(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-10
(45)【発行日】2022-02-21
(54)【発明の名称】軽質オレフィン製造用触媒、その製造方法、およびこれを用いて軽質オレフィンを製造する方法
(51)【国際特許分類】
B01J 29/44 20060101AFI20220214BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20220214BHJP
C10G 11/18 20060101ALI20220214BHJP
C07C 11/04 20060101ALI20220214BHJP
C07C 11/06 20060101ALI20220214BHJP
C07C 1/00 20060101ALI20220214BHJP
C07C 1/20 20060101ALI20220214BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220214BHJP
【FI】
B01J29/44
B01J37/04 102
C10G11/18
C07C11/04
C07C11/06
C07C1/00
C07C1/20
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020560172
(86)(22)【出願日】2019-05-02
(86)【国際出願番号】 KR2019005245
(87)【国際公開番号】W WO2019245157
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-10-26
(31)【優先権主張番号】10-2018-0070680
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】305026873
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティテュート オブ ケミカル テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】カン ナ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク ヨン キ
(72)【発明者】
【氏名】イ ユ ジン
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1721071(CN,A)
【文献】特開2012-233192(JP,A)
【文献】特開平11-263983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C10G 11/18
C07C 11/04
C07C 11/06
C07C 1/00
C07C 1/20
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性ゼオライト
;、
クレイ
;、
無機酸化物バインダー
;並びに、
前記多孔性ゼオライトの内部細孔およ
び表面に担持されたAg
2O、およびP
2O
5
;を含む、
触媒であって、
前記触媒100重量%に対して、前記無機酸化物バインダー1重量%以上8重量%以下、およびP
2
O
5
9.5重量%以上20重量%以下を含み、
ナフサおよびメタノールを含む混合原料を接触分解して、軽質オレフィンを製造する反応に用いられる、軽質オレフィン製造用触媒。
【請求項2】
前記多孔性ゼオライトの内部細孔およ
び表面に担持されたAg
2Oの担持量は、前記触媒100重量%に対して0重量%超6重量%以下である、請求項1に記載の軽質オレフィン製造用触媒。
【請求項3】
前記多孔性ゼオライトの内部細孔およ
び表面に担持されたAg
2Oの担持量は、前記触媒100重量%に対して0.2重量%以上2.2重量%以下である、請求項1に記載の軽質オレフィン製造用触媒。
【請求項4】
下記式1を満たす、請求項1に記載の軽質オレフィン製造用触媒。
[式1]0<W
a/W
b≦0.150
(前記式1中、W
aは、前記触媒100重量%に対するAg
2Oの含有量であり、前記W
bは、前記触媒100重量%に対するクレイの含有量である。)
【請求項5】
前記触媒100重量%に対して、前記多孔性ゼオライト1重量%以上70重量%以下と、前記クレイ15重量%以上50重量%以下と、前記無機酸化物バインダー1重量%以上
8重量%以下と、前記多孔性ゼオライトの内部細孔およ
び表面に担持されたP
2O
5
9.5重量%以上20重量%以下とを含む、請求項3に記載の軽質オレフィン製造用触媒。
【請求項6】
前記軽質オレフィン製造用触媒は、流動層反応器を用いるナフサおよびメタノールを含む混合原料の接触分解による軽質オレフィン製造用触媒である、請求項1に記載の軽質オレフィン製造用触媒。
【請求項7】
多孔性ゼオライト、銀前駆体、およびリン前駆体を含む第1混合溶液を製造するステップと、
前記第1混合溶液に無機酸化物前駆体、無機酸、およびクレイを混合して第2混合溶液を製造するステップと、
前記第2混合溶液を噴霧乾燥するステップと、
焼成するステップとを含む
触媒の製造方法であって、
前記触媒100重量%に対して、無機酸化物バインダー1重量%以上8重量%以下、およびP
2
O
5
9.5重量%以上20重量%以下を含むように製造され、
ナフサおよびメタノールを含む混合原料を接触分解して、軽質オレフィンを製造する反応に用いられる、軽質オレフィン製造用触媒の製造方法。
【請求項8】
前記第2混合溶液内の銀前駆体の含有量は、前記焼成するステップで製造される触媒内のAg
2Oの含有量が前記触媒100重量%に対して0重量%超6重量%以下になる当量である、請求項7に記載の軽質オレフィン製造用触媒の製造方法。
【請求項9】
前記第2混合溶液内の銀前駆体の含有量は、前記焼成するステップで製造される触媒内のAg
2Oの含有量が前記触媒100重量%に対して0.2重量%以上2.2重量%以下になる当量である、請求項7に記載の軽質オレフィン製造用触媒の製造方法。
【請求項10】
前記第2混合溶液内の銀前駆体およびクレイの含有量は、前記焼成するステップで製造される触媒が下記式1を満たす当量である、請求項7に記載の軽質オレフィン製造用触媒の製造方法。
[式1]0<W
a/W
b≦0.150
(前記式1中、W
aは、前記触媒100重量%に対するAg
2Oの含有量であり、W
bは、前記触媒100重量%に対するクレイの含有量である。)
【請求項11】
前記焼成するステップで製造される触媒が請求項1に記載の軽質オレフィン製造用触媒である、請求項7に記載の軽質オレフィン製造用触媒の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の軽質オレフィン製造用触媒を用いて、炭化水素、酸素含有有機化合物、またはこれらの混合物を接触分解して軽質オレフィンを製造する方法。
【請求項13】
流動層反応器を用いる、請求項12に記載の軽質オレフィンを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽質オレフィン製造用触媒、その製造方法、およびこれを用いて軽質オレフィンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学産業の基礎留分である軽質オレフィンを生産する代表的な技術として、スチームナフサ分解工程(steam naphtha cracking、SNC)は、800℃以上の高温を用いた熱分解工程で、エチレンとプロピレンを同時に生産する。
【0003】
しかし、これは、高温条件によってエネルギー消費量が多く、過量の二酸化炭素が排出されるという欠点がある。
【0004】
かかる点を改善するために開発されたナフサ接触分解工程(ACO TM)は、触媒を用いて反応温度を150℃以上下げたにもかかわらず、エネルギー消費量が依然として多く、メタンが多量製造されるという限界がある。
【0005】
最近、ナフサ接触分解反応にナフサだけでなく、メタノールといった原料を共同注入(co‐feed)することで工程の効率を上げようとする研究が行われており、この技術の利点は、強い吸熱反応であるナフサ分解反応と発熱反応であるメタノール転換反応を組み合わせることで、熱的な中和をなすことを特徴とする。
【0006】
ナフサにメタノールを共同注入すると、炭化水素の分解が強い吸熱反応工程から相対的に強いかまたは相対的に弱い吸熱反応工程に変わるように転換し、初期の反応温度をそのまま維持することができる。
【0007】
これにより、再生部の温度を相対的に下げることができ、触媒の非活性化が減少し、エチレン、プロピレンなどの低炭素オレフィンの収率を向上させるだけでなく、エネルギー使用量を著しく減少させることができる。
【0008】
かかる利点を有するナフサおよびメタノール混合原料を用いた接触分解反応技術の場合、流動層反応器に基づいて、同じ条件で同じ触媒から軽質オレフィンを選択的に生産するためには、下記のような触媒特性が求められる。
【0009】
ナフサおよびメタノールが混合された原料を触媒と接触分解してエチレンとプロピレンといった軽質オレフィンを高選択的に生産するためには、分子篩の酸点特性を適宜調節しなければならない。分子篩の酸点の量あるいは酸点の強度が大きすぎると脱水素反応が過剰に行われて、メタンをはじめ飽和炭化水素またはベンゼン、トルエン、キシレンといった芳香族化合物の収率が増加し、小さすぎると、炭化水素転化率が減少して、軽質オレフィンの収率が低下する。
【0010】
接触分解用触媒の核心素材である分子篩(moleculat sieve)の場合、水蒸気が存在する500℃以上の高温多湿な雰囲気に置かれると、分子篩の骨格(framework)内に位置したアルミニウムが離脱し(dealumination)、構造が崩壊するとともに、触媒の活性点である酸点(acid site)が減少し、触媒活性度が急激に減少するという問題がある。
【0011】
また、かかる分子篩触媒が接触分解のような大規模の流動層石油化学工程に使用されるためには、高い機械的強度を有する必要がある。
【0012】
したがって、流動層反応に基づくナフサおよびメタノールの接触分解反応による軽質オレフィンの製造の際、高い軽質オレフィン製造選択性を示し、高温多湿な雰囲気でも非活性化せず、水熱安定性に優れ、高い耐久性によって長期間の流動層反応運転が可能な成形触媒の開発が求められ続けている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の一様態は、高い軽質オレフィン製造選択性を示し、高温多湿な雰囲気でも非活性化せず、水熱安定性に優れ、高い耐久性によって長期間の流動層反応運転が可能な軽質オレフィン製造用触媒、その製造方法、およびこれを用いて軽質オレフィンを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一様態は、多孔性ゼオライトと、クレイと、無機酸化物バインダーと、前記多孔性ゼオライトの内部細孔および/または表面に担持されたAg2O、およびP2O5とを含む軽質オレフィン製造用触媒を提供する。
【0015】
前記多孔性ゼオライトの内部細孔および/または表面に担持されたAg2Oの担持量は、前記触媒100重量%に対して0重量%超6重量%以下であってもよい。
【0016】
前記多孔性ゼオライトの内部細孔および/または表面に担持されたAg2Oの担持量は、前記触媒100重量%に対して0.2重量%以上2.2重量%以下であってもよい。
【0017】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒は、下記式1を満たしてもよい。
[式1]0<Wa/Wb≦0.150
前記式1中、Waは、前記触媒100重量%に対するAg2Oの含有量であり、Wbは、前記触媒100重量%に対するクレイの含有量である。
【0018】
前記触媒100重量%に対して、前記多孔性ゼオライト1重量%以上70重量%以下と、前記クレイ15重量%以上50重量%以下と、前記無機酸化物バインダー1重量%以上40重量%以下と、前記多孔性ゼオライトの内部細孔および/または表面に担持されたP2O51重量%以上20重量%以下とを含むことができる。
【0019】
前記軽質オレフィン製造用触媒は、流動層反応器を用いるナフサおよびメタノールを含む混合原料の接触分解による軽質オレフィン製造用触媒である、軽質オレフィン製造用触媒であってもよい。
【0020】
本発明の一様態は、多孔性ゼオライト、銀前駆体、およびリン前駆体を含む第1混合溶液を製造するステップと、前記第1混合溶液に無機酸化物前駆体、無機酸、およびクレイを混合して第2混合溶液を製造するステップと、前記第2混合溶液を噴霧乾燥するステップと、焼成するステップとを含む軽質オレフィン製造用触媒の製造方法を提供する。
【0021】
前記第2混合溶液内の銀前駆体の含有量は、前記焼成するステップで製造される触媒内のAg2Oの含有量が前記触媒100重量%に対して0重量%超6重量%以下になる当量であってもよい。
【0022】
前記第2混合溶液内の銀前駆体およびクレイの含有量は、前記焼成するステップで製造される触媒が下記式1を満たす当量であってもよい。
[式1]0<Wa/Wb≦0.150
前記式1中、Waは、前記触媒100重量%に対するAg2Oの含有量であり、Wbは、前記触媒100重量%に対するクレイの含有量である。
【0023】
前記焼成するステップで製造される触媒が前記本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒であってもよい。
【0024】
本発明の一様態は、前記本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒を用いて、炭化水素、酸素含有有機化合物、またはこれらの混合物を接触分解して軽質オレフィンを製造する方法を提供する。
【0025】
前記軽質オレフィンを製造する方法は、流動層反応器を用いてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一様態は、軽質オレフィンの製造の際、高い軽質オレフィン製造選択性を示し、高温多湿な雰囲気でも非活性化せず、水熱安定性に優れ、高い耐久性によって長期間の流動層反応運転が可能な軽質オレフィン製造用触媒、その製造方法、およびこれを用いて軽質オレフィンを製造する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
他の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術および科学的用語を含む)は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が共通して理解し得る意味として使用可能である。明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「含む」としたときに、これは、特に逆の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。また、単数形は、文章において特に言及しない限り複数形も含む。
【0028】
本発明の一様態は、ナフサなどの炭化水素、メタノールなどの酸素含有有機化合物、またはこれらの混合物を接触分解して軽質オレフィンを製造するときに、高い軽質オレフィン製造選択性を示し、高温多湿な雰囲気でも非活性化せず、水熱安定性に優れ、高い耐久性によって長期間の流動層反応運転が可能な軽質オレフィン製造用触媒を提供する。
【0029】
前記炭化水素は、通常入手可能なナフサを含むことができ、より具体的には、30℃以上200℃以下の沸点を有する炭化水素を含むことができる。ただし、これに制限されない。
【0030】
酸素含有有機化合物は、メタノールを含むことができるが、これに制限されない。
【0031】
また、前記軽質オレフィンは、エチレンおよび/またはプロピレンを含むことができるが、これに限定されない。
【0032】
具体的には、本発明の一様態は、多孔性ゼオライトと、クレイと、無機酸化物バインダーと、前記多孔性ゼオライトの内部細孔および/または表面に担持されたAg2O、およびP2O5とを含む軽質オレフィン製造用触媒を提供する。
【0033】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒は、多孔性ゼオライトの酸点を銀とリンで修飾し、これに無機酸化物バインダーとクレイをさらに混合して安定化したものであって、軽質オレフィンの収率が向上し、触媒の機械的強度と水熱安定性に優れ、高活性特性を長時間維持することができる。
【0034】
また、複雑なゼオライト修飾ステップと触媒製造ステップが求められる従来技術に比べ、簡単に製造可能で、商業的な適用に非常に有利であり得る。
【0035】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒は、多孔性ゼオライトの内部細孔および/または表面にAg2Oが担持されることで、Ag2Oが担持されないか、他の金属種で修飾される場合に比べ、優れた軽質オレフィン収率を示すとともに、流動層反応器への採用に適する水準の機械的強度を示すことができる。
【0036】
これは、後述する実施例からも確認でき、具体的には、La、Mg、またはMn酸化物で修飾された場合に比べ、優れた軽質オレフィン収率を示し、且つ、流動層反応器への採用に適する水準の機械的強度を示した。
【0037】
また、Ag2OとP2O5が同時に多孔性ゼオライトの内部細孔および/または表面に担持されて、無機酸化物バインダーおよびクレイを含むことで、優れた機械的強度が実現されるとともに高い軽質オレフィン収率が実現され得る。
【0038】
これにより、触媒の長期間使用が可能であり、産業的に有利な流動層反応器による軽質オレフィンの経済的な生産が可能になり得る。
【0039】
より具体的には、流動層反応器でナフサおよびメタノールを含む混合原料を接触分解して、軽質オレフィンを高収率および高い経済性で生産することができる。
【0040】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒において、前記多孔性ゼオライトの内部細孔および/または表面に担持されたAg2Oの担持量は、前記触媒100重量%に対して、0重量%超6重量%以下であってもよい。より具体的には、0重量%超3重量%未満、または0.2重量%以上2.2重量%以下であってもよい。
【0041】
かかる含有量でAg2Oが担持されることで、製造された触媒の酸点の保護および優れた水熱安定性が実現され得るとともに、高い機械的強度と高い軽質オレフィン収率が実現され得る。
【0042】
このように高い安定性および軽質オレフィン収率だけでなく、優れた機械的強度を示すことから、固定層反応器だけでなく、商業化に有利な流動層反応器に基づく軽質オレフィン製造工程の触媒としての使用に有利であり得る。
【0043】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒は、下記式1を満たしてもよい。
【0044】
[式1]0<Wa/Wb≦0.150
【0045】
前記式1中、Waは、前記触媒100重量%に対するAg2Oの含有量であり、Wbは、前記触媒100重量%に対するクレイの含有量である。
【0046】
前記式1は、より具体的には、下記式2を満たすことができる。
【0047】
[式2]0.009≦Wa/Wb≦0.108
【0048】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒において、Ag2Oおよびクレイの含有量が前記の関係を満たすことで、製造された触媒の酸点の保護および優れた水熱安定性が実現され得るとともに、高い機械的強度と高い軽質オレフィン収率が実現され得る。
【0049】
このように高い安定性および軽質オレフィン収率だけでなく、優れた機械的強度を示すことから、固定層反応器だけでなく、商業化に有利な流動層反応器に基づく軽質オレフィン製造工程の触媒としての使用に有利であり得る。
【0050】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒において、Ag2O以外の成分の含有量についてより詳細に説明すると、本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒は、前記触媒100重量%に対して、前記多孔性ゼオライト1重量%以上70重量%以下と、前記クレイ15重量%以上50重量%以下と、前記無機酸化物バインダー1重量%以上40重量%以下と、前記多孔性ゼオライトの内部細孔および/または表面に担持されたP2O51重量%以上20重量%以下とを含んでもよい。
【0051】
より具体的には、前記触媒100重量%に対して、前記多孔性ゼオライト40重量%以上70重量%以下と、前記クレイ15重量%以上40重量%以下と、前記無機酸化物バインダー5重量%以上30重量%以下と、前記多孔性ゼオライトの内部細孔および/または表面に担持されたP2O55重量%以上20重量%以下とを含んでもよい。
【0052】
かかる範囲で、触媒の優れた安定性および軽質オレフィンの高い収率が実現され得るが、本発明は必ずしもこれに制限されるものではない。
【0053】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒において、前記多孔性ゼオライトは、Si/Alモル比(Si/Al molar ratio)が200以下であるZSM‐5、ZSM‐11、Beta、Y型ゼオライト、またはこれらの組み合わせであってもよい。ただし、本発明は必ずしもこれに制限されるものではないが、多孔性ゼオライトの酸点の数による活性度、製造の経済性を考慮して、Si/Alモル比が200以下であることが好ましい。
【0054】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒において、前記多孔性ゼオライトに担持されたAg2Oは、銀前駆体から由来してもよく、前記銀前駆体は、硫酸銀(silver sulfate)、硝酸銀(silver nitrate)、塩化銀(silver chloride)、フッ化銀(silver fluoride)、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されない。
【0055】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒において、前記クレイは、非制限的に、モンモリロナイト(montmorillonite)、サポナイト(saponite)、カオリン(kaoline)、クリノプチロライト(clinoptilolite)、ベントナイト(bentonite)、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されない。クレイは、上述の含有量で含まれ、触媒の活性度の低下に寄与せず、触媒の機械的強度の向上に寄与することができる。
【0056】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒において、前記無機酸化物は、触媒成形の際、バインダーの役割を果たすことができ、Al2O3、SiO2、Al2O3‐SiO2、またはこれらの組み合わせを含むことができるが、これに限定されない。無機酸化物バインダーは、上述の含有量で含まれ、触媒の活性度の低下に寄与せず、触媒の機械的強度の向上に寄与することができる。
【0057】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒において、前記多孔性ゼオライトに担持されたP2O5は、リン前駆体から由来してもよく、前記リン前駆体は、H3PO4、(NH4)3PO4、H(NH4)2(PO4)およびH2(NH4)PO4、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されない。P2O5は、上述の含有量で含まれ、過剰な触媒の活性度の低下を引き起こさず、触媒の水熱安定性の向上に寄与することができる。
【0058】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒は、押出成形(extrudation)、ペレット化(pelletizing)、回転球体成形法、スプレードライ法(spray dry)などにより、球形など様々な形状に成形され、軽質オレフィン製造工程に使用され得るが、これは一例示であって、本発明は必ずしもこれに制限されない。
【0059】
前記成形された触媒の平均粒径は、50μm以上300μm以下、より具体的には、50μm以上200μm以下であってもよく、かかるサイズで軽質オレフィン製造反応の効率が極大化することができ、好ましい。
【0060】
本発明の他の一様態は、多孔性ゼオライト、銀前駆体、およびリン前駆体を含む第1混合溶液を製造するステップと、前記第1混合溶液に無機酸化物前駆体、無機酸、およびクレイを混合して第2混合溶液を製造するステップと、前記第2混合溶液を噴霧乾燥するステップと、焼成するステップとを含む軽質オレフィン製造用触媒の製造方法を提供する。
【0061】
これは、上述の本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒の製造方法に相当することができる。
【0062】
したがって、上述の本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒を製造するために、前記第2混合溶液内の銀前駆体の含有量は前記焼成するステップで製造される触媒内のAg2Oの含有量が、前記触媒100重量%に対して、0重量%超6重量%以下、より具体的には0重量%超3重量%未満、または0.2重量%以上2.2重量%以下になる当量であってもよい。
【0063】
また、前記第2混合溶液内の銀前駆体およびクレイの含有量は、前記焼成するステップで製造される触媒が下記式1を満たす当量であってもよい。
【0064】
[式1]0<Wa/Wb≦0.150
【0065】
前記式1中、Waは、前記触媒100重量%に対するAg2Oの含有量であり、Wbは、前記触媒100重量%に対するクレイの含有量である。
【0066】
より具体的には、下記式2を満たす当量であってもよい。
【0067】
[式2]0.009≦Wa/Wb≦0.108
【0068】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒の製造方法において、前記銀前駆体は、硫酸銀(silver sulfate)、硝酸銀(silver nitrate)、塩化銀(silver chloride)、フッ化銀(silver fluoride)、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されない。
【0069】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒の製造方法において、前記クレイは、非制限的に、モンモリロナイト(montmorillonite)、サポナイト(saponite)、カオリン(kaoline)、クリノプチロライト(clinoptilolite)、ベントナイト(bentonite)、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されない。
【0070】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒の製造方法において、前記無機酸化物前駆体は、Al2O3、SiO2、Al2O3‐SiO2、またはこれらの組み合わせを含むことができるが、これに限定されない。
【0071】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒の製造方法において、前記リン前駆体は、H3PO4、(NH4)3PO4、H(NH4)2(PO4)およびH2(NH4)PO4、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されない。
【0072】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒の製造方法において、前記無機酸は、硝酸、硫酸、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されない。
【0073】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒の製造方法についてより詳細に説明すると、先ず、多孔性ゼオライト、銀前駆体、およびリン前駆体を含む第1混合溶液を製造するが、この際、溶媒は、水を使用することができる。第1混合溶液は、ゾル、ゲル、または粘度が低い溶液状態に製造することができるが、溶液状態が最も好ましい。
【0074】
以降、第1混合溶液に無機酸化物前駆体と無機酸を混合するが、この際、無機酸化物前駆体と無機酸の混合溶液をゾル、ゲル、または溶液状態で混合することができ、これにクレイを混合することで、噴霧乾燥のための第2混合溶液を製造することができる。
【0075】
混合の際、撹拌が行われ、撹拌速度、撹拌時間、および撹拌方式は、本発明において特に制限されない。
【0076】
このように製造された第2混合溶液を噴霧乾燥、および焼成し、微小球体(microsphere)の触媒を製造することができる。ただし、これは一例示であって、目的とする触媒形態などによって様々な成形方式が採択され得ることは言うまでもない。
【0077】
前記焼成するステップでの焼成温度は500℃以上700℃以下に、焼成時間は5時間以上10時間以下にすることが、製造される触媒の活性、機械的強度および工程経済性を考慮して好ましい。ただし、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。
【0078】
以下、このように製造された触媒から軽質オレフィンを製造する方法の一様態について例示的に説明する。
【0079】
製造された本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒の存在下で、ナフサおよびメタノールを含む反応物を接触分解させて軽質オレフィンを製造することができる。
【0080】
反応物内のナフサ/メタノール重量比は、0.1~5であってもよい。
【0081】
軽質オレフィン製造反応は、固定層反応器または流動層反応器で行われ得、反応温度600℃以上700℃以下、反応圧力0.1bar以上2bar以下、触媒/全体反応物の重量比2以上20以下、反応物の注入流量は炭化水素注入量(hydrocarbon rate)を基準として0.5g/h以上2.0g/h以下の速度で注入される反応条件で行われ得る。ただし、これは一例示であって、これに限定されるものではない。
【0082】
流動層反応器は、流動層触媒を充填し、触媒を反応器内で流動化させるものである。ともに供給されるナフサおよびメタノール原料は、反応器の底部から添加され、一方、反応物の部分圧を減少させ、触媒の流動化を容易にするように、希釈気体(diluting gas)を導入する。希釈気体は、不活性気体またはスチーム(steam)であってもよく、好ましくは、スチームであってもよい。ナフサ、メタノール、および希釈気体は、触媒と混合することもでき、反応器内で触媒を流動化させることもできる。
【0083】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒は、高い軽質オレフィンの収率だけでなく、優れた機械的強度を有することから、商業化に有利な流動層反応器への採用に適する。
【0084】
固定層反応器において、ナフサおよびメタノールは、スチームとともに反応器に供給され、固定層触媒と接触し反応して軽質オレフィンを生成することができる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。しかし、下記の実施例は、本発明の好ましい一実施例であって、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
ZSM‐5分子篩440gを蒸留水380gに徐々に入れながら撹拌して分子篩スラリーを準備した後、85%リン酸110gをさらに入れてから、常温で30分間撹拌する。前記スラリーに96%Ag2SO4を1.5g添加し、1時間撹拌した。
【0087】
以降、2%硝酸溶液にベーマイト(Boehmite)(Al2O3含有量72重量%)70gを分散させた溶液をさらに入れて1時間撹拌した後、クレイ(clay)166gを入れて高粘度のスラリー混合器を用いて2時間十分に混合した。前記スラリーは、スプレー成形(spray forming)を行って粒子サイズが75~200μmの微小球体(microsphere)触媒として得られた前記成形触媒は500℃で5時間焼成し、水熱安定特性を確認するために製造した試料を石英(quartz)反応器に装入した後、液体ポンプで蒸留水を5cc/minの速度で注入し、気化させて水蒸気形態で試料と接触させた。水熱処理は、760℃で24時間100%水蒸気雰囲気で行われた。
【0088】
[実施例2]
96%Ag2SO44.5g、クレイ(clay)163gを使用して製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で触媒を製造した。
【0089】
[実施例3]
96%Ag2SO47.5g、クレイ(clay)160gを使用して製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で触媒を製造した。
【0090】
[実施例4]
96%Ag2SO410.5g、クレイ(clay)157gを使用して製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で触媒を製造した。
【0091】
[実施例5]
96%Ag2SO413.5g、クレイ(clay)154gを使用して製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で触媒を製造した。
【0092】
[実施例6]
96%Ag2SO416.5g、クレイ(clay)151gを使用して製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で触媒を製造した。
【0093】
[実施例7]
96%Ag2SO422.5g、クレイ(clay)145gを使用して製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で触媒を製造した。
【0094】
[実施例8]
96%Ag2SO444g、クレイ(clay)123gを使用して製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で触媒を製造した。
【0095】
[比較例1]
Ag2SO4なく、クレイ(clay)167gを使用して製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で触媒を製造した。
【0096】
[比較例2]
96%La(NO3)339g、クレイ(clay)155gを使用して製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で触媒を製造した。
【0097】
[比較例3]
97%MgSO4・7H2O64g、クレイ(clay)152gを使用して製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で触媒を製造した。
【0098】
[比較例4]
99%(CH3CO2)2Mn・4H2O29.8g、クレイ(clay)157gを使用して製造した以外は、前記実施例1と同じ方法で触媒を製造した。
【0099】
下記表1に、実施例と比較例の化学組成の結果をまとめた。
【0100】
【0101】
[実験例1]
製造した触媒の機械的強度は、ASTM(American Society for Testing and Materials)の標準試験方法のD5757に準じて測定した。
【0102】
強度測定装置のチャンバ(chamber)に製造された触媒50gを充填し、重量を知っているシンブル(thimble)を設置した後、10L/minの流速で空気(air)をチャンバ内に5時間流す。
【0103】
5時間後、空気(air)によって粉砕された粒子がシンブル(thimble)内に集まり、粉砕された触媒の重量を測定し、摩耗指標(attrition index)を計算した。本実験例1の結果は、表3にまとめた。
【0104】
[実験例2]
製造した触媒のナフサとメタノールの混合接触分解反応に対する性能を固定層反応器を使用して確認した。
【0105】
触媒0.1gを固定層反応器に充填し、反応物として、ナフサ(b.p.30~135℃)とメタノールを同じ重量比で使用して注入し、反応物の注入流量は、炭化水素注入量(hydrocarbon rate)を基準として0.87g/hであり、反応温度は650℃、反応圧力は1barで行った。
【0106】
一般的な流動層ナフサ触媒接触分解反応と同様、メタノールおよびナフサ混合原料の触媒接触分解反応でも、触媒再生と触媒加熱のためにライザー(riser)で接触分解反応を終えた触媒は、再生器で高温で加熱され、触媒が再生される。この際、触媒は、再生の際に発生するスチームと高温で接触し、ゼオライト骨格の脱アルミニウム化が行われて触媒の非活性化が行われる。したがって、製造されたすべての触媒は、上記の製造方法と同様、人為的に760℃で100%スチーム雰囲気下で24時間処理した後、触媒的性能を確認した。
【0107】
本実験例2で使用したナフサの組成は、下記の表2のとおりであり、ナフサとメタノールの混合接触分解反応の結果は、3にまとめた。
【0108】
【0109】
【表3】
表3でのGas product yieldのwt%は、生成物の総量に対する各項目の生成物の重量%を意味する。
【0110】
前記表3の結果は、水熱処理の後、触媒においてメタノールおよびナフサ混合原料の触媒接触分解反応の生成物の分布を示したものである。
【0111】
前記表3に示されているように、実施例1~8によって製造した銀とリンが修飾された成形触媒が、銀が修飾されていない比較例1とLa、Mn、またはMgが修飾された触媒よりも高い軽質オレフィン(C2H4+C3H6)収率と相対的に低いメタンの収率を示すことが分かる。
【0112】
一方、銀の担持量が3重量%以上である実施例7および8の場合、軽質オレフィン収率が他の実施例に比べて低くなることが確認され、副産物の収率が高いことが分かる。
【0113】
これにより、相対的に銀の担持量は、0重量%超3重量%未満、より具体的には、0.2重量%以上2.2重量%であることがより優れることが分かった。
【0114】
また、触媒内のクレイに対する銀の含有量が0.009以上0.108以下である実施例1~6が優れた機械的強度を維持し、且つ高い軽質オレフィン収率を示すことを確認した。
【0115】
本発明の一様態の軽質オレフィン製造用触媒は、多孔性ゼオライトの酸点を銀とインで修飾し、これに無機酸化物バインダーとクレイをさらに混合して安定化したものであり、軽質オレフィンの収率が向上し、触媒の機械的強度と水熱安定性に優れ、高活性特性を長時間維持することができる。
【0116】
また、複雑なゼオライト修飾ステップと触媒製造ステップが求められる従来技術に比べ、簡単に製造可能で、商業的適用に非常に有利であり得る。
【0117】
本発明の単純な変形もしくは変更は、本分野において通常の知識を有する者によって可能であるが、かかる変形や変更は、いずれも本発明の領域に含まれると考えられる。