(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】シロドシン含有医薬組成物とその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/405 20060101AFI20220215BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220215BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220215BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220215BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
A61K31/405
A61K9/20
A61K47/02
A61K47/18
A61P13/08
(21)【出願番号】P 2016203246
(22)【出願日】2016-10-17
【審査請求日】2019-10-16
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100060368
【氏名又は名称】赤岡 迪夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】平本 翔大
(72)【発明者】
【氏名】松島 由貴
(72)【発明者】
【氏名】片山 剛
(72)【発明者】
【氏名】奥田 豊
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】穴吹 智子
【審判官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-100257(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152680(WO,A1)
【文献】特表2013-532651(JP,A)
【文献】特開2013-155148(JP,A)
【文献】特開2016-210760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
MEDLINE(STN)
BIOSIS(STN)
EMBASE(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と、低分子量の塩基性添加物
と、塩基性コポリマー
とを含
む顆粒を含む口腔内崩壊錠であって、
前記低分子量の塩基性添加物は、メグルミン、水酸化マグネシウム、および、炭酸マグネシウムからなる群から選ばれる1以上の塩基性物質であ
る、医薬組成物。
【請求項2】
前記低分子量の塩基性添加物の含有量は、0.1重量%以上30重量%以下である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記低分子量の塩基性添加物の含有量は、0.1重量%以上3重量%以下である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と、前記低分子量の塩基性添加物との重量比は、1:4~30:1である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と、前記低分子量の塩基性添加物との重量比は、1:4~5:4である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記低分子量の塩基性添加物は、メグルミンと水酸化マグネシウムの少なくとも1つである、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記低分子量の塩基性添加物はメグルミンであり、メグルミンの含有量が0.1重量%以上3重量%以下である、請求項1、請求項4または請求項5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記低分子量の塩基性添加物は水酸化マグネシウムであり、水酸化マグネシウムの含有量が0.1重量%以上3重量%以下である、請求項1、請求項4または請求項5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記低分子量の塩基性添加物は炭酸マグネシウムであり、炭酸マグネシウムの含有量が0.1重量%以上3重量%以下である、請求項1、請求項4または請求項5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
1a)シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と賦形剤とを流動層造粒乾燥機内で混合する工程と、
2a)結合剤と低分子量の塩基性添加物とを水に溶解して水溶液を調製する工程と、
3a)工程1a)で得られた混合物に、工程2a)で得られた水溶液をスプレーして造粒する工程とを含む、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項11】
1b)シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と、賦形剤と、低分子量の塩基性添加物とを流動層造粒乾燥機内で混合する工程と、
2b)結合剤を水に溶解して水溶液を調製する工程と、
3b)工程1b)で得られた混合物に、工程2b)で得られた水溶液をスプレーして造粒する工程とを含む、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の医薬組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分としてシロドシンを含有する経口投与用医薬組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シロドシンは、1-(3-ヒドロキシプロピル)-5-[(2R)-({2-[2-[2-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)フェノキシ]エチル}アミノ]プロピル)インドリン-7-カルボキサミドの国際一般名である。シロドシンは、例えば良性前立腺肥大症を治療するために用いられる。
【0003】
シロドシンは光や高温に対して比較的不安定である上、薬学的に許容される添加剤の多くと不適合であることが知られている。
【0004】
例えば、特開2013-532651号公報(特許文献1)では、光および温度の作用下での保存安定性が改善されたシロドシン経口医薬品を提供するために、シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と塩基性コポリマーとの混合物を含む経口投与用医薬品とその調製方法が記載されている。塩基性コポリマーとしては、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEが用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、光と温度の作用下における保存安定性がより高いシロドシンを含有する経口投与用医薬組成物とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、シロドシン含有経口投与用医薬組成物において、特定の塩基性の添加物、特に、低分子量の塩基性の添加物を用いることによって、光と温度の作用下における保存安定性を高めることができることを見出した。
【0008】
このような知見に基づいて、本発明に従った医薬組成物は、シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と、低分子量の塩基性添加物とを含む。
【0009】
また、本発明に従った医薬組成物は、さらに塩基性コポリマーを含むことが好ましい。
【0010】
また、本発明に従った医薬組成物においては、低分子量の塩基性添加物の分子量は、300以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明に従った医薬組成物においては、低分子量の塩基性添加物の含有量は、30重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましい。
【0012】
また、本発明に従った医薬組成物においては、シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と、低分子量の塩基性添加物との重量比は、1:4~30:1であることが好ましく、1:4~5:4であることが特に好ましい。
【0013】
また、本発明に従った医薬組成物においては、低分子量の塩基性添加物は、L-アルギニン、亜硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、メグルミン、リン酸二カリウム、リン酸水素カルシウム水和物、リン酸水素二ナトリウム二水和物、水酸化マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、および、硫酸ナトリウムからなる群から選ばれる1以上の塩基性物質であることが好ましく、特に、メグルミンと水酸化マグネシウムの少なくとも1つであることが好ましい。
【0014】
また、本発明に従った医薬組成物においては、低分子量の塩基性添加物はメグルミンであり、メグルミンの含有量が0.1重量%以上3重量%以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に従った医薬組成物においては、低分子量の塩基性添加物は水酸化マグネシウムであり、水酸化マグネシウムの含有量が1重量%以上3重量%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明に従った医薬組成物は、口腔内崩壊錠であることが好ましい。
【0017】
本発明に従った医薬組成物の製造方法は、
1a)シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と賦形剤とを流動層造粒乾燥機内で混合する工程と、
2a)結合剤と低分子量の塩基性添加物とを水に溶解して水溶液を調製する工程と、
3a)工程1a)で得られた混合物に、工程2a)で得られた水溶液をスプレーして造粒する工程とを含むことが好ましい。
【0018】
本発明に従った医薬組成物の製造方法は、
1b)シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と、賦形剤と、低分子量の塩基性添加物とを流動層造粒乾燥機内で混合する工程と、
2b)結合剤を水に溶解して水溶液を調製する工程と、
3b)工程1b)で得られた混合物に、工程2b)で得られた水溶液をスプレーして造粒する工程とを含むことが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に従った医薬組成物は、シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と、低分子量の塩基性添加物とを含む。
【0020】
シロドシンまたはその薬学的に許容される塩は、塩酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、イソチオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、ピルビン酸塩、スルファミド酸塩、グルタミン酸塩、ソルビン酸塩、および/または、コハク酸塩等の酸付加塩が好ましく、あらゆる水和物と溶媒和物をも含む。
【0021】
本発明に従った医薬組成物は、さらに塩基性コポリマーを含むことが好ましい。塩基性コポリマーは、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEであることが好ましい。
【0022】
本発明に従った医薬組成物においては、低分子量の塩基性添加物の分子量は300以下であることが好ましく、200以下であることがより好ましく、50~200であることが好ましい。また、低分子量の塩基性添加物の含有量は、30重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましい。
【0023】
本発明に従った医薬組成物においては、シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と、低分子量の塩基性添加物との重量比は、1:4~30:1であることが好ましく、1:4~5:4であることが特に好ましい。
【0024】
本発明に従った医薬組成物においては、低分子量の塩基性添加物は、L-アルギニン(分子量174.2)、亜硫酸ナトリウム(126.04)、クエン酸ナトリウム(258.06)、メグルミン(195.21)、リン酸二カリウム(174.18)、リン酸水素カルシウム水和物(171.95)、リン酸水素二ナトリウム二水和物(177.99)、水酸化マグネシウム(58.32)、炭酸カリウム(138.21)、炭酸ナトリウム(105.99)、炭酸マグネシウム(84.31)、炭酸水素カリウム(100.12)、炭酸水素ナトリウム(84.01)、および、硫酸ナトリウム(142.04)からなる群から選ばれる1以上の塩基性物質であることが好ましく、特に、メグルミンと水酸化マグネシウムの少なくとも1つであることが好ましい。
【0025】
また、本発明に従った医薬組成物においては、低分子量の塩基性添加物はメグルミンであり、メグルミンの含有量が0.1重量%以上3重量%以下であることが好ましい。
【0026】
また、本発明に従った医薬組成物においては、低分子量の塩基性添加物は水酸化マグネシウムであり、水酸化マグネシウムの含有量が1重量%以上3重量%以下であることが好ましい。
【0027】
本発明に従った医薬組成物は、さらに、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等の添加物を含んでもよい。
【0028】
賦形剤としては、白糖、乳糖、D-マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール等の糖又は糖アルコール、結晶セルロース等のセルロース誘導体、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン等のデンプン誘導体、等の公知の賦形剤が用いられ得、D-マンニトールを用いることが好ましい。
【0029】
崩壊剤としては、例えば、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム等の化学修飾されたデンプン・セルロース類、クロスポビドン等の架橋ポリビニルピロリドン、等の公知の崩壊剤が用いられ得る。
【0030】
結合剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の公知の結合剤が用いられ得、ヒドロキシプロピルセルロースを用いることが好ましい。
【0031】
滑沢剤としては、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ、ワックス類等の公知の滑沢剤が用いられ得る。
【0032】
本発明に従った医薬組成物は、粉末化または顆粒化された固形組成物、錠剤、ペレット、口腔内崩壊錠、カプセル錠として製され得る。本発明に従った医薬組成物は、口腔内崩壊錠であることが好ましい。
【0033】
本発明に従った医薬組成物の製造方法は、
1a)シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と賦形剤とを流動層造粒乾燥機内で混合する工程と、
2a)結合剤と低分子量の塩基性添加物とを水に溶解して水溶液を調製する工程と、
3a)工程1a)で得られた混合物に、工程2a)で得られた水溶液をスプレーして造粒する工程とを含むことが好ましい。
【0034】
本発明に従った医薬組成物の製造方法は、
1b)シロドシンまたはその薬学的に許容される塩と、賦形剤と、低分子量の塩基性添加物とを流動層造粒乾燥機内で混合する工程と、
2b)結合剤を水に溶解して水溶液を調製する工程と、
3b)工程1b)で得られた混合物に、工程2b)で得られた水溶液をスプレーして造粒する工程とを含むことが好ましい。
【0035】
このようにすることにより、光と温度の作用下における保存安定性がより高いシロドシンを含有する経口投与用医薬組成物を提供することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例等により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
[実施例]
本発明に従ったシロドシン含有経口医薬組成物を次のようにして製造した。各原料の分量は、表1に示す通りであった。
【0038】
【0039】
(実施例1の薬物顆粒の製造)
シロドシンとD-マンニトールを流動層造粒乾燥機に入れて混合した。ヒドロキシプロピルセルロースとメグルミンを精製水に溶解させた造粒液を、上記混合物にスプレーし造粒した。乾燥・整粒し、これを予備造粒末とした。予備造粒末に、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、黄色三二酸化鉄およびタルクを分散させた90%エタノール液をスプレーしコーティングした。乾燥・整粒し、これを薬物顆粒とした。
【0040】
(実施例2の薬物顆粒の製造)
シロドシン、D-マンニトール及び水酸化マグネシウムを流動層造粒乾燥機に入れて混合した。ヒドロキシプロピルセルロースを精製水に溶解させた造粒液を、上記混合物にスプレーし造粒した。乾燥・整粒し、これを予備造粒末とした。予備造粒末に、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、黄色三二酸化鉄及びタルクを分散させた90%エタノール液をスプレーしコーティングした。乾燥・整粒し、これを薬物顆粒とした。
【0041】
(比較例1の薬物顆粒の製造)
実施例1において、メグルミンを用いなかった他は、実施例1と同様に薬物顆粒を製造した。
【0042】
(速崩壊性顆粒の製造)
特開2005-60309号公報の実施例1に従って作製されたB粒子を速崩壊性顆粒として用いた。
【0043】
(口腔内崩壊錠の製造)
薬物顆粒、速崩壊性顆粒、スクラロース、ペパーミントミクロン及びステアリン酸マグネシウムを混合し、これを打錠末とした。得られた打錠末をロータリー式打錠機を用いて打錠し、これを口腔内崩壊錠とした。口腔内崩壊錠をPTP包装した。
【0044】
以上のようにして製造された実施例1、実施例2、比較例1の口腔内崩壊錠を用いて、70℃で9日間保存、60℃で3週間保存、または、120万luxの散光下において保存安定性の試験を行った。
【0045】
類縁物質の測定は、第17改正日本薬局方「シロドシン錠」の純度試験の方法を用いて行った。相対保持時間(RRT)1.3、1.6、2.0、および総類縁物質の測定結果を表2に示す。
【0046】
【0047】
以上のように、本発明の口腔内崩壊錠では、70℃で9日間保存、60℃で3週間保存した後にも、また、120万luxの散光下においても、各類縁物質および総類縁物質の増加を抑えることができた。
【0048】
次に、低分子量の塩基性添加物の量を変えて、保存安定性を試験した。実施例3~5では、表3に示すようにメグルミンの量を変えて、実施例1と同様にして口腔内崩壊錠を製造し、実施例1と同様にして保存安定性を調べた。実施例6~8では、表4に示すように水酸化マグネシウムの量を変えて、実施例1と同様にして口腔内崩壊錠を製造し、実施例1と同様にして保存安定性を調べた。結果を表5,6に示す。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変形を含むものである。