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特許7023296多成分洗浄剤システムによるタイミングチェーンの摩耗に対する耐性を改善するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】多成分洗浄剤システムによるタイミングチェーンの摩耗に対する耐性を改善するための方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 159/20 20060101AFI20220214BHJP
   C10M 163/00 20060101ALI20220214BHJP
   C10M 159/22 20060101ALN20220214BHJP
   C10M 159/24 20060101ALN20220214BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20220214BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20220214BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20220214BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20220214BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20220214BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20220214BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220214BHJP
   C10N 40/26 20060101ALN20220214BHJP
   C10N 40/28 20060101ALN20220214BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20220214BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20220214BHJP
   C10N 40/12 20060101ALN20220214BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20220214BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20220214BHJP
【FI】
C10M159/20
C10M163/00
C10M159/22
C10M159/24
C10M139/00 Z
C10M133/12
C10M137/10 A
C10N20:00 Z
C10N10:04
C10N10:12
C10N30:00 Z
C10N40:26
C10N40:28
C10N40:08
C10N40:04
C10N40:12
C10N40:30
C10N40:25
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019565930
(86)(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 US2018020221
(87)【国際公開番号】W WO2018226277
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】15/613,696
(32)【優先日】2017-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391007091
【氏名又は名称】アフトン・ケミカル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】クリスティン・フレッチャー
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ランソム
(72)【発明者】
【氏名】ギョーム・カルペンティエル
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-520244(JP,A)
【文献】国際公開第2016/179168(WO,A1)
【文献】特表2019-515069(JP,A)
【文献】特開2009-127531(JP,A)
【文献】国際公開第2008/047550(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにおけるタイミングチェーンの伸びを低減する方法であって、前記タイミングチェーンを潤滑油組成物で潤滑するステップを含み、前記潤滑油組成物が、
主要量の基油と、
少量の添加剤パッケージであって、
a)ASTM D-2896の方法により測定して、少なくとも150mg KOH/gの総塩基価を有する、少なくとも1種以上の過塩基性カルシウムフェネート洗浄剤、
b)少なくとも1種のカルシウムスルホネート洗浄剤、および
c)少なくとも1種のマグネシウム含有洗浄剤、を含む、添加剤パッケージと、を含み、
前記潤滑油組成物は、前記少なくとも1種のカルシウムスルホネート洗浄剤からの総カルシウムと前記潤滑油組成物中の総カルシウムおよびマグネシウムとの重量比が0.06~0.35である、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種のマグネシウム含有洗浄剤が、ASTM D-2896の方法により測定して、少なくとも225mg KOH/gの総塩基価を有する過塩基性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種のマグネシウム含有洗浄剤が、過塩基性マグネシウムフェネート、過塩基性マグネシウム硫黄含有フェネート、過塩基性マグネシウムスルホネート、過塩基性マグネシウムカリキサレート、過塩基性マグネシウムサリキサレート、過塩基性マグネシウムサリチレート、過塩基性マグネシウムカルボン酸、過塩基性マグネシウムリン酸、過塩基性マグネシウムモノチオリン酸および/もしくはジチオリン酸、過塩基性マグネシウムアルキルフェノール、過塩基性マグネシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、過塩基性マグネシウムメチレン架橋フェノール、ならびにこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種のカルシウムスルホネート洗浄剤が、ASTM D-2896の方法により測定して、少なくとも225mg KOH/gの総塩基価を有する過塩基性である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記潤滑油組成物は、前記少なくとも1種のカルシウムスルホネート洗浄剤からの総カルシウムと前記潤滑油組成物中の総カルシウムおよびマグネシウムとの重量比が0.06~0.4である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記添加剤パッケージが、酸化防止剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、および粘度指数向上剤からなる群から選択される1種以上の添加剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化防止剤が油溶性モリブデン錯体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記基油は、粘度等級が5W-Xまたは0W-Xであり、前記潤滑油組成物は、芳香族アミン、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、およびアルキル化フェニル-アルファ-ナフチルアミンから選択される1つ以上の酸化防止剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記潤滑油組成物が、前記潤滑油組成物の総重量に基づき、前記少なくとも1種のカルシウムスルホネート洗浄剤により提供される50ppm~1650ppmのカルシウムを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記潤滑油組成物が、前記潤滑油組成物の総重量に基づき、前記少なくとも1種のカルシウムフェネート洗浄剤により提供される100ppm~2000ppmのカルシウムを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記潤滑油組成物が、前記潤滑油組成物の総重量に基づき、前記過塩基性カルシウム含有洗浄剤の全てにより提供される400ppm~2200ppmのカルシウムを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記潤滑油組成物中の前記カルシウムの総量が、1000ppm~3090ppm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記潤滑油組成物が、前記潤滑油組成物の総重量に基づき、前記少なくとも1種のマグネシウム含有洗浄剤により提供される50ppm~1650ppmのマグネシウムを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記潤滑油組成物が、前記潤滑油組成物の総重量に基づき、合計で500ppm~3100ppm未満のマグネシウムおよびカルシウムを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記潤滑油組成物が、金属ジアルキルジチオホスフェートをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記エンジンが火花点火式エンジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記エンジンが火花点火式乗用車ガソリンエンジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記潤滑油組成物が、216時間にわたるフォードチェーン摩耗試験によって測定して、エンジンにおける前記タイミングチェーンの伸びを0.1%以下に低減することができる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、潤滑組成物を使用してタイミングチェーンの伸びを低減するための方法、ならびにタイミングチェーンの潤滑のための潤滑油組成物および潤滑油添加剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内部燃焼エンジンにおいて、軸受ピン、ローラ、ブッシュ、ならびに内側および外側プレートからなる、タイミングチェーンとしても知られている金属チェーンが存在し得る。これらの構成要素にかかる著しい負荷および摩擦に起因して、タイミングチェーンは腐食摩耗を含む著しい摩耗の影響を受け易い。この問題に対処するために、金属と金属との接触がある可動部品間の摩耗を低減するように、潤滑剤が配合される。
【0003】
チェーンの伸長、またはタイミングチェーンの伸びは、摩耗に起因して劣化したタイミングチェーンを有する内部燃焼エンジンにおいて生じる現象である。チェーンの伸長は、主に、ピン、ブッシュ、およびサイドプレートの摩耗接触界面で発生する。タイミングチェーンの伸びは、内部燃焼エンジンの運転に重大な問題を引き起こす可能性があり、エンジン性能、燃費、および排気量に影響を与える可能性がある。
【0004】
タイミングチェーンの伸びは、タイミングチェーンに動作可能に接続された部品の望ましいタイミングからのずれを引き起こし得る。そのようなずれは、例えば、運転中にチェーンが1つ以上のスプロケット歯を飛ばすことによって、またはカム位相器の調節能力を超えることによって引き起こされ得る。これらのずれは、バルブおよび点火の相対的なタイミングを変化させ得る。吸気バルブタイミングは、空気および/または燃料混合物がいつシリンダ内に引き込まれるかに影響を与える。排気バルブが適切なタイミングで開かない場合、排気バルブを介してガスが漏れる結果、電力が失われる場合があるため、排気バルブタイミングは出力に影響する。さらに、排気バルブタイミングが正しくない場合、そのような状況下では未燃焼燃焼ガスが排気バルブを介して漏れる可能性があるため、未燃焼炭化水素の排気量が増加し得る。
【0005】
ディーゼルエンジンのタイミングチェーンの摩耗に対する種々の基油の影響は、“Investigation of Lubrication Effect on a Diesel Engine Timing Chain Wear,”Polat,Ozay,M.Sc.Thesis Istanbul Technical University Institute of Science and Technology(January 2008)において調査された。この論文は、基油の選択が、ディーゼルエンジンのタイミングチェーンの摩耗に影響を与える可能性があると結論付けた。
【0006】
軽量用ディーゼルエンジンにおけるタイミングチェーンの摩耗は、様々な要因によるものであり、要因のうちの1つは、煤の研磨摩耗への寄与である。Li,Shoutian,et al.,“Wear in Cummins M-11/EGR Test Engines,”Society of Automotive Engineers,Inc.(2001),paper no.2002-01-1672.この論説は、排気ガス再循環(EGR)システムを有するエンジンにおいて、煤が、ライナー、クロスヘッド、およびトップリング面に摩耗を引き起こしたことを述べている。この論説はまた、非EGRディーゼルエンジンにおいて煤によって誘発される摩耗は、GM 6.2Lエンジンではローラピンの摩耗、およびCummins M-11エンジンでは、クロスヘッドの摩耗に主に集中するとも述べている。
【0007】
ガソリンエンジンにおけるタイミングチェーンの伸びは、典型的にはローラピンの摩耗の結果である。結果として、タイミングチェーンの伸びに対処するための従来技術の方法は、典型的には、耐摩耗剤の使用および選択に焦点を当てている。TGDiエンジンでは、煤はガソリンエンジンの燃焼の副産物であるため、煤の生成およびその結果生じる摩損、特にローラピンの摩耗により、そのようなエンジンにおいてタイミングチェーンの伸びが起こり得る。
【0008】
いくつかの場合においては、分散剤および分散剤粘度指数向上剤が摩耗の問題に対処するために使用されてきた。例えば、米国特許第7,572,200 B2号は、チェーンおよびスプロケットを含むシステムの摺動部品を、10原子パーセント以下の水素含有量を有する薄い硬質炭素コーティング膜で被覆し、チェーン駆動システム上の摩擦および摩耗の量を低減するように設計された潤滑剤を用いる、チェーン駆動システムを開示している。
【0009】
米国特許第8,771,119 B2号は、室温で液体である80~95質量%の潤滑剤および室温で固体である5~20質量%のワックスを含む、チェーンのための潤滑組成物を開示している。ワックスの添加は、より良好な摩耗抵抗を提供し、伸長抵抗およびより長い寿命を有するチェーンを提供すると言われている。
【0010】
米国特許第7,053,026 B2号は、コンベヤチェーンシステムを潤滑するための方法を開示している。コンベヤチェーンは、高温に曝露される可能性があり、通常はポリオールエステル系潤滑剤を必要とする。この特許は、鉱油、ポリ(イソブチレン)、およびポリオールエステルの混合物を使用することによって、チェーンの摩耗を低減することおよびチェーンの表面上の付着物を最小化することに焦点を当てている。
【0011】
前述の参考文献は、内部燃焼エンジンのタイミングチェーンの伸びを最小化するための適切な解決策を提供していない。例えば、この目的のための分散剤の提案された使用は、タイミングチェーンの伸びに対する不適切な保護を提供することが見出されている。したがって、本開示は、従来の耐摩耗剤および/または分散剤の組み合わせによって提供されるよりも大きなタイミングチェーンの伸びの低減を提供するために、カルシウム洗浄剤および洗浄剤の組み合わせを用いる方法を提供する。
【発明の概要】
【0012】
第1の態様において、エンジンにおけるタイミングチェーンの伸びを低減する方法が開示され、本方法は、タイミングチェーンを潤滑油組成物で潤滑するステップを含み、潤滑油組成物は、
主要量の基油と、
少量の添加剤パッケージであって、
a)ASTM D-2896の方法により測定して、少なくとも150mg KOH/gの総塩基価を有する、少なくとも1種以上の過塩基性カルシウムフェネート洗浄剤、
b)少なくとも1種のカルシウムスルホネート洗浄剤、および
c)少なくとも1種のマグネシウム含有洗浄剤、を含む、添加剤パッケージと、を含み、
潤滑油組成物は、少なくとも1種のカルシウムスルホネート洗浄剤からの総カルシウムと潤滑油組成物中の総カルシウムおよびマグネシウムとの重量比が約0.06~約0.45未満である。
【0013】
前述の実施形態では、少なくとも1つのマグネシウム含有洗浄剤は、全てASTM D-2896の方法によって測定して、少なくとも225mg KOH/g、または少なくとも約300mg KOH/g、または約350~約500mg KOH/gの総塩基価を有する過塩基性であってもよい。
【0014】
前述の実施形態の各々において、少なくとも1種のマグネシウム含有洗浄剤は、過塩基性マグネシウムフェネート、過塩基性マグネシウム硫黄含有フェネート、過塩基性マグネシウムスルホネート、過塩基性マグネシウムカリキサレート、過塩基性マグネシウムサリキサレート、過塩基性マグネシウムサリチレート、過塩基性マグネシウムカルボン酸、過塩基性マグネシウムリン酸、過塩基性マグネシウムモノチオリン酸および/もしくはジチオリン酸、過塩基性マグネシウムアルキルフェノール、過塩基性マグネシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、過塩基性マグネシウムメチレン架橋フェノール、ならびにこれらの組み合わせから選択されてもよい。
【0015】
前述の実施形態の各々において、少なくとも1種のカルシウムフェネート洗浄剤は、全てASTM D-2896の方法によって測定して、少なくとも約150mg KOH/g、または少なくとも約225mg KOH/g、少なくとも225mg KOH/g~約400mg KOH/g、少なくとも約225mg KOH/g~約350mg KOH/g、または約230~約350mg KOH/gの総塩基価を有する過塩基性であってもよい。
【0016】
前述の実施形態の各々において、少なくとも1種のカルシウムスルホネート洗浄剤は、ASTM D-2896の方法によって測定して、少なくとも225mg KOH/g、または約225~約500mg KOH/g、または約290~約500mg KOH/g、または約250mg KOH/g~約400mg KOH/g、または約300mg KOH/g~約400mg KOH/gの総塩基価を有する過塩基性であってもよい。
【0017】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、少なくとも1種のカルシウムスルホネート洗浄剤からの総カルシウムと潤滑油組成物中の総カルシウムおよびマグネシウムとの重量比が約0.06~約0.4、または約0.06~約0.35であってもよい。
【0018】
前述の実施形態の各々において、添加剤パッケージは、酸化防止剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、および粘度指数向上剤からなる群から選択される1種以上の添加剤をさらに含んでもよい。
【0019】
前述の実施形態の各々において、酸化防止剤は、油溶性モリブデン錯体、有機アミドの有機モリブデン錯体、または有機アミドの硫黄不含有機モリブデン錯体であってもよい。
【0020】
前述の実施形態の各々において、基油は、SAE J 300粘度等級が5W-Xまたは0W-Xであり、潤滑油組成物は、芳香族アミン、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-アルファ-ナフチルアミン、およびアルキル化アリールアミン、ノニルジフェニルアミン、ジ-ノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、およびジ-オクチルジフェニルアミンから選択される1種以上の酸化防止剤を含んでもよい。
【0021】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量に基づき、少なくとも1種のカルシウムスルホネート洗浄剤によって提供される、約50ppm~約1650ppm、または約80ppm~約1250ppm、または約100ppm~約900ppmのカルシウムを含有してもよい。
【0022】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量に基づき、少なくとも1種のカルシウムフェネート洗浄剤によって提供される、約100ppm~約2000ppm、または約250ppm~約1800ppm、または約600ppm~約1500ppmのカルシウムを含有してもよい。
【0023】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量に基づき、過塩基性カルシウム含有洗浄剤の全てによって提供される、約400ppm~約2200ppm、または約500ppm~約1700ppm、または約600ppm~約1400ppm、または1400ppm未満のカルシウムを含有してもよい。
【0024】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物中のカルシウムの総量は、約1000ppm~約3090ppm未満、または約1200ppm~約2000ppm、または約1300ppm~約1600ppmであり得る。
【0025】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量に基づき、少なくとも1種のマグネシウム含有洗浄剤によって提供される、約50ppm~約1650ppm、または約80ppm~約1250ppm、または約250ppm~約1100ppmのマグネシウムを含有してもよい。
【0026】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量に基づき、合計で、約500ppm~約3100ppm未満、または約800ppm~約3000ppm、または約1500ppm~約2700ppmのマグネシウムおよびカルシウムを含有してもよい。
【0027】
前述の実施形態の各々において、基油は、II群の基油、III群の基油、IV群の基油、およびV群の基油からなる群から選択される少なくとも1種であり得る。前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、50重量%超のII群の基油、III群の基油、もしくはこれらの組み合わせ、または80重量%超もしくは90重量%超のII群の基油、III群の基油、もしくはこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0028】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、金属ジアルキルジチオホスフェートまたは亜鉛ジアルキルジチオホスフェートをさらに含んでもよい。
【0029】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、10重量%以下のIV群基油、V群基油、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0030】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、5重量%未満のV群基油を含んでもよい。
【0031】
前述の実施形態の各々において、過塩基性カルシウム含有洗浄剤は、過塩基性カルシウムサリチレート洗浄剤を任意に除外してもよい。
【0032】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、IV群基油を含有しない場合がある。
【0033】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、V群基油を含有しない場合がある。
【0034】
前述の実施形態の各々において、エンジンは、火花点火式エンジンであってもよい。
【0035】
前述の実施形態の各々において、エンジンは、火花点火式乗用車ガソリンエンジンであってもよい。
【0036】
潤滑油組成物は、216時間にわたるフォードチェーン摩耗試験によって測定して、エンジンにおけるタイミングチェーンの伸びを0.1%以下、または0.1%~0.01%に低減することができてもよい。
【0037】
本開示の追加の特徴および利点は、一部が以下の記述に説明され、かつ/または本開示の実践によって理解され得る。本開示の特徴および利点はさらに、添付の特許請求の範囲において特に指摘される要素および組み合わせの手段によって実現され、達成され得る。
【0038】
前述の一般的記述および以下の詳細の記述はどちらも例示的および説明的なものにすぎず、主張される本発明を制限するものではないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本明細書で使用される特定の用語の意味を明確にするために、以下の用語の定義が提供される。
【0040】
用語「油組成物」、「潤滑組成物(lubrication composition)」、「潤滑油組成物」、「潤滑油」、「潤滑剤組成物」、「潤滑組成物(lubricating composition)」、「完全配合潤滑剤組成物」、「潤滑剤」、「クランクケース油」、「クランクケース潤滑剤」、「エンジン油」、「エンジン潤滑剤」、「モータ油」、および「モータ潤滑剤」は、主要量の基油に加えて少量の添加剤組成物を含む最終潤滑生成物を指す、同義の完全に互換性のある専門用語であるとみなされる。
【0041】
本明細書で使用される場合、用語「添加剤パッケージ」、「添加剤濃縮物」、「添加剤組成物」、「エンジン油添加剤パッケージ」、「エンジン油添加剤濃縮物」、「クランクケース添加剤パッケージ」、「クランクケース添加剤濃縮物」、「モータ油添加剤パッケージ」、「モータ油濃縮物」は、主要量の基油ストック混合物を除外する潤滑組成物の一部を指す、同義の完全に互換性のある専門用語であるとみなされる。添加剤パッケージは、粘度指数向上剤または流動点降下剤を含む場合も含まない場合もある。
【0042】
本明細書で用いられる場合、用語「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」は当業者に既知の通常の意味で用いられる。具体的には、それは分子の残りに直接結合した炭素原子を有し、かつ主な炭化水素特性を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例には、
(a)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、および芳香族置換基、脂肪族置換基および脂環式置換芳香族置換基、ならびに環が分子の他の部分を介して完成する(例えば、2個の置換基が一緒になって脂環式部分を形成する)置換基と、
(b)置換された炭化水素置換基、すなわち、本開示の範囲において主な炭化水素置換基を変化させない非炭化水素基(例えば、ハロ(特にクロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、アミノ、アルキルアミノおよびスルホキシ)を含む置換基と、
(c)ヘテロ置換基、すなわち、本開示範囲において、主な炭化水素特性を有する一方で環または鎖中に炭素以外のものを含み、それ以外は炭素原子からなる置換基と、が含まれる。ヘテロ原子は硫黄、酸素、および窒素を含み、かつ具体的にはピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリルなどの置換基を含んでもよい。一般的には、ヒドロカルビル基中の10個の炭素原子毎に2個以下、例えば1個以下の非炭化水素置換基が存在し、通常、ヒドロカルビル基中には非炭化水素置換基は存在しない。
【0043】
本明細書で用いられる場合、用語「重量パーセント」は、他に明確に述べられていない限り、記載された成分が組成物全体の重量に対して表すパーセンテージを意味する。
【0044】
本明細書で使用される用語「可溶性」、「油溶性」、または「分散性」は、化合物もしくは添加剤が可溶性、溶解性、混和性であること、または全ての割合において油中に懸濁され得ることを示してもよいが、必ずしも示さなくてもよい。しかしながら、上述の用語は、それらが、油が用いられる環境において、それらの意図される効果を発揮するのに十分な程度まで、例えば、油中に可溶性、懸濁可能、溶解性、または安定に分散可能であることを意味する。さらに、必要に応じて、他の添加剤を追加で組み込むことで、特定の添加剤のより高いレベルの配合が可能となり得る。
【0045】
本明細書で用いられる場合、用語「TBN」は、ASTM D2896の方法によって測定される組成物のmg KOH/g単位での総塩基価を表すために使用される。
【0046】
本明細書で用いられる場合、用語「アルキル」は、約1~約100個の炭素原子の直鎖、分枝鎖、環状、および/または置換飽和鎖部分を指す。
【0047】
本明細書で用いられる場合、用語「アルケニル」は、約3~約10個の炭素原子の直鎖、分岐鎖、環状、および/または置換の不飽和鎖部分を指す。
【0048】
本明細書で用いられる「アリール」という用語は、アルキル、アルケニル、アルキルアリール、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、およびハロ置換基、ならびに/または限定されないが、窒素、酸素、および硫黄を含むヘテロ原子を含んでもよい単環式および多環式の芳香族化合物を指す。
【0049】
別段述べられない限り、全ての百分率は重量パーセントであり、全てのppm値は重量百万分率(ppmw)であり、全ての分子量は数平均分子量である。
【0050】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の参考文献を含むことに留意されたい。さらに、用語「a」(または「an」)、「1つ以上」、および「少なくとも1つ」は、本明細書では互換的に使用することができる。用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する(having)」、および「から構築された(constructed from)」も、互換的に使用することができる。
【0051】
本明細書に開示された各構成成分、化合物、置換基、またはパラメータは、単独で、または本明細書に開示された各々のおよび全ての他の構成成分、化合物、置換基、またはパラメータのうちの1つ以上と組み合わせて使用するために開示されているものと解釈されるべきである。
【0052】
また、本明細書に開示された各構成成分、化合物、置換基、またはパラメータのための各量/値または量/値の範囲は、本明細書に開示された任意の他の構成成分(複数可)、化合物(複数可)、置換基(複数可)、またはパラメータ(複数可)の各量/値または量/値の範囲と組み合わせて開示されているものとしても解釈されるべきであり、また、本明細書に開示された2つ以上の構成成分(複数可)、化合物(複数可)、置換基(複数可)、またはパラメータのための量/値または量/値の範囲の任意の組み合わせはまた、それ故、本明細書の目的のために互いに組み合わせて開示されているものと理解されたい。
【0053】
本明細書に開示された各範囲の各下限は、同じ構成成分、化合物、置換基、またはパラメータについて本明細書に開示された各範囲の各上限と組み合わせて開示されているものと解釈されるべきであることがさらに理解される。このようにして、2つの範囲の開示は、各範囲の各下限値を各範囲の各上限値と組み合わせることによって誘導される4つの範囲の開示として解釈されるべきである。3つの範囲の開示は、各範囲の各下限値を各範囲の各上限値等と組み合わせることによって誘導される9つの範囲の開示として解釈されるべきである。さらに、本明細書または実施例に開示された構成成分、化合物、置換基、またはパラメータの特定量/値は、範囲の下限値または上限値のいずれかの開示として解釈されるべきであり、それ故、本出願の他の個所で開示された同じ構成成分、化合物、置換基、またはパラメータについての範囲の任意の他の上限値もしくは下限値、または特定量/値と組み合わせて、その構成成分、化合物、置換基、またはパラメータ用の範囲を形成することができる。
【0054】
本明細書の潤滑剤、構成成分の組み合わせ、または個々の構成成分は、様々な種類の内部燃焼エンジンにおけるタイミングチェーンの潤滑への使用に好適であってもよい。内部燃焼エンジンは、ガソリンを燃料とするエンジン、ガソリン/バイオ燃料の混合を燃料とするエンジン、アルコールを燃料とするエンジン、またはガソリン/アルコールの混合を燃料とするエンジンであってもよい。ガソリンエンジンは、火花点火式エンジンであってもよい。内部燃焼エンジンはまた、電気またはバッテリ電源と組み合わせて用いてもよい。このように構成されたエンジンは一般的にはハイブリッドエンジンと呼ばれている。内部燃焼エンジンは、2行程エンジン、4行程エンジン、またはロータリーエンジンであり得る。好適な内部燃焼エンジンとしては、船舶用エンジン、航空機用ピストン式エンジン、ならびにバイク、自動車、エンジン車、およびトラックのエンジンが挙げられる。
【0055】
内部燃焼エンジンは、アルミニウム合金、鉛、スズ、銅、鋳鉄、マグネシウム、セラミック、ステンレス鋼、複合材、および/またはこれらの混合物のうちの1つ以上の構成要素を含有してもよい。構成要素は、例えば、ダイヤモンドライクカーボンコーティング、潤滑コーティング、リン含有コーティング、モリブデン含有コーティング、グラファイトコーティング、ナノ粒子含有コーティング、および/またはこれらの混合物でコーティングされてもよい。アルミニウム合金は、ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、または他のセラミック材料を含んでもよい。一実施形態では、アルミニウム合金はケイ酸アルミニウム表面である。本明細書で用いられる場合、用語「アルミニウム合金」は、「アルミニウム複合体」と同義であり、その詳細な構造にかかわらず、顕微鏡レベルまたはほぼ顕微鏡レベルで混合または反応するアルミニウムおよび他の成分を含む成分または表面を表すことが意図される。これには、アルミニウム以外の金属を有する従来の合金だけでなく、セラミック様材料のような非金属元素または化合物を有する複合または合金様構造が含まれる。
【0056】
本開示の潤滑剤組成物は、硫黄、リン、または硫酸灰分(ASTM D-874)含有量とは無関係に、あらゆるエンジンに好適であってもよい。潤滑油の硫黄含有量は、約1重量%以下、または約0.8重量%以下、または約0.5重量%以下、または約0.3重量%以下であってもよい。一実施形態では、硫黄含有量は、約0.001重量%~約0.5重量%、または約0.01重量%~約0.3重量%の範囲であってもよい。リン含有量は、約0.5重量%以下、または約0.1重量%以下、または約0.094重量%以下、または約0.001重量%~約0.5重量%、または約0.01重量%~約0.1重量%であってもよい。
【0057】
一実施形態では、本開示の潤滑剤組成物のリン含有量は、約100ppm~約1000ppm、または約325ppm~約950ppmであってもよい。全硫酸塩灰分含有量は、約2重量%以下、または約1.5重量%以下、または約1.2重量%以下であってもよい。一実施形態では、硫酸塩灰分含有量は、約0.05重量%~約1.5重量%、または約0.1重量%もしくは約0.2重量%~約1.15重量%であってもよい。別の実施形態では、硫黄含有量は、約0.4重量%以下であってもよく、リン含有量は、約0.08重量%以下であってもよく、硫酸塩灰分含有量は、約1.2重量%以下である。さらに別の実施形態では、硫黄含有量は、約0.3重量%以下であってもよく、リン含有量は、約0.05重量%以下であってもよく、硫酸塩灰分は、約1.15重量%以下であってもよい。
【0058】
一実施形態では、タイミングチェーン潤滑組成物は、エンジンオイルとして、例えばエンジンのクランクケースの潤滑に使用するのにも好適である。他の実施形態では、潤滑油組成物は、(i)約0.5重量%以下の硫黄含有量、(ii)約0.1重量%以下のリン含有量、および(iii)約1.5重量%以下の硫酸塩灰分含有量を有してもよい。
【0059】
いくつかの実施形態では、潤滑組成物は、限定されないが、船舶用エンジンの動力供給に使用される燃料の高硫黄含有量および海洋に適したエンジンオイル(例えば、海洋に適したエンジンオイルでは約40TBN超)に必要な高いTBNを含む、1つ以上の理由のために、2行程または4行程船舶用ディーゼル内部燃焼エンジンに好適でない。
【0060】
いくつかの実施形態では、潤滑組成物は、約1~約5%の硫黄を含有する燃料などの低硫黄燃料によって動力を供給されるエンジンでの使用に好適である。高速道路車両燃料は約15ppmの硫黄(または約0.0015%の硫黄)を含有する。
【0061】
本明細書の潤滑剤は、ILSAC GF-3、GF-4、GF-5、GF-6、PC-11、CI-4、CJ-4、ACEA A1/B1、A2/B2、A3/B3、A5/B5、C1、C2、C3、C4、E4/E6/E7/E9、Euro 5/6,Jaso DL-1、Low SAPS、Mid SAPSなどの1つ以上の産業規格必要条件、もしくはDexos(商標)1、Dexos(商標)2、MB-Approval229.51/229.31、VW502.00、503.00/503.01、504.00、505.00、506.00/506.01、507.00、BMW Longlife-04、Porsche C30、Peugeot Citroen Automobiles B71 2290、Ford WSS-M2C153-H、WSS-M2C930-A、WSS-M2C945-A、WSS-M2C913A、WSS-M2C913-B、WSS-M2C913-C、GM6094-M、Chrysler MS-6395などの相手先商標製造規格、または本明細書に言及されていないあらゆる過去もしくは将来のPCMO規格もしくはHDD規格を満たすのに好適であってもよい。乗用車用モータ油(PCMO)用途のいくつかの実施形態では、完成品の流体中のリンの量は、1000ppm以下、または900ppm以下、または800ppm以下である。
【0062】
他のハードウェアは、開示された潤滑剤と共に使用するのに好適でない可能性がある。「機能性流体」とは、トラクター用作動油流体、動力変速機流体(自動変速機流体、無段変速機流体、および手動変速機流体を含む)、作動油流体(トラクター用作動油流体を含む)、いくつかのギア油、パワーステアリング流体、風力タービン、圧縮機において使用される流体、いくつかの産業流体、ならびに動力伝達系の構成成分に関連する流体を含むが、これらに限定されない、様々な流体を網羅する用語である。例えば、自動変速機流体などのこれらの流体の各分類において、様々な変速機が著しく異なる機能特質の流体に対する必要性をもたらしている異なる設計を有するために、様々な異なる種類の流体が存在することに留意されたい。これは、動力の発生または伝達に使用されない「潤滑流体」という用語とは対照的である。
【0063】
機能性流体が自動変速機流体である場合、自動変速機流体は、クラッチ板が動力を伝達するのに十分な摩擦を有していなければならない。しかしながら、流体の摩擦係数は、動作中に流体が加熱されるので温度の影響により低下する傾向がある。トラクター用作動油流体または自動変速機流体は、高温においてその高い摩擦係数を維持することが重要であり、さもなければブレーキシステムまたは自動変速機が故障する場合がある。これは本発明の潤滑油の機能ではない。
【0064】
トラクター流体、例えば、スーパートラクタユニバーサル油(STUO)またはユニバーサルトラクタトランスミッション油(UTTO)は、エンジン油の性能と、変速機、ディファレンシャル、ファイナルドライブプラネタリギア、湿式ブレーキ、および油圧性能とを組み合わせてもよい。UTTOまたはSTUO流体を配合するのに使用される添加剤の多くは、機能が類似しているが、適切に組み込まれていない場合は有害な影響を与え得る。例えば、いくつかの耐摩耗および極圧添加剤は、油圧ポンプ中の銅構成成分に対して極端に腐食性であり得る。ガソリンまたはディーゼルエンジン性能のために使用される洗浄剤および分散剤は、湿式ブレーキ性能に有害であり得る。静かな湿式ブレーキのノイズに特有の摩擦調整剤は、油の性能に必要な熱安定性を欠く場合がある。これらの各流体は機能性、トラクター、または潤滑性にかかわらず、特定の厳格な製造業者の要件を満たすように設計されている。
【0065】
本開示は、一実施形態では、エンジンにおけるタイミングチェーンのタイミングチェーン伸びを低減する方法を提供し、本方法は、タイミングチェーンを潤滑油組成物で潤滑するステップを含み、潤滑油組成物は、
主要量の基油と、
少量の添加剤パッケージであって、
a)ASTM D-2896の方法により測定して、少なくとも150mg KOH/gの総塩基価を有する、少なくとも1種以上の過塩基性カルシウムフェネート洗浄剤、
b)少なくとも1種のカルシウムスルホネート洗浄剤、および
c)少なくとも1種のマグネシウム含有洗浄剤、を含む、添加剤パッケージと、を含む。
【0066】
本開示の実施形態は、以下の特質、タイミングチェーンの伸びまたは伸長、泥および/または煤分散性、および摩擦低減、ならびに空気混入、アルコール燃料適合性、酸化防止性、耐摩耗性能、バイオ燃料適合性、泡低減特性、燃料経済性、付着低減、プレイグニッション防止、錆抑制、および耐水性を提供してもよい。
【0067】
本開示の方法における使用に好適な潤滑油は、以下に詳述されるように、添加剤を適切な基油配合物に添加することによって配合されてもよい。添加剤は、1つ以上の添加剤パッケージ(または濃縮物)の形態で基油と組み合わされても、あるいは、基油と個々に組み合わされてもよい。完全配合潤滑油は、添加された添加剤およびそれらのそれぞれの割合に基づいて、改善された性能特性を呈してもよい。本発明の方法において有用な潤滑油の組成物の詳細は、以下に示される。
【0068】
基油
本明細書の潤滑油組成物中に使用される基油は、米国石油協会(American Petroleum Institute(API)Base Oil Interchangeability Guidelinesに明記される、I~V群における基油のいずれかから選択されてもよい。5つの基油の群は、以下の通りである。
【0069】
【表A】
【0070】
グループI、II、およびIIIは、鉱物油プロセスストックである。グループIV基油は、オレフィン性不飽和炭化水素の重合によって生成される、真の合成分子種を含有する。多くのグループV基油も真の合成生成物であり、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、アルキル化芳香族、ポリリン酸エステル、ポリビニルエーテル、および/またはポリフェニルエーテルなどを含み得るが、植物油のような天然に存在する油でもあり得る。III群基油は鉱油から誘導されるが、これらの流体が受ける厳密な処理はそれらの物理的特性をPAOなどの特定の真の合成と非常に類似したものにする一因となることに留意すべきである。したがって、III群基油由来の油は、業界では合成流体と称されることがある。
【0071】
潤滑油組成物中に使用される基油は、鉱物油、動物油、植物油、合成油、またはそれらの混合物であり得る。好適な油は、水素化分解、水素化、水素化仕上げ、未精製、精製および再精製油、ならびにそれらの混合物から誘導することができる。
【0072】
未精製油は、それ以上の精製処理を行わないか、ほとんど行わない天然油、鉱物油、または合成源から誘導されたものである。精製油は、1つ以上の特性の改善をもたらし得る、1つ以上の精製ステップで処理されることを除き、未精製油と類似である。好適な精製技術の例は、溶媒抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、濾過、浸透などである。食用レベルに精製された油は有用である可能性または有用でない可能性がある。食用油はまた、ホワイト油とも呼ばれる。いくつかの実施形態では、潤滑剤組成物は、食用油または白油を含まない。
【0073】
再精製油は、再生または再加工油としても知られている。これらの油は同一のまたは類似の処理を用いて得られる精製油と類似する。多くの場合、これらの油は、使用済み添加剤および油分解生成物の除去に関する技法によってさらに加工される。
【0074】
鉱油は、掘削によってまたは植物および動物またはそれらの混合物から得られた油を含んでもよい。例えば、このような油には、ヒマシ油、ラード油、オリーブ油、ピーナツ油、トウモロコシ油、ダイズ油、および亜麻仁油、ならびに液体石油、パラフィン系、ナフテン系、もしくはパラフィン-ナフテン混合系の溶媒処理または酸処理鉱物潤滑油などの鉱物潤滑油が含まれるが、これらに限定されない。必要があれば、このような油は部分的または完全に水素化されてもよい。石炭または頁岩由来の油も有用であり得る。
【0075】
有用な合成潤滑油には、重合、オリゴマー化、または共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマー)などの炭化水素油、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、1-デセンのトリマーまたはオリゴマー、例えば、ポリ(1-デセン)(このような材料はしばしばα-オレフィンと呼ばれる)、およびそれらの混合物、アルキル-ベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ-(2-エチルヘキシル)-ベンゼン)、ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル)、ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルエーテル、およびアルキル化ジフェニルスルフィド、ならびにそれらの誘導体、類似体、および同族体またはそれらの混合物が含まれてもよい。ポリアルファオレフィンは、典型的には、水素化材料である。
【0076】
他の合成潤滑油には、ポリオールエステル、ジエステル、リン含有酸の液体エステル(例えば、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、およびデカンホスホン酸のジエチルエステル)、またはポリマーテトラヒドロフランが挙げられる。合成油は、フィッシャー・トロプシュ反応によって製造されてもよく、通常、水素化異性化フィッシャー・トロプシュ炭化水素またはワックスであってもよい。一実施形態では、油は、フィッシャー・トロプシュ気液合成手順および他の合成油によって調製してもよい。
【0077】
存在する潤滑粘度を有する油の量は、粘度指数向上剤(複数可)および/または流動点降下剤(複数可)および/または他のトップトリート添加剤を含む性能添加剤の量の合計を100重量%から差し引いた残りの残量であってもよい。例えば、完成した流体中に存在し得る潤滑粘度を有する油は、約50重量%超、約60重量%超、約70重量%超、約80重量%超、約85重量%超、または約90重量%超、などの過半量であってもよい。
【0078】
ある特定の実施形態では、基油の特定の選択は、チェーンの伸びまたは伸長を低減することにおいて有利な結果を提供し得る。例えば、いくつかの実施形態では、0W-Xまたは5W-Xの粘度等級を有する基油を選択することが望ましい場合がある。ある特定の実施形態では、0W-20または5W-20または5W-40のSAE粘度等級を有する基油を選択することによって利点が達成され得る。
【0079】
洗浄剤
タイミングチェーンの伸びを低減する方法において使用するための本開示の潤滑剤組成物は、ASTM D-2896の方法により測定して、少なくとも150mg KOH/gの総塩基価を有する、少なくとも1種以上の過塩基性カルシウムフェネート洗浄剤と、少なくとも1種のマグネシウム含有洗浄剤とを含有する。
【0080】
過塩基性カルシウムフェネート洗浄剤は、典型的には、芳香族環が、完成した生成物を可溶性にするか、あるいは少なくとも油中で安定に分散可能にする1つ以上のアルキルまたはアルケニル基(通常1~2つ)で置換されている、カルシウムアルキルフェネートおよび/またはカルシウムアルケニルフェネートを過塩基化することによって形成される。芳香族環上のアルキルまたはアルケニル置換基は、典型的には、少なくとも約6個の炭素原子を含有し、500個以上と同数の炭素原子を含有してもよい。好ましい置換基は、トリエチルアルミニウムなどのアルミニウムアルキル上のエチレンのワックス分解または鎖成長によって形成されるようなアルファオレフィンに由来するか、あるいはオレフィンオリゴマー、例えばオレフィンダイマー、トリマー、テトラマー、および/またはペンタマーに由来する。しかしながら、ポリプロピレン、ポリイソブテン、ポリアミレン、およびエチレンとプロピレンなどとのコポリマーなどのコポリマーといったより高いポリマーもまた、カルシウムフェネートが生成される置換フェノールを形成するための原料として有用である。ほとんどの場合、フェネートは約6~約50個の範囲の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル置換基を有するであろう。フェノール環はまた、メチル、エチル、イソプロピル、ブチルなどの置換基などの短鎖置換基をさらに含有してもよい。同様に、フェネートは、カテコール、レゾルシノール、またはヒドロキノンなどのポリヒドロキシ芳香族化合物の誘導体であってもよい。
【0081】
過塩基性硫化カルシウムフェネートは、置換フェノールを、一塩化硫黄、二塩化硫黄、または元素硫黄と反応させることにより、上記に説明される置換フェノールから形成されることができる。フェノール:硫黄化合物のモル比は、通常、約1:0.5~約1:1.5またはそれ以上の範囲である。約60~約200℃の範囲の反応温度が通常用いられる。概して、硫化フェネート中のフェノール:硫黄基のモル比は、約2:1から約1:2の範囲である。
【0082】
過塩基性カルシウムフェネート洗浄剤は、全てASTM D-2896の方法によって測定して、少なくとも約150mg KOH/g、または少なくとも約225mg KOH/g、少なくとも225mg KOH/g~約400mg KOH/g、少なくとも約225mg KOH/g~約350mg KOH/g、または約230~約350mg KOH/gの総塩基価を有してもよい。そのような組成物が、不活性希釈剤、例えばプロセス油中で形成されるとき、全塩基価は、希釈剤、および洗浄剤組成物に含まれ得る任意の他の物質(例えば、プロモータなど)を含む全体組成物の塩基性を反映する。
【0083】
少なくとも1つのカルシウムスルホネート洗浄剤は、好適な脂肪族、脂環式、芳香族、または複素環式スルホン酸および/またはそれらの塩に由来し得る。一般に、このような酸は、式R(SOH)および(R’)T(SOH)によって表されることができ、式中、Rは、アセチレン不飽和を含まず、最大約60個の炭素原子を有する、脂肪族もしくは脂肪族置換脂環式基であり、nは、少なくとも1であり、一般に1~3の範囲であり、R’は、アセチレン不飽和を含まない脂肪族基(典型的にはアルキルまたはアルケニル)であり、約4個~約60個の炭素原子を有し、Tは、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニルなどの芳香族炭化水素、またはピリジン、インドール、イソインドールなどの複素環化合物に由来し得る環状核である。通常、Tは、ベンゼンまたはナフタレンなどの芳香族炭化水素核であり、xおよびyは、分子当たり約1~4の平均値を有し、最も頻繁には平均で約1である。このような酸の例は、石油スルホン酸、パラフィンワックススルホン酸、ワックス置換シクロヘキシルスルホン酸、セチルシクロペンチルスルホン酸、ワックス置換芳香族スルホン酸、マホガニースルホン酸、テトライソブチレンスルホン酸、テトラアミレンスルホン酸などである。最も好ましくは、過塩基性カルシウム塩は、アルキルベンゼンスルホン酸などのアルキルアリールスルホン酸から形成される。芳香族環上に存在するアルキル基は、典型的には、それぞれ約8~約40個の炭素原子を含有する。好適なカルシウムスルホネートは、過塩基性組成物1グラム当たり少なくとも約225mg KOHの総塩基価を有する過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤を含み、多くの供給者から商品として入手可能である。そのような材料の1つは、約300mg KOH/組成物1グラムの公称TBNを有するHiTEC(登録商標)611添加剤(Ethyl Petroleum Additives,Inc.)である。
【0084】
前述の実施形態の各々において、カルシウムスルホネート洗浄剤は、過塩基性であり、ASTM D-2896の方法によって測定して、少なくとも225mg KOH/g、または約225~約500mg KOH/g、または約290~約500mg KOH/g、または約250mg KOH/g~約400mg KOH/g、または約300mg KOH/g~約400mg KOH/gの総塩基価を有する。
【0085】
本開示の添加剤パッケージおよび潤滑剤組成物は、少なくとも1つのマグネシウム含有洗浄剤を含む。好適なマグネシウム含有洗浄剤には、過塩基性マグネシウム含有洗浄剤、例えば、過塩基性マグネシウムフェネート、過塩基性マグネシウム硫黄含有フェネート、過塩基性マグネシウムスルホネート、過塩基性マグネシウムカリキサレート、過塩基性マグネシウムサリキサレート、過塩基性マグネシウムサリチレート、過塩基性マグネシウムカルボン酸、過塩基性マグネシウムリン酸、過塩基性マグネシウムモノチオリン酸および/もしくはジチオリン酸、過塩基性マグネシウムアルキルフェノール、過塩基性マグネシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、または過塩基性マグネシウムメチレン架橋フェノールが含まれる。
【0086】
好ましい過塩基性マグネシウム塩は、その1グラム当たり少なくとも約300ミリグラムのKOHの総塩基価、または少なくとも約300mg KOH/g、またはその1グラム当たり約350~約500ミリグラムのKOHの範囲の総塩基価を有する過塩基性マグネシウムアルキルベンゼンスルホネート洗浄剤組成物である。潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量に基づき、少なくとも1種のマグネシウム含有洗浄剤によって提供される、約50ppm~約1650ppm、または約80ppm~約1250ppm、または約250ppm~約1100ppmのマグネシウムを含有してもよい。
【0087】
潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量に基づき、少なくとも1種のカルシウムスルホネート洗浄剤によって提供される、約50ppm~約1650ppm、または約80ppm~約1250ppm、または約100ppm~約900ppmのカルシウムを含有してもよい。潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量に基づき、少なくとも1種のカルシウムフェネート洗浄剤によって提供される、約100ppm~約2000ppm、または約250ppm~約1800ppm、または約600ppm~約1500ppmのカルシウムを含有してもよい。潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量に基づき、過塩基性カルシウム含有洗浄剤の全てによって提供される、約400ppm~約2200ppm、または約500ppm~約1700ppm、または約800ppm~約1600ppm、または1550ppm未満のカルシウムを含有してもよい。また、いくつかの実施形態では、全ての供給源からの潤滑油組成物中のカルシウムの総量は、約1000ppm~約3090ppm未満、または約1200ppm~約2000ppm、または約1300ppm~約1600ppmであってもよい。いくつかの実施形態では、過塩基性カルシウム洗浄剤は、約0.9重量%~約10重量%、または約1重量%~約5重量%、または約1重量%~約2重量%の潤滑組成物を含む。
【0088】
潤滑油組成物は、少なくとも1種のカルシウムスルホネート洗浄剤からの総カルシウムと潤滑油組成物中の総カルシウムおよびマグネシウムとの重量比が約0.06~約0.45未満、または約0.06~約0.4、または約0.06~約0.35である。
【0089】
洗浄剤構成成分は、任意に、少なくとも1つの酸性有機化合物の1つ以上の他の過塩基性カルシウム塩を含んでもよい。これらには、過塩基性カルシウムカリキサレート、過塩基性カルシウムサリキサレート、過塩基性カルシウムサリチレート、過塩基性カルシウムカルボン酸、過塩基性カルシウムリン酸、過塩基性カルシウムモノチオリン酸および/もしくはジチオリン酸、過塩基性カルシウムアルキルフェノール、過塩基性カルシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、ならびに過塩基性カルシウムメチレン架橋フェノールが挙げられる。
【0090】
用語「過塩基性」は、存在する金属の量が化学量論的量を超える、スルホン酸塩、カルボン酸塩、およびフェネートの金属塩などの金属塩に関する。このような塩は、100%超の変換レベルを有してもよい(すなわち、これらは、酸をその「標準」「中性」の塩に変換するのに必要な理論的量の金属の100%より多くを含んでもよい)。しばしばMRと略される表現「金属比」は、既知の化学反応性および化学量論に従って、過塩基性塩中の金属の総化学当量と中性塩中の金属の化学当量との比率を示すために用いられる。正塩または中性塩において、金属比は1であり、過塩基性塩において、MRは1超である。1超のMRを有する塩は一般に、過塩基性塩、過剰塩基性塩、または超塩基性塩と称され、有機硫黄酸、カルボン酸、またはフェノールの塩であってもよい。
【0091】
過塩基性塩中の金属の実際の化学量論的超過は、使用される材料、利用される反応、および用いられるプロセスの条件に応じて、例えば、約0.1当量~約50当量以上など、かなり変化し得る。概して言えば、潤滑油組成物において有用な過塩基性カルシウム塩は、過塩基化された材料の各当量当たり、約1.1~約40当量以上のカルシウム、より好ましくは約1.5~約30、最も好ましくは約2~約25当量のカルシウムを含有する。同様に、潤滑油組成物において有用な過塩基性マグネシウム塩は、過塩基化された材料の各当量当たり、約1.1~約40当量以上のマグネシウム、より好ましくは約1.5~約30、最も好ましくは約2~約25当量のマグネシウムを含有する。
【0092】
潤滑油組成物中で使用することができる好適な過塩基性カルボン酸には、過塩基性脂肪族カルボン酸、過塩基性脂環式カルボン酸、過塩基性芳香族カルボン酸、および過塩基性複素環式カルボン酸が挙げられる。このような酸は、モノカルボン酸またはポリカルボン酸であり得、主な必要条件は、潤滑油中に可溶性または少なくとも安定に分散可能な十分な鎖長さを有することである。したがって、酸は概して約8~約50個、好ましくは約12~約30個の炭素原子を含むが、アルキルもしくはアルケニル置換コハク酸のような特定の酸は、分子当たり最大500個以上の平均の炭素原子を有することができる。酸は、通常アセチレン不飽和を含まない。例として、リノレン酸、カプリン酸、リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、リシノール酸、ウンデシル酸、パルミトレイン酸、2-エチルヘキサン酸、ミリスチン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸、ペラルゴン酸、プロピレンテトラマー置換コハク酸、イソブテントリマー置換コハク酸、オクチルシクロペンタンカルボン酸、ステアリルオクタヒドロインデンカルボン酸、トール油酸、ロジン酸、200~1500の範囲のGPC数平均分子量を有するポリブテン由来のポリブテニルコハク酸、ワックスの酸化によって形成される酸、および同様の酸が挙げられる。
【0093】
過塩基性洗浄剤は、金属の基材に対する比率が、1.1:1、または2:1、または4:1、または5:1、または7:1、または10:1のであってもよい。
【0094】
本開示の潤滑剤組成物はまた、任意に、1つ以上の中性もしくは低塩基性の洗浄剤またはそれらの混合物を含み得る。低塩基性洗浄剤は、TBNが0より大きく最大150mg KOH/グラム未満の組成物を有する洗浄剤である。1つ以上の追加の中性または低塩基性洗浄剤は、中性もしくは低塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤、中性もしくは低塩基性カルシウムサリチレート洗浄剤、またはこれらの任意の組み合わせから選択されてもよい。
【0095】
好適な低塩基性カルシウムアルキルベンゼンスルホネート洗浄剤組成物、最も好ましくは低塩基性カルシウムプロピレン由来アルキルアリールスルホネートは、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を調製することと、望ましい場合、少量の過塩基化が生じるように、二酸化炭素などの酸性物質の作用に、酸化物、水酸化物、またはアルコラートのようなアルカリもしくはアルカリ土類金属塩基の小量の超過量の存在下で塩を供することとによって形成される。この制御された過塩基化は、当然得られた組成物の望ましい全塩基価が達成されるような金属塩基の量であることを除いて、上記に説明される過塩基化とほぼ同じ方法で同じ物質を使用して行うことができる。前述の種類の好適な低塩基性物質は、商品として入手可能である。HiTEC(登録商標)614添加剤(Ethyl Petroleum Additives,Inc.)は、市販されているカルシウムアルキルベンゼンスルホネートの良い例である。低塩基性カルシウム硫化アルキルフェネートもまた、本開示の組成物中の好適な構成成分である。
【0096】
潤滑油組成物中に存在し得る洗浄剤の総量は、潤滑油組成物の総重量に基づき、約1重量%~約15重量%、または約1重量%~約10重量%、または約1重量%~約8重量%、または約1重量%~約4重量%、または約4重量%超~約8重量%であってもよい。
【0097】
耐摩耗剤
本開示の潤滑油組成物は、1つ以上の金属ジアルキルジチオホスフェート耐摩耗剤を任意に含有してもよい。ジアルキルジチオホスフェート塩中の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、チタン、または亜鉛であってもよい。特に有用な金属ジアルキルジチオホスフェート塩は、亜鉛ジアルキルジチオホスフェートであり得る。
【0098】
亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZDDP)は、ジアルキルジチオホスフェート酸の油溶性塩であり、以下の式によって表すことができる:
【0099】
【化1】
【0100】
式中、RおよびRは、1~18個の炭素原子、または2~12個の炭素原子、または2~8個の炭素原子を含む同じまたは異なるアルキルおよび/もしくはシクロアルキル基であってもよい。したがって、アルキルおよび/またはシクロアルキル基は、例えば、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、アミル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、n-オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2-エチルヘキシル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、またはブテニルであってもよい。
【0101】
ジアルキルジチオホスフェート金属塩は、ジアルキルジチオリン酸(DDPA)をまず形成することによって、通常1つ以上のアルコールの反応によって、次いで形成されたDDPAを金属化合物で中和することによって、既知の技術に従って調製されてもよい。金属塩を製造するために、任意の塩基性または中性の金属化合物が使用され得るが、酸化物、水酸化物、およびカーボネートが最も一般的に使用される。構成成分(i)の亜鉛ジアルキルジチオホスフェートは、米国特許第7,368,596号に概して記載されているプロセスなどのプロセスによって作製されてもよい。
【0102】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの金属ジアルキルジチオホスフェート塩は、約100~約1200ppmのリン、または約200~約1100ppmのリン、または約300~約1000ppmのリン、または約400~約1000ppmのリン、または約550~約980ppmのリンを提供するのに十分な量で潤滑油中に存在し得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの金属ジチオホスフェート塩は、潤滑油組成物の総重量に基づき、約0重量%~約6.0重量%、または約0.1重量%~約6.0重量%、または約0.1重量%~約4.0重量%の量で、潤滑油組成物中に存在してもよい。
【0103】
いくつかの実施形態では、金属ジアルキルジチオホスフェート塩は亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZDDP)であってもよい。いくつかの実施形態では、添加剤パッケージは、2つ以上の金属ジアルキルジチオホスフェートを含み得、1、2、または全てがZDDPである。ジアルキルジチオホスフェート亜鉛は、約600ppm~約1300ppm、または約750ppm~約1200ppm、または約800ppm~約1100ppmの亜鉛を潤滑油組成物に送達することができる。
【0104】
本開示の潤滑油組成物はまた、任意に、1つ以上の耐摩耗剤を含有してもよい。好適な追加の耐摩耗剤の例には、金属チオホスフェート、リン酸エステルもしくはその塩、ホスフェートエステル(複数可)、ホスファイト、リン含有カルボン酸エステル、エーテル、もしくはアミド、硫化オレフィン、チオカルバメートエステル、アルキレン結合チオカルバメート、およびビス(S-アルキルジチオカルバミル)ジスルフィドを含むチオカルバメート含有化合物、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。リン含有耐摩耗剤は、欧州特許第612839号においてより十分に記載されている。金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、チタン、または亜鉛であってもよい。
【0105】
好適な追加の耐摩耗剤のさらなる例には、チタン化合物、酒石酸塩、酒石酸イミド、リン化合物の油溶性アミン塩、硫化オレフィン、ホスファイト(ジブチルホスファイトなど)、ホスホネート、チオカルバメート含有化合物(チオカルバメートエステル、チオカルバメートアミド、カルバミンエーテル、アルキレン結合チオカルバメート、およびビス(S-アルキルジチオカルバミル)ジスルフィドなど)が挙げられる。酒石酸塩または酒石酸イミドは、アルキル基上の炭素原子の合計が少なくとも8であってもよい、アルキル-エステル基を含有してもよい。耐摩耗剤は、一実施形態では、クエン酸塩を含んでもよい。
【0106】
追加の耐摩耗剤(複数可)は、潤滑油組成物の総重量に基づき、約0.0~1.0重量%または約0.0~約0.8重量%の量で使用されてもよい。潤滑油組成物中に存在する耐摩耗剤(複数可)の総量は、潤滑油組成物の総重量に基づき、約0重量%~約7重量%、または約0.01重量%~約5重量%、または約0.1重量%~約4.8重量%の範囲であってもよい。
【0107】
分散剤
潤滑剤組成物は、任意選択で、1つ以上の追加の分散剤またはそれらの混合物をさらに含んでもよい。分散剤は、潤滑油組成物への混合前にそれらが灰形成金属を含有せず、潤滑剤への添加時にそれらが通常いかなる灰にも寄与しないため、しばしば無灰型分散剤として知られる。無灰型分散剤は、比較的高分子または量の炭化水素鎖に結合した極性基を特徴とする。典型的な無灰分散剤には、N-置換長鎖アルケニルスクシンイミドが含まれる。N-置換長鎖アルケニルスクシンイミドの例には、約350~約5000、または約500~約3000の範囲の数平均分子量のポリイソブチレン置換基を有するポリイソブチレンスクシンイミドが含まれる。スクシンイミド分散剤およびその調製方法は、例えば米国特許第7,897,696号および米国特許第4,234,435号に開示されている。スクシンイミド分散剤は、典型的には、ポリアミン、典型的にはポリ(エチレンアミン)から形成されたイミドである。
【0108】
いくつかの実施形態では、潤滑剤組成物は、約350~約5000、または約500~約3000の範囲の数平均分子量を有するポリイソブチレンから誘導された少なくとも1つのポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を含む。ポリイソブチレンスクシンイミドは、単独で、または他の分散剤と組み合わせて使用してもよい。
【0109】
いくつかの実施形態では、ポリイソブチレン(PIB)は、含まれる場合、50モル%超、60モル%超、70モル%超、80モル%超、または90モル%超の末端二重結合含有量を有してもよい。そのようなPIBは、高反応性PIB(「HR-PIB」)とも称される。約800~約5000の範囲の数平均分子量を有するHR-PIBは、本開示の実施形態における使用に好適である。従来の高反応性PIBは、典型的には、50モル%未満、40モル%未満、30モル%未満、20モル%未満、または10モル%未満の二重結合含有量を有する。
【0110】
約900~約3000の範囲の数平均分子量を有するHR-PIBが、好適であってもよい。このようなHR-PIBは、市販されているか、または米国特許第4,152,499号および米国特許第5,739,355号に記載されているような、三フッ化ホウ素などの非塩素化触媒の存在下でのイソブテンの重合によって合成することができる。前述の熱エン反応において使用される場合、HR-PIBは、増加した反応性のために、反応におけるより高い転換率、およびより少ない量の沈降物形成をもたらし得る。
【0111】
実施形態では、潤滑剤組成物は、ポリイソブチレン無水コハク酸から誘導される少なくとも1種の分散剤を含む。一実施形態では、分散剤は、ポリアルファオレフィン(PAO)無水コハク酸から誘導されてもよい。一実施形態では、分散剤は、オレフィン無水マレイン酸コポリマーから誘導されてもよい。一例として、分散剤はポリPIBSAとして記載されてもよい。一実施形態では、分散剤は、エチレン-プロピレンコポリマーにグラフト化される無水物から誘導されてもよい。
【0112】
好適な分散剤の1つの種類は、マンニッヒ塩基であってもよい。マンニッヒ塩基は、より高分子量のアルキル置換フェノール、ポリアルキレンポリアミン、およびホルムアルデヒドのようなアルデヒドの縮合によって形成される物質である。マンニッヒ塩基は、米国特許第3,634,515号により詳細に記載されている。
【0113】
好適な種類の分散剤は、高分子量エステルまたは半エステルアミドであってもよい。
【0114】
好適な分散剤はまた、種々の薬剤のいずれかとの反応による従来の方法によって後処理することができる。これらの剤の中には、ホウ素、尿素、チオ尿素、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換無水コハク酸、無水マレイン酸、ニトリル、エポキシド、カーボネート、環状カーボネート、ヒンダードフェノールエステル、およびリン化合物がある。米国特許第7,645,726号、米国特許第7,214,649号、米国特許第8,048,831号は、いくつかの好適な後処理方法および後処理された生成物を記載している。
【0115】
一実施形態では、潤滑油組成物は、少なくとも1つのホウ酸化分散剤を含んでもよく、ここで、分散剤は、オレフィンコポリマーまたはオレフィンコポリマーの反応生成物または無水コハク酸を有するオレフィンコポリマーと少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物である。PIBSA:ポリアミンの比率は、1:1~10:1、好ましくは1:1~5:1、または4:3~3:1、または4:3~2:1であってもよい。特に有用な分散剤は、較正基準としてポリスチレンを使用してGPCによって測定した場合、約500~5000の範囲の数平均分子量(Mn)を有するPIBSAのポリイソブテニル基と、一般式HN(CH)m-[NH(CH-NHを有する(B)ポリアミンとを含み、式中、mが2から4の範囲であり、nが1から2までの範囲である。
【0116】
ホウ酸化に加えて、分散剤は、芳香族カルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、または芳香族無水物で後処理され、全カルボン酸または無水物基(複数可)が芳香環に直接結合される。そのようなカルボキシル含有芳香族化合物は、1,8-ナフタレン酸または無水物および1,2-ナフタレンジカルボン酸または無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸または無水物、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸無水物、ジフェン酸または無水物、2,3-ピリジンジカルボン酸または無水物、3,4-ピリジンジカルボン酸または無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸または無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸無水物、ピレンジカルボン酸または無水物などから選択されてもよい。ポリアミン1モル当たりの反応したこの後処理構成成分のモルは、約0.1:1~約2:1の範囲であってもよい。反応混合物中のこの後処理構成成分のポリアミンに対する典型的なモル比は、約0.2:1~約2:1の範囲であってもよい。この後処理構成成分の使用され得るポリアミンに対する別のモル比は、0.25:1~約1.5:1の範囲であってもよい。この後処理成分は、約140℃~約180℃の範囲にある温度で他の成分と反応させてもよい。
【0117】
代替的には、または前段落に説明される後処理に加えて、ホウ酸塩化分散剤は、非芳香族ジカルボン酸または無水物で後処理されてもよい。非芳香族ジカルボン酸またはその無水物は、500未満の数平均分子量を有してもよい。好適なカルボン酸またはその無水物は、酢酸またはその無水物、シュウ酸およびその無水物、マロン酸およびその無水物、コハク酸およびその無水物、アルケニルコハク酸およびその無水物、グルタル酸およびその無水物、アジピン酸およびその無水物、ピメリン酸およびその無水物、スベリン酸およびその無水物、アゼライン酸およびその無水物、セバシン酸およびその無水物、マレイン酸およびその無水物、フマル酸およびその無水物、酒石酸およびその無水物、グリコール酸およびその無水物、1,2,3,6-テトラヒドロナフタル酸およびその無水物などを含むがこれらに限定されない。
【0118】
非芳香族カルボン酸または無水物は、ポリアミン1モル当たり約0.1~約2.5モルの範囲であるポリアミンとのモル比で反応させる。典型的には、使用される非芳香族カルボン酸または無水物の量は、ポリアミン中の第2級アミノ基の数に比例するであろう。したがって、構成成分B中の第2級アミノ基当たり約0.2~約2.0モルの非芳香族カルボン酸または無水物を他の構成成分と反応させて、本開示の実施形態による分散剤を提供することができる。非芳香族カルボン酸または無水物の使用され得るポリアミンに対する別のモル比は、ポリアミン1モル当たり0.25:1~約1.5:1モルの範囲であってもよい。非芳香族カルボン酸または無水物は、約140℃~約180℃の範囲である温度で他の構成成分と反応させてもよい。
【0119】
後処理のステップは、無水コハク酸を有するオレフィンコポリマーと少なくとも1つのポリアミンとの反応の完了後に行われてもよい。特定の実施形態では、ホウ酸化分散剤は、無水マレイン酸および/または無水フタル酸で後処理され、これらの実施形態では、潤滑油組成物は、少なくとも80ppmまたは少なくとも100ppmまたは少なくとも150ppmのモリブデン含有量を有してもよい。
【0120】
アルケニルまたはアルキル無水コハク酸の活性%はクロマトグラフィー技術を用いて測定することができる。この方法は米国特許第5,334,321号の請求項5または6に記載されている。ポリオレフィンの転化率は米国特許第5,334,321号の第5欄および第6欄に記載の式を用いて活性%から算出される。
【0121】
一実施形態では、ホウ酸化分散剤は、ポリアルファオレフィン(PAO)無水コハク酸から誘導されてもよい。
【0122】
一実施形態では、ホウ酸化分散剤は、オレフィン無水マレイン酸コポリマーから誘導されてもよい。一例として、ホウ酸化分散剤は、ポリ-PIBSAとして記載され得る。
【0123】
一実施形態では、ホウ酸化分散剤は、エチレン-プロピレンコポリマーにグラフトされる無水物から誘導されてもよい。
【0124】
ホウ酸化分散剤としての使用に好適な分散剤の一分類は、ホウ酸化マンニッヒ塩基であってもよい。マンニッヒ塩基は、より高い分子量のアルキル置換フェノール、ポリアルキレンポリアミン、およびアルデヒド(ホルムアルデヒドなど)の縮合によって形成される材料である。マンニッヒ塩基は、米国特許第3,634,515号により詳細に記載されている。
【0125】
ホウ酸化分散剤の好適な一分類はまた、高分子量エステルまたは半エステルアミドを含んでもよい。
【0126】
好適なホウ酸化分散剤のTBNは、油を含まない場合約10~約65mg KOH/グラムであり得、これは、約50%の希釈油を含有する分散剤試料上で測定される場合の約5~約30mg KOH/グラムのTBNと同等である。
【0127】
存在する場合、分散剤は、潤滑油組成物の総重量に基づいて最大で約20重量%を提供するのに十分な量で使用され得る。使用することができる分散剤の量は、潤滑油組成物の総重量に基づき、約0.1重量%~約15重量%、または約0.1重量%~約10重量%、または約0.5重量%~約10重量%、または約1重量%~約8重量%、または約7重量%~約12重量%であってもよい。いくつかの実施形態では、潤滑油組成物は、混合分散剤系を利用する。
【0128】
モリブデン含有成分
本開示の潤滑油組成物は、任意に、1つ以上のモリブデン含有化合物を含有してもよい。油溶性モリブデン化合物は、耐摩耗剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、またはそれらの混合物の機能的性能を有してもよい。油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメート、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、ジチオホスフィン酸モリブデン、モリブデン化合物のアミン塩、キサントゲン酸モリブデン、チオキサントンモリブデン、モリブデン硫化物、カルボン酸モリブデン、モリブデンアルコキシド、三核有機モリブデン化合物、および/またはこれらの混合物を含んでもよい。モリブデン硫化物は二硫化モリブデンを含む。二硫化モリブデンは安定な分散液の形態であってもよい。一実施形態では、油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメート、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、モリブデン化合物のアミン塩、およびこれらの混合物から選択されてもよい。一実施形態では、油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメートであってもよい。
【0129】
使用することができるモリブデン化合物の好適な例には、R.T.Vanderbilt Co.,Ltd.のMolyvan 822(商標)、Molyvan(商標)A、Molyvan 2000(商標)およびMolyvan 855(商標)、ならびにAdeka Corporationから入手可能なSakura-Lube(商標)S-165、S-200、S-300、S-310G、S-525、S-600、S-700、およびS-710などの商品名で販売されている市販の材料、およびそれらの混合物が挙げられる。好適なモリブデン成分は、US5,650,381、USRE37,363E1、USRE38,929E1、およびUSRE40,595E1に記載されている。
【0130】
付加的に、モリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であってもよい。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、および他のモリブデン酸アルカリ金属および他のモリブデン塩、例えば、モリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl、MoOBr、MoCl、三酸化モリブデン、または類似した酸性モリブデン化合物が含まれる。あるいは、組成物は、例えば、米国特許第4,263,152号、同第4,285,822号、同第4,283,295号、同第4,272,387号、同第4,265,773号、同第4,261,843号、同第4,259,195号、および同第4,259,194号、ならびにWO94/06897に記載される、塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄錯体によってモリブデンが提供されてもよい。
【0131】
好適な有機モリブデン化合物の別の分類は、式Moのもの、およびそれらの混合物などの三核モリブデン化合物であり、式中、Sは、硫黄を表し、Lは、化合物を油溶性または油分散性にするのに十分な数の炭素原子を有する有機基を有する、独立して選択されるリガンドを表し、nは、1~4であり、kは、4~7まで変動し、Qは、水、アミン、アルコール、ホスフィン、およびエーテルなどの中性電子供与性化合物の群から選択され、zは、0~5の範囲であり、非化学量論値を含む。全ての配位子の有機基の中に、少なくとも25個、少なくとも30個、または少なくとも35個の炭素原子など、少なくとも21個の総炭素原子が存在してもよい。追加の好適なモリブデン化合物は、米国特許第6,723,685号に記載されている。
【0132】
油溶性モリブデン化合物は、潤滑油組成物に、約80ppm~約2000ppm、約150ppm~約800ppm、約100ppm~約600ppm、約150ppm~約550ppmのモリブデンを提供するのに十分な量で存在してもよい。別の実施形態では、油溶性モリブデン化合物は、潤滑油組成物に、約100ppm~約1000ppm、または約150ppm~約600ppmのモリブデンを提供するのに十分な量で存在してもよい。別の実施形態では、潤滑油組成物は、約200ppm未満のモリブデン、または約5ppm未満、または約10ppm~約150ppmのモリブデンを有してもよい。
【0133】
本開示のある特定の実施形態では、基油が0W-20の粘度等級を有する際に、潤滑油組成物は、少なくとも40ppmのモリブデン、少なくとも100ppmのホウ素含有量、および2100以下の硫黄含有量を有してもよい。
【0134】
酸化防止剤
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意選択で、1つ以上の酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤化合物は既知のものであり、例えば、フェネート、フェネートスルフィド、硫化オレフィン、ホスホ硫化テルペン、硫化エステル、芳香族アミン、アルキル化ジフェニルアミン(例えば、ノニルジフェニルアミン、ジ-ノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジ-オクチルジフェニルアミン)、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-アルファ-ナフチルアミン、ヒンダード非芳香族アミン、フェノール、ヒンダードフェノール、油溶性モリブデン化合物、高分子酸化防止剤、またはそれらの混合物を含む。酸化防止剤化合物は単独または組み合わせて用いられてもよい。
【0135】
ヒンダードフェノール酸化防止剤は、立体障害基として、第二級ブチル基および/または第三級ブチル基を含んでいてもよい。フェノール基は、ヒドロカルビル基および/または第2の芳香族基に結合する架橋基でさらに置換されていてもよい。好適なヒンダードフェノール酸化防止剤の例には、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-メチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-エチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-プロピル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノールまたは4-ブチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、または4-ドデシル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノールを含む。一実施形態では、ヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであってもよく、例えばBASFから入手可能なIrganox(商標)L-135または2,6-ジ-tert-ブチルフェノールおよびアルキルアクリレートから誘導される付加生成物を含むことができ、アルキル基は、約1~約18個、または約2~約12個、または約2~約8個、または約2~約6個、または約4個の炭素原子を含有してもよい。別の市販のヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであってもよく、Albemarle Corporationから入手可能なEthanox(商標)4716を含み得る。
【0136】
有用な酸化防止剤は、ジアリールアミンおよび高分子量フェノールを含んでもよい。一実施形態、本潤滑油組成物は、ジアリールアミンと高分子量フェノールとの混合物を含有してもよいため、各酸化防止剤は、本潤滑油組成物の最終重量に基づいて、最大約5重量%を提供するのに十分な量で存在してもよい。一実施形態では、酸化防止剤は、本潤滑油組成物の最終重量に基づき、約0.3~約1.5重量%のジアリールアミンと約0.4~約2.5重量%の高分子量フェノールとの混合物であってもよい。
【0137】
硫化されて硫化オレフィンを形成することができる好適なオレフィンの例は、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ポリイソブチレン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセンまたはこれらの混合物を含む。一実施形態では、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセンまたはこれらの混合物、ならびにこれらの二量体、三量体、および四量体は特に有用なオレフィンである。代替的に、オレフィンは、1,3-ブタジエンなどのジエンのディールス・アルダー付加物およびブチルアクリレートなどの不飽和エステルであってもよい。
【0138】
別の種類の硫化オレフィンには、硫化脂肪酸およびそのエステルが含まれる。脂肪酸は、しばしば、植物油または動物油から得られ、典型的には約4~約22個の炭素原子を含有する。好適な脂肪酸およびこれらのエステルの例としては、トリグリセリド、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、またはこれらの混合物が挙げられる。しばしば、脂肪酸は、ラード油、トール油、ピーナツ油、大豆油、綿実油、ヒマワリ種子油、またはこれらの混合物から得られる。脂肪酸および/またはエステルは、α-オレフィンなどのオレフィンと混合してもよい。
【0139】
1つ以上の酸化防止剤(複数可)は、潤滑組成物の約0重量%~約5重量%、または約0.01重量%~約5重量%、または約0.1重量%~約3重量%、または約0.8重量%~約2重量%の範囲内で存在してもよい。
【0140】
極圧剤
本明細書における潤滑油組成物はまた、任意に、1つ以上の極圧剤を含有してもよい。油に可溶性である極圧(EP)剤は、硫黄およびクロロ硫黄含有EP剤、塩素化炭化水素EP剤、ならびにリンEP剤を含む。そのようなEP剤の例として、塩素化ワックス;ジベンジルジスルフィド、ジブチルテトラスルフィド、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジペンテン、硫化テルペン、および硫化ディールス-アルダー付加物などの有機スルフィドおよびポリスルフィド;硫化リンとテレピンまたはオレイン酸メチルとの反応生成物などのリン硫化炭化水素;例えば、ジブチルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジシクロヘキシルホスファイト、ペンチルフェニルホスファイトといった、ジヒドロカルビルおよびトリヒドロカルビルホスファイトなどのリンエステル;ジペンチルフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、ジステアリルホスファイト、およびポリプロピレン置換フェニルホスファイト;亜鉛ジオクチルジチオカルバメートおよびバリウムヘプチルフェノール二酸などの金属チオカルバメート;例えば、ジアルキルジチオリン酸とプロピレンオキシドとの反応生成物のアミン塩を含む、アルキルおよびジアルキルリン酸のアミン塩;およびそれらの混合物が挙げられる。
【0141】
極圧剤は、潤滑油組成物の総重量に基づき、例えば、約0~6.0重量%または約0.1~4.0重量%の量で存在してもよい。
【0142】
摩擦調整剤
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、1つ以上の摩擦調整剤を含有してもよい。好適な摩擦調整剤は、金属含有および金属を含有しない摩擦調整剤を含んでもよい、限定されるものではないが、イミダゾリン類、アミド類、アミン類、スクシンイミド類、アルコキシル化アミン類、アルコキシル化エーテルアミン類、アミンオキシド類、アミドアミン類、ニトリル類、ベタイン類、第四級アミン類、イミン類、アミン塩類、アミノグアニジン類、アルカノールアミド類、ホスホン酸類、金属含有化合物類、グリセロールエステル類、硫化脂肪族化合物およびオレフィン類、ヒマワリ油その他の天然に存在する植物油または動物油、ジカルボン酸エステル、ポリオールと1種以上の脂肪族または芳香族カルボン酸とのエステルもしくは部分エステルなどを含んでもよい。
【0143】
好適な摩擦調整剤は、直鎖状、分岐鎖状、もしくは芳香族ヒドロカルビル基、またはそれらの混合物から選択されるヒドロカルビル基を含んでもよく、かつ飽和であっても不飽和であってもよい。ヒドロカルビル基は、炭素および水素または硫黄もしくは酸素のようなヘテロ原子で構成されてもよい。ヒドロカルビル基は約12~約25個の炭素原子の範囲であってもよい。いくつかの実施形態では、摩擦調整剤は長鎖脂肪酸エステルであってもよい。他の実施形態では、長鎖脂肪酸エステルはモノエステル、またはジエステル、または(トリ)グリセリドであってもよい。摩擦調整剤は、長鎖脂肪酸アミド、長鎖脂肪エステル、長鎖脂肪エポキシド誘導体、または長鎖イミダゾリンであってもよい。
【0144】
他の適切な摩擦調整剤は、有機、無灰(金属非含有)、窒素非含有有機摩擦調整剤を含んでもよい。このような摩擦調整剤は、カルボン酸と無水物とをアルカノールと反応させることによって形成されるエステルを含み、一般に親油性炭化水素鎖に共有結合した極性末端基(例えばカルボキシルまたはヒドロキシル)を含んでもよい。有機無灰無窒素摩擦調整剤の一例は、一般に、オレイン酸のモノエステル、ジエステル、およびトリエステルを含有し得るグリセロールモノオレエート(GMO)として知られる。他の好適な摩擦調整剤は、米国特許第6,723,685号に記載されている。
【0145】
アミン系摩擦調整剤はアミンまたはポリアミンを含んでもよい。そのような化合物は、飽和もしくは不飽和、またはその混合物のいずれかの直鎖であるヒドロカルビル基を有することができ、約12~約25個の炭素原子を含有してもよい。好適な摩擦調整剤のさらなる例には、アルコキシル化アミンおよびアルコキシル化エーテルアミンが含まれる。そのような化合物は、直鎖、飽和、不飽和、またはこれらの混合物のヒドロカルビル基を有することができる。これらは、約12~約25個の炭素原子を含有してもよい。例として、エトキシル化アミンおよびエトキシル化エーテルアミンが挙げられる。
【0146】
アミンおよびアミドは、それ自体として、または酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、メタホウ酸塩、ホウ酸またはホウ酸モノ-、ジ-またはトリ-アルキルなどのホウ素化合物との付加物もしくは反応生成物の形態で使用することができる。他の好適な摩擦調整剤は、米国特許第6,300,291号に記載されている。
【0147】
摩擦調整剤は、任意に、約0重量%~約5重量%、または約0.01重量%~約4重量%、または約0.05重量%~約2重量%などの範囲内で存在してもよい。
【0148】
ホウ素含有化合物
本明細書の潤滑油組成物は、上記に論じられるホウ酸化分散剤以外に、任意に、1種以上のホウ素含有化合物を含有してもよい。
【0149】
ホウ素含有化合物の例としては、ホウ酸エステル、ホウ酸化脂肪アミン、ホウ酸化エポキシド、およびホウ酸化分散剤が挙げられる。
【0150】
追加のホウ素含有化合物は、存在する場合、潤滑組成物の最大約8重量%、約0.001重量%~約7重量%、約0.01重量%~約5重量%、または約0.1重量%~約3重量%を提供するのに十分な量で使用され得る。前述の実施形態の各々において、本明細書の潤滑油組成物は、200ppm未満のホウ素、または180ppm以下、または150ppm以下のホウ素を含有してもよい。
【0151】
チタン含有化合物
本発明の潤滑油組成物に使用され得る別の分類の任意の添加剤は、油溶性チタン化合物である。油溶性チタン化合物は、耐摩耗剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、沈着制御添加剤、またはこれらの機能のうちの1つ以上として機能してもよい。一実施形態では、油溶性チタン化合物は、チタン(IV)アルコキシドであってもよい。チタンアルコキシドは、一価アルコール、ポリオール、またはそれらの混合物から形成されてもよい。一価アルコキシドは、2~16、または3~10個の炭素原子を有してもよい。一実施形態では、チタンアルコキシドは、チタン(IV)イソプロポキシドであってもよい。一実施形態では、チタンアルコキシドは、チタン(IV)2-エチルヘキソキシドであってもよい。一実施形態では、チタン化合物は、1,2-ジオールまたはポリオールのアルコキシドであってもよい。一実施形態では、1,2-ジオールは、オレイン酸などの、グリセロールの脂肪酸モノエステルを含む。一実施形態では、油溶性チタン化合物は、チタンカルボキシレートであってもよい。一実施形態では、チタン(IV)カルボキシレートは、チタンネオデカノエートであってもよい。
【0152】
一実施形態では、油溶性チタン化合物は、ゼロ~約1500重量ppmのチタン、または約10重量ppm~500重量ppm、または約25重量ppm~約150重量ppmのチタンを提供する量で潤滑組成物中に存在してもよい。
【0153】
粘度指数向上剤
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、1種以上の粘度指数向上剤を含有してもよい。好適な粘度指数向上剤としては、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン-イソプレンポリマー、スチレン/マレイン酸エステルコポリマー、水素化スチレン/ブタジエンコポリマー、水素化イソプレンポリマー、アルファ-オレフィン無水マレイン酸コポリマー、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアルキルスチレン、水素化アルケニルアリール共役コポリマー、またはそれらの混合物を挙げることができる。粘度指数向上剤は星型ポリマーを含み得、好適な例は米国公開第2012/0101017 A1号に記載されている。
【0154】
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、粘度指数向上剤に加えて、または粘度指数向上剤の代わりに、1つ以上の分散剤粘度指数向上剤を含有してもよい。好適な粘度指数向上剤は、官能化ポリオレフィン、例えば、アシル化剤(無水マレイン酸など)とアミンとの反応生成物で官能化されているエチレン-プロピレンコポリマー、アミンで官能化されているポリメタクリレート、またはアミンと反応したエステル化無水マレイン酸-スチレンコポリマーを含んでもよい。
【0155】
粘度指数向上剤および/または分散剤粘度指数向上剤の総量は、潤滑組成物の約0重量%~約20重量%、約0.1重量%~約15重量%、約0.25重量%~約12重量%、または約0.5重量%~約10重量%であってもよい。
【0156】
その他の任意選択の添加剤
他の添加剤は、潤滑流体に要求される1つ以上の機能を実行するように選択されてもよい。さらに、1つ以上の上記添加剤は多官能性であってもよく、本明細書で記述される機能にさらなる機能を提供してもよく、またはそれ以外の機能を提供してもよい。
【0157】
本開示に従う潤滑組成物は、任意に、他の性能添加剤を含んでもよい。他の性能添加剤は、本開示に明記される添加剤に対する追加であっても、かつ/または金属不活性剤、無灰TBNブースター、腐食抑制剤、錆抑制剤、分散剤粘度指数向上剤、泡抑制剤、解乳化剤、乳化剤、流動点降下剤、シール膨潤剤、およびこれらの混合物のうちの1つ以上を含んでもよい。典型的には、完全配合潤滑油は、これらの性能添加剤のうちの1つ以上を含有する。
【0158】
好適な金属不活性化剤は、ベンゾトリアゾール誘導体(通常トリルトリアゾール)、ジメルカプトチアジアゾール誘導体、1,2,4-トリアゾール、ベンズイミダゾール、2-アルキルジチオベンズイミダゾール、または2-アルキルジチオベンゾチアゾール、エチルアクリレートおよび2-エチルヘキシルアクリレートならびに任意の酢酸ビニルのコポリマーを含む泡抑制剤、トリアルキルホスフェート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、および(エチレンオキシド-プロピレンオキシド)ポリマーを含む解乳化剤、無水マレイン酸-スチレンのエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、またはポリアクリルアミドを含む流動点降下剤を含む。
【0159】
好適な泡抑制剤は、シロキサンなどのシリコン系化合物を含む。
【0160】
好適な流動点降下剤は、ポリメチルメタクリレートまたはそれらの混合物を含み得る。流動点降下剤は、本潤滑油組成物の最終重量に基づき、約0重量%~約5重量%、約0.01重量%~約1.5重量%、または約0.02重量%~約0.04重量%を提供するのに十分な量で存在してもよい。
【0161】
好適な防錆剤は、フェラスメタル表面の腐食を抑制する特性を有する単一化合物、または化合物の混合物であってもよい。本明細書で有用な防錆剤の非限定的な例には、2-エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、およびセロチン酸などの油溶性高分子量有機酸、ならびにトール油脂肪酸、オレイン酸およびリノール酸から生成された二量体および三量体酸を含む油溶性ポリカルボン酸が含まれる。他の好適な腐食防止剤には、約600~約3000の分子量範囲の長鎖アルファ、オメガ-ジカルボン酸、およびテトラプロペニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、およびヘキサデセニルコハク酸などの、アルケニル基が約10個以上の炭素原子を含むアルケニルコハク酸が含まれる。他の有用な種類の酸性腐食防止剤は、アルケニル基中に約8~約24個の炭素原子を有するアルケニルコハク酸と、ポリグリコールなどのアルコールとのハーフエステルである。このようなアルケニルコハク酸の対応する半アミドも有用である。有用な錆抑制剤は、高分子量有機酸である。いくつかの実施形態では、エンジン油は錆抑制剤を欠く。
【0162】
防錆剤は、存在する場合、本潤滑油組成物の最終重量に基づき、約0重量%~約5重量%、約0.01重量%~約3重量%、約0.1重量%~約2重量%を提供するのに十分な量で使用され得る。
【0163】
一般論として、好適な潤滑剤は、表1に列挙される範囲内の添加剤構成成分を含んでもよい。
【0164】
【表1】
【0165】
上記各成分の百分率は、最終潤滑油組成物の重量に基づく各成分の重量パーセントを表す。潤滑油組成物の残部は、1つ以上の基油からなる。
【0166】
本明細書に記載された組成物を配合する際に使用される添加剤は、個別にまたは様々な副次的な組み合わせで基油にブレンドされてもよい。しかしながら、添加剤濃縮物(すなわち、添加剤プラス炭化水素溶媒のような希釈剤)を使用して、成分の全てを同時に混合することが好適であり得る。
【0167】
本開示のある特定の実施形態では、潤滑油組成物の使用方法は、216時間にわたるフォードチェーン摩耗試験によって測定した場合、タイミングチェーンの伸びを、0.2%以下、または0.1%以下、または0.09%以下に低減することができる。また、本発明のある特定の実施形態では、エンジンは、火花点火式エンジン、またはより具体的には火花点火式乗用車ガソリンエンジンである。
【0168】
本発明はまた、火花点火式エンジンまたは火花点火式乗用車エンジンなどのエンジンのタイミングチェーンの伸びまたは伸長を低減するための、上記に論じられる潤滑油組成物の使用を図る。
【実施例
【0169】
以下の実施例は、本開示の方法および組成物を例示するものであって、限定するものではない。当該分野において通常遭遇される様々な条件およびパラメータの他の好適な修正および適応は、当業者にとって明らかであり、本開示の範囲内である。
【0170】
カルシウムスルホネート洗浄剤、カルシウムフェネート洗浄剤、およびマグネシウム含有洗浄剤がチェーンの伸びに与える影響を決定するために、一連の試験を行った。タイミングチェーンの運転を、以下により詳細に説明されるフォードチェーン摩耗試験によって模擬実験した。
【0171】
潤滑油組成物の各々は、主要量の基油およびベース従来分散剤抑制剤(DI)を含有し、そのベースDIパッケージは潤滑油組成物の約8~約12重量パーセントを提供した。ベースDIパッケージは、以下の表2に提供されているように、従来の量の分散剤(複数可)、耐摩耗添加剤(複数可)、酸化防止剤(複数可)、摩擦調整剤(複数可)、流動点降下剤(複数可)、および粘度指数向上剤を含有した。主要量の基油は、潤滑油組成物中に約74重量%~約87重量%の量で存在した。変更された構成成分は、以下の実施例の表および考察で特定されている。列挙された値の全ては、別段特定されていない限り、潤滑油組成物の全重量に基づく(すなわち、構成成分の量は、活性原料、加えてもしあれば希釈油を反映する)成分の重量パーセントとして記述されている。
【0172】
【表2】
【0173】
比較例A
タイミングチェーンのチェーン伸びに対する摩耗の重要性を実証するために、対照潤滑油組成物を使用した。この組成物は、粘度等級が5W-40であり、約70重量%超の基油と、意図的に添加されたマグネシウム洗浄剤を含まない添加剤パッケージとを含有した。比較例Aの組成物で使用される洗浄剤成分の詳細を以下の表3に示す。
【0174】
実施例1
実施例1の潤滑油組成物は、粘度等級が5W-40であり、約70重量%超の基油と、最終流体に約910ppmのMgを供給する量のマグネシウム洗浄剤を含有する添加剤パッケージとを含有した。実施例1の組成物で用いられる洗浄剤成分の詳細を以下の表3に示す。
【0175】
実施例2
実施例2の潤滑油組成物は、粘度等級が5W-40であり、約70重量%超の基油と、マグネシウム洗浄剤を含有する添加剤パッケージとを含有した。実施例2の組成物中の洗浄剤成分の詳細を以下の表3に示す。
【0176】
実施例3
実施例3の潤滑油組成物は、粘度等級が5W-20であり、約80重量%超の基油と、マグネシウム洗浄剤を含有する添加剤パッケージとを含有した。実施例3の組成物に含有される洗浄剤成分の詳細を以下の表3に示す。
【0177】
実施例4
実施例4の潤滑油組成物は、粘度等級が0W-20であり、約80重量%超の基油と、マグネシウムスルホネート洗浄剤を含有する添加剤パッケージとを含有した。実施例4の組成物の洗浄剤成分の詳細を以下の表3に示す。
【0178】
【表3】
【0179】
フォードチェーン摩耗試験
上記の比較例Aおよび実施例1~4の潤滑油を、216時間の試験時間を使用してフォードチェーン摩耗試験で試験し、次いでタイミングチェーンの伸びについて、タイミングチェーンを試験した。
【0180】
フォードチェーン摩耗試験は、エンジンにおけるタイミングチェーンの伸びを評価する方法である。フォードチェーン摩耗試験は、2012 Ford 2.0 Liter EcoBoost TGDi 4気筒試験エンジンを用いる。上に提示したデータを生成するための手順であるCW ASTM Draft R18手順では、エンジンを、低速から中速の速度および負荷で、低運転温度および通常運転温度で、2段階試験において運転する必要があった。試験サイクルは、8時間のならし運転期間と、それに続く216時間のサイクル試験条件で構成された。タイミングチェーンを、ならし運転期間後に測定し、この測定値を、試験終了後のタイミングチェーンの伸びの計算のためのベースライン測定値として使用した。試験の終わりに、タイミングチェーンを再び測定した。
【0181】
試験の段階1を、富化燃焼サイクルを用いて、低速、低負荷、および低温で実行した。段階2を、化学量論的条件を使用して、中速度、中程度の負荷、および中程度の温度で実行した。段階1と段階2との間で、温度、速度、および負荷は特定の速度で上昇する。
【0182】
タイミングチェーンの伸びの結果を上記の表3に示す。
【0183】
比較例Aおよび実施例1~4の潤滑油組成物を使用して得られた結果により、本発明の潤滑方法が、比較例Aの潤滑方法と比較して、タイミングチェーンの伸びに対する改善された耐性を提供したことが示される。比較例Aおよび実施例1~4は、マグネシウム含有洗浄剤を含む潤滑油組成物を用いる潤滑方法により、マグネシウム含有洗浄剤を含まない潤滑油組成物と比較した場合、タイミングチェーンの伸びに対する耐性が大幅に改善されることを示す。また、低減したタイミングチェーンの伸びを提供した組成物は、カルシウムスルホネート洗浄剤からの総カルシウムと潤滑油組成物中のカルシウムおよびマグネシウムの合計との重量比が約0.06~約0.33であったことが、実施例により強調される。
【0184】
本開示の他の実施形態は、本明細書の考慮および本明細書に開示される実施形態の実施から当業者に明らかとなるであろう。明細書および特許請求の範囲を通して用いられているように、「a」および/または「an」は一つまたは二つ以上を指し得る。他に指示がなければ、本明細書および特許請求の範囲で用いられる成分の量、分子量、パーセント、比、反応条件などの特性を表す全ての数字は、用語「約」が存在するか否かにかかわらず、全ての場合において用語「約」によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、反対の指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲に記載される数値パラメータは本開示によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。最低限、特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各々の数値パラメータは少なくとも、報告された有効数字の数および通常の丸め技術を適用することによって解釈されるべきである。広範囲の開示を記載する数値範囲およびパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載される数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、いかなる数値も、それらのそれぞれの試験測定において見出される標準偏差から必然的に生じる、所定の誤差を本質的に含有する。本明細書および実施例が、例示的なものにすぎず、本開示の真の範囲および趣旨は以下の特許請求の範囲によって示されるものとみなされることが意図される。
【0185】
前述の実施形態は、実際にかなりの変動を受けやすい。したがって、実施形態は上記の特定の例示に限定されるものではない。むしろ、上述の実施形態は、法的に利用可能なそれらの等価物を含む、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲内にある。
【0186】
特許権所有者は、いずれかの開示される実施形態を、一般に開放することを意図せず、いずれかの開示される変更または変形が文字通り特許請求の範囲に該当し得ない程度まで、それらは均等論下でこれらの一部であるとみなされる。
【0187】
本明細書で引用した全ての特許および刊行物は、それらの全体が参照により本明細書に完全に組み込まれる。