(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】搬送波再生回路
(51)【国際特許分類】
H04B 3/06 20060101AFI20220215BHJP
H04B 1/30 20060101ALI20220215BHJP
H04L 27/01 20060101ALI20220215BHJP
H04L 27/38 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
H04B3/06 A
H04B1/30
H04L27/01
H04L27/38 100
(21)【出願番号】P 2018115523
(22)【出願日】2018-06-18
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 康英
(72)【発明者】
【氏名】村田 秀史
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-74314(JP,A)
【文献】特開平4-119016(JP,A)
【文献】特開2004-242258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/06
H04B 1/30
H04L 27/38
H04L 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号の位相を回転する第1の位相回転器と、
前記第1の位相回転器によって位相が回転された入力信号である位相回転信号の周波数特性を補償する適応等化器と、
前記適応等化器によって補償された位相回転信号に含まれる位相誤差を検出する位相誤差検出器と、
前記位相誤差に基づいて位相回転制御信号を生成する回転信号生成部と、
前記位相回転制御信号に基づいて前記入力信号の位相を回転する第2の位相回転器と、
を備え、前記第1の位相回転器は、前記位相回転制御信号に基づいて前記入力信号の位相を回転する、
ことを特徴とする搬送波再生回路。
【請求項2】
前記適応等化器の出力信号と基準信号との誤差に基づくアルゴリズムで、前記適応等化器に対するタップ係数を更新する第1のタップ更新部と、
搬送波の位相回転に影響しないアルゴリズムで、前記適応等化器に対するタップ係数を更新する第2のタップ更新部と、
所定の条件に基づいて前記第1のタップ更新部または前記第2のタップ更新部の一方のタップ係数を前記適応等化器に出力する切替部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の搬送波再生回路。
【請求項3】
前記切替部は、前記適応等化器の出力信号の電力レベルに基づいて、前記一方のタップ係数を前記適応等化器に出力する、
ことを特徴とする請求項2に記載の搬送波再生回路。
【請求項4】
前記切替部は、前記適応等化器に出力されたタップ係数の電力レベルに基づいて、前記一方のタップ係数を前記適応等化器に出力する、
ことを特徴とする請求項2に記載の搬送波再生回路。
【請求項5】
前記切替部は、所定の時間間隔に基づいて、前記一方のタップ係数を前記適応等化器に出力する、
ことを特徴とする請求項2に記載の搬送波再生回路。
【請求項6】
前記切替部は、通常時は前記第1のタップ更新部のタップ係数を前記適応等化器に出力し、前記適応等化器の出力信号と基準信号との誤差が所定値よりも大きい場合に、前記第2のタップ更新部のタップ係数を前記適応等化器に出力する、
ことを特徴とする請求項2に記載の搬送波再生回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル無線伝送において搬送波・受信波を再生する搬送波再生回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線トラフィックが増々増加しており、周波数利用の高効率化の観点からデジタル無線伝送においては、高多値QAM(Quadrature Amplitude Modulation、直角位相振幅変調)方式による高速伝送の要求が高まっている。この高多値QAM方式では、送信装置や受信装置において生じる搬送波の位相ノイズ(位相誤差)などによって、復調性能が劣化する場合がある。このため、位相ノイズと熱雑音の影響度に基づいて復調性能(ビット誤り率)を向上させる、という搬送波再生回路が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この搬送波再生回路は、位相誤差検出器が検出する位相誤差と振幅誤差検出器が検出する振幅誤差とに基づいて、ループフィルタ制御部がループフィルタの帯域幅を制御することで、位相ノイズや熱雑音に応じた適切な帯域幅に設定し、復調性能を向上させる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、マイクロ波無線システムでは、マルチパスフェージング環境下での無線伝送が前提となるため、フェージングによる受信信号の波形歪や、フェージングに伴うレベル変動によるC/N(Carrier/Noise、搬送波対雑音比)変化によって、搬送波の位相ノイズの推定精度が著しく劣化する。しかしながら、特許文献1に記載の搬送波再生回路では、フェージングによる波形歪の影響については考慮されていないため、高い復調性能を実現することが困難であった。
【0006】
そこで本発明は、搬送波の位相ノイズを高精度に推定して高い復調性能を実現可能な、搬送波再生回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、入力信号の位相を回転する第1の位相回転器と、前記第1の位相回転器によって位相が回転された入力信号である位相回転信号の周波数特性を補償する適応等化器と、前記適応等化器によって補償された位相回転信号に含まれる位相誤差を検出する位相誤差検出器と、前記位相誤差に基づいて位相回転制御信号を生成する回転信号生成部と、前記位相回転制御信号に基づいて前記入力信号の位相を回転する第2の位相回転器と、を備え、前記第1の位相回転器は、前記位相回転制御信号に基づいて前記入力信号の位相を回転する、ことを特徴とする搬送波再生回路である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の搬送波再生回路において、前記適応等化器の出力信号と基準信号との誤差に基づくアルゴリズムで、前記適応等化器に対するタップ係数を更新する第1のタップ更新部と、搬送波(キャリア)の位相回転に影響しないアルゴリズムで、前記適応等化器に対するタップ係数を更新する第2のタップ更新部と、所定の条件に基づいて前記第1のタップ更新部または前記第2のタップ更新部の一方のタップ係数を前記適応等化器に出力する切替部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の搬送波再生回路において、前記切替部は、前記適応等化器の出力信号の電力レベルに基づいて、前記一方のタップ係数を前記適応等化器に出力する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の搬送波再生回路において、前記切替部は、前記適応等化器に出力されたタップ係数の電力レベルに基づいて、前記一方のタップ係数を前記適応等化器に出力する、ことを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の搬送波再生回路において、前記切替部は、所定の時間間隔に基づいて、前記一方のタップ係数を前記適応等化器に出力する、ことを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項2に記載の搬送波再生回路において、前記切替部は、通常時は前記第1のタップ更新部のタップ係数を前記適応等化器に出力し、前記適応等化器の出力信号と基準信号との誤差が所定値よりも大きい場合に、前記第2のタップ更新部のタップ係数を前記適応等化器に出力する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、適応等化器で周波数特性が補償された位相回転信号の位相誤差に基づいて、位相回転制御信号が生成され入力信号の位相が回転されるため、フェージングによる波形歪がある場合でも、搬送波の位相ノイズを高精度に推定して高い復調性能・搬送波再生を実現することが可能となる。さらに、適応等化器で位相回転信号の周波数特性が補償されるため、熱雑音の影響も軽減することが可能となる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、適応等化器の出力信号と基準信号との誤差に基づくアルゴリズム(判定指向アルゴリズム)、または、搬送波の位相回転に影響しないアルゴリズム(CMAアルゴリズム)で、適応等化器に対するタップ係数を更新するかが、所定の条件に基づいて切り替えられるため、適応等化器から安定した出力を得ることが可能となる。すなわち、判定指向アルゴリズムのみでは意図しない信号点配置に収束してしまうおそれがあり、CMAアルゴリズムのみでは収束速度が遅く信号点配置の正確な配置までは収束できないおそれがあるが、2つのアルゴリズムを併設して切り替えることで、安定した適応等化器出力を得ることが可能となる。この結果、高精度かつ安定した復調性能・搬送波再生を実現することが可能となる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、適応等化器の出力信号の電力レベルに基づいて、2つのアルゴリズムが切り替えられるため、適応等化器の出力電力レベルに適したアルゴリズムでタップ係数を更新して、安定した適応等化器出力を得ることが可能となる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、適応等化器に出力されたタップ係数の電力レベルに基づいて、2つのアルゴリズムが切り替えられるため、タップ係数の電力レベルに適したアルゴリズムでタップ係数を更新して、安定した適応等化器出力を得ることが可能となる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、所定の時間間隔に基づいて2つのアルゴリズムが切り替えられるため、つまり、2つのアルゴリズムが定期的に確実に切り替えられるため、安定した適応等化器出力を得ることが可能となる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、通常時は判定指向アルゴリズムでタップ係数が更新されるため、信号点配置の正確な配置まで収束することができる。一方、適応等化器の出力信号と基準信号との誤差が所定値よりも大きい場合には、CMAアルゴリズムでタップ係数が更新されるため、意図しない信号点配置に収束してしまうのを防止することができる。このように、安定した適応等化器出力を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る搬送波再生回路を示す概略構成ブロック図である。
【
図2】
図1の搬送波再生回路を備えるマイクロ波無線システムを示す概略構成図である。
【
図3】
図1の搬送波再生回路の適応等化器周辺を示す概略構成ブロック図である。
【
図4】
図1の搬送波再生回路において判定指向アルゴリズムのみでタップ更新した場合の第1の信号状態を示す概念図である。
【
図5】
図4に続く第2の信号状態を示す概念図である。
【
図6】
図5に続く第3の信号状態を示す概念図である。
【
図7】この発明の実施の形態2に係る搬送波再生回路の適応等化器周辺を示す概略構成ブロック図である。
【
図8】この発明の実施の形態3に係る搬送波再生回路の適応等化器周辺を示す概略構成ブロック図である。
【
図9】この発明の実施の形態4に係る搬送波再生回路の適応等化器周辺を示す概略構成ブロック図である。
【
図10】この発明の実施の形態4における適応等化器出力の正常な信号状態を示す概念図である。
【
図11】この発明の実施の形態4における適応等化器出力の異常な信号状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0021】
(実施の形態1)
図1~
図6は、この実施の形態を示し、
図1は、この実施の形態に係る搬送波再生回路1を示す概略構成ブロック図である。この搬送波再生回路1は、デジタル無線伝送において搬送波を再生する回路であり、
図2に示すマイクロ波無線システムの受信装置102に設けられている。ここで、マイクロ波無線システムについてまず簡単に説明すると、送信装置101においてマッピングおよび変調された送信信号がアナログ変換され、搬送波W1で乗算されてアンテナから送信される。そして、マルチパスフェージング環境を経て受信装置102のアンテナで受信されると、搬送波W2で乗算されてデジタル変換され、搬送波再生回路1で復調されてデマッピングされるものである。
【0022】
搬送波再生回路1は、主として、第1の位相回転器2と、適応等化器3と、位相誤差検出器4と、LPF5と、NCO(回転信号生成部)6と、第2の位相回転器7と、等化器8と、を備える。
【0023】
第1の位相回転器2は、入力信号の位相を回転する回転器・乗算器であり、後述するNCO6の位相回転制御信号に基づいて入力信号の位相を回転する。具体的には、デジタル信号に変換されたIチャネルのベースバンド信号およびQチャネルのベースバンド信号の各々に対して、NCO6の位相回転制御信号の正弦波および余弦波に基づいて位相回転を行うものである。
【0024】
適応等化器3は、第1の位相回転器2によって位相が回転された入力信号である位相回転信号の周波数特性を補償する、つまり、位相回転信号の波形歪やデータ誤りを解消する等化器である。ここで、適応等化器3は、判定帰還型等化器(DFE:Decision Feedback Equalizer)や線形等化器で構成され、後述するように、判定指向アルゴリズムとCMAアルゴリズムとを適宜切り替えて、適応等化器3のタップ係数を更新するようになっている。
【0025】
位相誤差検出器4は、適応等化器3によって補償された位相回転信号に含まれる位相誤差を検出する検出器である。具体的な検出方法は周知の技術であり、例えば、送受信装置101、102間で用いられる変調方式の信号点配列のなかから、出力信号に応じた信号点を選択し、選択した信号点の座標と入力信号点の座標とを比較して、位相誤差値を算出する。
【0026】
LPF5は、位相誤差検出器4で検出された位相誤差の高周波成分を、所定の帯域幅に応じて除去するフィルタであり、ローパスフィルタ(Low Pass Filter)で構成されている。
【0027】
NCO6は、LPF5で高周波成分が除去された位相誤差に基づいて、位相回転制御信号を生成する生成部であり、NCO(Numerically Controlled Oscillator、数値制御発振器)で構成されている。具体的には、LPF5からの位相誤差に基づいて逆位相の正弦波および余弦波を生成し、第1の位相回転器2に出力することで、第1の位相回転器2による位相回転を制御するものである。さらに、生成した位相回転制御信号を第2の位相回転器7に出力する。
【0028】
第2の位相回転器7は、入力信号の位相を回転する回転器・乗算器であり、NCO6からの位相回転制御信号に基づいて入力信号の位相を回転して、周波数特性を補償する等化器8に出力する。すなわち、適応等化器3によって周波数特性補償(波形歪等が解消)されて検出された位相誤差に基づくNCO6からの正弦波および余弦波に基づいて、入力信号の位相を回転する。このように、搬送波再生ループ(第1の位相回転器2、位相誤差検出器4、LPF5およびNCO6のループ)のなかに適応等化器3が実装されており、これにより、周波数特性を補償した後に推定した位相誤差値に基づいて、入力信号の位相ノイズをキャンセルする。
【0029】
次に、適応等化器3に対するタップ係数の更新方法について説明する。この実施の形態では、
図3に示すように、適応等化器3に対して第1のタップ更新部31と、第2のタップ更新部32と、電力検出器(切替部)33と、タップ係数切替器(切替部)34と、を備える。
【0030】
第1のタップ更新部31は、適応等化器3の出力信号と基準信号との誤差に基づくアルゴリズム(判定指向アルゴリズム)で、適応等化器3に対するタップ係数を算出、更新する更新部である。すなわち、最小平均二乗誤差(MMSE:Minimum Mean Square Error)を規範とする判定指向アルゴリズムを利用して、出力信号と基準信号との誤差電力が最小になるようにタップ係数を算出、更新するものであり、判定指向アルゴリズムとして、LMS(Least Mean Square)アルゴリズムやRLS(Recursive Least Square)アルゴリズムが採用される。
【0031】
第2のタップ更新部32は、搬送波の位相回転に影響しないアルゴリズム(CMAアルゴリズム)で、適応等化器3に対するタップ係数を算出、更新する更新部である。すなわち、所望の信号のレプリカを必要としないCMAアルゴリズム(ブラインドアルゴリズム)によって、電力誤差を利用して電力レベルが一定になるようにタップ係数を算出、更新するものであり、CMAアルゴリズムとしてゴダード(Godard)アルゴリズムが採用される。このゴダードアルゴリズムは、送信信号が定包絡線信号であるという前提に基づいて、出力の最適化を行うアルゴリズムである。
【0032】
電力検出器33とタップ係数切替器34は、所定の条件に基づいて第1のタップ更新部31または第2のタップ更新部32の一方のタップ係数を適応等化器3に出力する切替部であり、この実施の形態では、適応等化器3の出力信号の電力レベルに基づいて、一方のタップ係数を適応等化器3に出力する。具体的には、電力検出器33において、適応等化器3の出力信号の電力レベルを検出し、その検出結果に基づいて、タップ更新部31、32のどちらのタップ係数を採用するかを示す「切替」信号をタップ係数切替器34に伝送する。これを受けてタップ係数切替器34においてスイッチを切り替え、第1のタップ更新部31あるいは第2のタップ更新部32のタップ係数を適応等化器3に出力する。
【0033】
ここで、どのような電力レベル(検出結果)のときに、第1のタップ更新部31または第2のタップ更新部32に切り替えるかは、適応等化器3の特性や所望の精度などに基づいて適宜設定される。例えば、通常時は第1のタップ更新部31のタップ係数を出力し、電力レベルが所定の閾値以下に達した場合に第2のタップ更新部32に切り替える。なお、タップ係数切替器34からのタップ係数は、タップ係数メモリ30にも出力されて記憶され、記憶されたタップ係数が各更新部31、32に入力されることで、次のタップ係数がそれぞれ算出される。
【0034】
以上のように、この搬送波再生回路1によれば、適応等化器3で周波数特性が補償(波形歪等が解消)された位相回転信号の位相誤差に基づいて、位相回転制御信号が生成され入力信号の位相が回転されるため、フェージングによる波形歪がある場合でも、搬送波の位相ノイズを高精度に推定(位相誤差検出器4で検出)して高い復調性能・搬送波再生を実現することが可能となる。さらに、適応等化器3で位相回転信号の周波数特性が補償されるため、熱雑音の影響も軽減することが可能となる。
【0035】
また、判定指向アルゴリズムあるいはCMAアルゴリズムで適応等化器3に対するタップ係数を更新するかが、所定の条件に基づいて切り替えられるため、適応等化器3から安定した出力を得ることが可能となる。すなわち、判定指向アルゴリズムのみでは意図しない信号点配置に収束してしまうおそれがあり、CMAアルゴリズムのみでは収束速度が遅く信号点配置の正確な配置までは収束できないおそれがあるが、2つのアルゴリズムを併設して切り替えることで、安定した適応等化器3の出力を得ることが可能となる。この結果、高精度かつ安定した復調性能・搬送波再生を実現することが可能となる。
【0036】
具体的にこの実施の形態では、適応等化器3の出力信号の電力レベルに基づいて、2つのアルゴリズムが切り替えられるため、適応等化器3の出力電力レベルに適したアルゴリズムでタップ係数を更新して、安定した適応等化器3の出力を得ることが可能となる。
【0037】
ここで、搬送波再生ループのなかに適応等化器3が実装されているために、判定指向アルゴリズムのみでタップ係数を更新した場合に、意図しない信号点配置に収束してしまう事象について説明する。
【0038】
まず、
図4に示すように、位相回転した出力信号点(図中黒丸)が理想信号点・基準信号点(図中白丸)の枠W1からはみ出た場合、はみ出た部分P1の出力信号点がこの枠W1に入るようにタップ係数が更新される。この結果、
図5に示すように、出力信号点群が小さく収束して電力が低減する。そして、このようなタップ係数の更新を繰り返すことで、例えば
図6に示すように、理想信号点を中心にして4つの出力信号点が集約するように収束してしまう(信号点配置サイズが小さい状態で最適状態に陥る)事象が生じる。
【0039】
これに対して、CMAアルゴリズムは搬送波の位相回転に影響されないため、CMAアルゴリズムを使用することでこのような収束を防止できる。一方、CMAアルゴリズムでは信号点配置の正確な配置までは収束しない場合があるため、判定指向アルゴリズムとCMAアルゴリズムとを併設して切り替えることで、適応等化器3から安定した出力を得ることが可能となるものである。
【0040】
(実施の形態2)
図7は、この実施の形態に係る搬送波再生回路1の適応等化器3周辺を示す概略構成ブロック図である。この実施の形態では、適応等化器3に出力されたタップ係数の電力レベルに基づいて、第1のタップ更新部31または第2のタップ更新部32のタップ係数を適応等化器3に出力する点で実施の形態1と構成が異なり、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付することでその説明を省略する。
【0041】
この実施の形態では、タップ係数切替器34からのタップ係数が適応等化器3に出力されるとともに、電力検出器33に出力される。そして、電力検出器33において、タップ係数の電力レベルを検出し、その検出結果に基づいて、タップ更新部31、32のどちらのタップ係数を採用するかを示す「切替」信号をタップ係数切替器34に伝送する。これを受けてタップ係数切替器34においてスイッチを切り替え、第1のタップ更新部31あるいは第2のタップ更新部32のタップ係数を適応等化器3に出力する。
【0042】
ここで、どのような電力レベル(検出結果)のときに、第1のタップ更新部31または第2のタップ更新部32に切り替えるかは、適応等化器3の特性や所望の精度などに基づいて適宜設定される。例えば、通常時は第1のタップ更新部31のタップ係数を出力し、タップ係数の電力レベルが所定の閾値以上の場合に(出力信号点群の電力が収束しないように)、第2のタップ更新部32に切り替える。
【0043】
このように、この実施の形態によれば、適応等化器3に出力されたタップ係数の電力レベルに基づいて、2つのアルゴリズムが切り替えられるため、タップ係数の電力レベルに適したアルゴリズムでタップ係数を更新して、安定した適応等化器3の出力を得ることが可能となる。
【0044】
(実施の形態3)
図8は、この実施の形態に係る搬送波再生回路1の適応等化器3周辺を示す概略構成ブロック図である。この実施の形態では、所定の時間間隔に基づいて、第1のタップ更新部31または第2のタップ更新部32のタップ係数を適応等化器3に出力する点で実施の形態1と構成が異なり、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付することでその説明を省略する。
【0045】
この実施の形態では、タップ係数切替器34とタイマ35とで切替部が構成され、タイマ35で所定時間が経過するごとに(所定の時間割合で)順次、タップ更新部31、32のどちらのタップ係数を採用するかを示す「切替」信号を、タイマ35からタップ係数切替器34に伝送する。ここで、「切替」信号を伝送する所定時間は、信号点配置の正確な配置まで収束でき、かつ、意図しない信号点配置に収束することがないように設定されている。例えば、まず、第1のタップ更新部31のタップ係数を出力し、第1の所定時間が経過すると第2のタップ更新部32のタップ係数を採用する「切替」信号を伝送する。次に、第2の所定時間(例えば、第1の所定時間よりも短時間)が経過すると第1のタップ更新部31のタップ係数を採用する「切替」信号を伝送する、という切り替えを繰り返す。このように、所定の時間割合で交互に、第1のタップ更新部31のタップ係数と第2のタップ更新部32のタップ係数が出力される。
【0046】
このように、この実施の形態によれば、所定の時間間隔に基づいて2つのアルゴリズムが切り替えられるため、つまり、2つのアルゴリズムが定期的に(一定の時間割合で)確実に切り替えられるため、安定した適応等化器3の出力を得ることが可能となる。
【0047】
(実施の形態4)
図9は、この実施の形態に係る搬送波再生回路1の適応等化器3周辺を示す概略構成ブロック図である。この実施の形態では、通常時は第1のタップ更新部31のタップ係数を適応等化器3に出力し、適応等化器3の出力信号と基準信号との誤差が所定値よりも大きい場合に、第2のタップ更新部32のタップ係数を適応等化器3に出力する点で実施の形態1と構成が異なり、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付することでその説明を省略する。
【0048】
この実施の形態では、適応等化器3の出力信号(等化出力)が第1のタップ更新部31に入力され、適応等化器3の出力信号と第1のタップ更新部31に予め記憶された基準信号との電力誤差が所定値よりも大きい場合に、第2のタップ更新部32のタップ係数を採用する「切替」信号を、第1のタップ更新部31からタップ係数切替器34に伝送する。続いて、適応等化器3の出力信号と基準信号との誤差が所定値以下になった場合に、第1のタップ更新部31のタップ係数を採用する「切替」信号を、第1のタップ更新部31からタップ係数切替器34に伝送する、という切り替えを繰り返す。
【0049】
ここで、適応等化器3の出力信号と基準信号との誤差の閾値は、判定指向アルゴリズムによって意図しない信号点配置に収束しないように設定されている。例えば、
図10に示すように、各理想信号点・基準信号点(図中白丸)を中心とする略正四角形の閾値枠W2が設定され(基準信号点間を閾値枠W2で区切り)、出力信号点(図中黒丸)がこの閾値枠W2内にある場合には、適応等化器3の出力を正常状態とする。一方、出力信号点が閾値枠W2からはみ出ると、
図11に示すように、どの基準信号点から出力信号点がずれているのか判別できなくなる(基準信号点と出力信号点を1対1に対応できなくなる)ため、適応等化器3の出力を異常状態とみなし、CMAアルゴリズムに切り替える。ここで、
図10、
図11では、隣接する閾値枠W2同士の境界線が重なるようになっているが、閾値枠W2間に隙間・余裕を設け、どの基準信号点から出力信号点がずれているのか判別できなくなる前に、確実にCMAアルゴリズムに切り替えるようにしてもよい。
【0050】
このように、この実施の形態によれば、通常時は判定指向アルゴリズムでタップ係数が更新されるため、信号点配置の正確な配置まで収束することができる。一方、適応等化器3の出力信号と基準信号との誤差が所定値よりも大きい場合には、CMAアルゴリズムでタップ係数が更新されるため、意図しない信号点配置に収束してしまうのを防止することができる。このように、安定した適応等化器3の出力を得ることが可能となる。
【0051】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態3では、所定時間ごとにアルゴリズムを切り替えているが、タップ更新部31、32からのタップ係数の出力回数(出力回数も所定の時間間隔に含まれる)ごとにアルゴリズムを切り替えるようにしてもよい。また、上記の実施の形態4では、第1のタップ更新部31から「切替」信号をタップ係数切替器34に伝送しているが、第2のタップ更新部32から「切替」信号をタップ係数切替器34に伝送するようにしてもよい。
【0052】
1 搬送波再生回路
2 第1の位相回転器
3 適応等化器
31 第1のタップ更新部
32 第2のタップ更新部
33 電力検出器(切替部)
34 タップ係数切替器(切替部)
35 タイマ(切替部)
4 位相誤差検出器
5 LPF
6 NCO(回転信号生成部)
7 第2の位相回転器
8 等化器