(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】構造化物を有する成膜源
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20220215BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
C23C14/34 B
C23C14/34 A
B23K1/00 330Z
(21)【出願番号】P 2018531419
(86)(22)【出願日】2016-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2016002059
(87)【国際公開番号】W WO2017102069
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-11-01
(32)【優先日】2015-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】515319954
【氏名又は名称】プランゼー コンポジット マテリアルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】特許業務法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】ポルツィク,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルレ,サビネ
(72)【発明者】
【氏名】イナヴィンクラー,ロニー
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-216969(JP,A)
【文献】特開平05-214518(JP,A)
【文献】特開平05-230642(JP,A)
【文献】特開平10-182151(JP,A)
【文献】特表2017-524831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
B23K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理気相成長プロセス用の成膜源(1)であって、
前記成膜源(
1)が、
破断時伸びが1%以下である材料から成り且つ亀裂(4)を有する成膜材料(2)と、前記成膜材料(2)の表面で前記成膜材料(2)に接合される支持部材(3)と、を含有し
、
前記成膜材料(2)が、前記成膜材料(2)の表面の少なくとも一部に
、凹み、溝、楔又はスリットから成る構造化物(5)
(但し、ここで、構造化物(5)の深さは、前記成膜材料(2)の深さ方向に前記成膜材料(2)の少なくとも1mmが残っている大きさである。)を有する
ことを特徴とする成膜源(1)。
【請求項2】
前記亀裂(4)の全長の50%以上が前記構造化物(5)に沿っている請求項
1に記載の成膜源(1)。
【請求項3】
前記構造化物(5)が前記支持部材(3)とは反対側の前記成膜材料(2)の表面に施されている請求項1
又は2に記載の成膜源(1)。
【請求項4】
前記構造化物(5)が
、平行線状の凹みの第1のグループと、前記平行線状の凹みの第1のグループに対し70°~110°の角度に配置された平行線状の第2のグループとの
、配置から成る請求項1~
3のいずれか1項に記載の成膜源(1)。
【請求項5】
前記成膜材料(2)の熱膨張係数α
2が前記支持部材(3)の熱膨張係数α
3よりも大きい請求項1~
4のいずれか1項に記載の成膜源(1)。
【請求項6】
前記成膜材料(2)がTiB
2、SiC、B
4C、MoSiB又はCrSiBから成る請求項1~
5のいずれか1項に記載の成膜源(1)。
【請求項7】
前記支持部材(3)がモリブデン、タングステン、タンタル、モリブデン基合金、タングステン基合金又はタンタル基合
金から成る請求項1~
6のいずれか1項に記載の成膜源(1)。
【請求項8】
前記支持部材(3)のヤング率E
3が300GPa以上である請求項1~
7のいずれか1項に記載の成膜源(1)。
【請求項9】
前記成膜材料(2)の厚さd
2と、前記成膜材料(2)の厚さd
2及び前記支持部材(3)の厚さd
3の和(d
2+d
3)と、の比X=d
2/(d
2+d
3)が0.5を超える請求項1~
8のいずれか1項に記載の成膜源(1)。
【請求項10】
前記成膜源がプレート状である請求項1~
9のいずれか1項に記載の成膜源(1)。
【請求項11】
前記成膜源が管状である請求項1~
9のいずれか1項に記載の成膜源(1)。
【請求項12】
物理気相成長プロセス用成膜源(1)の製造方法であって、
-
破断時伸びが1%以下である材料から成る成膜材料(2)を用意する工程、
-前記成膜材料(2)を構造化して、前記成膜材料(2)の表面の少なくとも一部に
、凹み、溝、楔又はスリットから成る構造化物(5)を作る工程
(但し、ここで、構造化物(5)の深さは、前記成膜材料(2)の少なくとも1mmが前記成膜材料(2)の深さ方向に残る大きさである。)、
-支持部材(3)を用意する工程、
-前記成膜材料(2)を前記支持部材(3)に接合する工程、及び
-前記成膜材料(2)に亀裂(4)を導入する工程
を有する製造方法。
【請求項13】
前記成膜材料(2)の前記構造化が浸蝕、ワイヤカッティング、研削又は分離切断により実行される請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記成膜材料(2)の前記構造化が刻み目を付けられたプレス工具のプレスにより実行される請求項
12に記載の方法。
【請求項15】
前記構造化物
(5)が前記成膜材料(2)の表面上に導入され、
前記構造化物が、
前記成膜材料(2)と前記支持部材(3)との接合後に、前記成膜材料(2)の、前記支持部材(3)とは反対側の、表面に
存在するようにされる請求項
12~
14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記成膜材料(2)と前記支持部材(3)との接合が400℃~950℃の温度での硬ろう付けにより実行される請求項
12~
15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記亀裂(4)の導入が高められた温度からの冷却により行なわれる請求項
12~
16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記亀裂(4)の導入が硬ろう付けの温度からの冷却により行なわれる請求項
16に記載の方法。
【請求項19】
付加的な工程として、
-成膜源の粒子ブラスト
を含む請求項
12~
18のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理気相成長プロセス用成膜源及び物理気相成長プロセス用成膜源の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物理気相成長プロセス(英語:Physical Vapor Deposition:PVD)では、出発材料を、物理的手法により蒸気相に移し、次いで被着すべき基板上に堆積させることが行なわれる。
【0003】
本明細書における成膜源という概念は、PVDスパッタプロセス(カソードスパッタリング)において、そのために用意された基板材料上に膜を堆積するのに使用されるような成膜源(しばしば全体としてターゲット又はスパッタリングターゲットとも呼ばれる)だけを意味するものではないが、特にこの意味で使用される。
【0004】
特に脆い材料を含む成膜源又は脆い材料から成る成膜源は、成膜プロセス中の成膜源の使用及び成膜源そのものの製造に際して大きな問題がある。
【0005】
例えば、種々の成膜設備への取り付けのために要求される複雑な形状によって、このような成膜源又はその構成要素の製造時の機械加工が必要となるのだが、それがしばしば実現困難となる。このような加工は、研削又はワイヤ浸蝕によってのみ可能であることがしばしばであり、切削加工による加工は不可能である。この結果、単純な形状(ディスク、プレート、リング)しか作れず、機械加工では高いコストが掛かる。
【0006】
特に高電力又は高電力密度が適用される際には、成膜源又はその構成要素、例えば成膜材料、などの破損に至る恐れのある熱的に誘起される応力を避けるために、特に良好な冷却が必要である。成膜プロセス中におけるこのような成膜源の効率的な冷却は、通常は、冷却水により可能となる。成膜源は、この場合、成膜源の裏側に配置された冷却プレートにより冷却される。この冷却プレートは、同様に成膜プロセス中に生じる熱を除去する冷却水により冷却される。
【0007】
特に、可撓性且つ弾性の冷却プレートでは、成膜源に機械的負荷が及ぼされるので、同様に成膜源の塑性変形又は破損に至る恐れがある。この作用は、成膜源、特に成膜材料、の厚さが成膜プロセス中に減少することにより増強される。この結果、更に変形及び/又は破損の起きる確率が増大する。
【0008】
それ故、特に、脆い材料を含む成膜源には、構造的に、支持部材、例えばバッキングプレート又は支持管、が備えられるのが通常である。
【0009】
このような支持部材は、また、付加的にヒートシンクとしても機能する。即ち、成膜プロセスで生じる熱は、成膜材料よりも高い熱伝導率を有する支持部材を使用することにより、より良好に排出される。このような場合、成膜材料及びヒートシンクとしても用いられる支持部材からなる装置全体が成膜源と呼ばれる。
【0010】
このような高い強度及び剛性を有する支持部材/ヒートシンクは、種々の方法により靭性の低い(脆い材料挙動を有する)成膜材料上に適用することができる。支持部材/ヒートシンクと成膜材料との間に熱膨張係数の大きな差がある場合には、成膜プロセス中に成膜材料内の亀裂の形成又は成膜材料の破損が生じるおそれがある。
【0011】
特許文献1には、インジウムボンディングによる接合工程後に、適切な亀裂を、脆い成膜材料中に導入し、成膜プロセス中の亀裂形成自体を予め避ける方法が記載されている。これにより、より安定した成膜プロセスが保証される。
【0012】
特許文献2には、硬ろう付けによる接合工程後に、同様に適切な亀裂を脆い成膜材料中に施し、その結果として、安定したスパッタリングプロセスを可能にする方法が記載されている。この場合、硬ろう付けの温度からの冷却時に亀裂が生じるか又は亀裂形成が、その後のブラストプロセスによって更に助成される。この亀裂形成が生じるようにするためには、支持部材/ヒートシンクの膨張係数は、成膜材料の膨張係数よりも小さくなければならない。
【0013】
上述の両方法においては亀裂の発生は偶発的であり、成形材料の小片の剥がれが生じる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許出願公開昭62-278261号公報
【文献】国際公開第2015/197196A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、従来技術よりも改良された成膜源及び物理気相成長プロセス用のこのような成膜源の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
これらの課題は、請求項1の特徴を有する成膜源及び請求項13の特徴を有する方法により解決される。本発明の有利な実施形態は従属請求項に規定されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、亀裂導入前の成膜材料(2)、支持部材(3)及び構造化物(5)を有する成膜源(1)を示す。
【
図3】
図3は、亀裂(4)導入後の本発明による成膜源(1)の平面図である。
【
図4】
図4は、硬ろう付け後及び形成された亀裂の除去後のMoSiB製成膜材料を有する成膜源(例5)を示す。
【
図5】
図5は、Mo製バッキングプレート上に硬ろう付けされたTiB
2製成膜材料を有する成膜源(例6)を示す。亀裂は、蛍光染料による蛍光浸透探傷検査により可視化されている。
【
図6】
図6は、亀裂(4)導入後の、成膜材料(2)、支持管又は担体管(支持部材)(3)及び構造化物(5)を有する管状の成膜源(1)を示し、a)はその側面図、b)はその平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によれば、脆い材料から成り亀裂を有する成膜材料を含有して成る物理気相成長プロセス用の成膜源が提供される。更に、成膜源は、成膜材料の表面に、この材料と接合される支持部材を有する。本発明による成膜源の成膜材料は、更に、成膜材料の表面の少なくとも一部に構造化物を有する。
【0019】
本発明において、脆い材料とは、弾性限界近くで塑性変形なしで又はごく僅かに塑性変形して破損する材料のことをいう。このような材料及びこの材料から作られるスパッタリングターゲットは、従って、僅かな塑性変形能力しか持たない。脆い材料の破断時伸びは、典型的には1%以下である。更に、脆い材料は靭性が小さく、亀裂の形成及び亀裂の伸長に対する抵抗は僅かである。このような脆い材料の例は、セラミック材料、特にホウ化物、窒化物、炭化物、ケイ化物、酸化物及びCr又はSiのような脆い金属材料又はТi3Al又はТiAl3のような金属間化合物並びにこれらの材料の混合物である。
【0020】
本発明による成膜源の構造化物は、種々に形成することができる。例えば、構造化物は、凹み、溝、楔又はスリットから成り、種々の方法で成膜材料の表面の少なくとも一部に設けることができる。
【0021】
成膜材料自体は、一体に又は複数の部分から構成することができる。成膜材料が複数の部分から構成されるときには、構造化物は、成膜材料の全ての部分に又はその一部に設けることができる。
【0022】
これらの凹み、溝、楔又はスリットの形状又は横断面は、同様に、種々に形成することができる。例えば横断面は、半円、矩形、正方形、三角形又は台形の形状を有することができる。
【0023】
構造化物の深さ、即ち、その成膜源の厚さ方向への空間的広がりは、有利には0.1~5mmである。構造化物の深さは、特別な例においてそれよりも大きくすることもできるが、成膜材料の深さ方向に少なくとも1mm残ることが保証される必要がある。
【0024】
構造化物の幅、即ち、凹み、溝、楔、スリットなどの方向に直角の空間的広がり、は有利には0.1~2mm、更に有利には0.1~1mmである。
【0025】
亀裂は、ほぼ構造化物に沿うようにすると有利である。即ち、亀裂は、構造化物中において又は構造化物の近くでこれとほぼ平行になる。本発明において、ほぼ平行とは、亀裂の偏移が構造化物の方向から最大で20°、有利には最大で10°であることを意味する。従って、亀裂の広がりは、構造化物又は構造化物の配列と、明確に認識できる関連性を有する。従って、亀裂は、その全長の大部分が構造化物中にあるか又は大部分がこれと平行であるか若しくは僅かな傾斜角をなしている。亀裂は、従って、構造化物又は構造化物の配列にほぼ従うパターンで生じる。
【0026】
亀裂は、構造化物中をランダムに走っているのではなく、有利には構造化物の広がりに沿って走っている。亀裂は、少なくともほぼコントロールされて形成され、成膜材料の個々の亀裂のない範囲(断片)の大きさは、少なくともほぼ予め定められている。それ故、成膜材料の小片の剥がれは生じないか、極く僅かに留まる。従って、成膜源の使用に際して、成膜設備も堆積層も、このような剥がれ片によって汚染されたり又は損傷を受けたりしないことが保証される。
【0027】
有利には、亀裂は、その全長の50%以上が構造化物に沿って走る。これにより本発明による成膜源の使用に際してプロセスのより高い安定性が保証される。
【0028】
亀裂は、有利には、その深さ(成膜源の厚さ方向の空間的広がり)が完全に成膜材料を貫通している。それ故、成膜材料の個々の断片間に完全な材料分離が生じているのが有利である。
【0029】
構造化物は、有利には成膜材料の支持部材とは反対側の表面に設けられる。成膜源の製造時には、支持部材側の表面(この表面は、曲げを被る成膜源のニュートラルファイバに、より近い。)よりも成膜材料の支持部材とは反対側の表面に、より大きな引張り応力が生じる。それ故、支持部材とは反対側の成膜材料の表面において、脆い成膜材料における亀裂形成が、より確実に再現性よく起きる。
【0030】
しかしながら、構造化物を成膜材料の支持部材側の表面に設けることも可能である。このような実施形態は、特に脆い成膜材料の場合及び成膜材料の厚さd2と支持部材の厚さd3の間に特別な比がある場合に利点を有する。何故なら、発生する亀裂は、このような場合、特に微細(亀裂側縁間の間隔が小さい。)であり、比較的粗く(個々の凹み、溝、楔などの幅)付けられた構造化物は見ることができないからである。
【0031】
構造化物は、有利な実施形態では、平行線状の凹みの第1のグループと、この第1のグループに対して70°~110°の角度で配置されている平行線状の凹みの第2のグループとの配置から成る。このような配置は、プロセス技術的に簡単に実現でき、各平行線状の凹みの相互間隔は、成膜源の寸法に、及び成膜材料と支持部材との熱膨張係数の差に、更には発生する応力にも、簡単に適合させることができる。更に、凹みの各グループ相互間の70°~110°の角度配置により、過度の鋭角も、従って、不利な応力集中も生じない。
【0032】
構造化物は、更に有利な実施形態では、平行線状の凹みの第1のグループと、この第1のグループと直角に配置された平行線状の凹みの第2のグループとの配置から成る。このような配置では、不利な応力集中を更に大きく避けることができる。
【0033】
これに代えて、構造化物は、別の幾何学的配置、例えば同心円の形、にすることもでき、所望により、線を放射状配置にしてこれに重ねることができる。同心円の代わりにスパイラル状の配置も考えられる。
【0034】
成膜材料の熱膨張係数α2は、支持部材の熱膨張係数α3よりも大きいと有利である。通常、少なくとも1つの高温での工程を含んでいる成膜源の製造に際して、このような両者の熱膨張係数の比により、高温からの冷却時に、成膜材料が支持部材よりも強く収縮し、引張応力が成膜材料に及ぼされ、これにより、特に確実な再現性のある亀裂の発生に至るので有利である。成膜材料の熱膨張係数α2と支持材料の熱膨張係数α3との差が大きければ大きいほど、及ぼされる応力の値も大きくなる。
【0035】
本発明による成膜源は、種々の脆い材料から成る成膜材料を有することができる。成膜材料は、炭化物(例えばTiC、SiC、WC)、ホウ化物(例えばTiB2、VB2、CrB2)、窒化物(例えばTiN、AlN、TiNAlN)、ケイ化物(例えばTiSi2、CrSi2、MоSi2)、酸化物(例えばAl2О3、(Al,Cr)2О3)、脆弱金属(例えばCr,Si)、金属間相(例えばTi3Al、TiAl3、Al4Cr)又は上述の材料の混合物から成っていてよい。このような構造化物により、脆い材料から成る成膜材料を有する成膜源を作り、この成膜源を高い出力密度で稼働させることが簡単に可能となる。
【0036】
本発明による成膜源は、TiB2、SiC、B4C、MoSiB又はCrSiBから成る成膜材料を有すると有利である。これらの成膜材料の場合には、特に良好に構造化物を施すことができ、亀裂が特に均一な態様になることが実証されている。
【0037】
本発明による成膜源は、また、有利には、モリブデン、タングステン、タンタル、モリブデン基合金、タングステン基合金又はタンタル基合金から成る支持部材を有する。この場合、モリブデン基合金、タングステン基合金又はタンタル基合金とは、それぞれ50原子%以上のモリブデン、タングステン若しくはタンタルを含む合金又は複合材料のことをいう。モリブデン、タングステン、タンタル、モリブデン基合金、タングステン基合金又はタンタル基合金は、相応する支持部材における使用に特に適している。というのは、これらが十分に高い熱伝導率、高いヤング率、即ち高い剛性、及び比較的低い熱膨張係数などの特に有利な特性を併せ持つからである。
【0038】
特に有利な実施形態では、支持部材のヤング率E3は、300GPa以上とされる。支持部材のヤング率は、有利には、500GPaより小さい。
【0039】
経済的な理由から、比X=d2/(d2+d3)は技術的に可能な限り高くする、即ち、成膜材料の厚さd2は、成膜源の総厚d1=d2+d3の大きな割合を占めるように努められる。
【0040】
しかしながら、驚くべきことには、従来技術に記載されているように、構造化物なしの亀裂の適切な導入は、成膜材料が支持部材と同等の又はそれより小さい厚さを有する成膜源でのみ、良好に機能することが実証されている。支持部材に比して過度に厚い成膜材料では、成膜源の製造時に、成膜材料に亀裂が形成される代わりに、支持部材の永久曲げが生じる。このような場合、成膜材料中の引張応力は、成膜材料の破断応力よりも小さいと仮定される。このように変形した(撓んだ)成膜源は、第一に、適切には成膜装置に取り付けることができない。第二に、このように変形した成膜源は、成膜プロセス中に進行する材料の除去及びそれ伴う成膜材料の厚さの減少により、臨界応力に達すると突然破損し、成膜プロセスの障害になり得る。
【0041】
本発明による成膜源は、成膜材料の厚さd2と成膜材料の厚さd2及び支持部材の厚さd3の和(d2+d3)との比X=d2/(d2+d3)が0.5以上であると有利である。Xが0.9の最大比であると、有利である。
【0042】
本発明による成膜源において、成膜材料の厚さd2と支持部材の厚さd3との和(d2+d3)に対する成膜材料の厚さd2の比X=d2/(d2+d3)が0.6以上であると更に有利である。X=0.85の最大比が更に有利である。
【0043】
本発明による成膜源は、プレート状であっても管状であってもよく、構造化物に沿った適切な亀裂導入は、両形状の成膜源に対して可能であり、亀裂がランダムに走るのではなく、その広がりが好適には構造化物に沿うという利点を有する。それ故、上述のように、成膜材料の小片が、従って成膜源が、剥がれないか剥がれても極く僅かにすることができる。
【0044】
有利な実施形態では、成膜源はプレート状である。支持部材は、この場合には、バッキングプレートとして形成される。本発明の成膜源の製造中に生じる複合的な応力状態によって、構造化物に沿った亀裂の適切な導入は、プレート状の成膜源において極めて良好に実現される。
【0045】
これに代えて、成膜源が管状に形成された実施形態も有利である。支持部材は、この場合、支持管又は担体管として形成される。管状の成膜源の場合にも、亀裂の所期の広がりを、構造化物の導入により促進する同様な基準及び前提が存在する。管状の成膜源の場合、成膜材料の熱膨張係数α2が支持部材(支持管又は担体管)の熱膨張係数α3よりも大きいと特に有利である。
【0046】
本発明は物理気相成長プロセス用の成膜源の製造方法をも提供する。この方法は、以下の工程を有する。
-脆い材料から成る成膜材料を用意する工程;
-前記成膜材料を構造化して、前記成膜材料の一方の表面の少なくとも一部に構造化物を作る工程;
-支持部材を用意する工程;
-前記成膜材料を前記支持部材に接合する工程;
-前記成膜材料に亀裂を施す工程。
【0047】
本発明による方法により、脆い材料から成る成膜材料と支持部材とを含有し、これらが互いに接合される成膜源の製造が可能となる。成膜材料は、構造化され、本発明の方法により、亀裂が成膜材料に導入される。
【0048】
本発明において、脆い材料とは、弾性限界近くで塑性変形なしに又は僅かに塑性変形して破断する材料を意味する。従って、これらの材料及びそれから作られるスパッタリングターゲットは、僅かな塑性変形能力しか持たない。脆い材料の破断時伸びは、典型的には1%以下である。更に、脆い材料は靭性が低く、従って、亀裂の形成及び亀裂の成長に対する抵抗が僅かである。このような脆い材料の例は、セラミック材料、特に、ホウ化物、窒化物、炭化物、ケイ化物及び酸化物、並びに、Cr及びSi等の脆い金属材料、Ti3Al及びTiAl3等の金属間化合物、並びにこれらの材料から成る混合物である。
【0049】
構造化物を作るための成膜材料の構造化は、種々の方法により達成できる。この方法の有利な実施形態では、成膜材料の構造化は、浸蝕、ワイヤカッティング、研削又は分離切断(Trennschneiden)により実行される。この場合、成膜材料の表面の少なくとも一部に、例えば凹み、溝、楔又はスリットが施され、これらは種々の幾何学的配置を示すことができる。
【0050】
或いは、刻み目を付けられたプレス工具のプレスによる成膜材料の構造化も有利である。このような刻み目を付けられたプレス工具による構造化のプレスは、例えば成膜材料自体の粉末冶金による製造中に行なうことができる。この場合、刻み目を付けられたプレス工具は、相応するプレス装置において上側パンチとしても下側パンチとしても形成可能である。しかしながら、予め圧縮した又は仕上げ圧縮した成膜材料粗材を、別個に刻み目を付けられたプレス工具のプレスにより、構造化することも可能である。更に、上側又は下側パンチ自体に刻み目を付けるのではなく、刻み目を付けられた中間板を、粉末床又は予め圧縮された又は仕上げ圧縮された粗材の上又は下に、置くことも可能である。
【0051】
構造化がどのような態様で実施されるかに拘わらず、これにより構造化物の種々の幾何学的配置が可能となる。例えば、構造化操作により、平行線状の凹みの第1のグループとこの平行線状の第1のグループに対し70°~110°の角度に配置された平行線状の第2のグループとの配置を作ることが可能である。このような配置は、プロセス技術的に簡単に実現され、各平行線状の凹み同士の間隔は、成膜源の寸法並びに成膜材料の熱膨張係数と支持部材の熱膨張係数との差に、従って結果的に生じる応力に、簡単に調和させることができる。このような配置は、浸蝕、ワイヤカッティング、研削又は分離切断により又は刻み目を付けられたプレス工具のプレスによって作ると特に有利である。
【0052】
更に有利なのは、平行線状の凹みの第1のグループとこの平行線状の第1のグループに直交して配置された平行線状の第2のグループの配置を作ることができる構造化操作である。このような配置においては、不利な応力の集中が更に回避される。
【0053】
これに代えて、構造化操作により、別の幾何学的配置、例えば同心円の形状も作ることができ、この上に、所望により、線の放射状配置と重畳することができる。同心円の代わりにスパイラル状の配置も考えられる。このような配置は、刻み目を付けられたプレス工具のプレスにより、特に有利に作ることができる。
【0054】
本発明方法の特に有利な実施形態では、成膜材料の構造化は、成膜材料の表面の少なくとも一部に、支持部材との接合後に成膜材料の支持部材とは反対側の表面に存在することとなる構造化物を作るために行なわれる。
【0055】
成膜源の製造過程において、支持部材とは反対側の成膜材料の表面に支持部材側の表面(これはニュートラルファイバにより近い。)よりも大きな引張り応力が生じる。成膜材料の支持部材とは反対側の表面における構造化により、脆い成膜材料における亀裂形成は、より確実に再現性よく行なわれる。
【0056】
しかしながら、成膜材料の支持部材側の表面における構造化も可能である。このような方法工程は、特に脆い成膜材料において、そして、成膜材料の厚さα2と支持部材の厚さα3との比が特定である場合に、利点を生じる。何故なら、このような場合、発生する亀裂は、特に微細であり(亀裂縁間の距離が小さく)、これに比して粗く付けられた構造化物(個々の凹み、溝、楔などの幅)は、不可視であるからである。
【0057】
成膜材料と支持部材との接合は、同様に種々のやりかたで実現可能である。成膜材料と支持部材との接合は、100℃以上、1,000℃以下の温度で行なわれると有利である。
【0058】
本方法の更に有利な実施形態では、成膜材料と支持部材との接合は400℃~950℃の温度での硬ろう付けにより実行される。この温度範囲での硬ろう付けにより、成膜源の優れた熱的安定性が達成でき、これにより、成膜源を成膜プロセスにおいて特に高い出力密度、従って高い堆積率、で使用することができる。成膜プロセス中に、成膜室は、通常、400℃のオーダーの温度で加熱される。成膜源は、付加的に裏側から冷却されるので、完全にこの温度に曝されるものではない。400℃~950℃の温度での接合により、成膜プロセス中に発生するのと同様の熱負荷を成膜源が既に受けており、従って、もはやそれから生じる損傷を被ることはないことが保証される。更に400℃~950℃の温度での接合の結果、成膜材料の熱膨張係数と支持部材の熱膨張係数との差が相応する高い応力、特に引張応力、を生じるので、亀裂の形成を助成することになる。
【0059】
特に有利なのは、亀裂の形成が、高められた温度からの冷却により、起きることである。高められた温度とは、この場合、100℃以上、1,000℃以下の温度を意味し、これは、成膜材料と支持部材との接合中に実現されるのが有利である。しかし、接合後に、高められた温度へ更に加熱を行なうことも可能であり、この高められた温度からの冷却時に亀裂の形成が生じる。
【0060】
更に有利なのは、亀裂の導入が硬ろう付けの温度からの冷却により行なわれることである。硬ろう付けの温度からの冷却時には、特に有利な温度勾配が生じ、これにより、成膜材料において、応力、有利な場合には引張応力、が局所的に上昇する。この結果、付加的に構造化物の楔効果により、亀裂形成及び構造化物に沿った亀裂の成長が生じ、従って、成膜材料には大部分が予め規定された亀裂のネットワークが意図的に導入され、これは有利なことに殆どが構造化物に沿っている。
【0061】
硬ろう付けによる成膜材料と支持部材との接合の代わりに、このような接合を接着剤接合及び高温における接着剤の硬化により行なうことも可能である。そのために適した接着剤の硬化は、通常は、約120~250℃で行なわれる。このような方法工程で用いられる温度勾配は、硬ろう付け工程に比して比較的小さい。接着による接合は、極めて脆い成膜材料を含有し支持部材の材料に比して極めて高い熱膨張係数を有する成膜源に対して、特に適している。
【0062】
上述の工程に付加して本発明による方法は、付加的に以下の工程
-成膜源の粒子ブラスト
を含むと有利である。
【0063】
成膜源の粒子ブラストは、有利には成膜材料の支持部材と反対側の表面への接合後に行なわれる。粒子ブラスト材としては、研磨又は非研磨材を使用することができる。成膜源の粒子ブラストにより、亀裂の形成が助成されるが、これは同様に粒子ブラスト材の衝突(例えばコランダムによるサンドブラスト)によっても生じ、この衝突は、成膜材料における応力を更に高める。同時に、成膜源の製造時に支持部材に生じた弾性延びを、成膜材料における亀裂形成と亀裂の成長のおかげで、解消することができる。
【0064】
粒子ブラスト処理の代わりに又はこれに付加して、例えば液体窒素による急速冷却による成膜剤の熱処理を行なうこともできる。これにより、局所的に成膜材料中に、より高い温度勾配を作ることが可能となり、これにより発生する応力が高められ、亀裂の形成が更に助成される。
【0065】
本発明による成膜源の製造方法は、特に上述の本発明による成膜源の製造に適している。
【0066】
本発明方法は、成膜材料の厚さが支持部材に比して厚い成膜源の製造に特に有利であることが明らかになっている。従来技術では、支持部材に比して過度に厚い成膜材料においては、成膜源の製造時に成膜材料中の亀裂形成の代わりに支持部材にたわみが生じる。このような場合、成膜材料における引張応力が成膜材料の破損応力よりも小さいことが推定される。このように変形した(撓んだ)成膜源は、第一に、適宜に成膜装置に組み込むことができない。第二に、このように変形した成膜源は、成膜プロセス中に進行する材料の除去及びそれに伴う成膜材料の厚さの減少により、臨界応力に達すると突然破損し、同様に成膜プロセスの障害となるおそれがある。
【0067】
経済的な理由から、比X=d2/(d2+d3)は技術的に可能な限りできるだけ大きくされる。即ち、成膜材料の厚さd2は、成膜源の総厚d1=d2+d3に対して高い割合を有する。
【0068】
本発明による成膜源の製造方法は、成膜材料の厚さd2と、成膜材料の厚さd2及び支持部材の厚さd3の和との比、X=d2/(d2+d3)が0.5以上であると更に有利であることが分かっている。重要なことは最大比がX=0.9であると更に有利であることである。
【0069】
本発明による成膜源の製造方法は、成膜材料の厚さd2と、成膜材料の厚さd2及び支持部材の厚さd3の和との比、X=d2/(d2+d3)が0.6以上であると特に有利であることが実証されている。重要なことは最大比がX=0.85であると更に有利であることである。
【0070】
本発明の利点、詳細並びに特に有利な実施態様を、以下の例と図に基づき、詳細に説明する。
【実施例】
【0071】
例1(本発明でない例)
MoCu70/30(重量%)の材料から成るバッキングプレートに硬ろう付けにより接合されたTiB2成膜材料を有する成膜源が作られた。成膜源の直径は150mmであり、総厚d1は12mmであった。成膜材料の厚さはd2=6mm、バッキングプレートの厚さd3は、同様に6mmであった。従って、比X=d2/(d2+d3)は0.5であった。この場合、MoCu70/30(重量%)のバッキングプレートの熱膨張係数は、9.5ppm/Kであって(これに対し、純Moは5.2ppm/Kである。)成膜材料の熱膨張係数7.3ppm/Kより大きい。ここで、硬ろう付け温度から冷却すると、成膜材料に押圧力が生じるので、成膜材料の表面に垂直な亀裂形成は生じず、成膜材料はバッキングプレートの方向に撓む。成膜材料内の押圧力が、この場合、極めて高いので、剪断力の形成により、成膜源又は成膜材料の表面に平行に断片のはがれが生じる。
【0072】
例2(本発明でない例)
Moから成るより薄いバッキングプレートに硬ろう付けにより接合されたTiB2成膜材料を有する成膜源が作られた。成膜源の直径は150mmであり、総厚d1は16mmであった。成膜材料の厚さd2は10mm、バッキングプレートの厚さd3は6mmであった。従って、比X=d2/(d2+d3)は0.625であった。この例では、硬ろう付け温度からの冷却により生じた引張応力が明らかに小さかったので、成膜材料内の亀裂形成は生じなかった。その代わりに、バッキングプレート方向に成膜材料のたわみが生じた。
【0073】
例3(本発明でない例)
Moから成るバッキングプレートに硬ろう付けにより接合されたCrSiBから成膜材料を有する成膜源が作られた。成膜源の直径は150mm、総厚d1は12mmであった。成膜材料の厚さd2は6mm、バッキングプレートの厚さd3は6mmであった。従って、比X=d2/(d2+d3)は0.5であった。CrSiB製の成膜材料は、CrSiB=92/3/5(原子%)の脆い組成である。硬ろう付け温度からの冷却により、成膜材料の表面に直交する亀裂が生じた。
【0074】
例4(本発明でない例)
Moから成るより薄いバッキングプレートに、硬ろう付けにより、接合されたCrSiB製の成膜材料を有する成膜源が作られた。成膜源の直径は100mm、総厚d1は16mmであった。成膜材料の厚さd2は12mm、バッキングプレートの厚さd3は4mmであった。従って、比X=d2/(d2+d3)は0.75であった。CrSiB製の成膜材料はCrSiB=92/3/5(原子%)の脆い組成である。硬ろう付け温度からの冷却により亀裂は生じなかった。
【0075】
例5(本発明)
Moから成るバッキングプレートに、硬ろう付けにより、接合されたMoSiB製の成膜材料を有する成膜源が作られた。成膜源の直径は150mm、総厚d1は12mmであった。成膜材料の厚さd2は6mm、バッキングプレートの厚さd3は6mmであった。従って、比X=d2/(d2+d3)は0.5であった。MoSiB製の成膜材料はMoSiB=50/30/20(原子%)の脆い組成である。成膜材料には、硬ろう付けの前にワイヤカッティングにより構造化物が設けられた。硬ろう付け温度からの冷却により成膜材料の表面に垂直な亀裂が生じた。構造化物に沿った亀裂に加えて、不規則なネットワークを形成する亀裂も存在する。成膜材料の小片のはがれは起きなかった。
【0076】
例6(本発明)
Moから成るバッキングプレートに、硬ろう付けにより、接合されたTiB2製の成膜材料を有する成膜源が作られた。成膜源の直径は150mm、総厚d1は12mmであった。成膜材料の厚さd2は6mm、バッキングプレートの厚さd3は6mmであった。従って、比X=d2/(d2+d3)は0.5であった。成膜材料には、硬ろう付けの前にワイヤカッティングにより構造化物が設けられた。硬ろう付け温度からの冷却により、成膜材料の表面に垂直な亀裂が生じた。これらの亀裂は、大部分、構造化物に沿っていた。成膜材料の小片のはがれは起きなかった。
【0077】
例7(本発明)
Moから成るバッキングプレートに、硬ろう付けにより、接合されたTiB2製の成膜材料を有する成膜源が作られた。成膜源の直径は150mm、総厚d1は12mmであった。成膜材料の厚さd2は8mm、バッキングプレートの厚さd3は4mmであった。従って、比X=d2/(d2+d3)は0.67であった。成膜材料には、硬ろう付けの前にワイヤカッティングにより構造化物が設けられた。この構造化物は、ワイヤカッティングにより、互いに直交配列し1mmの深さを有する切断片が生じるようにされた。硬ろう付け温度からの冷却により、成膜材料の表面に垂直な亀裂が生じた。これらの亀裂は、大部分、構造化物に沿っていた。成膜材料の小片の剥がれは起きなかった。
【0078】
例8(本発明)
Moから成る管状の支持部材(支持管又は担体管)に、硬ろう付けにより、円筒状リングの形で、接合されたTiB2製の成膜材料を有する成膜源が作られた。全部で5個のTiB2リングの直径は、外径116mm、内径91.5mmで、個々のリングの高さ(回転軸方向の広がり)は30mmであった。Mo製の支持管の直径は、外径91.45mm、内径76.1mmであった。Mo製の支持管の長さは全体で200mmであった。成膜材料の厚さは12.25mm、支持管の厚さは7.67mmであった。従って、比X=d2/(d2+d3)は0.62であった。成膜材料には、硬ろう付けの前にワイヤカッティングにより構造化物が設けられた。この構造化物は、ワイヤカッティングにより、互いに平行に配列し1mmの深さを有する切断片が生じるようにされた。硬ろう付け温度からの冷却により、成膜材料の表面に垂直な亀裂が生じた。これらの亀裂は、大部分、構造化物に沿っていた。成膜材料の小片のはがれは起きなかった。
【0079】
これらの例に加えて、簡単な計算が実施された。この計算は、成膜材料の構造化物の成膜材料の厚さd2と、成膜材料の厚さd2及び支持部材の厚さd3の和との比、X=d2/(d2+d3)のいずれが、本発明により、亀裂を発生させるのに特に有利であるかを決定する目的があった。
【0080】
成膜材料中に亀裂を形成するための前提は、脆い成膜材料の引張強度とその厚さd2との積が、バッキングプレートの弾性限界と厚さd3との積より、小さいということであると推定される。この限界例では、この2つの積が同等である。約500MPaのTiB2の引張強度と約750MPaのMoの弾性限界を有するMo上のTiB2の例を見ると、成膜材料の厚さが成膜源の総厚d1の60%を構成するとき、第1近似値として、限界条件が支配すると言える。成膜材料がより薄いと、構造化物なしでも亀裂のネットワークが生じ、成膜材料がより厚いとバッキングプレートが弾性的及び/又は塑性的に変形し又は撓む又は反ることになる。それ故、例3のように6mmのMo上に6mmのCrSiBを有するCrSiB/Mo成膜源においては、亀裂のネットワークが形成されるのに対し、例2のように6mmのMo上に10mmのTiB2を有するTiB2/Moの成膜源は、TiB2内に亀裂が生じず、Moプレートは曲がってしまう。例7のような構造化により、亀裂は構造化物に沿って付けられるが、これはおそらく成膜材料の荷重保持断面(厚さ)の減少又は楔効果及び局所的な応力増大又はこれらの組み合わせに帰せられると思われる。
【0081】
図1は、亀裂導入前の物理気相成長プロセス用の成膜源(1)を示す。成膜源(1)は、成膜材料(2)及び支持部材(3)を有する。成膜材料(2)は、成膜材料(2)の一面で支持部材(3)に接合されている。成膜材料(2)は、構造化物(5)を有する。構造化物(5)は、平行線状の凹み(点線で示す)の第1のグループと、この平行線状の凹みの第1のグループと直交するように配置された平行線状の凹みの第2のグループ(点線で示す)から成る。
【0082】
【0083】
図3は、亀裂(4)の導入後の本発明による成膜源を示す。亀裂(4)は、大部分、構造化物(5)に沿っている。
【0084】
図4は、例5により作られた成膜源を示す。成膜源は、MoSiB製成膜材料を有し、この材料は、硬ろう付けによりMoから成るバッキングプレート上に施され、続いて洗浄された。構造化物に沿った亀裂に加えて、不規則なネットワークを形成する亀裂も存在する。成膜材料の小片の剥がれは発生しなかった。
【0085】
図5は、例6により作られた成膜源を示す。成膜源は、TiB
2製成膜材料を有し、この材料は、硬ろう付けによりMoから成るバッキングプレート上に施された。導入された亀裂は、蛍光染料による蛍光浸透探傷検査で可視化された。
【0086】
図6は、管状の成膜源(1)を示す。a)は、管状成膜源(1)の側面図、b)は成膜源(1)の回転軸方向に見た平面図である。成膜材料(2)は、この場合、個々の円筒状リングから構成され、支持部材(3)は、支持管又は担体管として形成されている。構造化物(5)は、成膜材料(2)の外側面上に施され、亀裂(4)は、大部分、構造化物(5)に沿っている。
【符号の説明】
【0087】
1 成膜源
2 成膜材料
3 支持部材
4 亀裂
5 構造化物
d1 成膜源の総厚
d2 成膜材料の厚さ
d3 支持部材の厚さ