(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】ワーク研磨方法およびワーク研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 53/017 20120101AFI20220215BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20220215BHJP
B24B 37/005 20120101ALI20220215BHJP
B24B 37/34 20120101ALI20220215BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
B24B53/017 Z
B24B49/12
B24B37/005 Z
B24B37/34
H01L21/304 622M
(21)【出願番号】P 2017239181
(22)【出願日】2017-12-14
【審査請求日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2017009505
(32)【優先日】2017-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236687
【氏名又は名称】不二越機械工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 和孝
(72)【発明者】
【氏名】中村 由夫
(72)【発明者】
【氏名】畝田 道雄
(72)【発明者】
【氏名】石川 憲一
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-343380(JP,A)
【文献】特開2000-233369(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074091(WO,A1)
【文献】特開2010-052072(JP,A)
【文献】特開2015-041700(JP,A)
【文献】米国特許第06594024(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 53/017
B24B 49/12
B24B 37/005
B24B 37/34
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する定盤の研磨パッド上にワークを押接し、前記研磨パッドに研磨液を供給しつつワーク表面の研磨を行うワーク研磨装置において、
データ解析を行う人工知能と、
ドレッシング砥石を前記研磨パッドの表面上で往復動して前記研磨パッドの表面を所要のドレッシング条件でドレッシングするドレッシング部と、
前記研磨パッドの表面に接触した状態で前記研磨パッドとの接触画像を取得して前記研磨パッドの表面性状を計測する表面性状計測部と、
前記ドレッシング部によりドレッシングした研磨パッドによりワークを研磨した際のワークの研磨結果を計測する研磨結果計測部と、
前記ドレッシング部により前記研磨パッドをドレッシングした際の、前記ドレッシング条件データ、該ドレッシング後に前記表面性状計測部により計測した前記研磨パッドの表面性状データ、および前記ドレッシング後にワークを研磨した場合の研磨結果データの相関関係を、前記人工知能で学習した相関データを記憶する記憶部と、
前記人工知能に目的とする研磨結果を入力する入力部とを具備し、
前記人工知能は、
前記相関データから、前記目的とする研磨結果に対応する前記研磨パッドの表面性状を逆推定する第1の演算処理と、
前記逆推定した前記研磨パッドの表面性状から対応する前記ドレッシング条件を導出する第2の演算処理とを行う学習型アルゴリズムを実装することを特徴とするワーク研磨装置。
【請求項2】
前記ドレッシング部が、粒度の異なる砥粒を固定した複数のドレッシング砥石を有することを特徴とする請求項1記載のワーク研磨装置。
【請求項3】
前記表面性状計測部は、
接触面、入光面、および観察面を有し、前記接触面にて前記研磨パッドに所要の押圧力で圧接されるダブプリズムと、
該ダブプリズムの前記入光面に光を入光する光源と、
前記ダブプリズムの前記入光面から入光し、前記接触面の前記研磨パッドとの接触点において拡散反射して前記観察面から出光した光を受光する受光部を有することを特徴とする請求項1または2記載のワーク研磨装置。
【請求項4】
前記研磨パッドの表面性状が、少なくとも前記接触画像における接触点数を含むことを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載のワーク研磨装置。
【請求項5】
前記研磨パッドの表面性状が、前記接触画像における接触点数、接触率、接触点間隔および空間FFT解析結果を含むことを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載のワーク研磨装置。
【請求項6】
前記人工知能において、前記第1の演算処理は、第1のニューラルネットワークにより前記研磨パッドの表面性状を逆推定し、前記第2の演算処理は、第2のニューラルネットワークにより前記ドレッシング条件を導出することを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載のワーク研磨装置。
【請求項7】
前記人工知能において、前記第1の演算処理は、ニューラルネットワークにより前記研磨パッドの表面性状を逆推定し、前記第2の演算処理は、パターン認識技術により前記ドレッシング条件を導出することを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載のワーク研磨装置。
【請求項8】
回転する定盤の研磨パッド上にワークを押接し、前記研磨パッドに研磨液を供給しつつワーク表面の研磨を行うワーク研磨方法において、
ドレッシング砥石を前記研磨パッドの表面上で往復動して前記研磨パッドの表面を所要のドレッシング条件でドレッシングするドレッシング工程と、
表面性状計測部により、前記研磨パッドの表面に接触した状態で前記研磨パッドとの接触画像を取得して前記研磨パッドとの接触画像を取得して前記研磨パッドの表面性状を計測する計測工程と、
前記研磨パッドのドレッシング後、ワークを研磨する研磨工程と、
該研磨工程後、研磨したワークの研磨結果を計測する工程と、
前記ドレッシング部により前記研磨パッドをドレッシングした際の、前記ドレッシング条件データ、該ドレッシング後に前記表面性状計測部により計測した前記研磨パッドの表面性状データ、および前記ドレッシング後にワークを研磨した場合の研磨結果データの相関関係を、人工知能で学習して相関データを得る工程と、
目的とする研磨結果を前記人工知能に入力する入力工程と、
人工知能により前記相関データから、前記目的とする研磨結果に対応する前記研磨パッドの表面性状を逆推定する第1の演算処理工程と、
人工知能により前記逆推定した前記研磨パッドの表面性状から対応する前記ドレッシング条件を導出する第2の演算処理工程とを具備することを特徴とするワーク研磨方法。
【請求項9】
前記ドレッシング工程において、粒度の異なる砥粒を固定した複数のドレッシング砥石を用いてドレッシングすることを特徴とする請求項8記載のワーク研磨方法。
【請求項10】
前記研磨パッドの表面性状が、少なくとも前記接触画像における接触点数を含むことを特徴とする請求項8または9記載のワーク研磨方法。
【請求項11】
前記研磨パッドの表面性状が、前記接触画像における接触点数、接触率、接触点間隔および空間FFT解析結果を含むことを特徴とする請求項8または9記載のワーク研磨方法。
【請求項12】
前記第1の演算処理工程は、第1のニューラルネットワークにより前記研磨パッドの表面性状を逆推定し、前記第2の演算処理工程は、第2のニューラルネットワークにより前記ドレッシング条件を導出することを特徴とする請求項8~11いずれか1項記載のワーク研磨方法。
【請求項13】
前記第1の演算処理工程は、ニューラルネットワークにより前記研磨パッドの表面性状を逆推定し、前記第2の演算処理工程は、パターン認識技術により前記ドレッシング条件を導出することを特徴とする請求項8~11いずれか1項記載のワーク研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウェーハ等のワークのワーク研磨方法およびワーク研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ等のワークの研磨は、研磨パッドを貼設した定盤の該研磨パッド表面にワークの被研磨面を押接して、研磨パッドに研磨液を供給しつつ定盤を回転させることによって行っている。
しかしながら、多数のワークの研磨を行うと、研磨パッドが次第に目詰まりを起こし、研磨レートが劣化する。そこで、所要枚数のワークの研磨を行った後、ドレッシング砥石を用いて研磨パッドの表面をドレッシング(目立て)し、研磨レートを回復させるようにしている(例えば特許文献1:特開2001-260001)。
【0003】
特許文献1のものでは、研磨加工の進行と共に推移する研磨パッドのドレッシングレートを検出するドレッシングレート計測装置と、研磨パッド表面性状を計測する表面性状計測装置等を備え、リアルタイムに自動計測したこれらのデータを用いて、スクラッチ密度に重大な影響を与えるドレッシングレートが、予め求められたデータベースに記憶された管理規定値の範囲内となるように、ドレッシング条件を制御する半導体装置の平坦化方法を提案している。
【0004】
特許文献1において、上記研磨パッド表面性状を計測する表面性状計測方法は、画像処理方法や反射率方式によるとしている。
すなわち、画像処理方法は、研磨パッドの表面を投光器によって照明し、その箇所をCCDカメラにて画像を抽出し、画像処理を行って、目詰まりによって形成された平面部分の面積比率を算出するようにしている。また、反射率方式では、レーザ光を研磨パッド表面に当て、この反射光を受光器で受光し、受光した光量の変化から研磨パッドの表面性状を計測するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のものによれば、ワークの研磨処理中に研磨パッドの表面性状を計測し、ドレッシングを行っているので、刻々変化する研磨パッドの表面性状に対応してドレッシングできるという利点がある。
しかしながら、特許文献1のものによれば、ワークの研磨処理中に研磨パッドの表面性状を計測するものであるため、研磨屑や研磨液(例えば、白濁液)によって、実際と異なる画像となったり、不鮮明な画像となったりするので、研磨パッドの表面性状について高い精度の情報が得られないという課題がある。
さらに、研磨パッドの表面性状が正確に把握できないため、現在もオペレータの経験則に頼る部分があり、研磨加工の自動化およびインテリジェント化を阻んでいる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、研磨パッドの表面性状を正確に把握することを突破口として、これまで自動化およびインテリジェント化には不向きとされてきた研磨加工を、ニューラルネットワーク等の学習型人工知能を用いることによって、研磨条件を自動的に提示することからインテリジェント化を試みる。
具体的には、研磨パッドの表面状態を正確に把握し、精度のよいドレッシングを行うことができ、ユーザーが所望する研磨を行える研磨条件を自動作成できる、ワーク研磨方法およびワーク研磨装置を提供することにある。
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は次の構成を備える。
すなわち、本発明に係るワーク研磨装置は、回転する定盤の研磨パッド上にワークを押接し、前記研磨パッドに研磨液を供給しつつワーク表面の研磨を行うワーク研磨装置において、データ解析を行う人工知能と、ドレッシング砥石を前記研磨パッドの表面上で往復動して前記研磨パッドの表面を所要のドレッシング条件でドレッシングするドレッシング部と、前記研磨パッドの表面に接触した状態で前記研磨パッドとの接触画像を取得して前記研磨パッドの表面性状を計測する表面性状計測部と、前記ドレッシング部によりドレッシングした研磨パッドによりワークを研磨した際のワークの研磨結果を計測する研磨結果計測部と、前記ドレッシング部により前記研磨パッドをドレッシングした際の、前記ドレッシング条件データ、該ドレッシング後に前記表面性状計測部により計測した前記研磨パッドの表面性状データ、および前記ドレッシング後にワークを研磨した場合の研磨結果データの相関関係を、前記人工知能で学習した相関データを記憶する記憶部と、前記人工知能に目的とする研磨結果を入力する入力部とを具備し、前記人工知能は、前記相関データから、前記目的とする研磨結果に対応する前記研磨パッドの表面性状を逆推定する第1の演算処理と、前記逆推定した前記研磨パッドの表面性状から対応する前記ドレッシング条件を導出する第2の演算処理とを行う学習型アルゴリズムを実装することを特徴とする。
【0009】
前記ドレッシング部において、粒度の異なる砥粒を固定した複数のドレッシング砥石を用いることができる。
前記研磨パッドの表面性状として、少なくとも前記接触画像における接触点数を用いることができる。
また、前記研磨パッドの表面性状として、前記接触画像における接触点数、接触率、接触点間隔および空間FFT解析結果を用いることができる。
前記人工知能における、前記第1の演算処理において、第1のニューラルネットワークにより前記研磨パッドの表面性状を逆推定し、前記第2の演算処理において、第2のニューラルネットワークにより前記ドレッシング条件を導出するようにすることができる。
また、前記人工知能における、前記第1の演算処理において、ニューラルネットワークにより前記研磨パッドの表面性状を逆推定し、前記第2の演算処理において、パターン認識技術により前記ドレッシング条件を導出するようにすることができる。
【0010】
また、本発明におけるワーク研磨方法は、回転する定盤の研磨パッド上にワークを押接し、前記研磨パッドに研磨液を供給しつつワーク表面の研磨を行うワーク研磨方法において、ドレッシング砥石を前記研磨パッドの表面上で往復動して前記研磨パッドの表面を所要のドレッシング条件でドレッシングするドレッシング工程と、表面性状計測部により、前記研磨パッドの表面に接触した状態で前記研磨パッドとの接触画像を取得して前記研磨パッドの表面性状を計測する計測工程と、前記研磨パッドのドレッシング後、ワークを研磨する研磨工程と、該研磨工程後、研磨したワークの研磨結果を計測する工程と、前記ドレッシング部により前記研磨パッドをドレッシングした際の、前記ドレッシング条件データ、該ドレッシング後に前記表面性状計測部により計測した前記研磨パッドの表面性状データ、および前記ドレッシング後にワークを研磨した場合の研磨結果データの相関関係を、人工知能で学習して相関データを得る工程と、目的とする研磨結果を前記人工知能に入力する入力工程と、人工知能により前記相関データから、前記目的とする研磨結果に対応する前記研磨パッドの表面性状を逆推定する第1の演算処理工程と、人工知能により前記逆推定した前記研磨パッドの表面性状から対応する前記ドレッシング条件を導出する第2の演算処理工程とを具備することを特徴とする。
【0011】
前記ドレッシング工程において、粒度の異なる砥粒を固定した複数のドレッシング砥石を用いてドレッシングすることができる。
前記研磨パッドの表面性状を、少なくとも前記接触画像における接触点数、を用いることができる。
また、前記研磨パッドの表面性状を、前記接触画像の接触点数、接触率、接触点間隔および空間FFT解析結果とすることができる。
前記第1の演算処理工程で、第1のニューラルネットワークにより前記研磨パッドの表面性状を逆推定し、前記第2の演算処理工程で、第2のニューラルネットワークにより前記ドレッシング条件を導出するようにすることができる。
また、前記第1の演算処理工程で、ニューラルネットワークにより前記研磨パッドの表面性状を逆推定し、前記第2の演算処理工程で、パターン認識技術により前記ドレッシング条件を導出するようにすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、科学的に多くの未解明な部分を含む研磨パッドの表面性状を定量評価し、研磨パッドの表面性状と研磨レート等の研磨結果との相関関係についてデータを蓄積しながら学習することに成功した。その結果、所望の研磨結果が得られる研磨パッドの表面性状を推定し、推定した表面性状を作製できるドレッシング条件が自動計算により導き出せるようになった。つまり、研磨パッドの表面性状をキーとして、研磨加工のインテリジェント化が実現可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ワーク研磨装置の全体の概要を示すブロック図である。
【
図7】ダブプリズムを用いて拡散反射光をマイクロスコープで受光する状態を示す説明図である。
【
図8】ダブプリズムを用いて、マイクロスコープで計測した、#80のドレッシング砥石でドレッシングした際の研磨パッドとダブプリズムの接触画像である。
【
図9】ダブプリズムを用いて、マイクロスコープで計測した、#500のドレッシング砥石でドレッシングした際の研磨パッドとダブプリズムの接触画像である。
【
図10】ダブプリズムを用いて、マイクロスコープで計測した、#1000のドレッシング砥石でドレッシングした際の研磨パッドとダブプリズムの接触画像である。
【
図11】ドレッシング砥石の粒度と研磨パッドの表面性状(接触点数)の計測結果との関係を示すグラフである。
【
図12】ドレッシング砥石の粒度と研磨パッドの表面性状(接触率)の計測結果との関係を示すグラフである。
【
図13】ドレッシング砥石の粒度と研磨パッドの表面性状(接触点間隔)の計測結果との関係を示すグラフである。
【
図14】ドレッシング砥石の粒度と研磨パッドの表面性状(空間FFT解析)の計測結果との関係を示すグラフである。
【
図15】研磨条件、ドレッシング条件、研磨効果の相関データをデータベースとして予め設定する説明図である。
【
図16】研磨パッドの表面性状と研磨レートとの検証実験データを示す説明図である。
【
図17】学習したデータから推定した推定研磨レートと、研磨レートの実験値との相関性を示すグラフである。
【
図18】重回帰分析法による推定研磨レートと、研磨レートの実験値との相関性を示すグラフである。
【
図19】研磨レート7.0μm/hr付近における
図17の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、ワーク研磨装置100の全体の概要を示すブロック図である。
図2は、ワーク研磨装置100の動作フロー図である。各部の詳細は後に説明する。
図1、
図2により、全体の流れを説明する。
102は研磨部であり、駆動部104によって駆動され、ワーク(図示せず)の研磨を行う。ワークの研磨結果(研磨レートや表面粗さ等)等は、公知の研磨結果計測部106によって計測される。
108はドレッシング部であり、駆動部110によって駆動され、研磨部102における定盤上に貼付された研磨パッドを、所要のドレッシング条件によってドレッシングする。
【0015】
112は研磨パッドの表面性状を計測する表面性状計測部である。表面性状計測部112は、研磨パッドと測定機器(ダブプリズム)との接触点数、接触率、接触点間隔、空間FFTの半値幅の各パラメータを計測する。
本実施の形態では、第1のニューラルネットワーク(以下単にNNと表記することがある)114と第2のニューラルネットワーク122とを有する人工知能を有する。
第1のニューラルネットワーク114には、ドレッシング部108におけるドレッシング条件のデータ(
図2の動作フローでは第1のNN114に入力していない)、表面性状計測部112で計測された研磨パッドの表面性状の計測データおよび研磨結果計測部106で計測された研磨結果データが入力される。第1のNN114では、記憶部116に格納されたプログラムに従って、上記入力された各データの相関関係を演算し、かつ学習し、学習した結果が記憶部118に記憶される。表面性状データと研磨結果データとは、実験研磨値および実研磨値からの多数のデータの解析により、ある相関関係を有することが判明している。この相関関係は学習により、次第に精度の高いものに更新される。
【0016】
120は入力部であり、オペレータにより目的研磨結果データが入力操作され、この目的研磨結果データは第1のNN114に入力される(ステップ1:S1)。
第1のNN114は、入力された目的研磨結果データから推定研磨結果データを出力し(ステップ2:S2)、この推定研磨結果データから、前記各データの相関関係により逆推定された推定表面性状データを出力する(ステップ3:S3)。
第2のニューラルネットワーク(NN)122には、第1のNN114から出力された上記推定表面性状データが入力される(ステップ4:S4)。
第2のNN122では、記憶部124に格納されたプログラムに従って、前記各データの相関関係から、前記入力された推定表面性状データを得ることのできる、研磨パッドの推定ドレッシング条件データを割り出す(ステップ5:S5)。
この後、ステップ7によって、作製された研磨パッドの表面性状データが計測されると、この第2のNN122において、推定ドレッシング条件データに対する教師信号が、記憶部118経由で出力ニューロンに入力され、バックプロパゲーションにより学習され、相関データが更新される。
【0017】
オペレータはこの推定ドレッシング条件データによって、駆動部110によりドレッシング部108を駆動して、研磨パッドのドレッシングを行う(ステップ6:S6)。ドレッシング後、研磨パッドを洗浄し、表面性状計測部112によって、研磨パッドの表面性状の計測を行う(ステップ7:S7)。
そして、オペレータは、研磨パッドのドレッシング後、駆動部104によって研磨部102を駆動し、ワークの研磨を行う(ステップ8:S8)。
ワーク研磨後、研磨結果計測部106によって、研磨レート等のワーク研磨結果を計測する(ステップ9:S9)。
【0018】
ステップ7における計測された研磨パッドの表面性状データ、およびステップ9における、計測されたワークの研磨結果データが、第1のニューラルネットワーク(NN)114に入力され、必要な学習が行われ、学習値が記憶部118で更新される。
なお、第1のNN114に入力されたデータおよび学習値は、記憶部118によって第2のNN122に共有される。
【0019】
ステップ10においてステップ9で計測したワークの研磨結果の判定を行う。ワーク研磨結果データが所定の範囲内であれば、引き続いて次のワークの研磨工程を行い(ステップ11:S11)、必要な量のワークの研磨を完了すれば、研磨を終了する(ステップ12:S12)。
ステップ10の判定において計測したワークの研磨結果データが所定の範囲外であれば、ステップ1に戻り、研磨パッドの再ドレッシングを行うか、所要バッチ数のワークの研磨が完了した後であれば、オペレータの経験により判断して、研磨パッドの交換を行うようにする(ステップ13:S13)。交換した研磨パッドが従前のものと同じ種類の研磨パッドであれば、第1のNN114および第2のNN122で蓄積した学習値がそのまま使える。研磨パッドを交換した場合もステップ1に戻る。
なお、各部の駆動は、図示しない制御部によって、所要のプログラムに従って行われる。
【0020】
次に各部の詳細について説明する。
≪研磨部102≫
図3は研磨部102の概略を示す説明図である。
12は定盤であり、公知の駆動機構(図示せず)により回転軸14を中心に水平面内で回転する。定盤12の上面には、例えば発泡ポリウレタンを主材とする研磨パッド16が貼付されている。
18は研磨ヘッドであり、その下面側に研磨すべきワーク(半導体ウェーハ等)20が保持される。研磨ヘッド18は回転軸22を中心に回転される。また研磨ヘッド18は、シリンダ等の上下動機構(図示せず)により上下動可能となっている。
24はスラリー供給ノズルであり、スラリー(研磨液)を研磨パッド16上に供給するものである。
【0021】
ワーク20は、水の表面張力により、あるいはエアーの吸引力等により研磨ヘッド18の下面側に保持され、次いで研磨ヘッド18が下降され、水平面内で回転している定盤12の研磨パッド16上に所定の押圧力(例えば150gf/cm2)で押圧され、また研磨ヘッド18が回転軸22を中心に回転されることによって、ワーク20の下面側が研磨される。研磨中、スラリー供給ノズル24から研磨布16上にスラリーが供給される。
なお、研磨ヘッド18には種々の公知の構造のものがあり、研磨ヘッドの種類は特に限定されない。
【0022】
≪ドレッシング部108≫
図4は、ドレッシング部108の概略を示す平面図である。
ドレッシング部108は、回転軸27を中心に回転する揺動アーム28を備えている。揺動アーム28の先端にはドレッシングヘッド30が固定されている。また、ドレッシングヘッド30下面側には、所要大きさのダイヤモンド粒からなるドレッシング砥石が固定されている。ドレッシングヘッド30は、揺動アーム28の先端部において、自身の軸線を中心に回転するように設けられている。
【0023】
研磨パッド16のドレッシングは、制御部31からの指令により、駆動部104、110を動作させ、定盤12を回転させると共に、揺動アーム28を回転軸27を中心に揺動させ、ドレッシングヘッド30を自身の中心軸を中心に回転させながら、定盤12の半径方向に往復動させて、そのドレッシング砥石により研磨パッド16の表面側を研削することによって研磨パッド16のドレッシング(目立て)を行う。なお、118は前記のデータベース(相関データ)をストックする記憶部である。
【0024】
ドレッシング時、ドレッシングヘッド30は、研磨パッド16を所要の押圧力で押圧するようにする。また、研磨パッド16の全面が、均一にドレッシングされるように、定盤12の回転速度や、揺動アーム28のスイング速度を調整するようにするとよい。
【0025】
図5、
図6に、ドレッシングヘッド30の一例を示す。
36はヘッド本体である。
37は第1の可動板であり、ヘッド本体36に、フレキシブルなダイアフラム38を介して取り付けられており、ヘッド本体36に対して上下動可能となっている。
ヘッド本体36の下面と、ダイアフラム38下面および第1の可動板37上面との間に第1の圧力室40が形成されている。第1の圧力室40には、圧力源(図示せず)から流路(図示せず)を通じて圧力空気が導入可能になっている。
【0026】
第1の可動板37の下面側外端部には、周方向に所要間隔をおいて複数の突出部41が設けられている。各突出部41の下面には、例えば、粒度が#80のダイヤモンド砥粒が固着されたドレッシング砥石42が固定されている。
図5において、44は第2の可動板であり、第1の可動板37の下面側に、フレキシブルなダイアフラム45を介して取り付けられており、第1の可動板37に対して上下動可能となっている。
第1の可動板37下面と、ダイアフラム45上面および第2の可動板44上面との間に第2の圧力室47が形成されている。第2の圧力室47には、圧力源(図示せず)から流路(図示せず)を通じて圧力空気が導入可能になっている。
【0027】
第2の可動板44の下面側外端部には、周方向に所要間隔をおいて複数の突出部48が設けられている。各突出部48は、突出部41と突出部41との間の空間内に位置するように設けられている。したがって、突出部41と突出部48とは同じ円周上に位置している。突出部48の下面には、例えば、粒度が#1000のダイヤモンド砥粒が固着されたドレッシング砥石50が固定されている。
【0028】
第1の圧力室40および第2の圧力室47に、それぞれ図示しない流路から圧縮空気が導入されると、ドレッシング砥石42およびドレッシング砥石50は、それぞれ独立に下方に突出して、これにより各ドレッシング砥石42、50が研磨パッド16に圧接され、研磨パッド16のドレッシングが行えるようになっている。なお、ドレッシング砥石42とドレッシング砥石50とは同時に研磨パッド16に圧接可能にもなっており、両ドレッシング砥石42、50で同時に研磨パッド16のドレッシングが可能となっている。
【0029】
なお、上記実施の形態では、粒度#80と粒度#1000の2種類のドレッシング砥石を持つドレッシングヘッド30としたが、場合によっては、同様の構成により、さらに第2の可動板に対して上下動可能に第3の可動板(図示せず)を設け、この第3の可動板の突出部下面に、例えば粒度#500のドレッシング砥石を設けて、#80、#500および#1000の3段階の粒度のドレッシング砥石によるドレッシングを行えるようにすることもできる。
【0030】
≪表面性状計測部112≫
次に、研磨パッド16の表面性状(接触点数等)の計測部112および計測方法について説明する。
この計測方法は、例えば、特許第5366041号に示す方法を用いる。
この特許第5366041号に示す方法では、パッド表面性状を観察する方法としてダブプリズムを用いた観察方法を採用している。ダブプリズムとは光学ガラスの一種であり、像回転プリズムとも称される。ダブプリズム60は、
図7に示すように、図示しない光源から入光面60aに角度45°で入光した光はプリズム底面60b(接触面)で全反射し、プリズム60を透過するという特徴をもっている。なお、接触点(パッド16との接触点)においては、全反射の条件が崩れて光が拡散反射する。そしてパッド16との接触点以外の部位(非接触点)では全反射する。入光面60aは接触面60bに対して鋭角をなしている。なお、プリズムとして、必ずしも
図7に示すような台形状のダブプリズムでなくともよい。
【0031】
本実施の形態では、ダブプリズム60を介してパッド16に所定の圧力を与えつつ、そのときの接触点から拡散反射された反射光を受光部(マイクロスコープ)72によって取得することで、パッド16とダブプリズム60相互間の接触画像を取得する。
このマイクロスコープでは、7.3mm×5.5mmの領域における画像を1600pixel×1600pixelで取得することができる。
なお、接触画像は接触領域が白く、非接触領域が黒くなる。また、本実施の形態では、ダブプリズム60を介してパッド16に所定の圧力を与えつつ、ダブプリズム60の上面(観察面60c)から出光する反射光をマイクロスコープ72により撮影をする。
【0032】
受光部72により検出した接触画像を白黒のいずれかにする2値化処理を行い、該2値化処理により得られた2値化画像データから算出した接触点数、接触率、接触点間隔、および空間FFT解析結果の半値幅等を用いて画像診断を行うようにするとよい。
なお、パッド表面状態観察方法の画像診断は、閾値により2値価処理した2値価画像データを用いる方法に限らず、接触画像におけるグレースケール値の分布(例えば、グレースケールヒストグラム)を用いてもよい。
【0033】
図8、
図9、
図10は、上記ダブプリズムを用いて、マイクロスコープで計測した、それぞれ、#80、#500、#1000のドレッシング砥石でドレッシングした際の研磨パッド16とダブプリズムの接触画像である。
図8~
図10で明らかなように、平均粒度の小さなドレッシング砥石でドレッシングした方が、接触点数が多くなっている。
【0034】
図11は、ドレッシング砥石の粒度と研磨パッド16の表面性状(接触点数)の計測結果との関係を示すグラフであり、表1はその具体的な計測数値を示す表である。
【表1】
図11および表1において、#80ドレッシングでの接触点数19.4とは、#80のドレッシング砥石でドレッシングした際の研磨パッド16とダブプリズムとの接触点数が19.4/mm
2という意味であり、1回目研磨とは、この研磨パッド16によりワーク20を1回研磨した後の研磨パッド16とダブプリズムとの接触点数が19.2/mm
2であり、また2回目研磨とは、そのまま引き続いて2回目の研磨をした後の研磨パッド16とダブプリズムとの接触点数が18.9/mm
2という意味である。
【0035】
#500 ドレッシングとは、上記のように、#80のドレッシング砥石でドレッシングした後、#500のドレッシング砥石でさらにドレッシングしたという意味である。
また、#1000ドレッシングとは、#80のドレッシング砥石でドレッシングし、#500のドレッシング砥石でドレッシングし、さらに#1000のドレッシング砥石でドレッシングしたという意味である。
平均粒度の小さなドレッシング砥石の方が、平均粒度の大きいドレッシング砥石よりも接触点数が大きくなっていて、後記するように、研磨レートも大きくなっている。
しかしながら、各ドレッシング段階において、研磨回数間での接触点数の低下はそれほど大きくはない。もちろん、研磨回数が多くなるほど接触点数は小さくなる。すなわち、次第に研磨パッド表面の劣化が進むことにより、接触点数は減少することになる。
【0036】
図12は、ドレッシング砥石の粒度と研磨パッド16の表面性状(接触率)の計測結果との関係を示すグラフであり、表2はその具体的な計測数値を示す表である。
【表2】
図12および表2に示されるように、各ドレッシング段階において、研磨回数によって、その接触率の変動が大きく、またバラツキもある。
【0037】
なお、接触率とは、取得される接触画像の中における真実接触面積(接触画像内に観測される接触領域の面積の計)と見かけ上の接触面積(観測される接触画像の面積)の比率である。接触率を算出するには、図示しない演算部により、受光部72により検出した接触画像領域における各画素を白黒いずれかにする2値化処理を行い、該2値化処理により得られた2値化画像データの白黒の比率を算出して行う。
【0038】
図13は、ドレッシング砥石の粒度と研磨パッド16の表面性状(接触点間隔)の計測結果との関係を示すグラフであり、表3はその具体的な計測数値を示す表である。
【表3】
図13および表3に示されるように、各ドレッシング段階において、研磨回数によって、その接触点間隔の変動が大きく、またバラツキもある。
【0039】
図14は、ドレッシング砥石の粒度と研磨パッド16の表面性状(空間FFT解析)の計測結果との関係を示すグラフであり、表4はその具体的な計測数値を示す表である。
【表4】
図14および表4に示されるように、各ドレッシング段階において、研磨回数によって、その空間FFT解析値にバラツキがある。
【0040】
なお、FFTとは高速フーリエ変換の略であり、通常は時間軸に対して変動する信号の周波数成分を知る際に用いられる。一方、空間FFTとは、対象とする画像がどのような空間周波数成分を含んでいるかを知るための解析である。すなわち、ドレス条件の違いによって取得した接触画像中に存在する接触点同士の間隔を定量的に評価できる一手法として考えることができる。すなわち、一例として接触点同士の間隔が大きい場合にはその空間周波数は小さいことを意味する。その結果、空間FFT解析で得られるスペクトルは中心周波数(=0)に集中することから、当該スペクトル波の半値幅は小さいものとなる。したがって、その逆数で与えられる空間波長は大きいこととなる。この半値幅も、演算部により、受光部72により検出した接触画像領域における各画素を白黒いずれかにする2値化処理を行い、該2値化処理により得られた2値化画像データをもとに空間FFT解析をして得られる。
【0041】
なお、上記研磨パッドの表面性状の計測は、直接ワーク20と研磨パッド16の接触の際の表面性状を計測するものではないが、本実施の形態においては、ダブプリズムを所定の押圧力でもって研磨パッド16に押接した状態でその表面性状を計測しているので、ワーク20と研磨パッド16が接触した際の研磨パッドの表面性状と近似した表面性状を計測していることとなり、ワーク20の研磨時の状況を反映できるものとなっている。
この点、前記特許文献1のものでは、ドレッシング時の研磨パッドの表面性状を非接触の計測方式によって計測しているため、実際のワークと研磨パッドとの接触状態が把握できないという課題がある。
【0042】
≪相関データを取得する工程≫
表5および表6は、予め、複数段階のドレッシング条件でドレッシングした際の前記研磨パッド16の表面性状と、該それぞれのドレッシング条件でドレッシングした後の研磨パッド16によりワーク20を研磨した際のワーク20の研磨効果との相関関係を示す相関データの一例を示すものである。なお、本実施例においては、複数段階のドレッシング条件として、3段階の粒度(#80、#500、#1000)のドレッシング砥石を有する3つの異なるドレッシングヘッドを用意して、それぞれのドレッシングヘッドでドレッシングを行うドレッシング条件とした。また、研磨条件も、定盤12へのワーク20の加圧力を低負荷(30kPa)と高負荷(90kPa)の2段階とした。
【0043】
【0044】
【0045】
表5は、それぞれ砥石番手#80、#500、#1000(条件2)のドレッシング砥石でドレッシングした研磨パッド16で、表5における条件1の研磨条件(加圧力:2段階)でワーク20を研磨した際の、研磨レート(研磨効果)を示す。また、表6は、それぞれ砥石番手#80、#500、#1000のドレッシング砥石でドレッシングした際の、研磨パッド16の表面性状(接触点数)を示すデータである。
表5、表6から明らかなように、平均粒度の小さなドレッシング砥石でドレッシングした研磨パッド16によりワークを研磨した方が、研磨レートが大きく、高い研磨効率が得られることがわかる。
【0046】
研磨条件の条件1については、上記ではワークとしてサファイアで例示したが、SiやSiCなど研磨対象(ワーク)の種類毎に設定するとよい。また、研磨の際の加圧力(負荷)も、3段階、4段階など、より多数の段階で設定してもよい。さらには、定盤12の回転速度や研磨ヘッド18の回転速度などで段階分けして設定することもできる。
また、ドレッシング条件(条件2)についても、ドレッシング砥石の粒度別(必ずしも3段階でなく、2段階、4段階以上であってもよい)は基本条件であるが、さらに、ドレッシング時間、ドレッシング圧、揺動アーム28のスイング速度、ドレッシングヘッドの回転速度、定盤の回転速度などで段階分けして設定することもできる。
【0047】
なお、ドレッシング砥石の場合、#1000など、平均粒度の小さな砥粒からなるドレッシング砥石を用いて研磨パッドのドレッシングをする場合、前記のように、事前に、それよりも平均粒度の大きなドレッシング砥石(例えば#80)を用いてドレッシングを行ってから、ドレッシングを行うようにするとよい。大きな粒度のものから小さな粒度のものへと順に、段階的に研磨パッド16面をドレッシングすることによって、より接触点数の多い、有効な研磨パッド16の目立てが行える。
【0048】
上記のようにして、予め、複数段階のドレッシング条件でドレッシングした際の研磨パッド16の表面性状と、該それぞれのドレッシング条件でドレッシングした後の研磨パッド16により、複数段階の研磨条件によりワーク20を研磨した際のワーク20の研磨効果との相関関係を示す相関データを取得することができる(
図15)。
得られた相関データは、データベースとして記憶部118に入力されると共に、前記のように、試験研磨、あるいは実研磨によるデータにより学習され、よりよいデータに更新される。
【0049】
≪第1のニューラルネットワーク(NN)114≫
本実施の形態では、前記のように、研磨パッドの接触画像解析による定量化を行っていて、接触点数、接触率、接触点間隔、空間FFT解析の4つの表面性状データが取得可能となった。この4つの表面性状データには、研磨効果との関係性が高いものと低いものがあり、第1のニューラルネットワーク114では、それらの重み付けを含めてその論理構成をしている。すなわち、第1のNN114は、所要のドレッシング条件でドレッシングされた後、表面性状計測部112で計測された上記4つの表面性状データが入力信号として入力され、予め記憶部118に記憶されている前記相関データに基づいて研磨レート等の推定研磨結果を演算し、出力する(S2)、3層構造のニューラルネットワークとして構成されている。そして、教師信号が出力ニューロンに入力され、バックプロパゲーションにより学習され、前記のように相関データが更新される。
【0050】
実研磨においては、前記のように、オペレータにより入力部120に目的研磨結果データが入力操作され、この目的研磨結果データは第1のNN114に入力される(S1)。
第1のNN114では、誤差をゼロとするバックプロパゲーションによって演算し、目的研磨結果データに対応する4つの推定表面性状データを出力し(S3)、この推定表面性状データがそのまま第2のニューラルネットワーク(NN)122に入力される(S4)。
第1のNN114の駆動構成は公知の駆動構成でよいので、その詳細な説明は省略する。
なお、上記実施の形態では、第1のNN114において、研磨パッドの接触画像解析によって取得した定量化データ(接触点数、接触率、接触点間隔、空間FFT解析)を用いたが、第1のNN114において、これらのデータではなく、接触画像のデータを直接用いて演算するようにしてもよい。
【0051】
≪第2のニューラルネットワーク(NN)122≫
第2のニューラルネットワーク(NN)122では、上記のように、4つの推定表面性状データを入力信号とし、これに対応する推定ドレッシング条件データを出力する3層構造のニューラルネットワークを構成している。
すなわち、上記のように、第1のNN114から出力された4つの推定表面性状データがそのまま入力信号として第2のNN122に入力される。そして、第2のNN122では、予め記憶部118に記憶されている前記相関データに基づいて推定ドレッシング条件データを演算し、出力する(S5)。
この第2のNN122において、推定ドレッシング条件データに対する教師信号が出力ニューロンに入力され、バックプロパゲーションにより学習され、前記のように相関データが更新される。
【0052】
上記推定ドレッシング条件データを導出する場合、予めドレッシング条件をパターン化(例えば#80の砥石のみ、#80の砥石と#500の砥石の組み合わせ、#80の砥石、#500の砥石、および#1000の砥石の組み合わせ等、さらにはこれらの砥石によるドレッシング時間との組み合わせなどの多数のパターン化)し、これらのパターン化されたドレッシング条件データと対応する研磨パッドの表面性状データおよび研磨結果データとの相関データに基づき、例えば機械学習のパターン認識におけるK近傍法により、推定ドレッシング条件データを導出することができる。
これらの第2のNN122の駆動構成も公知の駆動構成でよいので、その詳細な説明は省略する。
【0053】
≪研磨工程≫
以後の研磨工程は、前記のステップ6(S6)~ステップ13(S13)に従って行うようにすればよい。
【0054】
以上のように本実施の形態では、研磨パッドの接触画像解析による定量化を行っていて、接触点数、接触率、接触点間隔、空間FFT解析の4つの表面性状データが取得可能となった。そして、この4つの表面性状データと、ドレッシング条件データおよび研磨結果データとの相関関係を求め、さらにニューラルネットワークを適用することによって、ドレッシング条件を自動的に求めることができ、自動化、インテリジェント化が可能となった。
【0055】
表面性状を決めるドレッシング条件(条件2)は、前記のように、ドレッシング砥石の粒度別(必ずしも3段階でなく、2段階、4段階以上であってもよい)は基本条件であるが、さらに、ドレッシング時間、ドレッシング圧、揺動アーム28のスイング速度、ドレッシングヘッドの回転速度、定盤の回転速度などを加味したドレッシング条件を設定するようにすれば、さらに精度のよいドレッシング条件データを得ることができ、効率のよい研磨、精度のよい研磨を行うことができる。
【0056】
なお、ドレッシング条件も研磨条件の一種であるが、このドレッシング条件に加えて、例えば、定盤の回転数、研磨ヘッドの押圧力、研磨液の温度、研磨面温度、外気温、研磨パッドの摩擦係数なども測定加能なパラメータであることから、これらパラメータを加味した研磨条件と、研磨パッドの表面性状、研磨結果の相関関係を取得し、ニューラルネットワークを適用することで、一層、効率的で高精度のワークの研磨加工が行える。
また、研磨装置はワークの片面研磨装置ばかりでなく、両面研磨装置であってもよいことはもちろんである。
【0057】
≪実験的検証1≫
ニューラルネットワーク利用の実験検証を行うため、
図16に示す学習データを作成した。
学習データを取得するために、実際に研磨パッドのドレッシングを行って、研磨パッドの表面性状を計測する。取得する表面性状データは、接触点数、接触率、接触点間隔、空間FFTの半値幅である、その後、研磨を実行して、研磨レートを測定する。また、ドレッシング条件は、以下の6種類とした。
分類A(○):#80砥石によるドレッシングを実行
分類B(□):#1000砥石によるドレッシングを実行
分類C(▽):#80砥石によるドレッシング後に#500砥石によるドレッシングを実行
分類AC(△):#80砥石によるドレッシング後に#1000砥石によるドレッシングを実行
分類BC(◇):#500砥石によるドレッシング後に#1000砥石によるドレッシングを実行
分類CA(☆):#1000砥石によるドレッシング後に#80砥石によるドレッシングを実行
【0058】
学習データは、サンプルNo.1からサンプルNo.75までの合計75個であり、それぞれの分類のドレッシング条件と研磨レートとの相関関係のデータである。
ただし、サンプルNo.65、70~75は、ドレッシングを実行していない。
作成した学習データの研磨レート(実験値)からは、その時の研磨パッドの表面性状が特定でき、その表面性状から導出された推定研磨レートと、測定した研磨レート(実験値)との間の相関性を確認した(
図17)。
結果は、
図17のグラフに示すように、相関係数(R)=0.885となり、重回帰分析法による推定研磨レートと研磨レートの実験値との相関係数(R)=0.759(
図18)と比較して、高い相関性があると言える。
つまり、学習データを作成して、表面性状から導出された推定研磨レートと、測定した研磨レート(実験値)との間の相関性を調べた結果、実効可能あることを確認した。
【0059】
≪実験的検証2≫
ドレッシング条件の導出における実効性を確認するために、機械学習のK近傍法によるパターン認識技術を試した。条件は、実験的検証1の学習データ(
図16参照)を用いて、推定研磨レートを7.0とした。
結果は、
図19に示すとおりであり、具体的には、丸で囲ったデータを自動的に選択している。ちなみに、
図19は、
図17の分析結果を研磨レート7.0μm/hr付近において拡大した拡大図である。
丸で囲ったデータ1~5を見ると、そのドレッシング条件を示す分類が、分類B:2件、分類AC:2件、分類BC:1件となっている。これらを多数決すると、分類Bおよび分類ACの両方を抽出することになり、分類Bおよび分類ACのどちらでもよいという提案ができる。さらに、推定研磨レートに対して、より近い値である実験値を有するドレッシング条件のデータを優先する等の選択手段を設けてもよい。
前記では、ドレッシング条件を6つに分類して説明したが、実際には、各砥石のドレッシング時間などの要素も含めた小分類を用いることも可能である。小分類は、前記ドレッシング条件の6つの分類をさらに細かく分類して作成する。
また、
図17におけるデータの分布において、ドレッシング条件の分類毎で偏る傾向が見られることからも、データ量を増やせば、パターン認識技術が実効可能であると言える。
【0060】
≪検証結果≫
実験的検証1、2により、機械学習によるパターン認識技術が原理的に実施できることはもちろんであるが、精度上でも実効可能であることの確認ができた。
さらに、学習データの増加や人工知能の最適化による、研磨精度の改善も期待できる。
今後、コンディショニング条件の提案ができるようになれば、あらゆる研磨条件のデータを蓄積しつつ、相関性を見極めながら、随時システム上に組み込むだけでよいので、ワーク研磨方法およびワーク研磨装置の自動化およびインテリジェント化が現実のものとなる。
【符号の説明】
【0061】
12 定盤、14 回転軸、16 研磨パッド、18 研磨ヘッド、20 ワーク、22 回転軸、24 スラリー供給ノズル、26 ドレッシング装置、27 回転軸、28 揺動アーム、30 ドレッシングヘッド、31 演算処理部、32 出力部、33 入力部、34 データベース、36 ヘッド本体、37 第1の可動板、38 ダイアフラム、40 第1の圧力室、41 突出部、42 ドレッシング砥石、44 第2の可動板、45 ダイアフラム、48 突出部、50 ドレッシング砥石、100 ワーク研磨装置、102 研磨部、104 駆動部、106 研磨結果計測部、108 ドレッシング部、110 駆動部、112 表面性状計測部、114 第1のニューラルネットワーク、116 記憶部、118 記憶部、120 入力部、122 第2のニューラルネットワーク