IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 宝山鋼鉄股▲分▼有限公司の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-14
(45)【発行日】2022-02-22
(54)【発明の名称】低温圧力容器用鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220215BHJP
   C22C 38/12 20060101ALI20220215BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20220215BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20220215BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20220215BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20220215BHJP
   B22D 11/115 20060101ALI20220215BHJP
   C21C 7/00 20060101ALN20220215BHJP
【FI】
C22C38/00 302B
C22C38/12
C22C38/14
C21D8/02 D
C21D9/00 L
B22D11/00 A
B22D11/115 B
C21C7/00 B
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2020511260
(86)(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 CN2018101858
(87)【国際公開番号】W WO2019037749
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2020-02-21
(31)【優先権主張番号】201710731755.2
(32)【優先日】2017-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201710731249.3
(32)【優先日】2017-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鄭 宏 光
(72)【発明者】
【氏名】徐 国 棟
(72)【発明者】
【氏名】王 迎 春
(72)【発明者】
【氏名】沈 燕
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-087251(JP,A)
【文献】国際公開第2014/203347(WO,A1)
【文献】特開2016-183387(JP,A)
【文献】特開2014-019936(JP,A)
【文献】特開2014-040648(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103498100(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/00
B22D 11/00
B22D 11/115
C21C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学元素の質量百分配合比が:C 0.02-0.08%、Si 0.10-0.35%、Mn 0.3-0.8%、Ni 7.0-12.0%、N≦0.005%、Al 0.015-0.05%、Nb 0.1-0.3%、V 0.1-0.3%、Ca 0.001-0.005%及び希土類元素≦1%であり、残部がFe及び他の不可避不純物である、低温圧力容器用鋼。
【請求項2】
その微細組織には、CaO粒子もしくはCaS粒子、又はCaO粒子及びCaS粒子の両方があることを特徴とする、請求項1に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項3】
その微細組織は、V(C、N)粒子をさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項4】
前記V(C、N)粒子、CaO粒子及びCaS粒子のそれぞれの直径は0.2-5μmであることを特徴とする、請求項3に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項5】
前記低温圧力容器用鋼はVとCaを含み、前記低温圧力容器用鋼の断面において、V(C、N)粒子、CaO粒子、及びCaS粒子の数は、5~20個/mmであることを特徴とする、請求項3に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項6】
Vの質量百分配合比は0.1-0.2%であることを特徴とする、請求項1に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項7】
Caの質量百分配合比は0.001-0.003%であることを特徴とする、請求項1に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項8】
化学元素の質量百分配合比が:C 0.02-0.08%、Si 0.10-0.35%、Mn 0.3-0.8%、Ni 7.0-12.0%、N≦0.005%、Al 0.015-0.05%、Nb 0.1-0.3%、Ti 0.1-0.3%、Mg 0.001-0.005%及び希土類元素≦1%であり、残部がFe及び他の不可避不純物である、低温圧力容器用鋼。
【請求項9】
その微細組織には、MgO粒子もしくはMgS粒子、又はMgO粒子及びMgS粒子の両方があることを特徴とする、請求項8に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項10】
その微細組織は、Ti(C、N)粒子をさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項11】
前記Ti(C、N)粒子、MgO粒子及びMgS粒子の各々の直径は0.1-8μmであることを特徴とする、請求項10に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項12】
Ti(C、N)粒子、MgO粒子、及びMgS粒子のそれそれの数は5~25個/mmであることを特徴とする、請求項10に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項13】
Tiの質量百分配合比は0.1-0.2%であることを特徴とする、請求項8に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項14】
Mgの質量百分配合比は0.001-0.003%であることを特徴とする、請求項8に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項15】
化学元素の質量百分配合比が:C 0.02-0.08%、Si 0.10-0.35%、Mn 0.3-0.8%、Ni 7.0-12.0%、N≦0.005%、Al 0.015-0.05%、Nb 0.1-0.3%、Mg 0.001-0.005%及び希土類元素≦1%であり、残部がFe及び他の不可避不純物であることを特徴とする、低温圧力容器用鋼。
【請求項16】
微細組織には、MgO粒子もしくはMgS粒子、又はMgO粒子及びMgS粒子の両方があることを特徴とする、請求項15に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項17】
前記MgO粒子及びMgS粒子のそれぞれの直径は0.1-8μmであることを特徴とする、請求項16に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項18】
前記MgO粒子及び前記MgS粒子の数は15~55個/mmであることを特徴とする、請求項16に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項19】
Mgの質量百分配合比は0.001-0.003%であることを特徴とする、請求項15に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項20】
前記希土類元素はCe、Hf、La、Re、Sc及びYからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1,請求項8,または請求項15に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項21】
その引張強度が≧850MPaで、降伏強度が≧625MPaで、伸びが≧25%で、-196℃での衝撃靭性が≧150Jであることを特徴とする、請求項1,請求項8,また請求項15に記載の低温圧力容器用鋼。
【請求項22】
以下の工程を含むことを特徴とする、請求項1~21のいずれか1項に記載の低温圧力容器用鋼の製造方法。
(1)製錬:転炉で製錬し、次にLF+RH精錬を行う;
(2)連続鋳造;
(3)熱間圧延;
(4)焼入熱処理;
(5)焼戻処理。
【請求項23】
熱間圧延工程の前には、さらに修正研削工程を含むことを特徴とする、請求項22に記載の製造方法。
【請求項24】
前記工程(2)では、鋼片の引抜き速度を0.9~1.2m/minに制御することを特徴とする、請求項22又は23に記載の製造方法。
【請求項25】
前記工程(2)では、連続鋳造の時に、連続鋳造後のスラブにおける等軸結晶の割合を≧40%にするように、鋳型内電磁攪拌を採用し、電流を500-1000Aに、周波数を2.5~3.5Hzに制御することを特徴とする、請求項22又は23に記載の製造方法。
【請求項26】
前記工程(3)は粗圧延と仕上圧延を含み、ただし、粗圧延温度を1150~1250℃に、仕上圧延温度を1050~1150℃に制御することを特徴とする、請求項22又は23に記載の製造方法。
【請求項27】
前記工程(3)では、総圧下率を60~95%に制御することを特徴とする、請求項22又は23に記載の製造方法。
【請求項28】
前記工程(4)では、焼入熱処理温度を750~850℃にし、保温時間を60-90minにし、鋼を炉から取出す時に水冷を行うことを特徴とする、請求項22又は23に記載の製造方法。
【請求項29】
前記工程(5)では、焼戻処理温度を550~650℃にし、保温時間を40-120minにし、鋼を炉から取出した後で空冷を行うことを特徴とする、請求項22又は23に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼及びその製造方法に関し、特に、低温圧力容器に用いられるニッケル含有鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
9%Ni鋼とは、Ni元素含有量が約9%の低炭素鋼を指し、米国インターナショナル・ニッケル社の製品研究ラボから生み出されるもので、最低使用温度が-196℃にも達する。1952年、1基目の9%Ni鋼貯蔵タンクは米国で実用化された。日本国内では、1基目の液化天然ガス低温貯蔵タンクは1969年に建築され、建築された貯蔵タンクの最大タンク容量は現在で20×l0にも達する。中国国内での天然ガスの新規確認埋蔵量の増加につれて、天然ガスの開発・利用及びその低温貯蔵設備の設計・建築も中国政府によって重視されるようになる。20世紀8O年代、大慶エチレン事業において、大型9%Ni鋼エチレン球形タンクは初めて成功に建築された。2004年、中国国内での初めての大型低温液化天然ガス事業である広東液化天然ガス事業は始動し、1基の貯蔵タンクの容積は16×10にも達する。今まで、液化天然ガス設備における9%Ni鋼の使用は、既に60年以上の歴史を持っている。その優れた低温靭性及び良好な溶接性能により、9%Ni鋼は国際で低温設備領域に広く使用される鋼種になっている。
【0003】
9%Ni鋼の低温力学特性は主に化学成分、特にNi、C元素の含有量によって決定される。また、該鋼の靭性は鋼の純度及び微細組織によるものでもある。
【0004】
9%Ni鋼の生産では、連続鋳造製鋼プロセスが採用され、鋼鋳造過程における冶金処理、真空脱ガス工程及び鋼の高純度はいずれも、鋼の低温靭性の改善に極めて重要な作用を奏する。P、S等の不純物元素の存在は鋼の低温靭性を劣化させるため、P、S等の不純物元素の含有量を厳格に低レベルに制御する必要がある。
【0005】
日本では、9%Ni鋼が1977年にJIS規格に取り入れられた。同年、米国でも9%Ni鋼がASMEとASTM規格に取り入れられた。各主要工業国での9%Ni鋼の記号、化学成分及び力学特性は表1と表2に示す。
【0006】
【表1】
【0007】
【表2】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
表1と表2から分かるように、従来技術における低温圧力容器用鋼は、日々高まる使用と製造の要求を満たすことがますますできなくなる。それに鑑みて、力学特性、低温衝撃靭性が従来技術よりも向上している低温圧力容器用鋼であって、それを生産するための生産コストがより経済的である低温圧力容器用鋼は切望されている。
【0009】
発明の内容
本発明の一つの目的は、微量合金添加の設計を採用し、Niのような高価な元素を過剰に添加することなく、適量のNbと、Ca及び/又はMg元素と、並びに任意のV及び/又はTiとを添加し、全酸素を比較的に低い含有量に制御することで、低温圧力容器用鋼に高い強度、良好な成形性能及び低温衝撃靭性を持たせ、且つ鋼材料コストが従来技術よりも低い低温圧力容器用鋼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の発明目的に基づき、本発明は、化学元素の質量百分配合比が:C 0.02-0.08%、Si 0.10-0.35%、Mn 0.3-0.8%、Ni 7.0-12.0%、N≦0.005%、Al 0.015-0.05%、Nb 0.1-0.3%、Mg 0-0.005%、Ca 0-0.005%、V 0-0.3%及びTi 0-0.3%であり;残部がFe及び他の不可避不純物であり;且つCaとMgの質量百分配合比の合計が0.001-0.005%である低温圧力容器用鋼を提供する。
【0011】
ある実施形態において、本発明にかかる低温圧力容器用鋼は、CaとMgのうちの少なくとも一つ又は二つを含むが、VとTiを含まない。これらの実施形態において、本発明にかかる低温圧力容器用鋼の化学元素の質量百分配合比が:C 0.02-0.08%、Si 0.10-0.35%、Mn 0.3-0.8%、Ni 7.0-12.0%、N≦0.005%、Al 0.015-0.05%、Nb 0.1-0.3%、Ca及び/又はMg 0.001-0.005%であり;残部がFe及び他の不可避不純物である。
【0012】
ある実施形態において、本発明にかかる低温圧力容器用鋼は、VとTiのうちの少なくとも一つ又は二つをさらに含み、VとTiの質量百分配合比の合計が0.1-0.3%の範囲内にある。よって、これらの実施形態において、本発明にかかる低温圧力容器用鋼の化学元素の質量百分配合比が:C 0.02-0.08%、Si 0.10-0.35%、Mn 0.3-0.8%、Ni 7.0-12.0%、N≦0.005%、Al 0.015-0.05%、Nb 0.1-0.3%、V及び/又はTi 0.1-0.3%、Ca及び/又はMg 0.001-0.005%であり;残部がFe及び他の不可避不純物である。
【0013】
ある実施形態において、本発明にかかる低温圧力容器用鋼はVとCaを含み、その化学元素の質量百分配合比が:C 0.02-0.08%、Si 0.10-0.35%、Mn 0.3-0.8%、Ni 7.0-12.0%、N≦0.005%、Al 0.015-0.05%、Nb 0.1-0.3%、V 0.1-0.3%、Ca 0.001-0.005%であり;残部がFe及び他の不可避不純物である。ある実施形態において、前記低温圧力容器用鋼の化学元素の質量百分配合比が:C 0.02-0.06%、Si 0.10-0.35%、Mn 0.3-0.8%、Ni 7.0-12.0%、N≦0.005%、Al 0.015-0.05%、Nb 0.1-0.3%、V 0.1-0.3%、Ca 0.001-0.005%であり;残部がFe及び他の不可避不純物である。
【0014】
ある実施形態において、本発明にかかる低温圧力容器用鋼はTiとMgを含み、その化学元素の質量百分配合比が:C 0.02-0.08%、Si 0.10-0.35%、Mn 0.3-0.8%、Ni 7.0-12.0%、N≦0.005%、Al 0.015-0.05%、Nb 0.1-0.3%、Ti 0.1-0.3%、Mg 0.001-0.005%であり;残部がFe及び他の不可避不純物である。
【0015】
ある実施形態において、本発明にかかる低温圧力容器用鋼はMgを含むが、Ca、TiとVを含まず、その化学元素の質量百分配合比が:C 0.02-0.08%、Si 0.10-0.35%、Mn 0.3-0.8%、Ni 7.0-12.0%、N≦0.005%、Al 0.015-0.05%、Nb 0.1-0.3%、Mg 0.001-0.005%(好ましくは0.001-0.003%)であり;残部がFe及び他の不可避不純物である。
【0016】
従来技術に比べて、本発明にかかる低温圧力容器用鋼は、適量のNbを添加することで、Nb(C、N)を形成させ、強度の向上と衝撃靭性の改善に有利である;また、Ca及び/又はMg並びに任意のV及び/又はTiを添加することで、鋼の低温衝撃靭性を顕著に改善すると共に、鋼強度向上作用も両立させる。
【0017】
また、本願において、前記低温圧力容器用鋼の微細組織の変化過程は以下のようになる:連続鋳造スラブの凝固から室温状態までは全てオーステナイト組織である。さらに熱間圧延をしてから、焼入+焼戻(QT)で熱処理された主組織は全て低炭素焼戻マルテンサイトである。ただし、焼入処理により結晶粒子の微細なマルテンサイトが得られ、その後段の焼戻処理によりマルテンサイト構造がさらにフェライト及び微細な析出炭化物に変態すると共に、少量の分散オーステナイトが得られ、母材の靭性を大幅に改善することができ、とりわけ低温耐性と圧力耐性を持つ部品の製造に有用である。
【0018】
本発明にかかる低温圧力容器用鋼の各化学元素の設計原理は:
C:通常、Cの質量百分率は主に、炭化物の析出量と析出温度範囲を影響する。本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、炭素はある程度の強化作用を有し、Cの質量百分率を低く制御することは、該鋼の衝撃靭性の改善に有利である。しかし、炭素の質量百分率が高すぎると、材料の耐食性能が低下してしまう。力学特性と衝撃靭性を両立させるために、Cの質量百分率を0.02-0.08%に制御する。ある実施形態において、Cの質量百分率を0.02-0.06%に制御する。
【0019】
Si:鋼において、Siは強度を向上させることができるが、鋼の成形性と靭性に不利である。本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、Siの質量百分率を0.10-0.35%に、好ましくは0.10-0.30%に制御する。
【0020】
Mn:Mnはオーステナイト元素であり、ニッケル基耐食合金におけるSの有害作用を抑制し、熱可塑性を改善することができる。しかし、Mnの質量百分率が高すぎると、その耐食性の保証に不利である。よって、力学特性と耐食性を合わせて考慮すると、本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、Mnの質量百分率を0.3-0.8%に、好ましくは0.35~0.7%に制御する。
【0021】
Ni:Niは本発明にかかる低温圧力容器用鋼における主元素であり、優れたオーステナイト安定性を有し、本発明にかかる低温圧力容器用鋼の力学特性と衝撃靭性を改善することができる。Niの増加に従い、高温引張強度は徐々に向上するが、それは、Niの質量百分率が低い場合、殆どのNiはオーステナイトに固溶し、オーステナイト相領域を拡大させ、再結晶温度を高め、合金の力学特性を向上・改善できるためである。よって、本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、Niの質量百分率を7.0-12.0%に、好ましくは7.5~10.5%に制御する。
【0022】
N:Nはオーステナイトを安定化する元素である。Nの質量百分率を低く制御することは、前記低温圧力容器用鋼の衝撃靭性の改善に有利である。しかし、窒素の質量百分率が高いと、鋼の靭性と延性の低下を招き易く、且つ鋼の熱加工性も低下する。よって、本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、Nの質量百分率をN≦0.005%に制御する。
【0023】
Al:本発明の技術方案において、主にAlにより鋼の酸素含有量を制御することで、転位挙動を影響して合金を強化させる。Alの質量百分率を増加することで、固溶温度、クリープ強度を顕著に向上させることができるが、Alの質量百分率が高すぎると、鋼の可塑性を損う。また、Alの添加は鋼の伸び変形性能の改善に寄与することで、鋼の加工性能を改善する。しかし、Al含有量が質量百分率で0.05%を超えると、鋼の衝撃靭性を低下させる以上のことを考慮して、本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、Alの質量百分率を0.015-0.05%に、好ましくは0.02~0.04%に制御する。
【0024】
Nb:Nbは常用の固溶強化元素の一つである。Nbの原子半径はNi、Co、Fe原子よりも15~18%大きく、また、Nbは強い炭窒化物形成元素であり、炭素、窒素と結合してNb(C、N)となり、強度の向上、衝撃靭性の改善に有利である。それと共に、炭素と窒素はある程度の強化作用を有し、鋼における一部のNbとNb(C、N)を形成することで、オーステナイト相マトリックスを強化し、オーステナイト結晶粒子を微細化することもできるし、オーステナイト結晶粒界を強化することもできるため、前記低温圧力容器用鋼の低温衝撃靭性の改善に有利である。よって、本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、Nbの質量百分率を0.1-0.3%に、好ましくは0.1~0.2%に制御する。
【0025】
Mg:微量のマグネシウムは結晶粒界に偏析し、結晶粒界エネルギーと相境界エネルギーを低下させ、結晶粒界炭化物及び他の結晶粒界析出相の形態を改善・微細化し、例えば炭化物を塊状化若しくは球状化させ、結晶粒界の移動を有効に抑制し、結晶粒界における応力集中を低減させ、切欠感受性を解消する。また、マグネシウムは硫黄などの有害な不純物とMgOやMgSなどの高融点化合物を形成し、結晶粒界を浄化し、結晶粒界におけるS、O、Pなどの不純物元素濃度を著しく低下させ、不純物元素による被害を軽減させる。凝固過程において、鋼におけるMgOやMgSなどは核生成粒子として結晶粒子を微細化できる。微量のマグネシウムは可塑性を高め、高温引張可塑性を改善し、衝撃靭性及び疲労強度を向上させる。
【0026】
Ca:カルシウムは鋼における非金属介在物の成分、数及び形態を変更できる;また、カルシウムの添加は、鋼の結晶粒子を微細化し、脱酸・脱硫することができ、形成されるCaOとCaSは核生成粒子として凝固組織を微細化できる。鋼の耐食性、耐摩耗性、耐高温、耐低温性能を改善する;鋼の可塑性、衝撃靭性、疲労強度及び溶接性能を向上させる;鋼の熱間割れ、水素誘起割れ及びラメラテアに耐える能力を増強する。
【0027】
本発明にかかる低温圧力容器用鋼は、CaとMgのうちのいずれか一つ又は二つを含み、Caの含有量が0-0.005%、例えば0.001-0.005%であり;Mgの含有量が0-0.005%、例えば0.001-0.005%であり;ただし、Ca+Mgの含有量の合計が0.001-0.005%の範囲内にある。ある実施形態において、本発明にかかる低温圧力容器用鋼はMgのみを含み、その含有量が0.001-0.005%の範囲内に、好ましくは0.001-0.003%の範囲内にある。
【0028】
V:Vは組織の結晶粒子を微細化し、強度と靭性を向上させることができる。焼入後で微細結晶マルテンサイトが得られるために、バナジウムの添加は比較的に有効な手段である。バナジウムは強い炭化物形成元素であり、炭素との結合力が極めて強く、典型的な高融点、高硬度、高分散度炭化物であるVCを安定に形成し、耐摩耗性を強力に向上させる元素である。焼戻過程において析出するVCの粒子も、他の段階で形成されるVCの粒子も、微細で分散的である。ニオブとバナジウムを併用で添加する場合、その強度はNbを単独で添加する場合よりも高い。それと共に、オーステナイト結晶粒子をさらに微細化し、冷却済みのフェライト結晶粒子をより微細にし、強度と靭性の向上に有利である。
【0029】
Ti:Tiは鋼において固溶強化と析出強化の作用を有し、そのOとの結合能力が強く、鋼における酸素含有量を低減できる。また、TiはC、Nと結合してTi(C、N)を形成し、凝固組織を微細化することができる。Ni含有量の高い合金において、特にNbとAlの共同作用で、Tiを添加することで、Ni(Al,Ti,Nb)を形成し、鋼の強度と靭性を向上させることができる。
【0030】
本発明にかかる低温圧力容器用鋼は、VとTiのうちのいずれか一つ又は二つをさらに含んでもよく、Vの含有量が0-0.3%、例えば0.1-0.3%であり;Tiの含有量が0-0.3%、例えば0.1-0.3%である。ある実施形態において、V及び/又はTiを含む場合、V+Tiの含有量の合計が0.1-0.3%の範囲内にある。
【0031】
なお、本発明にかかる実施形態において、不可避な不純物元素はO、PとSを含む。本発明にかかる実施形態にとって、Oは主に酸化物として介在し、全酸素含有量が高いことは介在物が多いことを意味し、全酸素含有量の低減は材料の総合的性能の向上に有利であることから、上記不可避な不純物元素について、前記低温圧力容器用鋼における質量百分率を:全酸素≦0.001%、P≦0.010%、S≦0.005%に制御する。
【0032】
さらに、本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、その化学元素はさらに希土類元素を含み、その質量百分配合比が≦1%、例えば0.1-1%である。本発明において、希土類元素はCe、Hf、La、Re、Sc及びYを含む。本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、添加される希土類元素の質量百分配合比の合計が≦1%であるように、Ce、Hf、La、Re、Sc及びYのうちの少なくとも1種を添加してもよい。
【0033】
本発明にかかる技術方案において、希土類元素は浄化剤として脱酸と脱硫の作用を奏することで、結晶粒界における酸素と硫黄の有害な影響を軽減させる;また、希土類元素は微量合金元素として結晶粒界に偏析し、結晶粒界強化作用を奏する;しかも、希土類元素は活性元素として合金の酸化防止性能を改善し、表面安定性を向上させる。
【0034】
さらに、本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、その微細組織には、(Nb) CN粒子、MgO及び/又はMgS粒子及び/又はCaO及び/又はCaS粒子があり、V(C、N)粒子及び/又はTi(C、N)粒子が任意に含まれる。
【0035】
本発明にかかる低温圧力容器用鋼にVとTi若しくはそれらの組み合わせ、並びにMgとCa若しくはそれらの組み合わせから選ばれる元素を加えると、冷却凝固過程において合金中で少量のV(C、N)及び/又はTi(C、N)、並びにCaO及び/又はMgO及び/又はCaS粒子及び/又はMgS粒子の形成を促進できる。上記粒子はオーステナイト結晶粒子の微細化、安定化に寄与することで、前記低温圧力容器用鋼において、連続鋳造スラブ若しくは熱間圧延板表面に割れ欠陥が形成することを避けると共に、材料の低温衝撃靭性を改善することもできる。
【0036】
さらに、本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、V(C、N)粒子が含まれる場合、これらの粒子の直径は約0.2-5μmである;CaO及び/又はCaS粒子が含まれる場合、これらの粒子の直径は約0.2-5μmである;Ti(C、N)粒子が含まれる場合、これらの粒子の直径は約0.1-8μmである;MgO及び/又はMgS粒子が含まれる場合、これらの粒子の直径は約0.1-8μmである。
【0037】
さらに、本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、それらが含まれる場合、前記低温圧力容器用鋼の断面において、V(C、N)粒子の数は5~20個/mmで、CaO及び/又はCaS粒子の数は5~20個/mmで、Ti (C、N)粒子の数は5~25個/mmで、MgO及び/又はMgS粒子の数は5~25个/mmである。Mg及び/又はCaが含まれるが、V及び/又はTiが含まれない場合、MgO及び/又はMgS粒子及び/又はCaO及び/又はCaSの数は15~55個/mmである。
【0038】
さらに、本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、Vのみが含まれる場合、その質量百分率含有量は0.1-0.2%である;Tiのみが含まれる場合、その質量百分率含有量は0.1-0.2%である;或いは、VとTiが併せて含まれる場合、両者の質量百分率含有量の合計は0.1-0.2%である。
【0039】
さらに、本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、Caのみが含まれる場合、その質量百分率含有量は0.001-0.003%である;或いは、Mgのみが含まれる場合、その質量百分率含有量は0.001-0.003%である;或いは、CaとMgが併せて含まれる場合、両者の質量百分率含有量の合計は0.001-0.003%である。
【0040】
よって、ある実施形態において、本発明にかかる低温圧力容器用鋼の化学元素の質量百分配合比は:
C:0.02-0.08%、好ましくは0.02-0.06%;
Si:0.10-0.35%、好ましくは0.1-0.3%;
Mn:0.3-0.8%、好ましくは0.35-0.7%;
Ni:7.0-12.0%、好ましくは7.5-10.5%;
N:≦0.005%;
Al:0.015-0.05%、好ましくは0.02-0.04%;
Nb:0.1-0.3%、好ましくは0.1-0.2%;
Mg:0.001-0.005%、好ましくは0.001-0.003%、或いはCa:0.001-0.005%、好ましくは0.001-0.003%、或いはMg+Ca:0.001-0.005%、好ましくは0.001-0.003%;
任意の0.1-0.3%、好ましくは0.1-0.2%のV;
任意の0.1-0.3%、好ましくは0.1-0.2%のTi;及び
希土類元素:≦1%であり;
残部がFe及び他の不可避不純物である。
【0041】
ある実施形態において、本発明にかかる低温圧力容器用鋼の化学元素の質量百分配合比は:
C:0.02-0.06%;
Si:0.1-0.3%;
Mn:0.35-0.7%;
Ni:7.5-10.5%;
N:≦0.005%;
Al:0.02-0.04%;
Nb:0.1-0.2%;
Mg:0.001-0.003%、或いはCa:0.001-0.003%、或いはMg+Ca:0.001-0.003%;
任意の0.1-0.3%、好ましくは0.1-0.2%のV;
任意の0.1-0.3%、好ましくは0.1-0.2%のTi;及び
希土類元素:≦1%であり;
残部がFe及び他の不可避不純物である。
【0042】
さらに、本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、その引張強度が≧850MPaで、降伏強度が≧625MPaで、伸びが≧25%で、-196℃での衝撃靭性が≧150Jである。ある実施形態において、本発明にかかる低温圧力容器用鋼において、その引張強度が850-870MPaで、降伏強度が625-650MPaで、伸びが25-30%で、-196℃での衝撃靭性が150-170Jである。
【0043】
相応に、本発明のもう一つの目的は、以下の工程を含む前記低温圧力容器用鋼の製造方法を提供することにある。
【0044】
(1)製錬:転炉で製錬し、次にLF+RH精錬を行う;
(2)連続鋳造;
(3)熱間圧延;
(4)焼入熱処理;
(5)焼戻処理。
【0045】
本発明にかかる製造方法において、RH精錬の末期に少量のフェロバナジウム及び/又はフェロチタンを加えることでV及び/又はTiを添加し、且つカルシウムワイヤをフィードすることでCaを添加する及び/又はニッケル-マグネシウム合金を加えることでMgを添加し、さらに本発明に限定される範囲に入るように鋼における各元素の質量百分率を制御してから、アルゴンガスを吹き込んでソフトブローによる攪拌を行い、アルゴンガスの流量を5~8リットル/分に制御する。
【0046】
さらに、本発明にかかる製造方法において、熱間圧延工程の前には、さらに修正研削工程を含む。
【0047】
さらに、本発明にかかる製造方法において、前記工程(2)では、鋼片の引抜き速度を0.9~1.2m/minに制御する。
【0048】
さらに、本発明にかかる製造方法において、前記工程(2)では、連続鋳造の時に、連続鋳造後のスラブにおける等軸結晶の割合を≧40%にするように、鋳型内電磁攪拌を採用し、電流を500-1000Aに、周波数を2.5~3.5Hzに制御する。
【0049】
さらに、本発明にかかる製造方法において、前記工程(3)は粗圧延と仕上圧延を含み、ただし、粗圧延温度を1150~1250℃に、仕上圧延温度を1050~1150℃に制御する。
【0050】
さらに、本発明にかかる製造方法において、前記工程(3)では、総圧下率を60~95%に、例えば60~90%に制御する。
【0051】
さらに、本発明にかかる製造方法において、前記工程(4)では、焼入熱処理温度を750~850℃にし、保温時間を60-90minにし、出鋼時に水冷を行う。
【0052】
さらに、本発明にかかる製造方法において、前記工程(5)では、焼戻処理温度を550~650℃にし、保温時間を40-120minにし、出鋼後で空冷を行う。上記方案のパラメータのセットは、鋼の室温力学特性と低温衝撃靭性の向上に寄与することで、総合的性能が生産の要求を満たせる熱間圧延製品を得る。
【0053】
本発明にかかる低温圧力容器用鋼は、微量合金添加の設計を採用し、Niのような高価な元素を過剰に添加することなく、適量のNbと、V及び/又はTiと、Ca及び/又はMg元素とを添加し、全酸素を比較的に低い含有量に制御することで、低温圧力容器用鋼に高い強度、良好な成形性能及び低温衝撃靭性を持たせ、且つ鋼材料コストが従来技術よりも低い。
【発明を実施するための形態】
【0054】
具体的な実施形態
以下、具体的な実施例に基づいて、本発明にかかる低温圧力容器用鋼及びその製造方法をさらに解釈・説明するが、該解釈・説明は本発明の技術方案を不当に制限するものではない。
【0055】
実施例1~6及び比較例1~3
下記の工程により、実施例1~6にかかる低温圧力容器用鋼を得た。
【0056】
(1)製錬:転炉で製錬し、次にLF+RH精錬を行い、各化学元素の質量百分率を表3に示すように制御した;
(2)連続鋳造:鋼片の引抜き速度を0.9~1.2m/minに制御し、連続鋳造の時に、連続鋳造後のスラブにおける等軸結晶の割合を≧40%にするように、鋳型内電磁攪拌を採用し、電流を500-1000Aに、周波数を2.5~3.5Hzに制御した;
(3)熱間圧延:粗圧延と仕上圧延を含み、ただし、粗圧延温度を1150~1250℃に、仕上圧延温度を1050~1150℃に制御し、総圧下率を60~90%に制御した;
(4)焼入熱処理:温度を750~850℃にし、保温時間を60-90minにし、出鋼して水冷した;
(5)焼戻処理:温度を550~650℃にし、保温時間を40-120minにし、出鋼して空冷した。
【0057】
なお、実施例1~6にかかる低温圧力容器用鋼において、熱間圧延工程の前には、さらに修正研削工程を含んだ。比較例1~3にかかる比較用鋼は従来技術によって製造された。
【0058】
実施例1~6にかかる低温圧力容器用鋼及び比較例1~3にかかる比較用鋼における各化学元素の質量百分配合比は表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
各実施例にかかる製造方法の具体的なプロセスパラメータは表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
上記実施例1~6にかかる低温圧力容器用鋼の微細組織を観察したところ、以下のことを見出した:本願の各実施例の微細組織は、連続鋳造スラブの凝固から室温状態までは全てオーステナイト組織であるが、熱間圧延をしてから、焼入+焼戻(QT)で熱処理された本願の主組織は全て低炭素焼戻マルテンサイトであり、ただし、焼入処理により結晶粒子の微細なマルテンサイトが得られ、その後段の焼戻処理によりマルテンサイト構造がさらにフェライト及び微細な析出炭化物に変態すると共に、少量の分散オーステナイトが得られ、該組織により、母材の靭性を大幅に改善することができ、とりわけ低温耐性と圧力耐性を持つ部品の製造に有用である。ただし、各実施例の微細組織には、V(C、N)粒子並びにCaO及び/又はCaS粒子があり、前記V(C、N)粒子、CaO及び/又はCaS粒子の直径は約0.2-5μmであり、前記低温圧力容器用鋼の断面において、V(C、N)粒子並びにCaO及び/又はCaS粒子の数は5~20個/mmであった。
【0063】
また、実施例1~6にかかる低温圧力容器用鋼及び比較例1~3にかかる比較用鋼からサンプルを取り、サンプルに各性能テストを行い、試験で得られた結果を表5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
表5から明らかなように、本願の各実施例の降伏強度、引張強度、伸び及び-196℃での衝撃靭性はいずれも各比較例の降伏強度、引張強度、伸び及び-196℃での衝撃靭性よりも顕著に高いため、本願の各実施例の力学特性及び低温衝撃靭性が高いことは分かった。また、各実施例は、それらの引張強度が≧850MPaで、降伏強度が≧625MPaで、伸びが≧25%で、-196℃での衝撃靭性が≧150Jであった。
【0066】
実施例7~12
下記の工程により、実施例7~12にかかる低温圧力容器用鋼を得た。
【0067】
(1)製錬:転炉で製錬し、次にLF+RH精錬を行い、各化学元素の質量百分率を表3に示すように制御した;
(2)連続鋳造:鋼片の引抜きを0.9~1.2m/minに制御し、連続鋳造の時に、連続鋳造後のスラブにおける等軸結晶の割合を≧40%にするように、鋳型内電磁攪拌を採用し、電流を500Aに、周波数を2.5~3.5Hzに制御した;
(3)熱間圧延:粗圧延と仕上圧延を含み、ただし、粗圧延温度を1150~1250℃に、仕上圧延温度を1050~1150℃に制御し、総圧下率を60~90%に制御した;
(4)焼入熱処理:温度を750~850℃にし、保温時間を60-90minにし、出鋼して水冷を行った;
(5)焼戻処理:温度を550~650℃にし、保温時間を40-120minにし、出鋼して空冷した。
【0068】
なお、実施例7~12にかかる低温圧力容器用鋼において、熱間圧延工程の前には、さらに修正研削工程を含んだ。
【0069】
実施例7~12にかかる低温圧力容器用鋼の各化学元素の質量百分配合比は表6に示す。
【0070】
【表6】
【0071】
各実施例にかかる製造方法の具体的なプロセスパラメータは表7に示す。
【0072】
【表7】
【0073】
本願の上記実施例7~12にかかる低温圧力容器用鋼の微細組織を観察したところ、以下のことを見出した:本願の各実施例の微細組織は、連続鋳造スラブの凝固から室温状態までは全てオーステナイト組織であるが、熱間圧延をしてから、焼入+焼戻(QT)で熱処理された本願の主組織は全て低炭素焼戻マルテンサイトであり、ただし、焼入処理により結晶粒子の微細なマルテンサイトが得られ、その後段の焼戻処理によりマルテンサイト構造がさらにフェライト及び微細な析出炭化物に変態すると共に、少量の分散オーステナイトが得られ、該組織により、母材の靭性を大幅に改善することができ、とりわけ低温耐性と圧力耐性を持つ部品の製造に有用である。ただし、各実施例の微細組織には、Ti(C、N)粒子並びにMgO及び/又はMgS粒子があり、前記Ti(C、N)粒子、MgO及び/又はMgS粒子の直径は約0.1-8μmであり、前記低温圧力容器用鋼の断面において、Ti(C、N)粒子並びにMgO及び/又はMgS粒子の数は5~25個/mmであった。
【0074】
また、上記実施例7~12にかかる低温圧力容器用鋼及び比較例1~3にかかる普通鋼からサンプルを取り、各性能テストを行い、試験で得られた結果を表8に示す。
【0075】
【表8】
【0076】
表8から明らかなように、本願の各実施例の降伏強度、引張強度、伸び及び-196℃での衝撃靭性はいずれも各比較例の降伏強度、引張強度、伸び及び-196℃での衝撃靭性よりも顕著に高いため、本願の各実施例の力学特性及び低温衝撃靭性が高いことは分かった。また、各実施例は、それらの引張強度が≧850MPaで、降伏強度が≧625MPaで、伸びが≧25%で、-196℃での衝撃靭性が≧150Jであった。
【0077】
実施例13~18
下記の工程により、実施例13~18にかかる低温圧力容器用鋼を得た。
【0078】
(1)製錬:転炉で製錬し、次にLF+RH精錬を行い、各化学元素の質量百分率を表3に示すように制御した;
(2)連続鋳造:鋼片の引抜きを0.9~1.2m/minに制御し、連続鋳造の時に、連続鋳造後のスラブにおける等軸結晶の割合を≧40%にするように、鋳型内電磁攪拌を採用し、電流を500Aに、周波数を2.5~3.5Hzに制御した;
(3)熱間圧延:粗圧延と仕上圧延を含み、ただし、粗圧延温度を1150~1250℃に、仕上圧延温度を1050~1150℃に制御し、総圧下率を60~90%に制御した;
(4)焼入熱処理:温度を750~850℃にし、保温時間を60-90minにし、出鋼して水冷を行った;
(5)焼戻処理:温度を550~650℃にし、保温時間を40-120minにし、出鋼して空冷した。
【0079】
なお、実施例13~18にかかる低温圧力容器用鋼において、熱間圧延工程の前には、さらに修正研削工程を含んだ。
【0080】
実施例13~18にかかる低温圧力容器用鋼の各化学元素の質量百分配合比は表9に示す。
【0081】
【表9】
【0082】
各実施例にかかる製造方法の具体的なプロセスパラメータは表10に示す。
【0083】
【表10】
【0084】
本願の上記実施例13~18にかかる低温圧力容器用鋼の微細組織を観察したところ、以下のことを見出した:本願の各実施例の微細組織は、連続鋳造スラブの凝固から室温状態までは全てオーステナイト組織であるが、熱間圧延をしてから、焼入+焼戻(QT)で熱処理された本願の主組織は全て低炭素焼戻マルテンサイトであり、ただし、焼入処理により結晶粒子の微細なマルテンサイトが得られ、その後段の焼戻処理によりマルテンサイト構造がさらにフェライト及び微細な析出炭化物に変態すると共に、少量の分散オーステナイトが得られ、該組織により、母材の靭性を大幅に改善することができ、とりわけ低温耐性と圧力耐性を持つ部品の製造に有用である。ただし、各実施例の微細組織には、MgO及び/又はMgS粒子があり、前記MgO及び/又はMgS粒子の直径は約0.1-8μmであり、前記低温圧力容器用鋼の断面において、MgO及び/又はMgS粒子の数は15~55個/mmであった。
【0085】
また、上記実施例13~18にかかる低温圧力容器用鋼及び比較例1~3にかかる普通鋼からサンプルを取り、各性能テストを行い、試験で得られた結果を表11に示す。
【0086】
【表11】
【0087】
表11から明らかなように、本願の各実施例の降伏強度、引張強度、伸び及び-196℃での衝撃靭性はいずれも各比較例の降伏強度、引張強度、伸び及び-196℃での衝撃靭性よりも顕著に高いため、本願の各実施例の力学特性及び低温衝撃靭性が高いことは分かった。また、各実施例は、それらの引張強度が≧850MPaで、降伏強度が≧625MPaで、伸びが≧25%で、-196℃での衝撃靭性が≧150Jであった。
【0088】
本発明の保護の範囲における従来技術部分は、本出願書類に記載の実施例に限定されるものではなく、本発明の方案と矛盾しない先行技術(先行の特許文献、先行の公開出版物、先行の公開使用などを含むが、それらに限定されない)は、全て本発明の保護の範囲に取り入れられることを説明すべきである。
【0089】
また、本願における各技術特徴の組み合わせは、本願の特許請求の範囲に記載の組み合わせ、若しくは具体的な実施例に記載の組み合わせに限定されるものではなく、互いに矛盾していない限り、本願の記載の技術特徴は全て任意の形態で自由に組み合わせる若しくは結合することができる。
【0090】
以上に挙げられたのは本発明の具体的な実施例だけであり、本発明は勿論以上の実施例に限定されず、数多くの類似の変更もあることを注意すべきである。当業者は本発明に開示された内容から直接に導く若しくは想到する変更は全て本発明の保護の範囲に含まれるべきである。