(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】深海生物の捕獲装置及び捕獲方法
(51)【国際特許分類】
A01K 79/00 20060101AFI20220214BHJP
【FI】
A01K79/00 Z
(21)【出願番号】P 2018039264
(22)【出願日】2018-03-06
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】502028441
【氏名又は名称】一般財団法人沖縄美ら島財団
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】金子 篤史
(72)【発明者】
【氏名】戸田 実
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】実開平3-105270(JP,U)
【文献】特開2002-153161(JP,A)
【文献】国際公開第2010/145791(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 79/00
A01K 97/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されている捕獲装置
と、
捕獲装置内を挿通した状態で海中に垂らされ、閉塞用パッキングと釣り針が取り付けられた深海生物捕獲用の釣り糸と、
からなる深海生物の捕獲装置であって、
捕獲装置には、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられており、
第1開口部を閉塞用パッキングが、第2開口部を閉塞蓋が、それぞれ塞ぐことで、装置内の水圧を一定に維持した状態で、捕獲に使用した釣り糸を切断された深海生物が装置内を自由に泳いだり動き回ることができる
ことを特徴とする深海生物の捕獲装置。
【請求項2】
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されている捕獲装置
と、
捕獲装置内を挿通した状態で海中に垂らされ、閉塞用パッキングと釣り針が取り付けられた深海生物捕獲用の釣り糸と、
からなる深海生物の捕獲装置であって、
捕獲装置には、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられ、
前記の閉塞蓋は、密閉度を高めるためのパッキング素材が第2開口部に当たる部分を除いて接着され、
第1開口部を閉塞用パッキングが、第2開口部を閉塞蓋が、それぞれ塞ぐことで、装置内の水圧を一定に維持した状態で密閉でき、捕獲に使用した釣り糸を切断された深海生物が装置内を自由に泳いだり動き回ることができる
ことを特徴とする深海生物の捕獲装置。
【請求項3】
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されている捕獲装置
と、
捕獲装置内を挿通した状態で海中に垂らされ、閉塞用パッキングと釣り針が取り付けられた深海生物捕獲用の釣り糸と、
からなる深海生物の捕獲装置であって、
捕獲装置には、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられ、
前記の閉塞蓋は、密閉度を高めるためのパッキング素材が第2開口部に当たる部分を除いて接着され、
捕獲装置の側面には、捕獲装置の姿勢保持のためのヒレが設けられており、
第1開口部を閉塞用パッキングが、第2開口部を閉塞蓋が、それぞれ塞ぐことで、水中でも捕獲装置が安定した姿勢のまま、装置内の水圧を一定に維持した状態で密閉でき、捕獲に使用した釣り糸を切断された深海生物が装置内を自由に泳いだり動き回ることができる
ことを特徴とする深海生物の捕獲装置。
【請求項4】
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されている捕獲装置
と、
捕獲装置内を挿通した状態で海中に垂らされ、閉塞用パッキングと釣り針が取り付けられた深海生物捕獲用の釣り糸と、
からなる深海生物の捕獲装置であって、
捕獲装置には、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられ、
深海生物を捕獲するための釣り糸が、捕獲装置内を第1開口部から第2開口部に向かって挿通した状態で、その先端に閉塞用パッキング、餌かご、錘、釣針を取り付けられていることで、
深海生物を捕獲した釣り糸を第1開口部側に引いて、第1開口部を閉塞用パッキングが、第2開口部を閉塞蓋が、それぞれ塞ぎ、装置内の水圧を一定に維持した状態で、捕獲に使用した釣り糸を切断された深海生物が装置内を自由に泳いだり動き回ることができる
ことを特徴とする深海生物の捕獲装置。
【請求項5】
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されている捕獲装置
と、
捕獲装置内を挿通した状態で海中に垂らされ、閉塞用パッキングと釣り針が取り付けられた深海生物捕獲用の釣り糸と、
からなる深海生物の捕獲装置であって、
捕獲装置には、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられ、
前記の閉塞蓋は、密閉度を高めるためのパッキング素材が第2開口部に当たる部分を除いて接着され、
深海生物を捕獲するための釣り糸が、捕獲装置内を第1開口部から第2開口部に向かって挿通した状態で、その先端に閉塞用パッキング、餌かご、錘、釣針を取り付けられていることで、
深海生物を捕獲した釣り糸を第1開口部側に引いて、第1開口部を閉塞用パッキングが、第2開口部を閉塞蓋が、それぞれ塞ぎ、装置内の水圧を一定に維持した状態で密閉でき、捕獲に使用した釣り糸を切断された深海生物が装置内を自由に泳いだり動き回ることができる
ことを特徴とする深海生物の捕獲装置。
【請求項6】
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されている捕獲装置
と、
捕獲装置内を挿通した状態で海中に垂らされ、閉塞用パッキングと釣り針が取り付けられた深海生物捕獲用の釣り糸と、
からなる深海生物の捕獲装置であって、
捕獲装置には、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられ、
前記の閉塞蓋は、密閉度を高めるためのパッキング素材が第2開口部に当たる部分を除いて接着され、
捕獲装置の側面には、捕獲装置の姿勢保持のためのヒレが設けられており、
深海生物を捕獲するための釣り糸が、捕獲装置内を第1開口部から第2開口部に向かって挿通した状態で、その先端に閉塞用パッキング、餌かご、錘、釣針を取り付けられていることで、
深海生物を捕獲した釣り糸を第1開口部側に引いて、第1開口部を閉塞用パッキングが、第2開口部を閉塞蓋が、それぞれ塞ぎ、水中でも捕獲装置が安定した姿勢のまま、装置内の水圧を一定に維持した状態で密閉でき、捕獲に使用した釣り糸を切断された深海生物が装置内を自由に泳いだり動き回ることができる
ことを特徴とする深海生物の捕獲装置。
【請求項7】
先端に向かって、閉塞用パッキング、餌かご、錘、釣針が取り付けられた釣り糸を、
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されており、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられた捕獲装置の第1開口部から第2開口部に向かって挿通させた状態で海中に垂らし、
深海生物が釣れたら、捕獲装置を海中に沈めた状態で、閉塞用パッキングが第1開口部を塞ぐまで釣り糸を引いて深海生物を捕獲装置内に収容し、
深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から閉塞蓋が第2開口部を閉塞したら、餌かごと錘と深海生物に刺さった釣針との間の釣り糸を切断することで、
深海生物を捕獲装置内を自由に泳いだり動き回れる状態にして捕獲する
ことを特徴とする深海生物の捕獲方法。
【請求項8】
先端に向かって、閉塞用パッキング、餌かご、錘、釣針が取り付けられた釣り糸を、
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されており、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられ、
密閉度を高めるためのパッキング素材が第2開口部に当たる部分を除いて閉塞蓋に接着された捕獲装置に、その第1開口部から第2開口部に向かって挿通させた状態で海中に垂らし、
深海生物が釣れたら、捕獲装置を海中に沈めた状態で、閉塞用パッキングが第1開口部を塞ぐまで釣り糸を引いて深海生物を捕獲装置内に収容し、
深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から閉塞蓋が第2開口部を閉塞したら、餌かごと錘と深海生物に刺さった釣針との間の釣り糸を切断することで、
深海生物を捕獲装置内を自由に泳いだり動き回れる状態にして捕獲する
ことを特徴とする深海生物の捕獲方法。
【請求項9】
先端に向かって、閉塞用パッキング、餌かご、錘、釣針が取り付けられた釣り糸を、
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されており、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
捕獲装置の側面には、捕獲装置の姿勢保持のためのヒレと、
が設けられ、
密閉度を高めるためのパッキング素材が第2開口部に当たる部分を除いて閉塞蓋に接着された捕獲装置に、その第1開口部から第2開口部に向かって挿通させた状態で海中に垂らし、
深海生物が釣れたら、捕獲装置を海中に沈めた状態で、閉塞用パッキングが第1開口部を塞ぐまで釣り糸を引いて深海生物を捕獲装置内に収容し、
深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から閉塞蓋が第2開口部を閉塞したら、餌かごと錘と深海生物に刺さった釣針との間の釣り糸を切断することで、
深海生物を捕獲装置内を自由に泳いだり動き回れる状態にして捕獲する
ことを特徴とする深海生物の捕獲方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海中に沈めた状態のまま、深海で捕獲した深海生物を装置内に収容することができる捕獲装置であり、海中から一度も引き上げることなく海中で深海生物を捕獲する捕獲方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの深海生物が捕獲され、地上で飼育されるようになったが、深海生物は、海水に引き上げられるときに重篤な減圧症を発症しやすいため、せっかく捕獲しても飼育するに至らず、斃死してしまうことが多い。
また、海水表面の水温は、深海生物が暮らす深海より高いが、この高水温は深海生物に深刻なダメージを与えるため、深海生物の捕獲を難しくさせる原因の1つになっている。
そこで、水温が低い海中に捕獲装置を沈めた状態で、捕獲した深海生物を装置内に収容し、装置内を加圧した状態のまま深海生物を地上に引き上げる方法が求められていた。
【0003】
例えば、特許文献1には、洋上へ引上げる回収用船舶からの吊下げケーブルにより深海へ沈降される耐圧容器と、上記耐圧容器の生物捕獲口に開閉可能に取付けられた耐圧蓋及びその開閉装置と、上記耐圧容器内に設置された巻込みリールに巻装され上記捕獲口に向け付勢された釣り糸及びその先端の釣針と、上記耐圧蓋に取付けられその閉鎖中は上記釣針の飛び出しを停止させるストッパーと、上記リールに関係的に設けられた巻込み用センサーと、上記耐圧容器壁に設けられ回収時に上記回収用船舶からの高圧水を導入する高圧水導入口とを具えたことを特徴とする深海生物捕獲兼移送装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記文献の深海生物捕獲兼移送装置は、先端に釣針が取り付けられた釣り糸が、耐圧容器内に設置された巻込みリールに巻かれた状態で設けられているため、釣った深海生物は、釣り糸に繋がれた状態のまま容器内に収容され、装置ごと移送されることになる。
しかし、深海生物は、様々な種類がいて、環境変化に敏感な個体もあるため、容器内に収容したあとは、釣り糸から解放することが望ましい。
【0006】
そこで、本出願に係る発明は、上記課題に鑑み、釣り糸で釣った深海生物を、海中で装置内に収容したあと、装置内の深海生物が咥えている釣り糸を切断することで、深海生物が装置内を自由に泳いだり動き回ることができるようにした捕獲装置と、この捕獲装置を使い、海中から一度も引き上げることなく海中で深海生物を捕獲できる捕獲方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されている捕獲装置に、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられており、
第1開口部を閉塞用パッキングが、第2開口部を閉塞蓋が、それぞれ塞ぐことで、装置内の水圧を一定に維持した状態で、捕獲に使用した釣り糸を切断された深海生物が装置内を自由に泳いだり動き回ることができる
ことを特徴とする深海生物の捕獲装置である。
【0008】
本出願に係る発明の捕獲装置は、装置内に海水を送り込んで加圧するための加圧ホースと、装置内の海水を換水するための排水ホースが取り付けられる。
また、本出願に係る発明の捕獲装置は、換水のための動力源(ポンプなど)、装置内に送り込む海水を冷やすための冷却装置、換水する海水の濾過装置、海水に酸素を供給する装置などを取り付けることができ、これらの装置は、船上に設置できる。
このような構成または機能を備えた捕獲装置を使えば、捕獲装置を海中に沈めた状態のまま深海生物を捕獲でき、捕獲後に装置内を加圧することで、捕獲した深海生物が減圧症を発症しないように一定の水圧に保ったまま、深海生物を陸上に引き上げて陸上の加圧水槽に移すことができる。
そして、捕獲した深海生物を陸上の加圧水槽に移すときは、捕獲装置内の水圧を低くすれば、加圧水槽の水圧によって閉塞蓋が開き、深海生物を加圧水槽に移すことができる。
【0009】
しかし、捕獲装置を海中に沈めた状態のまま、深海生物を捕獲し、捕獲後に、捕獲装置を海中に沈めた状態のまま、捕獲装置内を加圧することは、それほど簡単なことではない。
つまり、深海生物を装置内に収容するための開口部と、深海生物を装置内に収容した後に開口部を塞ぐ機構が必要であり、さらに装置内に海水を送り込んで加圧しても装置外に海水が排水されないように開口部が密閉される必要がある。
そのうえで、装置内に収容した深海生物にできるだけストレスを与えないように、捕獲する際に使用した釣り糸を、深海生物から切断する機構を備える必要がある。
釣り糸(ハリスと幹糸)を切断しない場合、捕獲した深海生物が捕獲装置内で暴れて衰弱するおそれがあり、せっかく捕獲しても死んでしまう危険が高いからである。
【0010】
そこで、本出願に係る発明の捕獲装置は、深海生物を捕獲するための釣り糸を、装置内を挿通させ、そのための開口部(第1・第2)を設けたうえで、それぞれの開口部を密閉できるようにした。
具体的には、第2開口部は、深海生物を装置内に収容するために大きく開口しているが、これを閉塞するための閉塞蓋を備えることで、閉塞蓋が第2開口部を閉塞できるようにした。
また、第1開口部は、深海生物を捕獲すると、釣り糸を引き上げて深海生物を装置内に収容するが、その釣り糸に閉塞用パッキングを予め取り付けておくことで、釣り糸を引き上げたところで、閉塞用パッキングが第1開口部を閉塞できるようにした。
一般的には、装置を密閉するための蓋は、装置に取り付けられるが多いが、本出願に係る発明の捕獲装置は、第1開口部を密閉できる閉塞用パッキングを、釣り糸に取り付けることで、釣り糸がついたままの深海生物を捕獲装置内に収容したうえで捕獲装置の密閉を行うということを簡便にできるようになった。
【0011】
さらに、第1開口部に、閉塞用パッキングが第1開口部を閉塞したあと、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段を設けることで、装置内に捕獲された深海生物が、装置内を自由に泳いだり動き回れるようにした。
切断手段は、釣り糸を切断できれば、どのような手段でもよいが、例えば、2枚の刃をすりあわせて切断する、ゲートバルブのようなギロチン式の切断手段が使いやすい。
ゲートバルブは、一般的には流体の遮断や流量調整によく使われる機構だが、特に真鍮製のゲートバルブを用いれば、閉塞用パッキングが第1開口部を閉塞したあと、捕獲装置の外からゲートバルブのノブを回すだけで、釣り糸を確実に抑えつけたうえで、釣り糸を挟むようにして切断でき、捕獲装置内の密閉状態を保つことができるし、捕獲装置内の深海生物にとっても安全である。
【0012】
また、深海生物を捕獲する際には、釣針のほかに餌かごを使用するが、この餌かごが捕獲装置内に入ったままだと、捕獲装置内の水質を悪化させてしまう。
そのため、釣り糸の切断位置を、閉塞用パッキングから離し、餌かごと、捕獲した深海生物との間にすることが望ましい。
そして、釣り糸を切断したときに、釣った深海生物だけが装置内に収容され、餌かごは、装置外にあることが望ましい。
そこで、捕獲装置を、第1開口部付近だけ筒状体が突出した形状に形成し、第1開口部を捕獲装置から遠い筒状体の端に、切断手段を捕獲装置に近い筒状体の端に、それぞれ設けることもできる。
これによって、例えば、切断手段にゲートバルブなどの空間を仕切ることができる手段を用いる場合、釣り糸を切断することで、餌かごを、深海生物を収容した空間から仕切った空間に置くことができ、深海生物を収容した空間に餌が入り込まず、海水をきれいなまま保つことができる。
そのため、深海生物は、捕獲装置内を自由に泳いだり動き回れるだけでなく、きれいな海水に満たされた装置内で過ごすことができるため、ストレスを軽減でき、長期間生存する確率を高めることができる。
【0013】
また、筒状体が形成された部分は、閉塞用パッキングが第1開口部を塞いでゲートバルブを閉めた(釣り糸を切断した)後、捕獲装置はゲートバルブによって密閉されるから、取り外しても密閉性に影響しない。
そこで、筒状体部分は、取り外しができるようにすることもできる。
そして、その場合には、筒状体とともに餌かごを回収できる。
【0014】
また、捕獲装置の第1開口部付近が筒状体に形成されていると、捕獲した深海生物とともに、引き上げた釣り糸は閉塞用パッキングと一緒に筒状体を通ることになり、閉塞用パッキングが傾いたり捕獲装置内を動き回ることがないため、第1開口部を確実に塞ぐことができる。
つまり、筒状体は、第1開口部を塞ぐまでの閉塞用パッキングの姿勢保持に役立つ。
【0015】
筒状体とともに餌かごを回収できるように、本出願に係る発明の釣り糸には、予め、閉塞用パッキング、餌かご、錘と釣針を、先端に向かって、この順番で取り付けておくことが好ましい。
また、本出願に係る発明の錘と釣針は、餌かごから先端に向かって、それぞれが独立するように分岐させて取り付けておくことが好ましい。
そして、本出願に係る発明の釣り糸の切断位置は、餌かごと、錘と深海生物に刺さった釣針との間が好ましい。
錘と釣針を餌かごから分岐するように取り付けておくことで、餌かごと、錘と深海生物に刺さった釣針との間の釣り糸を切断するだけで、釣った深海生物は、錘と餌かごの両方から解放される。
それだけでなく、例えば、切断手段にゲートバルブなどの空間を仕切ることができる手段を用いる場合、釣り糸を切断することで、餌かごを、深海生物を収容した空間から仕切った空間に置くことができ、深海生物を収容した空間に餌が入り込まず、同空間の海水をきれいなまま保つことができる。
そのため、深海生物は、捕獲装置内を自由に泳いだり動き回るだけでなく、きれいな海水に満たされた装置内で過ごすことができるため、ストレスを軽減でき、長期間生存する確率を高めることができる。
【0016】
また、捕獲装置の空洞内には、捕獲装置内に入り込んだ深海生物を、捕獲装置から脱出できないように、例えば、漏斗状のかえしを設けることができる。
【0017】
請求項2に係る発明は、
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されている捕獲装置に、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられ、
前記の閉塞蓋は、密閉度を高めるためのパッキング素材が第2開口部に当たる部分を除いて接着され、
第1開口部を閉塞用パッキングが、第2開口部を閉塞蓋が、それぞれ塞ぐことで、装置内の水圧を一定に維持した状態で密閉でき、捕獲に使用した釣り糸を切断された深海生物が装置内を自由に泳いだり動き回ることができる
ことを特徴とする深海生物の捕獲装置である。
【0018】
本出願に係る発明の閉塞蓋は、装置本体に開閉自在に取り付けられるため、深海生物を捕獲装置内に収容したのちに、自重で第2開口部を塞ぐことができるようになっている。
しかし、捕獲装置内の水圧を一定に維持するためには、閉塞蓋が第2開口部を隙間なく密閉する必要がある。
第2開口部の密閉度を高めるためには、閉塞蓋にパッキング素材を取り付けることが有効だが、パッキング素材を閉塞蓋全体に接着すると、捕獲装置が海中に沈められた状態にあるためか、閉塞蓋と第2開口部の開口部分の縁と当接する部分との間で隙間が生じ、第2開口部を完全に密閉することができない。
そこで、パッキング素材を、第2開口部の開口部分の縁に当接する部分を除いて閉塞蓋に接着したところ、捕獲装置が海中に沈められた状態でも、閉塞蓋が第2開口部を完全に密閉させることができるようになった。
パッキング素材は、第2開口部に当たる部分を除いて閉塞蓋に接着された状態であればよい。
また、閉塞蓋に接着されていない部分のパッキング素材は、閉塞蓋よりも閉塞蓋の縁に向かって延出していることが好ましい。
閉塞蓋は、釣った深海生物が捕獲装置内に収容されたあと、自重で第2開口部を塞ぐことができるように重い素材であることが好ましい。
【0019】
請求項3に係る発明は、
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されている捕獲装置に、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられ、
前記の閉塞蓋は、密閉度を高めるためのパッキング素材が第2開口部に当たる部分を除いて接着され、
捕獲装置の側面には、捕獲装置の姿勢保持のためのヒレが設けられており、
第1開口部を閉塞用パッキングが、第2開口部を閉塞蓋が、それぞれ塞ぐことで、水中でも捕獲装置が安定した姿勢のまま、装置内の水圧を一定に維持した状態で密閉でき、捕獲に使用した釣り糸を切断された深海生物が装置内を自由に泳いだり動き回ることができる
ことを特徴とする深海生物の捕獲装置である。
【0020】
本出願に係る発明の捕獲装置は、海中に沈めた状態で深海生物を捕獲するが、海中に沈めた状態の捕獲装置は海流によって流され、同じ姿勢を維持することが難しい。
そこで、捕獲装置を、海中でも一定の姿勢を保てるように、捕獲装置の側面にヒレを設けた。
ヒレは、例えば、薄板状の樹脂素材などを使用できるが、どのような素材、形状、設置位置でもよい。
【0021】
請求項4に係る発明は、
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されている捕獲装置に、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられ、
深海生物を捕獲するための釣り糸が、捕獲装置内を第1開口部から第2開口部に向かって挿通した状態で、その先端に閉塞用パッキング、餌かご、錘、釣針を取り付けられていることで、
深海生物を捕獲した釣り糸を第1開口部側に引いて、第1開口部を閉塞用パッキングが、第2開口部を閉塞蓋が、それぞれ塞ぎ、装置内の水圧を一定に維持した状態で、捕獲に使用した釣り糸を切断された深海生物が装置内を自由に泳いだり動き回ることができる
ことを特徴とする深海生物の捕獲装置である。
【0022】
請求項5に係る発明は、
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されている捕獲装置に、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられ、
前記の閉塞蓋は、密閉度を高めるためのパッキング素材が収容口に当たる部分を除いて接着され、
深海生物を捕獲するための釣り糸が、捕獲装置内を第1開口部から第2開口部に向かって挿通した状態で、その先端に閉塞用パッキング、餌かご、錘、釣針を取り付けられていることで、
深海生物を捕獲した釣り糸を第1開口部側に引いて、第1開口部を閉塞用パッキングが、第2開口部を閉塞蓋が、それぞれ塞ぎ、装置内の水圧を一定に維持した状態で密閉でき、捕獲に使用した釣り糸を切断された深海生物が装置内を自由に泳いだり動き回ることができる
ことを特徴とする深海生物の捕獲装置である。
【0023】
請求項6に係る発明は、
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されている捕獲装置に、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられ、
前記の閉塞蓋は、密閉度を高めるためのパッキング素材が収容口に当たる部分を除いて接着され、
捕獲装置の側面には、捕獲装置の姿勢保持のためのヒレが設けられており、
深海生物を捕獲するための釣り糸が、捕獲装置内を第1開口部から第2開口部に向かって挿通した状態で、その先端に閉塞用パッキング、餌かご、錘、釣針を取り付けられていることで、
深海生物を捕獲した釣り糸を第1開口部側に引いて、第1開口部を閉塞用パッキングが、第2開口部を閉塞蓋が、それぞれ塞ぎ、水中でも捕獲装置が安定した姿勢のまま、装置内の水圧を一定に維持した状態で密閉でき、捕獲に使用した釣り糸を切断された深海生物が装置内を自由に泳いだり動き回ることができる
ことを特徴とする深海生物の捕獲装置である。
【0024】
請求項7に係る発明は、
先端に向かって、閉塞用パッキング、餌かご、錘、釣針が取り付けられた釣り糸を、
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されており、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられた捕獲装置の第1開口部から第2開口部に向かって挿通させた状態で海中に垂らし、
深海生物が釣れたら、捕獲装置を海中に沈めた状態で、閉塞用パッキングが第1開口部を塞ぐまで釣り糸を引いて深海生物を捕獲装置内に収容し、
深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から閉塞蓋が第2開口部を閉塞したら、餌かごと錘と深海生物に刺さった釣針との間の釣り糸を切断することで、
深海生物を捕獲装置内を自由に泳いだり動き回れる状態にして捕獲する
ことを特徴とする深海生物の捕獲方法である。
【0025】
本出願に係る発明である捕獲方法は、捕獲装置と、先端に向かって、閉塞用パッキング、餌かご、錘と釣針を、この順番で取り付けた釣り糸を使って、深海生物を捕獲する方法である。
この捕獲方法によれば、深海生物を、捕獲装置が海中に沈められた状態のまま、捕獲することができる。
そして、捕獲装置内を加圧すれば、深海生物を、減圧症を発症しないように一定の水圧に保ったまま陸上に引き上げて、陸上の加圧水槽に移すことができる。
深海生物を陸上の加圧水槽に移すときは、捕獲装置内の水圧を低くするだけで、加圧水槽の高い水圧によって閉塞蓋が開き、深海生物が捕獲装置外(加圧水槽内)に移すことができる。
【0026】
また、本出願に係る発明である捕獲方法における錘と釣針は、餌かごから先端に向かって、それぞれが独立するように分岐させて取り付けておくことが好ましい。
錘と釣針を餌かごから分岐するように取り付けておくことで、餌かごと、錘と深海生物に刺さった釣針との間の釣り糸を切断するだけで、釣った深海生物は、錘と餌かごの両方から解放される。
それだけでなく、例えば、切断手段にゲートバルブなどの空間を仕切ることができる手段を用いる場合、釣り糸を切断することで、餌かごを、深海生物を収容した空間から仕切った空間に置くことができ、深海生物を収容した空間に餌が入り込まず、同空間の海水をきれいなまま保つことができる。
そのため、深海生物は、捕獲装置内を自由に泳いだり動き回るだけでなく、きれいな海水に満たされた装置内で過ごすことができるため、ストレスを軽減でき、長期間生存する確率を高めることができる。
【0027】
請求項8に係る発明は、
先端に向かって、閉塞用パッキング、餌かご、錘、釣針が取り付けられた釣り糸を、
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されており、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
が設けられ、
密閉度を高めるためのパッキング素材が収容口に当たる部分を除いて閉塞蓋に接着された捕獲装置に、その第1開口部から第2開口部に向かって挿通させた状態で海中に垂らし、
深海生物が釣れたら、捕獲装置を海中に沈めた状態で、閉塞用パッキングが第1開口部を塞ぐまで釣り糸を引いて深海生物を捕獲装置内に収容し、
深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から閉塞蓋が第2開口部を閉塞したら、餌かごと錘と深海生物に刺さった釣針との間の釣り糸を切断することで、
深海生物を捕獲装置内を自由に泳いだり動き回れる状態にして捕獲する
ことを特徴とする深海生物の捕獲方法である。
【0028】
請求項9に係る発明は、
先端に向かって、閉塞用パッキング、餌かご、錘、釣針が取り付けられた釣り糸を、
深海生物を収容するために内部が空洞に形成されており、
閉塞用パッキングによって閉塞可能な筒状体に形成された第1開口部と、
第1開口部には、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだのち、閉塞用パッキングから垂れる釣り糸を切断する切断手段と、
深海生物を空洞内に収容するための第2開口部と、
第2開口部には、装置本体に開閉自在に取り付けられ、深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から第2開口部を閉塞できる閉塞蓋と、
捕獲装置の側面には、捕獲装置の姿勢保持のためのヒレと、
が設けられ、
密閉度を高めるためのパッキング素材が収容口に当たる部分を除いて閉塞蓋に接着された捕獲装置に、その第1開口部から第2開口部に向かって挿通させた状態で海中に垂らし、
深海生物が釣れたら、捕獲装置を海中に沈めた状態で、閉塞用パッキングが第1開口部を塞ぐまで釣り糸を引いて深海生物を捕獲装置内に収容し、
深海生物を釣り糸とともに収容したのち、装置内側から閉塞蓋が第2開口部を閉塞したら、餌かごと錘と深海生物に刺さった釣針との間の釣り糸を切断することで、
深海生物を捕獲装置内を自由に泳いだり動き回れる状態にして捕獲する
ことを特徴とする深海生物の捕獲方法である。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、次の効果を奏する。
海中に沈めた状態で深海生物を捕獲でき、一度も大気に触れることなく、海面の高水温によるダメージを与えることなく、深海生物を陸上の加圧水槽に移すことができる。
捕獲装置内に海水を注水する方法で装置内を高圧状態にできるため、深海生物を海面付近に引き上げる際に発症する減圧症を防ぐことができる。
釣り上げた深海生物を捕獲装置内に収容したあと、釣り糸を切断するだけで、深海生物が捕獲装置内を自由に泳いだり動き回る状態にできる。
閉塞蓋が、捕獲装置内を加圧するだけで閉塞し、陸上の加圧水槽に移したあとは捕獲装置内を減圧するだけで開口するため、深海生物の捕獲と移送を簡便に行うことができる。
捕獲装置にヒレが取り付けられていることで、捕獲装置の第2開口部を鉛直下方に向けたままの姿勢に保ち、深海生物の収容を容易にできる。
海水の注水と排水を同時に行って捕獲装置内を換水することで、浮遊、堆積するゴミや深海生物の糞を捕獲装置外に排出でき、長期間深海生物を捕獲装置内に収容したままでも捕獲装置内の環境を良好に保つことができる。
海水の注水弁を通じて捕獲装置内に給餌することができる。
釣り糸に取り付けられる閉塞用パッキングが捕獲装置の第1開口部を閉塞したことが、釣った深海生物が捕獲装置内に収容されたことの合図として判断できるため、捕獲できたかを目視や海中カメラによって確認する必要がない。
なお、捕獲できたか確認するための海中カメラを捕獲装置に取り付けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図3】深海生物を捕獲装置内に収容する過程の一例を示すイメージ図
【
図6】捕獲装置を加圧水槽内に入れて深海生物を加圧水槽内に移す一例を示すイメージ図
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0032】
図1は、捕獲装置の構成を示す概略図である。
捕獲装置は、深海生物を収容するために内部が空洞に形成されており、図中の上方には第1開口部1が、図中の下方には第2開口部2が設けられている。
第1開口部1は、筒状体に形成されており、筒状体の上端側は、釣り糸が通る孔3と、これを釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが塞ぐ部分とからなり、筒状体の下端側は、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングと餌かごが通る程度に開いており、閉塞用パッキングと餌かごが筒状体に入ったところで釣り糸を切断する切断手段としてゲートバルブ4が設けられている。
第2開口部は、捕獲した深海生物を収容できる程度に開口しており、深海生物を収容したあとは、捕獲装置の内側から塞ぐ閉塞蓋5が設けられている。
捕獲装置の側面には、姿勢保持のためのヒレ6が設けられている。
ヒレは、例えば、薄板状の樹脂素材などを使用できる。
また、深海生物を捕獲した後に捕獲装置内に海水を送り込んで加圧する加圧ホース7も取り付けられている。
【0033】
図2は、釣り糸の仕掛けを示す概略図である。
先端(図中の下方)に向かって、閉塞用パッキング8、餌かご9、錘10と釣針11が、この順番にとりつけられている。
錘10と釣針11は、餌かご9から先端に向かって、分岐した状態で取り付けられている。
【0034】
図3は、深海生物を捕獲装置内に収容する過程((a)→(b)→(c))の一例を示すイメージ図である。
深海生物を釣ったら、予め捕獲装置を海中に沈めておいた状態で、海上から、釣針に深海生物が刺さったままの釣り糸12を引き上げる(
図3(a))。
釣り糸12は、捕獲装置の第2開口部2から第1開口部1を通って海上に繋がっている。
そのため、釣り糸12を引き上げると、釣針を咥えたままの深海生物が第2開口部2から捕獲装置内に収容される(
図3(b))。
釣針を咥えたままの深海生物が完全に捕獲装置内に収容されると、釣り糸12に取り付けられた閉塞用パッキング8が第1開口部1を塞ぎ、閉塞蓋5が自重で第2開口部2を塞ぐ。
閉塞蓋5は、
図3(a)の状態では、釣り糸12が閉塞の障害になるため、自重で閉塞することはない。
第1開口部と第2開口部2が塞がれたら、加圧ホース7を通して捕獲装置内に海水を注水して加圧する(
図3(c))。
これにより、捕獲装置内が加圧された状態で密閉される。
【0035】
捕獲装置の第1開口部1は、筒状体に形成されているため、閉塞用パッキング8が、傾いたり捕獲装置内を動き回ることで、第1開口部1が塞がれないということがない。
つまり、第1開口部1に形成された筒状体は、閉塞用パッキング8が第1開口部1を正確に塞ぐための姿勢保持に役立っている。
また、ゲートバルブ4を閉めて釣り糸12を切断した後、ゲートバルブ4より図中の上方、つまり捕獲装置の外側の筒状体のみを取り外すことができる。
捕獲装置の第1開口部1を筒状体に形成しない構成にすることもできるが、この場合は、ゲートバルブ4を閉めて釣り糸を切断した後、第1開口部1の筒状体部分を取り外すことができない。
【0036】
捕獲装置の第1開口部1の筒状体には、餌かご9が収まるようになっている。
釣った深海生物と錘10は、第1開口部1を通過できないため、閉塞用パッキング8が第1開口部1を塞いだとき、筒状体内にある釣り糸12は張っている状態にある。
そこで、この状態でゲートバルブ4を閉めると、簡単に釣り糸12を切断できる。
錘10と釣針11は、餌かご9から先端に向かって分岐しているため、ゲートバルブ4を閉めたとき、錘10と釣針11の両方を切断できる。
そのため、深海生物は、錘10と餌かご9の両方から解放され、捕獲装置内を自由に泳いだり動き回ることができる。
なお、閉塞用パッキング8が捕獲装置の第1開口部1を閉塞できれば、それが、釣った深海生物が捕獲装置内に収容されたことの合図になるため、深海生物を捕獲装置内に収容できたかを目視や海中カメラなどによって確認する必要はないが、捕獲装置の外に海中カメラ13を設置することもできる。
【0037】
また、切断手段として、ゲートバルブ4などの空間を仕切ることができる手段を用いる場合、釣り糸12を切断することで、餌かご9を、深海生物を収容した空間から仕切った空間に置くことができるため、深海生物を収容した捕獲装置内に餌が入り込まず、装置内の海水をきれいなまま保つことができる。
それにより、深海生物は、捕獲装置内を自由に泳いだり動き回れるだけでなく、きれいな海水に満たされた装置内で過ごすことができるため、ストレスが軽減され、深海生物が長期間生存する確率が高まる。
【0038】
図4は、捕獲装置の閉塞蓋部分を示す概略図である。
閉塞蓋5には、密閉度を高めるためのパッキング14が、第2開口部2に当たる部分を除いて閉塞蓋5に接着されている。
このパッキング14は、捕獲装置内に釣った深海生物を収容したあと、捕獲装置内に海水を送り込んで密閉と加圧をしたときの密閉度を高めるためのものであるが、第2開口部2に当たる部分にまでパッキング14を閉塞蓋5に接着しておくと、捕獲装置内に海水を送り込んでも、捕獲装置が海中に沈められた状態にあるためか、密閉がうまくいかないことがある。
しかし、パッキング14が、第2開口部2に当たる部分を除いて閉塞蓋5に接着されていると、捕獲装置が海中に沈められた状態でも、閉塞蓋5が第2開口部2を密閉できる。
第2開口部2に当たる部分のパッキング14は、閉塞蓋5には接着していない状態であればよく、閉塞蓋5よりも延出していることが好ましい。
また、閉塞蓋5は、捕獲装置内に釣った深海生物が収容されたあと、自重で第2開口部2を塞ぐことができるように重い素材であることが好ましい。
【0039】
図5は、捕獲装置内を換水する一例を示す概略図である。
海水を捕獲装置内に送り込んで加圧するための加圧ホース7と、捕獲装置内の海水を換水するための排水ホース15が取り付けられている。
また、換水のためのポンプ16(動力源)と、換水する海水の濾過装置17、捕獲装置内に送り込む海水を冷やすための冷却装置18が取り付けられている。
これらの装置は、海中に沈める必要はなく、例えば、船上に設置しておけば足りる。
この捕獲装置を使えば、海中に沈められた状態のまま深海生物を捕獲し、減圧症を発症しないように捕獲装置内を一定の水圧に保ったまま深海生物を長期間生存させることができ、深海生物が収容された状態のまま捕獲装置を陸上に引き上げることができる。
【0040】
図6は、捕獲装置を加圧水槽内に入れて深海生物を加圧水槽内に移す一例を示すイメージ図である。
捕獲装置内の深海生物を別の加圧水槽19に移すときは、捕獲装置内の水圧よりも加圧水槽19内の水圧を高くすれば、捕獲装置の閉塞蓋5が勝手に開くため、簡単に深海生物を加圧水槽19に移すことができる。
このように移送すれば、深海生物を、一度も大気に触れさせることなく、また減圧症を発症させる危険もなく、深海から捕獲して陸上に移送できる。
【0041】
このように、本実施例にかかる捕獲装置と、先端に向かって、閉塞用パッキング8、餌かご9、錘10と釣針11を、この順番で取り付けた釣り糸12を使うことで、深海生物を、一度も大気に触れさせることなく、海面の高水温によるダメージを与えることもなく、捕獲できる。
また、閉塞蓋5が、捕獲装置内を加圧するだけで閉塞し、陸上の加圧水槽19に移したあとは捕獲装置内を減圧するか陸上の加圧水槽19の水圧を上げるだけで開口するため、深海生物の捕獲と移送を簡便に行うことができる。
さらに、海水の注水と排水を同時に行って捕獲装置内を換水することで、浮遊、堆積するゴミや深海生物の糞を捕獲装置外に排出でき、深海生物を捕獲装置内に長期間収容したままでも捕獲装置内の環境を良好に保つことができるし、海水の注水弁を通じて捕獲装置内に給餌すれば、深海生物を捕獲装置内で飼育することも可能である。
【0042】
なお、捕獲した深海生物が捕獲装置内に収容されたことが分かるように、捕獲装置にカメラを取り付けて捕獲装置内を撮影することもできる。
その場合、海上から撮影映像を観察しながら、深海生物が捕獲装置内に収容された時点で、捕獲装置内への海水の注入を開始しても良いし、釣り糸を引き上げる過程で閉塞用パッキングが第1開口部を塞いだ時の手応えをもとに、捕獲装置内への海水の注入を開始しても良い。
【0043】
本出願に係る発明である捕獲方法は、次のとおりである。
釣り糸には、先端に向かって、閉塞用パッキング、餌かご、錘と釣針が、この順番にとりつけられている。
錘と釣針は、餌かごから先端に向かって、それぞれが独立するように分岐させて取り付けられている。
釣り糸を、捕獲装置内の第1開口部から第2開口部に向かって、捕獲装置内を挿通させる。
船上から、捕獲装置内を挿通させた釣り糸を海中に沈め、釣針に深海生物がかかるのを待つ。
深海生物が釣針にかかったら、釣り糸が挿通された捕獲装置を海中に沈める。
このとき、捕獲装置側面に設けられたヒレが、潮の流れに沿って装置の姿勢が保持されるので、捕獲装置の第2開口部が潮下になるようにする。
捕獲装置を捕獲した深海生物付近にまで沈めたあと、捕獲装置を1mほど引き上げたのち、捕獲装置を自由落下させる。
そうすると、閉塞蓋は、水の抵抗で開き、自然に開いた状態になる。
閉塞蓋が開いている間に糸を引き上げて深海生物を捕獲装置内に収容する。
深海生物が捕獲装置内に収容された後も釣り糸を引き上げると、釣り糸に取り付けられた閉塞用パッキングが第1開口部を塞ぐ。
第1及び第2開口部が閉塞されたら加圧ホースから海水を送り込み加圧する。
その後、ゲートバルブを閉め、釣り糸を切断する。
このとき、餌かごは、閉塞用パッキングとゲートバルブの間にあるから、ゲートバルブを閉めた後、餌かごは、深海生物が捕獲された空間から隔離される。
ゲートバルブが設けられた第1開口部が筒状体に形成されていて、これを取り外すことができれば、筒状体の取り外しとともに餌かごも取り出すことができる。
この捕獲方法により、深海生物は、捕獲された後も捕獲装置内を自由に泳いだり動き回るだけでなく、きれいな海水に満たされた装置内で過ごすことができる。
そのため、この捕獲方法によれば、ストレスの軽減によって深海生物が長期間生存する確率を高めることができる。
そして、捕獲装置内を加圧すれば、深海生物を、減圧症を発症しないように一定の水圧に保ったまま陸上に引き上げて、陸上の加圧水槽に移すことができる。
深海生物を陸上の加圧水槽に移すときは、捕獲装置内の水圧を低くするだけで、加圧水槽の高い水圧によって閉塞蓋が開き、深海生物が捕獲装置外(加圧水槽内)に移すことができる。
【符号の説明】
【0044】
1 第1開口部
2 第2開口部
3 (釣り糸が通る)孔
4 ゲートバルブ
5 閉塞蓋
6 ヒレ
7 加圧ホース
8 閉塞用パッキング
9 餌かご
10 錘
11 釣針
12 釣り糸
13 海中カメラ
14 パッキング
15 排水ホース
16 ポンプ(動力源)
17 濾過装置
18 冷却装置
19 加圧水槽