(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】トルクレンチ
(51)【国際特許分類】
B25B 23/142 20060101AFI20220215BHJP
B25B 23/157 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
B25B23/142
B25B23/157 Z
(21)【出願番号】P 2018081492
(22)【出願日】2018-04-20
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000161909
【氏名又は名称】京都機械工具株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(72)【発明者】
【氏名】中田 祥吾
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】実公昭16-015960(JP,Y1)
【文献】特開平02-256470(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0109730(US,A1)
【文献】特開2011-062791(JP,A)
【文献】登録実用新案第3196898(JP,U)
【文献】実公昭49-018312(JP,Y1)
【文献】特開平08-132354(JP,A)
【文献】特開昭62-203771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B13/00-23/18
B23P19/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
締付部材と係合可能な係合部と、
前記係合部に係合される前記締付部材と同一の軸方向に協動して回動する回動軸と、
前記回動軸と協動する歯車と、
前記歯車と同一の方向に回動可能であり前記歯車の歯面と対向する箇所に設けられ複数の前記歯面に嵌合可能な嵌合部、及び、前記歯面と嵌合不能な非嵌合部を有する爪部と、
前記爪部の回動を規制し、前記爪部に加わるトルクが設定トルク値に達すると前記爪部の回動の規制を解く規制部と、
を備え、
前記規制部による回動の規制が解かれた前記爪部は、前記締付部材の締付方向に回動して、前記嵌合部と前記歯車の歯面との嵌合が解かれるように構成されており、
前記嵌合部は、複数の前記歯面からの力を分散する、
トルクレンチ。
【請求項2】
前記規制部は、前記爪部の回動の規制を解く前記設定トルク値を所定の値に設定可能である、
請求項1に記載のトルクレンチ。
【請求項3】
前記規制部は、
前記爪部に接触して前記爪部の回動を規制する接触部と、
前記爪部に加わるトルクが前記設定トルク値に達するまで弾性力により前記接触部を付勢する弾性体と、
を備える、
請求項1に記載のトルクレンチ。
【請求項4】
前記規制部は、
前記弾性体が前記接触部を付勢させる弾性力を変化させることで前記爪部の回動の規制を解く前記設定トルク値を所定の値に設定可能である、
請求項3に記載のトルクレンチ。
【請求項5】
前記爪部は、複数設けられそれぞれ前記歯車の歯面の異なる箇所に係合し、
前記規制部は、前記爪部に対応して複数設けられる、
請求項1に記載のトルクレンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクレンチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、締付トルクを管理するための締付工具として、トルクレンチが知られている。トルクレンチは、ボルトやナットなどの締付部材を締付箇所に締め付けるときに発生する締付トルクが、予め締付工具に設定されたトルク値(以下「設定トルク値」という)に達したことを作業者に報知する。
【0003】
なお、トルクレンチにおいて、不図示の締結部材又は切削工具に対してトルクを与えるために小さい形状で構成が単純であるものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。このトルクレンチは、ロッドと、ロッドに取り付けられたレンチ要素と、ロッドに同軸にかつ回転不能に配置されたギアとを含み、ギアは複数の歯を有する。また、このトルクレンチは、ばねの自由縁がギアと係合する状態でハウジングに固定されたばねを含むキャビティ内の板ばね配列体とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のトルクレンチは、板ばね配列体が、レンチ要素に第1レベルを下回るトルクが与えられたとき、ハウジングに対するギア及びロッドの回転を防止する。また、上記トルクレンチは、第1レベルを上回るトルクがレンチ要素に与えられたとき、ハウジングに対するギア及びロッドの回転を許容する。
【0006】
しかし、特許文献1のトルクレンチでは、板ばね配列体がギアの1つの歯の一方の歯面にのみ接することでロッドが固定されていた。このため、特許文献1のトルクレンチでは、ギアを固定する力が、1つの歯面及び板ばね配列体に集中していた。つまり、特許文献1のトルクレンチでは、大きな締付トルクに対応しようとするとトルクが加わる歯車及び板ばね配列体を大型化する必要があった。このように、特許文献1のトルクレンチでは、小型で締付作業の作業性が良好にすることが難しかった。
【0007】
本発明は、小型で作業性が良好なトルクレンチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、締付部材と係合可能な係合部と、係合部に係合される締付部材と同一の軸方向に協動して回動する回動軸と、回動軸と協動する歯車と、歯車と同一の方向に回動可能であり歯車の歯面と対向する箇所に設けられ複数の歯面に嵌合可能な嵌合部及び歯面と嵌合不能な非嵌合部を有する爪部と、爪部の回動を規制し、爪部に加わるトルクが設定トルク値に達すると爪部の回動の規制を解く規制部と、を備え、嵌合部は、複数の歯面からの力を分散する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小型で作業性が良好なトルクレンチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るトルクレンチの実施形態を示す斜視図である。
【
図4】(a)
図1に示したトルクレンチの内部構造を示す正面方向からの部分断面図、及び、(b)爪部の周辺の部分拡大断面図である。
【
図5】(a)
図1に示したトルクレンチの内部構造を示す正面方向からの部分断面図、(b)爪部の周辺の部分拡大断面図であり、締付トルクが設定トルク値に達した直後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るトルクレンチの実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下の説明において、トルクレンチとは、締付トルクが予め締付工具に設定されたトルク値(以下「設定トルク値」という)に達したことを作業者に認識させる締付工具の一例である。また、本実施形態におけるトルクレンチは、作業者の操作により設定トルク値の変更ができるいわゆるプリセット型トルクレンチである。
【0012】
なお、以下の説明及び図面において、トルクレンチの係合部が設けられる面とは反対の面、つまりトルクレンチを用いて締付作業を行う際にこのトルクレンチが作業者と向かいあう面を正面とする。そして、以下の説明及び図面において、トルクレンチの係合部が設けられる面を背面とする。
【0013】
[トルクレンチの構成]
図1は、本発明に係るトルクレンチ10の実施形態を示す斜視図である。また、
図2は、トルクレンチ10の正面図である。さらに、
図3は、トルクレンチ10の側面図である。
図1乃至
図3に示すように、トルクレンチ10は、係合部11と、回動軸12と、本体部13とを備える。
【0014】
係合部11は、トルクレンチ10の背面から突出して設けられる。係合部11は、不図示の締付部材と係合可能である。係合部11は、例えば、上記締付部材と係合する不図示のソケットレンチ(ボルトまたはナット締付用)を着脱自在に取り付けることができるように、上記ソケットレンチの嵌合孔に嵌合可能な形状を有する。
【0015】
なお、係合部11は、上述のように上記ソケットレンチを介して上記締付部材と係合可能なものに限定されない。係合部11は、例えば、上記締付部材と直接的に係合可能なレンチとして機能する形状を有してもよい。
【0016】
回動軸12は、正面視においてトルクレンチ10の中央部に設けられる。回動軸12は、係合部11と一体に形成される。回動軸12は、係合部11と同軸に設けられ、係合部11とともに回動する。つまり、回動軸12は、係合部11に係合される上記締付部材と同一の軸方向に協動して回動する。
【0017】
本体部13は、トルクレンチ10の外形形状を定め、内部に後述するトルクレンチ10の構成要素を収容する筐体である。本体部13には、回動軸12に設けられる係合部11が外部に露出した孔131と、後述する規制部16に設定する設定トルク値を調整するためのトルク調整孔132が設けられる。トルク調整孔132には、メネジが設けられ、本体部13の内部を貫通する孔である。
【0018】
図4は、(a)トルクレンチ10の内部構造を示す正面方向からの部分断面図、及び、(b)爪部15の周辺の部分拡大断面図である。
図4に示すように、トルクレンチ10は、本体部13の内部に、歯車14と、爪部15と、規制部16とを備える。
図4(a)において、規制部16周辺の本体部13の一部を断面図にしている。
【0019】
歯車14は、回動軸12と同軸に設けられ、回動軸12に固着される。歯車14は、回動軸12を介して係合部11と協動する。歯車14は、任意の歯数の歯141を有する。歯141の歯面142は、回動軸12に沿った方向が長手方向となるように設けられる。
【0020】
爪部15は、爪部本体151、支持軸152、嵌合部153、非嵌合部154、及び、凹部155を備える。爪部本体151は、円板カムのような、支持軸152の中心から側面に設けられる周面までの距離が一定ではない偏心形状を有する。爪部本体151は、周面に嵌合部153、非嵌合部154、及び凹部155が設けられる。
【0021】
支持軸152は、回動軸12と平行な方向を軸方向とする軸部材である。支持軸152は、爪部本体151を歯車14と同一の方向に回動可能に支持する。嵌合部153は、上述のように爪部本体151の歯車14の歯面142と対向する箇所に設けられる。嵌合部153は、複数の歯面142に対応する形状、つまり嵌合可能な形状を上記箇所に有する。非嵌合部154は、歯面142に対応しない平滑な形状、つまり嵌合不能な形状を有する。
図4(b)に示すように、爪部本体151において、支持軸152の中心から嵌合部153までの距離d1は、支持軸152の中心から非嵌合部154までの距離d2よりも長い。凹部155は、規制部16と接することで、規制部16による回動規制を受ける部位である。
【0022】
規制部16は、ボール161と、コイルバネ162と、トルク調整ネジ163とを備える。ボール161は、爪部15の凹部155と本体部13とに接触して爪部15の回動を規制する接触部として機能する。コイルバネ162は、爪部15に加わるトルクが設定トルク値に達するまで弾性力によりボール161を爪部15及び本体部13に付勢する弾性体として機能する。トルク調整ネジ163は、止めネジのようにトルク調整孔132に挿入可能なネジである。トルク調整ネジ163は、トルク調整孔132に設けられるメネジに螺合する。トルク調整ネジ163は、先端部がコイルバネ162に接触し、コイルバネ162からボール161に弾性力を与える。
【0023】
また、トルク調整ネジ163は、その止め位置によってコイルバネ162の押圧力を調整することができる。つまり、規制部16は、コイルバネ162がボール161を付勢させる弾性力を変化させることで、爪部15の回動の規制を解く設定トルク値を所定の値に設定可能である。
【0024】
図4に示すように、爪部15は、トルクレンチ10において複数設けられる。爪部15は、それぞれ歯車14の歯面142の異なる箇所に係合する。規制部16は、爪部15の数に対応して複数設けられる。爪部15及び規制部16は、
図4に示すように複数設けられるものに限定されない。爪部15及び規制部16は、トルクレンチ10において1組設けられてもよい。また、爪部15の嵌合部153は、歯車14の複数の歯面142に嵌合するものに限定されない。爪部は、例えば歯車14の1つの歯面142に嵌合するものを複数設けて、複数の爪部が歯車14の複数の歯面142に嵌合してもよい。
【0025】
[トルクレンチの動作]
次に、以上説明したトルクレンチ10の動作について説明する。トルクレンチ10において、ラチェット機構を構成する歯車14、爪部15、及び規制部16により、締付トルクが設定トルク値に達したことを作業者に報知する機能を実現する。
【0026】
図4に示すように、規制部16は、ボール161及びコイルバネ162により爪部15の回動を規制する。規制部16により回動が規制された爪部15は、嵌合部153が歯車14の複数の歯141の歯面142と接触することで歯車14の回動を規制する。トルクレンチ10では、嵌合部153が歯車14の複数の歯141の歯面142と接触することで、歯車14と爪部15との間に加わる力を分散することができる。トルクレンチ10では、規制部16が歯車14の回動を規制することで、歯車14と回動軸12及び係合部11とが協働する。そして、トルクレンチ10では、作業者が本体部13を把持してトルクレンチ10を回動させると、係合部11に係合するソケットレンチ及び締付部材が回動し、締付作業を行うことができる。
【0027】
図5は、(a)トルクレンチ10の内部構造を示す正面方向からの部分断面図、(b)爪部15の周辺の部分拡大断面図であり、締付トルクが設定トルク値に達した直後の状態を示す図である。
図5に示すように、爪部15は、回動軸12及び歯車14を介して爪部15に加わるトルクが設定トルク値に達すると、規制部16による爪部15の回動の規制が解かれる。規制部16による回動の規制が解かれた爪部15は、矢印で示す右ネジの締付方向に回動し、嵌合部153と歯車14の歯141との嵌合が解かれる。
【0028】
ここで、
図5(b)を参照すると、上述のように、支持軸152の中心から嵌合部153までの距離d1は、支持軸152の中心から非嵌合部154までの距離d2よりも長い。このため、嵌合部153と歯141との嵌合が解かれることで、歯車14が非嵌合部154により空転する。つまり、トルクレンチ10では、締付トルクが設定トルク値に達したとき、本体部13が回動軸12及び回動軸12と協働する係合部11及び締付部材に対して空転する。
【0029】
係合部11及び締付部材に対して本体部13が空転した後、トルクレンチ10では、規制部16により爪部15の嵌合部153及び非嵌合部154の位置が再び
図4の状態に戻る。爪部15の位置が
図4の状態に戻ることで、トルクレンチ10は、再び締付作業を行うことができる。
【0030】
以上説明したように、トルクレンチ10によれば、回動軸12に対して本体部13が空転することで、設定トルク値に達したことを作業者に報知することができる。したがって、トルクレンチ10によれば、締付作業の作業性を向上することができる。
【0031】
また、トルクレンチ10では、嵌合部153が歯車14の複数の歯141の歯面142と接触することで、締付作業時に歯車14と爪部15との間に加わる力を分散することができる。このため、トルクレンチ10では、締付作業時に力を受ける爪部15の強度を上げることができるため、小型でありながら高い設定トルク値に設定することができる。また、トルクレンチ10では、締付作業時に歯車14と爪部15との間に加わる力を分散することができるため、設定トルク値に達したことを作業者に報知する機構の軽量化や作成するための材料選択の自由度を高めることもできる。
【0032】
トルクレンチ10では、嵌合部153が複数の歯141の歯面142と接触することで、歯車14の歯数を多くして送り量を小さくすることができる。トルクレンチ10によれば、設定トルク値に達したときの送り量を小さくすることで、狭小空間での締付作業でも扱いやすいため、小型な工具でありながら締付作業の作業性を向上することができる。
【0033】
また、トルクレンチ10は、
図3に示すように設定トルク値に達したときに動作する歯車14、爪部15、及び規制部16の構成要素が軸方向の長さが短い本体部13に収容することができる。このため、トルクレンチ10は、軸方向の空間が狭い狭小空間における締付作業の作業性を向上することができる。
【符号の説明】
【0034】
10 トルクレンチ
11 係合部
12 回動軸
13 本体部
14 歯車
15 爪部
16 規制部
131 孔
132 トルク調整孔
141 歯
142 歯面
151 爪部本体
152 支持軸
153 嵌合部
154 非嵌合部
155 凹部
161 ボール
162 コイルバネ
163 トルク調整ネジ