(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】ビニルベンジル化フェノール樹脂、当該ビニルベンジル化フェノール樹脂の製造方法、活性エステル樹脂、当該活性エステル樹脂の製造方法、熱硬化性樹脂組成物、当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物、層間絶縁材料、プリプレグ、およびプリプレグの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 61/02 20060101AFI20220214BHJP
C08G 59/62 20060101ALI20220214BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
C08G61/02
C08G59/62
C08J5/24 CFC
(21)【出願番号】P 2018102238
(22)【出願日】2018-05-29
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】恩田 真司
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-119531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00-61/12
C08G 59/00-59/72
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるビニルベンジル化フェノール樹脂。
【化1】
(上記一般式(1)中、Aは下記一般式(2)で示されるビニルベンジル基であり、R
0はメチル基であり、平均繰り返し数kは0以上1以下であり、平均繰り返し数nは1超3以下であり、平均繰り返し数mは0.2以上2以下である。)
【化2】
(上記一般式(2)中、R
1からR
5は同一または異なってもよく、水素またはメチル基である。)
【請求項2】
請求項1に記載されるビニルベンジル化フェノール樹脂の製造方法であって、
下記一般式(3)で示されるフェノール樹脂およびビニルベンジルハライド化合物を、ハイドロタルサイト類を脱ハロゲン化水素剤として反応させること
を特徴とするビニルベンジル化フェノール樹脂の製造方法。
【化3】
(上記一般式(3)中、R
0ならびに平均繰り返し数kおよび平均繰り返し数nは請求項1に定義されるとおりである。)
【請求項3】
前記フェノール樹脂における下記一般式(3-1)に示される物質の含有量が、示差屈折検出器を用いてGPCにより測定したときの面積百分率として30%以上90%以下である、請求項2に記載のビニルベンジル化フェノール樹脂の製造方法。
【化4】
(上記一般式(3-1)中、R
0および平均繰り返し数kは請求項1に定義されるとおりで
ある。)
【請求項4】
下記一般式(4)で示される活性エステル樹脂。
【化5】
(上記一般式(4)中、AおよびR
0ならびに平均繰り返し数k、平均繰り返し数mおよび平均繰り返し数nは請求項1に定義されるとおりであり、Ar
1およびAr
2は同一または異なっていてもよく、フェニル基、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基、ナフチル基、または芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するナフチル基であり、Ar
2は上記一般式(1)のビニルベンジル化フェノール樹脂残基であってもよい。)
【請求項5】
請求項4に記載される活性エステル樹脂の製造方法であって、
請求項1に記載されるビニルベンジル化フェノール樹脂と、1官能フェノール化合物と、芳香核含有ジカルボン酸およびそのハライド化合物からなる群から選ばれる1種以上と、を反応させること
を特徴とする、活性エステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載される活性エステル樹脂とエポキシ樹脂とを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
さらに硬化促進剤を含む、請求項6に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
さらに無機充填材を含む、請求項6または請求項7に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれか一項に記載される熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項10】
請求項6から請求項8のいずれか一項に記載される熱硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする層間絶縁材料。
【請求項11】
請求項6から請求項8のいずれか一項に記載される熱硬化性樹脂組成物の半硬化体と繊維状補強部材とを備えることを特徴とするプリプレグ。
【請求項12】
請求項6から請求項8のいずれか一項に記載される熱硬化性樹脂組成物を繊維状補強部材に含浸させ加熱して、前記繊維状補強部材に含浸した前記熱硬化性樹脂組成物を半硬化することを特徴とするプリプレグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物の成分として有用な活性エステル樹脂、その活性エステル樹脂の製造方法、その活性エステル樹脂を製造するための原料の1種であるビニルベンジル化フェノール樹脂、そのビニルベンジル化フェノール樹脂の製造方法、上記の活性エステル樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物、当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物、当該熱硬化性樹脂組成物を用いてなる層間絶縁材料、当該熱硬化性樹脂組成物を用いてなるプリプレグ、および当該プリプレグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報通信機器の高機能化、高密度化などの性能向上に従い、プリント配線板にも、それに適応した性能が求められている。プリント配線板を形成する絶縁材料として熱硬化性樹脂組成物の硬化物が用いられ、熱硬化性樹脂組成物の中でも、価格面や接着性などの観点からエポキシ系化合物を含有するエポキシ系樹脂組成物が汎用されている。とりわけ近年は電子機器の薄型化、小型化、高性能化に合わせて配線板の多層化が進んでいる。
【0003】
こうしたエポキシ系樹脂組成物における硬化剤として、例えば、特許文献1には、活性エステル樹脂を用いることが記載されている。特許文献1に開示されるエステル樹脂を用いることによって、その硬化物において低誘電率、低誘電正接でありながら、優れた耐熱性を備える熱硬化性樹脂組成物が得られる。
【0004】
特許文献1には、上記のエステル樹脂は、フェノール性水酸基を含有する物質と、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸塩化物とを反応させることによって生成することが記載されている。
【0005】
一方、特許文献2には、優れた誘電特性(低誘電率・低誘電正接)を有し、耐熱性、耐吸湿性、および熱伝導性のいずれにも優れる硬化物を与える活性エステル樹脂が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6025952号公報
【文献】特許第6278239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載されるように、硬化物の耐熱性の観点などから、活性エステル樹脂を形成するために用いられるフェノール性水酸基含有樹脂(フェノール樹脂)が有するフェノール性水酸基の数が少ないこと、すなわち、組成物であるフェノール樹脂が2官能体を多く含むことが好ましいとされている。フェノール樹脂が有するフェノール性水酸基の数が多い場合には、活性エステル樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物を硬化させる際に、架橋が密であることにより、硬化反応が順調に進行しにくくなる傾向があり、これがエステル樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物の耐熱性が低下する原因となる。そこで、特許文献2では、フェノール樹脂の粗製物についてアルカリ条件で抽出し、その後、再析出や再沈を行って2官能体の含有量を高めるべきことが記載されている(特許文献2段落0044)。
【0008】
本発明は、特許文献2において好ましくないと位置付けられる3官能体を積極的に含有しても2官能体を主成分とした場合と同様に優れた誘電特性および優れた耐熱性を備え、さらに伸び率などの機械特性にも優れる硬化物を形成可能な熱硬化性樹脂組成物の成分として有用な活性エステル樹脂、その活性エステル樹脂の製造方法、その活性エステル樹脂を製造するための原料の1種であるビニルベンジル化フェノール樹脂、そのビニルベンジル化フェノール樹脂の製造方法、上記の活性エステル樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物、当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物、当該熱硬化性樹脂組成物を用いてなる層間絶縁材料、当該熱硬化性樹脂組成物を用いてなるプリプレグ、および当該プリプレグの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。
[1]下記一般式(1)で示されるビニルベンジル化フェノール樹脂。
【化1】
(上記一般式(1)中、Aは下記一般式(2)で示されるビニルベンジル基であり、R
0はメチル基であり、平均繰り返し数kは0以上1以下であり、平均繰り返し数nは1超3以下であり、平均繰り返し数mは0.2以上2以下である。)
【化2】
(上記一般式(2)中、R
1からR
5は同一または異なってもよく、水素またはメチル基である。)
[2]上記[1]に記載されるビニルベンジル化フェノール樹脂の製造方法であって、下記一般式(3)で示されるフェノール樹脂およびビニルベンジルハライド化合物を、ハイドロタルサイト類を脱ハロゲン化水素剤として反応させることを特徴とするビニルベンジル化フェノール樹脂の製造方法。
【化3】
(上記一般式(3)中、R
0ならびに平均繰り返し数kおよび平均繰り返し数nは上記[1]に定義されるとおりである。)
[3]前記フェノール樹脂における下記一般式(3-1)に示される物質の含有量が、示差屈折検出器を用いてGPCにより測定したときの面積百分率として30%以上90%以下である、上記[2]に記載のビニルベンジル化フェノール樹脂の製造方法。
【化4】
(上記一般式(3-1)中、R
0および平均繰り返し数kは上記[1]に定義されるとおりである。)
[4]下記一般式(4)で示される活性エステル樹脂。
【化5】
(上記一般式(4)中、AおよびR
0ならびに平均繰り返し数k、平均繰り返し数mおよび平均繰り返し数nは上記[1]に定義されるとおりであり、Ar
1およびAr
2は同一または異なっていてもよく、フェニル基、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基、ナフチル基、または芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するナフチル基であり、Ar
2は上記一般式(1)のビニルベンジル化フェノール樹脂残基であってもよい。)
[5]上記[4]に記載される活性エステル樹脂の製造方法であって、上記[1]に記載されるビニルベンジル化フェノール樹脂と、1官能フェノール化合物と、芳香核含有ジカルボン酸およびそのハライド化合物からなる群から選ばれる1種以上と、を反応させることを特徴とする、活性エステル樹脂の製造方法。
[6]上記[4]に記載される活性エステル樹脂とエポキシ樹脂とを含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
[7]さらに硬化促進剤を含む、上記[6]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[8]さらに無機充填材を含む、上記[6]または上記[7]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[9]上記[6]から上記[8]のいずれかに記載される熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
[10]上記[6]から上記[8]のいずれかに記載される熱硬化性樹脂組成物を含有することを特徴とする層間絶縁材料。
[11]上記[6]から上記[8]のいずれかに記載される熱硬化性樹脂組成物の半硬化体と繊維状補強部材とを備えることを特徴とするプリプレグ。
[12]上記[6]から上記[8]のいずれかに記載される熱硬化性樹脂組成物を繊維状補強部材に含浸させ加熱して、前記繊維状補強部材に含浸した前記熱硬化性樹脂組成物を半硬化することを特徴とするプリプレグの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた誘電特性(誘電率、誘電正接)および優れた耐熱性(ガラス転移温度)を備え、さらに機械特性(伸び率)も優れる硬化物を形成可能な熱硬化性樹脂組成物の成分として有用な活性エステル樹脂、その活性エステル樹脂の製造方法、その活性エステル樹脂を製造するための原料の1種であるビニルベンジル化フェノール樹脂、そのビニルベンジル化フェノール樹脂の製造方法、上記の活性エステル樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物、当該熱硬化性樹脂組成物の硬化物、当該熱硬化性樹脂組成物を用いてなる層間絶縁材料、当該熱硬化性樹脂組成物を用いてなるプリプレグ、および当該プリプレグの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1により得られたビニルベンジル化物溶液(A-2)のGPCチャートである。
【
図2】実施例1により得られたビニルベンジル化物溶液(A-2)のFD-MSチャートである。
【
図3】実施例4により得られたビニル基含有活性エステル樹脂溶液(B-2)のGPCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
本発明の一実施形態に係るビニルベンジル化フェノール樹脂(a)は、下記一般式(1)で示される。
【化6】
【0014】
上記一般式(1)中、Aは下記一般式(2)で示されるビニルベンジル基であり、R0はメチル基であり、平均繰り返し数kは0以上1以下であり、平均繰り返し数nは1超3以下であり、平均繰り返し数mは0.2以上2以下である。なお、平均繰り返し数nが非整数となるのは、ビニルベンジル化フェノール樹脂(a)が、上記一般式(1)のカッコ内に示される構造部位の連結数が異なる複数種類の化合物を含む組成物からなるためである。一般式(1)の他の平均繰り返し数(具体的には平均繰り返し数mおよび平均繰り返し数k)についても同様である。
【0015】
【化7】
上記一般式(2)中、R
1からR
5は同一または異なってもよく、水素またはメチル基である。
【0016】
上記一般式(1)において示されるように、平均繰り返し数nは1よりも大きい数である。したがって、本発明の一実施形態に係るビニルベンジル化フェノール樹脂(a)は、上記一般式(1)のカッコ内に示される構造部位を1つ有する2官能体以外に、上記一般式(1)のカッコ内に示される構造部位を2つ以上有する多官能体を含有する。
【0017】
上記の本発明の一実施形態に係るビニルベンジル化フェノール樹脂(a)の製造方法は限定されない。次に説明する製造方法により、ビニルベンジル化フェノール樹脂(a)を効率的に製造することができる。
【0018】
ビニルベンジル化フェノール樹脂(a)の本発明の一実施形態に係る製造方法では、下記一般式(3)で示されるフェノール樹脂(α)およびビニルベンジルハライド化合物(β)を、ハイドロタルサイト類(γ)を脱ハロゲン化水素剤として反応させる。
【化8】
【0019】
上記一般式(3)中、R
0ならびに平均繰り返し数kおよび平均繰り返し数nは上記一般式(1)に定義されるとおりである。平均繰り返し数nが1を超えることから、フェノール樹脂(α)はフェノール性水酸基を2つ有する2官能体(上記一般式(3)においてnが1の構造、すなわち、下記一般式(3-1)の構造を有する。)だけでなく、フェノール性水酸基を3つ以上有する多官能体(上記一般式(3)においてnが2以上の構造を有する。)を含有する。下記一般式(3-1)中、R
0および平均繰り返し数kは上記一般式(1)に定義されるとおりである。
【化9】
【0020】
フェノール樹脂(α)を、示差屈折検出器を用いてGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定したときに、上記の2官能体に基づくピークの面積百分率が、30%以上90%以下であってもよい。この面積百分率が低いことはフェノール樹脂(α)における2官能体の含有量が少ないことを意味しており、結果、ビニルベンジル化フェノール樹脂(a)は、フェノール樹脂(α)のうち上記の多官能体に由来する構造部位を有する。特許文献2に示されるように、一般的には、フェノール樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化性の観点から、当該樹脂組成物の成分であるフェノール樹脂は多官能体よりも2官能体であることが有利とされている。しかしながら、フェノール樹脂における2官能体の含有量を高めるためには、フェノール樹脂に含まれる多官能体を排除すべく抽出など追加の工程をフェノール樹脂の製造過程に追加する必要がある(例えば特許文献2段落0044参照)。
【0021】
これに対し、本発明の一実施形態に係るビニルベンジル化フェノール樹脂(a)を用いてなる熱硬化性樹脂組成物では、原料となるフェノール樹脂(α)における2官能体の含有量が相対的に少なくても、すなわち、相対的に多官能体の含有量が多くても、適切に硬化することができる。したがって、上記のような特別な工程が追加されて2官能体の含有量が高められたフェノール樹脂(α)を用いなくても、良好な特性を有するビニルベンジル化フェノール樹脂(a)を製造可能である。したがって、本発明の一実施形態に係るビニルベンジル化フェノール樹脂(a)は比較的低コストで製造可能である。フェノール樹脂(α)の上記の2官能体の面積百分率は、80%以下であってもよいし、50%以下であってもよい。
【0022】
ビニルベンジルハライド化合物(β)は、芳香核にビニル基およびハロゲン化メチル基が結合していればよく、ビニル基とハロゲン化メチル基との位置関係は限定されない。上記一般式(2)に示されるAにハロゲンが結合した構造を有する化合物がビニルベンジルハライド化合物(β)の具体例となる。
【0023】
本発明の一実施形態に係る製造方法では、上記のフェノール樹脂(α)とビニルベンジルハライド化合物(β)との反応における脱ハロゲン化水素剤として、ハイドロタルサイト類(γ)を用いる。ハイドロタルサイト類(γ)はマグネシウムおよびアルミニウムの炭酸塩および水酸化物の複合体の水和物であり、その一般式としてはMg6Al12(OH)16(CO3)・4H2O、Mg4.5Al2(OH)13CO3・qH2O(qは3~3.5)である。また、それらの無水化物の例としては、Mg0.7Al0.3O1.15が挙げられる。ハイドロタルサイト類(γ)の具体例となる製品としては、KW-500SH、KW-500SN、KW-500PL、KW-500G-7、KW-1000、KW-1015、KW-2000、KW-2100(いずれも協和化学工業社製)が挙げられる。ハイドロタルト類(γ)を脱ハロゲン化水素剤として用いることにより、フェノール樹脂(α)のフェノール性水酸基を残したまま、ビニルベンジルハライド化合物(β)に基づく残基を芳香核の骨格に直接的に結合させることが実現される。
【0024】
フェノール樹脂(α)とビニルベンジルハライド化合物(β)との反応における原料の仕込み量や反応条件は、所望の反応生成物の構造に応じて、ハイドロタルサイト類(γ)による脱ハロゲン化水素反応が適切に進行するように適宜設定される。フェノール樹脂(α)の仕込み量に対するビニルベンジルハライド化合物(β)の仕込み量のモル比率(β/α)は、0.1~2.0とすることが好ましい場合がある。フェノール類(α)のフェノール性水酸基1当量に対してビニルベンジルハライド化合物(β)を0.2当量から1.0当量の範囲とすることが未反応成分を少なくする観点から好ましい場合があり、この観点から、フェノール類(α)のフェノール性水酸基1当量に対してビニルベンジルハライド化合物(β)を0.4当量から0.8当量の範囲とすることがより好ましい場合がある。ハイドロタルサイト類(γ)の使用量のビニルベンジルハライド化合物(β)の仕込み量に対するモル比率(γ/β)は、0.70~1.50とすることが好ましい場合がある。ハイドロタルサイト類(γ)を脱ハロゲン化水素剤として用いる場合には、脱ハロゲン化水素反応が二酸化炭素および水の発生を伴うため、反応中における炭酸ガスの発生を適切に制御することや、水分を適切に系外に排出することなどを考慮して、加熱温度などの反応条件を設定することが好ましい。
【0025】
限定されない例示を行えば、脱ハロゲン化水素反応は、フェノール樹脂(α)およびハイドロタルサイト類(γ)を含有するスラリー状の反応液を50℃~80℃の範囲内、好ましくは60℃~70℃の範囲内に維持しつつ、ビニルベンジルハライド化合物(β)を滴下することにより、急激な炭酸ガスの発生を抑制することができる。また、上記のスラリー状の反応液における溶媒をトルエンやメチルイソブチルケトンなどとし、ビニルベンジルハライド化合物(β)を全量滴下した後、反応液の温度を100℃以上に加温して、反応液内の水分を除去することが好ましい。
【0026】
2官能フェノール化合物(α)とビニルベンジルハライド化合物(β)との反応に用いる溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、メチルイソブチルケトン、メチル-n-アミルケトン、メチルイソアミルケトンなどが挙げられる。
【0027】
本発明の一実施形態に係る活性エステル樹脂(A)は、下記一般式(4)で示される構造を有する。
【化10】
【0028】
上記一般式(4)中、AおよびR0ならびに平均繰り返し数k、平均繰り返し数mおよび平均繰り返し数nは上記一般式(1)に定義されるとおりである。Ar1およびAr2は同一または異なっていてもよく、フェニル基、芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するフェニル基、ナフチル基、または芳香核上に炭素原子数1~4のアルキル基を1~3個有するナフチル基である。なお、Ar2は上記一般式(1)のビニルベンジル化フェノール樹脂残基であってもよい。
【0029】
本発明の一実施形態に係る活性エステル樹脂(A)は、特許文献1に開示される活性エステル樹脂と同様に、重合反応が可能なビニル基をベンジル基の芳香核に有している。このため、ビニル基の二重結合を反応部位とする反応が進行した場合に、その反応により形成された炭素鎖と、活性エステル樹脂(A)のエステル結合を含む主鎖との相対位置が変化しにくい。それゆえ、本発明の一実施形態に係る活性エステル樹脂(A)を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、加熱された際に、変形や分解が生じにくく、ガラス転移温度が高く耐熱安定性に優れる材料となりやすい。その一方で、本実施形態に係る活性エステル樹脂(A)は、主鎖にビフェニルかからなる部分を有するため、架橋点間距離を適切に確保できる。このため、本発明の一実施形態に係る活性エステル樹脂(A)を含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、特許文献1に開示される活性エステル樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物の硬化物に比べて、高い伸び率を有する。
【0030】
本発明の一実施形態に係る活性エステル樹脂(A)の製造方法は限定されない。例えば、本発明の一実施形態に係るビニルベンジル化フェノール樹脂(a)と、1官能フェノール化合物(b)と、芳香核含有ジカルボン酸およびそのハライド化合物からなる群から選ばれる1種からなる芳香族カルボン酸系化合物(c)以上とを反応させることによって、活性エステル樹脂(A)を得ることができる。
【0031】
1官能フェノール化合物(b)の具体例として、フェノール、ナフトール等の無置換1官能フェノール化合物、およびクレゾール、ジメチルフェノール、エチルフェノール等のアルキル置換1官能フェノール化合物が挙げられる。アルキル置換1官能フェノール化合物におけるアルキル基の置換数は3以下であってアルキル基の炭素数は4以下であることが、後述するエポキシ樹脂(B)との硬化性および誘電特性のバランスの観点から好ましい場合がある。
【0032】
芳香族カルボン酸系化合物(c)の具体例として、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、およびこれらの酸塩化物が挙げられる。
【0033】
上記反応の条件は、活性エステル樹脂(A)を適切に生成できる限り、任意である。多官能フェノール化合物と1官能フェノール化合物(b)と芳香族カルボン酸系化合物(c)とを反応させることにより活性エステル樹脂が得られることは公知であるから、その製造方法を参考にしてもよい。
【0034】
ここで、本発明の一実施形態に係るビニルベンジル化フェノール樹脂(a)は、一分子内に上記のようにフェノール性水酸基を平均的に2個よりも多く有する。このような構造を有する樹脂を用いた場合には、従来、活性エステル樹脂(A)を含む熱硬化性樹脂組成物に水酸基が過剰に存在するため硬化が適切に進行しにくいと認識されていた。しかしながら、後述する実施例において具体的に示すように、ビニルベンジル化フェノール樹脂(a)のフェノール性水酸基の1官能フェノール化合物(b)のフェノール性水酸基に対する当量比(a/b)を、0.1以上1以下、好ましくは0.2以上0.7以下、より好ましくは0.45以上0.65以下とすることにより、熱硬化性樹脂組成物の硬化を安定的に進行させることが可能となる。
【0035】
ビニルベンジル化フェノール樹脂(a)がフェノール性水酸基を平均的に2個よりも多く有する場合であっても、具体的には、ビニルベンジル化フェノール樹脂(a)にフェノール性水酸基を3個以上有する分子が相当割合で含まれている場合であっても、活性エステル樹脂(A)を製造する段階でビニルベンジル化フェノール樹脂(a)の仕込み量と1官能フェノール化合物(b)の仕込み量とを上記のように適切に設定することにより、得られた活性エステル樹脂(A)を含有する熱硬化性樹脂組成物を、硬化が適切に進行する組成物とすることができる。基本的な傾向としては、ビニルベンジル化フェノール樹脂(a)が有するフェノール性水酸基の数が多いほど、すなわち上記のフェノール性水酸基数が2よりも大きくなるほど、上記の当量比(a/b)を低くすること(具体的には0.7以下とすること)が好ましい。
【0036】
特許文献2に記載されるように、熱硬化性樹脂組成物の硬化が適切に進行することを確保する観点から、ビニルベンジル化フェノール樹脂(a)を製造する段階で原料となるフェノール樹脂(α)について2官能体の割合を高めるために抽出などの工程が追加される場合があり、こうした工程は結果的に活性エステル樹脂(A)の生産性を低下させる一因となっていた。これに対し、本実施形態に係る活性エステル樹脂(A)の製造方法では、上記のとおりフェノール樹脂(α)に3官能体が含まれていても、活性エステル樹脂(A)におけるフェノール性水酸基の含有量を適切に抑えることができるため、硬化が適切に進行する熱硬化性樹脂組成物の成分の一つとなる活性エステル樹脂(A)を生産性高く製造することができる。
【0037】
本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、本発明の一実施形態に係る活性エステル樹脂(A)およびエポキシ樹脂(B)を含有する。
【0038】
エポキシ樹脂(B)は公知のものを使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノール、ナフトールなどのキシリレン結合によるアラルキル樹脂のエポキシ化物、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のエポキシ化物、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などの2価以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が挙げることができる。これらエポキシ樹脂は単独でも2種類以上を併用してもよい。
【0039】
これらエポキシ樹脂(B)の中でも、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノール、ナフトールなどのキシリレン結合によるアラルキル樹脂のエポキシ化物、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のエポキシ化物のようなエポキシ当量が大きい樹脂を使用することが、良好な誘電特性を得る観点から好ましい。
【0040】
本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物における、活性エステル樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)の配合比は、活性エステル樹脂(A)に含まれるエステル基とエポキシ樹脂(B)に含まれるエポキシ基の当量比(B/A)が0.5~1.5の範囲にあることが好ましく、0.8~1.2の範囲にあることが特に好ましい。本実施形態に係る活性エステル樹脂(A)のエステル当量の範囲は特に限定されないが、一例として200g/eqから300g/eqの範囲が挙げられる。
【0041】
本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、さらに硬化促進剤を含んでいてもよい。かかる硬化促進剤の例としては、活性エステル樹脂(A)に含まれるビニル基の反応を促進する観点から、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド等有機過酸化物、アゾ化合物、トリアルキルボラン等有機ホウ素化合物などが挙げられる。また、活性エステル樹脂(A)に含まれるエステル基とエポキシ樹脂(B)の硬化促進剤として公知の物質を用いることができる。この様な効果促進剤としては例えば、3級アミン化合物、4級アンモニウム塩、イミダゾール類、ホスフィン化合物、ホスホニウム塩などを挙げることができる。より具体的には、4-ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7などの3級アミン化合物、2-メチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p-メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィンなどのホスフィン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレ-ト、テトラフェニルホスホニウムテトラナフトエ酸ボレ-トなどのホスホニウム塩、トリフェニルホスホニオフェノラ-ト、ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンの反応物などのベタイン状有機リン化合物を挙げることができる。
【0042】
上記の硬化促進剤の使用量は限定されない。硬化促進剤の機能に応じて適宜設定されるべきものである。
【0043】
本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物は、さらに無機充填材を含んでいてもよい。かかる無機充填材としては、非晶性シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、ガラス、珪酸カルシウム、石膏、炭酸カルシウム、マグネサイト、クレー、タルク、マイカ、マグネシア、または硫酸バリウムなどを挙げることができる。中でも、非晶性シリカ、結晶性シリカなどが好ましい。
【0044】
また優れた成形性を維持しつつ、充填材の配合量を高めるためには、細密充填を可能とするような粒度分布の広い球形の充填材を使用することが好ましい。その場合、粒径が0.1~3μmの小粒径の球形無機充填材5~40重量%、粒径が5~30μmの大粒径の球形無機充填材95~60重量%の割合で混合して使用するのが好ましい。
【0045】
本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物が無機充填材を含有する場合において、無機充填材の配合量は無機充填材の種類や用途などに応じて適宜設定される。限定されない例として、無機充填材の配合量を熱硬化性樹脂組成物全体の60質量%~93質量%とすることが挙げられる。
【0046】
本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物には、さらに必要に応じて、溶剤、カップリング剤、離型剤、着色剤、難燃剤、低応力剤、増粘剤などを添加、あるいは予め反応して用いることができる。カップリング剤の例としては、ビニルシラン系、アミノシラン系、エポキシシラン系等のシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤などが挙げられる。
【0047】
本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物を加熱することにより、硬化物を得ることができる。かかる本発明の一実施形態に係る硬化物は、ビニル基を有する活性エステル樹脂(A)に由来する構造部分を有するため、誘電率が低い、誘電正接が低い、など誘電特性に優れる。
【0048】
また、活性エステル樹脂(A)はビニルベンジル基が芳香核に直接結合した構造を有するため、ビニル基が重合反応した際に形成される炭素鎖が、水酸基を利用して導入したビニルベンジルエーテルと比較して分子運動しにくい。このため、本発明の一実施形態に係る硬化物が加熱されても、硬化物における活性エステル樹脂(A)に由来する構造部分は回転運動などが生じにくい。それゆえ、本発明の一実施形態に係る硬化物は、ガラス転移温度が高くなりやすく、耐熱安定性にも優れたものとなりやすい。その一方で、活性エステル樹脂(A)の主鎖がビフェニル構造部位を有するため、架橋点間距離が適切に確保される。それゆえ、本発明の一実施形態に係る硬化物は柔軟性に優れる。
【0049】
本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物を硬化させる温度は、その硬化物の組成に応じて適宜設定される。限定されない例示として、100~250℃の温度範囲で加熱することが挙げられる。
【0050】
硬化のための具体的な作業も限定されない。例えば、本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物を必要に応じて溶媒で希釈し、得られた希釈溶液を基材に塗工して、加熱により乾燥、硬化させる。得られた硬化塗膜を基材から剥すことにより、本発明の一実施形態に係る硬化物(硬化物フィルム)を得ることができる。本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物を成形型内で硬化させることにより、成形材を得ることができる。本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物の硬化物をバインダーとしても用いてもよいし、コーティング材として用いてもよいし、硬化物を含む部材を積層材として用いてもよい。
【0051】
本発明の一実施形態に係る層間絶縁材料は、本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物からなる。例えば、本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物を溶剤に溶解させることにより、回路基板に塗布して絶縁層とするための層間絶縁用ワニスとすることができる。
【0052】
得られた層間絶縁用ワニスを支持フィルム上に展開したのち加熱処理してフィルム状とすれば、層間絶縁材料用途の接着シートとすることができる。この接着シートは多層プリント配線基板における層間絶縁材とすることができる。本発明の一実施形態に係る層間絶縁材料を、半導体封止用に使用する場合は、熱硬化性樹脂組成物は上述したような無機充填材を含有することが好ましい。
【0053】
本発明の一実施形態に係るプリプレグは、本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物の半硬化体とガラス繊維など繊維状補強部材とを備える。このプリプレグは多層プリント配線基板における層間絶縁材とすることができる。本発明の一実施形態に係るプリプレグの製造方法は限定されない。本発明の一実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物を、必要に応じて溶剤を加えてワニス状として、繊維状補強部材に含浸させて加熱処理を行うことにより、本発明の一実施形態に係るプリプレグを製造することができる。
【0054】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0056】
<水酸基当量>
試料をピリジンと過剰の無水酢酸でアセチル化し、試料中に存在する水酸基に消費される無水酢酸から生成する酢酸を、水酸化カリウムアルコール溶液で滴定することで求めた。
【0057】
<GPC分析条件>
(1)使用機器:東ソー社製「HLC-8320 GPC」
(2)カラム:いずれも東ソー社製、「TSKgel superHZ4000」(1本)+「TSKgel superHZ3000」(1本)+「TSKgel superHZ2000」(2本)+「TSKgel superHZ1000」(1本)(各々6.0mm×15cmのカラムを接続)
(3)溶媒:テトラヒドロフラン
(4)流量:0.6ml/min
(5)温度:40℃
(6)検出器:示唆屈折率(RI)計(測定装置「HLC-8320 GPC」内蔵RI検出器)
【0058】
<FD-MS分析条件>
(1)装置:日本電子製「JMS‐T100GCV」
(2)カソード電圧:-10kV
(3)エミッタ電流:0mA→35mA(51.2mA/min.)
(4)測定質量範囲:m/z=10~2000(実施例1)
【0059】
(参考例1)
窒素ガス導入管、温度計、撹拌機を備えた四口の2Lフラスコに、1,6-ジヒドロキシナフタレン128.2g、ハイドロタルサイト(協和化学工業(株)製 商品名KW-500SH)157.0g、メチルイソブチルケトン385.4gを仕込み、60~70℃に昇温した。次いで、クロロメチルスチレン79.4g(AGCセイミケミカル(株)製 商品名CMS-P)を炭酸ガスによる急激な発泡に注意しながら、滴下して添加した。さらに、100~115℃の温度に昇温して、炭酸ガスおよび水を系外へ排出しながら5時間反応させた。得られた反応溶液からハイドロタルサイトを濾過して取り除いた後、メチルイソブチルケトンでハイドロタルサイトを洗浄することで、1,6-ジヒドロキシナフタレンのビニルベンジル化物溶液(A-1)665.5gを得た。固形分収率92.8%、固形分26.3%、水酸基当量127.3g/eqであった。
【0060】
(参考例2)
窒素ガス導入管、温度計、撹拌機を備えた四口の300mLフラスコに、ビニルベンジル化物溶液(A-1)40.0g、1-ナフトール22.1g、メチルイソブチルケトン50.8gを仕込み室温で溶解した。次いで、イソフタル酸クロライド23.7gを仕込み溶解し、20%水酸化ナトリウム水溶液49.1gを20~40℃の範囲内の温度で滴下した後、30~40℃の温度で6時間反応させた。さらに、静置して分離した水層を排出した後、純水でpHが中性になるまで洗浄した。その後、シクロヘキサノン25.8gを徐々に添加しながらメチルイソブチルケトンを減圧留去して、固形分79.1%、理論官能基当量205g/eqのビニル基含有の活性エステル樹脂溶液(B-1)を得た。
【0061】
(実施例1)
窒素ガス導入管、温度計および撹拌機を備えた四口の1Lフラスコに、クレゾールビフェニルアラルキル樹脂(2官能体の含有量が80面積%、150℃でのICI粘度20mPa・s、水酸基当量205g/eq)87.6g、ハイドロタルサイト(協和化学工業社製「KW‐500SH)40.4g、およびトルエンを322.2g仕込み、60~70℃に昇温した。次いで、クロロメチルスチレン19.8g(AGCセイミケミカル社製「CMS‐P」)を炭酸ガスによる急激な発泡に注意しながら、滴下して添加した。上記一般式3の平均繰り返し数nは1.1であった。クレゾールビフェニルアラルキル樹脂のフェノール性水酸基に対するクロロメチルスチレンの当量比は0.30であった。さらに、100~110℃の温度に昇温して、炭酸ガスおよび水を系外へ排出しながら6時間反応させ、40℃まで冷却した。メチル-n-アミルケトンを320.0g徐々に加えつつ、トルエンを留去して溶媒を置換し、得られた反応溶液からハイドロタルサイトを濾過して取り除いた後、メチル-n-アミルケトンでハイドロタルサイトを洗浄することで、クレゾールビフェニルアラルキル樹脂のビニルベンジル化物(ビニルベンジル化フェノール樹脂)溶液(A-2)482.0gを得た。固形分収率95.0%、固形分20.2%、水酸基当量は236.6g/eqであった。
図1および
図2はビニルベンジル化フェノール樹脂溶液(A-2)のGPCチャート(
図1)およびFD-MSチャート(
図2)である。FD-MSより、クレゾールビフェニルアラルキル2量体(M
+=394)にビニルベンジル基(M
+=116)が1個付加した物質(M
+=510)、ビニルベンジル基が2個付加した物質(M
+=626)、クレゾールビフェニルアラルキル3量体(M
+=680)にビニルベンジル基が1個付加した物質(M
+=796)が検出された。
【0062】
(実施例2)
窒素ガス導入管、温度計および撹拌機を備えた四口の1Lフラスコに、フェノールビフェニルアラルキル樹脂(エア・ウォーター社製「HE200C-10」、2官能体の含有量が46面積%、150℃でのICI粘度100mPa・s、水酸基当量206g/eq)103.0g、ハイドロタルサイト(協和化学工業社製「KW‐500SH)85.5g、およびトルエン434.9g仕込み、60~70℃に昇温した。次いで、クロロメチルスチレン42.0g(AGCセイミケミカル社製「CMS‐P」)を炭酸ガスによる急激な発泡に注意しながら、滴下して添加した。フェノールビフェニルアラルキル樹脂のフェノール性水酸基に対するクロロメチルスチレンの当量比は0.55であった。さらに、100~110℃の温度に昇温して、炭酸ガスおよび水を系外へ排出しながら6時間反応させ、40℃まで冷却した。メチル-n-アミルケトンを430.0g徐々に加えつつ、トルエンを留去して溶媒を置換し、得られた反応溶液からハイドロタルサイトを濾過して取り除いた後、メチル-n-アミルケトンでハイドロタルサイトを洗浄することで、フェノールビフェニルアラルキル樹脂のビニルベンジル化物(ビニルベンジル化フェノール樹脂(a))溶液(A-3)662.7gを得た。固形分収率91.5%、固形分18.6%、水酸基当量は269.9g/eqであった。
【0063】
(実施例3)
窒素ガス導入管、温度計および撹拌機を備えた四口の1Lフラスコに、フェノールビフェニルアラルキル樹脂(エア・ウォーター社製「HE200C-17」、2官能体の含有量が39面積%150℃でのICI粘度150mPa・s、水酸基当量210g/eq)105.0g、ハイドロタルサイト(協和化学工業社製「KW‐500SH)85.5g、およびトルエン440.9g仕込み、60~70℃に昇温した。次いで、クロロメチルスチレン42.0g(AGCセイミケミカル社製「CMS‐P」)を炭酸ガスによる急激な発泡に注意しながら、滴下して添加した。フェノールビフェニルアラルキル樹脂のフェノール性水酸基に対するクロロメチルスチレンの当量比は0.55であった。さらに、100~110℃の温度に昇温して、炭酸ガスおよび水を系外へ排出しながら6時間反応させ、40℃に冷却した。メチル-n-アミルケトンを440.0g徐々に加えつつ、トルエンを留去して溶媒を置換し、得られた反応溶液からハイドロタルサイトを濾過して取り除いた後、メチル-n-アミルケトンでハイドロタルサイトを洗浄することで、フェノールビフェニルアラルキル樹脂のビニルベンジル化物(ビニルベンジル化フェノール樹脂(a))溶液(A-4)594.4gを得た。固形分収率89.4%、固形分20.6%、水酸基当量は273.9g/eqであった。
【0064】
(実施例4)
窒素ガス導入管、温度計および撹拌機を備えた四口の500mLフラスコに、ビニルベンジル化物溶液(A-2)240.0g、1‐ナフトール29.6g、およびテトラn‐ブチルアンモニウムブロマイド0.3gを仕込み室温で溶解した。次いで、イソフタル酸クロライド41.7g、メチル-n-アミルケトン21.4gを仕込み溶解し、20%水酸化ナトリウム水溶液81.3gを10~20℃の範囲内の温度で滴下した後、50℃の温度で8時間反応させた。ビニルベンジル化物溶液(A-2)に含まれるビニルベンジル化フェノール樹脂の水酸基と1‐ナフトールの水酸基の当量比は50/50(=1.0)であった。さらに、静置して分離した水層を排出した後、純水でpHが中性になるまで洗浄した。その後、減圧留去で濃縮して、固形分65.1%、理論官能基(エステル基)当量255g/eqのビニル基含有の活性エステル樹脂溶液(B-2)を得た。
図3はビニル基含有活性エステル樹脂溶液(B-2)のGPCチャートである。
【0065】
(実施例5-1)
窒素ガス導入管、温度計および撹拌機を備えた四口の500mLフラスコに、ビニルベンジル化物溶液(A-3)300.0g、1‐ナフトール55.4g、およびテトラn‐ブチルアンモニウムブロマイド0.5gを仕込み室温で溶解した。次いで、イソフタル酸クロライド60.1g、メチル-n-アミルケトン34.1gを仕込み溶解し、20%水酸化ナトリウム水溶液117.1gを10~20℃の範囲内の温度で滴下した後、50℃の温度で8時間反応させた。ビニルベンジル化物溶液(A-3)に含まれるビニルベンジル化フェノール樹脂の水酸基と1‐ナフトールの水酸基の当量比は35/65(=0.54)であった。さらに、静置して分離した水層を排出した後、純水でpHが中性になるまで洗浄した。その後、減圧留去で濃縮して、固形分65.3%、理論官能基(エステル基)当量253g/eqのビニル基含有の活性エステル樹脂溶液(B-3-1)を得た。
【0066】
(実施例5-2)
窒素ガス導入管、温度計および撹拌機を備えた四口の500mLフラスコに、ビニルベンジル化物溶液(A-3)350.0g、1‐ナフトール58.0g、およびテトラn‐ブチルアンモニウムブロマイド0.5gを仕込み室温で溶解した。次いで、イソフタル酸クロライド65.4g、メチル-n-アミルケトン21.9gを仕込み溶解し、20%水酸化ナトリウム水溶液127.6gを10~20℃の範囲内の温度で滴下した後、50℃の温度で8時間反応させた。ビニルベンジル化物溶液(A-3)に含まれるビニルベンジル化フェノール樹脂の水酸基と1‐ナフトールの水酸基の当量比は37.5/62.5(=0.60)であった。さらに、静置して分離した水層を排出した後、純水でpHが中性になるまで洗浄した。その後、減圧留去で濃縮して、固形分65.1%、理論官能基(エステル基)当量256g/eqのビニル基含有の活性エステル樹脂溶液(B-3-2)を得た。
【0067】
(実施例6)
窒素ガス導入管、温度計および撹拌機を備えた四口の300mLフラスコに、ビニルベンジル化物溶液(A-4)280.0g、1‐ナフトール56.4g、およびテトラn‐ブチルアンモニウムブロマイド0.5gを仕込み室温で溶解した。次いで、イソフタル酸クロライド61.1g、メチル-n-アミルケトン62.2gを仕込み溶解し、20%水酸化ナトリウム水溶液119.1gを10~20℃の範囲内の温度で滴下した後、50℃の温度で8時間反応させた。ビニルベンジル化物溶液(A-4)に含まれるビニルベンジル化フェノール樹脂の水酸基と1‐ナフトールの水酸基の当量比は35/65(=0.54)であった。さらに、静置して分離した水層を排出した後、純水でpHが中性になるまで洗浄した。その後、減圧留去で濃縮して、固形分65.7%、理論官能基(エステル基)当量255g/eqのビニル基含有の活性エステル樹脂溶液(B-4)を得た。
【0068】
(比較例1)
窒素ガス導入管、温度計、撹拌機を備えた四口の300mLフラスコに、1-ナフトール36.1g、イソフタル酸クロライド25.3g、トルエン183.5gを仕込み、室温で溶解した。次いで、20%水酸化ナトリウム水溶液52.0gを20~60℃の範囲内の温度で滴下した後、50~60℃の温度で6時間反応させた。その後、反応液を室温まで冷却して、析出した結晶を濾過して回収した。さらに、得られた結晶を純水で洗浄した後、80℃で減圧乾燥し、ジメチルアセトアミドに溶解して固形分30%の活性エステル化合物溶液(B-5)を得た。理論官能基当量は209g/eqであった。
【0069】
(比較例2)
ビフェニルアラルキルフェノール樹脂(エア・ウォーター社製「HE200C-17」、150℃でのICI粘度150mPa・s、水酸基当量210g/eq)をメチルエチルケトン(MEK)に溶解して固形分60%の樹脂溶液(B-6)とした。
【0070】
(参考例3、実施例7から10、ならびに比較例3および4)
参考例2、実施例4、5-1、5-2および6、ならびに比較例1および2において製造した樹脂溶液(B-1~B-6)のそれぞれに、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製「NC-3000H」、エポキシ当量290g/eq)の固形分75%のメチルエチルケトン(MEK)溶液、および4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を混合し、樹脂組成物ワニスを作製した。各樹脂組成物ワニスを製造するための配合量(質量部、固形分換算)は表1に記載のとおりであった。銅箔光沢面に各樹脂組成物ワニスを塗工し、100℃で8分間乾燥し、200℃で6時間硬化させた。硬化後、銅箔から引き剥がして膜厚約80μmの硬化物フィルム(硬化物)を得た。
【0071】
(ガラス転移温度Tgの測定)
参考例3、実施例7から10、ならびに比較例3および4で得られた硬化物フィルムを、所定の大きさにカット(切り出)してガラス転移温度測定のサンプルとした。以下の条件にてサンプルのガラス転移温度Tgを測定した。
測定機器:リガク社製熱機械分析装置「TMA8310evo」
サンプル寸法:幅5mm×長さ15mm×厚さ0.080mm(80μm)
雰囲気:窒素中
測定温度:25~300℃
昇温速度:10℃/分
測定モ-ド:引張
【0072】
(線膨張係数α1の測定)
参考例3、実施例7から10、ならびに比較例3および4で得られた硬化物フィルムを、所定の大きさにカット(切り出)して線膨張係数測定のサンプルとした。以下の条件にてサンプルの線膨張係数α1を測定した。
測定機器:リガク社製熱機械分析装置「TMA8310evo」
サンプル寸法:幅5mm×長さ15mm×厚さ0.080mm(80μm)
雰囲気:窒素中
測定温度:50~100℃
昇温速度:10℃/分
測定モ-ド:引張
【0073】
(機械特性の評価)
参考例3、実施例7から10、ならびに比較例3および4で得られた硬化物フィルムを、所定の大きさにカット(切り出)して機械特性評価のサンプルとした。以下の条件にてサンプルの機械特性を評価した。具体的には、引張弾性率(単位:GPa)、引張強度(単位:MPa)、および伸び率(単位:%)を測定した。
サンプル寸法:幅1cm×長さ9cm(掴み具間距離7cm)×厚さ0.080mm(80μm)
【0074】
(誘電特性の評価)
参考例3、実施例7から10、ならびに比較例3および4で得られた硬化物フィルムで得られた硬化物フィルムを所定の大きさに切り出して、測定用のサンプルとした。下記の測定機器を用いて、以下の条件にてサンプルの誘電特性を測定した。
測定機器:キーサイトテクノロジー社製「ネットワークアナライザーE5071C」
関東電子応用開発社製空洞共振器摂動法誘電率測定装置
周波数:1GHz
サンプル寸法:幅2mm×長さ100mm×厚さ0.080mm(80μm)
【0075】
評価結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
表1に示されるように、本発明に係る熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、活性エステル樹脂(A)を形成するためのフェノール樹脂(α)が3以上の官能基数を有する多官能体を含むものであったが、フェノール樹脂が2官能体を主体とする場合や2官能フェノール化合物(具体的にはジヒドロキシナフタレン)に基づくフェノール化合物から形成された活性エステル樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物と同等の熱特性、機械特性および誘電特性を有していることが確認された。したがって、本発明に係る熱硬化性樹脂組成物やこれに含有される活性エステル樹脂(A)は生産性に優れるものであった。また、2官能フェノール化合物(具体的にはジヒドロキシナフタレン)から形成された活性エステル樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物との対比では、機械特性の中でも特に伸び率に優れることが確認された。したがって、本発明に係る熱硬化性樹脂組成物を用いて形成されたプリント配線板は柔軟性を有するものとなる。