(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビニル懸濁重合用分散剤として用いるポリビニルアルコール、該ポリビニルアルコールを含む分散剤、及び該ポリビニルアルコールを用いたポリ塩化ビニルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 16/06 20060101AFI20220214BHJP
C08F 2/20 20060101ALI20220214BHJP
C08F 8/06 20060101ALI20220214BHJP
C08F 8/12 20060101ALI20220214BHJP
C08F 14/06 20060101ALI20220214BHJP
C08F 18/08 20060101ALI20220214BHJP
【FI】
C08F16/06
C08F2/20
C08F8/06
C08F8/12
C08F14/06
C08F18/08
(21)【出願番号】P 2020511012
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013715
(87)【国際公開番号】W WO2019189625
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-08-24
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511040573
【氏名又は名称】セキスイ・スペシャルティ・ケミカルズ・アメリカ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 洋平
(72)【発明者】
【氏名】日下 康成
(72)【発明者】
【氏名】中島 奈未
(72)【発明者】
【氏名】山口 英裕
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/141256(WO,A1)
【文献】特公昭48-038792(JP,B1)
【文献】特開平03-086746(JP,A)
【文献】国際公開第2012/043280(WO,A1)
【文献】特開2012-077185(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106188354(CN,A)
【文献】特開2008-297527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 16/06
C08F 8/12
C08F 18/08
C08F 14/06
C08F 8/06
C08F 2/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化度が60~80mol%、
残存エステル基のブロックキャラクターが0.4~0.6、
1H-NMRスペクトルにおいて下記(a)が0.04~0.1であり、下記(b)が0.01~0.2であるポリビニルアルコールであり、
0.1質量%水溶液の波長320nmのUV吸光度が0.18以上0.3未満である、ポリ塩化ビニル懸濁重合用分散剤として用いるポリビニルアルコール。
(a)3.83~3.87ppmに確認されるピークの3.65~4.05ppmまでの積分値を100とした場合に、5.50~5.54ppmに確認されるピークの5.42~5.62ppmまでの積分値。
(b)3.83~3.87ppmに確認されるピークの3.65~4.05ppmまでの積分値を100とした場合に、5.86~5.90ppmに確認されるピークの5.76~5.98ppmまでの積分値。
【請求項2】
カルボニル基指標が0.5以上である、請求項1に記載のポリビニルアルコール。
【請求項3】
1H-NMRスペクトルにおいて下記(c)が0.2~0.7であり、下記(d)が0.1~0.2である、請求項1又は2に記載のポリビニルアルコール。
(c)3.83~3.87ppmに確認されるピークの3.65~4.05ppmまでの積分値を100とした場合に、6.51~6.55ppmに確認されるピークの5.98~7.09ppmまでの積分値。
(d)3.83~3.87ppmに確認されるピークの3.65~4.05ppmまでの積分値を100とした場合に、7.39~7.41ppmに確認されるピークの7.09~7.72ppmまでの積分値。
【請求項4】
4質量%水溶液の粘度が4~10cPである、請求項1~3のいずれかに記載のポリビニルアルコール。
【請求項5】
曇点が35~50℃である、請求項1~4のいずれかに記載のポリビニルアルコール。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のポリビニルアルコールを含む分散剤。
【請求項7】
下記工程(1)~(3)を含む製造方法で製造される請求項1~5のいずれかに記載のポリビニルアルコール
の製造方法。
ビニルエステル単量体を重合しポリビニルエステルを製造する工程(1)、
該ポリビニルエステルを部分ケン化して、部分ケン化されたポリビニルエステルを製造する工程(2)、
部分ケン化されたポリビニルエステルを熱処理する工程(3)。
【請求項8】
ビニルエステル単量体が酢酸ビニル単量体である、請求項7に記載のポリビニルアルコール
の製造方法。
【請求項9】
前記部分ケン化を過酸化物及びアルカリ化合物存在下で行う、請求項7又は8に記載のポリビニルアルコール
の製造方法。
【請求項10】
前記過酸化物が過酸化水素であり、前記アルカリ化合物が水酸化ナトリウムである、請求項9に記載のポリビニルアルコール
の製造方法。
【請求項11】
請求項1~5
のいずれかに記載のポリビニルアルコール又は請求項7~10のいずれかに記載の
製造方法により製造したポリビニルアルコール、塩化ビニル単量体、及び水を混合して懸濁液とする工程、及び塩化ビニル単量体を重合させる工程を含む、ポリ塩化ビニルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル懸濁重合用分散剤として用いるポリビニルアルコール、該ポリビニルアルコールを含む分散剤、及び該ポリビニルアルコールを用いたポリ塩化ビニルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニルは、塩化ビニル単量体を懸濁重合することによって一般に製造されている。懸濁重合は、ポリビニルアルコールなどの分散剤の存在下において、塩化ビニル単量体を水中に分散させて行われている。
分散剤は、重合時の発泡を抑制する観点、所望の粒子径及び粒子径分布のポリ塩化ビニルを製造する観点などから種々検討されている。
特開2004-250695号公報(以下、「特許文献1」という)では、分子内にカルボニル基を有し、特定範囲のブロックキャラクターを有し、かつ特定の紫外線吸収スペクトルを示すポリビニルアルコール系分散剤が記載されている。国際公開2016/141256号(以下、「特許文献2」という)では、ケン化度、320nmの吸光度、ブロックキャラクター、曇点などを特定の範囲にしたポリビニルアルコールを含む分散剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-250695号公報
【文献】国際公開2016/141256号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の分散剤を用いた場合、製造されるポリ塩化ビニルの粒子径が比較的大きい傾向があり、分散性をより向上させることが必要とされる。また、特許文献2に記載の分散剤を用いた場合は、分散性が高く製造されるポリ塩化ビニルの粒子径は細かくなりすぎ取扱が困難となる。更に、得られるポリ塩化ビニルの空隙率が低くなり加工性が失われる。添加量を少なくして粒子径を適度に調整すると更に空隙率が低くなり、塩化ビニル重合時の発泡が多く確認され、生産性の点で改良の余地がある。
本発明は、このような従来技術の課題に鑑み、分散性が良好であり、かつ重合時の発泡を抑制でき、かつ取扱い性及び加工性の良好なポリ塩化ビニルを得ることができる、ポリ塩化ビニル懸濁重合用分散剤として用いるポリビニルアルコール、及び該ポリビニルアルコールを用いたポリ塩化ビニルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]ケン化度が60~80mol%、ブロックキャラクターが0.4~0.6、1H-NMRスペクトルにおいて下記(a)が0.04~0.1であり、下記(b)が0.01~0.2であるポリビニルアルコールであり、0.1質量%水溶液の波長320nmのUV吸光度が0.18以上0.3未満である、ポリ塩化ビニル懸濁重合用分散剤として用いるポリビニルアルコール。
(a)3.83~3.87ppmに確認されるピークの3.65~4.05ppmまでの積分値を100とした場合に、5.50~5.54ppmに確認されるピークの5.42~5.62ppmまでの積分値。
(b)3.83~3.87ppmに確認されるピークの3.65~4.05ppmまでの積分値を100とした場合に、5.86~5.90ppmに確認されるピークの5.76~5.98ppmまでの積分値。
[2]カルボニル基指標が0.5以上である、上記[1]に記載のポリビニルアルコール。
[3]1H-NMRスペクトルにおいて下記(c)が0.2~0.7であり、下記(d)が0.1~0.2である、上記[1]又は[2]に記載のポリビニルアルコール。
(c)3.83~3.87ppmに確認されるピークの3.65~4.05ppmまでの積分値を100とした場合に、6.51~6.55ppmに確認されるピークの5.98~7.09ppmまでの積分値。
(d)3.83~3.87ppmに確認されるピークの3.65~4.05ppmまでの積分値を100とした場合に、7.39~7.41ppmに確認されるピークの7.09~7.72ppmまでの積分値。
[4]4質量%水溶液の粘度が4~10cPである、上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリビニルアルコール。
[5] 曇点が35~50℃である、上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリビニルアルコール。
[6]上記[1]~[5]のいずれかに記載のポリビニルアルコールを含む分散剤。
[7]下記工程(1)~(3)を含む製造方法で製造される上記[1]~[5]のいずれかに記載のポリビニルアルコール。
ビニルエステル単量体を重合しポリビニルエステルを製造する工程(1)、
該ポリビニルエステルを部分ケン化して、部分ケン化されたポリビニルエステルを製造する工程(2)、
部分ケン化されたポリビニルエステルを熱処理する工程(3)。
[8]ビニルエステル単量体が酢酸ビニル単量体である、上記[7]に記載のポリビニルアルコール。
[9]前記部分ケン化を過酸化物及びアルカリ化合物存在下で行う、上記[7]又は[8]に記載のポリビニルアルコール。
[10]前記過酸化物が過酸化水素であり、前記アルカリ化合物が水酸化ナトリウムである、上記[9]に記載のポリビニルアルコール。
[11]上記[1]~[5]、[7]~[10]のいずれかに記載のポリビニルアルコール、塩化ビニル単量体、及び水を混合して懸濁液とする工程、及び塩化ビニル単量体を重合させる工程を含む、ポリ塩化ビニルの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、分散性が良好であり、重合時の発泡を抑制でき、かつ得られるポリ塩化ビニルの取扱い性及び加工性を良好とすることができる、ポリ塩化ビニル懸濁重合用分散剤として用いるポリビニルアルコール、及び該ポリビニルアルコールを用いたポリ塩化ビニルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】各実施例、比較例で得たポリビニルアルコールS1~S4、C1についての
1H-NMRスペクトルである。
【
図2】
図1の
1H-NMRスペクトルの一部分を拡大した図である。
【
図3】ポリビニルアルコールS1の
1H-NMRスペクトルにおける(a)~(d)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[ポリビニルアルコール]
本発明のポリビニルアルコールは、ポリ塩化ビニル懸濁重合用分散剤として使用されるものである。該ポリビニルアルコールは、ポリビニルエステルを部分ケン化する工程を経て製造される。例えば、ポリビニルエステルとしてポリ酢酸ビニルを用い、これを部分ケン化する工程を経て製造した本発明のポリビニルアルコールは、次のような式で表される構成単位を有している。
【化1】
上記式において、OAcは残存エステル基であるアセトキシ基を表し、x、y、zは、ポリマー中のそれぞれの構成単位のモル分率を表し、x+y+z=1となり、x、y、zはそれぞれ0~1であり、x、y、zはいずれも0ではない。上記式では、分子鎖中にアセトキシ基、水酸基、カルボニル基、カルボニル基に近接した二重結合を有している。二重結合は、単一の二重結合及び/又は2以上の二重結合を有する共役二重結合である。nは1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましい。本発明は、これら各構造の量や、配列などが、分散剤としての性能に関係すると考え、これらを反映する、ケン化度、ブロックキャラクター、320nmの吸光度、
1H-NMRスペクトルの面積比等を特定範囲とすることで、分散性が良好であり、かつ重合時の発泡を抑制できるポリビニルアルコールが得られることを見出した発明である。
以下、本発明のポリビニルアルコールを詳細に説明する。
【0009】
(ケン化度)
本発明のポリビニルアルコールは、ケン化度が60~80mol%である。ケン化度をこのような範囲とすることで、ポリビニルアルコールをポリ塩化ビニル懸濁用分散剤として用いたときの分散性が良好となる。分散性をより良好とする観点から、ケン化度は70~80mol%であることが好ましい。
なお、ケン化度はJIS K6726に準じて測定することができる。
【0010】
(ブロックキャラクター)
本発明のポリビニルアルコールの残存エステル基のブロックキャラクターは0.4~0.6である。このような値であると、ポリビニルアルコールをポリ塩化ビニル懸濁用分散剤として用いたときの分散性が良好となる。これは、残存エステル基の分布が比較的ブロック性が高いことで、安定なエマルジョン又は懸濁液を形成させやすいからと考えられる。より分散性を良好にする観点から、ポリビニルアルコールの残存エステル基のブロックキャラクターは0.4~0.5であることが好ましい。
なお、ブロックキャラクターは通常0~2の値をとり、0に近いほど残存エステル基分布のブロック性が高いことを示し、1に近いほどランダム性が高いことを示し、2に近いほど交互性が高いことを示している。
残存エステル基のブロックキャラクター(η)とは、ポリビニルアルコールの残存エステル基の分布を示す指標であり、1H-NMRスペクトル中のメチン領域に現れるピークの解析により求められる。前記のピークは、隣接する置換基が水酸基(O)、または残存エステル基(A)の3連鎖構造によりそれぞれ3本に分裂する。具体的には、残存エステル基ピーク中心において(OAO)、(AAO)、(AAA)、水酸基中心において(OOO)、(AOO)、(AOA)となり、その吸収強度は構造の存在比に比例している。ブロックキャラクター(η)は、下記(式1)で表される。尚、残存エステル基(A)は、例えば、原料として酢酸ビニルが使用された場合は、残存アセトキシ基(OAc基)を示す。
【0011】
【数1】
NMR測定の際、溶媒および試料中に混入する水分が干渉し、スペクトルの面積が正確に求められないことがある。その際、試料に0.5wt%の重トリフルオロ酢酸を添加し、水ピークをシフトさせる、あるいはNMR測定時に、に水のピークを飽和させるパルス系列を追加することで水のピークを除去することがある。
また、測定・解析の詳細に関しては、先行文献(Macromolecules、1982、15、1071)に記載されている。
【0012】
(UV吸光度)
本発明のポリビニルアルコールの0.1質量%水溶液の波長320nmのUV吸光度は、0.18以上0.30未満である。ポリビニルアルコールの上記UV吸光度が0.18未満であると、ポリ塩化ビニル懸濁重合用分散剤として用いたときの分散性が悪くなりやすい。ポリビニルアルコールの上記UV吸光度が0.30以上であると、得られるポリ塩化ビニルの平均粒径が小さくなりすぎて、取扱い性が悪くなる傾向がある。また、UV吸光度が0.30以上のポリビニルアルコールの使用量を低減した場合は、得られるポリ塩化ビニルの平均粒径は大きくなるものの、空隙率が低くなり、加工性が悪くなる傾向がある。さらに、UV吸光度が0.30以上のポリビニルアルコールの使用量を低減した場合は、塩化ビニル重合時の発泡が多くなりやすい。
分散性を良好にし、重合時の発泡を低減し、かつ取扱い性及び加工性の良好なポリ塩化ビニルを得る観点から、ポリビニルアルコールの0.1質量%水溶液の波長320nmのUV吸光度は、好ましくは0.20以上0.29以下である。
本発明のポリビニルアルコールは上記したとおり、二重結合を有している。該二重結合の一部は、下記式(2)及び(3)に示すように、カルボニル基に近接したポリマー主鎖に沿って共役二重結合を形成している。
【0013】
【化2】
式(2)は、ポリビニルアルコール中のカルボニル基に近接した2つの二重結合を有する共役二重結合部位を表し、式(3)はポリビニルアルコール中のカルボニル基に近接した3つの二重結合を有する共役二重結合部位を表している。波長320のUV吸光度は、上記(3)の3つの二重結合を有する共役二重結合の量を反映された値であり、波長320nmのUV吸光度が大きいほど、ポリビニルアルコール中に3つの二重結合を有する共役二重結合部位が多いことを意味し、このことは同時に、該共役二重結合に近接しているカルボニル基が多いことも意味する。上記(3)のような特定の構造が一定量存在するポリビニルアルコールは、塩化ビニル単量体と相互作用しやすくなり、分散性が良好になり、かつ塩化ビニル重合時の発泡性を低減できるものと考えられる。
【0014】
(1H-NMRスペクトル)
本発明のポリビニルアルコールは、1H-NMRスペクトルにおいて下記(a)が0.04~0.1であり、下記(b)が0.01~0.2である。
(a)3.83~3.87ppmに確認されるピークの3.65~4.05ppmまでの積分値を100とした場合に、5.50~5.54ppmに確認されるピークの5.42~5.62ppmまでの積分値。
(b)3.83~3.87ppmに確認されるピークの3.65~4.05ppmまでの積分値を100とした場合に、5.86~5.90ppmに確認されるピークの5.76~5.98ppmまでの積分値。
ポリビニルアルコールの1H-NMRスペクトルにおいて、上記(a)における5.50~5.54ppm、上記(b)における5.86~5.90ppmに確認されるピークは、上記したカルボニル基に近接した二重結合(共役二重結合を含む)を形成する炭素に結合したプロトンに起因するピークである。該二重結合は、ポリマーの端部ではなく、ポリマーの内部に存在する二重結合である。したがって、(a)及び(b)を満足することで、ポリビニルアルコール分子鎖中に、カルボニル基に近接した二重結合が一定量存在することを意味する。後述する(c)の6.51~6.55ppm、(d)の7.39~7.41ppmに確認されるピークも同様である。
【0015】
≪(a)≫
本発明のポリビニルアルコールは、1H-NMRスペクトルにおいて5.50~5.54ppmにピークを有し、該ピークの5.42~5.62ppmまでの積分値は、3.83~3.87ppmに確認されるピークの3.65~4.05ppmまでの積分値(以下単に基準ピーク積分値ともいう)を100とした場合に0.04~0.1である。このような範囲であると、ポリビニルアルコールをポリ塩化ビニル懸濁用分散剤として用いたときの分散性が良好となる。
5.50~5.54ppmに確認されるピークの5.42~5.62ppmまでの積分値は、基準ピーク積分値を100とした場合に、好ましくは0.05~0.08である。
なお、5.50~5.54ppmに明瞭にピークが確認されない場合でも、5.42~5.62ppmまでの積分値を算出することで(a)における積分値とすることができる。
5.50~5.54ppmに確認されるピークの幅は、高磁場側を例えば5.42ppm、5.43ppm、又は5.44ppm程度とし、低磁場側を例えば5.59ppm、5.60ppm、5.61ppm、又は5.62ppm程度とし、これら低磁場側と高磁場側の範囲に含まれればよい。
同様に、3.83~3.87ppmに確認されるピークの幅は、高磁場側を例えば3.65ppm、3.7ppm程度とし、低磁場側を例えば4.0ppm、4.05ppm程度とし、これら低磁場側と高磁場側の範囲に含まれればよい。
【0016】
≪(b)≫
本発明のポリビニルアルコールは、1H-NMRスペクトルにおいて5.86~5.90ppmに確認されるピークの5.76~5.98ppmまでの積分値が、基準ピーク積分値を100とした場合に0.01~0.2である。このような範囲であると、ポリビニルアルコールをポリ塩化ビニル懸濁用分散剤として用いたときの分散性が良好となる。5.86~5.90ppmに確認されるピークの5.76~5.98ppmまでの積分値は、基準ピーク積分値を100とした場合に、好ましくは0.015~0.15である。
なお、5.86~5.90ppmに明瞭にピークが確認されない場合でも、5.76~5.98ppmまでの積分値を算出することで(b)における積分値とすることができる。
5.86~5.90ppmに確認されるピークの幅は、高磁場側を例えば5.76ppm、又は5.80ppm程度とし、低磁場側を例えば5.96ppm、又は5.98ppm程度とし、これら低磁場側と高磁場側の範囲に含まれればよい。
【0017】
本発明のポリビニルアルコールは、1H-NMRスペクトルにおいて、さらに下記(c)が0.2~0.7であることが好ましく、下記(d)が0.1~0.2であることが好ましい。
(c)3.83~3.87ppmに確認されるピークの3.65~4.05ppmまでの積分値(基準ピーク積分値)を100とした場合に、6.51~6.55ppmに確認されるピークの5.98~7.09ppmまでの積分値。
(d)3.83~3.87ppmに確認されるピークの3.65~4.05ppmまでの積分値(基準ピーク積分値)を100とした場合に、7.39~7.41ppmに確認されるピークの7.09~7.72ppmまでの積分値。
【0018】
≪(c)≫
本発明のポリビニルアルコールは、1H-NMRスペクトルにおいて6.51~6.55ppmに確認されるピークの5.98~7.09ppmまでの積分値が、基準ピーク積分値を100とした場合に0.2~0.7であることが好ましい。このような範囲であると、ポリビニルアルコールをポリ塩化ビニル懸濁用分散剤として用いたときの分散性が良好となる。6.51~6.55ppmに確認されるピークの5.98~7.09ppmまでの積分値が、基準ピーク積分値を100とした場合に、より好ましくは0.25~0.6である。
なお、6.51~6.55ppmに明瞭にピークが確認されない場合でも、5.98~7.09ppmまでの積分値を算出することで(c)における積分値とすることができる。
6.51~6.55ppmに確認されるピークの幅は、高磁場側を例えば5.98ppm、又は6.0ppm程度とし、低磁場側を例えば7.0ppm、又は7.09ppm程度とし、これら低磁場側と高磁場側の範囲に含まれればよい。
【0019】
≪(d)≫
本発明のポリビニルアルコールは、1H-NMRスペクトルにおいて7.39~7.41ppmに確認されるピークの7.09~7.72ppmまでの積分値が、基準ピーク積分値を100とした場合に0.1~0.2であることが好ましい。このような範囲であると、ポリビニルアルコールをポリ塩化ビニル懸濁用分散剤として用いたときの分散性が良好となる。7.39~7.41ppmに確認されるピークの7.09~7.72ppmまでの積分値は、基準ピーク積分値を100とした場合に、より好ましくは0.12~0.18である。
なお、7.39~7.41ppmに明瞭にピークが確認されない場合でも、7.09~7.72ppmまでの積分値を算出することで(d)における積分値とすることができる。
7.39~7.41ppmに確認されるピークの幅は、高磁場側を例えば7.09ppm、又は7.12ppm程度とし、低磁場側を例えば7.68ppm、又は7.72ppm程度とし、これら低磁場側と高磁場側の範囲に含まれればよい。
なお、1H-NMRスペクトルにおける上記(a)~(d)の解析は、国際公開第2016/14256号の記載に準じるものである。
1H-NMRの測定条件は、実施例に記載したとおりである。
【0020】
(カルボニル基指標)
本発明のポリビニルアルコールのカルボニル基指標は、特に制限されないが、好ましくは0.5以上である。カルボニル基指標は、ポリビニルアルコール中に存在するカルボニル基の量に基づく指標であり、その値が大きいほど、ポリビニルアルコール中のカルボニル基の量が多くなる。カルボニル基指標は、二重結合に近接したカルボニル基の量だけではなく、二重結合に近接していないカルボニル基の量も反映した値となる。一方、上記した波長320nmのUV吸光度は、カルボニル基に隣接した共役二重結合の量が反映される。
本発明のポリビニルアルコールは、波長320nmのUV吸光度を上記した特定の値にし、かつカルボニル基指標を0.5以上とすることで、より分散性を良好にし、塩化ビニル重合時の発泡を抑制しやすくなる。
カルボニル基指標は、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは0.6以上である。
カルボニル基指標の測定方法は次のとおりである。カルボニル基指標の評価は、2.4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)の、カルボニル基への選択的反応性と、その呈色性を用いたHPLCクロマトグラム(検出器:UVスペクトル)の定量評価により行うことができる。カルボニル基指標の測定方法の詳細は実施例に記載するとおりである。
【0021】
本発明のポリビニルアルコールの粘度は特に制限されないが、懸濁液の安定性等の観点から、ポリビニルアルコールを4質量%水溶液の粘度が4~10cPであることが好ましく、4.5~7.0cPであることがより好ましい。粘度はBrookfield粘度計(型 LVDV-II+Pro)を用いて、#18スピンドルを100rpmで使用し、20℃にて求めることができる。
本発明のポリビニルアルコールの曇点は、特に限定されないが、好ましくは35~50℃であり、より好ましくは38~45℃である。曇点は、水溶液中でポリビニルアルコールの溶解度が部分的に失われる温度であり、溶液に曇った外観を与えるものである。
【0022】
本発明のポリビニルアルコールは、該ポリビニルアルコールを含有する分散剤とすることができる。さらに、本発明のポリビニルアルコールを用いて、該ポリビニルアルコール、塩化ビニル単量体、及び水を含有する分散液とすることもできる。
【0023】
本発明のポリビニルアルコールは、その製造方法は限定されないが、以下の工程(1)~(3)を含む製造方法で製造されたものであることが好ましい。
工程(1)ビニルエステル単量体を重合しポリビニルエステルを製造する工程、
工程(2)該ポリビニルエステルを部分ケン化して、部分ケン化されたポリビニルエステルを製造する工程、
工程(3)部分ケン化されたポリビニルエステルを熱処理する工程
【0024】
工程(1)は、ビニルエステル単量体を重合しポリビニルエステルを製造する工程である。
【化3】
上記反応式(I)は、工程(1)を説明するために用いる簡略化された反応式であり、ビニルエステル単量体として、酢酸ビニル(VAM)を使用したときの反応式を示している。Acはアセチル基を表す。
【0025】
工程(1)において、ビニルエステル単量体としては、例えばギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどが挙げられる。ビニルエステル単量体は、単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。この中でも、酢酸ビニルを少なくとも用いることが好ましく、酢酸ビニルのみを用いることがより好ましい。
重合は、エチレン、プロピレン、又はスチレン等のオレフィンコモノマーが実質的に存在しない状態で実施することができる。また、重合は、アルデヒド、ケトン等の連鎖移動剤が存在しないか、実質的に存在しない状態で実施することができる。ここで実質的に存在しないとは意図的に添加しないことを意味する。
重合方法としては、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。重合は、-80~300℃程度で実施することができ、過酸化物、アゾイソブチロニトリルなどの重合開始剤を用いることができる。
【0026】
工程(2)は、工程(1)で得たポリビニルエステルを部分ケン化して、部分ケン化されたポリビニルエステルを製造する工程である。
【化4】
上記反応式(II)は、工程(2)を説明するために用いる簡略化された反応式であり、ビニルエステル単量体として、酢酸ビニル(VAM)を使用したときの工程(2)の反応式を示している。工程(2)により、エステル基の一部がケン化され水酸基となる(上記反応式(II)の上側の反応式参照)。
工程(2)において、ケン化反応中に酸化剤を投入してポリマー鎖にカルボニル基が導入されることもある(上記反応式(II)の下側の反応式参照)。
工程(2)における反応温度は、例えば、10~70℃、好ましくは20~50℃程度である。
【0027】
部分ケン化は、ポリビニルエステルをアルカリ化合物と接触させてエステル交換又は直接加水分解をさせることで実施することができる。アルカリ化合物としては例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド等が挙げられる。
また、アルカリ化合物に加えて、酸化剤を併用し、両者存在下で部分ケン化を行うことが好ましい。酸化剤を併用することで、ポリマー鎖にカルボニル基を導入させやすくなる。酸化剤としては、種々の酸、過酸化物、過塩素酸塩、塩素化イソシアヌレート等が挙げられる。これらの中でも、酸化剤としては、過酸化水素、過酢酸などの過酸化物が好ましく、過酸化水素がより好ましい。さらに、アルカリ化合物として水酸化ナトリウムを用いて、水酸化ナトリウム及び過酸化水素の存在下で部分ケン化を行うことが好ましい。
【0028】
酸化剤の使用量は、特に限定されないが、ポリビニルエステルの5質量%以下であることが好ましく、0.5~2質量%であることが好ましい。
アルカリ化合物の使用量は、特に限定されないが、ポリビニルエステル1モルに対して0.0005~0.01モルであることが好ましく、0.001~0.003モルであることが好ましい。
部分ケン化において使用する溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノールなどのアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ピナコリン等のケトン類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、トルエン、ベンゼン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等を用いることができる。
部分ケン化されたポリビニルエステルは、さらなる処理のため、単離してもよい。
【0029】
(工程3)
工程(3)は、部分ケン化されたポリビニルエステルを熱処理する工程である。
【化5】
上記反応式(III)は、工程(3)を説明するために用いる簡略化された反応式であり、ビニルエステル単量体として、酢酸ビニル(VAM)を使用したときの工程(3)の反応式を示している。熱処理することにより上記反応が進行して、上記反応式の右辺で示される本発明のポリビニルアルコールが製造される。なお、工程(2)において上記反応式(II)の上側の生成物が得られた場合の工程(3)における反応式を上記反応式(III)の上側で表し、工程(2)において上記反応式(II)の下側の生成物が得られた場合の工程(3)における反応式を上記反応式(III)の下側で表している。
上記反応式において、OAcはアセトキシ基を表し、x、y、zは、ポリマー中のそれぞれの構成単位のモル分率を表し、x+y+z=1であり、x、y、zはそれぞれ0~1であり、x、y、zはいずれも0ではない。
【0030】
部分ケン化されたポリビニルエステルを熱処理することにより、ポリマー主鎖にカルボニル基が導入される。熱処理の温度は好ましくは40~150℃であり、より好ましくは50~120℃であり、さらに好ましくは60~100℃である。
熱処理の時間は、熱処理を施す手段にもよるが、好ましくは0.1~120分、より好ましくは0.5~90分、さらに好ましくは1~60分である。
ポリマー鎖に導入されるカルボニル基の量は酸化剤の量、種類、熱処理の温度、熱処理の時間、熱処理方法を適宜調節することにより調整できる。
【0031】
部分ケン化されたポリビニルエステルを熱処理することにより、ポリマー主鎖に、二重結合が導入され、好ましくはポリエン基が導入される。ポリエン基は、二重結合を2つ有する共役二重結合、二重結合を3つ有する共役二重結合などが挙げられる。上記式において、nは1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましい。
熱処理の温度は、好ましくは50~200℃であり、より好ましくは90~180℃であり、更に好ましくは100~160℃であり、更に好ましくは100~138℃である。
熱処理の時間は熱処理を施す手段にもよるが、好ましくは0.5~600分、より好ましくは1~360分であり、更に好ましくは1~300分である。
ポリマー鎖に導入される二重結合の種類、量などは、酸化剤の量、種類、熱処理の温度、熱処理の時間、熱処理方法を適宜調節することにより調整できる。
【0032】
なお、工程(3)における熱処理の方法は特に制限されないが、例えば、攪拌加熱装置、押出機、ドライヤー、赤外線加熱、オーブンなどを用いて行うことができる。
【0033】
(ポリ塩化ビニルの製造方法)
本発明のポリビニルアルコールは、ポリ塩化ビニル懸濁重合用分散剤として用いることができる。本発明のポリビニルアルコールを分散剤として、ポリ塩化ビニルを製造する方法としては、例えば次のようにすればよい。
本発明のポリビニルアルコール、塩化ビニル単量体、及び水を混合して懸濁液とする工程を行い、次いで塩化ビニル単量体を重合させる工程を行えばよい。
ポリビニルアルコール、塩化ビニル単量体、及び水を添加する順番は特に制限されないが、例えば、ポリビニルアルコールを、塩化ビニル単量体及び水を含む溶液に添加し、混合して懸濁液とすればよい。混合は、公知の攪拌装置により行うことができる。
ポリビニルアルコールの使用量としては、塩化ビニル単量体に対して好ましくは0.01~5質量%であり、より好ましくは0.02~0.2質量%である。
本発明のポリビニルアルコールは、分散剤として添加することで安定な懸濁液又は分散液を形成し得る。例えば、10~200μmの範囲のメジアン径を有する液滴を形成できる。
【0034】
また、本発明のポリビニルアルコール以外の他の分散剤を、本発明のポリビニルアルコールと併用してもよい。他の分散剤としては、例えば、セルロース、セルロース誘導体などが挙げられる。セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。また、他の分散剤としては、本発明のポリビニルアルコール以外のポリビニルアルコールを用いてもよい。なお、分散剤全量基準に対する本発明のポリビニルアルコールの割合は60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが好ましい。
塩化ビニル単量体は、重合に使用する量を一度に配合してもよいし、一部を最初に添加して、残りを重合開始後に添加してもよい。
上記懸濁液は、さらに1種以上の重合開始剤、酸化防止剤、pH調整剤のような添加剤を含有することができる。
重合開始剤としては、例えば、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート、α-クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテート、ラウロイルパーオキシドなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
pH調整剤としては、例えば、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、炭酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウムなどが挙げられ、これらは単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0035】
上記のように懸濁液を形成させたのち、該懸濁液を加熱して、塩化ビニル単量体を重合させる。重合させる際の温度は、20~90℃程度である。重合を開始させた後、さらに塩化ビニル単量体を追加して添加することができる。
【0036】
得られるポリ塩化ビニルの平均粒径は、130~170μmであることが好ましく、140~160μmであることがより好ましい。このような平均粒径を有するポリ塩化ビニルは取扱い性が良好となる。得られるポリ塩化ビニルの空隙率は、17~30%であることが好ましく、18~25%であることがより好ましい。このような空隙率を有するポリ塩化ビニルは加工性が良好となる。
本発明のポリビニルアルコールを分散剤として用いると、上記範囲の平均粒径及び空隙率を同時に満足しやすく、取扱い性及び加工性が共に良好なポリ塩化ビニルを得ることが可能となる。
以上のように、本発明によれば、分散性が良好であり、重合時の発泡を抑制でき、かつ得られるポリ塩化ビニルの取扱い性及び加工性を良好とすることができる、ポリ塩化ビニル懸濁重合用分散剤として用いるポリビニルアルコール、及び該ポリビニルアルコールを用いたポリ塩化ビニルの製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0038】
(試料の調製)
(合成例1)
温度計、攪拌機及び冷却管を備えた反応器内に、酢酸ビニルモノマー100重量部及びメタノール40重量部を加え、窒素ガスを30分間吹き込んで窒素置換した後、反応器を60℃にて30分間加熱した。次いで、重合開始剤である2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート(Tianjin McEIT社製「TrigonoxEHP」)を0.03重量部添加した後、60℃にて4時間反応させた。反応時間終了後、反応液を冷却した。冷却後に重合率を測定したところ、反応率は40%であった。次いで、減圧下で、残留する酢酸ビニルモノマーをメタノールとともに除去する操作を、メタノールを追加しながら行い、ポリ酢酸ビニル50重量%を含むメタノール溶液を得た。このメタノール溶液に、酢酸ビニルに対して0.003mol%の水酸化ナトリウム量となるように水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加え、40℃でけん化を行った。ケン化の終了する段階で、溶液に過酸化水素をポリ酢酸ビニルに対して1.2重量%加えた。得られた固形分を取り出し、粉砕し、メタノールによる洗浄を行った後、乾燥することにより中間原料1を得た。 得られた中間原料1をバッチ式の攪拌加熱装置に投入し135℃まで昇温した後4時間加熱を行いポリビニルアルコールS1を得た。
【0039】
(合成例2)
温度計、攪拌機及び冷却管を備えた反応器内に、酢酸ビニルモノマー100重量部及びメタノール40重量部を加え、窒素ガスを30分間吹き込んで窒素置換した後、反応器を60℃にて30分間加熱した。次いで、重合開始剤である2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート(Tianjin McEIT社製「TrigonoxEHP」)を0.03重量部添加した後、60℃にて4時間反応させた。反応時間終了後、反応液を冷却した。冷却後に重合率を測定したところ、反応率は40%であった。次いで、減圧下で、残留する酢酸ビニルモノマーをメタノールとともに除去する操作を、メタノールを追加しながら行い、ポリ酢酸ビニル50重量%を含むメタノール溶液を得た。このメタノール溶液に、酢酸ビニルに対して0.003mol%の水酸化ナトリウム量となるように水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加え、40℃でけん化を行った。ケン化の終了する段階で、溶液に過酸化水素をポリ酢酸ビニルに対して1.2重量%加えた。得られた固形分を取り出し、粉砕し、メタノールによる洗浄を行った後、乾燥することにより中間原料2を得た。 得られた中間原料2をバッチ式の攪拌加熱装置にに投入し135℃まで昇温した後3時間加熱を行いポリビニルアルコールS2を得た。
【0040】
(合成例3)
温度計、攪拌機及び冷却管を備えた反応器内に、酢酸ビニルモノマー100重量部及びメタノール40重量部を加え、窒素ガスを30分間吹き込んで窒素置換した後、反応器を60℃にて30分間加熱した。次いで、重合開始剤である2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート(Tianjin McEIT社製「TrigonoxEHP」)を0.03重量部添加した後、60℃にて4時間反応させた。反応時間終了後、反応液を冷却した。冷却後に重合率を測定したところ、反応率は40%であった。次いで、減圧下で、残留する酢酸ビニルモノマーをメタノールとともに除去する操作を、メタノールを追加しながら行い、ポリ酢酸ビニル50重量%を含むメタノール溶液を得た。このメタノール溶液に、酢酸ビニルに対して0.003mol%の水酸化ナトリウム量となるように水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加え、40℃でけん化を行った。ケン化の終了する段階で、溶液に過酸化水素をポリ酢酸ビニルに対して0.7重量%加えた。得られた固形分を取り出し、粉砕し、メタノールによる洗浄を行った後、乾燥することにより中間原料3を得た。 得られた中間原料3をバッチ式の攪拌加熱装置に投入し135℃まで昇温した後4時間加熱を行いポリビニルアルコールS3を得た。
【0041】
(合成例4)
温度計、攪拌機及び冷却管を備えた反応器内に、酢酸ビニルモノマー100重量部及びメタノール40重量部を加え、窒素ガスを30分間吹き込んで窒素置換した後、反応器を60℃にて30分間加熱した。次いで、重合開始剤である2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート(Tianjin McEIT社製「TrigonoxEHP」)を0.03重量部添加した後、60℃にて4時間反応させた。反応時間終了後、反応液を冷却した。冷却後に重合率を測定したところ、反応率は40%であった。次いで、減圧下で、残留する酢酸ビニルモノマーをメタノールとともに除去する操作を、メタノールを追加しながら行い、ポリ酢酸ビニル50重量%を含むメタノール溶液を得た。このメタノール溶液に、酢酸ビニルに対して0.003mol%の水酸化ナトリウム量となるように水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加え、40℃でけん化を行った。得られた固形分を取り出し、粉砕し、メタノールによる洗浄を行った後、ポリビニルアルコール中間原料4を得た。得られたポリビニルアルコール中間原料4を連続式攪拌装置に投入し、過酸化水素をポリビニルアルコールに対して0.75重量%となるようにまぶし、バッチ式攪拌加熱装置に投入し137℃まで昇温した後9時間加熱を行いポリビニルアルコールS4を得た。
【0042】
(合成例5)
温度計、攪拌機及び冷却管を備えた反応器内に、酢酸ビニルモノマー100重量部及びメタノール40重量部を加え、窒素ガスを30分間吹き込んで窒素置換した後、反応器を60℃にて30分間加熱した。次いで、重合開始剤である2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート(Tianjin McEIT社製「TrigonoxEHP」)を0.03重量部添加した後、60℃にて4時間反応させた。反応時間終了後、反応液を冷却した。冷却後に重合率を測定したところ、反応率は40%であった。次いで、減圧下で、残留する酢酸ビニルモノマーをメタノールとともに除去する操作を、メタノールを追加しながら行い、ポリ酢酸ビニル50重量%を含むメタノール溶液を得た。このメタノール溶液に、酢酸ビニルに対して0.003mol%の水酸化ナトリウム量となるように水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加え、40℃でけん化を行った。ケン化の終了する段階で、溶液に過酸化水素をポリ酢酸ビニルに対して1.5重量%加えた。得られた固形分を取り出し、粉砕し、メタノールによる洗浄を行った後、乾燥することにより中間原料3を得た。得られた中間原料3をバッチ式の攪拌加熱装置に投入し140℃まで昇温した後6時間加熱を行いポリビニルアルコールC1を得た。
【0043】
[評価方法]
(ケン化度)
JIS K6726に準じて行った。
(ブロックキャラクター)
明細書本文に記載した方法により測定した。測定方法は、Macromolecules、1982、15、1071の記載に準ずるものである。
【0044】
(
1H-NMR測定)
1H-NMRは、Bruker instrument(400MHz)を用いた。試料をDMSOの5質量%溶液とした。指数関数(0.2Hz)、積算1024回(プロディジー型プローブ)又は10000回(通常プローブ)、遅延時間1秒、パルス間隔12マイクロ秒として、DMSOのピーク(2.49ppm)を基準として測定した。
上記試料の
1H-NMRスペクトルを
図1及び
図2で比較し、
図3においてサンプルS1の
1H-NMRスペクトルにおける(a)~(d)について図示した。
【0045】
(UV吸光度)
ポリビニルアルコールの0.1質量%水溶液を調製して、320nmの吸光度を測定した。測定装置はEvolution 600 UV-Vis Spectrophotometer(Thermo Fisher,Pittsburgh,PA,USA)を用いた。
【0046】
(曇点)
ポリビニルアルコールの1質量%水溶液を加熱して、目視観察により評価した。
(粘度)
ポリビニルアルコールの4質量%水溶液を調製して、Brookfield粘度計(型 LVDV-II+Pro)を用いて、#18スピンドルを100rpmで使用し、20℃にて測定した。
【0047】
(カルボニル基指標)
カルボニル基指標の評価は、2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)の、カルボニル基への選択的反応性と、その呈色性を用いたHPLCクロマトグラム(検出器:UVスペクトル)の定量評価により行った。次に具体的な評価方法について示す。
1.試料調整
ポリビニルアルコール試料1gと水89.0gを500mL三角フラスコに入れ、撹拌しながら0.5M水酸化ナトリウム水溶液10mLを加え、1時間撹拌させることで、完全けん化のポリビニルアルコール試料溶液を作成した。完全けん化とする理由は、HPLC中にて、ポリビニルアルコール由来のピークと、未反応のDNPHを分離しやすくするためである。該ポリビニルアルコール試料溶液1.0mLを測り取り、9% DNPHエタノール溶液(TCI製)、0.10mL(カルボニル基量と比較し大過剰量のDNPHを含む)を加え、密栓後70℃で15時間静置し、カルボニル基を2.4-ジニトロフェニルヒドラゾンにて変性させたDNPH変性ポリビニルアルコール溶液(以下サンプル溶液)とした。同時に、ポリビニルアルコール試料溶液1.00mLに水0.1mLを加えた溶液(以下ベースライン溶液)を作成し、これも密栓後70℃で15時間加熱した。
2.HPLCによるカルボニル基指標の評価
得られたサンプル溶液10μLを島津製作所製 HPLC LC-20AD(カラム:Agilent製 PLRP-S1000A 5μm50x4.6MM、UV検出器SPD-M20A)に導入し、UV検出器によりクロマトグラムを作成し評価した。測定の際、溶媒はアセトニトリルと水の混合溶媒を用い、0-4分、4-12分とそれぞれアセトニトリルの比率を20%、45%と傾斜をかけ、溶出速度の調整を行った。このとき、溶媒の溶出量は1mL/分、カラムの温度は65℃とした。本条件では、ポリビニルアルコールは早く(1-3分)、未反応のDNPHは遅く(8-10分)溶出し、両者を完全に分離することができる。HPLCの検出波長を、DNPHの紫外部の吸収極大波長である358nmとし、(1)サンプル溶液、(2)ベースライン溶液で溶出時間1-3分のピークの面積差(1)―(2) (x106)を算出し、これをカルボニル基指標とした。
【0048】
(平均粒径)
各実施例、比較例で製造したポリ塩化ビニルの平均粒径は、粒度分布計により測定した。
【0049】
(嵩密度)
各実施例、比較例で製造したポリ塩化ビニルの嵩密度は、JIS K 6721に準拠して測定した。
【0050】
(空隙率)
水銀ポロシメーターにより、圧力2000kg/cm2までかけた時の樹脂内部に圧入された水銀量より算出した。
【0051】
(発泡性)
反応終了後すぐに反応器の蓋を開けて、内壁や攪拌翼に付着しているスケールの量を目視観察することにより評価した。評価は以下の基準で行った。
G:スケールが確認されないか、少量のスケール(得られた樹脂の5%未満)が確認された。
B:多量のスケール(得られた樹脂の5%以上)が確認された。
【0052】
【0053】
(実施例1)
ポリビニルアルコールS1を分散剤として使用して、下記のとおりポリ塩化ビニルを製造して、各種評価を行った。
重合は、Dual Pfaudler型のインペラーを備えた200L反応器で行った。水を100kg、分散剤としてケン化度80モル%部分ケン化ポリビニルアルコール3.5g、ケン化度72.7モル%部分ケン化ポリビニルアルコール(S1)35g(500ppm/塩化ビニル単量体)を投入した。減圧にして重合器内の空気を除き、塩化ビニル単量体を70kg、t-ブチルパーオキシネオデカネートを塩化ビニル単量体に対して150ppm、クミルパーオキシネオデカネートを塩化ビニル単量体に対して385ppmを仕込んだ。重合は、450rpmで攪拌して、57℃にて行い、重合器の圧力が7.0kg/cm2に低下した時点で、未反応の塩化ビニル単量体を回収し、内容物を取り出して、脱水乾燥してポリ塩化ビニルを得た。
得られたポリ塩化ビニルについての評価結果を表2に示す。
【0054】
(実施例2~4、比較例1)
ポリビニルアルコールS1の代わりに、表2に示すポリビニルアルコールを用いた以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表2に示す。
【0055】
(比較例2)
ポリビニルアルコールS1の代わりに、ポリビニルアルコールC1を用いて、その使用量を28g(400ppm/塩化ビニル単量体)とした以外は実施例1と同様に行った。評価結果を表2に示す。
【0056】
【0057】
本発明の要件を満足するポリビニルアルコールをポリ塩化ビニル懸濁重合用分散剤として用いて製造されたポリ塩化ビニルは平均粒径が147~151μmと取扱いやすい大きさであり、分散性が良好であることが分かった。更に、得られたポリ塩化ビニルの空隙率も高く加工に適している。さらに、重合時の発泡も抑制されていた。
一方、波長320nmのUV吸光度が0.3を超えるポリビニルアルコールC1をポリ塩化ビニル懸濁重合用分散剤として用いた場合は、分散性が高すぎるために得られるポリ塩化ビニルが小さくなりすぎてしまう。さらに得たれたポリ塩化ビニルの空隙率が低く加工特性が悪い。ポリビニルアルコールC1の量を減らして平均粒径を調整すると更に空隙率が低くなり加工性が悪化した。また、重合時の発泡が多く発生した。