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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】オレフィン類重合用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/654 20060101AFI20220214BHJP
【FI】
C08F4/654
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020092540
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021187912
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2021-07-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】酒見 隆晴
(72)【発明者】
【氏名】魚住 俊也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 啓介
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-036430(JP,A)
【文献】特開平05-194637(JP,A)
【文献】特開平07-173213(JP,A)
【文献】特開昭62-050308(JP,A)
【文献】特開2007-039529(JP,A)
【文献】特開昭60-229906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/60- 4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分(A)と、
下記一般式(I);
AlQ3-p (I)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子またはハロゲン原子であり、pは、0<p≦3の実数である。)
で表される有機アルミニウム化合物(B)とを相互に接触させてオレフィン類重合用触媒を製造する方法であって、
前記固体触媒成分(A)および前記有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方が、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒中で、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものである
ことを特徴とするオレフィン類重合用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記固体触媒成分(A)が、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒中で、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものである
ことを特徴とする請求項1に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法。
【請求項3】
マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分(A)、
一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物並びに
炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒からなるオレフィン類重合用触媒前駆体組成物(α)と、
下記一般式(I);
AlQ3-p (I)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子またはハロゲン原子であり、pは、0<p≦3の実数である。)
で表される有機アルミニウム化合物(B)とを相互に接触させることを特徴とする請求項2に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記有機アルミニウム化合物(B)が、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒中で一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものである
ことを特徴とする請求項1に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(I);
AlQ3-p (I)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子またはハロゲン原子であり、pは、0<p≦3の実数である。)
で表される有機アルミニウム化合物(B)、
一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物並びに
炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒からなるオレフィン類重合用触媒前駆体組成物(β)と、
マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分(A)とを相互に接触させることを特徴とする請求項4に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法。
【請求項6】
前記固体触媒成分(A)および前記有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方が前記一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理される量が、
オレフィン類重合用触媒の製造に供される固体触媒成分(A)を構成するチタン1モルあたり1モル以上の量である
ことを特徴とする請求項1に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法。
【請求項7】
前記一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物が、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、1,7-オクタジエン、1-ヘプテン、1-オクテン、ビニルシクロヘキサンおよびビニルシクロヘキセンから選ばれる一種以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶媒が、ミネラルオイルであることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン類重合用触媒前駆体組成物、オレフィン類重合用触媒の製造方法およびオレフィン類重合用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、オレフィン類重合用触媒として、チタン等の遷移金属触媒成分を含む固体触媒成分と、アルミニウム等の典型金属触媒成分とを相互に接触させて得られる触媒が広く知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
オレフィン類重合用触媒は、マグネシウム化合物を担体として用いた担持型触媒の登場により、重合活性が飛躍的に増大し、さらにエステル化合物等の電子供与体を添加することで、炭素原子数3以上のα-オレフィンから立体規則性の高い重合体を製造することも可能となっている。
【0004】
例えば、特許文献2には、フタル酸エステル等の電子供与性化合物が担持された固体状チタン触媒成分と、助触媒成分として有機アルミニウム化合物と、少なくとも一つのSi-O-C結合を有する有機ケイ素化合物とを用いて、プロピレンを重合させる方法が提案されており、上記特許文献を含め多くの文献において電子供与性化合物としてフタル酸エステルを使用し、高立体規則性ポリマーを高収率で得る方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、フタル酸エステルの一種であるフタル酸ジ-n-ブチルやフタル酸ベンジルブチルは、欧州のRegistration,Evaluation,Authorization and Restriction of Chemicals(REACH)規制におけるSubstance of Very High Concern(SVHC)として特定されており、環境負荷低減の観点から、SVHC物質を使用しない触媒系への転換要求が高まっている。
【0006】
SVHC規制対象とされていない電子供与性化合物として、コハク酸エステル、マレイン酸エステル、マロン酸エステル、ジエーテル等を用いた固体触媒成分が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2015/012963号明細書
【文献】特開昭57-63310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、SVHC規制対象とされていない化合物を電子供与性化合物として用いた固体触媒成分は、フタル酸エステルを用いた固体触媒成分と同等の性能を発揮し難いことが知られている。特に、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で、固体触媒成分、有機アルミニウム化合物及び必要に応じて外部電子供与性化合物を接触させるプロセスが存在する重合設備においては、SVHC規制対象物質とされていない電子供与性化合物を用いた固体触媒成分は著しく活性が低下する傾向にある。かかる事情から、SVHC規制対象物質とされていない電子供与性化合物を用いた固体触媒成分については、さらなる改良が求められるようになっていた。
【0009】
この点に関し本発明者等が考察したところ、上記プロセスにおいて、固体触媒成分、有機アルミニウム化合物及び必要に応じて外部電子供与性化合物を接触させると、過剰な反応が進行してしまうことが判明した。この場合、固体触媒成分から内部電子供与性化合物が脱離したり、内部電子供与性化合物と有機ケイ素化合物との交換反応が生じたり、有機アルミニウム化合物による固体触媒成分の過剰な活性化が生じること等が懸念される。
【0010】
このため、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で、重合用触媒を用いてオレフィン類を重合させようとしても、ポリオレフィンが重合用触媒表面に形成されず、過剰な反応により触媒活性点の失活が進行してしまうと考えられる。特に、カルボン酸エステル残基に直結する芳香環構造、いわゆるフタル酸エステル構造を有する内部電子供与性化合物に代えて、フタル酸エステル構造を有さない、いわゆるノンフタレート系の内部電子供与性化合物を用いた場合には、有機アルミニウムの影響を強く受け易いことを見出した。
【0011】
そして、上記の触媒活性点の失活が進行するに伴い、オレフィン類重合用触媒の触媒活性や立体規則性が低下し易くなることが判明した。
【0012】
このような状況下、本発明は、触媒形成後、活性点が早期に失活することによる重合活性低下を抑制してオレフィン類の重合時に優れた触媒活性を示し、立体規則性に優れたオレフィン類重合体を製造し得るオレフィン類重合用触媒前駆体組成物、オレフィン類重合用触媒の製造方法およびオレフィン類重合用触媒を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記技術課題を解決すべく、本発明者等が鋭意検討を重ねたところ、マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分(A)と、有機アルミニウム化合物(B)とを相互に接触させてオレフィン類重合用触媒を製造する方法であって、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方が、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒中で、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものであることにより、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分(A)と、
下記一般式(I);
AlQ3-p (I)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子またはハロゲン原子であり、pは、0<p≦3の実数である。)
で表される有機アルミニウム化合物(B)とを相互に接触させてオレフィン類重合用触媒を製造する方法であって、
前記固体触媒成分(A)および前記有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方が、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒中で、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものである
ことを特徴とするオレフィン類重合用触媒の製造方法、
(2)前記固体触媒成分(A)が、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒中で、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものである
ことを特徴とする上記(1)に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法、
(3)マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分(A)、
一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物並びに
炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒からなるオレフィン類重合用触媒前駆体組成物(α)と、
下記一般式(I);
AlQ3-p (I)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子またはハロゲン原子であり、pは、0<p≦3の実数である。)
で表される有機アルミニウム化合物(B)とを相互に接触させることを特徴とする上記(2)に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法、
(4)前記有機アルミニウム化合物(B)が、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒中で、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものである
ことを特徴とする上記(1)に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法、
(5)下記一般式(I);
AlQ3-p (I)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子またはハロゲン原子であり、pは、0<p≦3の実数である。)
で表される有機アルミニウム化合物(B)、
一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物並びに
炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒からなるオレフィン類重合用触媒前駆体組成物(β)と、
マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分(A)とを相互に接触させることを特徴とする上記(4)に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法、
(6)前記固体触媒成分(A)および前記有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方が前記一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理される量が、
オレフィン類重合用触媒の製造に供される固体触媒成分(A)を構成するチタン1モルあたり1モル以上の量である
ことを特徴とする上記(1)に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法、
(7)前記一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物が、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、1,7-オクタジエン、1-ヘプテン、1-オクテン、ビニルシクロヘキサンおよびビニルシクロヘキセンから選ばれる一種以上である
ことを特徴とする上記(1)に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法、
(8)前記有機溶媒が、ミネラルオイルであることを特徴とする上記(1)に記載のオレフィン類重合用触媒の製造方法、
(9)マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分(A)と、
下記一般式(I);
AlQ3-p (I)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子またはハロゲン原子であり、pは、0<p≦3の実数である。)
で表される有機アルミニウム化合物(B)と、
一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と
炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒とを有し、
前記一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物が、前記固体触媒成分(A)中に含まれるチタンの全重量に対して少なくとも0.1質量%含有されている
ことを特徴とするオレフィン類重合用触媒、
(10)前記一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物が、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、1,7-オクタジエン、1-ヘプテン、1-オクテン、ビニルシクロヘキサンおよびビニルシクロヘキセンから選ばれる一種以上である
ことを特徴とする上記(9)に記載のオレフィン類重合用触媒、
(11)前記有機溶媒が、ミネラルオイルであることを特徴とする上記(9)に記載のオレフィン類重合用触媒
を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方が、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものであることにより、固体触媒成分の表面にポリオレフィンの保護膜が形成され易くなる。その結果、有機アルミニウム化合物による固体触媒成分中のチタン活性点への過剰な活性化反応を抑制し、オレフィン類重合用触媒の失活を抑制しつつ安定した状態で重合反応に供し得ると考えられる。
【0016】
このため、本発明によれば、触媒形成後、活性点が早期に失活することによる重合活性低下を抑制してオレフィン類の重合時に優れた触媒活性を示し、立体規則性に優れたオレフィン類重合体を製造し得るオレフィン類重合用触媒の製造方法およびオレフィン類重合用触媒を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<オレフィン類重合用触媒の製造方法>
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法は、マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分(A)と、
下記一般式(I);
AlQ3-p (I)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子またはハロゲン原子であり、pは、0<p≦3の実数である。)
で表される有機アルミニウム化合物(B)とを相互に接触させてオレフィン類重合用触媒を製造する方法であって、
前記固体触媒成分(A)および前記有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方が、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒中で、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものである
ことを特徴とするものである。
【0018】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)としては、マグネシウム、チタン及びハロゲンを含むとともに、エステル基、エーテル基及びカーボネート基から選ばれる一種以上の基を有する内部電子供与性化合物を含むものが適当であり、マグネシウム、チタン及びハロゲンを含むとともに、エステル基、エーテル基及びカーボネート基から選ばれる一種以上の基を有しカルボン酸エステル残基に直結する芳香環構造を有さない内部電子供与性化合物を含むものがより適当である。
【0019】
このような固体触媒成分(A)としては、マグネシウム化合物(a)、チタンハロゲン化合物(b)及びエステル基、エーテル基及びカーボネート基から選ばれる一種以上の基を有する内部電子供与性化合物(c)を相互に接触させて得られるものや、マグネシウム化合物(a)、チタンハロゲン化合物(b)及びエステル基、エーテル基及びカーボネート基から選ばれる一種以上の基を有しカルボン酸エステル残基に直結する芳香環構造を有さない内部電子供与性化合物(c)を相互に接触させて得られるものを挙げることができる。
【0020】
上記マグネシウム化合物(a)としては、ジハロゲン化マグネシウム、ジアルキルマグネシウム、ハロゲン化アルキルマグネシウム、ジアルコキシマグネシウム、ジアリールオキシマグネシウム、ハロゲン化アルコキシマグネシウムまたは脂肪酸マグネシウム等から選ばれる一種以上が挙げられる。
これらのマグネシウム化合物の中では、ジハロゲン化マグネシウム、ジハロゲン化マグネシウムとジアルコキシマグネシウムの混合物、ジアルコキシマグネシウムが好ましく、特にジアルコキシマグネシウムが好ましい。
【0021】
ジアルコキシマグネシウムとして、具体的には、ジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジプロポキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウム、エトキシメトキシマグネシウム、エトキシプロポキシマグネシウム、ブトキシエトキシマグネシウム等から選ばれる一種以上が挙げられ、これらのうち、ジエトキシマグネシウムが特に好ましい。
【0022】
上記ジアルコキシマグネシウムは、市販品であってもよいし、金属マグネシウムを、ハロゲン含有有機金属等の存在下にアルコールと反応させて得たものであってもよい。
【0023】
また、上記ジアルコキシマグネシウムとしては、顆粒状または粉末状であり、その形状は不定形または球状のものであってもよい。例えば球状のジアルコキシマグネシウムを使用した場合、より良好な粒子形状と狭い粒度分布を有する重合体粉末が得られ易く、重合により生成される重合体粉末(生成重合粉末)の取り扱い操作性が向上し、生成重合体粉末に含まれる微粉に起因する重合体の分離装置におけるフィルターの閉塞等の問題が容易に解決される。なお、球状ジアルコキシマグネシウムは、必ずしも真球状である必要はなく、楕円形状または馬鈴薯形状のものであってもよい。
【0024】
上記ジアルコキシマグネシウムは、単独または2種以上併用することもできる。
【0025】
さらに、上記ジアルコキシマグネシウムは、平均粒径(平均粒径D50)が1~200μmのものが好ましく、5~150μmのものがより好ましい。ここで、平均D50は、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときの、体積積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径を意味するものである。
【0026】
上記ジアルコキシマグネシウムが球状のものである場合、その平均粒径は1~100μmが好ましく、5~80μmがより好ましく、10~70μmがさらに好ましい。
【0027】
また、上記ジアルコキシマグネシウムの粒度分布は、微粉及び粗粉が少なく、かつ粒度分布の狭いものが好ましい。
【0028】
具体的には、ジアルコキシマグネシウムは、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときに、粒子径5μm以下の粒子(微粉)が20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。一方、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときに、粒子径100μm以上の粒子(粗粉)が10%以下であるものが好ましく、5%以下であるものがより好ましい。
【0029】
更にジアルコキシマグネシウムは、ln(D90/D10)で表される粒度分布が、3以下であるものが好ましく、2以下であるものがより好ましい。
本発明において、上記ln(D90/D10)で表される粒度分布が上記所定値以下にあるジアルコキシマグネシウムは、「粒度分布の狭いもの」を意味する。
ここで、D90は、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときの、体積積算粒度分布における積算粒度で90%の粒径を意味するものである。また、D10は、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときの、体積積算粒度分布における積算粒度で10%の粒径を意味するものである。
【0030】
上記の如き球状のジアルコキシマグネシウムを製造する方法は、例えば、特開昭58-4132号公報、特開昭62-51633号公報、特開平3-74341号公報、特開平4-368391号公報、特開平8-73388号公報等に例示されている。
【0031】
上記チタンハロゲン化合物(b)としては、特に制限されないが、下記一般式(II)
Ti(OR4-i (II)
(式中、Rは、炭素数1~4のアルキル基を示し、Xは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を示し、iは、0~3の整数である。)で表されるチタンテトラハライドもしくはアルコキシチタンハライド群から選択される一種の化合物であることが好ましい。
【0032】
上記一般式(II)で表されるチタンハロゲン化合物(b)として、具体的には、チタンテトラハライドとしては、チタンテトラクロライド、チタンテトラブロマイド、チタンテトラアイオダイド等のチタンテトラハライドが挙げられる。また、アルコキシチタンハライドとしては、メトキシチタントリクロライド、エトキシチタントリクロライド、プロポキシチタントリクロライド、n-ブトキシチタントリクロライド、ジメトキシチタンジクロライド、ジエトキシチタンジクロライド、ジプロポキシチタンジクロライド、ジ-n-ブトキシチタンジクロライド、トリメトキシチタンクロライド、トリエトキシチタンクロライド、トリプロポキシチタンクロライド、トリ-n-ブトキシチタンクロライド等が挙げられる。これらのうち、チタンテトラハライドが好ましく、チタンテトラクロライドがより好ましい。
【0033】
固体触媒成分(A)において電子供与性化合物として使用される、エステル基、エーテル基及びカーボネート基から選ばれる一種以上の基を有する内部電子供与性化合物(c)や、エステル基、エーテル基及びカーボネート基から選ばれる一種以上の基を有しカルボン酸エステル残基に直結する芳香環構造を有さない内部電子供与性化合物(c)も、特に制限されない。
【0034】
上記エステル基、エーテル基及びカーボネート基から選ばれる一種以上の基を有しカルボン酸エステル残基に直結する芳香環構造を有さない内部電子供与性化合物(c)は、本願発明において、カルボン酸エステル残基に直結する芳香環構造を有さない特定の内部電子供与性化合物として用いられる。
【0035】
上記内部電子供与性化合物(c)がエステル基を有する化合物である場合、1~3個のエステル残基を有する化合物が好ましく、エステル残基を1つ有するモノカルボン酸エステル、エステル残基を2つ有するジカルボン酸ジエステル、エステル残基を3つ以上有するポリカルボン酸ポリエステル、エステル残基とアルコキシ基を其々1個ずつ有するエーテル-カルボン酸エステル、ジオールエステルから選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0036】
エステル基を有する内部電子供与性化合物(c)として、具体的には、ポリオールエステル及び置換フェニレン芳香族ジエステル等を挙げることができ、コハク酸ジエステル、マロン酸ジエステル、マレイン酸ジエステル及びシクロヘキセンカルボン酸ジエステルが好適であり、これらの中でも、マロン酸ジエステル、マレイン酸ジエステル及びシクロヘキセンカルボン酸ジエステルが特に好適である。
【0037】
上記の中でも、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、安息香酸エステル、p-トルイル酸エステル、アニス酸エステル等のモノカルボン酸エステル類;コハク酸ジエステル、マロン酸ジエステル、マレイン酸ジエステル、シクロヘキセンカルボン酸ジエステル、2,3-ジアルキルコハク酸ジエステル、ベンジリデンマロン酸ジエステル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジエステル、1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ジエステル、4-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジエステル、3-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジエステル、3,6-ジフェニルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジエステル、3-メチル-6-n-プロピルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジエステル等のジカルボン酸ジエステル類;3-エトキシ-2-イソプロピルプロピオン酸エチル、3-エトキシ-2-イソブチルプロピオン酸エチル、3-エトキシ-2-t-ブチルプロピオン酸エチル、3-エトキシ-2-t-ペンチルプロピオン酸エチル、3-エトキシ-2-シクロヘキシルプロピオン酸エチル、3-エトキシ-2-シクロペンチルプロピオン酸エチル等のエーテル-カルボン酸エステル類;及び2,4-ペンタンジオールジベンゾエート、3-メチル-2,4-ペンタンジオールジベンゾエート、3-メチル-5-t-ブチル-1,2-フェニレンジベンゾアート、3,5-ジイソプロピル-1,2-フェニレンジベンゾアート等のジオールエステル類が好ましい。これらの中で特に好ましいものは、マレイン酸ジエチル、ベンジリデンマロン酸ジエチル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジエチル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジ-n-プロピル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジ-n-ブチル、3-エトキシ-2-イソプロピルプロピオン酸エチル、3-エトキシ-2-t-ブチルプロピオン酸エチル、3-エトキシ-2-t-ペンチルプロピオン酸エチル、2,4-ペンタンジオールジベンゾエート、3-メチル-2,4-ペンタンジオールジベンゾエート、3-メチル-5-t-ブチル-1,2-フェニレンジベンゾアート、3,5-ジイソプロピル-1,2-フェニレンジベンゾアートから選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0038】
上記内部電子供与性化合物(c)が、エーテル基を有する化合物である場合、1個のエーテル基を有する化合物、フルオレン構造を有する化合物、または炭素数3~7のアルキル基もしくはシクロアルキル基を1~2個有するジエーテル構造の化合物が好ましい。これらの中では、プロパンを基本骨格とし、その1,3位にエーテル基が結合した構造(1,3-ジアルコキシプロパン構造)を有し、さらに所望の置換基を含んでよい1,3-ジエーテル化合物がより好ましい。
【0039】
エーテル基を有する内部電子供与性化合物(c)として、具体的には、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテル、アミールエーテル等のモノエーテル類;及びジフェニルエーテル、2,2-ジアルキル-1,3-ジアルコキシプロパン、2,2-ジシクロアルキル-1,3-ジメトキシプロパン、及び9,9-ビス(メトキシメチル)フルオレン等のジエーテル類から選ばれる一種以上を挙げることができる。これらの中では、エーテルカルボン酸エステルが好適である。
【0040】
上記の中でも特に好ましいものは、2-イソプロピル-2-イソブチル-1,3-ジメトキシプロパン、2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン及び9,9-ビス(メトキシメチル)フルオレンである。
【0041】
上記内部電子供与性化合物(c)が、カーボネート基を有する化合物である場合、1~3個のカーボネート基を有する化合物が好ましい。このような化合物として、具体的には、カーボネート基とアルコキシ基を其々1個ずつ有するカーボネート-エーテル化合物、カーボネート基とエステル残基を其々1個ずつ有するカーボネート-エステル化合物、カーボネート基とカルボキシル基を其々1個ずつ有する化合物、カーボネート基を2個有するジカーボネート、カーボネート基を3個以上有するポリカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、カーボネート-エーテル、カーボネート-エステル及びジカーボネートが好ましく、特に好ましいものは、(2-エトキシエチル)メチルカーボネート、(2-エトキシエチル)エチルカーボネート、(2-プロポキシエチル)メチルカーボネート、(2-ベンジルオキシエチル)フェニルカーボネート、5-t-ブチル-1,2-フェニレンジフェニルジカーボネートである。
【0042】
上記内部電子供与性化合物(c)としては、特に1,3-ジエーテル化合物、カーボネート-エーテル化合物及びカルボン酸ジエステル化合物から選ばれる一種以上が好ましい。
【0043】
固体触媒成分(A)は、上記マグネシウム化合物(a)、上記チタンハロゲン化合物(b)及び上記内部電子供与性化合物(c)と、さらに必要に応じてポリシロキサンとを、不活性有機溶媒の存在下で、相互に接触させることによって調製してなるものであることが好ましい。
【0044】
上記ポリシロキサンは、主鎖にシロキサン結合(-Si-O結合)を有する重合体であるが、シリコーンオイルとも総称され、25℃における粘度が0.02~100.00cm/s(2~1000センチストークス)を有する、常温で液状または粘ちょう状の鎖状、部分水素化、環状または変性ポリシロキサンを意味する。
【0045】
鎖状ポリシロキサンとしては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンが例示される。部分水素化ポリシロキサンとしては、水素化率10~80%のメチルハイドロジェンポリシロキサンが例示される。環状ポリシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルキクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタンシロキサン、2,4,6-トリメチルシクロトリシロキサン、2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサンが例示される。変性ポリシロキサンとしては、高級脂肪酸基置換ジメチルシロキサン、エポキシ基置換ジメチルシロキサン、ポリオキシアルキレン基置換ジメチルシロキサンが例示される。これらの中で、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びジメチルポリシロキサンが好ましく、デカメチルシクロペンタシロキサンが特に好ましい。
【0046】
ポリシロキサンを接触させることにより、得られるポリマーの立体規則性または結晶性を容易に向上させることができ、さらには得られるポリマーの微粉を容易に低減することができる。
【0047】
上記不活性有機溶媒としては、チタンハロゲン化合物(b)を溶解し、かつマグネシウム化合物(a)は溶解しないものが好ましい。具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2-ジエチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキセン、デカリン、ミネラルオイル等の飽和炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素化合物;オルトジクロルベンゼン、塩化メチレン、1,2-ジクロロベンゼン、四塩化炭素、ジクロルエタン等のハロゲン化炭化水素化合物等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0048】
上記不活性有機溶媒としては、沸点が50~300℃の、常温で液状の飽和炭化水素化合物または芳香族炭化水素化合物が好ましい。これらの中でも、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ミネラルオイル、トルエン、キシレン、エチルベンゼンから選ばれる一種以上が好ましい。
【0049】
固体触媒成分(A)の調製方法としては、例えば、マグネシウム化合物(a)及び内部電子供与性化合物(c)を、不活性有機溶媒に懸濁させて懸濁液を形成し、チタンハロゲン化合物(b)及び不活性有機溶媒から形成した混合溶液を上記懸濁液に接触させ、反応させる調製方法を挙げることができる。
【0050】
また、固体触媒成分(A)の調製方法としては、マグネシウム化合物(a)を、チタンハロゲン化合物(b)または不活性有機溶媒に懸濁させ、次いで内部電子供与性化合物(c)と、更に必要に応じてチタンハロゲン化合物(b)を接触させ、反応させる調製方法を挙げることができる。
【0051】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、各成分を相互に接触させて固体触媒成分(A)を調製する場合に、不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
【0052】
具体的には、不活性ガス雰囲気下、水分等を除去した状況下で、攪拌機を具備した容器中で、各成分を攪拌しながら接触させ、次いで所定温度で反応させて固体触媒成分(A)を得ることができる。
【0053】
各成分を接触させる際の温度は、単に接触させて攪拌混合する場合や、分散または懸濁させて変性処理する場合には、室温付近の比較的低温域であっても差し支えない。
【0054】
各成分の接触後に反応させて生成物を得る場合には、40~130℃の温度域が好ましく、この場合、各成分の接触後に同温度で保持して反応させることが好ましい。
【0055】
上記生成物を得る際の温度が40℃未満の場合は、十分に反応が進行せず、結果として得られる固体触媒成分が十分な性能を発揮し難くなる。また、該温度が130℃を超える場合は、使用した溶媒の蒸発が顕著になる等して、反応の制御が困難になる。
【0056】
上記生成物を得る際の反応時間は1分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上がさらに好ましい。
【0057】
固体触媒成分(A)を調製する際の各成分の使用量比は、調製法により異なるため、適宜決定すればよい。
【0058】
固体触媒成分(A)を調製する際、マグネシウム化合物(a)1.00モルあたり、チタンハロゲン化合物(b)を0.50~100.00モル接触させることが好ましく、0.50~10.00モル接触させることがより好ましく、1.00~5.00モル接触させることがさらに好ましい。
【0059】
また、触媒成分を調製する際、マグネシウム化合物(a)1.00モルあたり、内部電子供与性化合物(c)を0.01~10.00モル接触させることが好ましく、0.01~1.00モル接触させることがより好ましく、0.02~0.6モル接触させることがさらに好ましい。
【0060】
固体触媒成分(A)の調製時に、ポリシロキサンを使用する場合は、マグネシウム化合物(a)1.00モルあたり、ポリシロキサンを0.01~100.00g接触させることが好ましく、0.05~80.00g接触させることがより好ましく、1.00~50.00g接触させることがさらに好ましい。
【0061】
また、固体触媒成分(A)の調製時に、芳香族炭化水素化合物等の不活性有機溶媒を使用する場合、その使用量は、マグネシウム化合物(a)1.000モルあたり、0.001~500.000モルであることが好ましく、0.001~70.000モルであることがより好ましく、0.005~50.000モルであることがさらに好ましい。
【0062】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)を構成するチタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子及び電子供与性化合物の含有量は、本発明の効果を発揮し得る範囲において特に既定されない。
【0063】
固体触媒成分(A)は、チタン原子を、1.0~10.0質量%含有することが好ましく、1.5~8.0質量%含有することがより好ましく、1.5~5.0質量%含有することがさらに好ましい。
【0064】
固体触媒成分(A)は、マグネシウム原子を、10.0~70.0質量%含有することが好ましく、10.0~50.0質量%含有することがより好ましく、15.0~40.0質量%含有することがさらに好ましく、15.0~25.0質量%含有することが一層好ましい。
【0065】
固体触媒成分(A)は、ハロゲン原子を、20.0~90.0質量%含有することが好ましく、30.0~85.0質量%含有することがより好ましく、40.0~80.0質量%含有することがさらに好ましく、45.0~80.0質量%含有することが一層好ましい。
【0066】
固体触媒成分(A)は、内部電子供与性化合物(c)を、合計0.5~30.0質量%含有することが好ましく、合計1.0~25.0質量%含有することがより好ましく、合計2.0~20.0質量%含有することがさらに好ましい。
【0067】
本出願書類において、固体触媒成分(A)中に含まれるチタン原子の含有率及びマグネシウム原子の含有率は、JIS 8311-1997「チタン鉱石中のチタン定量方法」に記載の方法(酸化還元滴定)により、それぞれ測定した値を意味する。
【0068】
本出願書類において、本発明の固体触媒成分(A)中に含まれるハロゲン原子の含有量は、固体触媒成分を硫酸と純水の混合溶液で処理して水溶液とした後、所定量を分取し、硝酸銀標準溶液でハロゲン原子を滴定する硝酸銀滴定法によって測定した値を意味する。また、電子供与体化合物の含有量は、固体触媒を加水分解した後、芳香族溶剤を用いて内部電子供与体を抽出し、この溶液をガスクロマトグラフィーFID(Flame Ionization Detector、水素炎イオン化型検出器)法によって測定した値を意味する。
【0069】
固体触媒成分(A)の特に好ましい調製方法としては、以下の調製方法を挙げることができる。
【0070】
先ず、マグネシウム化合物(a)を沸点50~150℃の芳香族炭化水素化合物(不活性有機溶媒)に懸濁させて懸濁液を得る。次いで、得られた懸濁液にチタンハロゲン化合物(b)を接触させて、反応処理を行う。
【0071】
上記懸濁液にチタンハロゲン化合物(b)を接触させる前、または接触させた後に、内部電子供与性化合物(c)から選ばれる一種以上を、-20~130℃で接触させる。さらに必要に応じてポリシロキサンを接触させて反応処理を行う。
【0072】
上記調製方法においては、電子供与性化合物(c)を接触させる前、または後に、低温で熟成反応を行うことが望ましい。
【0073】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法においては、上記固体触媒成分(A)と、下記一般式(I);
AlQ3-p (I)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子またはハロゲン原子であり、pは、0<p≦3の実数である。)
で表される有機アルミニウム化合物(B)とを、相互に接触させる。
【0074】
上記一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物において、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基及びイソヘキシル基から選ばれる基を挙げることができ、エチル基またはイソブチル基が好ましい。
【0075】
上記一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物において、Qは、水素原子またはハロゲン原子であり、水素原子、塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0076】
また、上記一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物において、pは、0<p≦3の実数であり、2~3の実数が好ましく、2、2.5または3がより好ましい。
【0077】
このような有機アルミニウム化合物(B)の具体例としては、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムブロマイド、ジエチルアルミニウムハイドライドが挙げられ、1種または2種以上が使用できる。これらの中では、トリエチルアルミニウムまたはトリイソブチルアルミニウムが好ましい。
【0078】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、上記一般式(I)で表される特定の有機アルミニウム化合物(B)を使用することにより、固体触媒成分(A)を構成する電子供与性化合物に対する有機アルミニウム化合物(B)の作用を向上させ、固体触媒成分(A)を最適に活性化し得ると考えられる。そして、フタル酸エステル以外の内部電子供与性化合物(c)を含む固体触媒成分(A)を用いる場合において、不活性ガス雰囲気中でオレフィン類重合用触媒を調製した場合であっても、重合処理時に優れた触媒活性を示し、立体規則性に優れたオレフィン類重合体を製造し得ると考えられる。
【0079】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方は、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒中で、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものである。
すなわち、本出願書類において、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理するとは、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)を相互に接触させる前に、これ等の少なくとも一方と一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と接触処理することを意味する。
【0080】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理される対象は、固体触媒成分(A)であってもよいし、有機アルミニウム化合物(B)であってもよいし、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)の両者であってもよい。
すなわち、本発明において、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理した上で、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)を相互に接触処理する態様としては、以下の(1)~(3)の三通りの態様が挙げられる。
(1)固体触媒成分(A)と一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物とを予め接触させた後、得られた予備接触物と有機アルミニウム化合物(B)とを接触させる。
(2)有機アルミニウム化合物(B)と一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物とを予め接触させた後、得られた予備接触物と固体触媒成分(A)とを接触させる。
(3)固体触媒成分(A)と一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物とを予め接触させて予備接触物Aを得るとともに、有機アルミニウム化合物(B)と一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物とを予め接触させて予備接触物Bを得、得られた予備接触物Aと予備接触物Bとを接触させる。
【0081】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方に対して一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物を予め接触させる量は、オレフィン類重合用触媒の製造に供される固体触媒成分(A)を構成するチタン1モルあたり、1モル以上であることが好ましく、1~1,000,000モルであることが好ましく、10~100,000モルであることがより好ましく、100~50,000モルであることがさらに好ましい。
【0082】
なお、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)の両者が一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものである場合、上記接触量は、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)が一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と接触処理されるときの各々の接触量を意味する。
【0083】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法においては、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方に予め接触させる一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物の量を上記規定を満たすように制御することにより、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方の表面にポリオレフィンの保護膜を容易に形成することができる。
【0084】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物としては特に制限されないが、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、1,7-オクタジエン、1-ヘプテン、1-オクテン、ビニルシクロヘキサンおよびビニルシクロヘキセンから選ばれる一種以上であることが好ましく、エチレン、プロピレン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、1,5-ヘキサジエンおよび4-メチル-1-ペンテンから選ばれる一種以上であることがより好ましい。
【0085】
固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)に予備接触させる一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物は、本発明に係るオレフィン類重合用触媒による重合対象となるオレフィン類と同一のものであっていてもよいし、異なるものであってもよい。
【0086】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)および前記有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方と、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物とを予め接触させる際、係る接触処理は、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒中で行う。
【0087】
炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒としては、固体触媒成分(A)や有機アルミニウム化合物(B)と反応せず、-5℃~100℃の温度範囲で流動性を有するものが好ましく、具体的には、イコサン、ヘンイコサン、テトラコサン、パラフィン含有液、ミネラルオイル等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
なお、本出願書類において、上記パラフィンやミネラルオイルは、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物のみを含む(炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物の含有割合が100質量%である)ものとして取り扱うものとする。
【0088】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法で使用する有機溶媒は、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を、30質量%以上含むものであり、50~100質量%含むものであることが好ましく、80~100質量%含むものであることがより好ましい。
炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒としては、ミネラルオイルが好ましい。
【0089】
本出願書類において、ミネラルオイルとは、鉱物油、潤滑油、流動パラフィン等とも称され、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物を主成分として含むものであって、石油を蒸留し、固形パラフィンをのぞいて更に精製して得られる、ナフテン、イソパラフィン等も含む常温で液体の飽和炭化水素系の炭化水素混合物を意味する。
【0090】
本出願において、ミネラルオイルとしては、広い粘度範囲を有するものを使用することができ、例えば、分子量が300g/モル以上である、粘性が高いものを挙げることができる。
【0091】
なお、本出願書類において、有機溶媒中に含まれる、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上の含有割合は、有機溶媒として選択された化合物の純度や、混合割合から算出した値を意味する。
【0092】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、上記有機溶媒中における一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物の濃度は、0.0001~560モル/kgであることが好ましく、0.001~60モル/kgであることがより好ましく、0.01~6モル/kgであることがさらに好ましい。
【0093】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法においては、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)のいずれか一方と、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物とを上記有機溶媒中で予備接触させた上で、他方と相互に接触処理することが好ましい。
【0094】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)と一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物とを有機溶媒中で予備接触させた上で、有機アルミニウム化合物(B)と相互に接触させる態様として、具体的には、
マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分(A)、
一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物並びに
炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒からなるオレフィン類重合用触媒前駆体組成物(α)と、
下記一般式(I);
AlQ3-p (I)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子またはハロゲン原子であり、pは、0<p≦3の実数である。)
で表される有機アルミニウム化合物(B)とを相互に接触させる
態様を挙げることができる。
【0095】
上記オレフィン類重合用触媒前駆体組成物(α)中における固体触媒成分(A)の濃度は、0.001~50質量%であることが好ましく、0.001~30質量%であることがより好ましく、0.01~10質量%であることがさらに好ましい。
【0096】
また、本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、有機アルミニウム化合物(B)と一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物とを有機溶媒中で予備接触させた上で、固体触媒成分(A)と相互に接触させる態様として、具体的には、
下記一般式(I);
AlQ3-p (I)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子またはハロゲン原子であり、pは、0<p≦3の実数である。)
で表される有機アルミニウム化合物(B)、
一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物並びに
炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒からなるオレフィン類重合用触媒前駆体組成物(β)と、
マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分(A)とを相互に接触させる態様を挙げることができる。
【0097】
上記オレフィン類重合用触媒前駆体組成物(β)中における有機アルミニウム化合物(B)の濃度は、1~80質量%であることが好ましく、3~50質量%であることがより好ましく、5~30質量%であることがさらに好ましい。
【0098】
なお、本発明においては、上記オレフィン類重合用触媒前駆体組成物(α)又は上記オレフィン類重合用触媒前駆体組成物(β)の調製時における各構成成分の接触順序は特に限定されず、例えば、以下に示す(1)~(3)のいずれかの接触順序を挙げることができる。
(1)炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒と一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物とを混合し、得られた混合物に、固体触媒成分(A)及び有機アルミニウム化合物(B)の何れか一方を混合する。
(2)炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒と固体触媒成分(A)及び有機アルミニウム化合物(B)の何れか一方とを混合し、得られた混合物に、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物を混合する。
(3)固体触媒成分(A)及び有機アルミニウム化合物(B)の何れか一方と、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒とを同時に混合する。
【0099】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法においては、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方が、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒中で、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものである。
固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方と一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物とを特定の有機溶媒中に分散した状態で予備接触することにより、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)を各々安定した状態で使用現場へ簡便に搬送することができる。
また、上記のとおり固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)を各々安定した状態で使用現場に搬送した上で、使用直前に固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)を接触させてオレフィン類重合用触媒を調製することにより、調製直後から失活に至る全期間に亘ってオレフィン類の重合活性を有効に発揮して重合処理を経済的に行うことが可能になる。
さらに、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方と一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物とを特定の有機溶媒中に分散した状態で予備接触することにより、特段の添加、接触装置を設けることなく、一般的な混合装置を用いることにより予備接触処理を簡便に行うことができる。
【0100】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)のいずれか一方と、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物とを上記有機溶媒中で予備接触させる際、有機溶媒中におけるビニル基を有する炭化水素化合物の濃度は、上述した濃度と同様の濃度であることが好ましい。
【0101】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方に対して一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物を予め接触させる態様としては、特に制限されないが、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物を所定量収容した容器内で、接触対象となる固体触媒成分(A)または有機アルミニウム化合物(B)を所定量混合する方法を挙げることができる。
【0102】
固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)の両方に対して一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物を予め接触させる場合、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物を所定量収容した複数の容器内で、接触対象となる固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)のいずれかを各々所定量混合すればよい。
【0103】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方に対して一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物を予め接触させる場合、接触時間としては、15秒間以上が好ましく、1~300分間がより好ましく、1~60分間がさらに好ましい。
【0104】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方に対して一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物を予め接触させる場合、接触温度は、0~80℃が好ましく、10~60℃がより好ましく、20~50℃がさらに好ましい。
【0105】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)または有機アルミニウム化合物(B)は、通常、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物に接触した状態で(一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物とともに)オレフィン類重合用触媒の製造に供される。
【0106】
一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物が常温で液体である場合には、固体触媒成分(A)または有機アルミニウム化合物(B)は、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物から単離した上でオレフィン類重合用触媒の製造に供してもよい。
【0107】
一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理された固体触媒成分(A)または有機アルミニウム化合物(B)は、上記接触処理した後24時間以内にあるものをオレフィン類重合用触媒の反応に供することが好ましく、上記接触処理した直後のものをオレフィン類重合用触媒の反応に供することがより好ましい。
【0108】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方に対して一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物を予め接触させることにより、固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方の表面にポリオレフィンの保護膜を容易に形成することができると考えられる。
【0109】
その結果、有機アルミニウム化合物(B)による固体触媒成分(A)中のチタン活性点への過剰な活性化反応を抑制し、オレフィン類重合用触媒の失活を抑制しつつ安定した状態で重合反応に供し得ると考えられる。
【0110】
このため、本発明によれば、カルボン酸エステル残基に直結する芳香環構造を有する内部電子供与性化合物に代えて、カルボン酸エステル残基に直結する芳香環構造を有さない内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分を用いた場合であっても、触媒形成後、活性点が早期に失活することによる重合活性低下を抑制してオレフィン類の重合時に優れた触媒活性を示し、立体規則性に優れたオレフィン類重合体を容易に製造することができる。
【0111】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)と有機アルミニウム化合物(B)との相互の接触は、外部電子供与性化合物(C)の存在下に行ってもよいし、外部電子供与性化合物(C)の非存在下に行ってもよい。
【0112】
固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)の接触を、外部電子供与性化合物(C)の非存在下に行った場合は、固体触媒成分(A)と有機アルミニウム化合物(B)とを相互に接触させた後、これにより得られた接触処理物を、さらに外部電子供与性化合物(C)と相互に接触させることが好ましい。
【0113】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、外部電子供与性化合物(C)としては、上述した固体触媒成分(A)を構成する内部電子供与性化合物(c)と同様のものや有機ケイ素化合物等を挙げることができ、その中でも、カーボネート基、エーテル基およびエステル基から選ばれる一種以上の基を有する化合物や有機ケイ素化合物から選ばれる一種以上が好ましい。
【0114】
外部電子供与性化合物がカーボネート基を有する化合物である場合、2-エトキシエチルフェニルカーボネート、2-ベンジルオキシエチルフェニルカーボネート及び2-エトキシエチル-1-メチルカーボネートから選ばれる一種以上が好ましい。
【0115】
外部電子供与性化合物がエーテル基を有する化合物である場合、1,3ジエーテルが好ましく、特に、9,9-ビス(メトキシメチル)フルオレン及び2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3―ジメトキシプロパンから選ばれる一種以上が好ましい。
【0116】
外部電子供与性化合物がエステル基を有する化合物である場合、安息香酸メチル及び安息香酸エチルから選ばれる一種以上が好ましい。
【0117】
外部電子供与性化合物が有機ケイ素化合物である場合、Si-O-C結合を含む有機ケイ素化合物及びSi-N-C結合を含む有機ケイ素化合物から選ばれる一種以上が好ましい。
【0118】
上記有機ケイ素化合物としては、下記一般式(III);
Si(NR(OR4-(r+s)(III)
(式中、rは、0≦r≦4の整数であり、sは、0≦s≦4の整数であり、r+sは、0≦r+s≦4の整数である。R、R及びRは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐鎖状アルキル基、ビニル基、アリル基、置換又は未置換のシクロアルキル基、フェニル基及びアラルキル基から選ばれる一種である。R、R及びRは、ヘテロ原子を含有していてもよい。R、R及びRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。RとRは、結合して環形状を成していてもよい。Rは、炭素数1~4のアルキル基、ビニル基、アリル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数6~12のフェニル基及びアラルキル基から選ばれる一種である。Rは、ヘテロ原子を含有してもよい。)で表される化合物が挙げられる。
【0119】
上記一般式(III)中、Rとしては、炭素数1~10の直鎖状アルキル基、炭素数3~10の分岐鎖状アルキル基または炭素数5~8のシクロアルキル基が好ましく、炭素数1~8の直鎖状アルキル基、炭素数3~8の分岐鎖状アルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基が特に好ましい。
【0120】
また、上記一般式(III)中、R及びRとしては、炭素数1~10の直鎖状アルキル基、炭素数3~10の分岐鎖状アルキル基、または炭素数5~8のシクロアルキル基が好ましく、炭素数1~8の直鎖状アルキル基、炭素数3~8の分岐鎖状のアルキル基、または炭素数5~7のシクロアルキル基が特に好ましい。なお、RとRは、結合して環形状を形成していてもよく、この場合、環形状を形成する(NR)として基は、パーヒドロキノリノ基、パーヒドロイソキノリノ基が挙げられる。
【0121】
上記一般式(III)中、Rとしては、炭素数1~4のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ビニル基、アリル基及びアラルキル基から選ばれるいずれかであり、炭素数1~6の直鎖状アルキル基、又は炭素数3~6の分岐鎖状アルキル基が好ましく、特に炭素数1~4の直鎖状アルキル基又は炭素数3~4の分岐鎖状アルキル基が好ましい。
【0122】
上記一般式(III)で示される外部電子供与性化合物としては、フェニルアルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン、フェニルアルキルアルコキシシラン、シクロアルキルアルコキシシラン、シクロアルキル(アルキル)アルコキシシラン、(アルキルアミノ)アルコキシシラン、アルキル(アルキルアミノ)アルコキシシラン、アルキル(アルキルアミノ)シラン、アルキルアミノシラン等から選ばれる一種以上を挙げることができる。これらの中でも、フェニルトリメトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルエチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、イソプロピルイソブチルジメトキシシラン、ジイソペンチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、t-ブチルメチルビス(エチルアミノ)シラン、ビス(エチルアミノ)ジシクロヘキシルシラン、ジシクロペンチルビス(エチルアミノ)シラン、ビス(パーヒドロキノリノ)ジメトキシシラン、ビス(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシランから選ばれる一種以上が好ましく用いられる。
【0123】
上記外部電子供与性化合物(C)は、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0124】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、上記重合用触媒形成時における上記有機アルミニウム化合物(B)の接触量は、上記固体触媒成分(A)中のチタン原子1.0モル当たり、0.1~1000.0モルであることが好ましく、1.0~800.0モルであることがより好ましく、20.0~600.0モルであることがさらに好ましい。
【0125】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、上記重合用触媒形成時に外部電子供与性化合物(C)を使用する場合、外部電子供与性化合物(C)の接触量は、一般式(I)で表される有機アルミニウム化合物(B)1モル当たり、0.005~1.000モルであることが好ましく、0.080~0.500モルであることがより好ましく、0.010~0.300モルであることがさらに好ましい。
【0126】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、上記重合用触媒調製時における雰囲気中の不活性ガス濃度は、0.0~1.0mol/Lであることが好ましく、0.0~0.5mol/Lであることがより好ましく、0.0~0.1mol/Lであることがさらに好ましい。
【0127】
上記不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス及びアルゴンガス等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0128】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、上記重合用触媒は、重合対象となるオレフィン類の存在下に製造してもよいし、重合対象となるオレフィン類の非存在下に製造してもよい。
【0129】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、上記重合用触媒調製時における固体触媒成分(A)と有機アルミニウム化合物(B)とを接触させる際の温度は、40℃以下であることが好ましく、0℃~40℃であることがより好ましく、10℃~40℃であることがさらに好ましく、10℃~20℃であることが特にさらに好ましい。
【0130】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法において、固体触媒成分(A)と有機アルミニウム化合物(B)とを接触処理する際の処理時間は、10秒間~60分間が好ましく、30秒間~30分間がより好ましく、1分間~30分間がさらに好ましく、1分間~10分間が特に好ましい。
【0131】
上記重合用触媒調製時において、固体触媒成分(A)と有機アルミニウム化合物(B)と、必要に応じさらに外部電子供与性化合物(C)とを接触させると瞬時に反応が開始され、目的とするオレフィン類重合用触媒を形成することができる。
【0132】
通常、固体触媒成分に助触媒である有機アルミニウム化合物と必要に応じさらに外部電子供与性化合物とを接触させると急激に反応が進行し、固体触媒成分を構成する内部電子供与性化合物の脱離及び外部電子供与性化合物との交換や、助触媒である有機アルミニウム化合物による固体触媒成分の活性化が生じ、特に不活性ガス雰囲気下においては、過剰な反応により触媒活性点(チタン活性点)の失活が生じ易くなる。
【0133】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法においては、内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分(A)および有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方が、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものであることにより、固体触媒成分の表面にポリオレフィンの保護膜が形成され易くなる。その結果、有機アルミニウム化合物による固体触媒成分中のチタン活性点への過剰な活性化反応を抑制し、オレフィン類重合用触媒の失活を抑制しつつ安定した状態で重合反応に供し得ると考えられる。
【0134】
このため、本発明によれば、触媒形成後、活性点が早期に失活することによる重合活性低下を抑制してオレフィン類の重合時に優れた触媒活性を示し、立体規則性に優れたオレフィン類重合体を製造し得るオレフィン類重合用触媒の製造方法を提供することができる。
【0135】
本発明に係る製造方法においては、上記接触処理により、目的とするオレフィン類重合用触媒を調製することができる。
【0136】
<オレフィン類重合用触媒>
本発明に係るオレフィン類重合用触媒は、マグネシウム、チタン、ハロゲン及び内部電子供与性化合物を含む固体触媒成分(A)と、
下記一般式(I);
AlQ3-p (I)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子またはハロゲン原子であり、pは、0<p≦3の実数である。)
で表される有機アルミニウム化合物(B)と、
一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と
炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒とを有し、
前記一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物が、前記固体触媒成分(A)中に含まれるチタンの全重量に対して少なくとも0.1質量%含有されていることを特徴とするものである。
【0137】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒において、一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物の含有量は、下記式(α)により規定される、固体触媒成分(A)中に含まれるチタンの全重量に対して(固体触媒成分(A)中に含まれるチタン量を100質量%としたときに)、少なくとも0.1質量%であり(0.1質量%以上であり)、0.1~800.0質量%であることが好ましく、0.5~775.0質量%であることがより好ましく、0.8~750.0質量%で含有することがさらに好ましい。
一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物の含割合(質量%)={一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物の含有量(質量%)/固体触媒成分(A)中に含まれるチタンの全含有割合(質量%)}×100 (α)
【0138】
なお、本出願書類において、オレフィン類重合用触媒中における一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物の含有量は、予め溶媒成分を除去したオレフィン重合触媒を約1g秤量し、10%塩酸5mLと無水エタノール45mLの混合溶液中で15分間加水分解後、予め秤量済の濾紙(Whatman 2V Filter)を用いて固形物(ビニル基を有する炭化水素化合物)を回収し、蒸留水ですすいで塩酸成分を除去し、恒量に達するまで風乾後に秤量した固形物の重量wから、以下の式により求められる値を意味する。
一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物の含有量(質量%)
={固形物重量w(g)/(オレフィン類重合用触媒重量(g)-固形物重量w(g))}×100
【0139】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒において、固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)および一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物の詳細は上述した内容と同様である。
【0140】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒は、炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒を有するものであり、係る有機溶媒中に分散した状態にあるものが好ましい。
【0141】
炭素数20以上の飽和脂肪族炭化水素化合物から選ばれる一種以上を30質量%以上含む有機溶媒の具体例としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0142】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒は、上述した本発明に係るオレフィン類重合用触媒の製造方法により、好適に製造することができる。
【0143】
本発明によれば、触媒形成後、活性点が早期に失活することによる重合活性低下を抑制してオレフィン類の重合時に優れた触媒活性を示し、立体規則性に優れたオレフィン類重合体を製造し得るオレフィン類重合用触媒を提供することができる。
【0144】
<オレフィン類の重合方法>
本発明に係る製造方法で得られた重合用触媒または本発明に係る重合用触媒を用いてオレフィン類を重合する場合、上記重合用触媒を調製した後に重合用触媒を単離してオレフィン類と接触させるか、または上記重合用触媒を調製した後にそのまま(単離することなく)オレフィン類と接触させることにより重合処理に供することができる。
【0145】
オレフィン類の重合は、オレフィン類の単独重合であってもよいし共重合であってもよく、ランダム共重合であってもよいしブロック共重合であってもよい。
【0146】
重合対象となるオレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、ビニルシクロヘキサン、1-ヘキセン、1,5-ヘキサジエン等から選ばれる一種以上を挙げることができ、これらの中ではエチレン、プロピレン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン及び1,5-ヘキサジエンが好ましく、特にエチレン及びプロピレンが好適である。
【0147】
オレフィン類を共重合する場合、例えば、プロピレンとプロピレン以外のオレフィン類とを共重合する場合、プロピレンと共重合されるオレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、ビニルシクロヘキサン等から選ばれる一種以上を挙げることができ、とりわけ、エチレン、1-ブテンが好適である。
【0148】
例えば、プロピレンと他のオレフィン類とを共重合させる場合、プロピレンと少量のエチレンをコモノマーとして1段で重合するランダム共重合と、第一段階(第一重合槽)でプロピレンの単独重合を行い、第二段階(第二重合槽)またはそれ以上の多段階(多段重合槽)でプロピレンとエチレンの共重合を行う、所謂プロピレン-エチレンブロック共重合を挙げることができる。
【0149】
オレフィン類の重合温度は、室温以上200℃以下であることが好ましく、室温以上100℃以下であることがより好ましい。なお、ここでいう室温とは、20℃を意味する。
【0150】
オレフィン類の重合圧力は、10MPa以下であることが好ましく、6MPa以下であることがより好ましい。
【0151】
オレフィン類は、連続重合法で重合してもよいし、バッチ式重合法で重合してもよい。さらに、重合反応を1段で行ってもよいし、2段以上の多段で行ってもよい。
【0152】
上記オレフィン類の重合反応を行う場合、重合雰囲気としては、不活性ガス雰囲気または上記プロピレン等の重合対象となるオレフィン類のガス雰囲気の何れであってもよい。
【0153】
本発明に係る製造方法で得られた重合用触媒または本発明に係る重合用触媒によれば、触媒形成後、活性点が早期に失活することによる重合活性低下を抑制してオレフィン類の重合時に優れた触媒活性を示し、立体規則性に優れたオレフィン類重合体を容易に製造することができる。
【0154】
(製造例1)
<固体触媒成分の調製>
攪拌機を具備した容量500mLの丸底フラスコの内部を窒素ガスで充分に置換した後、上記丸底フラスコ内にジエトキシマグネシウム20g及びトルエン60mL、2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン(IIDMP)0.45mL(1.8ミリモル)を装入し、懸濁状のジエトキシマグネシウム含有液を得た。
【0155】
次いで、攪拌機を具備した容量500mLの丸底フラスコ内部を窒素ガスで充分に置換し、上記丸底フラスコ内にトルエン50mL及び四塩化チタン40mLを装入して、これらの混合溶液を得た。次いで、このトルエン-四塩化チタン混合溶液中に、上記ジエトキシマグネシウム含有液を添加し、懸濁液とした。
【0156】
次いで、得られた懸濁液を-6℃で30分間、昇温して10℃で30分間反応させた後、内部電子供与性化合物として2-エトキシエチル-1-エチルカーボネート(EEECA)2.9mL(18.1ミリモル)及び2-イソプロピル-2-イソペンチル-1,3-ジメトキシプロパン(IIDMP)0.9mL(3.6ミリモル)を添加し、得られた懸濁液を100℃まで昇温した後、撹拌しながら1.5時間反応させた。
【0157】
反応終了後、上記懸濁液から上澄みを抜き出して沈殿物を得、該沈殿物を90℃のトルエン150mLで4回洗浄して反応生成物を得た。得られた反応生成物に四塩化チタン20mL及びトルエン100mLを加えて100℃まで昇温し、15分反応させて反応生成物を得た。かかる処理を4回行った後、上記反応生成物を40℃のn-ヘプタン150mLで6回洗浄し、固液分離して固体触媒成分(A1)を得た。
【0158】
得られた固体触媒成分(A1)中のチタン原子の含有量を測定したところ2.1質量%であった。
なお、固体触媒成分(A1)中に含まれるチタン原子の含有量は、JIS 8311-1997「チタン鉱石中のチタン定量方法」に記載の方法(酸化還元滴定)に準じて測定した(以下の製造例についても、同様である)。
【0159】
(実施例1)
<重合用触媒の形成>
内容積2.0リットルの撹拌機付オートクレーブ内部の雰囲気を窒素で充分に置換し、該オートクレーブ内に、トリエチルアルミニウム(有機アルミニウム化合物(B))0.9ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CMDMS)(外部電子供与性化合物(C))0.09ミリモル、プロピレンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(プロピレン4.5ミリモル相当)(Sonneborn社製、Kaydol)を装入した後、固体触媒成分(A1)をチタン原子換算で0.0018ミリモル装入し(固体触媒成分(A1)を構成するチタン1モルあたり2500モルのプロピレンと接触し)、上記オートクレーブの内温20℃を5分間維持して重合用触媒を調製した。
【0160】
<ポリプロピレンの製造>
調製した重合用触媒を含む上記攪拌機付オートクレーブに対し、液化プロピレン12モルと水素ガス67ミリモルを装入し、20℃で5分間予備重合を行なった後に昇温し、70℃で60分間重合反応を行なうことでプロピレン単独重合体を得た。
【0161】
得られたプロピレン単独重合体形成時における重合活性(g-PP/(g-cat・時間))を下記式(iv)により算出した。その結果を表1に示す。
プロピレン単独重合活性(g-PP/(g-cat・時間))=得られたPP量(g)/(オレフィン類重合用触媒に含まれる固体触媒成分の質量(g)・1時間))・・・(iv)
【0162】
<重合活性上昇率>
重合用触媒の形成を窒素雰囲気下で添加剤なし(一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物の添加なし)の条件で行った場合(比較例1)の重合活性と比較し、下記式(v)に従って重合活性上昇率(%)を算出した。その結果を表1に示す。
重合活性上昇率(%)=(重合活性(添加剤あり)/重合活性(添加剤なし))×100・・・(v)
なお、以下の各実施例においても、各々重合活性(添加剤あり)を求めるとともに、重合用触媒の形成を窒素雰囲気中で行った比較例1の重合活性(添加剤なし)から、上記と同様にして重合活性上昇率を算出している。
【0163】
<重合体のp-キシレン可溶分の割合(XS)>
得られたプロピレン単独重合体(ホモPP)のp-キシレン可溶分の割合(XS)を以下の方法で求めた。
攪拌装置を具備したフラスコ内に、4.0gの重合体(ポリプロピレン)と、200mlのp-キシレンを装入し、外部温度をキシレンの沸点以上(約150℃)とすることにより、フラスコ内部のp-キシレンの温度を沸点下(137~138℃)に維持しつつ、2時間かけて重合体を溶解した。その後1時間かけて液温を23℃まで冷却し、不溶解成分と溶解成分とを濾過分別した。上記溶解成分の溶液を採取し、加熱減圧乾燥によりp-キシレンを留去し、得られた残留物の重量を求め、生成した重合体(ポリプロピレン)に対する相対割合(質量%)を算出して、キシレン可溶分(XS)とした。
【0164】
(実施例2)
プロピレンを混合したミネラルオイルの代わりに1-ヘキセンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(1-ヘキセン1.8ミリモル相当)(Sonneborn社製、Kaydol)を用いたこと以外は実施例1と同様にして重合用触媒を形成し、プロピレン単独重合体を製造して、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。なお、実施例2においては、固体触媒成分(A1)を構成するチタン1モルあたり1000モルの1-ヘキセンと接触した。
【0165】
(実施例3)
プロピレンを混合したミネラルオイルの代わりに1,5-ヘキサジエンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(1,5-ヘキサジエン0.90ミリモル)(Sonneborn社製、Kaydol)を用いたこと以外は実施例1と同様にして重合用触媒を形成し、プロピレン単独重合体を製造して、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。なお、実施例3においては、固体触媒成分(A1)を構成するチタン1モルあたり500モルの1,5-ヘキサジエンと接触した。
【0166】
(実施例4)
プロピレンを混合したミネラルオイルの代わりに4-メチル-1-ペンテンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(4-メチル-1-ペンテン1.8ミリモル)(Sonneborn社製、Kaydol)を用いたこと以外は実施例1と同様にして重合用触媒を形成し、プロピレン単独重合体を製造して、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。なお、実施例4においては、固体触媒成分(A1)を構成するチタン1モルあたり1000モルの4-メチル-1-ペンテンと接触した。
【0167】
(比較例1)
重合用触媒の形成時におけるオートクレーブ内にプロピレンを混合したミネラルオイルに代えてミネラルオイル8.7g(10mL)を装入した以外は、実施例1と同様にして重合用触媒を形成し、プロピレン単独重合体を製造して、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0168】
(実施例5)
内容積2.0リットルの撹拌機付オートクレーブ内部の雰囲気を窒素で充分に置換し、該オートクレーブ内に、トリエチルアルミニウム(有機アルミニウム化合物(B))0.9ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CMDMS)(外部電子供与性化合物(C))0.09ミリモルを装入した後、さらに、予めプロピレンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(プロピレン4.5ミリモル相当)(Sonneborn社製、Kaydol)に固体触媒成分(A1)をチタン原子換算で0.0018ミリモルを加えた(固体触媒成分(A1)を構成するチタン1モルあたり2500モルのプロピレンと接触した)予備接触物を装入し、上記オートクレーブの内温20℃を5分間維持して重合用触媒を調製した以外は、実施例1と同様にしてプロピレン単独重合体を製造して、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0169】
(実施例6)
プロピレンを混合したミネラルオイルの代わりに1-ヘキセンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(1-ヘキセン1.8ミリモル相当)(Sonneborn社製、Kaydol)を用いたこと以外は実施例5と同様にして重合用触媒を形成し、プロピレン単独重合体を製造して、実施例1と同様に評価した。なお、実施例6においては、固体触媒成分(A1)を構成するチタン1モルあたり1000モルの1-ヘキセンと接触した。
【0170】
(実施例7)
プロピレンを混合したミネラルオイルの代わりに1,5-ヘキサジエンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(1,5-ヘキサジエン0.90ミリモル)(Sonneborn社製、Kaydol)を用いたこと以外は実施例5と同様にして重合用触媒を形成し、プロピレン単独重合体を製造して、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。なお、実施例7においては、固体触媒成分(A1)を構成するチタン1モルあたり500モルの1,5-ヘキサジエンと接触した。
【0171】
(実施例8)
プロピレンを混合したミネラルオイルの代わりに4-メチル-1-ペンテンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(4-メチル-1-ペンテン1.8ミリモル)(Sonneborn社製、Kaydol)を用いたこと以外は実施例5と同様にして重合用触媒を形成し、プロピレン単独重合体を製造して、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。なお、実施例8においては、固体触媒成分(A1)を構成するチタン1モルあたり1000モルの4-メチル-1-ペンテンと接触した。
【0172】
(実施例9)
内容積2.0リットルの撹拌機付オートクレーブ内部の雰囲気を窒素で充分に置換し、該オートクレーブ内に、トリエチルアルミニウム(有機アルミニウム化合物(B))0.9ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CMDMS)(外部電子供与性化合物(C))0.09ミリモル、プロピレンを混合したミネラルオイル4.4g(5mL)(プロピレン4.5ミリモル相当)(Sonneborn社製、Kaydol)を装入した後、予めプロピレンを混合したミネラルオイル4.4g(5mL)(プロピレン4.5ミリモル相当)(Sonneborn社製、Kaydol)に固体触媒成分(A1)をチタン原子換算で0.0018ミリモルを加えた(固体触媒成分(A1)を構成するチタン1モルあたり2500モルのプロピレンと接触した)予備接触物を装入し、上記オートクレーブの内温20℃を5分間維持して重合用触媒を調製した以外は、実施例1と同様にしてプロピレン単独重合体を製造して、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0173】
(実施例10)
内容積2.0リットルの撹拌機付オートクレーブ内部の雰囲気を窒素で充分に置換し、該オートクレーブ内に、トリエチルアルミニウム(有機アルミニウム化合物(B))0.9ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CMDMS)(外部電子供与性化合物(C))0.09ミリモル、1-ヘキセンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(1-ヘキセン0.9ミリモル相当)(Sonneborn社製、Kaydol)を装入した後、予め1-ヘキセンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(1-ヘキセン0.9ミリモル相当)(Sonneborn社製、Kaydol)に固体触媒成分(A1)をチタン原子換算で0.0018ミリモルを加えた(固体触媒成分(A1)を構成するチタン1モルあたり1000モルの1-ヘキセンと接触した)予備接触物を装入し、上記オートクレーブの内温20℃を5分間維持して重合用触媒を調製した以外は、実施例1と同様にしてプロピレン単独重合体を製造して、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0174】
(実施例11)
内容積2.0リットルの撹拌機付オートクレーブ内部の雰囲気を窒素で充分に置換し、該オートクレーブ内に、トリエチルアルミニウム(有機アルミニウム化合物(B))0.9ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CMDMS)(外部電子供与性化合物(C))0.09ミリモル、1,5-ヘキサジエンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(1,5-ヘキサジエン0.45ミリモル相当)(Sonneborn社製、Kaydol)を装入した後、予め1,5-ヘキサジエンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(1,5-ヘキサジエン0.45ミリモル相当)(Sonneborn社製、Kaydol)に固体触媒成分(A1)をチタン原子換算で0.0018ミリモルを加えた(固体触媒成分(A1)を構成するチタン1モルあたり500モルの1,5-ヘキサジエンと接触した)予備接触物を装入し、上記オートクレーブの内温20℃を5分間維持して重合用触媒を調製した以外は、実施例1と同様にしてプロピレン単独重合体を製造して、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0175】
(実施例12)
内容積2.0リットルの撹拌機付オートクレーブ内部の雰囲気を窒素で充分に置換し、該オートクレーブ内に、トリエチルアルミニウム(有機アルミニウム化合物(B))0.9ミリモル、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン(CMDMS)(外部電子供与性化合物(C))0.09ミリモル、4-メチル-1-ペンテンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(4-メチル-1-ペンテン0.9ミリモル相当)(Sonneborn社製、Kaydol)を装入した後、予め4-メチル-1-ペンテンを混合したミネラルオイル8.7g(10mL)(4-メチル-1-ペンテン0.9ミリモル相当)(Sonneborn社製、Kaydol)に固体触媒成分(A1)をチタン原子換算で0.0018ミリモルを加えた(固体触媒成分(A1)を構成するチタン1モルあたり1000モルの4-メチル-1-ペンテンと接触した)予備接触物を装入し、上記オートクレーブの内温20℃を5分間維持して重合用触媒を調製した以外は、実施例1と同様にしてプロピレン単独重合体を製造して、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0176】
【表1】
【0177】
表1の結果から、実施例1~実施例12で得られたオレフィン類重合用触媒は、固体触媒成分(A)および特定の有機アルミニウム化合物(B)から選ばれる少なくとも一方が、特定の有機溶媒中で一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されたものであることから、触媒形成後、活性点が早期に失活することによる重合活性低下を同等以上に抑制してオレフィン類の重合時に優れた触媒活性を示し、立体規則性に優れたオレフィン類重合体を製造し得ることが分かる。
【0178】
これに対して、表1の結果から、比較例1で得られたオレフィン類重合用触媒は、固体触媒成分(A)および特定の有機アルミニウム化合物(B)のいずれもが、特定の有機溶媒中で一つ以上のビニル基を有する炭化水素化合物と予め接触処理されていないことから、有機アルミニウム化合物による過剰な反応により触媒活性点の失活が進行して、所望の触媒活性を発揮することができず、得られる重合体のXSが高く立体規則性に劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明によれば、触媒形成後、活性点が早期に失活することによる重合活性低下を抑制してオレフィン類の重合時に優れた触媒活性を示し、立体規則性に優れたオレフィン類重合体を製造し得るオレフィン類重合用触媒の製造方法オレフィン類重合用触媒を提供することができる。