(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】タンパク質nog1の植物収量と一穂粒数の調節への応用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/29 20060101AFI20220215BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20220215BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20220215BHJP
C07K 14/415 20060101ALI20220215BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220215BHJP
C12N 15/82 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
C12N15/29
A01H1/00 A ZNA
A01H5/10
C07K14/415
C12N15/113 Z
C12N15/82 Z
(21)【出願番号】P 2019555031
(86)(22)【出願日】2017-08-16
(86)【国際出願番号】 CN2017097608
(87)【国際公開番号】W WO2018184333
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2020-06-03
(31)【優先権主張番号】201710220258.6
(32)【優先日】2017-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】310006202
【氏名又は名称】チャイナ アグリカルチュラル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】チュアンチン・スン
(72)【発明者】
【氏名】シン・フォ
(72)【発明者】
【氏名】ルービン・タン
(72)【発明者】
【氏名】フォンシァ・リウ
(72)【発明者】
【氏名】ヨンツァイ・フー
(72)【発明者】
【氏名】ズゥオフォン・ヂュ
(72)【発明者】
【氏名】ピン・グー
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0325706(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0123343(US,A1)
【文献】特表2016-506731(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103215303(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101781658(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103880936(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a1)、a2)、a3)又はa4)であるタンパク質nog1の植物収量及び/又は一穂粒数の調節への使用であって、前記植物がイネである使用。
a1)アミノ酸配列が配列表における配列番号2に示されるタンパク質、
a2)配列表における配列番号2に示されるタンパク質のN端及び/又はC端にタグを接続した融合タンパク質、
a3)配列表における配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して1つ又は複数のアミノ酸残基が置換及び/又は欠失及び/又は付加した、植物収量及び/又は一穂粒数に関するタンパク質、
a4)a1)で定義されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するタンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質nog1をコードする核酸分子の植物収量及び/又は一穂粒数の調節への使用
であって、前記植物がイネである使用。
【請求項3】
前記核酸分子が以下のb1)、b2)、又はb3)で表されるDNA分子であり、前記植物がイネであることを特徴とする請求項2に記載の使用。
b1)コード領域が配列表における配列番号1に示されるDNA分子、
b2)ヌクレオチド配列が配列表における配列番号1に示されるDNA分子、
b3)b1)又はb2)で定義されるヌクレオチド配列と90%以上の同一性を有し、請求項1に記載のタンパク質nog1をコードするDNA分子。
【請求項4】
前記植物収量の調節が植物の一株収量の調節であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記植物の一穂粒数の調節が植物の主茎の一穂粒数及び/又は平均一穂粒数の調節であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記植物が
、インディカ米
であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
遺伝子組換え植物甲の育成方
法、又は遺伝子組換え植物乙の育成方
法を含む植物収量及び/又は一穂粒数を調節するための方法であって、
前記遺伝子組換え植物甲の育成方
法は、タンパク質nog1をコードする核酸分子を受容体植物甲に導入し、遺伝子組換え植物甲を得る工程であって、前記受容体植物甲に比べて、前記遺伝子組換え植物甲は、収量及び/又は一穂粒数が増加する工程を含み、
前記遺伝子組換え植物乙の育成方
法は、受容体植物乙にタンパク質nog1の発現を抑制する物質を導入し、遺伝子組換え植物乙を得る工程であって、前記受容体植物乙に比べて、前記遺伝子組換え植物乙は、収量及び/又は一穂粒数が減少する工程を含み、
前記植物がイネであり、
前記タンパク質nog1が下記のa1)、a2)、a3)又はa4)である方法。
a1)アミノ酸配列が配列表における配列番号2に示されるタンパク質、
a2)配列表における配列番号2に示されるタンパク質のN端及び/又はC端にタグを接続した融合タンパク質、
a3)配列表における配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して1つ又は複数のアミノ酸残基が置換及び/又は欠失及び/又は付加した、植物収量及び/又は一穂粒数に関するタンパク質、
a4)a1)で定義されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するタンパク質。
【請求項8】
前記遺伝子組換え植物甲の育成方
法において、前記「タンパク質nog1をコードする核酸分子を受容体植物甲に導入する」ことは、受容体植物甲に組換えベクター甲を導入することにより実現され、前記組換えベクター甲は、発現ベクターに前記タンパク質nog1をコードする核酸分子を挿入して得られた組換えプラスミドであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝子組換え植物乙の育成方
法において、前記「タンパク質nog1の発現を抑制する物質」は、特異的DNA分子、前記特異的DNA分子を含む発現カセット又は前記特異的DNA分子含有組換えプラスミドであり、
前記特異的DNA分子は、
配列表の配列番号1の5’末端から第155位~第522位で表されるDNA分子の逆相補的配列であるセンス断片、
配列表の配列番号1の5’末端から第161位~第522位で表されるDNA分子であるアンチセンス断片、及び
それらの間に位置するスペーサー断片を含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
植物収量及び/又は一穂粒数を調節するための方法であって、
前記方法は、受容体植物丙にタンパク質nog1の発現を高める物質を導入し、遺伝子組換え植物丙を得る工程であって、前記受容体植物丙に比べて、前記遺伝子組換え植物丙は、収量及び/又は一穂粒数が増加する工程を含む、遺伝子組換え植物丙の育成方法
を含み、
前記植物がイネであり、
前記タンパク質nog1が下記のa1)、a2)、a3)又はa4)である方法。
a1)アミノ酸配列が配列表における配列番号2に示されるタンパク質、
a2)配列表における配列番号2に示されるタンパク質のN端及び/又はC端にタグを接続した融合タンパク質、
a3)配列表における配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して1つ又は複数のアミノ酸残基が置換及び/又は欠失及び/又は付加した、植物収量及び/又は一穂粒数に関するタンパク質、
a4)a1)で定義されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するタンパク質。
【請求項11】
植物収量及び/又は一穂粒数を調節するための方法であって、植物育種方法一、又は植物育種方法二を含み、
前記植物育種方法一は、植物におけるタンパク質nog1の含有量を高めることにより、植物収量及び/又は一穂粒数を増加させる工程を含み、
前記植物育種方法二は、植物におけるタンパク質nog1の含有量を低減することにより、植物収量及び/又は一穂粒数を減少させる工程を含み、
前記植物がイネであり、
前記タンパク質nog1が下記のa1)、a2)、a3)又はa4)である方法。
a1)アミノ酸配列が配列表における配列番号2に示されるタンパク質、
a2)配列表における配列番号2に示されるタンパク質のN端及び/又はC端にタグを接続した融合タンパク質、
a3)配列表における配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して1つ又は複数のアミノ酸残基が置換及び/又は欠失及び/又は付加した、植物収量及び/又は一穂粒数に関するタンパク質、
a4)a1)で定義されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するタンパク質。
【請求項12】
前記収量が一株収量であることを特徴とする請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記一穂粒数が主茎の一穂粒数及び/又は平均一穂粒数であることを特徴とする請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
配列表の配列番号1の5’末端から第155位~第522位で表されるDNA分子の逆相補的配列であるセンス断片、
配列表の配列番号1の5’末端から第161位~第522位で表されるDNA分子であるアンチセンス断片、及び
それらの間に位置するスペーサー断片を含むDNA分子。
【請求項15】
請求項14に記載のDNA分子を含む発現カセット。
【請求項16】
請求項14に記載のDNA分子を含む組換えプラスミド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物技術の分野に関し、具体的には、タンパク質nog1の植物収量と一穂粒数の調節への応用に関する。
【背景技術】
【0002】
イネは、世界で最も重要な食用作物の一つであり、120以上の国でイネを栽培し、栽培面積が常に1.5億ヘクタール以上に保持され、世界で50%の人口は、イネを主食とする。人口が増加し続けているが栽培可能耕地面積が年々減少している現在、イネの単位面積当たりの収量の増加は、世界食糧安全保障のための有力な措置の一つである。半世紀余り以来のイネ育種史を振り返ると、中国ではイネの単位面積当たりの収量が、矮性育種を標識とする緑の革命と、イネの雑種強勢の利用との二回の飛躍を遂げた。しかし、ここ20年、イネの単位面積当たりの収量は、ずっと停滞して進まない。研究者は、現在生産に利用する多くの栽培品種が同じ又は類似する遺伝源を有し、イネ栽培種の遺伝資源に対する利用が飽和する傾向があり、イネ品種間の狭い遺伝的多様性により、イネ品種の遺伝基礎と遺伝子型が近くなり、イネの収量の潜在力のさらなる向上を制限するボトルネックとなっていると考えている。
【0003】
普通野生イネ(Oryza rufipogon Griff.)は、アジアの栽培イネの野生祖先種であり、人工的に馴化された栽培イネに比べて、より豊富な遺伝的多様性と遺伝子資源を有する。普通野生イネは、遺伝分化型が栽培イネよりもはるかに多く、イネ収量を高めることができる豊富な遺伝子を含む。従って、普通野生イネのゲノムから、栽培イネでは既に失われた又は弱められた優れた馴化遺伝子を見つけ出して利用し、それらをイネ育種や生産に用いることは、非常に重要な理論的意義と実践価値があり、現在のイネ育種の難題を解決するための有効な経路ともなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする技術課題は、植物収量と一穂粒数を如何に調節するかである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記技術課題を解決するために、本発明は、まず、a1)、a2)、a3)又はa4)であってもよいタンパク質nog1の植物収量及び/又は一穂粒数の調節への応用を提供する。
a1)アミノ酸配列が配列表における配列番号2に示されるタンパク質、
a2)配列表における配列番号2に示されるタンパク質のN端及び/又はC端にタグを接続した融合タンパク質、
a3)配列表における配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して1つ又は複数のアミノ酸残基が置換及び/又は欠失及び/又は付加した、植物収量及び/又は一穂粒数に関するタンパク質、
a4)a1)で定義されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するタンパク質。
【0006】
そのうち、配列表における配列番号2は、389個のアミノ酸残基からなる。
【0007】
a1)のタンパク質を精製しやすくするために、配列表における配列番号2に示されるタンパク質のアミノ末端又はカルボキシ末端に表1に示されるタグを接続することができる。
【表1】
【0008】
前記a3)のタンパク質において前記1つ又は複数のアミノ酸残基の置換及び/又は欠失及び/又は付加は、10個以下のアミノ酸残基の置換及び/又は欠失及び/又は付加である。
【0009】
前記a3)のタンパク質は、人工的に合成されてもよく、そのコード遺伝子を合成した後、生物発現により得られてもよい。
【0010】
前記a3)のタンパク質のコード遺伝子は、配列表における配列番号1に示されるDNA配列に対して1つ又は複数のアミノ酸残基のコドンが欠失すること、及び/又は1つ又は複数の塩基対のミスセンス変異を行うこと、及び/又はその5’端及び/又は3’端に表1に示されるタグのコード配列を接続することにより得られる。
【0011】
前記a4)で用いられる用語「同一性」とは、配列表における配列番号2に示されるタンパク質のアミノ酸配列との配列類似性を指す。「同一性」には、本発明の配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上の同一性を有するアミノ酸配列が含まれる。同一性は、肉眼又はソフトウェアで評価されることができる。ソフトウェアを使用し、2つ又は複数の配列間の同一性をパーセント(%)で示すことができ、それは、関連配列間の同一性を評価するために用いられることができる。
【0012】
前記タンパク質nog1をコードする核酸分子の植物収量及び/又は一穂粒数の調節への応用も、本発明の保護範囲に属する。
【0013】
前記タンパク質nog1をコードする核酸分子は、以下のb1)、b2)、b3)又はb4)で表されるDNA分子であってもよい。
b1)コード領域が配列表における配列番号1に示されるDNA分子、
b2)ヌクレオチド配列が配列表における配列番号1に示されるDNA分子、
b3)b1)又はb2)で定義されるヌクレオチド配列と75%以上の同一性を有し、前記タンパク質nog1をコードするDNA分子、
b4)厳密な条件でb1)又はb2)で定義されるヌクレオチド配列とハイブリダイズし、前記タンパク質nog1をコードするDNA分子。
【0014】
そのうち、前記核酸分子は、DNA、例えば、cDNA、ゲノムDNA又は組換えDNAであってもよく、前記核酸分子は、RNA、例えば、mRNA又はhnRNA等であってもよい。
【0015】
そのうち、配列表における配列番号1は、1170個のヌクレオチドからなり、配列表における配列番号1のヌクレオチドは、配列表における配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードする。
【0016】
本分野の技術者は、周知の方法、例えば、指向性進化法や点変異法を採用し、本発明の、前記タンパク質nog1をコードするヌクレオチド配列を変異させることが容易である。それらの人工的に修飾された、本発明における分離して得られた前記タンパク質nog1のヌクレオチド配列と75%以上の同一性を有するヌクレオチドは、前記タンパク質nog1をコードするものであれば、本発明のヌクレオチド配列から誘導され、本発明の配列と同等である。
【0017】
ここで用いられる用語「同一性」とは、天然核酸配列との配列類似性を指す。「同一性」には、本発明の配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質nog1をコードするヌクレオチド配列と75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上の同一性を有するヌクレオチド配列が含まれる。同一性は、肉眼又はソフトウェアで評価されることができる。ソフトウェアを使用し、2つ又は複数の配列間の同一性をパーセント(%)で示すことができ、それは、関連配列間の同一性を評価するために用いられることができる。
【0018】
前記応用において、前記植物収量の調節は、植物の一株収量の調節であってもよい。前記植物の一穂粒数の調節は、植物の主茎の一穂粒数及び/又は平均一穂粒数の調節であってもよい。
【0019】
前記応用において、前記植物は、以下のc1)~c7)のいずれかであってもよい。c1)双子葉植物、c2)単子葉植物、c3)禾本科植物、c4)イネ、c5)インディカ米、c6)イネ品種の桂朝2号、c7)東郷普通野生イネ浸透系SIL176。
【0020】
前記技術課題を解決するために、本発明は、遺伝子組換え植物甲の育成方法一、又は遺伝子組換え植物乙の育成方法二をさらに提供する。
【0021】
本発明で提供される遺伝子組換え植物甲の育成方法一は、前記タンパク質nog1をコードする核酸分子を受容体植物甲に導入し、遺伝子組換え植物甲を得る工程を含んでもよい。前記受容体植物甲に比べて、前記遺伝子組換え植物甲は、収量及び/又は一穂粒数が増加する。
【0022】
前記方法一では、前記「タンパク質nog1をコードする核酸分子を受容体植物甲に導入する」ことは、受容体植物甲に組換えベクター甲を導入することにより実現される。前記組換えベクター甲は、発現ベクターに前記タンパク質nog1をコードする核酸分子を挿入して得られた組換えプラスミドであってもよい。
【0023】
前記組換えベクター甲は、具体的に、組換えプラスミドpCAMBIA1300-NOG1であってもよい。前記組換えプラスミドpCAMBIA1300-NOG1は、具体的に、改変された植物発現ベクターpCAMBIA1300の制限エンドヌクレアーゼBglII認識配列とMluI認識配列との間のDNA小断片を、ヌクレオチド配列が配列表の配列番号3に示されるDNA分子に置換したものであってもよい。
【0024】
前記方法一では、前記受容体植物甲は、d1)~d6)のいずれかであってもよい。d1)単子葉植物、d2)双子葉植物、d3)禾本科植物、d4)イネ、d5)インディカ米、d6)東郷普通野生イネ浸透系SIL176。
【0025】
本発明で提供される遺伝子組換え植物甲の育成方法二は、受容体植物乙に前記タンパク質nog1の発現を抑制する物質を導入し、遺伝子組換え植物乙を得る工程を含んでもよい。前記受容体植物乙に比べて、前記遺伝子組換え植物乙は、収量及び/又は一穂粒数が減少する。
【0026】
前記方法二では、前記「タンパク質nog1の発現を抑制する物質」は、特異的DNA分子、前記特異的DNA分子を含む発現カセット又は前記特異的DNA分子含有組換えプラスミドであってもよい。
【0027】
前記特異的DNA分子は、配列表の配列番号1の5’末端から第155位~第522位で表されるDNA分子の逆相補的配列であるセンス断片、配列表の配列番号1の5’末端から第161位~第522位で表されるDNA分子であるアンチセンス断片、及びそれらの間に位置するスペーサー断片を含む。
【0028】
前記方法二では、前記特異的DNA分子含有組換えプラスミドは、具体的に、組換えプラスミドpRNAi-nog1であってもよい。前記組換えプラスミドpRNAi-nog1は、具体的に、ベクターpTCK303/JL1460のBamHI認識配列とKpnI認識配列との間のDNA小断片を、ヌクレオチド配列が配列表の配列番号1の5’末端から第155位~第522位で表されるDNA分子の逆相補的配列に置換したもの、SpeI認識配列とSacI認識配列との間のDNA小断片を、ヌクレオチド配列が配列表の配列番号1の5’末端から第161位~第522位で表されるDNA分子に置換したものであってもよい。
【0029】
前記方法二では、前記受容体植物乙は、e1)~e6)のいずれかであってもよい。e1)単子葉植物、e2)双子葉植物、e3)禾本科植物、e4)イネ、e5)インディカ米、e6)イネ品種の桂朝2号。
【0030】
前記技術課題を解決するために、本発明は、遺伝子組換え植物丙の育成方法三をさらに提供する。
【0031】
本発明で提供される遺伝子組換え植物丙の育成方法三は、受容体植物丙に前記タンパク質nog1の発現及び/又は活性を高める物質を導入し、遺伝子組換え植物丙を得る工程を含んでもよい。前記受容体植物丙に比べて、前記遺伝子組換え植物丙は、収量及び/又は一穂粒数が増加する。
【0032】
前記方法三では、前記「前記タンパク質nog1の発現及び/又は活性を高める物質」は、具体的に、前記組換えベクター甲であってもよい。
【0033】
前記方法三では、前記受容体植物丙は、d1)~d6)のいずれかであってもよい。d1)単子葉植物、d2)双子葉植物、d3)禾本科植物、d4)イネ、d5)インディカ米、d6)東郷普通野生イネ浸透系SIL176。
【0034】
前記方法では、前記タンパク質nog1をコードする核酸分子は、以下のb1)、b2)、b3)又はb4)で表されるDNA分子であってもよい。
b1)コード領域が配列表における配列番号1に示されるDNA分子、
b2)ヌクレオチド配列が配列表における配列番号1に示されるDNA分子、
b3)b1)又はb2)で定義されるヌクレオチド配列と75%以上の同一性を有し、前記タンパク質nog1をコードするDNA分子、
b4)厳密な条件でb1)又はb2)で定義されるヌクレオチド配列とハイブリダイズし、前記タンパク質nog1をコードするDNA分子。
【0035】
そのうち、前記核酸分子は、DNA、例えば、cDNA、ゲノムDNA又は組換えDNAであってもよく、前記核酸分子は、RNA、例えば、mRNA又はhnRNA等であってもよい。
【0036】
そのうち、配列表における配列番号1は、1170個のヌクレオチドからなり、配列表における配列番号1のヌクレオチドは、配列表における配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードする。
【0037】
前記技術課題を解決するために、本発明は、植物育種方法一又は植物育種方法二をさらに提供する。
【0038】
本発明で提供される植物育種方法一は、植物における前記タンパク質nog1の含有量及び/又は活性を高めることにより、植物収量及び/又は一穂粒数を増加させる工程を含んでもよい。
【0039】
前記植物育種方法一では、前記「植物における前記タンパク質nog1の含有量及び/又は活性を高める」ことは、マルチコピーや、プロモーター、調節因子の改変、遺伝子組換え等の本分野における周知の方法により、植物における前記タンパク質nog1の含有量及び/又は活性を高める効果を達成することができる。
【0040】
本発明で提供される植物育種方法二は、植物における前記タンパク質nog1の含有量及び/又は活性を低減することにより、植物収量及び/又は一穂粒数を減少させる工程を含んでもよい。
【0041】
前記植物育種方法二では、前記「植物における前記タンパク質nog1の含有量及び/又は活性を低減する」ことは、RNA干渉、相同組換え、遺伝子部位特異的編集等の本分野における周知の方法により、植物における前記タンパク質nog1の含有量及び/又は活性を低減する目的を達成することができる。
【0042】
前記方法では、前記植物は、f1)~f4)のいずれかであってもよい。f1)単子葉植物、f2)双子葉植物、f3)禾本科植物、f4)イネ。
【0043】
前記いずれかの方法では、前記収量は、一株収量であってもよい。前記一穂粒数は、主茎の一穂粒数及び/又は平均一穂粒数であってもよい。
【0044】
前記「前記タンパク質nog1の発現を抑制する物質」も、本発明の保護範囲に属する。
【0045】
前記タンパク質nog1の発現を抑制するいずれかの前記物質は、具体的に、特異的DNA分子、前記特異的DNA分子を含む発現カセット又は前記特異的DNA分子含有組換えプラスミドであってもよい。
【0046】
前記特異的DNA分子は、センス断片、アンチセンス断片及びそれらの間に位置するスペーサー断片を含む。
【0047】
前記センス断片は、配列表の配列番号1の5’末端から第155位~第522位で表されるDNA分子の逆相補的配列であり、前記アンチセンス断片は、配列表の配列番号1の5’末端から第161位~第522位で表されるDNA分子である。
【0048】
前記特異的DNA分子含有組換えプラスミドは、具体的に、組換えプラスミドpRNAi-nog1であってもよい。前記組換えプラスミドpRNAi-nog1は、具体的に、ベクターpTCK303/JL1460のBamHI認識配列とKpnI認識配列との間のDNA小断片を、ヌクレオチド配列が配列表の配列番号1の5’末端から第155位~第522位で表されるDNA分子の逆相補的配列に置換したもの、SpeI認識配列とSacI認識配列との間のDNA小断片を、ヌクレオチド配列が配列表の配列番号1の5’末端から第161位~第522位で表されるDNA分子に置換したものであってもよい。
【0049】
実験によると、Guichao 2に前記タンパク質nog1の発現を抑制する物質(即ち、組換えプラスミドpRNAi-nog1)を導入し、遺伝子組換え植物乙を得、Guichao 2に比べて、遺伝子組換え植物乙は、一株収量及び/又は主茎の一穂粒数及び/又は平均一穂粒数が減少した。タンパク質nog1をコードする核酸分子をSIL176に導入し、遺伝子組換え植物甲を得、SIL176に比べて、遺伝子組換え植物甲は、一株収量及び/又は主茎の一穂粒数及び/又は平均一穂粒数が増加したことが証明された。結果として、タンパク質nog1は、イネ収量と一穂粒数の調節に非常に重要な作用を有することが示される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】SIL176とGuichao 2の主茎の穂の形態、主茎の一穂粒数及び一株収量の比較である。
【
図2】T
2世代ホモ接合RNAi干渉株系とGuichao 2の主茎の穂の形態、nog1遺伝子発現量、主茎の一穂粒数及び一株収量の比較である。
【
図3】T
2世代ホモ接合相補株系とSIL176の主茎の穂の形態、nog1遺伝子発現量、主茎の一穂粒数及び一株収量の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、具体的な実施形態により本発明をさらに詳述するが、提供される実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を制限するためのものではない。
【0052】
下記実施例における実験方法は、特に断りがない限り、常法である。
【0053】
下記実施例で用いられる材料、試薬等は、特に断りがない限り、商業的に入手できる。
【0054】
以下の実施例における定量試験は、いずれも実験を三回繰り返すことにし、平均値を結果とする。
【0055】
ベクターpTCK303/JL1460は、Wang Z, Chen CG, Xu YY, Jiang RX, Han Y, Xu ZH and Chong K. A Practical Vector for Efficient Knockdown of Gene Expression in Rice (Oryza sativa L.). Plant Molecular Biology Reporter, 2004, 22: 409-417.に記載されている。
【0056】
桂朝2号は、Zhang X, Zhou S X, Fu Y C, et al. Identification of a drought tolerant introgression line derived from Dongxiang common wild rice (O. rufipogon Griff.). Plant Mol Biol, 2006, 62:247~259に記載されており、公衆は、中国農業大学から取得することができる。桂朝2号は、以下、単にGuichao 2と称する。桂朝2号は、インディカ米に属する。
【0057】
中国江西東郷野生イネは、Tian F, Li D J, Fu Q, Zhu Z F, Fu Y C, Wang X K, Sun C Q. 2006. Construction of introgression lines carrying wild rice (Oryza rufipogon Griff.) segments in cultivated rice (O. sativa L.) background and characterization of introgressed segments associated with yield-related traits. Theoretical and Applied Genetics, 112, 570-80.に記載されており、公衆は、中国農業大学から取得することができる。
【0058】
アグロバクテリウムツメファシエンスEHA105(文献における名称Agrobacterium tumefaciens strain EHA105)は、GLUTELIN PRECURSOR ACCUMULATION3 encodes a regulator of post-Golgi vesicular traffic essential for vacuolar protein sorting in rice endosperm. Plant Cell. 2014 Jan; 26(1): 410-25.に記載されており、公衆は、本願における実験を繰り返すために、中国農業大学から取得することができる。
【0059】
東郷普通野生イネ浸透系SIL176は、Guichao 2と江西東郷野生イネを複数回ハイブリダイゼーション及び戻し交配させた後代であり、Tian F, Li D J, Fu Q, Zhu Z F, Fu Y C, Wang X K, Sun C Q. 2006. Construction of introgression lines carrying wild rice (Oryza rufipogon Griff.) segments in cultivated rice (O. sativa L.) background and characterization of introgressed segments associated with yield-related traits. Theoretical and Applied Genetics, 112, 570-80.に記載されており、公衆は、中国農業大学から取得することができる。東郷普通野生イネ浸透系SIL176は、以下、単にSIL176と称する。
【0060】
Guichao 2のcDNA:Guichao 2の2週齢苗を実験材料とし、TRIZOL試薬で全RNAを抽出した後、SuperScriptII逆転写酵素で逆転写して得られた。Guichao 2のcDNAにおけるDNAの含有量が約200ng/μLであった。SuperScriptII逆転写酵素は、Invitrogen社の製品であり、製品番号が18064-014である。
【0061】
改変された植物発現ベクターpCAMBIA1300:ベクターpCAMBIA1300の制限エンドヌクレアーゼKpnIの認識配列の5’末端に制限エンドヌクレアーゼBglIIの認識配列を付加し、制限エンドヌクレアーゼBamHIの認識配列の5’末端に制限エンドヌクレアーゼMluIの認識配列を付加し、他のヌクレオチド配列をすべてそのままにして得られたベクター。
【実施例】
【0062】
実施例1、nog1遺伝子の発現
中国江西東郷野生イネを供与親、Guichao 2を反復親とし、それらをハイブリダイゼーション、戻し交配させることにより、265系を含む浸透系群(そのうちの1つの系がSIL176である)を構築した。該群では野生イネのゲノムのカバー率が79.4%となり、そのうち15系(そのうちの1つの系がSIL176である)は、一株収量がGuichao 2よりも35%以上減少した。Guichao 2とSIL176の主茎の穂の形態、主茎の一穂粒数及び一株収量を比較し統計した。実験を1回30株、三回繰り返した。
【0063】
実験結果を
図1に示した(Aは主茎の穂の形態で、bar=5cmであり、Bは主茎の一穂粒数であり、Cは一株収量であり、**は、P<0.01有意差を示す)。結果として、Guichao 2に比べて、SIL176は、主茎の一穂粒数と一株収量が著しく少なくなったことが示される。
【0064】
SIL176に対してマップベースクローニングと機能分析を行った。結果として、第1染色体長腕でイネ収量に関連するQTLが発見され、nog1遺伝子と名付けされた。nog1遺伝子のオープンリーディングフレームは、配列表における配列番号1に示され、それがコードするタンパクをnog1と名付け、そのアミノ酸配列は、配列表における配列番号2に示されるとおり、389個のアミノ酸残基からなる。
【0065】
実施例2、T2世代ホモ接合RNAi干渉株系の取得と表現型同定
一、組換えプラスミドpRNAi-nog1の構築
組換えプラスミドpRNAi-nog1の構築工程は以下のとおりである。
【0066】
1、プライマーの合成
配列表における配列番号1に示されるnog1遺伝子の配列から、プライマー860-rnai-320F、860-rnai-681R、860-rnai-681F及び860-rnai-314Rを設計して合成した。プライマー配列は、具体的に、以下のとおりである。
860-rnai-320F:5’-GGACTAGTGGGAGAAAGATGAGGA-3’(下線は、制限エンドヌクレアーゼSpeIの認識部位である)、
860-rnai-681R:5’-TCCGAGCTCGGTCAAAGCCAGGTAC-3’(下線は、制限エンドヌクレアーゼSacIの認識部位である)、
860-rnai-681F:5’-CGGGATCCGGTCAAAGCCAGGTAC-3’(下線は、制限エンドヌクレアーゼBamHIの認識部位である)、
860-rnai-314R:5’-GGGGTACCAGAGCTGGGAGAAAGA-3’(下線は、制限エンドヌクレアーゼKpnIの認識部位である)。
【0067】
2、Guichao 2のcDNAをテンプレートとし、860-rnai-320Fと860-rnai-681Rをプライマーとし、PCR増幅を行い、約360bpのDNA断片Aを得た。
【0068】
3、Guichao 2のcDNAをテンプレートとし、860-rnai-681Fと860-rnai-314Rをプライマーとし、PCR増幅を行い、約360bpのDNA断片Bを得た。
【0069】
4、制限エンドヌクレアーゼSpeIとSacIでDNA断片Aを酵素切断し、酵素切断産物1を回収した。
【0070】
5、制限エンドヌクレアーゼSpeIとSacIでベクターpTCK303/JL1460を酵素切断し、約14.6kbのベクター骨格1を回収した。
【0071】
6、酵素切断産物1とベクター骨格1を接続し、中間体プラスミドを得た。
【0072】
7、制限エンドヌクレアーゼBamHIとKpnIでDNA断片Bを酵素切断し、酵素切断産物2を回収した。
【0073】
8、制限エンドヌクレアーゼBamHIとKpnIで中間体プラスミドを酵素切断し、約14.9kbのベクター骨格2を回収した。
【0074】
9、酵素切断産物2とベクター骨格2を接続し、組換えプラスミドpRNAi-nog1を得た。
【0075】
シーケンシング結果から、組換えプラスミドpRNAi-nog1の構造を説明すると、以下のようである。すなわち、ベクターpTCK303/JL1460のBamHI認識配列とKpnI認識配列との間のDNA小断片を、ヌクレオチド配列が配列表の配列番号1の5’末端から第155位~第522位で表されるDNA分子の逆相補的配列に置換したもの、SpeI認識配列とSacI認識配列との間のDNA小断片を、ヌクレオチド配列が配列表の配列番号1の5’末端から第161位~第522位で表されるDNA分子に置換したものである。
【0076】
二、組換えアグロバクテリウムの取得
組換えプラスミドpRNAi-nog1をアグロバクテリウムツメファシエンスEHA105に導入し、組換えアグロバクテリウムEHA105/pRNAi-nog1を得た。
【0077】
三、T0世代RNAi干渉株の取得
Hieiらの方法(Hiei Y, Ohta S, Komari T & Kumashiro T. Efficient transformation of rice (Oryza sativa L.) mediated by Agrobacterium and sequence analysis of the boundaries of the T-DNA. Plant J. 1994, 6:271-282)を用いて、組換えアグロバクテリウムEHA105/pRNAi-nog1によりGuichao 2を変換し、T0世代RNAi干渉株を得た。
【0078】
四、T0世代RNAi干渉株のリアルタイム定量PCR検出
3つのT0世代RNAi干渉株(それぞれRNAi-1-T0~RNAi-3-T0と名付けされた)をランダムに選択してリアルタイム定量PCR検出を行った。具体的な工程は以下のとおりである。
【0079】
1、それぞれ3つのT0世代RNAi干渉株の2週齢苗を実験材料とし、TRIZOL試薬で全RNAを抽出した後、SuperScriptII逆転写酵素で逆転写し、各T0世代擬似サイレンシング株のcDNAを得た。3つのT0世代RNAi干渉株のcDNAにおけるDNAの含有量が約200ng/μLであった。
【0080】
2、RT-qPCR技術によりそれぞれ3つのT0世代RNAi干渉株におけるnog1遺伝子の相対発現量を検出した(UBI遺伝子を内在性コントロール遺伝子とした)。
【0081】
nog1遺伝子を検出したプライマーは、フォワードプライマー1:5’-TCCGACTTACAATGAACAC-3’とバックワードプライマー1:5’-GGTAGCAGGACTCCACTT-3’であった。UBI遺伝子を検出したプライマーは、フォワードプライマー2:5’-CTGTCAACTGCCGCAAGAAG-3’とバックワードプライマー2:5’-GGCGAGTGACGCTCTAGTTC-3’であった。
【0082】
前記方法に従い、T0世代RNAi干渉株をGuichao 2に置換した以外、他の工程はいずれも変化せずに、Guichao 2におけるnog1遺伝子の相対発現量を得た。
【0083】
Guichao 2におけるnog1遺伝子の相対発現量を1とし、他のイネ株におけるnog1遺伝子の相対発現量を統計した。結果として、Guichao 2に比べて、3つのT0世代RNAi干渉株におけるnog1遺伝子の相対発現量がいずれも著しく低下したことが示される。
【0084】
前記結果から、RNAi-1-T0、RNAi-2-T0及びRNAi-3-T0がいずれもT0世代RNAi干渉株であることが示される。
【0085】
五、T2世代ホモ接合RNAi干渉株系の取得及びリアルタイム定量PCR検出
RNAi-1-T0~RNAi-3-T0を2世代連続して自家交配させ、T2世代ホモ接合RNAi干渉株系を得、それぞれRNAi-1~RNAi-3と名付けした。
【0086】
工程四の方法に従い、RNAi-1~RNAi-3及びGuichao 2に対してそれぞれリアルタイム定量PCR検出を行った。
【0087】
一部の検出結果を
図2Bに示した(**は、P<0.01有意差を示す)。結果として、Guichao 2に比べて、RNAi-1~RNAi-3におけるnog1遺伝子の相対発現量がいずれも著しく低下したことが示される。
【0088】
六、T2世代ホモ接合RNAi干渉株系の表現型同定
被験イネ(Guichao 2、RNAi-1、RNAi-2又はRNAi-3)の種をそれぞれ栄養土壌とバーミキュライトが入った鉢に栽培し(栄養土壌とバーミキュライトの体積比1:1)、25℃で光照射して交互に育成し、成長過程において被験イネの主茎の穂の形態、主茎の一穂粒数、平均一穂粒数及び一株収量を比較し統計した。実験を1回30株、三回繰り返した。
【0089】
一部の実験結果を
図2A、C及びDに示した(Aは主茎の穂の形態で、bar=5cmであり、Cは主茎の一穂粒数であり、Dは一株収量であり、**はP<0.01有意差を示す)。結果として、Guichao 2に比べて、RNAi-1、RNAi-2及びRNAi-3は、主茎の一穂粒数、平均一穂粒数及び一株収量がいずれも著しく低下したことが示される。
【0090】
実施例3、T2世代ホモ接合相補株系の取得と表現型同定
一、組換えプラスミドpCAMBIA1300-NOG1の構築
組換えプラスミドpCAMBIA1300-NOG1の構築工程は以下のとおりである。
【0091】
1、Guichao 2の2週齢苗を実験材料とし、ゲノムDNAを抽出してテンプレートとし、860HBF:5’-GAAGATCTCATCTGATGCCTCATACTGA-3’(下線は、制限エンドヌクレアーゼBglIIの認識部位である)と860HBR:5’-CCGACGCGTCATGCTTAGGCTGTTGAT-3’(下線は、制限エンドヌクレアーゼMluIの認識部位である)をプライマーとし、PCR増幅を行い、約7kbのPCR増幅産物を得た。
【0092】
2、制限エンドヌクレアーゼBglIIとMluIでPCR増幅産物を酵素切断し、酵素切断産物を回収した。
【0093】
3、制限エンドヌクレアーゼBglIIとMluIで改変された植物発現ベクターpCAMBIA1300を酵素切断し、約9kbのベクター骨格を回収した。
【0094】
4、酵素切断産物とベクター骨格を接続し、組換えプラスミドpCAMBIA1300-NOG1を得た。
【0095】
シーケンシング結果から、組換えプラスミドpCAMBIA1300-NOG1の構造を説明すると、以下のようである。すなわち、改変された植物発現ベクターpCAMBIA1300の制限エンドヌクレアーゼBglII認識配列とMluI認識配列との間のDNA小断片を、ヌクレオチド配列が配列表の配列番号3で表されるDNA分子に置換した。
【0096】
二、組換えアグロバクテリウムの取得
組換えプラスミドpCAMBIA1300-NOG1をアグロバクテリウムツメファシエンスEHA105に導入し、組換えアグロバクテリウムEHA105/pCAMBIA1300-NOG1を得た。
【0097】
三、T0世代相補株の取得
Hieiらの方法(Hiei Y, Ohta S, Komari T & Kumashiro T. Efficient transformation of rice (Oryza sativa L.) mediated by Agrobacterium and sequence analysis of the boundaries of the T-DNA. Plant J. 1994, 6:271-282)を用いて、組換えアグロバクテリウムEHA105/pCAMBIA1300-NOG1によりSIL176を変換し、T0世代相補株を得た。
【0098】
四、T0世代相補株のリアルタイム定量PCR検出
3つのT0世代相補株(それぞれCTP-1-T0~CTP-3-T0と名付けされた)をランダムに選択してリアルタイム定量PCR検出を行った。具体的な工程は以下のとおりである。
【0099】
1、それぞれ3つのT0世代相補株の2週齢苗を実験材料とし、TRIZOL試薬で全RNAを抽出した後、SuperScriptII逆転写酵素で逆転写し、各T0世代相補株のcDNAを得た。3つのT0世代相補株のcDNAにおけるDNAの含有量が約200ng/μLであった。
【0100】
2、RT-qPCR技術によりそれぞれ3つのT0世代相補株におけるnog1遺伝子の相対発現量を検出した(UBI遺伝子を内在性コントロール遺伝子とした)。
【0101】
nog1遺伝子を検出したプライマーは、フォワードプライマー1:5’-TCCGACTTACAATGAACAC-3’とバックワードプライマー1:5’-GGTAGCAGGACTCCACTT-3’であった。UBI遺伝子を検出したプライマーは、フォワードプライマー2:5’-CTGTCAACTGCCGCAAGAAG-3’とバックワードプライマー2:5’-GGCGAGTGACGCTCTAGTTC-3’であった。
【0102】
前記方法に従い、T0世代相補株をSIL176に置換した以外、他の工程はいずれも変化せずに、SIL176におけるnog1遺伝子の相対発現量を得た。
【0103】
SIL176におけるnog1遺伝子の相対発現量を1とし、他のイネ株におけるnog1遺伝子の相対発現量を統計した。結果として、SIL176に比べて、3つのT0世代相補株におけるnog1遺伝子の相対発現量がいずれも著しく増加したことが示される。
【0104】
前記結果から、CTP-1-T0、CTP-2-T0及びCTP-3-T0がいずれもT0世代相補遺伝子組換えイネであることが示される。
【0105】
五、T2世代ホモ接合相補株系の取得及びリアルタイム定量PCR検出
CTP-1-T0~CTP-3-T0を2世代連続して自家交配させ、T2世代ホモ接合相補株系を得、それぞれCTP-1~CTP-3と名付けした。
【0106】
工程四の方法に従い、CTP-1~CTP-3及びSIL176に対してそれぞれリアルタイム定量PCR検出を行った。
【0107】
一部の検出結果を
図3Bに示した(**はP<0.01有意差を示す)。結果として、SIL176に比べて、CTP-1~CTP-3におけるnog1遺伝子の相対発現量がいずれも著しく増加したことが示される。
【0108】
六、T2世代ホモ接合相補株系の表現型同定
被験イネ(SIL176、CTP-1、CTP-2又はCTP-3)の種をそれぞれ栄養土壌とバーミキュライトが入った鉢に栽培し(栄養土壌とバーミキュライトの体積比1:1)、25℃で光照射して交互に育成し、成長過程において被験イネの主茎の穂の形態、主茎の一穂粒数、平均一穂粒数及び一株収量を比較し統計した。実験を1回30株、三回繰り返した。
【0109】
一部の実験結果を
図3A、C及びDに示した(Aは主茎の穂の形態で、bar=5cmであり、Cは主茎の一穂粒数であり、Dは一株収量であり、**はP<0.01有意差を示す)。結果として、SIL176に比べて、CTP-1、CTP-2及びCTP-3は、主茎の一穂粒数、平均一穂粒数及び一株収量がいずれも著しく増加したことが示される。
【産業上の利用可能性】
【0110】
出発イネ(例えば、Guichao 2)に前記タンパク質nog1の発現を抑制する物質を導入し、一株収量及び/又は主茎の一穂粒数が減少した遺伝子組換えイネを得た。タンパク質nog1をコードする核酸分子を出発イネ(例えば、SIL176)に導入し、一株収量及び/又は主茎の一穂粒数及び/又は平均一穂粒数が増加した遺伝子組換えイネを得た。従って、タンパク質nog1は、イネ収量と一穂粒数を調節することができ、重要な応用価値がある。
【配列表】