(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/06 20060101AFI20220215BHJP
H04B 7/0413 20170101ALI20220215BHJP
H01Q 3/30 20060101ALI20220215BHJP
G01S 3/46 20060101ALI20220215BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
H01Q21/06
H04B7/0413 300
H01Q3/30
G01S3/46
G01S7/02 218
(21)【出願番号】P 2017196160
(22)【出願日】2017-10-06
【審査請求日】2020-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】時枝 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】西山 拓真
(72)【発明者】
【氏名】小田 康明
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-058359(JP,A)
【文献】特開2016-154336(JP,A)
【文献】特開2016-042036(JP,A)
【文献】特開2017-090229(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0288497(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105467372(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 21/06
H04B 7/0413
H01Q 3/30
G01S 3/46
G01S 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向
に複数の配設位置が設けられ、前記配設位置のうち一部の配設位置に実在アンテナ素子が配設され、他の配設位置には前記実在アンテナ素子が配設されない仮想アンテナ素子が配設された水平アンテナ素子群が、垂直方向に複数、かつ、端部が水平方向にずれるように配設された2次元アレーアンテナと、処理部とを備え、
各前記水平アンテナ素子群は、
前記実在アンテナ素子間の位相差を利用して
前記仮想アンテナ素子の信号を補間できるように
前記実在アンテナ素子が
配設され
、
前記実在アンテナ素子の配設位置に対応する数値を最上行として並べるとともに前記実在アンテナ素子の配設位置に対応する前記数値を符号反転した数値を最左列として並べてこれらの数値を縦横加算した行列内の数値である共分散行列の独立成分が連番であり、
かつ、垂直方向に並ぶいずれかの列の前記実在アンテナ素子の共分散行列の独立成分が連番になるように水平方向にずれて配置されており、
前記処理部は、
すべての前記実在アンテナ素子に対する共分散行列の独立成分を前記水平アンテナ素子群に対応する水平独立成分群ごとに垂直方向に並べ、前記水平独立成分群ごとにフーリエ変換を行い、
前記フーリエ変換の結果に基づいて、垂直方向における前記水平独立成分群の重なりが多くなるように、前記水平独立成分群を水平方向にずらし、
水平方向にずらされた前記水平独立成分群を垂直方向にフーリエ変換する、
ことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
ある特定の実在アンテナ素子の位置を基準点とし、その基準点から他の実在アンテナ素子の相対位置によって決まる位相差を
利用して仮想アンテナ素子の信号を生成する演算規則に基づき、任意の
配設位置における仮想アンテナ素子の信号を生成するための
実在アンテナ素子間の対応関係を保持し、前記保持した対応関係に基づ
いて仮想アンテナ素子の信号を生成する、ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記処理部は、水平方向のフーリエ変換の結果に対し、各
配設位置に基づく位相回転を施し、
垂直方向における前記水平独立成分群の重なりが多くなるように、前記水平独立成分群を水平方向にずらす、ことを特徴とする請求項
1または2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記処理部は、水平方向と垂直方向の処理の順序を入れ替えての実施が可能である、ことを特徴とする請求項
1ないし3のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナ素子(放射素子)が水平方向と垂直方向に配設されたアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダーのアレーアンテナ装置において、分解能を高めるにはアンテナの開口長を大きくすることが有効である。しかしながら、多くのアンテナ素子を配設すると、コストが嵩むばかりでなく、回路規模や演算規模が大きくなり実用化が困難になるおそれがある。一方、少ないアンテナ素子を長い開口に配設すると、グレーティングローブが発生して測角できる角度範囲が狭くなり、真の方位を推定できなくなる。
【0003】
このため、少ないアンテナ素子で大開口と同等の性能を得るための手法として、共分散行列を利用したKhatri-Rao積(以下、「KR積」という)拡張アレーが提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。詳細は後述するが、このKR積拡張アレーは、所定の間隔で直線状に配設されるべき実在アンテナ素子のうち、所定の条件を満たす一部の位置に仮想アンテナ素子を配設する(実在アンテナ素子を配設しない)ことで、あたかもすべての位置に実在アンテナ素子が配設されたとみなせるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】W.K.Ma,et al., IEEE Transactions on Signal Processing, vol.58,no.4,pp.2168-2180, April 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、方位と高さを検出するには、複数の実在アンテナ素子を水平方向(横方向)と垂直方向(縦方向)に2次元、格子状に配設する必要があるが、多くの実在アンテナ素子を要する。しかも、実在アンテナ素子の大きさや給電ポートの大きさなどの制約によって、実在アンテナ素子を理想的に配設できない場合がある。また、上記非特許文献1に示すような技術では、実在アンテナ素子が直線状に配設されたアンテナのみを対象とし、実在アンテナ素子を2次元に配設する場合については開示されていない。
【0006】
そこで本発明は、少ない実在アンテナ素子で方位と高さを検出することが可能なアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、水平方向に複数の配設位置が設けられ、前記配設位置のうち一部の配設位置に実在アンテナ素子が配設され、他の配設位置には前記実在アンテナ素子が配設されない仮想アンテナ素子が配設された水平アンテナ素子群が、垂直方向に複数、かつ、端部が水平方向にずれるように配設された2次元アレーアンテナと、処理部とを備え、各前記水平アンテナ素子群は、前記実在アンテナ素子間の位相差を利用して前記仮想アンテナ素子の信号を補間できるように前記実在アンテナ素子が配設され、前記実在アンテナ素子の配設位置に対応する数値を最上行として並べるとともに前記実在アンテナ素子の配設位置に対応する前記数値を符号反転した数値を最左列として並べてこれらの数値を縦横加算した行列内の数値である共分散行列の独立成分が連番であり、かつ、垂直方向に並ぶいずれかの列の前記実在アンテナ素子の共分散行列の独立成分が連番になるように水平方向にずれて配置されており、前記処理部は、すべての前記実在アンテナ素子に対する共分散行列の独立成分を前記水平アンテナ素子群に対応する水平独立成分群ごとに垂直方向に並べ、前記水平独立成分群ごとにフーリエ変換を行い、前記フーリエ変換の結果に基づいて、垂直方向における前記水平独立成分群の重なりが多くなるように、前記水平独立成分群を水平方向にずらし、水平方向にずらされた前記水平独立成分群を垂直方向にフーリエ変換する、ことを特徴とするアンテナ装置である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアンテナ装置において、ある特定の実在アンテナ素子の位置を基準点とし、その基準点から他の実在アンテナ素子の相対位置によって決まる位相差を利用して仮想アンテナ素子の信号を生成する演算規則に基づき、任意の配設位置における仮想アンテナ素子の信号を生成するための実在アンテナ素子間の対応関係を保持し、前記保持した対応関係に基づいて仮想アンテナ素子の信号を生成する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のアンテナ装置において、前記処理部は、水平方向のフーリエ変換の結果に対し、各配設位置に基づく位相回転を施し、垂直方向における前記水平独立成分群の重なりが多くなるように、前記水平独立成分群を水平方向にずらす、ことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアンテナ装置において、前記処理部は、水平方向と垂直方向の処理の順序を入れ替えての実施が可能である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、実在アンテナ素子間の位相差を利用して、実在アンテナ素子が配置されていない、垂直方向および水平方向に連続配置した仮想アンテナ素子が形成できるように実在アンテナ素子が配列されているため、少ない実在アンテナ素子で方位と高さを検出することが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、所定の演算規則に基づき、任意の配設位置における仮想アンテナ素子の信号を生成するための実在アンテナ素子間の対応関係を保持し、保持した対応関係に基づいて仮想アンテナ素子の信号を生成するため、少ない実在アンテナ素子で方位と高さを検出することが可能となる。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、各行水平方向にフーリエ変換し、各列垂直方向にフーリエ変換することによって、縦横に広い実在アンテナ素子が配設されたのと同等の2次元アレーアンテナを構成することが可能となる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、さらに大きな領域をフーリエ変換の対象とするため、縦横により広く実在アンテナ素子が配設されたのと同等の2次元アレーアンテナを構成することが可能となる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、水平方向と垂直方向の処理の順序を入れ替えての実施が可能であるため、処理、設計の自由度が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の実施の形態に係るアンテナ装置を示す概略構成図である。
【
図2】
図1のアンテナ装置を備えたレーダー装置を示す概略構成図である。
【
図3】この発明の実施の形態におけるKR積拡張アレーを説明するための共分散行列を示す図であり、すべてのアレーが存在する場合の図である。
【
図4】
図3の共分散行列において、一部のアレーが欠落する場合を示す図である。
【
図5】この発明の実施の形態におけるKR積拡張アレーを説明するためのアンテナ素子の補間状態例を示す図である。
【
図6】
図5の場合の共分散行列の指数のみを示す図である。
【
図7】
図1のアンテナ装置の2次元アレーアンテナの水平アンテナ素子群の一例を示す図(a)と、2次元アレーアンテナの一例を示す図(b)である。
【
図8】
図1のアンテナ装置において、複数の水平独立成分群を縦方向に並べた状態を示す概念図(a)と、水平独立成分群を水平方向にずらした状態を示す概念図(b)である。
【
図9】
図8(a)の状態からフーリア変換した状態を示す概念図である。
【
図10】
図9の状態における各素子成分の位相状態を示す説明図である。
【
図11】
図9の状態から各素子成分をずらす方法を示す説明図である。
【
図12】
図1のアンテナ装置の処理部を説明するための2次元アレーアンテナを示す説明図である。
【
図13】
図12の2次元アレーアンテナに対する共分散行列の指数のみを示す図である。
【
図14】
図13の共分散行列に基づいて水平独立成分群を縦方向に並べた状態を示す図である。
【
図15】
図1のアンテナ装置を適用するMIMOレーダー用のアンテナの一例を示す図である。
【
図16】
図15のMIMOレーダー用のアンテナによる仮想アレーアンテナ構成を示す図である。
【
図17】
図16の仮想アレーアンテナを
図1のアンテナ装置に適用した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0019】
図1~
図17は、この発明の実施の形態を示し、
図2は、この実施の形態に係るアンテナ装置2を備えたレーダー装置1を示す概略構成図である。このレーダー装置1は、主として2次元アレーアンテナ4と処理部5を備えるアンテナ装置2と、受信信号をデジタルビームフォーミング等によって信号処理してレーダー映像に変換する信号処理装置3と、を備える。
【0020】
ここで、まず、KR積拡張アレーについて説明する。所定の間隔で直線状に実在アンテナ素子が配設されている場合、例えば
図3に示すように、アンテナの受信信号と受信信号の複素共役との共分散行列は、その独立成分が連続(連番)となる。また、実在アンテナ素子が配設されるべき位置に実在アンテナ素子が配設されていない場合、すなわち、例えば
図4に示すように、共分散行列の成分に冗長性があれば受信信号と受信信号の複素共役とに欠落がある場合であっても、共分散行列における独立成分が連続となる場合がある。このように、所定の条件を満たす一部の位置に、実在アンテナ素子を配設しないで仮想アンテナ素子(欠落)を配設しても、すべての位置に実在アンテナ素子が配設されているとみなせる場合がある。つまり、信号の欠落をKR積で補間できる場合がある。
【0021】
具体的には、例えば
図5に示すように、所定の間隔dごとに複数の配設位置P
0~P
7が設けられ、この配設位置P
0~P
7のうち一部の配設位置P
0、P
1、P
2、P
4、P
7に実在アンテナ素子F
0、F
1、F
2、F
4、F
7が配設され、他の配設位置P
3、P
5、P
6には実在アンテナ素子が配設されない仮想アンテナ素子F
3、F
5、F
6が配設されているとする。この場合、仮想アンテナ素子F
3、F
5、F
6の信号を、間隔dを利用して実在アンテナ素子F
0、F
1、F
2、F
4、F
7の信号で補間することができる。
【0022】
すなわち、仮想アンテナ素子F3は、実在アンテナ素子F7から間隔4dだけ離れているため、実在アンテナ素子F0、F4間の信号差(位相回転)S4を利用して補間する。同様に、仮想アンテナ素子F5は、実在アンテナ素子F7から間隔2dだけ離れているため、実在アンテナ素子F0、F2間の信号差S2を利用して補間する。また、仮想アンテナ素子F6は、実在アンテナ素子F7から間隔dだけ離れているため、実在アンテナ素子F0、F1間の信号差S1を利用して補間する。
【0023】
さらに、同様にして、実在アンテナ素子F0を原点とする反対方向の配設位置P-1~P-7に、複素共役の仮想アンテナ素子F-1~F-7を配設することができる。このように、5つの実在アンテナ素子F0、F1、F2、F4、F7で、15のアンテナ素子F-7~F7を配設したのと等価のアンテナを構成することが可能となる。
【0024】
そして、このようなKR積拡張アレーが成立するには、共分散行列における独立成分が連続となる必要がある。すなわち、共分散行列e
inα(n:0、±1、±2・・・)における独立成分の指数のみを見た場合、
図5に示すアレーでは、
図6に示すような行列となり、-7~+7まで連番が得られ、KR積拡張アレーが成立することになる。換言すると、このように独立成分が連続となるように、実在アンテナ素子つまり仮想アンテナ素子を配設する必要がある。ここで、
図6は、図中最上行に実在アンテナ素子F
0、F
1、F
2、F
4、F
7の配設位置に対応する数値(0、1、2、4、7)が記載され、図中最左列に実在アンテナ素子F
0、F
1、F
2、F
4、F
7の配設位置に対応する複素共役の数値(-0、-1、-2、-4、-7)が記載され、これらの数値を縦横加算した数値がマトッリクス状に記載されているものに相当する。
【0025】
このようなKR積拡張アレーを前提として、アンテナ装置2の2次元アレーアンテナ4が構成されている。具体的には、次のような構成のアンテナ装置2となっている。
横方向に複数の配設位置が設けられ、前記配設位置のうち一部の配設位置に実在アンテナ素子が配設され、他の配設位置には前記実在アンテナ素子が配設されない仮想アンテナ素子が配設された水平アンテナ素子群が、複数縦方向に、かつ、端部が横方向にずれるように配設され、
各前記水平アンテナ素子群の実在アンテナ素子は、共分散行列における独立成分が連続するように配設され、かつ、縦方向に並ぶいずれかの列の前記実在アンテナ素子に対して、共分散行列における独立成分が連続するように各前記水平アンテナ素子群がずれて配設され、
すべての前記実在アンテナ素子に対する共分散行列の独立成分を前記水平アンテナ素子群に対応する水平独立成分群ごとに縦方向に並べ、前記水平独立成分群ごとにフーリエ変換してその結果に基づいて、縦方向における前記水平独立成分群の重なりが多くなるように前記水平独立成分群を水平方向にずらす処理部を備える、ことを特徴とするアンテナ装置。
【0026】
まず、例えば
図7(a)に示すように、横方向(水平方向)に複数の配設位置P0~P14が設けられ、この配設位置P0~P14のうち一部の配設位置P0、P1、P3、P4、P6、P7、P10、P11、P13、P14に実在アンテナ素子RFが配設され、他の配設位置P2、P5、P8、P9、P12には実在アンテナ素子RFが配設されない仮想アンテナ素子VFが配設されたアンテナ素子群を、水平アンテナ素子群HAとする。
【0027】
このような水平アンテナ素子群HAが、
図7(b)に示すように、複数縦方向に、かつ、端部が横方向に(垂直方向から見て)ずれるように配設されて、2次元アレーアンテナ4が構成されている。すなわち、水平アンテナ素子群HAが縦方向に複数配設された状態で、全体が長方形状ではなく、両側辺が真っ直ぐ縦に延びないように(凹凸または傾斜するように)、複数の水平アンテナ素子群HAが配設されている。
【0028】
ここで、各水平アンテナ素子群HAの実在アンテナ素子RFは、共分散行列における独立成分が連続するように配設されている。すなわち、各水平アンテナ素子群HAが上記のようなKR積拡張アレーを形成するように、実在アンテナ素子RFと仮想アンテナ素子VFが設けられている。この要件を満たせば、各水平アンテナ素子群HAの実在アンテナ素子RFと仮想アンテナ素子VFの配設は、同一でも異なっていてもよい。
【0029】
また、縦方向に並ぶいずれかの列Lの実在アンテナ素子RFに対して、共分散行列における独立成分が連続するように各水平アンテナ素子群HAがずれて配設されている。すなわち、複数の水平アンテナ素子群HAのアンテナ素子RF、VFが縦方向に並び連なる集合を列Lとする。そして、いずれかの列Lにおいて上記のようなKR積拡張アレーを形成するように、つまり、該列Lでの共分散行列における独立成分が連続になるように、各水平アンテナ素子群HAがずれて配設されている。
【0030】
例えば、
図7(b)の列L7において、縦方向に上から順に、実在アンテナ素子RF、実在アンテナ素子RF、仮想アンテナ素子VF、仮想アンテナ素子VF、実在アンテナ素子RFと配設されて、共分散行列における独立成分が連続になるように配設されている。換言すると、これらの要件を満たしさえすれば、2次元アレーアンテナ4を配設するスペースの大きさ、形状や実在アンテナ素子RFの大きさなどに応じて、実在アンテナ素子RFを配設すればよく、配設自由度が高い。
【0031】
次に、処理部5は、すべての実在アンテナ素子RFに対する共分散行列の独立成分IFを水平アンテナ素子群HAに対応する水平独立成分群HFごとに縦方向に並べ、水平独立成分群HFごとにフーリエ変換してその結果に基づいて、縦方向における水平独立成分群HFの重なりが多くなるように水平独立成分群HFを水平方向にずらし、さらに、縦方向に連なる独立成分IFを縦方向(列)ごとにフーリエ変換するものである。
【0032】
すなわち、概念的には、例えば、
図7(b)に示すように実在アンテナ素子RF(0、1、2…14…)のすべてに対して共分散行列を演算し、
図8(a)に示すように、その独立成分IFを水平アンテナ素子群HAに対応する水平独立成分群HFごとに縦方向に並べる。このとき、各水平独立成分群HFの端部が横方向に(垂直方向から見て)ずれており、縦方向における水平独立成分群HFの重なり、つまり、すべての水平独立成分群HFが重なる領域SFは小さい。
【0033】
次に、水平独立成分群HFごとにフーリエ変換し、その結果に基づいて、
図8(b)に示すように、縦方向における水平独立成分群HFの重なりが多くなるように、つまり、各水平独立成分群HFの端部の横方向のずれが小さくなるように、水平独立成分群HFを水平方向にずらす。これにより、すべての水平独立成分群HFが重なる領域SFが大きくなる。さらに、縦方向に連なる独立成分IFを縦方向(列)ごとにフーリエ変換する。
【0034】
このような処理について、
図9に示す例に基づいて具体的に説明する。
図9では、
図1に示す水平フーリエ変換器(FFT)51で水平独立成分群HFごとにフーリエ変換した後において、第0(基準)の水平独立成分群HF
0に対して、第1の水平独立成分群HF
1が1アンテナ素子分右にずれ、第2の水平独立成分群HF
2が2アンテナ素子分右にずれ、第kの水平独立成分群HF
kがkアンテナ素子分右にずれているものとする。また、各水平独立成分群HFにおける素子成分数は、「0」、「1」、「2」…「m」…「N-1」のN個とする。そして、各水平独立成分群HF
0~kにおいては、
図10に示すように、第0(基準)の素子成分(図中「0」)が0位相回転し(回転してない)、第1の素子成分(図中「1」)がλ/dN(λ:波長、d:素子間隔、N:素子数)だけ位相が回転し、第2の素子成分(図中「2」)が2λ/dNだけ位相が回転し、第mの素子成分(図中「m」)がmλ/dNだけ位相が回転している。
【0035】
そして、縦方向における水平独立成分群HF0~kの重なりが多くなるように、水平独立成分群HF0~kを水平方向にずらすには、例えば、第0の水平独立成分群HF0の左端に他の水平独立成分群HF1~kの左端を合わせればよい。すなわち、第1の水平独立成分群HF1を1アンテナ素子分左にずらし、第2の水平独立成分群HF2を2アンテナ素子分左にずらし、第kの水平独立成分群HFkをkアンテナ素子分左にずらす。
【0036】
このような移動を行うには、上記のように、各素子成分の位相が回転していることから、
図1に示す乗算器(位相回転部)52によって各素子成分にexp(-ikλm/dN)を乗ずればよい。具体的には、
図11に示すように、第0の水平独立成分群HF
0の各素子成分には、exp(-i0λm/dN)=1を乗ずるため、そのままの値となる。次に、第1の水平独立成分群HF
1の各素子成分には、
exp(-iλm/dN)
m:0~(Nー1)
を乗ずればよい。例えば、第1の素子成分にexp(-iλ/dN)を乗じ、第2の素子成分にexp(-i2λ/dN)を乗じ、第mの素子成分にexp(-imλ/dN)を乗じる。
【0037】
同様に、第2の水平独立成分群HF2の各素子成分に、exp(-i2λm/dN)を乗じ、第kの水平独立成分群HFkの各素子成分に、exp(-ikλm/dN)を乗じる。具体的に、第kの水平独立成分群HFkの場合、第1の素子成分にexp(-ikλ/dN)を乗じ、第2の素子成分にexp(-i2kλ/dN)を乗じ、第mの素子成分にexp(-imkλ/dN)を乗じる。
【0038】
このようにして水平独立成分群HF
1~kをずらすことで、
図1に示すように、縦方向においてすべての水平独立成分群HF
0~kが重なった状態、つまり、縦方向における水平独立成分群HF
0~kの重なりが多くなった状態となる。その後、縦方向に連なる素子成分(独立成分)を列ごと(「0」ごと、「1」ごと、「m」ごと、)に垂直フーリエ変換器(FFT)53でフーリエ変換するものである。
【0039】
このような処理を実際に行う場合の処理について、
図12に示す簡単な例に従って説明する。ここで、各水平アンテナ素子群HA
0、HA
1の実在アンテナ素子RFは、共分散行列における独立成分が連続するように配設され、いずかの列L(例えば、「1」の列)の実在アンテナ素子RFに対して、共分散行列における独立成分が連続するように各水平アンテナ素子群HA
0、HA
1がずれている。また、横方向のアンテナ素子間でα(上記の例でmλ/dNに相当)だけ位相がずれ、縦方向のアンテナ素子間でβ(上記の例でkλ/dNに相当)だけ位相がずれているとする。
【0040】
このようなアンテナ構成の場合、すべての実在アンテナ素子RFに対する共分散行列の独立成分の指数は、
図13に示すような行列となる。ここで、図中最上行に実在アンテナ素子RFの配設位置に対応する値(α、βの数)が記載されている。すなわち、実在アンテナ素子RF
00に対する「0」、実在アンテナ素子RF
10に対する「α」、実在アンテナ素子RF
30に対する「3α」、実在アンテナ素子RF
11に対する「α+β」、実在アンテナ素子RF
21に対する「2α+β」、実在アンテナ素子RF
41に対する「4α+β」が記載されている。また、図中最左列に実在アンテナ素子RFの配設位置に対応する値に対応する複素共役の値(マイナス値)が記載されている。そして、
図13の行列は、これらの値を縦横加算した数値(独立成分の指数)がマトッリクス状に記載されているものに相当する。
【0041】
そして、これらの独立成分を水平アンテナ素子群HA
0、HA
1に対応する水平独立成分群HF
-1~1ごとに縦方向に並べると、
図14に示すような配置となる。ここで、水平独立成分群HF
0が水平アンテナ素子群HA
0に対応し、水平独立成分群HF
1が水平アンテナ素子群HA
1に対応し、水平独立成分群HF
-1が水平アンテナ素子群HA
1の複素共役に対応する。
【0042】
このように、6つの実在アンテナ素子RFで、21のアンテナ素子が縦横に格子状に配設された2次元アレーアンテナが構成される。また、それぞれのアンテナ素子に対しては、該当する位置の値(α、βの数)だけ位相をずらすことで、各アンテナ素子の素子成分を演算することができる。すなわち、予め
図14に示すようなずれ量を示すテーブルを作成、記憶し、信号受信時に、水平フーリエ変換器51で横方向に各素子成分をフーリエ変換して、このテーブルに従って各素子成分の位相をずらし、その後、垂直フーリエ変換器53で縦方向に各素子成分をフーリエ変換すればよい。
【0043】
以上のように、このアンテナ装置2によれば、各水平アンテナ素子群HAにおいて一部の配設位置Pのみに実在アンテナ素子RFが配設されて他の配設位置Pには仮想アンテナ素子VFが配設され、かつ、端部が横方向にずれるように複数の水平アンテナ素子群HAが縦方向に配設されているため、少ない実在アンテナ素子RFで方位と高さを検出することが可能となり、かつ、少ない実在アンテナ素子RFでより大開口化に対応することが可能となる。
【0044】
すなわち、各水平アンテナ素子群HAにおいて実在アンテナ素子RFが配設されない仮想アンテナ素子VFがあっても、共分散行列において独立成分が連続するように実在アンテナ素子RF(換言すると仮想アンテナ素子VF)が配設されていれば、KR積拡張アレーが形成され、すべての配設位置Pに実在アンテナ素子RFが配設されているものと等価となり、実在アンテナ素子RFの配設数を減らすことができる。同様に、いずれかの列の実在アンテナ素子RFに対しても、共分散行列における独立成分が連続するように実在アンテナ素子RFが配設されていれば、KR積拡張アレーが形成され、実在アンテナ素子RFの配設数を減らすことができる。
【0045】
さらに、すべての実在アンテナ素子RFに対する共分散行列の独立成分を水平独立成分群HFごとに縦方向に並べ、縦方向における水平独立成分群HFの重なりが多くなるように水平独立成分群HFを水平方向にずらすことで、縦横に広い実在アンテナ素子RFが配設されたのと同等の2次元アレーアンテナを構成することが可能となる。そして、実在アンテナ素子RFの大きさなどの制約によって実在アンテナ素子RFを理想的に配設できない場合であっても、上記のような要件を満たすように実在アンテナ素子RFを配設することで、所望の2次元アレーアンテナを構成することが可能となる。
【0046】
ここで、アンテナ装置2をMIMOレーダーに適用した場合における、その効果について説明する。配設スペースの大きさ、形状や実在アンテナ素子RFの大きさ、給電ポートの大きさなどの制約によって、例えば、
図15に示すように、6つの送信用実在アンテナ素子RF1と8つの受信用実在アンテナ素子RF2を配設したとする。この場合、各送信用実在アンテナ素子RF1からの送信信号を各受信用実在アンテナ素子RF2で受信して信号処理することで、
図16に示すように、48(=6×8)のアンテナ素子を有する仮想アレーアンテナが形成される。なお、
図16では、アンテナ素子の大きさは無視して代表位置のみを図示している。
【0047】
さらに、この仮想アレーアンテナに対して、本実施の形態における上記のような処理を適用すると、
図17に示すように、385(=11×35)のアンテナ素子を有する仮想アレーアンテナを形成することができる。ここで、
図17中符号SZ1は、MIMOレーダー単独の限界サイズ(=48素子)を示し、SZ2は、ハードウエア実装サイズ(=6×18素子)を示す。これから明らかなように、アンテナ素子を配設するハードウエア実装サイズSZ2が小さくても、より大きい2次元アレーアンテナ4を構成することができる。
【0048】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0049】
1 レーダー装置
2 アンテナ装置
3 信号処理装置
4 2次元アレーアンテナ
5 処理部
51 水平フーリエ変換器
52 乗算器(位相回転部)
53 垂直フーリエ変換器
P0~P14 配設位置
RF 実在アンテナ素子
VF 仮想アンテナ素子
HA 水平アンテナ素子群
HF 水平独立成分群