(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】ムーブメントおよび時計
(51)【国際特許分類】
G04B 11/02 20060101AFI20220214BHJP
【FI】
G04B11/02
(21)【出願番号】P 2018011773
(22)【出願日】2018-01-26
【審査請求日】2020-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】荒川 康弘
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】実公昭40-28865(JP,Y1)
【文献】実開昭54-181970(JP,U)
【文献】米国特許第1909998(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸線回りに回転可能であって、ぜんまいを巻き上げ可能に設けられた角穴車と、
第2軸線回りに回転可能に設けられ、前記角穴車に噛み合う爪部を有するこはぜと、
を備え、
前記爪部と前記角穴車との接触部は、前記こはぜおよび前記角穴車の中心線よりも、前記ぜんまいの巻き上げ時における前記角穴車の第1回転方向の下流側に位置し、
前記爪部の表面は、前記接触部において前記第1回転方向の下流側に向いて
おり、
前記接触部における法線は、前記第2軸線の軸線方向から見て、前記第2軸線を通る、
ことを特徴とするムーブメント。
【請求項2】
前記爪部は、前記接触部を含み前記第2軸線の軸線方向から見て前記第2軸線を中心とする円弧状に延びる接触面を有する、
ことを特徴とする請求項
1に記載のムーブメント。
【請求項3】
前記こはぜに係合し、前記爪部を前記角穴車に向けて付勢する付勢部材をさらに備え、
前記付勢部材は、前記第2軸線の軸線方向から見て、少なくとも一部が前記こはぜに重なるように設けられている、
ことを特徴とする請求項1
または請求項2に記載のムーブメント。
【請求項4】
前記付勢部材は、先端部において前記こはぜに係合する片持ち梁であって、中間部が基端部および先端部よりも前記第2軸線から離れた位置に設けられている、
ことを特徴とする請求項
3に記載のムーブメント。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載のムーブメントを備えることを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ムーブメントおよび時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機械式時計のムーブメントは、動力ぜんまいが収容された香箱車と、ぜんまいを巻き上げる角穴車と、角穴車を回転させる巻上輪列と、を備えている。角穴車には、巻き上げたぜんまいの巻き解けを防止するために、角穴車の逆転を規制するこはぜが係合する。例えば、特許文献1には、板材により形成され、一端をこはぜとして用いる規制レバーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、規制レバーが角穴車を径方向に跨ぐように設けられているので、規制レバーを配置するスペースが角穴車と重なる位置に必要となる。このため、ムーブメントが角穴車の厚み方向に大型化する。さらに、特許文献1に記載の技術では、こはぜの姿勢を維持するための構造も必要となるので、ムーブメントが平面的にも大型化するおそれがある。したがって、従来技術にあっては、ムーブメント、およびそのムーブメントを備える時計を小型化するという課題がある。
【0005】
そこで本発明は、小型化が可能なムーブメントおよび時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のムーブメントは、第1軸線回りに回転可能であって、ぜんまいを巻き上げ可能に設けられた角穴車と、第2軸線回りに回転可能に設けられ、前記角穴車に噛み合う爪部を有するこはぜと、を備え、前記爪部と前記角穴車との接触部は、前記こはぜおよび前記角穴車の中心線よりも、前記ぜんまいの巻き上げ時における前記角穴車の第1回転方向の下流側に位置し、前記爪部の表面は、前記接触部において前記第1回転方向の下流側に向いており、前記接触部における法線は、前記第2軸線の軸線方向から見て、前記第2軸線を通る、ことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、ぜんまいの巻き解けによって第1回転方向とは反対方向のトルクが角穴車に作用した際に、こはぜおよび角穴車の中心線よりも第1回転方向の下流側の位置において、角穴車がこはぜの爪部に対して第1回転方向の下流側から接触する。このため、こはぜの爪部は、角穴車の第1回転方向への回転を規制するように角穴車を突っ張る。これにより、他の部材を用いることなく爪部の姿勢を維持しつつ、角穴車の回転を規制できる。よって、爪部の寸法を小型化しても、こはぜを角穴車の第1回転方向とは反対方向への回転を規制する部材として機能させることができる。したがって、従来技術のような規制レバーの一部をこはぜとして用いる場合と比較して小型化が可能なムーブメントを提供できる。
【0009】
さらに、接触部において爪部に作用する角穴車からの力のうち法線方向の分力は、第2軸線に向かって作用するので、こはぜの爪部が第2軸線回りに回転して角穴車に対してずれることを抑制できる。したがって、角穴車がこはぜの爪部によって確実に突っ張られ、角穴車の第1回転方向とは反対方向への回転を確実に規制することができる。
【0010】
上記のムーブメントにおいて、前記爪部は、前記接触部を含み前記第2軸線の軸線方向から見て前記第2軸線を中心とする円弧状に延びる接触面を有する、ことが望ましい。
【0011】
本発明によれば、角穴車が爪部の接触面のいずれの位置に接触した場合であっても、爪部に作用する角穴車からの力のうち法線方向の分力が第2軸線に向かって作用する。したがって、こはぜおよび角穴車の相対位置の位置ずれ等の伴う接触部の位置ずれを許容することが可能となる。
【0012】
上記のムーブメントにおいて、前記こはぜに係合し、前記爪部を前記角穴車に向けて付勢する付勢部材をさらに備え、前記付勢部材は、前記第2軸線の軸線方向から見て、少なくとも一部が前記こはぜに重なるように設けられている、ことが望ましい。
【0013】
本発明によれば、付勢部材全体が表裏方向から見てこはぜと並んで設けられた場合と比較して、こはぜおよび付勢部材が配置されるスペースを小さくすることができる。したがって、ムーブメントをより小型化することができる。
【0014】
上記のムーブメントにおいて、前記付勢部材は、先端部において前記こはぜに係合する片持ち梁であって、中間部が基端部および先端部よりも前記第2軸線から離れた位置に設けられている、ことが望ましい。
【0015】
本発明によれば、第2軸線を基準とした付勢部材の最大外径が大きくなることを抑制しつつ、片持ち梁の長さを確保できる。したがって、付勢部材の小型化、および付勢部材の付勢力の設計自由度の向上を両立できる。
【0016】
本発明の時計は、上記のムーブメントを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、小型化が可能なムーブメントを備えるので、時計を小型化することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、小型化が可能なムーブメントおよび時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】実施形態のムーブメントを表側から見た平面図である。
【
図3】
図2のIII-III線における断面図である。
【
図4】実施形態のムーブメントの要部を表側から見た平面図である。
【
図6】実施形態のムーブメントの動作を説明する図である。
【
図7】実施形態のムーブメントの動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0021】
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側(文字板のある方の側)をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側(文字板と反対の側)をムーブメントの「表側」と称する。なお、以下で説明する各車は、いずれもムーブメントの表裏面方向を回転軸線方向として設けられている。
【0022】
図1は、実施形態の時計の外観図である。
図1に示すように、本実施形態の時計1のコンプリートは、図示しないケース裏蓋及びガラス2からなる時計ケース3内に、ムーブメント10と、少なくとも時に関する情報を示す目盛り等を有する文字板4と、時を示す時針5、分を示す分針6、及び秒を示す秒針7を含む指針と、を備えている。時計1は、いわゆる自動巻き式の腕時計であって、回転錘(不図示)をユーザーの動きにより回転させることで、自動巻輪列を介して時計1の動力源であるぜんまい23(
図3参照)が巻き上げられる。また、時計1は、手動によってもぜんまい23の巻き上げが可能となっており、りゅうず8を回転させることで、手動巻輪列を介してぜんまい23が巻き上げられる。
【0023】
図2は、実施形態のムーブメントを表側から見た平面図である。
図3は、
図2のIII-III線における断面図である。
図2および
図3に示すように、ムーブメント10は、地板11と、地板11よりも表側に配置された香箱受12と、ぜんまい23が収納された香箱車20と、ぜんまい23を巻き上げ可能に設けられた角穴車30と、角穴車30に噛み合う爪部42を有するこはぜ40と、こはぜ40に係合するこはぜばね50(付勢部材)と、を備えている。なお、ムーブメント10は、香箱車20や図示しない二番車、三番車、四番車等を含む表輪列、およびてんぷやがんぎ車、アンクル等を含む脱進・調速機構を備えているが、詳細な説明は省略する。
【0024】
図3に示すように、香箱車20は、香箱真21と、香箱真21に取り付けられた香箱22と、香箱22に収容されたぜんまい23と、を有している。香箱真21は、地板11と、香箱受12と、により第1軸線O回りに回転可能に支持されている。香箱22は、香箱真21に回転可能に支持されている。ぜんまい23の内側端部は、香箱真21に接続されている。ぜんまい23の外側端部は、香箱22の内周面に接続されている。ぜんまい23は、香箱真21が回転することで、巻き上げられる。香箱22は、ぜんまい23が巻き解ける際の復元力により回転し、表輪列を駆動する。
【0025】
角穴車30は、香箱車20と同軸上に配置されている。角穴車30は、香箱真21のうち、香箱22と香箱受12との間に位置する部分に固定されている。角穴車30は、第1軸線O回りの第1回転方向D1(
図4参照)に香箱真21と一体で回転することにより、香箱22に収容されたぜんまい23を巻き上げる。角穴車30には、ぜんまい23が巻き解ける際の復元力により、第1回転方向D1とは反対の第2回転方向D2のトルクが作用している。角穴車30の外周部には、歯31が形成されている。角穴車30には、自動巻輪列または手動巻輪列が有する歯車(例えば丸穴車)が噛み合っている。
【0026】
こはぜ40は、表裏方向から見て角穴車30と重ならないように配置されている。こはぜ40は、香箱受12により第2軸線P回りに回転可能に支持されている。具体的に、こはぜ40は、香箱受12から表側に立設された円筒状の支持筒13に外挿されている。支持筒13の表側の端部は、支持筒13のうちこはぜ40が外挿された部分よりも小径に形成されている。支持筒13の表側の端部には、ブッシュ14が外挿されている。ブッシュ14は、支持筒13の段差面と、支持筒13に表側から螺入されたねじ15の座面と、により挟持されている。ブッシュ14の裏側の端部には、径方向の外側に向かって張り出すフランジ14aが設けられている。フランジ14aの外径は、支持筒13のうちこはぜ40が外挿された部分よりも大径に形成されている。ブッシュ14のうちフランジ14aよりも表側の部分の外径は、ねじ15の頭の外径よりも小さい。こはぜ40は、香箱受12と、ブッシュ14のフランジ14aと、の間で縦アガキを含む状態で支持筒13に支持されている。なお、縦アガキとは、軸に対するスラスト方向の遊びである。
【0027】
図4は、実施形態のムーブメントの要部を表側から見た平面図である。
図4に示すように、こはぜ40は、支持筒13(
図3参照)に外挿された円環状の基部41と、基部41から第2軸線Pに直交する方向に延びる爪部42、操作部43および被付勢レバー44と、被付勢レバー44に設けられたピン45と、を備えている。爪部42は、角穴車30に向かって延びている。爪部42は、接触部60において角穴車30に接触している。爪部42と角穴車30との接触部60は、こはぜ40および角穴車30の中心線Cよりも、第1回転方向D1の下流側に位置している。なお、こはぜ40および角穴車30の中心線Cは、表裏方向から見て、こはぜ40の中心(第2軸線P)と角穴車30の中心(第1軸線O)とを結ぶ線分である。
【0028】
爪部42は、接触部60を含む先端面46(接触面)を有する。爪部42の先端面46は、表裏方向から見て第2軸線Pを中心とする円弧状に延びている。爪部42の先端面46は、第1回転方向D1の下流側に向いている。爪部42の先端面46には、角穴車30の歯面32が第1回転方向D1の下流側から当接している。なお、以下の説明では、第2軸線P回りの周方向のうち、爪部42の先端が中心線Cに近付く方向を係合方向と称する。
【0029】
操作部43は、こはぜ40を手動で回動させる際に操作するレバー状の部位である。操作部43は、爪部42とは異なる位置に設けられている。本実施形態では、操作部43は、第2軸線Pを挟んで爪部42とは反対側に設けられている。なお、
図2に示すように、香箱受12には、表裏方向から見て操作部43の先端と重なる位置において、操作部43を避けるように形成された避け部12aが形成されている。本実施形態では、避け部12aは、香箱受12を表裏方向に貫通する貫通孔である。避け部12aは、こはぜ40を手動で回動させる際に、操作部43を操作する工具と香箱受12とが接触することを避けるためのスペースとなる。
【0030】
図4に示すように、被付勢レバー44は、爪部42および操作部43とは異なる位置に設けられている。本実施形態では、被付勢レバー44は、表裏方向から見て、操作部43と中心線Cとの間であって中心線Cを挟んで爪部42とは反対側に設けられている。
【0031】
図5は、
図2のV-V線における断面図である。
図5に示すように、被付勢レバー44には、ピン45が挿入されるピン挿入部44aが形成されている。ピン挿入部44aは、表裏方向に貫通する孔である。
【0032】
ピン45は、ピン挿入部44aに表側から挿入されて、被付勢レバー44に固定されている。ピン45は、表裏方向に延びる円柱状に形成されている。ピン45の表側の端部には、径方向外側に向かって張り出す鍔部45aが形成されている。
【0033】
こはぜばね50は、香箱受12の表側に配置されている。こはぜばね50は、こはぜ40を係合方向に付勢する片持ち梁である。こはぜばね50の基端部51は、円環状に形成され、ブッシュ14の表側の端部に外挿されている。こはぜばね50の基端部51は、ブッシュ14のフランジ14aと、ねじ15の座面と、の間で縦アガキを含む状態で、ブッシュ14を介して支持筒13に支持されている。
【0034】
図4に示すように、こはぜばね50は、中間部52が基端部51および先端部53よりも第2軸線Pから離れた位置に設けられるように、U字状に形成されている。本実施形態では、こはぜばね50は、表裏方向から見て、基端部51から直線状に延びた後、中間部52において180°湾曲し、先端部53に向かって直線状に延びている。基端部51と中間部52との間の第1部分54は、中間部52と先端部53との間の第2部分55よりも係合方向の下流側に位置している。第1部分54と第2部分55との間には、こはぜ40のピン45が配置されている。第2部分55は、ピン45に係合方向の上流側から接触している。本実施形態では、先端部53がピン45に接触している。第1部分54は、香箱受12に固定された当接ピン16に、係合方向の下流側から接触している。当接ピン16は、表裏方向から見た第1部分54と第2部分55との間の領域において、香箱受12から表側に立設されている。これにより、こはぜばね50は、香箱受12に対して係合方向とは反対方向への回動が規制されている。そして、こはぜばね50は、香箱受12に対してピン45を係合方向に付勢している。よって、こはぜばね50は、こはぜ40の爪部42を角穴車30に向けて付勢している。
【0035】
ここで、こはぜ40および角穴車30に作用する力について説明する。
図6および
図7は、実施形態のムーブメントの動作を説明する図であって、実施形態のムーブメントの要部を表側から見た平面図である。
図6に示すように、こはぜ40の爪部42と角穴車30との接触部60は、中心線Cよりも第1回転方向D1の下流側に位置している。爪部42の先端面46は、こはぜ40と角穴車30との接触部60において、第1回転方向D1の下流側に向いている。爪部42の先端面46には、角穴車30の歯面32が第1回転方向D1の下流側から接触している。ぜんまい23の巻き解ける際の復元力によって角穴車30が第2回転方向D2のトルクを受けると、爪部42の先端面46には、角穴車30からの力Fが作用する。角穴車30からの力Fは、こはぜ40と角穴車30との接触部60から、第1軸線Oを中心とする円の接線方向に作用する。
【0036】
ここで、爪部42の先端面46は、表裏方向から見て第2軸線Pを中心とする円弧状に延びているので、爪部42の先端面46と角穴車30の歯面32との接触部60における法線Nは、第2軸線Pを通る。よって、爪部42の先端面46に作用する角穴車30からの力Fのうち法線N方向の分力F1は、第2軸線Pに向かって作用する。したがって、こはぜ40の爪部42は、第2軸線P回りに回動せずに角穴車30を突っ張り、角穴車30の第2回転方向D2の回転を規制する。
【0037】
また、こはぜ40の爪部42は、こはぜばね50により角穴車30に向けて付勢されている。このため、爪部42は、角穴車30の複数の歯31のうち、爪部42の先端面46に接触している歯31よりも1つだけ第1回転方向D1の上流側に位置する歯31に、係合方向の上流側から接触している。よって、爪部42は、係合方向への回動が規制され、角穴車30を突っ張った状態を維持する。
【0038】
一方で、
図7に示すように、角穴車30にぜんまい23を巻き上げる際の第1回転方向D1のトルクが作用すると、角穴車30はこはぜばね50の付勢力に抗しつつ、こはぜ40の爪部42を係合方向とは反対方向に回動させる。これにより、角穴車30は、こはぜ40の爪部42に角穴車30の歯31を一つずつ乗り越えさせるようにして、第1回転方向D1に回転する。
【0039】
以上に詳述したように、本実施形態では、こはぜ40の爪部42と角穴車30との接触部60は、こはぜ40および角穴車30の中心線Cよりも第1回転方向D1の下流側に位置し、こはぜ40の爪部42の先端面46は、第1回転方向D1の下流側に向いている構成とした。
この構成によれば、ぜんまい23の巻き解けによって第1回転方向D1とは反対方向(第2回転方向D2)のトルクが角穴車30に作用した際に、中心線Cよりも第1回転方向D1の下流側の位置において、角穴車30がこはぜ40の爪部42に対して第1回転方向D1の下流側から接触する。このため、こはぜ40の爪部42は、角穴車30の第1回転方向D1への回転を規制するように角穴車30を突っ張る。これにより、他の部材を用いることなく爪部42の姿勢を維持しつつ、角穴車30の回転を規制できる。よって、爪部42の寸法を小型化しても、こはぜ40を角穴車30の第1回転方向D1とは反対方向への回転を規制する部材として機能させることができる。したがって、従来技術のような規制レバーの一部をこはぜとして用いる場合と比較して小型化が可能なムーブメント10および時計1を提供できる。
【0040】
また、こはぜ40の爪部42と角穴車30との接触部60における法線Nは、表裏方向から見て、第2軸線Pを通る。この構成によれば、接触部60において爪部42に作用する角穴車30からの力Fのうち法線N方向の分力F1は、第2軸線Pに向かって作用する。このため、こはぜ40の爪部42が第2軸線P回りに回転して角穴車30に対してずれることを抑制できる。したがって、角穴車30がこはぜ40の爪部42によって確実に突っ張られ、角穴車30の第1回転方向D1とは反対方向への回転を確実に規制することができる。
【0041】
また、こはぜ40の爪部42は、接触部60を含み表裏方向から見て第2軸線Pを中心とする円弧状に延びる先端面46を有している。この構成によれば、角穴車30が爪部42の先端面46のいずれの位置に接触した場合であっても、爪部42に作用する角穴車30からの力Fのうち法線N方向の分力F1が第2軸線Pに向かって作用する。したがって、こはぜ40および角穴車30の相対位置の位置ずれ等の伴う接触部60の位置ずれを許容することが可能となる。
【0042】
また、こはぜばね50は、表裏方向から見て、少なくとも一部がこはぜ40に重なるように設けられている。この構成によれば、こはぜばね全体が表裏方向から見てこはぜと並んで設けられた場合と比較して、こはぜ40およびこはぜばね50が配置されるスペースを小さくすることができる。したがって、ムーブメント10をより小型化することができる。
【0043】
また、こはぜばね50は、先端部53においてこはぜ40に係合する片持ち梁であって、中間部52が基端部51および先端部53よりも第2軸線Pから離れた位置に設けられている。この構成によれば、第2軸線Pを基準としたこはぜばね50の最大外径が大きくなることを抑制しつつ、片持ち梁の長さを確保できる。したがって、こはぜばね50の小型化、およびこはぜばね50の付勢力の設計自由度の向上を両立できる。
【0044】
また、こはぜ40は、基部41から延びる操作部43を備え、香箱受12には、表裏方向から見て操作部43の先端と重なるにおいて、操作部43を避けるように形成された避け部12aが形成されている。この構成によれば、こはぜ40を手動で回動させる際に、操作部43を操作する工具と香箱受12とが接触することを避けることができるので、ムーブメント10のメンテナンス時等の作業性を向上させることができる。
【0045】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、こはぜばね50が片持ち梁であるが、これに限定されない。例えば、こはぜばねは、ねじりコイルばねであってもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、爪部42の先端面46と角穴車30の歯面32との接触部60における法線Nが第2軸線Pを通るが、これに限定されない。爪部の先端面と角穴車30の歯面32との接触部における法線は、第1軸線Oと第2軸線Pとの間において中心線Cと交差してもよい。この場合、爪部に作用する角穴車30からの力のうち法線方向の分力は、第2軸線Pに向かう方向に対して係合方向下流側にずれるので、爪部には係合方向へのトルクが作用する。ただし、爪部は、先端面に接触している歯31よりも1つだけ第1回転方向D1の上流側に位置する歯31に係合方向の上流側から接触しているので、係合方向に回動せずに角穴車30を突っ張ることができる。
【0047】
また、爪部の先端面と角穴車30の歯面32との接触部における法線は、中心線Cと交差しなくてもよい。この場合、爪部に作用する角穴車30からの力のうち法線方向の分力は、第2軸線Pに向かう方向に対して係合方向上流側にずれるので、爪部には係合方向とは反対方向へのトルクが作用する。ただし、爪部と角穴車30との接触部における摩擦力を適当に設定することで、爪部が係合方向とは反対方向に回動することを抑制して、角穴車30を突っ張ることができる。
【0048】
また、上記実施形態では、爪部42の先端面46は、表裏方向から見て第2軸線Pを中心とする円弧状に延びているが、これに限定されない。例えば、爪部の先端面は、表裏方向から見て直線状に延びていてもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、こはぜ40のピン45が被付勢レバー44に設けられているが、ピンが設けられる部位は特に限定されない。また、こはぜばねは、被付勢レバー等、ピン以外の部位に係合するように設けられていてもよい。
【0050】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…時計 10…ムーブメント 23…ぜんまい 30…角穴車 40…こはぜ 42…爪部 46…先端面(接触面) 50…こはぜばね(付勢部材) 51…基端部 52…中間部 53…先端部 60…接触部 O…第1軸線 P…第2軸線 D1…第1回転方向 C…中心線 N…法線