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特許7023279SynP198、方向選択性網膜神経節細胞内での遺伝子の特異的発現のためのプロモーター
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  • 特許-SynP198、方向選択性網膜神経節細胞内での遺伝子の特異的発現のためのプロモーター 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】SynP198、方向選択性網膜神経節細胞内での遺伝子の特異的発現のためのプロモーター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20220214BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220214BHJP
   C12N 15/67 20060101ALI20220214BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220214BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220214BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220214BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220214BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220214BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/67 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/12
C12P21/00 C
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2019522550
(86)(22)【出願日】2017-11-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 IB2017056792
(87)【国際公開番号】W WO2018083607
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】16196818.5
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518089687
【氏名又は名称】フリードリッヒ ミーシェー インスティトゥート フォー バイオメディカル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【弁理士】
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ハートル,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ユエットナー,ジョゼフィーヌ
(72)【発明者】
【氏名】クレブス,アルノー
(72)【発明者】
【氏名】ロスカ,ボトンド
(72)【発明者】
【氏名】シューベラ,ディルク
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】Kanchi,K. et al.,Accession No.AC133200,Database GenBank [online],2005年01月27日,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AC133200.3/,Definition: Mus musculus BAC clone RP23-292C19from 3, complete sequence.
【文献】Cedroni,M. et al.,Accession No.AC127260,Database GenBank [online],2003年11月13日,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AC127260,Definition: Mus musculus BAC clone RP24-315I3 from chromosome 3, complete sequence.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された核酸分子であって、
配列番号1の核酸配列を含むかもしくはそれからなるか、またはなくとも400塩基対の核酸配列を含み、かつ配列番号1の前記配列と少なくとも90%の同一性を有し、
ここで、前記単離された核酸分子は、方向選択性網膜神経節細胞における遺伝子の発現を、前記遺伝子をコードする核酸配列が前記単離された核酸分子に機能的に連結される場合に駆動するのに効果的である、単離された核酸分子。
【請求項2】
配列番号1の核酸配列を含む、請求項1記載の単離された核酸分子。
【請求項3】
最小プロモーターをさらに含む、請求項1または2に記載の単離された核酸分子。
【請求項4】
前記最小プロモーターが、配列番号2の核酸配列を含む、請求項に記載の単離された核酸分子。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の単離された核酸を含む発現カセットであって、前記単離された核酸は、遺伝子をコードする酸配列に機能的に連結される、発現カセット。
【請求項6】
請求項に記載の発現カセットを含むベクター。
【請求項7】
前記ベクターは、ウイルスベクターである、請求項に記載のベクター。
【請求項8】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項に記載のベクター。
【請求項9】
方向選択性網膜神経節細胞内で遺伝子を発現させるための、請求項1~のいずれか1項に記載の単離された核酸、請求項に記載の発現カセットまたは請求項6~8のいずれか1項に記載のベクターのインビトロでの使用。
【請求項10】
方向選択性網膜神経節細胞内で遺伝子を発現させる方法であって、単離された細胞、細胞系または細胞集団を請求項に記載の発現カセットでトランスフェクトする工程を含み、前記遺伝子は、前記細胞が方向選択性網膜神経節細胞であるか、または前記細胞系または細胞集団が方向選択性網膜神経節細胞を含む場合、前記単離された細胞、前記細胞系または前記細胞集団によって発現される、方法。
【請求項11】
請求項に記載の発現カセットまたは請求項6~8のいずれか1項に記載のベクターを含む単離された細胞。
【請求項12】
前記発現カセットまたはベクターは、前記細胞のゲノム内に安定的に組み込まれる、請求項11に記載の単離された細胞。
【請求項13】
前記遺伝子の産物は、光感受性分子である、請求項1~のいずれか1項に記載の単離された核酸分子
【請求項14】
前記光感受性分子は、ハロロドプシンまたはチャネルロドプシンである、請求項13に記載の単離された核酸分子
【請求項15】
前記遺伝子の産物は、光感受性分子である、請求項5に記載の発現カセット。
【請求項16】
前記光感受性分子は、ハロロドプシンまたはチャネルロドプシンである、請求項15に記載の発現カセット。
【請求項17】
前記遺伝子の産物は、光感受性分子である、請求項6~8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項18】
前記光感受性分子は、ハロロドプシンまたはチャネルロドプシンである、請求項17に記載のベクター。
【請求項19】
前記遺伝子の産物は、光感受性分子である、請求項9に記載の使用。
【請求項20】
前記光感受性分子は、ハロロドプシンまたはチャネルロドプシンである、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記遺伝子の産物は、光感受性分子である、請求項10に記載の方法。
【請求項22】
前記光感受性分子は、ハロロドプシンまたはチャネルロドプシンである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記遺伝子の産物は、光感受性分子である、請求項11もしくは12に記載の細胞。
【請求項24】
前記光感受性分子は、ハロロドプシンまたはチャネルロドプシンである、請求項23に記載の細胞。
【請求項25】
請求項1~のいずれか1項に記載の単離された核酸分子を含む、方向選択性網膜神経節細胞内で遺伝子を発現させるためのキット。
【請求項26】
ニードル、シリンジ、および/または、単離された核酸分子または薬学的に許容されるその調製物を投与するための取扱説明書をさらに含む、請求項25に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向選択性網膜神経節細胞内で特異的に遺伝子の発現をもたらす核酸配列に関する。
【背景技術】
【0002】
発現目的では、組換え遺伝子は、通常、異種遺伝子の転写を許容する活性発現カセットに関連して、cDNA構築物として標的の細胞、細胞集団または組織内にトランスフェクトされる。DNA構築物は、エンハンサー、サイレンサー、インスレーターおよびプロモーター(本明細書では包括的に「プロモーター」と呼ぶ)を含むシス制御エレメントでの多数のトランス作用性転写因子(TF)の活性を含む過程における細胞転写機構によって認識される。
【0003】
遺伝子プロモーターは、これらのレベルの制御の全てに関わり、DNA配列、転写因子の結合およびエピジェネティックな特色の影響を統合することにより、遺伝子転写における決定因子として機能する。それらは、例えば、プラスミドベクターによってコードされる導入遺伝子の強度ならびにいずれの細胞タイプで前記導入遺伝子が発現するかを決定する。
【0004】
哺乳類細胞における異種遺伝子発現を駆動するために使用される最も一般的なプロモーターは、ヒトおよびマウスのサイトメガロウイルス(CMV)主要前初期プロモーターである。それらは、強力な発現を付与し、数種の細胞タイプにおいて堅固であることが証明された。SV40前初期プロモーターおよびラウス肉腫ウイルス(RSV)LTR(長い末端反復)プロモーターなどの他のウイルスプロモーターも発現カセット内に頻回に使用される。
【0005】
ウイルスプロモーターの代わりに細胞プロモーターも使用できる。特に公知のプロモーターは、例えば、β-アクチン、伸長因子1-α(EF-lα)またはユビキチンなどの大量に転写された細胞転写産物をコードするハウスキーピング遺伝子由来のプロモーターである。ウイルスプロモーターと比較して、真核細胞遺伝子発現は、より複雑であり、多数の異なる因子の精密な協調を必要とする。
【0006】
導入遺伝子発現のための内在性制御エレメントの使用に関する態様の1つは、安定性mRNAの生成およびその結果としてトランス作用性転写因子が提供される宿主細胞の自然環境内において、その発現が発生し得ることである。真核細胞遺伝子の発現は、シス作用性およびトランス作用性制御エレメントの複雑な機構によって制御されるため、大多数の細胞プロモーターは、広範な機能的特性解析の欠如を受ける。真核細胞プロモーターの部分は、通常、転写配列の直接上流に位置し、転写開始点として機能する。コアプロモーターは、転写機構によって十分に認識される転写開始部位(TSS)を直接的に取り囲む。近位プロモーターは、コアプロモーターの上流の領域を含み、TSSおよび転写調節のために必要とされる他の配列特徴を含有する。転写因子は、プロモーターおよびエンハンサー配列内の調節モチーフに結合することによって配列特異的に作用し、それにより、最終的に転写の開始を許容するヌクレオソーム構造ならびにその位置を変化させるクロマチンおよびヒストン修飾酵素を活性化させる。機能的プロモーターの同定は、主として、関連する上流または下流エンハンサーエレメントの存在に左右される。
【0007】
導入遺伝子発現のための内在性制御エレメントの使用に関する別の極めて重要な態様は、一部のプロモーターが細胞特異的方法で作用することができ、特定のタイプの細胞内またはプロモーターに依存して特定のサブセットの細胞内での導入遺伝子の発現をもたらすであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このため、本発明の1つの目的は、高発現レベルを備える哺乳類細胞内においてかつ細胞タイプ特異的方法で組換え遺伝子を発現させるために適切である新規な配列を入手することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのような配列は、神経変性障害、視力回復、創薬、腫瘍治療および障害の診断を研究するための系を開発するための網膜細胞特異的プロモーターに対する当技術分野における必要性に対処する。
【0010】
本発明者らは、エピジェネティクス、バイオインフォマティクスおよび神経科学を組み合わせて、眼内にある場合に方向感受性網膜神経節細胞内でのみ遺伝子発現を駆動するプロモーターを見出した。
【0011】
本発明の配列の核酸配列は、
【化1】

である。
【0012】
したがって、本発明は、配列番号1の核酸配列または配列番号1の前記核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する少なくとも400bpの核酸配列を含むかまたはそれからなる単離された核酸分子であって、遺伝子であって、前記遺伝子をコードする前記核酸配列に機能的に連結された遺伝子の方向選択性網膜神経節における発現を特異的にもたらす、単離された核酸分子を提供する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも80%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも85%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも95%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも96%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも97%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも98%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも99%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と100%の同一性を有する。
【0013】
本発明の単離された核酸分子は、追加的に、最小プロモーター、例えばSV40最小プロモーター、例えばSV40最小プロモーターまたは実施例において使用される最小プロモーターを含むことができる。
【0014】
ストリンジェントな条件下において、上述した本発明の単離された核酸分子にハイブリダイズする配列を含む単離された核酸分子も提供される。
【0015】
本発明は、上述した本発明の単離された核酸を含む発現カセットであって、前記プロモーターは、方向選択性網膜神経節において特異的に発現される遺伝子をコードする少なくとも核酸配列に機能的に連結される、発現カセットをさらに提供する。
【0016】
本発明は、本発明の発現カセットを含むベクターをさらに提供する。一部の実施形態では、前記ベクターは、ウイルスベクターである。
【0017】
本発明は、方向選択性網膜神経節内で遺伝子を発現させるための、本発明の核酸、本発明の発現カセットまたは本発明のベクターの使用も含む。
【0018】
本発明は、方向選択性網膜神経節内で遺伝子を発現させる方法であって、単離された細胞、細胞系または細胞集団(例えば、組織)を本発明の発現カセットでトランスフェクトする工程を含み、発現される遺伝子は、前記細胞が方向選択性網膜神経節であるか、または前記細胞が方向選択性網膜神経節を含む場合、単離された細胞、細胞系または細胞集団によって発現される、方法をさらに提供する。一部の実施形態では、単離された細胞、細胞系もしくは細胞集団または組織は、ヒトである。
【0019】
本発明は、本発明の発現カセットを含む単離された細胞をさらに提供する。一部の実施形態では、発現カセットまたはベクターは、前記細胞のゲノム内に安定的に組み込まれる。
【0020】
本発明のプロモーターに機能的に連結させることができる典型的な遺伝子は、ハロロドプシンまたはチャネルロドプシンをコードする遺伝子である。
【0021】
さらに、本発明は、方向選択性網膜神経節内で遺伝子を発現させるためのキットであって、本発明の単離された核酸分子を含むキットも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】光受容器層における側方投影図および上面図としての、成体C57BL/6マウスの眼におけるAAV-synP198-ChR2-EGFPの網膜下注射3週間後の、配列番号1を備えるプロモーターからのEGFP発現のレーザー走査型共焦点顕微鏡画像である。方向選択性(DS)神経節細胞において誘導性発現を観察できる。緑色=配列番号1によって駆動されたEGFP、赤色=ChAT(コリンアセチルトランスフェラーゼ)、白色=Hoechst。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、エピジェネティクス、バイオインフォマティクスおよび神経科学を組み合わせて、眼内にある場合に方向感受性網膜神経節細胞内でのみ遺伝子発現を駆動するプロモーターを見出した。
【0024】
本発明の配列の核酸配列は、
【化2】

である。
【0025】
したがって、本発明は、配列番号1の核酸配列または配列番号1の前記核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する少なくとも400bpの核酸配列を含むかまたはそれからなる単離された核酸分子であって、遺伝子であって、前記遺伝子をコードする前記核酸配列に機能的に連結された遺伝子の方向選択性網膜神経節における発現を特異的にもたらす、単離された核酸分子を提供する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも80%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも85%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも90%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも95%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも96%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも97%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも98%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と少なくとも99%の同一性を有する。一部の実施形態では、核酸配列は、少なくとも400bpであり、配列番号1の前記核酸配列と100%の同一性を有する。
【0026】
本発明の単離された核酸分子は、追加的に、最小プロモーター、例えばSV40最小プロモーター、例えばSV40最小プロモーターまたは実施例において使用される最小プロモーターを含むことができる。
【0027】
ストリンジェントな条件下において、上述した本発明の単離された核酸分子にハイブリダイズする配列を含む単離された核酸分子も提供される。
【0028】
本発明は、上述した本発明の単離された核酸を含む発現カセットであって、前記プロモーターは、方向選択性網膜神経節において特異的に発現される遺伝子をコードする少なくとも核酸配列に機能的に連結される、発現カセットをさらに提供する。
【0029】
本発明は、本発明の発現カセットを含むベクターをさらに提供する。一部の実施形態では、前記ベクターは、ウイルスベクターである。
【0030】
本発明は、方向選択性網膜神経節内で遺伝子を発現させるための、本発明の核酸、本発明の発現カセットまたは本発明のベクターの使用をさらに含む。
【0031】
本発明は、方向選択性網膜神経節内で遺伝子を発現させる方法であって、単離された細胞、細胞系または細胞集団(例えば、組織)を本発明の発現カセットでトランスフェクトする工程を含み、発現される遺伝子は、前記細胞が方向選択性網膜神経節であるか、または前記細胞が方向選択性網膜神経節を含む場合、単離された細胞、細胞系または細胞集団によって発現される、方法をさらに提供する。一部の実施形態では、単離された細胞、細胞系もしくは細胞集団または組織は、ヒトである。
【0032】
本発明は、本発明の発現カセットを含む単離された細胞をさらに提供する。一部の実施形態では、発現カセットまたはベクターは、前記細胞のゲノム内に安定的に組み込まれる。
【0033】
本発明のプロモーターに機能的に連結させることができる典型的な遺伝子は、ハロロドプシンまたはチャネルロドプシンをコードする遺伝子である。
【0034】
さらに、本発明は、方向選択性網膜神経節内で遺伝子を発現させるためのキットであって、本発明の単離された核酸分子を含むキットも提供する。
【0035】
本明細書で使用する用語「プロモーター」は、エンハンサー、サイレンサー、インスレーターおよびプロモーターを含む任意のシス制御エレメントを意味する。プロモーターは、一般に、転写される必要がある遺伝子の上流に(5’領域に向かって)位置するDNAの領域である。プロモーターは、それが制御する遺伝子の適正な活性化または抑制を許容する。本発明に関連して、プロモーターは、方向選択性網膜神経節内でそれらに機能的に連結された遺伝子の特異的発現をもたらす。「所定タイプの細胞のみでの発現」とも呼ばれる「特異的発現」は、対象の遺伝子を発現する細胞の少なくとも75%超が特定のタイプである、すなわち本発明の場合には方向選択性網膜神経節であることを意味する。
【0036】
発現カセットは、典型的には、宿主細胞内への発現カセットの進入および宿主細胞内での発現カセットの維持を促進するベクター内に導入される。そのようなベクターは、一般に使用され、当業者に周知である。多数のそのようなベクターは、例えば、Invitrogen社、Stratagene社、Clontech社などから市販で入手することができ、全て以前に記載したAusubel、Guthrie、StrathemまたはBergerなどの多数の案内書に記載されている。そのようなベクターは、多重クローニング部位および例えば複製起点、選択マーカー遺伝子(例えば、LEU2、URA3、TRP1、HIS3、GFP)、セントロメア配列などの追加のエレメントとともに、典型的にはプロモーター、ポリアデニル化シグナルなどを含む。
【0037】
ウイルスベクター、例えばAAV、PRVまたはレンチウイルスは、本発明のプロモーターを使用して遺伝子を方向選択性網膜神経節に標的化および送達するために適合する。
【0038】
網膜細胞の出力は、例えば、多電極アレイもしくはパッチクランプなどの電気的方法を使用して、または例えば蛍光の検出などの視覚的方法を使用して測定できる。
【0039】
本発明の核酸配列を使用する方法は、神経障害または方向選択性網膜神経節に関連する網膜の障害を治療するための治療剤を同定するために使用され得、前記方法は、本発明のプロモーター下で1つ以上の導入遺伝子を発現する方向選択性網膜神経節と試験化合物とを接触させる工程と、前記試験化合物の存在下で得られる方向選択性網膜神経節の少なくとも1つの出力を、前記試験化合物の非存在下で得られた同一出力と比較する工程とを含む。
【0040】
さらに、本発明のプロモーターを使用する方法は、視力回復のインビトロ試験のためにも使用することができ、前記方法は、本発明のプロモーターの制御下で1つ以上の導入遺伝子を発現する方向選択性網膜神経節を1つの作用物質と接触させる工程と、前記作用物質との接触後に得られた少なくとも1つの出力を、前記作用物質との前記接触前に得られた同一出力と比較する工程とを含む。
【0041】
チャネルロドプシンは、光開閉性イオンチャネルとして機能するオプシンタンパク質のサブファミリーである。チャネルロドプシンは、走光性、すなわち光に応答する運動を制御する単細胞緑藻類中の感覚的光受容器として機能する。他の生物の細胞内で発現すると、それらは、光を使用して細胞内酸性度、カルシウム流入、電気興奮性および他の細胞過程を制御することを可能にする。現在、少なくとも3種のチャネルロドプシン-1(ChR1)、チャネルロドプシン-2(ChR2)およびボルボックス(Volvox)チャネルロドプシン(VChR1)の「天然」チャネルロドプシンが公知である。さらに、これらのタンパク質の数種の修飾/改良バージョンも存在する。全ての公知のチャネルロドプシンは、H+、Na+、K+およびCa2+イオンを伝導する非特異的カチオンチャネルである。
【0042】
ハロロドプシンは、塩化物イオンにとって特異的である光駆動性イオンポンプであり、好塩性細菌として公知である系統発生的に古代の「細菌」(古細菌)中で見出される。ハロロドプシンは、光駆動プロトンポンプであるバクテリオロドプシンと相同であり、網膜において光を感知する色素である脊椎動物ロドプシンと(一次配列構造ではなく)三次構造が類似しているレチニリデンタンパク質ファミリーの7回膜貫通型タンパク質である。ハロロドプシンは、光駆動性イオンチャネルであるチャネルロドプシンと配列類似性をさらに共有する。ハロロドプシンは、必須光異性化性ビタミンA誘導体であるオール-トランス-レチナールを含有する。ハロロドプシンは、その結晶構造が公知である少ない膜タンパク質の1つである。ハロロドプシンのアイソフォームは、H.サリナルム(H.salinarum)およびN.ファラオニス(N.pharaonis)を含む好塩菌の多数の種において見出すことができる。多数の進行中の研究がこれらの相違を探索中であり、光反応サイクルおよびポンプ特性に関して解析するためにそれらを使用している。ハロロドプシンは、バクテリオロドプシンの次に試験対象の最良のI型(微生物の)オプシンであろう。ハロロドプシン網膜複合体のピーク吸光度は、約570nmである。近年、ハロロドプシンは、光遺伝学におけるツールとなってきた。まさに青色光活性化イオンチャネルであるチャネルロドプシン-2が青色光の短いパルスを用いて、興奮性細胞(例えば、ニューロン、筋細胞、膵臓細胞および免疫細胞など)を活性化する能力を発揮するように、ハロロドプシンは、黄色光の短いパルスを用いて興奮細胞を鎮静化する能力を発揮する。したがって、ハロロドプシンおよびチャネルロドプシンは、一緒に神経活性の多色光学的な活性化、鎮静および脱同期化を可能にし、強力な神経工学のツールボックスを作り出す。
【0043】
一部の実施形態では、プロモーターは、網膜を標的としたベクターの一部であり、前記ベクターは、生きている方向選択性網膜神経節内で検出可能である少なくとも1つのレポーター遺伝子を発現する。
【0044】
本発明のために適合するウイルスベクターは、当技術分野において周知である。例えば、AAV、PRVまたはレンチウイルスは、方向選択性網膜神経節に遺伝子を標的化および送達するために適合する。
【0045】
単離された網膜を用いて作業する場合、網膜細胞にとって最適なウイルス送達は、網膜の光受容器側が露出され、したがってより良好にトランスフェクトされ得るように神経節細胞側を下向きに載せることにより達成できる。別の技術は、例えば、送達中のウイルスが内膜を貫通できるように、網膜の内境界膜を例えばカミソリの刃を用いてスライスする方法である。別の方法では、寒天内に網膜を包埋し、前記網膜をスライスし、スライスの側面から送達ウイルスを適用する。
【0046】
トランスフェクトされた細胞の出力は、周知の方法を使用して、例えば多電極アレイもしくはパッチクランプなどの電気的方法を使用して、または例えば蛍光の検出などの視覚的方法を使用して測定することができる。一部の場合、内境界膜は、内境界膜の顕微手術によって取り除かれる。他の場合、内境界膜に実施されたスライスを通して記録が達成される。
【0047】
本発明のために網膜細胞の任意の供給源を使用することができる。本発明の一部の実施形態では、網膜細胞は、ヒト網膜由来であるか、またはヒト網膜中にある。他の実施形態では、網膜は、動物由来、例えばウシまたは齧歯類起源である。ヒト網膜は、通常、前記網膜が角膜の切開後に廃棄される角膜バンクから容易に入手することができる。成人ヒト網膜は、大きい表面積(約1100mm)を有し、そのため、多数の実験的小区域に容易に分けることができる。さらに、網膜は、脳の他の部位と同一であるシナプスを有するため、シナプス連絡の精巧なモデルとして使用することもできる。
【0048】
本明細書で使用する用語「動物」は、本明細書では全動物を含むように使用される。本発明の一部の実施形態では、非ヒト動物は、脊椎動物である。動物の例は、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ネコ、イヌなどである。用語「動物」は、胚形成期および胎生期を含む全発生段階における個々の動物をさらに含む。「遺伝子組換え動物」は、例えば、標的化組換え、マイクロインジェクションまたは組換えウイルスを用いた感染などによる細胞下レベルでの意図的な遺伝子操作によって直接的または間接的に変化されたかまたは受け入れた遺伝情報を有する1つ以上の細胞を含有する任意の動物である。用語「遺伝子組換え動物」は、古典的な交雑または体外受精を含むことを意図されず、むしろ、その中で1つ以上の細胞が組換えDNA分子によって変化されるかまたは組換えDNA分子を受け入れる動物を含むことが意図される。この組換えDNA分子は、規定の遺伝子座に特異的に標的化することができるか、染色体内に無作為に組み込むことができるか、または染色体外でDNAを複製できる可能性がある。用語「生殖系列遺伝子組換え動物」は、その中で遺伝子変化または遺伝情報が生殖系列細胞内に導入され、それにより、その子孫に遺伝情報を移転させる能力を付与する遺伝子組換え動物を意味する。そのような子孫が実際にその変化または遺伝情報の一部もしくは全部を有する場合、それらは、同様に遺伝子組換え動物である。
【0049】
変化または遺伝情報は、それにレシピエントが属する動物の種にとって外来もしくは特定の個々のレシピエントにとってのみ外来であり得るか、またはそのレシピエントが既に有する遺伝情報であり得る。最後の場合、変化または導入された遺伝子は、天然遺伝子と異なって発現されるかまたは全く発現されない可能性がある。
【0050】
標的遺伝子を変化させるために使用される遺伝子は、ゲノム起源からの単離、単離されたmRNA鋳型からのcDNAの調製、直接的合成またはそれらの組合わせを含むがそれらに限定されない極めて様々な技術によって入手することができる。
【0051】
導入遺伝子導入のための1つのタイプの標的細胞は、ES細胞である。ES細胞は、インビトロで培養した着床前胚から入手して胚と融合させることができる(Evans et al.(1981)、Nature 292:154-156;Bradley et al.(1984)、Nature 309:255-258;Gossler et al.(1986)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:9065-9069;Robertson et al.(1986)、Nature 322:445-448;Wood et al.(1993)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:4582-4584)。導入遺伝子は、ES細胞内に、例えばエレクトロポレーションを使用するDNAトランスフェクションなどの標準技術またはレトロウイルス媒介性形質導入によって効率的に導入することができる。結果として生じた形質転換されたES細胞は、その後、凝集によって桑実胚と結合させることができ、または非ヒト動物由来の胚盤胞内に注入することができる。導入されたES細胞は、その後、胚をコロニー形成し、結果として生じるキメラ動物の生殖細胞系列に寄与する(Jaenisch(1988),Science 240:1468-1474)。遺伝子標的化遺伝子組換えマウスの生成における遺伝子標的化ES細胞の使用は、1987年に記載されており(Thomas et al.(1987)、Cell 51:503-512)、他の文献で概説されている(Frohman et al.(1989)、Cell 56:145-147;Capecchi (1989)、Trends in Genet.5:70-76;Baribault et al.(1989)、Mol.Biol.Med.6:481-492;Wagner(1990)、EMBO J.9:3025-3032;Bradley et al.(1992)、Bio/Technology 10:534-539)。
【0052】
染色体対立遺伝子内に特異的変化を挿入するために、標的化相同組換えを使用することにより、所望の任意の突然変異への任意の遺伝子領域を不活性化または変化させるための技術を利用できる。
【0053】
本明細書で使用する「標的化遺伝子」は、本明細書に記載した方法を含むがそれらに限定されない人間の介入により、非ヒト動物の生殖細胞系列内に導入されるDNA配列である。本発明の標的化遺伝子は、同族内在性対立遺伝子を特異的に変化させるために設計されたDNA配列を含む。
【0054】
本発明では、「単離された」は、その本来の環境(例えば、それが自然に生じる場合には自然環境)から取り除かれた物質を意味し、したがって、その自然状態から「人間の手」によって変化される。例えば、単離されたポリヌクレオチドは、ベクターもしくは合成物の一部である可能性があるか、または細胞内に含有され得るが、それでも、そのベクター、合成物または特定の細胞がそのポリヌクレオチドの本来の環境ではないために「単離されて」いる可能性がある。用語「単離された」は、ゲノムもしくはcDNAライブラリー、全細胞完全もしくはmRNA調製物、ゲノムDNA調製物(電気泳動法によって分離され、ブロット上に移動された調製物を含む)、剪断された全細胞ゲノムDNA調製物または当技術分野が本発明のポリヌクレオチド/配列の際立った特徴を全く証明しない他の組成物を意味しない。単離されたDNA分子の別の例は、異種宿主細胞内で維持された組換えDNA分子または溶液中の(部分的もしくは実質的に)精製されたDNA分子を含む。単離されたRNA分子は、本発明のDNA分子のインビボまたはインビトロRNA転写産物を含む。しかし、ライブラリーの他のメンバー(例えば、クローンおよびライブラリーの他のメンバーを含有する均一溶液の形態である)から単離されていないライブラリー(例えば、ゲノムまたはcDNAライブラリー)のメンバーであるクローン、または細胞もしくは細胞溶解物から除去された染色体(例えば、核型中におけるように「染色体スプレッド」)、または無作為に剪断されたゲノムDNAの調製物もしくは1つ以上の制限酵素を用いて切断されたゲノムDNAの調製物中に含有される核酸は、本発明の目的のために「単離」されない。本明細書で詳細に考察したように、本発明による単離された核酸分子は、自然に、組換えにより、または合成的に生成され得る。
【0055】
「ポリヌクレオチド」は、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖および二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖領域RNAならびに一本鎖および二本鎖領域の混合物であるRNA、DNAおよび一本鎖であり得るか、またはより典型的には、二本鎖もしくは一本鎖および二本鎖領域の混合物であり得るRNAを含むハイブリッド分子から構成され得る。さらに、ポリヌクレオチドは、RNAもしくはDNAまたはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域から構成され得る。ポリヌクレオチドは、1つ以上の修飾塩基または安定性もしくは他の理由のために修飾されたDNAもしくはRNAバックボーンをさらに含有することができる。「修飾」塩基は、例えば、トリチル化塩基およびイノシンなどの珍しい塩基を含む。DNAおよびRNAに様々な修飾を加えることができる。したがって、「ポリヌクレオチド」は、化学的、酵素的または代謝的に修飾された形態を含む。
【0056】
「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」という表現は、ポリペプチドならびに追加のコーディング配列および/または非コーディング配列を含むポリヌクレオチドのための唯一のコーディング配列を含むポリヌクレオチドを含む。
【0057】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、50%のホルムアミド、5×SSC(750mMのNaCl、75mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×のデンハルト溶液、10%の硫酸デキストランおよび20μg/mLの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中での42℃での一晩のインキュベーション、その後の約50℃での0.1×SSC中でのフィルターの洗浄を意味する。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーおよびシグナル検出における変化は、主としてホルムアミド濃度(低いパーセンテージのホルムアミドは、低下したストリンジェンシーを生じさせる)の操作;塩条件または温度を通して実施される。例えば、中等度の高ストリンジェンシー条件は、6×SSPE(20×SSPE=3MのNaCl;0.2MのNaHPO;0.02MのEDTA、pH7.4)、0.5%のSDS、30%のホルムアミド、100μg/mLのサケ精子ブロッキングDNAを含む溶液中において37℃での一晩のインキュベーション、その後の1×SSPE、0.1%のSDSを用いた50℃での洗浄を含む。さらに、一層低いストリンジェンシーさえも達成するために、ストリンジェンシー条件後に実施される洗浄は、より高い塩濃度(例えば、5×SSC)で実施することができる。上記の条件における変化は、ハイブリダイゼーション実験におけるバックグラウンドを抑えるために使用される代替ブロッキング試薬の包含および/または置換を通して実施することができる。典型的なブロッキング試薬は、デンハルト試薬、BLOTTO、ヘパリン、変性サケ精子DNAおよび市販で入手できる登録商標を有する製剤を含む。特定のブロッキング試薬の包含には適合性に関する問題があるため、上述したハイブリダイゼーション条件の修飾を必要とすることがある。
【0058】
ポリペプチドに関連する場合の用語「断片」、「誘導体」および「類似体」は、そのようなポリペプチドと同一の生物学的機能または活性いずれかを実質的に維持するポリペプチドを意味する。類似体は、活性成熟ポリペプチドを生成するために前駆タンパク質部分の切断によって活性化できる前駆タンパク質を含む。
【0059】
用語「遺伝子」は、ポリペプチド鎖を生成する際に含まれるDNAのセグメントを意味する。「遺伝子」は、コーディング領域「リーダーおよびトレーラー」に先行および後続する領域ならびに個別コーディングセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)を含む。
【0060】
ポリペプチドは、ペプチド結合または修飾ペプチド結合、すなわちペプチド等配体によって相互に結合されたアミノ酸から構成され得、20個の遺伝子コード化アミノ酸以外のアミノ酸を含有し得る。ポリペプチドは、例えば、翻訳後プロセッシングなどのいずれかの天然過程により、または当技術分野において周知である化学修飾技術により修飾することができる。そのような修飾は、基礎的テキストおよびより詳細なモノグラフならびに膨大な研究文献に明確に記載されている。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖およびアミノまたはカルボキシル末端を含む、ポリペプチド内のいずれかの場所で発生し得る。同一タイプの修飾が所定のポリペプチド内の数カ所の部位で同程度または異なる程度で存在し得ることが理解されるであろう。さらに、所定のポリペプチドは、多数のタイプの修飾を含有することがある。ポリペプチドは、例えば、ユビキチン化の結果として分岐状となることがあり、それらは、分岐を伴うかまたは伴わない環状であり得る。環状、分岐状および分岐状環状ポリペプチドは、翻訳後天然過程の結果として生じることがあるか、または合成方法によって作成することができる。修飾は、アセチル化、アシル化、ビオチン化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスホチジルイノシトールの共有結合、架橋結合、環化、公知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有架橋結合の形成、システインの形成、ピログルタミン酸塩の形成、ホルミル化、γ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、抗体分子または他の細胞リガンドへの連結、メチル化、ミリストイル化、酸化、ペグ化、タンパク質分解プロセッシング(例えば、切断)、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、例えばアルギニル化などのタンパク質へのアミノ酸のトランスファーRNA媒介性付加およびユビキチン化を含むが、それらに限定されない。(例えば、PROTEINS-STRUCTURE AND MOLECULAR PROPERTIES,2nd Ed.,T.E.Creighton,W.H.Freeman and Company,New York(1993);POSTTRANSLATIONAL COVALENT MODIFICATION OF PROTEINS,B.C.Johnson,Ed.,Academic Press,New York,pgs.1-12(1983);Seifter et al.,Meth Enzymol 182:626-646(1990);Rattan et al.,Ann NY Acad Sci 663:48-62(1992)を参照されたい)。
【0061】
「生物学的活性を有する」ポリペプチド断片は、成熟形態を含め、用量依存性の有無にかかわらず、特定の生物学的アッセイにおいて測定した場合に最初のポリペプチドの活性に類似するが、必ずしも同一ではない活性を示すポリペプチドを意味する。用量依存性が存在する場合、ポリペプチドの用量依存性と同一である必要はないが、最初のポリペプチドと比較して、所定の活性における用量依存性とむしろ実質的に類似する(すなわち、候補ポリペプチドは、最初のポリペプチドと比較してより大きい活性または約25分の1以下の活性を示し、一部の実施形態では、約10分の1以下の活性または約3分の1以下の活性を示すであろう)。
【0062】
種同族体は、本明細書に提供した配列から適合するプローブまたはプライマーを作成し、適合する核酸起源を所望の同族体についてスクリーニングすることによって単離および同定することができる。
【0063】
「変異体」は、最初のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと異なるが、それらの本質的特性を保持するポリヌクレオチドまたはポリペプチドを意味する。一般に、変異体は、最初のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと全体的に密接に類似であり、多くの領域では同一である。
【0064】
実際に、任意の特定の核酸分子またはポリペプチドが本発明のヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一であるかどうかは、公知のコンピュータープログラムを使用して従来法により決定することができる。包括的配列アラインメントとも呼ばれるクエリー配列(本発明の配列)と対象配列との間の最良総合マッチを決定するための好ましい方法は、Brutlag et al.のアルゴリズムに基づくFASTDBコンピュータープログラムを使用して決定することができる(Comp.App.Blosci.(1990)6:237-245)。配列アラインメントでは、クエリー配列および対象配列は、両方ともDNA配列である。RNA配列は、U’をT’に変換することによって比較できる。前記包括的配列アラインメントの結果は、パーセント同一性にある。パーセント同一性を計算するためのDNA配列のFASTDBアラインメントにおいて使用するための好ましいパラメーターは、マトリックス=ユニタリー、k-タプル=4、ミスマッチペナルティ--1、連結ペナルティ--30、無作為化群長=0、カットオフスコア=l、ギャップペナルティ--5、ギャップサイズペナルティ0.05、ウィンドウサイズ=500またはいずれか短い方である対象ヌクレオチド配列の長さ。対象配列が、内部欠失のためではなく5’または3’欠失のためにクエリー配列より短い場合、結果に手作業による補正を加えなければならない。これは、パーセント同一性を計算するとき、FASTDBプログラムが対象配列の5’および3’切断を明らかにしないためである。クエリー配列と比較して、5’または3’末端で切断された対象配列について、パーセント同一性は、クエリー配列の全塩基のパーセントとして、マッチ/アラインしていない、対象配列の5’および3’であるクエリー配列の塩基の数を計算することによって補正される。ヌクレオチドがマッチ/アラインしているかどうかは、FASTDB配列アラインメントの結果によって決定される。このパーセンテージは、次に、最終パーセント同一性スコアに達するために、規定のパラメーターを使用して上記のFASTDBプログラムによって計算されたパーセント同一性から減じられる。この補正されたスコアは、本発明のために使用されるスコアである。クエリー配列とマッチ/アラインしていないFASTDBアラインメントによって表示されるような対象配列の5’および3’塩基の外側の塩基のみがパーセント同一性スコアを手作業で調整する目的のために計算される。例えば、90塩基の対象配列は、パーセント同一性を決定するために100塩基のクエリー配列とアラインされる。欠失は、対象配列の5’末端で発生し、そのため、FASTDBアラインメントは、5’末端で最初の10塩基のマッチ/アラインメントを示さない。10個の損傷した塩基は、配列の10%を表すため(5’および3’末端での塩基の数は、クエリー配列内の塩基の総数とマッチしない)、10%は、FASTDBプログラムによって計算されたパーセント同一性スコアから減じられる。残りの90個の塩基が完全にマッチした場合、最終パーセント同一性は、90%になるであろう。別の例では、90個の塩基の対象配列が100個の塩基のクエリー配列と比較される。今回は欠失が内部欠失であるため、クエリーによってマッチ/アラインしない対象配列の5’または3’上に塩基が存在しない。この場合、FASTDBによって計算されたパーセント同一性は、手作業で補正されない。再度、クエリー配列とマッチ/アラインしない対象配列の塩基5’および3’のみが手作業によって補正される。
【0065】
本発明のクエリーアミノ酸配列と少なくとも例えば95%「同一」であるアミノ酸配列を有するポリペプチドにより、対象ポリペプチドのアミノ酸配列は、対象ポリペプチド配列がクエリーアミノ酸配列のアミノ酸各100個当たり5個までのアミノ酸変化を含む可能性があることを除いて、クエリー配列と同一であることが意図される。換言すると、クエリーアミノ酸配列と少なくとも95%の同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るために、対象配列内のアミノ酸残基の5%までが挿入、欠失または他のアミノ酸と置換され得る。参照配列のこれらの変化は、参照アミノ酸配列のアミノもしくはカルボキシル末端または参照配列内の残基間で個別に組み入れられるか、または参照配列内の1つ以上の隣接基内のそれらの末端位置間のいずれかの場所で発生する可能性がある。
【0066】
実際に、任意の特定のポリペプチドが、例えば、配列内に示したアミノ酸配列または寄託されたDNAクローンによってコードされたアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一であるかどうかは、公知のコンピュータープログラムを使用して従来法によって決定することができる。包括的配列アラインメントとも呼ばれるクエリー配列(本発明の配列)と対象配列との間の最良総合マッチを決定するための好ましい方法は、Brutlag et al.のアルゴリズムに基づいてFASTDBコンピュータープログラムを使用して決定することができる(Comp.App.Blosci.(1990)6:237-245)。配列アラインメントでは、クエリー配列および対象配列は、両方ともヌクレオチド配列であるか、または両方ともアミノ酸配列であるかのいずれかである。前記包括的配列アラインメントの結果は、パーセント同一性である。FASTDBアミノ酸アラインメントにおいて使用される好ましいパラメーターは、マトリックス=PAM 0、k-タプル=2、ミスマッチペナルティ--I、連結ペナルティ=20、無作為化群長=0、カットオフスコア=I、ウィンドウサイズ=配列長、ギャップペナルティ--5、ギャップサイズペナルティ--0.05、ウィンドウサイズ=500またはいずれか短い方である対象アミノ酸配列の長さである。対象配列が、内部欠失のためではなくNまたはC末端欠失のためにクエリー配列より短い場合、結果に手作業による補正を加えなければならない。これは、包括的パーセント同一性を計算するとき、FASTDBプログラムが対象配列のNおよびC末端切断を明らかにしないためである。クエリー配列と比較して、NまたはC末端で切断された対象配列について、パーセント同一性は、クエリー配列の全塩基のパーセントとして、対応する対象残基とマッチ/アラインしていない、対象配列のNおよびC末端であるクエリー配列の残基の数を計算することによって補正される。残基がマッチ/アラインしているかどうかは、FASTDB配列アラインメントの結果によって決定される。このパーセンテージは、次に、最終パーセント同一性スコアに達するために、規定のパラメーターを使用して上記のFASTDBプログラムによって計算されたパーセント同一性から減じられる。この最終パーセント同一性スコアは、本発明のために使用されるスコアである。クエリー配列とマッチ/アラインしていない対象配列のNおよびC末端への残基のみがパーセント同一性スコアを手作業で調整するために検討される。それは、対象配列の最も遠いNおよびC末端残基の外側のクエリー残基位置のみである。FASTDBアラインメントにおいて表示されたように、クエリー配列とマッチ/アラインしていない、対象配列のNおよびC末端の外側の残基位置のみが手作業で補正される。本発明のために手作業による他の補正が加えられてはならない。
【0067】
天然型タンパク質変異体は、「対立遺伝子変異体」と呼ばれ、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子の数種の代替形の1つを意味する。(Genes 11,Lewin,B.,ed.,John Wiley&Sons,New York(1985))。これらの対立遺伝子変異体は、ポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドレベルのいずれかで異なる可能性がある。あるいは、非天然型変異体は、突然変異誘発技術または直接的合成によって生成することができる。
【0068】
「標識」は、直接的に、またはシグナル生成系の1つ以上の追加のメンバーとの相互作用を通してのいずれかで検出可能なシグナルを提供できる作用物質を意味する。直接的に検出可能であり、本発明において使用できる標識は、蛍光標識を含む。具体的な蛍光体としては、フルオレセイン、ローダミン、BODIPY、シアニン色素などが挙げられる。
【0069】
「蛍光標識」は、別の波長の光線によって活性化されると所定波長の光線を発光する能力を備える任意の標識を意味する。
【0070】
「蛍光」は、強度、スペクトル、波長、細胞内分布などを含む、蛍光シグナルの任意の検出可能な特徴を意味する。
【0071】
蛍光を「検出する工程」は、定性的または定量的方法を使用して細胞の蛍光を評価する工程を意味する。本発明の実施形態の一部では、蛍光は、定性的方法で検出されるであろう。換言すると、組換え融合タンパク質が発現しているかどうかを指示する蛍光マーカーが存在するかどうかである。他の例として、蛍光は、様々な条件下で得られた数値の統計的比較を可能にする定量的手段を使用して、例えば蛍光強度、スペクトルまたは細胞内分布を測定して決定することができる。標識は、複数のサンプル、例えば蛍光顕微鏡または他の光学検出器(例えば、画像解析システムなど)を使用して検出されるサンプルの例えば視覚分析などの定性的方法およびヒトによる比較を使用してさらに決定することができる。蛍光における「変化」または「変調」は、別の条件と比較した特定の条件下での強度、細胞内分布、スペクトル、波長または蛍光の他の態様における任意の検出可能な差を意味する。例えば、「変化」または「変調」は、定量的に検出され、差は、統計的有意差である。蛍光における任意の「変化」または「変調」は、例えば、蛍光顕微鏡、CCDまたは任意の他の蛍光検出器などの標準的器具類を使用して検出することができ、例えば統合システムなどの自動システムを使用して検出することができ、またはヒト観察者による変化の主観的検出を反映することができる。
【0072】
「緑色蛍光タンパク質」(GFP)は、最初は青色光に曝露されると緑色の蛍光を発するクラゲであるエクオリア・ビクトリア(Aequorea victoria)/エクオリア・エクオリア(Aequorea aequorea)/エクオリア・フォルスカリー(Aequorea forskalea)から単離された238個のアミノ酸(26.9kDa)から構成されるタンパク質である。A.ビクトリア(A.victoria)由来のGFPは、395nmの波長で主要励起ピークおよび475nmで小さい励起ピークを有する。その発光ピークは、可視スペクトルの下方の緑色部分にある509nmにある。ウミシイタケ(レニラ・レニホルミス(Renilla reniformis))由来のGFPは、498nmで単一の主要励起ピークを有する。広範に使用できる可能性があり、研究者のニーズが高まっているため、GFPの多数の様々な突然変異体が遺伝子操作により作成されてきた。最初の大きい改良は、Roger TsienによってNature誌で1995年に報告された単一点突然変異(S65T)であった。この突然変異は、GFPのスペクトル特徴を劇的に改善し、結果として増加した蛍光、光安定性および509nmで維持されたピーク発光を伴う488nmへの主要励起ピークの変化を生じさせた。このスカフォールドへの37℃でのフォールディング効率(F64L)点突然変異体の添加は、強化されたGFP(EGFP)を産生した。EGFPは、55,000L/(mol・cm)としても見積もられる9.13×10-21m/分子の光学的断面積としても公知である吸光係数(εと表示される)を有する。フォールディングが不良なペプチドに融合された場合でも、GFPが迅速にフォールディングして成熟することを可能にする一連の突然変異であるSuperfolder GFPは、2006年に報告された。
【0073】
「黄色蛍光タンパク質」(YFP)は、エクオリア・ビクトリア(Aequorea victoria)に由来する緑色蛍光タンパク質の遺伝的突然変異体である。その励起ピークは、514nmであり、その発光ピークは、527nmである。
【0074】
本明細書で使用する単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明確に他のことを指示しない限り、複数の表示を含む。
【0075】
「ウイルス」は、宿主細胞の外側で増殖または繁殖することのできない超顕微鏡的感染性物質である。各ウイルス粒子またはビリオンは、カプシドと呼ばれる保護的タンパク質コート内の遺伝物質、DNAまたはRNAからなる。カプシドの形状は、単純ならせん形および二十面体形(多面体または近球形)から、尾または外皮を備えるより複雑な構造まで様々である。ウイルスは、細胞生物に感染し、感染した宿主のタイプに従って動物型、植物型および細菌型に分類される。
【0076】
本明細書で使用する用語「経シナプスウイルス」は、1つのニューロンからシナプスを通して別の結合ニューロンに移動できるウイルスを意味する。そのような経シナプスウイルスの例は、ラブドウイルス、例えば狂犬病ウイルスおよびαヘルペスウイルス、例えば仮性狂犬病または単純ヘルペスウイルスである。本明細書で使用する用語「経シナプスウイルス」は、シナプスを通して1つのニューロンから別の結合ニューロンに自ら移動する能力を有するウイルスサブユニット、および例えばそのようなサブユニットを組み込んでおり、シナプスを通して1つのニューロンから別の接続ニューロンに移動する能力を示す修飾ウイルスなどの生物学的ベクターも含む。
【0077】
経シナプス移動は、順行性または逆行性のいずれでもあり得る。逆行性移動中、ウイルスは、シナプス後ニューロンからシナプス前ニューロンに移動するであろう。したがって、逆行性移動中、ウイルスは、シナプス前ニューロンからシナプス後ニューロンに移動するであろう。
【0078】
同族体は、共通祖先を共有するタンパク質を意味する。類似体は、共通祖先を共有しないが、それらが1つのクラスに含められることを誘発する一部の(構造的ではなくむしろ)機能的類似性を有する(例えば、トリプシン様セリンプロテイナーゼおよびサブチリシンプロテイナーゼは、明確に関連しない - 活性部位の外側のそれらの構造は、完全に異なるが、それらは、実質的に幾何学的に同一の活性部位を有するため、類似体への収束進化の例であると考えられる)。
【0079】
同族体には、2つのサブクラス-オーソログおよびパラログがある。オーソログは、様々な種において同一遺伝子(例えば、チトクロム「c」)である。同一生物内の2つの遺伝子がオーソログであることはあり得ない。パラログは、遺伝子複製の結果(例えば、ヘモグロビンβおよびδ)である。2つの遺伝子/タンパク質が相同であり、同一生物中に含まれる場合、それらは、パラログである。
【0080】
本明細書で使用する用語「障害」は、病気、疾患、疾病、臨床状態または病的状態を意味する。
【0081】
本明細書で使用する用語「薬学的に許容される担体」は、有効成分の生物学的活性の有効性を妨害せず、化学的に不活性であり、かつそれが投与される患者にとって毒性でない担体媒体を意味する。
【0082】
本明細書で使用する用語「薬学的に許容される誘導体」は、対象にとって相対的に無毒である、例えば本発明のスクリーニング法を使用して同定された作用物質の任意の同族体、類似体または断片を意味する。
【0083】
用語「治療剤」は、障害または障害の合併症の予防または治療に役立つ任意の分子、化合物または処置を意味する。
【0084】
適合する薬学的担体中で製剤化されたそのような作用物質を含む組成物は、治療のために調製、包装およびラベル表示され得る。
【0085】
複合体が水溶性である場合、複合体は、適切なバッファー、例えばリン酸緩衝食塩水または他の生理学的に適合する溶液中で製剤化され得る。
【0086】
あるいは、結果として生じた複合体が水性溶媒中で難溶性を有する場合、それは、例えば、Tweenまたはポリエチレングリコールなどの非イオン性界面活性剤を用いて製剤化され得る。したがって、化合物およびそれらの生理学的に許容される溶媒和物は、(口または鼻のいずれかを通した)吸入または通気または経口、経口腔、非経口、直腸投与による投与のために製剤化され得るか、または腫瘍の場合には充実性腫瘍内に直接的に注射され得る。
【0087】
経口投与のために、医薬製剤は、液体形、例えば液剤、シロップ剤もしくは懸濁剤であり得るか、または使用前に水もしくは他の適切なビヒクルを用いて復元するための薬物製品として提供され得る。そのような液体製剤は、例えば、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体もしくは硬化食用脂);乳化剤(例えば、レシチンまたはアラビアゴム)、非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油性エステルもしくは分別植物油);および保存剤(例えば、ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはp-ヒドロキシ安息香酸プロピルまたはソルビン酸)などの他の薬学的に許容される添加剤を用いて従来型手段で調製され得る。医薬組成物は、例えば、結合剤(例えば、α化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンもしくはヒドロキシプロピルメチルセルロース);増量剤(例えば、ラクトース、微結晶セルロースもしくはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクもしくはシリカ);錠剤分解剤(例えば、ジャガイモデンプンもしくはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの薬学的に許容される賦形剤を用いて従来型手段によって調製される錠剤もしくはカプセル剤の形態を取ることができる。そのような錠剤はまた、当技術分野で周知の方法でコーティングされ得る。
【0088】
経口投与のための製剤は、活性化合物の制御放出を生じさせるために適切に製剤化され得る。
【0089】
化合物は、注射、例えばボーラス注射または点滴注射による非経口投与のために製剤化され得る。注射用製剤は、単位剤形において、例えば保存剤が添加されたアンプルまたは多用量容器で提供され得る。
【0090】
組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁剤、液剤またはエマルジョンなどの形態を取り得、例えば懸濁化剤、安定剤および/または分散剤などの製剤用物質を含有し得る。あるいは、有効成分は、使用前に、好適なビヒクル、例えばパイロジェン非含有滅菌水を用いて再現するための粉末形で存在し得る。
【0091】
化合物は、例えば、クリーム剤またはローション剤などの局所適用としてさらに製剤化され得る。
【0092】
以前に記載された製剤に加えて、化合物は、デポー製剤として製剤化され得る。そのような持効性調製物は、移植(例えば、眼内、皮下または筋肉内)または眼内注射によって投与され得る。
【0093】
したがって、例えば、本化合物は、適切なポリマー、もしくは疎水性材料(例えば、許容できる油中のエマルジョンとして)、もしくはイオン交換樹脂、または例えばやや溶けにくい誘導体、例えばやや溶けにくい塩として製剤化され得る。リポソームおよびエマルジョンは、親水性薬物のための送達用ビヒクルまたは担体の周知の例である。
【0094】
本組成物は、必要に応じて、有効成分を含有する1つ以上の単位剤形を含有することができるパックまたはディスペンサー器具で提供され得る。パックは、例えば、ブリスターパックなどの金属箔またはプラスチック箔を含む可能性がある。パックまたはディスペンサー器具には、投与のための取扱説明書が添付され得る。
【0095】
本発明は、本発明の治療レジメンを実施するためのキットをさらに提供する。そのようなキットは、1つ以上の容器中に薬学的に許容される形態である治療的または予防的有効量を含有する。
【0096】
キットのバイアル中の組成物は、例えば、無菌食塩水、デキストロース液もしくは緩衝液または他の薬学的に許容される無菌液と組み合わせて、薬学的に許容される液剤の形態であり得る。あるいは、複合体は、凍結乾燥または乾燥され得る。この例では、本キットは、任意選択的に、注射用の液剤を形成する目的で複合体を復元するために、容器中において、好ましくは無菌の薬学的に許容される液剤(例えば、食塩水、デキストロース液など)をさらに含む。
【0097】
別の実施形態では、キットは、複合体を注射するための好ましくは無菌形で包装されたニードルもしくはシリンジおよび/または包装されたアルコールパッドをさらに含む。臨床医または患者が組成物を投与するために、任意選択的に取扱説明書が含められる。
【0098】
視覚における運動感知は、生物が視野を横断する運動を検知することを可能にする。これは、潜在的仲間、獲物または捕食者を検知するために極めて重要であるため、極めて広範囲の種を通して脊椎動物および無脊椎動物両方の視力において見出されるが、全種において普遍的に見出されるものではない。脊椎動物では、この過程は、網膜およびより詳細には視覚情報上の双極細胞および無軸索細胞からの入力ならびに視床、視床下部および中脳を含む脳のより上方領域への出力を受容するニューロンである網膜神経節細胞内で発生する。
【0099】
網膜内の方向選択性(DS)神経節細胞は、視覚刺激の方向に特異的に応答するニューロンであると規定されている。Barlow and Levickによると、この用語は、「1つの方向にその受容野を通して刺激対象が移動するとインパルスの強力な放電をもたらす」ニューロンの群を記載するために使用される(B,Barlow H.,and Levick W.R.‘‘The Mechanism of Directionally Selective Units in Rabbit’s Retina.’’The Journal of Physiology 178.3(1965):477-504)。ニューロンのセットが最も強力に応答するこの方向は、それらの「優先方向」である。対照的に、それらは、反対方向、「ヌル方向」には全く反応しない。優先方向は、刺激に依存しない - すなわち、刺激のサイズ、形状または色とは無関係に、ニューロンは、それがそれらの優先方向に移動する場合に応答するが、それがヌル方向に移動する場合には応答しない。脊椎動物網膜中には、3種の公知のタイプのDS網膜神経節細胞、オン/オフ型DS神経節細胞、オン型DS神経節細胞およびオフ型DS神経節細胞がある。各々は、独特の生理学的機能および解剖学的構造を有する。オン/オフ型DS神経節細胞は、局所運動検知器として作用する。それらは、刺激(光源)の開始時および消失時に放電する。刺激が細胞の優先方向に移動する場合、神経節細胞は、前縁および後縁で放電する。それらの放電パターンは、時間依存性である。オン/オフ型細胞の解剖学的構造は、樹状突起が内網状層の2枚の薄膜下緻密層に伸長し、双極細胞および無軸索細胞とのシナプスを作成するような構造である。それらは、各々が方向についての固有の優先性を備える4つのサブタイプを有する。いずれも刺激の前縁および後縁に応答するオン/オフ型DS神経節細胞と相違して、オン型DS網膜神経節細胞は、前縁に対してのみ応答性である。オン型DS神経節細胞の樹状突起は、単層化され、内網状層の内薄膜下内に伸長する。それらは、異なる方向優先性を備える3つのサブタイプを有する。オフ型DS神経節網膜細胞は、求心運動検知器として作用し、それらは刺激の後縁にのみ応答する。それらは、刺激の上昇運動に調整される。樹状突起は、非対称性であり、それらの優先方向に対して樹状になる。
【0100】
他に特に規定しない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者であれば一般に理解される意味と同一の意味を有する。本明細書に記載のものに類似しているかまたは均等である方法および材料は、本発明の実施または試験に使用することができるが、以下では適切な方法および材料を記載する。不一致が生じた場合、用語の定義を含めて本明細書が優先されることになる。さらに、材料、方法および実施例は、例示することのみを意図し、限定することを意図しない。
【実施例
【0101】
遺伝子構築物
候補制御領域を同定するために、全ゲノム高分解能DNAメチル化マップを関心対象(神経節)の細胞タイプにおいて生成した。候補エンハンサーは、細胞タイプ特異的DNA低メチル化の存在に基づいて選択した。そのように選択されたエレメントは、マウス網膜内でのインビボ高スループットレポーターアッセイを使用して発現についてスクリーニングした。その後、神経節細胞特異的配列エレメントを合成し、最小プロモーター配列
【化3】

の前でクローニングした。
【0102】
ChR2-eGFPコーディング配列がこのプロモーターおよび最適化コザック配列(GCCACC)の直後に挿入され、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御エレメント(WPRE)およびSV40ポリアデニル化部位がそれに続いた。網膜ニューロンは、3.43E+11~1.75E+12 GC/mLの範囲内の力価を備えるAAV(アデノ随伴ウイルス)血清型2/8を用いて標的化した。
【0103】
ウイルストランスフェクションおよび組織製剤
AAV投与のために、麻酔下の動物の眼に先の尖った30ゲージのニードルによって水晶体に近い強膜内に穿刺した。Hamiltonシリンジによって網膜下に2μLのAAV粒子懸濁液を注射した。3週間後、単離された網膜を30分間にわたりPBS中の4%のPFA中で固定し、4℃でPBS中での洗浄工程を続けた。全網膜は、室温で1時間にわたり10%の標準ロバ血清(NDS)、1%のBSA、PBS中の0.5%のTriton X-100により処置した。PBS中の3%のNDS、1%のBSA、0.5%のTriton X-100中のモノクローナルのラット抗GFP抗体(Molecular Probes社;1:500)およびポリクローナルのウサギ抗マウス椎体アレスチン抗体(Millipore社:1:200)を用いる処置を室温で5日間にわたり実施した。二次ロバ抗ラットAlexa Fluor-488抗体(Molecular Probes社;1:200)、抗ウサギAlexa Fluor-633およびHoechstを用いた処置は、2時間にわたり実施した。切片を洗浄し、スライドガラス上にProLong Gold退色防止試薬(Molecular Probes社)とともに載せ、Zeiss LSM 700 AxioイメージャーZ2レーザー走査型共焦点顕微鏡(Carl Zeiss社)を使用して撮影した。

以下の態様が包含され得る。
[1] 配列番号1の核酸配列を含むかもしくはそれからなるか、または配列番号1の前記配列と少なくとも80%の同一性を有する少なくとも400bpの核酸配列からなる単離された核酸分子であって、方向選択性網膜神経節細胞における遺伝子の特異的発現を、前記遺伝子をコードする核酸配列が前記単離された核酸分子に機能的に連結される場合にもたらす、単離された核酸分子。
[2] 最小プロモーター、例えば配列番号2の前記最小プロモーターをさらに含む、上記[1]に記載の単離された核酸分子。
[3] ストリンジェントな条件下において、上記[1]または[2]に記載の単離された核酸分子にハイブリダイズする配列を含む単離された核酸分子。
[4] 特定の細胞内での遺伝子発現を促進するエレメントとして、上記[1]または[2]に記載の単離された核酸を含む発現カセットであって、前記単離された核酸は、方向選択性網膜神経節細胞において特異的に発現される遺伝子をコードする少なくとも核酸配列に機能的に連結される、発現カセット。
[5] 上記[4]に記載の発現カセットを含むベクター。
[6] 前記ベクターは、ウイルスベクターである、上記[5]に記載のベクター。
[7] 方向選択性網膜神経節細胞内で遺伝子を発現させるための、上記[1]もしくは[2]に記載の核酸、上記[4]に記載の発現カセットまたは上記[5]に記載のベクターの使用。
[8] 方向選択性網膜神経節細胞内で遺伝子を発現させる方法であって、単離された細胞、細胞系または細胞集団を上記[4]に記載の発現カセットでトランスフェクトする工程を含み、前記発現される遺伝子は、前記細胞が方向選択性網膜神経節であるか、または前記細胞が方向選択性網膜神経節を含む場合、前記単離された細胞、前記細胞系または前記細胞集団によって特異的に発現される、方法。
[9] 上記[4]に記載の発現カセットまたは上記[5]に記載のベクターを含む単離された細胞。
[10] 前記発現カセットまたはベクターは、前記細胞のゲノム内に安定的に組み込まれる、上記[9]に記載の細胞。
[11] 前記遺伝子の産物は、光感受性分子、例えばハロロドプシンまたはチャネルロドプシンである、上記[1]もしくは[2]に記載の単離された核酸分子、上記[4]に記載の発現カセット、上記[5]に記載のベクター、上記[7]に記載の使用、上記[8]に記載の方法または上記[9]に記載の細胞。
[12] 上記[1]または[2]に記載の単離された核酸分子を含む、方向選択性網膜神経節細胞内で遺伝子を発現させるためのキット。
図1
【配列表】
0007023279000001.app