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特許7023962溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材およびその製造方法
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  • 特許-溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/23 20060101AFI20220215BHJP
   B23K 9/02 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
B23K9/23 A
B23K9/02 S
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019534700
(86)(22)【出願日】2018-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 KR2018006856
(87)【国際公開番号】W WO2019245063
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2019-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベ,ギュ‐ヨル
(72)【発明者】
【氏名】イ,テ‐ヨン
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-253160(JP,A)
【文献】特開平07-024576(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221865(WO,A1)
【文献】特開2008-161899(JP,A)
【文献】国際公開第2011/037272(WO,A1)
【文献】特開2002-066774(JP,A)
【文献】特開2018-069292(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0077325(KR,A)
【文献】特開平06-285643(JP,A)
【文献】特開2010-142823(JP,A)
【文献】特開2012-081514(JP,A)
【文献】特開2009-233707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材および前記第1部材上に一部が重なるように積層された第2部材を重ねアーク溶接を通じて形成した溶接金属部を含み、前記溶接金属部のトー角(toe angle:θ)は45°以下であり、前記溶接金属部の溶込み深さは第2部材の厚さ対比20%以上であり、
前記第1部材および前記第2部材はZn-Mg-Al系合金メッキされた熱延鋼板であり、
前記熱延鋼板は590FB鋼であり、
前記溶接金属部に形成された気孔面積率は0.5%未満であり、
前記溶接金属部の疲労強度は250MPa以上であり、繰り返し疲労荷重10kN(最小/最大荷重比、R=0.1)で疲労寿命2,000,000cycles以上であることを特徴とする溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材。
【請求項2】
前記第1部材および前記第2部材は亜鉛メッキされた熱延鋼板であることを特徴とする請求項1に記載の溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材。
【請求項3】
前記熱延鋼板は引張強度590MPa以上および厚さ6mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材。
【請求項4】
第1部材および前記第1部材上に一部が重なるように積層された第2部材を重ねアーク溶接を通じて溶接金属部を形成する段階を含み、
前記第1部材および前記第2部材はZn-Mg-Al系合金メッキされた熱延鋼板であり、
前記アーク溶接時、ソリッドワイヤーに溶接電流を供給してアークを発生させて溶接するものであり、
前記溶接電流は200~300Aであり、第1ピークおよび前記第1ピークより小さい電流値を有する第2ピークの通電を1パルス周期として繰り返されるパルス電流であって、下記の式(1)で定義される溶接溶融金属撹はんウェイブ周波数を20~30Hzで繰り返して遂行し、
前記溶接金属部のトー角(toe angle、θ)は45°以下であり、
前記溶接金属部の溶込み深さは第2部材の厚さ対比20%以上であり、
前記ソリッドワイヤーを10~30%のCO ガスを含むArガスであるシールドガス中に送給し、
前記熱延鋼板は引張強度590MPa以上および厚さ6mm以下であることを特徴とする溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材の製造方法。
1/(T+T)---式(1)
ここで、Tは前記第1ピークの期間、Tは前記第2ピークの期間である。
【請求項5】
前記アーク溶接時、ソリッドワイヤーの直径:1.0~1.2mm、トーチ角:30~45°、プッシュ角:0~25°、溶接速度:0.6~1.0m/min.で遂行することを特徴とする請求項に記載の溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材の製造方法。
【請求項6】
前記第1部材および前記第2部材は亜鉛メッキされた熱延鋼板であることを特徴とする請求項に記載の溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメッキ鋼板溶接部材およびその製造方法に係り、より詳しくは溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車分野は地球温暖化問題などの環境の保護による燃費規制政策で車体および部品類の軽量化技術研究が大きなイシューとして浮上している。自動車の走行性能に重要なシャシー部品類もこのような動向につれて、軽量化のための高強度鋼材の適用が必要であるのが実情である。部品軽量化達成のためには、素材の高強度化が必須であり、繰り返し疲労荷重が加えられる環境に高強度鋼材で製作された部品の耐久性能の保証が重要な要素となる。
自動車シャシー部品の組立時に強度の確保のために主に利用されるアーク溶接は、溶接ワイヤーの溶着によって部品間に重ね継手溶接が行われる。このため、溶接継手部の幾何学的な形状の付与が避けられない。これは繰り返し疲労応力集中部(切り欠き効果)として作用して破断の起点となり、その結果、部品の耐久性能の低下を引き起こす。このため高強度鋼材の適用の利点が喪失する限界を有する。
【0003】
上記のとおり、溶接部の疲労特性向上のためには、主に応力集中部である溶接継手部の端部の角度、すなわちトー部の角度(toe angle)を低減することが重要であり、これと共にトー部の材質および応力を制御することが重要な要素である。
また、上記のとおり、部品類の高強度および軽量化の動向による素材の薄物化で貫通腐食防止のための防錆性に対する要求が増加し、メッキ鋼材の採用が増加している趨勢であるが、アーク溶接時にピットまたはブローホールのような気孔欠陥の発生に敏感であり、溶接部の強度および疲労特性を低下させる問題点がある。
【0004】
一方、既存の溶融亜鉛メッキ鋼板よりも耐食性がはるかに優秀なZn-Mg-Al系高耐食合金メッキ鋼の適用が提案されている。しかしながら、3元系合金メッキの融点および気化点が既存の亜鉛メッキと比べて低く、メッキ蒸気の発生がより起こり易いため、溶接部の気孔欠陥の発生を抑制する技術開発が必要である。
先行文献1では亜鉛メッキ鋼板のアーク溶接部の気孔欠陥発生の抑制のために、重ね継手部の隙間を0.2~1.5mm範囲に設定することを提案しているが、実際部品の適用時に隙間のない継手部構造に対する溶接特性を保証できない限界がある。
【0005】
また、先行文献2では亜鉛メッキ鋼板のアーク溶接部の気孔欠陥の発生の抑制のために、ArにCOとOを混合した3種混合ガスと、SiおよびMnなどの含量を制限した低粘性ソリッドワイヤーを適用することと、これと共にアーク位置を溶接重ね継手部の先端から1mm離隔することを提案している。しかしながら、保護ガスと溶接材料の制限が避けられず、実際部品の適用時にアーク位置を一定に維持しなければならないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-101593号公報
【文献】特開2015-167981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的とするところは、溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材を提供することにある。
また、他の目的とするところは、溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材は、第1部材および前記第1部材上に一部が重なるように積層された第2部材を重ねアーク溶接を通じて形成した溶接金属部を含み、前記溶接金属部のトー角(toe angle、θ)は45°以下であり、前記第1部材および前記第2部材はメッキ鋼板であることを特徴とする。
【0009】
本発明の前記メッキ鋼板は、Zn-Mg-Al系合金メッキまたは亜鉛メッキされた熱延鋼板であることが好ましい。
前記熱延鋼板は、引張強度590MPa以上および厚さ6mm以下であることがよい。
また、前記熱延鋼板は590FB鋼であることができる。
【0010】
また、本発明の、前記溶接金属部に形成された気孔面積率は、0.5%未満であることがよい。
また、前記溶接金属部の疲労強度は、250MPa以上であり、繰り返し疲労荷重10kN(最小/最大荷重比、R=0.1)で疲労寿命2,000,000cycles以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材の製造方法は、第1部材および前記第1部材上に一部が重なるように積層された第2部材を重ねアーク溶接を通じて溶接金属部を形成する段階を含み、前記第1部材および前記第2部材はメッキ鋼板であり、前記アーク溶接時、ソリッドワイヤーに溶接電流を供給してアークを発生させて溶接するものの、前記溶接電流は第1ピークおよび前記第1ピークより小さい電流値を有する第2ピークの通電を1パルス周期として繰り返されるパルス電流であって、下記の式(1)で定義される溶接溶融金属撹はんウェイブ周波数を20~30Hzで繰り返して遂行することを特徴とする。
1/(T+T)---式(1)
ここで、Tは前記第1ピークの期間、Tは前記第2ピークの期間である。
【0012】
本発明の一実施例によると、前記ソリッドワイヤーを10~30%のCOガスを含むArガスであるシールドガス中に送給することができる。
本発明の前記溶接電流は、200~300Aであることがよい。
本発明の前記アーク溶接時、ソリッドワイヤーの直径:1.0~1.2mm、トーチ角:30~45°、プッシュ角:0~25°、溶接速度:0.6~1.0m/min.で遂行することが好ましい。
【0013】
本発明の前記第1部材および前記第2部材は、Zn-Mg-Al系合金メッキまたは亜鉛メッキされた熱延鋼板であることができる。
本発明の前記熱延鋼板は、引張強度590MPa以上および厚さ6mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、本発明の溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材の製造時,溶接電流のウェイブ周波数の最適化を通じて溶接金属部の気孔欠陥を効果的に低減することができ、溶接金属部のトー角を制御して溶接トーへの疲労応力集中を低減することができる。したがって、自動車のシャシー部材などのような部品類の高強度、薄物化による防錆性などを確保するために高耐食メッキ鋼板を使うことができ、これにより、溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例に係る溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材の断面を撮影した写真。
図2】本発明の一実施例に係る溶接部の外観を撮影した写真。
図3】本発明の一実施例に係る溶接部の外観をX線撮影した写真。
図4】本発明の一実施例に係るメッキ鋼板溶接部材の引張破断試験結果を示す写真。
図5】本発明の一実施例に係るメッキ鋼板溶接部材の溶接金属部を説明するための模式図。
図6】本発明の一実施例に係るメッキ鋼板溶接部材のアーク溶接時の溶融金属撹はんウェイブ周波数を説明するためのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施例に係る溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材は、第1部材および第1部材上に一部が重なるように積層された第2部材を重ねアーク溶接を通じて形成した溶接金属部を含み、溶接金属部のトー角(toe angle、θ)は45°以下であり、第1部材および第2部材はメッキ鋼板である。
以下では本発明の実施例を添付図面を基にして詳細に説明する。以下の実施例は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明はここで提示した実施例のみに限定されず、他の形態で具体化されてもよい。図面は本発明を明確にするために説明と関係のない部分の図を省略し、理解を助けるために構成要素の大きさを多少誇張して表現することがある。
【0017】
図1は、本発明の一実施例に係る溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材の断面を撮影した写真である。図2は、本発明の一実施例に係る溶接部の外観を撮影した写真である。図3は、本発明の一実施例に係る溶接部の外観をX線撮影した写真である。図4は、本発明の一実施例に係るメッキ鋼板溶接部材の引張破断試験結果を示す写真である。図5は、本発明の一実施例に係るメッキ鋼板溶接部材の溶接金属部を説明するための模式図である。
図1図5を基にすると、本発明の一実施例に係る溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材は、第1部材および第1部材上に一部が重なるように積層された第2部材を重ねアーク溶接を通じて形成した溶接金属部を含む。
このときに、溶接金属部のトー角(toe angle、θ)は45°以下である。
【0018】
溶接部材の疲労特性を増大する方法は、残留応力を利用する方法とビーズの形状を制御する方法とに大別され得る。
本発明の場合、ビーズの形状の制御を通じて溶接部材の疲労特性を向上させることをその目的とし、このために溶接金属部のトー角(toe angle)を45°以下(0°除外)に、より好ましくは35°以下(0°除外)に、さらに好ましくは30°以下(0°除外)に制御することを一つの技術的特徴とする。
この時、トー角とは、溶接ラインに垂直な断面で第1部材および第2部材の境界線と溶接金属部が会う接点を溶接トー(weld toe)と定義する時、溶接トーを基準点として第1部材および第2部材の境界線と溶接金属部の溶接トーに最も隣接したビーズ曲率部の接線がなす角を意味する。
トー角を45°以下で形成することによって、溶接金属部に集中する応力を緩和することができ、これに伴い、溶接部材の疲労特性を向上させることができる。
【0019】
上記のとおり溶接金属部のトー角を制御することだけでも溶接部疲労特性を向上させることができるが、その効果をより最大化するためには、溶接金属部の溶込み深さを適切に制御することがより好ましく、本発明の一実施例によると、溶接金属部の溶込み深さを第2部材の厚さ対比20%以上に制御することがよい。より好ましくは、溶接金属部の溶込み深さを第2部材の厚さ対比45%以上に制御することが好ましい。もし、溶接金属部の溶込み深さが足りない場合、繰り返し疲労荷重によってビーズルートを起点として溶接金属部の破断が発生する恐れがある。
【0020】
また、第1部材および第2部材はメッキ鋼板である。
したがって、一般の熱延鋼板の代わりにメッキ鋼板を使うことによって、最近の部品類の高強度および軽量化の基調による素材の薄物化で貫通腐食防止のための防錆性を確保することができる。
例えば、メッキ鋼板はZn-Mg-Al系合金メッキまたは亜鉛メッキされた熱延鋼板であり得る。より好ましくは、メッキ鋼板は亜鉛メッキされた熱延鋼板よりも耐食性がより優秀なZn-Mg-Al系合金メッキされた熱延鋼板である。
例えば、熱延鋼板は引張強度590MPa以上および厚さ6mm以下であることができ、熱延鋼板は微細組織がフェライトおよびベイナイトを含む590FB鋼である。
例えば、溶接金属部に形成された気孔面積率は0.5%未満である。
【0021】
既存のアーク溶接方式によりメッキ鋼板溶接部材を溶接する場合、メッキ層が溶接アークと接触時にメッキ蒸気の発生によって、ピットまたはブローホールのような気孔欠陥が多量に発生して溶接部の強度および疲労特性を低下させる問題点がある。それだけでなく、既存の亜鉛メッキ鋼板と比べて耐食性がはるかに優秀なZn-Mg-Al系高耐食合金メッキ鋼板の場合、3元系合金メッキの融点および気化点がはるかに低いためメッキ蒸気の発生量がより多く、したがって気孔欠陥の発生率がさらに高くなる問題点がある。
【0022】
ただし、本発明の一実施例に係るアーク溶接を含む製造方法によると、このような問題を最小化するため、既存の亜鉛メッキ鋼板だけでなくZn-Mg-Al系高耐食合金メッキ鋼板を使う場合にも、溶接金属部に形成された気孔面積率は0.5%未満に、好ましくは0%に制限することがよい。
例えば、溶接金属部の疲労強度は250MPa以上であり、繰り返し疲労荷重10kN(最小/最大荷重比、R=0.1)で疲労寿命2,000,000cycles以上を確保することができるため、溶接部疲労特性が優秀であることが分かる。この時、疲労強度(または疲労限度、fatigue limit)とは、疲労寿命が2,000,000cycles以上となる最大疲労荷重値を部材の断面積で割った値と定義される。
【0023】
板溶接部材の製造方法によると、第1部材および第1部材上に一部が重なるように積層された第2部材を重ねアーク溶接を通じて溶接金属部を形成する段階を含む。
まず、第1部材および第2部材を準備した後、第1部材上に第2部材を少なくとも一部が重なるように積層して溶接ライン(welding line)を形成する。ここで、溶接ラインとは、第1部材と第2部材が重なっている領域のうち第2部材の終端部を意味する。
溶接継手部の重ね幅は約5~50mm程度の鋼板に適用できるが、これに限定されるものではない。
この時、形成された溶接ラインに沿ってシールドガスを提供しながらアーク溶接を行い、アーク溶接時、ソリッドワイヤーに溶接電流を供給してアークを発生させて溶接する。
【0024】
例えば、ソリッドワイヤーを10~30%のCOガスを含むArガスであるシールドガス中に送給することができる。より好ましくは、シールドガスは10~20%のCOガスを含むArガスである。
すなわち、シールドガスはArガスであって、10~30%のCOガスを含むことがよい。COガスを10%未満で含む場合、アークの拡大によるアーク熱ピンチ力効果が減少してメッキ蒸気の排出効果を落とすことになり、一方、COガスを30%超過で含む場合、アークの収縮によるアーク熱ピンチ力効果が過度となってメッキ蒸気の排出効果を落とすことになる。
【0025】
溶接の対象となる第1部材および第2部材は、メッキ鋼板であることが好ましい。例えば、亜鉛メッキ鋼板である場合、アーク溶接時のアーク熱によって沸点が低い亜鉛メッキ層が亜鉛ガスとなって溶融部の上部に浮上する。その大部分は放出されるが一部が溶融部に残留して凝固時に球状の空洞であるブローホールが形成され、亜鉛ガスが母材表面の付近で凝固時に小さなくぼみであるピットが形成される。例えば、シールドガスとして所定量のCOガスを含むArガスを利用することによって、ガスシールドアーク溶接時にソリッドワイヤーと母材との間に発生するアーク力を大きくして、ソリッドワイヤー直下の溶接部を大きく掘っていくことができる。これに伴い、溶融部の下部で発生する亜鉛ガスの放出を容易にすることができるため、ガスシールドアーク溶接時において、溶接金属部の溶込み深さをより増加させることができる。その結果、溶接部の疲労特性の改善および気孔欠陥の発生を抑制することができる。
【0026】
溶接材料としてソリッドワイヤーを使うことが好ましい。例えば、ER70S-3(KC-25M)Φ1.2 soild wireを適用できるが、これに限定されない。
例えば、溶接電流は第1ピークおよび第1ピークより小さい電流値を有する第2ピークの通電を1パルス周期として繰り返すパルス電流である。
【0027】
パルス電流は、下記の式(1)で定義される溶接溶融金属撹はんウェイブ周波数を20~30Hzで繰り返し供給して溶接を遂行する。
1/(T+T)---式(1)
ここで、Tは第1ピークの期間、Tは第2ピークの期間である。
【0028】
図6は、本発明の一実施例に係るメッキ鋼板溶接部材のアーク溶接時の溶融金属撹はんウェイブ周波数を説明するためのグラフである。
溶接溶融金属撹はんウェイブ周波数は、図6に示した通り、1/(T+T)で定義される。これによる周波数は20~30Hzの範囲で繰り返してパルス電流が供給される。この周波数範囲が過度に低いか高い場合、メッキ蒸気排出効果が減少して気孔欠陥の低減が難しくなるという問題点がある。
例えば、溶接電流は200~300Aの範囲である。
【0029】
さらに好ましくは、溶接電流の下限は225A以上であることがよく、上限は270A以下であることがよい。電流が過度に低い場合、アーク力の減少によってメッキ蒸気排出効果が落ち、その反対に電流が過度に高い場合、溶融溶接金属部が不安定となって気孔欠陥の発生率が増加する問題点がある。
例えば、アーク溶接時、ソリッドワイヤーの直径:1.0~1.2mm、トーチ角:30~45°、プッシュ角:0~25°、溶接速度:0.6~1.0m/min.で遂行する。
【0030】
本発明の実施例で、溶接継手部の隙間は0mmを適用したが、これに限定されない。
また、第1部材および第2部材はメッキ鋼板であり、メッキ鋼板はZn-Mg-Al系合金メッキまたは亜鉛メッキされた熱延鋼板であり、熱延鋼板は引張強度590MPa以上および厚さ6mm以下であることができる。第1部材および第2部材に関する詳細な説明は前述と同じであるため以下では省略する。
【0031】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。
実施例1~4および比較例1~6
鋼板の両面に90g/mのメッキ量でZn-Mg-Alメッキされた2.2mm厚さの590FB鋼板2個を、20mmが互いに重なるように配置した後、連結部を下記の表1の条件によりアーク溶接して溶接金属を形成して溶接部材を製造した。
【0032】
【表1】
溶接部材の溶接金属部を観察して、ピットの発生有無と気孔面積率を測定して下記の表2に示した。
【0033】
【表2】
図5は、本発明の一実施例に係るメッキ鋼板溶接部材の溶接金属部を説明するための模式図である。
図5を参照すると、溶接金属部の幅、すなわち溶接脚長(leg length)をL、第2部材の厚さをh1で示した。第2部材の表面エッジから第1部材上のトー部までの直線から第1、第2部材と溶接金属部の接点までの距離をd、溶接金属部の最も高い表面までの距離をrとして、それぞれ表示した。溶込み深さをpで表示し、トー角をθで示した。これに伴い、本発明の実施例の溶接金属部の大きさなどを観察した結果を下記の表3に示した。
【0034】
【表3】
【0035】
上記の内容を参照すると、本発明の一実施例に係る溶接部材の溶接金属部のトー角を45°以下に確保することができる。溶接金属部にピットおよび気孔が発生しないためメッキ鋼板の溶接部材においての耐気孔性が向上し、溶接金属部は250MPa以上の疲労強度を確保することができるため、自動車のシャシー部材などのような部品の薄物化および軽量化のための高強度メッキ熱延薄板鋼材の活用範囲を増加させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の実施例に係る溶接部耐気孔性および疲労特性が優秀なメッキ鋼板溶接部材およびその製造方法は、自動車のシャシー部材などのような部品類などに適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
d:第2部材の表面エッジから第1部材上のトー部までの直線から第1、第2部材と溶接金属部の接点までの距離
h1:第2部材の厚さ
L:溶接脚長(leg length)
p:溶込み深さ
r:溶接金属部の最も高い表面までの距離
θ:トー角
:前記第1ピークの期間
:前記第2ピークの期間
図1
図2
図3
図4
図5
図6