(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】電磁波シールドフィルム
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20220215BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B15/01 G
(21)【出願番号】P 2018507336
(86)(22)【出願日】2017-03-21
(86)【国際出願番号】 JP2017011234
(87)【国際公開番号】W WO2017164174
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2020-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2016059059
(32)【優先日】2016-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳 善治
【審査官】赤穂 州一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-056967(JP,A)
【文献】特開2009-299186(JP,A)
【文献】特開2012-178469(JP,A)
【文献】特許第5861790(JP,B1)
【文献】国際公開第2015/076174(WO,A1)
【文献】特開2004-263030(JP,A)
【文献】特開平05-222346(JP,A)
【文献】特開2009-079127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 15/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム膜からなるシールド層と、導電性接着剤層とを備え、
前記導電性接着剤層は、熱硬化する接着性樹脂組成物と、フィラメント状のニッケル粒子からなる、導電性フィラーを含み、加熱及び加圧状態で接着され、
前記ニッケル粒子は、
メディアン径(D50)が5μm以上、30μm以下、
モード径が3μm以上、50μm以下、
モード径における累積分布が35%以上、
である、電磁波シールドフィルム。
【請求項2】
前記導電性フィラーは、
モード径における累積分布が、60%以上である、請求項1に記載の電磁波シールドフィルム。
【請求項3】
前記導電性フィラーは、最大粒子径が90μm以下である、請求項1又は2に記載の電磁波シールドフィルム。
【請求項4】
前記導電性接着剤層は、厚さが前記導電性フィラーのメディアン径以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電磁波シールドフィルム。
【請求項5】
前記導電性接着剤層は、前記導電性フィラーを20質量%以上、50質量%以下含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の電磁波シールドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレット型情報端末には、大容量のデータを高速に伝送する性能が求められている。また、大容量のデータを高速伝送するためには高周波信号を用いる必要がある。しかし、高周波信号を用いると、プリント配線板に設けられた信号回路から電磁波ノイズが発生し、周辺機器が誤動作しやすくなる。そこで、このような誤動作を防止するために、プリント配線板を電磁波からシールドすることが重要となる。
【0003】
プリント配線板をシールドする方法として、金属膜からなるシールド層と、導電性フィラーを含む導電性接着剤層とを有する電磁波シールドフィルムを使用することが検討されている(例えば、特許文献1~3を参照。)。
【0004】
電磁波シールドフィルムは、導電性接着剤層をプリント配線基板を被覆する絶縁層と対向させて、加熱加圧して貼り合わせる。絶縁層にはグランド回路を露出する開口部が設けられており、プリント配線基板の上に裁置した電磁波シールドフィルムを加熱加圧すると、開口部に導電性接着剤が充填される。これにより、シールド層とプリント配線基板のグランド回路とが、導電性接着剤を介して接続され、プリント配線板がシールドされる。その後、シールドされたプリント配線基板は、プリント配線基板と電子部品とを接続するために、リフロー工程において270℃程度の高温に曝される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-095566号公報
【文献】WO2006/088127号パンフレット
【文献】WO2009/019963号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の電磁波シールドフィルムにおけるシールド層としては、銀を蒸着した薄膜や銅箔からなる金属膜が用いられている。銀や銅は高価な材料であるため、シールド層のコストを下げるためにはアルミニウム等の安価な材料を用いることが好ましい。しかし、アルミニウム膜の表面には高抵抗の酸化膜が形成されやすく、通常の導電性接着剤では、シールド層であるアルミニウム膜と、グランド回路とを電気的に接続できず、シールドとして機能しない場合がある。また、初期状態において導通を確保できたとしても、リフロー工程により抵抗値が上昇するという問題が明らかになった。
【0007】
本開示の課題は、高価な材料を用いることなく、プリント配線板との電気的接続が安定的に維持された電磁波シールドフィルムを実現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の電磁波シールドフィルムの一態様は、アルミニウム膜からなるシールド層と、導電性接着剤層とを備え、導電性接着剤層は、スパイク状又はフィラメント状のニッケル粒子からなる導電性フィラーを含む。
【0009】
電磁波シールドフィルムの一態様において、導電性フィラーは、メディアン径(D50)が5μm以上、30μm以下、モード径が3μm以上、50μm以下、モード径における累積分布が、35%以上、好ましくは60%以上とすることができる。
【0010】
電磁波シールドフィルムの一態様において、導電性フィラーは、最大粒子径が90μm以下とすることができる。
【0011】
電磁波シールドフィルムの一態様において、導電性接着剤層は、厚さが導電性フィラーのメディアン径以下とすることができる。
【0012】
電磁波シールドフィルムの一態様において、導電性接着剤層は、導電性フィラーを20質量%以上、50質量%以下含むようにすることができる。
【0013】
本開示の電磁波シールドフィルム用導電性フィラーの一態様は、スパイク状又はフィラメント状で、モード径が3μm以上、50μm以下であり、モード径における累積分布が35%以上である、ニッケル粒子からなる。
【0014】
電磁波シールドフィルム用導電性フィラーの一態様において、ニッケル粒子は最大径が90μm以下とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示の電磁波シールドフィルムによれば、高価な材料を用いることなく、プリント配線板との電気的接続を安定的に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の電磁波シールドフィルムを示す断面図である。
【
図2】本実施形態の電磁波シールドフィルムを用いたシールドプリント配線基板を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の電磁波シールドフィルムの実施形態について具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0018】
(電磁波シールドフィルム)
図1に示すように、本実施形態の電磁波シールドフィルム100は、アルミニウム膜からなるシールド層111と、シールド層111の第1の面側に設けられた導電性接着剤層112と、シールド層111の第1の面とは反対側の第2の面側に設けられた絶縁保護層113とを備えている。
【0019】
<シールド層>
本実施形態のシールド層111は、アルミニウム膜からなる。アルミニウム膜の厚さは、シールド特性を良好にする観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上である。また、厚さは、柔軟性等の観点及び10MHz以上の高周波信号の伝送特性の観点から、好ましくは12μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。
【0020】
アルミニウム膜を製造する方法は特に限定されず、圧延加工によりアルミニウム箔を製造する方法や、アディティブ法である真空蒸着法、スパッタリング法、化学気相蒸着(CVD)法、有機金属成長(MO)法、メッキ法などにより製造することができる。
【0021】
<導電性接着剤層>
本実施形態の導電性接着剤層112は、接着性樹脂組成物と導電性フィラーとを有する導電性接着剤層である。本実施形態において、導電性フィラーは、スパイク状又はフィラメント状のニッケル粒子からなる。
【0022】
スパイク状のニッケル粒子とは、表面にスパイク状の突起を有するニッケルを主成分とする粒子である。スパイク状のニッケル粒子としては、例えばVale社のタイプ123等が挙げられる。
【0023】
フィラメント状のニッケル粒子とは、平均一次粒子径が0.1μm~10μm程度の一次粒子が、10個~1000個程度鎖状に連なりフィラメント状の二次粒子を形成しているニッケルを主成分とする粒子である。フィラメント状のニッケル粒子としては、例えばVale社のタイプ210、タイプ255、タイプ270及びタイプ287等が挙げられる。本開示における、フィラメント状のニッケル粒子の粒径等についての記載は、特にことわらない限り二次粒子についての記載である。
【0024】
スパイク状又はフィラメント状のニッケル粒子は、メディアン径(D50)が5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましくい。また、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましい。メディアン径が5μm以上であると、後述する抵抗値が低くなり電磁波シールド特性が良好となる。メディアン径が30μm以下であると、耐熱性が良好となる。また、スパイク状又はフィラメント状のニッケル粒子からなる導電性フィラーは、モード径が3μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。モード径が3μm以上であると、後述する抵抗値が低くなり電磁波シールド特性が良好となる。モード径が50μm以下であると電磁波シールドフィルムの耐熱性が良好となる。
【0025】
また、スパイク状又はフィラメント状のニッケル粒子からなる導電性フィラーは、モード径における累積分布が35%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることがさらにより好ましい。モード径の累積分布が35%以上であると、電磁波シールドフィルムの耐熱性が良好となる。
【0026】
また、スパイク状又はフィラメント状のニッケル粒子からなる導電性フィラーは、最大粒子径(Dmax)が90μm以下であることが好ましく、85μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることがさらに好ましく、70μm以下であることがよりさらに好ましい。Dmaxが90μm以下であると、電磁波シールドフィルムの耐熱性が良好となる。
【0027】
なお、モード径、累積分布、D50及びDmaxは、後述の実施例に示す方法により測定することができる。
【0028】
なお、スパイク状のニッケル粒子とフィラメント状のニッケル粒子とを混合して導電性フィラーとして用いることもできる。
【0029】
シールド層が銀又は銅等の膜である場合には、銅粒子、銀粒子、銀被覆銅粒子、又は通常の球形のニッケル粒子等を導電性フィラーとして用いることにより良好な電気的接続を得ることができる。しかし、シールド層がアルミニウム膜である場合には、表面に酸化膜が形成されるため、これらの粒子を導電性フィラーとすると、良好な電気的接続を得ることは困難である。また、初期状態において電気的接続が得られたとしても、リフロー工程により、抵抗値が上昇してしまい、安定的に接続を維持することは困難である。
【0030】
一方、スパイク状又はフィラメント状のニッケル粒子を導電性フィラーとして用いた場合には、粒子の硬度と形状との効果により、アルミニウム膜の表面の酸化膜を突き破ることができ、安定して良好な電気的接続を維持することが可能となる。なお、銀又は銅等からなる柔らかい粒子の場合には、突起等を有する形状であっても酸化膜を突き破ることができず、良好な電気的接続を得ることが困難である。
【0031】
導電性フィラーの導電性接着剤層全体に対する添加量は、良好な導電性を確保する観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。また、導電性接着剤層の密着性の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0032】
接着性樹脂組成物としては、特に限定されないが、スチレン系樹脂組成物、酢酸ビニル系樹脂組成物、ポリエステル系樹脂組成物、ポリエチレン系樹脂組成物、ポリプロピレン系樹脂組成物、イミド系樹脂組成物、アミド系樹脂組成物、若しくはアクリル系樹脂組成物等の熱可塑性樹脂組成物、又はフェノール系樹脂組成物、エポキシ系樹脂組成物、ウレタン系樹脂組成物、メラミン系樹脂組成物、若しくはアルキッド系樹脂組成物等の熱硬化性樹脂組成物等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
導電性接着剤層には、必要に応じて、硬化促進剤、粘着性付与剤、酸化防止剤、顔料、染料、可塑剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング剤、充填剤、難燃剤、及び粘度調節剤等の少なくとも1つが含まれていてもよい。
【0034】
導電性接着剤層の厚さは、特に限定されず、必要に応じて適宜設定することができるが、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上、そして好ましくは10μm以下、より好ましくは7μm以下とすることができる。なお、導電性接着剤層に異方性を持たせるためには、導電性接着剤層の厚さは、スパイク状又はフィラメント状のニッケル粒子からなる導電性フィラーのメディアン径(D50)以下とすることが好ましい。導電性接着剤層の厚さが導電性フィラーのメディアン径(D50)以下であると、電磁波シールドとプリント配線板との電気的接続が良好となる。
【0035】
<絶縁保護層>
本実施形態の絶縁保護層113は、接着剤層及びシールド層を保護できる所定の機械的強度、耐薬品性及び耐熱性等を満たし、充分な絶縁性を有していれば特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物、又は活性エネルギー線硬化性組成物等を用いることができる。
【0036】
熱可塑性樹脂組成物としては、特に限定されないが、スチレン系樹脂組成物、酢酸ビニル系樹脂組成物、ポリエステル系樹脂組成物、ポリエチレン系樹脂組成物、ポリプロピレン系樹脂組成物、イミド系樹脂組成物、又はアクリル系樹脂組成物等を用いることができる。熱硬化性樹脂組成物としては、特に限定されないが、フェノール系樹脂組成物、エポキシ系樹脂組成物、末端にイソシアネート基を有するウレタン系樹脂組成物、末端にイソシアネート基を有するウレア系樹脂、末端にイソシアネート基を有するウレタンウレア系樹脂、メラミン系樹脂組成物、又はアルキッド系樹脂組成物等を用いることができる。また、活性エネルギー線硬化性組成物としては、特に限定されないが、例えば、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する重合性化合物等を用いることができる。これらの樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
絶縁保護層には、必要に応じて、硬化促進剤、粘着性付与剤、酸化防止剤、顔料、染料、可塑剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング剤、充填剤、難燃剤、粘度調節剤、及びブロッキング防止剤等の少なくとも1つが含まれていてもよい。
【0038】
絶縁保護層は、材質又は硬度若しくは弾性率等の物性が異なる2層以上の積層体であってもよい。例えば、硬度が低い外層と、硬度が高い内層との積層体とすれば、外層がクッション効果を有するため、電磁波シールドフィルムをプリント配線板に加熱加圧する工程においてシールド層に加わる圧力を緩和できる。このため、プリント配線板に設けられた段差によってシールド層が破壊されることを抑制することができる。
【0039】
また、絶縁保護層の厚さは、特に限定されず、必要に応じて適宜設定することができるが、1μm以上、好ましくは4μm以上、そして20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下とすることができる。絶縁保護層の厚さを1μm以上とすることにより接着剤層及びシールド層を充分に保護することができる。絶縁保護層の厚さを20μm以下とすることにより、電磁波シールドフィルムの屈曲性を確保することができ、屈曲性が要求される部材へ、1枚の電磁波シールドフィルムを適用することが容易となる。
【0040】
(製造方法)
本実施形態の電磁波シールドフィルムの製造方法は特に限定されず種々の方法により製造することができる。例えば、以下に示すように、支持基材の上に、導電性接着剤層を形成し、別の支持基材の上に絶縁保護層及びシールド層を形成し、導電性接着剤層と、シールド層とを貼り合わせて製造することができる。
【0041】
<導電性接着剤層形成工程>
まず、接着剤層用組成物を調製する。接着剤層用組成物は、導電性フィラーと、樹脂組成物と、溶剤とを含む。導電性フィラーは、スパイク状又はフィラメント状のニッケル粒子とする。樹脂組成物は、特に限定されないが、スチレン系樹脂組成物、酢酸ビニル系樹脂組成物、ポリエステル系樹脂組成物、ポリエチレン系樹脂組成物、ポリプロピレン系樹脂組成物、イミド系樹脂組成物、アミド系樹脂組成物、若しくはアクリル系樹脂組成物等の熱可塑性樹脂組成物、又はフェノール系樹脂組成物、エポキシ系樹脂組成物、ウレタン系樹脂組成物、メラミン系樹脂組成物、若しくはアルキッド系樹脂組成物等の熱硬化性樹脂組成物等とすることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
溶剤は、例えば、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、又はジメチルホルムアミド等とすることができる。
【0043】
また、必要に応じて、接着剤層用組成物に硬化促進剤、粘着性付与剤、酸化防止剤、顔料、染料、可塑剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング剤、充填剤、難燃剤、及び粘度調節剤等の少なくとも1つが含まれていてもよい。
【0044】
次に、導電性接着剤層形成用支持基材の片面に接着剤層用組成物を塗布する。導電性接着剤層形成用支持基材に保護層用組成物を塗布する方法としては、特に限定されず、リップコーティング、コンマコーティング、グラビアコーティング、及びスロットダイコーティング等の公知の技術を採用することができる。
【0045】
導電性接着剤層形成用支持基材は、例えば、フィルムとすることができる。導電性接着剤層形成用支持基材は、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリイミド系、又はポリフェニレンサルファイド系等の材料により形成することができる。なお、導電性接着剤層形成用支持基材と接着剤層用組成物との間に、離型剤層を設けてもよい。
【0046】
調製した接着剤層用組成物を導電性接着剤層形成用支持基材の表面に塗布し、導電性接着剤層形成用支持基材の表面に塗布された接着剤層用組成物を、加熱乾燥して溶剤を除去することにより、導電性接着剤層が形成される。
【0047】
<絶縁保護層形成工程>
まず、保護層用組成物を調製する。保護層用組成物は、樹脂組成物に、溶剤及びその他の配合剤を適量加えて調製することができる。溶剤は、例えば、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール及びジメチルホルムアミド等とすることができる。その他の配合剤としては、架橋剤、重合用触媒、硬化促進剤、充填材及び着色剤等を加えることができる。その他の配合剤は必要に応じて加えればよい。
【0048】
次に、絶縁保護層形成用支持基材の片面に、調製した保護層用組成物を塗布する。絶縁保護層形成用支持基材に保護層用組成物を塗布する方法としては、特に限定されず、リップコーティング、コンマコーティング、グラビアコーティング、及びスロットダイコーティング等の公知の技術を採用することができる。
【0049】
絶縁保護層形成用支持基材は、例えば、フィルム状とすることができる。絶縁保護層形成用支持基材は、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリイミド系、又はポリフェニレンサルファイド系等の材料により形成することができる。なお、絶縁保護層形成用支持基材と保護層用組成物との間に、離型剤層を設けてもよい。
【0050】
絶縁保護層形成用支持基材の表面に塗布された保護層用組成物を、加熱乾燥して溶剤を除去することにより、絶縁保護層が形成される。
【0051】
<シールド層形成工程>
次に、絶縁保護層の表面にシールド層を形成し、絶縁保護層とシールド層との積層体とする。具体的には、予め所定の厚さに形成したアルミニウム箔を絶縁保護層に貼り合わせる方法や、絶縁保護層の表面に蒸着又はめっき等によりアルミニウム膜を形成する方法を用いることができる。
【0052】
<貼り合わせ工程>
導電性接着剤層とシールド層とを対向させ、導電性接着剤層と積層体とを貼り合わせることにより、絶縁保護層、シールド層及び導電性接着剤層を有する電磁波シールドフィルムが得られる。
【0053】
なお、導電性接着剤層形成用支持基材は、電磁波シールドフィルムをプリント配線基板に貼り付ける直前に剥離すればよい。このようにすれば、導電性接着剤層形成用支持基材を導電性接着剤層の保護膜として用いることができる。また、絶縁保護層形成用支持基材は、電磁波シールドフィルムをプリント配線板に貼り付けた後に行うことができる。このようにすれば、支持基材により電磁波シールドフィルムを保護することができる。ただし、絶縁保護層形成用は、絶縁保護層が形成された後であれば、いつ剥離してもよい。
【0054】
なお、導電性接着剤層の上にシールド層及び絶縁保護層を順次形成することも可能である。また、絶縁保護層の上に、シールド層及び導電性接着剤層を順次形成することも可能である。
【0055】
(シールドプリント配線板)
本実施形態の電磁波シールドフィルムは、例えば、
図2に示すシールドプリント配線板300に用いることができる。シールドプリント配線板300は、プリント配線板200と、電磁波シールドフィルム100と備えている。
【0056】
プリント配線板200は、ベース層211と、ベース層211上に形成されたプリント回路(グランド回路)212と、ベース層211上において、グランド回路212に隣接して設けられた絶縁性接着剤層213と、グランド回路212の一部を露出するための開口部が形成され、絶縁性接着剤層213を覆うように設けられた絶縁性のカバーレイ214とを有している。なお、絶縁性接着剤層213とカバーレイ214とにより、プリント配線板の絶縁層が構成される。
【0057】
ベース層211、絶縁性接着剤層213及びカバーレイ214は、特に限定されず、例えば、樹脂フィルム等とすることができる。この場合、ポリプロピレン、架橋ポリエチレン、ポリエステル、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリエーテルイミド、又はポリフェニレンサルファイド等の樹脂により形成することができる。グランド回路212は、例えば、ベース層211上に形成された銅配線パターン等とすることができる。
【0058】
なお、電磁波シールドフィルム100は、導電性接着剤層112をカバーレイ214側にしてプリント配線板200と接着されている。
【0059】
次に、シールドプリント配線板300の製造方法について説明する。プリント配線板200上に、電磁波シールドフィルム100を載置し、プレス機で加熱しつつ加圧する。加熱により柔らかくなった導電性接着剤層112の一部は、加圧によりカバーレイ214に形成された開口部に流れ込む。これにより、シールド層111とプリント配線板200のグランド回路212とが、導電性接着剤を介して接続され、シールド層111とグランド回路212とが接続される。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は例示であり、本発明を何ら限定しない。
【0061】
<粒径の評価>
導電性フィラー粒子の凝集体のモード径、累積分布、D50及びDmaxは、粒度分布測定装置(マイクロトラックベル社製、MT3300EXII)を用い、水を分散媒として測定した。
【0062】
<電気的接続の評価>
作成した電磁波シールドフィルムと、評価用のプリント配線基板とを重ね合わせ、プレス機を用いて170℃、3.0MPaの条件で1分間加熱加圧した後、同じ温度及び圧力で3分間加熱加圧した。この後、支持基材を保護層から剥離して、評価用のシールドプリント配線板を作製した。
【0063】
プリント配線板は、互いに間隔をおいて平行に延びる2本の銅箔パターンと、銅箔パターンを覆うとともに、ポリイミドからなる絶縁層(厚み:25μm)を有しており、絶縁層には、各銅箔パターンを露出する開口部(直径:1mm)を設けた。電磁波シールドフィルムの接着剤層とプリント配線板とを重ね合わせる際に、この開口部が電磁波シールドフィルムにより完全に覆われるようにした。
【0064】
得られたシールドプリント配線基板の2本の銅箔パターン間の電気抵抗値を、抵抗計を用いて測定し、リフロー前のプリント配線基板とシールド層との間の電気的接続を評価した。
【0065】
次に、リフロー処理を想定した熱処理を行い、リフロー後の電気的接続を評価した。熱処理及び電気抵抗値の測定は3回繰り返した。熱処理は鉛フリーハンダの使用を想定し、シールドプリント配線板におけるシールドフィルムが265℃に1秒間曝されるような温度プロファイルを設定した。
【0066】
<絶縁保護層及びシールド層の作成>
固形分量が20質量%となるように、トルエンにビスフェノールA型エポキシ系樹脂(三菱化学(株)製、jER1256)を100質量部、硬化剤として(三菱化学(株)製、ST14)を0.1質量部配合し、絶縁保護層組成物を調製した。この組成物を、表面を離型処理したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる絶縁保護層形成用支持基材に塗布し、加熱乾燥して絶縁保護層形成用支持基材の表面に絶縁保護層(厚さ6μm)を形成した。
【0067】
得られた絶縁保護層の表面に、蒸着法により厚さが0.1μmのアルミニウム膜を形成し、絶縁保護層とシールド層との積層体を得た。具体的には、バッチ式真空蒸着装置(アルバック製、EBH-800)内に絶縁保護層を形成した支持基材を裁置し、アルゴンガス雰囲気中で、真空到達度5×10-1Pa以下に調整して、マグネトロンスパッタリング法(DC電源出力:3.0kW)により、アルミニウムを0.1μmの厚さに蒸着した。
【0068】
(実施例1)
-電磁波シールドフィルムの作成-
固形分量が20質量%となるように、トルエンにビスフェノールA型エポキシ系樹脂(三菱化学(株)製、jER1256)を100質量部、硬化剤(三菱化学(株)製、ST14)を0.1質量部、フィラメント状のニッケル粒子からなる導電性フィラーを43質量部添加し、撹拌混合して接着剤層組成物を調製した。なお、導電性フィラーのモード径は34μmで、累積分布は76%であり、メディアン径(D50)は20μm、最大粒子径(Dmax)は88μmであった。また、得られた接着剤層組成物中のニッケル粒子の割合は30質量%となる。得られた接着剤層組成物を、表面を離型処理したPETフィルムからなる導電性接着剤層形成用支持基材に塗布し、加熱乾燥することで、導電性接着剤層形成用支持基材の表面に導電性接着剤層(厚さ12μm)を形成した。
【0069】
得られた導電性接着剤層を、別途作製した絶縁保護層とシールド層との積層体と貼り合わせることにより、実施例1の電磁波シールドフィルムを得た。
【0070】
実施例1の電磁波シールドフィルムについて、電気的接続性を評価したところ、リフロー前の初期電気抵抗値は、563mΩ、リフロー1回目の電気抵抗値は653mΩ、リフロー2回目の電気抵抗値は740mΩ、リフロー3回目の電気抵抗値は797mΩ、リフロー4回目の電気抵抗値は842mΩ、リフロー5回目の電気抵抗値は881mΩであった。
【0071】
(実施例2)
モード径が31μmで累積分布が79%、メディアン径(D50)が19μm、最大粒子径(Dmax)が62μmの、フィラメント状のニッケル粒子からなる導電性フィラーを用いた他は実施例1と同様にした。
【0072】
実施例2の電磁波シールドフィルムについて、電気的接続性を評価したところ、リフロー前の初期電気抵抗値は、607mΩ、リフロー1回目の電気抵抗値は658mΩ、リフロー2回目の電気抵抗値は691mΩ、リフロー3回目の電気抵抗値は711mΩ、リフロー4回目の電気抵抗値は726mΩ、リフロー5回目の電気抵抗値は739mΩであった。
【0073】
(実施例3)
モード径が23μmで累積分布が68%、メディアン径(D50)が15μm、最大粒子径(Dmax)が88μmの、フィラメント状のニッケル粒子からなる導電性フィラーを用いた他は実施例1と同様にした。
【0074】
実施例2の電磁波シールドフィルムについて、電気的接続性を評価したところ、リフロー前の初期電気抵抗値は、622mΩ、リフロー1回目の電気抵抗値は741mΩ、リフロー2回目の電気抵抗値は851mΩ、リフロー3回目の電気抵抗値は925mΩ、リフロー4回目の電気抵抗値は984mΩ、リフロー5回目の電気抵抗値は1036mΩであった。
【0075】
(実施例4)
モード径が8μmで累積分布が37%、メディアン径(D50)が10μm、最大粒子径(Dmax)が105μmの、スパイク状のニッケル粒子からなる導電性フィラーを用いた他は実施例1と同様にした。
【0076】
リフロー前の初期電気抵抗値は、1155mΩ、リフロー1回目の電気抵抗値は2089mΩ、リフロー2回目の電気抵抗値は2967mΩ、リフロー3回目の電気抵抗値は3255mΩ、リフロー4回目の電気抵抗値は4066mΩ、リフロー5回目の電気抵抗値は4317mΩであった。
【0077】
(比較例1)
モード径が7μmで累積分布が66%、メディアン径(D50)が6μm、最大粒子径(Dmax)が19μmの、球状のニッケル粒子からなる導電性フィラーを用いた他は実施例1と同様にした。リフロー前の初期電気抵抗値は、7750mΩであった。リフロー1回目~5回目の電気抵抗値はいずれも無限大(測定レンジ外)であった。
【0078】
(比較例2)
モード径が17μmで累積分布が64%、メディアン径(D50)が14μm、最大粒子径(Dmax)が52μmの、デンドライト状の銀被覆銅粒子(Ag-Cu、三井金属社製)からなる導電性フィラーを用いた他は実施例1と同様にした。リフロー前の電気抵抗値は、無限大(測定レンジ外)であった。このため、リフロー後の電気抵抗値の測定は行わなかった。
【0079】
各実施例及び比較例の評価結果を表1にまとめて示す。フィラメント状又はスパイク状のニッケル粒子を用いた、実施例1から4の電磁波シールドフィルムは、球形のニッケル粒子用いた比較例1の電磁波シールドフィルムと比べて、リフロー前の電気抵抗が低く、リフロー後においても低い電気抵抗を維持している。また、デンドライト状の銀被覆銅粒子を用いた比較例2の電磁波シールドフィルムは、リフロー前においても、導通を確認することができなかった。
【0080】
【産業上の利用可能性】
【0081】
本開示の電磁波シールドフィルムは、高価な材料を用いることなく、プリント配線板との電気的接続を安定的に維持することができ、プリント配線基板等をシールドする電磁波シールドフィルムとして有用である。
【符号の説明】
【0082】
100 電磁波シールドフィルム
111 シールド層
112 導電性接着剤層
113 絶縁保護層
200 プリント配線板
211 ベース層
212 グランド回路
213 絶縁性接着剤層
214 カバーレイ
300 シールドプリント配線板