(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】チャック機構
(51)【国際特許分類】
B23B 31/16 20060101AFI20220215BHJP
【FI】
B23B31/16 D
(21)【出願番号】P 2019517532
(86)(22)【出願日】2018-04-18
(86)【国際出願番号】 JP2018015996
(87)【国際公開番号】W WO2018207570
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2017094184
(32)【優先日】2017-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第28回日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2016)にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西宮 民和
【審査官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】西独国特許出願公開第02813832(DE,A)
【文献】米国特許第05842705(US,A)
【文献】米国特許第08152175(US,B1)
【文献】特開平09-155608(JP,A)
【文献】特開平01-306106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャック本体と、
前記チャック本体の前面に、径方向に移動可能に設置された複数のマスタージョーと、
前記マスタージョーの前面に、着脱自在に取り付けられるトップジョーと
を備えたチャック機構であって、
前記マスタージョー及び前記トップジョーは、それぞれ、軸方向に対向する部位に、互いに係合する凸部及び凹部を有し、
前記凸部及び凹部は、それぞれ、径方向両端部において、円錐体の一部からなる円錐面を有し、
前記トップジョーは、円柱体の一部からなるワークを把握する把握面を有し、
ワーク把握時に、前記マスタージョー及び前記トップジョーの各円錐面のうち、把握側の円錐面の中心軸、及び前記把握面の中心軸は、全て、前記チャック本体の回転軸と一致して
おり、
前記マスタージョーの凸部には、径方向両端部の円錐面において、先端部が該円錐面から外方に突出するように付勢された第1の押圧部材が収容されており、
前記トップジョーには、把握側の円錐面に、前記第1の押圧部材が挿入可能な溝部が設けられており、
前記凸部及び凹部が互いに係合された状態で、前記マスタージョーの把握側と反対側の円錐面から突出した前記第1の押圧部材の先端部が、前記トップジョーの円錐面に押圧されているとともに、前記マスタージョーの把握側の円錐面から突出した前記第1の押圧部材の先端部が、前記トップジョーの前記溝部に挿入された状態で、前記マスタージョー及び前記トップジョーの円錐面が、互いに密着している、チャック機構。
【請求項2】
前記トップジョーの着脱は、前記マスタージョーまたは前記トップジョーを、前記凸部及び凹部の円錐面に沿って周方向に相対的に回転することにより行われる、請求項1に記載のチャック機構。
【請求項3】
前記マスタージョー内には、軸方向に移動可能な可動ピンが設けられており、
前記トップジョーには、前記可動ピンが挿入可能なピン孔が設けられており、
前記凸部及び凹部が互いに係合された状態で、前記可動ピンが、前記ピン孔に挿入されることにより、前記トップジョーの前記マスタージョーに対する位置決めが行われる、請求項1または2に記載のチャック機構。
【請求項4】
チャック本体と、
前記チャック本体の前面に、径方向に移動可能に設置された複数のマスタージョーと、
前記マスタージョーの前面に、着脱自在に取り付けられるトップジョーと
を備えたチャック機構であって、
前記マスタージョー及び前記トップジョーは、それぞれ、軸方向に対向する部位に、互いに係合する凸部及び凹部を有し、
前記凸部及び凹部は、それぞれ、径方向両端部において、円錐体の一部からなる円錐面を有し、
前記トップジョーは、円柱体の一部からなるワークを把握する把握面を有し、
ワーク把握時に、前記マスタージョー及び前記トップジョーの各円錐面のうち、把握側の円錐面の中心軸、及び前記把握面の中心軸は、全て、前記チャック本体の回転軸と一致しており、
前記トップジョーの凹部には、把握側と反対側の円錐面において、先端部が該円錐面の外方に突出するように付勢された第2の押圧部材が収容されており、
前記凸部及び凹部が互いに係合された状態で、前記トップジョーの把握側と反対側の円錐面から突出した前記第2の押圧部材の先端部が、前記マスタージョーの円錐面に押圧されているとともに、前記マスタージョー及び前記トップジョーの把握側の円錐面が、互いに密着している
、チャック機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物(ワーク)を把握するチャック機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを把握するチャック機構は、チャック本体の前面に、径方向に移動可能に設置された複数のマスタージョーと、各マスタージョーの前面に、着脱自在に取り付けられるトップジョーとを備えている。
【0003】
特許文献1には、トップジョーの着脱を素早く行うことができるチャック機構が開示されている。そこで開示されているチャック機構は、
図10に示すように、チャック本体100の前面に設置されたマスタージョー110及びトップジョー120に、それぞれ、互いに係合する凸部110A及び凹部120Aが形成されている。
【0004】
マスタージョー110に形成された凸部110Aは、
図11(a)に示すように、径方向両端部に、円錐体の一部からなる円錐面111a、111bを有している。一方、トップジョー120に形成された凹部120Aは、
図11(b)に示すように、径方向両端部に、円錐体の一部からなる円錐面121a、121bを有している。これにより、トップジョー120を、円錐体の中心軸を中心に回転させることによって、トップジョー120の着脱を素早く行うことができる。
【0005】
ところで、凸部110Aの円錐面111a、111bと、凹部120Aの円錐面121a、121bとは、トップジョー120の回転による着脱を素早く行うための一定の隙間(以下、「係合隙間」という)が設けられている。また、トップジョー120がマスタージョー110に取り付けられた位置で、マスタージョー110側に設けられた位置決めピン140を、トップジョー120側に形成された孔120Bに挿入することによって、トップジョー120の位置決めが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたチャック機構において、トップジョー120がワークを把握すると、ワークからの反力によって、トップジョー120の凹部120Aに形成された円錐面121a、121bのうちワーク側の円錐面は、マスタージョー110の凸部110Aに形成された円錐面111a(111b)に押し付けられる。これにより、トップジョー120は、マスタージョー110と、径方向及び軸方向において強固に係合することになる。しかしながら、トップジョー120の位置決めを行う位置決めピン140と孔120Bとは、一定の隙間(以下、「ピン隙間」という)があるため、次のような課題が生じる。以下、
図12(a)~(c)を参照しながら、従来のチャック機構における課題を説明する。
【0008】
図12(a)は、ワークを把握する前のマスタージョー110とトップジョー120との位置関係を模式的に示した平面透視図である。ここで、マスタージョー110の径方向両端には、円錐面111a、111bが形成され、トップジョー120の径方向両端には、円錐面121a、121bが形成されている。ここで、マスタージョー110の円錐面111a、111bと、トップジョー120の円錐面121a、121bとは、一定の係合隙間が設けられている。また、位置決めピン140と孔120Bとは、一定のピン隙間が設けられている。また、トップジョー120には、円柱体の一部からなる把握面130が形成され、把握面130を有する円柱体の中心軸Oは、チャック本体の回転軸Jとズレている。
【0009】
このような状態で、トップジョー120がワークを把握すると、
図12(b)に示すように、ワークからの反力によって、トップジョー120の凹部120Aに形成された円錐面121aは、マスタージョー110の凸部110Aに形成された円錐面111aに押し付けられる。この時、トップジョー120に形成された 把握面130の中心軸Oは、チャック本体の回転軸Jと一致している。
【0010】
しかしながら、実際はワークを把握する前の状態では、重力や係合隙間、ピン隙間などの影響により、トップジョー120は、径方向または回転方向に自由度があるため、位置が安定していない。このような状態で、トップジョー120がワークを把握すると、
図12(c)に示すように、トップジョー120に形成された把握面130の中心軸Oが、チャック本体の回転軸Jからズレたままワークが把握されることになる。また、他の要因として、ワークの把握時にトップジョー120は、一定の係合隙間やピン隙間がある状態でワークと衝突するので、トップジョー120は径方向や回転方向に瞬間的に動き、トップジョー120に形成された把握面130の中心軸Oが、チャック本体の回転軸Jからズレたままワークが把握されることになる。
【0011】
すなわち、これらの要因によって、ワークの位置決め精度が低下してしまうという課題が生じる。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みなされたもので、その主な目的は、マスタージョー及びトップジョーに、互いに係合する凸部及び凹部が形成され、トップジョーの着脱が、マスタージョーまたはトップジョーを、凸部及び凹部の円錐面に沿って相対的に回転することによって行われるチャック機構において、ワークの位置決め精度に優れたチャック機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るチャック機構は、チャック本体と、チャック本体の前面に、径方向に移動可能に設置された複数のマスタージョーと、各マスタージョーの前面に、着脱自在に取り付けられるトップジョーとを備えている。マスタージョー及びトップジョーは、それぞれ、軸方向に対向する部位に、互いに係合する凸部及び凹部を有している。凸部及び凹部は、それぞれ、径方向両端部において円錐体の一部からなる円錐面を有し、トップジョーは、ワークを把握する円柱体の一部からなる把握面を有し、ワーク把握時に、マスタージョー及びトップジョーの各円錐面のうち、把握側の円錐面の中心軸、及び把握面の中心軸は、全て、チャック本体の回転軸と一致している。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マスタージョー及びトップジョーに、互いに係合する凸部及び凹部が形成され、トップジョーの着脱が、マスタージョーまたはトップジョーを、凸部及び凹部の円錐面に沿って相対的に回転することによって行われるチャック機構において、ワークの位置決め精度に優れたチャック機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態におけるチャック機構の構成を模式的に示した斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態におけるチャック機構の構成を模式的に示した断面図である。
【
図3】(a)、(b)は、それぞれ、マスタージョー及びトップジョーの構成を模式的に示した斜視図である。
【
図4】(a)~(c)は、チャック機構の作用効果を説明した平面透視図である。
【
図5】本発明の変形例1におけるマスタージョーの構成を模式的に示した断面図である。
【
図6】変形例1におけるトップジョーの構成を模式的に示した斜視図である。
【
図7】変形例1におけるマスタージョーの凸部とトップジョーの凹部とが互いに係合された状態を示した平面透視図である。
【
図8】本発明の変形例2におけるトップジョーの構成を模式的に示した断面図である。
【
図9】本発明の変形例3におけるトップジョーがマスタージョーにボルトで固定された状態を示した断面図である。
【
図10】従来のチャック機構を示した断面図である。
【
図11】(a)、(b)は、それぞれ、従来のマスタージョー及びトップジョーの構成を模式的に示した斜視図である。
【
図12】(a)~(c)は、従来のチャック機構における課題を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0017】
図1及び
図2は、本発明の一実施形態におけるチャック機構の構成を模式的に示した斜視図及び断面図である。また、
図3(a)、(b)は、本実施形態におけるマスタージョー及びトップジョーの構成を模式的に示した斜視図である。なお、本実施形態における説明では、チャック本体の回転軸Jに平行な方向Xを「軸方向」とし、回転軸Jを中心とする半径方向Yを「径方向」としている。また、本実施形態におけるチャック機構は、工作機械に固定されて、回転軸Jを中心に回転する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態におけるチャック機構1は、チャック本体10と、チャック本体10の前面に、径方向に移動可能に設置された複数(本実施形態では3つ)のマスタージョー11と、各マスタージョー11の前面に、着脱自在に取り付けられるトップジョー12とを備えている。また、トップジョー12には、ワークを把握する把握面13が形成されている。
【0019】
図2に示すように、チャック本体10の内部には、ドローナット70が、軸方向に沿って移動可能な状態で収容されている。ドローナット70には、プランジャー80を介してウェッジプランジャー90が係合している。ウェッジプランジャー90には、軸方向に対して傾斜する楔部90Aが形成され、マスタージョー11の外部には、楔部90Aと嵌合する傾斜溝11Bが形成されている。これにより、ドローナット70の軸方向移動に伴い、ウェッジプランジャー90が軸方向に移動することによって、マスタージョー11の径方向の移動が制御される。
【0020】
本実施形態において、マスタージョー11及びトップジョー12は、それぞれ、軸方向に対向する部位に、互いに係合する凸部11A及び凹部12Aが形成されている。マスタージョー11に形成された凸部11Aは、
図3(a)に示すように、径方向両端部において、円錐体の一部からなる円錐面11a、11bを有している。また、トップジョー12に形成された凹部12Aは、
図3(b)に示すように、径方向両端部において、円錐体の一部からなる円錐面12a、12bを有している。また、トップジョー12は、ワークを把握する円柱体の一部からなる把握面13を有している。そして、マスタージョー11またはトップジョー12を、凸部11A及び凹部12Aの円錐面(11a、11b)、(12a、12b)に沿って、周方向に相対的に回転することによって、トップジョー12の着脱が行われる。なお、凸部11Aの円錐面11a、11bと、凹部12Aの円錐面12a、12bとは、それぞれ、トップジョー12が回転できるだけの係合隙間が設けられている。
【0021】
図2に示すように、マスタージョー11内には、軸方向に移動可能な可動ピン20と、可動ピン20と係合したシャフト30とが配設されている。また、トップジョー12には、可動ピン20が挿入可能なピン孔14が設けられている。ここで、可動ピン20は、スプリング21によって、軸方向外方(トップジョー12側)に付勢されている。可動ピン20は、シャフト30の回転によって、軸方向に移動可能なように、シャフト30に係合されており、シャフト30の回転動作により、ピン孔14への出し入れが可能となっている。これにより、凸部11A及び凹部12Aが互いに係合された状態で、可動ピン20がピン孔14に挿入されることにより、トップジョー12のマスタージョー11に対する位置決めが行われる。なお、可動ピン20とピン孔14とは、ピン隙間が設けられている。
【0022】
本実施形態におけるチャック機構1において、ワークを把握した状態では、マスタージョー11の凸部11A、及びトップジョー12の凹部12Aに形成された円錐面(11a、11b)、(12a、12b)のうち、把握側に形成された円錐面11a、12aの中心軸、及び、トップジョー12に形成された把握面13の中心軸は、全て、チャック本体10の回転軸Jと一致している。ここで、「把握側」とは、ワークを外径把握する場合、チャック本体10の回転軸J側をいい、ワークを内径把握する場合、チャック本体10の回転軸Jと反対側をいう。また、円錐面の中心軸は、該円錐面を構成する円錐体の中心軸をいい、把握面の中心軸は、該把握面を構成する円柱体の中心軸をいう。
【0023】
次に、
図4(a)~(c)を参照しながら、本実施形態におけるチャック機構1の作用効果を説明する。
【0024】
図4(a)は、ワークを把握する前のマスタージョー11とトップジョー12との位置関係を模式的に示した平面透視図である。ここで、マスタージョー11の把握側に形成された円錐面11aの中心軸Cと、トップジョー12の把握側に形成された円錐面12aの中心軸C’は、それぞれ、チャック本体10の回転軸J(
図2)とズレている。なお、トップジョー12に形成された把握面13の中心軸C’’は、トップジョー12に形成された円錐面12aの中心軸C’と一致するように形成されている。また、マスタージョー11の円錐面11a、11bと、トップジョー12の円錐面12a、12bとは、一定の係合隙間が設けられている。また、可動ピン20とピン孔14とは、一定のピン隙間が設けられている。なお、図に示した係合隙間、及びピン隙間は、説明を分かりやすくするために、誇張して描いたもので、実際の寸法を示すものではない。
【0025】
このような状態で、トップジョー12がワークを把握すると、
図4(b)に示すように、ワークからの反力によって、トップジョー12の凹部12Aに形成された円錐面12aは、マスタージョー11の凸部11Aに形成された円錐面11aに押し付けられる。この時、マスタージョー11の把握側に形成された円錐面11aの中心軸Cと、トップジョー12の把握側に形成された円錐面12aの中心軸C'は一致している。また、マスタージョー11の円錐面11aは、ワーク把握時に、その中心軸Cが、チャック本体10の回転軸Jと一致するように形成されている。従って、トップジョー12に形成された把握面13の中心軸C’’は、トップジョー12に形成された円錐面12aの中心軸C’と一致するように形成されているため、ワーク把握時に、把握面13の中心軸C’’は、チャック本体10の回転軸Jと一致している。
【0026】
しかしながら、従来の課題でも述べたように、ワークを把握する前の状態では、係合隙間やピン隙間があるので、ワーク把握時に、トップジョー12は、瞬間的に径方向に、または、円錐面に沿って周方向に移動する(トップジョーが暴れる)。このとき、径方向の係合隙間は、ワークからの反力によって、マスタージョー11の円錐面11aとトップジョー12の円錐面12aとが密着することにより解消されるが、ピン隙間による周方向の移動は解消されず、
図4(c)に示すように、トップジョー12が周方向に移動した状態でワークが把握される。しかしながら、このような場合でも、係合隙間は解消されているため、マスタージョー11及びトップジョー12に形成された円錐面11a、12aの中心軸C、C’が一致している状態は、
図4(b)の場合と変わらない。そのため、マスタージョー11に形成された円錐面11aの中心軸Cが、ワーク把握時に、チャック本体10の回転軸Jと一致するように形成されていることから、把握面13の中心軸C’’が、チャック本体10の回転軸Jと一致している状態は、
図4(b)の場合と変わらない。
【0027】
すなわち、ワーク把握時に、マスタージョー11の円錐面11a、トップジョー12の円錐面12a、及び把握面13の中心軸C、C’、C’’は、全て、チャック本体10の回転軸Jに一致しているため、トップジョー12に形成された把握面13の中心軸C’’が、チャック本体10の回転軸Jからズレることはない。その結果、たとえ、トップジョー12が周方向にズレた状態でワークを把握したとしても、ワークの位置決め精度が悪化することはない。
【0028】
本実施形態におけるチャック機構1によれば、マスタージョー11及びトップジョー12の把握側に形成された各円錐面11a、12aの中心軸C、C’、及びトップジョー12に形成された把握面13の中心軸C’’を、全て、チャック本体10の回転軸Jに一致させることによって、マスタージョー11の円錐面11a、11bと、トップジョー12の円錐面12a、12bとに、一定の係合隙間が設けられていても、また、可動ピン20とピン孔14とに、一定のピン隙間が設けられても、優れたワークの位置決め精度を得ることができる。
【0029】
(変形例1)
上記実施形態では、トップジョー12が、マスタージョー11に対して、径方向及び周方向にズレた状態で取り付けられた場合でも、トップジョー12がワークを把握する際のワークからの反力を利用して、トップジョー12の把握側の円錐面12aを、マスタージョー11の円錐面11aに密着させることで、把握面13の中心軸が、チャック本体10の回転軸からズレるのを防止した。
【0030】
本変形例1では、ワークを把握する前に、トップジョー12の把握側の円錐面12aを、マスタージョー11の円錐面11aに密着させる方法を開示する。
【0031】
図5は、本変形例1におけるマスタージョー11の構成を模式的に示した断面図である。なお、
図5では、
図2に示した可動ピン20やシャフト30は省略している。
【0032】
図5に示すように、マスタージョー11の凸部11A内には、スプリング50を介して、第1の押圧ピン40A、40Bが収容されている。ここで、第1の押圧ピン40A、40Bは、その先端部41A、41Bが、それぞれ、円錐面11a、11bから外方に突出するように、スプリング50によって付勢されている。
【0033】
図6は、本変形例1におけるトップジョー12の構成を模式的に示した斜視図である。
【0034】
図6に示すように、トップジョー12には、把握側の円錐面12aに、第1の押圧ピン40Aの先端部41Aが挿入可能な溝部16が設けられている。
【0035】
図7は、マスタージョー11の凸部11Aと、トップジョー12の凹部12Aとが、互いに係合された状態を示した平面透視図である。
【0036】
図7に示すように、マスタージョー11の把握側と反対側の円錐面11bから突出した第1の押圧ピン40Bの先端部41Bは、スプリング50によって、トップジョー12の円錐面12bを押圧する。一方、マスタージョー11の把握側の円錐面11aは、トップジョー12の円錐面12bからの反力によって、トップジョー12の円錐面12aに押し付けられる。このとき、マスタージョー11の把握側の円錐面11aから突出した第1の押圧ピン40Aの先端部41Aは、トップジョー12の溝部16に挿入されるため、マスタージョー11及びトップジョー12の円錐面11a、12aは、互いに密着する。なお、このとき、先端部41Aは、トップジョー12と接触していないため、スプリング50の付勢力を受けていない。
【0037】
このように、本変形例1では、ワークを把握する前に、トップジョー12の把握側の円錐面12aを、マスタージョー11の円錐面11aに密着させることができる。これにより、ワークを把握する際に、ワークからの反力を受けて、トップジョー12が瞬間的に移動する動作がないため、ワークの把握を、より安定して行うことができる。また、チャック本体10の前面に設置された複数のマスタージョー11に対して、全て、同じ取り付け位置でトップジョー12を取り付けることができるため、ワークの位置が安定し、高精度な把握をすることができる。
【0038】
(変形例2)
上記変形例1では、マスタージョー11の凸部11A内に、先端部41A、41Bが、円錐面11a、11bから外方に突出するように付勢された第1の押圧ピン40A、40Bを収容したが、トップジョー12の凹部12A内に、同様の押圧ピンを収容させてもよい。
【0039】
図8は、本変形例2におけるトップジョー12の構成を模式的に示した断面図である。
【0040】
図8に示すように、トップジョー12の凹部12Aには、把握側と反対側の円錐面12bから外方に、先端部60Aが突出するように付勢された第2の押圧ピン60が、溝19内に収容されている。ここで、第2の押圧ピン60としては、例えば、スプリングプランジャー等を用いることができる。
【0041】
本変形例2において、マスタージョー11の凸部11Aと、トップジョー12の凹部12Aとを、互いに係合した状態で取り付けたとき、トップジョー12の把握側と反対側の円錐面12bから突出した第2の押圧ピン60の先端部60Aは、マスタージョー11の円錐面11bを押圧する。このとき、マスタージョー11の把握側の円錐面11aは、第2の押圧ピン60からの押力によって、トップジョー12の円錐面12aに押し付けられる。これにより、マスタージョー11及びトップジョー12の円錐面11a、12aは、互いに密着する。その結果、ワークを把握する際に、ワークからの反力を受けて、トップジョー12が瞬間的に移動する動作がないため、ワークの把握をより安定して行うことができる。また、チャック本体10の前面に設置された複数のマスタージョー11に対して、全て、同じ取り付け位置でトップジョー12を取り付けることができるため、ワークの位置が安定し、高精度な把握をすることができる。さらに、第2の押圧ピン60は、把握側と反対側の凹部12Aにだけ設ければよいため、簡単な構造で実現できる。
【0042】
(変形例3)
上記実施形態におけるチャック機構では、トップジョー12がワークを把握すると、ワークからの反力によって、トップジョー12の円錐面12aが、マスタージョー11の円錐面11aに押し付けられる。そのため、マスタージョー11の円錐面11a、11bと、トップジョー12の円錐面12a、12bとに、一定の係合隙間が設けられていても、トップジョー12を、マスタージョー11に強固に係合させることができる。
【0043】
本変形例3では、ボルトを用いて、トップジョー12をマスタージョー11に固定する態様を開示する。
【0044】
図9は、本変形例3において、マスタージョー11の凸部11Aと、トップジョー12の凹部12Aとが、互いに係合されて、ボルト65によって固定された状態を示した断面図である。
【0045】
図9に示すように、ボルト65は、トップジョー12に形成されたザグリ穴66に挿入されて、トップジョー12をマスタージョー11に固定するが、ボルト65とザグリ穴66とは、一定の隙間が設けられている。従って、トップジョー12は、マスタージョー11に対して、径方向及び周方向にズレた状態で、マスタージョー11に固定される場合がある。このとき、トップジョー12に形成された把握面13の中心軸は、チャック本体10の回転軸からズレてしまう。
【0046】
本変形例3では、トップジョー12の把握側の円錐面12aを、マスタージョー11の円錐面11aに密着するように押し付けながら、ボルト65で、トップジョー12をマスタージョー11に固定する。これにより、ワーク把握時に、トップジョー12に形成された把握面13の中心軸を、チャック本体10の回転軸と一致させた状態となるように、トップジョー12をマスタージョー11に固定することができる。その結果、優れたワークの位置決め精度を得ることができる。
【0047】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。例えば、上記実施形態や変形例1、2では、ワークの外径把握を想定して、ワークを把握する把握面13を、トップジョー12の回転軸側部位に形成したが、ワークを内径把握する場合は、把握面13を、トップジョー12の回転軸と反対側部位に形成すればよい。この場合、ワーク把握時に、把握側のマスタージョー11及びトップジョー12の各円錐面11b、12bの中心軸、及び把握面13の中心軸を、全て、チャック本体10の回転軸と一致させることによって、同様の効果を得ることができる。また、トップジョー12に、外径把握用と内径把握用の一対の把握面13を形成しても構わない。
【0048】
また、上記実施形態では、マスタージョー11に設けた可動ピン20を、トップジョー12に設けたピン孔14に挿入することによって、トップジョー12の位置決めを行ったが、必ずしも、このような位置決め機構を設けなくてもよい。特に、上記変形例1、2では、押圧ピン40B、60の先端部を、トップジョー12またはマスタージョー11の円錐面に押圧することによって、トップジョー12の位置決めを行うことができるため、上記実施形態で開示したような位置決め機構を設けなくても構わない。
【0049】
また、上記変形例1、2では、マスタージョー11またはトップジョー12の円錐面を押圧する手段として、第1の押圧ピン40A、40Bや、第2の押圧ピン60を開示したが、これに限定されず、種々の押圧手段を採用することができる。例えば、変形例2では、第2の押圧ピン60として、スプリングプランジャーを例示したが、止めねじ等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 チャック機構
10 チャック本体
11 マスタージョー
11A 凸部
11a、11b 円錐面
12 トップジョー
12A 凹部
12a、12b 円錐面
13 把握面
14 ピン孔
16 溝部
20 可動ピン
40A、40B 第1の押圧ピン(押圧手段)
41A、41B 先端部
60 第2の押圧ピン(押圧手段)
60A 先端部