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特許7023466インフルエンザ受動免疫に有用な抗体ならびにその使用のための組成物、組合せおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】インフルエンザ受動免疫に有用な抗体ならびにその使用のための組成物、組合せおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220215BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20220215BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220215BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220215BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220215BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220215BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220215BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220215BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20220215BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220215BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20220215BHJP
   A61K 31/13 20060101ALI20220215BHJP
   A61K 31/137 20060101ALI20220215BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220215BHJP
   A61K 31/215 20060101ALI20220215BHJP
   A61K 31/351 20060101ALI20220215BHJP
   A61K 31/27 20060101ALI20220215BHJP
   A61K 31/4965 20060101ALI20220215BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220215BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/10 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P31/16
A61K45/00
A61K38/21
A61K31/13
A61K31/137
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K31/215
A61K31/351
A61K31/27
A61K31/4965
A61K39/395 D
A61K39/395 N
G01N33/569 L
【請求項の数】 35
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020019359
(22)【出願日】2020-02-07
(62)【分割の表示】P 2016550714の分割
【原出願日】2015-02-04
(65)【公開番号】P2020096618
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2020-03-06
(31)【優先権主張番号】62/051,630
(32)【優先日】2014-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/935,746
(32)【優先日】2014-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514284475
【氏名又は名称】コントラフェクト コーポレイション
(73)【特許権者】
【識別番号】516235510
【氏名又は名称】トレリス バイオサイエンス リミテッド ライアビリティー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エステルズ,アンヘレス
(72)【発明者】
【氏名】カウバー,ローレンス,エム.
(72)【発明者】
【氏名】ビジル,アダム
(72)【発明者】
【氏名】ウィッテキンド,マイケル
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/007770(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/132007(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/114885(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0092620(US,A1)
【文献】Science,2012年,Vol. 337,pp. 1343-1348
【文献】MAYO YASUGI,HUMAN MONOCLONAL ANTIBODIES BROADLY NEUTRALIZING AGAINST INFLUENZA B VIRUS,PLOS PATHOGENS,PUBLIC LIBRARY OF SCIENCE,2013年02月,VOL:9, NR:2,,PAGE(S):E1003150/1-12,http://dx.doi.org/10.1371/journal.ppat.1003150
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードのそれぞれの1つまたは複数の株と結合する、単離ヒト抗体もしくはその抗原結合フラグメントであって、
配列番号241のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、配列番号242のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域2(HCDR2)および配列番号243のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域3(HCDR3)を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列;並びに
配列番号244のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、配列番号245のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)および配列番号246のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列
を含む、単離ヒト抗体もしくはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
配列番号249の重鎖可変領域(HCVR)および配列番号250の軽鎖可変領域(LCVR)を含み、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードのそれぞれの1つまたは複数の株と結合する、単離ヒト抗体もしくはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗体をコードする、単離コドン最適化核酸分子。
【請求項4】
請求項3に記載の核酸分子を含む、発現ベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の発現ベクターを含む、組換えポリペプチドを発現させるための宿主細胞。
【請求項6】
抗インフルエンザB抗体またはその抗原結合フラグメントを作製する方法であって、前記抗体またはそのフラグメントの産生が可能な条件下で請求項5に記載の宿主細胞を増殖させることと、そのようにして産生された前記抗体またはそのフラグメントを回収することとを含む、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の抗体または抗原結合フラグメントと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の抗体または抗原結合フラグメントと、薬学的に許容される担体とを含み、前記抗体または抗原結合フラグメントのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で測定した第一の融解温度(Tm1)は55℃以上である、医薬組成物。
【請求項9】
インフルエンザAの少なくとも1つの株に対する結合特異性を有する1つまたは複数のヒト抗体またはその抗原結合フラグメントをさらに含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
インフルエンザAの少なくとも1つの株に対する結合特異性を有する前記抗体または抗原結合フラグメントが、第1群および第2群両方の1つまたは複数の株に対する特異性を含む、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
(a)配列番号11の重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、配列番号12の重鎖相補性決定領域2(HCDR2)、および配列番号13の重鎖相補性決定領域3(HCDR3)を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列と、配列番号14の軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、配列番号15の軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)、および配列番号16の軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列とを含み、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する、第一の抗体またはその抗原結合フラグメント;
(b)配列番号21のHCDR1、配列番号22のHCDR2、および配列番号23のHCDR3を含むHCVRを含む重鎖アミノ酸配列と、配列番号24のLCDR1、配列番号25のLCDR2、および配列番号26のLCDR3を含むLCVRを含む軽鎖アミノ酸配列とを含み、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する、第二の抗体またはその抗原結合フラグメント;並びに
(c)配列番号241のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号242のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号243のアミノ酸配列を含むHCDR3を含むHCVRを含む重鎖アミノ酸配列と、配列番号244のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号245のアミノ酸配列を含むLCDR2、配列番号246のアミノ酸配列を含むLCDR3を含むLCVRを含む軽鎖アミノ酸配列とを含み、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードのそれぞれの1つまたは複数の株と結合する、第三の抗体またはその抗原結合フラグメント
を含む、医薬組成物。
【請求項12】
前記第一の抗体またはフラグメントが、配列番号19および20のHCVR/LCVR対を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記第二の抗体またはフラグメントが、配列番号29および30のHCVR/LCVR対を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記第三の抗体またはフラグメントが、配列番号249および250のHCVR/LCVR対を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントがそれぞれ、いずれも2ポイントの範囲内に収まる等電点(pI)を示す、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記第一の抗体が、配列番号17および18のHC/LCアミノ酸配列を含むTRL053/Mab53であり、前記第二の抗体が、配列番号27および28のHC/LCアミノ酸配列を含むTRL579/Mab579であり、前記第三の抗体が、配列番号247および248のHC/LCアミノ酸配列を含むTRL849である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントがそれぞれ、必要とする対象のインフルエンザAおよびインフルエンザBによる感染症または疾患の治療または予防に有効な量で単回用量に製剤化されている、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントが、それぞれ1用量当たり100mg/kg以下の量で前記組成物中に存在する、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントが、それぞれ1用量当たり10mg/kg以下の量で前記組成物中に存在する、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントが、それぞれ1用量当たり1mg/kg以下の量で前記組成物中に存在する、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントがそれぞれ、抗体または抗体フラグメント全体で1用量当たり10mg/kg以下の量で前記組成物中に存在する、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記担体が、経鼻送達または肺送達用の希釈剤および/または補形剤を含む、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項23】
抗ウイルス治療薬、ウイルス複製阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤、赤血球凝集素阻害剤、気管支拡張薬、免疫調節薬または吸入副腎皮質ステロイド剤のうちの1つまたは複数をさらに含む、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記抗体またはその抗原結合フラグメントの1つまたは複数が、
配列番号241のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号242のアミノ酸配列を含むHCDR2、および配列番号243のアミノ酸配列を含むHCDR3を含むHCVRを含む重鎖アミノ酸配列と、配列番号244のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号245のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号246のアミノ酸配列を含むLCDR3を含むLCVRを含む軽鎖アミノ酸配列とを含むFab、Fab’およびF(ab’)、scFv、dAbまたは多重特異性抗体から選択され、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードのそれぞれの1つまたは複数の株と結合する、抗体フラグメントである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項25】
対象のインフルエンザ感染症を治療または予防するための請求項11~24のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
詳細なウイルス株判定を必要とせずに前記対象のインフルエンザ感染症の状態が判定される、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記対象が、インフルエンザによる感染症または疾患から防御される、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記第一の抗体、第二の抗体および第三の抗体またはフラグメントがそれぞれ、同時に、または逐次的に投与される、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記免疫調節薬がインターフェロンベータ1aである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記抗ウイルス治療薬が、オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビルおよびラニナミビルからなる群より選択されるノイラミニダーゼ阻害剤である、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項31】
前記抗ウイルス治療薬が、ファビピラビル(T-705)およびVX787からなる群より選択されるRNAポリメラーゼ阻害剤である、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項32】
前記抗ウイルス治療薬が、Fludase(登録商標)およびAB-103(p2TA)からなる群より選択される宿主細胞標的化治療剤である、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項33】
前記抗ウイルス治療薬が、ラマンタジンおよびアマンタジンからなる群より選択されるイオンチャネル阻害剤である、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項34】
前記気管支拡張薬が、アルブテロール、レバルブテロールまたはサルメテロールである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項35】
インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードのそれぞれの1つまたは複数の株と結合し、かつ/または阻害する特性を有する、組換え抗体またはそのフラグメントである、請求項1または2に記載の単離抗体またはフラグメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2015年2月4日にPCT国際出願として出願され、2014年2月4日に出願された米国特許仮出願第61/935,746号および2014年9月17日に出願された米国特許仮出願第62/051,630号に対する優先権の利益を主張するものであり、上記の仮出願はそれぞれ、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
EFS-WEBにより提出される配列表への言及
MPEP1730II.B.2(a)(C)に認可および記載されるUSPTO-EFS-WEBサーバを介して電子提出された以下の配列表は、その内容全体があらゆる目的において参照により本明細書に組み込まれる。配列表は、電子出願されたテキストファイルで以下の通りに認識される:
【表1】
【0003】
インフルエンザウイルスの治療および予防のための抗体、組成物および方法が提供される。インフルエンザ赤血球凝集素AのHA成熟切断部位コンセンサス配列付近に結合する抗体および抗原結合フラグメントが提供される。このほか、インフルエンザA株およびB株に効果を示す受動免疫のための抗体組成物、組合せおよび方法が提供される。
【背景技術】
【0004】
インフルエンザは死亡および疾患の原因の上位を占めており、上気道および下気道を冒す。インフルエンザウイルスにはインフルエンザA、BおよびCの3種類がある。ヒトインフルエンザAおよびBウイルスは季節的流行を引き起こす。C型インフルエンザ感染症は軽度の呼吸器疾患を引き起こすものであり、流行を引き起こすことはないと考えられている。インフルエンザAウイルスは、ウイルス表面の2種類のタンパク質、赤血球凝集素(H)およびノイラミニダーゼ(N)に基づいていくつかの亜型に分けられる。赤血球凝集素には17の異なる亜型があり、ノイラミニダーゼには10の異なる亜型がある。インフルエンザAウイルスはさらに、いくつかの異なる株に分類することができる。現在、ヒトによくみられるインフルエンザAウイルスの亜型にはインフルエンザA(H1N1)ウイルスおよびインフルエンザA(H3N2)ウイルスがある。インフルエンザBウイルスは亜型には分けられないが、B/ビクトリア/2/87様およびB/ヤマガタ/16/88様の2つの異なる系統に分類される。インフルエンザA(例えば、H1N1)、A(例えば、H3N2)およびインフルエンザBウイルスは、インフルエンザワクチンに毎年含まれている。
【0005】
現在、異なる頻度でヒト集団で流行している臨床的に重要なインフルエンザウイルスは5種類あり、このうち3種類がインフルエンザAであり、2種類がインフルエンザBである。A型インフルエンザウイルスは異なる2つの系統群、1および2に分けられる。第1群には、赤血球凝集素亜型H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H13およびH16が含まれる。第2群には、H3、H4、H7、H10、H15およびH14が含まれる。第1群のインフルエンザAウイルスのうち現時点で重要な流行ウイルスは、ヒト起源のものとブタ起源のものとにさらに分けられる亜型H1に属するものであり、第2群の重要な流行ウイルスは、現時点で亜型H3に属するものである。季節病の大部分はインフルエンザAウイルスに起因するものであり、米国では、過去12回のインフルエンザの季節のうち8回はH3ウイルスが優位を占めている(CDC季節性インフルエンザ;米国サーベイランスデータ)。1968年、H3ウイルスの1つが20世紀の3つの主要なインフルエンザ大流行のうちの1つを引き起こし、そのとき以来、H3ウイルスがヒト疾患の重要な病原体として存在し続けている。H3インフルエンザウイルスはヒトに加えて、トリ、ブタおよびウマにもよく感染する。インフルエンザBウイルスは100年以上の間、ヒトで流行しており、現時点での株はヤマガタ系統およびビクトリア系統の2つの系統に分けられる。最近、三価インフルエンザワクチンは、両系統のインフルエンザBのほかにもH1ウイルスおよびH3ウイルスをカバーする四価抗原含有ワクチンに発展した。
【0006】
現在実施されているインフルエンザの予防および治療は十分なものではなく、効果がみられないこともある。ワクチン接種が普及しているものの、インフルエンザに感染しやすいことに変わりはない。易感染性に寄与する因子としては、(1)広範囲にわたってワクチンが不足した2009年のH1N1大流行時のように、ワクチン接種によるカバーが不十分であったこと、(2)2008年のように、ワクチン製剤が流行株に十分に対応していない年があること、(3)平均有効率が65歳で40~50%、70歳超ではわずか15~30%であるように、高齢者に対するワクチンの効果が低いこと、(4)特に懸念されるH5N1のような季節性ワクチンが対応していない流行株の出現が挙げられる。さらに、現在インフルエンザの治療に用いることができる抗ウイルス治療薬に対する薬物耐性が深刻な問題となっている。M2タンパク質に作用しウイルス融合を阻害する薬物であるアダマンタン(アマンチジンおよびリマンタジン)に対する耐性率は、2004年の時点で1.9%であったものが、2004~2005年のインフルエンザの季節の最初の6か月の間に14.5%まで増加し、現時点では90%を超えている(Sheu,T.G.ら(2011)J Infect Dis 203:13-17)。インフルエンザノイラミニダーゼタンパク質を阻害する抗ウイルス薬であるオセルタミビルリン酸塩(Tamiflu(登録商標))の耐性率は、2006~2007年のインフルエンザの季節にH1N1ウイルスで1~2%であったものが、2007~2008年までに12%まで急激に増加し、2009年には季節性H1N1ウイルスで99%を上回った。幸いなことに、2009年に大流行したH1N1株はTamifluに感受性であり、これにより死亡者数が比較的少なく済んだものと思われる。このため、新規なインフルエンザの予防法/治療法が圧倒的に必要とされる。
【0007】
ただ、インフルエンザ株を判定する診断には通常、12~24時間の作業時間を要するため、しかるべき治療法の選択に株の判定が必要な場合、治療に不利な遅れが生じる。このため、複数のクレードと結合し、それとの強い親和性を示す抗体が依然として必要とされている。特に、抗体または抗体混合物を投与する前に感染ウイルスを詳細に特徴付ける必要を回避するためには、インフルエンザAおよびインフルエンザBの両方に対して効果を示す抗体を含み、複数の株に広域免疫反応性を示す受動ワクチンが望ましい。インフルエンザAおよびB両方の全株に効果のある広域反応性を示す抗体および組成物は、特に治療前に株の事前診断を必要としないという理由から、望ましい。さらに、薬剤の製造および投与の両方を容易にするため、効力の高いものが望ましい。
【発明の概要】
【0008】
いくつかの実施形態では、主要なインフルエンザB系統であるヤマガタクレードおよびビクトリアクレードの両方に反応性を示す組換えヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0009】
いくつかの実施形態では、インフルエンザBの典型的な三量体と高い親和性で結合するモノクローナル抗体が提供される。
【0010】
いくつかの実施形態では、例えば、これまでに同定されていないインフルエンザB株または約2~3年に1度実際に流行し季節性ワクチンに含まれていないため予防できない株による感染が起こった場合に受動免疫を付与することが可能な抗体が提供される:Monto,A.A.ら,Vaccine(2009)27:5043-5053。
【0011】
いくつかの実施形態では、多数の株にわたって結合し、必須部位を標的とすることを示す、したがって、これまでに遭遇したことのない株でも結合する可能性のある抗体が提供される。このような抗体はほかにも、ワクチンを接種しても十分な防御応答が得られない対象または慢性閉塞性肺疾患患者のように根底に気管支機能の低下がみられるか、免疫系が脆弱である(例えば、幼少者、高齢者、移植患者および癌またはHIVの化学療法を受けている患者)ためリスクが高い対象において感染を改善または予防するか、その毒性を減弱させるのに有用である。
【0012】
いくつかの実施形態では、広域受動免疫を付与するmAbの混合物を含む、組成物が提供される。
【0013】
いくつかの実施形態では、(1)両方の主要なインフルエンザB系統に反応性を示す1つまたは複数の結合部分、モノクローナル抗体またはその免疫反応性フラグメントと、(2)グループ間の交差反応性を示すものを含め、型の標本としてH1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H13、H16を含む第1群および/またはH3およびH7を含む第2群のインフルエンザAウイルスに反応性を示す1つまたは複数の結合部分、モノクローナル抗体またはその免疫反応性フラグメントとを含む、組成物が提供される。いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体は、HAタンパク質に含まれるエピトープと特異的に結合し、天然の三量体型のHAおよびタンパク質分解により活性化された型のHAを認識する。
【0014】
別の実施形態では、特異的に結合することができるウイルスの型およびクレードの範囲を拡大することが可能な二重特異性抗体、多重特異性抗体およびそのフラグメントから選択される結合部分ならびにインフルエンザAおよびインフルエンザBの両方に特徴的な複数の株と反応する2つ以上の結合部分を含む組成物が提供される。
【0015】
いくつかの実施形態では、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードそれぞれの1つまたは複数の株に対して10nMもしくはこれより強い結合親和性(KD)または3nMもしくはこれより強い結合親和性KDを示す、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。いくつかの実施形態では、フラグメントの抗体は組換え抗体またはそのフラグメントである。
【0016】
いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合フラグメントは、改変された単一特異性抗体または多重特異性ヒトモノクローナル抗体である。
【0017】
いくつかの実施形態では、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードの1つまたは複数の株による細胞の感染を中和する抗体または抗原結合フラグメントが提供される。
【0018】
いくつかの実施形態では、(a)重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、(b)重鎖相補性決定領域2(HCDR2)および(c)重鎖相補性決定領域3(HCDR3)のアミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、HCDR1/HCDR2/HCDR3が、配列番号31/32/33;41/42/43;51/52/53;61/62/63;71/72/73;81/82/83;91/92/93;101/102/103;111/112/113;121/122/123;131/132/133;141/142/143;151/152/153;161/162/163;171/172/173;181/182/183;191/192/193;201/202/203;211/212/213;221/222/223;231/232/233;241/242/243;251/252/253;261/262/263;271/272/273および281/282/283からなる群より選択され、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0019】
いくつかの実施形態では、(a)軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、(b)軽鎖相補性決定領域2(LCDR2);および(c)軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、LCDR1/LCDR2/LCDR3が、配列番号34/35/36;44/45/46;54/55/56;64/65/66;74/75/76;84/85/86;104/105/106;114/115/16;124/125/126;134/135/136;144/145/146;154/155/156;164/165/166;174/175/176;184/185/186;194/195/196;204/205/206;214/215/216;224/225/226;234/235/236;244/245/246;254/255/256;264/265/266;274/275/276;および284/285/286からなる群より選択され、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0020】
いくつかの実施形態では、重鎖および軽鎖CDR配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、HCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3が、配列番号31/32/33/34/35/36;41/42/43/44/45/46;51/52/53/54/55/56;61/62/63/64/65/66;71/72/73/74/75/76;81/82/83/84/85/86;91/92/93/94/95/96;101/102/103/104/105/106;111/112/113/114/115/116;121/122/123/124/125/126;131/132/133/134/135/136;141/142/143/144/145/146;151/152/153/154/155/156;161/162/163/164/165/166;171/172/173/174/175/176;181/182/183/184/185/186;191/192/193/194/195/196;201/202/203/204/205/206;211/212/213/214/215/216;221/222/223/224/225/226;231/232/233/234/235/236;241/242/243/244/245/246;251/252/253/254/255/256;261/262/263/264/265/266;271/272/273/274/275/276;および281/282/283/284/285/286からなる群より選択され;前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0021】
いくつかの実施形態では、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレード両方のそれぞれの1つまたは複数の株と特異的に結合し、配列番号39、49、59、69、79、89、99、109、119、129、139、149、159、169、179、189、199、209、219、229、239、249、259、269、279および289からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)または前記HCVRと少なくとも80%の配列同一性を有するその相同変異体を含み;前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0022】
いくつかの実施形態では、配列番号40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280および290からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変配列(LCVR)または前記LCVRと少なくとも80%の配列同一性を有するその相同変異体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0023】
いくつかの実施形態では、39/40、49/50、59/60、69/70、79/80、89/90、99/100、109/110、119/120、129/130、139/140、149/150、159/160、169/170、179/180、189/190、199/200、209/210、219/220、229/230、239/240、249/250、259/260、269/270、279/280および289/290からなる群より選択されるHCVR/LCVR配列対あるいは前記HCVRおよび/またはLCVRと少なくとも80%の配列同一性を有するその相同変異体を含み;前記変異体および前記抗体が、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0024】
いくつかの実施形態では、配列番号79/80、129/130、219/220、229/230、239/240、249/250および269/270からなる群より選択されるHCVR/LCVR対あるいは前記HCVRおよび/またはLCVRと少なくとも80%の配列同一性を有するその相同変異体含み;前記変異体および前記抗体が、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0025】
いくつかの実施形態では、配列番号307、308、309、310、311、312および313からなる群より選択される1つまたは複数のエピトープまたはその不連続エピトープと結合する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0026】
いくつかの実施形態では、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードそれぞれの1つまたは複数の株との結合に関して、100倍未満過剰に存在する場合に本開示の抗体またはフラグメントとしてその少なくとも50%と置き換わることにより競合する、単離ヒト抗体またはその抗原結合フラグメントが提供される。
【0027】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体またはフラグメントをコードする単離コドン最適化核酸分子が提供される。いくつかの実施形態では、本開示の抗体またはフラグメントをコードする核酸分子を含む発現ベクターが提供される。
【0028】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体またはフラグメントをコードする核酸分子を含む発現ベクターを含む、組換えポリペプチドを発現させるための宿主細胞が提供される。
【0029】
いくつかの実施形態では、抗インフルエンザB抗体またはその抗原結合フラグメントを作製する方法であって、抗体またはそのフラグメントの産生が可能な条件下で宿主細胞を増殖させることと、そのようにして産生された抗体またはそのフラグメントを回収することとを含む、方法が提供される。
【0030】
いくつかの実施形態では、インフルエンザBヤマガタクレードおよびインフルエンザBビクトリアクレードのそれぞれの1つまたは複数の株に対して10nMもしくはこれより強い結合親和性(KD)または3nMもしくはこれより強いKDを示す抗体または抗原結合フラグメントと、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物が提供される。
【0031】
いくつかの実施形態では、配列番号31/32/33;41/42/43;51/52/53;61/62/63;71/72/73;81/82/83;91/92/93;101/102/103;111/112/113;121/122/123;131/132/133;141/142/143;151/152/153;161/162/163;171/172/173;181/182/183;191/192/193;201/202/203;211/212/213;221/222/223;231/232/233;241/242/243;251/252/253;261/262/263;271/272/273および281/282/283から選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3のアミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、前記抗体またはフラグメンが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、抗体または抗原結合フラグメントと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物であって、前記抗体またはフラグメントのPBS中で測定した第一の融解温度(Tm1)は55℃以上である、医薬組成物が提供される。
【0032】
いくつかの実施形態では、インフルエンザAの少なくとも1つの株に対する結合特異性を有する1つまたは複数のヒト抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、組成物が提供される。いくつかの態様では、インフルエンザAに対する特異性を有する抗体または抗原結合フラグメントは、第1群および第2群両方の1つまたは複数の株に対する特異性を含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、(a)配列番号11、12、13のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号14、15、16のLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異体が、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害することが可能である、第一の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(b)配列番号21、22、23のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号24、25、26のCDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異体が、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害することが可能である、第二の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(c)第三の抗体またはその抗原結合フラグメントであって、それぞれ:
(i)配列番号71、72、73および配列番号74、75、76;
(ii)配列番号91、92、93および配列番号94、95、96;
(iii)配列番号101、102、103および配列番号104、105、106;
(iv)配列番号121、122、123および配列番号124、125、126;
(v)配列番号181、182、183および配列番号184、185、186;
(vi)配列番号191、192、193および配列番号194、195、196;
(vii)配列番号201、202、203および配列番号204、205、206;
(viii)配列番号211、212、213および配列番号214、215、216;
(ix)配列番号221、222、223および配列番号224、225、226;
(x)配列番号231、232、233および配列番号234、235、236;
(xi)配列番号241、242、243および配列番号244、245、246;
(xii)配列番号261;262、263および配列番号264、265、266;もしくは
(xiii)配列番号271、272、273および配列番号274、275、276
から選択される、HCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および軽鎖CDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害することが可能である、第三の抗体またはその抗原結合フラグメントとを含む、医薬組成物が提供される。
【0034】
いくつかの実施形態では、前記第一の抗体またはフラグメントは、配列番号19/20のHCVR/LCVR対またはHCVRもしくはLCVRドメイン配列の一方もしくは両方に少なくとも80%の配列同一性を含むその高度に相同な変異体を含み;前記変異体および前記抗体またはフラグメントは、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する。
【0035】
いくつかの実施形態では、前記第二の抗体またはフラグメントは、配列番号29/30のHCVR/LCVR対またはHCVRもしくはLCVRドメイン配列の一方もしくは両方に少なくとも80%の配列同一性を含むその高度に相同な変異体を含み;前記変異体および前記抗体またはフラグメントは、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する。
【0036】
いくつかの実施形態では、前記第三の抗体またはフラグメントは、配列番号79/80、99/100、109/110、129/130、189/190、199/200、209/210、219/220、229/230、239/240、249/250、269/270および279/280からなる群より選択されるHCVR/LCVR対またはHCVRもしくはLCVRドメイン配列の一方もしくは両方に少なくとも80%の配列同一性を含むその高度に相同な変異体を含み;前記変異体および前記抗体またはフラグメントは、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する。
【0037】
いくつかの実施形態では、前記第三の抗体またはフラグメントは、配列番号79/80、129/130、219/220、229/230、239/240、249/250および269/270からなる群より選択されるHCVR/LCVR対またはHCVRもしくはLCVRドメイン配列の一方もしくは両方に少なくとも80%の配列同一性を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグメントは、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する。いくつかの実施形態では、いずれも等電点(pI)が2ポイントの範囲内に収まる前記第一、第二および第三の抗体またはフラグメントを含む、組成物が提供される。
【0038】
特定の実施形態では、配列番号17/18のHC/LCアミノ酸配列を含むTRL053/Mab53である第一の抗体と、配列番号27/28のHC/LCアミノ酸配列を含む抗体TRL579/Mab579である第二の抗体と、それぞれ227/228、207/208、247/248、237/238、217/218、267/268、77/78および127/128からなる群より選択されるHC/LCアミノ酸配列を含むTRL847、TRL845、TRL849、TRL848、TRL846、TRL854、TRL809およびTRL832またはHCもしくはLCドメイン配列の一方もしくは両方に少なくとも80%の配列同一性を含むその高度に相同な変異体からなる群より選択される、第三の抗体を含み;前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、組成物が提供される。
【0039】
特定の実施形態では、必要とする対象のインフルエンザAおよびインフルエンザBによる感染症または疾患の治療または予防に有効な量で単回用量に製剤化された本開示の前記第一、第二および第三の抗体またはフラグメントをそれぞれ含む、組成物が提供される。
【0040】
特定の実施形態では、本開示の第一、第二および第三の抗体またはフラグメントを含み、前記第一、第二および第三の抗体またはフラグメントをそれぞれ1用量当たり100mg/kg以下の量;前記第一、第二および第三の抗体またはフラグメントをそれぞれ1用量当たり10mg/kg以下の量;あるいは前記第一、第二および第三の抗体またはフラグメントをそれぞれ1用量当たり1mg/kg以下の量で含む、組成物が提供される。いくつかの実施形態では、前記第一、第二および第三の抗体またはフラグメントはそれぞれ、抗体または抗体フラグメント全体で1用量当たり10mg/kg以下の量で存在する。
【0041】
特定の実施形態では、経鼻または肺送達用の担体、希釈剤および/または補形剤を含む組成物が提供される。
【0042】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体またはフラグメントを含み、さらに抗ウイルス治療薬、ウイルス複製阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤、赤血球凝集素阻害剤、気管支拡張薬または吸入副腎皮質ステロイド剤のうちの1つまたは複数を含む、組成物が提供される。いくつかの実施形態では、免疫調節薬はインターフェロンベータ1aであり;抗ウイルス治療薬は、オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビルおよびラニナミビルからなる群より選択されるノイラミニダーゼ阻害剤であり;抗ウイルス治療薬は、ファビピラビル(T-705)およびVX787からなる群より選択されるRNAポリメラーゼ阻害剤であり;抗ウイルス治療薬は、Fludase(Das181)およびAB-103(p2TA)からなる群より選択される宿主細胞標的化治療薬であり;抗ウイルス治療薬は、ラマンタジンおよびアマンタジンからなる群より選択されるイオンチャネル阻害剤であり;気管支拡張薬は、アルブテロール、レバルブテロールまたはサルメテロールから選択される。
【0043】
いくつかの実施形態では、本開示の前記第一、第二および第三の抗体またはフラグメントをそれぞれ、必要とする患者のインフルエンザAおよびインフルエンザBによる感染症または疾患の治療または予防に効果のある量で含み、前記抗体またはその抗原結合フラグメントのうちの1つまたは複数が、11/12/13、21/22/23、71/72/73、74/75/76、91/92/93、101/102/103、121/122/123、181/182/183、191/192/193、201/202/203、211/212/213、221/222/223、231/232/233、241/242/243、261/262/263および271/272/273からなる群より選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含む、Fab、Fab’およびF(ab’)、scFv、dAbまたは多重特異性抗体から選択される抗体フラグメントであり、前記変異体および前記抗体が、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害する特性を有する、組成物が提供される。
【0044】
いくつかの実施形態では、対象のインフルエンザ感染症を治療または予防する方法であって、(a)配列番号11、12、13のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号14、15、16のLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害することが可能である、第一の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(b)配列番号21、22、23のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号24、25、26のCDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し、かつ/または阻害することが可能である、第二の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(c)それぞれ:(i)配列番号71、72、73および配列番号74、75、76;(ii)配列番号91、92、93および配列番号94、95、96;(iii)配列番号101、102、103および配列番号104、105、106;(iv)配列番号121、122、123および配列番号124、125、126;(v)配列番号181、182、183および配列番号184、185、186;(vi)配列番号191、192、193および配列番号194、195、196;(vii)配列番号201、202、203および配列番号204、205、206;(viii)配列番号211、212、213および配列番号214、215、216;(ix)配列番号221、222、223および配列番号224、225、226;(x)配列番号231、232、233および配列番号234、235、236;(xi)配列番号241、242、243および配列番号244、245、246;(xii)配列番号261;262、263および配列番号264、265、266;もしくは(xiii)配列番号271、272、273および配列番号274、275、276から選択される、HCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および軽鎖CDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、前記変異体および前記抗体またはフラグメントが、インフルエンザウイルスと結合し阻害することが可能である、第三の抗体またはその抗原結合フラグメントとを対象に投与することを含む、方法が提供される。いくつかの実施形態では、第一、第二および第三の抗体またはフラグメントを同時に、または逐次的に投与する。
【0045】
いくつかの実施形態では、本開示の抗インフルエンザ組成物を対象に投与し、ここでは、詳細なウイルス株判定を必要とせずに前記対象のインフルエンザ感染症の状態を判定する。
【0046】
いくつかの実施形態では、本開示の抗インフルエンザ組成物を対象に投与し、ここでは、対象がインフルエンザによる感染症または疾患から防御される。
【0047】
当該技術分野で十分に理解されているように、フィブロネクチン、トランスフェリンまたはリポカリンをベースとする結合物質を含めた非免疫グロブリンベースのタンパク質は、抗体と同じようなエピトープ認識特性を有し得るものであり、同じく適切な実施形態を提供し得る。ほかにも、アプタマーなどの核酸ベースの部分が上記の特性を有する。
【0048】
他の実施形態では、本発明は、本発明の結合部分を含む医薬組成物および製剤、特に、血液から肺への分配が促進されるように結合部分が赤血球と共有結合または非共有結合する医薬組成物および製剤、本発明の結合部分を、正常集団もしくは既にウイルスに曝露した可能性のある対象の予防薬または既に感染した対象の治療薬として、対象のウイルス感染症を受動的に抑制するために使用する方法に関する。本発明はこのほか、抗体またはフラグメントを作製するための組換え材料および方法、例えば対象内に抗体またはフラグメントをin situで生じさせるためのこれらの使用などに関する。
【0049】
いくつかの実施形態では、結合分子の組合せ、特に、インフルエンザウイルスと結合し、同ウイルスに対して効果を示すヒトモノクローナル抗体またはそのフラグメントが提供され、ここでは、組合せは第1群インフルエンザAウイルス、第2群インフルエンザAウイルスおよびインフルエンザBウイルスに対して効果を示す。抗体の組合せは、インフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスに対する治療および予防に効果があり、したがって、重要な流行しているインフルエンザウイルスすべてに対して効果のある薬剤を単一の組成物または用量で提供する。
【0050】
いくつかの実施形態では、それぞれが低nMまたはサブnMの親和性でインフルエンザと結合するモノクローナル抗体を含む、組合せ組成物が提供される。特に第1群インフルエンザAウイルスに対する抗体または結合フラグメントと、特に第2群インフルエンザAウイルスに対する抗体または結合フラグメントと、特にヤマガタBおよびビクトリアBの両系統を含めたインフルエンザBウイルスに対する抗体または結合フラグメントとを含む、組合せ組成物が提供される。
【0051】
いくつかの実施形態では、第1群インフルエンザA、より具体的な実施形態では特に少なくともH1インフルエンザウイルスに対する第一の抗体と、第2群インフルエンザA、より具体的な実施形態では特に少なくともH3インフルエンザウイルスに対する第二の抗体と、インフルエンザBウイルス、より具体的な実施形態では特にヤマガタおよびビクトリアの両系統に対する第三の抗体とを含む、抗体の組合せが提供される。
【0052】
いくつかの実施形態では、インフルエンザAおよびインフルエンザBの治療または予防に併用して効果のあるインフルエンザモノクローナル抗体またはそのフラグメントの組合せを含むか、これよりなる、組成物が提供される。
【0053】
一実施形態では、本発明は、配列番号39、49、59、69、79、89、99、109、119、129、139、149、159、169、179、189、199、209、219、229、239、249、259、269、279および289からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)または少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその相同な配列を含む、抗体または抗体の抗原結合フラグメントを含む。別の実施形態では、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号79、99、109、129、189、199、209、219、229、239、249、269および279からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、HCVRを含む。さらに別の実施形態では、抗体またはそのフラグメントは、配列番号209、229、239、249または269を含む、HCVRを含む。
【0054】
一実施形態では、本発明は、配列番号40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280および290からなる群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)または少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に相同な配列を含む、抗体または抗体の抗原結合フラグメントを含む。別の実施形態では、抗体または抗体の抗原結合部分は、配列番号80、100、110、130、190、200、210、220、230、240、250、270または280からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する、LCVRを含む。さらに別の実施形態では、抗体またはそのフラグメントは、配列番号210、230、240、250または270を含む、LCVRを含む。
【0055】
一実施形態では、本発明は、配列番号39、49、59、69、79、89、99、109、119、129、139、149、159、169、179、189、199、209、219、229、239、249、259、269、279および289のうちの1つまたは複数からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)または少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその相同な配列を含む抗体または抗原結合フラグメントを含む、組成物を含む。別の実施形態では、組成物は、配列番号79、99、109、129、189、199、209、219、229、239、249、269および279からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む、抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。さらに別の実施形態では、組成物は、配列番号209、229、239、249または269を含むHCVRを含む、抗体またはそのフラグメントを含む。
【0056】
一実施形態では、本発明は、配列番号40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280および290からなる群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)または少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその相同な配列を含む抗体または抗体の抗原結合フラグメントを含む、組成物を含む。別の実施形態では、組成物は、配列番号80、100、110、130、190、200、210、220、230、240、250、270または280からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、抗体または抗体の抗原結合部分を含む。さらに別の実施形態では、組成物は、配列番号210、230、240、250または270を含むLCVRを含む、抗体またはそのフラグメントを含む。
【0057】
一実施形態では、本発明は、本明細書に提供されるB抗体(抗B型)またはフラグメントと、配列番号19および29のうちの1つまたは複数からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)または少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその相同な配列を含む抗体または抗原結合フラグメントとを含む、組成物を含む。
【0058】
一実施形態では、本発明は、本明細書に提供されるB抗体またはフラグメントを含む組成物を含み、抗体または抗体の抗原結合フラグメントは、配列番号20および30からなる群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)または少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその相同な配列を含む。
【0059】
より具体的な実施形態では、組成物は、少なくとも1つのB抗体と、少なくとも1つまたは少なくとも2つのA抗体とを含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、HC可変領域およびLC可変領域のアミノ酸配列を含む抗体または抗原結合フラグメントが提供され、ここでは、HCVRは、配列番号31/32/33;41/42/43;51/52/53;61/62/63;71/72/73;81/82/83;91/92/93;101/102/103;111/112/113;121/122/123;131/132/133;141/142/143;151/152/153;161/162/163;171/172/173;181/182/183;191/192/193;201/202/203;211/212/213;221/222/223;231/232/233;241/242/243;251/252/253;261/262/263;271/272/273および281/282/283のいずれかから選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、LCVRは、配列番号34/35/36;44/45/46;54/55/56;64/65/66;74/75/76;84/85/86;104/105/106;114/115/16;124/125/126;134/135/136;144/145/146;154/155/156;164/165/166;174/175/176;184/185/186;194/195/196;204/205/206;214/215/216;224/225/226;234/235/236;244/245/246;254/255/256;264/265/266;274/275/276;および284/285/286のいずれかから選択されるLCDR1/LCDR2/LCDR3アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、血清中半減期を延ばすFc改変を含む、抗体または抗原結合フラグメントが提供される。このような改変はXencor Xtend(商標)抗体工学技術(Xencor社、メルボルン、オーストラリア)に開示されている。いくつかの態様では、Fc改変を含む抗体またはフラグメントは、配列番号297、17、2737、47、57、67、77、87、97、107、117、127、137、147、157、167、177、187、197、207、217、227、237、247、257、267、277または287と80%超、90%超、95%超または99%超の配列同一性を有するアミノ酸配列を示す。
【0062】
いくつかの実施形態では、理論に束縛されるものではないが、吸入製剤ではモデルFabが効果的であるため、scFvである抗原結合フラグメントが提供される。このような改変された抗体は自然界には存在しない。いくつかの実施形態では、配列番号31/32/33;41/42/43;51/52/53;61/62/63;71/72/73;81/82/83;91/92/93;101/102/103;111/112/113;121/122/123;131/132/133;141/142/143;151/152/153;161/162/163;171/172/173;181/182/183;191/192/193;201/202/203;211/212/213;221/222/223;231/232/233;241/242/243;251/252/253;261/262/263;271/272/273および281/282/283のいずれかから選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含む、改変された抗体または結合フラグメントが提供される。
【0063】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体およびフラグメントを発現させるためのコドン最適化核酸が提供される。いくつかの実施形態では、このような非天然の核酸を用いて発現レベルを上昇させる。いくつかの実施形態では、本明細書に提供される組換え抗体およびフラグメントの作製にコドン最適化核酸分子を用いる。
【0064】
いくつかの実施形態では、HC可変領域およびLC可変領域のアミノ酸配列を含む抗体または抗原結合フラグメントが提供され、ここでは、HCVRは、配列番号31/32/33;41/42/43;51/52/53;61/62/63;71/72/73;81/82/83;91/92/93;101/102/103;111/112/113;121/122/123;131/132/133;141/142/143;151/152/153;161/162/163;171/172/173;181/182/183;191/192/193;201/202/203;211/212/213;221/222/223;231/232/233;241/242/243;251/252/253;261/262/263;271/272/273および281/282/283のいずれかから選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含み、LCVRは、配列番号34/35/36;44/45/46;54/55/56;64/65/66;74/75/76;84/85/86;104/105/106;114/115/16;124/125/126;134/135/136;144/145/146;154/155/156;164/165/166;174/175/176;184/185/186;194/195/196;204/205/206;214/215/216;224/225/226;234/235/236;244/245/246;254/255/256;264/265/266;274/275/276;および284/285/286のいずれかから選択されるLCDR1/LCDR2/LCDR3アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、血清中半減期を延ばすFc改変を含む、抗体または抗原結合フラグメントが提供される。このような改変はXencor Xtend(商標)抗体工学技術(Xencor社、メルボルン、オーストラリア)に開示されている。いくつかの態様では、Fc改変を含む抗体またはフラグメントは、配列番号297、17、27,37、47、57、67、77、87、97、107、117、127、137、147、157、167、177、187、197、207、217、227、237、247、257、267、277または287と80%超、90%超、95%超または99%超の配列同一性を有するアミノ酸配列を示す。
【0066】
いくつかの実施形態では、配列番号31/32/33;41/42/43;51/52/53;61/62/63;71/72/73;81/82/83;91/92/93;101/102/103;111/112/113;121/122/123;131/132/133;141/142/143;151/152/153;161/162/163;171/172/173;181/182/183;191/192/193;201/202/203;211/212/213;221/222/223;231/232/233;241/242/243;251/252/253;261/262/263;271/272/273および281/282/283のいずれかから選択されるHCDR1/HCDR2/HCDR3アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含む、改変された抗体または結合フラグメントが提供される。
【0067】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される抗体およびフラグメントを発現させるためのコドン最適化核酸が提供される。いくつかの実施形態では、このような非天然の核酸を用いて発現レベルを上昇させる。いくつかの実施形態では、本明細書に提供される組換え抗体およびフラグメントの作製にコドン最適化核酸分子を用いる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】インフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスを重要なクレードのグループに分けた当該技術分野で公知の分類(Suzuki,Y.ら,Mol.Biol.Evol.(2002)19:501-509を改変)を示す図である。
図2】インフルエンザBの2つのクレードであるヤマガタおよびビクトリアに含まれる代表的な株(Dreyfus、C.ら,Science(2012)337:1343-1348を描図)を示す図である。代表的なヤマガタクレードには、ミシシッピ/04/2008;フロリダ/4/2006;吉林/20/2003;ヒューストン/B60/1997;ハルビン/7/1994;およびナッシュビル/45/1991がある。代表的なビクトリアクレードには、マレーシア/2506/2004;ミシシッピ/07/2008;ブリスベン/60/2008;およびオハイオ/01/2005がある。
図3】数種類の抗インフルエンザB mAbおよび2種類の抗インフルエンザA mAbのインフルエンザAおよびインフルエンザB株に対する反応性を表す組換えHAのELISAデータを記載した表7を示す図である。組換えHAのELISAは3連で実施したものであり、バックグランドに対する平均反応倍数(相対蛍光単位)が示されている。図3から、抗B mAbのTRL809、TRL812、TRL813;TRL832、TRL841、TRL842、TRL845、TRL846、TRL847、TRL848、TRL849、TRL854およびTRL856がそれぞれ、ヤマガタクレードのB/フロリダ/06、B/マサチューセッツ/12およびB/ウィスコンシン/10ならびにビクトリアクレードのB/ブリスベン/08、B/マレーシア/04およびB/ビクトリア/87を含めた両系統のインフルエンザBウイルスに対して広い交差反応性を示すことがわかる。抗インフルエンザA mAbのCF401(mAb53)およびCF402(mAb579)は、インフルエンザAのH1(A/カリフォルニア/09)およびH3(A/シドニー/97)亜型のメンバーに対して反応性を示すが、インフルエンザB株に対しては反応性を示さない。
図4】代表的な株であるB/ヤマガタ/16/1988およびB/ビクトリア/2/1987に対する抗インフルエンザB抗体TRL845、TRL848、TRL849、TRL854、TRL832およびTRL809の中和IC50のデータを記載した表8を示す図である。
図5A】マウスにおける抗インフルエンザB抗体5A7のin vivo活性を、10×LD50のB/フロリダ(ヤマガタ系統)に感染させたマウスに5A7を鼻腔内(IN)投与した場合と腹腔内(IP)投与した場合のパーセント体重として示した図である。感染から24時間後(24hpi)にマウスをIN経路またはIP経路のいずれかによりmAbで治療し、疾患重症度の指標として連日体重を測定し、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染後14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットする。体重減少が30%を超えるマウスは安楽死させた。INが1mg/kgで体重減少を完全に防ぐのに対し、IP経路による1mg/kgでは体重がいくぶん減少している。IN経路で投与すると、IP経路よりも効果が増大することがわかる。
図5B】マウスにおける抗インフルエンザB抗体5A7のin vivo活性を、10×LD50のB/マレーシア(ビクトリア系統)に感染させ5A7をIN投与した場合とIPした場合のパーセント体重として示した図である。24hpiにマウスをIN経路またはIP経路のいずれかによりmAbで治療し、疾患重症度の指標として体重を連日測定した。体重減少が30%を超えるマウスは安楽死させた。INが1mg/kgで体重減少を完全に防ぐのに対し、IP経路による1mg/kgでは体重がいくぶん減少している。IN経路で投与すると、IP経路よりも効果が増大することがわかる。
図6A図6A図6Dは、感染後第1日にIN経路により1mg/kgを投与し、感染から最大14日目までの体重を評価したマウスモデルにおける10×LD50(50%の致死率をもたらす投与量)のウイルスに対する本発明の抗インフルエンザB mAbのin vivo活性を示す図であり、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染後14日間、マウスの体重をモニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットする。図6Aは、IN経路による1mg/kgのmAb TRL845、TRL847、TRL848、TRL849および5A7が、ビクトリアクレードを代表するB/マレーシア/2506/04に感染したマウスを疾患から防御することを示す図である。
図6B】IN経路による1mg/kgのmAb TRL845、TRL847、TRL848、TRL849および5A7が、ヤマガタクレードを代表するB/フロリダ/04/2006に感染したマウスを疾患から防御することを示す図である。
図6C】IN経路による1mg/kgのmAb TRL849、TRL846、TRL854、TRL856、TRL847および5A7が、ビクトリアクレードを代表するB/マレーシア/2506/04に感染したマウスを疾患から防御することを示す図である。
図6D】IN経路による1mg/kgのmAb TRL849、TRL846、TRL854、TRL856、TRL847および5A7が、ヤマガタクレードを代表するB/フロリダ/04/2006に感染したマウスを疾患から防御することを示す図である。
図7A図7A~7Dは、3種類の抗インフルエンザmAbを共投与しても抗B mAbの効率に干渉しないことを示す図である。マウスに10×LD50のウイルスを感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療し、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。図7A図7Dは、全体として、カクテルがあらゆる季節性インフルエンザ亜型の代表的な株(H1N1、H3N2およびBの両系統)に対して、カクテルに含まれる他のmabによる干渉を受けずに、予想されるレベルの防御をもたらすことを示す図である。図7Aは、10×LD50のH1N1に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示す図である。
図7B】10×LD50のH3N2に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示す図である。
図7C】10×LD50のB/ヤマガタ系統に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示す図である。
図7D】10×LD50のB/ビクトリア系統に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示す図である。
図8】PEPSCAN社により作成されたB/Lee/1940/HAタンパク質(配列番号291)のCLIPS(商標)ペプチドアレイを示す図である(上パネル)。B/Lee/1940/HAタンパク質の影を付けた領域は、ペプチドアレイの作成に用いたaa_15-65(配列番号292)、aa_300-359(配列番号293)およびaa_362-481(配列番号294)の残基に対応している。表9(下パネル)は、mAb5A7エピトープ1-aa_333-338(配列番号304)、エピトープ2-aa_342-346(配列番号305)およびエピトープ3-aa_457-463(配列番号306);mAb TRL845エピトープ-aa_455-463(配列番号307);TRL848エピトープ1-aa_64-71(配列番号308);エピトープ2-aa_336-348(配列番号309);エピトープ3-aa_424-428(配列番号310);mAb849エピトープ1-aa_317-323(配列番号311)、エピトープ2-aa_344-349312)、エピトープ3-aa_378-383(配列番号313);mAb854エピトープ1-aa_457-463(配列番号314)を示している。右下の図には、HAのストーク上にその領域が濃灰色で示されている。
図9】HAタンパク質のストークに沿ったPEPSCAN(商標)解析によるエピトープマッピングを示す図である。影を付けた領域は、各mAbが結合するエピトープを表している。mAbのTRL848、TRL845、TRL854およびTRL849は、HAのストークに沿って部分的に重複する不連続エピトープを認識する。公開されている配列に由来する対照mAb5A7では、ほぼ同じであるが固有のエピトープが得られた。
図10A図10A図10Fは、mAbのTRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854の融解曲線アッセイを示す図である。各mAbは高い熱安定性を示した。図10Aは、TRL845の融解曲線を示す図であり、2つの融解温度(Tm1、Tm2)がそれぞれ58.3℃および68.7℃にみられる。
図10B図10Aおよび図10C~10Fにそれぞれ示されるmAbのTRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854の融解温度(Tm)を記載した表10を示す図である。
図10C】TRL847の融解曲線を示す図であり、融解温度(Tm1)は70.3℃である。
図10D】TRL848の融解曲線を示す図であり、融解温度(Tm1)は70.1℃である。
図10E】TRL849の融解曲線を示す図であり、2つの融解温度が(Tm1、Tm2)それぞれ70℃および81.8℃にみられる。
図10F】TRL854の融解曲線を示す図であり、2つの融解温度(Tm1、Tm2)が59.7℃および68.9℃にみられる。
図11A】同じ用量でのIN投与およびIP投与を示す図であり、Mab INの方がIPで投与した同じMabよりも効力が10~100倍高いことを示している。マウスに10×LD50のH1インフルエンザウイルス(A/プエルトリコ/8/1934)を接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgのCA6261MabでINまたはIPにより治療し、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。データから、中和抗体のIN送達により、全身送達に比してその治療効果が大幅に増大したことがわかる。
図11B】抗体MAb53(TRL053)のIN投与およびIP投与のH1ウイルスに対する治療効果の評価を示す図である。マウスに10×LD50のH1インフルエンザウイルスのA/プエルトリコ/8/1934(PR8)を接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgの中和抗体TRL053(MAb53)をINまたはIP投与して治療し、対照にはPBS治療マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。IN投与したTRL053の方がIP投与よりも高い効果を示した。TRL053は、IPでは用量10mg/kgでのみ多少効果がみられた。IN用量は10mg/kgおよび1mg/kgで効果がみられた。
図12A】同じ用量でのINとIPとの比較を示す図であり、Mab CA8020 INの方がIPで投与した同じMabよりも効力が10~100倍高いことを示している。マウスに10×LD50のH3インフルエンザウイルスを接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgの中和CA8020 Mabを用いてINまたはIPで治療し、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。
図12B】抗体MAb579(TRL579)のIN投与およびIP投与のH3ウイルスに対する治療効果の評価を示す図である。マウスに10×LD50のVic/11 H3ウイルスを接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgの抗体TRL579をINまたはIP投与して治療した。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターした。TRL579はIPまたはINで効果を示すが、IN投与したTRL579の方がIP投与よりも高い効果を示した。TRL579は、IPでは用量10mg/kgでのみ多少効果がみられた。この試験のINは、用量10mg/kgおよび1mg/kgで効果がみられた。
図13】ウイルス感染の3日または4日前の予防的IN投与およびIP投与を示す図である。3×LD50のH1インフルエンザウイルスA/プエルトリコ/8/1934(PR8と表す)による攻撃の3日または4日前に抗体CA6261をINまたはIPで投与した。感染の3日前(-3dpi)または感染の4日前(-4dpi)にCA6261抗体をIN(0.1mg/kg)またはIP(0.1mg/kgおよび1mg/kg)で投与し、H1インフルエンザウイルスで攻撃した。対照をウイルス未感染および未治療とした。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。図13は、感染の最大4日前(-4dpi)のIN投与(0.1mg/kgで評価した)では、マウスがウイルス攻撃から防御されたことを示している。感染3日または4日前に同じ用量(0.1mg/kg)でIP投与した場合、効果は全くみられなかった。感染の3日または4日前のIP投与で効果がみられたのは1mg/kgであった。IN(0.1mg/kg)投与とIP(1mg/kg)投与とを比較したところ、-3dpiおよび-4dpiともに、IPの10分の1のIN用量でIPよりも高い効果がみられた。
図14】ウイルス感染の5日、6日または7日前の予防的IN投与およびIP投与を示す図である。3×LD50のH1インフルエンザウイルスPR8による攻撃の5日、6日または7日前に抗体CA6261をIP(1mg/kg)またはIN(1mg/kg)で投与した。対照をTamiflu(10mg/kgで1日2回、5日間の経口投与)投与、未治療およびウイルス未感染とした。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。いずれの場合も、Tamifluよりも抗体の方が高い効果が認められた。
図15】より高い投与量である10×LD50のウイルス攻撃によるウイルス感染の5日、6日または7日前に実施した予防的IN投与およびIP投与を示す図である。10×LD50のH1インフルエンザウイルスPR8による攻撃の5日、6日または7日前に抗体CA6261をIP(1mg/kg)またはIN(1mg/kg)で投与した。対照をTamiflu(10mg/kgで1日2回、5日間の経口投与)投与、未治療およびウイルス未感染とした。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。この試験では、抗体を(鼻腔内投与により)気道に投与したマウスのみがウイルス攻撃後もすべて生存していた。ウイルス攻撃の5日、6日または7日前に1mg/kgの抗体を投与して治療したマウスは十分に防御されず、感染症により死亡した。Tamifluには防御効果が全く認められなかった。ウイルス感染の5日前または6日前のいずれかに0.1mg/kgの抗体を鼻腔内投与して治療したマウスは、ウイルス攻撃後も未感染の対照マウスとほぼ同程度に生存した。
図16】モノクローナル抗インフルエンザB抗体の赤血球凝集抑制、in vitroでのB/ビクトリアおよびB/ヤマガタ系統の中和、予測結合部位(頭部、茎部)およびin vivoでの効果の評価を記載した表11を示す図である。in vivoの結果は、10×LD50のウイルスを接種し、24hpiに示されるTRL抗体を1mg/kgでIN投与した動物の初期体重に対するパーセントを評価した3つの異なる試験を各場合についてまとめたものである。動物の体重は14日間観察したものであり、観察された最も少ない体重が示されている。抗体TRL809、TRL832、TRL846、TRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854の結果が示されている。TRL809、TRL832、TRL846、TRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854はそれぞれ、in vivoでの効果の評価する期間全体を通じて動物の初期体重の少なくとも95%を維持する効果を示した。TRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854は、in vivoでの効果の評価する期間全体を通じて動物の初期体重の少なくとも96%を維持する効果を示した。TRL846は従来のin vitroアッセイで中和効果を示さなかったが、放出抑制作用は示し、したがって、中和抗体であると考えられる。
図17】B抗体の等電点およびB/フロリダ(ヤマガタ系統)およびB/マレーシア(ビクトリア系統)インフルエンザウイルス株に対する親和性(nMで表したK)に関する特徴付けを記載した表12を示す図である。B抗体のインフルエンザウイルスに対する親和性を評価し、相対的効果の指標の一側面とした。B/マレーシアに対するTRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854の親和性はそれぞれ、各場合ともサブnM(1.0nM未満)であった(データ不掲載)。
図18】B/フロリダ(ヤマガタ系統)ウイルスを投与し24hpiに様々なインフルエンザB抗体を投与した動物有効性試験を示す図である。いずれの抗体も、10×LD50のウイルスを投与した24hpiに1mg/kgでIN投与した。被験抗体をTRL845、TRL847、TRL848、TRL849、5A7およびCA8033とした。PBS投与個体およびウイルス未感染個体を対照とした。感染から14日間、動物の体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。IN投与した抗インフルエンザB抗体は、投与量10×LD50のヤマガタ系統ウイルスによる感染に対して効果を示し、抗体で治療した感染動物の体重が100%維持された抗体もいくつかみられた。
図19】B/フロリダ(ヤマガタ系統)ウイルスを投与し24hpiに様々なインフルエンザB抗体を投与した動物有効性試験を示す図である。いずれの抗体も、10×LD50のウイルスを投与した24hpiに1mg/kgでIN投与した。被験抗体をTRL849、TRL846、TRL854、TRL856、TRL847、5A7、TRL809およびTRL848とした。PBS投与個体およびウイルス未感染個体を対照とした。感染から14日間、動物の体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。IN投与した抗インフルエンザB抗体は、投与量10×LD50のヤマガタ系統ウイルスによる感染に対して効果を示し、抗体で治療した感染動物の体重が100%維持された抗体もいくつかみられた。
図20】B/マレーシア(ビクトリア系統)ウイルスを投与し24hpiに様々なインフルエンザB抗体を投与した動物有効性試験を示す図である。いずれの抗体も、10×LD50のウイルスを投与した24hpiに1mg/kgでIN投与した。被験抗体をTRL845、TRL847、TRL848、TRL849、5A7およびCA8033とした。PBS投与個体およびウイルス未感染個体を対照とした。感染から14日間、動物の体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。IN投与した抗インフルエンザB抗体は、投与量10×LD50のビクトリア系統ウイルスによる感染に対して効果を示し、抗体で治療した感染動物の体重が100%維持された抗体もいくつかみられた。
図21】B/マレーシア(ビクトリア系統)ウイルスを投与し24hpiに様々なインフルエンザB抗体を投与した動物有効性試験を示す図である。いずれの抗体も、10×LD50のウイルスを投与した24hpiに1mg/kgでIN投与した。被験抗体をTRL849、TRL846、TRL854、TRL856、TRL847、5A7、TRL809およびTRL848とした。PBS投与個体およびウイルス未感染個体を対照とした。感染から14日間、動物の体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。IN投与した抗インフルエンザB抗体は、投与量10×LD50のビクトリア系統ウイルスによる感染に対して効果を示し、抗体で治療した感染動物の体重が100%維持された抗体もいくつかみられた。
図22A】ビクトリア系統ウイルスのB/マレーシア(図22A)およびヤマガタ系統ウイルスのB/フロリダ(図22B)を用いた動物試験での抗インフルエンザB抗体の効果の評価を示す図である。マウスに10×LD50のウイルスを感染させ、24hpiに1mg/kg用量の抗体によりIN治療した。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。被験抗体は、図に示されるように、TRL809、TRL832、抗体5A7およびTRL579とした。TRL579は抗H3抗体であり、これを陰性対照とした。TRL809およびTRL832は、ウイルス結合を阻止することによりインフルエンザを中和する。IN投与した抗インフルエンザB抗体TRL809、TRL832および5A7は、投与量10×LD50のビクトリア系統ウイルスによる感染に対して効果を示し、抗体で治療した感染動物の体重はほぼ100%維持された。
図22B】ビクトリア系統ウイルスのB/マレーシア(図22A)およびヤマガタ系統ウイルスのB/フロリダ(図22B)を用いた動物試験での抗インフルエンザB抗体の効果の評価を示す図である。マウスに10×LD50のウイルスを感染させ、24hpiに1mg/kg用量の抗体によりIN治療した。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。被験抗体は、図に示されるように、TRL809、TRL832、抗体5A7およびTRL579とした。TRL579は抗H3抗体であり、これを陰性対照とした。TRL809およびTRL832は、ウイルス結合を阻止することによりインフルエンザを中和する。IN投与した抗インフルエンザB抗体TRL809、TRL832および5A7は、投与量10×LD50のビクトリア系統ウイルスによる感染に対して効果を示し、抗体で治療した感染動物の体重はほぼ100%維持された。
図23】インフルエンザAまたはインフルエンザBウイルスに対する抗体TRL053、TRL579および5A7の組合せのIN投与を用いて抗ウイルス効果を評価した動物試験を示す図である。動物にH1ウイルスのPR8、H3ウイルスのビクトリア/11、インフルエンザBウイルスのB/マレーシアまたはインフルエンザBウイルスのB/フロリダのいずれかを感染させた後、未治療のまま放置するか、3種類の抗体のカクテルで治療した。各抗体を1mg/kgの用量で含ませ、総抗体量を3mg/kgとした。カクテル治療個体には、図のように、10×LD50のウイルスを投与して24hpiに組合せ抗体を投与した。対照としてウイルス未感染個体が図示されている。感染から14日間、動物の体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。図23から、10×LD50のウイルスによる感染から24時間後に単回混合用量として投与した抗体カクテルが、H1ウイルス、H3ウイルス、B/ヤマガタ系統ウイルスおよびB/ビクトリア系統ウイルスのそれぞれまたはいずれかによる感染に対して効果を示したという証拠が得られる。
図24】感染から4日後に1mg/kgのCF-401の単回投与で治療した場合、100%のマウスが致死量のH1N1による攻撃後も生存した動物試験を示す図である。標準治療のTamifluを投与しても防御作用は示さないが、CF-401 mAb療法に加えると、さらに体重減少が抑えられる。第4~8日に1日2回、10mg/kgのTamifluを経口投与した。データは、標準治療(Tamiflu)にmAb療法を加えると、遅い時点で投与しても効果が得られることがわかる。
図25】CA6261抗体のモデル抗体フラグメントFabのH1ウイルスに対する治療効果をIN投与とIP投与とで比較した結果を示す図である。マウスに10×LD50のH1インフルエンザウイルスを接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgの中和CA6261 FabをINまたはIPで投与し、対照にはPBS治療マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。IN投与したFab CA6261抗体はいずれの用量でも、いずれのIP投与したいずれの用量よりも高い効果を示した。中和FabをIP投与した場合、最高用量の10mg/kgでも検出可能な効果はみられなかった。
【発明を実施するための形態】
【0069】
(詳細な説明)
生命を脅かす季節性および流行性のインフルエンザ感染症は依然として重大な疾患であり、米国だけでも40,000人がこれにより死亡している。季節性ワクチンを用いることができてもインフルエンザを根絶するには至っておらず、重要な臨床的課題となっている。実際に使用されているインフルエンザの承認薬はTamiflu(登録商標)1つのみであるが、インフルエンザには、Tamiflu(登録商標)をはじめとするノイラミニダーゼ阻害剤に対する耐性を発達させる傾向が強いことが明らかにされている。さらに、Tamiflu(登録商標)は、症状発現から48時間後に投与すると実質的に効果が失われることがわかっている。
【0070】
インフルエンザを標的とする抗体がワクチンに代わるものとして感染症の治療または予防に迅速に効果を発揮し得るのに対し、ワクチンは通常、有効な抗ウイルス活性を誘導するのに数週間を要する。特に魅力的なものとして、赤血球凝集素ストークと呼ばれる領域のインフルエンザ表面の主要なタンパク質である赤血球凝集素に反応性を示すモノクローナル抗体があり、赤血球凝集素は遺伝的に安定であり、季節による変化がほとんどない、または全くみられない。
【0071】
既に特徴が明らかにされ、インフルエンザの治療用抗体として開発中の抗体が、ウイルスの保存されたエピトープに基づくものを含め多数存在する。一部の交差反応性抗体は、ワクチン接種または自然感染時に最も堅固な中和抗体を生じさせる赤血球凝集素(HA)糖タンパク質を標的とする。HAは、ウイルス感染に極めて重要な成分である2つのサブユニット、HA1およびHA2を含む。MAb CR6261はよく特徴付けられた抗体であり、第1群内のH1ウイルスおよびその他の亜型(H5)と結合すると考えられ、HA2サブユニットと結合する(Throsby Mら(2008)PL0S ONE 3:e3942;Eckert DCら(2009)Science 324:246-251;Friesen RHEら(2010)PLoS ONE 5(2):e1906;米国特許第8,192,927号)。MAb CR8020は、第2群ウイルスであるH3ウイルスおよび別の亜型(H7)ウイルス両方のHA2の膜近位ドメイン領域と結合すると考えられている(Eckert DCら(2011)Science 333:843-850)。スイスの研究者による抗体FI6v3は、第1群(H1)および第2群(H3)両方のウイルスに存在するエピトープと結合することができると考えられているが、FI6の効果が少ないことがマウスで明らかにされている(Corti Dら(2011)Science 333:850-856)。Paleseらは、様々な赤血球凝集素を有するマウスに連続予防接種を用いて、H3インフルエンザウイルスに対して広範な防御作用を示すモノクローナル抗体を報告している(Wang TTら(2010)PLoS Pathog 6(2):e1000796;米国特許出願公開第20110027270号)。この方法を用いて、広域反応性を示すと考えられるH1抗体が単離されている(Tan GSら(2012)J Virol 86(11):6179-6188)。
【0072】
HAに対するモノクローナル抗体によるインフルエンザの治療的処置は用量依存性であるほか、感染後に時間が経過してから投与する場合には用量を高くする必要がある。広域反応性のHA特異的抗体をIPまたはIVで実施する典型的な治療的投与では、致命的攻撃から防御するのに2mg/kg~50mg/kgの範囲の用量を必要とする。感染後に時間が経過してから同じ効果を得るには、10mg/kgを超える範囲の投与が必要となる。北米の平均的な成人は約80.7kgであり、10mg/kgで投与する場合、抗体を807mg必要とすることになる。Crucell Holland BVにより現在実施されているインフルエンザモノクローナル抗体CR6261およびCR8020を対象とする2件の第1相試験では、1mg/kgから50mg/kgまで漸増する単回用量での安全性および耐容性が評価されている(それぞれ試験NCT01406418およびNCT01756950;clinical trials.gov)。マウスでは、死に至らないようにするために上記の抗体を15mg/kg必要とする(Friesen,RHEら(2010)PLoS ONE 5(2):e1906);Ekiert DCら(2011)Science 333:843-850)。これらのIPまたはIV投与量に基づけば、ヒト(約70kg)の体重に基づき単一抗体が患者1人当たり1グラム前後必要となる。複数のインフルエンザ亜型を対象とするいかなる治療法でも、流行中のインフルエンザの3つの異なる亜型(インフルエンザA H3、インフルエンザA H1およびインフルエンザB)を治療するには2つ以上の抗体が必要とされることによりこの量はさらに増大し、したがって、各抗体を約1グラムと仮定すると、合計3グラム前後の抗体が必要になると考えられる。抗体がこれほど大量になると、コストが法外に高くなるほか、投与も困難であり、インフルエンザの治療用抗体を開発するうえで大きな障害となる。
【0073】
本発明者らは、効果を著明に保持し、場合によっては改善しながらも、抗体の量を大幅に10倍超減らす解決法をつきとめた。本発明者らは、抗体を鼻腔内に、またはより一般的には吸入により送達することで、効果がIVまたはIP経路に比して著明かつ有意に改善されることを発見した。米国特許出願第61/782,661号および国際出願PCT/US2014/27939号(参照により本明細書に組み込まれる)にはインフルエンザモノクローナル抗体の有効な経気道投与が記載されている。
【0074】
受け入れられている既知のインフルエンザマウスモデルを用いて、中和抗体の鼻腔内(IN)送達により、治療効果を腹腔内(IP)または静脈内(IV)到達経路に比して大幅に10倍超増大させることができるのは注目すべきことである。IVまたはIP経路の代わりにINで投与すると、同用量の10分の1未満の量を用いて同等の効果を得ることができる。インフルエンザの治療に現在用いられている治療デザインは、標準治療として静脈内送達を用いるものである(ClinicalTrials.gov識別番号:NCT01390025、NCT01756950、NCT01406418)。抗体の中和特性を利用することが可能であるかどうかは明らかにされていないため、当該分野ではこの送達方法が標準治療となっている。抗体治療薬に関する研究の大部分はIVまたはIP送達を用いるものであり、インフルエンザに中和抗体をIN送達することで効果がIVまたはIP送達に比して改善されることを明らかにすることはできない。
【0075】
これまでに報告されているIN送達では、ポリクローナル血清ガンマグロブリンIVIGまたは抗体のIgAクラス(IgA抗体は生得的に肺によくみられる)が評価されている(Akerfeldt Sら(1973)Biochem Pharmacol 22:2911-2917;Ramisse Fら(1998)Clin Exp Immmunol 111:583-587;Ye Jら(2010)Clin Vaccine Immunol 17(9):1363)。あるグループは、抗体(C179)の腹水調製物をIN経路により試験し、防御的IN送達(攻撃前)でもIPと差がないことを記載している(Sakabe Sら(2010)Antiviral Res 88(3):249-255)。C179は、2009年に大流行したH1N1ウイルスに対する中和活性は低いが、マウスを感染から防御することが報告されている。
【0076】
これとは対照的に、本発明者らは、重要なこととして、投与様式に関係なく、効果の増大が単に交差反応性抗インフルエンザ抗体を伴うだけではないことを発見した。一般に、INで投与すると中和作用を示さない抗体は、インフルエンザに対して効果を示さない。本発明者らの知る限り、これまで、標的とするウイルスのエピトープまたはタンパク質に関係なく、この効果をin vitro中和活性を示す抗体に対してより広範に適用することが可能であることを明らかにした研究はない。さらに、中和作用を示す株特異的抗体をINで投与しても効果の増大がみられることから、抗体がHAに対して交差反応性である必要はない。本発明者らは、投与経路に応じて同等の効果を得るのに必要な抗体の量を大幅に減らすには、中和抗体(単に交差反応性の抗HA抗体であるだけではない)が不可欠であることを発見した。実際、本発明者らは、中和作用を示さない交差反応性抗HA抗体を用いると、逆のことが起こることを発見した。このような交差反応性非中和抗HA抗体を治療に用いると、鼻腔内投与によりマウスを治療する際に治療効果が著明に減少するが、IPまたはIV経路により投与すると、これらの抗体が相当な効果を示す。
【0077】
理論に束縛されるものではないが、この現象の背後にあると考えられる機序は、鼻腔内送達では、気道粘膜内のIgG抗体のレベルが抗体の抗原結合部位の中和能を利用することができる程度に達するのに対し、抗体のIVまたはIP送達はFcに依存することにある。気道内では、阻害機序は抗体の中和特性に依存し、Fc依存性の作用は著しく制限される。IPまたはIVによりIgG抗体を投与すると、気道内のこの空間に到達する抗体の量が少なくなり、抗体の中和作用を利用することができない。例えば、IPまたはIVにより中和抗体を投与する場合、観察される治療効果は、主として抗体エフェクター機能に起因するものである。本発明者らは、INではなくIPまたはIVで投与しても、中和抗体または非中和抗体の効果のレベルに差がないことを発見した。この作用が中和に依存することをさらに説明すると、M2タンパク質に対する抗体はin vitroの中和作用を示さず、Fc仲介性の作用を示すことしかできない。M2イオンチャネル(HAよりも遺伝的に保存された分子)に対する抗体を用いたこれまでの研究は、前臨床的モデルで有望であることを明らかにし、第I相試験が終了している(Theraclone社のTCN-032;NCT01390025、NCT01719874;Grandea AGら(2010)Proc Natl Acad Sci USA 107(28):12658-12663)。M2タンパク質に対する抗体はウイルスを中和することはできないが、エフェクター機能を介した治療効果が十分に確認されている(Wang,R.ら(2008)Antiviral research 80:168-177;Grandea,A.G.,3rdら(2010)Proc Natl Acad Sci USA 107(28):12658-12663)。本発明者らは、中和抗体および非中和抗体はともに、IPまたはIVで投与すると、主としてM2標的化抗体と同様のエフェクター機能を介して機能するものと考える。M2タンパク質はHAよりもはるかに量が少ないほか、表面から突出していない。HAに対する抗体はウイルスを中和することが可能であり、なおも効果が改善される可能性を秘めている。したがって、通常、HAに対する抗体の方が抗M2抗体よりも治療効果が高い。それでも、中和作用を示さなくてもHAを標的とする抗体は、IPで投与しても中和抗体と同レベルの効果を示す可能性があり、この送達経路では、INで投与したときに利用することが可能な強力な作用を利用できないことが示唆される。さらに、IPではなくINで中和Fabを送達すると治療効果が得られる。INで投与した非中和Fabは治療効果を示さない。以上をまとめると、このような効果の増大を示すのはINで投与した中和抗体のみである。この観察結果を拡張すると、肺送達による効果の増大というこの現象は、他のインフルエンザタンパク質(例えば、ノイラミニダーゼ)を標的とする中和抗体および他の呼吸器病原体に対する中和抗体(例えば、RSVに対するパリビズマブ)に起こり得る。この効果の増大または効果の増大のレベルは、呼吸器病原体のこのサブセットの肺尖部における複製生活環に依存するものと思われ、この場合、肺尖の空間隙では、これらのウイルスが上記の抗体の中和能による影響を受けやすい。INおよびIP/IV経路による抗体の送達はともに、それぞれが異なる方法で効果を発揮し得るため、両経路を組み合わせて用いれば、中和抗体の最大の治療能を利用することが可能である。この方法は、IN経路を介した中和活性の増大およびIP/IV経路によるFc依存性活性の増大を利用することにより、最大の効果を可能にするものである。
【0078】
本発明の実施例では、既知の抗体および新たに単離された抗体を含めた中和抗体の低用量での鼻腔内効果を示す。例示的な抗体として、抗体CR6261、CR8020、CR9114、5A7、mAb53(TRL053)、mAb579(TRL579)、TRL845、TRL846、TRL847、TRL848、TRL849、TRL854、TRL809およびTRL832を含めた多数の異なる既知の抗体で鼻腔内効果が得られる。前臨床試験を含め、例えばCR6261およびCR8020などの試験が多数実施されているものの、このような活性および効果はこれまでに明らかにされていない。本明細書では、既知の抗体および新たに単離された抗体を含めた多数の異なる抗体を評価し、経気道投与で効果が得られる。
【0079】
本発明は、インフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスに対して効果を示し、有害な相互作用を伴わず著明な製剤化効率で製造および投与することができる、新規で独自の抗体の組合せに関する。本発明による組合せの抗体は、インフルエンザAウイルスの亜型H1、H3、H5のほか、インフルエンザBのヤマガタ系統およびビクトリア系統を含めた、互いに異なるが、いずれも臨床的に重要な亜型に対するものである。したがって、本発明は全般的には、適用可能な抗体の組合せおよびカクテルを提供し、ここでは、重要な流行中のインフルエンザウイルスを中和することができる抗体の独自の組合せまたはカクテルを、経気道投与ならびに鼻腔内などの気道から、または肺もしくは気管支粘膜への送達により本発明の抗体の組合せまたはカクテルを投与することによるインフルエンザウイルス、インフルエンザによる感染および/または伝染の治療または予防のための方法および組成物に用いることができる。本発明の抗体の組合せまたはカクテルの独自で有用な効果により、投与または使用前にインフルエンザウイルスまたは亜型の臨床評価も特異的診断も実施する必要がない。抗体フラグメント、誘導体または変異体が企図される。本明細書では、Fabを含めた抗体フラグメントで本開示に従って効果が得られることが示される。本開示の実施形態の一態様では、抗体のFabフラグメントは、経気道経路(例えば、鼻腔内または吸入による)で投与すると活性および効果を示し、IPまたはIVで投与すると無効である。図25に示されるように、吸入製剤にはモデルFabがin vivoで効果を示す。いくつかの実施形態では、scFvである抗原結合フラグメントが提供される。
【0080】
いくつかの実施形態では、インフルエンザに対する受動免疫に用いる抗体、抗原結合フラグメント、組成物および方法が提供される。いくつかの実施形態では、インフルエンザウイルスの治療または予防のための抗体の組合せ、組成物および方法が提供される。いくつかの態様では、インフルエンザAおよびBに対するモノクローナル抗体を含み、鼻腔内または吸入投与などの経気道投与を含めた投与により全身に、または呼吸気道に直接投与するのに適した組成物が提供される。抗体(1つまたは複数)の経気道投与または抗体の鼻腔内もしくは吸入投与と腹腔内もしくは静脈内投与の組合せにより治療または予防するための組成物および方法が提供される。
【0081】
最近、赤血球凝集素(HA)分子内に保存されたエピトープが発見された。多種多様なインフルエンザAウイルス亜型を認識し中和することが可能なヒトモノクローナル抗体(MAb)の単離および特徴付けに関する報告がいくつかある。これらの多くは、ワクチン接種または自然感染時に最も堅固な中和抗体を生じさせる赤血球凝集素(HA)糖タンパク質を標的とするものである。HAは、ウイルス感染に極めて重要な成分である2つのサブユニット、HA1およびHA2を含む。HA1は宿主細胞の受容体シアル酸との結合に関与し、HA2はウイルスとエンドソーム膜との融合を仲介する。
【0082】
現在用いられている抗体療法の用量は、米国で臨床承認されている20を超えるモノクローナル抗体を含めた多数の組換え抗体に関するこれまでの研究および臨床経験に基づき十分に確立されており、1用量当たり数mg/kgである(Newsome BWおよびErnstoff MS(2008)Br J Clin Pharmacol 66(1):6-19)。例えば、結腸直腸癌に承認されている抗EGFR完全ヒト抗体のパニツムマブは、2週間ごとに6mg/kgを1~1.5時間にわたって静脈内に投与する。ヒトの平均体重70kgを用いれば、この量は1用量当たり420mgの抗体となる。
【0083】
モノクローナル抗体でこれまでにインフルエンザに臨床承認されているものはない。動物を対象にインフルエンザ抗体を用いた試験の報告では、これらの抗体を治療または予防目的で静脈内または腹腔内に投与する場合、その有効量の範囲には、1mg/kgから最大100mg/kgまでの範囲を必要とすることが明らかにされている。数種類のこれらの抗体(CR6261、CR8020、TCN-032)を用いた米国での第I相臨床試験では、安全性および耐容性の試験に2mg/kgから最大50mg/kgまで用量を漸増させて用いている(clinicaltrials.gov;NCT01390025、NCT01406418、NCT01756950)。その後、これらの抗体を用いた第IIa相試験が第I相の最大用量(例えば、30mg/kgまたは50mg/kg)で実施されている。これほど大量の原料は、この新たな抗体治療薬の系列を開発するうえで大きな障害となる。特に、この範囲で全身投与するとなると、原料のコストが相当高くなるほか、注入に関わる時間的、空間的および人員的コストが必然的に伴う。したがって、抗体を用いたインフルエンザの治療法または予防法が実現可能な選択肢となるには、効果を増大させ、かつ/または必要な原料の量を削減することが必要になるのは避けられない。
【0084】
インフルエンザBはインフルエンザAよりもいくぶん頻度は低いが、重大な健康問題であることに変わりはない。インフルエンザBウイルスは一般に、B/ビクトリア/2/87様およびB/ヤマガタ/16/88様の2つの系統に分類される。インフルエンザBウイルスは、塩基性1-F2(PB1-F2)と呼ばれるタンパク質は存在しないが、インフルエンザAには存在しない糖タンパク質B(NB)などのほかのタンパク質が存在する点でインフルエンザAウイルスとは異なる。ほかにも相違点がいくつかある。しかし、インフルエンザB株のHAタンパク質は、一部のインフルエンザAのHAが互い相同であるように、これらと相同である。
【0085】
インフルエンザウイルスの赤血球凝集素タンパク質(HA)は、インフルエンザ株の間で不均一性の高い球状の頭部ドメインおよび細胞内への侵入に必要な融合部位を含むストーク領域を有する。HAはウイルスエンベロープ上に三量体で存在する。未切断型の赤血球凝集素タンパク質(HA)がトリプシンによりHA部分とHA部分に切断されて活性化すると、融合部位が毒性を示すようになる。2つの切断された部位は、ジスルフィド結合を用いて結合したままであるが、宿主細胞のエンドソーム区画の低pH環境内では立体構造変化を受けてウイルスと宿主細胞膜の融合を引き起こす。
【0086】
切断部位には、インフルエンザAおよびB両方の様々な株に共通するコンセンサス配列が含まれている。未切断の赤血球凝集素タンパク質三量体(HA)は不活性型と呼ばれるのに対し、赤血球凝集素タンパク質がHA部分とHA部分に切断されると、活性化型であると言われる。
【0087】
Bianchi,E.ら,J.Virol.(2005)79:7380-7388には、この切断部位のコンセンサス配列に基づく「汎用」インフルエンザBワクチンが記載されており、ここでは、この部位を含むペプチドを髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)の外膜タンパク質複合体をコンジュゲートすると、マウスに抗体を生じさせることができたとしている。このほか、コンセンサス配列と結合すると思われるモノクローナル抗体(mAb)が記載された。さらに、マウスで抗血清の受動移入に成功するのが観察されている。その他の先行技術のワクチン、例えばインフルエンザのM2および/またはHAタンパク質に由来するペプチドを含む国際公開第2004/080403号に記載されているワクチンなどは、株間で効果が低いか、効果がみられない抗体を誘導する。
【0088】
当該技術分野で記載されている抗体で、HAストーク領域と結合するものとしては、Crucell社が開発した抗体、例えば国際公開第2008/028946号(‘946);Throsby,M.ら,PLoS One(2008)3:e3942;Ekiert,D.C.ら,Science(2011)333:843 850;およびSui,J.ら,Nat.Struct.Mol.Biol.(2009)16:265-273に記載されているCR6261およびCR8020などが挙げられる。上記のPCT公開‘946によれば、これらの抗体はH5N1だけでなく、H2、H6、H9およびH1とも結合する。このほか、Grandea,A.G.ら,PNAS USA(2010)107:12658-12663により記載されているように、保存されたM2E抗原に対するmAbが開発されている。M2Eはウイルスにコードされているタンパク質であり、感染細胞の表面に出現し、アマンタジンおよびリマンタジンの標的でもある。これらの抗ウイルス剤に対しては薬物耐性が広まっており、このことは、この標的が不可欠な機能を果たさないことを示唆している。
【0089】
ほかにも、Lanzavecchiaのグループ:Corti,D.ら,Science(2011)333:850-856には、インフルエンザAの第1群および第2群両方の株と結合して中和する先行技術の抗体が記載されているが、その効力は本明細書に記載されるものほど高くはない。さらに、インフルエンザAおよびB両方のストーク領域に対して免疫反応性を示すmAbがDreyfus,C.ら,Science(2012)337:1343-1348に記載されているが、検出可能な中和能は持たない。同著者らは、HAの頭部基と結合するmAbを2つ記載しており、そのうち一方は、インフルエンザBの2つのクレードの株に対する親和性および効力に大きなばらつきがみられ、他方は親和性が約1nMである。これらの結果から、インフルエンザBの広域中和mAbを得ることが困難であることが確認される。
【0090】
参照により本明細書に組み込まれるPCT出願公開第2011/160083号には、ヒト細胞に由来し、受動ワクチンに有用なモノクローナル抗体が記載されている。この抗体は、インフルエンザウイルス第1群のクレードH1との結合に高い親和性を示し、その一部の抗体はほかにも、同じく第1群のH9ならびに/あるいは第2群のH7および/または第1群のH2に対して高い親和性を示す。開示されている抗体には、推測ではあるがコンセンサス切断領域にある、不活性化三量体型のみと結合するものもあれば、既に切断されている活性化赤血球凝集素タンパク質と結合することができるものもある。
【0091】
参照により本明細書に組み込まれるPCT公開第2013/086052号には、このコンセンサス領域にあるエピトープと結合し、第1群のH1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H13およびH16ならびに第2群のH3およびH7を含めた第1群および第2群両方の多数のインフルエンザAウイルスと結合する、二重特異性抗体を含む一群の抗体が開示されている。さらに、最近公開されたYasugi,M.ら,PLoS Pathogens(2013)9(e1003150としてオンラインで公開されている)の1~12ページには、インフルエンザBウイルスを中和するヒトmAb、特に、感染から72時間後にマウスに投与しても治療効果が認められるとされる、5A7と命名されたmAbが記載されている。5A7のKは被験株に対してのみ5nMであると報告されており、エピトープは高度に保存されたC末端ストーク領域内にあることが特定されており;報告された効力は、インフルエンザBのいずれの株に対しても同程度であった。この結果から、インフルエンザBに対する高親和性(サブnM)mAbを得ることが困難であることが確認される。
【0092】
いくつかの実施形態では、予防にも治療にも有用な抗体またはこれに類似した結合部分が提供される。したがって、これらは、対象のウイルスによる感染からの防御のほか、既にインフルエンザBに曝露または感染した対象の治療に使用され得る。最終的に最も関心のある対象はヒト対象であり、ヒト対象に使用するには、従来の天然抗体またはその免疫反応性フラグメントであるヒト型またはヒト化型の結合部分が好ましい。しかし、相補性決定領域(CDR)によって表されるしかるべき結合特性を含む抗体は、実験動物を対象とする試験に用いる場合、非ヒト特性を保持し得る。のちの実施例の試験はマウスを対象に実施されるものであるが、その試験に用いる抗体は、ヒトである可変領域および定常領域をともに含むものである。
【0093】
定義
本開示では、当業者の技能範囲内に収まる従来の分子生物学、微生物学および組換えDNAの技術を用い得る。このような技術は文献で十分に説明されている。例えば、Sambrookら,“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”(1989);“Current Protocols in Molecular Biology” Volumes I-III[Ausubel,R.M.編(1994)];“Cell Biology:A Laboratory Handbook” 第I~III巻[J.E.Celis編(1994))];“Current Protocols in Immunology” Volumes I-III[Coligan,J.E.ら編(1994)];“Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait編,1984);“Nucleic Acid Hybridization”[B.D.HamesおよびS.J.Higgins編(1985)];“Transcription And Translation”[B.D.HamesおよびS.J.Higgins編(1984)];“Animal Cell Culture”[R.I.Freshney編(1986)];“Immobilized Cells And Enzymes”[IRL Press,(1986)];B.Perbal,“A Practical Guide To Molecular Cloning”(1984)を参照されたい。
【0094】
したがって、以下に挙げる用語が記載されている場合、文脈上明らかに別の意味に解する必要がない限り、それらは以下に記載する定義を有するものとする。
【0095】
本明細書で使用される「抗体」または「結合部分」という用語は、抗体、その免疫反応性フラグメントまたは抗原結合フラグメントのほかにも、単一特異性モノクローナル抗体、多重特異性抗体、例えば二特異性モノクローナル抗体もしくは三特異性モノクローナル抗体など、単離モノクローナル抗体、組換えモノクローナル抗体および単離ヒトもしくはヒト化モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを指す。2つの免疫グロブリン重鎖と2つの免疫グロブリン軽鎖とを含む分子のほか、「フラグメント」が重複して記載される場合でも、従来の抗体の免疫反応性フラグメントまたは抗原結合フラグメントを含む。したがって、抗体には、Fabフラグメント、実質的に可変領域のみを含むF一本鎖抗体、二重特異性または三重特異性抗体および依然として免疫特異性を保持しているその様々なフラグメント型のほか、より従来的な天然の抗体の可変領域の活性に近いアミノ酸配列もしくは改変アミノ酸配列(すなわち、擬似ペプチド)を含むことにより「天然の」抗体の活性を模倣するタンパク質が含まれる。したがって、この用語は、天然であるか、全部または一部が組換えによるものまたは別の方法で改変したものなど合成であるかを問わず、免疫グロブリン結合ドメインを含むあらゆるポリペプチドを含め、抗体フラグメント、抗体の誘導体、機能的同等物および相同体を包含する。したがって、免疫グロブリン結合ドメインまたは別のポリペプチドと融合した同等物を含むキメラ分子が含まれる。キメラ抗体のクローニングおよび発現については、欧州特許出願公開第0120694(A)号および同第0125023(A)号ならびに米国特許第4,816,397号および同第4,816,567号に記載されている。
【0096】
「抗体」という用語はほかにも、天然であるか、一部または全部が合成により作製されたものであるかを問わず、免疫グロブリンを含む。この用語はこのほか、抗体結合ドメインであるか、これと相同である結合ドメインを有するあらゆるポリペプチドまたはタンパク質を包含する。ほかにも、CDR移植抗体がこの用語により企図される。「抗体」とは、特異的エピトープを結合する、抗体およびそのフラグメントを含めた任意の免疫グロブリンのことである。この用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体およびキメラ抗体を包含し、最後に挙げたキメラ抗体については、米国特許第4,816,397号および同第4,816,567号にさらに詳細に記載されている。「抗体(1つまたは複数)」という用語は、一般に4本の完全長ポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む野生型免疫グロブリン(Ig)分子またはこれと同等のIg相同体(例えば、重鎖のみを含むラクダナノボディ)を含み;Ig分子の不可欠なエピトープ結合特性を保持する完全長のその機能的変異体、変異体または誘導体を含むほか、二重特異性抗体、二特異性抗体、多重特異性抗体および二重可変ドメイン抗体を含み;免疫グロブリン分子は、任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)またはサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)のものであり得る。好ましい抗体はIgGクラスのものである。
【0097】
「抗体結合部位」とは、重鎖および軽鎖の可変領域および超可変領域からなり、抗原と特異的に結合する、抗体分子の構造的部分のことである。
【0098】
本明細書において様々な文法形態で使用される「抗体分子」という語句は、インタクトな免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分をともに企図する。
【0099】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団、すなわち、集団を構成する個々の抗体が同一であり、かつ/または同じエピトープ(1つまたは複数)と結合する集団から得られる抗体を指すが、例えば、天然の変異を含んでいる、あるいはモノクローナル抗体調製物を作製する過程で生じる可能性のある変異体は除外され、このような変異体は一般に、存在量が少ない。モノクローナル抗体とは、特定の抗原に対して免疫反応を示し得る抗体結合部位を1種類有する抗体のことである。したがって、モノクローナル抗体は通常、それが免疫反応を示す任意の抗原に対して単一の結合親和性を示す。ポリクローナル抗体調製物には通常、様々な決定基(エピトープ)に対する様々な抗体が含まれているが、これとは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対するものである。しかし、モノクローナル抗体が異なる抗原に対してそれぞれ特異的な複数の抗体結合部位を有する抗体分子を含む場合、それは例えば二重特異性(キメラ)モノクローナル抗体ように、多特異性を示し得る。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体集団から得られるという抗体の性質を表すものであり、任意の特定の方法によって抗体を作製する必要があるものとして解釈されるべきではない。例えば、本開示に従って用いるモノクローナル抗体は、特に限定されないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含むトランスジェニック動物を用いる方法を含めた様々な技術によって作製され得るものであり、本明細書に記載には、上記の方法をはじめとするモノクローナル抗体を作製するための例示的方法が記載される。
【0100】
「免疫反応性フラグメント」、「結合フラグメント」および「抗体フラグメント」と同義的に使用される「抗原結合フラグメント」は、抗原と特異的に結合して複合体を形成するポリペプチドまたは糖タンパク質であって、酵素的に得られるか、合成であるか、組換えにより「改変された」ものであるポリペプチドまたは糖タンパク質を指す。「抗体フラグメント」は、インタクト抗体の一部分を含み、インタクト抗体が結合する抗原と結合する、インタクト抗体以外の分子を指す。「改変された」抗体フラグメントの例としては、特に限定されないが、Fv、Fab’、Fab’-SH、F(ab’);ダイアボディ;線状抗体;一本鎖抗体分子(例えば、scFv);および抗体フラグメントから作製される多重特異性抗体が挙げられる。さらに、抗体フラグメントは、VHドメインの特徴、すなわち、VLドメインとともに機能的抗原結合部位を構築して完全長抗体の抗原結合特性をもたらすことが可能であるという特徴またはVLドメインの特徴、すなわち、VHドメインとともに機能的抗原結合部位を構築して完全長抗体の抗原結合特性をもたらすことが可能であるという特徴を有する、一本鎖ポリペプチドを含む。「抗体フラグメント」は、(i)可変軽鎖(VL)ドメイン、可変重鎖(VH)ドメイン、定常軽鎖(CL)ドメインおよび定常重鎖1(CH1)ドメインからなる一価フラグメントであるFabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントであるF(ab’)2フラグメント;(iii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFab(Fd)フラグメントの重鎖部分;(iv)抗体の単腕のVLドメインおよびVHドメインからなる可変フラグメント(Fv)フラグメント;(v)単一の可変ドメインを含むドメイン抗体(dAb)フラグメント(Ward,E.S.ら,Nature 341,544-546(1989));(vi)ラクダ抗体;(vii)単離された相補性決定領域(CDR);(viii)VHドメインとVLドメインがペプチドリンカーにより連結され、この2つのドメインが会合して抗原結合部位を形成することが可能な一本鎖Fvフラグメント(Birdら,Science,242,423-426,1988;Hustonら,PNAS USA,85,5879-5883,1988);(ix)VHドメインとVLドメインが単一のポリペプチド鎖上に発現するが、同じ鎖上のこの2つのドメインの間で対形成ができない程度に短いリンカーが用いられており、これらのドメインを別の鎖の相補的ドメインと対形成させて、2つの抗原結合部位が生じるようにした二価の二重特異性抗体である、ダイアボディ(国際公開第94/13804号;P.Holligerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90 6444-6448,(1993));ならびに(x)相補的軽鎖ポリペプチドとともに1対の抗原結合領域を形成する1対の縦列Fvセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む、線状抗体(xi)多価抗体フラグメント(scFv二量体、三量体および/または四量体(PowerおよびHudson,J Immunol.Methods 242:193-204 9(2000));(xii)定常免疫グロブリンドメインのCH3またはCH4と融合し、定常CH3ドメインまたはCH4ドメインが二量体形成ドメインとしての役割を果たすscFvからなる二価分子である、ミニボディ(Olafsen Tら(2004)Prot Eng Des Sel 17(4):315-323;Hollinger PおよびHudson PJ(2005)Nature Biotech 23(9):1126-1136);ならびに(xiii)単独の、あるいは任意に組み合わせた、重鎖および/または軽鎖のその他の非完全長部分あるいはその突然変異体、変異体または誘導体を含めた完全長ではないポリペプチド鎖を少なくとも1つ含む分子を含む。一本鎖Fab(scFAb)は既知であり、米国特許出願公開第20070274985号などに記載されている。
【0101】
抗原結合フラグメントは、Fabフラグメント;F(ab’)フラグメント;Fdフラグメント;Fvフラグメント;一本鎖Fv(scFv)分子;dAbフラグメント;および抗体の超可変領域(CDR)を模倣するアミノ酸残基からなる最小限の認識単位を含む。その他の改変された分子、例えばダイアボディ、トライアボディ、テトラボディおよびミニボディも、本明細書で使用される「抗原結合フラグメント」という語句に包含される。
【0102】
最初に本明細書に記載され、新規なポリペプチド実体以外を構成する抗体以外で、本明細書で組み合わせて使用および言及される抗体には、報告されている周知のアミノ酸配列を有する抗体が含まれ得るほか、既知であるか、公開されているアミノ酸配列に対する改変を有し、標的の中和または認識および結合活性を含めた実質的に同じ活性を保持するか示す、抗体、タンパク質、ポリペプチドが含まれる。したがって、実質的に同じであるか、変化した活性を示すタンパク質も同様に企図される。上記の改変は、例えば部位特異的変異誘発により得られる改変など、意図的なものであって、あるいは、複合体またはその命名されたサブユニットを産生する宿主の変異により得られる改変など、偶発的なものであってもよい。抗体は、本明細書に具体的に記載されるタンパク質のほかにも、具体的に開示される抗体または公に報告されている抗体と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有するなどのあらゆる実質的に相同な類似体および対立遺伝子変異体をその範囲内に含むものとする。
【0103】
本明細書に記載されるアミノ酸残基は「L」異性体型であるのが好ましい。しかし、ポリペプチドにより免疫グロブリン結合の所望の機能的特性が保持される限り、任意のL-アミノ酸残基を「D」異性体型の残基に置換したものであってもよい。NHは、ポリペプチドのアミノ末端に存在する遊離アミノ基を指す。COOHは、ポリペプチドのカルボキシ末端に存在する遊離カルボキシ基を指す。標準的なポリペプチド命名法(J.Biol.Chem.,243:3552-59(1969))に従うにあたり、アミノ酸残基の略記を下の対応表1に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
本明細書では、アミノ酸残基配列がいずれも、左方向および右方向が従来のアミノ末端からカルボキシ末端に向かう方向になっている式により表されていることに留意するべきである。表1は、本明細書においていずれか一方で記載され得る3文字および1文字の表記を関連付けるために提供するものである。
【0106】
以下に挙げるのは、アミノ酸の様々なグループ分けの例である:非極性R基を有するアミノ酸:アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン;非荷電極性R基を有するアミノ酸:グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン;荷電極性R基を有する(pH6.0で負に帯電する)アミノ酸:アスパラギン酸、グルタミン酸;塩基性アミノ酸(pH6.0で正に帯電する):リジン、アルギニン、ヒスチジン(pH6.0のとき);別のグループ分けには、フェニル基を有するアミノ酸があり得る:フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン。
【0107】
また別のグループ分けには分子量(すなわち、R基の大きさ)によるものがあり得る:
【表3】
【0108】
特に好ましい保存的アミノ酸置換は:
-正電荷が維持され得るようなArgとLysの間の相互置換;
-負電荷が維持され得るようなGluとAspの間の相互置換;
-遊離-OHが維持され得るようなSerとThrの間の相互置換;および
-遊離NHが維持され得るようなGlnとAsnの間の相互置換
である。
【0109】
ほかにも、アミノ酸置換を導入して、特有の好ましい特性を有するアミノ酸で置換し得る。例えば、Cysを別のCysとのジスルフィド架橋が可能な部位として導入し得る。Hisを特有の「触媒的」部位に導入し得る(すなわち、Hisは酸または塩基として作用することが可能であり、生化学的触媒作用に最もよくみられるアミノ酸である)。タンパク質の構造にベータターンを導入する特有の平面構造を有するという理由から、Proを導入し得る。
【0110】
2つのアミノ酸配列は、アミノ酸残基の少なくとも約70%(好ましくは、少なくとも約80%、より具体的な実施形態では、少なくとも約90または約95%、少なくとも約98%または少なくとも約99%の配列同一性)が同一であるか、保存的置換であるとき、「実質的に」相同である。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の保存的アミノ酸置換を有する実質的に相同な配列が提供される。
【0111】
本開示の実施形態に使用する抗体またはその活性なフラグメントの調製および/または作製には、本開示に従って使用される抗体をコードする核酸を使用し得る。本明細書で提供または使用される抗体の発現または単離には、このような核酸を含むベクターを使用し得る。
【0112】
「レプリコン」とは、in vivoでDNA複製の自律単位として機能する、すなわち、それ自体の制御下で複製が可能な任意の遺伝要素(例えば、プラスミド、染色体、ウイルス)のことである。
【0113】
「ベクター」とは、別のDNAセグメントを結合させて、その結合させたセグメントを複製させ得るプラスミド、ファージまたはコスミドなどのレプリコンのことである。
【0114】
「DNA分子」は、一本鎖型または二本鎖へリックスのいずれかのポリマー型のデオキシリボヌクレオチド(アデニン、グアニン、チミンまたはシトシン)を指す。この用語は、分子の一次構造および二次構造のみを指すものであり、それを何らかの特定の三次形態に限定するものではない。したがって、この用語は、特に直線状DNA分子(例えば、制限酵素断片)、ウイルス、プラスミドおよび染色体にみられる二本鎖DNAを含む。特定の二本鎖DNA分子の構造について述べる際には、DNAの非転写鎖(すなわち、mRNAと相同な配列を有する鎖)の5’から3’に向かう方向で表した配列のみを示すという通常の慣例配列に従って、本明細書に配列が記載され得る。
【0115】
「複製起点」は、DNA合成に関与するDNA配列を指す。
【0116】
DNA「コード配列」とは、しかるべき制御配列の制御下に置いたときにin vivoでポリペプチドに転写および翻訳される二本鎖DNA配列のことである。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンおよび3’(カルボキシル)末端の翻訳停止コドンによって定められる。コード配列としては、特に限定されないが、原核配列、真核mRNAのcDNA、真核(例えば、哺乳動物)DNAのゲノムDNA配列のほか、場合によっては合成DNA配列を挙げ得る。ポリアデニル化シグナルおよび転写終止配列は通常、コード配列の3’側に位置する。
【0117】
転写制御配列および翻訳制御配列とは、宿主細胞内でコード配列の配列を生じさせるDNA制御配列、例えばプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネーターなどのことである。
【0118】
「プロモーター配列」または「プロモーター」とは、細胞内でRNAポリメラーゼと結合し、下流(3’方向)のコード配列の転写を開始させることが可能なDNA調節領域のことである。本開示の実施形態を定義する目的には、プロモーター配列は、3’末端に転写開始部位が結合し、バックグランドを上回る検出可能なレベルの転写を惹起するのに必要な最小限の数の塩基または要素が含まれるよう上流(5’方向)まで延びている。プロモーター配列内には、転写開始部位(ヌクレアーゼS1を用いるマッピングにより好都よく定められる)のほかにも、RNAポリメラーゼの結合を担うタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)が存在する。真核プロモーターには、必ずというわけではないが、「TATA」ボックスおよび「CAT」ボックスが含まれていることが多い。原核プロモーターには、-10コンセンサス配列および-35コンセンサス配列に加え、シャイン・ダルガーノ配列が含まれている。
【0119】
「発現制御配列」とは、ある形態の制御配列であり、別のDNA配列の転写および翻訳を制御および調節するDNA配列のことである。RNAポリメラーゼがコード配列をmRNAに転写し、次いでこのmRNAがそのコード配列によってコードされるタンパク質に翻訳される場合、そのコード配列は細胞内で転写制御配列および翻訳制御配列の「制御下」にある。
【0120】
外来DNAまたは異種DNAが細胞内に導入された場合、その細胞は「形質転換」されたことになる。形質転換DNAは、細胞のゲノムを構成する染色体DNAの中に組み込まれ(共有結合し)ても、組み込まれなくてもよい。例えば、原核生物、酵母および哺乳動物細胞では、形質転換DNAはプラスミドなどのエピソーム要素上に維持され得る。真核細胞に関して、安定に形質転換された細胞とは、形質転換DNAが、染色体複製を介して娘細胞に遺伝するよう染色体の中に組み込まれている細胞のことである。この安定性は、その真核細胞から、形質転換DNAを含む娘細胞の集団からなる細胞系またはクローンを確立することが可能であることによって示される。「クローン」とは、単一の細胞または共通の祖先から有糸分裂によって生じた細胞集団のことである。「細胞系」とは、in vitroで何世代にもわたって安定に増殖することが可能な初代細胞のクローンのことである。
【0121】
2つのDNA配列において、DNA配列の定めされた長さにわたってヌクレオチドの少なくとも約75%(好ましくは、少なくとも約80%、最も好ましくは約90%または95%)が一致する場合、両DNA配列は「実質的に相同」である。実質的に相同な配列は、配列データバンクで入手可能な標準的なソフトウェアを用いて配列を比較するか、例えばその特定の系に対して定めたストリンジェントな条件下で、サザンハイブリダイゼーション実験を実施することにより、特定することができる。しかるべきハイブリダイゼーション条件を定めることは当業者の技能の範囲内にある。例えば、Maniatisら,上記;DNA Cloning,第I巻および第II巻,上記;Nucleic Acid Hybridization,上記を参照されたい。
【0122】
本開示の範囲内にはほかにも、本開示の抗体または本開示で使用する抗体をコードするDNA配列であって、元のコード配列または既知のコード配列と同じアミノ酸配列を有する抗体、ポリペプチドまたはその活性なフラグメントをコードするが、元のコード配列または既知のコード配列の縮重であるDNA配列が含まれることを理解するべきである。「~の縮重である」は、特定のアミノ酸を指定するのに異なる3文字コドンが使用されることを意味する。特定のアミノ酸をコードするのに以下のコドンを互換的に使用し得ることが当該技術分野で周知である:
【表4】
【0123】
上記のコドンはRNA配列に対するものであることを理解するべきである。DNAに対応するコドンは、UをTに置き換えたものである。
【0124】
抗体または活性なフラグメントをコードする配列に変異を生じさせて、特定のコドンを異なるアミノ酸をコードするコドンに変化させることができる。このような変異は一般に、可能な最小限のヌクレオチドを変化させることによって生じさせる。この種の置換変異は、得られるタンパク質のアミノ酸を「非保存的」方法で(すなわち、特定の大きさまたは特徴を有する異なるアミノ酸のグループに属するアミノ酸から別のグループに属するアミノ酸にコドンを変化させることによって)あるいは「保存的」方法で(すなわち、あるアミノ酸のグループに属し特定の大きさまたは特徴を有するアミノ酸から同じグループに属するアミノ酸にコドンを変化させることによって)変化させるよう生じさせることができる。一般に、上記の保存的変化の方が、得られるタンパク質の構造および機能にもたらす変化が少ない。非保存的変化の方が、得られるタンパク質の構造、活性または機能が変化する可能性が高い。特定の実施形態には、アミノ酸配列中に、得られるタンパク質の活性または結合特性をあまり変化させない1個、2個、3個、4個、5個、6個または7個のアミノ酸残基の保存的変化または置換を含む配列が含まれることが考慮される。
【0125】
上記のように、抗体、ポリペプチドまたはその活性なフラグメントをコードするDNA配列は、クローニングするのではなく、合成により調製することができる。DNA配列は、抗体またはフラグメントのアミノ酸配列に対するしかるべきコドンを用いて設計することができる。一般に、配列を発現に使用する場合、意図する宿主に好ましいコドンを選択する。標準的な方法により調製された重複するオリゴヌクレオチドから完全な配列を組立て、これを完全なコード配列に組み立てる。例えば、Edge,Nature,292:756(1981);Nambairら,Science,223:1299(1984);Jayら,J.Biol.Chem.,259:6311(1984)を参照されたい。合成DNA配列により、類似体または「ムテイン」を発現する遺伝子を都合に合わせて構築することが可能である。あるいは、天然の遺伝子またはcDNAの部位特異的変異誘発により、ムテインをコードするDNAを作製することができるほか、従来のポリペプチド合成を用いてムテインを直接作製することができる。
【0126】
DNA構築物の「異種」領域とは、識別可能なDNAのセグメントであって、これより大きいDNA分子の中にあり、天然ではその大きい分子と一緒にはみられないセグメントのことである。したがって、異種領域が哺乳動物遺伝子をコードする場合、その遺伝子には通常、入手源生物のゲノム内で哺乳動物のゲノムDNAに隣接していないDNAが隣接している。異種コード配列のまた別の例には、コード配列自体が天然にはみられない構築物(例えば、ゲノムコード配列にイントロンが含まれているcDNAまたは天然の遺伝子と異なるコドンを有する合成配列)がある。対立遺伝子変異または自然に起こる変異事象から本明細書で定義されるDNAの異種領域が生じることはない。
【0127】
発現制御配列がDNA配列の転写および翻訳を制御および調節している場合、そのDNA配列は発現制御配列と「作動可能に連結されている」。「作動可能に連結されている」という用語には、発現するDNA配列の前にしかるべき開始シグナル(例えば、ATG)を有することのほか、発現制御配列の制御下でのDNA配列の発現およびそのDNA配列によってコードされる所望の産物の産生を可能にする正確なリーディングフレームを維持していることが含まれる。組換えDNA分子に挿入しようとする遺伝子にしかるべき開始シグナルが含まれていない場合、その遺伝子の前にこのような開始シグナルを挿入することができる。
【0128】
「標準的ハイブリダイゼーション条件」という用語は、ハイブリダイゼーションおよび洗浄の両方について5×SSCおよび65℃に実質的に等しい塩および温度条件を指す。しかし、当業者であれば、このような「標準的ハイブリダイゼーション条件」が緩衝液中のナトリウムおよびマグネシウムの濃度、ヌクレオチド配列の長さおよび濃度、ミスマッチのパーセント、ホルムアミドのパーセントなどを含めた具体的な条件に左右されることが理解されよう。「標準的ハイブリダイゼーション条件」を決定するうえではほかにも、ハイブリダイズする2つの配列がRNA-RNAであるのか、DNA-DNAであるのか、RNA-DNAであるのかが重要となる。このような標準的ハイブリダイゼーション条件は、ハイブリダイゼーションを通常、予測されるTまたは決定されたTよりも10~20℃低くし、必要に応じて洗浄のストリンジェンシーを高くするという周知の原則に従い当業者によって決定される。
【0129】
抗体およびフラグメントの「結合親和性」という用語は、当該技術分野で公知の様々な方法により求めることが可能なKD(抗体とその抗原との間の平衡解離定数)として本明細書に記載されるものである。いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合フラグメントは、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルスまたはそれに由来するHAタンパク質、例えば組換えHAタンパク質などに対して以下のような結合親和性を示す。一実施形態では、結合親和性は約5×10-8M~約5×10-12Mであり、いくつかの実施形態では、結合親和性は約5×10-9M~約5×10-11Mであり、いくつかの実施形態では、結合親和性は約3×10-9M~約5×10-11Mであり、いくつかの実施形態では、結合親和性は約5×10-10M~約5×10-11Mである。いくつかの実施形態では、組換えHAタンパク質に対して10nM未満、3nM未満もしくは1nM未満またはこれより強いKDを示す抗体および抗原結合フラグメントが提供される。いくつかの実施形態では、10nM~0.1pMのKDを示す抗体およびフラグメントが提供される。いくつかの実施形態では、3nM~1pMのKDを示す抗体およびフラグメントが提供される。本明細書で使用される「~より強い」という用語は、親和性が高くまたは強くなるほどKD値が低くなることから、言及されるKD値またはそれより小さい値(それより低いKD値)を表す。いくつかの実施形態では、例えばマイクロアレイまたは流動システムの使用により、例えばABCAM(登録商標)(Landryら,2012,Assay and Drug Dev Technol 10(3),250-259を参照されたい)もしくはBIACORE(登録商標)(すなわち、表面プラズモン共鳴)により斜入射反射率差(OI-RD)を決定すること、あるいは競合結合アッセイによりKDを測定する。
【0130】
抗体の仲介によるウイルスの中和は、本明細書では、当該技術分野で定義されている、または受け入れられている通りに定義されるものであり、本明細書で言及および使用されるものは、様々な従来の中和アッセイまたは認められている中和アッセイで試験することができる。中和アッセイの例としては、培養細胞に対するウイルスの細胞変性効果(CPE)の阻害に基づく従来の中和アッセイが挙げられる。例えば、インフルエンザに感染させたMDCK細胞におけるCPEを軽減または阻止することにより、インフルエンザ中和を試験し得る。ウイルスと中和剤を予め混合してから細胞に加え、次いでウイルス侵入の阻止を測定し得る。赤血球凝集素阻害(HI)はin vitroで試験され得るものであり、ウイルスが赤血球と結合する能力の阻止を検出することができる。例示的な既知の受け入れられている中和アッセイについては、WHO Manual on Animal Influenza(who/cds/csr/ncs/2002.5,48~54ページ)に記載されている。シアル酸受容体結合部位を遮断する抗体は、ウイルスが細胞との結合するのを中和して感染を阻止する。逆に、Tamiflu(登録商標)などのノイラミニダーゼ阻害剤の場合のように、中和アッセイにより、ウイルス放出の阻止を検出することもある。最近、ウイルス放出を妨げることによって同様に機能する中和抗体が同定されており、このような中和の例としては、インフルエンザBウイルスに対するCR9114抗体(Dreyfusら(2012)Science 337:1343-1348)が挙げられる。このほか、マイクロタイタープレートとELISAを併用して感染細胞中のウイルス核タンパク質(NP)を検出するマイクロ中和アッセイが用いられている。ウイルスタンパク質を測定する定量的PCRアッセイが記載されている(Dreyfus Cら(2012)Emerging Inf Diseases 19(10:1685-1687)。いくつかの実施形態では、別の従来のin vitro中和アッセイでは中和抗体であるようにはみえないが、放出阻害による中和作用を示し、したがってIN投与により効果を示す抗体またはフラグメントが提供される。したがって、本明細書で定義される「中和」抗体は、従来のin vitro中和アッセイで中和作用を示す抗体および/または放出阻害を示す抗体を指す。したがって、放出阻害剤は、インフルエンザ感染の伝播を抑制することから、その用語の1つの意味として、中和作用を示すものである。
【0131】
「非中和」抗体は、ウイルスとは結合し得るが、認められている中和アッセイまたは従来の評価法においてウイルスもウイルス複製も阻害しない。ウイルスとの結合は、ウイルスと細胞、細胞受容体または細胞標的との効果的な相互作用を妨げることによりウイルスを阻害し得る。非中和抗体はウイルスの保存されたタンパク質またはタンパク質上のエピトープと結合し得る。例えば、臨床試験段階のM2抗体であるTCN-032は、広範囲のインフルエンザAウイルスと結合することができるが、従来の中和アッセイにおいて中和作用を示さない。同じようにして、HAと結合し中和作用を示さない抗体を同定することができる。
【0132】
本明細書で使用される「Fabフラグメント」は、軽鎖(CL)のVLドメインおよび定常ドメインを含む軽鎖フラグメントと、重鎖のVHドメインおよび第一定常ドメイン(CH1)とを含む、抗体フラグメントを指す。抗体分子のFab部分およびF(ab’)部分は、周知の方法による実質的にインタクトの抗体分子上でのそれぞれパパインおよびペプシンのタンパク質分解反応により調製されるか、合成または組換えにより調製され得る。このほか、Fab’抗体分子部分が周知であり、2つの重鎖部分を連結しているジスルフィド結合をメルカプトエタノールなどで還元し、生じたタンパク質メルカプタンをヨードアセトアミドなどの試薬でアルキル化することにより、F(ab’)部分から作製され得る。
【0133】
本明細書の「Fcドメイン」という用語は、定常領域の少なくとも一部分を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するのに用いられる。例えば、天然の抗体では、Fcドメインは、IgG、IgAおよびIgDアイソタイプでは抗体の2つの重鎖の第二および第三定常ドメインに由来する2つの同一のタンパク質フラグメントからなり;IgMおよびIgEのFcドメインは、各ポリペプチド鎖に3つの重鎖定常ドメイン(Cドメイン2~4)を含んでいる。
【0134】
例示的な抗体分子には、インタクトの免疫グロブリン分子、実質的にインタクトの免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子のパラトープを含む部分があり、免疫グロブリン分子のパラトープを含む部分としては、当該技術分野でFab、Fab’、F(ab’)およびF(v)として知られる部分が挙げられ、これらの部分は本明細書に記載される治療法に使用するのに好ましい。
【0135】
本開示に教示される特定の場合には、ある程度のレベルまたは量の中和活性が必要とされるほか、特に鼻腔内または吸入投与に使用するのに必要な抗体の特徴。したがって、本開示に従って鼻腔内に使用する任意のフラグメント、変異体、誘導体、合成物または抗体部分は、標的ウイルスまたは病原体、一態様ではインフルエンザウイルスに対する中和能および活性を保持している必要がある。一方、腹腔内または静脈内を含めた代替的全身経路で投与する抗体は、標的ウイルスまたは病原体、一態様ではインフルエンザウイルスと結合するか、これを認識するものでなければならないが、中和作用は必要とされない。したがって、一例として、中和作用を保持している抗体(1つまたは複数)のFabフラグメントを鼻腔内に用い得る。鼻腔内投与での効果および中和作用を得るのに、Fcにより仲介されるエフェクター機能は必要とされな。逆に、全身送達される抗体は、エフェクター機能によりその効果を仲介する作用が大きい。
【0136】
「抗原結合ドメイン」という用語は、抗原の一部分または全体と特異的に結合しこれと相補的である領域を含む、抗原結合分子の一部分を指す。抗原が大きい場合、抗原結合分子はエピトープと呼ばれる抗原の特定の部分とのみ結合し得る。抗原結合ドメインは、例えば1つまたは複数の抗体可変ドメイン(抗体可変領域とも呼ばれる)によってもたらされ得る。好ましくは、抗原結合ドメインは抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域(VH)とを含む。
【0137】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、抗体と抗原との結合に関与する抗体重鎖または軽鎖のドメインを指す。天然の抗体の重鎖と軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHとVL)は一般に、ほぼ同じ構造をもち、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と3つの超可変領域(HVR)とを含む(例えば、Kindtら,Kuby Immunology,第6版,W.H.Freeman and Co.,91ページ(2007)を参照されたい)。抗原結合特異性を付与するには、単一のVHまたはVLドメインで十分であると思われる。さらに、特定の抗原と結合する抗体のVHまたはVLドメインを用いて、それぞれ相補的なVLまたはVHドメインのライブラリーをスクリーニングし、その抗原と結合する抗体を単離し得る。例えば、Portolanoら,J.Immunol.150:880-887(1993);Clarksonら,Nature 352:624-628(1991)を参照されたい。
【0138】
本明細書で使用される「抗体の抗原結合部位」という用語は、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。抗体の抗原結合部分は、「相補性決定領域」または「CDR」に由来するアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」または「FR」領域とは、本明細書で定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン領域のことである。したがって、抗体の軽鎖および重鎖可変ドメインは、N末端からC末端に向かってドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含む。特に重鎖のCDR3は、抗原結合に最も寄与する領域であり、抗体の特性を定義する。抗体は、その重鎖および軽鎖CDRによるアミノ酸配列で十分に定義され得るものであり、特に、その重鎖可変領域CDR1、CDR2およびCDR3の配列ならびにその軽鎖可変領域CDR1、CDR2およびCDR3の配列により記載され、特徴付けられ得る。抗体は、重鎖および軽鎖を含む抗体またはフラグメントとして定義され得る、または特徴付けられ得るものであり、ここでは、重鎖可変領域は特有のCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含み、軽鎖可変領域は特有のCDR1、CDR2およびCDR3の配列を含む。抗体のCDRおよびFR領域は、当業者に利用可能で既知の標準的な方法および分析により決定され得る。したがって、CDRおよびFR領域は、Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,Public Health Service,National Institutes of Health,ベセスダ、メリーランド州.(1991)の標準的定義またはInternational ImmunoGeneTics information system(IMGT)(imgt.org;LeFranc,M-P(1999)Nucl Acids Res 27:209-212;LeFranc,M-P(2005)Nucl Acids Res 33:D539-D579)に従って決定され得る。
【0139】
「実質的に記載される通りである」は、本開示の抗体の可変領域配列および/または特にCDR配列が、本明細書に添付される配列表に明記される配列と同一であるか、高度に相同であることを意味する。配列表にXaaが記載される場合、それ天然に存在する任意のアミノ酸残基を表す。
【0140】
「高度に相同である」は、可変領域配列および/またはCDR配列内に少数の置換のみ、好ましくは1~8個、好ましくは1~5個、好ましくは1~4個または1~3個または1個もしくは2個の置換が施され得ることを企図するものである。この用語は実質的に、特に本発明の抗体の特異性および/または活性に実質的にまたは大幅に影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換を含むことを表す。CDR領域配列に対する保存的アミノ酸置換が企図される。例示的なCDR置換および変異体が企図され、本明細書に記載される。いくつかの態様では、CDR配列が保持されるようCDR外部の可変領域配列に置換を施し得る。したがって、CDR配列が維持され、可変領域配列の残りに部分が置換され得るように、可変領域配列の変化または代替的な非相同可変領域もしくは化粧張り(veneered)可変領域の配列を導入または利用し得る。
【0141】
「エピトープ」という用語は、抗体と特異的に結合することが可能な任意のポリペプチド決定基を含む。ある特定の実施形態では、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリルまたはスルホニルなどの化学的に活性な表面分子のグループを含み、ある特定の実施形態では、特有の三次元構造的特徴および/または特有の荷電的特徴を有し得る。エピトープとは、抗体が結合する抗原の領域のことである。
【0142】
ハイブリドーマをはじめとする手段および方法によりモノクローナル抗体を作製する方法および方法論は周知である。病原体、ウイルスまたはインフルエンザのペプチドに対して作製したモノクローナル抗体のパネルを様々な特性、すなわち、中和作用、アイソタイプ、エピトープ、親和性などについてスクリーニングすることができる。特に対象となるのは、ウイルスまたはそのサブユニットの活性を中和するモノクローナル抗体である。このようなモノクローナルは、中和活性アッセイで容易に特定することができる。このほか、効果的な結合および/または中和に、あるいは天然ウイルスまたは組換えウイルスの免疫アフィニティー精製を所望するか目的とする場合には、高親和性抗体が有用である。
【0143】
本開示の実施形態を実施するのに有用なモノクローナル抗体は、しかるべき抗原特異性の抗体分子を分泌するハイブリドーマを含有する栄養培地を含むモノクローナルハイブリドーマ培養を開始することにより作製することができる。ハイブリドーマが培地中に抗体分子を分泌するのに十分な条件下でそのような期間の間、培養を維持する。次いで、抗体を含有する培地を収集する。次いで、周知の技術により抗体分子をさらに単離することができる。
【0144】
上記の組成物を調製するのに有用な培地は当該技術分野で周知であるとともに、市販されており、合成培地、近交系マウスなどがこれに含まれる。例示的な合成培地には、4.5gm/lグルコース、20mmグルタミンおよび20%ウシ胎仔血清を添加したダルベッコの最小必須培地(DMEM;Dulbeccoら,Virol.8:396(1959))がある。例示的な近交系マウス系統にはBalb/cがある。
【0145】
このほか、モノクローナル抗ウイルス抗体の作製方法が当該技術分野で周知である。Nimanら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80:4949-4953(1983)を参照されたい。通常、モノクローナル抗体を作製するための免疫原として、ウイルス、ウイルスタンパク質またはペプチド類似体を単独で、または免疫担体とコンジュゲートして用いる。ウイルス、タンパク質またはペプチド類似体に対して免疫反応を示す抗体を産生する能力についてハイブリドーマをスクリーニングする。
【0146】
抗体はほかにも、二重特異性または多重特異性、例えば、抗体の一方の結合ドメインが本発明に使用するウイルス中和抗体であり、他方の結合ドメインが異なる特異性、例えば、細胞の頂端膜側に結合する特異性、気道上皮細胞と結合する特異性などを有する、二重特異性または多重特異性であり得る。本発明の二重特異性抗体は、抗体の一方の結合ドメインが、そのフラグメントを含めた本発明に使用する中和剤であり、他方の結合ドメインが、代替の中和抗体または非中和抗体を含めた異なる抗ウイルス特異的抗体のものを含めた異なる抗体またはそのフラグメントである、二重特異性抗体を含む。他方の結合ドメインは、肺上皮特異的抗体、肺胞マクロファージ特異的抗体、ニューロン特異的抗体またはグリア細胞特異的抗体のように、特定の細胞型を認識するか、これを標的とする抗体であり得る。本発明の二重特異性抗体では、本発明の抗体の一方の結合ドメインを、他方の結合ドメインあるいは特定の細胞受容体を認識し、かつ/または特定の方法で細胞を調節する分子、例えば免疫調節薬(例えば、インターロイキン(1つまたは複数))、成長調節物質、サイトカイン、毒素(例えば、リシン)、抗有糸分裂剤、アポトーシス剤または因子と組み合わせ得る。したがって、本発明の抗体は、感染症、炎症などの適応症において、薬剤、標識、その他の分子もしくは化合物または抗体を方向付けるか標的化するのに用いられ得る。
【0147】
本発明に使用する二重特異性抗体は、少なくとも2つのFabフラグメントを含み得るものであり、1つの例では、第二のFabフラグメントの重鎖および軽鎖可変領域または定常領域のいずれかが変化している。可変領域または定常領域のいずれかが交換されていることから、前記第二のFabフラグメントは、「交差Fabフラグメント」、「xFabフラグメント」または「乗換えFabフラグメント」とも呼ばれる。このような二重特異性抗体については米国特許出願公開第2013006011号に記載されている。
【0148】
特定のさらなる態様では、中和抗体を抗体のIPまたはIV投与と組み合わせて、または逐次的にIN投与することにより、ウイルス感染症の治療および/または予防の効果的で増強された相乗作用手段がもたらされる。IPまたはIVを含め全身に投与する抗体は中和性であっても非中和性であってもよく、したがって、IN投与する抗体と同じ抗体であっても、あるいは改変抗体または異なる抗体であってもよい。したがって、中和抗体である鼻腔内送達用の抗体は、それと組み合わせて使用し別の手段、特にIPまたはIV送達を含めた全身送達で送達する抗体とは異なる抗体であり得る。
【0149】
本開示は、鼻腔内での効果を増大させるのに中和抗体のFc機能およびFc部分、ひいてはエフェクター機能が必要とされないことを示すものである。したがって、抗体およびFabフラグメントなどのフラグメントまたはFcを欠くかエフェクター機能を欠く抗体は鼻腔内で効果を示す。これに対し、抗体(中和抗体または非中和抗体)のFabフラグメントまたはFcを欠くかエフェクター機能を欠く抗体は、IPまたはIVでは効果がみられない。
【0150】
いくつかの実施形態では、免疫複合体または抗体融合タンパク質であって、本発明に使用する抗体、抗体分子またはそのフラグメントが他の分子または薬剤をコンジュゲートまたは結合している免疫複合体または抗体融合タンパク質が提供され、このようなものとしてはさらに、特に限定されないが、化学切断剤、毒素、免疫調節薬、サイトカイン、細胞毒性薬、化学療法剤、抗ウイルス剤、抗菌剤または抗菌ペプチド、細胞壁および/または細胞膜破壊剤あるいは薬物とコンジュゲートした上記のような抗体、分子またはフラグメントが挙げられる。一態様では、免疫複合体または抗体融合体は、抗ウイルス剤、特に抗インフルエンザ剤とコンジュゲートした抗体、分子またはフラグメントを含み得る。抗インフルエンザ剤はノイラミニダーゼ阻害剤であり得る。抗インフルエンザ剤はTamifluおよびRelenzaから選択され得る。抗インフルエンザ剤は、アマンタジンまたはリマンタジンなどのM2阻害剤であり得る。抗インフルエンザ剤はウイルス複製阻害剤であり得る。
【0151】
本発明の抗体を含めた抗体、そのフラグメントおよび組成物が治療および予防に有用な「対象(1つまたは複数)」には、ヒトに加え、インフルエンザによる感染に感受性の任意の対象が含まれる。したがって、ウシ、ブタ、ヒツジなどの様々な哺乳動物のほか、ウマおよび家庭用ペットならびにアザラシを含めたその他の哺乳動物対象に、上記の結合部分の予防的および治療的使用による利益がもたらされる。いくつかの場合には、対象種に適合させた抗体を使用する。さらに、インフルエンザは鳥類種に感染することが知られており、鳥類種にも、同じく対象種に適合させ得る本発明の抗体を含有する組成物による利益がもたらされる。
【0152】
抗体またはフラグメントの「治療有効量」または「有効量」とは、任意の医学的治療に適用可能な妥当な利益/リスク比で治療対象に治療効果をもたらす所定の量のことである。治療効果は客観的なもの(すなわち、何らかの試験またはマーカーにより測定可能なもの)であっても主観的なもの(すなわち、対象が効果の兆候を示すか、効果を感じる、または医師が変化を観察する)であってもよい。組成物中の各抗体の有効量は、約0.001mg/kg~約100mg/kg、約0.01mg/kg~約10mg/kg、約0.05mg/Kg~約1mg/kgの範囲であり得る。本明細書で企図される効果には、必要に応じて医学的な治療処置および/または予防処置の両方が含まれる。治療効果および/または予防効果を得るために本開示に従って投与する具体的な抗体またはフラグメントの量は、当然のことながら、個々の事例を取り巻く状況、例えば、投与する化合物、投与経路、他の有効成分の共投与、治療対象となる状態、使用する具体的な組成物、患者の年齢、体重、全般的健康状態、性別および食事;使用する化合物の投与時間、投与経路および排泄速度ならびに治療期間を含めた状況によって決まる。投与する有効量は、医師が上記の関連する状況を考慮に入れ、妥当な医学的判断を行使することにより決定され得る。「治療有効量」は、医師をはじめとする臨床医が追求する対象の生物学的または医学的応答を誘発する薬物、化合物、抗菌剤、抗体または医薬品の量を意味する。特にウイルス感染およびウイルスの増殖に関しては、「有効量」という用語は、ウイルスの複製もしくは発症の量もしくは程度の生物学的に意義のある減少および/または対象の病状(発熱、関節痛、不快感)の長さの減少または感染者の体重減少の抑制をもたらす化合物または薬剤の有効量を含むものとする。「治療有効量」という語句は、本明細書では、ウイルス負荷、ウイルス複製、ウイルス伝染またはその他の病理の特徴、例えば、ウイルスの存在および活性に付随し得る発熱または白血球数の増加を軽減、好ましくは予防するのに十分な量を意味するのに使用される。
【0153】
ある特定の実施形態では、対象に治療薬を投与することに関連する「有効量」は、以下の効果を1つ、2つ、3つ、4つまたはそれ以上得るのに十分な治療薬の量を指す:(i)インフルエンザウイルス感染症、インフルエンザウイルスによる疾患もしくはそれに付随する症状の重症度の軽減もしくは改善;(ii)インフルエンザウイルス感染症、インフルエンザウイルスによる疾患もしくはそれに付随する症状の持続期間の短縮;(iii)インフルエンザウイルス感染症、インフルエンザウイルスによる疾患もしくはそれに付随する症状の進行の予防;(iv)インフルエンザウイルス感染症、インフルエンザウイルスによる疾患もしくはそれに付随する症状の消退;(v)インフルエンザウイルス感染症、インフルエンザウイルスによる疾患もしくはそれに付随する症状の発現もしくは発症の予防;(vi)インフルエンザウイルス感染症、インフルエンザウイルスによる疾患もしくはそれに付随する症状の再発の予防;(vii)ある細胞から別の細胞、ある組織から別の組織もしくはある臓器から別の臓器へのインフルエンザウイルスの伝播の抑制もしくは予防;(viii)ある対象から別の対象へのインフルエンザウイルスの伝播/伝染の予防もしくは抑制;(ix)インフルエンザウイルス感染症もしくはインフルエンザウイルスによる疾患を原因とする臓器不全の軽減;(x)対象の入院の抑制;(xi)入院期間の短縮;(xii)インフルエンザウイルス感染症もしくはそれを原因とする疾患を有する対象の生存率の増大;(xiii)インフルエンザウイルス感染症もしくはそれを原因とする疾患の除去;(xiv)インフルエンザウイルス複製の阻害もしくは抑制;(xv)インフルエンザウイルスと宿主細胞(1つまたは複数)との結合もしくは融合の阻害もしくは抑制;(xvi)インフルエンザウイルスの宿主細胞(1つまたは複数)内への侵入の阻害もしくは抑制;(xvii)インフルエンザウイルスゲノム複製の阻害もしくは抑制;(xviii)インフルエンザウイルスタンパク質合成の阻害もしくは抑制;(xix)インフルエンザウイルス粒子組立ての阻害もしくは抑制;(xx)宿主細胞(1つまたは複数)からのインフルエンザウイルス粒子放出の阻害もしくは抑制;(xxi)インフルエンザウイルス力価の低下;(xxii)インフルエンザウイルス感染症またはインフルエンザウイルスによる疾患に付随する症状の数の減少;(xxiii)別の治療法の予防効果もしくは治療効果(1つまたは複数)の増強、改善、補強、補完もしくは増大;(xxiv)インフルエンザウイルス感染症による二次感染の発症もしくは進行の予防;(xxv)インフルエンザウイルス感染症に続発する細菌性肺炎の発症の予防もしくは疾患重症度の軽減;および/または(xxvi)サイトカイン、ケモカイン、補体、細胞応答などを含めたインフルエンザに対する免疫応答の変化。いくつかの実施形態では、治療薬の「有効量」は、インフルエンザウイルス感染症またはそれを原因とする疾患に有益な効果をもたらすが、それを治癒するものではない。ある特定の実施形態では、治療薬の「有効量」は、予防効果および/または治療効果を示す治療薬の量に達するよう複数回用量の治療薬を特定の頻度で投与することを包含し得る。別の状況では、治療薬の「有効量」は、単回用量の治療薬を特定の頻度で投与することを包含し得る。
【0154】
特にインフルエンザによる感染症、疾患または曝露を含めたウイルス感染症に付随する「症状(1つまたは複数)」としては、特に限定されないが、100°F(約37.8℃)以上の発熱、熱感、咳および/または咽喉痛、鼻汁または鼻詰まり、頭痛および/または身体痛、悪寒、倦怠感、全身脱力、嘔気、嘔吐および/または下痢、関節と筋肉および/または眼球周囲の鈍痛および疼痛を挙げ得る。
【0155】
「予防すること」または「予防」という用語は、疾患発症前に疾患の原因となる物質に曝露し得るか、疾患の素因を有し得る対象が疾患または障害に罹患するか、これを発現するリスクを低下させること(すなわち、疾患の少なくとも1つの臨床症状が発現しないようにすること)を指す。
【0156】
「予防法」という用語は、「予防」という用語に関連し包含され、疾患の治療または治癒ではなく予防を目的とする手段または方法を指す。任意の疾患もしくは感染症を「治療すること」または任意の疾患もしくは感染症の「治療」という用語は、一実施形態では、疾患または感染症を改善すること(すなわち、疾患または感染病原体もしくはウイルスの増殖を停止させることあるいはその少なくとも1つの臨床症状の発現、範囲または重症度を減少させること)を指す。別の実施形態では、「治療すること」または「治療」は、対象により識別不可能であり得る少なくとも1つの物理パラメータを改善することを指す。さらに別の実施形態では、「治療すること」または「治療」は、疾患または感染症を物理的な点(例えば、識別可能な症状の安定化)、生理的な点(例えば、物理パラメータの安定化)またはその両方の点で調節することを指す。さらなる実施形態では、「治療すること」または「治療」は、疾患の進行、疾患の伝染の速度を低下させることまたは感染を抑制することに関連する。
【0157】
本明細書で使用される「pg」はピコグラム、「ng」はナノグラム、「ug」または「μg」はマイクログラム、「mg」はミリグラム、「ul」または「μl」はマイクロリットル、「ml」はミリリットル、「l」はリットルをそれぞれ意味する。
【0158】
予防法および治療法に用いる方法は従来のものであり、一般に周知のものである。抗体をはじめとする結合部分は通常、注射により投与されるが、このほか経口ワクチンでも効果があることがわかっている。投与のレベルおよび投与のタイミングは容易に最適化され、当業者の技能の範囲内にある。代替法では、抗体をin situで生じさせる組換え物質を投与し得る。現在、動物対象の細胞、例えばリンパ球または筋細胞などで抗体遺伝子を発現させる技術が利用可能である(例えば、Johnson,P.R.ら,Nature Medicine(2009)15:901-907を参照されたい)。このようなin situでの抗体産生により、薬剤の製造コストの削減が可能になり、投与が簡便になる。このような方法による本発明の抗体の投与は、本発明のまた別の態様である。
【0159】
有用な抗体を分泌するヒト細胞(または任意の指定種由来の細胞)は、特に米国特許第7,413,868号(その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているCellSpot(商標)法を用いて特定することができる。簡潔に述べれば、この方法は、ヒト(またはその他の)対象から得られた個々の細胞を、粒子標識による標識を利用するハイスループットなアッセイおよび顕微鏡観察でスクリーニングすることが可能なものである。ある例示的な実施形態では、分泌された抗体をある表面に吸着または結合させた後、それぞれ識別できる粒子標識と結合させた所望の抗原で表面を処理することにより、単一の細胞であっても、それが分泌する抗体を分析することができる。そこで、顕微鏡を用いて細胞のフットプリントを識別することができる。この技術を用いて、数百万個の細胞を所望の抗体の分泌についてスクリーニングすることが可能であり、株間にわたる受動的インフルエンザ予防接種に望ましい本明細書の抗体などのまれな抗体であっても回収することができる。ヒト対象には少なくとも一部のインフルエンザ株に対する抗体が既に存在し、また本発明の方法により得られる抗体は保存された配列と結合することから、これらの抗体は新たな株およびヒト集団が既に経験した株に対処するという目的にかなうものである。
【0160】
適切な抗体を入手する方法は、CellSpot(商標)技術に限定されず、またヒト対象にも限定されない。適切な抗体を産生する細胞は様々な手段によって特定することが可能であり、その細胞は、マウスをはじめとするげっ歯類などの実験動物の細胞であってもよい。このような抗体をコードする核酸配列を単離し、非ヒト細胞によって産生されるキメラ型およびヒト化型の抗体を含めた様々な型の抗体を産生させることができる。さらに、組換えによって産生される抗体またはフラグメントとしては、一本鎖抗体またはそのFabもしくはFab領域が挙げられる。このほか、ヒト化免疫系を有するXenoMouse(登録商標)などの宿主を用いてヒト抗体を入手してもよい。適切な結合特性をスクリーニングするための抗体を作製する手段は当該技術分野で周知である。
【0161】
所望の結合パターンを有するRNAアプタマーを構築する手段も同様に、当該技術分野で公知である。
【0162】
上記のように、抗体をはじめとする結合部分は、活性化型、不活性化型またはその両方の赤血球凝集素タンパク質と結合し得る。このタンパク質の切断部位は株間で比較的保存されているため、エピトープがこの切断部位であるのが有利な場合もあるが、結合部分は三量体および活性化型の両方と結合するのが好ましい。
【0163】
インフルエンザAおよびインフルエンザBの様々な株の切断部位が知られている。例えば、上に引用したBianchiらの論文では、数種類のこのような株の切断部位周辺の配列が表2に示されている:
【表5】
【0164】
表に示されるように、切断部位上流のアルギニン残基から始まる厳密な一致がみられ、したがって、本発明の被験ペプチドに含まれる好ましいコンセンサス配列は、配列RGI/L/F FGAIAGFLE(配列番号57)を有するものである。この配列の一部分のみを被験ペプチドに用いることも可能である。
【0165】
上記のように、所望の抗体を分泌する細胞が特定されれば、それをコードするヌクレオチド配列を回収し、組換えにより大規模に所望の抗体を産生することは容易である。これによりほかにも、抗体が例えば、一本鎖抗体として、つまりその可変領域のみで、または二重特異性抗体として産生され得るように、抗体を操作することが可能になる。
【0166】
回収した核酸は、のちの組換え産生用に物理的に保管および復元してもよく、かつ/または、のちにしかるべき核酸を合成できるように抗体のコード配列に関する配列情報を回収し保管してもよい。コード配列に含まれる情報ならびに迅速な合成およびクローニング技術を既知の組換え産生法とともに用いれば、大流行をはじめとする緊急事態が発生した際に必要な抗体を迅速に作製することが可能である。
【0167】
参考までに、重鎖および軽鎖はともに、そのヒト定常領域の配列が既に記載されており、本明細書に配列番号33~35として記載する。上で言及した国際公開第2011/160083号および同第2013/086052号では、アミノ酸配列および対応するヌクレオチドコード配列が決定された可変領域を有し様々なインフルエンザ株のHAタンパク質と様々な親和度で結合する様々なモノクローナル抗体が復元されている。これらの抗体にはmAb53およびmAb579が含まれる。mAb53はH1と特定の親和性で結合し;さらに、mAb53はH5、H7およびH9と強く結合する。mAb579はH3およびH7と結合する。その親和性は低ナノモルないしナノモル未満の範囲内にある。HEK293細胞の表面に発現するHAを用いて天然のHAの三量体に対する反応性を検証した。フローサイトメトリーにより抗体結合を測定した。エモリー大学のS.GallowayおよびD.SteinhauerからHAをコードするプラスミドの提供を受け、細胞表面に提示された様々なクレードの三量体が本発明のmAbによって認識された。
【0168】
現在、2つの別個の抗体の抗原特異性ドメインを組み込んだ単一抗体様分子(二重特異性抗体)を作製する技術が多数存在する。したがって、第1群および第2群それぞれに対して広域反応性を示す個々の抗体またはインフルエンザB結合と組み合わせた両グループのうちの一方のグループの抗体のFabドメインを用いて、極めて広域な株との反応性を有する単一抗体を構築することができる。適切な技術がMacrogenics社(ロックビル、メリーランド州ロックビル、メリーランド州)、Micromet社(ベセスダ、メリーランド州)およびMerrimac社(ケンブリッジ、マサチューセッツ州ケンブリッジ、マサチューセッツ州)により記載されている(例えば、Orcutt,K.D.ら,“A modular IgG scFv bispecific antibody topology,” Protein Eng Des Sel.(2010)23:221-228;Fitzgerald,J.ら,“Rational engineering of antibody therapeutics targeting multiple oncogene pathways,” MAbs.(2011)1:3(3);およびBaeuerle,P.A.ら,“Bispecific T cell engaging antibodies for cancer therapy,” Cancer Res.(2009)69:4941-4944を参照されたい)。
【0169】
したがって、二重特異性抗体を構築することにより、複数の種類の赤血球凝集素タンパク質と結合する抗体をはじめとする結合部分を得ることが特に有用である。特に有用な組合せは、mAb53(H1、H5およびH9)とmAb579(H3およびH7)の結合特異性を組み合わせるものである。
【0170】
mAb53はHAとは高い親和性で結合するが、HAとは結合せず、相補的なHAフラグメントと結合することが示唆され、実際にその結合が確認された。mAb53は、ウエスタンブロット法による試験ではHAと結合しないことから、優勢なエピトープが少なくとも部分的には立体構造的であるものと考えられる。
【0171】
mAb53およびmAb579が示した様々な株のインフルエンザAの赤血球凝集素タンパク質に対するKDおよびIC50を表3および表4に記載する。
【0172】
【表6】
【表7】
【0173】
上記の値はMDCK単層マイクロ中和アッセイで得られたものである。
【0174】
本発明は、インフルエンザBを認識するmAbを含めた上記の抗体、例えばmAb53およびmAb579を補完する特異性を有する複数の新規なmAbを提供する。これらの追加のmAbを用いることにより、広範囲にわたるインフルエンザ株に効果を示す受動的ワクチンを調製し、したがって、治療前に感染病原体の株を正確に決定または診断する必要性を軽減する機会がもたらされる。
【0175】
実際にmAbである本開示のこれらの結合部分に関して、よく知られているように、その特異性は実質的に、軽鎖および重鎖の可変領域に存在する相補性決定領域(CDR)によって決まる。重鎖CDRによる影響の方が重要であることがわかっており、軽鎖の特性の方が柔軟性が高い。したがって、mAbまたはフラグメントの全体的な特異性は通常、重鎖のCDRの性質によって決まるのに対し、軽鎖に存在するCDRは、抗体の特異性を実質的に同じにしたまま、より多くの変化を受ける。
【0176】
本開示は、二重特異性抗体そのものに加え、ウイルス感染を中和する構築物に重鎖のみを使用することを企図し;このような抗体も二重特異性であり得る。当該技術分野では、いくつかの立場では特異性の大部分が重鎖可変領域によって付与されることがわかっているため、本明細書では、ワクチンの有効成分として重鎖のみで成功を収めている。あるいは、しかるべき特異性の重鎖を様々な形態の軽鎖と結合させて、ウイルスを中和する親和性または能力を増大させてもよい。
【0177】
上記のように、本発明の結合部分の結合の特異性は、ほとんどが重鎖のCDRによって定義されるが、加えて軽鎖のCDRによっても補完される。したがって、本発明の結合部分は、3つの重鎖CDRおよび任意選択で、それに適合する3つの軽鎖CDRを含み得る。本発明はほかにも、実際にこれらのCDRを含む結合部分と同じエピトープと結合する結合部分を含む。したがって、例えば、同じ結合特異性を有する、すなわち、実際にCDRを含む結合部分が結合するのと同じエピトープと結合するアプタマーも含まれる。結合親和性は、フレームワークでのCDRの配置の仕方によっても決まるため、本発明の結合部分は、3つの重要なCDRを含む重鎖の可変領域全体のほかにも、任意選択で、軽鎖に関連する3つのCDRを含み、問題の重鎖を補完する、軽鎖可変領域全体を含み得る。このことは、単一のエピトープに対して免疫特異性を示す結合部分のほか、2つの別個のエピトープと結合することができる二重特異性抗体または結合実体についてもあてはまる。
【0178】
したがって、親和性が適切な抗体の可変領域に由来する結合部分では、重要なアミノ酸配列はフレームワークに配置されるCDR配列であり、このフレームワークは、必ずしも特異性に影響を及ぼすことも、許容されないレベルまで親和性を低下させることもなく、変化し得る。これらのCDRの定義は、当該技術分野で公知の方法により遂行される。具体的には、重要なCDRを同定するのに最もよく用いられる方法に、Wu,T.T.ら,J.Exp.Med.(1970)132:211-250およびKabat,E.A.ら.(1983)の著書「Sequence of Proteins of Immunological Interest」,Bethesda National Institute of Health,323ページに開示されているKabatの方法がある。これとほぼ同じもので、よく用いられる別の方法には、Chothia,C.ら,J.Mol.Biol.(1987)196:901-917およびChothia,C.ら,Nature(1989)342:877-883に公開されているChothiaの方法がある。また別の変法がAbhinandan,K.R.ら,Mol.Immunol.(2008)45:3832-3839により提唱されている。本発明は、これらの方法のいずれかにより定義されるCDRを含む。
【0179】
いずれの方法も、様々な研究者によっていくつかの基準が一様に定められており;したがって、本明細書および特許請求の範囲で明示されるCDRの変化はわずかであり得ることが理解される。得られる可変領域がその結合能を保持する限り、CDRの正確な位置は重要なことではなく、特許請求の範囲で明示されるこれらの領域は、受け入れられている任意の方法によって同定されるCDRを含むものと解釈されるべきである。
【0180】
本発明の抗体をはじめとする結合部分は、標準的な方法および製剤を用いて、受動的ワクチンとして投与することができる。このようなワクチンは通常、注射、通常は筋肉内また皮下への注射により投与されるが、静脈内を含めた他の投与様式も決して除外されない。適切に設計することにより、ワクチンを経口投与してもよい。例えば、上記のように、開発中の技術は、mAbをヒトの筋肉またはリンパ球内でin situで産生させることが可能になることを期待させるものであり、本発明の抗体も、この産生方法に適している。
【0181】
製剤化に関しては、典型的な受動的抗体ワクチン製剤用補形剤を使用し、また、結合部分をリポソーム、ミセル、ナノ粒子などの担体により投与してもよい。本発明の範囲内に含まれ方法で特に対象となるのは、ACS Nano.のAnselmo,A.C.らに記載され、2013年に10.1021/NN404853Zとしてオンラインで公開されているように、mAbから作製したナノ粒子の吸着作用により結合部分を赤血球に付着させるものである。この技術によれば、担体粒子もしくは薬剤またはその両方を赤血球上に吸着させることにより、肺に優先的に送達され、したがって、肝臓および脾臓での処理による半減期の短縮が防止され、肺中の濃度が高められる。この技術は受動的インフルエンザワクチンに特に適しており、結合部分を赤血球に付着させる様々な方法を用いることができる。しかし、この論文によれば、必要なのは単純な吸着のみである。これ以外にも、吸入により送達するエアゾール製品など、mAbの肺への分配を増大させる方法を用いて、受動的ワクチンの効力を増大させることができる。
【0182】
いくつかの実施形態では、本発明は、第1群および第2群インフルエンザAウイルスならびにインフルエンザBウイルスに対する抗体を同時に、または組み合わせて投与することによる、インフルエンザウイルスおよびインフルエンザウイルス感染症に効果を示す治療および予防のための方法および手段を提供する。本発明では、広範囲の第1群インフルエンザAウイルスに対する抗体または活性なフラグメントと、広範囲の第2群インフルエンザAウイルスに対する抗体または活性なフラグメントと、広範囲のインフルエンザBウイルスに対する抗体または活性なフラグメントとを含む、広域中和抗体の組合せを投与する。
【0183】
いくつかの実施形態では、インフルエンザAおよびインフルエンザBの両方に対して効果を示す抗体を含み、複数の株に広域反応性を示す、受動的ワクチン、抗体組成物または抗体の組合せが提供される。これにより、単回用量で効果のある抗インフルエンザ剤が提供され、初期症状が発現したとき、またはインフルエンザに曝露した後に投与することが可能になる。ほかにも、抗体または抗体混合物を投与する前に感染ウイルスを詳細に特徴付ける必要性が回避される。インフルエンザ株を決定する診断には、利用可能な臨床検査施設が必要であり、通常、最低12~24時間の作業時間を要するため、しかるべき方向性の治療法を選択する前にインフルエンザ株を決定する必要がある場合、治療に好ましくない遅れが生じる。インフルエンザAおよびインフルエンザB株に対して広域反応性を示す組成物があれば、治療前に株の予備診断を実施する必要がなくなる。
【0184】
いくつかの実施形態では、抗体の組合せまたは組み合わせた抗体の組成物を、鼻腔内または吸入投与を含め、呼吸気道または気道に直接投与することによる、インフルエンザウイルスに有効な治療および予防のための新規な方法および手段が提供される。本発明は、吸入(IH)による送達ならびに/あるいは鼻腔内(IN)への送達および投与などの気道送達を含めた中和抗体または抗体の組合せの呼吸気道への直接送達が、同じ量の同じ抗体または抗体の組合せの全身投与(IVまたはIP)よりも優れ、効果が高く、低い用量で効果が得られることを示すものである。ウイルスに曝露または感染する前または場合によっては後に抗体をINまたはIH送達する治療法または予防法で効果が得られる。
【0185】
いくつかの実施形態では、哺乳動物のウイルス感染症の治療または予防に効果のある経気道投与用の組成物、特に吸入組成物または鼻腔内組成物、特に抗体の組合せの組成物であって、広範囲の第1群インフルエンザAウイルスに対する抗体または活性なフラグメントと、広範囲の第2群インフルエンザAウイルスに対する抗体または活性なフラグメントと、広範囲のインフルエンザBウイルスに対する抗体または活性なフラグメントとを含む、組成物が提供される。第一の態様では、本発明は、ウイルス中和モノクローナル抗体の組合せを単一単位用量で含み、哺乳動物のインフルエンザウイルス感染症の治療または予防に効果のある吸入組成物または鼻腔内組成物であって、各抗体が1mg/kg以下の投与量で用量に含まれる、組成物を提供する。本発明は、中和モノクローナル抗体の組合せを単一単位用量で含み、哺乳動物のインフルエンザウイルス感染症の治療または予防に効果のある吸入組成物または鼻腔内組成物であって、各抗体が10mg/kg以下の有効量で投与される、組成物を提供する。本発明は、インフルエンザ中和モノクローナル抗体の組合せをそれぞれ1mg/kg未満の単一単位用量で含み、哺乳動物のインフルエンザウイルスの治療または予防に効果のある吸入組成物または鼻腔内組成物を提供する。本発明は、インフルエンザ中和モノクローナル抗体の組合せをそれぞれ0.5mg/kg未満の単一単位用量で含み、哺乳動物のインフルエンザウイルスの治療または予防に効果のある吸入組成物または鼻腔内組成物を提供する。本発明は、抗体の組合せを含み、哺乳動物のインフルエンザウイルスの治療または予防に効果のある吸入組成物または鼻腔内組成物であって、各抗体が0.1mg/kg未満の用量で投与される、組成物を提供する。
【0186】
さらなる態様では、本発明は、流行中のインフルエンザウイルス株に対するインフルエンザ中和抗体の組合せを含み、哺乳動物のインフルエンザウイルスの治療、予防または伝染の抑制に効果のある吸入組成物または鼻腔内組成物を提供する。一態様では、本発明は、流行中のインフルエンザウイルス株に対するインフルエンザ中和抗体の組合せからなる、特にインフルエンザA抗H1抗体と、インフルエンザA抗H3抗体と、抗インフルエンザB抗体とからなる、鼻腔内投与用の組成物を提供する。一態様では、組成物は、特に限定されないがH2、H5およびH7株を含めた他のインフルエンザ株に対して効果を示す、または一層高い効果を示すインフルエンザA抗体を含む。
【0187】
組成物は、使用およびインフルエンザウイルスの治療または予防に適しており、適用可能なものである。特定の態様では、組成物はインフルエンザウイルスの伝染の抑制に適している。
【0188】
特定の実施形態では、抗体Mab53(TRL053)、抗体Mab579(TRL579)、その抗体フラグメントまたはこれらに基づく二重特異性抗体と、TRL847、TRL845、TRL849、TRL848、TRL846、TRL854、TRL809およびTRL832から選択されるインフルエンザBウイルスに対する1つまたは複数のインフルエンザ抗体とを含む抗体の組合せを含む、組成物が提供される。
【0189】
いくつかの実施形態では、(a)配列番号11、12、13のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号14、15、16のLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、第一の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(b)配列番号21、22、23のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号24、25、26のCDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、第二の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(c)インフルエンザB、特にヤマガタ系統および/またはビクトリア系統に対する1つまたは複数のインフルエンザウイルス中和抗体とを含み、抗体またはそのフラグメントが、重鎖相補性決定領域1(HCDR1)と重鎖相補性決定領域2(HCDR2)と重鎖相補性決定領域3(HCDR3)とを含む重鎖アミノ酸配列および軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含む、抗体またはそのフラグメントから選択され、HCDR1/HCDR2/HCDR3が、配列番号31/32/33;41/42/43;51/52/53;61/62/63;71/72/73;81/82/83;91/92/93;101/102/103;111/112/113;121/122/123;131/132/133;141/142/143;151/152/153;161/162/163;171/172/173;181/182/183;191/192/193;201/202/203;211/212/213;221/222/223;231/232/233;241/242/243;251/252/253;261/262/263;271/272/273および281/282/283からなる群より選択され、前記変異体および前記抗体が、インフルエンザウイルスと結合し、これを阻害する特性を有する、医薬組成物が提供される。
【0190】
いくつかの実施形態では、(a)配列番号11、12、13のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号14、15、16のLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、第一の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(b)配列番号21、22、23のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号24、25、26のCDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、第二の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(c)インフルエンザB、特にヤマガタ系統および/またはビクトリア系統に対する1つまたは複数のインフルエンザウイルス中和抗体とを含み、抗体またはそのフラグメントが、重鎖アミノ酸配列および軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)を含む軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含む、抗体またはそのフラグメントから選択され、LCDR1/LCDR2/LCDR3が、配列番号34/35/36;44/45/46;54/55/56;64/65/66;74/75/76;84/85/86;104/105/106;114/115/16;124/125/126;134/135/136;144/145/146;154/155/156;164/165/166;174/175/176;184/185/186;194/195/196;204/205/206;214/215/216;224/225/226;234/235/236;244/245/246;254/255/256;264/265/266;274/275/276;および284/285/286からなる群より選択され、前記変異体が、インフルエンザウイルスと結合し、これを阻害することが可能である、医薬組成物が提供される。
【0191】
いくつかの実施形態では、(a)配列番号11、12、13のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号14、15、16のLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、第一の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(b)配列番号21、22、23のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号24、25、26のCDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、第二の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(c)インフルエンザB、特にヤマガタ系統および/またはビクトリア系統に対する1つまたは複数のインフルエンザウイルス中和抗体またはフラグメントとを含み、抗体またはフラグメントが、重鎖および軽鎖CDR配列を含む重鎖アミノ酸配列および軽鎖アミノ酸配列または1つもしくは複数のCDRドメイン配列内に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を含む、抗体またはそのフラグメントから選択され、HCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3が、配列番号31/32/33/34/35/36;41/42/43/44/45/46;51/52/53/54/55/56;61/62/63/64/65/66;71/72/73/74/75/76;81/82/83/84/85/86;91/92/93/94/95/96;101/102/103/104/105/106;111/112/113/114/115/116;121/122/123/124/125/126;131/132/133/134/135/136;141/142/143/144/145/146;151/152/153/154/155/156;161/162/163/164/165/166;171/172/173/174/175/176;181/182/183/184/185/186;191/192/193/194/195/196;201/202/203/204/205/206;211/212/213/214/215/216;221/222/223/224/225/226;231/232/233/234/235/236;241/242/243/244/245/246;251/252/253/254/255/256;261/262/263/264/265/266;271/272/273/274/275/276;および281/282/283/284/285/286からなる群より選択され、前記変異体が、インフルエンザウイルスと結合し、これを阻害することが可能である、組成物が提供される。
【0192】
いくつかの実施形態では、(a)配列番号11、12、13のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号14、15、16のLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、第一の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(b)配列番号21、22、23のHCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖可変領域(HCVR)を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号24、25、26のCDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、第二の抗体またはその抗原結合フラグメントと;(c)インフルエンザB、特にヤマガタ系統および/またはビクトリア系統に対する1つまたは複数のインフルエンザウイルス中和抗体またはフラグメントとを含み、抗体またはそのフラグメントが、39/40、49/50、59/60、69/70、79/80、89/90、99/100、109/110、119/120、129/130、139/140、149/150、159/160、169/170、179/180、189/190、199/200、209/210、219/220、229/230、239/240、249/250、259/260、269/270、279/280および289/290からなる群より選択されるHCVR/LCVR配列対を含む重鎖アミノ酸配列および軽鎖アミノ酸配列を含む、抗体またはそのフラグメントから選択される、医薬組成物が提供される。
【0193】
いくつかの実施形態では、IN送達などの気道に有用な中和抗体と、非中和抗体とを組み合わせ得る。本願は、IN投与と、IPまたはIV投与を含めた別の投与経路とを組み合わせて、全体および組合せとして効果を増大させることができることを示すものである。本明細書に記載されるように、抗体のIN投与とIP投与を組み合わせることにより、INまたはIP単独の場合に比して相乗的な活性および効果が増大する。代替的な、または別の投与方法または治療法を提供することに加え、本発明は、抗体を介した治療および予防に対する増強された組合せ法を提供し、この方法では、最大の効果を得るべく、経肺投与と全身投与とを組み合わせる。
【0194】
いくつかの実施形態では、経肺投与により抗体を投与する代替的手段により、用量低下、用量を減らした製剤および効果的な広域抗インフルエンザ抗体組合せ組成物が可能になる。
【0195】
いくつかの実施形態では、インフルエンザウイルスを中和し、インフルエンザウイルスに効果を示す結合分子、特にヒトモノクローナル抗体またはそのフラグメントの組合せ、ここでは、組合せは第1群インフルエンザAウイルス、第2群インフルエンザAウイルスおよびインフルエンザBウイルスに効果を示す。抗体の組合せは、インフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスに対する治療または予防に効果があり、したがって、重要な流行中のあらゆるインフルエンザウイルスに対して単一の組成物または用量で効果を示す薬剤となる。
【0196】
本発明は、組み合わせることによりインフルエンザAおよびインフルエンザBの治療または予防に効果のあるインフルエンザモノクローナル抗体またはそのフラグメントの組合せを含むか、これよりなる組成物を提供する。
【0197】
組合せ組成物は、特徴付けも定義もされていないインフルエンザ感染症に投与しても効果が認められ得る。本発明の特定の態様では、組合せ組成物を、鼻腔内または吸入投与による投与を含め、気道に直接投与する。特に、抗体の組合せまたはカクテルを単回用量で投与するか、各抗体の複数回投与または連続投与で投与することができる。したがって、抗体のカクテルは、単一の特異的に選択した抗体が、定義されている標的インフルエンザに効果を示すのと同じように、任意の未知または未定義のインフルエンザウイルスに効果を示す。例えば、カクテルの投与は、単一の特異的抗H1ウイルス抗体の場合と同じように、所与の第1群H1ウイルスに効果を示す。
【0198】
いくつかの実施形態では、組み合わせた抗体は、組み合わせることで効果が得られるような、特に適用可能かつ有用になるような特定の特徴および側面を有する。特定の態様では、本発明の組合せの各抗体はいずれも、インフルエンザウイルスに対して有意な結合および親和性を示す。
【0199】
いくつかの実施形態では、組合せの抗体を他の抗体と共製剤化、混合または逐次投与して、RSV、PAIVまたはMPVなどの病原体を含めた広範囲のインフルエンザ様疾患を治療し得る。
【0200】
いくつかの実施形態では、効果のある組合せの各抗体は、複数のインフルエンザ株に対してnM以下の親和性を示す。このことは、他の既知または既存の抗体に比して異なる、特に有用かつ適用可能であるという側面である。例えば、Mab53およびMab579は、それぞれ様々なH1(およびH5)またはH3(およびH7)株に対してnM以下の親和性を示し、CR6261およびCR8020(国際公開第2013/086052号)に比して有意に高い結合親和性を示す。本発明の組合せの抗インフルエンザB抗体も同様に、ヤマガタおよびビクトリアの両クレードのインフルエンザB株n対してnM以下の結合親和性を示す。
【0201】
いくつかの実施形態では、本開示の組合せ態様の抗体は、等電点(pI)を含めた生物物理学的特性がほぼ同じになるよう設計および選択される。いくつかの実施形態では、組成物に組み合わせるために選択される抗体は、それぞれが互いに±2pIポイント以内、±1.5pIポイント以内、±1.0pIポイントまたは±0.5pIポイント以内のpIを示す。
【0202】
いくつかの実施形態では、本開示の組合せ態様の抗体は、強固な熱安定性などの生物物理学的特性がほぼ同じになるよう設計および選択される。いくつかの態様では、融解曲線アッセイを50℃以上、55℃以上、60℃以上、65℃以上または70℃以上のPBSで実施したときに第一の融解温度(Tm1)を示す抗体が提供される。
【0203】
いくつかの実施形態では、抗体は、ほぼ同じか同等の定常領域配列とともに設計および発現されるのが好ましく、また、ヒトIgG1、IgG2、IgG2、IgG3またはIgG4から選択される同じIgGであるのが好ましい。このほか、循環血中半減期を延ばすための改変Fc配列が当該技術分野で公知である。
【0204】
いくつかの実施形態では、ヒトIgG1定常領域アミノ酸配列を含む抗インフルエンザB抗体が提供される。いくつかの実施形態では、配列番号297のヒトIgG1定常領域アミノ酸配列を含む抗インフルエンザB抗体が提供される。いくつかの実施形態では、配列番号295のヒト軽鎖カッパ定常領域または配列番号296ヒト軽鎖ラムダ定常領域を含む抗インフルエンザB抗体が提供される。
【0205】
いくつかの実施形態では、配列番号297のヒトIgG1定常領域を含む抗インフルエンザB抗体を含む、抗体組成物が提供される。いくつかの実施形態では、配列番号295のヒト軽鎖カッパ定常領域または配列番号296のヒト軽鎖ラムダ定常領域を含む抗インフルエンザB抗体を含む、抗体組成物が提供される。
【0206】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数の抗インフルエンザA抗体と1つまたは複数の抗インフルエンザB抗体との組合せを含む、組成物が提供される。いくつかの態様では、組合せの抗体は、抗体凝集が少ないか全くみられない特性、分子間結合が存在しない特性および/または競合結合がみられない特性から選択される1つまたは複数の特性を示す。これらの態様は、本開示の組合せの抗体で示され例示される。
【0207】
本発明は、中和抗体(1つまたは複数)の鼻腔内または吸入投与などによる気道または呼吸気道への本発明の抗体カクテルの投与によるインフルエンザウイルス感染症に効果のある治療および予防のための新規な方法、プロトコルおよび手段の特定に関する。インフルエンザウイルス中和抗体の鼻腔内または吸入投与は、ウイルスを治療的または予防的に治療または予防するのに、IP投与などの別の投与手段よりも高い効果を示す。吸入ならびに/あるいは鼻腔内送達および投与は、同じ量の同じ抗体または抗体の組合せの全身投与(IVまたはIP)よりも優れ、効果が高く、低い用量で効果がみられる。ウイルスに曝露または感染する前または場合によっては後に抗体(1つまたは複数)をIN送達する治療法または予防法で効果が得られる。
【0208】
肺用量の抗体と全身用量の抗体とを組み合わせる方法またはプロトコルは、インフルエンザウイルスの治療または予防に特に効果がある。このような方法またはプロトコルには、1つまたは複数の鼻腔内または吸入用量の抗体と、1つまたは複数のIPまたはIV用量の抗体とを組み合わせるものが含まれる。鼻腔内または吸入用量は、IPまたはIV用量の前または後に投与しても、IPまたはIV用量と同時にまたは逐次的に投与してもよい。1つまたは複数の鼻腔内、吸入、IPまたはIV用量(1つまたは複数)を投与し得る。鼻腔内投与する抗体はFcまたはエフェクター機能を欠く抗体フラグメント、例えばFabなどであり得るのに対し、IP投与する抗体はエフェクター機能または増強されたエフェクター機能を有し得る。
【0209】
本開示では、ウイルス、特にインフルエンザウイルスに対する効果を増大させるため、中和抗体を気道または呼吸気道に投与する。気道または呼吸気道への投与は、任意の認められている手段または既知の手段によるものであり得、吸入投与または鼻腔内投与を含み得る。効果を増大させるためには、上気道および下気道のうちの1つまたは複数に抗体を送達し、鼻腔、鼻口部、副鼻腔、咽喉、咽頭、喉頭、気管、気管支および肺を含み得る。
【0210】
「吸入」は、特に抗体もしくはその活性なフラグメントまたはそれを含む組成物を含めた薬剤または化合物の摂取または投与との関連において、組成物中に含まれるものを含めたその薬剤、化合物、抗体、フラグメントが呼吸気道の全体または一部分に送達される摂取を指す。呼吸気道は上気道および/または下気道を含み得る。上気道は、鼻口部、鼻腔、副鼻腔、喉頭、気管を含む。下気道は、肺、気道(気管支および細気管支)および気嚢(肺胞)を含む。吸入は、鼻口部もしくは口腔から実施しても、気管内投与のように下気道への直接投与により実施してもよい。したがって、吸入は、鼻口部のみまたは鼻口部主体の吸入、鼻腔内吸入、口腔からの吸入、経口吸入、気管内吸入、気管内注入を含み得る。したがって、吸入は、薬物、薬剤、組成物、抗体、ラグメントが、もっぱら、特異的にまたは優先的に上気道および/または下気道を含めた呼吸気道に、または呼吸気道内に到達または沈着する、任意の投与手段を提供および企図するものである。
【0211】
本明細書で使用される「鼻腔内」という用語は、特に限定されないが、鼻口もしくは鼻腔構造の内部に、またはこれを経由して投与または実施される投与あるいは例えば吸入による、気道送達を含む。本明細書で使用され、実施例で実施形態として例示される鼻腔内という用語は、特に、薬物、薬剤、抗体、フラグメント、組成物が呼吸気道に送達をはじめとする方法で投与され、呼吸気道内または呼吸気道への沈着をはじめとする方法で呼吸気道に分配される他の投与手段が除外されるように、鼻口部または鼻腔から直接、特異的にまたはもっぱら投与することに限定されるものでもなければ、これに限定されることを示唆するものでもないことが意図される。
【0212】
呼吸気道または気道(1つまたは複数)に投与または送達するための装置は、当該技術分野および臨床または医療の現場では知られ認められており、本発明の方法、プロトコルおよび組成物に適用可能である。装置としては、定量吸入器、定量噴霧ポンプ、手動バルブ噴霧器、小容量または大容量噴霧器、超音波噴霧器および乾燥粉末吸入器が挙げられる。
【0213】
本明細書に開示される実施形態は、特に呼吸気道を標的とする、呼吸気道に感染する、または呼吸気道を冒す病因体または病原体の治療または予防に適用および使用される。これらのウイルスは、肺尖部での複製を示すことにより、肺送達したmAbまたはそのフラグメントにより中和に感受性になると考えられ、このため、全身送達に比して効果が改善されると考えられる。したがって、本発明の実施形態は、呼吸器感染症、特に呼吸器ウイルスおよび呼吸器疾患の原因となる、またはこれと因果関係にある病因体の治療または予防に適用および使用される。よくみられるウイルス性呼吸器疾患は、ほぼ同じ特色を有し上気道を冒す様々なウイルスによって引き起こされる疾患である。関与するウイルスとしては、インフルエンザウイルス、呼吸器多核体ウイルス(RSV)、パラインフルエンザウイルスおよび呼吸器アデノウイルスを挙げ得る。パラインフルエンザウイルスは、乳幼児のクループの主要な原因となり、気管支炎、肺炎および細気管支炎を引き起こし得る。アデノウイルスは、主として呼吸気道、消化管および眼球の結膜に侵入する。アデノウイルスは、咽頭炎から肺炎、結膜炎および下痢に至る様々な疾患を引き起こし得る。症状はウイルスに曝露してから1~10日後に現れ得る。
【0214】
状態(癌、炎症状態、抗ウイルス剤、抗感染症剤)の治療または軽減のための抗体の臨床投与にはこれまで、もっぱら全身投与、一般にはIV投与が用いられてきたが、これには大量かつコストのかかる量の抗体、医療従事者の補助および相当な投与時間(典型的なIV投与では2時間)が必要とされる。特にこれらの抗体を扱った特許または出願では、鼻腔内などの他の投与手段に言及することもあるが、鼻腔内投与は、良くても同等の代替手段とみなされるか、全く無視されるか、追求されないかのいずれかであり、その理由としては、鼻腔内投与はIPまたはIV投与経路に比べて、理解が進んでおらず、魅力的ではない、または効果が少ないと考えられており、免疫系の発動が間接的なものである、またはあまり直接的なものではないと考えられていることが推測される。しかし、本発明および本明細書に記載される注目すべき研究では、特に中和抗体には、鼻腔内投与の方が実際には好ましく効果の高い代替手段であることが示されている。特に、最初に病原体が侵襲または曝露する部位または位置で作用し得る中和抗体は、別の投与様式よりも効果が高くなる。したがって、インフルエンザを標的とする中和抗体は、経肺経路で投与した場合、全身経路と比較して、部分的には様々な作用機序を介してもたらされる効果に劇的な差がみられる。
【0215】
経気道投与は、低用量で効果があり、低用量、低コストであり、したがって、診断検査による確定を必要としない治療を実施する唯一の機会を提供する。医師がこの低用量のカクテルを、例えば乾燥粉末吸入器もしくは噴霧器として、またはその他の気道送達法により投与するには、インフルエンザの季節に症状を認めれば十分である。この診断を必要としない標準治療は現在、TamifluおよびRelenzaで実施されているが、費用のかかる静脈内抗体療法には不可能であり、実際的ではなく、コスト的に不可能であると思われる。診断を実施した後、高用量の抗体の投与を静脈内経路などの全身経路または経気道のいずれかで実施し得るほか、カクテルまたはインフルエンザの型に特異的な単独の特異的抗体として構成し得る。
【0216】
したがって、本発明では、抗体の肺送達により、IVまたはIP経路などの全身経路に比して著明で有意な効果の改善が得られる。さらに、中和作用を示す抗体により、鼻腔内効果の増大が示される。中和抗体、特に、受け入れられている、または既知の中和アッセイまたはウイルス阻止アッセイを用いてもインフルエンザウイルスの直接的な阻害または阻止を示さない抗体を鼻腔内に送達すると、全身またはIP投与に比して効果の低下がみられる。本研究は、受け入れられている既知のインフルエンザマウスモデルを用いて、中和抗体の鼻腔内(IN)送達が治療および予防効果を腹腔内(IP)または静脈内(IV)送達経路に比して10倍超、劇的に増大させ得ることを示す。IVまたはIP経路の代わりにINで投与する場合、同じ用量の10分の1未満の用量を用いて同程度の効果を得ることができる。鼻腔内などの気道に投与された中和抗体は、治療効果を数桁、具体的には10~100倍または少なくとも10~100倍、劇的に増大させ得る。鼻腔内に投与された中和抗体は、ほぼ同じ条件下で同じ抗体を腹腔内(IP)投与する場合の少なくとも10倍、少なくとも50倍、10倍超、50倍超、100倍超、最大100倍、治療効果を増大させ得る。中和抗体の鼻腔内投与は、特にインフルエンザ感染症を含めた感染症の治療または予防のための新規で予想外の方法をもたらす。IN投与は現在、効率的に実施され、他の投与形態と組み合わせて、治療および予防のためのより効果的でよりコストの低い方法をもたらし得る。IN投与を含めた経気道投与により、任意の予想されるインフルエンザウイルスに対して単回用量の抗体の組合せまたはカクテルの効果を発揮させることが可能となる。
【0217】
組成物
本開示では、インフルエンザに使用して効果が得られる抗体組合せ組成物が提供される。抗体組合せ組成物は、鼻腔内などの気道に直接投与する場合、低用量で効果が得られる。組成物は特に、抗体、特に中和抗体、特にモノクローナル抗体またはその活性なフラグメント、特に抗ウイルス抗体、特にインフルエンザの組合せを含む。中和抗体(1つまたは複数)は、異なる型またはグループのインフルエンザを中和する抗体と組み合わせると、2つ以上の型または亜型のインフルエンザを中和し得る。本発明の組成物は特に、流行中のインフルエンザウイルス株に対するインフルエンザ中和抗体の組合せを含む。組成物(1つまたは複数)は特に、流行中のインフルエンザウイルス株に対するインフルエンザ中和抗体、特に抗インフルエンザAおよび抗インフルエンザB抗体の組合せを含む。組成物(1つまたは複数)は特に、インフルエンザ中和抗体の組合せを含み、その組合せは、全体としてしかるべき重要な流行中のインフルエンザウイルス株に対するものであり、特に、全体としてインフルエンザAのH1およびH3亜型ならびにヤマガタ系統およびビクトリア系統のインフルエンザBに対するものである。組成物(1つまたは複数)は、インフルエンザウイルスAおよびBが組合せまたは抗体によって中和される限り、3つ以上の中和抗体を含むものであってもよい。
【0218】
組成物(1つまたは複数)は特に、流行中のインフルエンザウイルス株に対するインフルエンザ中和抗体、特にインフルエンザA抗H1抗体、インフルエンザA抗H3抗体および抗インフルエンザB抗体の組合せを含み得る。組成物(1つまたは複数)は、インフルエンザH5株およびH7株に効果を示す、または一層高い効果を示すインフルエンザA抗体を含み得る。インフルエンザ抗体は株に特異的、非特異的または汎特異的なものであり得、H1亜型および/またはH3亜型および/またはH5および/またはH7をはじめとするインフルエンザA株の系統または亜型を含めたインフルエンザAを中和し得るものであり、かつ/あるいはヤマガタ系統および/またはビクトリア系統を含めたインフルエンザBを中和し得るものである。組成物は、IVまたはIPなどの別の投与組成物として、抗体の同一の成分、異なる成分また追加の成分を有し得る。
【0219】
いくつかの実施形態では、中和抗体またはFabフラグメントを含めたそのフラグメントを含む組成物が提供される。本発明の組成物は、インフルエンザウイルス中和抗体、特に、第1群抗体TRL053/Mab53、第2群抗体TRL579/Mab579ならびにTRL847、TRL845、TRL849、TRL848、TRL846、TRL854、TRL809およびTRL832から選択されるB抗体、そのフラグメント、その合成または組換え誘導体、そのヒト化型またはキメラ型、ならびにその重鎖および軽鎖CDRを有する抗体の組合せを含み得る。
【0220】
ウイルス中和抗体は特に、中和が可能な抗体フラグメントであり得る。一態様では、抗体フラグメントは、Fcを欠くものであり、かつ/またはエフェクター機能を欠くか、これが低下したものである。抗体フラグメントは、Fab、Fab’およびF(ab’)から選択され得る。ウイルス中和抗体またはフラグメントは、組換えタンパク質に由来するもの、活性なフラグメントとして発現するものを含めた組換えにより発現するもの、あるいはその他の手段または方法、例えば中和抗体またはそのフラグメント(1つまたは複数)をコードするDNAまたはRNAの送達などによる遺伝物質、DNAまたはDNAベクターの発現によるものを含めた気道または呼吸気道内に中和抗体またはフラグメント(1つまたは複数)をもたらす手段または方法などにより誘導または生成されるものであり得る。
【0221】
本発明の組成物は、薬学的に許容される補形剤、担体または希釈剤をさらに含み得る。組成物は、経鼻または肺送達および鼻腔内または吸入投与に適したまたはふさわしい補形剤、担体、希釈剤または添加剤を含み得る。組成物は、免疫応答および/または抗体の仲介による細胞もしくは全身へ効果を刺激または増大するのに適したまたはふさわしい補形剤、担体、希釈剤または添加剤を含み得る。組成物は、免疫応答の免疫学的メディエーターまたは刺激因子を含み得る。
【0222】
本発明は、特にインフルエンザウイルスの伝染を治療、予防、抑制または阻害するための方法を提供する。本発明は、インフルエンザウイルスに曝露した、罹患した、または罹患している哺乳動物のウイルス感染症を治療する方法であって、本発明で提供される抗体の組合せを、鼻腔内(IN)投与または吸入などにより前記哺乳動物の気道に投与することを含む、方法を提供する。特定の態様では、組合せは、第1群抗体TRL053/Mab53、第2群抗体TRL579/Mab579ならびにTRL847、TRL845、TRL849、TRL848、TRL846、TRL854、TRL809およびTRL832から選択されるB抗体、そのフラグメント、その合成または組換え誘導体、そのヒト化型またはキメラ型ならびにその重鎖および軽鎖CDRを有する抗体を含む。
【0223】
この方法の一態様では、組成物組合せ中のモノクローナル抗体はすべて、同じIgG亜型に属するものであり、同一またはほぼ同一の定常領域配列を有する。特定の態様では、組合せの抗体はすべてIgG1抗体である。
【0224】
この方法では、感染後、推定感染後、曝露後または臨床症状の発現後に抗体の組合せを投与し得る。その一態様では、感染から8時間後までの間に抗体の組合せを投与し得る。別法では、感染から24時間後までの間に抗体の組合せを投与する。さらなる別法では、感染から48時間後までの間に抗体の組合せを投与する。またさらなる別法では、感染から72時間後までの間に抗体の組合せを投与する。抗体の組合せは、感染から8時間後(8hpi)、12hpi、18hpi、24hpi、36hpi、48hpi、72hpi、感染から1日後、感染から2日後、感染から3日後、感染から4日後、感染から5日後、感染から6日後、感染から7日後、感染から1週間後、感染から10日後、感染から2週間後、感染から3週間後、感染から4週間後、感染から1か月後、感染から数か月後までの間に、単回用量または複数回の逐次用量などで投与され得る。
【0225】
組合せに必要な抗体がいずれも投与時に確実に効果を発揮するように、抗体の組合せを単回用量で、または3つの個別の用量で同時もしくはほぼ同時に投与する。
【0226】
いくつかの実施形態では、任意の比率の2種類、3種類、4種類、5種類、6種類、7種類、8種類、9種類、10種類またはそれ以上の抗体の組合せを含む、組成物が提供される。いくつかの実施形態では、2~10種類もしくは3~5種類の抗体またはフラグメントを重量当たりの基準で、組成物中の抗体またはフラグメントの総重量当たりそれぞれ約10~80重量%;20~50重量%;25~40重量%含む、組成物が提供される。特定の実施形態では、第一、第二および第三の抗体またはフラグメントを実質的に等しい用量または比率で、組成物中の抗体またはフラグメントの総重量当たりそれぞれ約33重量%±3重量%含む、組成物が提供される。特定の好ましい態様では、組合せの抗体を実質的に等しい用量比、同じ投与量、1:1:1の重量比または等しい比率で投与する。
【0227】
いくつかの実施形態では、2~10種類の抗体を含み、組合せの各抗体の単回用量有効量が、10mg/kg体重未満、5mg/kg体重未満、2mg/kg体重未満、1mg/kg体重以下である、組成物が提供される。組合せの各抗体の単回用量は、1mg/kg体重未満、0.5mg/kg未満、0.1mg/kg未満、0.05mg/kg未満であり得る。複数回用量または抗体の組合せを投与し得る。初回用量を高くし、それ以降の用量を低くする、あるいは初回用量を低くして、それ以降の用量を高くするなど、各組合せの用量が同じであっても、用量が異なっていてもよい。1つもしくは複数の単回用量または任意の用量は、1mg/kg体重未満、0.5mg/kg未満、0.1mg/kg未満、0.05mg/kg未満であり得る。初回用量は1mg/kgを超えてもよく、のちのまたは次の用量はこれより低い用量であっても、1mg/kg未満であってもよい。
【0228】
抗体は、鼻腔内投与または吸入などにより複数回用量で気道に投与してよく、ここでは、各組合せ用量中の各抗体は、1用量当たり1mg/kg未満である。このような態様では、推定感染時から、曝露してから、または臨床症状が発現してから最大72時間後以降に、複数回用量を少なくとも2時間の間隔をあけて投与し得る。したがって、抗体用量を数分、数時間または数日の間隔をあけて投与し得る。感染後、推定感染後または曝露後に数時間または数日の間隔をあけて抗体用量を投与してもよい。感染後、推定感染後または曝露後および最大2時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間、36時間、48時間または72時間後に抗体用量を投与してもよい。
【0229】
本発明の投与のプロトコルまたは方法は特に、特に抗体の吸入または鼻腔内投与による、気道または呼吸気道への1回目の抗体投与と、吸入または鼻腔内経路によるものではない2回目または1つもしくは複数の追加の投与、例えばIPまたはIV投与(1つまたは複数)などの全身送達とを組み合わせたものを含む。したがって、この方法は、追加でウイルス特異的モノクローナル抗体をIPまたはIVで投与することを含み得るものであり、ここでは、追加で投与する抗体が中和抗体または非中和抗体である。この場合、初回用量を本発明の抗体の組合せとともに投与し、次いで、臨床検査または診断検査で決定されたものを含む感染ウイルスの亜型に対する単一の抗体を投与し得る。したがって、インフルエンザウイルスの型に関係なく、抗体の組合せの初回用量が最初に効果を発揮する。ウイルスの型が決定された後、その組合せ、組合せの比率を変えたもの、単一の抗原に対する抗体の2回目または追加の用量(1つまたは複数)を投与する。2回目または追加の用量(1つまたは複数)は、IHまたはINなどで気道に投与しても、全身投与してもよい。追加でIPまたはIVなどにより全身投与する抗体は、INまたは吸入により投与する抗体と同じ抗体であっても、INまたは吸入により投与する抗体と異なる抗体または操作した抗体であってもよい。追加で例えばIPまたはIVにより投与する抗体は、INまたは吸入により投与する抗体と同時に、逐次的にまたは後続して投与し得る。任意のこのような後続投与は、数時間後であってよく、2時間後、4時間後、6時間後、8時間後、12時間後または最大24時間後であり得る。後続投与は、数日後であってよく、1日後、2日後または3日後であり得る。後続投与は数日後であってよく、最大7日後、1週間後または数週間後であり得る。後続投与は、数時間後および/または数日後および/または数週間後の単回投与または複数回投与であり得る。
【0230】
さらなる態様では、本発明は、インフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスに対する抗体の組合せを投与するためのプロトコルであって、本発明で提供される抗体の組合せの鼻腔内または吸入用量などの1回目の気道用量を投与し、後続してまたは同時に、気道にも呼吸気道にも投与せずに腹腔内または静脈内に投与し得る2回目の用量または1つもしくは複数の追加の用量を投与することを含み、2回目の用量または追加の用量(1つまたは複数)の抗体が、1回目の用量の組合せの抗体と同じ抗体または異なる抗体である、プロトコルを提供する。2回目の用量また追加の用量(1つまたは複数)の抗体は、IVまたはIPでより効果的または有効になるよう操作または改変された操作または改変抗体である。一態様では、1回目の用量の抗体は、Fab抗体のようなエフェクター機能を欠く抗体であり得、2回目の用量の抗体は、エフェクター機能有するか、Fcを有するか、増強されたエフェクター機能を有するよう改変されたものであり得る。
【0231】
このプロトコルは、本発明の抗体の組合せの吸入または鼻腔内経路による複数回用量を含み得るほか、同じ組合せ、組合せの1つまたは複数の抗体または別の抗体のIPまたはIV経路による複数回用量を含み得る。プロトコルの一態様では、抗体を投与する対象または患者の疾患またはウイルス感染症の臨床症状などをモニターし、患者または対象および感染症または疾患の状態に応じて、1つまたは複数の用量を変更、減少もしくは増大させるか、投与間隔を短く、または一層長くし得る。
【0232】
プロトコルの一態様では、インフルエンザウイルスは、インフルエンザA、インフルエンザBまたは未知もしくは未定義のインフルエンザウイルスであり得る。呼吸気道に投与しない2回目の用量の抗体は、中和抗体であっても非中和抗体であってもよく、またエフェクター機能または増強されたエフェクター機能を有し得る。
【0233】
プロトコルの一態様では、1回目の鼻腔内または吸入用量は、本発明の組合せの抗体をそれぞれ1mg/kg未満、0.5mg/kg未満、0.1mg/kg未満含み得る。2回目または追加のIPまたはIV用量は特に、1回目の鼻腔内または吸入用量よりも高い用量で投与する。2回目または追加のIPまたはIV用量は特に、各抗体または任意の抗体の量が1回目の鼻腔内または吸入用量の少なくとも10倍の用量で投与する。2回目または追加のIPまたはIV用量は、少なくとも1mg/kg、少なくとも5mg/kg、少なくとも10mg/kg、少なくとも15mg/kgまたは10mg/kg超、20mg/kg超もしくは50mg/kg超であり得る。
【0234】
プロトコルのさらなる態様では、1回目の鼻腔内または吸入用量は組合せの各抗体が1mg/kg未満であり得、2回目のIPまたはIV用量は1回目の鼻腔内用量の少なくとも10倍のmg/kg数であり得る。プロトコルのさらなる態様では、1回目の鼻腔内または吸入用量は組合せの各抗体が1mg/kg未満であり得、2回目のIPまたはIV用量は1回目の鼻腔内用量の少なくとも50倍のmg/kg数であり得る。ほかの態様では、1回目の鼻腔内または吸入用量は組合せの各抗体が0.5mg/kg未満であり得、2回目のIPまたはIV用量は少なくとも5mg/kgであり得る。
【0235】
1回目の鼻腔内または吸入用量の組合せの各抗体の用量は10mg/kgまたは10mg/kg未満であり得、推定感染後、曝露後または臨床症状の発現後24時間以内に投与され得る。1回目の鼻腔内または吸入用量の組合せの各抗体の用量は10mg/kgまたは10mg/kg未満であり得、推定感染後、曝露後または臨床症状の発現後48時間以内に投与され得る。1回目の鼻腔内または吸入用量の組合せの各抗体の用量は10mg/kgまたは10mg/kg未満であり得、推定感染後、曝露後または臨床症状の発現後72時間以内に投与され得る。
【0236】
本発明の別の態様は、呼吸器ウイルスの伝染を抑制する方法であって、インフルエンザウイルスに曝露した対象、インフルエンザウイルスに曝露するリスクのある対象またはインフルエンザウイルス感染症の臨床徴候がみられる対象の気道に本発明の抗体の組合せを鼻腔内投与または吸入により投与することを含み、各抗体を1mg/kg以下の単位用量で投与する、方法である。組合せの各抗体の単位用量は10mg/kg未満または1mg/kg未満であり得る。この方法の単位用量は、0.5mg/kg未満、0.1mg/kg未満または0.05mg/kg未満であり得る。
【0237】
本発明は、抗体組合せ組成物または経肺投与に適するか、経肺投与用に選択した抗体、特にインフルエンザ抗体、特にモノクローナルインフルエンザ抗体の組合せの組成物を提供し、ここでは、抗体の組合せは、季節性亜型および大流行亜型からなる流行中のウイルス株に対する抗体を含むか、これよりなる。例えば、季節性インフルエンザと同じく流行中の株は現在、インフルエンザB(ヤマガタ系統)、インフルエンザB(ビクトリア系統)、インフルエンザA H1亜型およびインフルエンザA H3亜型であり、インフルエンザB(ヤマガタ)、インフルエンザB(ビクトリア)、インフルエンザA H1亜型およびインフルエンザA H3亜型それぞれに対する抗体(1つまたは複数)を有するか含む、本発明の組合せ組成物が提供される。本発明は、他の亜型、例えばH7亜型をカバーする特異性を追加するためにカクテルに他の抗体を組み込むことを含む。
【0238】
いくつかの実施形態では、第1群抗体TRL053/Mab53、第2群抗体TRL579/Mab579ならびにTRL784、TRL794、TRL798、TRL799、TRL809、TRL811、TRL812、TRL813、TRL823、TRL832、TRL833、TRL834、TRL835、TRL837、TRL839、TRL841、TRL842、TRL845、TRL846、TRL847、TRL848、TRL849、TRL851、TRL854、TRL856およびTRL858から選択される1つまたは複数の抗インフルエンザB抗体、その免疫反応性フラグメント、その合成または組換え誘導体、そのヒト化型またはキメラ型ならびにその重鎖および軽鎖CDRを有する抗体の組合せを含む、組成物が提供される。
【0239】
いくつかの実施形態では、第1群抗体TRL053/Mab53、第2群抗体TRL579/Mab579ならびにTRL845、TRL846、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854から選択されるB抗体またはそのフラグメント、その合成または組換え誘導体、そのヒト型またはキメラ型ならびにその重鎖および軽鎖CDRを有する抗体の組合せを含む、医薬組成物が提供される。
【0240】
いくつかの実施形態では、第1群抗体TRL053/Mab53、第2群抗体TRL579/Mab579ならびにTRL845、TRL847およびTRL849から選択されるB抗体またはそのフラグメント、その合成または組換え誘導体、そのヒト化型またはキメラ型ならびにその重鎖および軽鎖CDRを有する抗体の組合せを含む、医薬組成物が提供される。いくつかの実施形態では、(a)配列番号11、12、13のCDRドメイン配列HCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号14、15、16のCDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、抗体またはそのフラグメントと;(b)配列番号21、22、23のCDRドメイン配列HCDR1/HCDR2/HCDR3を含む重鎖アミノ酸配列および配列番号24、25、26のCDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む軽鎖アミノ酸配列を含む、抗体またはそのフラグメントと;(c)重鎖CDRドメイン配列HCDR1/HCDR2/HCDR3および軽鎖CDRドメイン配列LCDR1/LCDR2/LCDR3をそれぞれ含み、HCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3がそれぞれ:
(i)配列番号71、72、73および配列番号74、75、76;
(ii)配列番号91、92、93および配列番号94、95、96;
(iii)配列番号101、102、103および配列番号104、105、106;
(iv)配列番号121、122、123および配列番号124、125、126;
(v)配列番号181、182、183および配列番号184、185、186;
(vi)配列番号191、192、193および配列番号194、195、196;
(vii)配列番号201、202、203および配列番号204、205、206;
(viii)配列番号211、212、213および配列番号214、215、216;
(ix)配列番号221、222、223および配列番号224、225、226;
(x)配列番号231、232、233および配列番号234、235、236;
(xi)配列番号241、242、243および配列番号244、245、246;
(xii)配列番号261;262、263および配列番号264、265、266;ならびに
(xiii)配列番号271、272、273および配列番号274、275、276
から選択される重鎖アミノ酸配列および軽鎖アミノ酸配列を含む、抗体またはそのフラグメントとを含む、インフルエンザモノクローナル抗体またはそのフラグメントの組合せを含む、抗インフルエンザ組成物が提供される。
【0241】
本発明は、1つもしくは複数のCDRドメイン配列に1~3個のアミノ酸置換を含むその高度に相同な変異体を企図および例示し、ここでは、前記変異体は、インフルエンザウイルスと結合し、これを阻害することが可能であり、組成物は、第1群および第2群インフルエンザAウイルスならびにインフルエンザBウイルスに効果を示す。
【0242】
特定の実施形態では、(a)それぞれ配列番号11、12、13および配列番号14、15、16の重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3および軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;それぞれ配列番号21、22、23および配列番号24、25、26のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメントならびにそれぞれ配列番号201、202、203および配列番号204、205、206のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;(b)それぞれ配列番号11、12、13および配列番号14、15、16の重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3および軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;それぞれ配列番号21、22、23および配列番号24、25、26のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメントならびにそれぞれ配列番号221、222、223および配列番号224、225、226のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;(c)それぞれ配列番号11、12、13および配列番号14、15、16の重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3および軽鎖CDR配列を含む、抗体もしくはそのフラグメント;それぞれ配列番号21、22、23および配列番号24、25、26のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメントならびにそれぞれ配列番号231、232、233および配列番号234、235、236のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;(d)それぞれ配列番号11、12、13および配列番号14、15、16の重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3および軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;それぞれ配列番号21、22、23および配列番号24、25、26のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメントならびにそれぞれ配列番号241、242、243および配列番号244、245、246のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;または(e)それぞれ配列番号11、12、13および配列番号14、15、16の重鎖CDR配列HCDR1/HCDR2/HCDR3および軽鎖CDR配列LCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメント;それぞれ配列番号21、22、23および配列番号24、25、26のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメントならびにそれぞれ配列番号261、262、263および配列番号264、265、266のHCDR1/HCDR2/HCDR3およびLCDR1/LCDR2/LCDR3を含む、抗体もしくはそのフラグメントから選択される抗体の組合せを含む、組成物が提供される。
【0243】
いくつかの実施形態では、組合せの抗体は、2つ以上のインフルエンザ株または亜型、例えば図3に図示される株または亜型および本明細書に示される株または亜型などに対するものであり得る。抗体Mab53は、第1群および第2群のインフルエンザAの亜型H1,H9,H7およびH5亜型に効果を示す。抗体Mab579は、亜型H3およびH7に効果を示す。したがって、現在流行中のインフルエンザ株はH1、H3およびB型であるが、新たなインフルエンザの季節または単一のインフルエンザの季節に発生し出現し得る亜型を含めた追加の株および亜型に効果を示す組合せを作製することが可能であり、本明細書に提供される。
【0244】
組成物は特に、IPまたはIVなどの任意の別の剤形または投与形態よりも少ない抗体の用量または量で製剤化されるか、これを含有し得る。したがって、本発明に有用な組成物は、別の投与、特にIPまたはIV投与のための中和抗体組成物の5分の1、10分の1、20分の1、50分の1、100分の1、10分の1未満、100分の1未満の中和抗体を含み得る。
【0245】
いくつかの実施形態では、哺乳動物の体重に基づく1mg/kg未満の量で経肺投与、特に鼻腔内投与することを目的とする用量の各抗体を含む、組成物が提供される。いくつかの実施形態では、ヒトの体重に基づき、合計10mg/kg未満、5mg/kg未満または1mg/kg未満の投与になる抗体を含む、組成物が提供される。本発明の組成物は特に、マウス、イヌ、ウマ、ネコまたはヒトなどの臨床的に重要な哺乳動物を含めた哺乳動物の体重に基づく1mg/kg未満、0.5mg/kg未満、0.1mg/kg未満、0.05mg/kg未満、0.01mg/kg未満、0.005mg/kg未満、0.0025mg/kg未満、0.001mg/kg未満の量で投与する、特に鼻腔内投与することを目的とする用量の抗体を含み得る。いくつかの実施形態では、治療有効量は、約100mg/kg、50mg/kg、10mg/kg、3mg/kg、1mg/kgまたは1mg/kgから選択される。いくつかの態様では、有効な予防量または曝露後の予防量は、約1mg/kg、0.1mg/kgまたは約0.01mg/kgから選択される。
【0246】
当業者は、動物モデルでの効果に基づき、臨床反応および生理反応、ウイルス負荷およびウイルス伝染率を考慮することなどにより、ヒトを含めた哺乳動物に適する有効な用量を決定することができる。したがって、本発明および投与パラメータは、本明細書に提供される具体例にも例示される具体的用量にも限定されない。本発明は、効果の観点および臨床的に発現するインフルエンザウイルス感染症を含めたウイルス感染症の作用を軽減、制限または阻止する点で、吸入または鼻腔内投与が好ましい代替法であることを示す。中和抗体の吸入または鼻腔内投与により、IPまたはIVを含めた他の投与経路に比して効果の改善および増大がもたらされ、これは、期待も予測もされなかったことであると思われる。肺送達による効果の増大により、複数のmAbをカクテルに組み込むことが実現可能性になり、あらゆるインフルエンザの型/亜型に対するカクテルの開発が可能になる。INまたは吸入経路による投与の量およびタイミングは、当業者によってさらに評価および決定され得る。本明細書に提供される試験は、INまたは吸入投与が、IPまたはIVよりも低い用量でそれを上回る効果を示すほか、感染から数日後に実施してもなお効果を保持し得ることを示す。
【0247】
本明細書でマウスモデルを対象に適用され示される用量および用量範囲は、必要に応じ、当該技術分野で当業者または臨床もしくは医療の専門家により公知のパラメータを用いて、変換または適用され得るものである。したがって、マウスのmg/kg投与量から、ヒトをはじめとする動物に対するこれと同等の、または適度に同等の投与量を推定することができる。例えば、実験用マウスの平均重量が20gであるのに対して、ヒトの平均重量は70kgである。
【0248】
動物用量をヒト用量に変換することは臨床研究で慣例的に実施されていることであり、当業者であれば、このように変換した用量がヒトでも上手くいくことが強く予想されるであろう。種間での調整およびヒトでの薬物動態パラメータの予測については既に記載されている(例えば、Mahmoodら(2003)J Clin Pharmacol 43:692-697;Mordenti(1986)Journal of Pharmaceutical Sciences,75:1028-1040)。例えば、治療レベルは毒性と並行することが多く、このため、動物での最小有効量をヒトでの最小有効量に変換するのに、動物毒性からヒト毒性への変換に適用される変換係数が良く用いられる。さらに、FDAは、動物(マウス)用量からヒト用量への変換に用いられる係数を含め、治療薬の臨床試験における最大安全開始用量を推定するための変換係数を記載した「Guidance for Industry」提供している(例えば、ある場合には、マウス用量に0.08を乗じる)。
【0249】
「薬学的に許容される」という語句は、生理学的に許容され、ヒトに投与してもアレルギー反応またはこれに類する例えば急性胃蠕動、眩暈などの有害反応を通常引き起こさない、分子的実体および組成物を指す。
【0250】
本発明は、本発明の治療法の実施に有用な治療用組成物をさらに企図する。対象とする治療用組成物は、薬学的に許容される補形剤(担体)と、有効成分の1つまたは複数の抗体またはその活性なフラグメント、特に本明細書に記載される中和抗体、そのポリペプチド類似体またはそのフラグメントとを混合物の形で含む。好ましい実施形態では、組成物は、標的細胞内または対象もしくは患者においてウイルス、特にインフルエンザウイルスを中和することが可能な抗体またはフラグメントを含む。
【0251】
抗体、ポリペプチド、類似体または活性なフラグメントを有効成分として含有する治療用組成物の調製については、当該技術分野で十分に理解されている。このような組成物は通常、液体剤または懸濁剤として投与するために調製されるが、投与前に液体に溶解または懸濁させるのに適した固体形態を調製してもよい。このほか、調製物を乳化することができる。多くの場合、活性な治療成分を薬学的に許容され有効成分と適合性のある補形剤と混合する。適切な補形剤には、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどおよびその組合せがある。さらに、必要に応じて、有効成分の効果を増大させる湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤などの補助物質を少量含有の補助物質を組成物に含ませてもよい。
【0252】
抗体、ポリペプチド、類似体または活性なフラグメントは、中和された薬学的に許容される塩の形態で治療用組成物に製剤化し得る。薬学的に許容される塩としては、酸付加塩(ポリペプチドまたは抗体分子の遊離アミノ基と形成される)および無機酸、例えば塩酸もしくはリン酸などまたは有機酸、例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などと形成される塩が挙げられる。ほかにも、遊離カルボキシル基から形成される塩を、無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムまたは水酸化第二鉄などおよび有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどから誘導することができる。
【0253】
治療用の抗体、ポリペプチド、類似体または活性なフラグメントを含有する組成物は、例えば単位用量の投与など、従来の方法で投与される。本発明の治療用組成物と関連して使用される「単位用量」という用語は、ヒトへの単位投与として適切な物理的に分離された単位であって、それぞれが、所望の治療効果が得られるよう計算された所定量の活性物質を、必要な希釈剤、すなわち、担体または賦形剤とともに含有する単位を指す。
【0254】
いくつかの実施形態では、担体は、経肺投与に適した当該技術分野で公知の任意のから選択される。いくつかの実施形態では、担体は、例えばCsabaら、Adv Drug Deliv Rev.2009、61(2):140-157(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている担体のような鼻腔内投与に適した担体から選択される。いくつかの実施形態では、担体は、ナノ粒子系またはマイクロ粒子系である。いくつかの実施形態では、担体は、分解性デンプン、可溶性デンプン、ポリスチレン、デキストラン、キトサン、微結晶性セルロース(MCC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチセルロース(hydroxypropylmethycellulose)(HPMC)、カルボマー、Carbopol(登録商標)974P、マルトデキストランワックス様トウモロコシデンプン、アルギン酸塩、Sephadex(登録商標)、ポリ(ビニルアルコール)、ゼラチンポリマー、親水性ポリエチレングリコールコーティング剤でコートしたポリ乳酸ナノ粒子(PEG-PLAナノ粒子)(Vilaら,J Aerosol Med 2004;17(2):174-185);低分子量キトサンナノ粒子(Vilaら,Eur J Pharm Biopharm 2004 Jan;67(1):123-131);ポリアクリル酸ポリマー系粒子(Zamanら,Curr Drug Deliv 2010 Apr;7(2):118-124)のうちの1つまたは複数から選択されるか、これを含むものである。いくつかの実施形態では、担体はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。鼻腔内送達システムについては、Ozsoyら,Molecules 2009,14,3754-3779(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0255】
いくつかの実施形態では、前記ナノ粒子をAnselmoら,ACSNano 2013,オンライン公開10.1021/nn404853zの技術による赤血球への吸着により、肝臓および脾臓を回避しながら肺に送達する。この方法では、ナノ粒子(例えば、例えば直径200nmまたは500の球状ナノ粒子)を例えば、最大100/1までの様々な粒子/RBC比でインキュベートすることによりRBCに付着させる。
【0256】
いくつかの実施形態では、補形剤を用いずに、あるいは有効成分(1つまたは複数)の効力に影響を及ぼさず肺に毒性を示さない補形剤を用いて安定化することができる溶液、粉末または懸濁液に抗体またはフラグメントの効力および活性を製剤化する。抗体は酸化または加水分解条件で変性させ得る。いくつかの実施形態では、抗体またはフラグメントを溶液中で安定化させるためのキレート化剤または錯化剤、例えばカフェイン、デキストランもしくはシクロデキストランまたは本明細書に提供されるその他のものなどを用いて、鼻噴霧剤または注射により抗体を送達するための水性製剤を得る。このような補形剤およびエアゾールまたは噴霧組成物のさらなる詳細は、例えば、国際公開第2005/025506号;Maillet,A.ら,2008 Phar,Res.25(6):1318-1326;Hatcha,Jら,Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.2012 47(5):709-717(いずれも参照により組み込まれる)にみることができる。
【0257】
一部の安定剤は、局所炎症を引き起こすか、急性毒性を示すため、肺送達に適合性がない。いくつかの実施形態では、有効成分の溶液の分解をさらに抑制するため、使用直前に特殊な開封器具で開封し、ガラスの破片をろ過して除去し、注入器または噴霧塗布具に移さなければならない暗色ガラス製バイアルに抗体またはフラグメント製剤を密封する。
【0258】
他の実施形態では、二相性の自動注入装置形式などで有効成分の粉末と注射用液とを混合する(ガラス製バイアル、シリンジまたはブリスター包装(Pozen MT300など)内で粉末部分と液体とを混合する)ことにより、使用直前に有効成分の溶液を調製することができる。ジェット噴霧または超音波噴霧による肺送達のための溶液を作製するのにこのような即時製剤法を試みることが可能である。しかし、水溶液から吸入エアゾール剤を作製するのに用いられる既知の噴霧化工程ではいずれも、有効成分が効力および活性に即時の様々な変化を引き起こすのに十分な熱および酸素濃度に曝される。安定な製剤を入手またはエアゾール化する際にはこのような困難が内在するため、有効成分は肺吸入による投与に適するものとはならなかった。また別のエアゾール送達方法では加圧噴霧式定量吸入器(pMDI)を使用し、この方法では、ハロカーボン噴射剤により抗体またはフラグメントの溶液または懸濁液に小さい開口部を通過させて、噴射剤滴内に抗体またはフラグメントからなる微細で吸入可能なミストを生じさせる。安定なpMDI製剤を作製するには、抗体またはフラグメントが、噴射剤およびpMDIバルブ装置内で安定であり、かつこれらと物理化学的に適合性のある溶液または微粒子懸濁液を形成することができなければならない。経鼻または注射液剤について上に記載した溶液安定性および肺毒性の問題は、pMDI製剤にも同様に当てはまり、これに噴射剤の適合の必要性が加わることにより、肺に適合することが受け入れられている水またはアルコールなどの試薬の使用が不可能になる。懸濁剤では、約5.8ミクロン(肺深部まで浸透するのに必要な空気力学的質量中位径)未満の微粒子が必要とされ、その粒子は懸濁液中で安定なものでなければならない。このような粒子は、噴射剤に分散させ得る粉末を得るための破砕、微粒化、粉砕などの摩滅工程または噴霧乾燥、溶液沈殿もしくは凍結乾燥などの多相沈殿工程により、原末の抗体またはフラグメントから作製される。これらの工程は多くの場合、熱相互作用または化学相互作用により抗体またはフラグメントの物理化学的特性を直接変化させる。有効成分の中には不安定なものもあることから、これらの工程は噴射剤に再分散させ得る粉末を作製するのに適していないことが明らかにされており、また粉末が最初から分散性である場合、粒子の大きさが経時的に増大するか、製剤に曝されたときに化学組成が経時的に変化する。この不安定性は、効力、活性の変化を引き起こしたか、あるいは粒子径を3.0ミクロン超に増大させ、pMDI懸濁液剤法を有効成分のエアゾールの送達に適さないものにする。吸入可能なエアゾール剤を作製するほかの方法として、乾燥粉末剤吸入器を用いるものがあり、この方法では、抗体またはフラグメントの粉末製剤を使用者の呼吸により分散させて肺に吸入する。pMDI懸濁液剤法について上に記載した難点が、安定な乾燥粉末製剤の作製にも同じく当てはまる。当該技術分野には、有効成分の吸入に適した製剤がないことは明らかである。本開示には、肺エアゾールまたは経鼻噴霧吸入により乾燥粉末剤および噴射懸濁剤を投与するための有効成分またはその薬学的に許容される塩の新規で安定な製剤が記載される。このような製剤は、特に限定されないが片頭痛を含めた様々な病的状態および病態の治療に使用され得る。さらに、有効成分またはその薬学的に許容される塩の新規な製剤の作製方法も記載される。
【0259】
吸入により投与される活性成分が局所作用あるいは全身作用を示すためには、それが肺深部まで浸透しなければならない。これを達成するために、活性な抗体またはフラグメントの粒子は、直径が約0.5~5.8μmの空気力学的粒子径中央値(MMAD)を超えてはならない。結晶化の段階でこの最適な大きさの範囲の粒子が得られることはまれであり、0.5~5.8μmの範囲内に収まる粒子を作製するには第二の工程が必要となる。このような第二の工程としては、特に限定されないが、ジェット粉砕、微粒子化および機械的破砕による摩滅、溶液沈殿、噴霧乾燥、凍結乾燥などの多相沈殿が挙げられる。このような第二の工程は、活性な抗体もしくはフラグメントの効力および活性を直接低下させ得る大きな熱勾配および機械的勾配を用いるか、のちの処理または保管時に粒子の大きさ、形状または化学を変化させる形態的不完全性または化学的不安定性をもたらすものである。これらの第二の工程ではほかにも、粒子に相当量の自由エネルギーが付与され、一般に粒子の表面に保存される。粒子によって保存されたこの自由エネルギーから粒子を凝集させる付着力が生じ、この保存された自由エネルギーが減少する。
【0260】
凝集過程は極めて広範囲にわたり得るため、吸入可能な活性な抗体またはフラグメント粒子はもはや粒子製剤の形で存在しないか、付着相互作用が極めて強いため、もはや粒子製剤から作製することはできない。この過程は、吸入送達の場合、粒子が吸入装置による送達に適した形態で保管されなければならないことから悪化する。粒子は比較的長期間保管されるため、保管期間中に凝集過程が増大し得る。粒子の凝集が吸入器装置による粒子の再分散に干渉するため、肺送達および経鼻送達に必要とされる吸入可能な粒子を作製することができない。さらに、担体および/または補形剤の使用など、凝集作用を克服するのに用いられる薬学上慣例的な方法のほとんどは、これらの物質の肺毒性というプロファイルが望ましいものではないため、吸入用の医薬形態に用いることはできない。
【0261】
本開示には、経肺エアゾール吸入または経鼻噴霧吸入により乾燥粉末剤および噴射懸濁剤液を投与するための有効成分またはその薬学的に許容される塩の新規で安定な製剤(本明細書ではDHEと呼ぶ)が記載される。一実施形態では、DHEをメシル酸塩として使用する。DHE粉末は超臨界流体工程を用いて作製される。超臨界流体工程には、吸入送達用のDHE粒子を製造するうえで大きな利点がある。重要なのは、超臨界流体工程により、所望の大きさの吸入可能な粒子が単一の段階で製造され、粒子径を小さくする第二の工程が不要になるということである。したがって、超臨界流体工程を用いて製造される吸入可能な粒子は表面自由エネルギーが小さくなるため、付着力が低下し、凝集が軽減される。製造された粒子はほかにも、均一なサイズ分布を示す。さらに、製造された粒子は表面が滑らかであるほか、同じく凝集が軽減される傾向のある再現可能な結晶構造を有する。このような超臨界流体工程としては、急速膨張法(RES)、溶液強化拡散法(SEDS)、ガス-貧溶媒法(GAS)、超臨界貧溶媒法(SAS)、ガス飽和溶液からの沈殿(PGSS)、圧縮貧溶媒を用いる沈殿(PCA)、エアゾール溶媒抽出法(ASES)または上記工程の任意の組合せを挙げ得る。超臨界流体工程それぞれの基礎となる技術は当該技術分野で周知であり、本開示では繰り返さないことにする。ある特定の実施形態では、用いる超臨界流体工程は、Palakodatyらにより米国特許出願第20030109421号に記載されているSEDS法である。超臨界流体工程では、予め乾燥粉末吸入器(DPI)形式に計り取ることにより直接使用することが可能な乾燥粒子が製造されるか、あるいは、定量吸入器(MDI)形式であれば、粒子を薬学的に許容される噴射剤などの懸濁媒質に直接懸濁/分散させ得る。製造された粒子は、用いる超臨界流体工程および用いる条件に応じて、結晶質になり得るか、非晶質になり得る(例えば、SEDS法では非晶質粒子の製造が可能である)。上に述べたように、製造された粒子は、従来の方法によって製造された粒子よりも優れた特性を有し、そのような特性としては、特に限定されないが、滑らかで均一な表面、低いエネルギー、分布均一な粒子サイズ分布および高い純度が挙げられる。これらの特徴は、DPI形式またはMDI形式のいずれかで使用する場合に、粒子の物理化学的安定性を増大させ、粒子の分散を促進する。粒子径は、エアゾール粒子を投与したときにDHE粒子が肺の中に吸入される程度であるべきである。一実施形態では、粒子サイズ分布は20ミクロン未満である。別の実施形態では、粒子サイズ分布の範囲は、カスケードインパクタによる測定で約0.050ミクロン~10.000ミクロンのMMADであり;また別の実施形態では、粒子サイズ分布の範囲は、カスケードインパクタによる測定で好ましくは約0.400~3.000ミクロンのMMADである。上に述べた超臨界流体工程では、これらの範囲の下限に収まる粒子径が得られる。DPI形式では、当該技術分野で公知のように、DHE粒子を静電気的に、低温測定により、または従来の方法で計り取って剤形にする。DHE粒子は、単独で(未希釈で)または1つもしくは複数の薬学的に許容される補形剤、例えば、特に限定されないがラクトース、マンノース、マルトースなどを含めた担体または分散粉末など、または界面活性剤などとともに使用し得る。ある好ましい製剤では、DHE粒子を補形剤を加えずに使用する。当該技術分野でよく用いられている便利な剤形の1つにホイル製ブリスターパックがある。この実施形態では、DPIに使用するホイル製ブリスターパックに補形剤を加えずにDHE粒子を計り取る。計り取る典型的な用量の範囲は、約0.050ミリグラム~2.000ミリグラムまたは約0.250ミリグラム~0.500ミリグラムであり得る。当該技術分野で公知のように、ブリスターパックが張り裂けて開封され、静電気的、空気力学的もしくは機械的な力またはその任意の組合せによって吸気中に分散し得る。一実施形態では、予め計り取った用量の25%超が吸入時に肺に送達され;別の実施形態では、予め計り取った用量の50%超が吸入時に肺に送達され;また別の実施形態では、予め計り取った用量の80%超が吸入時に肺に送達される。DPI形式の送達により得られる吸入可能なDHE粒子の割合(米国薬局方の第601章に従って求められる)は25%~90%の範囲にあり、ブリスターパック内に残る粒子は、予め計り取った用量の5%または予め計り取った用量~55%の範囲にある。MDI形式では、粒子を薬学的に許容される噴射剤などの懸濁媒質に直接懸濁/分散させることができる。ある特定の実施形態では、懸濁媒質は噴射剤である。噴射剤は、DHE粒子の溶媒としての役割を果たさないのが望ましい。適切な噴射剤としては、C~4ヒドロフルオロアルカン、例えば、特に限定されないが、単独の、または任意に組み合わせた1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFA134a)および1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロ-n-プロパン(HFA227)などが挙げられる。このほか、二酸化炭素ならびにペンタン、イソペンタン、ブタン、イソブタン、プロパンおよびエタンなどのアルカンを噴射剤として使用するか、上記のCヒドロフルオロアルカン噴射剤と混合することができる。混合する場合、噴射剤は0~25%のこのような二酸化炭素と、0~50%のアルカンとを含有し得る。一実施形態では、界面活性剤を用いずにDHE粒子分散液を得る。別の実施形態では、DHE粒子分散液は、必要に応じて界面活性剤を含有してもよく、界面活性剤はDHEに対する質量比0.001~10で存在する。典型的な界面活性剤としては、オレイン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、アルキルエーテル、アルキルアリールエーテル、ソルビン酸および抗体もしくはフラグメントを吸入による送達用に製剤化するのに当業者が使用するその他の界面活性剤または上記界面活性剤の任意の組合せが挙げられる。具体的な界面活性剤としては、特に限定されないが、ソルビタンモノオレアート(SPAN-80)およびミリスチン酸イソプロピルが挙げられる。DHE粒子分散液はほかにも、界面活性剤を用いる場合にそれを可溶化させる極性溶媒を少量含有し得る。適切な極性溶媒としては、C2~6アルコールおよびポリオール、例えばエタノール、イソプロパノール、ポリプロピレングリコールなどおよび上記極性溶媒の任意の組合せが挙げられる。極性抗体またはフラグメントは、噴射剤に対する質量比が0.0001%~4%の範囲になるよう添加し得る。極性溶媒の量が4%を超えると、DHEと反応するか、DHEを可溶化し得る。ある特定の実施形態では、極性抗体またはフラグメントは、噴射剤に対する質量比が0.0001~1%になるよう使用されるエタノールである。薬学的に許容される噴射剤および界面活性剤と平衡状態にある以外には、抗体またはフラグメントを含有する水もヒドロキシルも追加でDHE粒子製剤に加えることは一切ない。噴射剤および界面活性剤(使用する場合)は、抗体またはフラグメントを含有する水およびヒドロキシルが平衡状態点にあるように、使用前に抗体またはフラグメントを含有するヒドロキシルの水に曝露され得る。噴射剤/界面活性剤組成物に適するものである限り、標準的な定量バルブ(Neotechnics社製、Valois社製またはBespak社製など)およびキャニスタ(PressPart社製またはGemi社製など)を用いることができる。充填容積が2.0ミリリットル~17ミリリットルのキャニスタを用いれば、1~数百回分の用量を投与し得る。任意選択で、ロックアウト機構を有する用量カウンタを取り付けて、充填用量に関係なく特定の用量に制限することができる。噴射剤懸濁液中のDHEの総質量は通常、噴射剤100マイクロリットル当たりDHE0.100ミリグラム~2.000ミリグラムの範囲になる。50~100マイクロリットルの範囲の用量の標準的なMDI定量バルブを用いれば、用量が作動1回当たり0.050マイクログラム~1.000マイクログラムの範囲で定量される。吸入の協調を最大限にするため、好ましくは呼吸で作動させる作動装置を用いることができるが、治療効果を得るのに不可欠であるというわけではない。このようなMDIの吸入可能な割合は、定量された用量の25%~75%の範囲内に収まるものと思われる(米国薬局方の第601章に従って求められる)。
【0262】
本明細書に記載されるように、ウイルス、特にインフルエンザウイルスの治療または予防に有効かつ有用な鼻腔内投与用の中和抗体の単位用量は、別の投与に示される、または必要とされる単位用量、例えばIPまたはIV投与に必要とされる単位用量などと比較して少なくなる。したがって、その一態様では、投与、特に鼻腔内投与のための抗体組成物であって、単位用量が、別の投与に示される、または必要とされる単位用量、例えばIPまたはIV投与に必要とされる単位用量などよりも桁単位、具体的には数桁単位で少ない抗体組成物が提供される。したがって、その一態様では、投与、特に鼻腔内投与のための抗体組成物であって、単位用量が、少なくとも10分の1、10分の1、20分の1、25分の1、50分の1、少なくとも100分の1、100分の1、500分の1、最大1000分の1である抗体組成物が提供される。したがって、特に、特に同じまたは同程度の効果あるいは作用および/または活性を得るのに、IPまたはIV投与のための同じ単位用量に比して組成物が少なくなる。効果を改善するため、IN単位用量とIPまたはIV用量とを組み合わせてもよい。
【0263】
組成物は、投与製剤に適合する方法で、かつ治療有効量で投与する。投与するべき量は、治療する対象、対象の免疫系が有効成分を利用する能力および所望のウイルスを抑制または中和する程度によって決まる。投与する必要のある有効成分の正確な量は、医師の判断によって決められ、各個人に特有のものである。しかし、適切な投与では、鼻腔内投与1回につき個人の体重1キログラム当たりの有効成分が約0.001~10ミリグラム、好ましくは約0.005~約1ミリグラム、1未満、0.5未満、0.1未満、0.05未満、0.01未満、より好ましくは1ミリグラム未満、0.5ミリグラム未満、0.1ミリグラム未満の範囲内に収まり得る。初回投与および後続投与に適したレジメンも様々である。あるレジメンでは、初回投与の後、1時間ないし数時間の間隔を空けて、のちの注射をはじめとする投与により、後続用量(単一または複数の後続用量)を反復して投与する。
【0264】
初回IN投与の後、これより高用量の抗体をIPまたはIVをはじめとする適切な経路により投与し得る。本開示の一態様では、新規な投与方法またはパラメータが提供され、ここでは、患者または対象の鼻腔内に中和抗体を投与し、これと同時に、これに次いで、またはこの後に、IPまたはIV投与により中和抗体または非中和抗体を投与する。
【0265】
ほかの組合せ
本発明の実施形態の一態様では、特に抗体またはフラグメントが中和作用を示す、ウイルス結合抗体またはその結合フラグメントと、薬剤または薬物とを組み合わせて、本明細書に開示される実施形態に使用する、吸入または鼻腔内投与を含めた経呼吸気道または経気道投与用の抗体-薬物または抗体-薬剤コンジュゲートを形成し得る。抗体またはフラグメントと組み合わせる、またはコンジュゲートする薬物または薬剤は、ウイルスを中和する薬物または薬剤であり得る。
【0266】
あるいは、抗体または組合せを、特に経口抗インフルエンザ薬を含めた、抗ウイルス剤、抗ウイルス治療薬、抗インフルエンザ薬または抗インフルエンザ剤とともに投与し得る。抗インフルエンザ剤はノイラミニダーゼ阻害剤であり得る。抗インフルエンザ剤はTamifluおよびRelenzaから選択され得る。抗インフルエンザ剤は、アマンタジンまたはリマンタジンなどのM2阻害剤であり得る。組み合わせるまた別の薬剤は、抗ウイルス治療薬、ウイルス複製阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤、赤血球凝集素阻害剤、気管支拡張薬(例えば、アルブテロール、レバルブテロール、サルメテロール)または吸入副腎皮質ステロイド剤から選択され得る。抗ウイルス剤はウイルス結合剤またはウイルス結合阻害剤であり得る。その一態様では、ウイルス結合阻害剤は、結合により、かつより従来的な中和手段によらずにインフルエンザウイルスと結合し、インフルエンザを阻害することが可能な抗体であり得る。TRL809およびTRL832は、特に経気道投与によりカクテルと組み合わせて効果または相乗効果を増大させるのに適するまたは有効な例示的結合抗体となり得る。特に本明細書に開示される抗体カクテルと組み合わせて、経気道投与により効果が得られるその他の薬剤としては、サーファクタントまたは気道内層モジュレーター、例えばサーファクタントナノエマルションおよびカチオン性気道内層モジュレーターなどを挙げ得る。このほか、気道炎症を調節または軽減する薬剤を本発明の抗体カクテルと組み合わせると有効または有用であり得る。
【0267】
いくつかの実施形態では、治療用組成物、特に経肺組成物は、有効量の中和抗体またはそのフラグメントと、以下の有効成分:抗生物質、抗ウイルス剤、ステロイド剤、抗炎症剤のうちの1つまたは複数とをさらに含み得る。特定の態様では、組成物は抗ウイルス治療薬を含み得る。組成物は抗インフルエンザ剤を含み得る。いくつかの実施形態では、本発明のmAb療法と、他の抗ウイルス治療、例えば、ノイラミニダーゼ阻害剤(例えば、オセルタミビル[Tamiflu(商標)]、ザナミビル[Relenza(商標)])、RNAポリメラーゼ阻害剤(例えば、ファビピラビル、VX-787)、免疫調節薬(例えば、吸入インターフェロンベータ1a)、宿主細胞標的化剤(例えば、Fludase(商標)、Radavirsen(商標))、イオンチャネル阻害剤(例えば、アマンチジン)をはじめとする抗ウイルス薬のような抗ウイルス治療薬などとを組み合わせることによって効果を改善する方法および組成物が提供される。
【0268】
このような抗インフルエンザ剤はいずれも、本明細書に提供される組成物の一部として混合する、または組み合わせるか、抗体またはその活性なフラグメントとともに、またはこれとは別個に投与してもよい。抗インフルエンザ剤は、本発明の抗体もしくはそのフラグメントまたは吸入もしくは鼻腔内組成物と同じ手段または別の手段(吸入または経口(例えば、丸剤)手段による投与)で投与し得る。したがって、本開示の抗体の組合せ(1つまたは複数)および本発明の吸入または鼻腔内組成物は、抗インフルエンザ剤または抗ウイルス剤、例えば、TamifluおよびRelenzaから選択される薬剤を含めたノイラミニダーゼ阻害剤などをさらに含み得るか、これと併用して、またはこれの後もしくは前に逐次的に投与され得る。
【0269】
本明細書で使用される「pg」はピコグラム、「ng」はナノグラム、「ug」もしくは「μg」はマイクログラム、「mg」はミリグラム、「ul」もしくは「μl」はマイクロリットル、「ml」はミリリットル、「l」はリットルをそれぞれ意味する。
【0270】
組成物は、当該技術分野ならびに医療分野および臨床現場で知られており、受け入れられている方法を用いて、鼻噴霧剤または吸入液剤もしくは懸濁剤に製剤化され得る。FDAは、fda.govで入手可能なGuidance for Industryの文書を含め、このような噴霧剤、液剤および懸濁剤ならびに噴霧医薬品に関するガイドラインおよび指針を提供している。Nasal Spray and Inhalation Solution,Suspension and Spray Drug Products-Chemistry,Manufacturing and Controls Documentationと題する例示的なJuly 2002 Guidance for Industryの文書には、製剤の成分および組成物、その仕様、製造および密閉容器システムに関する詳細が記載されている。
【0271】
鼻噴霧剤とは、通常は水ベースをベースとし、ほかにも添加剤を含有し得る、経鼻吸入による使用を目的とした製剤中に溶解または懸濁した有効成分を含有する、医薬品のことである。鼻噴霧剤用の容器密閉システムには、定量、噴霧化および患者への製剤送達を引き起こすための容器および全成分が含まれている。経鼻噴霧医薬品は、治療有効成分(原薬)を添加剤(例えば、保存剤、粘度調整剤、乳化剤、緩衝剤)の溶液または混合物に溶解または懸濁させて、定量された用量の有効成分を含有する噴霧剤を送達する非加圧ディスペンサに入れたものである。用量は、スプレーポンプによって計量され得るか、製造時に予め計り取られたものであり得る。経鼻スプレーユニットは、単位投与用に設計されているか、原薬を含有する製剤のスプレーを定量して何度も放出できるものであり得る。鼻噴霧剤は、局所効果および/または全身効果を得るために鼻腔に適用される。
【0272】
吸入溶液および吸入懸濁液医薬品は通常、治療有効成分を含有し、ほかにも追加の添加剤を含有し得る、水ベースの製剤である。水ベースの経口吸入液剤および懸濁剤は無菌でなければならない(21 CFR 200.51)。吸入液剤および懸濁剤は、局所および/または全身効果を得るために経口吸入により肺に送達することを目的とし、特殊な噴霧器を使用しなければならないものである。吸入噴霧医薬品は、製剤と容器密閉システムとからなる。製剤は通常、水をベースとし、噴射剤は一切含有しない。
【0273】
現在用いられている吸入噴霧医薬品用に設計された容器密閉システムには、機械的補助もしくは電動補助および/または患者の吸入エネルギーを用いて噴霧煙を発生させる、予め計量されたものおよび装置で計量されるものの両方が含まれる。予め計量されたものは、のちに製造時または患者が使用する前に装置に挿入するある種のユニット(例えば、1つまたは複数のブリスターをはじめとするくぼみ)に予め計量された用量または1回量を含んでいる。典型的な装置計量ユニットは、患者が作動させると装置そのものから定量噴霧剤として送達される複数回用量に十分な製剤の入ったリザーバーを有する。
【0274】
ほかにも、生体接着性ポリマー、マイクロスフェア、キトサンを使用することにより、あるいは製剤の粘度を増大させることにより、鼻腔内での滞留時間を延長させ得る。このほか、薬物、補形剤、保存剤および/または吸収促進剤により鼻粘液線毛クリアランスを刺激または抑制し、ひいては吸収部位への薬物送達に影響を及ぼすことができる。
【0275】
マイクロスフェア技術は、経鼻製品の設計に用いられている特殊なシステムの1つである。マイクロスフェアは鼻粘膜との接触時間を延ばし、ひいては吸収または効果が促進し得る。鼻に適用されるマイクロスフェアはこれまでに、デンプン、アルブミン、デキストランおよびゼラチンなどの生体適合材料を用いて調製されている(Bjork E,Edman P(1990)Int J Pharm 62:187-192)。
【0276】
薬物の水溶解度は、溶液の経鼻薬物送達を制限する重要なパラメータとなり得る。従来の溶媒または共溶媒、例えばグリコール、少量のアルコール、Transcutol(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)、中鎖グリセリドおよびLabrasol(飽和ポリグリコール化C~C10グリセリド)を用いて薬物の溶解度を増大させることができる。その他の選択肢としては、生体適合性の可溶化剤および安定剤としての役割を果たす界面活性剤またはHP-ベータ-シクロデキストリンなどのシクロデキストリンと、脂溶性吸収促進剤との併用が挙げられる。このような場合、これらが鼻刺激性に及ぼす影響を考慮に入れるべきである。
【0277】
ほとんどの経鼻製剤は水をベースとするものであり、微生物の増殖を抑えるために保存剤を必要とする。経鼻製剤によく用いられる保存剤の一部として、パラベン、塩化ベンザルコニウム、フェニルエチルアルコール、EDTAおよびベンゾイルアルコールがある。水銀含有保存剤は線毛運動に対して迅速で不可逆的な効果を示すものであるが、経鼻システムでの使用は推奨されない。
【0278】
薬物の酸化を防ぐため、少量の抗酸化剤が必要とされ得る。よく用いられる抗酸化剤には、二亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ブチル化ヒドロキシトルエンおよびトコフェロールがある。抗酸化剤は通常、薬物吸収に影響を及ぼすことも、鼻刺激を引き起こすこともないものである。抗酸化剤および保存剤と、薬物、添加剤、製造設備および包装成分との化学的/物理学的相互作用を製剤開発プログラムの一環として考慮するべきである。
【0279】
多くのアレルギー性疾患および慢性疾患は、粘膜の痂皮化および乾燥と関係がある場合が多い。ほかにも、添加剤の中でも特定の保存剤/抗酸化剤は、特に大量に使用したとき、鼻刺激を引き起こす可能性がある。脱水を防ぐには鼻腔内の水分が十分であることが不可欠である。このため、特にゲルベースの経鼻製品では保湿剤を添加し得る。保湿剤は鼻刺激を予防し、薬物吸収に影響を及ぼす可能性もない。一般的な例としては、グリセリン、ソルビトールおよびマンニトールが挙げられる。
【0280】
送達システムの選択は、使用する薬物、意図する適応症、患者集団のほか、重要なものとしてマーケティング嗜好性によって決まる。このような送達システムの一部としては、点鼻剤、鼻噴霧剤、経鼻ゲル剤および経鼻粉末剤が挙げられる。
【0281】
いくつかの実施形態では、鼻腔内および吸入送達用の噴霧器により投与する組成物が提供される。噴霧器とは、薬剤を呼吸気道内に吸入されるミストの形態で投与するのに使用される薬物送達装置のことである。噴霧器は、mAbを口腔および鼻を通過させて鼻腔内および吸入送達するのに使用することができ、mAbを上気道および/または下気道を送達するのに有効な装置である。噴霧器は、酸素、圧縮空気または超音波の力を利用して医薬溶液および懸濁液を分散させ、装置のマウスピースから直接吸入することが可能な微小なエアゾール滴にするものである。エアゾールとは気体粒子と液体粒子の混合物のことであり、天然に存在するエアゾールの最も良い例が霧であり、これは、気化した水の微小な粒子が周囲の温度の高い空気と混ざり、これが冷却および濃縮されて、空中に浮遊した目に見える水滴が薄い雲のようになって形成されるものである。定量吸入器(MDI)とは、通常は患者が吸入することにより、エアゾール化した薬物が短時間噴出して自己投与される形で特定量の薬剤を肺に送達する装置のことである。乾燥粉末吸入器には微粒子化した粉末が含まれており、この粉末は多くの場合、使用者自身の呼吸により肺に吸い込まれる粉末化した薬剤を入れるブリスターまたはゲルカプセルに1回投与量で充填されている。超音波振動メッシュ技術(VMT)が生み出されたことにより、噴霧器市場に新たに大きな技術革新がもたらされた。この技術は、レーザーで1000~7000個の孔を開けたメッシュ/膜を液体リザーバーの上部で振動させ、その圧力で孔から極めて微小な液滴のミストを噴出させるものである。この技術は、液体リザーバーの底部に振動圧電素子を設けるよりも効率が高く、それにより治療時間も短縮される。利用可能なVMT噴霧器としては、Pari eFlow Respironics i-Neb、Omron MicroAir、Beurer Nebulizer IH50およびAerogen Aeronebが挙げられる。
【0282】
別の実施形態では、組成物を再構成用の凍結乾燥粉末または粘膜噴霧装置(MAD)により鼻腔内に投与する保存もしくは非保存無菌液体組成物として調製する。ルアーロックを介して粘膜噴霧装置(MAD)を抗ウイルス組成物を含むシリンジに取り付ける。シリンジのプランジャーを勢いよく押して、1用量当たり約0.01mL、0.05mL、0.1mL、0.2mL、0.3mL、0.4mL、0.5mL、0.6mL、0.7mL、0.8mL、0.9mLまたは1mLのミストを鼻腔内に迅速に生じさせる。いくつかの場合には、片方の鼻孔に全量を投与するか、あるいは1用量につき1回または複数回の噴霧で、全量を両方の鼻孔に分けてもよい。
【0283】
経鼻製剤のpHは、抗体を安定させるほか、鼻粘膜の刺激を防ぎ、抗体が吸収に最適な形態で利用できるようにし、鼻道に病原菌が増殖するのを防ぎ、保存剤などの添加剤の機能性を維持し、正常な生理的線毛運動を維持するうえで重要である。いくつかの実施形態では、抗体カクテル、薬物または有効成分の物理化学的特性を考慮に入れたうえで、組成物を4.5~8.2、5.2~7.9または4.5~6.5の範囲内のpHで調製する。経鼻製剤は一般に、25~200μLの範囲の少ない体積で投与し、100μLが最もよく用いられる投与体積である。
【0284】
投与
再び述べれば、通常に妥当な範囲で予想される抗体の治療用量は、mg範囲のIVまたはIP用量になるよう十分に確立されている。この用量は、多数の組換え抗体を用いたこれまでの研究および臨床経験に基づくものである。米国ではこれまでに、20を超えるモノクローナル抗体が臨床的に承認されている(例えば、Newsome BWおよびErnstoff MS(2008)Br J Clin Pharmacol 66(1):6-19を参照されたい)。臨床的に承認され現在用いられている抗体はいずれも、mg/kgの範囲でIPまたはIVで利用および投与されている。
【0285】
これまでに臨床的に承認されたインフルエンザモノクローナル抗体はない。現時点で進行中または報告済みの試験はいずれも、標準法の静脈内送達を用いるものである。特に、TheraClone Sciences社の抗体TCN-032は、1~40mg/kgの範囲の単回用量漸増で評価された(NCT01390025、clinical trails.gov)。TCN-032抗体は、インフルエンザ基質タンパク質(M2)のアミノ末端細胞外ドメイン(M2e)の保存されたエピトープと結合するヒト抗体である(Grandea AGら(2010)PNAS USA 107(28):12658-12663;Epub 2010 Jul 1)。抗体CR6261およびCR8020も同様に、用量を2mg/kgから50mg/kgまで2時間かけて漸増させてIV投与する安全性および耐容性に関する試験で現在評価されている(それぞれ、Crucell Holland BV臨床試験NCT01406418およびNCT01756950)。
【0286】
インフルエンザワクチンは注射により投与する。インフルエンザワクチンの1つの例外として、鼻腔内に投与するFluMist生インフルエンザワクチン(MedImmune社)がある。FluMistは、A/H1N1株、A/H3N2株およびB株の3種類の生インフルエンザ株を組み合わせたものであり、単回用量の予め充填した鼻腔内噴霧器で供給される懸濁液を用いて、0.2mlの用量で投与する。ウイルス株に加えて、各用量にはグルタミン酸ナトリウム、加水分解ブタゼラチン、アルギニン、スクロース、リン酸二カリウムおよびリン酸二水素カリウムも含まれており、保存剤は含まれていない(FluMist Highlights of Prescribing Information,2012-2013 Formula,MedImmune,RAL-FLUV12,Component No.:11294)。
【0287】
本開示は、特に呼吸経路を介して感染または伝染するウイルス、特にインフルエンザウイルスを含めたウイルスの治療および予防のための新規で効果のある抗体の組合せの投与様式および抗体投与プロトコルを提供する。したがって、本開示は、任意の重要なまたは流行中のインフルエンザウイルスを中和することが可能な抗体の組合せの経肺投与によるウイルス感染症、特にインフルエンザウイルスの治療、予防または軽減を提供する。抗体の組合せは、単回IN用量により投与してもよく、あるいは、複数の個々の用量で同時にまたは実質的に同時に投与してもよい。次いで、追加の組合せまたは個々の用量を、それぞれ数分、数時間または数日空けて投与し得る。
【0288】
特定の態様では、本開示は、流行中のインフルエンザ株に対する抗体の組合せの経肺投与によるウイルス感染症、特にインフルエンザウイルスの治療、予防または軽減を提供する。したがって、本開示によれば、インフルエンザBおよび流行中のインフルエンザAウイルスに対する抗体の組合せ、特にその一態様では、抗インフルエンザB抗体、抗H1抗体などの抗第1群インフルエンザA抗体および抗H3抗体などの抗第2群インフルエンザA抗体の組合せの経肺投与によるウイルス感染症、特にインフルエンザウイルスの治療、予防または軽減が提供および達成される。本開示によれば、抗インフルエンザB抗体、抗H1抗体などの抗第1群インフルエンザA抗体および抗H3抗体などの抗第2群インフルエンザA抗体の組合せの鼻腔内投与が、インフルエンザBまたはインフルエンザAウイルスによるインフルエンザ感染の予防に効果がある。抗体が入手可能なものであり、かつ2つ以上のウイルス亜型または株に対して効果を示し、これらに対するものであることが本明細書で試験され示される限り、本明細書に提供および企図される組合せは、ウイルス、特に既知で流行中の株または亜型、出現しつつある株または亜型および未知で予想外の変異型の株または亜型を含めたインフルエンザウイルスの多数の株および/または亜型に効果を示す汎用カクテルまたは組合せとしての役割を果たす。
【0289】
本明細書に開示される実施形態で使用する抗体を鼻腔内に、または吸入により投与し、これに次いで、またはこれとともに、同時投与、併用投与または逐次もしくは個別投与を含め、別の抗体または同じ抗体の全身投与、特にIPまたはIV投与を実施し得る。したがって、本明細書では、病原体、特にウイルス、具体的にはインフルエンザウイルスに対する効果を増大させるために鼻腔内投与とIP(またはIV)投与とを組み合わせる、組合せの投与プロトコルまたは投与方法が企図および提供される。実際、本明細書に記載される試験は、鼻腔内投与と別の投与(IPまたはIV)とを組み合わせた投与を用いると、1例を用いることができるように、組み合わさった効果がINおよびIPともに相乗的かつ低用量になることを示している。
【0290】
経気道投与は、低用量で効果があり、低用量、低コストであり、したがって、診断検査による確定を必要としない治療を実施する唯一の機会を提供する。医師がこの低用量のカクテルを、例えば乾燥粉末吸入器もしくは噴霧器として、またはその他の気道送達法により投与するには、インフルエンザの季節に症状を認めれば十分である。この診断を必要としない標準治療は現在、TamifluおよびRelenzaで実施されているが、費用のかかる静脈内抗体療法には不可能であり、実際的ではなく、コスト的に不可能であると思われる。診断を実施した後、高用量の抗体の投与を静脈内経路などの全身経路または経気道のいずれかで実施し得るほか、カクテルまたはインフルエンザの型に特異的な単独の特異的抗体として構成し得る。
【0291】
本開示は、呼吸器ウイルスに曝露した、同ウイルスに曝露するリスクのある、同ウイルスに罹患した、同ウイルスによる臨床症状を呈している、または同ウイルスに罹患している哺乳動物のウイルス感染症を治療または予防する方法であって、本明細書に提供される抗体の組合せまたはカクテルを鼻腔内(IN)にまたは吸入により前記哺乳動物に投与することを含む、方法を提供する。抗体のカクテルまたは組合せは、特に、すべてがIgG抗体であり得る。
【0292】
感染後または推定感染後に抗体の組合せを投与することができる。その一態様では、感染から8時間後(hpi)までの間に、2hpi、4hpi、6hpi、8hpiを含め、抗体の組合せを投与することができる。別法では、感染から24時間後までの間に、4hpi、8hpi、12hpi、18hpi、24hpiを含め、抗体の組合せを投与する。さらなる別法では、感染から48時間後までの間に、12hpi、24hpi、36hpi、48hpiを含め、抗体を投与する。またさらなる別法では、感染から72時間後までの間に、24hpi、36hpi、48hpi、60hpi、72hpiを含め、抗体を投与する。感染もしくは推定感染から数日後または発熱、鈍痛、関節痛、嗜眠などの臨床症状が認められた後に抗体を投与してもよい。感染から1日後、感染から2日後、感染から3日後、感染から4日後、感染から5日後、感染から6日後、感染から7日後、感染から10日後、感染から12日後、感染から14日後に抗体を投与してもよい。感染または推定感染から1週間後、2週間後、3週間後、4週間後、1か月後を含めた数週間後に抗体を投与してもよい。
【0293】
感染前に、または伝染を抑制もしくは予防するために、または病状、疾患もしくは感染の何らかの臨床徴候がみられる前に抗体の組合せを投与することができる。その一態様では、感染前または曝露もしくは曝露のリスクの可能性が考えられるか推定される前の数日間に、予防として抗体を投与することができる。1日前、2日前、3日前、4日前、5日前、6日前、7日前、1週間前、7日より前、1週間より前、最大9日前、最大10日前に抗体の組合せを投与し得る。抗体を前に1回または複数回、数時間、数日または数週間開けて、1つまたは複数の用量で投与してもよい。
【0294】
抗体の組合せは、単回用量を1回投与しても、複数の組合せ用量を反復して投与してもよい。任意の好ましい態様では、組合せまたはカクテルの各抗体を同じ相対量で投与する。各用量は単位またはmg/kgの量が同じであっても、量が異なっていてもよい。例えば、初回用量が相対的に高くてもよく、例えば、特に限定されないが、約1mg/kg、1mg/kg超、1mg/kg未満または投与する哺乳動物の最大耐量もしくは最大耐量付近または最大耐量の半分などであってよい。その後の用量は、初回用量と同じであっても、初回用量よりも少なくても多くてもよく、また、対象もしくは患者の反応もしくは応答または臨床症状の軽減もしくは程度に応じて決まり得る。
【0295】
各用量または任意の用量が同じである、または異なる複数の用量を数時間、数分、数日または数週間空けて投与し得る。そのタイミングは様々であってよく、応答および症状に応じて短くしても長くしてもよい。投与を例えば、特に限定されるわけではないが、少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも24時間、少なくとも48時間、少なくとも72時間空けて実施し得る。感染後または推定感染後およびその最大2時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間、36時間、48時間、72時間後、最大1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、1週間、2週間、3週間、4週間、1か月またはそれ以上後に抗体の1つまたは複数の用量を投与し得る。
【0296】
この方法は、ウイルス特異的モノクローナル抗体を追加でIPまたはIV投与することを含んでよく、ここでは、追加で投与する抗体は中和抗体または非中和抗体である。追加でIPまたはIV投与する抗体は、INまたは吸入により投与する抗体と同じ抗体であってもよい。追加でIPまたはIV投与する抗体は、INまたは吸入により投与する抗体と同時に投与しても、逐次的に投与しても、その後に投与してもよい。このような後続投与はいずれも、数時間後であってよく、2時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間、36時間、48時間、72時間後またはそれ以上後であり得る。後続投与は数日後であってもよく、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日後であり得る。後続投与は数週間後であってもよく、1週間、2週間、3週間、4週間または5週間後であり得る。
【0297】
特に、初回のIN投与、IP投与、IV投与または組み合わせた投与の後にも体調がすぐれないか、感染症または病状の症状が引き続き認められる患者または対象には、吸入または鼻腔内投与を用いて応答または効果を高めてもよい。
【0298】
さらなる態様では、本開示は、インフルエンザウイルスに対するモノクローナル抗体のカクテルまたは組合せを投与するためのプロトコルであって、鼻腔内にまたは吸入により1回目の抗体の組合せの投与を実施し、次いで、または同時に、腹腔内もしくは静脈内に、または再び鼻腔内にもしくは吸入により2回目の抗体投与を実施することを含み、2回目の投与の抗体の組合せが、1回目の投与の抗体の組合せと同じまたは異なる抗体の組合せである、プロトコルを提供する。2回目または任意の追加投与の抗体は、中和抗体であっても非中和抗体であってもよい。
【0299】
本明細書に開示される実施形態については、本発明の例示として記載される以下の非限定的な実施例を参照することによりさらに理解が進むものと思われる。以下の実施例は、好ましい実施形態または特定の実施形態をより十全に説明するために記載するものであるが、決してその広い範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0300】
抗体の構造
本発明のmAbの特定の重鎖および軽鎖アミノ酸配列を以下および添付の配列表に記載する。
【0301】
TRL784
実施例
【0302】
本明細書に記載する実施例には以下の原料および方法を用いる。
【0303】
抗体:いくつかの場合には、以下に記載するように、ファージディスプレイを用いてMabを単離した。MabCR8020およびCR6261は、それぞれ第2群ウイルスおよび第1群ウイルスに対するよく特徴付けられた広域反応性抗体である(Throsby Mら(2008)PL0S ONE 3:e3942;Eckert DCら(2009)Science 324:246-251;Friesen RHEら(2010)PLoS ONE 5(2):e1906;米国特許第8,192,927号;Eckert DCら(2011)Science 333:843-850)。抗体CR9114をIV投与すると、HA茎部にある保存されたエピトープと結合し、インフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスによる致死的な攻撃から防御する(Dreyfus Cら(2012)Science Exress 9 August 2012 10.1126/science.1222908)。本発明者ら自らが可変領域を合成することによりこれらの中和抗体をクローニングし、マウスIgG2a発現ベクターにサブクローニングした。CR8020の可変領域は、公開されている重鎖GI:339779688および軽鎖GI:339832448を用いてクローニングした。CR6261の可変領域は、公開されている重鎖GI:313742594および軽鎖GI:313742595を用いてクローニングした。CR9114の可変領域は、Genbankの配列重鎖アクセッション番号JX213639および軽鎖アクセッション番号JX213640を用いてクローニングした。これらの研究に用いたCR6261、CR8020およびCR9114抗体を、マウスIgG2aと融合したヒト可変領域を含むIgG発現ベクターにクローニングする。本明細書では、マウス抗体CR6261、CR8020およびCR9114のキメラ抗体をそれぞれCA6261、CA8020およびCA9114と呼ぶ。Mab5A7をIP投与すると、BウイルスHA上にある共通のエピトープと結合してウイルスを中和し、致死的な攻撃からマウスを防御する(Yasugi Mら(2013)PLoS Pathog 9(2):e1003150,doi:10.1371/journal.ppat.1003150)。
【0304】
ヒト抗体Mab53(TRL053とも表される)は米国特許出願公開第2012/0020971号および国際公開第2011/160083号(それぞれ参照により本明細書に組み込まれる)に記載されており、第1群および第2群のH1、H9、H7およびH5亜型の中和に効果がある。
【0305】
抗体Mab579(TRL579とも表される)は国際公開第2013/086052号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されており、H3およびH7の中和に効果がある。
【0306】
抗体重鎖および軽鎖可変領域の配列を含めた公開されている配列、特に上記の抗体および本明細書に例示する抗体の重鎖および軽鎖CDRドメイン(CDR1、CDR2およびCDR3)配列、特にCR6261、CR8020、CR9114、5A7、Mab53およびMab579を含めた配列は、上に記載され参照により本明細書に組み込まれる参考文献を含め、既知であって公に入手可能である。
【0307】
Fabの検証:Fabをコードするファージライセートを組換えHAに対するELISAによりスクリーニングした。単一コロニーをいくつか選択して、2XYT/Cam/Glc培地を含有する384ウェルプレートに移し、30℃で一晩増殖させた。Qpixを用いて、低グルコースの2XYT/Camを含有する384ウェル発現プレートに384ウェルプレートのTG1細胞を再現した。プレートを30℃、400rpmで2~4時間増殖させた。0.5mM IPTGでFab発現を誘導し、22℃、400rpmで一晩増殖させた。Benzonaseを含有するBEL緩衝液を用いて、Fab含有細胞を22℃、400rpmで1時間溶解させた。12.5%MPBSTを用いて、Fab含有ライセートを400rmp、22℃で30分間ブロックした。HAでコートしたELISAプレートにライセートを室温で1時間加えた。プレートをPBSTで5回洗浄した後、アルカリホスファターゼとコンジュゲートした抗Fab IgGと室温で1時間インキュベートした。プレートをTBSTで5回洗浄し、AutoPhos(Roche社、ニュージャージー)を用いて発光させた。Infinite Pro F200を用いてプレートを読み取った。陽性のファージライセートの配列を決定し、さらに特徴付けるため、c-mycおよびhisタグを含むFab発現構築物に固有のFabをサブクローニングした。
【0308】
Fab発現:Fab発現プラスミドをTG1F-細胞にエレクトロポレートし、LB/Cam寒天プレートに播いた。プレートを37℃で一晩インキュベートした。2XYT/Cam/Glc 5mlに単一コロニーを接種し、30℃、350rpmで一晩増殖させた。2XYT/Cam/low Glc 500mlに一晩培養物2mlを接種し、OD600nmが0.5に達するまで30℃、180rpmで振盪した。IPTGを最終濃度0.75mMで添加することによりFab発現を誘導した。培養物を30℃、160rpmで一晩振盪した。培養物を5,000g、4℃で30分間、遠心分離した。細菌ペレットを最低2時間、-80℃で凍結させた。細胞を溶解させ、0.22umフィルターでろ過し、IMAC精製およびサイズ排除段階に供した。
【0309】
抗体のクローニングおよび発現:Fabをコードするファージの配列を決定し、それぞれの重鎖および軽鎖のIgG発現プラスミドにサブクローニングした。振盪フラスコ内のInvitrogen 293F細胞またはInvitrogen 293Expi細胞でIgGが産生された。細胞を重鎖および軽鎖の発現プラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションから6日後、培養上清を回収し、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーおよび緩衝液交換段階を用いて精製した。
【0310】
マウスを用いた治療効果の試験:6~7週齢の雌BALB/cマウスを実験に用いた。いずれのマウスも、実験開始前に少なくとも3日間、順化させ飼育した。ウイルス攻撃当日およびその後連日2週間、マウスの体重を測定した。臨床エンドポイントおよび試験からの除外の基準として臨床スコアリングシステムを用いた。臨床徴候を以下のようにスコア化した:背中を丸めた姿勢=3、立毛=3、拒食または拒飲=2、30%以上の体重減少=10、神経症状=10。スコアが16以上に達した場合、試験から除外し安楽死させた。動物試験は承認された動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)のプロトコルに従って実施した。感染後、示される日数の時点でマウスの治療を実施した。最初にケタミン/キシラジン混合物でマウスに麻酔をかけた後、マウス1匹当たり50ulのウイルス、MabまたはFabを鼻腔内に投与した。体積100ulのMabまたはFabを腹膜内に投与した。14日間の試験期間中、毎日、平均体重を求め、第0日の平均体重と比較して示した。
【0311】
ウイルス:Cottey、RoweおよびBender(Current Protocols in Immunology,2001)に従ってインフルエンザウイルス株(A/カリフォルニア/7/09、A/ビクトリア/11、B/マレーシア/2506/2004、B/フロリダ/04/2006を含む)をマウスに適応させた。マウス適応を3回実施した後、孵化卵でウイルスを1回増殖させた。簡潔に述べれば、6~8週齢のマウス3匹に麻酔をかけ、ウイルス20ulを鼻腔内に感染させた。感染から3日後、マウスを安楽死させ、肺を取り出した。肺を機械的にホモジナイズし、清澄化し、遠心分離して大きいデブリを除去した。ほかにも、肺ホモジネート20ulをナイーブマウスに3回継代した。
【0312】
(参考文献)
Huber VC,Lynch JM,Bucher DJ,Le J,Metzger DW:Fc receptor-mediated phagocytosis makes a significant contribution to clearance of influenza virus infections.J Immunol 2001,166:7381-7388.
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Feng J,Mozdzanowska K,Gerhard W:Complement component C1q enhances the biological sctivity of influenza virus hemagglutinin-specific antibodies depending on their fine antigen specificity and heavy chain isotype.J Virol 2002,76:1369-1378.
Mozdzanowska K,Feng J,Eid M,Zharikova D,Gerhard W:Enhancement of neutralizing activity of influenza virus-specific antibodies by serum components.Virology 2006,352:418-426.
【0313】
以下の実施例は、本発明を限定するのではなく、本発明を説明するために記載するものである。
【0314】
実施例1.モノクローナル抗体の親和性。
CellSpot(商標)技術を用いる一次スクリーニングは本質的に、ビーズと結合した抗原の抗原-抗体相互作用が極めて弱い場合、その抗原が洗浄時に保持されないため、高親和性mAbの発見に偏ったものである。クローン化mAbの親和性を測定するセンサー機器をForteBio(商標)Octetとした。親和性をオン速度とオフ速度の比として測定する場合、オフ速度が極めて小さくなると精度が低下する。より正確な推定値を得るため、センサー表面に固定した抗原に様々な濃度の抗体を流した。一揃いのインフルエンザB mAbをこの方法で測定したKDとともに表5に示す。
【0315】
【表8】
【0316】
Yasugiら(段落0008)により記載されているバイオセンサー(Biacore(商標))で測定した5A7のHAに対する親和性(KD)は約5nMである。本発明のmAb TRL835は結合に関して5A7と競合するが、KDはmAb TRL835の方が強く、表に示されるように0.6nMである。
【0317】
実施例2.mAbによる組換えインフルエンザB HAとの結合。
ELISAにより抗体結合を判定した。384ウェルELISAプレートをpH7.4のDPBS溶液中、1ウェル当たり20ngのrHAタンパク質でコートした。プレートを4℃で一晩コートした後、0.01%Tween20(PBS-T)を含むPBSで2回洗浄した。次いで、脱脂粉乳の5%PBS-T(M-PBS-T)溶液でプレートをブロックし、PBS-Tで2回洗浄した。精製抗体をPBSで希釈し、1ウェル当たり20ngを用いて各抗原をプローブした。プレートをPBS-Tで5回洗浄し、アルカリホスファターゼとコンジュゲートした二次抗体でプローブした。次いで、プレートをPBS-Tで5回洗浄し、AttoPhos AP蛍光基質(Promega S1000)を用いて発光させた。陰性対照ウェルのバックグラウンドシグナルから蛍光シグナルが発生し始めるまでプレートを連続的に読み取った。
【0318】
特定のELISAアッセイの結果を図3に示す。組換えHAのELISAデータは、複数の抗インフルエンザB mAbおよび2種類の抗インフルエンザAのインフルエンザAおよびインフルエンザB株に対する反応性を示している。組換えHAのELISAは3連で実施したものであり、バックグラウンドに対する平均反応倍数が示されている。図3から、抗B mAbのTRL809、TRL812、TRL813;TRL832、TRL841、TRL842、TRL845、TRL846、TRL847、TRL848、TRL849、TRL854およびTRL856がそれぞれ、ヤマガタクレードのB/フロリダ/06、B/マサチューセッツ/12およびB/ウィスコンシン/10ならびにビクトリアクレードのB/ブリスベン/08、B/マレーシア/04およびB/ビクトリア/87を含めた両系統のインフルエンザBウイルスに対して広い交差反応を示すことがわかる。抗インフルエンザA mAbのCF401(=mAb53、TRL053)およびCF402(=mAb579、TRL579)は、インフルエンザAのH1(A/カリフォルニア/09)およびH3(A/シドニー/97)亜型のメンバーに対して反応性を示すが、インフルエンザB株に対しては反応性を示さない。
【0319】
実施例3.mAbによるインフルエンザBウイルスの中和。
抗体を200PFUのウイルスと37℃で1時間インキュベートした。次いで、MDCK細胞にこの混合物を37℃で1時間吸着させた。プラークアッセイを実施するためにMDCK細胞をAvicel含有培地で覆った。2日間インキュベーションした後、プラークを判定した。特定された広域反応性インフルエンザB mAbは、ヤマガタおよびビクトリアの両系統を高力価で中和することが可能である。12時間インキュベートした後、細胞を固定し、感染細胞を検出する免疫蛍光法を実施した。データは記載しないが、対照の抗B mAb5A7はヤマガタおよびマレーシア両系統の株の中和作用を示した。しかし、図4の表8に示されるように、本発明のmAbの方が力価が高かった。
【0320】
選択された抗インフルエンザB抗体の中和アッセイの結果を抗インフルエンザB抗体のTRL845、TRL848、TRL849、TRL854、TRL832およびTRL809に関して図4に示す。IC50は、この特定の中和アッセイでウイルスを阻害する濃度である。mAbはそれぞれ、ヤマガタ系統およびビクトリア系統それぞれの代表的なメンバーを中和する。この実験には両系統の確定された株を用いたが、mAbは試験したいずれのBウイルスも中和した。
【0321】
実施例4.マウスインフルエンザ感染症モデルでのin vivo効果。
別途明記する場合を除けば一般に、肺送達モデルを用いてmAbの効果増大を評価した。マウスに10×LD50を感染させ、24hpiに鼻腔内経路を介した肺送達により1mg/kgを投与して治療した。体重および生存率をモニターして相対的効果を評価した。
【0322】
図6A~6Dは、感染後第1日にIN経路により1mg/kgを投与し、感染から最大14日目までの体重を評価したマウスモデルにおける10×LD50のウイルスに対する本発明の抗インフルエンザB mAbのin vivo活性を示しており、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染後14日間、マウスの体重をモニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。
【0323】
図6Aは、IN経路による1mg/kgのmAb TRL845、TRL847、TRL848、TRL849および5A7が、ビクトリアクレードを代表するB/マレーシア/2506/04に感染したマウスを疾患から防御することを示している。
【0324】
図6Bは、IN経路による1mg/kgのmAb TRL845、TRL847、TRL848、TRL849および5A7が、ヤマガタクレードを代表するB/フロリダ/04/2006に感染したマウスを疾患から防御することを示している。
【0325】
図6Cは、IN経路による1mg/kgのmAb TRL849、TRL846、TRL854、TRL856、TRL847および5A7が、ビクトリアクレードを代表するB/マレーシア/2506/04に感染したマウスを疾患から防御することを示している。
【0326】
図6Dは、IN経路による1mg/kgのmAb TRL849、TRL846、TRL854、TRL856、TRL847および5A7が、ヤマガタクレードを代表するB/フロリダ/04/2006に感染したマウスを疾患から防御することを示している。
【0327】
実施例5.肺送達によるin vivo効果の増大。
別の送達方法による効果増大の可能性を評価するため、mAbのin vivo効果を検討した。マウスに10×LD50を感染させ、24hpiに腹腔内投与による従来の全身送達を用いて、10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgで治療し、鼻腔内経路を介した肺送達により1.0mg/kgおよび0.1mg/kg投与したmAbと比較した。次いで、両者の生存率および体重を比較した。生存率および体重減少(感染の重症度の尺度)を用いて相対的活性を評価した。図5Aおよび5Bには、肺送達による効果増大を示す1つの例としてmAb5A7が示されている。
【0328】
図5Aは、マウスにおける抗インフルエンザB抗体5A7のin vivo活性を、10×LD50のB/フロリダ(ヤマガタ系統)に感染させたマウスに5A7を鼻腔内(IN)投与した場合と腹腔内(IP)投与した場合のパーセント体重として示したものである。24hpiにマウスをIN経路またはIP経路のいずれかによりmAbで治療し、疾患重症度の指標として連日体重を測定し、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染後14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。体重減少が30%を超えるマウスは安楽死させた。INが1mg/kgで体重減少を完全に防ぐのに対し、IP経路による1mg/kgでは体重がいくぶん減少している。IN経路で投与すると、IP経路よりも効率が増大することがわかる。
【0329】
図5Bは、マウスにおける抗インフルエンザB抗体5A7のin vivo活性を、10×LD50のB/マレーシア(ビクトリア系統)に感染させ5A7をIN投与した場合とIPした場合のパーセント体重として示したものである。24hpiにマウスをIN経路またはIP経路のいずれかによりmAbで治療し、疾患重症度の指標として体重を連日測定した。体重減少が30%を超えるマウスは安楽死させた。INが1mg/kgで体重減少を完全に防ぐのに対し、IP経路による1mg/kgでは体重がいくぶん減少している。IN経路で投与すると、IP経路よりも効率が増大することがわかる。
【0330】
実施例6.in vivo効果は抗インフルエンザA群mAbの存在による影響を受けない。
鼻腔内投与を用いた気道への投与の効果をほかの代替的インフルエンザ抗体で評価した。これまでに、第1群および第2群両方のインフルエンザAウイルスを中和して効果を示すヒトモノクローナル抗体が単離されている。ヒト抗体Mab53(TRL053とも表される)は米国特許出願公開第2012/0020971号および国際公開第2011/160083号に記載されており、第1群および第2群のH1、H9、H7およびH5亜型の中和に効果がある。抗体Mab579(TRL579とも表される)は国際公開第2013/086052号に記載されており、H3およびH7の中和に効果がある。本明細書に記載されるように、この2つのmAbを調製および最適化して抗H1 CF-401(=mAb53、TRL053)、抗H3 CF-402(=mAb579、TRL579)を作製し、本試験に用いた。
【0331】
マウスモデルを用いて、Mab579およびMab53抗体のインフルエンザAウイルス感染症に対する治療効果を検討した。Mab579はH3インフルエンザに対して検討し、Mab53はH1インフルエンザに対して検討した。IN投与とIP投与とを比較し、INでは1mg/kg投与し、IPではその10倍の10mg/kg投与した。10×LD50のH3インフルエンザウイルスVic11に対する治療効果の検討には、感染から24時間後(24hpi)に抗体Mab579を投与した(データ不掲載および図12B)。10×LD50のH1インフルエンザウイルスCal09およびPR8に対する治療効果の検討には、感染から24時間後(24hpi)に抗体Mab53を投与した(データ不掲載および図11B)。同じ実験でIP投与を10倍の用量で実施しても、IN投与の方がIP投与よりも高い効果が得られた。
【0332】
個々の抗B mAbならびにカクテル形式の同mAbと抗H1mAbおよび抗H3mAbとの混合物ではともに、同程度の生存率および体重減少のデータが得られており、mAbが互いの活性に干渉しないことが確認された。
【0333】
図7A~7Dは、3種類の抗インフルエンザmAbを共投与しても抗B mAbの効率に干渉しないことを示している。マウスに10×LD50のウイルスを感染させ、24hpiに抗H1 CF-401(=mAb53、TRL053)と、抗H3 CF-402(=mAb579、TRL579)と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療し、対照にはPBS投与マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。
【0334】
図7A~7Dは全体として、カクテルがあらゆる季節性インフルエンザ亜型の代表的な株(H1N1、H3N2およびBの両系統)に対して、カクテルに含まれる他のmabによる干渉を受けずに、予想されるレベルの防御をもたらすことを示している。
【0335】
図7Aは、10×LD50のH1N1に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示している。
【0336】
図7Bは、10×LD50のH3N2に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示している。
【0337】
図7Cは、10×LD50のB/ヤマガタ系統に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示している。
【0338】
図7Dは、10×LD50のB/ビクトリア系統に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示している。
【0339】
実施例7.PepScan(商標)を用いた抗B mAbのエピトープマッピング。
Pepscan CLIPS(商標)技術を用いて、インフルエンザB赤血球凝集素のストーク領域のセグメントに対応する様々な直鎖状ペプチドおよび制約を受けたペプチドを固定化したものを様々な抗B mAbとの結合に関してスコア化することにより、抗B mAbのエピトープをマッピングした。ビクトリア系統およびヤマガタ系統の両方の前駆体であることから、インフルエンザB株であるB Leeのストーク配列を選択した。mAbと結合するペプチドをエピトープとみなす。被験mAbそれぞれについて、不連続エピトープの固有のパターンを明らかにした。その結果を図8および9にまとめる。図8は、B/Lee/1940/HAタンパク質(配列番号291)のPEPSCAN(商標)により作成したペプチドアレイを示している(上パネル)。B/Lee/1940/HAタンパク質の影を付けた領域は、ペプチドアレイの作成に用いたaa_15-65(配列番号292)、aa_300-359(配列番号293)およびaa_362-481(配列番号294)の残基に対応している。表(下パネル)は、mAb5A7エピトープ1-aa_333-338(配列番号304)、エピトープ2-aa_342-346(配列番号305)およびエピトープ3-aa_457-463(配列番号306);mAb TRL845エピトープaa_455-463(配列番号307);TRL848エピトープ1-aa_64-71(配列番号308);エピトープ2-aa_336-348(配列番号309);エピトープ3-aa_424-428(配列番号310);mAb849エピトープ1-aa_317-323(配列番号311)、エピトープ2-aa_344-349312)、エピトープ3-aa_378-383(配列番号313);mAb854エピトープ1-aa_457-463(配列番号314)を示している。右下の図には、HAのストーク上にその領域が濃灰色で示されている。
【0340】
図9は、HAタンパク質のストークに沿ったPEPSCAN(商標)解析によるエピトープマッピングを示している。影を付けた領域は、各mAbが結合するエピトープを表している。mAbのTRL848、TRL845、TRL854およびTRL849は、HAのストークに沿って部分的に重複する不連続エピトープを認識する。公開されている配列に由来する対照mAb5A7では、ほぼ同じであるが固有のエピトープが得られた。
【0341】
実施例8.mAbのin vivo発現。
いくつかの実施形態では、本発明のmAbはin vivo発現を目的とするものである。これまで、mAbの遺伝情報を宿主細胞内に導入してmAbをin situ産生させる送達システムがいくつか記載されている。一実施形態では、David Baltimore研究室:Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 103(31):11479-11484(2006)により記載されているように、表面に組織標的化抗体と結合した膜融合タンパク質を含むレンチウイルス粒子内にコードDNAを封入する。標的化抗体はCD20と結合して、例えば、ベクターをB細胞に優先的に送達し、抗体産生を最適化する。あるいは、Johnson,P.R.ら,Nature Medicine(2009)15:901-906により記載されているように、AAVベクター(アデノ随伴ウイルス)を用いる。その他の方法としては、コードmRNAをリポソームまたは脂質粒子内に封入して細胞内に取り込ませる方法が挙げられる。
【0342】
実施例9.融解曲線アッセイ。
PBS中2ug/mLの濃度で、PCR StepOne Plus(商標)機器を1.58℃/分で15℃から99℃に加熱し、連続的に蛍光を測定して、融解曲線アッセイを実施した。図10A~10Fは、mAb TRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854の融解曲線アッセイを示している。各mAbは高い熱安定性を示した。図10AはTRL845の融解曲線を示しており、2つの融解温度(Tm1、Tm2)がそれぞれ58.3℃および68.7℃にみられる。図10Bは、図10Aおよび図10C~10Fにそれぞれ示されるmAb TRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854の融解温度(Tm)の表を示している。融解温度が2つ(Tm1、Tm2)みられたのは、これらのmAbのFcドメインとFabドメインが別個に変性したことによるものと思われた。図10CはTRL847の融解曲線を示しており、融解温度(Tm1)は70.3℃である。図10DはTRL848の融解曲線を示しており、融解温度(Tm1)は70.1℃である。図10EはTRL849の融解曲線を示しており、2つの融解温度が(Tm1、Tm2)それぞれ70℃および81.8℃にみられる。図10FはTRL854の融解曲線を示しており、2つの融解温度(Tm1、Tm2)が59.7℃および68.9℃にみられる。配列番号17/18のHC/LCアミノ酸配列を含む抗体TRL053および配列番号27/28のHC/LCアミノ酸配列を含むTRL597ではそれぞれ、表6に示す融解温度がみられた。
【0343】
【表9】
【0344】
一部の抗体で融解温度が2つ(Tm1、Tm2)みられたのは、そのmAbのFcドメインとFabドメインが別個に変性したことによるものと思われた。したがって、特に本明細書に提供される組合せおよび組成物に使用する抗体は安定なものであり、融解温度が55℃を上回り、いくつかの場合には65℃を上回る。
【0345】
実施例10.抗インフルエンザmAbは経肺経路で送達すると防御作用を示す。
H1N1感染症の治療にCF-401(mAb053)とノイラミニダーゼ阻害剤オセルタミビルとの組合せが及ぼす効果を検討するため、マウスを3×LD50のH1N1ウイルスで攻撃し、第4日目に、1mg/kgのmAb CF-401の単回鼻腔内投与、10mg/kg、1日2回、4日間連日の経口オセルタミビル治療または両者の組合せで治療した。図24に示されるように、1mg/kgのCF-401の単回投与で治療した場合、100%のマウスが攻撃後も生存した。標準治療のオセルタミビルは、感染からこれほど遅い時点で投与すると防御作用は示さない(生存率0%)が、CF-401 mAb療法と組み合わせた場合、mAb療法単独に比してさらに体重減少が抑えられた。図24に示される結果は、感染から4日後に1mg/kgのCF-401の単回投与で治療すると、100%のマウスが致死量のH1N1による攻撃後も生存するというものである。標準治療のTamifluを投与しても防御作用は示さないが、CF-401 mAb療法に加えると、追加で体重減少が抑えられる。Tamifluは、第4日から第8日まで1日2回、10mg/kgで経口投与した。データは、標準治療(Tamiflu)にmAb療法を加えると、遅い時点で投与しても効果が得られることを示している。
【0346】
抗インフルエンザmAbは経肺経路で投与すると防御作用を示す。いくつかの実施形態では、本発明のmAb療法と他の抗ウイルス治療薬、例えばノイラミニダーゼ阻害剤(例えば、オセルタミビル[Tamiflu(商標)]、ザナミビル[Relenza(商標)])、RNAポリメラーゼ阻害剤(例えば、ファビピラビル、VX-787)、免疫調節薬(例えば、吸入インターフェロンベータ1a)、宿主細胞標的化剤(例えば、Fludase(商標)、Radavirsen(商標))、イオンチャネル阻害剤(例えば、アマンチジン)をはじめとする抗ウイルス剤などとを組み合わせることにより、効果が改善され得る。
【0347】
実施例11.中和抗体は鼻腔内投与で効果が得られる。
IP経路により投与した中和抗体および非中和抗体がともに致死性感染症の治療および予防に同等の効果を示すことから、全身送達した抗体の治療効果は、単に中和能に依存するだけでない。中和抗体および非中和抗体をIP投与したところ、同等の効果が得られた。このことから、全身送達では治療効果に大いに寄与するのかどうかという疑問が浮上する。非中和抗体をIV経路またはIP経路により送達したところ、効果に有意な差は認められなかった(データ不掲載)。
【0348】
これに対し、中和抗体をIN送達したとこと、その治療効果は全身送達に比して有意に増大した(図11A)。確立された非中和抗体は同様の治療効果増大を示さないことから、この治療効果を高める作用は中和抗体に特有のものである。中和抗体をIN送達すると、IP送達の場合とは異なり、非中和抗体に比して有意な治療利益が得られる。非中和抗体がINで治療効果の改善を示さなかったことから、IN療法によるこの効果増大は抗体の中和能と関係がある。INによる効果増大は認識範囲の広いH1ウイルスCA6261に対する抗体(HA2サブユニットの短いαへリックスと結合するIgG2a抗体)により示されている(図11A)。本発明者らは、INが効果に及ぼす影響をさらに検証して、別の交差防御抗体CR9114を評価し、それがINで極めて高い効果を示すことを明らかにした(データ不掲載および図24)。CR9114をIV投与すると、HA茎部の保存されたエピトープと結合し、インフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスによる致死性攻撃に対する防御作用を示す(Dreyfus Cら(2012)Science Express 9 August 2012 10.1126/science.1222908)。
【0349】
本発明者らはこれまで、異なる抗体アイソタイプを有する抗体に関してIN効果に有意差は認めていない。IP投与ではアイソタイプ間に差が認められており、エフェクター機能が関連している可能性が示唆された。このほか、単一の中和抗体では、その標的であるH1またはH3ウイルスの複数の株に対する感染阻止効果が認められており、効果が株に特異的なものでも、株が限定されるものでもないことが示された。したがって、インフルエンザウイルスに対する中和抗体には、IN投与が実行可能でかつ一層効果的な代替法となる。
【0350】
実施例12.中和Fabは鼻腔内投与で効果が得られる。
Fcの除去がIPまたはIN投与した中和Fabおよび非中和Fabの治療効果を打ち消すかどうかを評価する試験を実施した。図25からわかるように、モデルFab(CA6261抗体Fab)のIP投与は、10mg/kg以下でH1ウイルスに対する治療効果が得られない。Fab IPで治療したマウスはいずれも、PBSで治療したマウスと同じく感染症に屈した。これに対し、用量10mg/kgおよび1mg/kgの中和FabでIN治療したマウスは、致死性感染症で死亡することはなかった(図25)。IN投与した用量はいずれも(0.1mg/kgでも)、IP投与したいずれの用量よりも高い効果を示した。同じ実験でCA6261 FabをINとIPまたはIVとで比較してもほぼ同じ結果が観察され、この場合、Fab CA6261はIPまたはIVのいずれで投与しても防御作用は示さなかったが、同じ用量(5mg/kg)をIN投与すると有意な効果を示した(マウスの体重が95%以上で維持された)(データ不掲載)。以上のデータから、中和抗体では、ウイルス感染症の阻止または治療にFabの鼻腔内投与が効果を示すことがわかる。データはさらに、Fabが無効であったことから、全身Mab送達で治療効果を得るにはFcエフェクター機能を必要とすることを示している。
【0351】
非中和抗体のモデルFabは、INまたはIPのいずれの経路で投与しても治療効果が保持されなかった。H3ウイルスに感染させたマウスを例示的先行技術抗体CA8020(中和抗体)および非中和抗体の精製FabのIN送達により治療した(データ不掲載)。中和Fabは治療効果を発揮することができるのに対し、非中和Fabは致死性攻撃からマウスを防御することができない。非中和抗体の抗体フラグメント、特にFabは、IN投与しても治療効果がみられない。
【0352】
実施例13.IN送達の方がIP送達よりも効力が10~100倍高い。
中和抗体の鼻腔内(IN)送達の方が腹腔内(IP)送達よりも効力が10~100倍高い。マウスに10×LD50のPR8ウイルス(H1ウイルス)を感染させ、24hpiに抗体で治療した(図11A)。中和抗体CA6261を10倍連続希釈し、IN経路またはIP経路のいずれかにより投与した(図11A)。体重減少によって図示されるように、いずれの希釈でも、IN経路により治療したマウスの方が疾患重症度が低く、致死性感染から100%防御された。これと比較して、IPで治療したマウスでは、最高用量(10mg/kg)にのみ一時的な体重減少と致死性感染からの保護とがみられた。IPで投与した場合、これより低い希釈ではいずれも、マウスは防御されなかった。これに対し、用量0.1mg/kgでIN治療した場合、全個体に一時的な体重減少および生存がみられた。IN送達により用量10mg/kgおよび1mg/kgで治療したマウスは、感染後のいずれの時点でも検出可能な体重減少が抑制された。IP経路により投与した抗体ではいずれの用量でも、ある程度の体重減少がみられ、感染後も生存したのは最高用量10mg/kgで治療したマウスのみであった。
【0353】
本発明者らは、中和抗体の鼻腔内送達が同じようにH3ウイルスに対する治療効果を増大させることを確認した。マウスにH3ウイルスを感染させ、24hpiに治療した(図12A)。中和抗体CA8020を10倍連続希釈し、INまたはIPにより投与した。H1ウイルスを用いた本発明者らの試験で観察されたように、IN経路により投与した抗体はいずれの希釈でも、H3ウイルスに対する生存率が100%となり、IP経路により投与した抗体よりも体重減少が少なかった。
【0354】
以上のデータをまとめると、INで送達して治療効果を増大させるには中和作用が不可欠であることがわかる。さらに、中和抗体および非中和抗体ともに同レベルの効果が観察されることから、全身送達した抗体の治療効果は中和作用に依存しない。この観察結果を裏付けるように、中和FabをIP投与すると治療効果が打ち消されるが、中和FabをIN送達すると効果がみられる。IN投与した中和Fabは、IP投与と比較した効果の改善が、その完全Mab対応物のIN送達とほぼ同じである。
【0355】
実施例14.IN抗体による予防試験
感染後に中和抗体を鼻腔内投与することにより著明な効果が得られたため、ウイルスによる感染を予防するために感染前に鼻腔内投与した場合の効果を評価する試験に着手した。これらの試験は、鼻腔内投与が、個体がインフルエンザウイルスに曝露した場合に適用可能であるかどうか、また、曝露した集団もしくは曝露するリスクのある集団内での伝染を予防もしくは抑制するのに有効な方法であるのかどうか、または感染症もしくは疾患が全般的により大きな健康上のリスクとなる患者に臨床的に有効な方法であるのかどうかを評価し明らかにするためのものである。マウス動物モデルを対象に、インフルエンザウイルス感染の数日前に実施する第1群(H1)抗体CA6261の投与を評価した。感染攻撃の3日、4日、5日、6日および7日前のCA6261の投与を評価し、様々な用量のIN投与とIP投与とを直接比較した。
【0356】
最初の試験では、抗体CA6261をINまたはIP投与し、次いで、投与量3×LD50のH1 PR8ウイルスでマウスを攻撃した。図13は、ウイルス感染の3日または4日前に予防的にIN投与およびIP投与した試験を示している。3×LD50のPR8で攻撃する3日または4日前に抗体CA6261をINまたはIPで投与した。CA6261抗体はIN(0.1mg/kg)またはIP(0.1mg/kgおよび1mg/kg)で投与した。感染の最大4日前(-4dpi)のIN投与(0.1mg/kgで評価した)では、マウスがウイルス攻撃から防御された。感染の3日または4日前に同じ用量(0.1mg/kg)でIP投与した場合、効果は全くみられなかった。感染の3日または4日前のIP投与で効果がみられたのは1mg/kgであった。IN(0.1mg/kg)投与とIP(1mg/kg)投与とを比較したところ、-3dpiおよび-4dpiともに、IPの10分の1のIN用量でIPよりも高い効果がみられた。
【0357】
次いで、ウイルス感染の5日、6日および7日前での予防効果を評価した。10倍の用量のIP用量をIN投与と比較した。3×LD50のH1インフルエンザウイルスPR8で攻撃する5日前、6日前または7日前のいずれかに抗体CA6261をIP(1mg/kg)またはIN(0.1mg/kg)で投与した(データ不掲載)。比較のため、ほかにもTamiflu投与(10mg/kgで1日2回、5日間の経口投与)を評価した。-5dpiに0.1mg/kgのIN投与で効果が示された。ウイルス攻撃の6日または7日前に0.1mg/kgでIN投与したマウスでは死亡例がみられた。10倍用量(10mg/kg)のIPは攻撃5日、6日または7日前で効果がみられた。攻撃の5日前に抗体を0.1mg/kgでIN投与した場合、少なくとも、攻撃の7日前に10倍の用量1mg/kgでIP投与した場合と同等の効果みられた。
【0358】
次いで、さらに高い1mg/kgの用量のINをウイルス攻撃の5日、6日または7日前で評価した。図14は、3×LD50のウイルスPR8による攻撃の5日、6日または7日前に抗体CA6261をIPまたはINで投与してIN投与とIP投与とを比較した試験が示されている。抗体を1mg/kgでIN投与したところ、ウイルス攻撃の最大7日前で効果がみられ、各場合とも、INの方が同じ量の抗体をIPで投与した場合よりも高い効果が認められた。実際、IP投与の方がウイルス攻撃に近い時点で実施された場合でも、いずれの時点(攻撃の5日、6日または7日前)でもIN投与の方がいずれのIP投与よりも高い効果が認められた。いずれの場合も、Tamifluよりも抗体の方が高い効果が認められた。
【0359】
以上の試験は、予防的防御にはIP投与よりもIN投与の方が優れていることを示している。抗体を0.1mg/kgでIN投与すると、感染の最大5日前(-5dpi)で攻撃(3×LD50)に対する防御がみられる。同じ用量0.1mg/kgをIPで投与すると、ウイルス感染の3日~7日前のいずれでも、(同じ投与量3×LD50のウイルスに対する)マウスの防御がみられない。さらに高い用量で抗体をIN投与すると(1mg/kgを評価した)、INで投与された抗体は、最大で少なくとも7日前に投与しても攻撃に対する防御を示し得る。7日以上前のIN投与は評価していないが、効果があるものと思われる。
【0360】
感染後の反復投与でも効果が得られ、数時間(8時間、32時間、52時間)の間隔を空けて複数回投与すれば、より低い用量で効果が得られる(データ不掲載)。同じように、ウイルスに感染または曝露する前に反復投与しても、効果が認められることが予想され、より低いIN用量での予防的投与が可能であると思われる。
【0361】
より高い投与量でのウイルス攻撃、具体的には10×LD50のH1ウイルスPR8による攻撃の数日前にCA2621抗体を投与して、予防効果を評価した。10×LD50のPR8 H1亜型ウイルスによる攻撃の3日または4日前、マウスに0.1mg/kgのCA6261抗体をINまたはIPのいずれかで投与した(データ不掲載)。ウイルス攻撃の3日または4日前に0.1mg/kgの抗体をIP投与しても全く効果はみられず、IPで治療したマウスは、治療を実施しなかったマウスと同じくウイルス感染症に屈した。これに対し、高力価ウイルスによる攻撃の3日前または4日前のいずれかに0.1mg/kgの抗体を鼻腔内に投与したマウスは感染から防御された。
【0362】
抗体を1mg/kgでINまたはIP投与して、高力価攻撃の5日、6日および7日前の抗体投与を評価した(図15)。この試験では、抗体を(鼻腔内投与により)気道に投与したマウスのみがウイルス攻撃後もすべて生存していた。ウイルス攻撃の5日、6日または7日前に1mg/kgの抗体を投与して治療したマウスは十分に防御されず、感染症により死亡した。Tamifluには防御効果が全く認められなかった。ウイルス感染の5日前または6日前のいずれかに0.1mg/kgの抗体を鼻腔内投与して治療したマウスは、ウイルス攻撃後も未感染の対照マウスとほぼ同程度に生存した。
【0363】
したがって、抗インフルエンザ抗体の鼻腔内投与は、抗体感染の予防に効果のあるプロトコルおよび方法である。ウイルス感染の最大少なくとも7日前に鼻腔内投与したインフルエンザ中和抗体は、ウイルス攻撃に対する防御作用を示した。最大少なくとも7日前に鼻腔内投与することにより得られる防御作用は、ヒトがウイルスに曝露したときに常識的に予想されるよりも高い高力価のウイルスでも示された。以上の試験で観察された防御のレベルは、鼻腔内への抗体投与がヒト対象をウイルス攻撃から防御し、ウイルス伝染を阻止または抑制するのに有効であることを示している。抗体の経肺投与は、全身投与が無効である条件下およびそのような場合でも、防御作用を示す。
【0364】
実施例16.インフルエンザの治療または予防のための組合せ。
流行が予想されるあらゆるインフルエンザを単一の用量または用量の組合せで治療または予防することを可能にするためには、3種類の主要なインフルエンザ株(H1、H3およびB)と交差反応を示す抗体の組合せが望ましい。このような組合せがあれば、抗体または抗体混合物を投与する前に感染ウイルスを特徴付ける必要性を回避することが可能になる。インフルエンザ株を決定する診断には、利用可能な臨床検査施設が必要であり、通常、最低12~24時間の作業時間を要するため、しかるべき方向性の治療法を選択する前にインフルエンザ株を決定する必要がある場合、治療に好ましくない遅れが生じる。インフルエンザAおよびインフルエンザB株に対して広域反応性を示す組成物があれば、治療前に株の予備診断を実施する必要がなくなる。さらに、抗体、特に中和抗体には、予防にのみ作用し、効果を発揮するまでに通常数週間を要する予防接種では得られない即時の治療効果がある。
【0365】
本発明者らは、インフルエンザA型およびB型をカバーする治療用のモノクローナル抗体(mAb)の組合せを評価し特定しようとした。特に、適切で価値のある組合せとしては、A型第1群、A型第2群およびインフルエンザBウイルスに効果を示す抗体が挙げられる。これにより、重要な流行中のインフルエンザに効果を示す組合せが得られ、ウイルスの型の診断評価または評価を実施する前に、または実施せずに投与することができる。治療用の組合せの基準としては、効果のある中和抗体であること;組み合わせて、重要な流行中のインフルエンザウイルス、特にインフルエンザA H1およびH3ならびにインフルエンザBに対して効果を示す抗体であること;組み合わせて、インフルエンザAまたはインフルエンザBのいずれかの攻撃に対して効果を示すこと;抗体間に顕著な相互作用も競合もみられないこと;IP、IVおよびIN投与または気道経路による投与のほか、全身投与でも効果のある抗体であることが挙げられる。カクテルに含まれるmAbは、容易に共製剤化が可能なように生物物理学的特性に適合性があるのが好ましい。pI値が一致するのが望ましいと思われる。治療用の組合せは、患者または対象のインフルエンザを診断評価することも、特徴付けることも必要とせずに、任意の重要な流行中のインフルエンザウイルスに対して効果を発揮する。ヒトモノクローナル抗体または少なくともヒト可変領域を含む抗体、特に少なくとも重鎖および軽鎖にヒト相補性決定領域(CDR)を含む抗体が好ましく、これを用いる。
【0366】
適切な抗インフルエンザA抗体を評価した。抗H1抗体TRL053(MAb53)は、in vitroおよびin vivoでH1を含めた第1群インフルエンザウイルスの中和に効果がある。TRL-053はヒト抗体ファージライブラリーから単離されたものであり、米国特許出願公開第2012/0020971号および国際公開第2011/160083号に記載されており、第1群および第2群のH1、H9、H7およびH5亜型の中和に効果がある。TRL053は、インフルエンザH1およびH5ウイルス株に対してnMまたはサブnMの範囲の結合親和性Kdを示し、等電点(pI)が8.54である。TRL053の重鎖および軽鎖可変領域のCDR配列については、上記の可変領域全体のアミノ酸配列とともに添付の配列表に記載されている。TRL053のH1ウイルスPR8に対する効果をin vivoで評価した(図11B)。マウスに10×LD50のH1インフルエンザウイルスを接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgの抗体TRL053(MAb53)をINまたはIP投与して治療した。感染から14日間、体重を連日モニターした。TRL053はIPまたはINで効果を示すが、IN投与したTRL053の方がIPよりも高い効果を示した。TRL053は、IPでは用量10mg/kgでのみ多少効果がみられた。この試験のINは、用量10mg/kgおよび1mg/kgで効果がみられた。
【0367】
抗H1抗体TRL579(MAb579)は、in vitroおよびin vivoで第2群インフルエンザウイルスの中和に効果がある。TRL-579はヒト抗体ファージライブラリーから単離されたものであり、国際公開第2013/086-52号に記載されており、H3およびH7の中和に効果がある。TRL579は、インフルエンザH3およびH7ウイルス株に対してnMまたはサブnMの範囲の結合親和性Kdを示し、等電点(pI)は8.60である。TRL-579の重鎖および軽鎖可変領域のCDR配列については、上記の可変領域全体のアミノ酸配列とともに添付の配列表に記載されている。TRL579のH3ウイルスVic/11に対する効果を評価した(図12B)。動物に10×LD50のウイルスを接種し、24hpiに10mg/kg、1mg/kgおよび0.1mg/kgの抗体TRL579をINまたはIP投与して治療した。感染から14日間、体重を連日モニターした。TRL579はIPまたはINで効果を示すが、IN投与したTRL579の方がIP投与よりも高い効果を示した。TRL579は、IPでは用量10mg/kgでのみ多少効果がみられた。この試験のINは、用量10mg/kgおよび1mg/kgで効果がみられた。
【0368】
効果のある組合せに適した抗B抗体を得るため、インフルエンザBに対する抗体を単離した。高親和性結合抗体を特定するためのもので、2014年2月4日に出願された米国特許出願第61/935,746号に最初に記載されたCellSpot(米国特許第7,413,868号)を用いて、インフルエンザの赤血球凝集素タンパク質(HA)と結合し、B/ヤマガタクレードおよびB/ビクトリアクレードのインフルエンザBウイルスに効果を示すヒト抗体を特定した。B特異的抗体およびその配列、具体的には様々なB抗体のモノクローナル抗体重鎖および軽鎖CDR配列が配列表に列挙されている。IMGT基準(international ImMunoGeneTics database imgt;Ehrenmann F.,Kaas Q.およびLefranc M.-P.(2010)Nucleic Acids Res.,38,D301-307)によって決定された重鎖および軽鎖のCDR1、CDR2およびCDR3が示されている。
【0369】
同一の重鎖定常領域配列を有するB抗体を構築し単離した。定常領域をヒト細胞での発現用にコドン最適化した。重鎖IgG1定常領域の配列は上に記載されている(配列番号297)。カッパ軽鎖抗体(TRL845、846、847、809、849および854)の軽鎖定常領域は上に記載されている(配列番号295)。抗体TRL848および832は以下に示すラムダ軽鎖定常領域を有する(配列番号296)。
【0370】
B抗体の重鎖および軽鎖可変領域の配列は上および添付の配列表に記載されている。
【0371】
実施例17.B抗体の特徴付け。
広範囲に効果を示す抗体の組合せに適したモノクローナル抗体を特定し特徴付けるため、インフルエンザBに対するヒト抗体のインフルエンザBウイルスに対する効果を評価した。図16に、赤血球凝集抑制、in vitroでの古典的中和および様々な抗B抗体のin vivo投与を評価した評価試験の結果を表にまとめて示す。抗体はBウイルスのヤマガタ系統およびビクトリア系統の両方に対して評価した。in vivoの結果は、10×LD50のウイルスを接種し、24hpiに示されるTRL抗体を1mg/kgでIN投与した動物の初期体重に対するパーセントを評価した3つの異なる試験を各場合についてまとめたものである。動物の体重は14日間観察したものであり、観察された最も少ない体重が示されている。TRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854はそれぞれ、in vivoでの効果を評価する期間全体を通じて動物の初期体重の少なくとも96%を維持する効果を示した。
【0372】
B抗体のインフルエンザウイルスに対する親和性を評価し、相対的効果の指標の一側面とした。特定のデータを図17に示す。抗体の等電点が記載されている。TRL053の等電点(pI)は8.54であり、TRL579のpIは8.60である。B/フロリダ(ヤマガタ系統)およびB/マレーシア(ビクトリア系統)インフルエンザウイルス株に対する親和性を評価し、nMで表したKを表にまとめた。B抗体は、B/フロリダ株に対してnMまたはサブnMの親和性を示す。B/マレーシアに対するTRL845、TRL847、TRL848、TRL849およびTRL854の親和性はそれぞれ、各場合ともサブnM(1.0nM未満)であった(データ不掲載)。
【0373】
ヤマガタ系統およびビクトリア系統をそれぞれ代表するB/フロリダウイルスまたはB/マレーシアウイルスに感染させた動物を対象にモノクローナルインフルエンザB抗体の効果を検討した。10×LD50のウイルスを用いて、24hpiに1mg/kgでIN投与することにより、抗体を評価した。B/フロリダウイルスに対する効果に関する結果を図18図19および図22Bに示す。B/マレーシアウイルスに対する効果に関する結果を図20図21および図22Aに記載する。IN投与した抗インフルエンザB抗体は、投与量10×LD50のB系統ウイルスによる感染に対してともに効果を示し、抗体で治療した感染動物の体重が100%維持された抗体もいくつかみられた。in vivoでの効果および親和性試験に基づき、抗体TRL847、TRL845、TRL849、TRL848、TRL84、TRL854のほかにもTRL809およびTRL832が好ましい抗体として選択される。
【0374】
以上の試験から、特に、抗H1抗体および抗H3抗体と組み合わせて使用し、ヒト集団の主要なインフルエンザ株に対して交差反応性で効果のある抗体の組合せを得るのに有効なB抗体がいくつか得られる。抗H1抗体TRL53と、抗H3抗体TRL579と、抗B抗体との組合せをカクテルとして検討した。B抗体5A7は先の実施例に記載されており、24hpiにIPまたはIN投与によりB/フロリダまたはB/マレーシアを治療すると効果が得られる(図5)。経肺投与の方が効果が高く、少なくとも1mg/kgまたは0.1mg/kgで効果がみられるのに対し、全身送達で同等の効果を得るにはこれより高い用量が必要である。
【0375】
実施例18.カクテル、組合せおよび組成物。
それぞれ10mg/kgの複数の抗体を組み合わせて投与すると、タンパク質抗体の投与量は相当なものになり、特に疾患があるか疾患のリスクのある患者には、耐容性または妥当性が十分ではない可能性がある。これよりも低い用量、具体的には1mg/kgの範囲の抗体を含む抗体の組合せまたはカクテルであれば実現可能である。本明細書では、抗体のIN投与が、予防として実施した場合でも、1mg/kg以下で効果が認められることを明らかにしている。第1群および第2群ウイルスに効果を示す抗インフルエンザA抗体、特に抗H1および抗H3抗体と、抗Bインフルエンザ抗体とを含むカクテルが、単一の用量または組合せで、ヒト集団で重要なあらゆるインフルエンザの株および型に対する抗体の組合せとなる。それぞれ1mg/kgのTRL053、TRL579および5A7からなり、抗体の総量が3mg/kgのカクテルについて、ウイルス感染症による体重減少の抑制をin vivoで評価した。10×LD50のウイルスによる感染から24時間後に、抗体カクテルを単回混合用量として投与した。カクテルは、H1ウイルス、H3ウイルス、B/ヤマガタ系統ウイルスおよびB/ビクトリア系統ウイルスのそれぞれまたはいずれかによる感染に対して効果を示した(図23)。
【0376】
抗H1抗体TRL053と、抗H3抗体TRL579と、抗B TRL抗体との組合せを抗体カクテルとして評価した。これらの組合せは、重要なインフルエンザの型または株に対して効果を示し、組み合わせても適合性があり効果が認められる抗体を含むものである。これらの抗体は、同じサブタイプ骨格を用いて構築され、pIがほぼ同じで、相互作用も競合もみられず、他の抗体(1つまたは複数)の存在下で干渉も濃度効果も生じずにそれぞれの標的インフルエンザウイルスを中和するものである。それぞれ1mg/kgのTRL053、TRL579および各候補B TRL抗体からなり、総抗体量が3mg/kgのカクテルを感染後に投与し、ウイルス感染症による体重減少の抑制をin vivoで評価した。H1ウイルス、H3ウイルス、B/ヤマガタ系統ウイルスおよびB/ビクトリア系統ウイルスのそれぞれまたはいずれかによる感染症に対して効果が認められた。図7A~7Dに様々なカクテルのIN投与の試験結果を示す。抗体の組合せにより、H1ウイルス、H3ウイルス、B/ヤマガタ系統ウイルスおよびB/ビクトリア系統ウイルスによる感染症に対して完全な防御がもたらされる。図7A~7Dには、TRL053、TRL579およびTRL845(c)(カクテル1)、TRL053、TRL579およびTRL847(カクテル2)ならびにTRL053、TRL579およびTRL849(カクテル3)の3種類の例示的なカクテルの結果が示されている。
【0377】
図7A~7Dは、3種類の抗インフルエンザmAbの共投与しても抗B mAbの効率に干渉しないことを示している。マウスに10×LD50のウイルスを感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療し、対照にはPBS治療マウスおよびウイルス未感染マウスを用いた。感染から14日間、マウスの体重を連日モニターし、第0日の初期体重に対するパーセントをプロットした。
【0378】
図7A~7Dは全体として、カクテルがあらゆる季節性インフルエンザ亜型の代表的な株(H1N1、H3N2およびBの両系統)に対して、カクテルに含まれる他のmabによる干渉を受けずに、予想されるレベルの防御をもたらすことを示している。
【0379】
図7Aは、10×LD50のH1N1に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示している。
【0380】
図7Bは、10×LD50のH3N2に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示している。
【0381】
図7Cは、10×LD50のB/ヤマガタ系統に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示している。
【0382】
図7Dは、10×LD50のB/ビクトリア系統に感染させ、24hpiに抗H1 CF-401と、抗H3 CF-402と、抗B TRL845(カクテル1)、抗B TRL847(カクテル2)または抗B TRL849(カクテル3)のいずれかとからなる3mg/kgの3種mAbカクテルで治療したマウスにおけるin vivo防御を示す図である。
【0383】
データは、3種類の新規な独自の抗体を組み合わせるカクテル組成物が任意の重要な、または流行中のウイルス株または型によるインフルエンザ感染症に対して効果があることを示している。組合せ抗体は、第1群および第2群インフルエンザAウイルスのほか、インフルエンザBウイルスに対しても効果がある。単回用量で投与する抗体の組合せにより、任意の攻撃に対する防御が得られる。単回用量の組合せが効果および耐容性を示し、コストが極めて高くなるか過剰になる抗体用量を必要としないものになるよう、カクテルとして鼻腔内投与などにより直接気道に投与する組合せに含まれる用量が低く抑えられる。これまで、あらゆる重要なインフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスに対する抗体の組合せを用いて、それぞれが約1mg/kg以下の用量範囲内にある抗体の組合せで効果が得られたことはない。本明細書に記載および提供される抗体の組合せは、それ全体であらゆる重要なインフルエンザウイルスを中和するものであり、特に組合せで効果を発揮するよう設計される。各抗体は適合性のある生物物理学的特性を有する。組合せの抗体は、互いに競合することも著しく干渉することもなく、それぞれが単独の場合と同じように等しく活性を示す。各抗体は等電点がほぼ同じであり、細胞培養により同じように発現する。本明細書の一態様では、各抗体は同じIgG骨格上に構築され、定常領域の配列が同じであり、それぞれ同じ重鎖および軽鎖定常領域の配列またはこれに関連する配列とともに組換えにより発現される。
【0384】
本発明は、その趣旨またはそれに不可欠な特徴から逸脱することなく、他の形態で具現化されるか、他の方法で実施され得る。したがって、本開示はあらゆる態様において、説明するものであって、限定するものではないものとして解釈されるべきであり、本発明の範囲は添付の「特許請求の範囲」によって示され、また、等価性の意味および範囲に含まれる変更はいずれも、それに包含されるものとする。
【0385】
本明細書全体を通じて様々な参考文献が引用され、いずれもその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図11A
図11B
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22A
図22B
図23
図24
図25
【配列表】
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