方向加速度に基づいて、その振動を減殺するような制御力を空気ばねにより発生させるものであり、例えば、加速度の検出値、その微分値及び積分値にそれぞれフィードバックゲインを乗算し、それらを足し合わせた後に反転して、サーボ弁24への制御入力とすればよい。
【0071】
また、制振FB制御部6bは、変位センサS2の検出値、すなわち除振台1の上下位置の変化量に基づいて、これが小さくなるように空気ばねの内圧を制御することにより、該除振台1の傾きやこれにより発生する揺れを抑えるものである。例えば、変位の検出値を目標値(零)から減算した後にPID制御則にしたがって、サーボ弁24への制御入力を求めるようにすればよい。
【0072】
さらに、除振FF制御部6cは、FF加速度センサS3による検出値、すなわち床の振動状態に基づいて、そこから除振対象物へ伝わる振動を打ち消すような逆位相の振動を発生させるためのものであり、例えばディジタルフィルタを用いてサーボ弁24への制御入力を求めることができる。このディジタルフィルタの特性は、床振動が空気ばねユニット2を介して除振台1に伝わるときの伝達関数H(s)と、該空気ばねユニット2によって構成される補償系の伝達関数K(s)を用いて、-H(s)・K(s)-1として表される。
【0073】
そして、前述のような制御入力を受けてサーボ弁24が作動し、空気ばねユニット2の内圧が制御されることで、除振対象物である除振台1に適切な制御力が付与されることになる。すなわち、床から伝わる振動については、除振フィードフォワード制御によって振動の伝達を抑えつつ、それでも伝達される微小な振動は除振フィードバック制御によって減殺することで、非常に高い除振性能が得られる。
【0074】
一方で、搭載装置Dの作動によって発生する比較的大きな振動、つまり、ステージ4の移動に伴って除振台1に生じる振動(揺れ)については、前述の除振フィードバック制御に加えて制振フィードバック制御を行うことで、除振台1の揺れが減殺されることになるが、フィードバック制御は変位や振動が実際に生じた後に行われることから、その効果は限定的なものにならざるを得ない。特に、前記のように空気ばねを用いて制御力を発生させるようにした場合には、その応答遅れが大きいことから、十分な効果は期待できない。
【0075】
そこで、この構成例では、ステージ4の移動に伴い生じる振動を抑えるべく、前記のような制振フィードバック制御に加えて、制振フィードフォワード制御を早いタイミングで行うように構成されている。
【0076】
つまり、この構成例に係るステージ情報取得部6dは、ステージコントローラ5がリニアモータ31を介してステージ4を移動させるとき、その移動制御に係る情報に基づいたステージ状態信号を事前に取得する。コントローラ6は、このステージ状態信号を用いることにより、操作量(制振フィードフォワード操作量)を事前に演算する。除振台1は、そうして演算された制御信号を、空気ばねの制御の時間遅れの分、早いタイミングでサーボ弁24に入力する。これにより、ステージ4の移動に伴って除振台1に生じる振動に見合う制御力となるように、サーボ弁24が早いタイミングでフィードフォワード制御される。
【0077】
そうしたステージ状態信号は、ステージコントローラ5からリニアモータ31へと出力される制御信号に関連した信号であり、ステージ情報取得部6dにおいて事前に推定される。ステージ状態信号としては、ステージ4に付与される加速度を示す加速度指令値や、ステージ4の目標位置を示す位置指令値や、前述の推力指令値等を用いることができる。ステージ状態信号は、ステージ4の仕様や、各種センサによる検知結果に基づいて検知、演算、推定等が可能な信号であればよい。以下の説明では、ステージ状態信号として加速度指令値と位置指令値を併用した場合について例示する。
【0078】
ところで、本開示のように、除振台1によって可動式のステージ4を支持した場合、除振台1とステージ4との間の振動、ステージ4と搭載物Sとの間の振動、前記ネジ棒とステージ4との間の振動等が、共振へと至る可能性がある。そういった共振は、それが実際に生じる前に、未然に抑制することが求められる。
【0079】
そこで、ステージ振動FF制御部5dを成す制御ループ中に、ステージ4に関連した共振周波数を除去するための、ノッチフィルタ等のディジタルフィルタを介設することが考えられる。これにより、共振の発生を未然に抑制できるものと考えられる。
【0080】
しかし一般に、ディジタルフィルタを透過させたディジタル信号には、位相の遅れが生じてしまう。このことは、ステージ4のフィードフォワード制御に時間的な遅れを招くことになるため、ステージ4の応答性等を確保する上で不都合である。
【0081】
また、単にノッチフィルタを透過させるだけでは、共振周波数成分を取り除いた分だけ、ディジタル信号のゲインが不足する可能性もある。このことは、推力等の低下を招くことになるため、ステージ4のフィードフォワード制御の性能という観点からは不都合である。これに対し、仮に、ディジタル信号のゲインを補うための信号処理を追加してしまうと、位相の遅れが一層顕著なものとなるため望ましく無い。
【0082】
そこで、この構成例では、本発明の特徴部分として、ステージ4側の制御ループではなく、除振台1側の制御ループにおいて、共振周波数成分を取り除くことにした。
【0083】
すなわち、コントローラ6には、ステージ情報取得部6dにより取得された、ステージ状態信号としての位置指令値及び加速度指令値が入力されるとともに、そのうちの加速度指令値から、ステージ4の移動に伴い生じる共振の共振周波数成分を除去するように構成された共振抑制部6fと、共振抑制部6fによって共振周波数成分が除去された後の加速度指令値に基づいて、ステージ4の移動に伴って除振台1に生じる振動に見合う制御力となるよう、サーボ弁24をフィードフォワード制御する制振FF制御部6eと、が設けられている。
【0084】
ここで、制振FF制御部6eは、ステージ4の移動制御に際してステージコントローラ5から送られるタイミング信号を受けて、ステージ状態信号としての加速度指令値と位置指令値に基づいて求めた制振フィードフォワード操作量に対応する制御信号(フィードフォワード信号)を、ステージ4の移動制御よりも早いタイミングでサーボ弁24へ入力する。この制振FF制御部6eは、「第2制御部」の例示である。
【0085】
また、共振抑制部6fは、ゲインの不足を補うべく、共振周波数成分の除去に前後して、ステージ状態信号(具体的には加速度指令値)のゲインを増大させる。
【0086】
-共振周波数成分の除去に関連した処理-
前述のように、ステージ情報取得部6dは、ステージ4の移動制御に係る情報に基づいたステージ状態信号として、位置指令値と加速度指令値を事前に取得して、共振抑制部6fへと出力する。
【0087】
詳しくは、ステージ情報取得部6dは、ステージコントローラ5から出力される信号(例えば、リニアモータ31へと出力される制御信号)と、ステージ位置センサS4及びステージ推力センサS5の検出結果と、の少なくとも一方を組み合わせて成るステージ制御情報に基づいて、位置指令値と加速度指令値を推定する。
【0088】
共振抑制部6fは、ステージ状態信号としての位置指令値、及び、加速度指令値のうち、位置指令値については素通りさせる(具体的には、ディジタル信号を施さずに出力する)一方、加速度指令値についてはディジタル処理を通じて共振周波数成分を除去した上で出力するように構成されている。
【0089】
詳しくは、共振抑制部6fは、加速度指令値を成す各周波数成分のうち、所定の共振周波数成分を透過させないように構成されたディジタルフィルタを有する。この構成例では、そうしたディジタルフィルタとして、いわゆるノッチフィルタが設けられている。
【0090】
このノッチフィルタは、加速度指令値のうち、共振周波数成分を含んだ帯域については透過させない一方で、それ以外の帯域については透過させるようになっている。
【0091】
図4は、共振周波数成分の除去に関連した処理を例示する図である。
図4の(a)に示すように、共振周波数成分を含んだ三角波状の加速度指令値(破線参照)にノッチフィルタを通過させると、共振周波数成分が除去された結果、
図4(b)に示すような台形状の波形を示す信号(実線参照)が得られる。
【0092】
しかし、
図4(b)から見て取れるように、実線で示す波形のピークは、破線で示す波形のピークよりも、若干、紙面右側へとシフトする。このことは、ノッチフィルタによるディジタル処理の結果、位相に遅れが生じたことを示している。これを受けて、共振抑制部6fは、所定のディジタル処理を施すことで、実線で示した信号のピークの位置を、若干、紙面左側へとシフトさせる(
図4(c)参照)。これにより、位相の遅れが解消される。こうした処理を行うときには時間的な遅れの発生が懸念されるものの、既に説明したように、ステージ状態信号は事前に得られる信号であるから、ステージ状態信号を早いタイミングで得た分だけ、そうした遅れを減殺することができる。
【0093】
また、
図4(b)~(c)から見て取れるように、実線の時間積分は、共振周波数成分を除去したことに起因して、破線の時間積分よりも減少してしまう。このことは、その加速度指令値に対応して実現される速度(特に、ステージ4の速度)が減少することを示している。詳細は省略するが、そうした積分量が減少してしまうと、サーボ弁24を介して除振台1へと付与される制御力もまた減少することになる。このことは、除振台1側で行われるフィードフォワード制御の性能を確保する上で望ましくない。
【0094】
そこで、共振抑制部6fは、所定のディジタル処理を施すことで、実線で示した信号のピークの高さ、つまり、当該信号のゲインを増大させる(
図4(d)参照)。これにより、除振台1に対して成されるフィードフォワード制御の性能を確保する上で有利になる。
【0095】
-制振フィードフォワード操作量の演算方法-
以下、制振フィードフォワード操作量の演算方法を具体的に説明する。
【0096】
説明の便宜のために、ステージ4に一定の加速度aが付与されていて、
図1に矢印で示すようにステージ4がx軸上を直線運動する場合について考えると、まず、ステージ4の基準位置からの移動距離Δxは、前述の位置指令値と実質的に一致する。こうしてステージ4が移動すると、除振対象物である除振台1全体の重心位置がx軸方向に変化し、空気ばねユニット2,2,…への静的な荷重の配分が変化する。このことは、ステージ4の質量(正確には、ステージ4の質量と搭載物Sの質量の和)をm、重力加速度をgとして、除振対象物の重心を通るy軸の周りに図の時計回りの向き(θ方向)に回転力 N1=m・g・Δx が発生する、ということに等しい。
【0097】
そこで、空気ばねの内圧を制御して、前述の回転力N1と同じ大きさで反対向き(-θ)の回転力を発生させれば、ステージ4の移動に伴う空気ばねユニット2,2,…への荷重配分の変化に見合うように、それらの空気ばねの内圧を制御して、除振対象物である除振台1の傾き(変位)を抑制し、これに伴う揺れを抑えることができる。図の例では、右側の空気ばねの内圧を高める一方、左側では内圧を低下させることになるが、実際には個々の空気ばねにおける内圧の制御量は、それらの配置(除振対象物の重心を基準とする位置)に応じて幾何学的に特定される。
【0098】
また、前述のようにステージ4に一定の加速度aが付与されているときには、このステージ4の移動に伴う反力 F=-m・a が装置本体3を介して除振台1に作用することになる。この反力Fの作用線は、略水平であって、且つ除振対象物の重心を通っていないので、この作用線と重心との上下方向の距離をhとすれば、y軸周りには回転力 N2=-m・a・h が発生することになる。上下方向の距離hは、予め実測してもよい。ステージ4が水平方向に移動することを考慮すると、上下方向の距離hは略一定に保たれる。
【0099】
反力Fによって生じる回転力N2を受け止めるには、前述の回転力N1と同様に、上下方向の空気ばねの内圧を制御して、回転力N2と同じ大きさで反対向きの回転力を発生させればよい。ここで回転力N2の向きは回転力N1とは反対向き(-θ)になっているから、一般に空気ばねユニット2(サーボ弁24)への制御入力Uとそれが発生する力Faとの間に下式(1)に示す関係があることを考慮すれば、操作量Uθは以下の式(2)で表される。
【0100】
【0101】
【0102】
ここで、式(1)~(2)においてKv、Tv、Amは、それぞれサーボ弁24のゲイン、時定数、空気ばねの受圧面積を表している。
【0103】
また、水平方向にも空気ばねを設けている場合は、これによりステージ4が受ける反力Fと同じ大きさで反対向き(-x方向)の力を発生させることが望ましく、水平方向の空気ばねに対する操作量Uxは、下式(3)で表される。
【0104】
【0105】
なお、操作量Uθ、Uxは、前述のように個々の空気ばねの配置に応じて求められる所定の変換式により、それら個々の空気ばねに対する操作量に変換される。制振FF制御部6eは、移動距離Δxとして、ステージ位置センサS4の出力等に基づき推定された位置指令値を用いる一方、加速度aとして、ステージ推力センサS5の出力等に基づき推定された加速度指令値から共振周波数成分を除去したものを用いることにより、操作量Uθ、Uxを演算する。
【0106】
-アクティブ除振装置の作動-
そして、この構成例では、前記のように求めた制振フィードフォワード操作量に基づく空気ばねの内圧の制御を、前述のように、ステージ4の移動制御よりも早いタイミングで実行するようになっている。
【0107】
すなわち、搭載装置Dにおいてステージ4の移動制御が行われるときには、まず、その移動制御に関連した制御信号がステージコントローラ5から出力され、コントローラ6に入力される。これを受けて、コントローラ6のステージ情報取得部6dは、ステージ4の移動制御が実際に行われるよりも早いタイミングで、ステージ状態信号としての位置指令値と加速度指令値を推定演算して、共振抑制部6fへ送る。共振抑制部6fは、位置指令値についてはディジタル処理を施さずに制振FF制御部6eへと送る一方、加速度指令値に対して共振周波数成分の除去等を含んで成るディジタル処理を施した上で制振FF制御部6eへと送る。これを受けて、制振FF制御部6eは、前述の如く、空気ばねの内圧を制御するための操作量Uθ、Uxを求める。
【0108】
そして、ステージ4の移動制御に先立ってステージコントローラ5からタイミング信号が出力されると、これを受けた制振FF制御部6eは、前述のようにして求めた操作量Uθ、Uxを、空気ばねの制御における時間遅れの分、ステージ4の制御よりも早いタイミングでサーボ弁24へ出力する。ステージ4の移動に伴って、搭載装置Dを介して除振台1が揺れようとするときに、除振台1に対して適切な制御力を付与して、その揺れを十分に抑制することできる。そして、それでも発生する僅かな揺れは、除振FB制御部6a及び制振FB制御部6bによる加速度及び変位のフィードバック制御によって減殺されることになる。また、除振台1に対して付与した制御力に起因して生じ得る共振については、共振抑制部6fによって、その発生が抑制される。
【0109】
図5は、加速度指令値と、そこから共振周波数成分を除去してゲインを増大させた後の信号とを比較して示す図である。具体的に、
図5は、共振抑制部6fにおいてディジタル処理を施す前の加速度指令値(破線)と、共振周波数成分の除去やゲインの増大等のディジタル処理を施した後の加速度指令値(実線)とを比較して示している。
【0110】
また、
図6は、ステージ4の位置の目標値と実測値との差(位置偏差)を例示する図である。具体的に、
図6は、
図5に示す加速度指令値に基づいて演算した制振フィードフォワード操作量を用いたときの、制振フィードフォワード制御による揺れの抑制効果を示している。
【0111】
なお、
図6において、短破線は、制振フィードフォワード制御を行わない場合(水平変位MFFなし)の位置偏差の推移を示しており、長破線は、制振フィードフォワード制御を行うものの、共振周波数成分を除去する前の加速度指令値(
図5の破線に示す加速度指令値)を用いた場合(水平変位MFFあり)の位置偏差の推移を示しており、実線は、制振フィードフォワード制御を行いかつ共振周波数成分を除去した後の加速度指令値(
図5の実線に示す加速度指令値)を用いた場合(水平変位trajectory_filter)の位置偏差の推移を示している。また、1点鎖線は、ステージ4を移動させる際の速度(Theoretical speed)の理論値を示している。
【0112】
図6の囲み部Rに示すように、制振フィードフォワード制御を行ったときには、それを行わないときと比較して、位置偏差は早めに収束する。しかし、共振周波数成分を除去する前の加速度指令値を用いた場合、
図6の長破線に示すように、共振周波数成分に起因した周期的な変動が残存することになる。対して、
図6の実線に示すように、共振周波数成分を除去した後の加速度指令値を用いた場合、そうした周期的な変動が取り除かれ、他の構成よりも早いタイミングでゼロへと収束する(つまり、相対的に整定が速い)ことが見て取れよう。
【0113】
-まとめ-
以上説明したように、ステージ状態信号としての加速度指令値から共振周波数成分を除去した結果、同信号に位相の遅れが生じたとしても、それに起因した時間的な遅れは、ステージ情報取得部6dがステージ状態信号を事前のタイミングで取得したことによって減殺される。これにより、時間的な遅れを招くことなく、ステージ4に関連した共振の発生を抑制することができる。
【0114】
また、
図2~
図3に示すように、ステージ4側の制御ループと、除振台1側の制御ループとは相互に独立しているため、除振台1側の制御ループにおいて共振周波数成分を除去したとしても、ステージ4側では位相の遅れは生じない。このことは、ステージ4に対して成される移動制御の性能を確保する上で有効である。
【0115】
また、共振周波数成分が除去された加速度指令値に対して、同信号のゲインを補うための信号処理を追加したとしても、前記と同様の事情から、それに起因した時間的な遅れが減殺されて、除振台1のフィードフォワード制御を早めに行うことが可能となる。その結果、ステージ4の移動制御ばかりでなく、除振台1に対して成されるフィードフォワード制御の性能を確保する上でも有利になる。
【0116】
また一般に、ノッチフィルタは、バンドエリミネーションフィルタと比較して阻止可能な帯域が狭い。よって、ノッチフィルタを用いることで、共振周波数成分をピンポイントで除去することが可能になる。
【0117】
《第2の実施形態》
次に、本開示の第2の実施形態について説明する。以下の説明において、第1の実施形態と同様に構成された部分については、同一の符号を付すとともに、その説明を適宜、省略する。
【0118】
図7は、アクティブ除振装置の第2の実施形態を示す
図3対応図である。同図に示すように、この第2の実施形態に係る制振FF制御部6e’は、第1の実施形態と比較して、共振抑制部6f’との相対位置関係が変更されており、共振抑制部6f’からの出力を受けるのではなく、ステージ情報取得部6dから出力されたステージ状態信号を直に受けるようになっている。
【0119】
詳しくは、第2の実施形態に係る制振FF制御部6e’は、ステージ情報取得部6dによって取得されたステージ状態信号に基づいて、ステージ4の移動に伴って除振台1に生じる振動に見合う制御力となるよう、サーボ弁24をフィードフォワード制御するためのフィードフォワード信号を出力する。
【0120】
また、第2の実施形態に係る共振抑制部6f’は、制振FF制御部6e’から出力されたフィードフォワード信号が入力されるとともに、該フィードフォワード信号から、ステージ4に係る共振の共振周波数成分を除去した上でサーボ弁24へと出力するよう構成されている。
【0121】
これにより、フィードフォワード信号から共振周波数成分を除去した結果、同信号に位相の遅れが生じたとしても、それに起因した時間的な遅れは、ステージ情報取得部6dがステージ状態信号を事前のタイミングで取得したことによって減殺される。これにより、除振台1のフィードフォワード制御を早めに行うことが可能となる。その結果、時間的な遅れを招くことなく、ステージ4に関連した共振の発生を抑制することができる。
【0122】
《ステージに関連した制御の変形例》
前記第1の実施形態では、ステージ推力センサS5による検出結果に基づいて、ステージ4に生じる推力を推定するように構成されていたが、そうした構成には限られない。例えば
図8に示すように、ステージ加速度センサS6を用いた構成としてもよい。この場合、ステージ振動推定部5cは、ステージ推力センサS5及びステージ加速度センサS6からの出力される信号の少なくとも一方に基づいて、ステージ4に生じる振動を推定することができる。
【0123】
また、ステージ振動推定部5c、ステージ推力センサS5及びステージ加速度センサS6は、共振周波数成分の同定に用いることができる。その場合、ステージ加速度センサS6を除振台1上に配置された各部(ボールネジ機構、ステージ4、搭載物S等)に取り付けることで、より精密な同定を行うことが可能となる。
【0124】
《他の実施形態》
前記実施形態では、除振台1用のアクチュエータとしてサーボ弁24を例示したが、この構成には限られない。例えば、サーボ弁24の代わりにリニアモータを用いてもよい。
【0125】
また、前記実施形態では、ステージ情報取得部6d及び制振FF制御部6eは、双方ともコントローラ6の一部とされていたが、この構成には限られない。ステージ情報取得部6d及び制振FF制御部6eのうちの少なくとも一方をステージコントローラ5の一部としてもよい。
【0126】
また、共振抑制部6fが有するノッチフィルタは1つに限られない。複数のノッチフィルタを用いてもよい。その場合、複数の共振周波数成分に対応させた構成とすることが可能となる。
【0127】
また、共振周波数成分の除去と、ピーク位置の調整やゲインの増大等を行う順番については、
図4に示したものに限られず、適宜、変更することができる。
【0128】
また、共振抑制部6fは、ノッチフィルタに代えて、ローパスフィルタ等、他のディジタルフィルタを備えた構成としてもよい。共振抑制部6fの構成は、適宜、変更可能である。例えば、ゲインの増大を行うディジタルフィルタについては、共振抑制部6fではなく、ステージ情報取得部6dに設けたり、制振動FF制御部6eに設けたりしてもよい。
【符号の説明】
【0129】
A アクティブ除振装置
D 搭載装置
S 搭載物
1 除振台
2 空気ばねユニット
3 搭載装置の本体
4 ステージ
5 ステージコントローラ(第1制御部)
6 コントローラ
6d ステージ情報取得部
6e 制振FF制御部(第2制御部)
6f 共振抑制部
24 サーボ弁(第2アクチュエータ)
31 リニアモータ(第1アクチュエータ)