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特許7023968骨がんまたは血液がんの治療のための治療薬としてのホスファプラチン化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】骨がんまたは血液がんの治療のための治療薬としてのホスファプラチン化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/282 20060101AFI20220215BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220215BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220215BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220215BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220215BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
A61K31/282
A61P35/00
A61P35/04
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K45/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019537065
(86)(22)【出願日】2018-01-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 US2018012490
(87)【国際公開番号】W WO2018129257
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】62/443,416
(32)【優先日】2017-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518356187
【氏名又は名称】フォスプラティン・セラピューティクス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・プライス
(72)【発明者】
【氏名】テイラー・エイムズ
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-521257(JP,A)
【文献】特表2013-529219(JP,A)
【文献】特表2010-535803(JP,A)
【文献】特表2015-523335(JP,A)
【文献】特表2014-534189(JP,A)
【文献】特表2014-502634(JP,A)
【文献】国際公開第2009/008345(WO,A1)
【文献】橋本伸之,がんの種類による骨転移の発生頻度と時期の違い,がんナビ,2013年,https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/series/bone_meta/201308/531960.html
【文献】Inorganica Chimica Acta,2012年,Vol. 393,pp. 173-181
【文献】Biochemical Pharmacology,2015年,Vol. 98,pp. 69-77
【文献】Bose RN et al.,Absence of Activation of DNA Repair Genes and Excellent Efficacy of Phosphaplatins against Human Ovarian Cancers: Implications To Treat Resistant Cancers,J Med Chem,2015年,58巻21号,8387-8401
【文献】Yang L et al.,Insights into the anti-angiogenic properties of phosphaplatins,J Inorg Biochem,2016年,164巻,5-16
【文献】Zhang M etb al.,Bone metastasis from ovarian cancer. Clinical analysis of 26 cases.,Saudi Med J,34(12),2013年,1270-1273
【文献】Bose RN,Non-DNA-binding platinum anticancer agents: Cytotoxic activities of platinum-phosphato complexes towards human ovarian cancer cells,PNAS,2008年,105巻47号,18314-18319
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨がんまたは血液がんを有する対象を治療するための、治療有効量の式IもしくはIIの構造を有するホスファプラチン化合物、
【化1】
またはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物であって、式中、RおよびRは、それぞれ独立して、NH、置換または非置換脂肪族アミン、および置換または非置換芳香族アミンから選択され、Rは、置換または非置換脂肪族ジアミン、および置換または非置換芳香族ジアミンから選択される、医薬組成物
【請求項2】
およびRは、それぞれ独立して、NH、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、シクロヘキサンアミン、アニリン、ピリジン、および置換ピリジンから選択され、Rは、1,2-エチレンジアミンおよびシクロヘキサン-1,2-ジアミンから選択される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記ホスファプラチン化合物が、
【化2】
それらの薬学的に許容される塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項4】
前記ホスファプラチン化合物が、(R,R)-1,2-シクロヘキサンジアミン-(二水素ピロホスファト)白金(II)(もしくは「PT-112」)、またはその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項5】
骨がんまたは血液がんを有する対象を治療するための、治療有効量の式IIIもしくはIVの構造を有するホスファプラチン化合物、
【化3】
またはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物であって、式中、RおよびRは、それぞれ独立して、NH、置換または非置換脂肪族アミン、および置換または非置換芳香族アミンから選択され、Rは、置換または非置換脂肪族ジアミン、および置換または非置換芳香族ジアミンから選択される、医薬組成物
【請求項6】
およびRは、それぞれ独立して、NH、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、シクロヘキサンアミン、アニリン、ピリジン、および置換ピリジンから選択され、Rは、1,2-エチレンジアミンおよびシクロヘキサン-1,2-ジアミンから選択される、請求項に記載の医薬組成物
【請求項7】
単量体白金(IV)ピロリン酸錯体が、式(IV)を有し、式中、Rは1,2-エチレン-ジアミンまたはシクロヘキサン-1,2-ジアミンである、請求項に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記ホスファプラチン化合物が、
【化4】
それらの薬学的に許容される塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項5に記載の医薬組成物
【請求項9】
脈内または腹腔内注射される、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物
【請求項10】
ピロリン酸白金錯体の用量が、前記対象の体重に基づいて約1mg~約200mg/kgの範囲内である、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物
【請求項11】
前記骨がんまたは血液がんが、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング腫瘍、悪性線維性組織球腫(MFH)、線維肉腫、巨細胞腫、脊索腫、紡錘細胞肉腫、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、小児急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、有毛細胞白血病、若年性骨髄単球性白血病(JMML)、骨髄異形成症候群、骨髄線維症、骨髄増殖性新生物、真性赤血球増加症、および血小板血症からなる群から選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物
【請求項12】
前記骨がんまたは血液がんが、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング腫瘍、悪性線維性組織球腫(MFH)、線維肉腫、巨細胞腫、脊索腫、紡錘細胞肉腫、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病からなる群から選択される、請求項11に記載の医薬組成物
【請求項13】
2の抗がん剤併用される、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物
【請求項14】
前記第2の抗がん剤が、アルキル化剤、グルココルチコイド、免疫調節薬(IMiD)およびプロテアソーム阻害剤からなる群から選択される、請求項13に記載の医薬組成物
【請求項15】
骨がんまたは血液がんの治療のための薬剤の製造における、(R,R)-1,2-シクロヘキサンジアミン-(二水素ピロホスファト)白金(II)(もしくは「PT-112」)、またはその薬学的に許容される塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、35U.S.C.§119(e)の下で、2017年1月6日出願の米国仮出願第62/443,416号の利益を主張し、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、骨がんまたは血液がんの治療のための治療薬としてのホスファプラチン化合物の使用およびその方法に関する。
【背景技術】
【0003】
骨は、骨様の(硬い)組織、軟骨(頑丈かつ柔軟な)組織、および繊維状(糸状)の組織、ならびに骨髄の要素で構成されている。骨がんは、体内のあらゆる骨およびあらゆる種類の骨組織において発生する可能性がある。早期に発見された場合、骨がんは、腫瘍およびがん性細胞を除去するための外科手術によって治療でき、これは、腫瘍およびがん性細胞が広がっておらず、きれいに除去され得る場合に特に理想的である。多くの場合、治療は、幹細胞移植、化学療法、放射線療法などのような他の治療と外科手術の組み合わせを必要とする。骨がんの治療のための標的化学療法は、原則として、全身投与後に化学療法剤ががん性骨組織に蓄積することを要求する。骨がんの幅広い多様性に加えて、この要求は、骨がん治療の開発を困難な仕事にしている。
【0004】
血液学的がん(または血液がん)は、骨髄などの造血組織、または免疫系の細胞において発生するため、骨がんと密接な関連性がある。血液がんの例は、白血病、リンパ腫、および多発性骨髄腫である。特に、骨髄微小環境における悪性形質細胞のクローン増殖、血液または尿中のモノクローナルタンパク質、および関連する臓器機能不全を特徴とする新生物性形質細胞障害である多発性骨髄腫は、新生物性疾患の約1%、および血液がんの13%を占める。(Palumbo,A.and Anderson,K.;“Multiple Myeloma,”New.Engl.J.Med.,2011,364(11):1046-1060)。アルキル化剤、グルココルチコイド、免疫調節薬(IMiD)、およびプロテアソーム阻害剤を含む多発性骨髄腫の治療法が開発されているが(Chesi,M.,et al.,Blood,2012,120(2),376-385を参照のこと)、多発性骨髄腫は、今もなお致命的なB細胞悪性腫瘍とみなされている(US2013/0281377A1)。
【0005】
シスプラチン、カルボプラチン、およびオキサリプラチンなどの白金系抗新生物剤は、アルキル基を含まないが、それらのアルキル化抗新生物剤と同様の効果により、「アルキル化様」と記載されることがある(Cruet-Hennequart,S.,et al.DNA Repair (Amst.),2008,7(4):582-596)。それらは卵巣がん、精巣がん、小細胞肺がん、および結腸直腸がんなどの様々ながんを治療するために使用されてきた。
【0006】
両方ともR.Boseによる米国特許第7,700,649号および同第8,034,964号に開示されている新しいクラスの白金系抗腫瘍剤、すなわち「ホスファプラチン」錯体(これらはピロリン酸基を含有するため)は、DNAに共有結合することに頼ることなく抗がん剤として機能する。結果として、これらは、種々のシスプラチン耐性がんおよびカルボプラチン耐性がんの治療に有効であることが判明した。これらのホスファプラチン化合物は、これらの組成物中にピロリン酸部分を有し、このことは、これらの抗がん剤を、骨が起源であり、骨に存在し、または骨に転移するがんを標的とすることに対して選択的にすることができると推測される。
【0007】
そのような疾患の例には、骨に転移する傾向がある前立腺がんまたは他の固形腫瘍がん、および骨が起源である多発性骨髄腫または他の血液悪性腫瘍が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】US2013/0281377A1
【文献】米国特許第7,700,649号
【文献】米国特許第8,034,964号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Palumbo,A.and Anderson,K.;“Multiple Myeloma,”New.Engl.J.Med.,2011,364(11):1046-1060
【文献】Chesi,M.,et al.,Blood,2012,120(2),376-385
【文献】Cruet-Hennequart,S.,et al.DNA Repair (Amst.),2008,7(4):582-596
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願は、これらのピロホスファト-白金錯体が、処置マウスの骨組織に蓄積でき、確立された多発性骨髄腫マウスモデルにおけるMスパイクレベルを効果的に減少させることができるという驚くべき発見に基づいて、ホスファプラチン化合物を使用して、骨がんもしくは血液がん、または骨に転移するがんを治療する方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この方法は、治療有効量の式I~IVのいずれか1つに記載の化合物、またはその薬学的に許容される塩、またはその組成物を、骨がんまたは血液がんを有する対象に投与することを含むか、またはこのことから本質的になり、
【0012】
【化1】
【0013】
式中、RおよびRは、それぞれ独立して、NH、置換または非置換脂肪族アミン、および置換または非置換芳香族アミンから選択され、Rは、置換または非置換脂肪族ジアミン、および置換または非置換芳香族ジアミンから選択される。
【0014】
一部の好ましい実施形態において、ホスファプラチン化合物は、以下からなる群から選択される式の構造を有する1,2-シクロヘキサンジアミン-(二水素ピロホスファト)白金(II)(「ピロダック(pyrodach)-2」)であり、
【0015】
【化2】
【0016】
これらはそれぞれ、トランス-(R,R)-1,2-シクロヘキサンジアミン(ピロホスファト)白金(II)(「(R,R)-ピロダック-2」)、トランス-(S,S)-1,2-シクロヘキサンジアミン(ピロホスファト)白金(II)(「(S,S)-ピロダック-2」)、およびシス-1,2-シクロヘキサンジアミン(ピロホスファト)白金(II)(「シス-ピロダック-2」)である。
【0017】
別の態様において、本発明は、骨がんもしくは血液がんまたは骨に転移するがんの治療のための薬剤の製造における、本明細書に開示されるいずれかのホスファプラチン化合物またはその薬学的に許容される塩の使用を含む。
【0018】
本発明の他の態様および利点は、以下の図面、説明、および特許請求の範囲を考慮してより良好に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(R,R)-ピロダック-2で処置したトランスジェニックVk*MycマウスにおけるMスパイクレベルの変化を例解する。
図2A】(R,R)-ピロダック-2で処置したマウスにおける生存レベルの変化を例解する。
図2B】(R,R)-ピロダック-2で処置したマウスにおけるM-スパイクレベルの変化を例解する。
図3】24時間後に(R,R)-ピロダック-2で処置したマウスのスクリーニング領域(白いバー)のICP-MSイメージングを例解する。
図4】T24時間の処置マウスにおける肝臓中の白金の検出を例解する(生データ)。
図5】マウス中の白金の検出のためのICP-MSイメージングのための処置マウスの3つのセクションプランを例解する。
図6】検量標準を肝臓対照組織切片にスポットすることによるPtの良好な直線性を例解する。
図7】T45分セクションプラン1における、処置マウスにおける白金のLA-ICP-MS分析に基づく定量化イメージングマップを示す。
図8】T45分セクションプラン2における、処置マウスにおける白金のLA-ICP-MS分析に基づく定量化イメージングマップを示す。
図9】T45分セクションプラン3における、処置マウスにおける白金のLA-ICP-MS分析に基づく定量化イメージングマップを示す。
図10】T24時間セクションプラン1における処置マウスにおける白金のLA-ICP-MS分析に基づく定量化イメージングマップを示す。
図11】骨含有小区画におけるT45分の処置マウスにおける白金のLA-ICP-MS分析に基づく定量化イメージングマップを示す。
図12】mCRPC患者におけるPSAの(R,R)-ピロダック-2誘発性減少を示す。
図13】mCRPC患者における血清アルカリホスファターゼの(R,R)-ピロダック-2誘導性減少を示す。
図14】転移性基底細胞がん患者の転移性骨疾患部位におけるSUVシグナルの(R,R)-ピロダック-2誘発性減少を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、マウスに投与されたホスファプラチン錯体が、とりわけマウスの骨組織に蓄積することができ、および、この錯体は、定評のあるマウスモデルに示されるように、多発性骨髄腫のような骨がん/血液がんを効果的に治療するため、および骨組織に転移するがんを治療するために使用することができるという驚くべき発見に基づいている。
【0021】
一態様において、本発明は、治療有効量の式IもしくはIIの構造を有するホスファプラチン化合物、またはその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含む、対象の骨がんまたは血液がんを治療する方法を提供し
【0022】
【化3】
【0023】
式中、RおよびRは、それぞれ独立して、NH、置換または非置換脂肪族アミン、および置換または非置換芳香族アミンから選択され、Rは、置換または非置換脂肪族ジアミン、および置換または非置換芳香族ジアミンから選択される。
【0024】
骨がんまたは血液がんは、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング腫瘍、悪性線維性組織球腫(MFH)、線維肉腫(線維芽細胞性肉腫)、巨細胞腫、脊索腫、紡錘細胞肉腫、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病、小児急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、有毛細胞白血病、若年性骨髄単球性白血病(JMML)、骨髄異形成症候群、骨髄線維症、骨髄増殖性新生物、真性赤血球増加症、および血小板血症などから選択することができる。
【0025】
一部の実施形態において、骨がんまたは血液がんは、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング腫瘍、悪性線維性組織球腫(MFH)、線維肉腫、巨細胞腫、脊索腫、紡錘細胞肉腫、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、白血病などから選択される。好ましい一実施形態において、骨がんまたは血液がんは多発性骨髄腫である。
【0026】
この態様の1つの実施形態において、RおよびRはそれぞれ独立して、NH、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、シクロヘキサンアミン、アニリン、ピリジン、および置換ピリジンから選択され、Rは、1,2-エチレンジアミンおよびシクロヘキサン-1,2-ジアミンから選択される。
【0027】
この態様の別の実施形態において、ホスファプラチン化合物は、
【0028】
【化4】
【0029】
それらの薬学的に許容される塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0030】
好ましい実施形態において、ホスファプラチン化合物は、式:を有するR,R-ピロダック-2である。
【0031】
【化5】
【0032】
一態様において、本発明は、骨がんまたは血液がんを有する対象を治療する方法を提供し、本方法は、治療有効量の式IIIもしくはIVの構造を有するホスファプラチン化合物、またはその薬学的に許容される塩を対象に投与することを含み、
【0033】
【化6】
【0034】
式中、RおよびRは、それぞれ独立して、NH、置換または非置換脂肪族アミン、および置換または非置換芳香族アミンから選択され、Rは、置換または非置換脂肪族ジアミン、および置換または非置換芳香族ジアミンから選択される。
【0035】
この態様の1つの実施形態において、RおよびRは、それぞれ独立して、NH、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、シクロヘキサンアミン、アニリン、ピリジン、および置換ピリジンから選択され、Rは、1,2-エチレンジアミンおよびシクロヘキサン1,2-ジアミンから選択される。
【0036】
この態様の別の実施形態において、ホスファプラチン化合物は、式(IV)を有し、式中、Rは1,2-エチレンジアミンまたはシクロヘキサン-1,2-ジアミンである。
【0037】
この態様の別の実施形態において、ホスファプラチン化合物は、
【0038】
【化7】
【0039】
それらの薬学的に許容される塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0040】
一部の実施形態において、投与は静脈内注射または腹腔内注射を含む。
【0041】
一部の実施形態において、投与は静脈内注射を含む。
【0042】
一部の実施形態において、投与は腹腔内注射を含む。
【0043】
一部の実施形態において、ピロリン酸白金錯体の用量は、約1mg~約200mg/Kgの範囲内である。
【0044】
一部の実施形態において、この方法は、対象に第2の抗がん剤を投与することと併せて使用される。
【0045】
一部の実施形態において、第2の抗がん剤は、アルキル化剤、グルココルチコイド、免疫調節薬(IMiD)およびプロテアソーム阻害剤からなる群から選択される。
【0046】
別の態様において、本発明は、骨がんもしくは血液がんまたは骨に転移するがんの治療のための薬剤の製造における、本明細書に開示のホスファプラチン化合物またはその薬学的に許容される塩のいずれかの使用を含む。一部の実施形態において、ホスファプラチン化合物は、(R,R)-ピロダック-2、(S,S)-ピロダック-2、およびシス-ピロダック-2からなる群から選択される。一部の実施形態において、ホスファプラチン化合物は、(R,R)-ピロダック-4、(S,S)-ピロダック-4、およびシス-ピロダック-4からなる群から選択される。好ましい実施形態において、ホスファプラチン化合物は(R,R)-ピロダック-2(または「PT-112」)である。
【0047】
本明細書において本発明の説明に使用される用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される場合、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、単数形「a」、「an」、および「the」は複数形も同様に含むことを意図し、逆もまた同様である。
【0048】
本明細書で使用される「約」という用語は、指示値の最大±10%を意味することを意図している。本明細書または特許請求の範囲において言及される任意の範囲は、その範囲自体およびその中に含まれる任意のもの(両方の端点を含む)を含むと理解されるべきである。
【0049】
本明細書で使用される「対象」または「患者」という用語は、一般的に、ヒトを含む哺乳動物、および犬、猫、馬などの動物を指す。
【0050】
「組成物」、「医薬組成物」、または「薬学的に許容される組成物」という用語は、ホスファプラチン化合物と、担体、希釈剤、アジュバント、およびビヒクルから選択される少なくとも1つの薬学的に許容される成分とを含む組成物を意味し、これらは、当該分野において既知であるように、一般的に、ホスファプラチン錯体と反応しない、不活性、非毒性、固体または液体の充填剤、希釈剤、またはカプセル化材料を指す。
【0051】
ホスファプラチン化合物、その薬学的塩、またはその錯体は、様々な方法で、例えば、経口投与、皮下投与、または、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、扁桃内投与、および鼻腔内投与、ならびに髄腔内および注入技術を含む非経口投与で投与することができる。様々なビヒクル、アジュバント、添加剤、および希釈剤などの任意の適合する担体を含有するホスファプラチンを含む薬理学的製剤は、注射製剤で患者に投与することができる。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2017/176880を参照されたい。非経口投与する場合、それらは一般的に単位投与量注射可能形態(例えば、溶液、懸濁液、エマルジョン)にて処方される。注射に適した医薬製剤には、滅菌水溶液または分散液、および滅菌注射用溶液または分散液に再構成するための滅菌粉末が挙げられる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、および植物油を含有する溶媒または分散媒であり得る。滅菌注射用溶液は、必要に応じて、ホスファプラチン錯体を必要量の適切な溶媒中に1種以上の他の成分と共に組み込むことによって調製することができる。
【0052】
本開示は、いずれかの骨がんまたは血液がんを有する対象に治療上の利益をもたらし得る任意の用量のホスファプラチン化合物を網羅することを意図しているが、対象の体重に基づいて1~200mg/Kgの範囲が一般的に好ましいことが開示される。
【0053】
本発明を使用して治療することができる骨がんまたは血液がんとしては、非限定的に、骨自体から発生する様々な肉腫などの原発性骨がん、他の種類のがんに由来する二次(または転移性)骨がん、良性(非がん性)骨腫瘍、および、「血液がん」とも呼ばれる、骨髄の造血細胞において発生するがんが挙げられる。骨肉腫(骨形成性肉腫とも呼ばれる)は最も一般的な原発性骨がんである。このがんは骨細胞において発生し、腕、脚、または骨盤の骨に最も頻繁に発生する。軟骨肉腫は軟骨細胞のがんで、これは、軟骨があるところならどこにでも発生する可能性があり、最も頻繁には、骨盤、脚の骨、または腕の骨などの骨、時に気管、喉頭、および胸壁などにおいて発生する。他の部位は肩甲骨(scapula)(肩甲骨(shoulder blade))、肋骨、または頭蓋骨である。軟骨肉腫は、顕微鏡下で独特な特徴を有する様々な種類がある。例えば、脱分化した軟骨肉腫は典型的な軟骨肉腫として発生するが、その後、腫瘍の一部が高悪性度肉腫の細胞(高悪性度の線維性組織球腫、骨肉腫、または線維肉腫など)のような細胞に変化する。明細胞軟骨肉腫はまれであり、ゆっくりと成長し、元の場所にすでに数回戻っていない限り、体の他の部分に拡がることはめったにない。間葉性軟骨肉腫は、急速に増殖する可能性があるが、ユーイング腫瘍のように、放射線療法および化学療法に敏感である。
【0054】
ユーイング腫瘍(ユーイング肉腫とも呼ばれる)は、特に小児、青年、および若年成人にみられる別の一般的な原発性骨がんである。ほとんどのユーイング腫瘍は骨において発生するが、これらは他の組織および臓器において発生する可能性がある。このがんの最も一般的な部位は、骨盤、胸壁(肋骨または肩甲骨など)、および脚または腕の長い骨である。
【0055】
悪性線維性組織球腫(MFH)は、多形性未分化肉腫としても知られている軟部組織(靭帯、腱、脂肪、筋肉などの結合組織)においてしばしば発生する。MFHが骨で発生すると、それは通常脚(しばしば膝の周り)または腕に影響を与える。それは大部分が局所的に成長する傾向があるが、肺などの離れた場所にも広がる可能性がある。
【0056】
線維肉腫は、骨よりも軟部組織で発生する頻度が高い別の種類のがんであり、脚、腕、および顎の骨にしばしば影響を及ぼす。
【0057】
骨巨細胞腫は、良性および悪性の形態、より多くの場合、良性である原発性骨腫瘍の一種である。巨細胞腫は、典型的には、若年および中年の成人の脚または腕の骨に影響を及ぼし、遠くの部位に広がることは頻繁にはないが、手術後に、発生した部位で再発する傾向がある。
【0058】
脊索腫は、通常、頭蓋骨の基部および脊椎の骨に発生する骨の原発腫瘍であり、体の他の部分に広がることはあまりないが、それらが完全に除去されないと同じ領域に再発することはしばしばある。リンパ節、肺、および肝臓は、二次性腫瘍の蔓延の最も一般的な領域である。
【0059】
紡錘細胞肉腫は、骨肉腫と非常によく似ているが、骨様物質と呼ばれる骨質を生成しない。未分化骨肉腫、悪性線維性組織球腫、線維肉腫、および平滑筋肉腫を含む紡錘細胞肉腫にはいくつかの種類がある。
【0060】
「骨がん」と呼ばれることがある他の種類のがんは、骨自体ではなく骨髄の造血細胞において発生する。骨髄に発生し、骨腫瘍を引き起こす最も一般的ながんは、多発性骨髄腫と呼ばれる。骨髄内で発生する別のがんは白血病であるが、これは、一般的には、骨がんではなく血液がんとみなされている。リンパ節に発生することが多いリンパ腫は、時に骨髄内に発生することもあり得る。非ホジキンリンパ腫は、一般的には、リンパ節において発生するが、時に骨において発生することもある。ホジキンリンパ腫は、リンパ球と呼ばれる細胞からリンパ系に発生し、リード-シュテルンベルク細胞(またはBリンパ球)と呼ばれる異常リンパ球の存在によって特徴付けられる。
【0061】
軟骨の良性(非がん性)腫瘍は、悪性のものよりも一般的である。これらは内軟骨腫と呼ばれる。軟骨を有する別の種類の良性腫瘍は、骨軟骨腫と呼ばれる軟骨で覆われた骨の突起である。これらの良性腫瘍は、がんに変わることはめったにない。これらの腫瘍の多くを持っている人々においては、がんが発生する可能性がわずかに高いが、これはまだ一般的ではない。良性腫瘍は他の組織および臓器に広がることはないので、通常、生命を脅かすことはない。これらは、一般的に、外科手術によって治癒する。良性骨腫瘍の種類には、類骨骨腫、骨芽細胞腫、骨軟骨腫、内軟骨腫、および軟骨粘液線維腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
本明細書に開示される治療方法は、他のまれな血液系のがんまたは障害、例えば、小児急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、有毛細胞白血病、若年性骨髄単球性白血病(JMML)、骨髄異形成症候群、骨髄線維症、骨髄増殖性新生物、真性赤血球増加症、および血小板血症のためにも使用できる。
【0063】
本明細書における「骨がん」への言及はまた、乳がん、前立腺がん、および肺がんなどの、どこか他の場所から骨に広がる固形腫瘍がんの転移性病変も含み、これらの集団においては、これらの転移の割合が非常に高い(転移性集団中、それぞれ70%、90%および40%と推定される)。これらの種類のがんの細胞は、たとえそれらが骨の中の病変であっても、骨がん細胞のようには見えないかまたはそのように作用しない。これらのがん細胞は、まだ原発性がん細胞のように作用するので、これらは、なお、通常、原発性がんのために使用されている薬物を用いて治療される必要がある。本明細書に開示されているホスファプラチン錯体は、以前に開示されているように(例えば、米国特許第7,700,649号および同第8,034,964号、ならびにUS2013/0064902A1を参照のこと)、様々な種類のがんに対する有効な治療薬であることが証明されているので、これらの錯体が、これらの他のすべてのがんの治療のために使用されるとき、転移性の骨がんを治療または予防するために使用することができる。したがって、本明細書で使用される「骨に転移するがん」という成句は、骨構造に転移するかまたは広がっている、乳がん、前立腺がん、および肺がんを含むがこれらに限定されない、任意の種類のがんを指す。
【0064】
一部の実施形態において、本発明の方法は、他の療法、例えば幹細胞移植、他の抗がん剤と併用する化学療法、および/または放射線療法と組み合わせて好ましくは使用されてもよい。
【0065】
以下の非限定的な実施例は、本発明の特定の態様をさらに例解する。
【実施例
【0066】
実施例1
多発性骨髄腫細胞系統に対するR,R-ピロダック-2のアッセイ
化合物トランス-(R,R)-1,2-シクロヘキサンジアミン-(二水素ピロホスファト)白金(II)(「R,R-ピロダック-2」)を、2つの多発性骨髄腫細胞系統RPMI8226およびMM1Rに対して試験した。細胞系統RPMI8226およびMM1Rに対するR,R-ピロダック-2のIC50値は、それぞれ、2.90μMおよび2.78μMであることが見出され、これらは、この化合物の効力および活性を実証する。
【0067】
実施例2
多発性骨髄腫マウスモデルに対するR,R-ピロダック-2のテスト
背景
トランスピロダック-2化合物を、多発性骨髄腫マウスモデル、特に、未治療および再発MMにおける薬物の臨床活性を予測する忠実な前臨床モデルであることが報告されているVk*MYCマウスに対して試験する(Chesi,M.,et al.,Cancer Cell,2008,23,167-180;Chesi,M.,et al.,Blood,2012,120(2):376-385)。さらに、トランス-ピロダック-2化合物を、より攻撃的なボルテゾミブ耐性Vk12598系統、および多剤耐性Vk12653系統(これらは両方ともVk*MYCマウスから生成した)を移植したマウスにおいて試験した。
【0068】
材料および方法
デノボVk*MYCマウスを、1年以上エージングさせ、Mスパイクレベルをモニターした。優勢なMスパイクの濃度が約10~70g/L(デンシトメトリーにより推定、Mスパイクをアルブミンに対して比較)の間のレベルに達した後、マウスは薬物治療を開始するための候補であった。本研究に持ち込まれたマウスに、それぞれ100または67mg/kgの濃度の(R,R)-ピロダック-2を、リン酸緩衝液中での調製後に、IP注射を介して、週に2回(n=2)または週に3回(n=1)のいずれかで投与した。Mスパイクレベルを毎週測定し、処置後の測定値を処置前のベースライン測定値に対して、比較および正規化した。2週間の処置後に投与を中止した。
【0069】
さらに、マウスにVk12598移植可能系統を移植し、ビヒクル(n=11)または62.5mg/kgの濃度の(R,R)-ピロダック-2(n=12)を受容させた。Vk12653移植可能系統を移植したマウスを、同様に、ビヒクル(n=10)または62.5mg/kgの(R,R)-ピロダック-2(n=10)で処置した。Vk12598移植マウスとVk12653移植マウスの両方を、IP注射を介して2週間にわたって週に2回処置し、そしてそれぞれ、生存およびMスパイクレベルを介してモニターした。
【0070】
結果
デノボVk*MYCマウスからの結果を図1に示し、これは、2週間の時点で(R,R)-ピロダック-2を用いる処置がMスパイクの>50%減少をもたらしたことを例解し、このモデルにおいて試験された薬剤についてのヒトMM患者における頑健な活性を示す統計的に相関した活性閾値に合格している。この時点で処置は中止され、Mスパイクレベルは1~2週間低下し続け(図1の「PT-112最良応答」を参照)、処置中止の11日後にベースラインの19%で最低のMスパイクを観察した。これらの結果は、承認されたMM SoC剤を用いた処置によって生じた結果と同等かまたは優れていた。
【0071】
図2は、Vk12598移植マウス(A)およびVk12653移植マウス(B)からの結果を示す。Vk12598移植マウスの場合、(R,R)-ピロダック-2を用いる処置は、すべてのマウスが21日までに死亡したビヒクル対照群と比較して、生存期間の有意な増加および6ヶ月にわたって持続する多数の耐久性のある完全な反応をもたらした。さらに、(R,R)-ピロダック-2処置は、Vk12653移植マウスにおけるビヒクル対照群と比較して、Mスパイクレベルの統計的に有意な減少を引き起こした。
【0072】
結論
(R,R)-ピロダック-2は、Vk*MYCマウスモデルにおいて、1週間に2回または3回投与されたとき、耐容性が良好であった。両方の用量が、2週間の処置後にMスパイクレベルを50%未満に低下させる際に有効であった。さらに、生存の増加およびMスパイクレベルの上昇の抑制によってそれぞれ示されるように、(R,R)-ピロダック-2処置は、Vk12598マウスとVk12653マウスの両方において活性であった。まとめると、Vk*MYCモデルにおける活性とヒト患者における臨床活性との間の相関関係を実証するこのモデルにおける以前の研究を考慮すると、これらのデータは、(R,R)-ピロダック-2が多発性骨髄腫のヒト患者の治療において有効であることを示唆する。
【0073】
実施例3
R,R-ピロダック-2処置マウスにおける白金分布のアッセイ
材料および方法
5匹のCD-1マウスに、90mg/kgの濃度で(R,R)-ピロダック-2を静脈内(IV)投与し、そしてもう1匹のマウスにビヒクル(リン酸緩衝液)を投与した。投与後、(R,R)-ピロダック-2処置マウスを、異なる時点(45分、3時間、12時間、24時間、および72時間)で安楽死させ、対照マウスを投与の45分後に安楽死させた。続いて、死体を-70℃で急速冷凍した。全身の矢状面断面のスライドを、対照、45分、および24時間のマウス用に調製した。次いで、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)を使用して、全身断面全体にわたってPt((R,R)-ピロダック-2の原子成分)の濃度についてスライドを走査した。追加のスライドを隣接位置から調製し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色してPtシグナルを様々な器官および組織にマッピングした。
【0074】
結果
T45分およびT24時間で、処理された切片中にインジウムスズ酸化物(ITO)スライド上にマウントされた組織切片中でPtの良好な検出が観察された(表1)。24時間後の(R,R)-ピロダック-2で処置したマウスのスクリーニング領域(白いバー)のLA-ICP-MS画像を図3に示し、処置した肝臓T24時間における白金の検出(生データ)を図4に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
結論
Ptの良好な検出は、IUPACゴールドブックに定義されているような検出限界および定量限界を超えて、様々な器官において、両方の処置組織において、それぞれk=3およびk=10で観察された。
【0077】
対照動物のすべての器官中のPtレベルは、統計的に有意なレベルで、暴露動物の対応する器官中のPtレベルよりも下である。
【0078】
LA-ICP-MSイメージング
目的
動物の様々な切片面の切片全体をカバーする150μmの空間分解能でマウス全身切片へのLA-ICP-MSイメージングによる白金元素(Pt)を検出すること:処置45分、処置24時間および対照45分(動物あたり3セクショニングレベル)。
【0079】
プロトコル
クライオスタットを用いて、マウスを3つの異なる切片面に20μmの厚さで切片化し、そしてITOガラススライド上にマウントした。図5を参照のこと。
●レベル1:マウスの左眼の左側を通る矢状切断面
●レベル2:最大の主要器官を通過する左眼の右側の第2の矢状面。
●レベル3:動物の矢状方向の正中線平面における第3のセクショニングレベル。
【0080】
目的の領域は以下のように定義された。
●優先度1:骨(脊椎、骨盤、肋骨、大腿骨)、肝臓、腎臓。
●優先度2:肺、脾臓、心臓、脳、甲状腺、胸腺。
【0081】
スライドを30分間凍結乾燥させ、次いで、さらに使用するまで-80℃で保存した。スライドをICP-MSイメージングの前に室温で30分間真空乾燥させた。骨含有領域に焦点を合わせて、より高解像度の画像も収集した。
【0082】
分析
組織切片について、分析をLA-ICP-MS 2Dにより実施した。
【0083】
結果
較正曲線を作成するために、最低で6つの非ゼロ濃度を用いて10~5000nMの濃度範囲で較正を実施した。較正標準を肝臓対照組織切片上にスポットすることによるPtの良好な直線性が観察された(図6)。
【0084】
ICP-MSイメージングからの分布および定量化に関する結果を表2に列挙する。T45分マウスセクションプラン1、2、および3における白金のICP-MSイメージング結果を、それぞれ図7、8、および9に示す。T24時間の時点からの断面図を図10に示し、T45分からの様々な骨含有領域の高解像度画像を図11に示す。注記:一部の組織切片において観察された「拡散」効果は、白金の非局在化によるものではなく、切除セル内の材料の洗い流し効果である。これは、システムが50ミリ秒ごとに1~2桁の信号ドロップを達成できる集中エリアについて、すべてのLA-ICP-MSシステム上で発生する。
【0085】
対照試料においては、ごくわずかなPt(約100nM)を検出し、低レベルのPtを腸および胃において検出した。T=45分において、Ptは最も顕著に骨に集中したが(>200μM)、腎臓、肺、および肝臓などの他の場所においてもまたかなりの量が検出された。T=24時間において、最も高いPtシグナルは、T45分で観察されたよりも低い濃度(<3μM)ではあるが、骨組織から生じた。
【0086】
【表2】
【0087】
結論
他の標的組織の中でも、(R,R)-ピロダック-2(または(R,R)-ピロダック-2由来のPt)は明らかに長期間にわたって非常に高濃度で骨区画に集中しており、これは、分子のピロリン酸含有量に起因すると仮定される。レナリドマイド、デキサメタゾン、および/またはボルテゾミブに耐性のある白血病細胞系統および多発性骨髄腫細胞系統を含む、いくつかの異なるがん性細胞系統において、(R,R)-ピロダック-2が試験されたインビトロ実験においては、典型的に低いマイクロモル濃度が、がん細胞を殺傷するために十分であった。したがって、これらの骨組織は、がん細胞死を誘導するために通常必要とされるものよりもはるかに高い濃度で(R,R)-ピロダック-2(または由来するPt)に曝露される。これはおそらく、多発性骨髄腫Vk*MYCマウスモデルにおける(R,R)-ピロダック-2の高活性を説明し、(R,R)-ピロダック-2が、骨に局在化しているがんと闘う際に特に有効であることを示唆する。
【0088】
実施例4
転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者におけるR,R-ピロダック-2の臨床活性
前立腺特異抗原(PSA)の低下
背景
進行中の第I相固形腫瘍用量漸増試験において、R,R-ピロダック-2(PT-112)を、28日サイクルの1日目、8日目、および15日目に、200mg/mの用量で63歳のmCRPC患者に与えた。
【0089】
結果
この重度の以前に治療を受けた転移性患者は、処置開始後にPSAの急激な低下を経験した。全サイクルに満たない処置後、PSAの低下は約80%であった。この患者からのPSA測定値を図12に示す。
【0090】
結論
R,R-ピロダック-2はこのmCRPC患者において非常に活性である。この活性は、転移性骨疾患の部位における高濃度の薬物によって部分的に説明することができる。
【0091】
血清アルカリホスファターゼレベルの低下
背景
進行中の第I相固形腫瘍用量漸増試験において、R,R-ピロダック-2(PT-112)を、28日サイクルの1日目、8日目、および15日目に、250mg/mの用量で71歳のmCRPC患者に投与した。患者は、転移性骨疾患の徴候である血清アルカリホスファターゼレベルの上昇を伴う研究に参加した。
【0092】
結果
処置開始時に、患者は血清アルカリホスファターゼレベルの急速な減少を経験し、これはがん性骨病変における抗がん薬物活性の徴候であった。この患者からのアルカリホスファターゼ測定値を図13に示す。これらの測定値を細分化して、骨から発せられた結果の割合(肝臓に対して)を検証した。骨の割合は結果の大部分を占めており、この患者における転移性骨疾患との関係を認証している。
【0093】
結論
血清アルカリホスファターゼレベルの急激な低下によって示されるように、R,R-ピロダック-2は、mCRPCを有するこの患者において非常に活性であった。この例は、骨の中に、または骨の上に存在するがんに対するR,R-ピロダック-2の活性のさらなる証拠として役立つ。
【0094】
実施例5
転移性基底細胞がん(mBCC)患者の骨疾患部位におけるR,R-ピロダック-2の臨床活性
背景
進行中の第I相固形腫瘍用量漸増試験において、R,R-ピロダック-2(PT-112)を、28日サイクルの1日目、8日目、および15日目に150mg/mの用量で63歳のmBCC患者に投与した。
【0095】
結果
陽電子放出断層撮影(PET)イメージングは、ベースラインでの標準更新値(SUV)の10.2から、2サイクルの処置後の3.8までの下落によって示されるように、仙骨の右側の転移性骨部位におけるシグナル強度の著しい減少を明らかにした。ベースラインおよびサイクル後の2つのPET画像は以下の図14にある。
【0096】
結論
R,R-ピロダック-2は、この骨疾患部位において高い活性を実証し、このことは、R,R-ピロダック-2が骨組織の中または骨組織上に存在するがんの治療において特に強力かつ活性であるという議論を支持する。さらに、この試験においては最大耐量(MTD)はまだ決定されていないが、150mg/mの投与量は、360mg/mの安全とみなされている最高投与量をはるかに下回っており、骨疾患の部位におけるこれらの抗がん効果は、非常に十分に耐容性がある用量で起こり得る。
【0097】
前述の非限定的な実施例および実施形態は、本発明の特定の態様を例解するために記載されている。当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更または修正がなされ得ることを理解する。本明細書において言及されたすべての参考文献は、その全体が参考として援用される。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14