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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】イーストドーナツ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/60 20170101AFI20220215BHJP
   A21D 13/40 20170101ALI20220215BHJP
   A21D 8/04 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
A21D13/60
A21D13/40
A21D8/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018102845
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2019205389
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】312015185
【氏名又は名称】日清製粉プレミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海老名 かおる
(72)【発明者】
【氏名】田上 祐二
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-125371(JP,A)
【文献】特開昭64-020049(JP,A)
【文献】特開平01-206944(JP,A)
【文献】特開2012-200193(JP,A)
【文献】特開2001-157545(JP,A)
【文献】レシピサイトCookpadで2014年12月 1日に公開された「揚げパンの様なふわふわドーナッツ」(レシピID: 2910478)のレシピ情報,[オンライン], 検索日:2021年8月17日,URL,https://cookpad.com/recipe/2910478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21C,A21D,A23G,A23L
Cookpad,楽天レシピ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周縁と外周縁とに囲まれたリング状部を有し、該リング状部の厚み方向中央の断面視において、該内周縁の円形度が0.35以下、該外周縁の円形度が0.85以上である、イーストドーナツの製造方法であって、
少なくとも穀粉類及びイーストを含む生地原料に液体を添加して生地を調製し、該生地を発酵させて発酵生地を得、該発酵生地を加熱された油中に投入して油ちょうする工程を有し、
油ちょう直前の前記発酵生地の粘度が20~150Pa・sであり、
前記発酵生地を成形した後、ホイロ工程を経ずに油ちょうする、イーストドーナツの製造方法。
【請求項2】
底部に生地の押出口を有する生地収容部と、該生地収容部に収容された生地を該押出口から押し出すプランジャーとを具備する押出成形機を用いて、前記発酵生地の成形及び成形された該発酵生地の前記油中への投入を連続的に実施する請求項に記載のイーストドーナツの製造方法。
【請求項3】
前記生地の発酵時間が30分以上である請求項1又は2に記載のイーストドーナツの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特徴的な外観形状を有するイーストドーナツに関する。
【背景技術】
【0002】
ドーナツは、一般的に、イーストを用いて生地を発酵させて膨らませるイーストドーナツと、イーストを用いずにケーキに近い配合でベーキングパウダーなどの膨張剤を用いて生地を膨らませるケーキドーナツとに分類される。両ドーナツはそれぞれ独特の食感、風味を有し、同じドーナツであっても種類が異なるものとして一般に認識されている。
【0003】
ケーキドーナツに関し、例えば特許文献1には、複数個の環状ドーナツを上下複数段にずらして一体化した、新規形状のケーキドーナツが記載されている。特許文献1記載のケーキドーナツは、150~600デシパスカル秒の粘度を有する生地を用い、該生地を成形した後、その成形生地を、時間的間隔をおいてそのまま油槽に導き順次ずらして重ねて一体的に油ちょうすることで製造される。
【0004】
一方、イーストドーナツは、生地の発酵工程を経て製造されることに起因して、発酵工程を経ずに製造されるケーキドーナツと比較して、もっちり感、ふんわり感に富んだ食感が特徴的である。また、イーストドーナツは、発酵によって生地に気泡を含有させるため、グルテン含量の高い強力粉を主体にした生地原料を用い、さらに、生地原料に対する加水量を少なめにして比較的粘度の高い粘土状の生地(いわゆるドウ)を用いるのが通常である。
【0005】
イーストドーナツは、典型的には、生地の調製、発酵(一次発酵)、分割・丸め、ベンチタイム、成形、ホイロ(二次発酵)、ラックタイム、油ちょうという多数の工程を経て製造される。このため、イーストドーナツの製造には比較的大掛かりな設備と長時間を要し、例えば、店内で製造販売するいわゆるウインドベーカリーではこのような製造環境を整備することは困難であるため、製造工程、製造設備の簡略化が要望されている。
【0006】
斯かる要望に応え得るイーストドーナツの製造方法に関し、特許文献2には、原料配合組成物100重量部に対して70~80重量部の加水を行ない混捏して生地を得た後、該生地を発酵させて発酵生地を得、該発酵生地を圧力式カツターにより分割・成形し、ホイロ工程を経ることなしに直ちに油ちょうを行なう方法が記載されている。特許文献2記載のイーストドーナツの製造方法は、製造工程の簡略化の観点からホイロ工程を除いた場合に懸念される不都合、例えば、ドーナツの表皮にシワができやすい、形状が悪いなどを生じさせないというものであり、形状の均整がとれた定形のイーストドーナツを効率よく製造することを目的とするものである。
【0007】
また特許文献3には、ホイロ工程を行わないイーストドーナツの製造方法として、穀粉類、豆粉、グルテン粉末及びローストフラワーを含む生地原料を用いて生地を調製し、該生地を一次発酵する際に、発酵膨張率が80~200%になるように発酵を行う方法が記載されている。特許文献3記載の製造方法によれば、油っこくなく、外側がサックリとし且つ内側がもっちりとした食感を有するイーストドーナツが得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-276059号公報
【文献】特開昭60-234534号公報
【文献】特開2012-200193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ドーナツの形状は多種多様であるが、いずれの形状であっても、形状に関して通常要望されるのは、ドーナツ各部の形が揃っていて全体的につり合いがとれた形状、即ち「均整のとれた形状」であり、同種のドーナツを多数製造した場合に、それら多数のドーナツどうしで形状が揃っていることが通常要望される。例えば、中央に貫通孔が形成された典型的なリング状(円環状)のドーナツであれば、その外周縁及び内周縁(該貫通孔の周縁)の両方が平面視において略円形状であることが通常は要望される。そして、斯かる要望に沿わない、「不均整な形状」のドーナツは不良品として扱われ、通常、正規品としては流通しない。
【0010】
しかしながら、ドーナツの形状が不均整であることが、却って該ドーナツの食感などにプラスに作用することがあり得る。例えば、均整のとれた形状のドーナツは、どこを食べても同じような食感であり、食する人によっては、面白みに欠けるといった批判的な感想となる可能性があるのに対し、不均整な形状のドーナツは、ドーナツ各部での形状の違いに起因してドーナツ各部で食感が異なるため面白みが感じられ、実際、このような不均整な形状のドーナツに対する需要が存在する。特にイーストドーナツは、もっちり感、ふんわり感に富んだ独特の食感を有しているところ、イーストドーナツの形状が不均整である場合には、その不均整な形状が、イーストドーナツ独特の食感にさらにアクセントとして加わる結果、イーストドーナツの食感がバラエティに富んだものとなることが期待される。
【0011】
一方で、ドーナツの形状が不均整であると、箱や袋などの容器への収容性が低下し、容器に効率よく収容することが困難になる他、容器にドーナツを収容した状態を観察する者に、例えば、まとまりの無い雑然とした印象のような、否定的な印象を与えるおそれがあり、ドーナツパッケージとしての商品価値が低下するおそれがある。
【0012】
本発明の課題は、不均整な形状を有していて食感がバラエティに富んでおり、且つ容器への収容性に優れたイーストドーナツ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、内周縁と外周縁とに囲まれたリング状部を有するイーストドーナツであって、前記リング状部の厚み方向中央の断面視において、前記内周縁の円形度が0.35以下、前記外周縁の円形度が0.85以上であるイーストドーナツである。
【0014】
また本発明は、前記の本発明のイーストドーナツの製造方法であって、少なくとも穀粉類及びイーストを含む生地原料に液体を添加してペースト状の生地を調製し、該生地を発酵させて発酵生地を得、該発酵生地を加熱された油中に投入して油ちょうする工程を有し、前記発酵生地を成形した後、ホイロ工程を経ずに油ちょうする、イーストドーナツの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、不均整な形状を有していて食感がバラエティに富んでおり、且つ容器への収容性に優れたイーストドーナツが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明のイーストドーナツの一実施形態を示す図面代用写真である。
図2図2は、図1に示すイーストドーナツ(リング状部)の厚み方向中央の断面を示す図面代用写真である。
図3図3は、本発明のイーストドーナツの製造方法の実施に使用可能な押出成形機の模式的な斜視図である。
図4図4(a)ないし図4(c)は、いずれもドーナツのリング状部の厚み方向中央の断面を示す図面代用写真であり、図4(a)は、本発明の範囲に包含される実施例のイーストドーナツ、図4(b)及び図4(c)は、それぞれ、本発明の範囲外である比較例のケーキドーナツである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1及び図2には、本発明のイーストドーナツの一実施形態であるドーナツ1が示されている。ドーナツ1は、内周縁F1と外周縁F2とに囲まれたリング状部2を有する。リング状部2は、ドーナツ1の主体をなす部分、即ちドーナツ1の全質量の50質量%を超える部分であり、図示の形態のドーナツ1はリング状部2からなる。リング状部2は、面方向の中央部に該リング状部2(ドーナツ1)を厚み方向に貫通する貫通孔CHを有している。貫通孔CHは内周縁2Aによって画成されている。
【0018】
ドーナツ1は、図2に示す如き厚み方向中央の断面視において、リング状部2の内周縁F1の円形度が0.35以下、外周縁F2の円形度が0.85以上である点で特徴付けられる。ここでいう「厚み方向」は、リング状部2(ドーナツ1)の面方向と直交する方向であり、貫通孔CHの延在方向である。また、「厚み方向中央の断面」は、リング状部2(ドーナツ1)を厚み方向に二等分した場合の切断面である。また、「円形度」は、測定対象(ドーナツあるいはそのリング状部)の投影像に関する形状指数である。真円の円形度は1であり、測定対象の形状が複雑になり「円らしさ」が失われるほど、円形度の数値は小さくなる。
【0019】
前記円形度は下記式によって算出される。
円形度=(測定対象の投影面積と同じ面積を持つ円の周長)/(測定対象の周長)
前記式における「測定対象の投影面積」及び「測定対象の周長」は、解析装置(エリオニクス社製ERA-8900)を用いて、倍率10,000倍の二次元画像を撮影し、画像解析ソフト(三谷商事社製WinROOF)を用いて、0.010000μm/pixel条件で測定される。また、前記式における「測定対象の投影面積と同じ面積を持つ円の周長」は、2√(測定対象の投影面積/π)とする。
【0020】
本発明の主たる技術思想の1つは、イーストドーナツの形状を敢えて「不均整な形状」とすることで、イーストドーナツの食感をバラエティに富んだものとする点にあるところ、図2に示すドーナツ1において、リング状部2の内周縁F1の円形度が0.35以下というのは、斯かる技術思想に対応したものである。円形度が0.35以下の内周縁F1は、図2に示す通り、円とは程遠い複雑な形状をなしており、ドーナツ1の不均整な形状及び該形状に起因するバラエティに富んだ食感に大きく寄与している。即ち、均整のとれた一般的なリング状ドーナツは通常、厚み方向中央の断面視における内周縁及び外周縁共に円形度が0.85以上であり、どこを食べても同じような食感であるのに対し、該内周縁の円形度が0.35以下のリング状ドーナツは、その複雑な形状の内周縁に起因して、特に内周縁及びその近傍を中心とした、内側部分の食感が部分的に異なるため、部位ごとに異なる食感を呈し、バラエティに富んだ食感を楽しむことができる。
【0021】
一方、図2に示すドーナツ1において、リング状部2の外周縁F2の円形度は0.85以上であり、比較的円形度が高い。このように、リング状部2の外周縁F2の円形度を比較的高くして、外周縁F2を円に近い形状とした理由は、ドーナツの容器への収容性を考慮したことによる。リング状部2の外周縁F2は通常、ドーナツ1の面方向における最外方の輪郭を形成するものであり、ドーナツ1を箱や袋などの容器に収容する際の収容率などに少なからず影響を及ぼすところ、外周縁F2の円形度が内周縁F1と同様に低いと、収容率の低下を招くおそれがある他、ドーナツ1を容器に収容した状態を観察する者に、まとまりの無い雑然とした印象のような、否定的な印象を与えるおそれがあり、ドーナツパッケージとしての商品価値が低下するおそれがある。そこで本発明では、イーストドーナツの容器への収容性を主に考慮して、リング状部2の外周縁F2の円形度を比較的高いものとし、本発明が目的とするイーストドーナツの不均整な形状は、主に内周縁F1で確保することとしたものである。
【0022】
イーストドーナツに不均整な形状を付与して外観及び食感の評価をより高めるようにする観点から、そのリング状部は、図2に示す如き厚み方向中央の断面視において、該リング状部を径方向に二等分する任意の仮想直線(図示せず)を対称軸として非対称であることが好ましい。図2に示すドーナツ1においては、リング状部2全体として斯かる非対称形状をなしており、また、内周縁F1及び外周縁F2それぞれについても、斯かる非対称形状をなしている。
【0023】
本発明のイーストドーナツの組成については、前述した特徴的なドーナツの不均整な形状が得られることを前提として、特に制限は無く、基本的には、通常のイーストドーナツと同様の組成でよい。
【0024】
本発明のイーストドーナツは、少なくとも穀粉類を含有する。前記穀粉類としては、イーストドーナツの製造において従来用いられている穀粉及び澱粉を特に制限なく用いることができ、斯かる穀粉及び澱粉からなる群から選択される1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。前記穀粉としては、例えば、薄力粉、中力粉、強力粉、小麦全粒粉、デュラムセモリナ等の小麦粉;ライ麦粉、米粉、コーンフラワー、コーングリッツ等が挙げられる。前記澱粉は、小麦等の植物から単離された「純粋な澱粉」を意味し、前記穀粉中に含まれる澱粉とは区別される。前記澱粉としては、例えば、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉、タピオカ澱粉等の未加工澱粉、及びこれら未加工澱粉に油脂加工、α化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理等の処理の1つ以上を施した加工澱粉等が挙げられる。
【0025】
本発明のイーストドーナツは、前記の穀粉類(穀粉、澱粉)及びイースト以外に必要に応じ、イーストドーナツの製造に従来用いられている他の原料を含有してもよい。他の原料としては、例えば、乳化剤、油脂、卵、食塩、砂糖、乳原料、増粘剤、香料等が挙げられ、製造するイーストドーナツの種類等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
次に、前述した本発明のイーストドーナツの製造方法について説明する。本発明のイーストドーナツの製造方法では、生地原料に液体を添加して生地を調製し(生地調製工程)、該生地を発酵させて発酵生地を得(発酵工程)、該発酵生地を加熱された油中に投入して油ちょうする(油ちょう工程)。
【0027】
本発明のイーストドーナツの製造方法は、油ちょうに供される発酵生地が、従来のイーストドーナツの製造において採用されている粘土状の生地、いわゆるドウではなく、ドウよりも粘性の低いペースト状の生地である点で特徴付けられる。また、本発明のイーストドーナツの製造方法は、発酵生地を所定形状に成形した後、ホイロ工程(二次発酵工程)を経ずに油ちょうする、即ち、成形即油ちょうする点でも特徴付けられる。
【0028】
イーストドーナツは従来、塑性ないし伸展性を有する生地であるドウを調製し、フロアタイム、分割、ベンチタイムなどの工程を経た後、ベンチカット法、デパイダー法などにより生地を所定形状に成形し、さらにホイロ工程を経て製造されている。ベンチカット法は、生地を圧延してドーナツ型で型抜きする成形法、デパイダー法は、手指などで分割した生地をモルダーにてロール状にした後、そのロール状生地の長手方向両端を連結させて環状にする成形法であり、これらの成形法の適用には、適用対象である生地が、塑性ないし伸展性を有することが必要である。従来のイーストドーナツは、このように、塑性ないし伸展性を有する生地(ドウ)を用いて、比較的保形性の高い発酵生地を得、該発酵生地を、均整のとれた形状のドーナツ型を用いて型抜きするなどして成形されるため、均整のとれた形状となりやすい。換言すれば、図1及び図2に示す如き不均整な形状のイーストドーナツは、このような保形性の高い生地を用いた従来のイーストドーナツの製造方法では製造困難であった。
【0029】
これに対し、本発明のイーストドーナツの製造方法では、1)ドウよりも粘性の低いペースト状の生地を用いると共に、2)従来のイーストドーナツの製造において一次発酵(フロアタイム)後から油ちょうまでの間に実施されている工程を簡略化すること、具体的には、一次発酵により得られた発酵生地を所定形状に成形した後、ホイロ工程を経ずに油ちょうする、いわゆる「成形即油ちょう方式の工程」を採用することにより、図1及び図2に示す如き不均整な形状のイーストドーナツの製造を可能にしている。また特に、前記2)の成形即油ちょう方式の工程の採用により、従来イーストドーナツの製造において行われていた生地の分割、成形、ホイロといった、比較的煩雑で時間のかかる作業が不要となり、不均整な形状のイーストドーナツを効率良く製造することが可能となる。
【0030】
前記2)の成形即油ちょう方式の工程は、例えば、図3に示す押出成形機10を用いて実施することができる。押出成形機10は、底部に生地の押出口111を有する生地収容部11と、該生地収容部11に収容された生地を該押出口111から押し出すプランジャー12とを具備する。生地収容部11は、生地投入用の上部開口110を有し、該上部開口110から底部の押出口111に向かって漸次縮径する部分を有している。プランジャー12は、一方向に長い棒状をなし、その長手方向を垂直方向に一致させて、手動又はモーター等の駆動源による自動で、垂直方向を上下動自在に支持されている。押出成形機10は従来、ケーキドーナツの製造に使用されており、サニタリーカッター、オープンケトル式ドーナツカッターなどとも呼ばれる。
【0031】
押出成形機10の生地収容部11に前記発酵工程で得られた発酵生地を投入し、常法に従って押出成形機10を操作することで、該発酵生地の成形及び成形された該発酵生地の油中への投入を連続的に実施することが可能となる。その際、図3に示すように、押出成形機10を、油ちょうが行われる高温の油21の入った油槽20の上方に設置しておくと、プランジャー12によって押出口111から押し出された生地(成形された発酵生地)がそのまま油21中に投入されるようになるため好ましい。
【0032】
不均整な形状のイーストドーナツをより確実に得るようにする観点から、油ちょうする直前の発酵生地の粘度は、好ましくは20~150Pa・s、より好ましくは20~100Pa・s、さらに好ましくは30~50Pa・sである。油ちょう直前の発酵生地の粘度が低すぎると、生地の保形性が低すぎてイーストドーナツの製造が困難となるおそれがあり、逆に該発酵生地の粘度が高すぎると、図3に示す如き押出成形機を用いて生地を安定的に成形して押し出すことが困難となるおそれがある。本明細書において、生地(発酵生地)の粘度は、測定対象の生地の品温を25℃に調整し、ブルックフィールド回転粘度計(B型粘度計)を用いて常法に従って測定された粘度を意味する。例えば、B型粘度計としてビスコメーターTVB10形(東機産業)を用い、ローターとしてSPINDLE NO.M4を使用することができる。発酵生地の粘度は、生地原料に添加する液体の量を調整する、生地に含まれる糖量を増やす、生地原料に含まれる穀粉の種類を変える等の方法により調整することができる。
【0033】
本発明のイーストドーナツの製造方法についてさらに説明すると、前記生地調製工程では、生地原料に液体を添加してペースト状の生地を調製する。本発明で用いる生地原料は、少なくとも穀粉類及びイーストを含み、常温常圧で粉体である。生地原料における穀粉類の含有量は、生地原料の全質量に対して、好ましくは30質量%以上、40~90質量%である。
【0034】
油ちょう直前の発酵生地の粘度を好ましくは20~150Pa・sに調整して、本発明の所定の効果を確実に奏させるようにする観点から、本発明で用いる穀粉類の好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上が薄力粉であることが好ましい。本発明で用いる穀粉類の全部が薄力粉であると特に好ましい。
【0035】
また、ドーナツの不均整な形状を作りつつも、リングドーナツとしての形状をなす観点から、本発明で用いる生地原料におけるイーストの含有量は、該生地原料中の穀粉類100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは1.5~5質量部、さらに好ましくは3~4質量部である。
【0036】
前記生地調製工程は、ミキサー(混合攪拌機)を用いて常法に従って行うことができ、ミキサーへの生地原料の投入順序などは常法に従えばよい。ミキサーとしては、製パン製菓用に従来用いられているものを用いることができ、例えば、縦型ミキサー、横型ミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー等が挙げられる。生地原料に添加する液体としては、水、牛乳、豆乳、卵等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。生地原料に対する液体の添加量は、油ちょう直前の発酵生地の粘度を好ましくは20~150Pa・sに調整する観点から、生地原料100質量部に対して、好ましくは60~80質量部である。
【0037】
前記発酵工程では、前記生地調製工程で得られたペースト状の生地を発酵させて発酵生地を得る。前記発酵工程は、生地を所定の室温下で所定時間静置することで行うことができる。イーストドーナツに固有の食感であるもっちり感を際立たせて、前記の「不均整な形状」による食感のアクセントと相俟って、イーストドーナツの食感をより確実にバラエティに富んだものとする観点から、発酵工程における生地の発酵時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは45~70分である。また、同様の観点から、発酵工程における生地の発酵温度(生地の品温)は、好ましくは20~30℃、より好ましくは25~28℃である。
【0038】
前記発酵工程の後は、前述した通り、図3に示す如き押出成形機を用いて、該発酵工程で得られた発酵生地を成形した後、ホイロ工程を経ずに油ちょうする工程、即ち成形即油ちょう方式の工程を実施する。
【0039】
本発明のイーストドーナツの製造方法においては、発酵生地の油ちょう直前、例えば図3に示す如き押出成形機に発酵生地を投入する直前に、該発酵生地をミキシングしてもよい。これにより、生地全体を一定の粘度とすることができ、また、生地内部の余分の空気を抜き、安定した品質のドーナツ製品を効率良く製造することが可能となる。この発酵生地のミキシングは、該ミキシング後の発酵生地の粘度が20~150Pa・sとなるように、ミキシングの条件を調整することが好ましい。発酵生地のミキシングは、縦型ミキサー、横型ミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー等の公知のミキサーを用いて常法に従って行うことができる。発酵生地のミキシングの条件の一例として、ビータータイプの攪拌羽根を有する市販の縦型ミキサーを用いて低速で1分間ミキシングする条件が挙げられる。
【0040】
本発明の製造方法において、発酵生地の油ちょうは常法に従って行うことができ、典型的には、加熱された高温の食用油が入った油槽に発酵生地を投入して行う。油ちょうの条件は、油ちょうする生地の重量、製造目的物たるイーストドーナツの形状等に応じて適宜調整すればよく特に制限されないが、例えば、油温170~190℃、油ちょう時間は、ドーナツの片面側につき60~120秒間(ドーナツ1個当たりの油ちょう時間120~240秒間)を例示できる。
【実施例
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1~2:イーストドーナツ〕
下記表1に示す組成のミックスAを用いて、下記表2に示す工程により発酵生地を調製し、該発酵生地を用いてイーストドーナツを製造した。
具体的には、先ず、100質量部のミックスAに対し、全卵20質量部と、水50質量部とをそれぞれ加え、市販のミキサー(関東混合機工業(株)製、商品名「HPI-20M」)を用いて、低速で1分間、高速で3分間ミキシングしてペースト状の生地を調製した(生地調製工程)。次に、この生地をミキサーに入れたままの状態で、該生地の品温を25℃として60分間のフロアタイムをとることで該生地を発酵(一次発酵)させて発酵生地を得た(発酵工程)。そして、発酵生地を低速で1分間でリミキシングした後、図3に示す押出成形機10と基本構成が同様の押出成形機(ベルショウ社製、商品名「タイプFドーナツカッター(モーター式)」)に、プレーンプランジャー(1.5/8インチ)を装着したものを用いて、ドーナツ1個当たりの生地重量が41gとなるように成形し、その成形生地をホイロ工程(二次発酵工程)を経ずに直ちに油ちょうして、リング状のイーストドーナツを製造した。油ちょうは、油温190℃で、油ちょう時間は3分間(片面側につき1分30秒間)とした。
【0043】
〔比較例1~2:ケーキドーナツ〕
下記表1に示す組成のミックスB(比較例1)、ミックスC(比較例2)を用いて、下記表2に示す工程により生地を調製し、該生地を用いてケーキドーナツを製造した。
実施例1~2と比較例1~2との主な相違点は、1)前者がミックス中にイーストを含むのに対し、後者はこれを含まない点、2)前者が生地の発酵工程を実施するのに対し、後者はこれを実施しない点にある。また、比較例1~2では、実施例1~2で用いた押出成形機のプランジャーをスタープランジャー(比較例1)又はプレーンプランジャー(比較例2)を使用した。以上の点以外は、基本的に、実施例1~2と同様の方法でケーキドーナツを製造した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
〔評価試験〕
各実施例及び比較例のリング状のドーナツについて、前記方法により、リング状部の厚み方向中央の断面視における内周縁及び外周縁の円形度をそれぞれ算出した。その結果を下記表3に示す。また、各ドーナツの同断面の図面代用写真を図2及び図4に示す。
【0047】
【表3】
【符号の説明】
【0048】
1 イーストドーナツ
2 リング状部
F1 内周縁
F2 外周縁
CH 貫通孔
10 押出成形機
11 生地収容部
110 上部開口
111 押出口
12 プランジャー
20 油槽
21 油
図1
図2
図3
図4