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  • 特許-フルオレン化合物を用いた自己修復材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】フルオレン化合物を用いた自己修復材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/075 20060101AFI20220214BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20220214BHJP
   C08K 3/011 20180101ALI20220214BHJP
   C08F 220/04 20060101ALI20220214BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
C08J3/075 CEY
C08L33/02
C08K3/011
C08F220/04
C08F220/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018163673
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020033518
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】山路 奈々
(72)【発明者】
【氏名】田渕 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-91870(JP,A)
【文献】特開2013-10864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸及びフルオレンアクリレートを重合成分として含むポリマーと、3価の鉄イオンと、水とを含み、前記ポリマーの質量に対して前記水を150~600質量%の割合で含有する、ハイドロゲル。
【請求項2】
前記3価の鉄イオンが、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、鉄(III)アセチルアセトナート、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、三シュウ酸アンモニウム鉄(III)、シュウ酸鉄(III)、トリス(シュウ酸)鉄(III)カリウム、リン酸鉄(III)、ピロリン酸鉄(III)及びp-トルエンスルホン酸鉄(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する鉄イオンである、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項3】
アクリル酸及びフルオレンアクリレートを含むポリマーと、3価の鉄塩とを、前記ポリマーの質量に対して150~600質量%の割合の水中に共存させて、0℃から100℃の温度範囲で重合開始剤を添加することを特徴とする、ハイドロゲルの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のハイドロゲルを用いる自己修復材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸と、フルオレン骨格を有するアクリレート(以下、「フルオレンアクリレート」という。)とからなる自己修復性を有するハイドロゲルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック材料の傷防止対策は、材料表面の硬度を向上させたり、弾性・塑性変形を利用しており、いかに傷を生じさせないかに重点を置いていた。これに対し、近年、自己修復性材料の研究が盛んになっている。自己修復材料は、材料の内部や外部に生じた傷や破断を自ら補修するものであって、この補修の繰り返しにより、材料の長寿命化を可能としている。また、材料の長寿命化により、新たな製造工程を省くことができるため、コストや環境負荷の低減にもつながる。すなわち、自己修復材料は、継続可能な社会に向けたスマート材料という一面も有している。
【0003】
従来、自己修復材料の機能を発現させる手法には、大きく分けて4つの手法が知られている。第1の手法は、反応剤を含むマイクロカプセルや中空フィラーをあらかじめ樹脂に混合しておき、傷の発生によりこれらが破壊されて、新たな共有結合の形成反応を進行させることにより、自己修復を達成するものである(特許文献1)。
【0004】
第2の手法は、ポリマーの主鎖を化学的結合(共有結合)で架橋させることにより、自己修復を達成するものである。この架橋は、熱硬化や、光、紫外線、電子線、電離放射線などの活性エネルギー線による硬化といった、外部からの刺激により達成される(特許文献2)。
【0005】
第3の手法は、物理的結合(非共有結合)を用いて自己修復を達成するものである。例えば、ポリマー内にホストとゲストとなる部位を導入する例がある(特許文献3)。
【0006】
第4の手法は、ポリウレタンのようにポリマーのもつ弾性・塑性変形の回復と水素結合の再結合を利用する手段がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2002/0111434号明細書
【文献】特開2015-160866号公報
【文献】特開2017-71710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、反応剤の入ったマイクロカプセルや中空フィラーを用いる手法の場合、あらかじめそれらを樹脂に分散させる必要がある。
【0009】
化学的結合(共有結合)は不可逆な結合であって、この修復は、たとえ化学的結合が形成されてもその結合部位が破壊されることで回復せず、また、材料が大きく力が加わると変形しやすくなる。
【0010】
また、ポリマー内にホスト-ゲストとなる部位を導入するには機能を発現するモノマーからの製造工程がかかる。
【0011】
本発明の目的は、フルオレン骨格を有していても、外部刺激を用いず、配位、凝集などを利用することにより、穏やかな条件で繰り返し自己修復機能を発現し、また、入手が容易で安価な原料を用いた簡便な手法で製造される自己修復性ハイドロゲルを提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、高い耐熱性、高い屈折率、高い機械的強度などのフルオレン骨格に由来する優れた特性を有する自己修復性ハイドロゲル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、3価の鉄イオンと、アクリル酸とフルオレンアクリレートからなるポリマーとを用いることにより、自己修復性を示すハイドロゲルが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明は、以下の構成からなる。
[1] アクリル酸及びフルオレンアクリレートを重合成分として含むポリマーと、3価の鉄イオンと、水とを含み、前記ポリマーの質量に対して前記水を150~600質量%の割合で含有する、ハイドロゲル。
【0015】
[2] 前記3価の鉄イオンが、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、鉄(III)アセチルアセトナート、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、三シュウ酸アンモニウム鉄(III)、シュウ酸鉄(III)、トリス(シュウ酸)鉄(III)カリウム、リン酸鉄(III)、ピロリン酸鉄(III)及びp-トルエンスルホン酸鉄(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する鉄イオンである、前記[1]に記載のハイドロゲル。
【0016】
[3] アクリル酸及びフルオレンアクリレートを含むポリマーと、3価の鉄塩とを、前記ポリマーの質量に対して150~600質量%の割合の水中に共存させて、0℃から100℃の温度範囲で重合開始剤を添加することを特徴とする、ハイドロゲルの製造方法。
【0017】
[4] 前記[1]または[2]に記載のハイドロゲルを用いる自己修復材料。
【発明の効果】
【0018】
また、本発明によれば、大気中、室温というおだやかな条件で表面のキズだけでなく完全に切断された材料でも自己修復性を有するハイドロゲルを製造することができる。
【0019】
本発明の自己修復材料は、内部、外部のダメージを自ら修復し、これを繰り返すことができ材料を交換する手間が省け、コスト減、環境負荷低減にもつながる。
【0020】
また、フルオレン骨格を有していても自己修復性ハイドロゲルを形成できるため、ハイドロゲルに自己修復性のみならず、高い耐熱性、高い屈折率、高い機械的強度などのフルオレン骨格に由来する優れた特性を有効に付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例2で得られたハイドロゲルのFT-IRの結果を示すチャートである。
図2】実施例2で得られたハイドロゲルを切断後、自己修復したサンプルの様子を示す写真であり、(a)は試験片切断後の様子、(b)は切断した試験片を密着させた様子、(c)は密着させた試験片が自己修復した様子、(d)は自己修復した試験片を持ち上げた様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の自己修復性を有するハイドロゲルは、水溶媒中に、アクリル酸とフルオレンアクリレートとを重合成分として含むポリマーと3価の鉄イオンとを含むことを特徴とする。
【0023】
フルオレンアクリレートとしては、フルオレン骨格とアクリロイル基とを有するモノマーであること以外は特に限定されず、アクリロイル基の数も特に限定されない。例えば、1~10個程度の範囲から選択してもよく、具体的には、アクリロイル基を1個有する単官能アクリレートや、アクリロイル基を2個有する2官能アクリレートのいずれも本発明に用いることができ、通常、2官能アクリレート(ジアクリレート)である場合が多い。
【0024】
アクリロイル基は、フルオレン骨格のいずれの位置に置換していてもよい。また、アクリロイル基は、例えば、フルオレン骨格に直接置換していてもよく、または、2価の炭化水素基を介して、もしくは2価の炭化水素基とエーテル結合とを介して、フルオレン骨格に置換していてもよい。これらのアクリロイル基の結合状態は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。通常、2価の炭化水素基とエーテル結合とを介して置換することが多く、なかでも、炭化水素基がフルオレン骨格に結合し、エーテル結合がアクリロイル基に結合する場合が多い。
【0025】
2価の炭化水素基としては、例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン、メチルエチレン、エチルエチレン等のアルキレン基、例えば、フェニレン、ビフェニレン、ナフチレン等のアリールジイル基が挙げられ、これらアルキレン基とアリールジイル基とは、エーテル結合を介して互いに結合したものであってもよい。2価の炭化水素基における炭素数は、例えばアルキレン基においては、1~6が好ましく、1~4がより好ましく、1~2が特に好ましい。例えばアリールジイル基においては、6~20が好ましく、6~12がより好ましく、6~10が特に好ましい。これらの2価の炭化水素基は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらの2価の炭化水素基のうち、アリールジイル基が好ましい。
【0026】
これらフルオレンアクリレートは、市販の各種のフルオレンアクリレートから適宜選択して用いることができる。より具体的には、例えば、2-(1-ヒドロキシエチル)フルオレニルアクリレート等の単官能アクリレート、2,7-ビス(1-アクリロイルオキシエチリデン)フルオレン等の2官能アクリレートや、例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(BCF)等のカルド骨格(又は9,9-ビスアリールフルオレン骨格)を有するフルオレン系モノマー(又は2つのヒドロキシル基を有するフルオレン化合物)又はそのアルキレンオキシド(アルキレンカーボネート又はハロアルカノール)付加体におけるヒドロキシル基をアクリロイルオキシ基に置換したもの(又は対応するジアクリレート)などが挙げられる。前記アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどの炭素数2~6、好ましくは2~4、さらに好ましくは2~3のアルキレンオキシド(又は対応するアルキレンカーボネート、ハロアルカノール)が挙げられ、通常、エチレンオキシド付加体が挙げられる。なお、前記エチレンオキシド付加体などのアルキレンオキシド付加体におけるアルキレンオキシドの付加モル数としては、前記フルオレン系モノマー1モルに対して、例えば、2~20モル程度の範囲から選択してもよく、好ましくは5~18モル、より好ましくは7~15モル、さらに好ましくは9~13モルである。また、これらフルオレンアクリレートの市販品としては、例えば、大阪ガスケミカル株式会社製の2官能アクリレート、商品名「OGSOL EA-0200」、「OGSOL EA-0300」などが挙げられる。
【0027】
これらのフルオレンアクリレートは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのフルオレンアクリレートのうち、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有するジアクリレート、なかでも、9,9-ビス(アクリロイルオキシアリール)フルオレン、9,9-ビス[アクリロイルオキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン、特に、9,9-ビス[アクリロイルオキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレンが好ましい。なお、「(ポリ)アルコキシ」は、アルコキシ基及びポリアルコキシ基の双方を含む意味に用いる。
【0028】
アクリル酸(以下、アクリル酸モノマーともいう)及びフルオレンアクリレートを重合成分として含むポリマーにおいて、アクリル酸モノマーと、フルオレンアクリレートとの含有割合は、これに限定されないが、アクリル酸モノマーと、フルオレンアクリレートとの総量に対するフルオレンアクリレートの質量割合は、例えば、0.5~30質量%程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~20質量%、1~15質量%、1~10質量%であり、3~10質量%がより好ましく、5~10質量%が特に好ましい。
【0029】
また、ポリマー全体に占めるフルオレンアクリレートの質量割合は、例えば、0.5~30質量%程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~20質量%、1~15質量%、1~10質量%であり、3~10質量%がより好ましく、5~10質量%が特に好ましい。
【0030】
アクリル酸モノマーと、フルオレンアクリレートとの総量に対するアクリル酸モノマーの質量割合は、例えば、70~99.5質量%程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、80~99質量%、85~99質量%、90~99質量%であり、90~97質量%がより好ましく、90~95質量%が特に好ましい。
【0031】
アクリル酸及びフルオレンアクリレートを重合成分として含むポリマーには、さらに第三の重合成分を含んでもよい。第三の重合成分としては、これに限定されないが、例えばフルオレン骨格を含まないアクリレート、メタクリル酸、メタクリレートなどが挙げられる。ポリマー全体に対するアクリル酸モノマーと、フルオレンアクリレートとの総量の質量割合は、例えば、50質量%以上の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であり、実質的に100質量%(アクリル酸モノマー及びフルオレンアクリレートのみで形成されること)が特に好ましい。
【0032】
本発明の自己修復性を有するハイドロゲルは、3価の鉄イオン1分子に対してアクリレート、より詳細には、アクリレートを構成するアクリロイル基(又はカルボニル基)や、アクリル酸に由来するポリマー中のカルボキシル基(又はカルボキシレート)が3個配位するためか、高次網目構造を構築する。また、この時、3価の鉄イオンは架橋点の役割を果たしており、共有結合以外の結合を介して自己修復性を発現している。共有結合以外の結合は、水素結合、イオン結合、配位結合、分子間力、静電的相互作用等が挙げられる。
【0033】
前記3価の鉄イオンの供給源(又は鉄イオン源)としては、3価の鉄を含む化合物(又は3価の鉄イオンを供給可能な水溶性化合物)、例えば、ハロゲン化物、塩又は錯体(以下、これらを総称して、単に鉄塩又は3価の鉄塩ともいう)が挙げられる。具体的には、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)などのハロゲン化物;硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、リン酸鉄(III)、ピロリン酸鉄(III)などの無機酸塩;有機酸塩、例えば、酢酸鉄(III)、シュウ酸鉄(III)などのカルボン酸塩、ベンゼンスルホン酸鉄(III)、p-トルエンスルホン酸鉄(III)、ナフタレンスルホン酸(III)などのスルホン酸塩など;鉄(III)アセチルアセトナート、三シュウ酸アンモニウム鉄(III)、トリス(シュウ酸)鉄(III)カリウムなどの錯体;これらの水和物などが挙げられる。
【0034】
なお、前記錯体の配位子としては、例えば、H(ヒドリド);塩素、臭素などのハロゲン原子;酸素原子;HO(アコ);OH(ヒドロキソ);メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなどのアルコキシ;CO(カルボニル);アセチル、プロピオニルなどのアシル;メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどのアルコキシカルボニル;アセタト;オクサラト;グリシナト;アセチルアセトナト;シクロペンタジエニル基;CN(シアノ)、イソシアノ、NH(アンミン)、NO(ニトロシル)、NO(ニトロ)、NO(ニトラト)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピリジン、2,2’-ビピリジン、1,10-フェナントロリンなどの窒素含有配位子;ホスフィンなどのリン含有配位子、例えば、トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンなどが挙げられる。これらの配位子は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらの配位子のうち、アセチルアセトナトがよく利用される。
【0035】
前記3価の鉄イオンの供給源は、1種単独であっても、または、2種以上を混合していてもよい。また、前記3価の鉄イオンの供給源は、前記例示のなかでも、塩化鉄(III)などのハロゲン化鉄(III)および鉄(III)アセチルアセトナートなどの鉄(III)錯体が好ましく、鉄(III)アセチルアセトナートなどの鉄(III)錯体がより好ましい。
【0036】
前記ハイドロゲル中における前記の3価の鉄イオンの含有量は、前記アクリル酸及びフルオレンアクリレートを含むポリマーの質量に対して、3価の鉄塩換算で0.01~10質量%であり、0.05~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~3質量%、さらに好ましくは0.5~2質量%、なかでも、0.8~1.5質量%である。
【0037】
3価の鉄イオンの前記ハイドロゲル中の含有量が、前記ポリマーの質量に対して多すぎる、例えば、3価の鉄塩換算で25質量%を超えると、3価の鉄イオンがハイドロゲルの形成を妨げるため好ましくない。また、前記ポリマーの質量に対して少なすぎる、例えば、0.05質量%未満であると、自己修復性はあるもののタック性が強くなりハンドリングの面で好ましくない。
【0038】
本発明のハイドロゲルにおいて、水の含有割合は、前記アクリル酸及びフルオレンアクリレートを含むポリマーの質量に対して、150~800質量%であることが好ましく、150~600質量%であることがより好ましく、最も好ましくは200~400質量%である。
【0039】
ハイドロゲルの成分である水の含有量が、前記ポリマーに対して多すぎる、例えば、800質量%を超えると、ハイドロゲルの成形安定性が低下するため好ましくなく、前記ポリマーに対して少なすぎる、例えば、150質量%未満であると、流動性がなくなり自己修復機能を発揮できない。
【0040】
本発明のハイドロゲルは、自己修復機能を有しており、自己修復材料として使用できる。
【0041】
本発明の自己修復材料は、大気中、室温、例えば、20~25℃のおだやかな条件で表面のキズだけでなく完全に切断された材料でも自己修復する自己修復材料である。さらに、フルオレン骨格を含むため、高い耐熱性、高い屈折率、高い機械的強度などを有している。
【0042】
続いて、本発明の自己修復性を有するハイドロゲルの製造方法について説明する。
【0043】
本発明の自己修復性を有するハイドロゲルは、水溶媒中にアクリル酸モノマー及びフルオレンアクリレートを3価の鉄塩と共存させて、0℃から100℃の温度範囲で重合開始剤を添加して重合することにより自己修復性を有するハイドロゲルを製造することができる。
【0044】
製造は、反応容器中にアクリル酸モノマー及びフルオレンアクリレート並びに3価の鉄塩を入れて、撹拌混合した後に、水、重合開始剤を添加し撹拌することによって行う。
【0045】
反応容器としては、通常化学反応に用いられるステンレス製の容器、ガラス製容器、テフロン(登録商標)でコーティングした容器等であれば良く、実験室レベルではバイアル瓶、シュレンク、フラスコ、試験管、ポータブルリアクター、オートクレーブ等がある。
【0046】
反応容器中に加えるアクリル酸モノマー及びフルオレンアクリレート並びに3価の鉄塩の加える順序は問わず、加えた後撹拌混合を行う。撹拌時間は、30分も行えば十分である。
【0047】
その後、反応容器に水、重合開始剤の順に加えてハイドロゲルが生成するまで撹拌を行う。反応温度は、室温で行えばよいが0~100℃の範囲の温度、好ましくは30~50℃で行うこともできる。通常120分もあればハイドロゲルが生成するが、ハイドロゲルの生成が遅い反応においては、100℃以下の温度で加温して反応を促進してもよい。
【0048】
撹拌方法は、通常化学反応に用いられる撹拌装置を用いればよい。具体例としては、スターラーバー、撹拌羽、振とう機、超音波、混練機等がある。
【0049】
本反応に係る重合開始剤の例は、クメンヒドロペルオキシシド、ペルオキソ二硫化アンモニウム(又はペルオキソ二硫酸アンモニウム)、ペルオキソ二硫化カリウム(又はペルオキソ二硫酸アンモニウム)などの過硫酸塩、アゾビス-2-アミジノプロパン・塩酸塩、過酸化水素、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、2,2′-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2′-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ニ塩酸塩、4,4′-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等が挙げられる。これらの重合開始剤のうち、1種単独、または2種以上を混合して重合開始剤として用いてもよい。なかでもペルオキソ二硫化アンモニウム(又はペルオキソ二硫酸アンモニウム)などの過硫酸塩が好ましい。
【0050】
重合開始剤の質量割合は、ポリマーを形成する全重合成分の合計質量に対して、例えば、0.1~10質量%程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0.3~8質量%、0.5~5質量%、0.8~3質量%、1~2質量%である。
【実施例
【0051】
(FT-IRの測定)
ATR法にてFT-IR(装置名:iS50FT-IR(NICOLET社製))を用いて測定した。
【0052】
(比較例1)
50mLバイアル瓶に回転子を入れ、アクリル酸モノマー8.00g、蒸留水32mL、鉄(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))0.0893gを仕込み、室温で30分撹拌した。その後、ペルオキソ二硫化アンモニウム0.1249gを添加し、さらに2時間撹拌した。続いてこの反応混合液を脱気し、40℃の水浴で1時間加温することにより、ハイドロゲルを得た。
【0053】
(実施例1)
50mLバイアル瓶に回転子を入れ、アクリル酸7.92g、フルオレンアクリレート0.08g(大阪ガスケミカル株式会社製の2官能アクリレート、商品名「OGSOL EA-0300」)、鉄(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))0.0884gを仕込み、室温で30分撹拌した。その後、蒸留水32mL、ペルオキソ二硫化アンモニウム0.1231gを添加し、すぐさま40℃に加熱したオイルバスで1時間加熱撹拌することにより、ハイドロゲルを得た。
【0054】
(実施例2)
50mLバイアル瓶に回転子を入れ、アクリル酸7.60g、フルオレンアクリレート0.40g(前出の「OGSOL EA-0300」)、鉄(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))0.0880gを仕込み、室温で30分撹拌した。その後、蒸留水32mL、ペルオキソ二硫化アンモニウム0.1237gを添加し、すぐさま40℃に加熱したオイルバスで3.5時間加熱撹拌することにより、ハイドロゲルを得た。得られたハイドロゲルのFT-IRを図1に、自己修復の様子を図2に示した。
【0055】
図1から1700~1600cm-1付近にC=O伸縮、1450cm-1にC-H変角振動、1300~1100cm-1付近にC-O伸縮の吸収帯があり、アクリル酸モノマーからポリアクリレートの骨格を形成していることがわかる。
【0056】
図2は、実施例2で得られたハイドロゲルを切断後、自己修復したサンプルの様子を示す写真である。(a)ハイドロゲルを切断後、(b)切断面を重ね合わせて(密着して)、(c)室温で一晩(20~25℃程度、12時間程度)静置すると、ハイドロゲルは自己修復し、(d)リフトし両端を引き伸ばしても分離せず自己修復できている様子がわかる。
【0057】
(実施例3)
50mLバイアル瓶に回転子を入れ、アクリル酸7.20g、フルオレンアクリレート0.80g(前出の「OGSOL EA-0300」)、鉄(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))0.0879gを仕込み、室温で30分撹拌した。その後、蒸留水32mL、ペルオキソ二硫化アンモニウム0.1237gを添加し、すぐさま40℃に加熱したオイルバスで3時間加熱撹拌することにより、ハイドロゲルを得た。
【0058】
(実施例4)
50mLバイアル瓶に回転子を入れ、アクリル酸6.40g、フルオレンアクリレート1.60g(前出の「OGSOL EA-0300」)、鉄(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))0.0884gを仕込み、室温で30分撹拌した。その後、蒸留水32mL、ペルオキソ二硫化アンモニウム0.1240gを添加し、すぐさま40℃に加熱したオイルバスで3時間加熱撹拌することにより、ハイドロゲルを得た。
【0059】
(比較例2)
50mLバイアル瓶に回転子を入れ、アクリル酸7.60g、フルオレンアクリレート0.40g(前出の「OGSOL EA-0300」)、鉄(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))0.0885gを仕込み、室温で30分撹拌した。その後、蒸留水8mL、ペルオキソ二硫化アンモニウム0.1226gを添加し、すぐさま40℃に加熱したオイルバスで4時間加熱撹拌することによりゲルを得た。
【0060】
(実施例5)
50mLバイアル瓶に回転子を入れ、アクリル酸7.60g、フルオレンアクリレート0.40g(前出の「OGSOL EA-0300」)、鉄(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))0.0885gを仕込み、室温で30分撹拌した。その後、蒸留水12mL、ペルオキソ二硫化アンモニウム0.1236gを添加し、すぐさま40℃に加熱したオイルバスで2時間加熱撹拌することにより、ハイドロゲルを得た。
【0061】
(実施例6)
50mLバイアル瓶に回転子を入れ、アクリル酸7.60g、フルオレンアクリレート0.40g(前出の「OGSOL EA-0300」)、鉄(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))0.0883gを仕込み、室温で30分撹拌した。その後、蒸留水16mL、ペルオキソ二硫化アンモニウム0.1231gを添加し、すぐさま40℃に加熱したオイルバスで2時間加熱撹拌することにより、ハイドロゲルを得た。
【0062】
(実施例7)
バイアル瓶に回転子を入れ、アクリル酸7.60g、フルオレンアクリレート0.40 g(前出の「OGSOL EA-0300」)、鉄(III)アセチルアセトナート(Fe(acac))0.0880gを仕込み、室温で30分撹拌した。その後、蒸留水48mL、ペルオキソ二硫化アンモニウム0.1240gを添加し、すぐさま40℃に加熱したオイルバスで3.5時間加熱撹拌することにより、ハイドロゲルを得た。
【0063】
【表1】
【0064】
得られた反応混合物がゲル化したものを○、水溶液のままでゲル化が見られなかったものを×と判断した。表1に示すように、実施例1~7および比較例1~2のいずれにおいても、反応生成物にはゲル化が見られた。
【0065】
表1には、実施例1~7及び比較例1~2で得られた反応混合物についての自己修復性の結果を示した。自己修復性は、得られた反応生成物(ゲル)を切断した後、その切断面を再度ピンセットで持ち上げることができれば修復性あり、ピンセットで持ち上げ切片が脱離し、接着しなかったものを修復性なしと判断した。
【0066】
この結果から、用いるアクリレートにフルオレンアクリレートを添加しても自己修復性ゲルが得られることが分かった。
【0067】
また、ハイドロゲルの水に対する水分量により自己修復性に影響が出ることが分かった。モノマーに対する水分量が100質量%の比較例2では自己修復性を示さず、モノマーに対する水分量が150質量%の実施例5では自己修復性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の自己修復性ゲルは、その可逆的な結合能を活かして、自動車や家具、PC、スマートフォンのコーティング材料、生体デバイス、吸湿剤、放湿材、接着剤、衝撃吸収材、防音材、防振材、電解質等の分野に応用できる可能性がある。
図1
図2