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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】ポリマー避雷器
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/12 20060101AFI20220215BHJP
   H01C 1/02 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
H01C7/12
H01C1/02 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020506000
(86)(22)【出願日】2018-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2018009787
(87)【国際公開番号】W WO2019175983
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安食 富和
(72)【発明者】
【氏名】阿嘉 良昌
(72)【発明者】
【氏名】小林 純
(72)【発明者】
【氏名】金谷 和長
(72)【発明者】
【氏名】水谷 学
【審査官】多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-056564(JP,A)
【文献】特開昭55-035292(JP,A)
【文献】特開平09-013672(JP,A)
【文献】特表2009-515104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/12
H01C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非直線抵抗体と、
前記非直線抵抗体の上端面側及び下端面側にそれぞれ配置され、複数の貫通孔を有する2つの電極と、
前記電極間に延在し、前記非直線抵抗体の周囲に周方向に間隔をあけて配置され、且つ前記電極の前記貫通孔に挿入される複数の絶縁ロッドと、
前記絶縁ロッドと前記貫通孔の内壁面との間に挿入されて前記絶縁ロッドを前記電極に固定する楔状スペーサと、
前記楔状スペーサと前記貫通孔の前記内壁面との間に挿入されたポリ四弗化エチレンシートと、
前記非直線抵抗体及び前記絶縁ロッドを被覆する樹脂製被覆体と、
を備え、
前記電極の前記貫通孔は、前記絶縁ロッドの長手方向沿って前記電極を貫通しており、前記貫通孔の前記内壁面の少なくとも一部は、前記絶縁ロッドの長手方向中央側に向けて前記貫通孔の内径を漸減させるテーパー部とされ、
前記楔状スペーサは、前記絶縁ロッドの長手方向中央側に向けて肉厚が漸減する断面視楔状の楔部を有し、前記楔部が前記貫通孔の前記テーパー部と前記絶縁ロッドとの間に差し込まれ、
前記ポリ四弗化エチレンシートが、前記貫通孔の前記テーパー部と前記楔状スペーサとに挟まれており、
前記ポリ四弗化エチレンシートと前記楔状スペーサとの間に、接着層が形成されている、
ポリマー避雷器。
【請求項2】
前記貫通孔内において、一つの前記絶縁ロッドを複数の前記楔状スペーサが囲むように配置されている、請求項1に記載のポリマー避雷器。
【請求項3】
前記ポリ四弗化エチレンシートの厚みが、0.1mm~0.2mmの範囲である、請求項1または請求項2に記載のポリマー避雷器。
【請求項4】
前記楔状スペーサの材質がアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載のポリマー避雷器。
【請求項5】
前記楔状スペーサの前記絶縁ロッド側の面がブラスト処理面であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のポリマー避雷器。
【請求項6】
前記楔状スペーサの前記絶縁ロッド側の面の表面粗さRaが、前記貫通孔の内壁面側の面の表面粗さRaより大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載のポリマー避雷器。
【請求項7】
前記貫通孔の軸方向に対する前記テーパー部の傾斜角度θと、前記楔状スペーサの軸方向に対する前記楔状スペーサの前記貫通孔の内壁面側の面の傾斜角度θとの差(θ-θ)が、0~0.6°の範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載のポリマー避雷器。
【請求項8】
前記2個の電極のうち少なくとも一方の電極の前記非直線抵抗体側に配置された金属板と、
前記金属板と前記電極とを結合させる両ネジボルトと、
をさらに備え、
前記両ネジボルトは、第1雄ネジ部と、前記第1ネジ部に対して締結方向が逆向きである第2雄ネジ部とが同軸に設けられており、
前記電極には、前記第1雄ネジ部と螺合する第1雌ネジ穴が設けられ、
前記金属板には、前記第2雄ネジ部と螺合する第2雌ネジ穴が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載のポリマー避雷器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ポリマー避雷器に関する。
【背景技術】
【0002】
発電、変電、送電、配電系統の電力機器や通信機器などを過渡的な異常な高電圧から保護する主要な手段として、避雷器が設けられる。避雷器には、非直線抵抗体が使用されている。非直線抵抗体は、電圧の上昇に従って抵抗が減少する非直線的な電圧/電流特性を有する酸化亜鉛などからなる。また、避雷器は、大別して、非直線抵抗体を磁器製の容器に収納した碍子形避雷器や、シリコーンゴムなどの外皮を有するポリマー避雷器がある。
【0003】
ポリマー避雷器としては、酸化亜鉛を主成分とする円板状の非直線抵抗体を1枚または複数枚積層し、その上下端部に電極を配置したものが知られている。ポリマー避雷器は、その剛性を高めるために、電極に挟まれた状態の非直線抵抗体の周囲に締付け用の絶縁ロッドを配置し、絶縁ロッドと電極とを結合して非直線抵抗体をその上下から締め付けた上で、非直線抵抗体及び絶縁ロッドをシリコーンゴムなどで直接モールドしている。絶縁ロッドと電極との固定は、電極に設けられた傾斜穴と、それに対応する楔形状のスペーサを圧入して締結され、電極の中央に設けられたネジを利用して非直線抵抗体に荷重を与えている場合が多い。
【0004】
従来のポリマー避雷器は、外被材がシリコーンゴム等の樹脂からなるため、避雷器としての機械的強度は非直線抵抗体の周囲に配置された絶縁ロッドと、非直線抵抗体自体の強度に依存しており、碍子形避雷器と比較して機械的強度が低く、恒常的な強度の向上が求められている。非直線抵抗体は、材料特性により強度が決まるので強度向上には限界がある。従ってポリマー避雷器の強度向上対策としては、主に、電極及び絶縁ロッドの締結力の強化が行われているが、更なる強度向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2013-229362号公報
【文献】日本国特開2014-22632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、機械的強度をより一層向上できるポリマー避雷器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態のポリマー避雷器は、非直線抵抗体と、2つの電極と、複数の絶縁ロッドと、楔状スペーサと、ポリ四弗化エチレンシートと、樹脂製被覆体とを持つ。
電極は、非直線抵抗体の上端面側及び下端面側にそれぞれ配置され、複数の貫通孔を有する。絶縁ロッドは、電極間に延在し、非直線抵抗体の周囲に周方向に間隔をあけて配置され、且つ電極の貫通孔に挿入される。楔状スペーサは、絶縁ロッドと貫通孔の内壁面との間に挿入されて絶縁ロッドを電極に固定する。ポリ四弗化エチレンシートは、楔状スペーサと貫通孔の内壁面との間に挿入される。樹脂製被覆体は、非直線抵抗体及び絶縁ロッドを被覆する。
電極の貫通孔は、絶縁ロッドの長手方向に沿って電極を貫通する。貫通孔の内壁面の少なくとも一部は、絶縁ロッドの長手方向中央側に向けて貫通孔の内径を漸減させるテーパー部とされる。楔状スペーサは、絶縁ロッドの長手方向中央側に向けて肉厚が漸減する断面視楔状の楔部を有する。楔部が貫通孔のテーパー部と絶縁ロッドとの間に差し込まれる。ポリ四弗化エチレンシートは、貫通孔のテーパー部と楔状スペーサとに挟まれる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態のポリマー避雷器を示す縦断面模式図。
図2】実施形態のポリマー避雷器の要部を示す平面模式図。
図3】実施形態のポリマー避雷器の要部を示す縦断面模式図。
図4】実施形態のポリマー避雷器に備えられる楔状スペーサとポリ四弗化エチレンシートを示す模式図。
図5】貫通孔内に配置した楔状スペーサ及びポリ四弗化エチレンシートの一例を示す平面模式図。
図6】貫通孔内に配置した楔状スペーサ及びポリ四弗化エチレンシートの他の例を示す平面模式図。
図7】実施形態のポリマー避雷器の組立工程を示す縦断面模式図。
図8】実施形態のポリマー避雷器の組立工程を示す縦断面模式図。
図9】実施形態のポリマー避雷器の組立工程を示す縦断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態のポリマー避雷器について説明する。
ポリマー避雷器の絶縁ロッドは、電極に設けた貫通孔とその貫通孔の形状に対応した楔状スペーサを用いて固定される。避雷器の組立時は、絶縁ロッドを電極に強固に固定する為に、絶縁ロッドが挿入された電極の貫通孔に楔状スペーサを圧入する。ここで、電極の貫通孔の内壁面と楔状スペーサとの間の摩擦力は、これらの表面粗さの影響を受けて、楔状スペーサ毎にばらつく場合がある。従来のポリマー避雷器においては、この摩擦力のばらつきにより、楔状スペーサの圧入荷重を一定にしたとしても電極の貫通孔における楔状スペーサの締結位置がばらついてしまい、絶縁ロッドの締結力が安定しない場合があった。また、ポリマー避雷器に樹脂製被覆体を形成するモールド工程において、楔状スペーサと電極の貫通孔の内壁面の間の僅かな隙間に樹脂が侵入し、樹脂硬化のための加熱工程時に樹脂が熱膨張して締結力が低下する可能性があった。
【0010】
そこで、本発明者らが検討したところ、楔状スペーサを電極の貫通孔に圧入する際に、貫通孔の内壁面と楔状スペーサとの間に、摩擦力を安定させるためのポリ四弗化エチレンシートを挿入することで、個々の絶縁ロッドの締結力を安定させるとともに、楔状スペーサと電極の貫通孔の内壁面の間への樹脂の侵入を防止して、安定した機械的強度が確保できる信頼性の高いポリマー避雷器を提供できることを見出した。
【0011】
以下、実施形態のポリマー避雷器を、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態のポリマー避雷器1は、非直線抵抗体2と、非直線抵抗体2の上下端側に配置された2つの電極3、4と、2つの電極3、4間に延在する複数の絶縁ロッド5と、電極3、4と絶縁ロッド5とを締結する楔状スペーサ6と、図示しないポリ四弗化エチレンシートと、樹脂製被覆体7とを備えている。ポリマー避雷器1には、更に、非直線抵抗体2と電極3、4との間に配置された金属板8、9と、電極3、4と金属板8、9とをそれぞれ結合させる両ネジボルト10、11とが備えられている。
【0012】
図1においては、非直線抵抗体2は、複数が積層されている。1つの非直線抵抗体2は、酸化亜鉛を主成分とする円板状の焼結体部であり、非直線抵抗体2の上下の平坦面には、図示しないアルミニウムなどの金属製の電極部が設けられていると共に、側面(円筒面)には、図示しない絶縁層が設けられている。非直線抵抗体2は、正常な電圧が作用したときには絶縁性であって、正常な電圧よりも高い異常電圧が作用したときには抵抗値が低下して導電性になる。非直線抵抗体2は複数個に限らず、1つだけ備えられていてもよい。
【0013】
複数の非直線抵抗体2からなる積層体の上下方向中央には、絶縁板12が挿入されている。絶縁板12には、図示略の複数の貫通孔が設けられ、この貫通孔に絶縁ロッド5が挿入されている。絶縁板12に絶縁ロッド5が貫通することで、絶縁ロッド5の位置ズレが防止される。
【0014】
金属板8、9は、図1に示すように、複数の非直線抵抗体2が積層された積層体の上端面2aと下端面2bとのそれぞれに設置されている。金属板8、9は、非直線抵抗体2と外径が同じである。
【0015】
図1及び図3に示すように、金属板8、9のうち、非直線抵抗体2の上端面2a側に設置された金属板8は、角棒形状であって、その中心に第2雌ネジ穴8bが設けられている。なお、角棒形状に代えて円筒形状であってもよい。その中心に第2雌ネジ穴8bが設けられている。第2雌ネジ穴8bは、金属板8に設けられた開口穴8aと、開口穴8aの内面に形成された雌ネジとから構成される。金属板8の開口穴8aは、非直線抵抗体2の積層方向に沿って貫通している。第2雌ネジ穴8bには、後述する両ネジボルト10において第2雄ネジ部10aが螺合される。
【0016】
非直線抵抗体2の下端面2b側に設置された金属板9は、上端面2a側に設置された金属板8と同様に形成されている。つまり、下端面2b側に設置された金属板9は、角棒形状であって、中心には開口穴9aが設けられている。そして、金属板9の開口穴9aの内周面には、雌ネジが形成されている。雌ネジが形成された開口穴9aによって、第2雌ネジ穴9bが構成されている。第2雌ネジ穴9bには、図1に示すように、両ネジボルト11の第2雄ネジ部11aが螺合される。金属板9は、角棒形状に代えて円筒形状であってもよい。
【0017】
電極3、4は、図1に示すように、複数の非直線抵抗体2が積層された積層体の上端面2aと下端面2bとのそれぞれに金属板8、9を介して設置されている。電極3、4は、非直線抵抗体2よりも外径が大きくされている。
【0018】
図2及び図3に示すように、電極3、4のうち、上端面2a側に設置された電極3は、その中心に、第1雌ネジ穴3eが設けられている。第1雌ネジ穴3eは、電極3の中心に設けられた開口穴3aと、開口穴3aの内面に設けられた雌ネジとから構成されている。また、開口穴3aの周囲には、複数の貫通孔3bが等間隔で並んでいる。
【0019】
電極3に設けられた開口穴3aは、非直線抵抗体2の積層方向に沿って貫通している。開口穴3aよりなる第1雌ネジ穴3eには、両ネジボルト10の第1雄ネジ部10bが螺合される。
【0020】
電極3において開口穴3aの周囲に設けられた複数の貫通孔3bは、図1及び図3に示すように、非直線抵抗体2の積層方向または絶縁ロッド5の延在方向に沿って貫通している。貫通孔3bは、絶縁ロッド5の端部5aが内部に挿入されると共に、貫通孔3bの内部において絶縁ロッド5の外周に楔状スペーサ6が挿入される。電極3の貫通孔3bの内壁面3cには、絶縁ロッド5の長手方向中央側に向けて貫通孔3bの内径を漸減させるテーパー部3dが設けられている。テーパー部3dは、非直線抵抗体2側が小径穴となるような向きとされている。
【0021】
下端面2b側に設置された他方の電極4については、上端面2a側に設置された電極3と同様に形成されている。つまり、電極4には、その中心に開口穴4aが設けられ、開口穴4aの周りに複数の貫通孔4bが等間隔に並んでいる。複数の貫通孔4bの内壁面には、絶縁ロッド5の長手方向中央側に向けて貫通孔4bの内径を漸減させるテーパー部4dが設けられている。開口穴4aの内面には雌ネジが設けられる。開口穴4aとその内面に設けられた雌ネジによって、第1雌ネジ穴4eが構成されている。
【0022】
電極3、4の材質は特に制限はないが、アルミニウム合金を用いることが好ましい。より具体的には、JIS5000系合金(Al-Mg系合金)またはJIS6000系合金(Al-Mg-Si系合金)を用いるとよい。
【0023】
両ネジボルト10、11は、図1に示すように、金属板8、9と電極3、4とを締結する。両ネジボルト10、11は、左ネジ部10a、11a(第1雄ネジ部)と、左ネジ部10a、11aに対して締結方向が逆向きである右ネジ部10b、11b(第2雄ネジ部)と、中央部10cとを有する。両ネジボルト10、11は、左ネジ部10a、11aと、右ネジ部10b、11bとが、同軸に、中央部10c、11cを介して、非直線抵抗体2の積層方向に沿って配置されている。
【0024】
左ネジ部10a、11aは、金属板8、9の中心に設けられた開口穴8a、9aに取付けられる。左ネジ部10a、11aは、反時計方向に回転されることで、開口穴8a、9aの内部において奥(図1において、非直線抵抗体2の方向)に進む。
【0025】
右ネジ部10b、11bは、電極3、4の中心に設けられた開口穴3a、4aに取付けられる。右ネジ部10b、11bは、左ネジ部10a、11aと反対の方向、つまり、時計方向に回転されることで、開口穴3a、4aの内部において奥(図1において、非直線抵抗体2の方向)に進む。
【0026】
この他に、両ネジボルト10、11は、右ネジ部10b、11bが設けられた側の頂面に、締結穴10d、11dが設けられている。締結穴10d、11dは、たとえば六角穴であって、金属板8、9と電極3、4との間の締結を調整するために両ネジボルト10、11を回転させる際に、六角レンチのような工具が差し込まれる。
【0027】
絶縁ロッド5は、棒状体であって、図1に示すように、非直線抵抗体2の積層方向に沿って延在している。絶縁ロッド5は、直径が例えば10mm以上であって、FRP(Fiber-Reinforced Plastics(繊維強化プラスチック))によって形成されている。
【0028】
絶縁ロッド5は、非直線抵抗体2および金属板8、9の側面(外周面)に設置されている。絶縁ロッド5は、電極3、4に設けられた貫通孔3b、4bに一方の端部5aおよび他方の端部5bが挿入されている。これと共に、絶縁ロッド5は、絶縁板12に設けられた図示略の貫通孔に挿入されている。図1及び図2から判るように、絶縁ロッド5は、非直線抵抗体2の積層体と金属板8、9との外周面の周りに予め決められた本数が等間隔に並んで配置されている。
【0029】
楔状スペーサ6は、図1及び図3に示すように、電極3、4に設けられた貫通孔3b、4bの内部に設置されている。楔状スペーサ6は、貫通孔3b、4bの内部において、貫通孔3b、4bの内壁面3c、4cのテーパー部3d、4dと、絶縁ロッド5の外周面との間に介在している。
また、貫通孔3b、4bの内壁面3c、4cのテーパー部3d、4dと、楔状スペーサ6との間には、ポリ四弗化エチレンシート13が挿入されている。ポリ四弗化エチレンシート13は、テーパー部3d、4dと楔状スペーサ6とに挟まれている。ポリ四弗化エチレンシート13の厚みは、0.1mm~0.2mmの範囲とされている。
【0030】
図4に示すように、楔状スペーサ6は、3つの楔状スペーサ6を組合せたときに、中空円筒体になる形状を有している。貫通孔3b、4b内においても、図4に示すような配置とされる。この中空円筒体の中空部に絶縁ロッド5が配置されることになる。各楔状スペーサ6は、絶縁ロッド5に接する内面6aと、貫通孔3b、4bのテーパー部3d、4dに対向する外面6bとを有する。内面6aは、楔状スペーサ6の長手方向に沿って曲率半径が変化しない凹曲面とされている。一方、外面6bは、楔状スペーサ6の長手方向先端側に向かうにつれて曲率半径が小さくなる凸のテーパー面とされている。楔状スペーサ6は、長手方向に沿って縦断面を見た場合に、図中下側に向けて肉厚が斬減する楔部6cを有している。また、楔状スペーサ6の長手方向基端側には、ノッチ部6dが設けられている。
【0031】
また、楔状スペーサ6のうち、絶縁ロッド5に接する内面6aの表面粗さRaは、内壁面3c、4cに対向する外面6bの表面粗さRaよりも大きいことが好ましい。これにより、楔状スペーサ6と絶縁ロッド5との静摩擦係数が向上する。内面6aの表面粗さRaを外面6bの表面粗さRaより大きくするには、例えば、内面6aにブラスト処理を施してブラスト面とし、外面6bにはブラスト処理を行わないようにするとよい。外面6bにブラスト処理がなされると、製造工程において避雷器をシリコーンゴムでモールドする際に、外面6bとポリ四弗化エチレンシート13との接触面との間にシリコーン樹脂が侵入するおそれがある。ブラスト面が施されているかどうかは、楔状スペーサ6の内面6aの表面形状を表面形状測定機によって計測することで、判別することができる。
【0032】
更に、後述するように、貫通孔3b、4bの軸方向に対するテーパー部3d、4dの傾斜角度θと、楔状スペーサ6の軸方向に対する楔状スペーサ6の外面6b(貫通孔の内壁面側の面)の傾斜角度θとの差(θ-θ)が、0~0.6°の範囲であることが好ましい。
【0033】
楔状スペーサ6の材質は特に制限はないが、アルミニウム合金を用いることが好ましい。より具体的には、アルミニウム合金としては、例えば、JIS5000系合金(Al-Mg系合金)またはJIS6000系合金(Al-Mg-Si系合金)やアルミダイカスト品ADC12などを用いることができる。
【0034】
ポリ四弗化エチレンシート13は、図4に示すように中空の円錐台形状に巻回されており、内側の面が楔状スペーサ6の外面6bに接し、外側の面が貫通孔3b、4bのテーパー部3d、4dに接する。図5には、図4に示すポリ四弗化エチレンシート13及び楔状スペーサ6が、貫通孔3b、4bに挿入された状態を平面図で示している。図5の例では、1枚のポリ四弗化エチレンシート13が貫通孔3b、4bに挿入されたことで、楔状スペーサ6同士の間にもポリ四弗化エチレンシート13が存在している。楔状スペーサ6同士の間の領域では、ポリ四弗化エチレンシート13は貫通孔3b、4bのテーパー部3d、4dに接し、楔状スペーサ6の外面6bには接していない。
【0035】
ポリ四弗化エチレンシート13は、図4及び図5に示す形態に限定されるものではない。例えば、図6に示すように、貫通孔3b、4bのテーパー部3d、4dと楔状スペーサ6の外面6bとの間のみに、ポリ四弗化エチレンシート13を介在させてもよい。図6の例では、3枚のポリ四弗化エチレンシート13が貫通孔3b、4bの挿入されている。
【0036】
また、ポリ四弗化エチレンシート13と楔状スペーサ6との間に接着層を設けてもよい。これにより、ポリ四弗化エチレンシート13と楔状スペーサ6とが相互に接着される。
【0037】
樹脂製被覆体7は、図1に示すように、絶縁ロッド5と、絶縁ロッド5が配置された非直線抵抗体2の積層体の外周面を被覆している。樹脂製被覆体7は、シリコーンゴムなどの絶縁性の樹脂をモールドすることによって形成される。
【0038】
次に、本実施形態のポリマー避雷器1の組み立て方法を説明する。
まず、図7に示すように、電極3と金属板8とを両ネジボルト10によって締結して一体化する。具体的には、電極3に設けられた開口穴3aに、両ネジボルト10の右ネジ部10bをねじ込むことによって、電極3に両ネジボルト10を取り付ける。また、金属板8の開口穴8aに両ネジボルト10の左ネジ部10aをねじ込むことによって、金属板8に両ネジボルト10を取り付ける。このようにして、金属板8と電極3の組み合わせ体を形成する。
図7では、ポリマー避雷器1において上端面2a側に設置される金属板8と電極3との組み合わせ体について示したが、下端面2b側に設置される金属板9と電極4についても、上記と同様に、両ネジボルト11を用いて組み立てる。
【0039】
次に、図1に示したように、下端面2b側に設置される金属板9と電極4との組み合わせ体に複数の絶縁ロッド5を取り付け、絶縁ロッド5に囲われた空間に、複数の非直線抵抗体2を積み重ねる。このとき、適宜、絶縁板12を複数の非直線抵抗体2の間に介在させる。そして、上端面2a側に設置される金属板8と電極3との組み合わせ体を複数の絶縁ロッド5に取り付ける。取り付けた状態を図8に示す。絶縁ロッド5の端部5aが、電極3の貫通孔3bに挿入される。図示を省略するが、電極4の貫通孔4bにも絶縁ロッド5の端部5bが挿入される。
【0040】
次に、楔状スペーサ6とポリ四弗化エチレンシート13を用いて、絶縁ロッド5を電極3、4に締結する。
具体的には、図9に示すように、絶縁ロッド5の端部5aが挿入された電極3の貫通孔3bの内部に、楔状スペーサ6とポリ四弗化エチレンシート13を挿入する。電極3の貫通孔3bにおいてテーパー部3dの大径側から楔状スペーサ6とポリ四弗化エチレンシート13を挿入することによって、貫通孔3bのテーパー部3dと絶縁ロッド5の外周面との間に、楔状スペーサ6及びポリ四弗化エチレンシート13を介在させる。楔状スペーサ6を挿入する際には、楔部6cを絶縁ロッド5の長手方向中央側に向けて挿入する。また、楔状スペーサ6のうち、内面6aにブラスト処理を施してブラスト面とする一方で、外面6bにはブラスト処理を行わないようにしてもよい。これにより、絶縁ロッド5に接する内面6aの表面粗さRaが、内壁面3c、4cに対向する外面6bの表面粗さRaよりも大きくなる。
【0041】
また、ポリ四弗化エチレンシート13と楔状スペーサ6との間に接着層を介在させる場合には、まず、片面に接着層が形成されたポリ四弗化エチレンシートを用意する。次いで、ポリ四弗化エチレンシートの接着層側の面を楔状スペーサ6側に向けた状態とする。そして、ポリ四弗化エチレンシート13及び楔状スペーサ6を、貫通孔3b、4bに挿入する。
【0042】
ここで、図9に示すように、貫通孔3b、4bの軸方向mに対するテーパー部3dの傾斜角度θと、楔状スペーサ6の軸方向mに対する楔状スペーサ6の外面6bの傾斜角度θとの差(θ-θ)が、0~0.6°の範囲に調整することが好ましく、0~0.4°の範囲に調整することがより好ましい。(θ-θ)が0.6°を超えるか、0°未満になると、楔状スペーサ6を貫通孔3b、4bに挿入した際に、楔状スペーサ6の外面6bとテーパー部3d、4dとの間に隙間が生じてしまうので好ましくない。
【0043】
次いで、絶縁ロッド5と電極3との相対位置を固定したまま、楔状スペーサ6及びポリ四弗化エチレンシート13を貫通孔3b内に圧入する。より具体的には、テーパー部3dの大径側から図示しない治具を挿入し、楔状スペーサ6のノッチ部6dに治具を当てる。次いで、治具を押し込んで、楔状スペーサ6を更に押し込む。このとき、楔状スペーサ6と貫通孔3bのテーパー部3dとの間にポリ四弗化エチレンシート13が挿入されているので、楔状スペーサ6とテーパー部3dとの間の摩擦力が低下し、楔状スペーサ6が所定の位置まで確実に押し込められる。これにより、楔状スペーサ6が絶縁ロッド5をその周囲から圧縮して締め付ける。また、後述するように、絶縁ロッド5には、その軸方向に引張荷重が加わる。このため、電極3及び絶縁ロッド5は、楔部6cを有する楔状スペーサ6によって強固に固定される。また、楔状スペーサ6が押し込まれることで、ポリ四弗化エチレンシート13がその厚み方向に圧縮される。これにより、楔状スペーサ6の外面6bとポリ四弗化エチレンシート13が隙間なく密着する。同様に、ポリ四弗化エチレンシート13と貫通孔3bのテーパー部3dが隙間なく密着する。
【0044】
図示を省略するが、下端面2b側に設置される金属板8と電極4との組み合わせ体に複数の絶縁ロッド5を取り付ける場合についても、上記と同様な方法で行う。
【0045】
次に、両ネジボルト10を締め付ける。上述したように、金属板8と電極3との両者は、両ネジボルト10によって連結されている。金属板8には、両ネジボルト10の左ネジ部10aが取り付けられている。これに対して、電極3には、両ネジボルト10の右ネジ部10bが取り付けられている。このため、両ネジボルト10に設けられた締結穴10dに締結工具を差し込んで、両ネジボルト10を締め付ける(右ネジ部10bを時計周りに回す)と、金属板8と電極3とが両ネジボルト10の軸方向で互いに離れる方向に離間する。その結果、複数の非直線抵抗体2には両ネジボルト10の軸方向(積層方向)に圧縮荷重が印加され、絶縁ロッド5には、その軸方向に引張荷重が印加される。このため、電極3、金属板8、絶縁ロッド5および複数の非直線抵抗体2の積層体が、積層方向(ポリマー避雷器の軸方向)において強固に固定される。
【0046】
図示を省略するが、下端側に設置される金属板9と電極4との組み合わせ体についても、上記と同様な方法で両ネジボルト11の締め付けを行う。
【0047】
次に、図1に示したように、絶縁ロッド5が配置された非直線抵抗体2の積層体の外周面を樹脂製被覆体7で被覆させる。ここでは、シリコーンゴムなどの絶縁樹脂をモールドすることによって樹脂製被覆体7を設ける。
【0048】
以上のようにして、ポリマー避雷器1を完成させる。
【0049】
本実施形態のポリマー避雷器1によれば、テーパー部3d、4dを有する電極3、4の貫通孔3b、4b内に絶縁ロッド5の端部5a、5bを挿入し、絶縁ロッド5と貫通孔3b、4bのテーパー部3d、4dとの間に楔状スペーサ6を配置し、更に楔状スペーサ6とテーパー部3d、4dとの間にポリ四弗化エチレンシート13を挿入することで、楔状スペーサ6とテーパー部3d、4dとの間の摩擦力が低減し、楔状スペーサ6が所定の位置まで確実に押し込まれる。これにより、絶縁ロッド5が楔状スペーサ6によって強固に締め付けられ、電極3、4と絶縁ロッド5とが強く締結させることができる。特に、電極3、4と絶縁ロッド5の締結力を、絶縁ロッド5の破断強度よりも高めることができる。
【0050】
また、電極3、4に設けられた複数の貫通孔3b、4bにおいて、楔状スペーサ6がそれぞれ、狙いの位置まで押し込まれるため、絶縁ロッド5の締結力が貫通孔3b、4b毎にばらつかずに一定になる。これにより、ポリマー避雷器1に対して曲げ応力が加わった際に、曲げ方向外側に位置する絶縁ロッド5に引張応力が加わり、曲げ方向内側に位置する絶縁ロッド5に圧縮応力が加わった場合であっても、絶縁ロッド5の締結力が全ての貫通孔3b、4bにおいて一定であり、かつその締結力が絶縁ロッドの破断強度を上回るので、絶縁ロッド5の破断の前に、絶縁ロッド5と電極3、4との締結箇所が破壊される恐れがなく、ポリマー避雷器1の曲げ強度を大幅に高めることができる。
【0051】
更に、電極3、4の貫通孔3b、4bの内壁面3c、4cの少なくとも一部が、絶縁ロッド5の長手方向中央側に向けて貫通孔3b、4bの内径を漸減させるテーパー部3d、4dとされ、楔状スペーサ6は、絶縁ロッド5の長手方向中央側に向けて肉厚が漸減する断面視楔状の楔部6cを有し、楔部6cが貫通孔3b、4bのテーパー部3d、4dと絶縁ロッド5との間に差し込まれるので、絶縁ロッド5に引張荷重が加わった際に楔状スペーサ6によって絶縁ロッド5を強く締結することができ、ポリマー避雷器1の曲げ強度をより一層高めることができる。
【0052】
更に、楔状スペーサ6と貫通孔3b、4bのテーパー部3d、4dとの間にポリ四弗化エチレンシート13を押し込むことで、ポリ四弗化エチレンシート13がその厚み方向に圧縮された状態になり、ポリ四弗化エチレンシート13を貫通孔3b、4bのテーパー部3d、4d及び楔状スペーサ6に密着させることができる。これにより、楔状スペーサ6と貫通孔3b、4bのテーパー部3d、4dとの間に隙間が生じるおそれがない。これにより、樹脂製被覆体7をモールド成形する際に、硬化前の樹脂が楔状スペーサ3と貫通孔3b、4bのテーパー部3d、4dとの間に侵入する恐れがなく、絶縁ロッド5の締結力が低下する恐れがない。
【0053】
また、貫通孔3b、4b内において、複数の楔状スペーサ6が一つの絶縁ロッド5を囲むように配置されているので、絶縁ロッド5の締結力をより一層高めることができる。
【0054】
また、ポリ四弗化エチレンシート13の厚みが、0.1mm~0.2mmの範囲とされているので、絶縁ロッド5の締結力をより一層高めることができる。ポリ四弗化エチレンシート13の厚みを0.1mm以上とすることで、ポリ四弗化エチレンシート13の破断を防止し、摩擦力低減の効果を十分に発揮できる。また、厚みを0.2mm以下とすることで、ポリ四弗化エチレンシート13の過度の変形を防止し、絶縁ロッド5を安定して締結できる。
【0055】
更に、ポリ四弗化エチレンシート13と楔状スペーサ6との間に接着層を形成することで、ポリ四弗化エチレンシート13の位置ずれを防止することができ、絶縁ロッド5を安定して締結できる。また、ポリマー避雷器1の組み立て時の作業性も改善できる。
【0056】
更に、楔状スペーサ6の材質をアルミニウム合金とすることで、楔状スペーサ6の圧入時に楔状スペーサ6が適度に変形し、絶縁ロッド5と楔状スペーサ6とが密着し、絶縁ロッド5への応力集中が緩和できるとともに樹脂製被覆体7の形成時の樹脂の侵入を防止でき、より確実に絶縁ロッド5の締結力を高められる。他の材料(軟鋼等)では、材質が硬いため、圧入時に楔状スペーサ6の形状が変形しにくく、絶縁ロッド5と楔状スペーサ6の僅かな寸法の違いにより、両者が局所的に接触した状態になる。これにより、絶縁ロッド5にとって過負荷な圧縮力となる恐れがある。アルミニウム合金製の楔状スペーサ6であれば、圧入時に楔状スペーサ6が適度に変形することで、絶縁ロッド5に馴染み、絶縁ロッド5と楔状スペーサ6間の接触面積を大きく確保するとともに、絶縁ロッド5と楔状スペーサ6間で発生する局所的な応力集中を分散できる。また、絶縁ロッド5と楔状スペーサ6が密着し、接触面におけるシリコーンゴムの侵入を防止する役目も期待できる。
【0057】
また、楔状スペーサ6のうち、絶縁ロッド5側の内面6aをブラスト処理面とすることで、楔状スペーサ6と絶縁ロッド5との静摩擦係数が向上し、絶縁ロッド5をより安定して締結できる。
また、楔状スペーサ6の絶縁ロッド5側の内面6aの表面粗さRaを、貫通孔の内壁面3c、4c側の外面6bの表面粗さRaより大きくすることで、楔状スペーサ6と絶縁ロッド5との静摩擦係数が向上し、絶縁ロッド5をより安定して締結できる。
【0058】
更に、貫通孔3b、4bの軸方向に対するテーパー部3d、4dの傾斜角度θと、楔状スペーサ6の軸方向に対する楔状スペーサ6の外面6bの傾斜角度θとの差(θ-θ)が、0~0.6°の範囲とすることで、貫通孔3b、4bと楔状スペーサ6との間が隙間なく密着し、シリコーンゴムのモールド時にシリコーンゴムが貫通孔3b、4bと楔状スペーサ6との間に侵入することを防止できる。
【0059】
また、本実施形態によれば、電極3、4と金属板8、9との締結に用いる両ネジボルト10、11を利用して、金属板8、9と電極3、4とを離間させることで、非直線抵抗体2に圧縮荷重を付与する一方、締結済みの絶縁ロッド5と電極3、4との間に引張荷重を付与することで、楔状スペーサ6による絶縁ロッド5の締結力をより一層高めることができる。
【0060】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、楔状スペーサと貫通孔のテーパー部との間に挟まれたポリ四弗化エチレンシートを持つことにより、ポリマー避雷器の機械的強度をより一層向上できる。
【実施例
【0061】
図1図5に示すポリマー避雷器を製造した。比較例1は、ポリ四弗化エチレンシートを有しない従来のポリマー避雷器であり、実施例1はポリ四弗化エチレンシートを有するポリマー避雷器である。実施例1では、ポリ四弗化エチレンシートの厚みを0.13mmとし、ポリ四弗化エチレンシートと楔状スペーサの間には接着層を介在させた。また、電極及び楔状スペーサの材質は、実施例1及び比較例1とも、JIS5000系合金(Al-Mg系合金)とした。実施例1及び比較例1のポリマー避雷器は、それぞれ6基ずつ製造した。
【0062】
比較例1及び実施例1について、避雷器の曲げ破壊試験を実施した。被試験体である避雷器を水平にして、その一端を強固に支持した。その後、他端には、その垂直方向にある一定の割合で力を加えた。それと同時に、避雷器の内部要素を観察し、そのいずれかの部分に亀裂等の異常が認められたときの力を曲げ破壊モーメント値とした。
【0063】
曲げ破壊試験の結果を表1に示す。
比較例1では、曲げ破壊モーメント値が2310~4041Nmの範囲となり、ばらつきが大きいのに対し、実施例1ではいずれも曲げ破壊モーメント値が3943Nm以上と高い曲げ荷重を維持しており、曲げ破壊モーメント値のばらつきも小さく、良好な結果を得た。実施例1では、ポリ四弗化エチレンシートによって、電極と楔状スペーサ間の圧入時の摩擦係数が一定になることで、複数本ある絶縁ロッドそれぞれで、均等な締結力になり、結果的に強度面におけるばらつきが抑えられたためであると推測される。
【0064】
また、比較例1では、曲げ荷重を増加した際の破壊箇所が、絶縁ロッドと電極との締結箇所、またはロッド自体の破断であり、供試器毎で異なる箇所であった。特に比較例1では曲げ破壊モーメントが2000~3000Nmの範囲において、絶縁ロッドと電極との締結箇所で破断した。このような比較例1に対し、実施例1ではいずれも絶縁ロッドが破断に至っている。これは、ポリ四弗化エチレンシートにより、楔状スペーサが確実に押し込まれることによって絶縁ロッド毎の締結力が安定し、また、モールド工程で電極とスペーサ間へのシリコーンゴム侵入が解消されたことでモールド工程前後において絶縁ロッドの締結力が変化することがなく、確実な締結力を得られたためであると推測される。
【0065】
【表1】
【0066】
次に、楔形スペーサの内面にブラスト処理を施して、内面の表面粗さRaを外面の表面粗さより大きくしたこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2のポリマー避雷器を製造した。
また、楔形スペーサの内面及び外面にブラスト処理を施して、内面及び外面の両方をブラスト面とした以外は、上記実施例1と同様にして、比較例2のポリマー避雷器を製造した。
【0067】
実施例1、実施例2及び比較例2のポリマー避雷器について、シリコーンゴムでモールドを行った後にポリマー避雷器を切断し、電極と、電極に締結された絶縁ロッドとの単体引張試験を行った。試験条件として、5mm/分の速度で絶縁ロッドを引張り、荷重の低下が起こるまで荷重を上昇させ、その間の変位と荷重を記録した。本試験において、楔形スペーサと絶縁ロッドの間ですべりが発生する前に絶縁ロッドが破断する場合、絶縁ロッドの破断強度よりも締結力が高く、ポリマー避雷器の最弱点部が絶縁ロッドの破断となる為、締結構造としては十分な締結力を有していると言える。
【0068】
なお、いずれの避雷器においても、貫通孔の軸方向に対するテーパー部の傾斜角度θは4°であり、楔状スペーサの軸方向に対する楔状スペーサの貫通孔の内壁面側の面の傾斜角度θは4°であり、これらの差(θ-θ)は0°であった。
【0069】
表2に、実施例1、実施例2及び比較例2の単体引張試験の結果を示す。
実施例2のように、楔形スペーサの内面のみにブラスト処理を行う事で、絶縁ロッドと楔形スペーサの間の摩擦力が向上し、絶縁ロッドが楔形スペーサからすべる前に絶縁ロッドが破断する事がわかった。
また、実施例1では、ブラスト処理を行わなかったため、平均破壊荷重が高くなった。ただし、絶縁ロッドが楔形スペーサとの間ですべりを発生させるケースが有り、絶縁ロッドの締結力は実施例2に比べれば安定しなかった。
一方、比較例2のように、楔形スペーサの内面と外面の両方にブラスト処理を行った場合には、ポリ四弗化エチレンシートとの接触面が粗くなった為、楔形スペーサとポリ四弗化エチレンシートの間にシリコーンゴムが浸入し、破壊荷重が大幅に低下した。
【0070】
【表2】
【0071】
次に、θが4°であるテーパ部を有する電極と、内面のみにブラスト処理を行い、かつ、θを2.4~5.5°の範囲で変化させた楔形スペーサを使用したポリマー避雷器について、単体引張試験の結果を表3に示す。単体引張試験の条件は表2の場合と同様である。
【0072】
表3に示すように、電極と楔形スペーサの角度差(θ-θ)が生じると、楔形スペーサが絶縁ロッドを圧縮する応力に偏りが発生し、絶縁ロッドと楔形スペーサの間にシリコーンゴムの浸入が多くなる。
【0073】
また、角度差(θ-θ)が0~0.6°の範囲からから大きく外れると、テーパー面に応力集中が起こり、テーパー面が変形し、絶縁ロッドを締め付ける応力が低下する。電極のテーパー面と楔形スペーサの角度差が0°~0.6°の範囲であれば、電極が変形せず絶縁ロッドが破断する結果が得られた。
【0074】
【表3】
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
1…ポリマー避雷器、2…非直線抵抗体、2a…上端面、2b…下端面、3、4…電極、3b、4b…貫通孔、3c、4c…内壁面、3d、4d…テーパー部、3e、4e…第1雌ネジ穴、5…絶縁ロッド、6…楔状スペーサ、6c…楔部、7…樹脂製被覆体、8、9…金属板、8b、9b…第2雌ネジ穴、10、11…両ネジボルト、10a、11a…第1雄ネジ部(左ネジ部)、10b、11b…第2雄ネジ部(右ネジ部)、13…ポリ四弗化エチレンシート。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9