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  • 特許-被覆マグネシウムワイヤー送線方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】被覆マグネシウムワイヤー送線方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 1/00 20060101AFI20220215BHJP
   B22D 27/20 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
B22D1/00 E
B22D27/20 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017228811
(22)【出願日】2017-11-29
(65)【公開番号】P2019098344
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000222875
【氏名又は名称】東洋電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072213
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 一義
(74)【代理人】
【識別番号】100119725
【弁理士】
【氏名又は名称】辻本 希世士
(74)【代理人】
【識別番号】100168790
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英之
(72)【発明者】
【氏名】山本 展也
(72)【発明者】
【氏名】横澤 和憲
(72)【発明者】
【氏名】中山 和俊
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-316331(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0024112(US,A1)
【文献】特開平10-137904(JP,A)
【文献】特開平06-126402(JP,A)
【文献】特開2017-064733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 1/00,11/00-11/22,
C21C 7/00-7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムを含有する複合物又はマグネシウム単体が鋼からなる被覆材で被覆され た金属ワイヤーを溶湯に送線するときにおいて、
前記金属ワイヤーの送線速度を送線中に変化させて、前記被覆材の前記溶湯中における 溶解位置を変化させる制御を行う
ことを特徴とする被覆マグネシウムワイヤー送線方法。
【請求項2】
前記送線速度を、所定の送線速度に対して0~150%の速度となるよう断続的に又 は連続的に変化させる制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の被覆マグネシウム ワイヤー送線方法。
【請求項3】
前記送線速度を周期的に変化させる制御を行うことを特徴とする請求項1又は請求項 2に記載の被覆マグネシウムワイヤー送線方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ワイヤーを搬送するフィーダーを用いて、金属ワイヤーを、高温に熱せられ液状となった鋳鉄、鉄鋼などの金属を含有する溶湯に添加するときの送線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高温に熱せられ液状となった鋳鉄、鉄鋼などの金属を含有する溶湯の成分を調整したり、溶湯中の黒鉛を球状化したりするなどのために、マグネシウムを含有する複合物又はマグネシウム単体が鋼板で被覆された金属ワイヤーを、その金属ワイヤーを搬送する搬送装置によって、溶湯へ添加する方法が用いられている。
【0003】
一般に、金属ワイヤーは、保管や取扱いの利便性からコンパクトな形状としてコイル状に巻かれており、外部電源を駆動力とする搬送装置により一端がコイルから引き出されて連続的に溶湯へと送線される。そのとき、金属ワイヤーに含まれるマグネシウムの沸点は1103℃であるため、鋳鉄、鉄鋼などの金属を含有する溶湯の一般的な温度である1400~1600℃よりも低いことにより、金属ワイヤーの被覆材が溶解してマグネシウムが露出するとすぐに熔融して溶湯に溶解しながら分散し、そして、そのマグネシウムの一部は溶湯に溶解しきれず蒸散して溶湯から飛散してロスとなる。
【0004】
例えば、このような金属ワイヤー送線方法として、特許文献1には、鉄被覆マグネシウムワイヤーを鋳鉄からなる溶湯に対して、溶湯の深さ、被覆材の厚みから算出される一定の送線速度にて送線する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-316331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的に溶湯に対して金属ワイヤーを送線するときに金属ワイヤーにかかる熱履歴によって、金属ワイヤーの先端の被覆材から溶解し、露出したマグネシウムが溶湯と接触し熔融して溶湯に溶解又は蒸散して溶湯から飛散するところ、特許文献1に開示されている金属ワイヤー送線方法では、金属ワイヤーが一定の速度で溶湯に連続的して添加されているために、金属ワイヤーの先端の被覆材は溶湯中のほぼ定位置で溶解して、露出したマグネシウムもほぼその定位置で溶湯と接触し溶解することとなる。このため、その定位置における溶湯はマグネシウムが飽和になり、次々に熔融されるマグネシウムを溶解しきれなくなることから、溶湯中で露出したマグネシウムの一部は蒸散して溶湯から飛散してロスとなり、溶湯中におけるマグネシウムの歩留まりがよくないことが課題であった。より厳密には取鍋の中で溶湯は熱などにより対流しているが、機械的に攪拌されているわけではなく粘稠な流体でもあるため、金属ワイヤーの先端の被覆材が溶解される溶湯中のほぼ定位置周辺で速やかに飽和に達することから、溶湯中のほぼ定位置で順次露出したマグネシウムの一部は溶湯に溶解しきれずに蒸散して溶湯から飛散してロスとなり、やはり溶湯中におけるマグネシウムの歩留まりがよくないことが課題であった
【0007】
そこで、本発明は、マグネシウムを含有する複合物又はマグネシウム単体が鉄又は鋼からなる被覆材で被覆された金属ワイヤーを溶湯に送線する方法に関して、連続的に添加されたマグネシウムの溶湯における歩留まりを向上させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔1〕すなわち、本発明は、マグネシウムを含有する複合物又はマグネシウム単体が 鋼からなる被覆材で被覆された金属ワイヤーを溶湯に送線するときにおいて、前記金属 ワイヤーの送線速度を送線中に変化させて、前記被覆材の前記溶湯中における溶解位置 を変化させる制御を行うことを特徴とする被覆マグネシウムワイヤー送線方法である。
【0010】
〕そして、前記送線速度を、所定の送線速度に対して0~150%の速度となる よう断続的に又は連続的に変化させる制御を行うことを特徴とする前記〔〕に記載の 被覆マグネシウムワイヤー送線方法である。
【0011】
〕そして、前記送線速度を周期的に変化させる制御を行うことを特徴とする前記 〔〕又は前記〔〕に記載の被覆マグネシウムワイヤー送線方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マグネシウムを含有する複合物又はマグネシウム単体が鉄又は鋼からなる被覆材で被覆された金属ワイヤーを溶湯に送線する方法に関して、連続的に添加されたマグネシウムの溶湯における歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の金属ワイヤー送線方法の概略図である。
図2図1におけるα部拡大図(一部破断)である。
図3】実施例1における送線時間と送線速度を示すグラフである。
図4】実施例2における送線時間と送線速度を示すグラフである。
図5】比較例1における送線時間と送線速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る金属ワイヤー送線方法に関する実施の形態について、添付の図面に基づいて詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するに好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に発明を限定する旨が明記されていない限り、この形態に限定されるものではない。そして、説明中の鉛直方向とは、図1における紙面の上下方向であり、水平方向とは、図1における紙面左右方向又は紙面前後方向などである。また、範囲を示す表現は、上限と下限を含むものである。
【0016】
本発明で用いられる金属ワイヤーWは、図2に示すように、マグネシウムを含有する複合物又はマグネシウム単体である芯材W1が鋼からなる被覆材W2で被覆された部材である。金属ワイヤーWは、鋳鉄、鉄鋼など溶融されている種々の金属である溶湯の成分調整や溶湯中の黒鉛の球状化に用いられ、それら金属の機械的物性の向上など各種の品質改善のために添加される長尺で線状の溶湯改質剤である。
【0017】
金属ワイヤーWは、溶融されている金属に対する改質目的に応じて、マグネシウム単体を鋼で被覆し、又はマグネシウム以外にも種々の材料を含有する複合物を鋼で被覆することができる。マグネシウム以外に含有される種々の材料としては、鉄鋼用に、脱酸のためにカルシウム及びシリコン、脱硫のためにカルシウム及びアルミニウムなどの無機物を用いることができる。そして、溶湯成分を安定させるために、硫黄を含有させたり、溶湯成分の微調整を行うために、炭素を含有させたりすることもできる。さらに、鋳鉄用に、脱硫又は球状化のために、シリコン、鉄などを含有させることもできる。
【0018】
芯材W1の径は、3~20mmであることが好ましく、6~16mmであることがさらに好ましい。芯材W1の径がこの範囲にあると、金属ワイヤーWを金属ワイヤー搬送装置2にて送線しやすくするとともに、被覆材W2が溶解したときに速やかに溶湯に溶解させやすくなる。
【0019】
被覆材W2の厚みは、0.05~0.6mmであることが好ましく、0.2~0.4mmであることがさらに好ましい。被覆材W2の厚みがこの範囲にあると、溶湯の深さLが浅いときにおいても速やかに溶解し、被覆されている芯材W1を露出させやすくなる。
【0020】
図1に示すように、一実施形態の送線装置1は、高温に熱せられ液状となった鋳鉄、鉄鋼などの金属を含有する溶湯5が充填された取鍋4の上方に、金属ワイヤーWを溶湯4に送線する金属ワイヤー搬送装置2と、金属ワイヤー搬送装置2から送線方向の下流側に向かって金属ワイヤーWを挿通する湾曲ガイドパイプ3及び直線ガイドパイプ4と有している。
【0021】
図1に示すように、送線装置1において、金属ワイヤーWの送線方向における上流には、金属ワイヤーWを送線する金属ワイヤー搬送装置2が水平方向に送線しうるように設けられている。金属ワイヤー搬送装置2の内部において、電動モーターMによってベルトを介して駆動する搬送ローラー軸22の周りで回転する円筒状の搬送ローラー21と、搬送ローラー21の回転に追従する、搬送ローラー21´、搬送ローラー軸22´が回転自在に設けられている。このため、対向する一対の搬送ローラー21・21´及び搬送ローラー21´・21´が金属ワイヤーWを挟持して、所定の送線方向へ金属ワイヤーWを送線することができる。
【0022】
また、搬送ローラー21の材質は、金属ワイヤーWによって変形しないよう金属ワイヤーWよりも硬いものが好ましく、ステンレス、アルミ合金などの金属であることが好ましい。また、搬送ローラー21の形状は、送線される金属ワイヤーWの曲がりによっても確実に挟持できるように、円筒状であることが好ましい。
【0023】
そして、金属ワイヤー搬送装置2には、電動モーターMによってベルトと、そのベルトによって回転される搬送ローラー軸22との間に、図示しない変速機が組み込まれている。そして、その変速機は図示しない制御装置によって制御され、搬送ローラー軸22の回転速度がその制御装置の記憶装置に格納されているプログラムに従って変化するように制御される。これにより、金属ワイヤーWの溶湯6への送線速度が変化する制御が行われることとなるために、金属ワイヤーWの先端における被覆材W2の溶解する溶湯6中での溶解位置が、鉛直方向すなわち溶湯6の液面と底面を結ぶ深さ方向にて変化し、露出した芯材W1が、溶湯6中のマグネシウム不飽和の部分に接触して溶解しやすくなることで、芯材W1に含まれる又は芯材W1を構成するマグネシウムの歩留まりを向上させることができる。また、搬送ローラー軸22の回転速度を、制御装置の記憶装置に格納されているプログラムによらず適宜手動で調整するようにしてもよい。
【0024】
さらに、金属ワイヤーWの溶湯6への送線速度を、金属ワイヤーWの先端が溶湯6中に位置するように、溶湯6の鉛直方向の深さL及び溶湯6の温度に応じて設定された送線速度に対して、0~150%、好ましくは0~130%の速度となるよう断続的に又は連続的に経時変化させる制御を行うことが好ましい。金属ワイヤーWの溶湯6への送線速度をこの範囲で変化させることにより、露出した芯材W1が、溶湯6中の特定の位置で熔融し続け当該箇所の溶湯6が飽和することが生じにくく、溶湯6中のマグネシウム不飽和の部分に接触して溶解しやすくなることで、芯材W1に含まれる又は芯材W1を構成するマグネシウムの歩留まりをより向上させることができる。なお、金属ワイヤーWの被覆材W2が溶湯6と接触して所定の時間が経過すると熔融して芯材W1が露出し、また、後述するように溶湯6の底面付近で芯材W1が露出することが好ましいことから、溶湯6の鉛直方向の深さL及び溶湯6の温度に応じて設定された送線速度は、(溶湯6の鉛直方向の深さL)÷(被覆材W2が溶湯6と接触して溶融する時間T)の計算式によって算出される送線速度未満となることが好ましい。
【0025】
さらに、金属ワイヤーWの溶湯6への送線速度を周期的に変化させる制御を行うことが好ましい。金属ワイヤーWの溶湯6への送線速度を周期的に変化させることにより、露出した芯材W1が、溶湯6中の特定の位置で熔融し続け当該箇所の溶湯6が飽和することが生じにくく、溶湯6中のマグネシウム不飽和の部分に接触して溶解しやすくなることで、芯材W1に含まれる又は芯材W1を構成するマグネシウムの歩留まりをより向上させることができる。
【0026】
また、被覆材W2の溶解位置が、溶湯6の深さ方向において溶湯6の深さLの半分よりも深い深さに位置していることが好ましい。溶湯6に対して金属ワイヤーWを送線するときに金属ワイヤーWにかかる熱履歴によって、金属ワイヤーWの先端の被覆材W2から溶解し、露出したマグネシウムが溶湯6と接触し熔融して溶湯6に溶解又は蒸散して溶湯6から飛散するところ、被覆材W2の溶解位置が、溶湯6の深さ方向において溶湯6の深さLの半分よりも深い深さに位置していることにより、熔融したマグネシウムがその位置及び周囲の溶湯6の一部に溶解できずに気泡となり溶湯6の液面に向かった上昇したとしてもその途中の溶湯6の一部と接触し溶解する可能性が高くなることから、被覆材W2の溶解位置を溶湯6の深さLの半分よりも浅い深さとすることに比べて、マグネシウムの歩留りを向上させることができる。
【0027】
湾曲ガイドパイプ3は、金属ワイヤー搬送装置2より金属ワイヤーWの送線方向における下流であって、直線ガイドパイプ4より金属ワイヤーWの送線方向における上流に位置しており、湾曲し、内部に金属ワイヤーWを挿通する中空状の部材である。金属ワイヤー搬送装置2より送出された金属ワイヤーWが、湾曲ガイドパイプ3の内部を通ることにより金属ワイヤーWの送線方向を曲げることができるので、金属ワイヤー搬送装置2が溶湯4の直上に位置しないようにすることにより、溶湯6と金属ワイヤーWが接触して生じる煙や溶湯6から発せられる熱に金属ワイヤー搬送装置2が曝されないようにして、金属ワイヤー搬送装置2の詰まりや部品の劣化を抑制し金属ワイヤー搬送装置2の寿命を延ばすことができる。そして、設置スペースを有効に活用することができる。
【0028】
また、直線ガイドパイプ4は、湾曲ガイドパイプ3より金属ワイヤーWの送線方向における下流に位置しており、内部に金属ワイヤーWを挿通する中空状で直線状の部材である。直線ガイドパイプ4に金属ワイヤーWを挿通して送線し、溶湯6の液面におおよそ垂直に投入できるように案内することができる。
【0029】
上述した方法では、金属ワイヤーWの送線速度を送線中に変化させることで、金属ワイヤーWの被覆材W2の溶湯6中における溶解位置をその鉛直方向で変化させているが、他の方法において、溶湯6を収納する取鍋5を静置した状態で、金属ワイヤーWを送線しながら、金属ワイヤー搬送装置2、湾曲ガイドパイプ3、直線ガイドパイプ4などの少なくとも1種を同時に水平方向に移動させて、或いは、これらの動きに加えて又は関係なく直線ガイドパイプ4などを鉛直方向から数度の角度で軌跡が扇型又は円錐状となるように随時傾けて、被覆材W2の溶湯6中における溶解位置を変化させる制御を行うことができるし、逆に、金属ワイヤー搬送装置2などを静置した状態で、金属ワイヤーWを送線しながら、取鍋5を水平方向に移動させて、被覆材W2の溶湯6中における溶解位置を変化させる制御を行うことができるし、さらには、金属ワイヤー搬送装置2などと取鍋5を異なる速度にて水平方向に移動させて、被覆材W2の溶湯6中における溶解位置を変化させる制御を行うことができる。そして、それらの水平方向の移動に加えて、金属ワイヤーWの送線速度も同時に変化させて鉛直方向にも被覆材W2の溶湯6中における溶解位置を変化させる制御を行う、すなわち、溶湯6中において三次元的に溶解位置を変化させる制御を行う制御を行うことができる。このように制御することにより、露出した芯材W1が、溶湯6中の特定の位置で熔融し続け当該箇所の溶湯6が飽和することが生じにくく、溶湯6中のマグネシウム不飽和の部分に接触して溶解しやすくなることで、芯材W1に含まれる又は芯材W1を構成するマグネシウムの歩留まりをより向上させることができる。
【実施例
【0030】
〔実施例1〕
図1に記載した送線装置などを用いて、溶湯6として1450℃に熱した鋳鉄(C:4.0重量%、Si:2.2重量%などをそれぞれ含有するが、マグネシウムは含有しない)100kgを取鍋5に注入し(このとき、溶湯6の深さLは400mm)、芯材1(Si:44重量%、Mg(マグネシウム):25重量%、Ca:3.0重量%などをそれぞれ含有し、1mあたりの充填量が123gとなる)を鋼である被覆材W2(厚み0.4mm)で被覆した金属ワイヤーW(線径が10mm)3.3mを以下のように送線した。
【0031】
被覆材W2の溶解位置が、溶湯6の深さ方向において溶湯6の深さLの半分よりも深い深さに位置するように溶湯6の上記の深さなどから算定した所定の送線速度が20m/minであり、この送線速度の125%である25m/min及び75%である15m/minの速度が極大及び極小の速度となるように約2秒周期で変化させて送線した。このときの送線時間(秒)と送線速度(m/min)の関係を図3に示しており、送線中に送線速度を変化させる制御を行うことで、金属ワイヤーWの被覆材W2の溶湯6中における溶解位置をその鉛直方向で変化させている。
【0032】
金属ワイヤーWを全て送線した後に、溶湯中におけるマグネシウムの含有割合を溶湯から採取したサンプルを固体発光分光分析装置で計測し、金属ワイヤーWとして投入したマグネシウム量に対する溶湯中に溶解しているマグネシウムの量の割合を、歩留りとして下式(1)に基づいて計算した。
歩留り(%)
=(処理後溶湯中のMg量)÷(投入Mg量)×100
=[(処理した溶湯の量)×(処理後の溶湯中のMg成分値)]÷(投入したMg量)×100・・・(1)
溶湯中におけるマグネシウムの含有割合は、0.048%であり、上記(1)式に基づいて計算すると、歩留りは47%であった。
【0033】
〔実施例2〕
実施例1と同一の送線装置、同種の鋳鉄、同種の金属ワイヤーWを用いて、以下のように送線した。被覆材W2の溶解位置が、溶湯6の深さ方向において溶湯6の深さLの半分よりも深い深さに位置するように溶湯6の上記の深さなどから算定した所定の送線速度である20m/minの125%である25m/min及び0%である0m/minの速度が極大及び極小の速度となるように1.5~3秒ほどの周期で変化させて送線した。すなわち、一時的に送線を止めながら、間欠的に送線した。このときの送線時間(秒)と送線速度(m/min)の関係を図4に示しており、送線中に送線速度を変化させる制御を行うことで、金属ワイヤーWの被覆材W2の溶湯6中における溶解位置をその鉛直方向で変化させている。
【0034】
このように送線したときの歩留りに関して、溶湯6中におけるマグネシウムの含有割合は、0.049%であり、上記(1)式に基づいて計算すると、歩留りは48%であった。
【0035】
〔比較例1〕
実施例1と同一の送線装置、同種の鋳鉄、同種の金属ワイヤーWを用いて、以下のように送線した。被覆材W2の溶解位置が、溶湯6の深さ方向において溶湯6の深さLの半分よりも深い深さに位置するように溶湯6の上記の深さなどから算定した所定の送線速度である20m/minで送線した。送線速度が20m/minに達してからは速度変化する制御を行わず、送線開始約7秒後に20m/minを少し超えているが、金属ワイヤーWがスリップしたためのもので制御されたものではない。このときの送線時間(秒)と送線速度(m/min)の関係を図5に示しており、送線中に所定の送線速度に達してからは変化させる制御を行わない従来の方法となっている。
【0036】
このように送線したときの歩留りに関して、溶湯6中におけるマグネシウムの含有割合は、0.044%であり、上記(1)式に基づいて計算すると、歩留りは43%であった。
【0037】
〔比較例2〕
金属ワイヤーWの送線速度を25m/minとした以外は、比較例1と同様に、金属ワイヤーWを溶湯6へ送線した。そのときの歩留りに関して、溶湯6中におけるマグネシウムの含有割合は、0.044%であり、上記(1)式に基づいて計算すると、歩留りは43%であった。
【0038】
以上の結果より、金属ワイヤーWを一定の送線速度で送線する比較例1及び比較例2に比べて、送線中に送線速度を変化させる制御を行うことで、金属ワイヤーWの被覆材W2の溶湯6中における溶解位置をその鉛直方向で変化する実施例1及び実施例2の方が、処理後の溶湯6中におけるマグネシウムの歩留りは優位差をもって向上しており、送線中に送線速度を変化させる制御を行うことは有用な手段であることが分かった。これは、一定の送線速度で送線する手段に比べて、送線中に送線速度を変化させる制御を行うことにより、金属ワイヤーWの先端の被覆材W2が溶解する溶湯6中の位置が鉛直方向で変化するために、露出したマグネシウムが溶湯6と接触し溶解するときにそのマグネシウム近傍の溶湯6は飽和に達しておらず溶解する割合が増加したことに起因すると推察される。
【符号の説明】
【0039】
1・・・送線装置
2・・・金属ワイヤー搬送装置
21、21´・・搬送ローラー
22、22´・・搬送ローラー軸
3・・・湾曲ガイドパイプ
4・・・直線ガイドパイプ
5・・・取鍋
6・・・溶湯
W・・・金属ワイヤー
M・・・電動モーター
図1
図2
図3
図4
図5