(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ、組成物、眼鏡レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 1/14 20150101AFI20220215BHJP
G02C 7/00 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
G02B1/14
G02C7/00
(21)【出願番号】P 2019527015
(86)(22)【出願日】2018-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2018024527
(87)【国際公開番号】W WO2019004337
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2017128644
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】坂井 幸一
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-514647(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086272(WO,A1)
【文献】特開2016-108347(JP,A)
【文献】特開2013-49839(JP,A)
【文献】特開2012-87183(JP,A)
【文献】特開2016-199694(JP,A)
【文献】特公平3-75584(JP,B2)
【文献】特開平8-73806(JP,A)
【文献】特許第3401303(JP,B2)
【文献】特表2001-512516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10- 1/18
G02C 1/00-13/00
G02B 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材と、
前記レンズ基材の物体側面および眼球側面の少なくとも一方の面上に配置された樹脂膜と、を有し、
前記樹脂膜が、ポリオールと、ポリイソシアネートと、エポキシ化合物とを含む組成物を用いて形成され、
前記ポリオールが、ポリアクリルポリオールを含み、
前記ポリオールの総水酸基モル数に対する、前記ポリアクリルポリオールの水酸基モル数の割合が50%以上である、眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートとの合計質量に対する、前記エポキシ化合物の含有量が、1質量%超20質量%以下である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記エポキシ化合物の分子量が500以下である、請求項1または2に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記エポキシ化合物中のエポキシ基の数が2~4である、請求項1~3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
前記ポリオールの総水酸基モル数に対する、前記ポリアクリルポリオールの水酸基モル数の割合が60%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項6】
ポリオールと、ポリイソシアネートと、エポキシ化合物とを含み、
前記ポリオールが、ポリアクリルポリオールを含み、
前記ポリオールの総水酸基モル数に対する、前記ポリアクリルポリオールの水酸基モル数の割合が50%以上である、組成物。
【請求項7】
前記ポリオールと前記ポリイソシアネートとの合計質量に対する、前記エポキシ化合物の含有量が、1質量%超20質量%以下である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記エポキシ化合物の分子量が500以下である、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
前記エポキシ化合物中のエポキシ基の数が2~4である、請求項6~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記ポリオールの総水酸基モル数に対する、前記ポリアクリルポリオールの水酸基モル数の割合が60%以上である、請求項6~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
レンズ基材の物体側面および眼球側面の少なくとも一方の面上に、請求項6~10のいずれか1項に記載の組成物を塗布し、塗膜を硬化することで樹脂膜を形成する工程を含む、眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡レンズ、組成物、および、眼鏡レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面の傷付きを防ぐ観点から、様々な分野において、自己修復性の樹脂膜を各種部材の表面に設ける場合がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示は、レンズ基材と、レンズ基材の物体側面および眼球側面の少なくとも一方の面上に配置された樹脂膜と、を有し、上記樹脂膜が、ポリオールと、ポリイソシアネートと、エポキシ化合物とを含む組成物を用いて形成され、上記ポリオールが、ポリアクリルポリオールを含み、上記ポリオールの総水酸基モル数に対する、上記ポリアクリルポリオールの水酸基モル数の割合が50%以上である、眼鏡レンズに関する。
また、本開示は、ポリオールと、ポリイソシアネートと、エポキシ化合物とを含み、上記ポリオールが、ポリアクリルポリオールを含み、上記ポリオールの総水酸基モル数に対する、上記ポリアクリルポリオールの水酸基モル数の割合が50%以上である、組成物にも関する。
また、本開示は、レンズ基材の物体側面および眼球側面の少なくとも一方の面上に、上記組成物を塗布し、塗膜を硬化することで樹脂膜を形成する工程を含む、眼鏡レンズの製造方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本実施形態の眼鏡レンズ、組成物、および、眼鏡レンズの製造方法について詳述する。
なお、本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0007】
眼鏡レンズを玉型加工する際には、インクを用いて眼鏡レンズ上に印点を打ち、玉型加工終了後に印点を拭き取ることが行われる。そのため、眼鏡レンズ上に配置される樹脂膜においては、自己修復性に優れるのみならず、さらに、優れた耐溶剤性も併せ持つことが望まれている。
【0008】
本実施形態の眼鏡レンズは、自己修復性および耐溶剤性に優れる樹脂膜を有する。
さらに、本実施形態の組成物によれば、上記特性を示す樹脂膜を製造できる。
【0009】
以下、まず、組成物について詳述し、その後、眼鏡レンズおよびその製造方法について詳述する。
組成物は、ポリオールと、ポリイソシアネートと、エポキシ化合物とを含む。以下、組成物に含まれる成分について詳述する。
【0010】
<ポリオール>
ポリオールは、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物である。
ポリオールとして、ポリアクリルポリオールが含まれる。
ポリアクリルポリオールとは、アクリル酸、メタアクリル酸およびそれらのエステルからなる群から選択されるモノマー由来の繰り返し単位(以後、これらを総称して「アクリル単位」ともいう。)を含む重合体であって、さらに水酸基を含む重合体である。
重合体に含まれる水酸基を有する繰り返し単位となり得るモノマーとしては、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタアクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルなどが挙げられる。
また、アクリル単位となり得るモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
また、上記重合体には、アクリル単位以外の他の繰り返し単位が含まれていてもよい。他の繰り返し単位となり得るモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリルアミド、メタアクリルアミド、酢酸ビニル、無水マレイン酸などが挙げられる。
【0011】
ポリアクリルポリオールの水酸基価は特に制限されないが、10~200mgKOH/gが好ましく、30~150mgKOH/gがより好ましい。
【0012】
ポリアクリルポリオールの粘度は特に制限されないが、1000~10000mPa・sが好ましく、1500~5000mPa・sがより好ましい。
上記粘度は、23℃での測定値である。
【0013】
ポリアクリルポリオールは、市販品を用いることができる。例えば、住化バイエルウレタン製のデスモフェンA870、DIC株式会社製のアクリディックAシリーズなどが挙げられる。
【0014】
ポリオールの総水酸基モル数に対する、ポリアクリルポリオールの水酸基モル数の割合は、50%以上である。言い換えれば、ポリオール中のポリアクリルポリオールの割合は、水酸基のモル量換算で、50%以上である。なかでも、樹脂膜の耐溶剤性がより優れる点で、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。上限は特に制限されず、100%としてもよい。
【0015】
ポリオールは、上記ポリアクリルポリオール以外の他のポリオールを含んでいてもよい。
他のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの低分子型の多価アルコール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリアルキレンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリウレタンポリオールなどの高分子型のポリオール、さらにこれらのポリオールを変性したポリカーボネート変性ポリオール、ポリエン変性ポリオール、カプロラクトン変性ポリオール、ビスフェノール変性ポリオールなどが挙げられる。
他のポリオールの分子量および水酸基の数は特に制限はないが、ポリアクリルポリオールの水酸基モル数の割合が上記範囲となるように、適宜最適な値が選択される。
他のポリオールの好適態様の一つとしては、ポリカーボネート変性ポリエステルポリオールが挙げられる。
【0016】
<ポリイソシアネート>
ポリイソシアネートは、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネートとポリオールとが反応することによりポリウレタンが製造される。
ポリイソシアネートの種類は特に制限されず、例えば、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネートイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの脂肪族または脂環族ポリイソシアネートが挙げられる。なかでも、無黄変タイプと呼ばれる脂肪族または脂環族ポリイソシアネートが好ましい。
ポリイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
なお、ポリイソシアネートとしては、イソシアネート基をブロック剤でマスク(封止)したブロックポリイソシアネートを使用するのが好ましい。
ブロック剤の種類は特に制限されず、例えば、ピラゾール誘導体、MEKオキシム、アミン類、活性メチレンなどが挙げられる。
【0017】
<エポキシ化合物>
エポキシ化合物は、エポキシ基を有する化合物である。エポキシ化合物は、主に、樹脂膜の耐溶剤性の向上に寄与する。
なお、エポキシ基とは、環骨格が2個の炭素原子と1個の酸素原子とで構成される以下の基を意味する。*は結合位置を表す。
【0018】
【0019】
エポキシ化合物の分子量は特に制限されず、1000以下としてもよく、樹脂膜の耐溶剤性がより優れる点から、500以下が好ましい。下限は特に制限されず、100以上としてもよい。
エポキシ化合物中のエポキシ基の数は特に制限されず、1個以上であればよく、樹脂膜の耐溶剤性がより優れる点から、2~4個が好ましい。
【0020】
エポキシ化合物の種類は特に制限されず、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリセリンテトラグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテルなどの脂肪族エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、オルトフタル酸ジグリシジルエーテル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテルなどの芳香族エポキシ化合物が挙げられる。
【0021】
<その他の成分>
組成物には、上記以外に、溶媒、イオン性化合物、界面活性剤、脱ブロック触媒、硬化触媒、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤、染料などの種々の添加剤が含まれていてもよい。
溶媒としては、有機溶媒が挙げられる。
有機溶媒の種類は特に制限されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノンなどのケトン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、酢酸メチル、酢酸ブチル、安息香酸ベンジル、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、カプロラクトンなどのエステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、テトラリンなどの炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン(N-メチル-2-ピロリドン)などのアミドまたは環状アミド系溶媒類、ジメチルスルホンなどのスルホン系溶媒、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒が挙げられる。
なお、有機溶媒中に、水が含まれていてもよい。
【0022】
イオン性化合物(イオン性液体)とは、常温付近でも液体状態で存在する「塩」である。イオン性化合物は、一般に、-30℃~+300℃の温度範囲でも液体状態を維持し、蒸気圧は極めて低い。また、イオン性化合物は、一般に不揮発性であり、粘度が低い。
イオン性化合物の陽イオンとしては、イミダゾリウム塩類、ピリジニウム塩類などのアンモニウム系イオン、ホスホニウム系イオン、Liイオンなどが挙げられる。また、陰イオンの例としては、トリフラート(SO3CF3
-)などのハロゲン系イオン、ヘキサフルオロホスフェート(PF6
-)などのリン系イオン、テトラフェニルボレートなどのホウ素系イオンなどが挙げられる。
【0023】
界面活性剤としては、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、ビニル系界面活性剤などが挙げられる。
【0024】
脱ブロック触媒(ブロックイソシアネート解離触媒)としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、亜鉛(II)ジアセテート、亜鉛(II)ジオクトエート、ジルコニウムアセチルアセトネートなどが挙げられる。
【0025】
<組成物>
組成物は、上述した各種成分を含む。
組成物の製造方法は特に制限されず、例えば、上述した成分を一括で混合してもよいし、分割して段階的に各成分を混合してもよい。
なお、各成分を混合する順序および混合条件は、特に制限されない。
例えば、ポリオールと、ポリイソシアネートと、エポキシ化合物と、他の必要な成分とを、一括で混合する方法が挙げられる。
【0026】
組成物中におけるポリアクリルポリオールの含有量は特に制限されないが、樹脂膜の耐溶剤性および自己修復性がより優れる点で、組成物中の全固形分(樹脂膜構成成分)に対して、1~40質量%が好ましく、15~35質量%がより好ましい。
なお、全固形分(プライマー層構成成分)とは、樹脂膜を構成する成分であり、上述したポリオール、ポリイソシアネートおよびエポキシ化合物などが該当し、溶媒は固形分に含まれない。
【0027】
組成物中におけるポリイソシアネートの含有量は特に制限されないが、樹脂膜の耐溶剤性および自己修復性がより優れる点で、組成物中の全固形分に対して、1~60質量%が好ましく、40~55質量%がより好ましい。
【0028】
組成物中におけるエポキシ化合物の含有量は特に制限されないが、樹脂膜の耐溶剤性および自己修復性がより優れる点で、組成物中の全固形分に対して、0.05~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
ポリオールとポリイソシアネートとの合計質量に対する、エポキシ化合物の含有量(質量割合)は特に制限されないが、樹脂膜の耐溶剤性がより優れる点で、1質量%超20質量%以下が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
【0029】
組成物中における溶媒の含有量は特に制限されないが、組成物の取り扱い性の点で、組成物全質量に対して、30~80質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましい。
【0030】
上記組成物は、レンズ基材上に樹脂膜を形成するための組成物である。
【0031】
<眼鏡レンズ>
図1は、眼鏡レンズの一実施形態の断面図である。
図1に示す眼鏡レンズ10は、レンズ基材12と、レンズ基材12の一方の表面上に配置された樹脂膜14とを含む。装用状態において、レンズ基材12の凸面が物体側面であり、凹面が眼球側面である。
なお、
図1においては、レンズ基材12の物体側の表面上にのみ樹脂膜14が配置されているが、この形態に制限されず、眼球側の表面上にのみ樹脂膜14が配置されていてもよいし、
図2に示す眼鏡レンズ100のように、レンズ基材12の両面上に樹脂膜14が配置されていてもよい。
以下、眼鏡レンズ10に含まれる各部材について詳述する。
【0032】
(レンズ基材)
レンズ基材は、樹脂膜が形成される部材である。
レンズ基材の種類は特に制限されず、例えば、プラスチックからなるレンズ基材、無機ガラスからなるレンズ基材が挙げられ、なかでも、軽量で割れにくく、染色が可能である等の点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。
プラスチックレンズ基材の材料は特に制限されないが、例えば、アクリル樹脂、チオウレタン樹脂、メタクリル樹脂、アリル樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエ-テルサルホン樹脂、ポリ4-メチルペンテン-1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)、ポリ塩化ビニル樹脂、ハロゲン含有共重合体、および、イオウ含有共重合体などが挙げられる。
【0033】
レンズ基材の厚さは特に制限されないが、軽量化の点で、例えばマイナスレンズの中心厚は、1~2mm程度としてもよい。
また、レンズ基材は透光性を有していれば透明でなくてもよく、着色されていてもよい。
さらに、レンズ基材12の形状は物体側の面を凸面とし、眼球側の面を凹面としたメニスカス形状が一般的であるが、これに限定されない。
【0034】
(樹脂膜)
樹脂膜は、レンズ基材上に配置される膜であり、自己修復性および耐溶剤性に優れる。
樹脂膜は、上述した組成物を用いて形成される膜である。つまり、樹脂膜には、ポリオールとポリイソシアネートとが反応して得られるポリウレタンが含まれる。
【0035】
樹脂膜の膜厚は、自己修復性がより優れる点で、5~30μmが好ましく、10~20μmがより好ましい。
上記膜厚の測定方法としては、樹脂膜の任意の5点の厚みを測定し、それらを算術平均して求める。
【0036】
上記樹脂膜を含む眼鏡レンズの製造方法は特に制限されないが、レンズ基材の物体側面および眼球側面の少なくとも一方の面上に、上記組成物を塗布し、塗膜を硬化することで樹脂膜を形成する工程を含むことが好ましい。
以下、上記工程の手順について詳述する。
【0037】
組成物とレンズ基材上に塗布する方法は特に制限されず、例えば、ディップコーティング法、スピンコーティング法などが挙げられる。なかでも、生産性の観点から、ディップコーティング法が好ましい。
なお、必要に応じて、組成物をレンズ基材上に塗布する前に、レンズ基材の表面に対して、各種前処理を施してもよい。前処理としては、例えば、有機溶媒による脱脂処理、塩基性水溶液または酸性水溶液による化学的処理、研磨剤を用いた研磨処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、火炎処理、UVオゾン処理などが挙げられる。
【0038】
レンズ基材上に組成物を塗布して塗膜を形成後、塗膜を硬化させる硬化処理を実施してもよい。硬化処理としては、塗膜を加熱する方法が挙げられる。なお、加熱時に、塗膜から溶媒を除去してもよい。加熱温度は特に制限されないが、加熱によるレンズ基材の変形および変色を防止する観点から、25~150℃が好ましく、50~140℃がより好ましい。加熱時間は特に制限されないが、1分間~3時間が好ましい。
【0039】
(他の層)
本実施形態の眼鏡レンズは、樹脂膜以外の他の層を有していてもよい。
例えば、眼鏡レンズは、樹脂膜上に反射防止層を有していてもよい。樹脂膜の表面に反射防止層を形成する方法としては、中空シリカを含む反射防止層形成用組成物を、樹脂膜上に接触させて塗膜を形成する方法や、フッ素化合物を含む反射防止層形成用組成物を、樹脂膜上に接触させて塗膜を形成する方法などが挙げられる。
また、撥水撥油性能を向上させる目的で、眼鏡レンズは、最表層に、撥水撥油層を有していてもよい。撥水撥油層は眼鏡レンズの表面エネルギーを低下させ、汚染防止の機能を眼鏡レンズに付与できる。または、撥水撥油層は眼鏡レンズの表面のすべり性能を向上させ、その結果として、眼鏡レンズの耐擦傷性を向上させる。
【実施例】
【0040】
以下、眼鏡レンズおよび組成物に関して実施例および比較例によりさらに詳しく説明するが、これらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0041】
<実施例1>
ポリアクリルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン A870BA、水酸基価:98mgKOH/g、粘度:3500mPa・s(23℃での測定)、固形分:70質量%)(10.9質量部)と、ポリアクリルポリオール以外のポリオールであるポリカーボネート変性ポリエステルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン C1100、水酸基価:112mgKOH/g、固形分:100質量%)(4.1質量部)と、ポリイソシアネート(住化バイエルウレタン株式会社製、ブロック化ヘキサメチレンジイソシアネート(ブロック剤はピラゾール誘導体)、デスモジュールBL3575/1、固形分:75質量%)(20.8質量部)と、エポキシ化合物(ナガセケムテックス株式会社製、2~3官能脂肪族エポキシ化合物、デナコールEX-313、分子量204、固形分:100質量%)(3.6質量部)と、酢酸ブチル(59.6質量部)とを混合した溶液に、界面活性剤(3M社製、FC-4432)(0.2質量部)と、脱ブロック触媒(東京化成工業株式会社製、ジブチル錫ジラウレート)(0.2質量部)と、イオン性化合物(広栄化学工業株式会社製、IL-M22)(0.5質量部)とを混合して組成物を調製した。
調製した組成物を、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR-39)基材(レンズ基材に該当)上に、ディッピング法で塗布して、塗膜を形成した。次いで、130℃で1時間加熱して塗膜を硬化させ、膜厚12μmの樹脂膜を形成し、眼鏡レンズを得た。
【0042】
<実施例2>
ポリアクリルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン A870BA、水酸基価:98mgKOH/g、粘度:3500mPa・s(23℃での測定)、固形分:70質量%)(10.9質量部)と、ポリアクリルポリオール以外のポリオールであるポリカーボネート変性ポリエステルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン C1100、水酸基価:112mgKOH/g、固形分:100質量%)(4.1質量部)と、ポリイソシアネート(住化バイエルウレタン株式会社製、ブロック化ヘキサメチレンジイソシアネート(ブロック剤はピラゾール誘導体)、デスモジュールBL3575/1、固形分:75質量%)(20.8質量部)と、エポキシ化合物(ナガセケムテックス株式会社製、2官能脂肪族エポキシ化合物、デナコールEX-830、分子量526、固形分:100質量%)(3.6質量部)と、酢酸ブチル(59.6質量部)とを混合した溶液に、界面活性剤(3M社製、FC-4432)(0.2質量部)と、脱ブロック触媒(東京化成工業株式会社製、ジブチル錫ジラウレート)(0.2質量部)と、イオン性化合物(広栄化学工業株式会社製、IL-M22)(0.5質量部)とを混合して組成物を調製した。
調製した組成物を、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR-39)基材(レンズ基材に該当)上に、ディッピング法で塗布して、塗膜を形成した。次いで、130℃で1時間加熱して塗膜を硬化させ、膜厚14μmの樹脂膜を形成し、眼鏡レンズを得た。
【0043】
<実施例3>
ポリアクリルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン A870BA、水酸基価:98mgKOH/g、粘度:3500mPa・s(23℃での測定)、固形分:70質量%)(10.9質量部)と、ポリアクリルポリオール以外のポリオールであるポリカーボネート変性ポリエステルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン C1100、水酸基価:112mgKOH/g、固形分:100質量%)(4.1質量部)と、ポリイソシアネート(住化バイエルウレタン株式会社製、ブロック化ヘキサメチレンジイソシアネート(ブロック剤はピラゾール誘導体)、デスモジュールBL3575/1、固形分:75質量%)(20.8質量部)と、エポキシ化合物(ナガセケムテックス株式会社製、単官能脂肪族エポキシ化合物、デナコールEX-121、分子量186、固形分:100質量%)(3.6質量部)と、酢酸ブチル(59.6質量部)とを混合した溶液に、界面活性剤(3M社製、FC-4432)(0.2質量部)と、脱ブロック触媒(東京化成工業株式会社製、ジブチル錫ジラウレート)(0.2質量部)と、イオン性化合物(広栄化学工業株式会社製、IL-M22)(0.5質量部)とを混合して組成物を調製した。
調製した組成物を、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR-39)基材(レンズ基材に該当)上に、ディッピング法で塗布して、塗膜を形成した。次いで、130℃で1時間加熱して塗膜を硬化させ、膜厚14μmの樹脂膜を形成し、眼鏡レンズを得た。
【0044】
<実施例4>
ポリアクリルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン A870BA、水酸基価:98mgKOH/g、粘度:3500mPa・s(23℃での測定)、固形分:70質量%)(10.9質量部)と、ポリアクリルポリオール以外のポリオールであるポリカーボネート変性ポリエステルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン C1100、水酸基価:112mgKOH/g、固形分:100質量%)(4.1質量部)と、ポリイソシアネート(住化バイエルウレタン株式会社製、ブロック化ヘキサメチレンジイソシアネート(ブロック剤はピラゾール誘導体)、デスモジュールBL3575/1、固形分:75質量%)(20.8質量部)と、エポキシ化合物(ナガセケムテックス株式会社製、2~3官能脂肪族エポキシ化合物、デナコールEX-313、分子量204、固形分:100質量%)(0.3質量部)と、酢酸ブチル(64.0質量部)とを混合した溶液に、界面活性剤(3M社製、FC-4432)(0.2質量部)と、脱ブロック触媒(東京化成工業株式会社製、ジブチル錫ジラウレート)(0.2質量部)と、イオン性化合物(広栄化学工業株式会社製、IL-M22)(0.5質量部)とを混合して組成物を調製した。
調製した組成物を、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR-39)基材(レンズ基材に該当)上に、ディッピング法で塗布して、塗膜を形成した。次いで、130℃で1時間加熱して塗膜を硬化させ、膜厚13μmの樹脂膜を形成し、眼鏡レンズを得た。
【0045】
<実施例5>
ポリアクリルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン A870BA、水酸基価:98mgKOH/g、粘度:3500mPa・s(23℃での測定)、固形分:70質量%)(8.0質量部)と、ポリアクリルポリオール以外のポリオールであるポリカーボネート変性ポリエステルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン C1100、水酸基価:112mgKOH/g、固形分:100質量%)(7.0質量部)と、ポリイソシアネート(住化バイエルウレタン株式会社製、ブロック化ヘキサメチレンジイソシアネート(ブロック剤はピラゾール誘導体)、デスモジュールBL3575/1、固形分:75質量%)(20.3質量部)と、エポキシ化合物(ナガセケムテックス株式会社製、2~3官能脂肪族エポキシ化合物、デナコールEX-313、分子量204、固形分:100質量%)(3.6質量部)と、酢酸ブチル(60.1質量部)とを混合した溶液に、界面活性剤(3M社製、FC-4432)(0.2質量部)と、脱ブロック触媒(東京化成工業株式会社製、ジブチル錫ジラウレート)(0.2質量部)と、イオン性化合物(広栄化学工業株式会社製、IL-M22)(0.5質量部)とを混合して組成物を調製した。
調製した組成物を、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR-39)基材(レンズ基材に該当)上に、ディッピング法で塗布して、塗膜を形成した。次いで、130℃で1時間加熱して塗膜を硬化させ、膜厚13μmの樹脂膜を形成し、眼鏡レンズを得た。
【0046】
<実施例6>
ポリアクリルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン A870BA、水酸基価:98mgKOH/g、粘度:3500mPa・s(23℃での測定)、固形分:70質量%)(15.0質量部)と、ポリイソシアネート(住化バイエルウレタン株式会社製、ブロック化ヘキサメチレンジイソシアネート(ブロック剤はピラゾール誘導体)、デスモジュールBL3575/1、固形分:75質量%)(21.6質量部)と、エポキシ化合物(ナガセケムテックス株式会社製、2~3官能脂肪族エポキシ化合物、デナコールEX-313、分子量204、固形分:100質量%)(3.6質量部)と、酢酸ブチル(58.8質量部)とを混合した溶液に、界面活性剤(3M社製、FC-4432)(0.2質量部)と、脱ブロック触媒(東京化成工業株式会社製、ジブチル錫ジラウレート)(0.2質量部)と、イオン性化合物(広栄化学工業株式会社製、IL-M22)(0.5質量部)とを混合して組成物を調製した。
調製した組成物を、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR-39)基材(レンズ基材に該当)上に、ディッピング法で塗布して、塗膜を形成した。次いで、130℃で1時間加熱して塗膜を硬化させ、膜厚11μmの樹脂膜を形成し、眼鏡レンズを得た。
【0047】
<比較例1>
ポリエステルポリオール(株式会社ダイセル製、プラクセル305、水酸基価:305mgKOH/g、固形分:100質量%)(11.3質量部)と、ポリイソシアネート(住化バイエルウレタン株式会社製、ブロック化ヘキサメチレンジイソシアネート(ブロック剤はピラゾール誘導体)、デスモジュールBL3575/1、固形分:75質量%)(24.7質量部)と、エポキシ化合物(ナガセケムテックス株式会社製、2~3官能脂肪族エポキシ化合物、デナコールEX-313、分子量204、固形分:100質量%)(3.6質量部)と、酢酸ブチル(59.5質量部)とを混合した溶液に、界面活性剤(3M社製、FC-4432)(0.2質量部)と、脱ブロック触媒(東京化成工業株式会社製、ジブチル錫ジラウレート)(0.2質量部)と、イオン性化合物(広栄化学工業株式会社製、IL-M22)(0.5質量部)とを混合して組成物を調製した。
調製した組成物を、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR-39)基材(レンズ基材に該当)上に、ディッピング法で塗布して、塗膜を形成した。次いで、130℃で1時間加熱して塗膜を硬化させ、膜厚11μmの樹脂膜を形成し、眼鏡レンズを得た。
【0048】
<比較例2>
ポリアクリルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン A870BA、水酸基価:98mgKOH/g、粘度:3500mPa・s(23℃での測定)、固形分:70質量%)(7.2質量部)と、ポリアクリルポリオール以外のポリオールであるポリカーボネート変性ポリエステルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン C1100、水酸基価:112mgKOH/g、固形分:100質量%)(7.8質量部)と、ポリイソシアネート(住化バイエルウレタン株式会社製、ブロック化ヘキサメチレンジイソシアネート(ブロック剤はピラゾール誘導体)、デスモジュールBL3575/1、固形分:75質量%)(20.1質量部)と、エポキシ化合物(ナガセケムテックス株式会社製、2~3官能脂肪族エポキシ化合物、デナコールEX-313、分子量204、固形分:100質量%)(3.5質量部)と、酢酸ブチル(60.5質量部)とを混合した溶液に、界面活性剤(3M社製、FC-4432)(0.2質量部)と、脱ブロック触媒(東京化成工業株式会社製、ジブチル錫ジラウレート)(0.2質量部)と、イオン性化合物(広栄化学工業株式会社製、IL-M22)(0.5質量部)とを混合して組成物を調製した。
調製した組成物を、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR-39)基材(レンズ基材に該当)上に、ディッピング法で塗布して、塗膜を形成した。次いで、130℃で1時間加熱して塗膜を硬化させ、膜厚12μmの樹脂膜を形成し、眼鏡レンズを得た。
【0049】
<比較例3>
ポリアクリルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン A870BA、水酸基価:98mgKOH/g、粘度:3500mPa・s(23℃での測定)、固形分:70質量%)(10.9質量部)と、ポリアクリルポリオール以外のポリオールであるポリカーボネート変性ポリエステルポリオール(住化バイエルウレタン株式会社製、デスモフェン C1100、水酸基価:112mgKOH/g、固形分:100質量%)(4.1質量部)と、ポリイソシアネート(住化バイエルウレタン株式会社製、ブロック化ヘキサメチレンジイソシアネート(ブロック剤はピラゾール誘導体)、デスモジュールBL3575/1、固形分:75質量%)(20.8質量部)と、酢酸ブチル(63.2質量部)とを混合した溶液に、界面活性剤(3M社製、FC-4432)(0.2質量部)と、脱ブロック触媒(東京化成工業株式会社製、ジブチル錫ジラウレート)(0.2質量部)と、イオン性化合物(広栄化学工業株式会社製、IL-M22)(0.5質量部)とを混合して組成物を調製した。
調製した組成物を、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR-39)基材(レンズ基材に該当)上に、ディッピング法で塗布して、塗膜を形成した。次いで、130℃で1時間加熱して塗膜を硬化させ、膜厚13μmの樹脂膜を形成し、眼鏡レンズを得た。
【0050】
上記で得られた実施例および比較例の眼鏡レンズを用いて、以下の評価を行った。
【0051】
(耐溶剤性評価)
実施例および比較例の眼鏡レンズの樹脂膜に、光学中心および光学中心に対して両側左右にレンズメーターにて印点インクを打ち、10分後に印点インクをキムワイプにて拭き取った。印点インクを拭き取った部分の樹脂膜の膨潤の程度を目視および顕微鏡で観察した。判定基準を以下に示す。
◎:3日以内に樹脂膜の膨潤が消える。
〇:3日より多く~1週間以内に樹脂膜の膨潤が消える。
×:1週間より多く経過して樹脂膜の膨潤が消える、または、樹脂膜の膨潤が消えない。
【0052】
(自己修復性評価)
真鍮ブラシ(アズワン株式会社製、スタンダード型4行B-3014)を用い、実施例および比較例の眼鏡レンズ中の樹脂膜に200gの荷重をかけながら60mm/secの速度で10回擦り、擦った直後のキズの存在を目視により確認したとき、20~25℃の環境下で、傷をつけてからで10秒以内に傷が回復しているものを「◎」、10秒より長く30秒以内に傷が回復しているものを「〇」、30秒より長く1分以内に傷が回復しているものを「△」、1分以内に傷が回復しないものを「×」、と評価した。
【0053】
表1中、「ポリアクリルポリオールの水酸基モル数の割合」欄は、ポリオールの総水酸基モル数に対する、ポリアクリルポリオールの水酸基モル数の割合(%)を表す。
「エポキシ化合物」欄の「官能基数」欄は、化合物中に含まれるエポキシ基の数を表す。なお、「官能基数」欄の「2~3」は、2官能性のエポキシ化合物と、3官能性のエポキシ化合物との混合物であることを表す。
「エポキシ化合物」欄の「エポキシ化合物/ポリオール+ポリイソシアネート」欄は、ポリオールとポリイソシアネートとの合計質量に対する、エポキシ化合物の含有量(質量%)を表す。
【0054】
【0055】
上記表1に示すように、実施例で示す眼鏡レンズは、所望の効果(耐溶剤性、自己修復性)を示した。
なかでも、実施例1と2との比較より、エポキシ化合物の分子量が500以下の場合、耐溶剤性がより優れていた。
また、実施例1と3との比較より、エポキシ化合物の官能数が2~4個である場合、耐溶剤性がより優れていた。
また、実施例1と4との比較より、ポリオールとポリイソシアネートとの合計質量に対する、エポキシ化合物の含有量が、1質量%超20質量%以下である場合、自己修復性がより優れていた。
また、実施例1、5および6の比較より、ポリオールの総水酸基モル数に対する、ポリアクリルポリオールの水酸基モル数の割合が60%以上である場合、耐溶剤性がより優れていた。
【符号の説明】
【0056】
10,100 眼鏡レンズ
12 レンズ基材
14 樹脂膜