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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】光波長フィルタ及び波長分離光回路
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20220214BHJP
   G02B 6/126 20060101ALI20220214BHJP
   G02B 6/124 20060101ALI20220214BHJP
   G02F 1/01 20060101ALN20220214BHJP
【FI】
G02B6/12 331
G02B6/12 311
G02B6/126
G02B6/124
G02B6/12 301
G02F1/01 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020083650
(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021179483
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2020-05-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成30年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513065077
【氏名又は名称】技術研究組合光電子融合基盤技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】岡山 秀彰
【審査官】井部 紗代子
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-508723(JP,A)
【文献】特開平06-059293(JP,A)
【文献】特開平10-333105(JP,A)
【文献】特開2018-085475(JP,A)
【文献】特開2013-156512(JP,A)
【文献】特開2013-205742(JP,A)
【文献】特開2014-170056(JP,A)
【文献】特開2018-155863(JP,A)
【文献】特開2006-301501(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0338577(US,A1)
【文献】OKAYAMA, Hideaki et al.,Asymmetric directional coupler type contra-directional polarization rotator Bragg grating: design,Japanese Journal of Applied Physics,The Japan Society of Applied Physics,2019年05月13日,Vol. 58, No. 068002,pp.068002-1 - 068002-4
【文献】OKAYAMA, H. et al.,Polarization conversion Si waveguide Bragg grating for polarization independent wavelength filter,11th International Conference on Group IV Photonics (GFP),IEEE,2014年08月29日,ThD5,pp. 145 - 146
【文献】ONAWA, Y. et al.,Polarisation insensitive wavelength de-multiplexer using arrayed waveguide grating and polarisation rotator/splitter,Electronics Letters,IET,2019年04月18日,Vol. 55, No. 8,pp. 475-476
【文献】HUANG, Tianye et al.,Compact polarization beam splitter assisted by subwavelength grating in triple-waveguide directional coupler,Applied Optics,OSA,2019年03月20日,Vol. 58, No. 9,pp. 2264 - 2268
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12 - 6/14
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に形成されるクラッドと、
前記クラッド中に埋設され、前記支持基板の上面に平行に設けられる、光導波路コアとを備え、
前記光導波路コアは、所定の間隔で、この順に並列配列された、第1導波路コア、中心導波路コア及び第2導波路コアを備え、
前記中心導波路コアと、前記第1導波路コアとは、前記中心導波路コアに入力される入力光に含まれる、特定の波長帯域のTM(Transverse Magnetic)偏波光を、TE(Transverse Electoric)偏波光に変換して前記第1導波路コアの出力端から出力する偏波変換部を構成し、
前記中心導波路コアと、前記第2導波路コアとは、前記中心導波路コアに入力される入力光に含まれる、特定の波長帯域のTE偏波光を分離して、前記第2導波路コアの出力端から出力する偏波分離部を構成し、
前記偏波変換部において、
前記第1導波路コアの幅は、前記中心導波路コアの幅より小さく、
前記第1導波路コアには、左右で反対称のグレーティングが設けられ、
前記第1導波路コアと、該第1導波路コアの周囲のクラッドとで構成される光導波路は、上下で非対称になるように構成され、
前記偏波分離部において、
前記第2導波路コアの幅は、前記中心導波路コアの幅より小さく、
前記第2導波路コアには、左右で対称のグレーティングが設けられている
ことを特徴とする光波長フィルタ。
【請求項2】
前記偏波変換部において、
前記第1導波路コアより厚さが小さく、かつ、前記第1導波路コアと一体に形成されたスラブ導波路を
さらに備えることを特徴とする請求項に記載の光波長フィルタ。
【請求項3】
前記偏波変換部において、
前記第1導波路コアの側面が、前記支持基板の上面に対して傾いて形成されている
ことを特徴とする請求項に記載の光波長フィルタ。
【請求項4】
前記第1導波路コア及び前記第2導波路コアが設けられている領域の前記クラッド上に、ヒータ用の電極が設けられている
ことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の光波長フィルタ。
【請求項5】
前記偏波変換部において、
前記クラッドの、前記第1導波路コアの上側の部分が空気である
ことを特徴とする請求項に記載の光波長フィルタ。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の光波長フィルタで構成される波長フィルタ部と、
波長選択部と
を備え、
前記波長選択部は、前記波長フィルタ部から送られるTE偏波光から、互いに異なる複数の特定の波長を取り出して出力する
ことを特徴とする波長分離光回路。
【請求項7】
複数の受光素子を含む受光部をさらに備え、
前記波長選択部は、取り出した互いに異なる複数の特定の波長のTE偏波光を、波長ごとに異なる前記受光素子に送り、
各前記受光素子は、前記波長選択部から送られるTE偏波光を受光する
ことを特徴とする請求項に記載の波長分離光回路。
【請求項8】
前記波長フィルタ部及び前記波長選択部が設けられている領域の前記クラッド上に、ヒータ用の電極が設けられている
ことを特徴とする請求項又はに記載の波長分離光回路。
【請求項9】
請求項に記載の光波長フィルタで構成される波長フィルタ部と、
波長選択部と
を備え、
前記波長選択部は、前記波長フィルタ部から送られるTE偏波光から、互いに異なる複数の特定の波長を取り出して出力する
ことを特徴とする波長分離光回路。
【請求項10】
複数の受光素子を含む受光部をさらに備え、
前記波長選択部は、取り出した互いに異なる複数の特定の波長のTE偏波光を、波長ごとに異なる前記受光素子に送り、
各前記受光素子は、前記波長選択部から送られるTE偏波光を受光する
ことを特徴とする請求項に記載の波長分離光回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、異なる複数の波長の光を1本の光ファイバで伝送するために用いることができる、光の合分波を行う光波長フィルタと、この光波長フィルタを有する波長分離光回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、加入者系光アクセスシステムとして、受動光ネットワーク(PON:Passive Optcial Network)が主流となっている。PONでは、1つの局側装置(OLT:Optical Line Terminal)と複数の加入者側装置(ONU:Optical Network Unit)が、光ファイバ及びスターカプラを介して接続されていて、1つのOLTを複数のONUが共有する。PONでは、OLTからONUへ向けた下り通信とONUからOLTに向けた上り通信とが相互に干渉し合わないように、下り通信に使われる光信号波長と上り通信に使われる光信号波長とを違えている。
【0003】
従って、下り通信と上り通信のそれぞれに使われる互いに波長の異なる光信号を分波し、かつ合波するために合分波素子が必要である。一般に、OLTやONUは、波長の異なる光信号を送受信する機能を実現させるために、合分波素子としての光波長フィルタ、フォトダイオード(PD:Photodiode)、レーザーダイオード(LD:Laser Diode)を空間結合して構成される。
【0004】
空間結合させるためには、光波長フィルタ、PD、LD間で光軸を合わせるためのアライメント作業が必要となる。これに対し、この光軸合わせのための作業を不要とするため、導波路を利用して構成される光波長フィルタが開発されている。また、この光波長フィルタを形成するに当たり、小型化と量産性に優れることから、シリコン系素材を導波路材料として用いるシリコン(Si)導波路が注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
Si導波路では、実質的に光の伝送路となる光導波路コアを、Siを材料として形成する。そして、Siよりも屈折率の低い例えばシリカ等を材料としたクラッドで、光導波路コアの周囲を覆う。このような構成により、光導波路コアとクラッドとの屈折率差が極めて大きくなるため、光導波路コア内に光を強く閉じ込めることができる。その結果、曲げ半径を例えば1μm程度まで小さくした、小型の曲線導波路を実現することができる。そのため、電子回路と同程度の大きさの光回路を作成することが可能であり、光デバイス全体の小型化に有利である。
【0006】
また、Si導波路では、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の半導体装置の製造過程を流用することが可能である。そのため、チップ上に電子機能回路と光機能回路とを一括形成する光電融合(シリコンフォトニクス)の実現が期待されている。
【0007】
ところで、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplex)技術を利用したPONでは、ONUごとに異なる受信波長が割り当てられる。OLTは、各ONUへの下り光信号を、送り先のONUの受信波長に対応した送信波長でそれぞれ生成し、これらを多重して送信する。各ONUは、複数の波長で多重された下り光信号から、自身に割り当てられた受信波長の光信号を選択的に受信する。ONUでは、各々の受信波長の下り光信号を選択的に受信するために、光波長フィルタが使用される。そして、光波長フィルタを、上述したSi導波路によって構成する技術が実現されて
いる。
【0008】
Si導波路を用いる光波長フィルタとしては、例えば、マッハツェンダー干渉器を用いたものやアレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)を用いたものがある。また、Si導波路を用いる光波長フィルタとして、リング共振器型、グレーティング型又は方向性結合器型の、出力波長を可変にでき、素子構造が簡単であるため使いやすいという利点を有する可変波長フィルタがある(例えば、特許文献2参照)。しかし、これらの光波長フィルタは、いずれも特定の偏波のみで動作するものである。
【0009】
さらに、TE(Transverse Electric)偏波及びTM(Transverse Magnetic)偏波の双方に対応すべく、光波長フィルタの前段に偏波分離素子及び偏波回転素子を設ける構造がある(例えば非特許文献1又は2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第4,860,294号明細書
【文献】特開2003-215515号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Optics Express vol.20,No.26,p.B493-B500,2012年12月10日
【文献】Optics Express vol.23,No.10,p.12840-12849,2015年5月18日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したAWGや可変波長フィルタは、複数の異なる波長帯域の光を繰り返して出力する特性を持つため、複数の自由スペクトル領域(FSR:Free Spectral Range)を有している。従って、これらを用いて特定の波長の光を取り出すためには、単一の波長帯域のFSRを切り出す波長フィルタを別途用意する必要がある。
【0013】
また、これらAWGや可変波長フィルタには偏波依存性がある。このため、偏波無依存で使用するためには、例えば上述した偏波分離素子及び偏波回転素子を用いて、偏波を揃える必要がある。
【0014】
この発明は、上述の従来技術が有する問題点に鑑みてなされたものである。この発明の目的は、偏波を分離する素子を別途用意することなく、できるだけ少ない要素で、偏波無依存の波長選択を実現する光波長フィルタ、及び、この光波長フィルタを有する波長分離光回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した目的を達成するために、この発明の光波長フィルタは、支持基板と、支持基板上に形成されるクラッドと、クラッド中に埋設され、支持基板の上面に平行に設けられる、光導波路コアとを備えて構成される。光導波路コアは、所定の間隔で、この順に並列配列された、第1導波路コア、中心導波路コア及び第2導波路コアを備える。
【0016】
中心導波路コアと、第1導波路コアとは、中心導波路コアに入力される入力光に含まれる、特定の波長帯域のTM偏波光を、TE偏波光に変換して第1導波路コアの出力端から出力する偏波変換部を構成する。中心導波路コアと、第2導波路コアとは、中心導波路コ
アに入力される入力光に含まれる、特定の波長帯域のTE偏波光を分離して、第2導波路コアの出力端から出力する偏波分離部を構成する。
【0017】
この発明の光波長フィルタの好適な実施形態によれば、偏波変換部において、第1導波路コアの幅は、中心導波路コアの幅より小さく、第1導波路コアには、左右で反対称のグレーティングが設けられ、第1導波路コアと、第1導波路コアの周囲のクラッドとで構成される光導波路は、上下で非対称になるように構成されている。
【0018】
また、この発明の光波長フィルタのさらなる好適な実施形態によれば、第1導波路コア及び第2導波路コアが設けられている領域のクラッド上に、ヒータ用の電極が設けられている。
【0019】
また、この発明の波長分離光回路は、上述の光波長フィルタで構成される波長フィルタ部と、波長選択部とを備えて構成される。波長選択部は、波長フィルタ部から送られる、TE偏波光から、互いに異なる複数の特定の波長を取り出して出力する。
【0020】
また、この発明の波長分離光回路の好適な実施形態によれば、複数の受光素子を含む受光部をさらに備える。波長選択部は、取り出した互いに異なる複数の特定の波長のTE偏波光を、波長ごとに異なる受光素子に送り、各受光素子は、波長選択部から送られるTE偏波光を受光する。
【発明の効果】
【0021】
この発明の光波長フィルタ及び波長分離光回路によれば、偏波を分離する素子を別途用意することなく、できるだけ少ない要素で、偏波無依存の波長選択を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】光波長フィルタを説明するための模式図である。
図2】光波長フィルタの特性を評価するシミュレーション結果を示す図である。
図3】波長分離光回路を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0024】
また、以下の説明及び各図では、グレーティングの幅及び周期が一定の例を示しているが、これは、グレーティングの構成を模式的に表現したものである。実際に光波長フィルタを設計・製造する場合は、グレーティングの幅及び周期が必ずしも一定である必要はない。
【0025】
(光波長フィルタ)
図1を参照して、この発明の一実施形態に係る光波長フィルタを説明する。図1は、光波長フィルタを説明するための模式図である。図1(A)は、光波長フィルタを示す概略平面図である。また、図1(B)は、図1(A)に示す光波長フィルタをI-I線で切り取った概略的端面図である。ここで、図1(A)では、光導波路コアの平面形状を示し、他の構成要素を省略して示してある。
【0026】
なお、以下の説明では、各構成要素について、光伝播方向に沿った方向を長さ方向とする。また、支持基板の上面に直交する方向を厚さ方向とする。また、長さ方向及び厚さ方向に直交する方向を幅方向とする。
【0027】
光波長フィルタは、支持基板10、クラッド20及び光導波路コア30を備えて構成されている。
【0028】
支持基板10は、例えば単結晶Siを材料とした平板状体で構成されている。
【0029】
クラッド20は、支持基板10上に、支持基板10の上面10aを被覆して形成されている。クラッド20は、例えば酸化シリコン(SiO)を材料として形成されている。
【0030】
光導波路コア30は、支持基板10の上面10aに平行に、クラッド20中に埋設されている。光導波路コア30は、SiOのクラッド20の屈折率(1.45)よりも高い屈折率(3.5)を有する、例えばシリコン(Si)を材料として形成されている。その結果、光導波路コア30は、光の伝送路として機能し、光導波路コア30に入力された光は、光導波路コア30の平面形状に応じた伝播方向に伝播する。
【0031】
光導波路コア30の厚みは、深さ方向でシングルモード条件を達成できる値である、200~400nmであることが望ましい。例えば、1550nmの波長帯域で使用する場合は、光導波路コア30の厚みを300nmにすることができる。ここで、光導波路コア30を伝播する光が支持基板10へ逃げるのを防止するために、光導波路コア30は、支持基板10から少なくとも1μm以上離間して形成されているのが好ましい。
【0032】
この光波長フィルタは、例えばSOI(Silicon On Insulator)基板を利用することによって、簡易に製造することができる。以下、図1に示す光波長フィルタの製造方法の一例を説明する。
【0033】
先ず、支持基板層、SiO層、及びSi層が順次積層されて構成されたSOI基板を用意する。次に、例えばドライエッチングを行い、Si層をパターニングする。この結果、支持基板10としての支持基板層上にSiO層が積層され、さらにSiO層上に光導波路コア30が形成された構造体を得ることができる。なお、後述するように、光導波路コア30には、厚みの大きい部分と、小さい部分とがある。従って、ドライエッチングは、例えば、2段階で行われる。
【0034】
次に、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて、SiO層上に、SiOを、光導波路コア30を被覆して形成する。その結果、SOI基板のSiO層と、この上に形成されたSiOによりクラッド20が形成され、光波長フィルタとして用いられる光導波路素子が得られる。
【0035】
なお、ここでは、Si導波路の例を説明したが、化合物半導体を用いても実現可能である。
【0036】
光波長フィルタは、光導波路コア30の部分として、所定の間隔で、この順に並列配列された、第1導波路コア50、中心導波路コア40及び第2導波路コア60を備えている。この例では、第1導波路コア50、中心導波路コア40及び第2導波路コア60は、互いに平行に、近接して配置されている。
【0037】
中心導波路コア40と、第1導波路コア50とは、偏波変換部32を構成する。偏波変換部32では、中心導波路コア40及び第1導波路コア50は、互いに幅が異なっている
。ここでは、中心導波路コア40の幅を、第1導波路コア50の幅よりも広く設定している。対称モードのTM偏波光は、幅の広い導波路、ここでは、中心導波路コア40に励起される。一方、反対称モードのTE偏波光は、幅の狭い導波路、ここでは、第1導波路コア50に励起される。なお、中心導波路コア40及び第1導波路コア50の幅の差が大きいほど、励起される導波路への光の集中度合いが大きくなる。これにより、中心導波路コア40を伝播する光が、第1導波路コア50に余分な固有モードを励起して、方向性結合作用で不要なパワー移行が生じることが抑制される。
【0038】
第1導波路コア50には、グレーティングが形成されている。第1導波路コア50は、基部52と突出部54a及び54bとを一体的に含んで構成されている。基部52は、一定の幅で、光の伝播方向に沿って延在して形成されていて、突出部54a及び54bは、基部52の両側面52a及び52bに、一定の周期Λ1で、周期的に複数形成されていて、いわゆるグレーティングを構成する。
【0039】
基部52の一方の側面(この例では、52a)に形成された突出部54aと、他方の側面(この例では、52b)に形成された突出部54bとは、半周期(すなわちΛ1/2)ずらして配置されている。すなわち、長手方向のある位置について、一方の側面52aに突出部54aが配置されているとき、他方の側面52bに突出部54bが配置されておらず、一方の側面52aに突出部54aが配置されていないとき、他方の側面52bに突出部54bが配置されている。この結果、グレーティングは、左右で反対称となっている。また、基部52と、突出部54a及び54bとは、同じ厚さで形成されている。
【0040】
光の伝播方向に隣り合う突出部54a又は54bの間のグレーティング溝の底部には、スラブ導波路56として、基部52と、突出部54a及び54bより小さい厚さのSiが形成されている。この結果、第1導波路コア50とその周囲のクラッド20とで構成される、グレーティングを有する光導波路は、上下で非対称となっている。
【0041】
なお、図1(A)では、突出部54a又は54bの間にのみスラブ導波路56が形成されている例を示しているが、これに限定されない。スラブ導波路56が、突出部54a又は54bの間以外のところにも存在する構成にしても良い。
【0042】
グレーティングの上下非対称の構造が、TE偏波光とTM偏波光の間の回折に必要である。また、グレーティングを左右反対称に構成することで、基本モードのTE偏波光と、基本モードのTM偏波光の回折が起きるようにする。この基本モードのTE偏波光と、基本モードのTM偏波光の組み合わせを選ぶことで、他のモードへの回折が生じるのを抑制できる。
【0043】
ここでは、スラブ導波路56を備えることで、グレーティングを上下非対称にする構成を説明したが、これに限定されない。第1導波路コア50の側面が、支持基板10の上面10aに対して傾いて形成されている、斜め側壁構造にしてもよい。また、クラッドの、グレーティングが形成されている第1導波路コア50の上側の部分を空気にして、グレーティングを有する光導波路を、上下で非対称にしてもよい。
【0044】
中心導波路コア40の入力端40aに入力された光のうち、特定の波長帯域のTM偏波光が、TE偏波光に変換されて第1TE偏波光として、第1導波路コア50の出力端50aから出力される。
【0045】
中心導波路コア40と、第2導波路コア60とは、偏波分離部34を構成する。偏波変換部34では、中心導波路コア40及び第2導波路コア60は、互いに幅が異なっている。ここでは、中心導波路コア40の幅を、第2導波路コア60の幅よりも広く設定してい
る。なお、中心導波路コア40及び第2導波路コア60の幅の差が大きいほど、励起される導波路への光の集中度合いが大きくなる。これにより、中心導波路コア40を伝播する光が、第2導波路コア60に余分な固有モードを励起して、方向性結合作用で不要なパワー移行が生じることが抑制される。
【0046】
第2導波路コア60には、グレーティングが形成されている。第2導波路コア60は、基部62と突出部64a及び64bとを一体的に含んで構成されている。基部62は、一定の幅で、光の伝播方向に沿って延在して形成されていて、突出部64a及び64bは、基部62の両側面62a及び62bに、一定の周期Λ2で、周期的に複数形成されていて、いわゆるグレーティングを構成する。
【0047】
基部62の一方の側面(この例では、62a)に形成された突出部64aと、他方の側面(この例では、62b)に形成された突出部64bとは、長手方向の位置を揃えて配置されている。すなわち、長手方向のある位置について、一方の側面62aに突出部64aが配置されているとき、他方の側面62bにも突出部64bが配置されており、一方の側面62aに突出部64aが配置されていないとき、他方の側面62bにも突出部64bが配置されていない。この結果、グレーティングは、左右で対称となっている。また、基部62と、突出部64a及び64bとは、同じ厚さで形成されている。
【0048】
また、光の伝播方向に隣り合う突出部64a又は64bの間のグレーティング溝の底部には、スラブ導波路が形成されておらず、第2導波路コア60とその周囲のクラッド20とで構成される、グレーティングを有する光導波路は、上下で対称となっている。
【0049】
中心導波路コア40の入力端40aに入力された光のうち、TE偏波光が、第2導波路コア60にもしみ出し、特定の波長帯域のTE偏波光が、グレーティングで回折されて、第2TE偏波光として、第2導波路コア60の出力端60aから出力される。
【0050】
この発明の光波長フィルタによれば、中心導波路コアの入力端から入力された光のうち、特定の波長のTM偏波光が、偏波変換部32において、TE偏波光に変換されて、第1TE偏波光として第1導波路コア50の出力端から出力され、特定の波長帯域のTE偏波光が、偏波分離部34において分離されて、第2TE偏波光として第2導波路コア60の出力端から出力される。このように、この発明の光波長フィルタは、特定の波長帯域の光を、偏波を揃えて取り出す機能を奏する。
【0051】
第1導波路コア50及び第2導波路コア60の上側のクラッド20上に電極(図示を省略する。)を形成してもよい。電極に電流を流すことで、ジュール熱を発生して、熱光学効果によって、グレーティングの屈折率を変化させることができる。その結果、第1導波路コア50及び第2導波路コア60のグレーティングにおいて位相整合条件を満たす波長を変化させることができる。なお、電極の配置箇所は、発熱によりグレーティングの屈折率を変化させる位置であればよく、光導波路コアの構造等に応じて、任意好適な箇所に配置することができる。
【0052】
この例では、中心導波路コア40の入力端40aには、テーパ導波路72を介して入力導波路82が接続され、第1導波路コア50の出力端50aには、テーパ導波路74を介して第1出力導波路84が接続され、及び、第2導波路コア60の出力端60aには、テーパ導波路76を介して第2出力導波路86が接続されている。中心導波路コア40、第1導波路コア50、及び、第2導波路コア60と、入力導波路82、第1出力導波路84及び第2出力導波路86との接続部での損失を抑制するために、これらテーパ導波路72、74及び76を設けるのが好ましい。また、第1出力導波路84及び第2出力導波路86は、それぞれ、第1導波路コア50の出力端50a及び第2導波路コア60の出力端6
0aからの距離が大きくなるにつれて、徐々に、入力導波路82との間隔を大きくするのが良い。このように構成すると、第1出力導波路84及び第2出力導波路86に、余分な固有モードが励起されるのを抑制することができる。
【0053】
(特性評価)
図2を参照して、3次元FDTD(Finite Difference Time Domain)を用いて行った、光波長フィルタの特性を評価するシミュレーションを説明する。
【0054】
図2(A)及び図2(B)では、横軸に波長(μm)を取って示し、縦軸に出力強度(a.u.)を取って示している。また、図2(A)は、入力光としてTE偏波光を入力したときの結果であり、図2(B)は、入力光としてTM偏波光を入力したときの結果である。
【0055】
図2(A)及び(B)では、中心導波路コア40を透過して、入力端40aとは反対側の端部から出力される透過光を曲線I、第1導波路コア50の出力端50aから出力されるTM回折光を曲線II、第2導波路コア60の出力端60aから出力されるTE回折光を曲線IIIで示している。ここで、TM回折光は、入力光のうちのTM偏波光がTE偏波光に偏波変換されて回折された光を示す。また、TE回折光は、入力光のうちのTE偏波光が分離されて回折された光を示す。
【0056】
ここでは、中心導波路コア40の幅を540nmとし、第1導波路コア50及び第2導波路コア60の幅を340nmとした。また、中心導波路コア40と第1導波路コア50とのギャップ、及び、中心導波路コア40と第2導波路コア60とのギャップを300nmとした。なお、第1導波路コア50の幅は、中心導波路コア50側の側面の平均位置と、中心導波路コア40とは反対側の側面の平均位置との距離で与えられる。第2導波路コア60の幅も同様である。中心導波路コア40とのギャップについてもこれらの平均位置から与えられる。中心導波路コア40、第1導波路コア50の基部52及び凸部54a及び54b、第2導波路コア60の厚みを220nmとし、スラブ導波路56の厚みを150nmとしている。
【0057】
第1導波路コア50のグレーティングの周期Λ1を399.9nm、第2導波路コア60のグレーティングの周期Λ2を373.7nmとし、グレーティングの掘り込み、すなわち、突出部の幅方向の長さを150nmとしている。また、中心導波路コア、第1導波路コア50、及び、第2導波路コア60の長さを77μmとした。
【0058】
TE偏波光を入力した場合は、図2(A)に示されるように、TE回折光(III)について、波長1.6μm付近に、きれいな波長選択ピークがみられる。また、TM偏波光を入力した場合は、図2(B)に示されるように、TM回折光(II)について、1.6μm付近に、きれいな波長選択ピークがみられる。また、図2(A)のTE回折光及び図2(B)のTM回折光の、回折効率はほぼ同等である。
【0059】
このように、シミュレーションの結果は、この発明の光波長フィルタが、特定の波長帯域の光を、偏波を揃えて取り出す機能を有することを示している。
【0060】
(波長分離光回路)
図3を参照して、この発明の波長分離光回路を説明する。図3は、波長分離光回路の概略構成図である。
【0061】
波長分離光回路は、波長フィルタ部100、波長選択部200及び受光部300を備え
て構成される。波長フィルタ部100は、図1を参照して説明した光波長フィルタで構成される。波長選択部200は、例えば、AWGで構成される。受光部300は、N(Nは2以上の整数)個の受光素子310を備えて構成される。ここでは、N=4の場合、すなわち、受光部300が、4個の受光素子310を備える例を説明する。
【0062】
波長選択部200には、波長フィルタ部100の第1出力導波路84及び第2出力導波路86が接続されている。
【0063】
また、波長選択部200は、受光素子310のそれぞれと、第1接続導波路群330を構成する接続導波路332、及び、第2接続導波路群340を構成する接続導波路342によって接続されている。ここでは、波長選択部200と第1受光素子310-1との間が、第1接続導波路群330に含まれる第1接続導波路332-1、及び、第2接続導波路群340に含まれる接続導波路342-1によって接続されている。また、波長選択部200と第2受光素子310-2との間が、第1接続導波路群330に含まれる第2接続導波路332-2、及び、第2接続導波路群340に含まれる第2接続導波路342-2によって接続されている。また、波長選択部200と第3受光素子310-3との間が、第1接続導波路群330に含まれる第3接続導波路332-3、及び、第2接続導波路群340に含まれる第3接続導波路342-3によって接続されている。また、波長選択部200と第4受光素子310-4との間が、第1接続導波路群330に含まれる第4接続導波路332-4、及び、第2接続導波路群340に含まれる第4接続導波路342-4によって接続されている。このように、波長選択部200と第k(kは1以上N以下の整数)受光素子310-kの間が、第1接続導波路群330に含まれる第k接続導波路332-k、及び、第2接続導波路群340に含まれる第k接続導波路342-kによって接続されている。
【0064】
AWGに含まれる2つのスラブ導波路の一方に、第1出力導波路84と第2接続導波路群340を構成する接続導波路342が接続され、2つのスラブ導波路の他方に、第2出力導波路86と第1接続導波路群330を構成する接続導波路332が接続される。
【0065】
波長選択部200は、波長フィルタ部100の第1出力導波路84を経て送られる、特定の波長帯域の基本モードのTE偏波から、互いに異なる複数の特定の波長を取り出して出力する。出力された各波長の基本モードのTE偏波は、波長に応じた第1接続導波路群330に含まれる第1~第4接続導波路332-1~4のいずれかを経て、対応する第1~第4受光素子310-1~4に送られる。
【0066】
また、波長選択部200は、波長フィルタ部100の第2出力導波路86を経て送られる、特定の波長帯域の基本モードのTE偏波光から、互いに異なる複数の特定の波長を取り出して出力する。出力された各波長の基本モードのTE偏波光は、波長に応じた第2接続導波路群340に含まれる第1~第4接続導波路342-1~4のいずれかを経て、対応する第1~第4受光素子310-1~4に送られて、受光される。
【0067】
このように波長分離光回路では、波長フィルタ部100によって取り出された単一の波長帯域の光を、波長選択部200に入力することによって、単一の波長帯域のFSRに含まれる、複数の異なる波長の光を取り出すことができる。
【0068】
ここで、波長フィルタ部100及び波長選択部200の上側のクラッド20上に電極を形成してもよい。電極に電流を流すことで、ジュール熱を発生して、熱光学効果によって、選択波長を変化させることができる。なお、電極の配置箇所は、光導波路コアの構造等に応じて、任意好適な箇所に配置することができる。
【符号の説明】
【0069】
10 支持基板
20 クラッド
30 光導波路コア
32 偏波変換部
34 偏波分離部
40 中心導波路コア
50 第1導波路コア
52、62 基部
54a、54b、64a、64b 突出部
56 スラブ導波路
60 第2導波路コア
72、74、76 テーパ導波路
82 入力導波路
84 第1出力導波路
86 第2出力導波路
100 波長フィルタ部
200 波長選択部
300 受光部
310 受光素子
330 第1接続導波路群
332、342 接続導波路
340 第2接続導波路群
図1
図2
図3