(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】クラッキングコイルにおける半透性膜の使用
(51)【国際特許分類】
B01D 53/22 20060101AFI20220214BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20220214BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20220214BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20220214BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220214BHJP
C07C 11/04 20060101ALI20220214BHJP
C07C 5/333 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D69/00
B01D71/02 500
B01D69/10
B01D69/12
C07C11/04
C07C5/333
(21)【出願番号】P 2019542819
(86)(22)【出願日】2017-10-19
(86)【国際出願番号】 IB2017056510
(87)【国際公開番号】W WO2018078494
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-07-17
(32)【優先日】2016-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(73)【特許権者】
【識別番号】513269848
【氏名又は名称】ノヴァ ケミカルズ(アンテルナショナル)ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベナム、レスリー
(72)【発明者】
【氏名】コゼレック、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】シマンゼーンコフ、ヴァシリー
(72)【発明者】
【氏名】ファラグ、ハニー
(72)【発明者】
【氏名】マー、エヴァン
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-520687(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0168480(US,A1)
【文献】特開昭55-094992(JP,A)
【文献】特開2001-262159(JP,A)
【文献】特開2005-199211(JP,A)
【文献】特開2007-326095(JP,A)
【文献】特開2007-152230(JP,A)
【文献】特開2006-176350(JP,A)
【文献】特開平08-319487(JP,A)
【文献】特表2004-502660(JP,A)
【文献】特表2015-511170(JP,A)
【文献】特表2010-508390(JP,A)
【文献】特表2015-522695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
B01J 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下から構成されるセクションを1つ以上含む蒸気分解器用の炉コイル:
i)コイル内のパスと協働するように構成され、そこを通る1000℃を越える溶融温度を有する分解ガスの流れを可能にする連続金属通路;
前記金属は、以下を含む領域を1つ以上有する:
a)5~75%の孔が0.001~0.05ミクロンのサイズを有するような多孔度;又は
b)900℃を越える融点、及び5~75%の孔が0.001ミクロン~0.5ミクロンのサイズを有するような多孔度を有する
、前記金属上の
セラミックオーバーコート;
前記領域は、0.1~10ミクロンの厚さを有する緻密ガス選択性膜でオーバーコートされており、500℃~900℃の温度でH
2、CH
4、CO、及びCO
2のうちの少なくとも1つを前記通路の外に拡散することを可能にする。
【請求項2】
前記金属又はセラミック
オーバーコートが、10~50%の孔が0.001~0.05ミクロンのサイズを有するように多孔度を有する、請求項1に記載の炉コイル。
【請求項3】
前記セラミックが、多孔質二酸化ケイ素、溶融二酸化ケイ素、多孔質酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化トリウム、酸化ランタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化スズ、二酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化ホウ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、リン酸ホウ素、リン酸ジルコニウム、酸化イットリウム、ケイ酸アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素及びそれらの混合物からなる群から選択される酸化物、二酸化物、窒化物、炭化物及びリン酸塩から形成される、請求項2に記載の炉コイル。
【請求項4】
前記1つ以上のセクションにおける前記緻密ガス選択性
膜が、鉄、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、及びモリブデンのうちの1つ以上を含む、請求項3に記載の炉コイル。
【請求項5】
前記緻密ガス選択性膜が、Pd、Ta、V、Pt、Nb及びZrからなる群から選択される1つ以上の金属をさらに含む、請求項4に記載の炉コイル。
【請求項6】
前記緻密ガス選択性膜が、Al
2O
3、BaTiO
3、SrTiO
3及びZrO
2からなる群から選択される1つ以上の金属酸化物セラミックをさらに含む、請求項5に記載の炉コイル。
【請求項7】
前記緻密ガス選択性膜が、緻密金属酸化物膜である、請求項6に記載の炉コイル。
【請求項8】
前記緻密ガス選択性膜がPdを含む、請求項7に記載の炉コイル。
【請求項9】
前記緻密ガス選択性膜が、イットリア安定化ZrO
2を含む、請求項7に記載の炉コイル。
【請求項10】
前記緻密ガス選択性膜が、カルシア安定化ZrO
2を含む、請求項7に記載の炉コイル。
【請求項11】
前記緻密ガス選択性膜が、理論密度
の95%以上である、請求項7に記載の炉コイル。
【請求項12】
前記連続金属通路が、コイルの一部を形成する管状通路である、請求項1に記載の炉コイル。
【請求項13】
前記連続金属通路が、コイルの一部を形成する90°ベンド又は180°ベンドである、請求項1に記載の炉コイル。
【請求項14】
請求項1に記載の1つ以上のセクションを組み込むことによって、炉コイル内の分解ガスから、H
2、CH
4、CO、及びCO
2のうちの1つ以上を除去する方法。
【請求項15】
請求項1に記載の1つ以上のコイルを含む分解炉。
【請求項16】
パラフィンを、850℃~950℃の温度で、請求項1に記載の炉コイルを通過させることによって分解する方法。
【請求項17】
前記パラフィンがC
2-4パラフィンである、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記パラフィンがエタンである、請求項
17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分解パラフィンの分野に関する。より具体的には、本発明は、分離トレインにおける負荷を低減するため、移送ラインの上流の分解ガスから少なくとも水素を除去するために、1つ以上のコイルパス若しくはその一部又は「U」字ベンド(“U”bends)に少なくとも水素用の透過膜を組み込むことに関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン蒸気分解器(steam cracker)のバックエンドでは、メタン並びにH2、CO、及びCO2を含む他の成分から比較的純粋なエチレンを得るため、かなりの量の資本設備及びエネルギーが、分解ガスの成分を分離するために使用される。H2、CH4、CO、及びCO2の一部又は全部を分解器内の分解ガスから分離することができれば、それは化学平衡をエチレンの形成に向かわせるであろう。さらに、そのような分離は分離トレインにおける負荷を低減するであろう。
【0003】
米国特許第6,152,987号(マサチューセッツ州ウースターのウースター工科大学に譲渡された1997年12月15日の最先の出願日を有する出願から、2000年11月28日にMaらに発行された)は、水素透過膜の表面コーティングを有する微孔質ステンレス鋼管を教示している。得られたチューブ又はパイプは、ガスの混合物から水素を分離するのに使用することができる。この参考文献は、パラフィンをオレフィンに熱分解するための炉のパス中にそのようなパイプ構造を組み込むことを示唆していない。
【0004】
ウースター工科大学に譲渡された、Maらの名の一連の特許もまた、米国特許第7,727,596号によって、約500℃までの温度でガス混合物から水素を分離することを教示している。これは、パラフィンを分解する一般的な温度以下である。ガス混合物は、分解ガス流ではなく、主にH2及びヘリウムであるように思われる。オレフィン(エチレン)から水素、CH4、CO、CO2のうちの1つ以上を分離することについての議論はない。興味深いことに、この特許は、分離膜用の基材として使用することができる、0.1ミクロン~15ミクロンの孔径、場合によっては0.1~0.5ミクロンの孔径を有する高温合金を開示している(第7欄第16~60行)。
【0005】
2015年2月12日にTangらの名で公開されたBettergyに譲渡された米国特許出願第20150044130号は、パラフィンの分解温度よりも低い約450℃までの温度で有用な半透膜を調製するためのパラジウムを用いたゼオライトドーピングを教示している(実施例の表を参照)。この実施例の表は、約450℃までの温度で、CO2及びCH4等の分子よりも水素に対する高い選択性を示している。この明細書は、その膜が450℃を超える温度で有用であることを教示も示唆もしていない。
【0006】
米国特許第8,791,037号(米国エネルギー省に譲渡され、2014年7月29日にBerchtoldらに発行された)は、約1000℃までの温度で安定なポリマー前駆体からの非酸化物(Si/C/N)セラミック膜を開示している。この明細書は、孔径が、モノマー組成、コモノマー官能価、光重合条件及び熱分解条件によって制御され得ることを教示している(第6欄第40~50行)。しかしながら、この特許には条件の詳細は開示されていない。
【0007】
本発明は、炉コイル内の分解ガスの流れから、H2、CH4、CO、及びCO2のうちの1つ以上を分離する方法を提供しようとするものである。
【発明の概要】
【0008】
一実施形態では、本発明は、以下から構成されるセクションを1つ以上含む[蒸気]分解器用の炉コイルを提供する:
i)コイル内のパスと協働するように構成され、そこを通る1000℃を越える溶融温度を有する分解ガスの流れを可能にする連続金属通路;
前記金属は、以下を含む領域を1つ以上有する:
a)5~75%の孔、好ましくは10~50%の孔が0.001~0.05ミクロンのサイズを有するような多孔度;又は
b)900℃を越える融点、及び5~75%の孔、好ましくは10~50%の孔が0.001ミクロン~0.5ミクロンのサイズを有するような多孔度を有する、前記金属内のセラミックインサート又は前記金属上のオーバーコート;
前記領域は、0.1~10ミクロンの厚さを有する緻密ガス選択性膜(dense gas-selective membrane)でオーバーコートされており、500℃~900℃の温度でH2、CH4、CO、及びCO2のうちの少なくとも1つを前記通路の外に拡散することを可能にする。
【0009】
さらなる実施形態では、セラミックは、多孔質二酸化ケイ素、溶融二酸化ケイ素、多孔質酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化トリウム、酸化ランタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化スズ、二酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化ホウ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、リン酸ホウ素、リン酸ジルコニウム、酸化イットリウム、ケイ酸アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素及びそれらの混合物からなる群から選択される酸化物、二酸化物、窒化物、炭化物及びリン酸塩から形成される。
【0010】
さらなる実施形態では、緻密ガス選択性膜は、鉄、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、及びモリブデンのうちの1つ以上を含む。
【0011】
さらなる実施形態では、緻密ガス選択性膜は、Pd、Ta、V、Pt、Nb及びZrからなる群から選択される1つ以上の金属をさらに含む。
【0012】
さらなる実施形態では、緻密ガス選択性膜は、Al2O3、BaTiO3、SrTiO3及びZrO2からなる群から選択される1つ以上の金属酸化物セラミックをさらに含む。
【0013】
さらなる実施形態では、緻密ガス選択性膜は緻密金属酸化物膜である。
【0014】
さらなる実施形態では、緻密ガス選択性膜はPdを含む。
【0015】
さらなる実施形態では、緻密ガス選択性膜はイットリア安定化ZrO2を含む。
【0016】
さらなる実施形態では、緻密ガス選択性膜はカルシア安定化ZrO2を含む。
【0017】
さらなる実施形態では、緻密ガス選択性膜は理論密度の約95%以上である。
【0018】
さらなる実施形態では、セラミックは、以下によって形成されるSi/C/Nセラミックである:
モノマー及び/又はオリゴマーシラザンセラミック前駆体を、エン(ビニル)官能化、オリゴマー、無機又は有機シラザン、二官能性チオール、及び四官能性チオールからなる群のうちの1つ以上を含むコモノマーと組み合わせること;
基材上に薄膜としての組合せを形成すること;
薄膜を光重合すること;
実質的に酸素を含まないセラミック膜をもたらすように、光重合した薄膜を熱分解すること。
【0019】
さらなる実施形態では、モノマー及び/又はオリゴマーシラザンは、ホウ素、チタン、アルミニウム、リン、及びそれらの組合せからなる群から選択されるヘテロ原子を含む。
【0020】
さらなる実施形態では、連続金属通路は、コイルの一部を形成する管状通路(tubular passage way)である。
【0021】
さらなる実施形態では、連続金属通路は、コイルの一部を形成する90°ベンド(エルボ)又は180°ベンド(U字ベンド)である。
【0022】
さらなる実施形態は、上記のような1つ以上のセクションを組み込むことによって、炉コイル内の分解ガスから、H2、CH4、CO、及びCO2のうちの1つ以上を除去する方法を提供する。
【0023】
さらなる実施形態は、上記のような1つ以上のコイルを含む分解炉(cracking furnace)を提供する。
【0024】
さらなる実施形態は、パラフィンを、850℃~950℃の温度で、請求項1に記載の炉コイルを通過させることによって分解する方法を提供する。
【0025】
さらなる実施形態は、パラフィンがC2-4パラフィンである上記方法を提供する。
【0026】
さらなる実施形態は、パラフィンがエタンである上記方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<数値範囲>
操作例における、又は他に指示がある場合を除き、明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量、反応条件などを指す全ての数又は表現は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。したがって、反対に示されない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本発明が得ようとする特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは少なくとも、報告された有効数字の数を考慮して、且つ通常の丸め技法を適用して解釈されるべきである。
【0028】
本発明の広い範囲を記載する数値範囲及びパラメータは近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載されている数値は、可能な限り正確に報告される。しかし、いずれの数値も、それらのそれぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を本質的に含む。
【0029】
また、本明細書に列挙された任意の数値範囲は、その中に包含される全ての部分的な範囲を含むことが意図されることを理解されたい。例えば、「1~10」の範囲は、記載された最小値1と記載された最大値10との間及びそれらを含む全ての部分的な範囲を含むことが意図されている;すなわち、最小値が1以上で最大値が10以下である。開示された数値範囲は連続的であるので、それらは最小値と最大値の間のあらゆる値を含む。他に明示的に示されていない限り、本願において特定される様々な数値範囲は近似値である。
【0030】
本明細書で表される全ての組成範囲は、実際には合計で100%(体積%又は重量%)に制限され、100%を超えない。複数の成分が組成物中に存在し得る場合、各成分の最大量の合計は100%を超えることがあるが、当業者が容易に理解するように、実際に使用される成分の量が最大100%に一致するであろうことは理解されよう。
【0031】
ナフサなどのパラフィン及びC2-4パラフィンなどの低級アルカンの蒸気分解(steam cracking)では、供給原料は、蒸気と一緒に、分解器の対流部を通過するチューブ又はコイルに供給され、そこで供給原料は、クラッキング温度(約750℃)近くまで加熱される。次いで、供給材料は、約0.001~2.0秒、いくつかの実施形態では0.001~1秒の間の時間で、炉の放射部内のコイルを通過する。炉の放射部では、コイルは、エルボ(90°)又は「U」字ベンド(180°)で接合された多数の直線状部分又はパスを含み、蛇行形状を形成している。炉の放射部において、壁に取り付けられたバーナー及び/又は床に取り付けられたバーナーは、壁がコイル表面に熱を放射する温度まで壁を加熱する。コイルの温度は、約800℃~約975℃の範囲である。これらの温度で分子は分解され、例えばエタンはその原子成分に分解され、再配列してエチレン、H2、CH4、CO、及びCO2を含む多数の生成物を形成する。この再配列は化学反応であり、コイル内のガス流からの生成物によってH2、CH4、CO、及びCO2の1つ以上を除去すると、変換を所望の生成物エチレンにシフトさせるであろう。
【0032】
炉を出るガスの組成は、フリーラジカルを含む多くの種を含有し、流れ中の分子のさらなる再配列を防ぐために、急速に急冷される必要がある。分解ガス流は、移送ラインを通って熱交換器に至り、そこでガスは、ガス中の分子の著しい再配列を防ぐために、ある温度まで急速に急冷される。急冷されたガスは、次に分離トレインに入る。分離トレインでは、ガスを順次低温に冷却して、メタン、エタン及びプロパン、並びに抽残液及び他の副生成物を凝縮させる。副生成物は、アセチレン並びにベンゼン、トルエン及びキシレン(BTX)のような他のより重い生成物を含み得る。分解器からの生成物流はまた、水素、メタン、一酸化炭素及び二酸化炭素を含有する。これらの成分も冷却され、分離トレインの一部を通過する。これは、分離トレインに余分な負荷をかける。分離トレインに入る前、好ましくは移送ラインに入る前に、分解ガス中のH2、CH4、CO、及びCO2の量を減らすことが望ましい。
【0033】
本発明によれば、通路を含む1つ以上のセクション、金属の、パス、エルボ、又は「U」字ベンドの1つ以上のセクションのいずれか、を含む蒸気分解器用の炉コイルが提供される。
【0034】
通路(例えば、パス、パイプ、チューブ、エルボ、又は「U」字ベンド)ラインは、典型的には、1000℃を超える、望ましくは1100℃を超える融点を有する金属から鋳造される。パス、エルボ、又は「U」字ベンドは、任意の高温鋼でできていてもよい。いくつかの実施形態では、パス又は「U」字ベンドは、鍛造ステンレス、オーステナイト系ステンレス鋼、並びにHP、HT、HU、HW及びHXステンレス鋼、耐熱鋼、並びにニッケルベース合金からなる群から選択され得るステンレス鋼である。パス、エルボ、又は「U」字ベンドは、高強度低合金鋼(HSLA);高強度構造用鋼又は超高強度鋼であってもよい。そのような鋼の分類及び組成は、当業者に知られている。
【0035】
適切な金属成分のさらなる例としては、鉄、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、及びそれらの合金が挙げられ、例えば、鋼、ステンレス鋼、ハステロイ(登録商標)合金(例えば、ハステロイC-22)(ヘインズインターナショナル社、インディアナ州ココモの商標)及びインコネル(登録商標)合金(例:インコネル合金625)(インコネルは、ハンチントンアロイ社、ハンチントンW.V.の商標である)が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、移送ラインはクロムとニッケルを含む合金(例えば、インコネル合金625)を含む。追加の実施形態では、この合金は、例えば、ハステロイC-22又はインコネル合金625などのクロム、ニッケル及びモリブデンを含有する。
【0036】
一実施形態では、ステンレス鋼、好ましくは耐熱性ステンレス鋼は、典型的には13~50重量%、好ましくは20~50重量%、最も好ましくは20~38重量%のクロムを含む。ステンレス鋼は、20~50重量%、好ましくは25~50重量%、最も好ましくは25~48重量%、望ましくは約30~45重量%のNiをさらに含んでもよい。ステンレス鋼の残部は、実質的に鉄であってもよい。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態では、鋼は、以下を含むいくつかの微量元素をさらに含んでもよい:少なくとも0.2重量%、最大3重量%、典型的には1.0重量%、最大2.5重量%、好ましくは2重量%未満のマンガン;0.3~2重量%、好ましくは0.8~1.6重量%、典型的には1.9重量%未満のSi;3重量%未満、典型的には2重量%未満のチタン、ニオブ(典型的には2.0重量%未満、好ましくは1.5重量%未満のニオブ)、及び他の全ての微量金属;並びに炭素は2.0重量%未満である。微量元素は、鋼の組成が合計100重量%になるような量で存在する。
【0038】
一実施形態では、ステンレス鋼、好ましくは耐熱性ステンレス鋼は、典型的には13~50重量%、好ましくは20~50重量%、最も好ましくは20~38重量%のクロムを含む。ステンレス鋼は、20~50重量%、好ましくは25~50重量%、最も好ましくは25~48重量%、望ましくは約30~45重量%のNiをさらに含んでもよい。ステンレス鋼の残部は、実質的に鉄であってもよい。
【0039】
本発明はまた、ニッケル及び/又はコバルトベースの極度のオーステナイト系高温合金(HTA)と共に使用してもよい。典型的には、合金は、大量のニッケル又はコバルトを含む。典型的には、高温ニッケルベース合金は、約50~70重量%、好ましくは約55~65重量%のNi;約20~10重量%のCr;約20~10重量%のCo;約5~9重量%のFe、及び残部の1つ以上の微量元素を含み、組成を100重量%にする。典型的には、高温コバルトベース合金は、40~65重量%のCo;15~20重量%のCr;20~13重量%のNi;4重量%未満のFe、及び残部の1つ以上の微量元素と、最大20重量%のWを含む。成分の合計は最大100重量%である。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態では、鋼は、以下を含むいくつかの微量元素をさらに含んでもよい:少なくとも0.2重量%、最大3重量%、典型的には1.0重量%、最大2.5重量%、好ましくは2重量%未満のマンガン;0.3~2重量%、好ましくは0.8~1.6重量%、典型的には1.9重量%未満のSi;3重量%未満、典型的には2重量%未満のチタン、ニオブ(典型的には2.0重量%未満、好ましくは1.5重量%未満のニオブ)、及び他の全ての微量金属;並びに炭素は2.0重量%未満である。微量元素は、鋼の組成が合計100重量%になるような量で存在する。
【0041】
パス、又はパス、エルボ、若しくは「U」字ベンドの一部のための基材金属は、多孔質であってもよい。基材としての使用に適した多孔質ステンレス鋼は、例えば、Mott Metallurgical Corporation(Farmington、CT)及びPall Corporation(East Hills、NY)から入手可能である。
【0042】
当業者は、当技術分野において公知の技術を用いて、基材の厚さ、多孔度、及び孔径分布を選択することができる。所望の基材の厚さ、多孔度、及び孔径分布は、他の要因の中でも、操作圧力などの最終複合ガス分離モジュールの操作条件に基づいて選択することができる。一般的により高い多孔度、及び一般的により小さな孔径を有する基材は、複合ガス分離モジュールを製造するのに特に適している。いくつかの実施形態では、基材は、約5~約75%又は約10~約50%の範囲の多孔度を有することができる。基材の孔径分布は変動し得るが、基材は、約0.001ミクロン以下~約0.1ミクロン、より典型的には0.001~0.05ミクロン、任意に0.001~0.01ミクロンの範囲の孔径を有し得る。
【0043】
一般に、より小さい孔径が好ましい。しかしながら、いくつかの実施形態では、より大きい孔を有する基材が使用され、一般的にはより小さい孔径を有する中間層、典型的には以下に開示されるようなセラミックが多孔質基材上に形成される(例えば傾斜支持体が形成される)。
【0044】
いくつかの実施形態では、基材の平均孔径又は中央孔径は、約0.001~約0.05ミクロンの範囲、例えば、約0.001ミクロン~約0.03、又は0.05ミクロンまで、であり得る。いくつかの例では、基材内の孔は、約0.01ミクロン~約0.05ミクロン、例えば、0.01ミクロン、0.02ミクロン、及び0.05ミクロンサイズの孔が存在してもよい。
【0045】
場合によっては、多孔質金属基材の孔径は、所望のもの以外の分子(例えば、H2、CO、CO2及びCH4)が金属を通過するのを可能にするのに十分に大きくてもよい。多孔質金属基材は、下記のように緻密ガス選択性膜でコーティングする必要がある。さらなる実施形態では、多孔質金属基材を、最初にセラミックでコーティングし、次いで緻密度ガス選択性膜でコーティングすることができる。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態では、金属基材は、セラミックでコーティングされていてもよいし、セラミックインサートを有していてもよい(例えば、金属を通過する部分がセラミックで充填されている)。セラミックは、450℃以上、好ましくは500℃以上、いくつかの実施形態では550℃以上、典型的には850℃~900℃、望ましくは1000℃までの温度で安定である必要がある。
【0047】
セラミックは、多孔質二酸化ケイ素、溶融二酸化ケイ素、多孔質酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化トリウム、酸化ランタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化スズ、二酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化ホウ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、リン酸ホウ素、リン酸ジルコニウム、酸化イットリウム、ケイ酸アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素及びそれらの混合物からなる群から選択される酸化物、二酸化物、窒化物、炭化物及びリン酸塩から形成される多孔質セラミックであるべきである。いくつかの実施形態では、セラミック膜は、以下に記載されるように緻密ガス選択性膜であってもよい。
【0048】
セラミック膜を形成するための好ましい成分には、チタン、ジルコニウム、アルミニウム(例えば、アルファアルミナ及びガンマアルミナ)、マグネシウム、ケイ素の酸化物、並びにそれらの混合物が含まれる。アルミナと酸化ケイ素を混合したセラミックはゼオライトであり、チタン等価物はETS型セラミックである。セラミック材料の構造中の孔径は、0.0003~1.0ミクロン、いくつかの実施形態では0.001~1ミクロン以上、いくつかの実施形態では0.01~0.05ミクロンであってもよい。この孔径は、H2、CH4、CO、及びCO2のうちの1つ以上がセラミックを通って拡散又は浸透することを可能にするのに十分である。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態では、セラミックは、水素、メタン、一酸化炭素及び二酸化炭素のうちの1つ以上を輸送するのを助ける金属の粒子、繊維又はウィスカーでドープされていてもよく、あるいは含有していてもよい。パラジウム、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、バナジウム及びそれらの合金を、水素の透過に使用してもよい。
【0050】
セラミックは、乾燥形態又は湿潤形態で塗布することができる。湿潤形態(溶液又は懸濁液)にある場合、典型的には溶媒/希釈剤を熱処理によって除去して乾燥コーティングを得る。この工程は、約400℃までの温度で行ってもよい。次いで、乾燥コーティングを、不活性雰囲気、典型的には窒素下で最高約1500℃の温度で約2から48時間の期間にわたって焼結する。乾燥及び焼結工程は、当業者に周知である。
【0051】
本発明のさらなる実施形態では、ガス選択性(セラミック)膜は、光開始によって架橋され、次いで熱分解される無機ポリマー前駆体から形成される。
【0052】
本発明のポリマーセラミックの態様においてさらに有用に使用される材料は、2つのカテゴリー、すなわちモノマー又はオリゴマーセラミック前駆体及び多官能チオールモノマーに分類される。最も重要なセラミック前駆体は、ビニル官能化無機-有機シラザンである。チオール化コモノマーの組成及び官能価は、架橋ポリマー生成物の特性を制御するために使用することができる他の変数である。様々な鎖長を有する非酸素含有アルカンジチオール及びテトラチオールの両方が、独立して及び併用して、好ましい。
【0053】
コモノマー濃度(シラザン/チオール)、コモノマー官能性(例えば、ジチオール対テトラチオール、及び併用して使用されるときの2つの比)、及びジチオール鎖長は、系(system)の変数であり、それらは重合反応速度、網目形成特性、及びそれらに対応して、ポリマー生成物の最終的な特性の制御された操作を可能にする。
【0054】
ポリマーフィルムは、本発明の光誘起フリーラジカルステップ成長チオール-エン重合を利用して形成されるべきであり、ここで、「エン」官能基はシラザンセラミック前駆体を介して組み込まれる。重合は好ましくはバルク材料上で行われ、すなわち溶媒は必要とされない。一般的なUV光開始剤、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンは、開始速度を調整するために好ましくは使用されるであろう。これらのチオール-エン反応のユニークな特徴は自己開始する能力である;したがって、別個の光開始剤の使用は任意であり、ポリマー生成物の分子組成及び均一性に対するさらなるレベルの制御を提供する。
【0055】
ポリマー材料の特性は、モノマー/オリゴマー反応体の特性、利用される重合メカニズム、反応条件(温度、雰囲気、開始速度(照射強度、開始剤濃度、及び自己開始モノマー濃度、並びに開始波長))、及び反応性官能基の変換の程度に密接に関連している。これらの要因の全てが、重合反応速度、それに対応して、ポリマー生成物の材料及び化学的特性、並びにそれによるその分離特性を、累積的に決定する。
【0056】
非晶質セラミック膜の形成は、好ましくは、前述のステップ成長光重合によって製造されたポリマーセラミック前駆体の加熱及び熱分解によって達成される。ポリマー製造条件及び反応速度が特性決定において大きな役割を果たすのと同様に、熱分解条件及び反応速度もそうである。したがって、材料の熱履歴に対するポリマー/セラミック構造/特性の依存性を理解することが不可欠である。
【0057】
架橋ポリマーセラミック前駆体の熱分解は、好ましくはいくつかの異なる雰囲気中、すなわち、空気、真空、窒素、アルゴン、及びアンモニアの下で行われるべきであり、ここでは、大気が熱分解化学を決定づけ、それにより、純粋なSiCから純粋なSi3N4までの範囲の達成可能な組成を有する最終生成物中の相対的なSi-C-N組成が得られる。加熱速度、到達温度、温度での浸漬時間、及び冷却速度もまた、ポリマーからアモルファスセラミックへの転移、したがって生成物の特性を制御するために使用されるのが好ましい。
【0058】
本発明の重合反応は様々な条件下で実施することができる。例えば、反応工程は、任意に1つ以上の、例えば、モノマーを含む組成物を照射すること、モノマーを含む組成物を加熱すること、モノマーを含む組成物に少なくとも1つの触媒を添加することなど、を含む。利用される放射線は、例えば、電磁放射線、電子衝撃、又は核放射線であってもよい。特定の実施形態では、例えば、本明細書に記載の重合性組成物でコーティングされた物品又は他の基材を選択された期間にわたって、放射線源(例えばUV又は電子ビーム放射線源)にさらす。さらに例示すると、一光子及び/又は二光子重合が任意に利用される。単一光子及び多重光子重合に関するさらなる詳細は、例えば、Macak他、(2000年)「Electronic and vibronic contributions to two-photon absorption of molecules with multi-branched structures」、J.Chem.Phys.113(17):7062頁;Luo他、(2000年)「Solvent induced two-photon absorption of push-pull molecules」、J.Phys.Chem.104:4718頁;及び、Luo他、(1994年)「One- and two-photon absorption spectra of short conjugated polyenes」、J.Phys.Chem.98:7782頁、に記載されており、これらはそれぞれ参照により取り込まれる。本発明のモノマーを重合するために利用される光の強度は、典型的には約1~約1000mW/cm2、より典型的には約20~約800mW/cm2、さらにより典型的には約50~約500mW/cm2であり、例えば約315~365nmの波長においてである。さらに、例えば、使用される特定のモノマー、望ましい二重結合変換の程度などに応じて、放射線にさらす時間もまた変動する。例示すると、本明細書に記載の重合性組成物は、典型的には、数ミリ秒から数分以上の間、特定の放射線源にさらされる。いくつかの実施形態において、本発明のモノマーは、5mW/cm2で60秒未満(例えば、約20秒以下)で実質的に完全な又は定量的な二重結合変換を達成し、これはすなわち、実質的に定量的な二重結合変換が、典型的には、0.1J/cm2未満の線量で達成される。さらに、重合温度は、典型的には0℃~100℃の間である。好ましい実施形態では、重合は、室温又は室温付近(例えば20~25℃)で行われる。
【0059】
重合反応に続いて、得られたポリマー材料は、典型的には熱分解されてセラミック材料を形成する。例えば、熱処理に用いられる条件に応じて、非晶質又は結晶質構造を得ることができる。非晶質構造は、一般に、特に熱分解が約700~1200℃、好ましくは900~1200℃の温度範囲で行われるときに得られる。熱処理がより高い温度、例えば1200~2000℃、好ましくは1500~2000℃で行われるとき、少なくとも部分的に結晶構造が、典型的には得られる。熱分解は、典型的には、保護ガスカバー又は反応ガスカバー(例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、アンモニアなど)の下で、又は真空中で行われる。さらに、熱分解は、典型的には、ポリマー材料をセラミック材料に変換するために約0.5~2時間行われる。任意選択で、セラミック材料は、熱分解後に追加の処理を受ける。例えば、安定体(stable body)は、典型的には、最大2000℃、好ましくは1600~2000℃の温度で、0.5~2時間の焼結手順の後に得られる。
【0060】
最終セラミックコーティング又はインサートは、5~75%、好ましくは10~50%の細孔が0.001ミクロン~0.05ミクロンのサイズを有するように多孔度を有するべきである。
【0061】
次いで、セラミック基材又は金属基材を、緻密ガス選択性膜でオーバーコートする。
【0062】
一実施形態では、ガス選択性膜は、水素に対して選択的に透過性の緻密ガス選択性膜であり、1つ以上の水素選択性金属又はそれらの合金を含み得る。水素選択性金属としては、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ジルコニウム(Zr)及びそれらの水素選択性合金が挙げられるが、これらに限定されない。パラジウム及びパラジウムの合金が好ましい。例えば、パラジウムは、金、白金、ルテニウム、ロジウム、イットリウム、セリウム及びインジウムからなる群から選択される少なくとも1つの金属と合金にすることができる。合金に使用する成分を選択する際には注意が必要である。銅及び銀が合金成分として提案されてきた。しかしながら、分解ガスは、アセチレン及び水蒸気を含むことがあり、爆発の危険をもたらす銅アセチリドの銀を形成する傾向があり得るので、銀及び銅を合金成分として避けることができる。金属成分は、約0.3~約3ミクロンの粒径を有してもよい。
【0063】
緻密ガス分離膜は、ガス選択性材料ではない1つ以上の成分、例えば、金属酸化物セラミックスのような水素選択性材料ではない成分を含んでもよく、金属酸化物セラミックスは、好ましくは、アルミナ(Al2O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(StTiO3)、イットリア又はカルシアで安定化又は部分安定化されたジルコニア(ZrO2)及びそれらの様々な組合せから選択される。使用する場合、金属酸化物セラミックは、金属と金属酸化物セラミックとのブレンドの10~90重量%、好ましくは30~70重量%、望ましくは40重量%~60重量%の量で存在してもよい。
【0064】
緻密ガス選択性膜は、約0.1~10ミクロンの厚さを有することができる。例えば、一実施形態では、緻密ガス選択性膜の厚さは約10ミクロン未満、例えば約3~8ミクロンの実質的に均一な厚さである。
【0065】
緻密ガス選択性膜の金属成分は、それらをSnCl2の溶液(例えば、1g/l pH約2)と接触させ、次いで接触後すぐに溶液から粉末をろ過し、それを洗浄し、場合によりそれを乾燥することにより一般的に活性化され、活性化金属(PdCl2)が得られる。活性化金属は、存在する場合、金属酸化物セラミックと一緒に使用して、粉末として使用するか、又は分散(スラリー)するか、又は適切な溶媒若しくは希釈剤(例えば水)に再溶解することができる。
【0066】
緻密気相選択性膜を形成するための粒状材料の層を、粒状材料(例えば粉末)を多孔質表面に適用するための当業者に公知の任意の適切な方法によって、(分解ガスの流路に対して)多孔質セラミック又は金属インサートの上面若しくは外面と接触させる。例えば、ガスを用いて輸送することによって、又は粒状材料のペースト、スラリー若しくは懸濁液を適用することによって、又は多孔質インサートの表面上に粒状材料の粉末を加圧若しくは擦ることによって、粒状材料を、多孔質金属基材又はセラミックの表面に適用することができる。
【0067】
一実施形態では、少なくとも1つの接触工程は、より高い圧力が基材の上面又は外面に加えられ、基材(例えば、セラミックで任意にコーティングされた多孔質金属基材)全体にわたってより高い圧力とより低い圧力との差圧をかけながら行われる。圧力差の適用は、負の圧力(すなわち、基材の他の(例えば、より低い又は内側の)表面に適用される真空)、又は正の圧力(すなわち、基材の外面に適用される圧力)、又はその2つの組合せを使用することによって達成され得る。好ましい実施形態では、粒状材料は、多孔質基材の第2の(すなわち、内側の)表面への真空の適用下でスラリーとして堆積される。
【0068】
(分解ガスの流路に対して)多孔質インサートの上面又は外面に適用される粒状材料の量及びサイズは、粒状材料を堆積させるために利用される方法に応じて多少変わり得る。粒状材料の適用における主な目的は、多孔質基材の表面を完全に覆うことであり、それは最終的に緻密ガス選択性(分離)膜を支持するであろう。
【0069】
粒状材料を多孔質基材の上面又は外面と接触して配置して第1の被覆面を形成した後、インサート上に存在する余分な第1の粒状材料を除去する。除去方法は、適用方法に応じて変わり得るが、ほとんどの場合、それは摩擦(例えば、機械的又は手で擦ること)によって除去され得る。好ましくは、過剰の粒状材料を除去する工程は、基材の下面又は内面(適用された粒状材料の反対側の面)に真空を適用しながら行われる。粒状材料が湿式プロセス(例えば、スラリー又は懸濁液)を用いて堆積された場合、多孔質基材の孔から粒状材料を引き出し得る、湿った粒状ケーキのスラブの除去を避けるために、過剰の粒状材料を除去する前に、コーティングされた基材を乾燥させるべきである。
【0070】
いくつかの実施形態では、得られるコーティング多孔質基材(支持体)の平均孔径を小さくし、且つ多孔質基材の表面粗さを小さくするために、例えば約0.001~約0.05ミクロンの範囲の平均粒径を有する、より小さい粒径の粒状材料(金属)成分を使用してもよい。これらの目的を達成することは、粒状材料の選択におけるいくつかの変数(例えば、粒状材料の選択、適用方法、粒径など)に取り組むことを含む。
【0071】
緻密ガス選択性膜の堆積は、一工程で又は複数工程で、好ましくは各工程の後にアニーリングを伴って実施してもよい。
【0072】
アニーリングのための1つの有用な方法は、コーティングされた多孔質基材をより低い温度で不活性雰囲気中で熱処理し、その後水素の存在下で熱処理することを含む。より具体的には、アニーリングは、アニーリング温度が少なくとも250℃、好ましくは少なくとも300℃、より好ましくは少なくとも350℃になるまで、水素の不在下で行われる。アニーリング温度が250℃、好ましくは300℃、より好ましくは350℃に達すると、アニーリング工程において水素及び酸素が存在し得る。言い換えれば、好ましい実施形態では、アニーリング工程は、水素含有雰囲気中で、しかし温度が最低300℃、好ましくは少なくとも350℃、より好ましくは少なくとも400℃に達した後にのみ行われる。アニーリング工程は非常に高い温度(例えば600℃以上)にすることができるが、ほとんどの場合、アニーリング工程は、350℃~550℃、最も好ましくは400℃~500℃の温度で行われる。膜が連続的なコーティングによって構築される実施形態では、膜が堆積工程の間に冷却するにつれて水素が系(system)からパージされる。典型的には、膜が300℃、好ましくは400℃に達したときに水素が存在しないように、膜が冷却し始めたときに水素を系に不活性ガスであふれさせることによってパージする。
【0073】
この熱処理工程で使用され得る不活性ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン及び二酸化炭素を含む。アニーリング工程に使用するための好ましい不活性ガスは、窒素、アルゴン、ネオン及び二酸化炭素からなる群から選択されるものであり、熱処理に使用するための最も好ましい不活性ガスは、窒素である。
【0074】
アニーリング工程が行われるガス雰囲気は、アニーリング温度が少なくとも300℃(好ましくはそれ以上)に達すると、その中にいくらかの水素を含むべきである。めっきされた多孔質基材のアニーリング工程中に使用されるガス雰囲気は、3~100%の水素と97~0%の不活性ガスとの混合物を含むべきである。
【0075】
アニーリングは、多孔質基材(金属又はセラミックでコーティングされた金属のいずれか)の外面を覆うガス選択性材料(金属)の薄層を十分に処理する温度で行われる。必要とされるアニーリング温度は、多孔質基材上にめっきされる特定の金属又は金属合金及びその層の厚さにいくらか依存するが、一般に熱処理温度は少なくとも300℃~800℃の範囲内にあるべきである。好ましい熱処理温度は、325℃~700℃の範囲内であり、最も好ましくは、熱処理温度は、350℃~550℃の範囲である。
【0076】
アニーリング工程は、ガス選択性材料の層の必要な処理を提供し、必要な場合には次の一連のめっき、研磨及びアニーリングのためにそれを調製するのに十分な時間行われる。したがって、アニーリング時間は、上から48時間以上の範囲内であってもよいが、典型的なアニーリング時間は、0.1時間~12時間の範囲内である。しかしながら、アニーリング時間は、本発明の利点を達成するのに必要とされるガス選択性金属の層の処理を提供するのに必要な時間だけに最小化されることが好ましい。そのような期間は、0.2~10時間の範囲内、さらには0.3~4時間の範囲内であると予想される。
【0077】
アニーリングが行われる圧力は、0.5気圧(絶対気圧)から20気圧の範囲であり得る。より典型的には、熱処理圧力は、0.8気圧から10気圧の範囲である。
【0078】
堆積した金属の粒子成長パラメータは、膜安定性を高め、高温での変化に抵抗するのを助けると考えられている。特にガス選択材料の層が堆積工程の間に研磨されるとき、アニーリング温度を上昇させることによって粒子の成長を促進することは、有益な効果をもたらすと思われる。研磨工程は、以下により詳細に説明される。粒子を研磨して開気孔に効果的に塗りつけ、均一な金属層を形成することには、ある程度の好ましい効果があると考えられる。このようにして形成されたガス分離系は、高い運転温度で亀裂に耐えることが観察されている。
【0079】
アニーリング後、アニーリングした支持膜層を有する多孔質基材を研磨/研削する。研磨は、表面の異常性及び変形を最小限にし、亀裂、ピンホール及び薄膜層に存在し得る他の欠陥などの開口部を埋めることによって、さらなる堆積のために堆積された層の表面を改善する。例示的な研削方法及び研磨方法は、Shell Oil Companyに譲渡された、2012年5月1日にDel Paggioらの名で発行された米国特許第8,167,976号に開示されている。
【0080】
本発明のパス、エルボ又は「U」字ベンドを調製する際には、実用上可能な限り様々な構成要素の熱膨張係数を合わせて、部品の異なる層間の内部応力を最小限に抑え、コーティング内の内部応力を最小限に抑える必要がある。
【0081】
本発明によるチューブ又は「U」ベンドは、滑らかな内部を有してもよく、又は乱流を促進するために内側にらせん状隆起部を有してもよい。そのような内部のらせん状隆起部は、Kubota Corporationに譲渡され、1999年9月14日にSugitaniらに発行された米国特許第5,959,718号に開示されている。理論に縛られることなく、通路の内面における乱流は、分解ガス混合物中のより軽いガスの拡散を促進すると考えられる。ガスが「U」字ベンドの周りを移動するとガスは遠心力を受けるので、「U」字ベンドにおける分離は、(単位長さ当たり)より効率的になり得る。
【0082】
「U」字ベンドの壁厚は、内壁の侵食を考慮して均一ではない場合がある。
【0083】
本発明の通路(passages)は、それらの周りに金属の覆い(metal sheath)を任意に有してもよい。この覆いは、チューブ又は「U」字ベンドを形成することができる金属に対して、上記のように約1000℃以上、望ましくは1100℃を超える溶融温度を有する金属で作られるべきである。
【0084】
パス又はパイプは、約4メートル以下の長さを有する比較的短い部分であるべきである。パス部分が覆い(sheath)を有する場合、それらは、パスが比較的少量の放射エネルギーにさらされる炉の領域内にあるように配置されるべきである。これは、パス全体(チューブ及び「U」字ベンド)において表面エネルギーの損失を最小限に抑えるためである。クラッキングパスから分離されたガスは、覆いとパイプ又は「U」字チューブの外面との間に集まる。その覆いは、ガスが燃焼することになる炉内にガスが出ることを可能にするための開口部を有することができる。いくつかの実施形態では、その覆いの開口部は、開口部を通過する燃焼ガスの通過が、その覆いとパス又は「U」字ベントとの間でガスを炉内に引き込むように設計される(例えばベンチュリ管)。炉の放射部分の温度は、コイルからのガスが燃焼するのに十分に高い。
【0085】
コイル表面での水素の燃焼から生じるコイルの温度の上昇には、いくつかの考慮を払う必要がある。これによりコイル内の温度が上昇し、コイル内に炭素が堆積する可能性がある。そのような堆積物は孔を塞ぎ得る。得られる水が炉の放射部、及び特にパス又はチューブに与える影響についても考慮する必要がある。燃焼生成物は水蒸気であるべきであるが、それはコイルに向けられる放射エネルギーに悪影響を及ぼす可能性がある。
【0086】
いくつかの実施形態では、その覆い(sheath)は、水素を、炉の外側の収集手段に向けることができる。
【0087】
いくつかの実施形態では、基材金属を機械加工して、本発明のセラミック又は緻密ガス選択性膜のうちの1つ以上を含む、インサートで覆われるか、又はインサートを有する開口部を作製してもよい。
【0088】
前記の覆いは、通路の基材金属が破損した場合に、その覆いがパスにいくらかの構造的完全性をもたらし、プラントが状況に対処することを可能にするというさらなる安全目的を果たす。
【産業上の利用可能性】
【0089】
炉コイル内に、以下のa)及びb)を有する領域を形成することにより、コイル内の化学平衡をシフトさせてエチレンの生成を増加させる:a)5~75%の孔、好ましくは10~50%の孔が0.001~0.05ミクロンのサイズを有するような多孔度;又はb)900℃を越える融点、及び5~75%の孔、好ましくは10~50%の孔が0.001ミクロン~0.5ミクロンのサイズを有するような多孔度を有する、前記金属内のセラミックインサート又は前記金属上のオーバーコート;500℃~900℃の温度でH2、CH4、CO、及びCO2のうちの少なくとも1つを前記炉コイルの外に拡散することを可能にする、0.1~10ミクロンの厚さを有する緻密ガス選択性膜でオーバーコートされている。