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特許7023280フッ素電解槽陽極取り付け部、フッ素電解槽、及びフッ素ガスの製造方法
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  • 特許-フッ素電解槽陽極取り付け部、フッ素電解槽、及びフッ素ガスの製造方法 図1
  • 特許-フッ素電解槽陽極取り付け部、フッ素電解槽、及びフッ素ガスの製造方法 図2A
  • 特許-フッ素電解槽陽極取り付け部、フッ素電解槽、及びフッ素ガスの製造方法 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】フッ素電解槽陽極取り付け部、フッ素電解槽、及びフッ素ガスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/00 20060101AFI20220214BHJP
   C25B 1/245 20210101ALI20220214BHJP
   C25B 9/63 20210101ALI20220214BHJP
【FI】
C25B15/00 302
C25B1/245
C25B9/63
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019526935
(86)(22)【出願日】2018-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2018024186
(87)【国際公開番号】W WO2019004208
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2017129277
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】福地 陽介
(72)【発明者】
【氏名】井上 希
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-140488(JP,A)
【文献】実開昭50-002931(JP,U)
【文献】米国特許第06210549(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/00
C25B 1/00- 1/55
C25B 9/00- 9/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の陽極支持部の側壁を囲み、その長手方向に沿って積み重ねられた環状の複数のパッキンと、
前記複数のパッキンの外周を囲む円筒状の外装部と、
前記複数のパッキンおよび前記外装部を、前記陽極支持部に対して締め付ける環状の締付部と、を有し、
前記複数のパッキンのうち、前記長手方向の電解液槽側の端に位置する第1パッキンが、アルミナ、フッ化カルシウム、フッ化カリウム、イットリアまたはジルコニアから選ばれる1種または2種以上のセラミック材からなり、前記第1パッキンに隣接する第2パッキンが、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、及びフッ素ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の樹脂からなり、
前記陽極支持部と前記外装部の中心軸が一致しており、
前記第1パッキンの内径が、前記陽極支持部の外径より0.2mm~1.0mm大きく、
前記第1パッキンの外径が、前記外装部の内径より0.2mm~1.0mm小さいことを特徴とするフッ素電解槽陽極取り付け部。
【請求項2】
請求項1に記載のフッ素電解槽陽極取り付け部を具備していることを特徴とするフッ素電解槽。
【請求項3】
請求項に記載のフッ素電解槽を用いることを特徴とするフッ素ガスの製造方法。
【請求項4】
第1パッキンの厚みが、第2パッキンの内径の0.2倍~1.5倍である、請求項1に記載のフッ素電解槽陽極取り付け部。
【請求項5】
第2パッキンの厚みが、1.0mm~10mmである、請求項1又は4のいずれかに記載のフッ素電解槽陽極取り付け部。
【請求項6】
陽極、円筒状の陽極支持部、及び電解液槽を有する、請求項に記載のフッ素電解槽。
【請求項7】
KF・2HF電解液の電気分解を行って、陽極からフッ素ガス、および負極から水素ガスを発生させる工程を含む、請求項に記載のフッ素ガスの製造方法。
【請求項8】
フッ化水素を前記電解液に補給する工程を含む、請求項に記載のフッ素ガスの製造方法。
【請求項9】
フッ素ガスと共に酸素も発生する、請求項又はに記載のフッ素ガスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素電解槽陽極取り付け部、フッ素電解槽、及びフッ素ガスの製造方法に関する。
本願は、2017年6月30日に、日本に出願された特願2017-129277号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
現在、フッ素ガスは、KF・2HF溶融塩を70℃~90℃に加熱して電気分解する方法により、最も多く工業的に製造されている。この方法では、陽極部からはフッ素ガス、陰極部からは水素ガスが発生する。KF・2HF溶融塩の電気分解によりフッ素ガスを発生させる電解槽には、陽極として、一般的には非晶質の炭素が使用される。
【0003】
フッ素は、全元素中で最も電気陰性度が大きく、非常に反応性に富んでいる。このため、各種化合物と激しく反応してフッ化物を形成する。こうした理由から、電解槽内面や、電極部分やその支持部など、フッ素ガスと直接接触する部分に使用できる材質は限られる。使用できる材質としては、例えば表面をフッ素により不働態化した、ニッケル、銅、鉛、鉄及びアルミニウム等の金属、またはそれらの合金が挙げられる。
【0004】
また、フッ素ガスは、米国衛生学会の報告によれば、許容濃度が1ppm以下の極めて有害な物質であり、取り扱いに非常に注意を要する物質である。したがって、フッ素ガスの漏れを防止するために、陽極取り付け部は、フッ素ガスに対する耐食性を有する必要があり、また、電解液槽との電気絶縁性を有することが必要である。したがって、上記金属材料はシール材料として陽極取り付け部に使用することができず、代わりのシール材料として、例えばポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂が使用されることが多い。非特許文献1には、ポリテトラフルオロエチレンガスケットを使用した例が開示されている。
【0005】
しかしながら、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂も、フッ素ガスに対して全く不活性な材料というわけではなく、酸化反応的にフッ素ガスにより浸食されて減肉することがある。その場合、陽極取り付け部の密封性が失われることになり、電解槽外にフッ素ガスが漏洩する虞がある。
【0006】
こうした問題を解決するために、特許文献1では、アルミナ等のセラミックであるシール補強材と、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂製シール材とでシールされた構造を特徴とするフッ素電解槽陽極取り付け部が開示されている。この構造では、セラミックであるシール補強材が、フッ素樹脂製シール材に対するフッ素の浸食を抑え、フッ素ガスの漏えいを低減させることができる。また、特許文献2では、ポリテトラフルオロエチレンのフッ素ガスに対する耐性を向上させるために、ポリテトラフルオロエチレンにフッ化カルシウムを含有させたシール構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3642023号公報
【文献】特許第4083672号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Industrial and Engineering Chemistry,50,(1958),P178
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上述したような従来の技術では、場合によっては、フッ素ガスの陽極室外への漏洩を十分に抑えられないことがある。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、フッ素の陽極室外への漏洩を十分に抑えることのできるフッ素電解槽陽極取り付け部、さらに、該フッ素電解槽陽極取り付け部を具備したフッ素電解槽及び該フッ素電解槽を用いるフッ素ガスの製造方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、フッ素ガスと酸素ガスの混合ガスに対して、第1パッキンと外装部及び陽極支持部との隙間が0.1mm以上1.0mm以下、好ましくは0.2mm以上0.8mm以下であれば、フッ素ガスと酸素ガスの混合ガスが、フッ素樹脂と接した場合にも、燃焼反応が進行しないことを発見し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の手段を採用している。
【0011】
(1)本発明の第一の態様に係るフッ素電解槽陽極取り付け部は、円筒状の陽極支持部の側壁を囲み、その長手方向に沿って積み重ねられた環状の複数のパッキンと、前記複数のパッキンの外周を囲む円筒状の外装部と、前記複数のパッキンおよび前記外装部を、前記陽極支持部に対して締め付ける環状の締付部と、を有し、前記複数のパッキンのうち、前記長手方向の電解液槽側の端に位置する第1パッキンがセラミック材からなり、前記第1パッキンに隣接する第2パッキンが樹脂からなり、前記陽極支持部と前記外装部の中心軸が一致しており、前記第1パッキンの内径が、前記陽極支持部の外径より0.2mm~1.0mm大きく、前記第1パッキンの外径が、前記外装部の内径より0.2mm~1.0mm小さい。
【0012】
上記第一の態様のフッ素電解槽陽極取り付け部は以下の(2)と(3)の特徴を好ましく有する。(2)と(3)の特徴は組み合わせて用いることも好ましい。
(2)前記(1)に記載のフッ素電解槽陽極取り付け部において、前記第1パッキンは、アルミナ、フッ化カルシウム、フッ化カリウム、イットリアまたはジルコニアから選ばれる1種または2種以上のセラミック材からなることが好ましい。
【0013】
(3)前記(1)または(2)のいずれかに記載のフッ素電解槽陽極取り付け部において、前記第2パッキンが、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、及びフッ素ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の樹脂からなることが好ましい。
【0014】
(4)本発明の第二の態様に係るフッ素電解槽は、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載のフッ素電解槽陽極取り付け部を具備している。
【0015】
(5)本発明の第三の態様に係るフッ素ガスの製造方法は、前記(4)に記載のフッ素電解槽を用いる。
【0016】
(6)前記(1)から(3)のいずれかに記載のフッ素電解槽陽極取り付け部は、第1パッキンの厚みが、第2パッキンの内径の0.2倍~1.5倍であることが好ましい。
(7)前記(1)から(3)及び(6)のいずれかに記載のフッ素電解槽陽極取り付け部は、第2パッキンの厚みが、1.0mm~10mmであることが好ましい。
(8)前記(4)に記載のフッ素電解槽は、陽極、円筒状の陽極支持部、及び電解液槽を有することが好ましい。
(9)前記(5)に記載のフッ素ガスの製造方法は、KF・2HF電解液の電気分解を行って、陽極からフッ素ガス、および負極から水素ガスを発生させる工程を含むことが好ましい。
(10)前記(9)に記載のフッ素ガスの製造方法は、フッ化水素を前記電解液に補給する工程を含むことが好ましい。
(11)前記(9)又は(10)に記載のフッ素ガスの製造方法は、フッ素ガスと共に酸素も発生することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フッ素ガスによる、特に電解初期に発生するフッ素ガスによる、第1パッキンの破損、及び第2パッキンの焼損の発生を防ぎ、その結果、フッ素の陽極室外への漏洩防止効果を十分に有する、フッ素電解槽陽極取り付け部を得ることができる。さらに、このフッ素電解槽陽極取り付け部を具備したフッ素電解槽を用いることにより、電解初期から、長期間安定して電気分解によるフッ素ガスの製造を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の好ましい一実施形態に係るフッ素電解槽の概略断面図である。
図2A】本発明の好ましい一実施形態に係るフッ素電解槽陽極取り付け部の概略縦断面図である。
図2B】本発明の好ましい一実施形態に係るフッ素電解槽陽極取り付け部の概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、フッ素電解槽の陽極取り付け部の支持部において、電解液槽本体及び陽極で発生する酸素ガスを含むフッ素ガスと接触する部位に、第1パッキンが装着され、該第1パッキンと電解液槽本体と接触する部位に設置された第2パッキンの燃焼反応を防止できる、フッ素電解槽の陽極取り付け部、該フッ素電解槽陽極取り付け部を具備したフッ素電解槽、及び該フッ素電解槽を用いるフッ素ガスの製造方法に関する。
【0020】
以下、本発明に想到した経緯を述べた上で、本発明を適用した実施形態に係るフッ素電解槽陽極取り付け部、それを備えたフッ素電解槽の好ましい例の構成について、図面を用いて詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。各構成要素の寸法比率などは図面と同じであってもよく、異なっていても良い。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は好ましい一例であって、本発明はそれらのみに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。すなわち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、数や位置やサイズや部材等などについて、省略、追加、変更、置換、交換などが可能である。
【0021】
[本発明に想到した経緯]
図1はフッ素電解槽を示す。図1に示すフッ素電解槽に取り付けられるような、一般的な構造のフッ素電解槽陽極取付け部は、おおむね安定した性能を示し、フッ素の漏洩を防ぐことができることが分かっていた。しかしながら、本発明者らが調べたところ、特に電解の初期に、第1パッキンが破損し、第2パッキンが焼損する場合があることが新たに分かった。本発明者らは、この現象について詳細に調べた。なお図1において、左上のパイプは水素排出ラインであり、右上のパイプはフッ素ガス排出ラインである。陽極の上部を囲んでいるのは、発生するガスを電解槽内で仕切るための、仕切り壁である。なお図1に陰極の記載はないが、理解を容易にするために、電解槽本体そのものを陰極と考えても良い。
なお図1に示すようなフッ素電解槽に、本発明の陽極取り付け部は好ましく使用することができる。
【0022】
すると、この現象は、電解液に含まれる水分の量(割合)が多い時に、高い頻度で発生することが分かった。従来の技術の実施時には、電解液中の水分量が比較的少なく、上記の現象の影響が観測されていなかったと考えられる。本発明者らが試したところ、水分の量が比較的多い電解液を使った場合には、引用文献1に示す技術も、引用文献2に示す技術も、フッ素ガスの漏洩について十分な効果を示さなかった。
【0023】
フッ素電解に使用される電解液は、例えば、KF・HFにフッ化水素を加えることで調製される。このため、電解液にはある程度の水分が含まれる。電解液が水分を含有する時には、陽極からフッ素ガスと同時に酸素ガスが発生する。電解液中の水分量が多いほど、フッ素ガスと同時に発生する酸素ガスが増加する。電解を継続することによって電解液中の水分量は減少し、酸素ガスの発生量は減少する。しかしながら、電解によって消費されたフッ化水素を補給する必要がある。このため、補給するフッ化水素中に水分が含有されている場合、フッ素電解液中の水分量は再び増加する。このように、発生するフッ素ガスには、量の差はあるが酸素ガスを常に含む可能性がある。
【0024】
引用文献1に示す技術も、引用文献2に示す技術も、フッ素ガスの漏洩について十分な効果を示さなかった理由が、フッ素ガスに含まれる酸素ガスであることを確かめるために、本発明者らは実験を行った。具体的には、本発明者らは、フッ素ガス、あるいは酸素ガスを含むフッ素ガスの条件下において、ポリテトラフルオロエチレンを置き、その挙動ついて調べることとした。
【0025】
ポリテトラフルオロエチレンに、100%のフッ素ガスを常圧で接触させて雰囲気温度を上昇させると、雰囲気温度が約220℃のときに、ポリテトラフルオロエチレンの燃焼が始まった。比較するために、ポリテトラフルオロエチレンに100%の酸素ガスを常圧で接触させ、雰囲気温度を上昇させて約220℃にした。しかしながら、この条件では、ポリテトラフルオロエチレンが燃焼することはなかった。
【0026】
これらの事実から、ポリテトラフルオロエチレンにフッ素ガスと酸素ガスの混合ガスを常圧で接触させて雰囲気温度を上昇させた場合も、100%フッ素ガスで燃焼を開始した約220℃で又はそれ以上で、燃焼が開始するものと予測される。しかしながら本発明者らは、フッ素ガスと酸素ガスの混合ガスについて、同様の実験を行うことにより、ポリテトラフルオロエチレンの燃焼開始温度が、フッ素ガスと酸素ガスの混合組成によって、変化することを発見した。
すなわち、4モル%酸素ガス/96モル%フッ素ガスでポリテトラフルオロエチレンの燃焼温度は約180℃、8モル%酸素ガス/92モル%フッ素ガスでポリテトラフルオロエチレンの燃焼開始温度は140℃に低下した。
【0027】
同様に、フッ素系ゴムのフッ化ビニリデン系ゴム(バイトン(商標))も、ポリテトラフルオロエチレンと同様に、フッ素ガス中の酸素ガス濃度が増加することによって、燃焼温度が低下してしまうことが実験により明らかとなった。非フッ素系のゴム(ネオプレン(商標)、天然ゴム等)は、100%フッ素ガスとの燃焼開始温度が元々低いが、フッ素ガスに酸素ガスが混入することで、更に燃焼開始温度は低下する。
【0028】
このように、フッ素ガスに酸素ガスが混ざっている場合には、ポリテトラフルオロエチレンなどの樹脂への影響が、より低温で始まることを、本発明者らは見出した。フッ素ガスと酸素ガスを混合することで支燃性(酸化力)が増加するメカニズムは不明である。しかしながら、KF・2HF溶融塩でのフッ素電解温度は約90℃であり、電解初期には、電解液中の水分のために酸素が多く発生する。このため、電極取り付け部に使用する樹脂素材に対しての影響も、大きくなると推測できる。
【0029】
こうした事実をもとに、本発明者らは、特許文献1の場合を検証した。特許文献1では、ポリテトラフルオロエチレン等のシール材に対して、セラミック製のシール材で遮蔽して、フッ素ガスとシール材とがほとんど接触しないようにすることにより、シール部分のフッ素ガスによる浸食を抑制することが記述されている。こうした構造は通常の場合、好適な効果をもたらす。ただし、特許文献1の例で、不都合が生じるのは、電解の初めの時期(プレ電解)の時に、酸素が多く含まれたフッ素ガスが、ポリテトラフルオロエチレン等の素材に接触する時である。フッ素ガスとシール材との接触面積が非常に小さいため、フッ素ガスに対する漏洩防止の効果を得ることのできる特許文献1の構造であるが、酸素ガスを含むフッ素ガスの場合には、十分な効果を発揮しない場合がある。すなわち、複数個の陽極を有するフッ素電解槽においては、特許文献1の構造では、陽極取り付け部のいくつかで、ガスの漏れが発生する場合があった。酸素ガスを含むフッ素ガスが、より低温で、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂材に膨潤変形などの好ましくない影響を与えるためと考えられる。すなわち、フッ素ガス中の酸素ガスの存在により、樹脂製のシール材が膨潤するため、シール補強材に応力が発生し、シール補強材が破壊しやすくなってしまうことが推測される。さらに、場合によってはシール補強材が崩落し、フッ素樹脂製のシール材がむき出しになってしまうことも推測される。このように、酸素ガスを含むフッ素ガスにより、結果として樹脂製シール材が侵食される、ということが起こっていると推測される。
【0030】
一方、特許文献2の場合には、ポリテトラフルオロエチレンのフッ素ガスとの耐性を向上させるために、ポリテトラフルオロエチレンにフッ化カルシウムを含有させたシール構造が提案されている。しかしながら、ポリテトラフルオロエチレンにフッ化カルシウムを含ませても、フッ素ガスに酸素ガスが含まれた状態であれば、電解温度においても燃焼反応が進行してしまう可能性がある。このため、シール構造としては十分な効果を示さない場合がある。
【0031】
電解液中に水分が含まれることを避けるために、水分の除去などの色々な手段を講じることが理想である。しかしながら、こうした対策は経済的な面での負担の増加を意味する。このため、水分を含む電解液での電解であっても、安定した性能を示す、フッ素電解槽陽極取り付け部の構造が必要であった。
【0032】
本発明者らは、この課題を解決すべく鋭意検討した。この結果、フッ素電解槽の陽極取り付け部の支持部において、電解液槽本体及び陽極で発生する酸素ガスを含むフッ素ガスと接触する部位にセラミック製の第1パッキンが装着され、該第1パッキンに隣接して装着される樹脂製の第2パッキンを有する場合に、意外にも、第1パッキンと陽極支持部及び外装部との接触部分の隙間が0.1mm以上1.0mm以下、好ましくは0.2mm以上0.8mm以下になるようにすることにより、上記の課題を解決できる、つまり第1パッキンの欠損やフッ素ガスの漏れを防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0033】
[フッ素電解槽陽極取り付け部、フッ素電解槽の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るフッ素電解槽10の概略断面図である。フッ素電解槽10は、電気分解の原料である電解液11(KF・2HF溶融塩等)が収容される電解液槽12、電気分解によってフッ素が発生する陽極本体13、陽極本体13に対して電気分解用の電流を流す陽極支持部14、陽極本体13を陽極支持部14に締め付ける陽極本体締付部15、陽極支持部14を支えるためのフッ素電解槽陽極取り付け部16を備えている。
【0034】
電解液槽12としては、任意のサイズを用いることができ、例えば、電解液11が500~800L程度を収容可能な大きさ、例えば幅約2~3m、奥行き約1m、高さ約0.8m程度の液槽を用いることができる。電解液槽12の構成材料としては、例えば、モネルもしくは鉄鋼(カーボンスチール;CS)等を挙げることができる。
【0035】
陽極支持部(陽極ポスト)14は、好ましくは円筒状を有し、その長手方向に垂直な断面の直径が約15mm以上35mm以下であることが好ましい。陽極支持部14の構成材料は必要に応じて選択できるが、例えば銅、モネル、ニッケル、鉄鋼等を挙げることができる。
【0036】
陽極本体13は必要に応じて選択できるが、例えば、30cm×50cm×7cm程度の炭素材料等からなる、炭素電極等が好ましく用いられる。一般的には、1つのフッ素電解槽10に、約16~24枚の炭素電極が取り付けられる。取り付ける枚数については、電解槽10の大きさに応じて調整する。図1では、2枚の炭素電極が取り付けられている場合について例示しているが、その他の数、例えば、16枚~24枚の炭素電極を取り付けることができる。また、締付部、取付部及び支持部と複数の陽極とを合わせて、陽極アッセンブリーを構成することも可能である。
【0037】
例えば、電解液槽12の中に、好ましい量の好ましい電解液、例えば、約1.5tのKF・2HFである電解液11を入れ、好ましい電解温度と電流値で、例えば電解温度70~90℃、電流値500~7000Aで、電気分解を行ってフッ素ガスおよび水素ガスを発生させ、フッ化水素を随時供給することによって、フッ素を連続的に製造することができる。フッ素電解槽10には、フッ素を発生させる炭素電極を支持するためのフッ素電解槽陽極取り付け部16を、複数箇所に備えることができる。電解温度は、好ましくは70~100℃であり、より好ましくは80~90℃である。電流値は、好ましくは700~6000Aであり、より好ましくは1000~5000Aである。
【0038】
図2A図2Bは、図1のフッ素電解槽陽極取り付け部16の断面を拡大した図である。フッ素電解槽陽極取り付け部16は、円筒状の陽極支持部14の側壁を囲み、その長手方向Dに沿って積み重ねられた環状(リング状)の複数のパッキン17~19と、複数のパッキン17~19の外周を囲む円筒状の外装部23と、複数のパッキン17~19および外装部23を、陽極支持部14に対して締め付ける環状の締付部24と、を有している。また、陽極支持部14をより強く固定するため、さらに陽極支持部14を直接締め付ける環状の締付部25が取り付けられていることが好ましい。環状の締付部25は、ストッパーとなって、陽極支持部14が長手方向Dに沿って滑り落ちるのを防ぐ機能を有している。
【0039】
複数のパッキンのうち、長手方向Dの電解液槽側の端(図2Aでは最下端)に位置する第1パッキン17は、約100℃近辺以下での常圧のフッ素と酸素の混合ガス中で、燃焼反応を起こさず、かつ絶縁性を有する、セラミック材によって構成されている。そのような材料としては、例えば、アルミナ、フッ化カルシウム、フッ化カリウム、イットリアまたはジルコニア等から選ばれる、1種または2種以上のセラミック材を挙げることができる。第1パッキン17のヤング率は、100GPa以上500Gpa以下であることが好ましい。
第1パッキン17のビッカース硬さは、5以上30以下であることが好ましい。
【0040】
第1パッキン17の厚みは、シールに及ぼす影響、及び素材の耐久性等に応じて、適宜設計される。第1パッキン17の厚みは、好ましくは第2パッキン18の内径の0.2倍~1.5倍であり、より好ましくは0.3倍~1.0倍である。0.2倍以上であると素材の耐久性に問題が生じる(割れやすくなる)ことがないため好ましい。1.5倍以下であるとパッキンの製造費用が高くならず、経済的な観点から好ましい。第2パッキン18の厚みは、シールに及ぼす影響、及び素材の耐久性等に応じて、適宜設計される。第2パッキン18の厚みは、好ましくは1.0mm~10mmであり、より好ましくは2.0mm~6.0mmである。
【0041】
複数のパッキンのうち、長手方向Dにおいて第1パッキン17に隣接する第2パッキン18は、絶縁体であり、100℃以下であればフッ素と反応を起こしにくい樹脂材料によって構成されている。そのような材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体、フッ素ゴム、あるいはポリテトラフルオロエチレンにフッ化カルシウムを練り込んだもの等からなる群から選ばれる、少なくとも1種類以上の樹脂を挙げることができる。特にポリテトラフルオロエチレンが好ましい。これらの第2パッキンは、1種類あるいは2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
第2パッキン18の厚さは、1mm以上10mm以下であれば好ましく、2mm以上6mm以下であればより好ましく、5mm程度であればさらに好ましい。第2パッキン17のヤング率は、0.01GPa以上2Gpa以下であることが好ましい。第2パッキン18の数は任意に選択でき、例えば1~2個や、1~5 個などが例として挙げられる。
【0043】
複数のパッキンのうち、第1パッキン17および第2パッキン18以外の複数の第3パッキン19は、絶縁性および可撓性を有していればよい。例えば第3パッキン19は、バイトン(商標)(フッ素ゴム)、天然ゴム、及びネオプレン(商標)ゴム等で構成されることが好ましい。また、それぞれが1mm以上の厚みを有し、複数枚の合計で、さらに第2パッキンの3~4倍程度の厚みを有していることが好ましい。
【0044】
複数のパッキンのうち、他の一端(図2Aでは最上端)に位置する第3パッキン19の上には、さらに、環状のスリーブベースワッシャー20、絶縁スリーブ21、金属スリーブ22が、陽極支持部14と中心軸を略一致させて積層されている。具体的には、第3パッキン19の他の一端側(図2Aでは最上端)に、スリーブベースワッシャー20が積層される。スリーブベースワッシャー20上に、絶縁スリーブ21および金属スリーブ22とが、図に示すように積層される。さらに、それらの上に、締付部24を介して、2つ目のスリーブベースワッシャー20が積層されている。
【0045】
絶縁スリーブ(ベークライトスリーブ)21は、陽極支持体14と金属スリーブ22とを電気的に絶縁するための部材であり、陽極支持体14と金属スリーブ22の間に配置されている。絶縁スリーブ21の厚さ(長さ)は、金属スリーブ22より大きいことが好ましい。例えば、金属スリーブ22の厚さが20mmのときは、絶縁スリーブ21の厚さは、金属スリーブより2mm大きい22mm程度であればより好ましい。絶縁スリーブ21は、一体の部材であってもよいし、複数の部材を組み合わせた複合部材であってもよい。絶縁スリーブ21と金属スリーブ22との間には、隙間があってもよい。絶縁スリーブ21の構成材料は任意に選択でき、例えばテフロンチューブ、塩化ビニル、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0046】
金属スリーブ(スチールスリーブ)22は、締付部24とともに下層側のパッキン等を抑えつけるための部材である。金属スリーブ22の寸法に関して、特に制限はない。金属スリーブ21は、一体の部材であってもよいし、複数の部材を組み合わせた複合部材であってもよい。金属スリーブ22の構成材料は任意に選択でき、例えばステンレス鋼(SUS)、炭素鋼(CS)等の所定の硬度を有する鉄材が挙げられる。
【0047】
スリーブベースワッシャー20は、硬めの樹脂で構成される絶縁性部材である。スリーブベースワッシャー20の厚さは、強度を得る観点から、3mm以上であることが好ましい。スリーブベースワッシャー20の構成材料は任意に選択でき、例えばテフロン(登録商標)、木材、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0048】
第1パッキン17の、及び第1パッキン17上の各部材の、各層の位置への取り付け前の、内径寸法・外径寸法の一例について、表1に示す。ここでは、第2パッキンとしてPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を用いた場合、第3パッキンとしてネオプレン(商標)を用いた場合について例示している。また、この例においては、これらが取り付けられるべき、陽極支持部の外径は20mm、外装部の内径は40.5mmである。
【0049】
【表1】
【0050】
外装部の内径は、任意に選択できるが、好ましくは陽極支持部の外径の1.5倍~2.5倍であり、より好ましくは1.8倍から2.2倍である。1.5倍以上であると、パッキンの幅が狭くなることがなく、陽極支持部14と外装部23との距離が短くならず、この隙間に電解液が付着して絶縁性能が低下することがないので好ましい。2.5倍以下であると、パッキンとパッキン座23aとの接触面積が大きくなりすぎず、気密性能を保つために非常に大きなトルクで締め付けるなどの必要がなく、ネジ山が破損せず好ましい。
【0051】
パッキン座23aの幅、すなわち、第1パッキンがドーナッツ型をしている場合には、第1パッキンの底面のうち、外装部23と接触する部分の幅は、好ましくは第2パッキンの外径と内径の差の値の1/2の0.1倍~0.8倍であり、より好ましくは0.4倍~0.6倍である。
0.1倍以上であると、パッキン座23aの幅が狭すぎることがなく、シール性能が悪化せず好ましい。また、0.8倍以下であると、外装部23と陽極支持部14との距離が近くなりすぎることがなく、この隙間に電解液が付着して絶縁性能を低下させることがなく、好ましい。
【0052】
外装部23の材料は任意に選択できるが、例えば炭素鋼を挙げることができる。外装部23の外壁面にはナット(締付部)24が螺合されており、回転させることによって、陽極支持部の長手方向Dに沿って前記ナットが移動できるように、取り付けられている。金属スリーブの頂部22a側からこのナット24で締め付けることにより、金属スリーブ22、スリーブベースワッシャー20、第3パッキン19、第2パッキン18が、厚み方向に順々に圧縮されるとともに、厚み方向に垂直な径方向に膨張する。その結果として、第3パッキン19と陽極支持部14、第3パッキン19と外装部23との間に隙間がなくなり、気密が取れる構造となる。
【0053】
電解液槽12と外装部23とは電気的に導通している。しかしながら、電解液槽12と外装部23と、陽極支持部14、陽極本体13とは、スリーブベースワッシャー20、絶縁スリーブ21、第1パッキン17、第2パッキン18、第3パッキン19を介して、絶縁されている。
【0054】
図2Bは、図2Aのフッ素電解槽陽極取り付け部16を、A-A’線を通る面で切断した場合の断面を、拡大した図である。第1パッキンの内径17rは、陽極支持部の外径14Rより0.2mm~1.0mm(好ましくは0.4mm~0.8mm)だけ大きい。また、第1パッキンの外径17Rは、外装部の内径23rより0.2mm~1.0mm(好ましくは0.4mm~0.8mm)だけ小さい。
【0055】
さらに、陽極支持部14と外装部23の中心軸は、0.1mm以下の範囲で略一致するように構成されている。3つの中心軸の偏心度合は、可能な限り小さくすることが好ましい。例えば、陽極支持部14と第1パッキン17の間、第1パッキン17と外装部23の間に、後で引き抜くことができる詰め物(金属細線等)を、取り付け時のスペーサーとして挿入することにより、陽極支持部14および外装部23の中心軸と第1パッキン17の中心軸との偏心度合いを小さくすることができる。また、第1パッキン17を支持するパッキン座の表面23aに、陽極支持部14側が凹むように段差を設け、凹み部分に第1パッキン17を載置することによっても、同様に偏心度合いを小さくすることができる。
【0056】
つまり、陽極支持部14の外壁と第1パッキン17の内壁との距離dの最大値、第1パッキン17の外壁と外装部23の内壁との距離dの最大値のいずれも0.2mm以上1.0mm以下、好ましくは0.4mm以上0.8mm以下となっている。
【0057】
それぞれの距離d、dの最大値が0.2mm以上であれば、電解初期に発生した酸素ガスを含むフッ素ガスにより、第2パッキン18がその厚み方向に膨張した場合でも、膨張によって第1パッキン17に発生する応力上昇を抑え、第1パッキンの応力割れを防止することができる。
【0058】
また、距離d、dの最大値が1.0mm以下の範囲内である場合には、当該混合ガスと第2パッキンによる燃焼反応が起きにくいため、火炎は発生せず、第2パッキンの焼損を防ぐことができる。そして、この上限値は、当該混合ガスの消炎距離に対応すると推定される。
【0059】
以上のように、本実施形態に係るフッ素電解槽陽極の取り付け部は、フッ素電解槽に装着して用いることにより、電解初期に発生するフッ素ガスによる第1パッキンの破損、第2パッキンの焼損の発生を防ぎ、フッ素の陽極室外への漏洩を十分に防止することができ、電解初期から、長期間安定して電気分解によるフッ素ガスの製造を行うことができる。
【実施例
【0060】
以下に実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0061】
(比較例1)
図1図2A図2Bに示した上記実施形態とほぼ同様に、フッ素電解槽陽極取り付け部を用意した。具体的には、パッキン構造部の一番下の部分が電気分解により発生したフッ素ガスと酸素ガスの混合ガスに接触する部分に、第1パッキンを設置し、その上部に、電極を保持するための構造として、第2パッキン、第3パッキン(ネオプレンゴム)、スリーブベースワッシャー(ベークライト)、金属スリーブ、絶縁スリーブを設置した、フッ素電解槽陽極取り付け部を用意した。
この取り付け部を、フッ素電解槽に取り付け、フッ素ガスの製造を行った。第1パッキン17としてアルミナ製のパッキンを用い、第2パッキンとしてポリテトラフルオロエチレン製のパッキンを用いた。
【0062】
本例は、第1パッキンとその周辺部材とのサイズの違いに関して、上記実施形態とは次の点で異なっている。すなわち、第1パッキン、第2パッキンについては、それぞれの中心軸同士を揃えたときに、第1パッキンの内径を第2パッキンの内径より0.1mm大きく、かつ第1パッキンの外径を第2パッキンの外径より0.1mm小さくなるように選択した。そして、第1パッキンの内径は陽極支持部の外径よりも0.1mm大きく、第1パッキンの外径は外装部内径より0.1mm小さくした。したがって、第1パッキンの内壁と陽極支持部の外壁との距離dの最大値、第1パッキンの外壁と外装部の内壁との距離dの最大値は、いずれも0.1mmとなった。
【0063】
48個の陽極取り付け部を備えた電解槽を用いた。各陽極取付け部を締め付け、電極に装着した。この電解槽に、水分を約0.5wt%含む約1.5tのKF・2HF溶融塩を収容し、そこにフッ化水素を随時供給しながら、通電による電解を、電解温度90℃で行った。この通電は、電流の大きさを約1000Aから徐々増加させ、5000Aになるまで行い、トータルで流れる電荷量を100KAH(キロアンペア時間)とした。
【0064】
電解中に発生する陽極ガスは、フッ素ガスと酸素ガスの混合ガスであった。通電を停止し、電解槽を解体して陽極取り付け部を確認したところ、アルミナセラミックからなる第1パッキンが24箇所で破損していた。その24個所のうち、欠損部ができているフッ素電解槽陽極取り付け部が2個所あり、その第2パッキンのうち、その欠損部を介してフッ素ガスと酸素ガスの混合ガスと接触した部分が、焼損していた。
【0065】
(比較例2)
本例では、第1パッキンの内径は陽極支持部の外径よりも2.0mm大きく、第1パッキンの外径は外装部内径より2.0mm小さくした。それ以外については比較例1と同様の構成のフッ素電解槽陽極取り付け部を、フッ素電解槽に取り付け、フッ素ガスの製造を行った。
【0066】
電流の大きさを約1000Aから徐々増加させ、4000Aになるまで通電による電解を行った。トータルで流れた電荷量が70KAH(キロアンペア時間)となったところで、陽極取り付け部の1個所からフッ素ガスが漏洩した。
【0067】
この段階で通電を停止し、フッ素電解槽を解体して陽極取り付け部の状態を確認した。その結果、全ての陽極取り付け部において、第1パッキン(アルミナセラミック)は破損していなかった。ただし、一部の陽極取り付け部では、第1パッキンにおいて、フッ素ガスと酸素ガスの混合ガスと接触した隙間の部分(内壁部分)を起点として、第2パッキン(ポリテトラフルオロエチレン)に大きな焼損が確認された。フッ素ガスの漏洩は、この焼損した部分を介して発生したと推測される。
【0068】
(実施例1)
本例では、第1パッキンの内径は陽極支持部の外径よりも0.6mm大きく、第1パッキンの外径は外装部内径より0.6mm小さくした。それ以外については比較例1と同様の構成のフッ素電解槽陽極取り付け部を、フッ素電解槽に取り付け、フッ素ガスの製造を行った。
【0069】
比較例1、2と同様の手順で、通電による電解を行った。すなわち、電流の大きさを約1000Aから徐々増加させ、5000Aになるまで通電を行い、トータルで流れる電荷量が100KAH(キロアンペア時間)とした。
【0070】
通電を停止し、フッ素電解槽を解体して陽極取り付け部の状態を確認した。その結果、全ての陽極取り付け部の第1パッキン、第2パッキンは、いずれも装着時の状態のままであり、欠損は見られなかった。
【0071】
(実施例2)
本例では、第1パッキンの内径は陽極支持部の外径よりも1.0mm大きく、第1パッキンの外径は外装部内径より1.0mm小さくした。それ以外については比較例1と同様の構成のフッ素電解槽陽極取り付け部を、フッ素電解槽に取り付け、フッ素ガスの製造を行った。
【0072】
電流の大きさを約1000Aから徐々増加させ、5000Aになるまで通電による電解を行った。トータルで流れた電荷量が100KAH(キロアンペア時間)となった段階で、さらに電流を流し、電荷量が30000KAHとなるまで通電を行った。
【0073】
通電を停止し、フッ素電解槽を解体して陽極取り付け部の状態を確認した。その結果、全ての陽極取り付け部の第1パッキン、第2パッキンは、いずれも装着時の状態のままであり、欠損は見られなかった。
【0074】
実施例1、2は、いずれも2つの距離d、dの最大値が0.2mm以上であった。このため、電解初期に発生した酸素ガスを含むフッ素ガスにより、第2パッキンがその厚み方向に膨張した場合でも、膨張による圧力が直接第1パッキンに作用するのを防ぎ、第1パッキンの応力割れを防止することができているものと推測される。
【0075】
また、実施例1、2では、いずれも2つの距離d、dの最大値が1.0mm以下であった。このため、前記幅は、酸素ガスを含むフッ素ガスの消炎距離より短く、当該混合ガスと第2パッキンによる燃焼反応が起きないため、火炎は発生せず、第2パッキンの焼損を防ぐことができていると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、電気分解してフッ素を製造する過程において、製造装置からのフッ素の漏えいを防止する技術として、広く活用することができる。
【符号の説明】
【0077】
10・・・フッ素電解槽
11・・・電解液
12・・・電解液槽
13・・・陽極本体
14・・・陽極支持部
14R・・・陽極支持部の外径
15・・・陽極本体締付部
16・・・フッ素電解槽陽極取り付け部
17・・・第1パッキン
17R・・・第1パッキンの外径
17r・・・第1パッキンの内径
18・・・第2パッキン
19・・・第3パッキン
20・・・スリーブベースワッシャー
21・・・絶縁スリーブ
22・・・金属スリーブ
22a・・・金属スリーブの頂部
23・・・外装部
23a・・・パッキン座の表面
23r・・・外装部の内径
24・・・締付部(ナット)
25・・・締付部
D・・・長手方向
・・・第1パッキンと陽極支持部との距離
・・・第1パッキンと外装部との距離
図1
図2A
図2B