(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】細胞形質導入のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/87 20060101AFI20220215BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2019516092
(86)(22)【出願日】2017-06-05
(86)【国際出願番号】 US2017036001
(87)【国際公開番号】W WO2017214059
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-05-21
(32)【優先日】2016-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591016976
【氏名又は名称】ザ・チャールズ・スターク・ドレイパ・ラボラトリー・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ボレンシュタイン,ジェフリー ティー.
(72)【発明者】
【氏名】チャレスト,ジョセフ エル.
(72)【発明者】
【氏名】ディビアシオ,クリストファー エム.
(72)【発明者】
【氏名】ベルリン,ドリット
(72)【発明者】
【氏名】バレストリーニ,ジェナ
(72)【発明者】
【氏名】サントス,ホセ エー.
(72)【発明者】
【氏名】タンドン,ビッシャル
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0197105(US,A1)
【文献】ARMON SHAREI,CELL SQUEEZING AS A ROBUST, MICROFLUIDIC INTRACELLULAR DELIVERY PLATFORM,JOURNAL OF VISUALIZED EXPERIMENTS,2013年11月07日,NR:81,PAGE(S):1-7,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3976289/pdf/jove-81-50980.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/87
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の流体マニホルドに結合された少なくとも1つの第1の流れチャンバを画定する第1の基板と、
細胞随伴層を画定する第2の基板であって、前記細胞随伴層は、
少なくとも1つの第2の流れチャンバと、
複数の細胞随伴キャビティであって、各細胞随伴キャビティは、一端が前記少なくとも1つの第2の流れチャンバの中へと開口し、前記第2の基板を通って延出し、少なくとも1つの細胞を保持する大きさである、複数の細胞随伴キャビティ―と、
実質的に前記第2の基板の平面内にある前記少なくとも1つの第2の流れチャンバへの少なくとも1つの入口と、
実質的に前記第2の基板の平面内にある前記少なくとも1つの第2の流れチャンバからの少なくとも1つの出口と
を含む、第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間に配置された第1の膜であって、前記第1の膜は、細胞の通過を防止し
かつウイルス粒子の通過を可能とするため、0.1ミクロン~1.0ミクロンの第1の直径を有する、第1の複数の細孔を備える、第1の膜と、
第2の流体マニホルドに結合された少なくとも1つの第3の流れチャンバを画定する第3の基板と、
前記第2の基板と前記第3の基板との間に配置された第2の膜であって、前記第2の膜は、ウイルス粒子の通過を防止するために十分小さいが、細胞培地の通過を可能にするために十分に大きい第2の直径であって、
前記第1の直径よりも小さい第2の直径を有する、第2の複数の細孔を備える、第2の膜、
を含む装置であって、
前記装置は、前記第1および第2の流体マニホルドを更に含み、
前記第1の流体マニホルドの第1の端部は、前記第1の基板によって画定される前記少なくとも1つの第1の流体チャンバに結合し、
前記第2の流体マニホルドの第1の端部は、前記第3の基板によって画定される前記少なくとも1つの第3の流体チャンバに結合し、
前記第1の流体マニホルドの第2の端部は、前記第2の流体マニホルドの第2の端部に流体的に結合されて、流体が前記第1の流体マニホルド、前記第1の膜、前記複数の細胞随伴キャビティ、前記第2の膜、前記第2の流体マニホルドを通って循環し、前記第1の流体マニホルドに戻ることができるようになっている、装置。
【請求項2】
前記第1の流体マニホルドおよび前記第2の流体マニホルドのうち少なくとも1つは、垂直流マニホルドを含む、請求項
1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の流体マニホルドおよび前記第2の流体マニホルドのうち少なくとも1つは、水平流マニホルドを含む、請求項
1に記載の装置。
【請求項4】
前記第1の流体マニホルドの前記第2の端部と前記第2の流体マニホルドとの間にバルブにより結合された廃棄チャネルを更に含み、前記バルブは、前記第1の流体マニホルドの前記第2の端部から排出される流体流れを廃棄物リザーバへと選択的に迂回させるように構成される、請求項
1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の流体マニホルドの前記第2の端部へと流体をポンプ輸送するように構成された第1のポンプを更に含む、請求項
1に記載の装置。
【請求項6】
前記第2の流体マニホルドの前記第2の端部に流体をポンプ輸送するように構成された第2のポンプを含み、前記第2のポンプは、前記第1のポンプと同じポンプであるか、または前記第1のポンプとは異なる、請求項
5に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の基板は前記少なくとも1つの第1の流体チャンバの遠位端に結合された出口を更に含む、請求項
1に記載の装置。
【請求項8】
前記細胞随伴キャビティは、前記少なくとも1つの第2の流体チャンバの遠位端に向かう方が、前記少なくとも1つの第2の流体チャンバの近位端に向かうよりも高い密度を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記細胞随伴キャビティの各々は、それぞれの細胞随伴キャビティの側壁に配置された一対のエレクトロポレーション電極を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
少なくとも1つの第1の流れチャンバを第1の流体マニホルドに結合する少なくとも1つの第1の流れチャンバを画定する第1の基板と、
細胞随伴層を画定する第2の基板であって、前記細胞随伴層は、
少なくとも1つの第2の流れチャンバと、
メッシュまたは多孔質ゲルから形成された少なくとも1つの細胞随伴領域であって、前記少なくとも1つの細胞随伴領域の各々は、対応する第2の流れチャンバに隣接して配置され、遺伝子導入剤を含浸される、細胞随伴領域と、
前記第2の基板を通って延び、且つ前記第2の基板に対して実質的に垂直に配向された第2の複数の流体通路であって、前記第2の複数の流体通路の各々は、一端において、前記少なくとも1つの第2の流れチャンバの1つの中に開口する、第2の複数の流体通路と
を含む、第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間に配置された第1の膜であって、
前記第1の膜は、細胞の通過を防止しかつウイルス粒子の通過を可能とするため、0.1ミクロン~1.0ミクロンの第1の直径を有する、第1の複数の細孔を備える、第1の膜と、
第2の流体マニホルドに結合された少なくとも1つの第3の流れチャンバを画定する第3の基板と、
前記第2の基板と前記第3の基板との間に配置された第2の膜であって、
前記第2の膜は、ウイルス粒子の通過を防止するために十分小さいが、細胞培地の通過を可能にするために十分に大
きい第2の直径であって、前記第1の直径よりも小さい第2の直径を有する、第2の複数の細孔を
備える、第2の膜
、
を含む装置。
【請求項11】
細胞形質導入の方法であって、
細胞を少なくとも1つの第1の流れチャンバに導入することであって、少なくとも1つの第1の流れフィールドは、それぞれの第1の流れチャンバの領域に広がり、且つ複数の遺伝子情報導入剤が含浸されているそれぞれのメッシュまたはゲルに隣接している、導入することと、
第1の流体を、前記少なくとも1つの第1の流れフィールドに対して実質的に垂直な第1の方向に、且つ前記メッシュまたはゲルを通して流し、それによって前記導入された細胞を前記メッシュまたはゲルの中に取り込み、且つ第1の時間前記遺伝子情報導入剤と緊密に接触させ、それによって前記遺伝子情報導入剤に担持された前記遺伝子情報
を随伴細胞の中に導入することを可能にすることと、
前記少なくとも1つの第1の流れチャンバの反対側のメッシュまたはゲルの側を通しての、前記細胞および前記遺伝子情報導入剤の通過を防止することと、
前記第1の流体の流れの方向を第2の時間だけ反転させ、それによって前記細胞を前記メッシュまたはゲルから放出し、前記細胞を洗浄することと、
前記放出された細胞を、収集のために前記少なくとも1つの第1の流れチャンバから流出させることと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2016年6月6日に出願された「キメラ抗原受容体T細胞技術および他の細胞治療のための微小流体ウイルス導入」と題する米国仮特許出願第62/346,031号、および2016年11月14日に出願された「細胞形質導入のためのシステムおよび方法」と題する米国仮特許出願第62/421,784号の利益および優先権を主張するものであり、これら両者の全体を本明細書の一部として援用する。
【背景技術】
【0002】
様々な病状に対する様々な治療には、外因性遺伝子情報を患者または細胞提供者の細胞に移入することが含まれる。例えば、CAR-T(キメラ抗原レセプターT細胞)技術は、患者から血液サンプルを採取し、それらが標的細胞上の特定の抗原を認識するようにプログラムされた後、遺伝子操作されたT細胞集団を患者の身体に戻すように処理することを含む。典型的には、遺伝子は、レトロウイルス(例えば、レンチウィルス)を用いたウイルス形質導入によってT細胞に移入されるが、エレクトロポレーションまたはチャネル内の細胞括れなどの物理的方法、化学的方法または他のアプローチを用いて細胞にトランスフェクトすることもできる。
【発明の概要】
【0003】
本開示の一態様によれば、装置は、第1の流体マニホルドに結合された少なくとも1つの第1の流れチャンバを画定する第1の基板と、細胞随伴層を画定する第2の基板とを含む。この細胞随伴層は、少なくとも1つの第2の流れチャンバおよび複数の細胞随伴キャビティを含む。各細胞随伴キャビティは、一端が第2の流れチャンバの1つの中へと開口している。細胞随伴キャビティの各々は、第2の基板を通って延出しており、少なくとも1つの細胞を保持する大きさである。この細胞随伴層は、実質的に第2の基板の平面内にある少なくとも1つの第2の流れチャンバへの、少なくとも1つの入口を含む。細胞随伴層は、実質的に第2の基板の平面内にある少なくとも1つの第2の流れチャンバからの、少なくとも1つの出口を含んでいる。この装置は、第1の基板と第2の基板との間に配置された第1の膜を含む。この第1の膜は、細胞の通過を防止するために十分小さく、且つウイルス粒子の通過を可能にするために十分な大きさの複数の細孔を含む。当該装置は、第2の流体マニホルドに結合された少なくとも1つの第3の流れチャンバを画定する第3の基板を含む。当該装置は、第2の基板と第3の基板との間に配置された第2の膜を含む。この第2の膜は、ウイルス粒子の通過を防止するために十分小さいが、細胞培地の通過を可能にするために十分に大きい第2の複数の細孔を含む。
【0004】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つの第1の流れチャンバ、少なくとも1つの第2の流れチャンバ、および/または少なくとも1つの第3の流れチャンバは、それぞれの実質的に平坦な流れフィールドを含み、これは複数の流体接続を介して対応するマニホルドに結合する。幾つかの実施において、少なくとも1つの第1の流れチャンバ、少なくとも1つの第2の流れチャンバ、および/または少なくとも1つの第3の流れチャンバは、複数の流れチャネルを含む。各流れチャネルは、単一の流体接続を介して対応するマニホルドに結合する。
【0005】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つの第1の流体マニホルドおよび第2の流体マニホルドは、垂直の流れマニホルドを含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1つの第1の流体マニホルドおよび第2の流体マニホルドは、水平の流れマニホルドを含む。
【0006】
幾つかの実施形態において、第1の流体マニホルドの第1の端部は、第1の基板により画定される少なくとも1つの第1の流体チャンバに結合し、第2の流体マニホルドの第1の端部は、第3の基板によって画定される少なくとも1つの第3の流体チャンバに結合する。第1の流体マニホルドの第2の端部は、第2の流体マニホルドの第二の端部に流体的に結合して、流体が第1の流体マニホルド、第1の膜、複数の細胞随伴キャビティ、第2の膜、第2の流体マニホルドを通って、第1の流体マニホルドに戻るようになっている。幾つかの実施形態において、当該装置は、バルブにより第1の流体マニホルドの第2の端部と第2の流体マニホルドとの間に結合された廃棄チャネルを含む。バルブは、第1の流体マニホルドの第2の端部から排出された流体流れを、廃棄物リザーバへと選択的に迂回させるように構成される。
【0007】
幾つかの実施形態において、当該装置は、流体を第1の流体マニホルドの第2の端部の中へとポンプ輸送するように構成された、第1のポンプを含む。幾つかの実施形態において、当該装置は、流体を第2の流体マニホルドの第2の端部の中へとポンプ輸送するように構成された第2のポンプを含み、この第2のポンプは、第1のポンプと同じポンプであるか、または第1のポンプとは異なっている。
【0008】
幾つかの実施形態において、第1の基板は、少なくとも1つの第1の流体チャンバの遠位端に結合された出口を含む。
【0009】
幾つかの実施形態において、細胞随伴キャビティ(複数)は、少なくとも1つの第2の流体チャンバの遠位端に向かってよりも、少なくとも1つの第2の流体チャンバの近位端に向かって、より高い密度を有する。幾つかの実施形態において、細胞随伴キャビティの各々は、それぞれの細胞随伴キャビティの側壁に配置された一対のエレクトロポレーション電極を含む。
【0010】
本開示の別の態様によれば、当該装置は、少なくとも1つの第1の流れチャンバを第1の流体マニホルドに結合する、少なくとも1つの第1の流れチャンバを画定する第1の基板を含んでいる。当該装置は、細胞随伴層を画定する第2の基板を含む。細胞随伴層は、少なくとも1つの第2の流れチャンバと、メッシュまたは多孔質ゲルから形成された少なくとも1つの細胞随伴領域とを含む。少なくとも1つの細胞随伴領域の各々は、対応する第2の流れチャンバに隣接して配置され、また遺伝子導入剤を含浸される。細胞随伴層は、第2の基板を通って延び、且つ第2の基板に対して実質的に垂直に配向された第2の複数の流体通路を含む。この第2の複数の流体通路の各々は、一端において、少なくとも1つの第2の流れチャンバの1つの中へと開口する。当該装置は、第1の基板と第2の基板との間に配置された第1の膜を含む。第1の膜は、細胞の通過を防止するために十分小さく、且つウイルス粒子の通過を可能にするために十分に大きい複数の細孔を含む。この装置は、第2の流体マニホルドに連結された少なくとも1つの第3の流れチャンバを画定する第3の基板と、第2の基板と第3の基板との間に配置された第2の膜を含む。この第2の膜は、ウイルス粒子の通過を防止するために十分小さいが、細胞培地の通過を可能にするために十分に大きい第2の複数の細孔を含む。
【0011】
本開示の別の態様によれば、細胞形質導入の方法は、細胞を少なくとも1つの第1の流れチャンバに導入すること、および遺伝子情報導入剤を第1の流れチャンバに導入することを含む。当該方法は、第1の流体を、少なくとも1つの第1の流れチャンバに対して実質的に垂直な第1の方向に、且つそれぞれの第1の流れチャンバへと開いた近位端を有する少なくとも1つの第1の流れチャンバに沿って分布した複数の細胞随伴キャビティを通して流し、それによって、導入された細胞および遺伝子情報導入剤を複数の細胞随伴キャビティの中に第1の時間だけ随伴させることを含み、それによって遺伝子情報導入剤に担持された遺伝子情報を随伴細胞の中に導入することを可能にする。この方法は、細胞随伴キャビティの遠位端を通る細胞および遺伝子情報導入剤の通過を防止することを含む。この方法は、第2の時間の間、第1の流体の流れ方向を逆転させ、それにより細胞を細胞随伴キャビティから放出し、遺伝子情報導入剤を細胞から洗い流すことを含む。この方法は、放出された細胞を、収集のために少なくとも1つの第1流れチャンバから流出させることを含む。
【0012】
幾つかの実施例において、当該方法は、細胞の通過を阻止するが、遺伝子情報導入剤を通過させるためには十分大きい寸法の細孔を有する第1の膜に、第1の流体を流すことを含む。幾つかの実施形態において、当該方法は、第1の流体を、細胞随伴キャビティの遠位端を通して、また第1の流体を通過させるために十分大きく且つ遺伝子情報導入剤の膜の通過を防止するために充分に小さい細孔を有する第2の膜を通して流すことを含む。幾つかの実施例において、当該方法は、第2の膜を流れる流体が、第1の膜を通って第1の方向に戻される循環流を生成することを含む。
【0013】
幾つかの実施形態において、当該方法は、細胞および遺伝子情報導入剤を、実質的に同時に、第1の流れフィールドに導入することを含む。幾つかの実施形態において、当該方法は、第1の流れフィールドに遺伝子情報導入剤を導入する前に、第1の流れフィールドに細胞を導入することを含む。幾つかの実施形態において、当該方法は、細胞および遺伝子情報導入剤が細胞随伴キャビティ内に随伴されている間に、細胞にエレクトロポレーションを施すことを含む。
【0014】
本開示の別の態様によれば、細胞形質導入の方法は、細胞を少なくとも1つの第1の流れチャンバに導入することを含む。少なくとも1つの第1の流れフィールドは、それぞれの第1の流れチャンバの領域に広がり、且つ複数の遺伝子情報導入剤が含浸されているそれぞれのメッシュまたはゲルに隣接している。当該方法は、第1の流体を、少なくとも1つの第1の流れフィールドに対して実質的に垂直な第1の方向に、且つメッシュまたはゲルを通して流し、それによって、導入された細胞をメッシュまたはゲルの中に随伴させ、また第1の時間だけ遺伝子情報導入剤と緊密に接触させ、それによって遺伝子情報導入剤に担持された遺伝子情報を随伴細胞の中に導入することを可能にすることを含む。当該方法は、少なくとも1つの第1の流れチャンバの反対側のメッシュまたはゲルの側を通しての、細胞および遺伝子情報導入剤の通過を防止することを含む。当該方法は、第2の時間の間、第1の流体の流れの方向を反転させ、それによって細胞をメッシュまたはゲルから放出し、細胞を洗浄することを含む。当該方法は、放出された細胞を、収集のために、少なくとも1つの第1の流れチャンバから流出させることを含む。
【0015】
本開示の別の態様によれば、装置は、第1の流体マニホルドに結合された少なくとも1つの第1の流れチャンバを画定する第1の基板を含む。当該装置は、少なくとも1つの第2の流れチャンバを画定する第2の基板を含む。第2の流れチャンバは、第1の基板と第2の基板との間に配置された第1の膜を含む。第1の膜は、細胞の通過を防止するために十分小さく、且つウイルスの通過を可能にするためには十分に大きい複数の細孔を含む。当該装置は、第3の流れチャンバを画定し、第2の流体マニホルドに結合された第3の基板を含む。当該装置は、第2の基板と第3の基板との間に配置された第2の膜を含む。第2の膜は、ウイルス粒子の通過を防止するのに十分小さいが、細胞培地の通過を可能にするためには十分に大きい第2の複数の細孔を含む。当該装置は、第1および第2の膜を横断する流体の流れの結果として、少なくとも1つの第2の流れチャンバ内に細胞を随伴させるための手段を含む。
【0016】
幾つかの実施形態において、取込み手段は第2の膜を含む。幾つかの実施形態では、第2の膜は、パターン化された膜およびパターン化されていない膜のうちの1つを含む。
【0017】
当業者であれば、本明細書に記載されている図面は説明のためだけのものであることを理解するであろう。幾つかの例では、説明された実装形態の様々な態様が、説明された実装形態の理解を容易にするために、誇張または拡大して示されることがあり得ることを理解されたい。図において、同様の参照符号は一般に、様々な図面を通して同様の特徴、機能的に類似および/または構造的に類似した要素を示す。図面は必ずしも一定の縮尺ではなく、代わりに教示の原理を説明することに重点が置かれている。図面は、如何なる意味においても、本教示の範囲を限定しようとするものではない。当該システムおよび方法は、以下の図面を参照すれば、以下の例示的な説明から更に良好に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】例示的な細胞形質導入システムのブロック図である。
【
図1B】第2の例示的な細胞形質導入システムを示す。
【
図1C】
図1Aおよび
図1Bに示した細胞形質導入システムの何れかでの使用に適した形質導入スタックの頂面図である。
【
図1D】第1および第4の外部流体マニホルドとしての使用に適した別のマニホルドを示す。
【
図1E】
図1Aおよび
図1Bに示した細胞形質導入システムでの使用に適した例示的な形質導入スタックの切欠き斜視図である。
【
図2】遺伝子情報を細胞に導入する例示的方法のブロック図を示す。
【
図3A-3E】
図1Aおよび
図1Bに示した細胞形質導入システムにおける使用に適した細胞形質導入スタックを用いて、
図2に示す方法を実施する様々な段階を示す。
【
図4】
図1Aおよび
図1Bに示した細胞形質導入システムと同様の細胞形質導入システムを用いた、細胞形質導入の第2の例示的方法を示す。
【
図5A-5D】
図1Aおよび1Bに示した細胞形質導入システムでの使用に適した細胞形質導入スタックを用いた、
図4に示す方法の様々な段階を示す。
【
図6】別の例示的形質導入スタックの断面図を示す。
【
図7A-7D】細胞形質導入システムの別の実施例の様々な図を示す。
【
図8】
図7A~
図7Dに示したのと同様の細胞形質導入システムを用いて、
図2に示す方法を実施した実験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記で導入され、且つ以下で更に詳細に議論される様々な概念は、記載された概念が特定の実施形態に限定されないので、多数の方法の何れにおいても実施され得るものである。特定の実装形態および応用の例は、主に説明の目的で提供される。
【0020】
本明細書では、CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)および他の細胞修飾もしくは刺激レジメンに関与する形質導入プロセスにおいて使用するための、システムおよび方法が開示される。開示される技術の他の使用例には、タンパク質およびウイルスの産生、細胞増殖、幹細胞の再プログラミング、遺伝病の治療のための特定の遺伝子のサイレンシング、T細胞の活性化、またはsiRNA送達が含まれる。当該システムおよび方法の他の使用は、本開示の範囲から逸脱することなく実施できるであろう。
【0021】
本明細書で述べるデバイスは、一般に、膜によって相互に分離された3つの層を含む。各層は、少なくとも1つの流れチャンバを画定する。本明細書で使用する場合、「流れチャンバ」とは、デバイス内の層を横切って流体を搬送するための任意の導管を指す。流れチャンバは、一般に、流れチャネルまたは流れフィールドの何れかに分類することができる。本明細書で使用する「流れフィールド」とは、複数の流体接続部を介してマニホルドに結合するより広い流れチャンバを指称する。対照的に、本明細書で使用する「流れチャネル」とは、単一の流体接続を介してマニホルドに結合するより狭い流れチャンバを言う。従って、幾つかの実施形態において、各層は1つまたは複数の流れフィールドを画定する。幾つかの他の実施形態において、各層は複数の流れチャネルを画定する。幾つかの実施形態において、少なくとも1つの層は1以上の流れフィールドを含み、1以上の他の層は複数の流れチャネルを含む。
【0022】
本明細書で述べるデバイスにおける層は、層自体の平面に対して実質的に垂直な方向で各層に画定された流れチャンバを横切る反転可能な垂直流、ならびに少なくとも中央層を通る水平流を可能にするように構成される。中央層は、細胞随伴領域を画定し、その中では細胞および遺伝子情報導入剤または他の化学的または生物学的添加剤を随伴させて、遺伝子導入剤(または添加剤)に担持された遺伝子情報を随伴された細胞内に導入(または他の方法で相互作用させる)することができる。そのような追加の添加剤には、抗体、サイトカイン、小分子、タンパク質、または随伴された細胞と相互作用する可能性のある他の薬剤が含まれ得る。中央層を通る水平流は、細胞および遺伝子情報導入剤または他の添加物をこの中央層に導入し、当該細胞および遺伝子情報導入剤または添加物を細胞随伴領域に分配し、次いで、処理後に細胞を中央層から除去するために使用される。層を横切る垂直方向の流れは、細胞および遺伝子情報導入剤または添加剤を、細胞随伴領域に取り込むために使用される。次いで、垂直流を逆転させて、細胞随伴領域から細胞を放出させ、過剰な遺伝子導入剤または添加物を洗い流すことができる。
【0023】
様々な実施形態において、流体の流れは、外部流体マニホルドまたは一体型流体マニホルドの何れかを通って、デバイスの3つの層の流れチャンバの中に導入される。外部流体マニホルドは別個の構成要素で形成され、層の中に画定された流体通路を介して流れチャンバに流体的に結合される。一体型流体マニホルドは、特定の層を構成する材料の中に直接形成される。幾つかの実施形態において、層の各々の中に流体を導入する流体マニホルドは、水平流体マニホルドである。幾つかの実施形態において、流体を外側の2つの層に導入する流体マニホルドは垂直流体マニホルドである。
【0024】
幾つかの実施形態において、流体は、外部マニホルドを介して所与の層に導入され、統合マニホルドを介して除去されてよく、またはその逆であってもよい。幾つかの実施形態では、所与の層の両端の一方において、外部マニホルドは統合マニホルドに結合されてよい。
【0025】
当該デバイスにおける2つの膜は、デバイスの層(複数)の間において流体および生物学的物質の通過を制御するように選択される。膜は、膜を通る特に定義された細孔を通る以外は、一般に不透過性であり得る。1つの膜の細孔(複数)は、細胞培地のような流体の通過を可能にするために十分に大きいが、系に導入された遺伝子情報導入剤または他の添加剤の通過を阻止するために充分に小さい寸法である。他の膜における細孔(複数)はより大きく、当該システムに導入された遺伝子情報導入剤または他の添加物の通過を可能にするが、やはり細胞の通過を阻止するためには十分に小さい。幾つかの実施形態において、両方の膜の細孔(複数)は、遺伝子導入剤または他の添加剤が通過するのには十分に大きくてもよい。そのような実施形態において、遺伝子導入剤または他の添加剤は、垂直流でデバイスを通って再循環する。
【0026】
図1Aは、例示的な細胞形質導入システム100のブロック図である。このシステムは、形質導入スタック102、ならびに形質導入スタック102の中へ、および該スタックから外への流体の流れを制御する関連の流体素子を含む。
【0027】
形質導入スタック102は、第1の基板104、第2の基板106、および第3の基板108を含む。第1の基板104は、第1の膜110によって第2の基板106から分離され、第2の基板106は、第2の膜112によって第3の基板108から分離される。
【0028】
例示的な細胞形質導入システム100において、第1の基板104は、第1の基板104の平面に対して平行な平面内で実質的に延びる第1の流れフィールドを画定する。第1の基板104は更に、第1の膜110の反対側の第1の基板104の第1の面を通過する複数の流体通路を画定する。流体通路は、第1の基板104の平面および第1の流れフィールドに対して実質的に垂直に延出する。流体通路は、第1の基板の第1の側に亘って実質的に均一に分布し、第1の流れフィールドを第1の外部流体マニホルド114に流体的に結合する。第1の外部流体マニホルド114は、2次元アレイの流体通路を介して細胞導入スタック102に流体を導入し、細胞導入システム100によって導入された流体が、第1の流れフィールドを横切って、第1の基板104の平面および第1の流れ場の平面に対して垂直な方向で実質的に均一に導入されることを可能にし、幾つかの実施形態では、流れフィールドを横切る流体の実質的に均一な流れを生じる。
【0029】
第2の基板106は、第2の流れフィールドを画定する。この第2の流れフィールドも同様に実質的に平面であり、第2の基板106の平面に対して実質的に平行な平面内で延出する。第2の基板106は、第2の基板の第1の縁部に沿って複数の入口を画定する第2の流れフィールドを、第2の外部流体マニホルド116の出口に流体的に結合する。第2の外部流体マニホルドは、第2の流体が第2の流れフィールドの対応する縁部に沿って実質的に均等に第2の流れフィールドに入るように、第2の流体を第2の基板の縁部に沿って分配する。第2の流体は、上述した第1の流体の流れ方向に対して垂直な方向に導入される。即ち、第2の流体は、第2の流れフィールドの平面内で流される。第2の基板は更に、第2の基板106の第2の縁部に沿って、第1の縁部に対向して分布した複数の出口を画定する。この出口は、第2の流れフィールドを、第2の流れフィールドから流体を運び出す第3の外部流体マニホルド118へと流体的に結合する。
【0030】
幾つかの実施形態において、第2の基板106は、細胞随伴キャビティのアレイを画定する。この細胞随伴キャビティは、第2の基板106の平面に対して実質的に垂直な方向に第2の基板106を貫通する孔から形成することができる。この孔は、第2の流れフィールドに近接する端部(「近接端部」)において十分に広く、少なくとも1つの細胞を保持するのに十分な深さを有する。幾つかの実施形態において、孔は、それぞれ、単一の細胞を保持するような寸法および形状である。幾つかの実施形態において、孔は、1つの細胞から数千、更には約100万の細胞までの範囲の複数の細胞を保持するような寸法および形状である。例えば、孔は概ね円形、六角形、八角形、長方形、楕円形であってよく、または他の適切な形状を有してもよい。幾つかの実施形態において、近位端は、約0.01mm~約1.0mmの直径を有することができる。幾つかの実施形態において、近位端部、0.1mm~1.0mmの直径を有することができる。幾つかの実施形態において、近位端は、約0.50~約0.80mmの直径を有することができる。細胞随伴キャビティは、約0.01mm~約2.0mmの範囲の深さを有することができる。幾つかの実施形態において、細胞随伴キャビティは、約0.1mm~約0.5mmの深さである。幾つかの実施態様において、細胞随伴キャビティの壁は垂直(即ち、第2の基板106の平面に対して垂直)である。幾つかの他の実施形態では、細胞随伴キャビティの壁が傾斜しているので、細胞随伴キャビティは、第2の膜112に隣接するそれらの遠位端に接近するにつれて狭くなる。壁の傾斜は、約45度~約90度の範囲であることができる。幾つかの実施形態において、壁は、約60度~約80度の間の傾斜を有することができる。細胞の随伴キャビティは、第2の基板106を横切ってかなり緊密に充填することができる。幾つかの実施形態において、キャビティは、充填密度を最大にするために互い違いに配置することができる。幾つかの他の実施形態において、キャビティは、長方形、六角形、または他の幾何学的配列に配置することができる。任意の方向の細胞随伴キャビティ間のスペースは、細胞随伴キャビティを形成する孔の近位端の直径よりも小さくすることができる。様々な実施形態において、第2の基板は、約1,000個の間隙と約10,000,000個の細胞随伴キャビティを画定することができる。幾つかの実施形態において、キャビティは、流れフィールドの長さに沿って規則的に離間されている。幾つかの実施形態において、キャビティは不規則に間隔を置いて配置される。例えば、流れチャネルを含む実施形態については、流れチャネルの末端に向かって細胞が随伴されることを保証するために、流れチャネルの遠位端に向かってより密に充填することができる。流れフィールドを含む幾つかの実施形態では、細胞が流れフィールドの中心に向かって移動する可能性があるので、流れフィールドの中心軸に沿ったキャビティの密度は、縁部に向かうよりも高くなる可能性があるます。加えて、またはその代わりに、幾つかの流れフィールドの実施形態において、キャビティの密度は、流れフィールドの遠位端部において流れフィールドの近位端部におけるよりも大きくてよい。幾つかの実施例において、キャビティは、実質的に等しい数の細胞が各キャビティ内に随伴されるように配置されてよい。キャビティの幅は、少なくとも1つの細胞を収容するように設計されてもよいが、個々のキャビティ内の複数の細胞を可能にするため、またはアラインメントのような製造プロセスの容易さを促進するために、流れチャンバの幅に合わせてもよい。
【0031】
幾つかの他の実施形態において、第2の基板106は、細胞随伴キャビティを画定せず、その代わりに、細胞が随伴されることになる第2の流れフィールドに隣接した多孔質ゲルまたはメッシュを保持する。多孔質ゲルまたはメッシュは、サイトカインなどの化学因子、および/または遺伝子情報導入剤、例えばウイルス、ウイルス粒子、プラスミド、プラスミドベクター、CRISPR複合体、またはリポフェクタミンのようなベクター導入剤を含む、遺伝子情報を細胞に導入するための任意の他の手段を含浸させることができる。ゲルまたはメッシュは、第2の流れフィールドを流れる流体に対して透過性であり、その内部に細胞を随伴できるキャビティを含む。
【0032】
第3の基板108は、第3の流れフィールドおよび第2の複数の流体通路を画定する。第1の基板104を通って画定された第1の複数の流体通路と同様に、第2の複数の流体通路は、第3の基板108の平面に対して実質的に垂直な方向に、第3の基板108を通って2次元配列で延出する。第2の複数の流体通路は、第3の流れフィールドを、第4の外部流体マニホルド120へと流体的に結合する。
【0033】
図1Aでは外部流体マニホルドに結合されているように示されているが、幾つかの実施態様では、基板104、106、および108の1以上、場合によっては全部が統合流体マニホルドを含む。統合マニホルドの例を、
図7Cおよび
図7Dに示す。
【0034】
第1、第2および第3の基板104、106、および108の各々は、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、アクリルまたは環状オレフィン共重合体(COC)、生分解性ポリエステル、例えばポリカプロラクトン(PCL)、セバシン酸ポリグリセロール(PGS)などの軟質エラストマー、他の熱可塑性樹脂または他の構造材料で製造できる。或いは、基板は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリウレタン(PU)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、またはフルオロポリマーエラストマーで製造されてもよい。幾つかの実施形態において、第1、第2、および第3の基板104、106、および108のうちの1以上は、ガラス、セラミック、またはシリコン(Si)のような半導体から形成することができる。基板104、106、および108は、約0.5mm~約4mmの範囲の厚さにすることができる。幾つかの実施形態において、基板は約0.5~約2.0mmの厚さである。1以上の平行な流れフィールドまたは流れチャネルを含む所与の層のための1組の流れチャンバの組合せセットは、約5mm幅×約5mm長さ×約0.1mm深さ~長さ約20cm×幅約20cm×深さ約2mmの一般に矩形または正方形であることができる。幾つかの実施形態では、層内の組み合わされた組の流れチャンバの長さ:幅の比は約1:1である。幾つかの実施形態において、流れチャンバの1以上は、円形、楕円形、六角形、または他の幾何学的形状または不規則形状を有する。幾つかの実施態様では、形質導入スタック102の各層に1以上の流れフィールドを含める代わりに、より多くの層がより多くの平行な流れチャネルを含むことができる。幾つかの実施形態では、複数の細胞形質導入スタック102を並列に流体素子に接続して、一度に多くの細胞の処理を可能にすることができる。
【0035】
第1の膜110は、第1の基板104によって画定された第1の流れフィールドを、第2の基板106によって画定された第2の流れフィールドから分離する。この膜は、ポリカーボネート、PETまたは様々な透析膜のような、一般に流体不透過性の材料から形成することができる。幾つかの実施形態において、膜材料は親水性であるか、または第1の膜110の一方または両方の側面がPVP(ポリビニルピロリドン)などの親水性材料でコーティングされている。ウイルス、ウイルス粒子、プラスミド、CRISPR複合体、または他の核酸送達剤のような遺伝子情報導入剤が第1の膜110を通過するのに十分に大きい寸法、即ち、少なくとも約0.1ミクロンで且つ約1.0ミクロン未満の直径を有する細孔は、例えばトラックエッチングによって第1の膜110を通して形成される。幾つかの実施形態において、細孔は直径約0.4ミクロンである。また、細孔は、マスターモールドからのマイクロモールドなどの他の技術によって、または沈降法、犠牲法、または膜に蛇行した経路細孔を生成する他の技術によっても形成され得る。第1の膜110は、約15~約30パーセントの細孔密度を有することができる。
【0036】
第2の膜112は、第1の膜110と同様であり、第3の流れフィールドから第2の基板106を分離する。しかしながら、第2の膜112の細孔は、第1の膜110の細孔よりも直径が小さい。例えば、第2の膜112の細孔は、システム100において使用することを意図した最小の遺伝子情報導入剤よりのも小さくてもよい。例えば、第2の膜の細孔は、約0.001ミクロン~約0.5ミクロンの直径とすることができる。幾つかの実施形態において、第2の膜112の細孔は、直径が約0.1ミクロンである。第2の膜112は、約15~約30パーセントの細孔密度を有することができる。第1の膜110および第2の膜112は、約8ミクロン~約12ミクロン、例えば約10ミクロンの厚さとすることができる。
【0037】
細胞形質導入システム100内の流体工学素子は、流体を、形質導入スタック102を通して第1、第2および第3の基板104、106、および108に対して実質的に垂直に、双方向的に流すように構成された垂直流システムを含む。この垂直流システムは、3ポートポンプ122、3ポートバルブ124、第1および第4の外部流体マニホルド114および120、流体リザーバ126、廃棄物リザーバ128、および接続流体チャネルを含む。3ポートポンプは、流体リザーバ126から細胞培地などの流体を引き出し、それを、形質導入スタック102を介してポンプ輸送することができる。3ポートポンプは、形質導入スタック102を通して流体をポンプ輸送し、流体が第1の外部流体マニホルド114および第1の基板104、または第4の外部流体マニホルド120および第3の基板108を通って、形質導入スタック102に入るようになっている。3ポートバルブが廃液リザーバ128を垂直流システムの残りの部分から隔離する1つの動作モードでは、一旦十分な量の流体が流体リザーバ126から垂直流システムに導入されると、ポンプ122は、流体リザーバ126を垂直流システムの残りの部分から隔離することができ、流体を、形質導入スタック102を通して矢印130で示す方向(即ち、図中反時計回り)に再循環させることができる。3ポート弁が第1の外部流体マニホルド114を廃液リザーバに流体的に結合し、第1の外部流体マニホルド114と3ポートポンプ122との間の流体経路を閉鎖する別の動作モードでは、3ポートポンプ122は流体リザーバ126への流体経路を開き、形質導入スタック102を通る流れの向きを反転させる。流体貯蔵器126への流体経路を開き、矢印132で示すように、形質導入スタック102を通る流れの方向を反転させる。この動作モードにおいて、流体リザーバ126からの流体は、第4の外部流体マニホルド120から形質導入スタック102の中に流入し、第1の外部流体マニホルド114を通って流出し、3ポート弁を通って廃棄物リザーバ128に流れ込む。
【0038】
細胞形質導入システム100の流体素子はまた、水平流ステムを含む。この水平流システムは、形質導入スタック102の第2の基板106に画定された第2の流れフィールドに細胞(および幾つかの実施形態では遺伝子情報導入剤)を導入するように構成されている。水平流は、第2の流れフィールドの平面内において、ある方向に細胞を導入する。水平流システムは、ポンプ134、出口バルブ136、サンプルリザーバ138、第2および第3の外部流体マニホルド116および118、ならびに接続流体チャネルを含む。
【0039】
幾つかの実施例において、ポンプ134は3ポートポンプである。そのような実施形態では、第1のポートがサンプルリザーバ138に結合し、第2のポートが流体リザーバ126に結合し、第3のポートが第2の外部流体マニホルドに結合する。このような実施形態において、ポンプ134は、サンプルリザーバから、例えば、細胞培地に懸濁された細胞および遺伝子情報導入剤を含む流体、または流体リザーバ126からの流体を第2の外部流体マニホルド116を介して形質導入スタック102の中へとポンプ輸送する。
【0040】
ポンプ134が4ポートポンプである実施形態では、当該ポンプの第4のポートが出口バルブ136に結合する。そのような実施形態において、流体は、第2の流れフィールドを通って、第3の外部流体マニホルド118を通り、出口バルブ136を通り、ポンプ134へと戻る。このような実施形態は、サンプルリザーバ138からの流体が第2の流れフィールドを通る第1の通過を行うとき、第2の流れフィールドに隣接する細胞随伴キャビティの中に、不十分な数の細胞または多数の遺伝子情報導入剤がうまく随伴される場合に有用であり得る。随伴されない細胞または遺伝子情報導入剤は、再循環流中の第2の流れフィールドを介して再循環流の中に再循環させて、より多くの細胞および遺伝子情報導入剤を随伴させることができる。
【0041】
出口バルブ136は、出口バルブを通る如何なる流れも完全に防止するように閉じることができ、またはシステム出力から形質導入された細胞を回収できるように開放し得るように構成される。
【0042】
幾つかの他の実施形態では、基板のキャビティ、ゲル、またはメッシュの中に随伴させる代わりに、細胞を第2の膜112に直接取り込むことができる。幾つかの実施形態では、第2の膜112をパターン化して、隆起領域および低部領域を有するレリーフを形成して、細胞を随伴させる膜の能力を高めることができる。低部領域は、約0.01ミクロン~約0.8ミクロンの寸法を有することができる。1以上の細胞は、それらの相対的な大きさに応じて、これらの底部領域内に随伴され得る。幾つかの実施形態において、パターン化されていない第2の膜が、細胞を随伴させるための手段として働くことができる。
【0043】
図1Bは、第2の例示的な細胞形質導入システム150を示す。細胞形質導入システム150は、以下の相違点を伴って、細胞形質導入システム100と実質的に類似している。第1に、第1の複数の流体通路に加えて、細胞形質導入システム150の第1の基板104’は、第1の流れフィールドの一方の縁部に沿って1以上の出口を含み、流体が第1の流れフィールドを逃げるための代替経路を可能にする。細胞形質導入システム150の廃棄物リザーバ128は、バルブ124の代わりに1以上の出口に連結される。第1の基板104’がその縁に沿って複数の出口を画定する幾つかの実施形態において、細胞導入システム150は、第1の基板104’と廃液リザーバとの間に、第1の基板104’からの流出流れを合体させる第5の外部流体マニホルドを含む。細胞形質導入システム150は、第1の基板104’と廃棄物リザーバ128との間に、その間の流体の流れをゲートする第2のバルブ152を含むことができる。ポンプ134と第1の外部流体マニホルドとの間に3ポート弁を含める代わりに、廃棄物リザーバ128の異なる位置が与えられると、細胞導入システム150は2ポート弁124’を使用し、この弁を通る流れを可能し、またはその流れを妨げる。
【0044】
細胞形質導入システム100および150の各々はまた、本明細書に記載の機能および方法を実施するために、そこに含まれるポンプおよび弁を制御するように構成されたコントローラ170を含むことができる。例えば、コントローラ170は、本明細書で開示された方法を自動的に実行するように構成されたコンピュータ実行可能な命令を、自動的にまたはユーザの指示に応答して実行する特殊目的または汎用目的のプロセッサであることができる。
【0045】
図1Aに示される細胞形質導入システム100と、
図1Bに示される細胞形質導入システム150との間の操作の違いを、
図3Cおよび3Dに関連して以下で更に説明する。
【0046】
図1Cは、
図1Aおよび1Bに示した細胞形質導入システム100および150の何れかでの使用に適した形質導入スタック102の平面図を示す。具体的には、
図1Cは、例示的な第2の基板(図示せず)に結合された第2および第3の外部流体マニホルド116、118、ならびに第3の基板108の一例に結合された例示的な第4の外部流体マニホルド120の例を示す。
図1Cに示す例示的な第4の外部流体マニホルド120は、第3の基板108における第2の複数の開口部に一致する貫通孔に結合した第4の基板のチャネルを介して、流体を、第3の基板108の頂部を横切って分配する。幾つかの実施形態では、同様の流体マニホルドを、第1の外部流体マニホルドのために使用することができる。
【0047】
図1Dは、第1および第4の外部流体マニホルド114および120としての使用に適した、別のマニホルドの例を示す。
図1Cに示す第4の外部流体マニホルドは、主に2次元でのみ流体を分配するのに対して、
図1Dの流体マニホルドは本質的に3次元であり、流体を3次元で分配する(ただし、その出力口は依然として2次元に配置される)。
【0048】
図1Eは、細胞形質導入システム100および150での使用に適した、例示的な形質導入スタック102の斜視切欠き図を示す。同様の参照番号は、
図1Aおよび
図1Bの同様の特徴を指す。
図1Eは、
図1Aおよび
図1Bには示されていない第1の流れフィールド142、第2の流れフィールド144、第3の流れフィールド146、および細胞随伴キャビティ148の例を示す。
【0049】
図2は、遺伝子情報を細胞に導入する例示的方法200のブロック図を示す。方法200は、例えば、
図1Aおよび
図1Bに示した細胞形質導入システム100および150を使用して実施することができる。方法200は、第1の流れフィールドに細胞を導入すること(ステップ202)と、第1の流れフィールドに遺伝子情報導入剤を導入すること(ステップ204)と、導入された細胞および導入された遺伝子情報導入剤を、細胞随伴キャビティの中に随伴させること(ステップ206)を含む一方、細胞随伴キャビティの遠位端を通る細胞および遺伝子情報導入剤の通過を防止すること(ステップ208)を含む。方法200は更に、細胞を随伴キャビティから放出すること(ステップ210)、放出された細胞から遺伝子情報導入剤を洗浄すること(ステップ212)、放出され洗浄された細胞を収集すること(ステップ214)を含む。上記ステップの各々について、方法200の様々なステップを示す
図1Aおよび
図1B、ならびに
図3A~
図3Eを参照して、以下で更に説明する。
【0050】
方法200は、第1の流れフィールドに細胞を導入することを含む(ステップ202)。方法200において参照される第1の流れフィールドは、例えば、細胞形質導入システム100および150において、第2の基質106により画定される第2の流れフィールド144であることができる。細胞は、幾つかの実施形態において、CAR-T細胞免疫療法レジメンの一部として、形質導入のために選択されたT細胞であることができる。他の適切な細胞型には、上皮細胞、内皮細胞、がん細胞、造血幹細胞、間葉間質細胞、人工多能性幹細胞、ならびに遺伝子編集、エクスビボ遺伝子治療および幹細胞再プログラミング用途において使用される胚性幹細胞が含まれる。細胞は、細胞培地のような液体に懸濁させながら導入することができる。細胞を含む培地は、ポンプ134によって、上述した水平流システムを通してポンプ輸送することができる。細胞は、サンプルリザーバ138から第2の外部流体マニホルド116を通って、第2の流れフィールド144へとポンプ輸送することができる。幾つかの実施形態において、バルブ136は、第2の流れフィールドを出る流体をポンプ134に戻すように設定され、再循環流を生成し、十分な数の細胞が第2の基板106内に随伴されるようになっている(ステップ206に関連して以下で更に述べる通りである)。幾つかの実施形態においては、細胞が導入される前に、最初に細胞の存在しない細胞培地を、液体リザーバ126から水平流システムを通してポンプ輸送し、形質導入スタック102がプライミングされる。
【0051】
ウイルス、ウイルスベクター、脂質ナノ粒子、プラスミド、CRISPR複合体、または他の核酸ベクターのような遺伝子情報導入剤もまた、流れフィールドに導入される(ステップ204)。幾つかの実施形態において、遺伝子情報導入剤は、サンプルリザーバ138内の細胞と同じ流体中に懸濁される。幾つかの実施形態において、サンプルリザーバ138は、細胞および遺伝子情報導入剤を、形質導入スタックにポンプ輸送されるまで互いに分離した状態に保つ別々の区画を含み、区画からの流れは、細胞形質導入システム100または150の水平流システムを通して流れるときに合体される。幾つかの実施形態において、第2の流れフィールド144に入る流体中の遺伝子情報導入剤の量は、細胞当たり約1のベクターコピー数を生成するのに十分な量である。幾つかの実施形態において、第2の流れフィールド144に入る流体中の遺伝子情報導入剤の量は、当該細胞集団に亘って約0.5~約2.5の平均ベクターコピー数を得るのに十分な量である。
【0052】
幾つかの実施態様では、細胞および遺伝子情報導入剤が流れフィールドに同時に導入される(ステップ202および204)。幾つかの他の実施態様において、細胞の導入(ステップ202)および遺伝子情報導入剤の導入(ステップ204)は連続的に実施される。幾つかの実施形態において、細胞は遺伝子情報導入剤の前に、流れフィールドに導入される。幾つかの実施形態おいて、遺伝子情報導入剤は細胞の前に、流れフィールドに導入される。
【0053】
この方法は更に、導入された細胞および遺伝子情報導入剤を、細胞随伴キャビティに随伴させることを含む(ステップ206)。例えば、導入された細胞および遺伝子情報導入剤は、
図1Eに示される細胞随伴キャビティ148の中に随伴されることができる。導入された細胞および遺伝子情報導入剤は、細胞形質導入システム100または150の垂直流システムによって駆動される流体の流れの結果として随伴される。即ち、ポンプ122は、細胞培地のような流体を、第1の外部流体マニホルド114を通り、形質導入スタック102を通って垂直にポンプ輸送し、そして第4の外部マニホルド120を通って流出させる。幾つかの実施形態において、流体は約0.05mL/分~約0.2mL/分の流量で流される。この流れは、第2の膜120に亘って約2mmHg~約1000mmHgの圧力勾配をもたらす。一般に、圧力は約750mmHg未満に維持される。幾つかの実施形態では、細胞および導入された細胞、遺伝子情報導入剤、および/または添加剤が第2の流れフィールド144の中へと流れている間に、垂直方向の流れが生じる。幾つかの他の実施形態では、細胞および導入された細胞、遺伝子情報導入剤、および/または添加剤が既に第2の流れフィールド144に導入された後に、垂直方向の流れが生じる。
【0054】
図3Aは、細胞302および遺伝子情報導入剤304を、横方向の流体フロー306を介して、細胞形質導入スタック102の第2の流れフィールド144に同時に導入する例を(ステップ202および204)示す。
図3Aはまた、垂直流308aを介した細胞随伴キャビティ148内への細胞302および遺伝子情報導入剤304の取り込みを示す(ステップ206)。
図3Aは、2つの細胞をそれぞれ保持する細胞随伴キャビティ148を示しているが、様々な実施形態において、細胞随伴キャビティは、単一の細胞ないし数千、更には約100万個の細胞を保持する寸法であることができる。
【0055】
図3Bに示されるように、細胞302および遺伝子情報導入剤304は、遺伝子情報導入剤304に担持された遺伝子情報が細胞302に導入されるのに十分であるが、細胞302の生存性を危険に晒す程には長くない滞留時間だけ、細胞随伴キャビティ内に随伴されたまま残る。従って、幾つかの実施形態において、滞留時間は約5分~約7時間である。幾つかの実施形態において、滞留時間は約10分~約2時間に設定される。幾つかの実施態様では、滞留時間は約30分に設定される。この時間において、形質導入スタック102を通る垂直流308aが維持される一方、細胞随伴キャビティの遠位端310を通る細胞302および遺伝子情報導入剤304の通過は防止される(ステップ208)。この通過は第2の膜112によって防止され、この膜は垂直流の流体が過度の圧力を蓄積することなく通過するのに十分なほど大きい細孔を有するが、細胞302および導入された最小の遺伝子情報導入剤の通過を防止するためには十分に小さい、例えば直径が約0.001~約0.5ミクロンの細孔を有する。滞留時間中、水平流306は停止され、またバルブ136は閉じられる。
【0056】
図2および
図3Cおよび3Dに戻って参照すると、前述の休止時間の後に、細胞随伴キャビティ148から細胞304を放出し(ステップ210)、細胞から遺伝子情報導入剤を洗い流す(ステップ212)。
図3Cは、
図1Aに示した細胞形質導入システム100に示される形態の、細胞形質導入スタック102におけるこれらのステップの実施形態を示している。
図3Dは、
図1Bに示した細胞形質導入システム150に示される形態の、細胞形質導入スタック102’におけるこれらステップの第2の例示的実施形態を示している。
図3Cおよび3Dに見られるように、滞留時間の後、全部ではないにしても多くの細胞が、遺伝子的に改変または活性化される。
【0057】
両方の例において、細胞304は、ポンプ122により垂直流308aの方向を逆転させ、逆垂直流308bを形成することによって放出され(ステップ210)、洗浄される(ステップ212)。このように、垂直流システムの流体は、第1の外部流体マニホルド114の代わりに、第4の外部流体マニホルド120を介して細胞導入スタック102または102’に入る。この逆流で導入される流体は、流体リザーバ126から引き出され、垂直流システムを介して再循環されず、それにより遺伝子情報導入剤が形質導入スタックに再導入されるのを防止する。
図3Cに示す例では、3ポートバルブ124を切り替えて、細胞導入スタックを出て廃棄物リザーバ128へと流入する流れを方向転換することによって、再循環が防止される。
図3Dに示す例では、弁124’の閉鎖と第2の弁156の開放により再循環が防止され、流体が形質導入スタック102から廃棄物リザーバ128へと流れる代替経路が可能になる。
【0058】
図1Aに関連して上述したように、第1の膜110は、遺伝子情報導入剤304は通過するが細胞302は通過させないために十分に大きい細孔を含む。従って、逆垂直流308bは、細胞302から遺伝子情報導入剤304を洗浄し、第1の外部流体マニホルド114(
図3Cに示す)を通り、または第1の基板104の縁部を通り、画定された出口314を通って形質導入スタックから流出する(
図3Dに示す)。逆方向垂直流308bは、垂直流308aと同様の流速、例えば約0.05~0.2mL/分の流速を有することができる。細胞302は、約30秒~約15分間洗浄することができる。
【0059】
洗浄ステップ(ステップ212)の後、細胞を収集する(ステップ214)。細胞302はポンプ134によって集められ、
図1Aに関して述べた水平流システムを通る流体の流れを再開し、細胞302を形質導入スタック102から強制的に押し出す。幾つかの実施形態において、細胞が収集される間は逆方向の垂直流308bが維持されて、それらがデバイスを出て行くときに細胞が細胞随伴キャビティ148内に捕捉されるのを防止する。幾つかの他の実施形態では、細胞が回収されている間、逆方向の流体の流れ308bは停止される。
図3Eは、形質導入細胞の収集例を示す(ステップ214)。幾つかの実施形態では、収集の前に、細胞を形質導入スタックに再循環させ、別の一組(複数可)の遺伝子情報導入剤へと導入して、方法200を繰り返す。幾つかのそのような実施態様において、遺伝子情報導入剤の追加の組(複数可)は、形質導入スタックに導入された以前の組の遺伝子情報導入剤と同じ追加の遺伝子情報を担持する。幾つかの他の実施形態では、少なくとも1つの追加の組の遺伝子情報導入剤が、以前の遺伝子情報導入剤が導入された細胞に導入される異なる遺伝子情報を含み、それによって細胞への逐次的な遺伝子情報の増分導入を可能にする。
【0060】
図4は、
図1Aおよび
図1Bに示した細胞形質導入システム100および150と同様の細胞形質導入システムを用いた、細胞形質導入の第2の例示的方法400を示す。方法400では、形質導入スタックの基板に画定された細胞随伴キャビティの中に細胞および遺伝子情報導入剤を随伴させる代わりに、細胞を形質導入スタックの中に流し、次いで、例えばデバイスの製造の際に予め遺伝子情報導入剤を含浸されている多孔質メッシュまたはゲルの中に細胞を随伴させる。遺伝子情報導入剤がデバイスの使用前にゲルまたはメッシュに導入される実施形態では、使用するまで遺伝子情報導入剤の活力を維持するために、形質導入スタックは適切な環境(例えば、冷蔵ユニット、インキュベータ、または他の環境制御デバイス)において維持することができる。従って、方法400は、遺伝子情報導入剤を含浸させたメッシュまたはゲルに隣接する第1の流れフィールドに細胞を導入することと(ステップ402)、導入した細胞をメッシュまたはゲルに随伴させることと(ステップ404)、ゲルまたはメッシュの反対側を通る細胞の通過を防止することと(ステップ406)、ゲルまたはメッシュから細胞を放出することと(ステップ408)、放出された細胞を収集すること(ステップ410)を含む。このプロセスの例を
図5A~5Dに示す。他の実施形態において、遺伝子情報導入剤は、細胞の導入の前もしくは後に、またはそれと同時に、水平流システムを介して形質導入スタックに流入し、遺伝子情報導入剤は細胞に密に接触した状態でゲルまたはメッシュ内に随伴される。
【0061】
図5Aは、遺伝子情報導入剤508を含浸させたゲルまたはメッシュ506に隣接する流れフィールド504への細胞502の導入(ステップ402)、およびゲルまたはメッシュ506への細胞502の取込み(ステップ404)を示す。細胞502は、細胞形質導入システム100または150の水平流システムのポンプ134により生成された水平流510を介して流れフィールドに導入され(ステップ402)、また細胞形質導入システム100または150における垂直流システムのポンプ122によって生成された垂直流512によって随伴される。流速は、垂直流および逆流垂直流308aおよび308bについて上述したものと同様であることができる。
【0062】
図5Bに示すように、十分な数の細胞502がメッシュまたはゲル506に随伴された後、水平流510は停止されるのに対して、垂直流512は、
図2および
図3Bに関して上記で述べた滞留時間と同意用の滞留時間に亘って維持され、遺伝子情報導入剤が遺伝子情報を細胞502に導入する時間を可能にする。第2の膜112は、細胞およびゲルまたはメッシュ506から外された任意の遺伝子情報導入剤が、ゲルまたはメッシュ506の反対側を通過するのを防止する(ステップ406)。
【0063】
滞留時間の後、垂直流512の方向が反転されて、垂直流512bを形成する。逆方向垂直流512bは、細胞をゲルまたはメッシュ506から放出し(ステップ408)、ゲルまたはメッシュ506から除去された任意の遺伝子情報導入剤を洗い流す。この放出ステップ(ステップ408)は
図5Cに示されている。
図5Cに見られるように、細胞502の全部ではないにしても、多くの細胞502が今や追加の遺伝子情報514を保持している。
図5Dに示すように、方法400は更に、流れフィールド504を通る水平流を再開することによって、放出された細胞を収集すること(ステップ410)を含む。
【0064】
図6は、別の例示的な形質導入スタック600の断面図を示す。この形質導入スタック600は、
図3A~
図3Eに示す形質導入スタック102と同様である。しかし、形質導入スタック600は、その細胞随伴キャビティ604の壁に配置されたエレクトロポレーション電極602の追加の特徴を含む。細胞606がキャビティ604に随伴されている間に電極602に十分な電圧が印加されると、細胞604の細胞膜は一時的により透過性になり、プラスミド610、CRISPR複合体、脂質ナノ粒子または他の核酸または合成核酸ベクターのような遺伝物質のより多くの受動的導入を可能にする。
【0065】
図7A~7Dは、細胞形質導入システム700の別の実施例の様々な図を示す。
図7Aは、例示的細胞形質導入システム700のブロック図である。
図7Bは、細胞形質導入システム700に含めるのに適した、例示的な細胞形質導入スタック702の断面図である。
図7Cは、細胞形質導入スタック702における、第1または第3の基板704および708としての使用に適した例示的な基板の平面図を示す。
図7Dは、形質導入スタック702出ての使用に適した、例示的な第2の基板706の平面図を示す。当該細胞導入システムは、幾つかの実施形態において、
図2に示した方法200に従って操作できる。
【0066】
図7A~7Dおよび
図1A~1Eを参照すると、細胞形質導入システム700は、細胞形質導入システム100と同様である。細胞形質導入システム100と同様に、この細胞形質導入システムは、3つの基板、即ち、第1の基板704、第2の基板706および第3の基板708から形成された細胞形質導入スタック702を含む。第1の基板704は、第1の膜710によって第2の基板706から分離されている。第2の基板706は、第2の膜712によって第3の基板708から分離されている。細胞形質導入システム700における第1および第2の膜710および712は、細胞形質導入システム100で使用される第1および第2の膜110および112と実質的に同じであることができる。即ち、膜710および712は、膜110および112に適したものと同じ材料で作ることができ、第1の膜710の細孔径は、第1の膜110について上述したものと同じでよく、第2の膜712の細孔は、第2の膜112について上述した細孔と同じであってよい。
【0067】
細胞形質導入システム100と同様に、細胞形質導入システム700もまた、流体リザーバ726、サンプルリザーバ738、および廃棄物リザーバ724を含むことができ、これらは上記で述べた流体リザーバ126、サンプルリザーバ138、および廃棄物リザーバ124と同様の構成を有することができる。細胞形質導入システム700はまた、2つのポンプ722および734、ならびに細胞形質導入スタック702を介して、流体、細胞、および遺伝子情報導入剤(または他の添加剤)をポンプ輸送および方向付けするための様々なバルブを含む。ポンプ722および734は、コントローラ770によって制御することができる。
【0068】
細胞形質導入システム100とは対照的に、細胞形質導入システム700は、マニホルド114および120のような、任意の垂直流体マニホルドを欠いている。その代わりに、3つの基板704、706、および708の全部が、両端において一体化された水平流体マニホルド716を含む。上述のように、一体型流体マニホルドとは、別個の基板または他の構成要素に形成される代わりに、デバイスの一組の流れチャンバと同じ基板内に形成された流体マニホルドを指す。更に、
図7Cおよび
図7Dに最もよく見られるように、第1、第2、および第3の基板704、706、および708内の流れチャンバは、
図1Eに示された単一のより広い流れフィールド142、144および146の代わりに、複数の平行な流体チャネル752から形成されている。
【0069】
流体、細胞、および遺伝子情報導入剤(または他の添加剤)が、細胞形質導入システム700を通って導かれる様々な経路もまた、
図7Aに示されている。これらには、細胞または遺伝子情報導入剤(および/または他の添加剤)の導入前に、システム700が緩衝液でプライミングされ、次いで細胞培地でプライミングされるプライミング経路と、細胞および遺伝子情報導入剤(および/または他の添加剤)が形質導入スタック702に装填される装填経路が含まれている。
図7Aはまた、細胞および遺伝子情報導入剤(または他の添加剤)を細胞随伴キャビティ748(例えば、
図7Bおよび
図7Dに示される)の中に随伴させるために、細胞培地などの流体が、形質導入スタック702を通って垂直に(即ち、第1、第2、および第3の基板704、706、および708の平面に対して垂直に)流される細胞取込み経路を示している。
図7Aはまた、洗浄経路を示しており、この経路を介して細胞媒介物のような流体が形質導入スタック702を通り、反転垂直流に沿って流されて細胞を細胞随伴キャビティ748から放出し、また放出された細胞から遺伝子情報導入剤(またはその他の添加剤)を洗い流し、第1の膜710を通って廃棄物リザーバ724へと流入する。最後に、細胞抽出経路が示されており、洗浄された細胞は、この経路を介して細胞形質導入スタック702から除去され、サンプル収集リザーバ740へと収集されることができる。
【0070】
図7Bは、細胞形質導入システム700での使用に適した例示的な細胞形質導入スタック702の断面を示している。この断面は、細胞形質導入スタック702の長さに沿って(即ち、
図7Aに示す形質導入スタック702を横切って左から右へ)取られる。この断面図は、第1、第2および第3の基板704、706および708、ならびに幾つかの細胞随伴キャビティ748のそれぞれに形成された流路を切断する。基板704、706、および708の各々は、約0.5mm~約4mmの厚さの範囲であり得る。幾つかの実施形態において、基板704、706および708は、約0.5mm~約2.0mmの厚さである。基板704、706および708は、約5.0cm~約25cmの範囲の長さおよび幅を有することができる。幾つかの実施形態では、基板704、706および708は、ほぼ等しい長さおよび幅を有する。幾つかの実施形態において、基板704、706、および708の長さ(即ち、流体チャネル752の軸に対して平行)は、それらの幅(即ち、流体チャネル752の軸に対して垂直)の広さよりも50%~200%長い。幾つかの実施形態において、基板704、706および708は、それらの長さよりも広い。
【0071】
第1の基板704に形成された流体チャネル752は、約100ミクロン~約200ミクロン(例えば、約140ミクロン)の深さ、約50ミクロン~1.0mm(例えば、約800ミクロン)の幅、約10cm~約20cm(例えば、約15cm)の長さである。第2の基板706に形成された流体チャネル752は、第1の基板704に形成された流体チャネル752と同様の長さおよび幅を有することができるが、幾つかの実施形態では、より浅い。例えば、第2の基板706に形成された流体チャネル752は、約50ミクロン~150ミクロン(例えば、約60ミクロン~約70ミクロン)の深さを有することができる。第3の基板708の流体チャネル752は、幾つかの実施形態では、第1の基板704の流体チャネル752と同じ寸法を有する。
【0072】
図7Bに示すように、流体随伴キャビティ748は、第2の基板706の長さに沿って不均一に分布することができる。例えば、第2の基板706の流体チャネル752の長さに沿った隣接する細胞随伴キャビティ748間の距離は、形質導入スタック702の先端(
図7Aに示される細胞随伴経路に関して)に向かって減少することができる。細胞随伴キャビティは、約100万個の細胞に適合するような大きさの円形、正方形、または他の規則的または不規則な形状であることができる。例えば、
図7Bに示す実施形態において、細胞随伴キャビティは、チャネル752の幅以下、例えば約500ミクロン~1.0mmの範囲内(例えば、約660ミクロン)の直径または幅を有することができる。細胞随伴キャビティ748は、第2の基板706の流体チャネル752上に開口し、第2の基板706の残りの厚さを貫通する。
【0073】
図7Cは、
図7Aに示した細胞形質導入スタック702における第1および第3の基板704および708としての使用に適した、例示的な基板の平面図を示す。
図7Cに示すように、この例示的な基板は、何れかの端部において一体化され、流体チャネル752によって接続されたマニホルド716を含む。一体化されたマニホルド716は主要チャネル771から形成され、この主要チャネルは、
図7Aに示した流体素子が結合できる基板の長さに沿ったポート772を備えた流体チャネル752に対して実質的に垂直に走る。流体チャネル752は、主チャネル771の中に直接に結合する。
【0074】
図7Dは、
図7Aに示した細胞形質導入スタック702における第2の基板706としての使用に適した例示的な基板の平面図を示す。第2の基板の流体チャネル752は、高レベルの剪断および/または高剪断勾配にしばしば敏感である細胞および遺伝子情報導入剤、または他の添加剤を担持するように設計されているので、第2の基板706は、細胞形質導入スタック702の第1および第3の基板704および706を形成する基板に含まれるものよりも更に複雑な形状を備えた一体化されたマニホルド716を含む。
図7Dに示されるマニホルドは、基板に形成された流体チャネル752に対して実質的に垂直に延びる一次チャネル780を含む。一次チャネル780は、一端において、基板の長さに沿った流体ポート782で終端し、そこには
図7Aに示した細胞形質導入システム700の流体素子が結合できる。一次チャネル780は、それらの端部が流体ポート782から遠くなるにつれて、二次チャネル784が一次チャネル780から分岐するにつれて狭くなる。第2のチャネル784は、次に、それらが最終的に基板の流体チャネル752に分岐するまで、第3および第4のチャネル786および788へと分岐する。このようなマニホルドの更なる詳細は、米国特許第9,421,315号に見出すことができ、その全体を本明細書の一部として援用する。
【0075】
実験結果
図7A~7Dに示された構成を有する細胞形質導入システムを、当該システムの形質導入効率を評価するために、従来のスピノキュレーション形質導入技術と比較して試験した。
図8は、この実験の結果を示す。
【0076】
実験では、細胞培地に懸濁された不死化ヒトTリンパ球細胞株(Jurkat細胞)に由来する100万個の細胞を、
図7Aに示すサンプル装填経路に沿って
図7A~7Dのデバイスに導入した。緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする市販のレンチウイルスベクターを含む培地(RPMI、10%ウシ胎仔血清[FBS]および抗生物質[P/S]を補充したもの)を0.1mL/分に維持した垂直流で30分間流すことにより、細胞随伴キャビティ748の中に細胞を随伴させた。この垂直流は、
図7Aに示した細胞随伴経路に沿って細胞形質導入システム700を通過した。次いで、新しい培地を用い、逆方向垂直流(流速0.1mL/分)で10分間、細胞をデバイス内で洗浄した。対照サンプルについては、レンチウイルスベクターのスピノキュレーションのための標準プロトコールに従い、GFPをコードする市販のレンチウイルスベクターを用いて800Gで30分間、百万個のJurkat細胞をスピノキュレートした(例えば、遠心接種した)。両方の例において感染多重度(MOI)は3.0であった。陰性対照サンプルはベクターなしでインキュベートした。
【0077】
GFP+レンチウイルスベクターで処理した後、細胞をデバイス(実験サンプルの場合)またはスピノキュレーション管(対照サンプルの場合)から取り出した。細胞を新鮮なRPMI培地に再懸濁し、標準的な細胞培養条件下で4日間培養した。培養した細胞を、前方散乱および側方散乱を用いたフローサイトメトリーで分析して、細胞における遺伝子導入効率を評価した。その結果を、生存細胞の総集団におけるレンチウイルス形質導入されたGFP+細胞のパーセンテージとして
図8に示す。
【0078】
図8に示すように、本開示のデバイスは、例えばレンチウイルスベクターのような適切なベクターを用いた外因性遺伝物質の形質導入に有用である。例えば、本開示のデバイスにおいてレンチウイルスベクターで処理されたJurkat細胞は、ウイルス構築物で安定的または一過的に形質導入され、この形質導入細胞は測定可能な量のマーカータンパク質(GFP)を発現し、その発現はウイルスベクターでの処理後に少なくとも4日間維持された。更に、対照細胞では無視できる量のマーカータンパク質しか発現しなかったので、このマーカータンパク質の発現はウイルス形質導入細胞に特異的であった。結果は更に、当該デバイスが、一般に接着細胞と比較して形質導入がより困難な、懸濁細胞を形質導入するために有効であることを示している。
【0079】
より重要なことに、この結果は、本開示のデバイスが、スピノキュレーション法と比較してより大きな形質導入効率を与えることを実証する。
図8に示すように、本開示のデバイスを使用して、約45%の細胞がレンチウイルスベクターで形質導入された。これと比較して、通常のスピノキュレーション法で達成された形質導入効率は、約23%とかなり低い。この結果は、スピノキュレーション法と比較して、本開示のデバイスが全体の形質導入率において有意な改善(約100%)を与えることを実証している。従って、これらの結果は、本開示のデバイスが、標的細胞への遺伝子送達のために、既存のシステムおよび方法に対して有意な利点を与えることを示すものである。更に、本開示のデバイスは、細胞生存率を損なうことなく形質導入効率を改善することに留意すべきである。
【0080】
本明細書は、多くの具体的な実施の詳細を含むものであるが、これらは、発明の範囲または特許請求される可能性のある範囲を限定するものではなく、むしろ特定の発明の特定の実施形態に特異的な特徴の説明として解釈されるべきである。別々の実施形態の文脈において本明細書で説明される特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせて実施することもできる。逆に、単一実施形態の文脈において記載される様々な特徴は、複数の実施形態において別々に、または任意の適切なサブコンビネーションで実施することもできる。更に、特徴は、特定の組み合わせで作用するものとして上記で記述され、また当初はそのように特許請求の範囲に記載されていたとしても、特許請求の範囲に記載された組み合わせから1以上の特徴が、ある場合にはその組み合わせから切り離され得るものであり、また特許請求の範囲に記載の組合せがサブコンビネーションまたはサブコンビネーションの変形に向けられ得るものである。同様に、図面では動作が特定の順序で描かれているが、これは、望ましい動作を達成するためには示された特定の順序または一連の順番どおりに実施されること、または図示された全部の動作が実行されることを要とするとして理解されるべきではない。一定の状況では、マルチタスク処理および並列処理が有利な場合があり得る。更に、上述の実施形態における様々なシステム構成要素の分離は、全ての実施形態においてそのような分離を必要とするものとして理解されるべきではなく、記載された構成要素およびシステムは、一般に、単一の製品に一体化し、または複数の製品にパッケージ化することができる。「または」への言及は、「または」を使用して記載された任意の用語が、記載された用語の単一、複数、および全部のうちの何れかを示すように包括的であると解釈され得るものである。「第1」、「第2」、「第3」等のラベルは、必ずしも順序を示すことを意味するものではなく、類似または類似の項目または要素を単に区別するために一般的に使用される。従って、本主題の特定の実施形態が記載されている。他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に含まれるものである。場合によっては、特許請求の範囲に列挙された動作は異なる順序で実行することができ、依然として望ましい結果を達成できるものである。更に、添付の図面に示されるプロセスは、望ましい結果を達成するために、示された特定の順序または逐次的な順序を必ずしも必要としない。