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特許7023211ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法
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  • 特許-ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法 図1
  • 特許-ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法 図2A
  • 特許-ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法 図2B
  • 特許-ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法 図3
  • 特許-ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法 図4
  • 特許-ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法 図5
  • 特許-ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法 図6
  • 特許-ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法 図7A
  • 特許-ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法 図7B
  • 特許-ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法 図8A
  • 特許-ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法 図8B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/306 20060101AFI20220214BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20220214BHJP
   H01L 21/308 20060101ALI20220214BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20220214BHJP
   B24B 37/12 20120101ALI20220214BHJP
【FI】
H01L21/306 B
H01L21/304 622P
H01L21/308 B
B24B27/06 D
B24B37/12 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018199309
(22)【出願日】2018-10-23
(65)【公開番号】P2020068266
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000184713
【氏名又は名称】SUMCO TECHXIV株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】大久保 勝也
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-294682(JP,A)
【文献】特開2011-103354(JP,A)
【文献】特開平09-306897(JP,A)
【文献】特開2009-076227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/306
H01L 21/304
H01L 21/308
B24B 27/06
B24B 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンインゴットをスライスしてスライスドウェーハを得るスライス工程と、
前記スライスドウェーハをラッピングしてラッピングウェーハを得るラッピング工程と、
前記ラッピングウェーハをエッチングするエッチング工程と、
を少なくとも経て得られる、裏面が非鏡面であるポリッシュドシリコンウェーハを製造する過程での前記エッチング工程におけるエッチング条件の調整方法であって、
前記ポリッシュドシリコンウェーハの、入射角θでのJIS Z 8741:1997に従う前記裏面の光沢度Gs(θ)が、下記式[1],[2]:
0.8×θ-14.0≦Gs(θ)≦0.8×θ-10.0・・・[1]
2.0≦Gs(θ) ・・・[2]
(ただし、式[1],[2]において、15°≦θ≦25°である)
を満足するよう、前記エッチング条件を調整することを特徴とする、ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法。
【請求項2】
入射角θが20°のときの前記光沢度が2.0%以上6.0%以下となるよう前記エッチング条件を調整する、請求項1に記載のポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法。
【請求項3】
前記エッチング条件はエッチングレート及びバブリングオフ時間の少なくともいずれかにより調整される、請求項1又は2に記載のポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項のエッチング条件調整方法により調整されたエッチング条件を用いて前記エッチング工程を行うことを特徴とする、ポリッシュドシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法及びそれを用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法に関し、特に、裏面が非鏡面であるポリッシュドシリコンウェーハを製造する過程におけるエッチング条件の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハの表面を研磨したポリッシュドシリコンウェーハが知られている。ポリッシュドシリコンウェーハは、鏡面研磨の観点では、その表裏面が鏡面研磨されたウェーハと、デバイス素子形成面のみが鏡面研磨され、裏面が非鏡面であるウェーハとに大別される。以下、本明細書において後者を特にPWウェーハと略称する場合がある。
【0003】
片面のみが鏡面研磨され、裏面が非鏡面であるPWウェーハは、直径200mmなどの小径ウェーハで普及しており、半導体デバイス製造用の半導体基板として広く用いられている。なお、直径300mm以上のシリコンウェーハは、表裏面共に鏡面研磨面とされることが一般的である。
【0004】
図1に示すように、こうした裏面が非鏡面であるPWウェーハは一般的にシリコンインゴットをスライスしてスライスドウェーハを得るスライス工程と、前記スライスドウェーハをラッピングしてラッピングウェーハを得るラッピング工程と、前記ラッピングウェーハをエッチングするエッチング工程と、を経ることで製造される。エッチング工程後には通常、洗浄工程、デバイス形成面側の鏡面研磨工程及び検査工程などのその他の工程も通常行われ、最終製品としてのPWウェーハが半導体デバイスメーカに出荷される。
【0005】
図2Aの模式図を参照する。特許文献1に例示されるように、出荷されたPWウェーハ10には、半導体デバイスメーカによりPWウェーハ10の裏面10Bにアラインメントマーク10Cが付与され、その後、鏡面研磨面であるPWウェーハの表面(おもて面)10Aに半導体デバイス構造が形成されることがある。アラインメントマーク10Cの具体例として、図2Bに示すように、特許文献2に例示される十字型のアラインメントマークなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-90112号公報
【文献】特開2011-155300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、PWウェーハの非鏡面である裏面にアラインメントマークを付与する場合、読み取りが良好なものと、不良なものが発生する場合があり、その原因は不明であった。PWウェーハの製造歩留まりを改善するため、アラインメントマークを読み取り良好とできる技術を確立する必要がある。
【0008】
本発明者は、上述したアラインメントマークの読み取り良否の差が生じる原因について鋭意検討したところ、異なる製造ラインにより作製されたPWウェーハの読み取り良否率に有意な差が見られた。そこで本発明者は、異なる製造ラインで作製されたPWウェーハを比較して、非鏡面の裏面側に設けられるアラインメントマークの読み取りに影響を及ぼしうると想定される表面粗さRa及び60°入射での光沢度(入射角度60°はJEITA EM-3602準拠)を評価したところ、実質的な差がなかった。
【0009】
図3に、製造ラインA,Bでそれぞれ作製されたPWウェーハの表面粗さプロファイル及びJIS B 0601:2001規定の表面粗さパラメータを示す。さらに、上記それぞれのPWウェーハの光学顕微鏡写真(倍率:100倍)も、図3に併せて示す。なお、製造ラインAにより得られるPWウェーハの読み取り良否率は製造ラインBのものよりも優れるものである。図3に示す製造ラインA,Bの各サンプルは、それらの中からアラインメントマークを付与した場合の読み取り結果が良好であったものを抽出したものである。
【0010】
図3に示されるように、それぞれのPWウェーハの表面粗さRa及び入射角60°での光沢度は実質的に同じと言えるものの、光学顕微鏡写真を参照すれば、明暗の差が認められる。アラインメントマークの読み取り良否率の傾向が製造ライン別で異なる理由は、アラインメントマークと、裏面とのコントラストが原因であると本発明者は考えた。
【0011】
そこで、顕微鏡写真における明暗の差が製造ライン別で生じていた原因を本発明者はさらに検討した。製造ラインAと製造ラインBとで作製されるPWウェーハは、表面粗さRa及び60°入射角での光沢度が実質的に同程度であるものの、裏面の粗さプロファイルを詳細に観察すると、起伏の差があることが確認できる。ここで図4を参照するように、光沢度の測定の原理は、まず、光源LSから規定された入射角θによる入射光を試料Tの表面(試料面)に照射する。そして、該表面にて反射角θ’で反射した反射光の反射光束φsを受光器LDで測定する。同一条件における屈折率n:1.567のガラス表面の反射光束φosを基準とし、こうして得られた反射光束φsと、反射光束φosとの比で光沢度Gs(θ)が定義される。具体的には、Gs(θ)=(φs/φos)×100(%)というものである。顕微鏡の測定原理と併せて考えれば、図3において観察される表面粗さプロファイルにおける製造ライン別の起伏の差と、顕微鏡写真の明暗の差は、低角度入射(垂直入射に近い)での光沢度を指標とすることで適切に評価できると本発明者は考えた。
【0012】
そこで、図3において観察した両PWウェーハの、低角度入射(入射角20°)での光沢度を測定し、併せて参照用に高角度入射(入射角85°)での光沢度をさらに測定した。結果を図5に示す。入射角度60°での光沢度は製造ラインAで41.4%であり、製造ラインBでは40.16%であり、両者の比は1.03(=41.4/40.16、すなわち3%程度の差)である。一方、入射角度20°での光沢度は製造ラインAで3.65%であり、製造ラインBでは4.67%であり、両者の比は0.78(=3.65/4.67、すなわち22%程度の差)であり、低入射角度での光沢度の差は大きい。低角度入射での光沢度の差が顕微鏡写真における明暗の差に繋がり、このことがアラインメントマークの読み取り良否率に影響を及ぼすと本発明者は考えた。なお、入射角度85°での光沢度は製造ラインAで74.37%であり、製造ラインBでは69.9%であり、両者の比は1.06(=74.37/69.9、すなわち6%程度の差)である。前述した光沢度の測定原理と併せて考えると、やはり低角度入射での光沢度を指標とすることが顕微鏡写真の明暗の差の評価として適切である。
【0013】
そこで、低角度入射での光沢度を指標として適正範囲の光沢度を確保すれば、アラインメントマークの読み取りの良否率を大幅に改善できることを本発明者は知見した。そのため、低入射角度での光沢度の範囲を適正範囲に満足できるよう、PWウェーハの製造条件を調整(条件出し)できる技術を確立することを、新たな課題として本発明者は認識した。
【0014】
本発明者はさらに鋭意検討した。PWウェーハへの非鏡面である裏面への光沢度に影響を及ぼす工程は種々考えられるものの、裏面光沢度への影響が支配的となるのはラッピング後(エッチング前の面取りは任意)のエッチング工程におけるエッチング条件であると本発明者は考えた。エッチング工程後には、(後にデバイス形成面となる)おもて面側の片面研磨(いわゆるSSP:Single Side Polish)が行われ得るものの、裏面とは反対側の面への加工であり、その影響は小さい。また、洗浄工程による裏面光沢度への影響は軽微であると考えられる。そこで、PWウェーハの裏面の低角度入射での光沢度が適正となるよう、エッチング条件を調整する必要がある。
【0015】
そこで本発明は、ポリッシュドシリコンウェーハの非鏡面である裏面にアラインメントマークを付与した場合に、アラインメントマークの読み取り良否率を改善することのできるポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法の提供を目的とする。さらに本発明は、このエッチング条件調整方法を用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者が上記課題を解決するため鋭意検討したところ、上述した一般的な入射角60°(JEITA EM-3602)よりも低角度入射角での光沢度の適正範囲を定め、さらにこの適正範囲を実現するようエッチング条件を調整することで、アラインメントマークの読み取り良否率を改善できることを知見した。本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
【0017】
(1)シリコンインゴットをスライスしてスライスドウェーハを得るスライス工程と、
前記スライスドウェーハをラッピングしてラッピングウェーハを得るラッピング工程と、
前記ラッピングウェーハをエッチングするエッチング工程と、
を少なくとも経て得られる、裏面が非鏡面であるポリッシュドシリコンウェーハを製造する過程での前記エッチング工程におけるエッチング条件の調整方法であって、
前記ポリッシュドシリコンウェーハの、入射角θでのJIS Z 8741:1997に従う前記裏面の光沢度Gs(θ)が、下記式[1],[2]:
0.8×θ-14.0≦Gs(θ)≦0.8×θ-10.0・・・[1]
2.0≦Gs(θ) ・・・[2]
(ただし、式[1],[2]において、15°≦θ≦25°である)
を満足するよう、前記エッチング条件を調整することを特徴とする、ポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法
【0018】
(2)入射角θが20°のときの前記光沢度が2.0%以上6.0%以下となるよう前記エッチング条件を調整する、前記(1)に記載のポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法。
【0019】
(3)前記エッチング条件はエッチングレート及びバブリングオフ時間の少なくともいずれかにより調整される、前記(1)又は(2)に記載のポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法。
【0020】
(4)前記(1)~(3)のいずれかのエッチング条件調整方法により調整されたエッチング条件を用いて前記エッチング工程を行うことを特徴とする、ポリッシュドシリコンウェーハの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ポリッシュドシリコンウェーハの非鏡面である裏面にアラインメントマークを付与した場合に、アラインメントマークの読み取り良否率を改善することのできるポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法を提供することができる。さらに本発明によれば、このエッチング条件調整方法を用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一般的なPWウェーハのウェーハプロセス及びデバイスプロセスを示すフローチャートである。
図2A】従来公知の、PWウェーハの裏面にアラインメントマークが付与されたときの模式断面図である。
図2B】従来公知の、図2Aにおけるアラインメントマークの一例を示す模式図である。
図3】本発明者の検討による製造ライン別の裏面粗さプロファイル及びそれらの顕微鏡写真を示す図である。
図4】従来公知の、光沢度の測定原理を示す模式図である。
図5】本発明者の検討による製造ライン別の入射角度とその光沢度を対比するグラフである。
図6】本発明の一実施形態における入射角度とその角度における光沢度の適正範囲を示すグラフである。
図7A】実施例1におけるエッチングレートと、入射角20°での光沢度との関係を示すグラフである。
図7B】実施例1におけるエッチングレートと、入射角60°での光沢度との関係を示すグラフである。
図8A】実施例2におけるバブリングオフ時間と、入射角20°での光沢度との関係を示すグラフである。
図8B】実施例2におけるバブリングオフ時間と、入射角60°での光沢度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態の説明に先立ち、本明細書における「光沢度」について説明する。光沢度の測定値はJIS Z 8741:1997に従うものとする。ただし、光沢度を測定する際の入射角度θは、15°以上25°以下の範囲内で適宜設定して、当該角度での光沢度を測定するものとし、上記規格で定められていない入射角度での測定値を対象とする。また、光沢度は、最終的に得られるPWウェーハの裏面を測定するものであるものの、PWウェーハのエッチング後の洗浄及び表面加工等の影響は軽微であって、エッチング工程におけるエッチング条件が光沢度にとって支配的であることは、前述のとおりである。
【0024】
また、PWウェーハが製造される製造過程において、各種の加工処理が施された後のウェーハのうち、特にスライス工程後のスライスドウェーハ、ラッピング工程後のウェーハをラッピングウェーハと称する。特に加工処理段階を区別しない場合には、単に「ウェーハ」と称する。
【0025】
(エッチング条件の調整方法)
本発明の一実施形態に従うポリッシュドシリコンウェーハ(PWウェーハ)のエッチング条件調整方法は、シリコンインゴットをスライスしてスライスドウェーハを得るスライス工程と、前記スライスドウェーハをラッピングしてラッピングウェーハを得るラッピング工程と、前記ラッピングウェーハをエッチングするエッチング工程と、を少なくとも経て得られる、裏面が非鏡面であるポリッシュドシリコンウェーハ(PWウェーハ)を製造する過程での前記エッチング工程におけるエッチング条件の調整方法である。そして、本実施形態によるエッチング条件調整方法では、前記ポリッシュドシリコンウェーハ(PWウェーハ)の、入射角θでのJIS Z 8741:1997に従う前記裏面の光沢度Gs(θ)が、下記式[1],[2]:
0.8×θ-14.0≦Gs(θ)≦0.8×θ-10.0・・・[1]
2.0≦Gs(θ) ・・・[2]
(式[1],[2]において、15°≦θ≦25°である)
を満足するよう、前記エッチング条件を調整するものである。
【0026】
すなわち、本実施形態では、入射角θにおけるPWウェーハ裏面の光沢度Gs(θ)の範囲を、図6のグラフを参照する範囲となるよう、エッチング工程におけるエッチング条件を調整する。前述のとおり、PWウェーハの裏面にアラインメントマークを付与したときのアラインメントマークの読み取り良否率は、低入射角度(垂直入射に近い)での光沢度の影響が大きいことを本発明者は知見した。そして、光沢度Gs(θ)が上記式[1]を満足すれば、アラインメントマークを付した際の、その読み取り良否率を大幅に改善できることを本発明者は確認した。なお、光沢度が低すぎるとエッチングによるダメージ除去が少なすぎて面粗さ異常となるおそれがあるため、下限を式[2]のとおりとする。また、本実施形態においてPWウェーハ裏面が非鏡面であるとは、表面粗さRa(JIS B 0601:2001)が0.12μm~0.20μmであるものを意味するものとする。
【0027】
Gs(θ)を式[1],[2]の範囲内とするようなエッチング条件は種々の条件により調整可能であり、詳細は後述する。例えばエッチングレートを大きくすれば光沢度は大きくなる傾向にあり、バブリングオフ時間を長くすれば光沢度は大きくなる傾向にあるため、各種条件を適宜設定して、PWウェーハ裏面の光沢度を所望の範囲内とするように調整できる。また、例えば、第1のエッチング条件により第1のラッピングウェーハをエッチングし、その後のウェーハプロセスを経て得られる第1のPWウェーハの裏面の光沢度を測定し、エッチング条件のみを変更した第2のエッチング条件により第2のラッピングウェーハをエッチングし、その後のウェーハプロセスを経て得られる第2のPWウェーハの裏面の光沢度を測定することで、エッチング条件と、それに伴う光沢度とを調整することができる。
【0028】
特に、入射角θが20°のときの光沢度が2.0%以上6.0%以下となるよう、エッチング条件を調整することが好ましい。入射角θが20°のときの光沢度が2.0%以上6.0%以下となるようにすれば、アラインメントマークの読み取りを確実なものとできることを本発明者は実験的に確認した。以下、本実施形態についてさらに順次説明する。
【0029】
<スライス工程>
PWウェーハを製造する際のスライス工程は一般的な手法により行うことができる。例えば、チョクラルスキー(Czochralski:CZ)法や浮遊帯溶融(FZ:Floating Zone)法で育成された単結晶シリコンインゴットをワイヤーソー等でスライスして、スライスドウェーハを得ることができる。
【0030】
<ラッピング工程>
スライス工程により得られたスライスドウェーハをラッピングするラッピング工程も、一般的な手法により行うことができる。一般的なラッピング装置の定盤には研磨布は貼付されず、ウェーハを全面にわたり所定の厚さに平坦に仕上げることを目的としてラッピング(研削)を行う。一般的には、鋳鉄等で作製された定盤面によってウェーハ表裏面を機械研磨(メカニカル研磨)する。また、ラッピング工程では、純水に界面活性剤、防錆剤などを添加し、さらにアルミナ等の砥粒が添加された研磨液が用いられることが一般的である。ラッピングを経たラッピングウェーハの表裏面は、表裏面共に梨地面と呼ばれる非鏡面の状態となる。なお、エッチング工程後に行われ得るポリッシング(研磨)工程とラッピングは以下の点で異なる。ポリッシング工程ではウェーハの鏡面研磨加工を行うために、研磨装置の定盤には研磨布が必須となり、また、一般的に化学機械研磨(CMP研磨)が行われる。化学機械研磨を行うためには、アルカリなどのエッチング作用がある研磨液にシリカ等の砥粒を添加した研磨液を用いることが通常である。
【0031】
<エッチング工程>
ラッピング工程を経て得られたラッピングウェーハに対し、PWウェーハの裏面の光沢度Gs(θ)が前述の式[1],[2]を満たすエッチング条件の下、エッチング工程を行う。ラッピングウェーハに対するエッチング処理は通常の手法を採用することができ、例えばフッ酸及び硝酸などが所定の比率で混合された混酸を調製し、該混酸が充填された攪拌羽根等を有する攪拌槽内にラッピングウェーハを投入し、ウェーハを攪拌しながら所定時間浸漬するなどすればよい。この際にバブリング装置により撹拌槽内の混酸をバブリングするなどしてもよい。以下のエッチング条件のパラメータが光沢度Gs(θ)に影響を及ぼし得る。
・エッチング取り代
・エッチングレート
・混酸条件:液温、混酸の組成及び混合比率、混酸添加剤、混酸循環量
・ウェーハ操作条件:ウェーハ回転数、揺動幅、揺動時間など
・バブリング条件:バブリング流量、スリットからのバブリング位置、バブリング管断面形状、バブリングオフ時間
【0032】
エッチング条件の調整により、式[1],[2]を満足する光沢度Gs(θ)を得るためには、これらの中でも、エッチング条件調整の自由度が高いエッチング取り代、液温、エッチングレート、バブリングオフ時間を変更することが好ましい。特に調整容易かつ、製品仕様に影響が少ないエッチングレート及びバブリングオフ時間の少なくともいずれかにより調整することが好ましい。
【0033】
なお、PWウェーハ裏面のアラインメントマークが付与される位置(センター又はエッジから所定距離等)に応じて光沢度Gs(θ)が式[1],[2]を満足するようにエッチング条件を調整すればよい。PWウェーハの裏面全域において光沢度Gs(θ)が式[1],[2]を満足するようにエッチング条件を調整することは好ましいものの、必須ではない。
【0034】
<その他の工程>
PWウェーハを得るためには、エッチング工程後に洗浄工程、片面研磨(ポリッシング)工程、検査工程などが行われ得るが、これらの工程がPWウェーハ裏面の光沢度に与える影響は軽微であり、一般的な工程を適宜行ってもよい。なお、上述したエッチング工程では酸によるエッチングが行われるのに対して、洗浄工程では通常アルカリ液による洗浄が行われる。
【0035】
<面取り工程>
また、前述のラッピング工程に先立ち、あるいは、ラッピング工程及びエッチング工程の間にウェーハの面取りを行う面取り工程が行われ得るが、これも任意の工程である。
【0036】
また、本実施形態が対象とする裏面が非鏡面であるウェーハの直径は200mm以下であることが一般的であるが、それより大きな直径(例えば300mm又は450mm)であっても裏面が非鏡面であれば本実施形態を適用することができる。
【0037】
(製造方法)
また、本発明によるポリッシュドシリコンウェーハの製造方法は、上述したエッチング条件調整方法により調整されたエッチング条件を用いてエッチング工程を行うものであり、前述のスライス工程、ラッピング工程、エッチング工程などを経て、PWウェーハを製造することができる。
【実施例1】
【0038】
(サンプル11)
直径200mmの単結晶シリコンインゴットをスライスし、ウェーハ面取り処理、ラッピング処理及び仕上げ面取り処理を施してラッピングウェーハを得た。フッ酸、硝酸及び酢酸からなる混酸が充填された攪拌槽内にラッピングウェーハを投入し、バブリング装置を用いてバブリングのオン・オフ時間を制御しつつ、ラッピングウェーハを攪拌しながら所定のエッチング条件(なお、サンプル11のエッチングレートは1.50μm/秒であり、エッチング取り代は30μmである)に従いエッチング処理を行った。そして、エッチング後のウェーハに対し洗浄及び片面研磨処理を施し、裏面が非鏡面である、サンプル11に係るPWウェーハ(以下、「サンプル11」)を得た。
【0039】
サンプル11の裏面の(ウェーハエッジ10mm)における光沢度を、日本電色工業社製光沢度測定器(型番VG7000;JIS Z 8741:1997準拠)を用いて、入射角20°で測定したところ、光沢度は6.5%であった。なお、入射角60°での同じ測定位置での光沢度は55%であった。
【0040】
(サンプル12~サンプル16)
サンプル11を作製する際のエッチングレート1.50μm/秒をそれぞれ1.40μm/秒、1.25μm/秒、1.13μm/秒、1.05μm/秒、0.82μm/秒とした以外は、サンプル11と同様にしてPWウェーハを作製し、サンプル12~16を得た。エッチング取り代はいずれも30μmであり、サンプル11と同じである。そして、サンプル12~16の入射角20°及び60°のそれぞれの光沢度を、サンプル11と同様にして測定した。エッチングレートと入射角20°での光沢度との対応関係を図7Aのグラフに示し、エッチングレートと入射角60°での光沢度との対応関係を図7Bのグラフに示す。
【0041】
そして、サンプル11に対してアラインメントマークを付与した場合、アラインメントマークを読み取ることができなかったが、サンプル12~15にアラインメントマークを付与した場合はいずれもアラインメントマークを読み取ることができ、良好な結果であった。ただし、サンプル16の光沢度は2%未満であるため、アライメントマークの読取率低下が見られた。サンプル16の顕微鏡観察結果において、アライメントマーク内にマーキング未完成部分が存在し、面粗さ異常と判定されたためである。
【実施例2】
【0042】
(サンプル21)
まず、実施例1と同様に、まず直径200mmの単結晶シリコンインゴットをスライスし、ウェーハ面取り処理、ラッピング処理及び仕上げ面取り処理を施してラッピングウェーハを得た。次いで、フッ酸、硝酸及び酢酸からなる混酸が充填された攪拌槽内にラッピングウェーハを投入し、バブリング装置を用いてバブリングのオン・オフ時間を制御しつつ、ラッピングウェーハを攪拌しながら所定のエッチング条件(なお、サンプル21のバブリングオフ時間は20秒である)に従いエッチング処理(エッチングレートは1.25μm/秒である)を行った。そして、エッチング後のウェーハに対し洗浄及び片面研磨処理を施し、裏面が非鏡面である、サンプル21に係るPWウェーハ(以下、「サンプル21」)を得た。
【0043】
サンプル21の裏面の(ウェーハエッジ10mm)における光沢度を、実施例1で用いたのと同じ測定器を用いて、入射角20°で測定したところ、光沢度は6.2%であった。なお、入射角60°での同じ測定位置での光沢度は48%であった。
【0044】
(サンプル22~サンプル24)
サンプル21を作製する際のバブリングオフ時間20秒をそれぞれ15秒、10秒、0秒とした以外は、サンプル21と同様にしてPWウェーハを作製し、サンプル22~24を得た。サンプル21と同様にして入射角20°及び60°のそれぞれの光沢度を、サンプル21と同様の測定位置で測定した。バブリングオフ時間と入射角20°での光沢度との対応関係を図8Aのグラフに示し、バブリングオフ時間と入射角60°での光沢度との対応関係を図8Bのグラフに示す。
【0045】
そして、サンプル21に対してアラインメントマークを付与した場合、アラインメントマークを読み取ることができなかったが、サンプル22~24にアラインメントマークを付与した場合はいずれもアラインメントマークを読み取ることができた。
【0046】
以上の実施例1,2より、低角度入射での光沢度Gs(θ)が式[1],[2]を満足するようエッチング条件を調整することで、PWウェーハの非鏡面の裏面にアラインメントマークを付与した場合に、アラインメントマークの読み取りを良好なものとすることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、ポリッシュドシリコンウェーハの非鏡面である裏面にアラインメントマークを付与した場合に、アラインメントマークの読み取り良否率を改善することのできるポリッシュドシリコンウェーハのエッチング条件調整方法を提供することができる。さらに本発明によれば、このエッチング条件調整方法を用いたポリッシュドシリコンウェーハの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 ポリッシュドシリコンウェーハ
10A おもて面
10B 裏面
10C アラインメントマーク
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B