(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】患者の身体の腔の光線力学的療法による治療のためのシステム及びこのようなシステムの準備方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/067 20060101AFI20220214BHJP
A61N 5/06 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
A61N5/067
A61N5/06 Z
(21)【出願番号】P 2019501760
(86)(22)【出願日】2017-03-24
(86)【国際出願番号】 EP2017057111
(87)【国際公開番号】W WO2017162869
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2020-03-13
(32)【優先日】2016-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】518338518
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・リール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LILLE
(73)【特許権者】
【識別番号】507091037
【氏名又は名称】サントレ オスピタリエ レジョナル ユニヴェルシテル ドゥ リール
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルマンデル,マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】デュポン,クレマン
(72)【発明者】
【氏名】レイン,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ドラポルト,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】モルドン,セルジュ
(72)【発明者】
【氏名】ベルーニ,ナシム
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0087206(US,A1)
【文献】特開2015-089489(JP,A)
【文献】国際公開第2014/145179(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/067
A61N 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の身体(3)の腔(2)の光線力学的療法による治療のためのシステム(1)であり、前記腔(2)が、光感受性物質化合物を吸収した細胞を含む組織によって境界を定められ、治療される前記腔(2)を照射することを目的とする照射装置(5)を含む前記システム(1)であって、
前記照射装置(5)が、対向する近位端(6a)及び遠位端(6b)の間で中心軸(A)に沿って延在する照射部材(6)を含み、
前記照射部材(6)が、
-前記光感受性物質化合物を活性化するように適合された光を発するための発光面(37)を担持するコア(35)であって、前記発光面(37)が前記照射部材(6)の前記遠位端(6b)に配置される、前記コア(35)と、
-前記照射部材(6)の前記遠位端(6b)に配置された
1つのバルーン(11)を有する中空のシース(10)であって、
前記バルーン(11)内に配置された前記発光面(37)を有する前記コア(35)を受けるように適合され、
前記バルーン(11)が、内部空間を区切る内面及び外面を有した壁(12)を含み、
前記壁(12)が、可撓性で前記発光面(37)が発した前記光の拡散を可能にするように適合され、
前記バルーン(11)が、前記壁(12)が前記中心軸(A)を中心とした回転の対称性を有し
、前記内部空間が前記発光面(37)が発した前記光を拡散するように光拡散液で充填される少なくとも1つの膨張状態、及び前記内部空間が空である収縮状態を呈する、
前記
中空のシース(10)
であり、
前記バルーン(11)の前記内部空間が、可変容積を有し、
前記バルーン(11)の前記壁(12)が、弾性伸縮性であり、
前記バルーン(11)が、各々の前記内部空間が所定量の前記光拡散液で充填される複数の膨張状態を呈する
前記中空のシース(10)と、
-前記照射装置に接続された、前記光拡散液の前記所定量に応じて前記照射装置を制御する電子ユニット(39)であって、
前記システム(1)が、前記バルーン(11)の前記複数の膨張状態で、前記バルーン(11)の前記壁(12)の前記外面における前記対応する光パワーの分布、及び前記決定された照射量の光エネルギーを提供するための前記対応する照射の時間、のうちの少なくとも1つを測定するように構成されるために、前記システム(1)が、前記各々の膨張状態の前記光拡散液の前記所定量を、前記バルーン(11)の前記壁(12)の前記外面における対応する光パワーの分布、及び決定された照射量の光エネルギーを提供するための対応する照射の時間、のうちの少なくとも1つと関連づける伝達関数を提供するサポート装置を更に含
み、
前記サポート装置が、前記伝達関数を記憶する前記電子ユニット(39)のメモリを含む、電子ユニット(39)と、
を含むことを特徴とする前記システム(1)。
【請求項2】
前記サポート装置が、前記伝達関数が視認可能である表示装置を含む、請求項1に記載の前記システム(1)。
【請求項3】
前記伝達関数が、前記各々の膨張状態の前記光拡散液の前記所定量を、前記バルーン(11)の前記壁(12)の前記外面における前記対応する光パワーの分布、及び前記決定された照射量の光エネルギーを提供するための前記対応する照射の時間、のうちの少なくとも1つと関連づける、表及びグラフのうちの少なくとも1つである、請求項1~
2のうちのいずれか1項に記載の前記システム(1)。
【請求項4】
前記照射部材(6)の前記コア(35)が、近位端(36a)及び前記発光面(37)を担持する遠位端(36b)を有した光ファイバ(36)であり、前記照射装置(5)が、前記光ファイバ(36)の前記近位端(36a)に接続されたレーザ光源(38)を更に含む、請求項1~
3のうちのいずれか1項に記載の前記システム(1)。
【請求項5】
前記シース(10)が
-前記中心軸(A)に沿って管状であり、近位端(16a)及び前記バルーン(11)が提供された遠位端(16b)を有する、バルーンシャフト(16)を含むトロカール装置(15)と、
-前記中心軸(A)を中心とした管状の、横断端面(27b)が提供された透明な端部分(27a)を含むガイド(26)であって、前記透明な端部分(27a)を前記バルーン(11)内に配置させて、前記トロカール装置(15)内に挿入されるように適合された前記ガイド(26)と、
-前記光ファイバ(36)の前記遠位端(36b)を、前記横断端面(27b)と接触して、前記ガイド(26)の前記透明な端部分(27a)内に配置させて、前記ガイド(26)内に挿入された前記光ファイバ(36)を係止するように適合された係止装置(31)と、
を備える、請求項
4に記載の前記システム(1)。
【請求項6】
前記発光面(37)が、前記中心軸(A)に沿って延在し、前記中心軸(A)に対して横方向に前記光を発するように適合される、請求項1~
5のうちのいずれか1項に記載の前記システム(1)。
【請求項7】
前記発光面(37)が、15mmと70mmとの間の長さを有する、請求項
6に記載の前記システム(1)。
【請求項8】
前記バルーン(11)の前記内部空間の容積が、30mLから500mLまで変化する、請求項1~
7のうちのいずれか1項に記載の前記システム(1)。
【請求項9】
請求項1~
8のうちのいずれか1項に記載の治療のための前記システム(1)の準備方法であって、
-前記バルーン(11)の前記内部空間に前記所定量の前記光拡散液を充填する工程と、
-前記バルーン(11)の前記壁(12)の前記外面における前記対応する光パワーの分布、及び前記決定された照射量の光エネルギーを提供するための前記対応する照射の時間、のうちの少なくとも1つを測定する工程と、を繰り返し実行
し、
前記測定する工程が、前記バルーン(11)の前記複数の膨張状態で、実行されるように、前記光拡散液の前記所定量が変えられることを含む準備方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は、患者の身体の腔の光線力学的療法による治療のためのシステム及びこのようなシステムの準備方法に関する。
【0002】
限定されるものではないが、本発明は、神経外科において、特に神経膠芽腫の外科的切除の際に、特定の用途を見出す。
【0003】
発明の背景
神経膠芽腫は、4/100,000のフランスにおける発生率を有する、成人に最も多い悪性原始脳腫瘍である。しかしながら、神経膠芽腫は、まれな疾患と考慮されている。従来の治療は特に外科手術及び放射化学療法を伴い、生存中央値は14.5ヵ月である。神経膠芽腫の観血的な性質は、再発が避けられないことをある程度説明する。放射線学的に完全な切除にもかかわらず、隣接する健康な組織に浸潤した腫瘍細胞は、補足的な放射化学療法によって不十分に治療される。そのため、再発は、腫瘍端部で主に初めに生じる。外科的切除の質が主な予後因子であることが、多数の研究で示されている。
【0004】
したがって、外科的切除の質の局所的な制御の最適化は、腫瘍の進行のない生存期間の改善及びこれによる全生存期間の改善に向けた重要な課題である。
【0005】
このような最適化に関して、外科的切除の端部に分配される光線力学的療法(PDT)との関連が考慮されている。光線力学的療法は、光感受性物質化合物、組織内の酸素、及び光感受性物質化合物を活性化するために好適な特性を有する光の、3つの要素の相互作用に依存する。患者の身体内に注入された光感受性物質化合物は、すべての細胞によって吸収されるが、腫瘍細胞内に長い時間残留する。光による光感受性物質化合物の活性化により、光化学反応は、腫瘍細胞の破壊を発生させる。
【0006】
神経膠芽腫の光線力学的療法による治療の一例は、"The effects of PDT in primary malignant brain tumours could be improved by intraoperative radiotherapy", Photodiagnosis and Photodynamic Therapy, 2012, 9: 40-45においてLyonsらによって開示される。光線力学的療法による治療のための公知のシステムは、治療される腔を照射することを目的とする照射装置を含むタイプである。照射装置は、対向する近位及び遠位端の間で中心軸に沿って延在する照射部材を含む。照射部材は、
-光感受性物質化合物を活性化するように適合された光を発するための発光面を担持するコアであって、発光面が照射部材の遠位端に配置される、コアと、
-照射部材の遠位端に配置されたバルーンを有する中空シースであって、バルーン内に配置された発光面を有するコアを受けるように適合され、バルーンが内部空間を区切る内面及び外面を有した壁を含み、壁が可撓性で発光面が発した光の拡散を可能にするように適合され、バルーンが、壁が中心軸を中心とした回転の対称性を有し内部空間が発光面が発した光を拡散するように光拡散液で充填される膨張状態、及び内部空間が空である収縮状態を呈する、シースと、
を含む。
【0007】
このような照射部材を実施する他の公知のシステムの例は、US 2002/087206及びWO 2014/145179において、並びに"A light-diffusing device for intraoperative photodynamic therapy in the peritoneal or pleural cavity", Journal of Clinical Laser Medecine & Surgery, Octobre 1991, 361-366においてDeLaneyらによって、開示される。
【0008】
しかしながら、公知のシステムは、生存期間を大幅に改善させることができなかった。特に、このようなシステムは、神経膠芽腫の外科的切除の後によくある、大きな寸法の腔を効率的に治療することができない。
【0009】
本発明は、上で述べられた問題を解決することを目的とする。
【0010】
概要
この目的のために、第1の態様によれば、本発明は、上述したタイプのシステムであって、バルーンの内部空間が可変容積を有し、バルーンの壁が弾性伸縮性であり、バルーンが、各々の内部空間が所定量の光拡散液で充填される複数の膨張状態を呈する、システムであり、各々の膨張状態の光拡散液の所定量を、バルーンの壁の外面における対応する光パワーの分布、及び決定された照射量の光エネルギーを提供するための対応する照射の時間、のうちの少なくとも1つと関連づける伝達関数を提供するサポート装置を更に含む、システムを提供する。
【0011】
したがって、バルーンは、壁が腔の境界の組織と接触するまで内部空間に光拡散液を充填することによって、治療される腔に適合され得る。光拡散液の所定量に対応する、光パワーの分布又は照射の時間が既知であるため、完全かつ均一に適切な照射量の光エネルギーを分配することが可能である。加えて、本発明によって提供される分配される光エネルギーの照射量の単純かつ信頼性の高い制御により、治療は、容易に再現可能であり得る。光線力学的療法による治療の効率は、これにより向上する。
【0012】
サポート装置は、伝達関数が視認可能である表示装置を含むことができる。
【0013】
システムは、照射装置に接続された、光拡散液の所定量に応じて、特に照射の時間に関して、照射装置を制御する電子ユニットを更に含むことができ、サポート装置は、伝達関数を記憶する電子ユニットのメモリを含む。
【0014】
伝達関数は、各々の膨張状態の光拡散液の所定量を、バルーンの壁の外面における対応する光パワーの分布、及び決定された照射量の光エネルギーを提供するための対応する照射の時間、のうちの少なくとも1つと関連づける表及びグラフのうちの少なくとも1つであり得る。
【0015】
照射部材のコアは、近位端及び発光面を担持する遠位端を有した光ファイバであり、照射装置は、光ファイバの近位端に接続されたレーザ光源を更に含むことができる。
【0016】
シースは、
-中心軸に沿って管状であり近位端及びバルーンが提供された遠位端を有するバルーンシャフトを含むトロカール装置と、
-中心軸を中心とした管状の、横断端面が提供された透明な端部分を含むガイドであって、透明な端部分をバルーン内に配置させてトロカール装置内に挿入されるように適合されたガイドと、
-光ファイバの遠位端を横断端面と接触してガイドの透明な端部分内に配置させてガイド内に挿入された光ファイバを係止するように適合された係止装置と、
を備えることができる。
【0017】
これらの提供により、光ファイバは、再現可能な方法で正確に位置付けられ得る。
【0018】
発光面は、中心軸に沿って延在し、中心軸に対して横方向に光を発するように適合され得る。
【0019】
発光面は、15mmと70mmとの間の長さを有することができる。
【0020】
バルーンの内部空間の容積は、30mLから500mLまで変化することができる。
【0021】
第2の態様によれば、本発明は、先に定められたような治療のためのシステムの準備方法であって、
-バルーンの内部空間に所定量の光拡散液を充填する工程と、
-バルーンの壁の外面における対応する光パワーの分布、及び決定された照射量の光エネルギーを提供するための対応する照射の時間、のうちの少なくとも1つを測定する工程と、
を繰り返し実行することを含む準備方法を提供する。
【0022】
方法は、対応する光パワーの分布を測定する各々の工程の後に決定された照射量の光エネルギーを提供するための対応する照射の時間を測定する工程を実行することを更に含むことができる。
【0023】
先に定められたようなシステムは、患者の身体の腔の光線力学的療法による治療方法であって、
-腔に収縮状態のバルーンを設置する工程と、
-バルーンを腔に合わせる工程であって、バルーンの壁が腔の境界の組織と接触するようにバルーンの内部空間が所定量の光拡散液で充填される、工程と、
-光感受性物質を活性化する工程であって、腔が、バルーンの内部空間を充填する光拡散液の所定量に応じて、バルーンに配置された発光面によって照射される、工程と、
を含む方法において実施され得る。
【0024】
光線力学的療法による治療方法において、光感受性物質を活性化する工程は、バルーンの内部空間を充填する光拡散液の所定量に応じて決定された照射の時間にわたって実行され得る。
【0025】
本発明の他の目的及び利点は、以下の添付図面を参照した、非限定的な例として挙げられる本発明の特定の実施形態の以下の開示から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】バルーン及びバルーン内に配
置された発光面が提供された遠位端を有する、本発明の一実施形態による患者の身体の腔の光線力学的療法による治療のためのシステムの照射部材であって、バルーンが、可変容積を有し、いろいろな
所定量の光拡散液で充填され、光拡散液の各々の
所定量がバルーンの外面における対応する光パワーの分布に関連する、照射部材の斜視図である。
【
図3】光拡散液の各々の
所定量に対応するバルーンの外面における光パワーの分配を測定するための試験台に配
置された
図1の照射部材を有したシステムを例示する概略図である。
【
図4】
図3の試験台によって実行された測定から生じた光拡散液の
所定量の関数として照射時間を例示するグラフである。
【
図5】
図1の照射部材を実施した、神経膠芽腫の外科的切除から生じる、腔の光線力学的療法による治療方法の工程の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図中、同じ参照番号は、同じ又は類似した要素をさす。
【0028】
図は、患者の身体3の腔2の光線力学的療法による治療のためのシステム1を例示する。
図5との関連で詳細に開示される特定の非限定的な例では、システム1は、神経膠芽腫の外科的切除による患者の頭部4における腔2の治療に適用される。
【0029】
光線力学的療法(PDT)は、光感受性物質化合物が優先的に蓄積された腫瘍細胞を破壊するための好適な光による、患者の身体3内に予め注入され細胞に吸収された、光感受性物質化合物の活性化による。
【0030】
システム1は、光感受性物質化合物を活性化するように適合された光で治療される腔を照射するための、
図3に概略的に示される、照射装置5を含む。
【0031】
照射装置5は、例えば、人又はロボット化されたオペレータによって操作されるように適合された、
図1及び
図2に示される、照射部材6を含む。
【0032】
照射部材6は、対向する近位端6a及び遠位端6b端の間で中心軸Aに沿って延在する。例示された実施形態では、中心軸Aは、操作を容易にするために近位6a及び遠位6b端の間で直線であるが、用途に応じて1つ以上の湾曲を呈することができる。照射部材6は、照射部材6の近位端6aから延在するハンドリング部7、及び照射部材6の遠位端6bに配置された光拡散部8を含む。
【0033】
照射部材6は、中心軸Aに中心を合わせられた、例えば円形の断面で管状の、生体適合性中空シース10、及び光感受性物質化合物を活性化するように適合された光を発するための発光面37を担持するコア35を含む。
【0034】
シース10は、照射部材6の操作を更に容易にするために、ハンドリング部7にわたって全体的な剛性を有する。照射部材6の光拡散部8で、シース10は、発光面37を中心に受けることを目的としたバルーン11を含む。
【0035】
バルーン11は、更に、発光面37が発した光を拡散するように適合された光拡散液で充填されることを目的とする。バルーン11は、内部空間を区切る内面、及び外面を有した壁12を含む。バルーン11の壁12は、発光面37が発した光の拡散を可能にする材料、特に透明又は半透明材料で作製される。バルーン11の壁12はまた、可撓性かつ弾性伸縮性である。例えばシリコーンで作製された、バルーン11は、内部空間が空である収縮状態を呈する。バルーン11はまた、壁12が中心軸Aを中心とした回転の対称性を有する複数の膨張状態を呈することができ、内部空間が所定量の光拡散液で充填され得る。特定の例では、内部空間は、30mLから500mLまで変化する容積を有する。
【0036】
図2に示されるように、例示された実施形態では、シース10は、トロカール装置15とガイド装置25とを結合する。
【0037】
トロカール装置15は、Herloon(登録商標)の名称でAesculap(登録商標)AGによって開発されたタイプの装置であり得る。トロカール装置15は、シリコーンで作製された、近位端16aとバルーン11が提供される遠位端16bとの間に延在する、バルーンシャフト16を含む。トロカール装置15は、取付アセンブリ18を介してバルーンシャフト16の近位端16aに接続されたトロカール本体17を更に含む。トロカール本体17は、バルーンシャフト16の内部と連通した貫通内部通路19を備える。トロカール本体17には、緊密性を確保したまま内部通路19を選択的に開閉するためにフラップ弁20が提供される。トロカール本体17はまた、内部通路19において開放する開閉コック21を含む。開閉コック21は、バルーン11に流体を充填するか及び/又はバルーン11から流体を除去するように適合された、例えば手動タイプのポンプ、又はシリンジ40などの、外部装置に接続可能である。
【0038】
ガイド装置25は、近位端26a及び遠位端26b端の間に延在する管状ガイド26、及びガイド26の近位端26aへ接続されたトロカールアダプタ29を含む。ガイド26は、全体的な剛性を呈し、遠位端26bに少なくとも透明な端部分27aを有する。例示された実施形態では、ガイド26は、例えばステンレス鋼などの金属で作製された、第2の管28に同軸で取り付けられた、ガラスなどの、透明材料で作製された第1の管27を含む。第1の管27は第2の管28よりも長く、その結果、第1の管27及び第2の管28がトロカールアダプタ29に固定されると、第1の管27の端部分27aが第2の管28から突出する。端部分27aは、発光面37を収容するために十分な長さを超えて延在し、中心軸Aに対して垂直な横断端面27bを有する。トロカールアダプタ29は、ガイド26の内部と連通した貫通内部通路30を含む。トロカールアダプタ29にはまた、トロカールアダプタ29の内部通路30を介してガイド26内に挿入されたコア35を係止するための、例えばLuerタイプの、係止装置31が提供される。
【0039】
ガイド装置25の透明な端部分27aがトロカール装置15のバルーン11内に配置され、ガイド装置25のトロカールアダプタ29がトロカール本体17の上端面上に当接するまで、ガイド装置25は、トロカール本体17の内部通路19を介してトロカール装置15のバルーンシャフト16に挿入されたガイド装置25のガイド26によって、トロカール装置15に組み付けられる。ガイド装置25及びトロカール装置15を組み立て状態で維持して緊密性を確保するために、スプリングタブ32が、例えばシリコーンで作製された、シーリングキャップ33の介在によりトロカール本体17の上端面に対してトロカールアダプタ29を圧接する。
【0040】
コア35は、近位端36a及び発光面37を担持する遠位端36bを有した光ファイバ36である。例示された実施形態では、光を光ファイバ36の軸に対して横方向に発することができるように、発光面37は、光ファイバ36の軸の周辺に延在する側面の一部分に沿って配置される。大きな腔を照射するために、発光面37は、15mmと70mmとの間の長さ及び250μmと750mmとの間のコア直径を有することができる。特定の非限定的な例では、光ファイバ36は、発光面37が長さ70mm及び直径500μmである、RD-ML70mmの名で、Medlight S.A.よって開発されたタイプの光ファイバである。変形態様では、コアは、任意の他の好適なタイプであってもよく、特に任意の種類の光ファイバであってもよい。
【0041】
発光面37が、中心軸Aに対して横方向に光を発するために、中心軸Aに中心を合わせられシース10のトロカール装置15のバルーン11内に正確に位置付けられるように、発光面37が横断端面27bと接触してシース10のガイド装置25の透明な端部分27a内に配置されるまで、光ファイバ36は、中心軸Aに沿ってシース10に挿入され得る。挿入されると、光ファイバ36は、トロカールアダプタ29の係止装置31によって適切な位置に係止され得る。
【0042】
照射装置5は、光ファイバ36の近位端36aに接続され、光感受性物質化合物を活性化するために決定された波長及び電力で光を生成するように適合された光源38、特にレーザ光源を更に含む。特定の非限定的な例では、光源38は、3Wの最大電力、630±3nmの波長でLED技術を実施する、Ceralas D50の名でBiolitec AGによって開発されたレーザのタイプのレーザ光源である。
【0043】
本発明によれば、サポート
装置として、バルーン11の壁12の外面における対応する光パワーの分布に、及び/又は決定された照射量の光エネルギーを提供するための対応する照射の時間に、各々の膨張状態の光拡散液の
所定量を関連づける伝達関数が提供される。特に、
図4に示されるように、伝達関数は、決定された照射量の光エネルギーを提供するための対応する照射の時間に光拡散液の各々の
所定量を関連づけるグラフであり得る。変形態様では、伝達関数は、表であり得る。
【0044】
サポート装置は、照射部材を操作しているオペレータが視認可能な伝達関数の表示装置を含むことができる。表示装置は、伝達関数が印刷されたシートであり得る。変形態様では、表示装置は、伝達関数が表示されるコンピュータのスクリーンなどの、電子部品であり得る。
【0045】
照射の時間は、以下の少なくとも1つに光拡散液の所定量の範囲の各々の値を関連させる伝達関数に基づいて、オペレータによって手動で制御され得る。
-バルーン11の壁12の外面における光パワーの1組の値。
-決定された照射量の光エネルギーを提供するための照射の時間。
【0046】
変形態様では、照射の時間は、自動制御され得る。そのため、システム1は、伝達関数が記憶されるサポート装置としてのメモリを有した電子ユニット39を含むことができる。電子ユニット39は、照射装置5に接続されて、メモリに記憶された伝達関数に基づいて照射装置5、特に光源38を制御する。電子ユニット39は、光源38と一体であっても又は光源38と別々であってもよい。電子ユニット39は、次いで、腔2の境界の組織に伝達される光エネルギーの照射量をリアルタイムで監視することができる。
【0047】
図3及び
図4は、特に、伝達関数を組み入れることを可能にする、システム1の準備方法を例示する。
【0048】
光拡散液の各々の
所定量に対応するバルーン11の壁12の外面における光パワーの分布を測定するための試験台50が
図3に表される。
【0049】
試験台50は、底部52、不透明な、特に黒い、側壁53、及び開口上部54を有した容器51を含む。試験台50はまた、
-例えばIsoprobe IP85の名でMedlight社によって開発されたセンサのタイプの、等方性センサ56
-例えば1918-Rの名でNewport社によって開発された電力計のタイプの、等方性センサ56に接続された電力計57、及び
-等方性センサ56を容器51内のいろいろな位置に配置することを可能にするサポート装置58
で作製された測定システム55を含む。
【0050】
腔2を備えた生体物質が使用される。特に、生体物質は脳60であり得る。脳60は2つに半割され、小脳、脳幹、及び脳梁が抽出される。脳60の各々の半分は、内部組織(灰白質及び白質)を照射部材6に暴露するために、長手方向に切れ目を入れられる。
【0051】
光拡散液が調製される。特に、0.1%の濃度の光拡散液が、1Lの生理学的漿液に、Fresenius Kabi France社によって開発された20%の濃度を有するイントラリピド液などの、5mLのイントラリピド液を注入して混合液を形成し均一な溶液が得られるまで攪拌することによって調製される。
【0052】
脳60の第1の半分60aが、容器51の底部52上に配置される。収縮状態の照射部材6のバルーン11が、容器51の脳60の第1の半分60aより上に挿入される。レーザ光源38のスイッチが入れられ、光ファイバ36が較正される。光ファイバ36が、次いで、照射部材6のシース10内に挿入され、発光面37がバルーン11において配置されるとトロカールアダプタ29の係止装置31によってシース10に係止される。脳60の第2の半分60bが、照射部材6のバルーン11上に配置される。
【0053】
バルーン11の内部空間が、例えばシリンジ40によって、開閉コック21を介して所定量の光拡散液で充填される。バルーン11に光拡散液を充填する前にバルーン11の内部空間が確実に空にされ得ることに留意する必要がある。例えば手動タイプの、ポンプが、開閉コック21に接続され得る。
【0054】
光拡散液の所定量に対して、バルーン11の壁12の外面における対応する光パワーの分布が、等方性センサ56をバルーン11の壁12の外面のいろいろな位置へ移動させることによって測定され得る。これらの測定により、照射部材6の放射照度が算出され、これにより、光拡散液の所定量に対応する決定された照射量の光エネルギーを提供するための照射の時間が決定され得る。
【0055】
所定量は、次いで、逐次追加的な量の光拡散液を添加することによって、例えば漸増的に、変化させることができる。光拡散液の各々の所定量に対応する、バルーン11の壁12の外面における光パワーの分布、及び決定された照射量の光エネルギーを提供するための照射の時間、を有するための追加的な量の各々の添加の後に、測定が実行される。
【0056】
図4に示されるように、
図3の試験台50によって実行される測定から生じた光拡散液の
所定量の関数として照射の時間を例示するグラフが得られ得る。
【0057】
患者の身体3の腔2の光線力学的療法による治療方法が、ここで、神経膠芽腫の外科的切除から生じた患者の頭部4の腔2を例示する
図5との関連で開示される。
【0058】
光線力学的療法による治療は、術中、神経膠芽腫の切除の後に実行される。特に、神経外科医による腔2の内側の腫瘍の視覚的予後診断の実行を可能にするために、神経膠芽腫の切除の神経外科的手技の間に、造影剤が組織に注入され得る。造影剤は、多くの他の造影剤よりも選択的なことが知られている、Gliolan(登録商標)の名称でMedac GmbHによって開発された薬剤であり得る。造影剤の代謝から生じる物質は、腔2の境界の組織内に吸収され、光線力学的療法のための光感受性物質として使用され得る。
【0059】
照射部材6の構成要素が、集められる。これらの構成要素は、再使用可能であり得る構成要素のために予め殺菌されるか、又は再使用可能ではない構成要素のために無菌である。非限定的な例では、光ファイバ36及びシース10のトロカール装置15のトロカール本体17が再使用可能で殺菌され、シース10のトロカール装置15のバルーンシャフト16及びガイド装置25が無菌で使い捨てであり得る。他の例では、ガイド装置25が、再使用可能かつ殺菌可能であり得る。
【0060】
照射部材6のシース10が、先に開示されたように組み立てられ、例えば手動タイプの、ポンプを開閉コック21に接続することによって、バルーン11が空にされる。
【0061】
照射部材6が、ヒト又はロボット化されたオペレータによって保持され、収縮状態のバルーン11が腔2の中心に設置されるように、腔2の方へ動かされる。
【0062】
バルーン11の壁12が腔2の境界の組織と接触するまで、光拡散液として連続した既知の所定量の先に開示されたイントラリピド液を開閉コック21を介して内部空間に充填することによって、バルーン11が腔2に合わせられる。
【0063】
光拡散液の総量が記録される。
【0064】
光ファイバ36が、レーザ光源38に接続され、必要な場合には一度較正されて、発光面37が透明な端部分27aに到達するまでシース10のガイド装置25に挿入される。発光面37がバルーン11において中央に配置され、光ファイバ36がトロカールアダプタ29の係止装置31によって適切な位置に係止される。
【0065】
照射の時間が、バルーン11に充填した光拡散液の所定量に基づいて決定される。
【0066】
例えばレーザ光源38と一体の、電子ユニット39が、例えば2Wの、パワー及び決定された照射の時間に設定される。
【0067】
腔2が、光源38の設定に従って、バルーン11に配置された発光面37によって照射される。照射の時間が、光感受性物質を活性化して局所的な治療効果を誘起するために、手動で又は電子ユニット39を介して伝達関数どおりに制御される。