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特許7023258地盤試料の採取装置及び地盤試料の採取方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】地盤試料の採取装置及び地盤試料の採取方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/04 20060101AFI20220214BHJP
   E02D 3/115 20060101ALI20220214BHJP
   E21B 25/08 20060101ALI20220214BHJP
   G01N 1/08 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
E02D1/04
E02D3/115
E21B25/08
G01N1/08 F
G01N1/08 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019110114
(22)【出願日】2019-06-13
(65)【公開番号】P2020200725
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】506332605
【氏名又は名称】基礎地盤コンサルタンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080838
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 光康
(74)【代理人】
【識別番号】100194261
【弁理士】
【氏名又は名称】栢原 崇行
(72)【発明者】
【氏名】武政 学
(72)【発明者】
【氏名】湯川 浩則
(72)【発明者】
【氏名】小林 陵平
(72)【発明者】
【氏名】柳浦 良行
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145599(JP,A)
【文献】特開2002-180450(JP,A)
【文献】特開2017-141554(JP,A)
【文献】特開2004-176447(JP,A)
【文献】特開2018-104912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/04
E02D 3/115
E21B 25/08
G01N 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に調査対象地盤を掘削可能な掘削手段を有する凍結管と、前記凍結管内部に設けられ、前記調査対象地盤を凍結させる冷却媒体を供給する送液部と、前記送液部から供給された冷却媒体を回収する返液部と、前記凍結管を通過して前記掘削手段に削孔水を供給する送水部と、前記掘削手段に取り込んだ土砂と混和した削孔水を回収する排水部とで構成され、前記凍結管は、前記排水部を中央に配した多重管構造であることを特徴とする地盤試料の採取装置。
【請求項2】
前記凍結管は、内管、中管及び外管の三重管構造に形成され、前記中管の形状を前記外管の内周面に対して少なくとも2点以上で接する非円形断面に形成したことを特徴とする請求項1のいずれかに記載の地盤試料の採取装置。
【請求項3】
前記凍結管には耐寒グリスが塗布され、前記凍結管の外周部には金属製又は樹脂製の略円筒形の外殻をさらに備えることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の地盤試料の採取装置。
【請求項4】
調査対象地盤内にセルフボーリングによって凍結管を配置する凍結管挿入工程と、載荷板によって加圧した前記凍結管の周囲の前記調査対象地盤を過冷却まで冷却する過冷却工程と、前記過冷却工程で過冷却された前記調査対象地盤に衝撃と減圧を加え瞬間凍結させる瞬間凍結工程と、前記凍結管に前記調査対象地盤を凍結させる冷却媒体を供給し、前記凍結管の周囲の前記調査対象地盤を凍結させる地盤凍結工程と、前記地盤凍結工程で凍結させた凍結土塊を前記調査対象地盤から引き抜く地盤採取工程とで構成され、前記凍結管内部には、前記調査対象地盤を凍結させる冷却媒体を供給する送液部と、前記送液部から供給された冷却媒体を回収する返液部と、前記凍結管を通過して前記凍結管の先端部に設けられた掘削手段に削孔水を供給する送水部と、前記掘削手段に取り込んだ土砂と混和した削孔水を回収する排水部が設けられ、前記地盤凍結工程は、前記瞬間凍結工程後に、前記送液部及び返液部を液相の窒素で充満し、前記調査対象地盤を略円柱状に形成する地盤試料の採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に液状化特性に係わる地盤特性を把握するために、地盤から土質試料を乱さずに凍結した地盤試料を採取する地盤試料の採取装置及び地盤試料の採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震時に液状化を生じるような緩い砂地盤について、その地盤特性を評価するために試料を採取する場合、通常のチューブサンプリングでは地盤を乱してしまうことがある。このため、国内では1980年代に採取対象地盤をあらかじめ凍結させた後に掘削し、乱れを最小限とした試料採取方法(凍結サンプリング)が開発され、実施されてきた。
【0003】
従来の一般的な凍結サンプリング手法は、例えば特許文献1にあるように、ボーリングで作成した凍結孔に凍結装置を挿入し、凍結孔の周囲を広く凍結させ、その凍結させた土塊を削孔して円筒状の土質試験試料を採取するものであった。また、特許文献2には、ボーリングで作成した凍結孔に凍結装置を挿入し、凍結孔の周囲を凍結させた後に、凍結管を含む凍結土塊を大口径に掘削(オーバーコアリング)して地上に引き上げた後に土質試験試料を採取する部分凍結手法が開示されている。
【0004】
これらの方法は、いずれも掘削土塊を掘削する必要があるが、その掘削時に用いる削孔水(泥水)についても0℃未満に冷却する必要があり、地盤の凍結とは別に冷却する設備が必要であった。このような従来の凍結サンプリング手法では、凍結や試料採取に要する時間や設備が大がかりとなり、莫大な費用が必要となる点が課題となっていた。
【0005】
一方、特許文献3では、凍結管に地盤の掘削機能を付加することにより、凍結孔を事前にボーリングする工程を削減するとともに、地盤の緩みを最小限にすることを可能としたが、土質試料の採取にあたっては、従来の手法と同様に別途掘削をする必要があった。
【0006】
特許文献4では、自己掘削式の凍結管を用いた凍結手法と、掘削を必要とせず凍結土塊を引き抜く手法を用いることにより、化学的な分析に用いる土質試料の簡便な採取を可能としたが、強度に係わる土質試験試料を採取するためには、試験試料の直径を従来の2分の1以下にするなど、標準的な試験を行うことは困難であった。
【0007】
なお、凍結サンプリングは、地盤を地下水と供に凍結させることから、透水性の低い粘性土などの地盤では氷の膨張によって地盤を乱してしまうことが知られており、施工現場では、例えば特許文献5のように地下水に薬物を注入して膨張を抑制する手法などが開発されているが、同様の手法では土質試験を行うことができないため、凍結サンプリングは透水性の高い砂~礫地盤のみでの適用となっており、採取対象となる地盤・土質に制限があった。
【0008】
土質試験においては、現在においても円柱形の試験試料の形状が一般的であるが、1990年代末には円筒状の試験試料を用いた中空ねじりせん断試験が基準化されている。中空ねじりせん断試験試料は、円柱状の試料を加工して作成しており、地盤から中空試料を採取することはなされていない状況である。
【0009】
一方、2000年代になると食品業界では、特許文献6及び特許文献7に示される凍結手法により、食材を細胞レベルで損傷を抑制する凍結技術が確立され、食品の保存と流通について劇的な変化がもたらされているが、地盤の凍結手法については液化窒素等の冷却媒体を地下で循環させる従来手法から変化はない状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭61-251742号公報
【文献】特開昭60-100737号公報
【文献】特開平07-127368号公報
【文献】特開2018-145599号公報
【文献】特開昭53-073817号公報
【文献】特開2001-88347号公報
【文献】特開2005-61729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、凍結範囲を必要最小限とし、冷却媒体や凍結時間、コアリング工程や削孔水冷却設備などの削減による凍結サンプリングのコストの低減できる地盤試料の採取装置及び地盤試料の採取方法を提供することを目的としている。
また、従来凍結による採取ができなかった細粒分を含む砂質土についても、土の構造を破壊しない地盤凍結工程を追加することで、凍結サンプリングによって乱さずに採取できる適用範囲の拡大を可能とする地盤試料の採取装置及び地盤試料の採取方法を提供することを目的としている。
【0012】
すなわち、従来莫大な費用を必要とした凍結サンプリングについて、地盤を凍結させるまでの工程や凍結範囲、凍結試料の採取方法などを見直すことで、凍結サンプリングのコストを大幅に低減することを課題としている。また、従来凍結サンプリングで適用できなかった細粒分を含む砂質土についても土の構造を乱さない凍結を行うことにより、乱さずに凍結サンプリングできる適用範囲を拡大すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明では従来の円柱状の土質試験用供試体ではなく、中空形状の土質試験供試体の採取に特化した。本発明の請求項1に記載の地盤試料の採取装置は、先端部に調査対象地盤を掘削可能な掘削手段を有する凍結管と、前記凍結管内部に設けられ、前記調査対象地盤を凍結させる冷却媒体を供給する送液部と、前記送液部から供給された冷却媒体を回収する返液部と、前記凍結管を通過して前記掘削手段に削孔水を供給する送水部と、前記掘削手段に取り込んだ土砂と混和した削孔水を回収する排水部とで構成され、前記凍結管は、前記排水部を中央に配した多重管構造であることを特徴とする
【0014】
【0015】
請求項2に記載の地盤試料の採取装置の前記凍結管は、内管、中管及び外管の三重管構造に形成され、前記中管の形状を前記外管の内周面に対して少なくとも2点以上で接する非円形断面に形成したことを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の地盤試料の採取装置の前記凍結管には耐寒グリスが塗布され、前記凍結管の外周部には金属製又は樹脂製の略円筒形の外殻をさらに備えることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の地盤試料の採取方法は、調査対象地盤内にセルフボーリングによって凍結管を配置する凍結管挿入工程と、載荷板によって加圧した前記凍結管の周囲の前記調査対象地盤を過冷却まで冷却する過冷却工程と、前記過冷却工程で過冷却された前記調査対象地盤に衝撃と減圧を加え瞬間凍結させる瞬間凍結工程と、前記凍結管に前記調査対象地盤を凍結させる冷却媒体を供給し、前記凍結管の周囲の前記調査対象地盤を凍結させる地盤凍結工程と、前記地盤凍結工程で凍結させた凍結土塊を前記調査対象地盤から引き抜く地盤採取工程とで構成され、前記凍結管内部には、前記調査対象地盤を凍結させる冷却媒体を供給する送液部と、前記送液部から供給された冷却媒体を回収する返液部と、前記凍結管を通過して前記凍結管の先端部に設けられた掘削手段に削孔水を供給する送水部と、前記掘削手段に取り込んだ土砂と混和した削孔水を回収する排水部が設けられ、前記地盤凍結工程は、前記瞬間凍結工程後に、前記送液部及び返液部を液相の窒素で充満し、前記調査対象地盤を略円柱状に形成することを特徴とする。
【0018】
【発明の効果】
【0019】
以上の説明から明らかなように、本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。
(1)請求項1及び請求項4に記載された各発明においては、セルフボーリングすることにより設置された凍結管を中心にその周囲を凍結することで、中空形状に凍結した地盤試料を採取することができる。
したがって、凍結範囲を必要最小限とすることで、冷却媒体や凍結時間を削減する事ができる。
すなわち、外径20mm程度のセルフボーリング機能と凍結機能を有する凍結装置によって、凍結管挿入のためのボーリング工程を省略し、さらに、凍結管を芯部分とした中空形状の土質試験供試体の採取に特化することで、凍結範囲を最小限に縮小し、凍結土塊をコアリングすることなく引き抜ける略円柱状の形状に形成する凍結方法によってコアリングの工程と削孔水冷却設備を省略するなどにより、従来の凍結サンプリングより大幅なコストの削減を可能とした。
(2)また、従来凍結サンプリングの対象とならなかった細粒分を含む砂質土についても過冷却を経た瞬間凍結手法を用いることにより、土の構造を乱さない凍結を行うことができ、これまで乱さずに採取することが困難であった地盤についての凍結サンプリングの適用を大幅に拡大することができる。
すなわち、地盤に圧力を加えた状態での過冷却工程と、圧力の除荷を伴う瞬間凍結工程の追加により、細粒分を含む砂質土の構造を破壊することなく凍結させる凍結方法によって、従来凍結サンプリングを適用できなかった細粒分を含む砂質土を乱さずに採取することを可能とした。
(3)請求項2に記載された発明も前記(1)~(2)と同様な効果が得られる。
(4)請求項3に記載された発明も前記(1)~(2)と同様な効果が得られるとともに、凍結した地盤試料から凍結管を容易に抜管することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1乃至図7は本発明の第1の実施形態を示す説明図である。
図8乃至図11は本発明の第2の実施形態を示す説明図である。
図1】第1実施形態の地盤試料の採取装置の概要図。
図2】土質試験試料と中空試験試料の説明図。(a)円柱状土質試験試料。(b)中空の土質試験試料。
図3】凍結管先端部の概要説明図。(a)縦断面図。(b)横断面。
図4】凍結管の凍結部横断面形状概念図。
図5】三重管式セルフボーリング凍結管の凍結部横断面形状概要図説明図。
図6】第1実施形態の地盤試料の採取方法の工程図。
図7】地盤凍結工程の概要説明図。
図8】第2実施形態の地盤試料の採取装置の概要図。
図9】第2実施形態の地盤試料の採取方法の工程図。
図10】地盤凍結工程の予備作業の概要説明図。
図11】凍結管の凍結部横断面形状概要図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に示す本発明を実施するための形態により、本発明を詳細に説明する。
図1乃至図7に示す本発明を実施するための第1の形態において、1は図7で示す調査対象地盤2から地盤工学会基準に示される土質試験供試体を得ることができる地盤試料の採取装置である。
【0022】
この地盤試料の採取装置1は、図1に示すように、先端部に調査対象地盤2を掘削可能な掘削手段3を有する凍結管4と、前記凍結管4の内部に設けられ、前記調査対象地盤2を凍結させる冷却媒体を一方向に供給する送液部5と、前記送液部5からさらに同方向に供給された冷却媒体を回収する返液部6と、前記凍結管4を通過して前記掘削手段3に削孔水を供給する送水部7と、前記掘削手段3内で土砂と混和した削孔水を回収する排水部8と、前記凍結管4の上端部付近に設けられた円盤状の載荷板9とで構成されている。
この凍結管4は、全体として少なくとも内管10と外管11を有する多重管で略円筒形状に形成され、その先端部(下端部)に掘削手段3を備えており、また、この凍結管4の内部に送液部5を備えているため、周囲の凍結部分を供試体とする中空試料の採取に特化している。
【0023】
凍結管4の上部には、凍結管4の送液部5、返液部6、送水部7及び排水部8にそれぞれ連通する送液管12、返液管13、送水管14及び排水管15がそれぞれ接続されている。
【0024】
ところで、図2に示すような円柱状の供試体を採取する場合、必然的に凍結させる範囲は円柱状供試体の直径の2倍以上+凍結管直径となるが、中空供試体の場合は、凍結管を内空部分とすることで試料の直径程度の凍結範囲にすることができる。地盤工学会基準による砂地盤での標準的な中空試料は外径70mm、内径30mmであるため、採取後の凍結溶解による緩みに備えた予備径を考慮しても、直径100mm程度の凍結範囲に納めることが可能である。
【0025】
従来の一般的な凍結サンプリング手法によって直径70mmの供試体を得るためには、直径66mmの凍結孔を中心に直径約340mm以上の範囲を凍結させる必要があったため、直径で3分の1以下にすることができ、1時間程度で凍結が可能である。
【0026】
凍結管4の先端部は、図3に示すように、シューに内接した2重管状の形状となっており、内側(中心部)の空間は排水部8となっており、外側(中管16と内管10の間)の空間は送水部7となる。この先端分には地盤凍結のための冷却媒体循環機能はもたせず、地盤へ貫入させるための鋭利な先端を持つシューを掘削手段3として用い、このシュー等による送水機能と、内管10による排水機能を有する。なお、凍結機能を有する部位(送液部5等がある部位)を凍結部という。
【0027】
排水部8は中管16よりも内管10とすることで粒子が通過できる最大径を大きくすることができる。また、水圧により外周から掘削された土砂が中央の管内抵抗の小さい大径の排水部8に流れる構造とすることで、削孔水が掘削手段3の外側に漏れにくくする。
このように削孔水が掘削手段3の外部にもれないようにすることで、シュー等の掘削手段3内部に削孔水を供給し、調査対象地盤2を削孔するとともに、この削孔によって生じた土砂(掘削手段3内に取り込んだ土砂)と削孔水とが混和した状態の液体(土砂と混和した削孔水)を排水部8を介して効率よく排出することができる。
【0028】
一方、凍結管4の先端部を除く部位(凍結部)は、その断面が多重管形状等となっており、例えば、図4に示すような4重管構造とすることも可能であるが、凍結管4の直径が2cm程度に限定された場合には多重管を構成するパイプは肉薄となり、流体が通過するクリアランスも狭いものになってしまう。また、多重管はそれぞれに接していないため剛性は低く、凍結管貫入時に曲げが生じると流体の通過経路に閉塞が生じる可能性もある。
【0029】
そのため、本開発で目的とするセルフボーリング式の凍結管では、図5に示すような、凍結部を内管10、中管16、外管11を有する三重管で、かつ、中管16を外管11の内周面に対して面接触状態で内接させ、かつ、内管10の外周面に対して外接する楕円形状とすることで、凍結管4の断面を5経路に分割でき、送液部5、返液部6、送水部7及び排水部8の4系統を確保することができる。また、4重管よりもそれぞれの管を肉厚にできる上、内管10、中管16、外管11が固定されるため、凍結管4全体としての剛性を高くすることができる。凍結管4の剛性を確保するためには、内管16が内管10ならびに外管11と接する点数は4点以上が望ましく、本実施形態では図9に示す6点接点としている。
【0030】
前記内管10は、円筒形状の管で、その内側の空間が排水部8となっており、この排水部8は排水管15に連通している。排水管15は、内管10を上方へ延伸して露出させ、排水管としてもよいし、内管10とは別体で排水管15を形成し、内管10に固定的又は着脱可能に接続してもよい。
【0031】
中管16は、本実施形態では、略楕円形状に形成されており、その長径部分の外周面が外管11の内周面に少なくとも2点以上、本実施形態においては2点で接触し、かつ、短径部分の内周面が内管10の外周面に対して少なくとも2点以上、本実施形態においては2点で接触し、内管10と外管11の間の空間を断面視において4つの区画に区切っている。本実施形態では、この4つの区画(4系統)のうち、2つを送水部7とし、残りの2区画をそれぞれ送液部5と返液部6としている。
【0032】
外管11は、円筒形状の管で、その先端部はシューが取り付けられ、掘削手段3として用いられる。
【0033】
ところで、凍結管4を中心とした凍結土塊2aを、そのまま中空の供試体とするためには、直径30mm未満の凍結管4とし、かつ、凍結管4挿入時に地盤を乱さないセルフボーリングが可能な凍結管4とする必要がある。また、供試体の内空は試験前に整形を行って最終的な直径にしあげるため、凍結管4の外径は20mm程度とすることが望ましく、本実施形態のような構成とすることにより、排水部8の内径を8mm程度確保した上で十分な剛性を確保することを実現した。
この凍結管4の構造により、2~5mm程度の礫を含む砂質土についても速やかに掘削することを可能とした。
【0034】
送液部5は、送液管12に連通しており、この送液部5には冷却媒体が冷却媒体供給源(図示せず)から送液管12を介して供給される。この送液部5を通過し冷却媒体は、送液部5に連通する返液部6及び返液管13を通過して地上に排出される。
【0035】
ところで、凍結範囲を最小限としながら、かつオーバーコアリング無しに凍結土塊2aを地盤から引き抜き回収するためには、凍結土塊2aの形状を略円柱状に制御することが必要である。通常の凍結手法のように、凍結管4内に液化窒素を注入し、気化した窒素ガスを排出する方法では液相部分と気相部分での温度差が大きく、底面を大とした略円錐形の凍結土塊となるため、凍結管4(送液部5及び返液部6)内を液相で充満した状態を保持するように注入圧と排出温度を制御方法とすることで、略柱状の凍結土塊2aを安定して作成することを可能とした。
【0036】
送水部7は、送水管14と連通しており、削孔水供給源(図示せず)から送水管14を介して供給された削孔水を凍結管4の先端部に設けられた掘削手段3に供給する。掘削時に削孔水を供給しながら掘削手段3で調査対象地盤2を掘削し、掘削手段3内で土砂と混和した削孔水を排水部8及び排水部8に連通する排水管15から外部へ排出する。
また、凍結管4には耐寒グリス(図示せず)が塗布され、凍結管4の外周部には金属製又は樹脂製の略円筒形の外殻17が設けられている。
【0037】
通常、地上に回収した凍結土塊2aを供試体に整形するためには凍結管4を抜管する必要があるが、凍結管4と土塊との凍着は強固であるため抜管することはできず、安易に凍結管4を加熱すると試料が解氷してしまう。
【0038】
この外殻17を用いることにより、外殻17と凍結土塊2aが強固に凍着していても、外殻17自体は凍結管4から容易に外すことができるため、凍結土塊2aから外殻ごと凍結管4を抜管できるので、凍結土塊2aが解氷する前に凍結管4を抜管することができる。この外殻17は厚さ0.1mm以下の金属製または樹脂製とすることで、供試体内空をトリミングする際に除去することができる。
【0039】
載荷板9は、円盤状の部材で、凍結管4の上端部付近にフランジ状になるように設けられており、凍結管4挿入後、ボーリング掘削で除去された土圧相当を載荷板9で孔底に載荷し、ボーリング掘削する前の地盤条件を再現する。
【0040】
なお、この凍結管4を用いて地盤試料の採取を行う本発明の地盤試料の採取方法18としては、図6に示すように、調査対象地盤2内にセルフボーリングによって凍結管4を配置する凍結管挿入工程19と、前記凍結管4に調査対象地盤2を凍結させる冷却媒体を供給し、前記凍結管4の周囲の前記調査対象地盤2を凍結させる地盤凍結工程20と、前記地盤凍結工程20で凍結させた凍結土塊2aを前記調査対象地盤2から引き抜く地盤採取工程21とで構成されている。
【0041】
凍結管挿入工程19では、前述したように凍結管4の先端部に設けられた掘削手段3によって調査対象地盤2を掘削し、凍結管4の全体を調査対象地盤2内へ配置する。ところで、調査対象地盤2が地表付近である場合には、地表から凍結管4を地中へ挿入すればよいが、地表からある程度下方の地盤を調査対象地盤2とする場合には、その調査対象地盤2付近まで載荷板9等が挿入できるような大きめの孔を形成し、その孔底から凍結管4をセルフボーリングによって調査対象地盤2へ挿入する。
【0042】
地盤凍結工程20では、様々な冷却媒体を使用することができるが、本実施形態では、凍結管4の送液部5及び返液部6内を液相の窒素で充満した状態を保持するべく排出時の温度をマイナス196℃以下となるよう調整し、前記調査対象地盤2を略円柱状の凍結土塊2aに形成している。
【0043】
具体的には、図7に示すように、冷却媒体は凍結管4に注入する箇所(送液管12)と排出する箇所(返液管13)に温度計22を設けるとともに、載荷板9にも調査対象地盤2の温度を測定する温度計22を設けて温度管理を行い、送液管12に設けた圧力計23を参照し、返液管13での冷却媒体の温度が冷却媒体の沸点以下になるように注入圧を制御することで中空供試体を切り出すことに適した略円柱状の凍結土塊2aを形成させる。また、凍結管4の先端部には冷却機能を配置しない構造とすることで、先端部は略逆錐形の引き抜きやすい形状とすることができる。
【0044】
地盤採取工程21では、土中から凍結させた調査対象地盤(凍結土塊2a)を引き抜き、外殻17ごと凍結管4から凍結土塊2aを抜管し、調査対象地盤2を採取する。
【0045】
[発明を実施するための異なる形態]
次に、図8乃至図11に示す本発明を実施するための異なる形態につき説明する。なお、これらの本発明を実施するための異なる形態の説明に当って、前記本発明を実施するための第1の形態と同一構成部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0046】
図8乃至図11に示す本発明を実施するための第2の形態は、細粒分を含む砂質土を対象とした形態である。細粒分を含まない砂質土を対象とした前記本発明を実施するための第1の形態と主に異なる点は、ロングシュー型の掘削手段3Aを用いた凍結管4Aにした点で、このような凍結管4Aを用いた地盤試料の採取装置1A及びこのような凍結管4Aを用いて地盤凍結工程20Aを行うとともに、地盤凍結工程20Aによる調査対象地盤2の本凍結の前に過冷却工程27及び瞬間凍結工程28からなる予備作業を行う地盤試料の採取方法18Aにすることによって、従来の凍結サンプリングでは適用できなかった細粒分を含む砂質土について、前記本発明を実施するための第1の形態と同様な効果が得られる。
【0047】
本実施形態の凍結管4Aは、砂粒子(最大径2mm)を排出するために十分な内径8mmの内管を、花弁状の形状の中管16Aが外管11と内管10に接することで高い剛性を有し、4系統の流体の通過経路を確保している。
【0048】
調査対象地盤2に細粒分が含まれる場合、前記本発明を実施するための第1の形態での地盤凍結工程では凍結時の氷の膨張で土の構造が破壊されてしまう。この破壊される現象を防ぐために地盤凍結工程20Aを行う前に凍結対象範囲を過冷却状態にする過冷却工程27を行い、その後、地盤に衝撃を与えるとともに載荷板の除荷による減圧をし、瞬間凍結させる瞬間凍結工程28を行う。
【0049】
その後地盤凍結工程20Aを行うことにより、地盤試料採取範囲を瞬間凍結させ、地盤凍結工程20Aの本凍結によって略円柱状の凍結土塊2aを形成する。
【0050】
セルフボーリング凍結管4Aの先端に設けられたロングシュー型の掘削手段3Aを用いて調査対象地盤2に凍結管4Aを挿入する。凍結管4A挿入後、ボーリング掘削で除去された土圧相当を載荷板9で孔底に載荷し、送水部7(又は送水管14)と排水部8(又は排水管15)を循環路24で接続するとともに、この循環路24に冷却装置25を設けて-10℃~0℃の範囲内に調整した冷却媒体を削孔水の経路(送水部7と排水部8)に循環させる。このとき、循環路24に設けられたポンプ26で冷却媒体を送水部7と排水部8に循環させ、調査対象地盤2が氷点下になるまで循環させる。
【0051】
過冷却後に載荷板9および凍結管4Aに衝撃を与え、さらに載荷板9の加圧を除荷して調査対象地盤2を減圧する。その後本凍結を行って凍結土塊2aを十分に冷却する。
なお、凍結時の減圧による地盤の変形が予想される場合や、過冷却時の地盤温度が-5℃を下回るほど十分に冷却されている場合には載荷板の除荷を行わずに衝撃のみで凍結させることも可能である。
【0052】
本発明に用いる凍結管は図11に示すような断面形状に形成しても良い。このような花弁状の形状の中管が外管と内管に接することで高い剛性を有し、4系統の流体の通過経路を確保できる凍結管とすることもできる。
また、本発明の実施形態では、外殻を用いたものについて説明したが、必ずしも外殻を用いなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は地盤試料を凍結させて採取し、試験用の供試体を取得する産業等で利用される。
【符号の説明】
【0054】
1、1A:地盤試料の採取装置、
2:調査対象地盤、 2a:凍結土塊、
3、3A:掘削手段、
4、4A:凍結管、 5:送液部、
6:返液部、 7:送水部、
8:排水部、 9:載荷板、
10:内管、 11:外管、
12:送液管、 13:返液管、
14:送水管、 15:排水管、
16、16A:中管、 17:外殻、
18、18A:地盤試料の採取方法、
19:凍結管挿入工程、 20、20A:地盤凍結工程、
21:地盤採取工程、 22:温度計、
23:圧力計、 24:循環路、
25:冷却装置、 26:ポンプ、
27:過冷却工程、 28:瞬間凍結工程。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11