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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】平版印刷版原版及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   B41N 1/08 20060101AFI20220215BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20220215BHJP
   G03F 7/11 20060101ALI20220215BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20220215BHJP
   G03F 7/028 20060101ALI20220215BHJP
   B41N 1/14 20060101ALI20220215BHJP
   B41N 3/03 20060101ALI20220215BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20220215BHJP
   C25D 11/06 20060101ALI20220215BHJP
   C25D 11/12 20060101ALI20220215BHJP
   C25D 11/16 20060101ALI20220215BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
B41N1/08
G03F7/00 503
G03F7/11 503
G03F7/004 505
G03F7/028
G03F7/11 501
B41N1/14
B41N3/03
C25D11/04 302
C25D11/06 B
C25D11/12
C25D11/16
C25D11/18 306C
C25D11/18 312
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019547411
(86)(22)【出願日】2018-02-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 US2018018662
(87)【国際公開番号】W WO2018160379
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-01-04
(31)【優先権主張番号】15/447,651
(32)【優先日】2017-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000846
【氏名又は名称】イーストマン コダック カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー・マーカ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-フィリップ・ケムリング
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー・リチャード・ブルーム
(72)【発明者】
【氏名】ベネディクト・ウール
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189021(JP,A)
【文献】特開2014-198453(JP,A)
【文献】特開2011-245844(JP,A)
【文献】特開平11-099758(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0210926(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/08
G03F 7/00
G03F 7/11
G03F 7/004
G03F 7/028
B41N 1/14
B41N 3/03
C25D 11/04
C25D 11/06
C25D 11/12
C25D 11/16
C25D 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂目立て及びエッチングした平坦な表面を有するアルミニウム含有プレート;
前記砂目立て及びエッチングした平坦な表面上に配置した内側の酸化アルミニウム層であり650nmから3,000nm平均乾燥厚さ(Ti)を有し;15nm以下の平均内側微小孔径(Di)を有する多数の内側微小孔を含む、内側の酸化アルミニウム層;
前記内側の酸化アルミニウム層上に配置された外側の酸化アルミニウム層であり15nmから30nm平均外側微小孔径(Do)を有する多数の外側微小孔を含み;130nmから650nm平均乾燥厚さ(To)を有し;500個から3,000個微小孔/μm2 微小孔密度(Co)を有し;ここで、平均外側微小孔径(Do)対平均内側微小孔径(Di)の比は1.1:1よりも大きく、ナノメートル単位の平均外側微小孔径(Do)及び微小孔の個数/μm2単位の微小孔密度(Co)は、以下の式
0.3≦Po≦0.8
(式中、Poは、3.14(Co)(Do 2)/4,000,000と定義される。)
に従う外側の酸化アルミニウム層の多孔度(Po)によってさらに制約される、外側の酸化アルミニウム層;及び、
1種又は複数の親水性有機ポリマーを含む親水性層であり0.0002g/m2 から0.1g/m2 乾燥被覆量で外側の酸化アルミニウム層上に直接配置される親水性層
を含む、基材。
【請求項2】
平坦な表面を有する請求項1に記載の基材、及び、
前記基材の平坦な表面上に配置された放射感応性画像形成性層
を含む平版印刷版原版であって、
前記基材が、
砂目立て及びエッチングした平坦な表面を有するアルミニウム含有プレート;
前記砂目立て及びエッチングした平坦な表面上に配置された内側の酸化アルミニウム層であり650nmから3,000nm平均乾燥厚さ(Ti)を有し;15nm以下の平均内側微小孔径(Di)を有する多数の内側微小孔を含む、内側の酸化アルミニウム層;
前記内側の酸化アルミニウム層上に配置された外側の酸化アルミニウム層であり15nmから30nm平均外側微小孔径(Do)を有する多数の外側の微小孔を含み;130nmから650nm平均乾燥厚さ(To)を有し;500個から3,000個微小孔/μm2の微小孔密度(Co)を有し、ここで、平均外側微小孔径(Do)対平均内側微小孔径(Di)の比は1.1:1よりも大きく、ナノメートル単位の平均外側微小孔径(Do)及び微小孔の個数/μm2単位の微小孔密度(Co)は、以下の式
0.3≦Po≦0.8
(式中、Poは、3.14(Co)(Do 2)/4,000,000と定義される。)
に従う外側の酸化アルミニウム層の多孔度(Po)によってさらに制約される、外側の酸化アルミニウム層;及び、
1種又は複数の親水性有機ポリマーを含む親水性層であり0.0002g/m2 から0.1g/m2 乾燥被覆量で外側の酸化アルミニウム層上に直接配置される親水性層
を含む、平版印刷版原版。
【請求項3】
前記外側の酸化アルミニウム層が150nmから400nm平均乾燥厚さ(To)を有する、請求項2に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
前記内側の酸化アルミニウム層が700nmから1500nm平均乾燥厚さ(Ti)を有する、請求項2又は3に記載の平版印刷版原版。
【請求項5】
平均外側微小孔径(Do)対平均内側微小孔径(Di)の比1.5:1より大きく、請求項2から4のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記放射感応性画像形成性層が赤外線に対して感応性であり、1種又は複数の赤外線吸収剤を含む、請求項2から5のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記放射感応性画像形成性層がネガ型であり、機上現像性である、請求項2から6のいずれか一項に記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
請求項2から7のいずれか一項に記載の平版印刷版原版を画像形成性赤外線に画像様露光して、露光領域と非露光領域とを有する画像様露光した画像形成性層を形成する工程、及び
前記画像様露光した画像形成性層から、露光領域又は非露光領域のいずれかを除去するが、露光領域及び非露光領域の両方は除去せず、平版印刷版を形成する工程
を含む、平版印刷版を提供する方法。
【請求項9】
前記画像様露光した画像形成性層中の非露光領域を、平版印刷インキ、湿し水、又は平版印刷インキ及び湿し水の両方を用いて機上で除去する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項2から7のいずれか一項に記載の平版印刷版原版を製造する方法であって、
電気化学的又は機械的に砂目立て及びエッチングした平坦な表面を有するアルミニウム含有プレートを用意する工程;
前記アルミニウム含有プレートを第1の陽極酸化プロセスに供して、電気化学的又は機械的に砂目立て及びエッチングした平坦な表面上に外側の酸化アルミニウム層を形成する工程であって、外側の酸化アルミニウム層は:15nmから30nm平均外側微小孔径(Do)を有する多数の外側微小孔を含み;130nmから650nm平均乾燥厚さ(To)を有し;500個から3,000個微小孔/μm2の微小孔密度を有し;ここで、ナノメートル単位の平均外側微小孔径(Do)及び微小孔の個数/μm2単位の微小孔密度(Co)は、以下の式
0.3≦Po≦0.8
(式中、Poは、3.14(Co)(Do 2)/4,000,000と定義される。)
に従う外側の酸化アルミニウム層の多孔度(Po)によってさらに制約される、工程;
前記外側の酸化アルミニウム層を洗浄する工程;
前記アルミニウム含有プレートを第2の陽極酸化処理に供して、前記外側の酸化アルミニウム層の下に内側の酸化アルミニウム層を形成する工程であって、内側の酸化アルミニウム層は:650nmから3,000nm平均乾燥厚さ(Ti)を有し;15nm以下の平均内側微小孔径(Di)を有する多数の内側微小孔を含み、ここで、平均外側微小孔径(Do)対平均内側微小孔径(Di)の比は1.1:1よりも大きい、工程;
前記外側の酸化アルミニウム層及び前記内側の酸化アルミニウム層を洗浄する工程;
1種又は複数の親水性有機ポリマーを含む親水性層を0.0002g/m2 から0.1g/m2 乾燥被覆量で前記外側の酸化アルミニウム層上に直接提供する工程;及び
親水性層上に放射感応性画像形成性層を直接形成する工程
を順に含む、方法。
【請求項11】
前記第1の陽極酸化処理をリン酸を用いて行う、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる構造的性質を有する異なる酸化アルミニウム層を提供するために2つの別々の陽極酸化プロセスを用いて製造した本発明のアルミニウム含有基材を含む平版印刷版原版に関する。本発明はまた、そのような平版印刷版原版を、平版印刷版を提供するために画像形成及び処理することに関し、更に、2つの陽極酸化プロセスを使用してそのような原版を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷では、画像領域として知られる平版印刷用インキ受容領域が、基材の親水性の平坦な表面上に生成される。印刷版の表面を水で湿らせ、平版印刷インキを適用するとき、親水性領域は水を保持し、平版印刷インキをはじいて、平版インキ受容画像領域は平版印刷インキを受容して水をはじく。平版印刷インキは、恐らくはブランケットローラーを使用して、画像が再現される材料の表面に平版印刷版から転写される。
【0003】
平版印刷版を製造するために使用される画像形成性要素又は平版印刷版原版は、典型的に、基材の最も外側の親水性の表面上に配置された1つ又は複数の放射感応性画像形成性層を含む。そのような放射感応性画像形成性層は、一緒に又はポリマーバインダー材料内に分散可能な1種又は複数の放射感応性成分を含む。或いはまた、放射感応性成分は、ポリマーバインダー材料として役に立ち得るか、又はポリマーバインダーを形成し得る。画像形成後、1つ又は複数の放射感応性層の露光(画像形成)領域又は非露光(非画像形成)領域のいずれかを適切な現像液を用いて除去することができ、基材の最も外側の親水性の表面を暴露する。露光領域が除去可能であれば、平版印刷版原版はポジ型であると見なされ、逆に、非露光領域が除去可能であれば、平版印刷版原版はネガ型と見なされる。
【0004】
平版印刷版原版のダイレクトデジタルサーマルイメージング(direct digital thermal imaging)は、周囲光に対するそれらの安定性のために、過去30年間で印刷業界においてますます重要になっている。そのような原版は、少なくとも750nmの近赤外線の画像形成に感応性であるように設計されている。しかしながら、他の非常に有用な平版印刷版原版は、依然として少なくとも250nmのUV又は「バイオレット」照射によるデジタルイメージングに感応性であるように設計されている。
【0005】
平版印刷版を製造するのに有用なネガ型の平版印刷版原版は、典型的に、基材の親水性の表面上に配置されたネガ型の放射感応性画像形成性層を含む。ネガ型の平版印刷版原版に使用される放射感応性光重合性組成物は、典型的に、フリーラジカル重合性成分、1種又は複数の放射吸収剤、開始剤組成物、及び任意に、他の記載の成分とは異なる1種又は複数のポリマーバインダーを含む。
【0006】
近年、平版印刷版製造工程の簡略化が業界でも注目されており、予備現像の加熱工程(予熱)の省略、及び平版印刷インキ、湿し水、又はその両方を用いて、平版印刷版原版上の不要な(露光されていない)画像形成性層材料を除去するために、機上現像(DOP)を行うことを含む。そのようなネガ型の平版印刷版原版は、最適な耐刷性、機上現像性、及び耐引掻性を達成するために、要素構造内の多くの特徴のバランスを取ることによって設計されるべきである。どのような化学組成又は構造的特徴が、1つ又は2つの特性において最適なレベルを提供し得るかが、他の特性における損失を引き起こし得るので、これらの特性全てにおいて高品質を達成することは容易な作業ではない。
【0007】
平版印刷版原版の種類とは無関係に、平版印刷は一般にアルミニウム、又は、例えば、この目的のために当該技術分野において既知の1種又は複数の他の金属を10重量%まで含有する種々の金属組成のアルミニウム合金を含む金属含有基材を使用して行われてきた。原料アルミニウム含有材料は、原料アルミニウム含有材料の平坦な表面上の油、グリース、及び他の汚染物質を除去するために、塩基又は界面活性剤溶液を使用する「プレエッチング」プロセスで洗浄することができる。次いで、清浄化した平坦な表面を一般に電気化学的又は機械的に砂目立てすることよって粗面化し、続いて砂目立てするプロセス中に形成されたあらゆる汚染物質(「汚れ」)を除去するための「ポストエッチング」処理を行う。平版印刷版原版のための有用な基材の製造のさらなる産業上の詳細は、米国特許出願公開第2014/0047993A1号(Hauck等)に見出される。
【0008】
更に洗浄後、アルミニウム含有基材の平坦な表面を1回又は複数回陽極酸化して、1つ又は複数の画像形成性層がその上に一旦形成された結果得られる平版印刷版原版の耐摩耗性及び他の特性のための最外の親水性酸化アルミニウムコーティングを提供する。
【0009】
例えば、米国特許第4,566,952号(Sprintschnik等)及び米国特許第8,783,179号(Kurokawa等)、米国特許出願公開第2011/0265673号(Tagawa等)、米国特許出願公開第2012/0192742(Krokawa等)、米国特許出願公開第2014/0326151号(Namba等)、及び米国特許出願公開第2015/0135979号(Tagawa等)、並びに欧州特許出願公開第2,353,882A1号(Tagawa等)に記載されているように、1回又は複数回の陽極酸化プロセスが原版基材のいくつかの既知の製造方法において用いられる。
【0010】
原版基材を製造するこれらの既知の方法では、特定の構造の1つ又は複数の陽極酸化(酸化アルミニウム)層を製造し、それによって得られる原版において特定の特性を達成するために、電解質として硫酸、リン酸、又は硫酸及びリン酸の両方が、様々なプロセスパラメーターと組み合わせて使用されてきた。しかしながら、これらの既知の方法に従って製造された平版印刷版原版は、耐引掻性、機上現像性、及び耐刷性のような1つ又は複数の原版特性において未だ不十分であることが判明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願公開第2014/0047993A1号
【文献】米国特許第4,566,952号
【文献】米国特許第8,783,179号
【文献】米国特許出願公開第2011/0265673号
【文献】米国特許出願公開第2012/0192742
【文献】米国特許出願公開第2014/0326151号
【文献】米国特許出願公開第2015/0135979号
【文献】欧州特許出願公開第2,353,882A1号
【文献】米国特許出願公開第2008/0003411号
【文献】欧州特許第1,182,033A1号
【文献】米国特許第6,309,792号
【文献】米国特許第6,569,603号
【文献】米国特許第6,893,797号
【文献】米国特許出願公開第2009/0142695号
【文献】米国特許第6,562,543号
【文献】米国特許第7,524,614号
【文献】特開2002-082429号公報(又は米国特許出願公開第2002-0051934号)
【文献】米国特許第7,285,372号
【文献】米国特許第5,208,135号
【文献】米国特許第6,153,356号
【文献】米国特許第6,309,792号
【文献】米国特許第6,569,603号
【文献】米国特許第6,797,449号
【文献】米国特許第7,018,775号
【文献】米国特許第7,368,215号
【文献】米国特許第8,632,941号
【文献】米国特許出願公開第2007/056457号
【文献】米国特許出願公開第2011/003123号
【文献】米国特許第6,899,994号
【文献】国際公開第2015-156065号
【文献】米国特許第7,261,998号
【文献】米国特許出願公開第2015/0099229号
【文献】米国特許第6,916,595号
【文献】米国特許第6,858,374号
【文献】米国特許出願公開第2009/0047599号
【文献】米国特許第8,383,319号
【文献】米国特許第8,105,751号
【文献】米国特許第9,366,962号
【文献】米国特許第7,429,445号
【文献】米国特許第8,383,319号
【文献】米国特許第8,105,751号
【文献】米国特許出願公開第2013/0323643号
【文献】欧州特許出願公開第2,878,452A1号
【文献】欧州特許出願公開第2,808,173A1号
【非特許文献】
【0012】
【文献】「Glossary of Basic Terms in Polymer Science」、Pure Appl. Chem. 68、2287-2311頁(1996年)
【文献】Photoreactive Polymers:The Science and Technology of Resists、A Reiser、Wiley、ニューヨーク、1989年、102-177頁
【文献】B.M. Monroeによる、Radiation Curing: Science and Technology、S.P. Pappas、Ed.、Plenum、ニューヨーク、1992年、第399-440頁
【文献】A.B. Cohen and P. Walkerによる「Polymer Imaging」、J.M. Sturge等のImaging Processes and Material、(Eds.)、Van Nostrand Reinhold、ニューヨーク、1989年、第226-262頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、耐刷性及び機上現像性を犠牲にすることなく改善された耐引掻性が達成されるように、ネガ型の平版印刷版原版の製造条件、特に陽極酸化中の製造条件のバランスを取る必要性が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、平坦な表面を有する基材と、
基材の平坦な表面上に配置された放射感応性画像形成性層と
を含む平版印刷版原版であって、
基材が、
砂目立て及びエッチングした平坦な表面を有するアルミニウム含有プレートと;
砂目立て及びエッチングした平坦な表面上に配置された内側の酸化アルミニウム層であり、少なくとも650nmかつ3,000nm以下の平均乾燥厚さ(Ti)を有し;15nm以下の平均内側微小孔径(Di)を有する多数の内側微小孔を含む、内側の酸化アルミニウム層と;
内側の酸化アルミニウム層上に配置された外側の酸化アルミニウム層であり、少なくとも15nmかつ30nm以下の平均外側微小孔径(Do)を有する多数の外側の微小孔を含み;少なくとも130nmかつ650nm以下の平均乾燥厚さ(To)を有し;少なくとも500かつ3,000個以下の微小孔/μm2の微小孔密度(Co)を有し、ここで、平均外側微小孔径(Do)対平均内側微小孔径(Di)の比は1.1:1よりも大きく、ナノメートル単位の平均外側微小孔径(Do)及び微小孔の個数/μm2単位の微小孔密度(Co)は、以下の式
0.3≦Po≦0.8
(式中、Poは、3.14(Co)(Do 2)/4,000,000と定義される。)
に従う外側の酸化アルミニウム層の多孔度(Po)によって更に制約される、外側の酸化アルミニウム層と;
1種又は複数の親水性有機ポリマーを含む親水性層であり、少なくとも0.0002g/m2かつ0.1g/m2以下の乾燥被覆量で外側の酸化アルミニウム層上に直接配置される親水性層と
を含む、平版印刷版原版を提供する。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態において、原版は更に以下のように定義される。
アルミニウム含有プレートの砂目立て及びエッチングした平坦な表面は、電気化学的に砂目立て及びエッチングしたものであり;
放射感応性画像形成性層は、親水性層上に配置されたネガ型かつ機上現像可能な赤外線放射感応性画像形成性層であり、
(a)1種又は複数のフリーラジカル重合性成分;
(b)放射感応性画像形成性層を赤外線に露光するとフリーラジカルを提供する開始剤組成物;
(c)1種又は複数の赤外線吸収剤;及び
(d)(a)、(b)、及び(c)の全てと異なる粒子状ポリマーバインダー
を含み、
内側の酸化アルミニウム層は、少なくとも700nmかつ1,500nm以下の平均乾燥厚さ(Ti)を有し;
外側の酸化アルミニウム層は、少なくとも130nmかつ400nm以下の平均乾燥厚さ(To)を有し;平均外側微小孔径(Do)対平均内側微小孔径(Di)の比は少なくとも1.5:1であり、次の式が維持され;
0.3≦Po≦0.6
親水性層は、アクリル酸、メタクリル酸、又はアクリル酸及びメタクリル酸の両方に由来する繰り返し単位を含む1種又は複数の水溶性有機ポリマーを含み、親水性層は、少なくとも0.005g/m2かつ0.08g/m2以下の乾燥被覆量で存在する。
【0016】
本発明はまた、
本発明の任意の実施形態の平版印刷版原版を画像形成性放射に画像様露光して、露光領域と非露光領域とを有する画像様露光した画像形成性層を形成する工程、及び
画像様露光した画像形成性層から、露光領域又は非露光領域のいずれかを除去するが、露光領域及び非露光領域の両方は除去せず、平版印刷版を形成する工程
を含む平版印刷版を提供する方法を提供する。
【0017】
更に、本発明は、本発明による平版印刷版原版を製造する方法であって、
電気化学的又は機械的に砂目立て及びエッチングした平坦な表面を有するアルミニウム含有プレートを用意する工程;
アルミニウム含有プレートを第1の陽極酸化プロセスに供して、電気化学的又は機械的に砂目立て及びエッチングした平坦な表面上に外側の酸化アルミニウム層を形成する工程であって、外側の酸化アルミニウム層は:少なくとも15nmかつ30nm以下の平均外側微小孔径(Do)を有する多数の外側微小孔を含み;少なくとも130nmかつ650nm以下の平均乾燥厚さ(To)を有し;少なくとも500かつ3,000個以下の微小孔/μm2の微小孔密度を有し;ここで、ナノメートル単位の平均外側微小孔径(Do)及び微小孔の個数/μm2単位の微小孔密度(Co)は、以下の式
0.3≦Po≦0.8
(式中、Poは、3.14(Co)(Do 2)/4,000,000と定義される。)
に従う外側の酸化アルミニウム層の多孔度(Po)によって更に制約される、工程;
外側の酸化アルミニウム層を洗浄する工程;
アルミニウム含有プレートを第2の陽極酸化処理に供して、外側の酸化アルミニウム層の下に内側の酸化アルミニウム層を形成する工程であって、内側の酸化アルミニウム層は:少なくとも650nmかつ3,000nm以下の平均乾燥厚さ(Ti)を有し;15nm以下の平均内側微小孔径(Di)を有する多数の内側微小孔を含み、ここで、平均外側微小孔径(Do)対平均内側微小孔径(Di)の比は1.1:1よりも大きい、工程;
外側の酸化アルミニウム層を洗浄する工程;
1種又は複数の親水性有機ポリマーを含む親水性層を少なくとも0.0002g/m2かつ0.1g/m2以下の乾燥被覆量で外側の酸化アルミニウム層上に直接提供する工程;及び
親水性層上に放射感応性画像形成性層を形成する工程
を順に含む、方法を提供する。
【0018】
リン酸を使用して外側の酸化アルミニウム層を形成する場合、その層はその中に埋設されたリン酸アルミニウムを含むこともできる。
【0019】
本発明は更に、砂目立て及びエッチングした平坦な表面を有するアルミニウム含有プレートと;
砂目立て及びエッチングした平坦な表面上に配置した内側の酸化アルミニウム層であり、少なくとも650nmかつ3,000nm以下の平均乾燥厚さ(Ti)を有し;15nm以下の平均内側微小孔径(Di)を有する多数の内側微小孔を含む、内側の酸化アルミニウム層と;
内側の酸化アルミニウム層上に配置された外側の酸化アルミニウム層であり、少なくとも15nmかつ30nm以下の平均外側微小孔径(Do)を有する多数の外側微小孔を含み;少なくとも130nmかつ650nm以下の平均乾燥厚さ(To)を有し;少なくとも500個かつ3,000個以下の微小孔/μm2微小孔密度(Co)を有し;ここで、平均外側微小孔径(Do)対平均内側微小孔径(Di)の比は1.1:1よりも大きく、ナノメートル単位の平均外側微小孔径(Do)及び微小孔の個数/μm2単位の微小孔密度(Co)は、以下の式
0.3≦Po≦0.8
(式中、Poは、3.14(Co)(Do 2)/4,000,000と定義される。)
に従う外側の酸化アルミニウム層の多孔度(Po)によって更に制約される、外側の酸化アルミニウム層と;
1種又は複数の親水性有機ポリマーを含む親水性層であり、少なくとも0.0002g/m2かつ0.1g/m2以下の乾燥被覆量で外側の酸化アルミニウム層上に直接配置される親水性層と
を含む、基材を含む。
【0020】
本発明の平版印刷版原版に用いられる基材について定義された特徴の組合せは、所望の機上現像性及び高い耐刷性を維持しながら改善された耐引掻性を提供する。それらの利点は、原版中に本発明の基材を形成する内側及び外側の両方の酸化アルミニウム層の記載された特徴を達成するような方法で実施される2つの陽極酸化プロセスの独特の組合せを使用することによって達成される。本明細書に提供されるデータとして、一方又は両方の酸化アルミニウム層が要求される範囲外である場合、耐引掻性、機上現像性、及び耐刷性のうちの1つ又は複数が何らかの方法で低下又は損なわれる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に従って製造し、218nmの平均乾燥厚さ(To)を有する外側の酸化アルミニウム層及び1040nmの平均乾燥厚さ(Ti)を有する内側の酸化アルミニウム層を有する本発明の基材の白黒断面走査型電子顕微鏡写真(SEM)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の説明は本発明の様々な実施形態に関するものであり、いくつかの実施形態は特定の用途に望ましい可能性があるが、開示された実施形態は、特許請求の範囲に記載されているような本発明の範囲を限定するものと解釈又はそうでなければ考慮すべきではない。更に、当業者は、以下の開示が、いずれかの実施形態の明示的な説明及び議論よりも幅広い用途を有するものと理解するであろう。
【0023】
定義
本明細書で使用される場合、本発明の実施において使用される、本発明の放射感応性画像形成性層配合物(及び得られる乾燥層)、処理溶液、陽極酸化溶液、親水性層配合物(及び得られる乾燥層)、及び他の材料の様々な成分を定義する。別段の指定がない限り、単数形「a」、「an」、及び「the」は、1つ又は複数の構成要素(すなわち、複数の指示対象を含む)を含むことを意図している。
【0024】
本願において明示的に定義されていない各語は、当業者によって一般的に受け入れられている意味を有すると理解されるべきである。ある語の構成がその文脈においてそれを無意味又は本質的に無意味にする場合、その語は標準的な辞書の意味を有すると解釈されるべきである。
【0025】
特に明記しない限り、本明細書で特定される様々な範囲の数値の使用は、記載された範囲内の最小値及び最大値が両方とも「約」という語に先行しているかのように近似であると見なされる。このように、記載された範囲の上下のわずかな変動は、範囲内の値と実質的に同じ結果を達成するのに有用であり得る。更に、これらの範囲の開示は、最小値と最大値との間のあらゆる値、並びに範囲の終点を含む連続的な範囲として意図されている。
【0026】
文脈上別段の指示がない限り、本明細書で使用するとき、「ネガ型の放射感応性平版印刷版原版」、「ポジ型の放射感応性平版印刷版原版」、「原版」、「放射感応性原版」及び「平版印刷版原版」は、本発明の特定の実施形態の同等の参照であることを意味する。
【0027】
「支持体」という語は、本明細書では、後述の「本発明の基材」を製造するために処理することができるアルミニウム含有材料又は他の金属含有材料(シート、ウェブ、ストリップ、シート、ホイル、又は他の形態)を指すために使用され、以下で詳細に説明する。
【0028】
ナノメートル(nm)での平均外側微小孔径(Do)は、任意の親水性層及び(複数の)放射感応性画像形成性層の適用前の基材表面を撮影した、少なくとも50,000倍の倍率でのSEM画像の上面図から測定できる。また、SEM画像の上面図を撮影する前に、アルゴンイオンビームスパッタリング等の適切な技術を用いて、有機層を適切な溶媒で除去し、場合により外側の酸化アルミニウム層の約20nm~80nmの厚さの外側部分を除去することによって、平版印刷版原版の外側微小孔径(Do)を測定することもできる。平均は、200個を超える外側微小孔を検査することによって測定できる。
【0029】
平均内側微小孔径(Di)は、少なくとも50,000倍の倍率のSEM画像の断面図から測定することができる。画像形成性層及び任意の親水性層が除去された後に平版印刷版原版又はその基材を曲げることによって断面を生成することができる。曲げている間に、酸化アルミニウム層に亀裂が形成され、新しい表面が通常最も弱い位置に形成され、これは通常隣接する内側微小孔間の最も薄い壁に位置する。それゆえ、亀裂の新しい表面は、多くの微小孔の断面図を提供する。本発明では、暴露された微小孔の断面の少なくとも90%が15nm未満の幅を有する限り、正確な平均内側微小孔径(Di)を測定する必要はない。
【0030】
外側陽極酸化層の平均乾燥厚さ(To)及び内側陽極酸化層の平均乾燥厚さ(Ti)(ナノメートル(nm))はそれぞれ、少なくとも50,000倍の倍率のSEM画像の断面図から測定することができる。酸化アルミニウム層の断面は、平版印刷原版又はその基材を曲げることによって形成された亀裂を介して暴露することができる。酸化アルミニウム層の断面は、集束イオンビーム(FIB)によって酸化アルミニウム層を貫通するスロットを切断することによっても暴露することができ、これは当技術分野において周知の技術である。
【0031】
微小孔の個数/μm2での外側の陽極酸化層微小孔密度(Co)は、少なくとも500nm×500nmの面積を有する正方形の所定の面積中の微小孔の数を数えることによって、少なくとも50,000倍の倍率のSEM画像の上面図から測定することができる。
【0032】
外側の酸化アルミニウム層の多孔度(Po)は、以下の式のいずれかによって制約され得る:
0.3≦Po≦0.8
又は
0.3≦Po≦0.6
(式中、Poは、3.14(Co)(Do 2)/4,000,000と定義される。)。
【0033】
本明細書で使用されるとき、「放射吸収剤」という語は、定義された領域で電磁放射を吸収する化合物又は材料を指し、典型的には少なくとも250nm(UV及びバイオレット)かつ1400nm以下の領域に吸収極大を有する化合物又は材料を指す。
【0034】
本明細書で使用されるとき、「赤外領域」という語は、少なくとも750nm以上の波長を有する放射を指す。ほとんどの場合、「赤外線」という語は、本明細書で定義される電磁スペクトルの「近赤外線」領域を指し、ここでは少なくとも750nmかつ1400nm以下に定義される。同様に、赤外線吸収剤は赤外線領域に感度を提供する。
【0035】
有機ポリマーに関する用語の定義の明確化については、国際純正応用化学連合(IUPAC)が発行する、「Glossary of Basic Terms in Polymer Science」、Pure Appl. Chem. 68、2287-2311頁(1996年)を参照すべきである。しかしながら、本明細書に明示的に記載されたいかなる定義も支配的と見なされるべきである。
【0036】
本明細書で使用されるとき、「ポリマー」という語は、多数の小さな反応したモノマーを一緒に連結することによって形成される比較的大きな分子量を有する化合物を説明するために使用される。ポリマー鎖が成長するにつれて、ランダムな様式でそれ自体の上に折り畳まれてコイル状構造を形成する。溶媒を選択することにより、鎖長が長くなるにつれてポリマーが不溶性になり、溶媒中に分散したポリマー粒子になることがある。これらの粒子分散液は非常に安定であり、本発明での使用のために記載された放射感応性画像形成性層において有用であり得る。本発明において、他に示さない限り、「ポリマー」という語は、非架橋材料をいう。したがって、架橋ポリマー粒子と非架橋ポリマー粒子とは、後者は、良好な溶媒和特性を有する特定の有機溶媒に溶解することができるが、一方、ポリマー鎖が強い共有結合によって結合されているので、架橋ポリマー粒子は膨潤するが有機溶媒には溶解しないという点で両者は異なる。
【0037】
「コポリマー」という語は、コポリマー主鎖に沿って配置されている2つ以上の異なる反復単位又は反復単位からなるポリマーを指す。
【0038】
「ポリマー主鎖」という語は、複数のペンダント基を結合することができるポリマー中の原子鎖を指す。そのようなポリマー主鎖の例は、1種又は複数のエチレン性不飽和重合性モノマーの重合から得られる「全炭素」主鎖である。ポリマーを適切な反応物を使用する縮合重合反応を使用して形成する場合、いくつかのポリマー主鎖は、炭素とヘテロ原子の両方を含み得る。
【0039】
本明細書に記載のポリマーバインダー中の繰り返し単位は、一般に、重合プロセスで使用される対応するエチレン性不飽和重合性モノマーから誘導され、このエチレン性不飽和重合性モノマーは、様々な商業的供給源から入手することができるか、又は既知の化学合成方法を使用して製造できる。
【0040】
本明細書で使用されるとき、「エチレン性不飽和重合性モノマー」という語は、フリーラジカル又は酸触媒重合反応及び条件を使用して重合可能である1つ又は複数のエチレン性不飽和(-C=C-)結合を含む化合物を指す。これらの条件下で重合性ではない、不飽和-C=C-結合のみを有する化合物を指すことを意味するものではない。
【0041】
別途示さない限り、「重量%」という語は、組成物、配合物、又は乾燥層の全固形分に基づく成分又は材料の量を指す。別途示さない限り、百分率は、乾燥層又はその乾燥層を形成するために使用される配合物又は組成物の全固形分について同じであり得る。
【0042】
本明細書で使用されるとき、「層」又は「コーティング」という語は、1つの配置又は適用された層、又はいくつかの順次配置又は適用された層の組合せからなり得る。層が放射感応性及びネガ型であると考えられる場合、それは平版印刷版の形成において適切な放射(例えば赤外線)に対して感応性でありかつネガ型である。同様に、ある層が放射感応性かつポジ型と見なされる場合、それは平版印刷版の形成において、赤外線に対して感応性及びポジ型の両方である。
【0043】
使用
本発明の基材及び平版印刷版原版は、平版印刷インキ及び湿し水を用いて平版印刷用の平版印刷版を形成するのに有用である。これらの原版は、以下に記載される構造及び成分を用いて製造される。更に、本発明は、以下に記載するように、適切な現像液を使用する、露光した原版を機外で画像様露光及び処理することによって、又は機上で平版印刷インキ、湿し水、又は平版印刷インキと湿し水との組合せを使用して、このような平版印刷版を製造するのに有用である。本発明の平版印刷版原版は、以下に記載する適切な材料及び製造手順を用いてネガ型であるように設計することができる。
【0044】
本発明はまた、イメージング及び印刷に使用するために顧客に販売することができるそのような平版印刷版原版の製造にも有用である。
【0045】
本発明の基材
本発明において有用な本発明の基材は、上記の利点を達成するために重要な特徴及び特性を有するように設計されている。
【0046】
平版印刷版原版に有用な基材の製造に関する一般的な説明は、米国特許出願公開第2014/0047993 A1号(上記)に見出すことができる。
【0047】
一般に、平版印刷版基材は、アルミニウム、又はマンガン、ケイ素、鉄、チタン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、ジルコニウムを含むがこれらに限定されない1種又は複数の元素を10重量%まで含有するアルミニウム合金のような他の金属材料から誘導することができる。アルミニウム又はアルミニウム合金を含有する支持体(又は「プレート」又は「原材料」)は、以下に記載されるように処理されて、本発明の基材中に親水性平面表面を形成し得る少なくとも1つの平坦な表面を有する限り、シート、連続ウェブ及びコイル状ストリップを含む、それを更に加工することができる任意の形態を有することができる。純粋なアルミニウム又はアルミニウム合金含有層がその上に堆積又は積層されているポリマーフィルム又は紙を使用することも可能である。
【0048】
結果として得られる基材は、現代の印刷機における条件に機械的に耐えるのに十分な厚さであるべきであるが、そのような機械の印刷シリンダー上に設置される(又は巻かれる)のに十分に薄くなくてはならない。したがって、基材はまた、平版印刷に必要な適切な引張強度、弾性、結晶性、及び導電性を有するべきである。これらの特性は、連続平版支持ストリップ、ウェブ、又はコイルの製造に典型的な熱処理又は冷間及び熱間圧延のような標準的な方法によって達成することができる。得られる本発明の基材の乾燥厚さは、一般に少なくとも100μmかつ600μm以下である。
【0049】
記載されたアルミニウム含有支持体は、記載された第1及び第2の陽極酸化処理と組み合わせて、プレエッチング、水洗浄、粗面化、水洗浄、ポストエッチング、及び最終水洗浄を含む典型的な平版印刷版原版製造プロセスを用いて処理することができ、以下で詳しく説明する。
【0050】
原料のアルミニウム含有支持体は、典型的に、プレエッチング工程に供し、平坦な表面又はその近くの油、グリース、及び金属又は他の汚染物質を除去する。当技術分野で知られているように、このプレエッチング工程は、水酸化ナトリウム又は他のアルカリ水溶液、或いは特定の有機溶媒を既知の濃度、時間及び温度で用いて実施することができる。必要に応じて、界面活性剤水溶液を使用して、別個の又は追加の脱脂工程を実施することができる。当業者は、最適なプレエッチング条件(例えば、最適な溶液濃度、滞留時間、及び温度)を見出すために日常的な実験を実行することができ得る。
【0051】
典型的に、プレエッチング工程の後、エッチングした支持体を、既知の電気化学的又は機械的粗面化(又は砂目立て)プロセスを用いることによるような適切な方法で「粗面化」する。電気化学的粗面化処理において、エッチングした支持体は5~20g/リットルの塩酸溶液中で交流を用いて処理することができる。この目的のために、硝酸(例えば、2.5重量%まで)又は硫酸又は混合物の溶液を使用することも可能である。そのような電気化学的粗面化溶液は、金属硝酸塩、金属塩化物、モノアミン、ジアミン、アルデヒド、リン酸、クロム酸、ホウ酸、乳酸、酢酸、及びシュウ酸を含むがこれらに限定されない腐食防止剤及び安定剤等の添加剤も含み得る。例えば、電気化学的粗面化は、米国特許出願公開第2008/0003411号(Hunter等)に記載されている方法を使用して実施することができる。そのような方法が当該技術分野において周知であることから、当業者は日常的な実験によって電気化学的又は機械的粗面化のための最適条件を決定することができるであろう。機械的粗面化プロセスは、例えば適切なブラシを単独で、又はシリカ粒子若しくはアルミナ粒子等の研磨剤のスラリーと組み合わせて実施することができる。或いはまた、機械的及び電気化学的粗面化プロセスの組合せを使用することができる。
【0052】
粗面化又は砂目立て中に、スマットを支持体の平面上に形成することができ、このスマットは、例えば、支持体の表面の0.01~5.0g/m2を除去するために、強酸性又は強アルカリ性溶液での処理を使用するポストエッチング工程で除去することができる。例えば、ポストエッチングは、水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、又は硫酸の溶液を用いて行うことができる。エッチング液の滞留時間、濃度及び温度を設定することによって、エッチング後の量を制御することができる。適切な量のポストエッチングは、粗面化の量及びその工程で形成されるスマットの量にも依存する。ポストエッチング処理は、スマットを除去するのに十分であるべきであるが、それは粗面化工程において形成された表面構造の多くを破壊するべきではない。したがって、最適なポストエッチングの条件を見つけるために、当業者が日常的な実験の間に考慮することができるパラメーターの多くの組合せがある。
【0053】
前述の工程により、アルミニウム含有支持体中に電気化学的又は機械的に砂目立て(粗面化)及びエッチングした平坦な表面が得られる。
【0054】
本発明に従って行われる次の工程は、外側及び内側の酸化アルミニウム層をそれぞれ形成するため、どちらも本発明にとって必須である第1の陽極酸化プロセス及び第2の陽極酸化プロセスを含む。本発明の方法は、先行技術において時々記載されているように、追加の陽極酸化プロセス(すなわち、第3以降の陽極酸化プロセス)を必要としないため、ほとんどの実施形態では、本明細書に記載の第1及び第2の陽極酸化プロセスが唯一の陽極酸化プロセスである。第3の陽極酸化プロセスを実施した場合、内側の微小孔とアルミニウム含有支持体との間の障壁層を強化するために比較的高い電圧であるが低い電荷密度で達成することができ、得られる第3の(最も内側の)酸化アルミニウム層の乾燥厚さは、第2の陽極酸化処理中に形成された内側の酸化アルミニウム層の厚さの5%未満である。
【0055】
第1及び第2の陽極酸化プロセスは、一般に、硫酸又はリン酸(電解質)溶液を使用して、4g/m2以下の総乾燥酸化アルミニウム被覆量(外側及び内側の酸化アルミニウム層の合計)を提供するのに十分な、少なくとも20℃及び70℃以下の適切な時間で、少なくとも1秒間及び250秒以下の間実施することができる。第1の陽極酸化プロセス及び第2陽極酸化プロセスの両方について、条件を以下に記載する。
【0056】
電気化学的又は機械的に粗面化及びエッチングした平坦な表面を有する適切なアルミニウム含有プレートに、その電気化学的又は機械的に粗面化及びエッチングした平坦な表面上に外側の酸化アルミニウム層を形成するために第1の陽極酸化プロセスを供する。第1の陽極酸化プロセスは、例えば、少なくとも50g/リットルかつ350g/リットル以下のリン酸、又は少なくとも150g/リットルかつ300g/リットル以下のリン酸及び適量のアルミニウム、例えば5g/リットルを含有する電解質組成物使用して実施することができる。これらの溶液量は、本明細書に記載の所望の外側の酸化アルミニウム層の特性を達成するために、酸の種類、酸濃度、アルミニウム濃度、滞留時間及び温度に関して最適化することができる。このような第1の陽極酸化プロセスの代表的な詳細は、以下に記載の実施例に示されている。得られる酸化アルミニウム層は、酸化アルミニウム層を形成する酸化アルミニウムマトリックス内に埋設されたリン酸アルミニウムを含有すると考えられるので、リン酸を使用して第1の陽極酸化プロセスを行うことが特に有用であり、そのような埋設されたリン酸アルミニウムは、平均乾燥厚さ(To)が少なくとも130nmかつ650nm以下の場合に機上現像性を含む望ましい特性を提供すると考えられる。
【0057】
得られた外側の酸化アルミニウム層は、少なくとも15nm及び30nm以下の平均外側微小孔径(Do)を有する多数の外側微小孔を含むべきである。更に、外側の酸化アルミニウム層の平均乾燥厚さ(To)は、少なくとも130nmかつ650nm以下、又はより可能性が高いのは、少なくとも130nmかつ400nm以下である。外側の陽極酸化層の微小孔密度(Co)は、一般に少なくとも500個かつ3,000個以下の微小孔/μm2である。
【0058】
更に、外側の酸化アルミニウム層のナノメートル単位の平均外側微小孔径(Do)及び微小孔の個数/μm2単位の微小孔密度(Co)は、以下の式のいずれかに従って更に制約又は関連づけられる:
0.3≦Po≦0.8又は
0.3≦Po≦0.6
(式中、Poは上記で定義した通りである。)
【0059】
第1の陽極酸化プロセスが所望の時間行った後、所望される場合、残留する酸及びアルミニウムを除去し、第1の陽極酸化プロセスを停止するために形成された外側の酸化アルミニウム層を適当な温度及び時間で水のような適当な溶液で洗浄することができる。
【0060】
米国特許出願公開第2013/0052582号(Hayashi)のような当該技術分野において既知のいくつかの方法とは異なり、本発明の方法は、陽極酸化後の「孔拡大」(又は微小孔拡大)工程として当該技術分野において知られているものを含まない。したがって、そのような処理は本発明の実施において意図的には使用されていない。
【0061】
次に、少なくとも100g/リットルかつ350g/リットル以下の硫酸並びに適切な量のアルミニウム、例えば5g/リットルを含むことができる適切な電解質組成物を使用して、第2の陽極酸化プロセスを行って、外側の酸化アルミニウム層の下に内側の酸化アルミニウム層を形成する。これらの溶液量は、本明細書に記載されるように所望の内側の酸化アルミニウム層の特性を達成するために、酸濃度、アルミニウム濃度、滞留時間及び温度に関して最適化することができる。このような第2の陽極酸化プロセスの詳細を以下の実施例に例示する。
【0062】
砂目立て及びエッチングした基材の平坦な表面上に配置した、得られた内側の酸化アルミニウム層は、15nm以下、典型的には10nm以下の平均内側微小孔径(Di)を有する多数の内部微小孔を含むべきである。更に、内側の酸化アルミニウム層の平均乾燥厚さ(Ti)は、少なくとも650nm又は少なくとも700nmかつ1500nm以下、又は3,000nm以下である。
【0063】
更に、平均外側微小孔径(Do)が、平均内側微小孔径(Di)よりも大きいこと、例えば、Di対Doの比が、1.1:1より大きいか、又は1.5:1より更に大きく、典型的には2:1より大きいことが非常に重要である。
【0064】
第2の陽極酸化プロセスを所望の時間実施した後、所望であれば、適切な温度及び時間で、水等の適切な溶液を用いて、残留する酸及びアルミニウムを除去し、第2の陽極酸化プロセスを停止させるために、形成された外側の酸化アルミニウム層及び内側の酸化アルミニウム層の両方を洗浄することができる。
【0065】
外側の酸化アルミニウム層の上に直接配置されている親水性層を提供することが通常望ましい。親水性層は、1種又は2種以上の親水性有機ポリマーを含む親水性層配合物から提供されて、外側の酸化アルミニウム層上に直接少なくとも0.0002g/m2かつ0.1g/m2以下、又は少なくとも0.005g/m2かつ0.08g/m2以下の量の親水性層の乾燥被覆量を提供する。有用な親水性有機ポリマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリルアミド、アクリルアミド、ビニルリン酸ジメチルエステル、及びビニルホスホン酸及びそれらの組合せのいずれかから少なくとも部分的に誘導されるホモポリマー及びコポリマーが含まれるが、これらに限定されない。特に有用な親水性有機ポリマーは、アクリル酸若しくはメタクリル酸のいずれか、又はアクリル酸及びメタクリル酸の両方に由来する繰り返し単位を含む。有用な親水性有機ポリマーは、いくつかの商業的供給源から購入することができ、又は既知のエチレン性不飽和重合性モノマー及び重合反応条件を使用して製造することができる。親水性層及び親水性層の配合物は、無機酸(例えば、少なくとも0.01重量%の量のリン酸)、無機酸の塩及び界面活性剤等の添加剤も含有することができる。特に有用な親水性層配合物は、実施例に関連して以下に記載される。
【0066】
親水性層を提供するための後処理プロセスは、例えば米国特許出願公開第2014/0047993号明細書(上記)の段落[0058]~[0061]に記載されているような任意の適切な方法で実施することができる。或いはまた、後処理プロセスは、所望の量の親水性層配合物を水等の適切な溶媒中で外側の酸化アルミニウム層上に直接被覆し、次いで得られた湿潤コーティングを乾燥することによって実施することができる。
【0067】
親水性層を外側の酸化アルミニウム層上に直接設けるため、本発明からの利点を与えるために、米国特許出願第2015/0135979号(上記)の段落[0332]に記載されているようなケイ酸塩処理の使用のような密封処理の使用は避けるべきである。
【0068】
これらのプロセス全ての後に得られる本発明の基材は、平坦なシート又は連続ウェブ又はコイルのような任意の適切な形態で、本発明による平版印刷版原版の製造の準備が整う。
【0069】
放射感応性画像形成性層及び原版
以下により詳細に記載されるように適切な放射感応性画像形成性層配合物を使用して適切な方法で外側の酸化アルミニウム層上に配置される親水性層上に直接1種又は2種以上の放射感応性画像形成性層を形成できる。
【0070】
ネガ型平版印刷版原版:
いくつかの実施形態において、本発明の原版は、ネガ型である放射感応性画像形成性層を形成するために、(上述したように)以下に記載のネガ型の放射感応性組成物を適切に基材上に施用することによって形成できる。一般に、放射感応性組成物(及び得られる放射感応性画像形成性層)は、(a)1種又は複数のフリーラジカル重合性成分、(b)画像形成のための放射に露光するとフリーラジカルを付与する開始剤組成物、及び(c)必須成分としての1種又は複数の放射吸収剤、及び場合により(a)、(b)及び(c)の全てと異なるポリマーバインダーを含み、これら全ての必須及び任意成分は、以下により詳細に記載される。原版中には一般に単一の放射感応性画像形成性層しかない。それは一般に原版中の最外層であるが、いくつかの実施形態では、放射感応性画像形成性層上に配置された最外の水溶性親水性オーバーコート(トップコート又は酸素障壁層としても知られる)があり得る。
【0071】
画像様露光後に次のように放射感応性画像形成性層の成分を設計することが特に有用であり(化合物の種類及び形態並びにそれぞれの量)、平版印刷インキ、湿し水、又は平版印刷インキ及び湿し水の組合せを用いて機上現像可能である。機上現像性のさらなる詳細は以下に記載する。
【0072】
放射感応性組成物(及びそれから製造される放射感応性画像形成性層)は、(a)1種又は複数のフリーラジカル重合性成分を含み、それらの各々は、フリーラジカル開始を使用して重合することができる1つ又は複数のフリーラジカル重合性基(及びいくつかの実施形態では2つ以上のそのような基)を含む。いくつかの実施形態では、放射感応性画像形成性層は、各分子中に同数又は異なる数のフリーラジカル重合性基を有する2種以上のフリーラジカル重合性成分を含む。
【0073】
有用なフリーラジカル重合性成分は、1つ又は複数の付加重合性エチレン性不飽和基(例えば、2つ以上のそのような基)を有する1つ又は複数のフリーラジカル重合性モノマー又はオリゴマーを含有することができる。同様に、このようなフリーラジカル重合性基を有する架橋性ポリマーもまた使用することができる。ウレタンアクリレート及びメタクリレート、エポキシドアクリレート及びメタクリレート、ポリエステルアクリレート及びメタクリレート、ポリエーテルアクリレート及びメタクリレート、並びに不飽和ポリエステル樹脂等のオリゴマー又はプレポリマーを使用することができる。いくつかの実施形態では、フリーラジカル重合性成分はカルボキシル基を含む。
【0074】
1種又は複数のフリーラジカル重合性成分が、放射感応性画像形成性層の機械的性質を増強するのに十分大きい分子量を有し、それゆえ、対応する平版印刷版原版を、典型的な包装での輸送及び通常のプリプレス中の取り扱いに適するようにすることができる。1種又は複数のフリーラジカル重合性成分を、粒状材料として放射感応性層中に存在させることも可能であり、その成分は少なくとも10nm及び800nm以下の粒子サイズを有する。そのような実施形態では、別個の非重合性又は非架橋性ポリマーバインダー(以下に記載)は必要ではないが、依然として存在してもよい。
【0075】
フリーラジカル重合性成分としては、尿素ウレタン(メタ)アクリレート又は複数(2個以上)の重合性基を有するウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。そのような化合物の混合物を使用することができ、各化合物は2個以上の不飽和重合性基を有し、いくつかの化合物は3、4個又はそれ以上の不飽和重合性基を有する。例えば、フリーラジカル重合性成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートをベースとするDESMODUR(登録商標) N100脂肪族ポリイソシアネート樹脂(コネチカット州ミルフォードのBayer Corp.社)をヒドロキシエチルアクリレート及びペンタエリスリトールトリアクリレートと反応させることによって製造することができる。有用なフリーラジカル重合性化合物には、Kowa American社から入手可能なNK Ester A-DPH(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、及びSartomer Company, Inc.社から入手可能な、Sartomer 399(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート)、Sartomer 355(ジ-トリメチロールプロパンテトラアクリレート)、Sartomer 295 (ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、及びSartomer 415[エトキシル化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート]が含まれる。
【0076】
他の多数のフリーラジカル重合性成分が当技術分野において公知であり、次を含む多くの文献に記載されている:Photoreactive Polymers:The Science and Technology of Resists、A Reiser、Wiley、ニューヨーク、1989年、102-177頁、B.M. Monroeによる、Radiation Curing: Science and Technology、S.P. Pappas、Ed.、Plenum、ニューヨーク、1992年、第399-440頁及びA.B. Cohen and P. Walkerによる「Polymer Imaging」、J.M. Sturge等のImaging Processes and Material、(Eds.)、Van Nostrand Reinhold、ニューヨーク、1989年、第226-262頁。例えば、有用なフリーラジカル重合性成分は、欧州特許第1,182,033A1号(Fujimaki等)の段落[0170]以降、米国特許第6,309,792号(Hauck等)、第6,569,603号(Furukawa)、及び第6,893,797号(Munnelly等)にも記載されている。他の有用なフリーラジカル重合性成分としては、米国特許出願公開第2009/0142695号(Baumann等)に記載されているものが挙げられ、これらのラジカル重合性成分は1H-テトラゾール基を含む。
【0077】
上記のような有用なフリーラジカル重合性成分は、様々な商業的供給源から容易に入手することができるか、又は既知の出発物質及び合成方法を使用して製造することができる。
【0078】
(a)1種又は複数のフリーラジカル重合性成分は、一般に少なくとも10重量%かつ70重量%以下、又は典型的には少なくとも20重量%かつ50重量%以下の量で放射感応性画像形成性層中に存在し、これらは全て、放射感応性画像形成性層の総乾燥重量に基づく。
【0079】
本発明において使用される放射感応性画像形成性層はまた、(b)適切な放射吸収剤の存在下でフリーラジカルを提供する開始剤組成物を含み、放射感応性画像形成性層を適切な画像形成のための放射に露光すると1種又は複数のフリーラジカル重合性成分の重合を開始させる。開始剤組成物は、単一の化合物又は複数の化合物の組合せ若しくは系であり得る。
【0080】
適切な開始剤組成物は、芳香族スルホニルハライド;トリハロゲノアルキルスルホン;トリハロゲノアリールスルホン;イミド(N-ベンゾイルオキシフタルイミド等);ジアゾスルホネート;9,10-ジヒドロアントラセン誘導体;少なくとも2個のカルボキシ基を有し、そのうちの少なくとも1個は、アリール部分の窒素、酸素又は硫黄原子に結合しているN-アリール、S-アリール、又はO-アリールポリカルボン酸;オキシムエステル及びオキシムエーテル;α-ヒドロキシ-又はα-アミノ-アセトフェノン;ベンゾインエーテル及びエステル;過酸化物;ヒドロペルオキシド;アゾ化合物;2,4,5-トリアリールイミダゾリル二量体(「HABI」等);トリハロメチル置換トリアジン;ホウ素含有化合物;米国特許第6,562,543号(Ogata等)に記載されている等の有機ホウ酸塩及びオニウム塩を包含するがこれらに限定されない。
【0081】
特に赤外線感応性組成物及び画像形成性層に有用な開始剤組成物としては、米国特許出願公開第2014/0047993号の段落[0131](上記)及びそこに引用されている参考文献に詳細に記載されているアンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム及びホスホニウム化合物等のオニウム塩が包含されるが、これらに限定されない。オニウム塩の例には、トリフェニルスルホニウム、ジフェニルヨードニウム、ジフェニルジアゾニウム、及びこれらの化合物のベンゼン環に1個又は複数個の置換基を導入した誘導体が含まれる。適切な置換基は、アルキル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、クロロ、ブロモ、フルオロ及びニトロ基を含むがこれらに限定されない。
【0082】
オニウム塩中のアニオンの例には、これらに限定されないが、ハロゲンアニオン、ClO4 -、PF6 -、BF4 -、SbF6 -、CH3SO3 -、CF3SO3 -、C6H5SO3 -、CH3C6H4SO3 -、HOC6H4SO3 -、ClC6H4SO3 -、及び例えば米国特許第7,524,614号(Tao等)に記載されているようなホウ素アニオンが含まれる。
【0083】
オニウム塩は、分子内にスルホニウムを有するオニウム塩と分子内にオニウム塩を組み合わせることにより得ることができる。オニウム塩は、分子内に共有結合を介して結合している少なくとも2個のオニウムイオン原子を有する多価オニウム塩であり得る。多価オニウム塩の中で、分子中に少なくとも2個のオニウムイオン原子を有するものが有用であり、分子中にスルホニウム又はヨードニウムカチオンを有するものが特に有用である。代表的な多価オニウム塩は、下記式(6)及び(7)で表される。
【0084】
【化1】
【0085】
また、特開2002-082429号公報(又は米国特許出願公開第2002-0051934号(Ippei等))の明細書中の段落[0033]~[0038]に記載のオニウム塩、又は米国特許第7,524,614号(上記)に記載のヨードニウムボレート錯体もまた、本発明において使用され得る。
【0086】
いくつかの実施形態では、開始剤組成物は、ヨードニウム塩の組合せ、例えば以下に記載の化合物Aと化合物Bとの組合せ等の開始剤化合物の組合せを含むことができる。
【0087】
化合物Aは、以下に示される構造式(I)で表すことができ、化合物Bとして総称される1種又は複数の化合物は、下記構造式(II)又は(III)のいずれかで表すことができる。
【0088】
【化2】
【0089】
これらの構造式(I)、(II)及び(III)において、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、独立して、2~9個の炭素原子(又は特に3~6個の炭素原子)を有する置換若しくは非置換アルキル基又は置換若しくは非置換アルコキシ基である。これらの置換若しくは非置換のアルキル及びアルコキシ基は、線状又は分岐状であり得る。多くの有用な実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、独立して、置換若しくは非置換のアルキル基、例えば3~6個の炭素原子を有する独立して選択される置換若しくは非置換アルキル基である。
【0090】
更に、R3及びR4の少なくとも一方は、R1又はR2と異なり得;R1及びR2の総炭素原子数と、R3及びR4の総炭素原子数との差は0~4(すなわち、0、1、2、3又は4)であり;R1及びR2の炭素原子の総数(合計)と、R5及びR6の炭素原子の総数(合計)との差は0~4(すなわち、0、1、2、3又は4)であり;及びX1、X2及びX3は、同一又は異なるアニオンである。
【0091】
有用なアニオンとしては、ClO4 -、PF6 -、BF4 -、SbF6 -、CH3SO3 -、CF3SO3 -、C6H5SO3 -、CH3C6H4SO3 -、HOC6H4SO3 -、ClC6H4SO3 -、及び以下の構造式(IV)で表されるホウ酸アニオンが包含されるが、限定されない:
B-(R1)(R2)(R3)(R4)
(IV)
【0092】
式中、R1、R2、R3及びR4は、独立して、置換若しくは非置換アルキル、置換若しくは非置換アリール(ハロゲン置換アリール基を含む)、置換若しくは非置換アルケニル、置換若しくは非置換アルキニル、置換若しくは非置換シクロアルキル、又は置換若しくは非置換複素環式基を表すか、或いは、R1、R2、R3及びR4のうちの2つ以上が一緒になって、7個までの炭素、窒素、酸素又は窒素原子を有する環等のホウ素原子を有する置換若しくは非置換複素環を形成することができる。R1、R2、R3及びR4上の任意の置換基は、クロロ、フルオロ、ニトロ、アルキル、アルコキシ及びアセトキシ基を含むことができる。いくつかの実施形態では、R1、R2、R3及びR4の全てが、置換若しくは非置換フェニル基等の、同一又は異なって、置換若しくは非置換アリール基であるか、又はこれらの基の全てが非置換フェニル基である可能性が高い。多くの実施形態において、X1、X2及びX3の少なくとも1つは、同一又は異なって、アリール基を含むテトラアリールボレートアニオンであるか、又は特に有用な実施形態において、1つ又は複数はテトラフェニルボレートアニオンであるか、或いはX1、X2及びX3のそれぞれがテトラフェニルボレートアニオンである。
【0093】
所望であれば、構造式(II)又は(III)で表される化合物Bの化合物の混合物を使用することができる。構造式(I)、(II)及び(III)で表される多くの有用な化合物は、Sigma-Aldrich等の商業的供給源から入手することができるか、又は既知の合成方法及び容易に入手可能な出発材料を使用して製造することができる。
【0094】
上記の開始剤組成物に有用な成分は、様々な商業的供給源から入手することができるか、又は既知の合成方法及び出発材料を使用して製造することができる。
【0095】
開始剤組成物は、一般に、1種又は複数の重合開始剤を提供するのに十分な放射感応性画像形成性層中に、少なくとも0.5重量%かつ20重量%以下、又は典型的には、更には少なくとも2重量%かつ15重量%以下、又は4重量%かつ12重量%以下の量で存在し、これらは全て、感放射画像形成性層の総乾燥重量に基づく。
【0096】
更に、放射感応性画像形成性層は、(c)所望の放射感応性を提供するため、或いは放射を熱に変換するため、或いはその両方のための1種又は複数の放射吸収剤も含む。いくつかの実施形態では、放射感応性層は赤外線に対して感応性であり、平版印刷版原版を赤外線放射レーザーで画像形成することができるように1種又は複数の異なる赤外線吸収剤を含む。本発明はまた、可視レーザーを用いて、約405nmに発光ピークを有する、例えば、488nm又は532nm付近に発光ピークを有する、又は400nm未満の有意な発光ピークを有するUV放射を有するバイオレットレーザーで画像形成するように設計された平版印刷版原版にも適用可能である。そのような実施形態では、放射吸収剤は放射源と一致するように選択することができ、多くの有用な例が当技術分野において公知であり、時には「増感剤」と呼ばれる。この種の有用な放射吸収剤は、例えば、米国特許第7,285,372号(Baumann等)の第11欄(第10~43行目)に記載されている。
【0097】
本発明のほとんどの実施形態において、放射感応性画像形成性層は、所望の赤外線感応性を提供するために1種又は複数の赤外線吸収剤を含む。有用な赤外線吸収剤は顔料又は赤外線吸収染料であり得る。適切な染料はまた、例えば、米国特許第5,208,135号(Patel等)、第6,153,356号(Urano等)、第6,309,792号(Hauck等)、第6,569,603号(Furukawa)、第6,797,449号(Nakamura等)、第7,018,775号(Tao)、第7,368,215号(Munnelly等)、第8,632,941号(Balbinot等)、及び米国特許出願公開第2007/056457号(Iwai等)に記載のものであり得る。いくつかの赤外線感応性の実施形態において、赤外線感応性画像形成性層中の少なくとも1種の赤外線吸収剤はテトラフェニルボレートアニオンのようなテトラアリールボレートアニオンを含むシアニン染料であることが望ましい。そのような染料の例としては、米国特許出願公開第2011/003123号(Simpson等)に記載されているものが挙げられる。
【0098】
低分子量のIR吸収染料に加えて、ポリマーに結合したIR染料発色団も同様に使用することができる。更に、IR染料カチオンも同様に使用することができ、すなわちカチオンは側鎖にカルボキシ、スルホ、ホスホ又はホスホノ基を含むポリマーとイオン的に相互作用する染料塩のIR吸収部分である。
【0099】
上記の有用な放射吸収剤は、様々な商業的供給源から容易に入手することができるか、又は既知の出発材料及び合成方法を使用して製造することができる。
【0100】
放射感応性画像形成性層中の1種又は複数の放射吸収剤の総量は、放射感応性画像形成性層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも0.5重量%かつ30重量%以下、又は典型的には少なくとも1重量%かつ15重量%以下である。
【0101】
多くの実施形態において放射感応性画像形成性層が任意のものであるが望ましいものは、記載された層中の全ての材料に対して1種又は複数の(d)ポリマーバインダー(又はポリマーバインダーとして作用する材料)を更に含む。そのようなポリマーバインダーは、上記の(a)、(b)及び(c)材料の全てとは異なる。これらのポリマーバインダー、は一般に非架橋であり、重合しない。
【0102】
そのような(d)ポリマーバインダーは、例えば米国特許第6,899,994号(Huang等)に記載されているような、ポリアルキレンオキシドセグメントを含む側鎖を有する繰り返し単位を含むポリマーを含む当該技術分野で既知の多数のポリマーバインダー材料から選択できる。他の有用な(d)ポリマーバインダーは、例えば、国際公開第2015-156065号(Kamiya等)に記載されているように、ポリアルキレンオキシドセグメントを含む異なる側鎖を有する2種類以上の繰り返し単位を含む。そのような(d)ポリマーバインダーのいくつかは、例えば米国特許第7,261,998号(Hayashi等)に記載されているようなペンダントシアノ基を有する繰り返し単位を更に含むことができる。
【0103】
いくつかの有用な(d)ポリマーバインダーは、粒状形態、すなわち、離散した非凝集粒子の形態で存在し得る。このような離散粒子は、少なくとも10nmかつ1500nm以下、又は典型的には少なくとも80nmかつ600nm以下の平均粒径を有することができ、一般的に放射感応性画像形成性層内に均一に分布している。例えば、1種又は複数の有用な(d)ポリマーバインダーは、少なくとも50nmかつ400nm以下の平均粒径を有する粒子の形態で存在することができる。平均粒径は、電子走査型顕微鏡画像において粒子を測定すること、及び設定数の測定値を平均することを含む様々な既知の方法によって測定することができる。
【0104】
いくつかの実施形態では、(d)ポリマーバインダーは、放射感応性画像形成性層の平均乾燥厚さ(t)よりも小さい平均粒径を有する粒子の形態で存在する。マイクロメートル(μm)単位の平均乾燥厚さ(t)は、次の式で計算する:
t=w/r
式中、wは、放射感応性画像形成性層の乾燥適用量g/m2であり、rは、1g/cm3である。例えば、そのような実施形態では、(d)ポリマーバインダーは、放射感応性画像形成性層の少なくとも0.05%かつ80%以下、又はより好適には少なくとも10%かつ50%以下を含むことができる。
【0105】
(d)ポリマーバインダーはまた、ポリアルキレンオキシドセグメントを含むペンダント基と同様に、複数(少なくとも2つ)のウレタン部分を含む主鎖を有することができる。
【0106】
他の有用な(d)ポリマーバインダーは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルアリール、及びアリル基等の重合性基、並びにカルボン酸等のアルカリ可溶性基を含むことができる。これらの有用な(d)ポリマーバインダーのいくつかは、米国特許出願公開第2015/0099229号(Simpson等)及び米国特許第6,916,595号(Fujimaki等)に記載されている。
【0107】
有用な(d)ポリマーバインダーは、一般に、ゲル浸透クロマトグラフィー(ポリスチレン標準)によって測定して、少なくとも2,000かつ500,000以下、又は少なくとも20,000かつ300,000以下の重量平均分子量(Mw)を有する。
【0108】
有用な(d)ポリマーバインダーは、様々な商業的供給源から入手することができるか、又は例えば上記の刊行物に記載されているように、既知の手順及び出発材料を使用して製造することができる。
【0109】
全(d)ポリマーバインダーは、放射感応性画像形成性層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも10重量%かつ70重量%以下の量で、又はより高い可能性として少なくとも20重量%かつ50重量%以下の量で放射感応性画像形成性層中に存在させることができる。
【0110】
当該分野で公知の他のポリマー材料((d)ポリマーバインダーとは異なる)が放射感応性画像形成性層中に存在し得、このようなポリマー材料は一般に上記の(d)ポリマーバインダーより親水性また又は疎水性である。そのような親水性ポリマーバインダーの例としては、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及び様々なけん化度のポリビニルアルコール等のセルロース誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。より疎水性のポリマーバインダーは、上記の(d)ポリマーバインダーよりも現像性が低く、典型的には7未満のpKaを有する全ての酸性基及びそれらの対応する塩について20mgKOH/g未満の酸価を有する。このような疎水性ポリマーバインダーは、バインダーの親水性に寄与し、ヒドロキシル基、-(CH2CH2-O)-及び-C(=O)NH2からなる群から選択されるセグメントを典型的には10重量%未満、より典型的には5重量%未満含有する。そのような疎水性ポリマーバインダーの例としては、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ベンジルメタクリレート)及びポリスチレンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0111】
放射感応性画像形成性層への追加の任意の添加剤は、当該技術分野で知られているように有機染料又は有機染料前駆体及びカラー現像剤を含むことができる。有用な有機染料又は有機染料前駆体としては、米国特許第6,858,374号(Yanaka)に記載されているような、酸解離性ラクトン骨格を有するラクトン骨格を有するフタリド及びフルオランロイコ染料が挙げられるが、これらに限定されない。このような任意の添加剤はプリントアウト着色剤として使用することができ、放射感応性画像形成性層の全乾燥重量を基準にして、少なくとも1重量%かつ10重量%以下の量で存在することができる。他の有用なプリントアウト着色剤は当技術分野において公知であり、例えば米国特許出願公開第2009/0047599号(Horne等)に記載されているように、アゾ染料、トリアリールメタン染料、シアニン染料及びスピロラクトン又はスピロラクタム着色剤を含み得る。
【0112】
放射感応性画像形成性層は、例えば米国特許第8,383,319号(Huang等)、第8,105,751号(Endo等)及び第9,366,962号(Kamiya等)に記載されているように、少なくとも2μm、又は少なくとも4μmかつ20μm以下の平均粒径を有する架橋ポリマー粒子を含むことができる。このような架橋ポリマー粒子は、放射感応性画像形成性層中にのみ存在し、存在する場合には親水性オーバーコート中にのみ存在し(以下に記載)、又は存在する場合には放射感応生画像形成性層及び親水性オーバーコートの両方に存在し得る。
【0113】
放射感応性画像形成性層はまた、分散剤、保湿剤、殺生物剤、可塑剤、適用性又は他の特性のための界面活性剤、増粘剤、pH調整剤、乾燥剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、現像助剤、レオロジー調整剤、若しくはそれらの組合せ、又は通常の量で、リソグラフィ技術分野で一般的に使用される任意の他の添加物を含むがこれらに限定されない。放射感応性画像形成性層はまた、米国特許第7,429,445号(Munnelly等)に記載されているように、一般に250より大きい分子量を有するホスフェート(メタ)アクリレートを含むことができる。
【0114】
親水性オーバーコート:
ネガ型平版印刷版前駆体のいくつかの実施形態では、放射感受性画像形成性層は、その上に層が配置されていない最外層であり、放射感応性画像形成性層上に直接配置された親水性層(当該技術分野では親水性オーバーコート、酸素障壁層、又はトップコートとしても知られている)を用いて原版を設計できることが可能である(これらの2層の間に中間層はない)。そのような前駆体は、以下に記載されるような任意の適切な現像剤を使用して機上でも機外でも現像することができる。存在する場合、この親水性オーバーコートは一般に原版の最外層である。
【0115】
そのような親水性オーバーコートは、親水性オーバーコートの総乾燥重量を基準にして少なくとも60重量%かつ100重量%以下の量の1種又は複数のフィルム形成水溶性ポリマーバインダーを含むことができる。そのようなフィルム形成性水溶性(又は親水性)ポリマーバインダーは、少なくとも30%、又は少なくとも75%、又は少なくとも90%、又は99.9%以下のけん化度を有する変性又は未変性ポリ(ビニルアルコール)を含むことができる。
【0116】
更に、1種又は複数の酸変性ポリ(ビニルアルコール)を親水性オーバーコート中のフィルム形成水溶性(又は親水性)ポリマーバインダーとして使用することができる。例えば、少なくとも1種の変性ポリ(ビニルアルコール)を、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル、ホスホン酸及びリン酸エステル基からなる群から選択される酸基で変性することができる。このような材料の例としては、これらに限定されないが、スルホン酸変性ポリ(ビニルアルコール)、カルボン酸変性ポリ(ビニルアルコール)、及び第四級アンモニウム塩変性ポリ(ビニルアルコール)、グリコール変性ポリ(ビニルアルコール)、又はそれらの組合せが包含される。
【0117】
親水性オーバーコートは、例えば米国特許第8,383,319号(Huang等)及び第8,105,751号(Endo等)に記載されているように、少なくとも2μmの平均粒径を有する架橋ポリマー粒子も含むことができる。
【0118】
親水性オーバーコートは、少なくとも0.1g/m2かつ4g/m2以下の乾燥適用量、典型的には少なくとも0.15g/m2かつ2.5g/m2以下の乾燥適用量で提供され得る。いくつかの実施形態では、乾燥コーティングの被覆量は0.1g/m2かつ1.5g/m2以下、又は少なくとも0.1g/m2かつ0.9g/m2以下と低くすることで、親水性オーバーコートは比較的薄くなる。
【0119】
親水性オーバーコートは、例えば米国特許出願公開第2013/0323643号(Balbinot等)に記載されているように、1種又は複数のフィルム形成水溶性(又は親水性)ポリマーバインダー内に分散された有機ワックス粒子を任意に含み得る。
【0120】
平版印刷版原版の製造
本発明の感放射性平版印刷版原版は、次のようにして得ることができる。上述の材料を含む放射感応性画像形成性層配合物は、スピンコーティング、ナイフコーティング、グラビアコーティング、ダイコーティング、スロットコーティング、バーコーティング、ワイヤーロッドコーティング、ローラーコーティング、又は押出ホッパーコーティング等の任意の適切な装置及び手順を使用して、上述のように通常連続基材ロール又はウェブで本発明の基材に適用することができる。放射感応性画像形成性層配合物はまた、適切な基材上に噴霧することによって適用することができる。典型的には、一旦、放射感応性画像形成性層配合物が適切な湿潤被覆率で適用されると、当該技術分野で既知の適切な方法で乾燥されて、下記の所望の乾燥被覆率を提供し、それにより、既知の製造方法を使用して個々の原版を製造することができるウェブ等の任意の適切な形態であり得る連続放射感応性物品を提供することができる。
【0121】
製造方法は、典型的には、特定の放射感応性画像形成性層の化学的性質に必要な様々な成分を適切な有機溶媒又はそれらの混合物[メチルエチルケトン(2-ブタノン)、メタノール、エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、γ-ブチロラクトン、n-プロパノール、テトラヒドロフラン、及び当分野で容易に知られている他のもの、並びにそれらの混合物]中で混合することを含み、得られた赤外線感応性画像形成性層配合物を連続基材ウェブに適用し、適切な乾燥条件下で蒸発させることによって溶媒を除去する。そのような製造上の特徴のさらなる詳細は、米国特許出願公開第2014/0047993号(上記)に記載されている。
【0122】
適切な乾燥後、本発明の基材上のネガ型感放射性画像形成性層(特に赤外線感応性のもの)の乾燥適用量は、一般に少なくとも0.1g/m2かつ4g/m2以下、又は少なくとも0.4g/m2かつ2g/m2以下であるが、必要ならば、他の乾燥被覆量を使用することができる。
【0123】
上述のように、いくつかのネガ型の原版の実施形態では、適切な水性親水性オーバーコート配合物を、既知のコーティング及び乾燥条件、機器及び手順を使用して、乾燥した放射感応性画像形成性層に適用することができる。
【0124】
実際の製造条件では、これらのコーティング操作の結果は、1つ又は複数の放射感応性画像形成性層及び上記の本発明の基材上に配置された上記の任意の層のいずれかを有する放射感応性平版印刷版原版材料の連続ウェブ又はロールである。
【0125】
個々の矩形の平版印刷版原版は、この結果得られた連続放射感応性ウェブ又はロールから、それぞれが矩形の平版印刷版原版の一次元に等しい幅を有する複数の長手方向のストリップを製造するよう切断することによって形成する。矩形の平版印刷版原版の他の寸法に等しい間隔におけるそれぞれのストリップを横断する横方向のカットを製造するために、長さ調整(cutting-to-length)プロセスを使用することによって、正方形又は矩形の形状を有する個々の原版を形成することができる。
【0126】
画像形成(露出)条件
使用中、本発明の放射感応性平版印刷版原版は、1つ又は複数の放射感応性画像形成性層に存在する放射吸収剤(又は増感剤)に応じて適切な放射源に露光することができる。例えば、ネガ型の平版印刷版原版のほとんどは、少なくとも750nmかつ1400nm以下、又は少なくとも800nmかつ1250nm以下の範囲内の有意な放射を放射する赤外線レーザーで画像形成することができる。しかしながら、いくつかのネガ型の平版印刷版原版は、適切な画像形成のための放射源(例えば、250nmから750nm未満)を使用して電磁スペクトルのUV、「バイオレット」、又は可視領域で画像形成することができる。そのような画像様露光の結果は、1つ又は複数の放射感応性画像形成性層に露光領域及び非露光領域を提供することである。
【0127】
画像形成は、放射発生レーザー(又はそのようなレーザーのアレイ)からの放射を画像形成又は露光照射することを使用して実施することができる。画像形成は、所望ならば、同時に複数の波長の画像形成放射を使用して、例えば複数の赤外線波長を使用して実施することもできる。原版を露光するために使用するレーザーは、ダイオードレーザーシステムの信頼性及び低い保守性のために、通常、ダイオードレーザーであるが、気体又は固体レーザーのような他のレーザーもまた使用し得る。放射画像形成のための出力、強度及び露光時間の組合せは当業者には容易に明らかであろう。
【0128】
画像形成装置は、フラットベッドレコーダー又はドラムレコーダーとして構成することができ、放射感応性平版印刷版原版をドラムの内側又は外側円筒面に取り付ける。有用な赤外線画像形成装置の例は、約830nmの波長の放射を放射するレーザーダイオードを含むKODAK(登録商標)Trendsetterプレートセッター(Eastman Kodak Company社)及びNEC AMZISetter X-シリーズ(NEC Corporation、日本)のモデルとして入手可能である。他の適切な赤外線画像形成装置には、810nmの波長で作動する、Screen PlateRite 4300シリーズ又は8600 シリーズのプレートセッター(イリノイ州シカゴのScreen USAから入手可能)又はPanasonic Corporation社(日本)から入手可能なサーマルCTPプレートセッターが含まれる。
【0129】
赤外線画像形成エネルギーは、赤外線感応性画像形成性層の感度に応じて、少なくとも30mJ/cm2かつ500mJ/cm2以下、及び典型的に、少なくとも50mJ/cm2及び300mJ/cm2以下であり得る。
【0130】
有用なUV及び「バイオレット」画像形成装置には、Prosetter(ドイツ国、Heidelberger Druckmaschinen社)、Luxel V8/V6シリーズ(日本、Fuji社)、Python(英国、Highwater社)、MakoNews, Mako 2, and Mako 8(米国、ECRM社)、Micro(日本、Screen社)、Polaris and Advantage(ベルギー、AGFA社)、LS Jet (Multiformat)及びSmart 'n' Easy Jet(ドイツ国、Krause社)及びVMAXシリーズ(ドイツ国、DotLine社)のイメージセッターが挙げられる。
【0131】
電磁スペクトルのUV~可視領域、特にUV領域(250nm~450nm)での画像形成は、少なくとも0.5kW/cm3及び50kW/cm3以下の出力密度において、少なくとも0.01mJ/cm2及び0.5mJ/cm2以下のエネルギーを用いて実施することができる。
【0132】
処理(現像)及び印刷
露光されたネガ型の原版:
画像様露光後、放射感応性画像形成性層に露光領域と非露光領域とを有する露光されたネガ型の放射感応性平版印刷版原版を適切な方法で処理し、存在する場合には非露光領域及び親水性オーバーコートを除去することができ、硬化した露出領域を損なわずにしておくことができる。
【0133】
処理は、同じ又は異なる処理溶液(現像剤)の1回又は複数回の連続した適用(処理又は現像工程)において任意の適切な現像剤を使用してオフプレス(off-press)で行うことができる。そのような1回又は複数回の連続したプロセス処理は、本発明の基材の最も外側の親水性の表面を露出させるために放射感応性画像形成性層の非露光領域を除去するのに十分な時間にわたって行うことができるが、同じ層で硬化したかなりの量の露出領域を除去するのに十分な長さではない。平版印刷中、本発明の基材の露出した親水性の表面はインキをはじく一方、残りの露光領域は平版印刷インキを受容する。
【0134】
このようなオフプレス処理の前に、露光した原版を「予熱」工程に供して、放射感応性画像形成性層の露光領域を更に硬化させることができる。このような任意の予備加熱は、一般に少なくとも60℃及び180℃以下の温度で任意の既知の方法及び装置を使用して実施することができる。
【0135】
この任意の予熱に続いて、又は予熱の代わりに、露出した原版を洗浄(すすぎ)して、存在する親水性オーバーコートを除去することができる。そのような任意の洗浄(又はすすぎ)は、任意の適切な水溶液(水又は界面活性剤の水溶液等)を使用して適切な温度でかつ当業者には容易に明らかとなる適切な時間にわたって実施することができる。
【0136】
有用な現像剤は普通の水又は配合した水溶液であり得る。配合した現像剤は、界面活性剤、有機溶媒、アルカリ剤及び表面保護剤から選択される1種又は複数の成分を含むことができる。例えば、有用な有機溶媒は、フェノールと、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドとの反応生成物[エチレングリコールフェニルエーテル(フェノキシエタノール)等の]、ベンジルアルコール、エチレングリコール及びプロピレングリコールと、6個以下の炭素原子を有する酸とのエステル、及びエチレングリコール、ジエチレングリコールのエーテル、及び2-エチルエタノール及び2-ブトキシエタノール等の炭素数6以下のアルキル基を有するプロピレングリコールのエーテルを包含する。
【0137】
場合によっては、水性処理液をオフプレスで使用して、非露光領域を除去することによって画像形成された原版を現像すると共に画像形成され現像された(処理された)原版印刷表面全体に保護層又はコーティングを施すことができる。この実施形態では、水溶液は、印刷版上の平版画像を(例えば、酸化、指紋、ほこり、又は引掻きからの)汚染又は損傷から保護(又は「ゴム状化」)することができるゴムのように幾分挙動する。
【0138】
記載したオフプレス処理及び任意の乾燥の後、得られた平版印刷版は、追加の溶液又は液体と接触させることなく印刷機に取り付けることができる。UV又は可視光線へのブランケット又はフラッド様露光の有無にかかわらず、平版印刷版を更に焼成することは任意である。
【0139】
平版印刷インキ及び湿し水を平版印刷版の印刷面に適当な方法で適用することによって印刷を行うことができる。湿し水は、露光及び処理工程によって露出した本発明の基材の親水性の表面によって吸収され、平版インキは放射感応性画像形成性層の残りの(露光した)領域によって吸収される。次いで、平版印刷用インキを適切な受容材料(布、紙、金属、ガラス又はプラスチック等)に転写して、その上に画像の所望の印象を与える。所望ならば、中間の「ブランケット」ローラーを使用して平版印刷版から受像材料(例えば紙のシート)に平版インキを転写することができる。
【0140】
機上現像及び印刷:
或いはまた、本発明のネガ型の平版印刷版原版は、平版印刷インキ、湿し水又は平版印刷インキと湿し水との組合せを用いて機上現像可能である。そのような実施形態では、本発明による画像形成された放射感応性平版印刷版原版を印刷機に取り付けて、印刷操作を開始する。最初の印刷された印象を作製したとき、放射感応性画像形成性層中の非露光領域は、適切な湿し水、平版印刷インキ又はその両方の組合せによって除去される。湿し水水溶液の典型的な成分には、pH緩衝剤、減感剤、界面活性剤及び湿潤剤、湿潤剤、低沸点溶媒、殺生物剤、消泡剤及び金属イオン封鎖剤が含まれる。湿し水の代表例は、Varn Litho Etch 142W+Varn PAR(アルコールサブ)(イリノイ州のVarn International、Addison社から入手可能)である。
【0141】
枚葉印刷機を用いた典型的な印刷機の始動においては、湿しローラーが最初に係合され、湿し水を、装着し、画像形成された原版に供給して少なくとも非露光領域において露光された放射感応性画像形成性層を膨潤させる。数回転後、インキ着けローラーを係合し、それらは平版印刷版の印刷面全体を覆うために平版印刷インキを供給する。典型的には、インキ着けローラーの係合後5~20回転以内に、印刷シートを供給して、形成されたものを使用して、もし存在する場合には、形成されたインキ-湿し水エマルジョンを使用して、平版印刷版からブランケットシリンダー上の材料と同様に放射感応性画像形成性層の非露光領域を除去する。
【0142】
赤外線露光した平版印刷原版の機上現像性は、原版が赤外線感応性画像形成性層中に1種又は複数のポリマーバインダーを含む場合に特に有用であり、少なくとも1種のポリマーバインダーは、少なくとも50nmかつ400nm以下の平均直径を有する粒子として存在する。
【0143】
本発明は、少なくとも以下の実施形態及びそれらの組合せを提供するが、当業者がこの開示の教示から理解するであろうことのように、特徴の他の組合せは本発明の範囲内にあると考えられる。
【0144】
1.砂目立て及びエッチングした平坦な表面を有するアルミニウム含有プレートと;
砂目立て及びエッチングした平坦な表面上に配置した内側の酸化アルミニウム層であり、少なくとも650nmかつ3,000nm以下の平均乾燥厚さ(Ti)を有し;15nm以下の平均内側微小孔径(Di)を有する多数の内側微小孔を含む、内側の酸化アルミニウム層と;
内側の酸化アルミニウム層上に配置された外側の酸化アルミニウム層であり、少なくとも15nmかつ30nm以下の平均外側微小孔径(Do)を有する多数の外側微小孔を含み;少なくとも130nmかつ650nm以下の平均乾燥厚さ(To)を有し;少なくとも500かつ3,000個以下の微小孔/μm2の微小孔密度(Co)を有し;ここで、平均外側微小孔径(Do)対平均内側微小孔径(Di)の比は1.1:1よりも大きく、ナノメートル単位の平均外側微小孔径(Do)及び微小孔の個数/μm2単位の微小孔密度(Co)は、以下の式
0.3≦Po≦0.8
(式中、Poは、3.14(Co)(Do 2)/4,000,000と定義される。)
に従う外側の酸化アルミニウム層の多孔度(Po)によって更に制約される、外側の酸化アルミニウム層と;
1種又は複数の親水性有機ポリマーを含む親水性層であり、少なくとも0.0002g/m2かつ0.1g/m2以下の乾燥被覆量で外側の酸化アルミニウム層上に直接配置される親水性層と
を含む、基材。
【0145】
2.外側の酸化アルミニウム層が、その中に埋設されたリン酸アルミニウムを含む、実施形態2の基材。
【0146】
3.平坦な表面を有する基材と、
基材の平坦な表面上に配置された放射感応性画像形成性層と
を含む平版印刷版原版であって、
該基材が、
砂目立て及びエッチングした平坦な表面を有するアルミニウム含有プレートと;
砂目立て及びエッチングした平坦な表面上に配置された内側の酸化アルミニウム層であり、少なくとも650nmかつ3,000nm以下の平均乾燥厚さ(Ti)を有し;15nm以下の平均内側微小孔径(Di)を有する多数の内側微小孔を含む、内側の酸化アルミニウム層と;
内側の酸化アルミニウム層上に配置された外側の酸化アルミニウム層であり、少なくとも15nmかつ30nm以下の平均外側微小孔径(Do)を有する多数の外側微小孔を含み;少なくとも130nmかつ650nm以下の平均乾燥厚さ(To)を有し;少なくとも500かつ3,000個以下の微小孔/μm2の微小孔密度(Co)を有し、ここで、平均外側微小孔径(Do)対平均内側微小孔径(Di)の比は1.1:1よりも大きく、ナノメートル単位の平均外側微小孔径(Do)及び微小孔の個数/μm2単位の微小孔密度(Co)は、以下の式
0.3≦Po≦0.8
(式中、Poは、3.14(Co)(Do 2)/4,000,000と定義される。)
に従う外側の酸化アルミニウム層の多孔度(Po)によって更に制約される、外側の酸化アルミニウム層と;
1種又は複数の親水性有機ポリマーを含む親水性層であり、少なくとも0.0002g/m2かつ0.1g/m2以下の乾燥被覆量で外側の酸化アルミニウム層上に直接配置される親水性層と
を含む、平版印刷版原版。
【0147】
4.外側の酸化アルミニウム層が、少なくとも150nmかつ400nm以下の平均乾燥厚さ(To)を有する、実施形態1から3のいずれか一つ。
【0148】
5.上記の内側の酸化アルミニウム層が、少なくとも700nmかつ1500nm以下の平均乾燥厚さ(Ti)を有する、実施形態1から4のいずれか一つ。
【0149】
6.次の式が維持される、実施形態1から5のいずれか一つ。
0.3≦Po≦0.6
【0150】
7.平均外側微小孔径(Do)対平均内側微小孔径(Di)の比が少なくとも1.5:1である、実施形態1から6のいずれか一つ。
【0151】
8.上記の親水性層が、1種又は複数の水溶性有機ポリマーを含み、水溶性有機ポリマーのうちの少なくとも1つは、アクリル酸若しくはメタクリル酸、又はアクリル酸及びメタクリル酸の両方に由来する繰り返し単位を含む、実施形態1から7のいずれか一つ。
【0152】
9.上記の親水性層中の1種又は複数の水溶性有機ポリマー中の繰り返し単位の少なくとも50モル%が、アクリル酸若しくはメタクリル酸のどちらか、又はアクリル酸及びメタクリル酸の両方から誘導される、実施形態8。
【0153】
10.放射感応性画像形成性層が赤外線に対して感応性であり、1種又は複数の赤外線吸収剤を含む、実施形態3から9のいずれか一つ。
【0154】
11.放射感応性画像形成性層がネガ型であり、
(a)1種又は複数のフリーラジカル重合性成分;
(b)放射感応性画像形成性層を放射に露光するとフリーラジカルを提供する開始剤組成物;
(c)1種又は複数の放射吸収剤;及び任意に
(d)(a)、(b)、及び(c)の全てと異なるポリマーバインダー、
を含む、実施形態1から10のいずれか一つ。
【0155】
12.上記の放射感応性画像形成性層が赤外線輻射線感応性であり、上記の1種又は複数の放射吸収剤が1種又は複数の赤外線吸収剤を含む、実施形態11。
【0156】
13.放射感応性層がネガ型であり、機上現像可能である、実施形態11又は12。
【0157】
14.放射感応性層が、粒状形態の(d)ポリマーバインダーを更に含む、実施形態3から13のいずれか一つ。
【0158】
15.上記の放射感応性画像形成性層の上に配置された親水性オーバーコートを更に含む、実施形態3から14のいずれか一つ。
【0159】
16.上記の外側の酸化アルミニウム層が、その中に埋設されたリン酸アルミニウムを含む、実施形態3から15のいずれか一つ。
【0160】
17.実施形態3から16のいずれか一つに記載の平版印刷版原版を、露光領域と非露光領域とを有する画像様露光した画像形成性層を形成するために画像形成性放射に画像様露光する工程、及び
平版印刷版を形成するために、画像様露光した画像形成性層から、露光領域又は非露光領域のいずれかを除去するが、露光領域及び非露光領域の両方を除去しない工程、
を含む、平版印刷版を提供する方法。
【0161】
18.上記の画像様露光した画像形成性層中の非露光領域を除去する、実施形態17に記載の方法。
【0162】
19.上記の画像様露光した画像形成性層中の非露光領域を、平版印刷インキ、湿し水、又は平版印刷インキ及び湿し水の両方を用いて機上で除去する、実施形態17又は18に記載の方法。
【0163】
20.画像様露光を赤外線を用いて行う、実施形態17から19のいずれか一つに記載の方法。
【0164】
21.実施形態3から16のいずれか一つに記載の製造方法であって、
電気化学的又は機械的に砂目立て及びエッチングした平坦な表面を有するアルミニウム含有プレートを用意する工程;
アルミニウム含有プレートを第1の陽極酸化プロセスに供して、電気化学的又は機械的に砂目立て及びエッチングした平坦な表面上に外側の酸化アルミニウム層を形成する工程であって、外側の酸化アルミニウム層は:少なくとも15nmかつ30nm以下の平均外側微小孔径(Do)を有する多数の外側微小孔を含み;少なくとも130nmかつ650nm以下の平均乾燥厚さ(To)を有し;少なくとも500個かつ3,000個以下の微小孔/μm2の微小孔密度を有し;ここで、ナノメートル単位の平均外側微小孔径(Do)及び微小孔の個数/μm2単位の微小孔密度(Co)は、以下の式
0.3≦Po≦0.8
(式中、Poは、3.14(Co)(Do 2)/4,000,000と定義される。)
に従う、外側の酸化アルミニウム層の多孔度(Po)によって更に制約される、工程;
外側の酸化アルミニウム層を洗浄する工程;
アルミニウム含有プレートを第2の陽極酸化処理に供して、外側の酸化アルミニウム層の下に内側の酸化アルミニウム層を形成する工程であって、少なくとも650nmかつ3,000nm以下の平均乾燥厚さ(Ti)を有し;15nm以下の平均内側微小孔径(Di)を有する多数の内側微小孔を含み、ここで、平均外側微小孔径(Do)対平均内側微小孔径(Di)の比は1.1:1よりも大きい、工程;
外側の酸化アルミニウム層及び内側の酸化アルミニウム層を洗浄する工程;
1種又は複数の親水性有機ポリマーを含む親水性層を少なくとも0.0002g/m2かつ0.1g/m2以下の乾燥被覆量で外側の酸化アルミニウム層上に直接提供する工程;及び
親水性層上に放射感応性画像形成性層を直接形成する工程、
を順に含む、実施形態3から16のいずれか一つに記載の方法。
【0165】
22.第1の陽極酸化処理をリン酸を用いて行う、実施形態21に記載の方法。
【0166】
23.実施形態21又は22に記載の方法から得られる平版印刷版原版。
【0167】
以下の実施例は、本発明の実施を例示するために提供されるものであり、いかなる形であれ限定することを意味するものではない。
【実施例
【0168】
(実施例1~31)
本発明の実施例1~31で使用する本発明のアルミニウム含有基材を、上記の一般的なプロセスに従って製造した。厚さ0.28mmのHydro 1052アルミニウム合金ストリップ又はウェブ(ノルウェー、Norsk Hydro ASA社から入手可能)をアルミニウム含有「プレート」ストック又はサポートとして使用した。エッチング前とエッチング後の両方の工程は、既知の条件下でアルカリ溶液で実行した。粗面化(又は砂目立て)は、アルミニウム含有支持体の平面上で計算上の平均粗さ(Ra)0.5μmを得るために、約23℃の塩酸溶液中で電気化学的手段により実行した。これらの処理工程は、平版印刷版原版の製造に使用される典型的な製造ラインで連続プロセスで実行した。次いで、得られた砂目立て及びエッチングしたアルミニウム含有支持体を水で洗浄し、乾燥させ、個々の砂目立て及びエッチングしたアルミニウム含有シートに切断した。次に、各個々のシートを2回陽極酸化し、各陽極酸化処理浴には約100リットルの陽極酸化溶液が含まれていた。本発明の実施例1~31のそれぞれの第1及び第2の陽極酸化条件を以下の表Iに示す。外側の酸化アルミニウム層を形成するための最初の陽極酸化プロセスは、電解質としてリン酸を使用して実行し、内側の酸化アルミニウム層を形成するための第2の陽極酸化プロセスは、電解質として硫酸を使用して実行した。
【0169】
【表1A】
【0170】
【表1B】
【0171】
第1及び第2の陽極酸化プロセスによって提供された各酸化アルミニウム層の微小孔構造を、Hitachi S4100で50,000~150,000倍の倍率で実施されたFE-SEM顕微鏡法によって評価した。SEM顕微鏡写真の上面図は、基材の外面に対して垂直に撮った。各基材の少量のサンプルを180°曲げて破断縁部を検査することにより、断面SEM顕微鏡写真を基材の外面に平行に撮影した。内側及び外側の酸化アルミニウム層のそれぞれの乾燥平均層厚さTi及びToは、いくつかの断面画像から測定され、乾燥平均層厚さを各発明例基板について下記の表IIに示す。
【0172】
基材中の内側の酸化アルミニウム層の内側微小孔径は、断面SEM顕微鏡写真から推定した。外側の酸化アルミニウムの外側微小孔径は、SEM顕微鏡写真の上面図から決定された。異なる試料の位置で撮影した3つのSEM顕微鏡写真の上面図において200個の微小孔から平均外側微小孔径(Do)を測定し、表IIに示す。その外側表面における外側の酸化アルミニウム層の平均外側微小孔径(Do)は、その外側表面の下における平均外側微小孔径(Do)と本質的に同じであることが確認された。この評価は、スパッタビーム(Ar+イオン)を、一定時間、表面法線に対して45°の角度で本発明の基材の試料に向けたスパッタリング処理によって外側の酸化アルミニウム層の最も外側の50nmを除去した後に追加の上面SEM顕微鏡写真を撮ることによって行われた。SEM観察領域内の表面にわたって均一な除去を達成するために、本発明の基材試料を90°回転させた後、スパッタリング処理をそれぞれ3回繰り返した。
【0173】
図1は、内側及び外側の陽極酸化層の両方を有する、本発明に従って製造した代表的な本発明の基材のSEM画像である。TiがToよりはるかに大きいことは明らかである。
【0174】
外側の酸化アルミニウム層の微小孔密度(Co)は、SEM顕微鏡写真の平面図において本発明の基材の投影した表面積当たりの微小孔を数えることによって測定した。外側の酸化アルミニウム層の多孔度は、本発明の基材の最表面に平行に投影した表面積に対する、微小孔で覆われたSEM顕微鏡写真の平面図における面積として定義される。10nmより小さい微小孔径の場合、SEMの解像度は信頼性のある結果を達成するのに十分に高くはなく、したがって内側の微小孔密度及び内側の酸化アルミニウム層の多孔度に関する情報は提供していない。
【0175】
【表2A】
【0176】
【表2B】
【0177】
このようにして得られた砂目立て、エッチング及び陽極酸化した基材のそれぞれを更に処理し(「後処理」としても知られる)、以下の表IIIに示す有機ポリマー成分及び水を有する親水性層配合物を使用して外側の酸化アルミニウム層上に方向付けた親水性層を提供し、バーコーターを用いて適用し;120℃で40秒間乾燥し;その後、20~27℃に冷却し、その結果、0.03g/m2の親水性層乾燥被覆量をもたらした。これらの実施例ではケイ酸塩処理は用いなかった。
【0178】
【表3】
【0179】
本発明の実施例1~31において、バーコーターを使用して、50℃で60秒間乾燥した後に0.9g/m2の乾燥コーティング量の放射感応性画像形成性層を提供し、下記の表IV及び表Vに記載の成分を有するネガ型の放射感応性画像形成性層の配合物で上記の対応する本発明の基材を被覆することによってネガ型の平版印刷版原版を製造した。
【0180】
【表4】
【0181】
【表5A】
【0182】
【表5B】
【0183】
本発明の各平版印刷版原版を、下記の試験方法を用いて耐刷性、機上現像性及び耐引掻性について評価し、その結果を下記の表VIに示す。
【0184】
耐刷性評価:
耐刷性を評価するために、各平版印刷版原版をTrendsetter 800 III Quantum(Eastman Kodak Company社から入手可能)を使用して150mJ/cm2で画像様露光し、次にFavourit 04印刷機(Man Roland社から入手可能)に間の現像工程なしでマウントした。換言すると、それぞれをVarn Supreme 6038 + Par湿し水とGans Cyan印刷インキで操作した印刷機を使用してオンプレスで現像した。耐刷試験は、得られた各平版印刷版を用いて10万刷りまで行った。印刷が進行するにつれて、平版印刷版は徐々に磨耗した。
【0185】
各平版印刷版の「耐刷性」とは、50% FM20スクリーンにおける印刷用紙の色調値が、1000枚目ので得られた色調値の70%以下に減少する前の印刷用紙の枚数として定義される。色調値の測定のために、Techkon Spectro Dens分光濃度計を使用し、結果を以下のように採点した:
A:80,000枚以上
B:60,000枚以上であるが、80,000枚未満
C:40,000枚以上であるが、60,000枚未満
D:12,000枚以上であるが、40,000枚未満
E:12,000枚未満
【0186】
機上現像性:
機上現像性を耐刷試験と同じ露光及び印刷機条件下で評価したが、各平版印刷版について最初の1000枚の印刷シートのみを評価し、各原版をフル印刷版上で150mJ/cm2に代えて、50mJ/cm2~300mJ/cm2の異なるエネルギーでセグメントに露光した。最初の10回転では、印刷機を湿し水のみで操作し、その後平版インキを平版印刷版に供給し、印刷用紙を機械に供給した。機上現像プロセスの間、放射感応性画像形成性層の非露光領域が最初に平版インキを印刷シートに転写された。非露光領域(非画像領域に対応する)の印刷シート上の平版インキ濃度が裸眼で見えなくなり、次のように点数を付けたときに機上現像を終了した:
A:5枚以下の紙で現像終了
B:5枚以上であるが、10枚の紙で現像終了
C:10枚超であるが、15枚以下の紙で現像終了
D:15枚超であるが、50枚以下の紙で現像終了
E:50枚超の紙で現像終了
【0187】
耐引掻性:
耐引掻性を評価するために、ヘビーデューティー精練パッド(家庭用掃除用に市販されている)を直径50nmの円形の重りの下に配置し、600mm×200mmの長方形に切断した各平版印刷版原版の放射感応性画像形成性層側面にわたって0.2/秒の一定速度で引っ張った。100g、300g、600g、900g及び1200gの範囲で変動する重量を用いて、各平版印刷版原版の異なる領域に対してこの手順を繰り返した。その後、原版を20℃で60秒間、100mlのCuSO4溶液に浸漬し、ここで、CuSO4は、引っかき傷中に露出した裸のアルミニウム金属と反応し、それらを褐色にした。CuSO4溶液は、151gのCuSO4*5H2Oを800mlの1.0モル濃度のHClに溶解し、次いで得られた溶液を等量の脱イオン水で希釈することによって得た。このようにして処理した各平版印刷版原版を目視で評価し、個々の褐色傷の総個数を測定し、ここで、1つのおもりを用いた1回の走行で10個以下の傷を実際の数として記録し、1つのおもりを用いた1つの走行で10個を超える傷を「20」として数えた。評価には以下の採点方法を使用した:
A:30個未満の引掻
B:30個以上であるが、40個未満の引掻
C:40個以上であるが、50個未満の引掻
D:50個以上であるが、70個未満の引掻
E:70以上の引掻
【0188】
エッジバーン傾向:
本発明の基材表面の色の変化により、酸化物層の厚さの違いを目視で容易に評価することができるので、エッジバーン傾向を光学的に試験した。評価を以下のように採点した。
A:プレートは完全に滑らかで規則的に見える。エッジバーンの様子はない。
C:プレート上に非常にわずかな不規則性(ほとんど見えない)
E:深刻な不規則性
【0189】
【表6A】
【0190】
【表6B】
【0191】
上記表VIに示した結果は、本発明実施例1~31の平版印刷版原版が、画像形成後の優れた耐刷性、機上現像性及び耐引掻性を示しながらも、エッジバーンの傾向を示さなかったことを示している。15nm未満の平均内側微小孔径(Di)及び少なくとも650nmの平均乾燥厚さ(Ti)を有する各内部酸化アルミニウム層が、所望の耐引掻性の原因となると考えられる。更に、一般的に、内側の酸化アルミニウム層が厚いほど、観察される耐引掻性が良好になることが分かる。
【0192】
本発明の実施例1~31の平版印刷版原版の優れた耐刷性及び機上現像性は、少なくとも部分的には、少なくとも15nmかつ30nm以下の平均外側微小孔径(Do)、少なくとも30%かつ80%以下の空隙率(Po)、及び少なくとも150nmの平均乾燥厚さ(To))を有していた外側の酸化アルミニウム層の多孔質構造からもたらされると考えられる。
【0193】
(比較例1~50)
砂目立て及びエッチングした基材を下記の表VIIに記載したパラメーターを用いて陽極酸化したことを除いて、比較例1~50としてラベル付けされた比較平版印刷版基材及び原版を、本発明例1~31について上述したのと同じ方法で製造した。比較例30~35では、第2の陽極酸化処理は行わなかった。比較例41~50では、微小孔拡大工程は、外側の酸化アルミニウム層をアルカリ性溶液でエッチングすることによって、第1の陽極酸化処理後及び第2の陽極酸化処理前に行った。
【0194】
表VIIにおいて、パラメーターは以下のように識別される。
A1=電解質
A2=電解質濃度(g/リットル)
A3=温度(℃)
A4=電流密度(A/dm2)
A5=時間(秒)
A6=電荷密度(C/dm2)
B1=電解質
B2=電解質濃度(g/リットル)
B3=温度(℃)
B4=時間(秒)
C1=電解質
C2=電解質濃度(g/リットル)
C3=温度(℃)
C4=電流密度(A/dm2)
C5=時間(秒)
C6=電荷密度(C/dm2)
【0195】
【表7A】
【0196】
【表7B】
【0197】
【表7C】
【0198】
【表7D】
【0199】
比較例1~50のために製造した平版印刷版基材を、本発明例1~31の本発明の基材を評価するために上記で適用したのと同じ技術を使用して評価し、測定した構造的特徴を以下の表VIIIに示す。
【0200】
【表8A】
【0201】
【表8B】
【0202】
NA-1:内側の酸化アルミニウム層がないために適用できない;
NA-2:外側の酸化アルミニウム層中の微小孔径は、微小孔密度を測定し多孔率を計算するには小さすぎる;
NA-3:外側の酸化アルミニウム層は、微小孔拡大処理によって深刻な損傷を受けたので、微小孔径及び微小孔密度を測定することは不可能であった。
【0203】
比較例1~50の平版印刷版原版を、本発明の実施例1~31について上記した親水性層調合物及びネガ型の放射感応性画像形成性層配合物を適用することによって上記した対応する基材を使用して製造した。得られた平版印刷版原版を(適切なときに)画像様露光し、本発明の実施例1~31に関して上記したのと同じ手順及び評価試験を用いて評価した。これらの評価の結果を以下の表IXに示す。
【0204】
【表9A】
【0205】
【表9B】
【0206】
本発明の範囲外である比較例1~50について表IXに示された結果は、本発明の基材を含む本発明の実施例1~31から得られた結果を超える、各比較例の原版についての1つ又は複数の欠点を明らかにする。比較例17~25と識別される原版は、満足できる耐引掻性を示さなかった。これらの原版は、非常に小さい平均内側微小孔径(Di)(<10nm)及び650nm未満の平均乾燥厚さ(Ti)を有する内側の酸化アルミニウム層を有する基材を用いて誘導された。比較例30~35では、内側の酸化アルミニウム層が形成されていないため、耐引掻性が不十分であった。内側の酸化アルミニウム層の省略を、外側の酸化アルミニウム層の平均乾燥厚さ(To)を増加させることで補償することができないことは明らかである。外側酸化アルミニウム層の平均外径微小孔径(D0)は、画像様露光された原版の機上現像性に重要である。平均外側微小孔径(Do)が、比較例36~40の基材のように小さすぎる、或いは比較例8~16、20、24~29及び50で使用される基材のように大きすぎる場合、画像様露光した原版の機上現像性は不十分である。また、比較例1~7、9、10、41~46、及び48~50で使用した基材の場合のように、外側の酸化アルミニウム層の平均乾燥層厚さ(To)が小さすぎると、原版の耐刷性が低下する。
【0207】
比較例41~50では、水酸化ナトリウム溶液を用いた微小孔拡大工程、及び米国特許第8,783,179B2号(Kurokawa等)、及び欧州特許出願公開第2,878,452A1号(Tagawa等)及び第2,808,173A1号(Namba等)に記載されている手順と同様の手順で、外側の酸化アルミニウム層の微小孔を拡大し、次いで内側の酸化アルミニウム層を外側の酸化アルミニウム層の下に形成した。比較例45では、微小孔拡大工程の間に外側の酸化アルミニウム層のほぼ完全な溶解が起こった。一般に、別々の陽極酸化処理の間に微小孔拡大処理を用いた比較例は、十分な耐刷性又は機上現像性を示さなかった。これらの比較例は、望ましくない平均外側微小孔径、乾燥外側層厚又は外側の酸化アルミニウム層の多孔度のために本発明の範囲外である。
図1